sumika Live Tour 2018 ”Starting Caravan” @日本武道館 7/1
- 2018/07/01
- 22:22
2015年の2月28日、渋谷のO-EASTで行われた、キュウソネコカミらが出演した、ロックDJ集団「ピストルディスコ」のライブイベントに行った。2ステージで次々にバンドが登場する中で割と序盤に出演していたのが、sumikaだった。
そもそも前身バンドであったbanbiがsumikaと名前を変えて活動している、というのは知っていたが、banbi時代よりもさらにポップかつキャッチーになった音楽性に驚くとともに、当時はまだサポートメンバーであった、キーボードの小川貴之の姿が、かつて「とんねるずのみなさんのおかげでした」の「細かすぎて伝わらないモノマネ王決定戦」に素人高校生として出演し、「モノマネ王子」ととんねるずや関根勤から評されていた男であったことにビックリした。
その小川が正式に加入した後のsumikaは快進撃を続け、ついに日本武道館でワンマンを行うくらいまでの存在になった。しかも土日の2daysと前日の金曜日も加えた、いきなりの3daysに。それがソールドアウトしているというのがバンドの今の状況を物語っている。
開演前にはメンバー自身の影アナによる注意事項が伝えられると、17時過ぎにBGMが徐々に大きくなると同時に会場が暗転。BGMの代わりに「ピカソからの宅急便」がSEとして流れ、勢いよく飛び出してきた小川を筆頭に、サポートベースの井嶋啓介を加えたメンバーが登場。最後に片岡健太がステージに現われるとひときわ大きな歓声が上がり、いきなり手拍子と合唱が起きた「MAGIC」からスタートすると、メンバーたちの上から「sumika」と書かれたロゴが降りてきて、一瞬でsumikaの音楽とメンバーによる魔法に武道館が包まれていく。
開演するまではわからなかったが、ステージには観葉植物などがいくつも置かれており、あたかもsumikaのメンバーが暮らしている部屋であるかのようなセットを武道館のステージに作り上げている。登場しただけでバンドのマジックにかけられるのはこうした視覚的な面でのスタッフの貢献も実に大きい。
小川が観客の手拍子をさらに強く、手を高く掲げるように煽った、バンドの存在をシーンに知らしめた名曲にして代表曲の「Lovers」ではそのバンドの芯である片岡の美声がこの広い武道館いっぱいに響いていく中で、両サイドの小川と黒田の動きやジェスチャーが実に面白い。これだけ歌が上手いとついつい片岡の方にばかり目がいきがちだが、全くそうならないのはこのメンバーでsumikaであるという必然があるから。
序盤から畳み掛けるようにして、昨年の夏フェスでもよく演奏されていたダンスチューン「カルチャーショッカー」で軽快に踊らせながらさらに強い多幸感を生み出していくと、今度は黒田が強い手拍子を煽り「1.2.3..4.5.6」へ。ポップなサウンドではあるのだが、短パン姿でステージの前のお立ち台までいってギターソロを決めまくるというギター小僧そのもののような黒田のソロも含め、この曲ではsumikaのバンドが持つ、音や演奏の力強さを感じさせてくれる。ひたすらに明るかった照明が青などの寒色系を交えていくのもそのバンドのダイナミズムを増幅させている。
前日は違う曲が演奏されていたというだけに続く「ソーダ」はこの日最もバンドの爽やかな部分を担い、ロックなサウンドの「イナヅマ」とほとんど間を置かず(たまに片岡はギターを変えるが、その転換も一切無駄な時間がない)に曲を連発していく。ここまでの前半はアッパーな曲ばかりだが、それがバンド側も観客側も緊張感を早い段階で解きほぐしていたように思う。
「半端ないって。武道館半端ないって。こんな広いのにライブハウスみたいやん。そんなんできひんやん普通」
と、ワールドカップ真っ只中だからこその片岡の心の声が漏れ出したMCで笑いを誘うと、ホーンのサウンドが打ち込みで流れ、片岡がハンドマイクでステージ両サイドの花道まで歩き回りながら歌った「いいのに」からはテンポを落とし、様々な音楽のサウンドを取り入れたりと、序盤とは違うsumikaの形を見せていく。
