My Hair is Bad ギャラクシーホームランツアー @日本武道館 3/31
- 2018/03/31
- 21:49
2008年の3月31日に行われた、チャットモンチー初の日本武道館ワンマン。その日の最後に演奏された「サラバ青春」をもって、自分の学生時代=青春は終わりを告げた。
それからちょうど10年後のこの日、チャットモンチーと同じスリーピースロックバンドである、My Hair is Badの日本武道館ワンマン2daysの2日目。数えきれないくらいにライブを見にきている武道館といえども、やはりこの日にライブを見るということには思うところがある。
日本武道館近辺はまさに桜が満開の時期を迎えており、ライブではなく花見をしにきた人や桜の写真を撮りにきた人でごった返しており、普段よりもかなり長い時間がかかって武道館に到着すると、開演時間の17時ちょうどにBGMが大きくなって場内が暗転。メンバー3人が普段のライブハウスでのライブと全く変わらない出で立ちでステージに現われ、椎木知仁が
「武道館2日目!」
と叫んでおなじみの「アフターアワー」からスタートするのだが、いつもと同じようでいて、明らかにいつもと違う。それは武道館の天井とステージを真っ直ぐ結ぶように伸びる無数の照明。これまでのマイヘアのライブは基本的に派手な演出は一切ない、ひたすらに3人の演奏する姿だけを誇張なく見せるものだったが、この日のライブがそうしたものではない、武道館だからこそのものになるというのはこの時点でハッキリとわかった。
しかしながらその照明によって逆にいつも通りになったものもある。照明があまりに数が多いため、ステージにも照明のための鉄枠が組まれたことで、広いはずの武道館のステージがまるでライブハウスかのようにギュッとして見える。実際にこれまで見てきたどの武道館のライブよりも、メンバー3人の距離が近い。それこそライブハウスのステージでの距離感と同じように。
そうした計算し尽くされたかのような演出がある一方、肝心の演奏の方はというと、間奏ではバヤリースこと山本大樹がステージ中央に出てきて力強いベースソロを奏でる一方、椎木のボーカルには2daysライブならではの不安定さも顔を覗かせる。しかしながら普段は
「ドキドキしようぜ!」
と叫ぶ「アフターアワー」で
「めちゃくちゃ気持ちいい!」
と叫ぶあたり、椎木を始め、メンバーたちは気負いすぎることなく武道館で演奏することを楽しんでいるように見える。
「整いましたね。晴れました。俺がいて、俺たちがいて、みんなが来てくれている。本当に嬉しいです、ありがとうございます。こんなのまるで、ドラマみたいだ」
と椎木が素直に観客へ感謝の言葉を口にしながら、前半はマイヘアの最大のイメージである、エモーショナルなギターロック曲を連発していく。
その「ドラマみたいだ」からはようやくステージ両サイドにあるモニターにメンバーの演奏する姿が映されていくのだが、てっきり勝手にクライマックスで演奏されると思っていた「最愛の果て」をこの序盤で演奏すると、
「本や物語みたいに、僕が作る曲にも登場人物がいて。その彼や彼女らを殺したくないんですよ…!大事な曲を」
と言って演奏された、バンドの代表曲である「真赤」はその椎木の言葉によって、いつもとは全く違う緊張感を孕んでいたが、間奏で山田淳のドラムセットの前に集まった椎木と山本が頭を振りながら演奏し、山田も一心不乱にドラムをぶっ叩いている姿を見ると、なぜマイヘアが「エモい」と称されているのかがよくわかる。
それは同じようにロックバンドとしての熱さを持って台頭してきたSUPER BEAVERの渋谷の言葉やメンバーのコーラスと音に宿る意志から感じられるように、あるいはマイヘアが多大な影響を受けてきたELLEGARDENがブレイクで揃って楽器を抱えたままで大ジャンプをする姿から感じられたように。ただ音が激しいからエモいのではない。その一挙手一投足からロックバンドだからこそのエモーションが溢れ出している。だからこそマイヘアは「エモい」と称されているし、そこに何の否定的な感情も浮かばない。
男性サイドから描いたコンセプチュアルなラブソング「運命」を終えると、椎木がギターをポロポロと弾きながら言葉を連ねていく。その言葉の中には
