見放題東京2018 @新宿歌舞伎町エリア 3/3
- 2018/03/04
- 01:12
もともとは大阪のサーキットイベントとしてスタートした、見放題。日々地下のライブハウスで凌ぎを削っている若手バンドの見本市的なイベントであるが、新宿歌舞伎町エリアのライブハウスを使った東京も今年で4年目の開催。かつてはBLUE ENCOUNTや岡崎体育など、今や新宿のライブハウスの規模では絶対見れないようなアーティストも出演していた。
今年は
LOFT
LOFT BAR
Motion
Marble
MARZ
SAMURAI
ACB
HOLIDAY
RUIDO K4
Zirco Tokyo
という計10会場を使った大規模なものに。それでもチケットはソールドアウトと、確実に音楽ファンの間で注目を集めるイベントになっている。
基本的に新宿近辺はキャパ500くらいのLOFTが最大規模という小規模な、ザ・ライブハウスだけなので、混雑緩和を避けるために前日の段階でリストバンドの事前交換を行ったりしており、そうした対策の成果があって、当日のLOFT BARスペースでのリストバンド引き換えも開演より40分以上早めに行ったら実にスムーズに行えた。この辺りは何年も続けてきたことによる反省と改善の結果である。
12:00~ Yap!! [LOFT]
今回のイベントのトップバッター、しかもLOFTに登場するのは、5月のVIVA LA ROCKでthe telephonesの再始動も発表された、石毛輝のYap!!。telephonesの初期から、あまり新宿のライブハウスに出ているイメージはないが。
会場が新宿でスタート時間が時間というのもあってか、予想したよりも会場はゆったりとしている中、客席が暗転すると、ダンスロックサウンドに導かれてメンバー3人がステージに登場。これまでと変わらず、中央に石毛輝、向かって右側にドラムの柿沼、左側にベースの汐碇というスリーピースバンドとしてはやや変則的な立ち位置。
「LOFTー!」
と叫んだ石毛輝が身振り手振りをしながら歌う「Too Young for Love」でスタートすると、石毛のギター、柿沼のドラム、汐碇のベースに加えて打ち込みのシンセのサウンドまでもがユニゾンするイントロの新曲。石毛も何度も
「新宿ー!」「見放題ー!」
と叫んだからか、開始時はおとなしかったフロアはこの新曲のあたりでダンスフロアに変貌していく。まだ音源化していない曲でこんなにも踊らせられるというあたりに石毛輝の楽曲の力強さを改めて感じる。
ポップな「Kick the Door」からバラードと言ってもいいくらいに歌い上げる「If I'm a Hero」と続くのだが、ギターロックから徐々にアンビエントなポップになっていったlovefilmの経験あってこそのこの曲が本当に素晴らしく、ダンスサウンドで踊りまくるのも楽しいが、それ以上にやはり石毛の最大の持ち味はメロディなのだと感じさせてくれる。
「Yap!!でLOFTに出るのは初めてです。見放題、呼んでくれてありがとう!朝イチから見に来てくれてありがとう!長丁場だと思うけど、休憩しながら楽しんでね」
と観客への感謝と気遣いを言葉にしてから、柿沼のドラムが力強さを、汐碇のベースがグルーヴをさらに増す新曲でこれからのこのバンドの可能性をさらに強く感じさせるように踊らせまくると、ラストはタイトル通りに熱狂のダンスフロアと化した「Dancing in the Midnight」で、改めて石毛輝はギターがめちゃくちゃ上手いなぁと踊りまくりながら感心してしまった。まだ結成して半年ちょっととはいえ、すでに長い時間のライブも見ているだけに、本当にあっという間だった。
Yap!!はサウンド的にはthe telephonesと近いことをやっているが、やはりtelephonesとは違う。それはもちろんメンバーが違うから。やろうと思えばいくらでもソロでできるくらいの技術や方法論を持っていても石毛輝はソロのライブ時もバンド編成だったし、バンドであること、そのメンバーでバンドをやることに強いこだわりを持っている。
だからこそ、仮にVIVA LA ROCK以降にtelephonesが継続的に活動していくとしても、Yap!!もlovefilmもこうしてライブを見ていたいし、活動を続けてもらいたい。どれも違った素晴らしさがあるバンドだから。
1.Too Young for Love
2.新曲
3.Kick the Door
4.If I'm a Hero
5.新曲
6.Dancing in the Midnight
If I'm a Hero
https://youtu.be/bDM5lSNe_hw
13:00~ ビレッジマンズストア [HOLIDAY]
HOLIDAYは開演前から人が押し寄せ、早くも入場規制のアナウンスがかかる。そんな中で暗幕のかかったステージにすでにスタンバイしているであろうメンバーのうち、水野ギイが
「おい!ぶっ殺せ!」
と言うとリハで「ビレッジマンズ」を演奏し、メンバーの姿が見えないにもかかわらず熱狂を生み出す。しかし水野は、
「入場規制なんてちっとも嬉しくない!お前らの好きなバンドを1人でも多くの人に見てもらいたいだろ!だからちょっとずつ奥に詰めてくれ!」
と熱さを持ちながらも冷静に対処し、ギリギリまで多くの人を客席に招き入れる。
「マイ・シャローナ」のSEで赤いスーツを纏ったメンバーが登場するが、昨年このバンドはギターが1人離脱したため、この日上手のギターを務めるのは、Droogの荒金祐太郎。見た目的には全く違和感がない。
おなじみの1人派手な出で立ちの水野がいつもよりもさらに大きく見えるのは借りたお立ち台がいつもより高いからだそうだが、高いがゆえにお立ち台に立ったり降りたりするのが踏み台昇降のごとき運動量になってしまい、いつも以上に足腰に負担がきているとのこと。
しかしながら定番曲の「夢の中ではない」からスタートしたとはいえ、超満員の観客は完全にこのバンドの曲を知っていて、このバンドのライブを見にこの場所にきている。こうした複数ステージのフェスであると「よく知らないけどちょっと見てみようかな」的なスタンスの人もいるが、この熱気からは全くそんな人がいるような気がしない。
しゃがれた声を響かせる水野が、
「HOLIDAY、初めてステージに立ちましたが、さすがV系バンドの聖地だ(笑)
でもみんな、実に来づらい立地だろう?(笑)
俺は来た時に入り口がわからなくて、普通にみんなと同じ入り口から入ってきたら、FABLED NUMBERを待ってる人たちがずっと下を向いているくらいにみんなこの歌舞伎町に馴染んでいないぞ(笑)
そんな中、頑張って来てくれたんだろ!?俺たちが今回の見放題のヘッドライナー、ビレッジマンズストアだ!」
とすでに暑い会場をさらに熱くさせると、最新シングルタイトル曲「トラップ」でさらに開かれたところへバンドが打って出て行かんとする意志を示すと、「MIZU-BUKKAKE-LONE」では客席の真ん中に通路を開けさせると、岩原洋平と荒金のギター2人がステージから飛び降りて客席のど真ん中でギターを弾きまくるというおなじみのパフォーマンスを見せ、さらに「逃げてくあの娘にゃ聴こえない」では観客を前に集めてギター2人が観客に支えられながらギターを弾きまくる。
この見放題を帰ってくる場所にしたいこと、次はLOFTに出たいこと、そして水野が根のネガティヴさを感じさせながらのさらに熱い言葉でファンと今後も歩いていくことを宣言すると、ラストは真っ赤なスーツの濃い男たちが少し寄り添ったような姿を見せてくれた「PINK」。金髪に赤いスーツという、ある意味ではこの歌舞伎町に最もよく似合う出で立ちのドラムの坂野がもはやシャウトと言っていいようなコーラスを務めながら、水野は観客と他のメンバーに歌を任せ、
「今日の見放題はこれにて終了、俺たちが今日の主役、ビレッジマンズストアでした!」
とまだ2組目にもかかわらず、この日の全てをかっさらっていった。
この熱気はこの日だけのものではないし、それを生み出すに至り、「中途半端に参加できない」と言って加納が離脱した今のこのバンドは、明らかに去年からギアの入り具合が変わった。メンバーみんながこのバンドで生きていこうとしている。この真っ赤なロックンロールの炎がメインストリームに燃え広がる日は近い。
リハ.ビレッジマンズ
1.夢の中ではない
2.トラップ
3.MIZU-BUKKAKE-LONE
4.帰れないふたり
5.逃げてくあの娘にゃ聴こえない
6.PINK
トラップ
https://youtu.be/4DvqBXVIEPA
14:00~ おいしくるメロンパン [LOFT]
すでにROCK IN JAPAN FES.などの大型フェスにも出演している、期待のルーキー、おいしくるメロンパン。その期待に違わず、開演前からLOFTは入場規制がかかるほどの超満員っぷり。