最もそれがわかりやすいのは、片岡ではなくて小川がメインボーカルを務める「enn」だろう。もともとは違うバンドでピアノボーカルを務めていたというのも一瞬で納得するくらいの小川の歌唱力の高さを実感させてくれるが、かつてテレビでモノマネを披露し、とんねるずや関根勤に引き上げてもらおうと思えばいくらでもそっちの世界で生きていけたであろう男が(彼のモノマネは他の人では絶対できないくらいの職人芸だった)、自身の夢を追うために自らその世界から身を引き、しかしそこまでして活動していたバンドが休止して挫折を味わい、その後にsumikaから声をかけられ、今こうして武道館のステージの上で歌っている。自分がこの日1番感慨を感じたのは、この曲で歌っていた小川の姿である。
昨年リリースのフルアルバム「Familia」でR&B的な要素を取り入れ、しかもそれがリード曲になるという驚きをファンに与えた「Summer Vacation」も今では完全にバンドの代表曲。去年の夏フェスでも演奏し続けてきたからというのもあるだろうが、もはや夏になったら聴きたい曲の一つになりつつある。片岡はハンドマイク歌唱だが、ステージ前のカメラに近づいて屈み、カメラ目線で歌うという、ボーカリストとしてエンターテイメント性を発揮していく。
すると片岡が
「今回のツアーは初めてホールを回らせてもらってるんですが、今までのライブハウスとホールとの違いはやっぱり座席があることだと。今日もせっかく座席があるんで、みなさん一度お座りください」
と着席を促すと、そのまま井嶋を含めたメンバー紹介へ。とりわけドラムの荒井の家族が昨日のライブを見にきて、厳格な父親がsumikaのTシャツとピンクのアロハシャツを着てピースしている写真が送られてきたという話は笑いを巻き起こし、小川がこのバンドに入る際に片岡と飲みに行った時に渡された黒田と荒井からの手紙を久しぶりに読み返したというエピソードは、やはりこの武道館がバンドにとって一つの節目であることをうかがわせる。
そのまま着席した状態で、片岡の歌にじっくりと聴き入るような曲が演奏されていくのだが、それまでのカラフルかつキャッチーな演奏とは異なり、片岡の歌をどう聴かせるか、引き立たせるかという意識で演奏されていた。その押し引きやバンドメンバーの意志の統一っぷりは本当に見事であると同時に、片岡の歌への信頼がうかがえるが、その片岡の歌を最もフィーチャーした、片岡の歌と小川のピアノのみという形態で演奏された「ほこり」を始め、こうしたタイプの曲はフェスなどで演奏されることはまずない。つまり、こうしてワンマンに来ることで片岡のボーカルの本領を堪能することができるのである。もちろんこれは片岡が言ったように、座席があるホールだからこそというのもあるが。
再び観客を立ち上がらせると、あまりにも曲の内容がまんま過ぎるが、歌詞とメロディのハマり具合が癖になる「KOKYU」からは再び手拍子と合唱で満員の観客がバンドを後押ししていき、それが武道館全体にグルーヴを生み出していく。
それが視覚的に最も顕著だったのは、「Summer Vacation」とは対極のアッパーなサマーチューン「マイリッチサマーブルース」でのタオル回し。もうこの日から7月となると季節的には夏だが、この曲が演奏されることで、夏がやってきたという実感を与えてくれるし、アリーナ最前列から2階席最上段の観客までもが一斉にタオルを振り回す図は壮観である。
さらにバンドのグルーヴは勢いと熱さを増していく。片岡が
「sumikaのライブは後半が1番凄い!」
と言っていたが、「ふっかつのじゅもん」「ペルソナ・プロムナード」という新旧の曲が全く同じ熱量を放っているのを見ると、それは決して大げさな言い方ではないことがわかる。
そして