「最後の喫茶店」「あの6文字」
という聞き馴染みのあるフレーズ。そうして始まったのはやはりそのフレーズを含んだ「悪い癖」だったのだが、モニターには歌詞が全て映し出され、その歌詞の上には演奏するメンバーの姿がセピア色になって映っている。これはまるでこの曲の新しいMVのよう、いや、
「2人の映画に 乾杯を」
というフレーズで締められるように、まるで映画を見ているかのようだった。そのフレーズの後に椎木が発した
「君の顔が見れなかった!泣いてると思ったから!俺も泣いてしまうと思ったから!でも横を見たら…君はもういなかった」
という言葉からは、この曲が喪失を含んだ曲なのだという新たな解釈が浮かび上がってくる。
「マイヘアらしさ」というのを最も感じさせてくれるシリーズである「彼氏として」ではラストのコーラスを山本のみが担うという、彼のコーラスの重要性が改めて理解できる一幕の後に演奏された「卒業」では再びモニターに歌詞が。10年前にこの場所で聴いた「サラバ青春」で青春に終わりを迎えた自分のように、この日この場所で聴いたこの「卒業」が、学生時代からの卒業であったり、これまでの人生からこれからの人生へのターニングポイントとなる曲になる人もたくさんいると思う。この曲はラブソングなのでそうした卒業的な意味合いを含んだ曲ではないが、ラブソングに全く共感できない、恋愛というものが人生においてあまりプライオリティが高くないような自分においてさえ、こうして歌詞をじっくりと凝視しながら聴いていると、マイヘアは本当にいい歌詞を書くバンドだな、と思う。それはメロディに対しての言葉の乗せ方や、凡庸なラブソングとは全く異なる、椎木知仁という人間だからこその言い回しにおいて。
椎木「武道館ともなると、やっぱり高級外車とか乗っちゃったりね。俺が左ハンドルを運転してるのとか、どうですか?」
山本「似合わない。あの変な音がする軽自動車の方が似合うよ(笑)」
椎木「そう、僕の軽自動車、40kmを超えると変な音が出るんですよ(笑)ゴーカートみたいな(笑)
でも俺は車とか全然興味ないけど、2人は車とか結構好きだよね?」
山本「それはまぁ親父の影響とか…」
椎木「おい!俺に親父と友達がいないからって!俺をハメたな!こんな大きいところで俺をハメたな!…「ハメたな」ってなんかイヤらしいですね(笑)今日、ご両親見にきてくれてるけど、大丈夫?(笑)」
山本「うちの親はそういう話に全然抵抗がないんで、大丈夫です(笑)」
とMCになるとそれまでの言葉の鋭さが一気に柔らかくなるのは普段3人でいる時はこういう感じなんだろうな、という空気を感じさせる。
重いようでいてどこかクスッとするような「復讐」では
「春になったら殺っちゃうぞ!」
というフレーズでまさに春を感じさせるような黄色をメインとした柔らかい照明に変わったりと、曲のフレーズごとに切り替わるのは本当に見事。それでいて前日の初日とはかなりセトリを変えているというのが恐れ入るというか、3人だけではなく、チーム・マイヘアの強さをこんなにも実感したことはない。
「世界一短いラブソング」
こと「クリサンセマム」をこの日もわずか30秒で叩きつけると、ラブソングから一気にシリアスな空気に変わる「ディアウェンディ」で椎木と山本が両サイドに伸びた花道にそれぞれ展開していき、椎木は曲中の歌詞を
「大丈夫に決まってんだろ、武道館2回目だぞ!昨日もやってんだ!」
と変えて歌い、ライブならではの高速化された山本と山田のリズムが牽引する「元彼氏として」でも
「日本武道館でワンマンライブをやっている!」
と歌詞を変える。この日はここまでは「好きだった!」など、未練がましい言葉を付け足すことが多かったが、この曲の最後には
「幸せになってくれ!」
と吹っ切れたような笑顔で叫んだりと、なかなか感情が忙しい男である。
まさに燃えるかのように真っ赤な照明に照らされながら、マイヘア流ミクスチャーロックというかのようなラウドな音像と、ポエトリーリーディングというよりはヒップホップ的なリズムへの言葉の乗せ方が新境地を開いている「燃える偉人たち」から、椎木が計算でも用意されたものでもない言葉を次々に吐き出していく「クリサンセマム」へ。いわく、前日は「ありがとう」という感謝の言葉を素直に述べたらしいが、やはり「わからない」と。その「わからない」ものは、ラブソングを歌う身としての「愛」。だからこそ椎木は何度も