かなり長めにメンバーがサウンドチェックをすると、いったん掃けてすぐに再登場。スリーピースならではの削ぎ落とされた、実にシンプルな「Look at the sea」からスタートするのだが、ベースの峯岸がやたらと身振り手振りをしながら物理的に動きまくってベースを弾くなど、CDを聴いてるぶんには歌詞もナカシマの歌唱も繊細そのものというイメージを感じさせたが、そのイメージはこうして初めてライブを見てみると少し変わる。
だが序盤はナカシマのマイクがやたらとハウリ気味で、現時点ではバンドにおけるキラーチューンである「色水」においてもその楽曲の力をフルに発揮したとは言い難い結果になってしまった。
実に緩いMCもまぁ見た目のイメージ通りではあるが、全く盛り上がるようなタイプのバンドではないとはいえ、その中でもより聴き入らせるようなタイプの新曲は壮大なイメージを想起させ、
峯岸「サーキットイベントって楽しいですよね。さっき僕もライブ見てたんですよ。そしたら前にいた女の子二人組が、
「このあとおいしくるメロンパン行くでしょ?ナカシマさん可愛いよね~。原さんも可愛いよね~。峯岸さんはすぐどっかぶっ飛んでいくよね(笑)」
って話してて。…前向けなかったです(笑)」
とMCではやはり脱力させる。この雰囲気ではMCは全く上手くならなそうなバンドになる予感がする。
しかしながら「あの秋とスクールデイズ」では一気に繊細なイメージを消し去る力強いバンドサウンドを奏で、ラストの「シュガーサーフ」ではさらに加速。
これだけプッシュされるような存在なのは伊達じゃないが、ライブはまだまだいけるような気もしている。というか、まだまだ完成されていない感すらある。そこまで行ったらどんなバンドになるのだろうか。
1.Look at the sea
2.色水
3.泡と魔女
4.新曲
5.あの秋とスクールデイズ
6.シュガーサーフ
色水
https://youtu.be/RXKsBPv9BMk
15:00~ THURSDAY'S YOUTH [MARZ]
昨年、Suck a Stew Dryから、ギターのみならずメンバーの中で最も喋りが上手い男であったフセタツアキが脱退。残った4人はSuck a Stew Dryとしての活動を休止し、体制も新たになるとともにバンド名もTHURSDAY'S YOUTHとして活動していくことを発表。
リハからガンガン曲を演奏していくが、やはり暗い。完全に振り切ったような、「自分たちの内面から出てくるものはやっぱりこういうものでしかなかったです」というくらいの暗さ。
しかしながら全てがダークな方向に向かっていくというか、聴いていてネガティヴな気持ちになるかというとそんなことはない。それはいくら歌詞が暗くなっても、篠山浩生の描くメロディがポップさを失っていないからである。
「奇跡が起きるのなら 普通の生活を」
と、自らが普通の生活すらも送れない人間であることを認めた上で生きている人間としての「奇跡」、フェスで人気を博しているバンドへの皮肉や毒を含んだように感じるような新曲と、どの曲もこのバンドでしか歌えない、鳴らせないような必然性に基づいて生まれてきている。
レゲエのようなレイドバックしたサウンドというのはかつてはなかったものであり、このあたりはメンバーの音楽性の幅広さと演奏の確かな実力を見せてくれる。
「暗闇に光を当てるのではなく、暗闇を暗闇のままに歌いたい」
という篠山の言葉はなぜSuck a Stew DryがTHURSDAY'S YOUTHにならなければならなかったのかを如実に物語っているが、
「気楽に気ままにこのまま死んでいこうぜ」
という諦念にも似た感情をこのバンドの中で最もポップなギターロックサウンドに乗せて歌われる「キラク」から、シューゲイザーバンドかのような轟音ギターサウンドに会場が包まれた「Drowsy」という流れは、サウンドのスタイルは多岐に渡れど、このバンドが歌いたいこと、表現したいことはブレないということを物語っていた。
まだこのバンド名になってからの活動期間は短いとはいえ、リード曲というか、代表曲的な曲を並べた、いわゆるフェス的なセトリを組んで初見の人を掴む、ということもやろうと思えばできるバンドだ。いや、Suck a Stew Dryの時は確かにそうしたフェスの戦い方をしていた。でももはやそんなことは考えなくていい。ただひたすらに今の、この日のバンドとしての最新形を見せる。それが今自分たちがやることである。短い時間の中からもそうした意志を感じたし、暗くなったとはいえ、それは本来の自分たちを取り戻したかのように演奏するメンバーの姿は生き生きとしていた。
リハ1.かくれんぼ
リハ2.燃やせるゴミ
リハ3.天国が見えたら
1.奇跡
2.新曲
3.雨、雨、雨
4.キラク
5.Drowsy
Drowsy
https://youtu.be/14P6bss6jLk
16:00~ DENIMS [HOLIDAY]
アーティスト写真がポップなメンバーのイラストというのを見ると「どんなバンドなんだ?」と思わずにはいられない4人組バンド、DENIMS。もともとはAWAYOKUBAというバンドで活動していたメンバーによるバンドである。
全くデニム感のない出で立ちでメンバー4人が登場すると、ブラックミュージックの影響も感じさせる、リズムというよりグルーヴで踊らせるような「わかってるでしょ」から、このバンド独特の緩いようでいて、演奏は全く緩くはないという空気が醸成されていく。髪の色が青色なのが目立つギタリストのおかゆは早くもステージから降りてギターを弾きまくる。
アイリッシュパンクやヒップホップなど、1曲の中で様々な音楽性を取り入れる幅の広さは、すでにフジロックに出演しているのも不思議ではないくらいに、フジロックなどの自然が溢れる中でライブを見るのが実に似合いそう。
どことなく石毛輝が短髪になったようなイメージを感じるようなボーカル・かまちゅーが
「自由に楽しんでいきましょう」
と言うと、おかゆが
「いやいや!今日はフェスですから!ゆるく楽しんでいきましょうとか言わないですよ!盛り上がっていきましょう!行けるかー!」
と煽るように返すも、
「次にやるのは「ゆるりゆらり」っていう曲なんですけど(笑)」
と、この日最も聴き入るタイプの曲であり、煽りはネタに終わる。
しかし後半はかまちゅの言葉通りにさらなる盛り上がりを見せるように合唱や、メンバーがステップを踏みながら演奏したりという、たくさんの人が見に来ているからこそより楽しくなれるパフォーマンスを展開し、大阪では何回も出演してきたこのイベントの東京でも満員という確かな手応えと余韻を残した。
いわゆる「オシャレなバンド」が数多くシーンに登場してきており、このバンドもサラッと聴くとそうしたイメージを抱きがちだが、そういうバンドとは違い、オシャレでも緩くもないライブを見せられるバンドである。
ゆるりゆらり
https://youtu.be/j4AmZiW9M90
17:00~ パノラマパナマタウン [HOLIDAY]
THE ORAL CIGARETTESやフレデリックを輩出したオーディションで優勝してデビューし、すでに様々な大型フェスにも出演している、神戸の4人組バンド、パノラマパナマタウン。それだけにHOLIDAYのキャパは開演前から超満員。
メンバーが気合いを思いっきり見せながら登場すると、派手なジャージに身を包んだ岩渕(ボーカル)がハンドマイク片手に言葉を放出しまくる、自己紹介的な「パノラマパナマタウンのテーマ」からスタートし、早くも
「P!P!T!」
の巨大なコール&レスポンスを発生させると、デビュー当時はライブの最後に演奏するキラーチューン的なポジションであった「世界最後になる歌は」で岩渕が超満員なのを物ともせずに客席に突入して歌い、
「俺たち、今日出演してる100組の中で1番を取るつもりで来ました!そう言うと、「先輩は?」とか言われるんだけど、上も下も、タイムテーブルの横も縦も関係なしに、俺たちが1番取ってやるって言ってんだよ!」
とこのライブへの気合いを爆発させてからステージに戻る。
「リバティーリバティー」も含めて岩渕がハンドマイクで歌う曲は言葉数が非常に多い、ヒップホップの影響を感じるような曲が多いのだが、そうした曲でこそバンドのグルーヴは最大限に高まっていき、メンバーで最も涼しい顔をしながらギターソロを弾き倒していた浪越はいつの間にか上半身裸になっていた。
岩渕がギターを弾きながら歌う「ラプチャー」から、歌詞をこの日だからこそのものに変え、グルーヴがさらに高まっていく「MOMO」でも岩渕が客席に飛び込むようにして歌うと、
「声が枯れることよりも、台本通りのライブになってしまうのが1番怖いんだよ!
