グッドモーニングアメリカ 502号室のシリウスツアー ~ファイナル~ @TSUTAYA O-EAST 3/25
- 2018/03/25
- 23:09
昨年はグッドモーニングアメリカにとって試練と我慢の1年だった。ボーカルの金廣真悟のポリープ手術によって、ひたすらにライブを行なって生きてきたバンドが少しの期間、活動を休止せざるを得なかったからである。
そんなバンドにとって初めて表立った活動をしないという経験を経て生み出されたのが「502号室のシリウス」という、金廣が実際に住んでいる、手術後にひたすら篭っていた自身の部屋番号が冠されたアルバムである。そしてこの日の渋谷のO-EASTでのワンマンは、そのアルバムのリリースツアーのファイナルである。(一応「裏ファイナル」という位置づけで沖縄公演があるが、内容は違ったものになるのだろう)
背面には文字が連なって猫の形になっているフラッグが飾られているだけという至ってシンプルなステージ、しかし18時を過ぎた頃におなじみのハイトーンボイスが聞こえてくると、そのステージではなく、客席の後ろから、牛のような服を身に纏った、たなしん(ベース)が登場。客席を練り歩きながらこうしてこの日この場所に足を運んでくれた観客に感謝を告げ、客席からステージに上がる頃には他の3人もすでにステージに現れており、金廣の澄んだハイトーンボイスが響き渡ると、「502号室のシリウス」のリード曲である「風と鳴いて融けてゆけ」からスタートするのだが、「イェイイェー」のコーラスの大合唱となるキラーチューン「キャッチアンドリリース」はもちろん、たなしんがステージから客席の柵前に飛び降り、金廣がたなしんのマイクで歌い、渡邉が金廣のマイクでコーラスを務めるというフォーメーションが見事な「アブラカタブラ」と、メロコアを出自とする熱さと観客を踊らせるキャッチーさがものすごく高いレベルで融合している。
元々グッドモーニングアメリカはライブの平均点が非常に高く、ライブで勝ち上がってきたバンドではあるが、デビュー10年を超えてそれはさらに高いレベルまで引き上げられている。その最大の要因は、これまでは面白いパフォーマーとしての存在感が強かった、たなしんのベース。思わず「たなしんってこんなにカッコいいベース弾く人だっけ!?」とビックリしてしまった。そこにはもちろん彼なりのバンドへの意識や、貢献の仕方を見直したところもあるのだろう。
新作からの「ハブーブの後に」でも初期の頃を彷彿とさせるような強烈なツービートを叩きつけると、渡邉による、ツアーファイナルだからこその感慨を含んだ挨拶的なMC。しかしもはやテンションの高さのみで突っ切るようになっているだけに、金廣からは
「まさか両端ともテンションがおかしい人になるとは思わなかった(笑)」
と渡邉がたなしん化してきているといじられるように。
大合唱とともに次々とダイバーが転がっていく「空ばかり見ていた」と定番曲も外さないが、「ダンスダンスダンス」「The Sheeple」という新作曲も変わらぬくらいの盛り上がりを見せる。しかしながらサウンド自体は初期の頃のようなツービートのメロコア要素の強いものであっても、そこに乗る歌詞は社会や世間に対する違和感を感じさせるものになっている。そこがかつてのようなサウンドであっても今のグドモの曲になっている最大の理由であろう。
観客に手拍子を委ねる「あなたの事だよ」もフィクション性の強いラブソングだが、やはりサウンド自体は疾走感溢れるツービートと、ライブができなかった時期があったことがこうしたメロコアサウンドに回帰させているような気もする。
「ファイナルだから、今宵は語り合おう」
と金廣が「そして今宵は語り合おう」に繋げると、「拝啓、ツラツストラ」ではメジャーデビュー以降のグドモの大きな武器であり、また批判の目を向けられることにもなってしまった要素である高速ダンスロックも打ち出していく。その最新系が新作の「煙に巻かれたい」だが、キャッチーなコーラスをしながら金廣、渡邉、たなしんが揃って楽器のネックを振るのが見ていて面白い。