「愛ってなんなんだ!」
「与えられるものか?与えるものか?」
「壊れた愛を歌いたくて、自分で壊した」
と愛について叫んでいたのだが、
「歌いたいのは、愛じゃなくて、命のこと、生きるっていうこと」
と、ラブソングではなく、今の時代を生きる若者たちの歌である「戦争を知らない大人たち」へつなげてみせるのだが、再びモニターに歌詞が映し出されていく中、唯一モニターに映らない
「グッナイ」
のフレーズの部分で、まさしく美しい夜であるかのごとく、ステージの周りを星空がきらめくような演出が。こうした演出は夜や星をテーマにしたアーティストがホールやアリーナでやる際の常套手段であると言えるが、まさかマイヘアのライブでこんなに美しい景色が見れるとは。そしてこんなにその美しい景色が似合うバンドだったとは。武道館という普段とは違うステージでの、普段とは違う演出は、マイヘアの新たな一面をも見せてくれた。
その星空が広がったままでモニターに歌詞が映し出される中で演奏されたのは、最新アルバム「mothers」のラストを飾る「シャトルに乗って」。マイヘアの中ではやや異質とも言える曲だが、この曲もこの日の演出で真価を発揮した曲であると言える。
そうして疾走感とは異なる、深い部分でのエモーショナルさをさらに増幅させたのが、男性目線の「運命」と対になる女性目線の「幻」、そして
「18歳の時に作った曲」
と言って演奏された「最近のこと」。やはり音源を今聴くと、若さというか、無垢さが強く感じられるような椎木の歌声と演奏の曲であるが、だからこそ椎木は
「今じゃもう書けない、作れない」
と、その頃の自分ではなくなったことを語っていたのだろう。
後半にはシリアスな面も見せたが、
「真面目な、チャラくない曲を歌います。いや、他の曲もチャラくないけど!(笑)」
とセルフツッコミを入れた「いつか結婚しても」の、思わず肩を組んでみんなで歌いたくなるようなメロディで終了かと思いきや、トドメとばかりの「告白」では椎木が「歌え!」と促して合唱と、武道館であってもダイバーが発生する中、曲中で場内のすべての電気が点いて明るくなる。この武道館だからこその演出、それをありったけのエモーションを炸裂させるようなこの曲で見れている。まるで9回裏のツーアウト、最後のバッターが放ったかのような完璧なホームラン。それは明るくなってはっきり見えるようになった、天井にかかっている日本国旗に突き刺さるというか、それすらも突き破るかのようだった。
しかしそれでもなお終わらず、さらに「エゴイスト」を畳み掛けた。全く熱量が落ちないどころか、このラストの怒涛のラッシュがさらに熱量をぶち上げていた。もうアンコールがなくても文句は言わない、というくらいの満足感に満たされていた。
だがやはりアンコールでメンバーが登場。
「どこまで行けるか。もっと遠いところまで。愛すべき友、愛すべき人たち、愛すべき会社!ありがとうございました!」
と最後の最後に噛みまくりながらも椎木がその思いを伝えると、「優しさの行方」で大合唱を巻き起こし、
「俺たちの始まりの曲!」
と「月に群雲」とこの場所で聴くのが格別な2曲を鳴らし、演奏を終えると椎木は笑顔であらゆる方角の観客に手を振って、ステージを後にした。
しかし、前回のZepp Tokyoでは終わったと思ってたくさんの人が帰った後も、粘り強くさらなるアンコールを求めた人たちの声に応えてバンドはダブルアンコールを行なっていた。だからこそこの日はたくさんの人がさらなるアンコールを信じて待っていると、やはり3人はステージに戻ってきた。すぐに楽器を手にし、モニターには「My Hair is Bad」というロゴが映ったまま。照明もアンコールが終わった状態のままでなんの変化もない。つまりこれはスタッフと打ち合わせしたりしていたわけではなかったのだろう。ただただ3人の演奏する姿だけを見せる、マイヘアの本来の姿。それはロックバンドとしてのリアルさと格好良さを、言葉ではなく姿だけで示していた。終わると今度はすぐさまステージを去った。もう今年も「夏が過ぎてく」を聴けるわずかな季節になったんだ。