23年生きてきて、周りの人に流されそうになったり、インターネットの声に惑わされるようになったこともあったけど、この曲ができてからそんなもんは全部どうでもよくなりました!」
とこれからのさらなる決意を口にしてから演奏されたのは今年リリースの最新作「PANORAMADDICTION」のリード曲である「フカンショウ」で曲中にあるコーラスポイントでは観客も一緒になって叫ぶという浸透力を見せると、
「30分じゃ足りないでしょ?ツアーでもっと長くやろうぜ」
と岩渕が言って、「フカンショウ」が終演SEとして流れる中、メンバーはステージを去っていった。
大規模フェスに出演し、アリーナクラスのバンドとも対バンしたことで獲得したライブの経験値と地力、メンバーの演奏とグルーヴ、そして岩渕のカリスマ性。もはやこのキャパで見れるようなレベルのバンドじゃないし、このクラスのバンドの中では別格と言っていいくらいのライブの凄さ。ベストアクトクラスなのは間違いないだけに、岩渕が言ったように30分では全然足りないだけにツアーも行こうかな。
1.パノラマパナマタウンのテーマ
2.世界最後になる歌は
3.リバティーリバティー
4.ラプチャー
5.MOMO
6.フカンショウ
フカンショウ
https://youtu.be/4qIcq6c3Igg
18:00~ MOSHIMO [RUIDO K4]
かつてはCHEESE CAKEという名前で活動していた、紅一点メンバーであるボーカルの岩淵紗貴を中心とした4人組バンド、MOSHIMO。COUNTDOWN JAPANなどにも出演を果たしており、注目度急上昇中の存在である。
ややサウンドチェックで時間が押したためか、そのまま掃けずにスタンバイしたメンバー全員が向かい合って音を鳴らすというセッション的な入りというのはやや意外ではあったが、これはメンバーの演奏がしっかりしているからこそできることである。
そのまま「猫かぶる」に突入していくのだが、ポップかつキュートな岩淵のボーカルでありながらも、歌詞は実にシニカルというか、好きな男子が夢中になっている友達の女子に毒を吐くという一筋縄ではいかないひねくれっぷりがある。
ダンサブルな「赤いリンゴ」と続くが、CDで聴いているだけでも上手いとわかるメンバーの演奏が、ライブで見るとさらに上手いだけではなく、ポップかつキャッチーなこのバンドのサウンドに重さとカッコ良さを与えている。特にドラムの本多は正確なリズムを刻みながらも実に力強い。長身ベースの宮原はハイトーンなコーラスも務め、一瀬はポップなメロディの裏で難解なフレーズのギターを奏でている、とメンバーの役割やバランスも実に良い。
「ずっと大切にしている曲」
と紹介された「寝グセ」は岩淵がアコギを弾きながら歌う、CHEESE CAKE名義だった頃からある曲。こうした短い時間のライブでも演奏するというのが、この曲を本当に大切にしているのがわかるし、MOSHIMOになってからの曲に比べると実に素朴な感触の曲である。
今月、ついにリリースされる初のフルアルバム「圧倒的少女漫画ストーリー」の告知を岩淵がするのだが、岩淵は普段から休みの日は漫画喫茶に行って少女漫画を読みまくっているらしく、あまりに熱量がこもりまくった少女漫画への愛を語り倒し、超満員の客席も少し苦笑い。
そのアルバムに収録される新曲はやらなかったが、ラストの「命短し恋せよ乙女」では客席の中から、今恋をしている女性3人の名前を聞き、
「命短し恋せよ○○!」(○○の部分はその観客の名前)
と恋をしている観客を応援するべく、会場にいる全員で大合唱するも、岩淵が3人目の名前を失念するという失態をやらかしてやり直しになるという微笑ましい展開に。
そうして少女を応援してライブを終えたが、メンバーの演奏が本当に上手かったし、それをちゃんとポップにするための力を持っているボーカリストがいる。今月出るフルアルバムは今年のダークホース的な存在になるかもしれないし、ツアーファイナルがO-EASTなのも決して攻め過ぎではない。それくらいのポテンシャルを持ったバンドなのである。
リハ1.触らぬキミに祟りなし
リハ2.大嫌いなラブソング
1.猫かぶる
2.赤いリンゴ
3.寝グセ
4.オオカミ少年
5.命短し恋せよ乙女
命短し恋せよ乙女
https://youtu.be/4NLUHglR12o
19:00~ climbgrow [Zirco Tokyo]
LOFTから最も離れた、新宿ゴールデン街の側のビルの地下にあるZirco Tokyo。まず中に入ると、今回使われている会場の中ではダントツでキレイな内装に驚くが、そんなキレイな会場に似つかわしくない爆音がステージに張られた暗幕の向こう側から聴こえてくる。
その音を鳴らしているのは、滋賀からやってきた若手ロックンロールバンド、climbgrowである。
革ジャンを着たメンバーの出で立ちからしてロックンロールバンド以外の何者でもないが、1曲目の「ラスガノ」からスタートすると、ボーカル杉野の、完全にロックンロールバンドで歌うために生まれてきたんじゃないのか、と思うくらいのダミ声にまずぶっ飛ばされ、さらに疾走するしかないようなリズム隊と、会場を切り裂くように爆音で鳴らされるギターのサウンドにもぶっ飛ばされる。引き合いに出すのは失礼とわかった上で言うが、まるでミッシェル・ガン・エレファントを初めて見た時のようだ。
「タラタラやるのは嫌いだ。最高の夜にするぞ、エブリバディ!」
と語り方すらもロックンロールに浸されている杉野は髭が生えていることで貫禄があるが、少し笑った表情と、他のメンバーの顔立ちは幼さすら感じるくらいに若い。こんなにも若い男たち、しかもロックンロールをやるために生まれたような男たちがロックンロールに出会って、ちゃんとロックンロールをやることを選び取ったのが本当に嬉しいし、頼もしいことこの上ない。
現状では最大のキラーチューンと言えるのがロマンチックさも感じさせる「極彩色の夜に」だが、これからこのバンドがライブや様々な経験を重ねてどんな曲を生み出していくのか。ひたすらに濃いほうへ向かっていくのか、ポップさも内包した曲も出てくるのか。
杉野が客席に突入して、リーディングボーカル的に言葉を吐き出しまくる「風夜更け」は他の曲とは全く違うタイプな曲だけに引き出しも多そうだが、
「ただ滋賀から出てきたんじゃない。革命を起こしに来たんだ!」
と言って、そのまま客席の後ろの出口から去っていく様はあまりにもカッコ良すぎた。ビレッジマンズストアとはまた違う、新しいロックンロールの光がここに。本当に楽しみなバンドが出てきてくれた。
1.ラスガノ
2.SCARLET
3.FENCE
4.mold Hi
5.極彩色の夜へ
6.風夜更け
極彩色の夜へ
https://youtu.be/HeJVmeMErcU
20:00~ 空きっ腹に酒 [ACB]
かなり早い時間からステージにメンバー全員が揃い、曲を演奏していると、まだまだ始まるまで時間があるということでセッション的な演奏に突入。ユキテルのフリースタイルラップが冴え渡り、
「見放題!」「東京!」
のコール&レスポンスを起こした4人組、空きっ腹に酒、時間を少し巻いての開演である。
1曲目の「BOOOOM」からユキテルのマシンガンのようなラップが炸裂し、西田のカッティングギターも、シンディといのまたの高速なのに狂いもなくグルーヴしまくるリズム隊も、この段階で只者ではないこと、というかバンド名からくるイメージよりはるかにメンバー全員がバカテクを有した音楽集団であることがすぐにわかる。
音源で聴くよりもヒップホップ、ファンクの要素が強いが、基本的に曲のテンポがめちゃくちゃ速いだけに、日頃からこのバンドのライブを見にきているであろう人たちの大合唱が起きた「御乱心」などはそうしたブラックミュージックだけでなく、パンクの要素も強く感じる。
「乾燥してると喉がやられるから、もっと熱くしてもっとウェットにしてくれないと!」
と煽ったユキテルが観客が飲みまくって5つくらい重なったプラカップを
「こんなんこぼされたらたまったもんじゃない!っていうかどこの海賊みたいな飲み方してんねん!」
と関西人らしく鋭くツッコミ、