そして間違いなく中盤のハイライトだったのがタイトル通りに真っ赤な照明に照らされる中でメンバーが演奏した「アカクモエテイル」。
「いつか灰に変わってしまう 運命抱えてるならば
死に切るまで 生き続けてやる」
という、歌詞をそのまま演奏で体現するような情熱的な姿は思わず感動してしまうし、たなしんも自ら演奏後には
「いやー、今のはエモかったね~」
と言うほど。
するとここで今回のツアーでは恒例、しかし今後もやるかどうかはわからないという、この日も曲によってはシンバルがぶっ倒れるんじゃないかと思うくらいのドラムでもってバンドの屋台骨を支えていたペギによる「ちょっといい話」のコーナーへ。しかしながら開場前の先行物販に立って物販を売っていた(未だにそれを続けているのが本当にすごい)時に観客から下ネタを期待していると言われたことにより、
「キンタマがなぜ2つあるのか?キンタマにはなぜ真ん中に縫い目みたいなものがあるのか?」
という「ちょっといい話」どころかとんでもなくどうでもいい話になってしまい、客席も変な空気になってしまう。それを救うべく、いつの間にかステージからいなくなっていたたなしんが、今度は上半身裸というある意味いつものスタイルになって再び客席後方からステージまでを練り歩き、ここで恒例の「ファイヤー!」をキメると、「コピペ」からさらにテンションを上げるように過去曲を連発していく。
基本的にMCの時間も長くはないし、それ以外の場面ではほとんど曲間もなく曲を連発していくというストイックな内容のライブとなっていたが、メンバーに疲れは全くなく、むしろさらに個々の演奏は研ぎ澄まされ、バンド全体のグルーヴが一体となっていく。そしてそのバンドの様子を見て観客もさらに盛り上がり、客席全体が笑顔で満ちていくという、幸福な循環が発生していた。
渡邉の泣きのギターフレーズが炸裂する新たな夏の名曲「花火」、金廣がハンドマイクでステージを歩き回りながら歌い、観客を煽って飛び跳ねさせまくる「フライデイナイト」と最新作の曲の存在感を過去曲以上にしっかりと見せると、新作の中で唯一のバラードと言っていい曲である「She's…」へ。まるでこれが最後の曲であるかのようなクライマックス感を感じさせるが、「アカクモエテイル」もしかり、こうしたタイプの曲でも強いエモーショナルさ、バンドとしてこうした曲を打ち出す必然性を演奏する姿と音からしっかりと感じることができる。これこそが長年バンドをやってきて会得した最大の力である。ただ騒ぐだけでも、ただ楽しいだけでもない。そうでない大事なものを鳴らせる。グドモは間違いなくそういうバンドになっている。
そうしてライブがこのまま終わってもいいような空気になりながらも、このままでは終わらない。まだやるべき曲が残っているから。それは決して観客に媚びているのではなくて、今でもフェスなどでは我々と同じように客席から他のバンドのライブを見ている、1人の音楽好きとしての目線があるから、外してはいけない曲というのをライブでやらない選択肢はないのである。
そうして演奏された「未来へのスパイラル」でのこれまでと変わらぬ大合唱とダイバーの続出っぷり。初めてこの曲を聴いたのは、まだリリース前。忘れらんねえよの代官山UNITの対バンライブでこのバンドが出演した時。さすがにリリース前ということで、まだ今のような盛り上がりを生み出してはいなかったが、最後にこの曲が演奏された時、確かに会場の空気は変わった。みんな、「このバンドはこの曲でもっとたくさんの人に聴かれるようになって、もっと大きなステージに立つんだろうな」と思ったはず。その感覚を今でもハッキリと覚えているから、何度聴いてもこの曲に飽きることがないし、これからもずっと聴いていたいと思う。
そして
「あの時あなたに出会えて良かった」