「武道館っていうのはやはりロックバンドにとっては特別な場所で。我々からしてもそうだし、もしかしたらみんなからしても好きなバンドを武道館で見るっていうのは特別なことなのかもしれない。だからこそ期待がでかくなるんだとも思うし、すごいライブをしてくれるんだろうなっていう想像をするとも思うんだけど、今日のsumikaのライブは想像のライブを超えてましたでしょうか?」
と問いかけると、鳴り止まないんじゃないかというくらいの拍手に包まれながら、4月にリリースされた最新epのタイトル曲「フィクション」を、アッパーでありながらもギターロックとまではいかない、かといってギターポップでもないという、sumikaだから突けるギリギリのところを突いた演奏で鳴らし、本編は終了。しかし、本当に我々の想像を超えたのはこの後であった。
アンコールでは片岡が黒田とおどけながらステージに戻ってくると、タイトル通りに夜のイメージだが、落ち着いた夜ではなく、自転車で星と月が光る空の下を疾走したくなるような、黒田のギターフレーズが冴え渡る「下弦の月」を披露し、
「今日、リハの合間に2階のスタンドから外に出て、早い時間から来てくれてる人たちの様子を見て。物販にも早くからたくさんの人が並んでくれてて。でも暑いから大丈夫かな?って思って。
そしたら物販から道を挟んだ向こう側の木陰に、sumikaのTシャツを着て、携帯を見ながら誰かと待ち合わせをしてる感じの女の人がいて。少ししたら手を振りながらまたsumikaのTシャツを着た女の人が来て、2人で抱き合いながら、
「4年ぶり~!」
って大きな声で言ってて。その2人、今この中にいるはずなんだけど(笑)、その姿を見て
「ああ、ちゃんとsumikaは出会える場所になったんだな」
って。人それぞれいろんな意見があると思うけど、やっぱりそれは続けてきたからこそできたものだと思っていて。もちろん辞めようかな、とか辞めた方がいいんじゃないか、って思う時もあった。
おばあちゃんが死んだ時も、親友の結婚式にも、学校の卒業式にもバンドをやっていたから行けなかった。でも、それでもまだまだ続けたい。そう思えるのは、雨が降ろうが槍が降ろうが揺るがない覚悟があるからだ!」
と片岡が語って、この日最もエモーショナルな、メンバー全員が体と頭を揺らしながら演奏した「雨天決行」へ。
片岡は今のバンドでは珍しいくらい、ライブでテンションが上がっても、決して早口にならずに一言一言をしっかり聴き取れるくらいにゆっくりしゃべる。だからこそその言葉に込めたものがしっかりと心に響く。こんなにもハッキリと頭の中に残っている。人によっては話が長いと思ってしまうかもしれないが、片岡は一片の誤解がないように、一字一句語弊が生まれないように、こうしてハッキリと言葉を口にする。こんな男はなかなかいない。
そして観客のみならず、裏にいるスタッフたちにも声を出して、スタッフからも尋常ならざる気合いを見せられると、
「今まで生きてきて出会った全ての人に…語彙力がないんで、一言だけ。愛してます!」
と片岡がマイクを通さずに叫び、客電が点いた中でその思いを伝えるために最後に演奏された「「伝言歌」」でこの日最大の大合唱を巻き起こすと、井嶋が先にステージを去る中、メンバー4人は手を繋いでジャンプして観客の声援に応え、
「交通事故とかに気をつけて!また必ず会いましょう!」
と最後まで、この場所に来てくれた人たちのことを思いながらステージを去っていった。その気持ちは、ちゃんと全部伝わっている。
sumikaはJ-POPのど真ん中で鳴っていても全く負けないくらいにポップなバンドであり、エンターテイメント性もあるバンドだ。しかしポップでありエンターテイメントであるということは、時としてナメられてしまうことにもつながる。(特にロックを聴く人から)
しかしsumikaのポップさの奥側には、紛れもなくパンクバンドだった前身バンドからずっと引き継がれている、ロックバンドとしての熱さや熱量が確かに存在している。だからこそおじいちゃんと言ってもいい年齢の人と、ディッキーズのパンツを穿いた若い人が同じようにライブを楽しむことができるし、だからこそここまでの存在になることができたし、もっと大きな場所ではどんな景色を見せてくれるんだろうか、という期待が膨らむばかりだ。