タイミング的には「mothers」のリリース後ではあるが、やはり武道館ということもあってか(椎木の言葉からはかなり武道館を意識していた節があった。近年の関東以外の若手バンドでは珍しいことである)、これまでの集大成であり、ベスト的な内容のライブとなったし、ある意味では今のマイヘアの完成形とも言えるものでもあった。
それだけに、これからこのバンドはいろんな方向に進んで行ける。もう何をやっても、アンコールで見せたマイヘア本来の姿から逸脱するようなことはないから。それはこの先、さらに大きな会場でライブをするようになっても絶対に変わることはない。この冷めた時代に思いっきりバットを振り下ろすような熱さを持って、マイヘアの熱狂は終わらずにこれからも続いていく。
かつて、日本のプロ野球に日本ハムファイターズの前身である、東映フライヤーズというチームがあった。そのチームの中心打者であった、大杉勝男は、打撃コーチであった飯島滋弥に
「月に向かって打て」
というアドバイスをされ、実践するとアッパースイングが矯正され、弾丸ライナーでホームランを量産できるようになったという。
この日、マイヘアが武道館で見せたライブは、まさに月に向かって打ったホームラン、ギャラクシーホームランそのものだった。
1.アフターアワー
2.熱狂を終え
3.グッバイマイマリー
4.ドラマみたいだ
5.接吻とフレンド
6.最愛の果て
7.真赤
8.運命
9.悪い癖
10.彼氏として
11.卒業
12.復讐
13.クリサンセマム
14.ディアウェンディ
15.元彼氏として
16.燃える偉人たち
17.フロムナウオン
18.戦争を知らない大人たち
19.シャトルに乗って
20.幻
21.最近のこと
22.いつか結婚しても
23.告白
24.エゴイスト
encore1
25.優しさの行方
26.月に群雲
encore2
27.夏が過ぎてく
熱狂を終え
https://youtu.be/CuzyDnzU-3A
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それからちょうど10年後のこの日、チャットモンチーと同じスリーピースロックバンドである、My Hair is Badの日本武道館ワンマン2daysの2日目。数えきれないくらいにライブを見にきている武道館といえども、やはりこの日にライブを見るということには思うところがある。
日本武道館近辺はまさに桜が満開の時期を迎えており、ライブではなく花見をしにきた人や桜の写真を撮りにきた人でごった返しており、普段よりもかなり長い時間がかかって武道館に到着すると、開演時間の17時ちょうどにBGMが大きくなって場内が暗転。メンバー3人が普段のライブハウスでのライブと全く変わらない出で立ちでステージに現われ、椎木知仁が
「武道館2日目!」
と叫んでおなじみの「アフターアワー」からスタートするのだが、いつもと同じようでいて、明らかにいつもと違う。それは武道館の天井とステージを真っ直ぐ結ぶように伸びる無数の照明。これまでのマイヘアのライブは基本的に派手な演出は一切ない、ひたすらに3人の演奏する姿だけを誇張なく見せるものだったが、この日のライブがそうしたものではない、武道館だからこそのものになるというのはこの時点でハッキリとわかった。
しかしながらその照明によって逆にいつも通りになったものもある。照明があまりに数が多いため、ステージにも照明のための鉄枠が組まれたことで、広いはずの武道館のステージがまるでライブハウスかのようにギュッとして見える。実際にこれまで見てきたどの武道館のライブよりも、メンバー3人の距離が近い。それこそライブハウスのステージでの距離感と同じように。
そうした計算し尽くされたかのような演出がある一方、肝心の演奏の方はというと、間奏ではバヤリースこと山本大樹がステージ中央に出てきて力強いベースソロを奏でる一方、椎木のボーカルには2daysライブならではの不安定さも顔を覗かせる。しかしながら普段は