というストレート極まりないフレーズが、ストレート極まりないツービートのメロコアサウンドで鳴らされる「言葉にならない」へと続くと、もう我慢できん!とばかりにそれまでは後ろの方で見ていた人たちも次々にモッシュピットに突っ込んでいき、ダイブしていく。そうした衝動に駆られるような力を持った曲だが、このフレーズはこのバンドのファン全員がバンドに対して思っていることだし、メンバーもファンに対して同じ気持ちを持って演奏しているはず。だからこそこうした景色が生まれている。
本編ラストは新作からの「ハルカカナタ」。これだけたくさんの代表曲や定番曲がある中でも、こうして最後に新作の曲で締める。それはこの曲がこれからのバンドの決意表明的な曲であるからだが、この締め方はバンドが今までの自分たちをしっかり更新していこうとする意志も感じる。そうして新作の曲の中から代表曲や定番曲になる曲が育っていく。ずっとそうやってツアーを廻ってきたバンドだから。
割とすぐさま出てきたアンコールでは渡邉がかねてから作成中だったベストアルバムの発売日が7月11日に決まったこと、それに先駆けて5月に代官山UNITでベストアルバムの曲を披露するワンマンをやることを発表。代官山UNITはバンドが初めてワンマンをやった場所であるが、ベストアルバムのタイトルが「BEST HIT GMA」、ライブのタイトルが「オールスター感謝祭」と、アジカンのベストアルバムと横浜スタジアムでのライブのタイトルの丸パクリ的なタイトルだけに渡邉も
「…どこかで聴いたことあるようなタイトルだと思いますが(笑)」
と間違いなく意識している様子。
そして「ウォールペーパーミュージックじゃ踊りたくないぜ」で再び笑顔で踊らせまくると、金廣がギターを置いてハンドマイクになり、打ち込みのサウンドも駆使しての「STAY WITH ME」の壮大なメロディが会場を包みこむ。この曲が収録されたアルバム「in トーキョーシティー」はブレイク直後にリリースされたものの、かなり内省的な内容だったため、たなしんはのちに
「あれは売れない、受け入れられないって思った。だけど自分の力量が他のメンバーに追いついてなかったから、自分の意見を言えなかった」
と回想しているが、そのアルバムの曲をこうして笑顔で演奏できているということは、たなしんの中でもしっかり決着がついているのだろうし、それ以降にそうしたアルバムが出ていないのは、そうしたたなしんのファンと同じ目線がバンドの中でしっかり生きているからだろう。
しかしこれでもまだライブは終わらず、ダブルアンコールでメンバーが登場。するとたなしんのみならず、ペギも上半身裸という気合いの入れ具合。だがたなしんは逆にこれから2ヶ月で肉体改造を行うため、当分は上半身裸になることはないという。
そんな、金廣からしたらどうでもいい(笑)情報も出る中、やはりダイバーが続出し、笑顔の中で「また会えるよね」で再会の約束をした。当然、またすぐにこのバンドには会える。それはたなしんが
「バンドは絶対に続けるから!」
とアンコールで宣言したように、このバンドがこれからも続いていくから。そしてそれを言葉にするたなしんは、これまでで最も頼もしく見えた。去り際にペギは自分の乳首をいじりながら歩いていたけれど(笑)
2013年にグドモが初めてROCK IN JAPAN FES.に出た時、同様に初出演を果たし、期待の若手同士だったキュウソネコカミとKEYTALKと対談をしていた。その際にキュウソネコカミのヤマサキセイヤは
「5年後にGRASS STAGE(メインステージ)に立っているのは俺たちかもしれない」
と言っていた。今年がちょうどそれから5年。キュウソネコカミとKEYTALKはまさにGRASSに立つタイミングがやってきている。じゃあグドモは?と言うと、武道館ワンマンもやったとはいえ、今やかつて「未来へのスパイラル」ツアーファイナルや、主催フェスを行なっていたこのO-EASTくらいが適正キャパになりつつある。つまり他の2組とはかなり差がついてしまった。