「俺たち、メンバーで新しいレーベル作って。そこから今月の16日にライブ会場限定でシングル出すんやけど、ツアーが始まったらグッズも一新するらしいから、今のグッズは今日在庫一掃処分セールをしてます」
と新曲と物販のセールを紹介するのだが、メンバーに「在庫一掃処分」という言い方はどうなんだ、とツッコまれてしまい、いのまたによる「クリアランスセール」に落ち着くも、
「トップブリーダーっていう単語くらい意味わからへん(笑)」
ということで、「トップブリーダーセール」など、もはや収拾不能の意味不明な展開になってきたところで、会場限定シングル収録の「血が走るのがわかった」を披露。マシンガンラップというよりも歌モノ、グルーヴというよりもポップ、という(シンセの打ち込みサウンドも含めて)あたりは新レーベル立ち上げだからこその新境地を見せるが、次に演奏されたもう1曲の新曲は、これまでのこのバンドのスタイルを踏襲した、マシンガンラップで攻めまくる曲。
「昨日前乗りして東京に来てMV撮影して、今日ライブやって。最後にせっかくの東京だから、東京の人に歌ってもらいたいなと思って」
と言うと、THEラブ人間の金田康平が登場。金田を横にしてユキテルが
「乗り方がわからない新曲でも乗ろうとして楽しもうとするお前ら めちゃかっこよかったで」
と再びフリースタイルラップをするのだが、金田が
「さっきまでフリースタイルダンジョンの動画を見てたんだけど、般若も下手だね。君の方がすごいフリースタイルやってるよ(笑)」
と最大限にまで引き上げたハードルをユキテルは見事に飛び越えてみせた。
そしてラストに金田とのセッションで披露されたのは「夜のベイビー」。東京ではよくやっているそうだが、
「でもこういうのいいでしょ?幸せでしょ?だからラブ人間もずっと続いていくし、飽きるまでずっとやり続けるわ!」
ということで、このコラボはこれからもやり続けていくそう。
このバンドは完全にCDよりもライブで力を発揮するタイプのバンドだと思われるが、自主レーベルを立ち上げたことにより、これからはそのイメージを覆すような作品が生まれてくるだろうか。というか、それこそがこの状況を突破するための最大の要素になると思うのだが。
御乱心
https://youtu.be/aL2Lv1caRjo
20:45~ QOOLAND [MARZ]
今回のMARZのトリはQOOLAND。今回、このバンドが1時間という100組の中で最長の持ち時間をもらっているのは、このバンドが4月で解散することを発表しているからである。
サウンドチェックの段階で4人がステージに揃い、「都民」を演奏する様子からは特別な感じは全くない、今までと同じQOOLANDだが、
「あと3分くらい時間があるらしい…。なんかやってほしい曲ある?」
と観客に問いかけると、客席から「志士雄!」という声が上がり、「わかった!」とすぐさま対応して、「るろうに剣心」をテーマにした「志士雄」を演奏。常にどんな曲でもすぐにライブで演奏できる状態になっている。ライブが日常であるこのバンドだからこそである。
しかしながら「志士雄」演奏中に本番まであと5秒となってしまい、急遽演奏を止めてそのまま本番へ。
「4月で解散します!6年間でライブ500本くはいやりました!今日はその真髄を見せます!」
と平井(ボーカル&ギター)がこれまで見たどのライブよりも感情を込めて挨拶すると、いきなり
「笑って!」
の大合唱が起きた「ドグラマグラ」からスタート。平井と川崎(ギター)のツインタッピングは解散目前にしても冴えている、というかさらに凄みを増している。それを1番感じるのはむしろぶっ叩きまくっているのに正確性は全く損なわれないタカギのドラムからかもしれない。
ダンサブルな「Shining Sherry」から詩的な「白夜行」、平井が感情を剥き出しにして歌う様に菅(ベース)が驚きの表情を見せた「ブギーサウンド」と、平井の言葉通りにこのバンドの真髄にして集大成というような内容に。
こうして60分の時間をもらえたことを主催者に、会場を埋め尽くすくらいにたくさんの人が来てくれたことを観客に感謝すると、ビートルズの「リボルバー」や「HUSKING BEE」などメンバーたちが聴いてきた音楽たちが歌詞に刻まれた「部屋とアイドル」へ。
メンバーと観客がサビ前に振り付けを踊る、という最初にライブを見た時にはなかなかに衝撃的な光景だった(そういうことをするバンドだと思わなかっただけに)が、今ではすっかり楽しみな光景になっている「熊とフナムシ」とやはりキラーチューンが並んだが、曲間には観客から
「これからもずっとQOOLAND聴くからなー!」
「お前たちが歩いてきた道は間違いじゃないだろう!」
というバンドへの温かい歓声も飛び、普段はマイクを使って発言することをあまりしない川崎も
「本当にありがとう」
ととっさにしみじみとしながら言葉にするが、その感情を曲にしたかのような「今日まで有難う」はこうした瞬間が来ることを予期していたかのように響く。
「今日は民やん(主催者)特別扱いしてもらってるし、特別なんだけど、それは今日だけじゃないっていうか、昨日はライブなかったけど、昨日がライブだったら昨日も特別だっただろうし、明日も特別だろうし…」
と菅が言葉にしにくい絡み合った感情を解こうとするも結局は上手く解くことができない中、徐々に近年の曲に向かっていくというセトリの組み方だったため、最新曲である「現実と非現実」を終えたところでタカギがイヤモニを外したので、これで終わりかと思いきや、
「めちゃくちゃ速い曲を最後にやります。本当にありがとうございました、QOOLANDでした!」
と平井が挨拶して演奏されたのは「勝つまでが戦争」。自分がこのバンドに出会ったのは、この曲を引っさげてこのバンドがRO JACKで優勝して、ROCK IN JAPAN FES.に出演した時だった。それからの何度となく見てきたライブ、それこそワンマンではタカギのスティックをゲットしたりもした、そうしたこれまでのこのバンドにまつわる思い出たちが一気にフラッシュバックして切ない気持ちになってしまった。最近はなかなかライブを見に行けていなかったけれども、やはりこうした大事な時間を過ごして、曲が頭の中に染み付いているようなバンドがいなくなってしまうのは寂しい。でもこの日の観客が叫んでいたように、いなくなっても自分はきっとQOOLANDの曲を聴くだろう。そうすれば、この4人がQOOLANDとして生きていたことをいつでも思い出すことができる。
こうしたサーキットイベントだとトリでもアンコールがないという場合もあるが、今回は最後だし、しっかりアンコールにも登場。今回で4年くらいずっと出させてもらってきた見放題というイベントへの感謝を告げながら、
「今日で俺らを見れるのが最後だっていう人もいっぱいおるはず。…本当に、ありがとうございました!」
とかなり遅い時間になったにもかかわらずずっと満員だった客席に改めて感謝を告げてから演奏されたのは、バンド初期の名曲「ゆとり教育概論」。途中、平井が歌えなくなったのは感極まっていたからなのだろうか。それは本人にしかわからないが、その姿を見た川崎はいつものように優しそうな笑みを浮かべ、菅とタカギは顔を見合わせながら笑いあっていた。
その姿とこの日の今までと同じか、それ以上に噛み合った演奏を見ていると、このバンドがいなくなるのはメンバーの関係性の悪さではないと確信できる。あからさまにそうした関係性の悪さが見えながら終わっていくバンドも多いが、QOOLANDは最後まで本当にピースフルな空気で会場を満たしていた。寂しいし悲しいけど、それが最も大きな救いだった。
QOOLANDはライブを見るとツインタッピングを生かした演奏技術の高さに驚かされるし、メロディが良くて、何よりもメンバーのこれまでの人生において様々な影響を与えてきた音楽や漫画などのカルチャーを落とし込んだ歌詞が本当に面白かった。だからライブを見るのも歌詞カードを見ながらCDを聴くのも面白かった。つまりは本当に良いバンドだった。そこまで有名な存在ではなかったであろうだけに、出会えて良かったと心から思っているし、これからも聴き続ける。今日まで有難う!