「ドキドキしようぜ!」
と叫ぶ「アフターアワー」で
「めちゃくちゃ気持ちいい!」
と叫ぶあたり、椎木を始め、メンバーたちは気負いすぎることなく武道館で演奏することを楽しんでいるように見える。
「整いましたね。晴れました。俺がいて、俺たちがいて、みんなが来てくれている。本当に嬉しいです、ありがとうございます。こんなのまるで、ドラマみたいだ」
と椎木が素直に観客へ感謝の言葉を口にしながら、前半はマイヘアの最大のイメージである、エモーショナルなギターロック曲を連発していく。
その「ドラマみたいだ」からはようやくステージ両サイドにあるモニターにメンバーの演奏する姿が映されていくのだが、てっきり勝手にクライマックスで演奏されると思っていた「最愛の果て」をこの序盤で演奏すると、
「本や物語みたいに、僕が作る曲にも登場人物がいて。その彼や彼女らを殺したくないんですよ…!大事な曲を」
と言って演奏された、バンドの代表曲である「真赤」はその椎木の言葉によって、いつもとは全く違う緊張感を孕んでいたが、間奏で山田淳のドラムセットの前に集まった椎木と山本が頭を振りながら演奏し、山田も一心不乱にドラムをぶっ叩いている姿を見ると、なぜマイヘアが「エモい」と称されているのかがよくわかる。
それは同じようにロックバンドとしての熱さを持って台頭してきたSUPER BEAVERの渋谷の言葉やメンバーのコーラスと音に宿る意志から感じられるように、あるいはマイヘアが多大な影響を受けてきたELLEGARDENがブレイクで揃って楽器を抱えたままで大ジャンプをする姿から感じられたように。ただ音が激しいからエモいのではない。その一挙手一投足からロックバンドだからこそのエモーションが溢れ出している。だからこそマイヘアは「エモい」と称されているし、そこに何の否定的な感情も浮かばない。
男性サイドから描いたコンセプチュアルなラブソング「運命」を終えると、椎木がギターをポロポロと弾きながら言葉を連ねていく。その言葉の中には
「最後の喫茶店」「あの6文字」
という聞き馴染みのあるフレーズ。そうして始まったのはやはりそのフレーズを含んだ「悪い癖」だったのだが、モニターには歌詞が全て映し出され、その歌詞の上には演奏するメンバーの姿がセピア色になって映っている。これはまるでこの曲の新しいMVのよう、いや、
「2人の映画に 乾杯を」
というフレーズで締められるように、まるで映画を見ているかのようだった。そのフレーズの後に椎木が発した
「君の顔が見れなかった!泣いてると思ったから!俺も泣いてしまうと思ったから!でも横を見たら…君はもういなかった」
という言葉からは、この曲が喪失を含んだ曲なのだという新たな解釈が浮かび上がってくる。
「マイヘアらしさ」というのを最も感じさせてくれるシリーズである「彼氏として」ではラストのコーラスを山本のみが担うという、彼のコーラスの重要性が改めて理解できる一幕の後に演奏された「卒業」では再びモニターに歌詞が。10年前にこの場所で聴いた「サラバ青春」で青春に終わりを迎えた自分のように、この日この場所で聴いたこの「卒業」が、学生時代からの卒業であったり、これまでの人生からこれからの人生へのターニングポイントとなる曲になる人もたくさんいると思う。この曲はラブソングなのでそうした卒業的な意味合いを含んだ曲ではないが、ラブソングに全く共感できない、恋愛というものが人生においてあまりプライオリティが高くないような自分においてさえ、こうして歌詞をじっくりと凝視しながら聴いていると、マイヘアは本当にいい歌詞を書くバンドだな、と思う。それはメロディに対しての言葉の乗せ方や、凡庸なラブソングとは全く異なる、椎木知仁という人間だからこその言い回しにおいて。
椎木「武道館ともなると、やっぱり高級外車とか乗っちゃったりね。俺が左ハンドルを運転してるのとか、どうですか?」
山本「似合わない。あの変な音がする軽自動車の方が似合うよ(笑)」
椎木「そう、僕の軽自動車、40kmを超えると変な音が出るんですよ(笑)ゴーカートみたいな(笑)
でも俺は車とか全然興味ないけど、2人は車とか結構好きだよね?」
山本「それはまぁ親父の影響とか…」