しかしだからといってグドモが負けたのかというと、そんなことはない。確かに動員も売り上げも下がっている。それはこのバンドが「この曲を出してから、次はこういう曲を出す」みたいな、戦略的なバンドになれなかった(TOTALFATとBIGMAMAという同じ高校のバンドも同じだが)、愚直なくらいに不器用なバンドだったということもあるが、ライブを見れば今でもグドモの音楽は見ているものの体だけでなく心も揺さぶり、抉ってくる。その感覚さえ失わずにバンドを続けていれば、エレファントカシマシがそうだったように、いつかきっと再浮上できる時が来る。
「デビューして10年。武道館とか、できたこともたくさんあったけど、できていないこともたくさんある」
と金廣が言ったように、バンドはただ続けるんじゃなく、明確な目標や野心を持った上で続けていこうとしている。かつてアジカンのNANO-MUGEN FES.に出た時に
「いつかグドモ主催フェスをこの会場で見たい」
と思った感覚は、今でも変わっていない。それはバンドのライブがそう思わせてくれ続けているのだ。
1.風と鳴いて融けてゆけ
2.キャッチアンドリリース
3.アブラカタブラ
4.ハブーブの後に
5.空ばかり見ていた
6.ダンスダンスダンス
7.ディスポップサバイバー
8.The Sheeple
9.あなたの事だよ
10.そして今宵は語り合おう
11.拝啓、ツラツストラ
12.煙に巻かれたい
13.アカクモエテイル
14.コピペ
15.ミサイルをぶちかましてぇな
16.心臓抉って
17.花火
18.フライデイナイト
19.She's…
20.未来へのスパイラル
21.言葉にならない
22.ハルカカナタ
encore1
23.ウォールペーパーミュージックじゃ踊りたくないぜ
24.STAY WITH ME
encore2
25.また会えるよね
風と鳴いて融けてゆけ
https://youtu.be/cBiS8KfLh6k
Next→ 3/31 My Hair is Bad @日本武道館
そんなバンドにとって初めて表立った活動をしないという経験を経て生み出されたのが「502号室のシリウス」という、金廣が実際に住んでいる、手術後にひたすら篭っていた自身の部屋番号が冠されたアルバムである。そしてこの日の渋谷のO-EASTでのワンマンは、そのアルバムのリリースツアーのファイナルである。(一応「裏ファイナル」という位置づけで沖縄公演があるが、内容は違ったものになるのだろう)
背面には文字が連なって猫の形になっているフラッグが飾られているだけという至ってシンプルなステージ、しかし18時を過ぎた頃におなじみのハイトーンボイスが聞こえてくると、そのステージではなく、客席の後ろから、牛のような服を身に纏った、たなしん(ベース)が登場。客席を練り歩きながらこうしてこの日この場所に足を運んでくれた観客に感謝を告げ、客席からステージに上がる頃には他の3人もすでにステージに現れており、金廣の澄んだハイトーンボイスが響き渡ると、「502号室のシリウス」のリード曲である「風と鳴いて融けてゆけ」からスタートするのだが、「イェイイェー」のコーラスの大合唱となるキラーチューン「キャッチアンドリリース」はもちろん、たなしんがステージから客席の柵前に飛び降り、金廣がたなしんのマイクで歌い、渡邉が金廣のマイクでコーラスを務めるというフォーメーションが見事な「アブラカタブラ」と、メロコアを出自とする熱さと観客を踊らせるキャッチーさがものすごく高いレベルで融合している。
元々グッドモーニングアメリカはライブの平均点が非常に高く、ライブで勝ち上がってきたバンドではあるが、デビュー10年を超えてそれはさらに高いレベルまで引き上げられている。その最大の要因は、これまでは面白いパフォーマーとしての存在感が強かった、たなしんのベース。思わず「たなしんってこんなにカッコいいベース弾く人だっけ!?」とビックリしてしまった。そこにはもちろん彼なりのバンドへの意識や、貢献の仕方を見直したところもあるのだろう。