リハ1.都民
リハ2.志士雄
1.ドグラマグラ
2.Shining Sherry
3.白夜行
4.ブギーサウンド
5.部屋とアイドル
6.隣人
7.熊とフナムシ
8.今日まで有難う
9.あしたを面白く
10.現実と非現実
11.勝つまでが戦争
encore
12.ゆとり教育概論
今日まで有難う
https://youtu.be/OuA_34qAaXo
今、世界的にロックバンドが元気がないと言われているし、アメリカではもはやロックよりもヒップホップの方が売れているという。それだけにこんなにロックバンドが元気なのは日本だけらしいが、こうして地下のライブハウスにいるバンドたちがこんなにカッコいいバンドばかりなのだから、それも当たり前なのである。
ライブを見たことのないバンドをたくさん見れるのも、いろんなライブハウスでライブを見れるのも実に楽しい。
出ているアーティスト全てを把握し切るのは不可能かもしれないけれど、少しでも多くのアーティストを聴いてライブを見たい。ずっとそう思えているような人生でありたい。
Next→ 3/4 菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet) × 内澤崇仁(androp) @club ex
今年は
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ACB
HOLIDAY
RUIDO K4
Zirco Tokyo
という計10会場を使った大規模なものに。それでもチケットはソールドアウトと、確実に音楽ファンの間で注目を集めるイベントになっている。
基本的に新宿近辺はキャパ500くらいのLOFTが最大規模という小規模な、ザ・ライブハウスだけなので、混雑緩和を避けるために前日の段階でリストバンドの事前交換を行ったりしており、そうした対策の成果があって、当日のLOFT BARスペースでのリストバンド引き換えも開演より40分以上早めに行ったら実にスムーズに行えた。この辺りは何年も続けてきたことによる反省と改善の結果である。
12:00~ Yap!! [LOFT]
今回のイベントのトップバッター、しかもLOFTに登場するのは、5月のVIVA LA ROCKでthe telephonesの再始動も発表された、石毛輝のYap!!。telephonesの初期から、あまり新宿のライブハウスに出ているイメージはないが。
会場が新宿でスタート時間が時間というのもあってか、予想したよりも会場はゆったりとしている中、客席が暗転すると、ダンスロックサウンドに導かれてメンバー3人がステージに登場。これまでと変わらず、中央に石毛輝、向かって右側にドラムの柿沼、左側にベースの汐碇というスリーピースバンドとしてはやや変則的な立ち位置。
「LOFTー!」
と叫んだ石毛輝が身振り手振りをしながら歌う「Too Young for Love」でスタートすると、石毛のギター、柿沼のドラム、汐碇のベースに加えて打ち込みのシンセのサウンドまでもがユニゾンするイントロの新曲。石毛も何度も
「新宿ー!」「見放題ー!」
と叫んだからか、開始時はおとなしかったフロアはこの新曲のあたりでダンスフロアに変貌していく。まだ音源化していない曲でこんなにも踊らせられるというあたりに石毛輝の楽曲の力強さを改めて感じる。
ポップな「Kick the Door」からバラードと言ってもいいくらいに歌い上げる「If I'm a Hero」と続くのだが、ギターロックから徐々にアンビエントなポップになっていったlovefilmの経験あってこそのこの曲が本当に素晴らしく、ダンスサウンドで踊りまくるのも楽しいが、それ以上にやはり石毛の最大の持ち味はメロディなのだと感じさせてくれる。
「Yap!!でLOFTに出るのは初めてです。見放題、呼んでくれてありがとう!朝イチから見に来てくれてありがとう!長丁場だと思うけど、休憩しながら楽しんでね」
と観客への感謝と気遣いを言葉にしてから、柿沼のドラムが力強さを、汐碇のベースがグルーヴをさらに増す新曲でこれからのこのバンドの可能性をさらに強く感じさせるように踊らせまくると、ラストはタイトル通りに熱狂のダンスフロアと化した「Dancing in the Midnight」で、改めて石毛輝はギターがめちゃくちゃ上手いなぁと踊りまくりながら感心してしまった。まだ結成して半年ちょっととはいえ、すでに長い時間のライブも見ているだけに、本当にあっという間だった。
Yap!!はサウンド的にはthe telephonesと近いことをやっているが、やはりtelephonesとは違う。それはもちろんメンバーが違うから。やろうと思えばいくらでもソロでできるくらいの技術や方法論を持っていても石毛輝はソロのライブ時もバンド編成だったし、バンドであること、そのメンバーでバンドをやることに強いこだわりを持っている。
だからこそ、仮にVIVA LA ROCK以降にtelephonesが継続的に活動していくとしても、Yap!!もlovefilmもこうしてライブを見ていたいし、活動を続けてもらいたい。どれも違った素晴らしさがあるバンドだから。
1.Too Young for Love
2.新曲
3.Kick the Door
4.If I'm a Hero
5.新曲
6.Dancing in the Midnight
If I'm a Hero
https://youtu.be/bDM5lSNe_hw
13:00~ ビレッジマンズストア [HOLIDAY]
HOLIDAYは開演前から人が押し寄せ、早くも入場規制のアナウンスがかかる。そんな中で暗幕のかかったステージにすでにスタンバイしているであろうメンバーのうち、水野ギイが
「おい!ぶっ殺せ!」
と言うとリハで「ビレッジマンズ」を演奏し、メンバーの姿が見えないにもかかわらず熱狂を生み出す。しかし水野は、
「入場規制なんてちっとも嬉しくない!お前らの好きなバンドを1人でも多くの人に見てもらいたいだろ!だからちょっとずつ奥に詰めてくれ!」
と熱さを持ちながらも冷静に対処し、ギリギリまで多くの人を客席に招き入れる。
「マイ・シャローナ」のSEで赤いスーツを纏ったメンバーが登場するが、昨年このバンドはギターが1人離脱したため、この日上手のギターを務めるのは、Droogの荒金祐太郎。見た目的には全く違和感がない。
おなじみの1人派手な出で立ちの水野がいつもよりもさらに大きく見えるのは借りたお立ち台がいつもより高いからだそうだが、高いがゆえにお立ち台に立ったり降りたりするのが踏み台昇降のごとき運動量になってしまい、いつも以上に足腰に負担がきているとのこと。
しかしながら定番曲の「夢の中ではない」からスタートしたとはいえ、超満員の観客は完全にこのバンドの曲を知っていて、このバンドのライブを見にこの場所にきている。こうした複数ステージのフェスであると「よく知らないけどちょっと見てみようかな」的なスタンスの人もいるが、この熱気からは全くそんな人がいるような気がしない。
しゃがれた声を響かせる水野が、
「HOLIDAY、初めてステージに立ちましたが、さすがV系バンドの聖地だ(笑)
でもみんな、実に来づらい立地だろう?(笑)
俺は来た時に入り口がわからなくて、普通にみんなと同じ入り口から入ってきたら、FABLED NUMBERを待ってる人たちがずっと下を向いているくらいにみんなこの歌舞伎町に馴染んでいないぞ(笑)
そんな中、頑張って来てくれたんだろ!?俺たちが今回の見放題のヘッドライナー、ビレッジマンズストアだ!」
とすでに暑い会場をさらに熱くさせると、最新シングルタイトル曲「トラップ」でさらに開かれたところへバンドが打って出て行かんとする意志を示すと、「MIZU-BUKKAKE-LONE」では客席の真ん中に通路を開けさせると、岩原洋平と荒金のギター2人がステージから飛び降りて客席のど真ん中でギターを弾きまくるというおなじみのパフォーマンスを見せ、さらに「逃げてくあの娘にゃ聴こえない」では観客を前に集めてギター2人が観客に支えられながらギターを弾きまくる。
この見放題を帰ってくる場所にしたいこと、次はLOFTに出たいこと、そして水野が根のネガティヴさを感じさせながらのさらに熱い言葉でファンと今後も歩いていくことを宣言すると、ラストは真っ赤なスーツの濃い男たちが少し寄り添ったような姿を見せてくれた「PINK」。金髪に赤いスーツという、ある意味ではこの歌舞伎町に最もよく似合う出で立ちのドラムの坂野がもはやシャウトと言っていいようなコーラスを務めながら、水野は観客と他のメンバーに歌を任せ、
「今日の見放題はこれにて終了、俺たちが今日の主役、ビレッジマンズストアでした!」
とまだ2組目にもかかわらず、この日の全てをかっさらっていった。
この熱気はこの日だけのものではないし、それを生み出すに至り、「中途半端に参加できない」と言って加納が離脱した今のこのバンドは、明らかに去年からギアの入り具合が変わった。メンバーみんながこのバンドで生きていこうとしている。この真っ赤なロックンロールの炎がメインストリームに燃え広がる日は近い。
リハ.ビレッジマンズ
1.夢の中ではない
2.トラップ