椎木「おい!俺に親父と友達がいないからって!俺をハメたな!こんな大きいところで俺をハメたな!…「ハメたな」ってなんかイヤらしいですね(笑)今日、ご両親見にきてくれてるけど、大丈夫?(笑)」
山本「うちの親はそういう話に全然抵抗がないんで、大丈夫です(笑)」
とMCになるとそれまでの言葉の鋭さが一気に柔らかくなるのは普段3人でいる時はこういう感じなんだろうな、という空気を感じさせる。
重いようでいてどこかクスッとするような「復讐」では
「春になったら殺っちゃうぞ!」
というフレーズでまさに春を感じさせるような黄色をメインとした柔らかい照明に変わったりと、曲のフレーズごとに切り替わるのは本当に見事。それでいて前日の初日とはかなりセトリを変えているというのが恐れ入るというか、3人だけではなく、チーム・マイヘアの強さをこんなにも実感したことはない。
「世界一短いラブソング」
こと「クリサンセマム」をこの日もわずか30秒で叩きつけると、ラブソングから一気にシリアスな空気に変わる「ディアウェンディ」で椎木と山本が両サイドに伸びた花道にそれぞれ展開していき、椎木は曲中の歌詞を
「大丈夫に決まってんだろ、武道館2回目だぞ!昨日もやってんだ!」
と変えて歌い、ライブならではの高速化された山本と山田のリズムが牽引する「元彼氏として」でも
「日本武道館でワンマンライブをやっている!」
と歌詞を変える。この日はここまでは「好きだった!」など、未練がましい言葉を付け足すことが多かったが、この曲の最後には
「幸せになってくれ!」
と吹っ切れたような笑顔で叫んだりと、なかなか感情が忙しい男である。
まさに燃えるかのように真っ赤な照明に照らされながら、マイヘア流ミクスチャーロックというかのようなラウドな音像と、ポエトリーリーディングというよりはヒップホップ的なリズムへの言葉の乗せ方が新境地を開いている「燃える偉人たち」から、椎木が計算でも用意されたものでもない言葉を次々に吐き出していく「クリサンセマム」へ。いわく、前日は「ありがとう」という感謝の言葉を素直に述べたらしいが、やはり「わからない」と。その「わからない」ものは、ラブソングを歌う身としての「愛」。だからこそ椎木は何度も
「愛ってなんなんだ!」
「与えられるものか?与えるものか?」
「壊れた愛を歌いたくて、自分で壊した」
と愛について叫んでいたのだが、
「歌いたいのは、愛じゃなくて、命のこと、生きるっていうこと」
と、ラブソングではなく、今の時代を生きる若者たちの歌である「戦争を知らない大人たち」へつなげてみせるのだが、再びモニターに歌詞が映し出されていく中、唯一モニターに映らない
「グッナイ」
のフレーズの部分で、まさしく美しい夜であるかのごとく、ステージの周りを星空がきらめくような演出が。こうした演出は夜や星をテーマにしたアーティストがホールやアリーナでやる際の常套手段であると言えるが、まさかマイヘアのライブでこんなに美しい景色が見れるとは。そしてこんなにその美しい景色が似合うバンドだったとは。武道館という普段とは違うステージでの、普段とは違う演出は、マイヘアの新たな一面をも見せてくれた。
その星空が広がったままでモニターに歌詞が映し出される中で演奏されたのは、最新アルバム「mothers」のラストを飾る「シャトルに乗って」。マイヘアの中ではやや異質とも言える曲だが、この曲もこの日の演出で真価を発揮した曲であると言える。
そうして疾走感とは異なる、深い部分でのエモーショナルさをさらに増幅させたのが、男性目線の「運命」と対になる女性目線の「幻」、そして
「18歳の時に作った曲」
と言って演奏された「最近のこと」。やはり音源を今聴くと、若さというか、無垢さが強く感じられるような椎木の歌声と演奏の曲であるが、だからこそ椎木は
「今じゃもう書けない、作れない」
と、その頃の自分ではなくなったことを語っていたのだろう。
後半にはシリアスな面も見せたが、
「真面目な、チャラくない曲を歌います。いや、他の曲もチャラくないけど!(笑)」