新作からの「ハブーブの後に」でも初期の頃を彷彿とさせるような強烈なツービートを叩きつけると、渡邉による、ツアーファイナルだからこその感慨を含んだ挨拶的なMC。しかしもはやテンションの高さのみで突っ切るようになっているだけに、金廣からは
「まさか両端ともテンションがおかしい人になるとは思わなかった(笑)」
と渡邉がたなしん化してきているといじられるように。
大合唱とともに次々とダイバーが転がっていく「空ばかり見ていた」と定番曲も外さないが、「ダンスダンスダンス」「The Sheeple」という新作曲も変わらぬくらいの盛り上がりを見せる。しかしながらサウンド自体は初期の頃のようなツービートのメロコア要素の強いものであっても、そこに乗る歌詞は社会や世間に対する違和感を感じさせるものになっている。そこがかつてのようなサウンドであっても今のグドモの曲になっている最大の理由であろう。
観客に手拍子を委ねる「あなたの事だよ」もフィクション性の強いラブソングだが、やはりサウンド自体は疾走感溢れるツービートと、ライブができなかった時期があったことがこうしたメロコアサウンドに回帰させているような気もする。
「ファイナルだから、今宵は語り合おう」
と金廣が「そして今宵は語り合おう」に繋げると、「拝啓、ツラツストラ」ではメジャーデビュー以降のグドモの大きな武器であり、また批判の目を向けられることにもなってしまった要素である高速ダンスロックも打ち出していく。その最新系が新作の「煙に巻かれたい」だが、キャッチーなコーラスをしながら金廣、渡邉、たなしんが揃って楽器のネックを振るのが見ていて面白い。
そして間違いなく中盤のハイライトだったのがタイトル通りに真っ赤な照明に照らされる中でメンバーが演奏した「アカクモエテイル」。
「いつか灰に変わってしまう 運命抱えてるならば
死に切るまで 生き続けてやる」
という、歌詞をそのまま演奏で体現するような情熱的な姿は思わず感動してしまうし、たなしんも自ら演奏後には
「いやー、今のはエモかったね~」
と言うほど。
するとここで今回のツアーでは恒例、しかし今後もやるかどうかはわからないという、この日も曲によってはシンバルがぶっ倒れるんじゃないかと思うくらいのドラムでもってバンドの屋台骨を支えていたペギによる「ちょっといい話」のコーナーへ。しかしながら開場前の先行物販に立って物販を売っていた(未だにそれを続けているのが本当にすごい)時に観客から下ネタを期待していると言われたことにより、
「キンタマがなぜ2つあるのか?キンタマにはなぜ真ん中に縫い目みたいなものがあるのか?」
という「ちょっといい話」どころかとんでもなくどうでもいい話になってしまい、客席も変な空気になってしまう。それを救うべく、いつの間にかステージからいなくなっていたたなしんが、今度は上半身裸というある意味いつものスタイルになって再び客席後方からステージまでを練り歩き、ここで恒例の「ファイヤー!」をキメると、「コピペ」からさらにテンションを上げるように過去曲を連発していく。
基本的にMCの時間も長くはないし、それ以外の場面ではほとんど曲間もなく曲を連発していくというストイックな内容のライブとなっていたが、メンバーに疲れは全くなく、むしろさらに個々の演奏は研ぎ澄まされ、バンド全体のグルーヴが一体となっていく。そしてそのバンドの様子を見て観客もさらに盛り上がり、客席全体が笑顔で満ちていくという、幸福な循環が発生していた。