そして片岡も
「武道館に何回もライブを見に来てる人もいると思うけど」
と言っていた通り、自分は武道館に数えられないくらいにライブを見に来ている。しかし、この日のsumikaのライブの空気は、そうして今まで見てきたどのバンドの武道館ライブとも全く異なるものだった。
それは、sumikaのライブにはマイナスな感情が現れることがない。もちろん見ていると前身バンド時に評価されなかった悔しさも感じるが、それがあったから今こうしてこのバンドでここに立てている、というポジティブなものとして昇華されている。そうしてマイナスだったりする感情がないから、ライブを見た後は晴れやかでしかない。絶望を感じさせるところから希望を見出すというバンドもいるし、それは素晴らしいことであり、自分もそうしたバンドも好きだが、sumikaのこの空気は他のバンドでは決して味わうことができない。
どれだけポップな曲があっても、常にライブバンドとしてライブハウスやフェスのステージで戦い、そこが評価されてここまで来たバンドだ。それは今回の武道館でより一層花開いた感すらあるが、そこが失われることがない限り、このバンドはもっと大きくなっていくはずだし、ポップでありながらも様々な要素を取り入れた熱さを見せてくれ、そしてライブに行くと必ず笑顔にしかならないという、他に似た存在のないバンドとしてさらに進化していく予感しかない。
1.MAGIC
2.Lovers
3.カルチャーショッカー
4.1.2.3..4.5.6
5.ソーダ
6.イナヅマ
7.いいのに
8.enn
9.Summer Vacation
10.明日晴れるさ
11.まいった
12.ほこり
13.KOKYU
14.マイリッチサマーブルース
15.ふっかつのじゅもん
16.ペルソナ・プロムナード
17.フィクション
encore
18.下弦の月
19.雨天決行
20.「伝言歌」
フィクション
https://youtu.be/IKHGAuNaGuA
Next→ 7/4 チャットモンチー @日本武道館
そもそも前身バンドであったbanbiがsumikaと名前を変えて活動している、というのは知っていたが、banbi時代よりもさらにポップかつキャッチーになった音楽性に驚くとともに、当時はまだサポートメンバーであった、キーボードの小川貴之の姿が、かつて「とんねるずのみなさんのおかげでした」の「細かすぎて伝わらないモノマネ王決定戦」に素人高校生として出演し、「モノマネ王子」ととんねるずや関根勤から評されていた男であったことにビックリした。
その小川が正式に加入した後のsumikaは快進撃を続け、ついに日本武道館でワンマンを行うくらいまでの存在になった。しかも土日の2daysと前日の金曜日も加えた、いきなりの3daysに。それがソールドアウトしているというのがバンドの今の状況を物語っている。
開演前にはメンバー自身の影アナによる注意事項が伝えられると、17時過ぎにBGMが徐々に大きくなると同時に会場が暗転。BGMの代わりに「ピカソからの宅急便」がSEとして流れ、勢いよく飛び出してきた小川を筆頭に、サポートベースの井嶋啓介を加えたメンバーが登場。最後に片岡健太がステージに現われるとひときわ大きな歓声が上がり、いきなり手拍子と合唱が起きた「MAGIC」からスタートすると、メンバーたちの上から「sumika」と書かれたロゴが降りてきて、一瞬でsumikaの音楽とメンバーによる魔法に武道館が包まれていく。
開演するまではわからなかったが、ステージには観葉植物などがいくつも置かれており、あたかもsumikaのメンバーが暮らしている部屋であるかのようなセットを武道館のステージに作り上げている。登場しただけでバンドのマジックにかけられるのはこうした視覚的な面でのスタッフの貢献も実に大きい。