とセルフツッコミを入れた「いつか結婚しても」の、思わず肩を組んでみんなで歌いたくなるようなメロディで終了かと思いきや、トドメとばかりの「告白」では椎木が「歌え!」と促して合唱と、武道館であってもダイバーが発生する中、曲中で場内のすべての電気が点いて明るくなる。この武道館だからこその演出、それをありったけのエモーションを炸裂させるようなこの曲で見れている。まるで9回裏のツーアウト、最後のバッターが放ったかのような完璧なホームラン。それは明るくなってはっきり見えるようになった、天井にかかっている日本国旗に突き刺さるというか、それすらも突き破るかのようだった。
しかしそれでもなお終わらず、さらに「エゴイスト」を畳み掛けた。全く熱量が落ちないどころか、このラストの怒涛のラッシュがさらに熱量をぶち上げていた。もうアンコールがなくても文句は言わない、というくらいの満足感に満たされていた。
だがやはりアンコールでメンバーが登場。
「どこまで行けるか。もっと遠いところまで。愛すべき友、愛すべき人たち、愛すべき会社!ありがとうございました!」
と最後の最後に噛みまくりながらも椎木がその思いを伝えると、「優しさの行方」で大合唱を巻き起こし、
「俺たちの始まりの曲!」
と「月に群雲」とこの場所で聴くのが格別な2曲を鳴らし、演奏を終えると椎木は笑顔であらゆる方角の観客に手を振って、ステージを後にした。
しかし、前回のZepp Tokyoでは終わったと思ってたくさんの人が帰った後も、粘り強くさらなるアンコールを求めた人たちの声に応えてバンドはダブルアンコールを行なっていた。だからこそこの日はたくさんの人がさらなるアンコールを信じて待っていると、やはり3人はステージに戻ってきた。すぐに楽器を手にし、モニターには「My Hair is Bad」というロゴが映ったまま。照明もアンコールが終わった状態のままでなんの変化もない。つまりこれはスタッフと打ち合わせしたりしていたわけではなかったのだろう。ただただ3人の演奏する姿だけを見せる、マイヘアの本来の姿。それはロックバンドとしてのリアルさと格好良さを、言葉ではなく姿だけで示していた。終わると今度はすぐさまステージを去った。もう今年も「夏が過ぎてく」を聴けるわずかな季節になったんだ。
タイミング的には「mothers」のリリース後ではあるが、やはり武道館ということもあってか(椎木の言葉からはかなり武道館を意識していた節があった。近年の関東以外の若手バンドでは珍しいことである)、これまでの集大成であり、ベスト的な内容のライブとなったし、ある意味では今のマイヘアの完成形とも言えるものでもあった。
それだけに、これからこのバンドはいろんな方向に進んで行ける。もう何をやっても、アンコールで見せたマイヘア本来の姿から逸脱するようなことはないから。それはこの先、さらに大きな会場でライブをするようになっても絶対に変わることはない。この冷めた時代に思いっきりバットを振り下ろすような熱さを持って、マイヘアの熱狂は終わらずにこれからも続いていく。
かつて、日本のプロ野球に日本ハムファイターズの前身である、東映フライヤーズというチームがあった。そのチームの中心打者であった、大杉勝男は、打撃コーチであった飯島滋弥に
「月に向かって打て」
というアドバイスをされ、実践するとアッパースイングが矯正され、弾丸ライナーでホームランを量産できるようになったという。
この日、マイヘアが武道館で見せたライブは、まさに月に向かって打ったホームラン、ギャラクシーホームランそのものだった。
1.アフターアワー
2.熱狂を終え
3.グッバイマイマリー
4.ドラマみたいだ
5.接吻とフレンド
6.最愛の果て
7.真赤
8.運命
9.悪い癖
10.彼氏として
11.卒業
12.復讐
13.クリサンセマム
14.ディアウェンディ
15.元彼氏として
16.燃える偉人たち
17.フロムナウオン
18.戦争を知らない大人たち
19.シャトルに乗って
20.幻
21.最近のこと
22.いつか結婚しても
23.告白
24.エゴイスト
encore1
25.優しさの行方
26.月に群雲
encore2
27.夏が過ぎてく
熱狂を終え
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