渡邉の泣きのギターフレーズが炸裂する新たな夏の名曲「花火」、金廣がハンドマイクでステージを歩き回りながら歌い、観客を煽って飛び跳ねさせまくる「フライデイナイト」と最新作の曲の存在感を過去曲以上にしっかりと見せると、新作の中で唯一のバラードと言っていい曲である「She's…」へ。まるでこれが最後の曲であるかのようなクライマックス感を感じさせるが、「アカクモエテイル」もしかり、こうしたタイプの曲でも強いエモーショナルさ、バンドとしてこうした曲を打ち出す必然性を演奏する姿と音からしっかりと感じることができる。これこそが長年バンドをやってきて会得した最大の力である。ただ騒ぐだけでも、ただ楽しいだけでもない。そうでない大事なものを鳴らせる。グドモは間違いなくそういうバンドになっている。
そうしてライブがこのまま終わってもいいような空気になりながらも、このままでは終わらない。まだやるべき曲が残っているから。それは決して観客に媚びているのではなくて、今でもフェスなどでは我々と同じように客席から他のバンドのライブを見ている、1人の音楽好きとしての目線があるから、外してはいけない曲というのをライブでやらない選択肢はないのである。
そうして演奏された「未来へのスパイラル」でのこれまでと変わらぬ大合唱とダイバーの続出っぷり。初めてこの曲を聴いたのは、まだリリース前。忘れらんねえよの代官山UNITの対バンライブでこのバンドが出演した時。さすがにリリース前ということで、まだ今のような盛り上がりを生み出してはいなかったが、最後にこの曲が演奏された時、確かに会場の空気は変わった。みんな、「このバンドはこの曲でもっとたくさんの人に聴かれるようになって、もっと大きなステージに立つんだろうな」と思ったはず。その感覚を今でもハッキリと覚えているから、何度聴いてもこの曲に飽きることがないし、これからもずっと聴いていたいと思う。
そして
「あの時あなたに出会えて良かった」
というストレート極まりないフレーズが、ストレート極まりないツービートのメロコアサウンドで鳴らされる「言葉にならない」へと続くと、もう我慢できん!とばかりにそれまでは後ろの方で見ていた人たちも次々にモッシュピットに突っ込んでいき、ダイブしていく。そうした衝動に駆られるような力を持った曲だが、このフレーズはこのバンドのファン全員がバンドに対して思っていることだし、メンバーもファンに対して同じ気持ちを持って演奏しているはず。だからこそこうした景色が生まれている。
本編ラストは新作からの「ハルカカナタ」。これだけたくさんの代表曲や定番曲がある中でも、こうして最後に新作の曲で締める。それはこの曲がこれからのバンドの決意表明的な曲であるからだが、この締め方はバンドが今までの自分たちをしっかり更新していこうとする意志も感じる。そうして新作の曲の中から代表曲や定番曲になる曲が育っていく。ずっとそうやってツアーを廻ってきたバンドだから。
割とすぐさま出てきたアンコールでは渡邉がかねてから作成中だったベストアルバムの発売日が7月11日に決まったこと、それに先駆けて5月に代官山UNITでベストアルバムの曲を披露するワンマンをやることを発表。代官山UNITはバンドが初めてワンマンをやった場所であるが、ベストアルバムのタイトルが「BEST HIT GMA」、ライブのタイトルが「オールスター感謝祭」と、アジカンのベストアルバムと横浜スタジアムでのライブのタイトルの丸パクリ的なタイトルだけに渡邉も
「…どこかで聴いたことあるようなタイトルだと思いますが(笑)」
と間違いなく意識している様子。
そして「ウォールペーパーミュージックじゃ踊りたくないぜ」で再び笑顔で踊らせまくると、金廣がギターを置いてハンドマイクになり、打ち込みのサウンドも駆使しての「STAY WITH ME」の壮大なメロディが会場を包みこむ。この曲が収録されたアルバム「in トーキョーシティー」はブレイク直後にリリースされたものの、かなり内省的な内容だったため、たなしんはのちに
「あれは売れない、受け入れられないって思った。だけど自分の力量が他のメンバーに追いついてなかったから、自分の意見を言えなかった」