小川が観客の手拍子をさらに強く、手を高く掲げるように煽った、バンドの存在をシーンに知らしめた名曲にして代表曲の「Lovers」ではそのバンドの芯である片岡の美声がこの広い武道館いっぱいに響いていく中で、両サイドの小川と黒田の動きやジェスチャーが実に面白い。これだけ歌が上手いとついつい片岡の方にばかり目がいきがちだが、全くそうならないのはこのメンバーでsumikaであるという必然があるから。
序盤から畳み掛けるようにして、昨年の夏フェスでもよく演奏されていたダンスチューン「カルチャーショッカー」で軽快に踊らせながらさらに強い多幸感を生み出していくと、今度は黒田が強い手拍子を煽り「1.2.3..4.5.6」へ。ポップなサウンドではあるのだが、短パン姿でステージの前のお立ち台までいってギターソロを決めまくるというギター小僧そのもののような黒田のソロも含め、この曲ではsumikaのバンドが持つ、音や演奏の力強さを感じさせてくれる。ひたすらに明るかった照明が青などの寒色系を交えていくのもそのバンドのダイナミズムを増幅させている。
前日は違う曲が演奏されていたというだけに続く「ソーダ」はこの日最もバンドの爽やかな部分を担い、ロックなサウンドの「イナヅマ」とほとんど間を置かず(たまに片岡はギターを変えるが、その転換も一切無駄な時間がない)に曲を連発していく。ここまでの前半はアッパーな曲ばかりだが、それがバンド側も観客側も緊張感を早い段階で解きほぐしていたように思う。
「半端ないって。武道館半端ないって。こんな広いのにライブハウスみたいやん。そんなんできひんやん普通」
と、ワールドカップ真っ只中だからこその片岡の心の声が漏れ出したMCで笑いを誘うと、ホーンのサウンドが打ち込みで流れ、片岡がハンドマイクでステージ両サイドの花道まで歩き回りながら歌った「いいのに」からはテンポを落とし、様々な音楽のサウンドを取り入れたりと、序盤とは違うsumikaの形を見せていく。
最もそれがわかりやすいのは、片岡ではなくて小川がメインボーカルを務める「enn」だろう。もともとは違うバンドでピアノボーカルを務めていたというのも一瞬で納得するくらいの小川の歌唱力の高さを実感させてくれるが、かつてテレビでモノマネを披露し、とんねるずや関根勤に引き上げてもらおうと思えばいくらでもそっちの世界で生きていけたであろう男が(彼のモノマネは他の人では絶対できないくらいの職人芸だった)、自身の夢を追うために自らその世界から身を引き、しかしそこまでして活動していたバンドが休止して挫折を味わい、その後にsumikaから声をかけられ、今こうして武道館のステージの上で歌っている。自分がこの日1番感慨を感じたのは、この曲で歌っていた小川の姿である。
昨年リリースのフルアルバム「Familia」でR&B的な要素を取り入れ、しかもそれがリード曲になるという驚きをファンに与えた「Summer Vacation」も今では完全にバンドの代表曲。去年の夏フェスでも演奏し続けてきたからというのもあるだろうが、もはや夏になったら聴きたい曲の一つになりつつある。片岡はハンドマイク歌唱だが、ステージ前のカメラに近づいて屈み、カメラ目線で歌うという、ボーカリストとしてエンターテイメント性を発揮していく。
すると片岡が
「今回のツアーは初めてホールを回らせてもらってるんですが、今までのライブハウスとホールとの違いはやっぱり座席があることだと。今日もせっかく座席があるんで、みなさん一度お座りください」
と着席を促すと、そのまま井嶋を含めたメンバー紹介へ。とりわけドラムの荒井の家族が昨日のライブを見にきて、厳格な父親がsumikaのTシャツとピンクのアロハシャツを着てピースしている写真が送られてきたという話は笑いを巻き起こし、小川がこのバンドに入る際に片岡と飲みに行った時に渡された黒田と荒井からの手紙を久しぶりに読み返したというエピソードは、やはりこの武道館がバンドにとって一つの節目であることをうかがわせる。