3.MIZU-BUKKAKE-LONE
4.帰れないふたり
5.逃げてくあの娘にゃ聴こえない
6.PINK
トラップ
https://youtu.be/4DvqBXVIEPA
14:00~ おいしくるメロンパン [LOFT]
すでにROCK IN JAPAN FES.などの大型フェスにも出演している、期待のルーキー、おいしくるメロンパン。その期待に違わず、開演前からLOFTは入場規制がかかるほどの超満員っぷり。
かなり長めにメンバーがサウンドチェックをすると、いったん掃けてすぐに再登場。スリーピースならではの削ぎ落とされた、実にシンプルな「Look at the sea」からスタートするのだが、ベースの峯岸がやたらと身振り手振りをしながら物理的に動きまくってベースを弾くなど、CDを聴いてるぶんには歌詞もナカシマの歌唱も繊細そのものというイメージを感じさせたが、そのイメージはこうして初めてライブを見てみると少し変わる。
だが序盤はナカシマのマイクがやたらとハウリ気味で、現時点ではバンドにおけるキラーチューンである「色水」においてもその楽曲の力をフルに発揮したとは言い難い結果になってしまった。
実に緩いMCもまぁ見た目のイメージ通りではあるが、全く盛り上がるようなタイプのバンドではないとはいえ、その中でもより聴き入らせるようなタイプの新曲は壮大なイメージを想起させ、
峯岸「サーキットイベントって楽しいですよね。さっき僕もライブ見てたんですよ。そしたら前にいた女の子二人組が、
「このあとおいしくるメロンパン行くでしょ?ナカシマさん可愛いよね~。原さんも可愛いよね~。峯岸さんはすぐどっかぶっ飛んでいくよね(笑)」
って話してて。…前向けなかったです(笑)」
とMCではやはり脱力させる。この雰囲気ではMCは全く上手くならなそうなバンドになる予感がする。
しかしながら「あの秋とスクールデイズ」では一気に繊細なイメージを消し去る力強いバンドサウンドを奏で、ラストの「シュガーサーフ」ではさらに加速。
これだけプッシュされるような存在なのは伊達じゃないが、ライブはまだまだいけるような気もしている。というか、まだまだ完成されていない感すらある。そこまで行ったらどんなバンドになるのだろうか。
1.Look at the sea
2.色水
3.泡と魔女
4.新曲
5.あの秋とスクールデイズ
6.シュガーサーフ
色水
https://youtu.be/RXKsBPv9BMk
15:00~ THURSDAY'S YOUTH [MARZ]
昨年、Suck a Stew Dryから、ギターのみならずメンバーの中で最も喋りが上手い男であったフセタツアキが脱退。残った4人はSuck a Stew Dryとしての活動を休止し、体制も新たになるとともにバンド名もTHURSDAY'S YOUTHとして活動していくことを発表。
リハからガンガン曲を演奏していくが、やはり暗い。完全に振り切ったような、「自分たちの内面から出てくるものはやっぱりこういうものでしかなかったです」というくらいの暗さ。
しかしながら全てがダークな方向に向かっていくというか、聴いていてネガティヴな気持ちになるかというとそんなことはない。それはいくら歌詞が暗くなっても、篠山浩生の描くメロディがポップさを失っていないからである。
「奇跡が起きるのなら 普通の生活を」
と、自らが普通の生活すらも送れない人間であることを認めた上で生きている人間としての「奇跡」、フェスで人気を博しているバンドへの皮肉や毒を含んだように感じるような新曲と、どの曲もこのバンドでしか歌えない、鳴らせないような必然性に基づいて生まれてきている。
レゲエのようなレイドバックしたサウンドというのはかつてはなかったものであり、このあたりはメンバーの音楽性の幅広さと演奏の確かな実力を見せてくれる。
「暗闇に光を当てるのではなく、暗闇を暗闇のままに歌いたい」
という篠山の言葉はなぜSuck a Stew DryがTHURSDAY'S YOUTHにならなければならなかったのかを如実に物語っているが、
「気楽に気ままにこのまま死んでいこうぜ」
という諦念にも似た感情をこのバンドの中で最もポップなギターロックサウンドに乗せて歌われる「キラク」から、シューゲイザーバンドかのような轟音ギターサウンドに会場が包まれた「Drowsy」という流れは、サウンドのスタイルは多岐に渡れど、このバンドが歌いたいこと、表現したいことはブレないということを物語っていた。
まだこのバンド名になってからの活動期間は短いとはいえ、リード曲というか、代表曲的な曲を並べた、いわゆるフェス的なセトリを組んで初見の人を掴む、ということもやろうと思えばできるバンドだ。いや、Suck a Stew Dryの時は確かにそうしたフェスの戦い方をしていた。でももはやそんなことは考えなくていい。ただひたすらに今の、この日のバンドとしての最新形を見せる。それが今自分たちがやることである。短い時間の中からもそうした意志を感じたし、暗くなったとはいえ、それは本来の自分たちを取り戻したかのように演奏するメンバーの姿は生き生きとしていた。
リハ1.かくれんぼ
リハ2.燃やせるゴミ
リハ3.天国が見えたら
1.奇跡
2.新曲
3.雨、雨、雨
4.キラク
5.Drowsy
Drowsy
https://youtu.be/14P6bss6jLk
16:00~ DENIMS [HOLIDAY]
アーティスト写真がポップなメンバーのイラストというのを見ると「どんなバンドなんだ?」と思わずにはいられない4人組バンド、DENIMS。もともとはAWAYOKUBAというバンドで活動していたメンバーによるバンドである。
全くデニム感のない出で立ちでメンバー4人が登場すると、ブラックミュージックの影響も感じさせる、リズムというよりグルーヴで踊らせるような「わかってるでしょ」から、このバンド独特の緩いようでいて、演奏は全く緩くはないという空気が醸成されていく。髪の色が青色なのが目立つギタリストのおかゆは早くもステージから降りてギターを弾きまくる。
アイリッシュパンクやヒップホップなど、1曲の中で様々な音楽性を取り入れる幅の広さは、すでにフジロックに出演しているのも不思議ではないくらいに、フジロックなどの自然が溢れる中でライブを見るのが実に似合いそう。
どことなく石毛輝が短髪になったようなイメージを感じるようなボーカル・かまちゅーが
「自由に楽しんでいきましょう」
と言うと、おかゆが
「いやいや!今日はフェスですから!ゆるく楽しんでいきましょうとか言わないですよ!盛り上がっていきましょう!行けるかー!」
と煽るように返すも、
「次にやるのは「ゆるりゆらり」っていう曲なんですけど(笑)」
と、この日最も聴き入るタイプの曲であり、煽りはネタに終わる。
しかし後半はかまちゅの言葉通りにさらなる盛り上がりを見せるように合唱や、メンバーがステップを踏みながら演奏したりという、たくさんの人が見に来ているからこそより楽しくなれるパフォーマンスを展開し、大阪では何回も出演してきたこのイベントの東京でも満員という確かな手応えと余韻を残した。
いわゆる「オシャレなバンド」が数多くシーンに登場してきており、このバンドもサラッと聴くとそうしたイメージを抱きがちだが、そういうバンドとは違い、オシャレでも緩くもないライブを見せられるバンドである。
ゆるりゆらり
https://youtu.be/j4AmZiW9M90
17:00~ パノラマパナマタウン [HOLIDAY]
THE ORAL CIGARETTESやフレデリックを輩出したオーディションで優勝してデビューし、すでに様々な大型フェスにも出演している、神戸の4人組バンド、パノラマパナマタウン。それだけにHOLIDAYのキャパは開演前から超満員。
メンバーが気合いを思いっきり見せながら登場すると、派手なジャージに身を包んだ岩渕(ボーカル)がハンドマイク片手に言葉を放出しまくる、自己紹介的な「パノラマパナマタウンのテーマ」からスタートし、早くも
「P!P!T!」
の巨大なコール&レスポンスを発生させると、デビュー当時はライブの最後に演奏するキラーチューン的なポジションであった「世界最後になる歌は」で岩渕が超満員なのを物ともせずに客席に突入して歌い、
「俺たち、今日出演してる100組の中で1番を取るつもりで来ました!そう言うと、「先輩は?」とか言われるんだけど、上も下も、タイムテーブルの横も縦も関係なしに、俺たちが1番取ってやるって言ってんだよ!」
とこのライブへの気合いを爆発させてからステージに戻る。
「リバティーリバティー」も含めて岩渕がハンドマイクで歌う曲は言葉数が非常に多い、ヒップホップの影響を感じるような曲が多いのだが、そうした曲でこそバンドのグルーヴは最大限に高まっていき、メンバーで最も涼しい顔をしながらギターソロを弾き倒していた浪越はいつの間にか上半身裸になっていた。
岩渕がギターを弾きながら歌う「ラプチャー」から、歌詞をこの日だからこそのものに変え、グルーヴがさらに高まっていく「MOMO」でも岩渕が客席に飛び込むようにして歌うと、
「声が枯れることよりも、台本通りのライブになってしまうのが1番怖いんだよ!