と回想しているが、そのアルバムの曲をこうして笑顔で演奏できているということは、たなしんの中でもしっかり決着がついているのだろうし、それ以降にそうしたアルバムが出ていないのは、そうしたたなしんのファンと同じ目線がバンドの中でしっかり生きているからだろう。
しかしこれでもまだライブは終わらず、ダブルアンコールでメンバーが登場。するとたなしんのみならず、ペギも上半身裸という気合いの入れ具合。だがたなしんは逆にこれから2ヶ月で肉体改造を行うため、当分は上半身裸になることはないという。
そんな、金廣からしたらどうでもいい(笑)情報も出る中、やはりダイバーが続出し、笑顔の中で「また会えるよね」で再会の約束をした。当然、またすぐにこのバンドには会える。それはたなしんが
「バンドは絶対に続けるから!」
とアンコールで宣言したように、このバンドがこれからも続いていくから。そしてそれを言葉にするたなしんは、これまでで最も頼もしく見えた。去り際にペギは自分の乳首をいじりながら歩いていたけれど(笑)
2013年にグドモが初めてROCK IN JAPAN FES.に出た時、同様に初出演を果たし、期待の若手同士だったキュウソネコカミとKEYTALKと対談をしていた。その際にキュウソネコカミのヤマサキセイヤは
「5年後にGRASS STAGE(メインステージ)に立っているのは俺たちかもしれない」
と言っていた。今年がちょうどそれから5年。キュウソネコカミとKEYTALKはまさにGRASSに立つタイミングがやってきている。じゃあグドモは?と言うと、武道館ワンマンもやったとはいえ、今やかつて「未来へのスパイラル」ツアーファイナルや、主催フェスを行なっていたこのO-EASTくらいが適正キャパになりつつある。つまり他の2組とはかなり差がついてしまった。
しかしだからといってグドモが負けたのかというと、そんなことはない。確かに動員も売り上げも下がっている。それはこのバンドが「この曲を出してから、次はこういう曲を出す」みたいな、戦略的なバンドになれなかった(TOTALFATとBIGMAMAという同じ高校のバンドも同じだが)、愚直なくらいに不器用なバンドだったということもあるが、ライブを見れば今でもグドモの音楽は見ているものの体だけでなく心も揺さぶり、抉ってくる。その感覚さえ失わずにバンドを続けていれば、エレファントカシマシがそうだったように、いつかきっと再浮上できる時が来る。
「デビューして10年。武道館とか、できたこともたくさんあったけど、できていないこともたくさんある」
と金廣が言ったように、バンドはただ続けるんじゃなく、明確な目標や野心を持った上で続けていこうとしている。かつてアジカンのNANO-MUGEN FES.に出た時に
「いつかグドモ主催フェスをこの会場で見たい」
と思った感覚は、今でも変わっていない。それはバンドのライブがそう思わせてくれ続けているのだ。
1.風と鳴いて融けてゆけ
2.キャッチアンドリリース
3.アブラカタブラ
4.ハブーブの後に
5.空ばかり見ていた
6.ダンスダンスダンス
7.ディスポップサバイバー
8.The Sheeple
9.あなたの事だよ
10.そして今宵は語り合おう
11.拝啓、ツラツストラ
12.煙に巻かれたい
13.アカクモエテイル
14.コピペ
15.ミサイルをぶちかましてぇな
16.心臓抉って
17.花火
18.フライデイナイト
19.She's…
20.未来へのスパイラル
21.言葉にならない
22.ハルカカナタ
encore1
23.ウォールペーパーミュージックじゃ踊りたくないぜ
24.STAY WITH ME
encore2
25.また会えるよね
風と鳴いて融けてゆけ
https://youtu.be/cBiS8KfLh6k
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