そのまま着席した状態で、片岡の歌にじっくりと聴き入るような曲が演奏されていくのだが、それまでのカラフルかつキャッチーな演奏とは異なり、片岡の歌をどう聴かせるか、引き立たせるかという意識で演奏されていた。その押し引きやバンドメンバーの意志の統一っぷりは本当に見事であると同時に、片岡の歌への信頼がうかがえるが、その片岡の歌を最もフィーチャーした、片岡の歌と小川のピアノのみという形態で演奏された「ほこり」を始め、こうしたタイプの曲はフェスなどで演奏されることはまずない。つまり、こうしてワンマンに来ることで片岡のボーカルの本領を堪能することができるのである。もちろんこれは片岡が言ったように、座席があるホールだからこそというのもあるが。
再び観客を立ち上がらせると、あまりにも曲の内容がまんま過ぎるが、歌詞とメロディのハマり具合が癖になる「KOKYU」からは再び手拍子と合唱で満員の観客がバンドを後押ししていき、それが武道館全体にグルーヴを生み出していく。
それが視覚的に最も顕著だったのは、「Summer Vacation」とは対極のアッパーなサマーチューン「マイリッチサマーブルース」でのタオル回し。もうこの日から7月となると季節的には夏だが、この曲が演奏されることで、夏がやってきたという実感を与えてくれるし、アリーナ最前列から2階席最上段の観客までもが一斉にタオルを振り回す図は壮観である。
さらにバンドのグルーヴは勢いと熱さを増していく。片岡が
「sumikaのライブは後半が1番凄い!」
と言っていたが、「ふっかつのじゅもん」「ペルソナ・プロムナード」という新旧の曲が全く同じ熱量を放っているのを見ると、それは決して大げさな言い方ではないことがわかる。
そして
「武道館っていうのはやはりロックバンドにとっては特別な場所で。我々からしてもそうだし、もしかしたらみんなからしても好きなバンドを武道館で見るっていうのは特別なことなのかもしれない。だからこそ期待がでかくなるんだとも思うし、すごいライブをしてくれるんだろうなっていう想像をするとも思うんだけど、今日のsumikaのライブは想像のライブを超えてましたでしょうか?」
と問いかけると、鳴り止まないんじゃないかというくらいの拍手に包まれながら、4月にリリースされた最新epのタイトル曲「フィクション」を、アッパーでありながらもギターロックとまではいかない、かといってギターポップでもないという、sumikaだから突けるギリギリのところを突いた演奏で鳴らし、本編は終了。しかし、本当に我々の想像を超えたのはこの後であった。
アンコールでは片岡が黒田とおどけながらステージに戻ってくると、タイトル通りに夜のイメージだが、落ち着いた夜ではなく、自転車で星と月が光る空の下を疾走したくなるような、黒田のギターフレーズが冴え渡る「下弦の月」を披露し、
「今日、リハの合間に2階のスタンドから外に出て、早い時間から来てくれてる人たちの様子を見て。物販にも早くからたくさんの人が並んでくれてて。でも暑いから大丈夫かな?って思って。
そしたら物販から道を挟んだ向こう側の木陰に、sumikaのTシャツを着て、携帯を見ながら誰かと待ち合わせをしてる感じの女の人がいて。少ししたら手を振りながらまたsumikaのTシャツを着た女の人が来て、2人で抱き合いながら、
「4年ぶり~!」
って大きな声で言ってて。その2人、今この中にいるはずなんだけど(笑)、その姿を見て
「ああ、ちゃんとsumikaは出会える場所になったんだな」
って。人それぞれいろんな意見があると思うけど、やっぱりそれは続けてきたからこそできたものだと思っていて。もちろん辞めようかな、とか辞めた方がいいんじゃないか、って思う時もあった。
おばあちゃんが死んだ時も、親友の結婚式にも、学校の卒業式にもバンドをやっていたから行けなかった。でも、それでもまだまだ続けたい。そう思えるのは、雨が降ろうが槍が降ろうが揺るがない覚悟があるからだ!」
と片岡が語って、この日最もエモーショナルな、メンバー全員が体と頭を揺らしながら演奏した「雨天決行」へ。