23年生きてきて、周りの人に流されそうになったり、インターネットの声に惑わされるようになったこともあったけど、この曲ができてからそんなもんは全部どうでもよくなりました!」
とこれからのさらなる決意を口にしてから演奏されたのは今年リリースの最新作「PANORAMADDICTION」のリード曲である「フカンショウ」で曲中にあるコーラスポイントでは観客も一緒になって叫ぶという浸透力を見せると、
「30分じゃ足りないでしょ?ツアーでもっと長くやろうぜ」
と岩渕が言って、「フカンショウ」が終演SEとして流れる中、メンバーはステージを去っていった。
大規模フェスに出演し、アリーナクラスのバンドとも対バンしたことで獲得したライブの経験値と地力、メンバーの演奏とグルーヴ、そして岩渕のカリスマ性。もはやこのキャパで見れるようなレベルのバンドじゃないし、このクラスのバンドの中では別格と言っていいくらいのライブの凄さ。ベストアクトクラスなのは間違いないだけに、岩渕が言ったように30分では全然足りないだけにツアーも行こうかな。
1.パノラマパナマタウンのテーマ
2.世界最後になる歌は
3.リバティーリバティー
4.ラプチャー
5.MOMO
6.フカンショウ
フカンショウ
https://youtu.be/4qIcq6c3Igg
18:00~ MOSHIMO [RUIDO K4]
かつてはCHEESE CAKEという名前で活動していた、紅一点メンバーであるボーカルの岩淵紗貴を中心とした4人組バンド、MOSHIMO。COUNTDOWN JAPANなどにも出演を果たしており、注目度急上昇中の存在である。
ややサウンドチェックで時間が押したためか、そのまま掃けずにスタンバイしたメンバー全員が向かい合って音を鳴らすというセッション的な入りというのはやや意外ではあったが、これはメンバーの演奏がしっかりしているからこそできることである。
そのまま「猫かぶる」に突入していくのだが、ポップかつキュートな岩淵のボーカルでありながらも、歌詞は実にシニカルというか、好きな男子が夢中になっている友達の女子に毒を吐くという一筋縄ではいかないひねくれっぷりがある。
ダンサブルな「赤いリンゴ」と続くが、CDで聴いているだけでも上手いとわかるメンバーの演奏が、ライブで見るとさらに上手いだけではなく、ポップかつキャッチーなこのバンドのサウンドに重さとカッコ良さを与えている。特にドラムの本多は正確なリズムを刻みながらも実に力強い。長身ベースの宮原はハイトーンなコーラスも務め、一瀬はポップなメロディの裏で難解なフレーズのギターを奏でている、とメンバーの役割やバランスも実に良い。
「ずっと大切にしている曲」
と紹介された「寝グセ」は岩淵がアコギを弾きながら歌う、CHEESE CAKE名義だった頃からある曲。こうした短い時間のライブでも演奏するというのが、この曲を本当に大切にしているのがわかるし、MOSHIMOになってからの曲に比べると実に素朴な感触の曲である。
今月、ついにリリースされる初のフルアルバム「圧倒的少女漫画ストーリー」の告知を岩淵がするのだが、岩淵は普段から休みの日は漫画喫茶に行って少女漫画を読みまくっているらしく、あまりに熱量がこもりまくった少女漫画への愛を語り倒し、超満員の客席も少し苦笑い。
そのアルバムに収録される新曲はやらなかったが、ラストの「命短し恋せよ乙女」では客席の中から、今恋をしている女性3人の名前を聞き、
「命短し恋せよ○○!」(○○の部分はその観客の名前)
と恋をしている観客を応援するべく、会場にいる全員で大合唱するも、岩淵が3人目の名前を失念するという失態をやらかしてやり直しになるという微笑ましい展開に。
そうして少女を応援してライブを終えたが、メンバーの演奏が本当に上手かったし、それをちゃんとポップにするための力を持っているボーカリストがいる。今月出るフルアルバムは今年のダークホース的な存在になるかもしれないし、ツアーファイナルがO-EASTなのも決して攻め過ぎではない。それくらいのポテンシャルを持ったバンドなのである。
リハ1.触らぬキミに祟りなし
リハ2.大嫌いなラブソング
1.猫かぶる
2.赤いリンゴ
3.寝グセ
4.オオカミ少年
5.命短し恋せよ乙女
命短し恋せよ乙女
https://youtu.be/4NLUHglR12o
19:00~ climbgrow [Zirco Tokyo]
LOFTから最も離れた、新宿ゴールデン街の側のビルの地下にあるZirco Tokyo。まず中に入ると、今回使われている会場の中ではダントツでキレイな内装に驚くが、そんなキレイな会場に似つかわしくない爆音がステージに張られた暗幕の向こう側から聴こえてくる。
その音を鳴らしているのは、滋賀からやってきた若手ロックンロールバンド、climbgrowである。
革ジャンを着たメンバーの出で立ちからしてロックンロールバンド以外の何者でもないが、1曲目の「ラスガノ」からスタートすると、ボーカル杉野の、完全にロックンロールバンドで歌うために生まれてきたんじゃないのか、と思うくらいのダミ声にまずぶっ飛ばされ、さらに疾走するしかないようなリズム隊と、会場を切り裂くように爆音で鳴らされるギターのサウンドにもぶっ飛ばされる。引き合いに出すのは失礼とわかった上で言うが、まるでミッシェル・ガン・エレファントを初めて見た時のようだ。
「タラタラやるのは嫌いだ。最高の夜にするぞ、エブリバディ!」
と語り方すらもロックンロールに浸されている杉野は髭が生えていることで貫禄があるが、少し笑った表情と、他のメンバーの顔立ちは幼さすら感じるくらいに若い。こんなにも若い男たち、しかもロックンロールをやるために生まれたような男たちがロックンロールに出会って、ちゃんとロックンロールをやることを選び取ったのが本当に嬉しいし、頼もしいことこの上ない。
現状では最大のキラーチューンと言えるのがロマンチックさも感じさせる「極彩色の夜に」だが、これからこのバンドがライブや様々な経験を重ねてどんな曲を生み出していくのか。ひたすらに濃いほうへ向かっていくのか、ポップさも内包した曲も出てくるのか。
杉野が客席に突入して、リーディングボーカル的に言葉を吐き出しまくる「風夜更け」は他の曲とは全く違うタイプな曲だけに引き出しも多そうだが、
「ただ滋賀から出てきたんじゃない。革命を起こしに来たんだ!」
と言って、そのまま客席の後ろの出口から去っていく様はあまりにもカッコ良すぎた。ビレッジマンズストアとはまた違う、新しいロックンロールの光がここに。本当に楽しみなバンドが出てきてくれた。
1.ラスガノ
2.SCARLET
3.FENCE
4.mold Hi
5.極彩色の夜へ
6.風夜更け
極彩色の夜へ
https://youtu.be/HeJVmeMErcU
20:00~ 空きっ腹に酒 [ACB]
かなり早い時間からステージにメンバー全員が揃い、曲を演奏していると、まだまだ始まるまで時間があるということでセッション的な演奏に突入。ユキテルのフリースタイルラップが冴え渡り、
「見放題!」「東京!」
のコール&レスポンスを起こした4人組、空きっ腹に酒、時間を少し巻いての開演である。
1曲目の「BOOOOM」からユキテルのマシンガンのようなラップが炸裂し、西田のカッティングギターも、シンディといのまたの高速なのに狂いもなくグルーヴしまくるリズム隊も、この段階で只者ではないこと、というかバンド名からくるイメージよりはるかにメンバー全員がバカテクを有した音楽集団であることがすぐにわかる。
音源で聴くよりもヒップホップ、ファンクの要素が強いが、基本的に曲のテンポがめちゃくちゃ速いだけに、日頃からこのバンドのライブを見にきているであろう人たちの大合唱が起きた「御乱心」などはそうしたブラックミュージックだけでなく、パンクの要素も強く感じる。
「乾燥してると喉がやられるから、もっと熱くしてもっとウェットにしてくれないと!」
と煽ったユキテルが観客が飲みまくって5つくらい重なったプラカップを
「こんなんこぼされたらたまったもんじゃない!っていうかどこの海賊みたいな飲み方してんねん!」
と関西人らしく鋭くツッコミ、
「俺たち、メンバーで新しいレーベル作って。そこから今月の16日にライブ会場限定でシングル出すんやけど、ツアーが始まったらグッズも一新するらしいから、今のグッズは今日在庫一掃処分セールをしてます」
と新曲と物販のセールを紹介するのだが、メンバーに「在庫一掃処分」という言い方はどうなんだ、とツッコまれてしまい、いのまたによる「クリアランスセール」に落ち着くも、
「トップブリーダーっていう単語くらい意味わからへん(笑)」
ということで、「トップブリーダーセール」など、もはや収拾不能の意味不明な展開になってきたところで、会場限定シングル収録の「血が走るのがわかった」を披露。マシンガンラップというよりも歌モノ、グルーヴというよりもポップ、という(シンセの打ち込みサウンドも含めて)あたりは新レーベル立ち上げだからこその新境地を見せるが、次に演奏されたもう1曲の新曲は、これまでのこのバンドのスタイルを踏襲した、マシンガンラップで攻めまくる曲。
「昨日前乗りして東京に来てMV撮影して、今日ライブやって。最後にせっかくの東京だから、東京の人に歌ってもらいたいなと思って」
と言うと、THEラブ人間の金田康平が登場。金田を横にしてユキテルが
「乗り方がわからない新曲でも乗ろうとして楽しもうとするお前ら めちゃかっこよかったで」
と再びフリースタイルラップをするのだが、金田が
「さっきまでフリースタイルダンジョンの動画を見てたんだけど、般若も下手だね。君の方がすごいフリースタイルやってるよ(笑)」
と最大限にまで引き上げたハードルをユキテルは見事に飛び越えてみせた。
そしてラストに金田とのセッションで披露されたのは「夜のベイビー」。東京ではよくやっているそうだが、
「でもこういうのいいでしょ?幸せでしょ?だからラブ人間もずっと続いていくし、飽きるまでずっとやり続けるわ!」
ということで、このコラボはこれからもやり続けていくそう。
このバンドは完全にCDよりもライブで力を発揮するタイプのバンドだと思われるが、自主レーベルを立ち上げたことにより、これからはそのイメージを覆すような作品が生まれてくるだろうか。というか、それこそがこの状況を突破するための最大の要素になると思うのだが。
御乱心
https://youtu.be/aL2Lv1caRjo
20:45~ QOOLAND [MARZ]
今回のMARZのトリはQOOLAND。今回、このバンドが1時間という100組の中で最長の持ち時間をもらっているのは、このバンドが4月で解散することを発表しているからである。
サウンドチェックの段階で4人がステージに揃い、「都民」を演奏する様子からは特別な感じは全くない、今までと同じQOOLANDだが、
「あと3分くらい時間があるらしい…。なんかやってほしい曲ある?」
と観客に問いかけると、客席から「志士雄!」という声が上がり、「わかった!」とすぐさま対応して、「るろうに剣心」をテーマにした「志士雄」を演奏。常にどんな曲でもすぐにライブで演奏できる状態になっている。ライブが日常であるこのバンドだからこそである。
しかしながら「志士雄」演奏中に本番まであと5秒となってしまい、急遽演奏を止めてそのまま本番へ。
「4月で解散します!6年間でライブ500本くはいやりました!今日はその真髄を見せます!」
と平井(ボーカル&ギター)がこれまで見たどのライブよりも感情を込めて挨拶すると、いきなり
「笑って!」
の大合唱が起きた「ドグラマグラ」からスタート。平井と川崎(ギター)のツインタッピングは解散目前にしても冴えている、というかさらに凄みを増している。それを1番感じるのはむしろぶっ叩きまくっているのに正確性は全く損なわれないタカギのドラムからかもしれない。
ダンサブルな「Shining Sherry」から詩的な「白夜行」、平井が感情を剥き出しにして歌う様に菅(ベース)が驚きの表情を見せた「ブギーサウンド」と、平井の言葉通りにこのバンドの真髄にして集大成というような内容に。
こうして60分の時間をもらえたことを主催者に、会場を埋め尽くすくらいにたくさんの人が来てくれたことを観客に感謝すると、ビートルズの「リボルバー」や「HUSKING BEE」などメンバーたちが聴いてきた音楽たちが歌詞に刻まれた「部屋とアイドル」へ。
メンバーと観客がサビ前に振り付けを踊る、という最初にライブを見た時にはなかなかに衝撃的な光景だった(そういうことをするバンドだと思わなかっただけに)が、今ではすっかり楽しみな光景になっている「熊とフナムシ」とやはりキラーチューンが並んだが、曲間には観客から
「これからもずっとQOOLAND聴くからなー!」
「お前たちが歩いてきた道は間違いじゃないだろう!」
というバンドへの温かい歓声も飛び、普段はマイクを使って発言することをあまりしない川崎も
「本当にありがとう」
ととっさにしみじみとしながら言葉にするが、その感情を曲にしたかのような「今日まで有難う」はこうした瞬間が来ることを予期していたかのように響く。
「今日は民やん(主催者)特別扱いしてもらってるし、特別なんだけど、それは今日だけじゃないっていうか、昨日はライブなかったけど、昨日がライブだったら昨日も特別だっただろうし、明日も特別だろうし…」
と菅が言葉にしにくい絡み合った感情を解こうとするも結局は上手く解くことができない中、徐々に近年の曲に向かっていくというセトリの組み方だったため、最新曲である「現実と非現実」を終えたところでタカギがイヤモニを外したので、これで終わりかと思いきや、
「めちゃくちゃ速い曲を最後にやります。本当にありがとうございました、QOOLANDでした!」
と平井が挨拶して演奏されたのは「勝つまでが戦争」。自分がこのバンドに出会ったのは、この曲を引っさげてこのバンドがRO JACKで優勝して、ROCK IN JAPAN FES.に出演した時だった。それからの何度となく見てきたライブ、それこそワンマンではタカギのスティックをゲットしたりもした、そうしたこれまでのこのバンドにまつわる思い出たちが一気にフラッシュバックして切ない気持ちになってしまった。最近はなかなかライブを見に行けていなかったけれども、やはりこうした大事な時間を過ごして、曲が頭の中に染み付いているようなバンドがいなくなってしまうのは寂しい。でもこの日の観客が叫んでいたように、いなくなっても自分はきっとQOOLANDの曲を聴くだろう。そうすれば、この4人がQOOLANDとして生きていたことをいつでも思い出すことができる。
こうしたサーキットイベントだとトリでもアンコールがないという場合もあるが、今回は最後だし、しっかりアンコールにも登場。今回で4年くらいずっと出させてもらってきた見放題というイベントへの感謝を告げながら、
「今日で俺らを見れるのが最後だっていう人もいっぱいおるはず。…本当に、ありがとうございました!」
とかなり遅い時間になったにもかかわらずずっと満員だった客席に改めて感謝を告げてから演奏されたのは、バンド初期の名曲「ゆとり教育概論」。途中、平井が歌えなくなったのは感極まっていたからなのだろうか。それは本人にしかわからないが、その姿を見た川崎はいつものように優しそうな笑みを浮かべ、菅とタカギは顔を見合わせながら笑いあっていた。
その姿とこの日の今までと同じか、それ以上に噛み合った演奏を見ていると、このバンドがいなくなるのはメンバーの関係性の悪さではないと確信できる。あからさまにそうした関係性の悪さが見えながら終わっていくバンドも多いが、QOOLANDは最後まで本当にピースフルな空気で会場を満たしていた。寂しいし悲しいけど、それが最も大きな救いだった。
QOOLANDはライブを見るとツインタッピングを生かした演奏技術の高さに驚かされるし、メロディが良くて、何よりもメンバーのこれまでの人生において様々な影響を与えてきた音楽や漫画などのカルチャーを落とし込んだ歌詞が本当に面白かった。だからライブを見るのも歌詞カードを見ながらCDを聴くのも面白かった。つまりは本当に良いバンドだった。そこまで有名な存在ではなかったであろうだけに、出会えて良かったと心から思っているし、これからも聴き続ける。今日まで有難う!
リハ1.都民
リハ2.志士雄
1.ドグラマグラ
2.Shining Sherry
3.白夜行
4.ブギーサウンド
5.部屋とアイドル
6.隣人
7.熊とフナムシ
8.今日まで有難う
9.あしたを面白く
10.現実と非現実
11.勝つまでが戦争
encore
12.ゆとり教育概論
今日まで有難う
https://youtu.be/OuA_34qAaXo
今、世界的にロックバンドが元気がないと言われているし、アメリカではもはやロックよりもヒップホップの方が売れているという。それだけにこんなにロックバンドが元気なのは日本だけらしいが、こうして地下のライブハウスにいるバンドたちがこんなにカッコいいバンドばかりなのだから、それも当たり前なのである。
ライブを見たことのないバンドをたくさん見れるのも、いろんなライブハウスでライブを見れるのも実に楽しい。
出ているアーティスト全てを把握し切るのは不可能かもしれないけれど、少しでも多くのアーティストを聴いてライブを見たい。ずっとそう思えているような人生でありたい。
Next→ 3/4 菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet) × 内澤崇仁(androp) @club ex

ぴあ presents STAND ALONE Vol.7 @品川プリンスホテル クラブeX 3/4 ホーム
uP!!!SPECIAL dabadabada vol.1 銀杏BOYZ / 大森靖子 @Zepp Tokyo 2/27