片岡は今のバンドでは珍しいくらい、ライブでテンションが上がっても、決して早口にならずに一言一言をしっかり聴き取れるくらいにゆっくりしゃべる。だからこそその言葉に込めたものがしっかりと心に響く。こんなにもハッキリと頭の中に残っている。人によっては話が長いと思ってしまうかもしれないが、片岡は一片の誤解がないように、一字一句語弊が生まれないように、こうしてハッキリと言葉を口にする。こんな男はなかなかいない。
そして観客のみならず、裏にいるスタッフたちにも声を出して、スタッフからも尋常ならざる気合いを見せられると、
「今まで生きてきて出会った全ての人に…語彙力がないんで、一言だけ。愛してます!」
と片岡がマイクを通さずに叫び、客電が点いた中でその思いを伝えるために最後に演奏された「「伝言歌」」でこの日最大の大合唱を巻き起こすと、井嶋が先にステージを去る中、メンバー4人は手を繋いでジャンプして観客の声援に応え、
「交通事故とかに気をつけて!また必ず会いましょう!」
と最後まで、この場所に来てくれた人たちのことを思いながらステージを去っていった。その気持ちは、ちゃんと全部伝わっている。
sumikaはJ-POPのど真ん中で鳴っていても全く負けないくらいにポップなバンドであり、エンターテイメント性もあるバンドだ。しかしポップでありエンターテイメントであるということは、時としてナメられてしまうことにもつながる。(特にロックを聴く人から)
しかしsumikaのポップさの奥側には、紛れもなくパンクバンドだった前身バンドからずっと引き継がれている、ロックバンドとしての熱さや熱量が確かに存在している。だからこそおじいちゃんと言ってもいい年齢の人と、ディッキーズのパンツを穿いた若い人が同じようにライブを楽しむことができるし、だからこそここまでの存在になることができたし、もっと大きな場所ではどんな景色を見せてくれるんだろうか、という期待が膨らむばかりだ。
そして片岡も
「武道館に何回もライブを見に来てる人もいると思うけど」
と言っていた通り、自分は武道館に数えられないくらいにライブを見に来ている。しかし、この日のsumikaのライブの空気は、そうして今まで見てきたどのバンドの武道館ライブとも全く異なるものだった。
それは、sumikaのライブにはマイナスな感情が現れることがない。もちろん見ていると前身バンド時に評価されなかった悔しさも感じるが、それがあったから今こうしてこのバンドでここに立てている、というポジティブなものとして昇華されている。そうしてマイナスだったりする感情がないから、ライブを見た後は晴れやかでしかない。絶望を感じさせるところから希望を見出すというバンドもいるし、それは素晴らしいことであり、自分もそうしたバンドも好きだが、sumikaのこの空気は他のバンドでは決して味わうことができない。
どれだけポップな曲があっても、常にライブバンドとしてライブハウスやフェスのステージで戦い、そこが評価されてここまで来たバンドだ。それは今回の武道館でより一層花開いた感すらあるが、そこが失われることがない限り、このバンドはもっと大きくなっていくはずだし、ポップでありながらも様々な要素を取り入れた熱さを見せてくれ、そしてライブに行くと必ず笑顔にしかならないという、他に似た存在のないバンドとしてさらに進化していく予感しかない。
1.MAGIC
2.Lovers
3.カルチャーショッカー
4.1.2.3..4.5.6
5.ソーダ
6.イナヅマ
7.いいのに
8.enn
9.Summer Vacation
10.明日晴れるさ
11.まいった
12.ほこり
13.KOKYU
14.マイリッチサマーブルース
15.ふっかつのじゅもん
16.ペルソナ・プロムナード
17.フィクション
encore
18.下弦の月
19.雨天決行
20.「伝言歌」
フィクション
https://youtu.be/IKHGAuNaGuA
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