uP!!!SPECIAL dabadabada vol.1 銀杏BOYZ / 大森靖子 @Zepp Tokyo 2/27
- 2018/02/28
- 11:08
峯田和伸のNHKの朝ドラ出演で大きな話題を集め、シングル3枚連続リリース、その果ての初となる日本武道館ワンマン…。2017年は銀杏BOYZファンには忘れられない1年になったが、昔とは違い、銀杏BOYZは今年も精力的に活動していく。
それを示すのが、この日のuP!!!主催の対バンライブ。対バン相手の大森靖子はかねてから銀杏BOYZファンを公言、かつては銀杏BOYZのホームページのBBSに書き込みをしていたという、まさにファンを代表してステージに立つと言ってもいい。
・大森靖子
19時になり、場内が暗転すると、流れてきたSEはYUKIの「センチメンタルジャーニー」。ドラムのピエール中野を中心とした、大人数編成のバンドは間違いなく大森靖子のものだが、メンバーたちに続いてステージに現れたのは、なんとジャージ姿の銀杏BOYZ・峯田和伸。
「え?なんで?」
と思ってる間もなく放たれた、
「ワンツー!」
の絶叫。大森靖子のバンドなのに、明らかに普段の大森靖子での演奏とは違う、どしゃめしゃなサウンド。その上に暴れながら歌う峯田のボーカルが乗るのは…銀杏BOYZの「駆け抜けて性春」である。峯田は早くも客席にダイブを敢行すると、間奏ではピエール中野が立ち上がってスティックを思いっきり振るう。いつもとは違う類の気合いの漲りっぷり。彼もまた、大森靖子同様に銀杏BOYZが人生に多大なる影響を与えた人間なのである。
するとCメロ部分で
「星降る青い夜さ」
と峯田が歌う後に、いつの間にかステージの下から登場した、黒いドレスを着た大森靖子が
「私は幻なの あなたの夢の中にいるの」
と、この曲のYUKIのフレーズを歌い始める。この曲が収録されたアルバムが出てから13年。YUKI本人はおろか、このフレーズを歌った女性シンガーはおそらくいない。いつも歌うのは我々、観客だった。しかしこの日、この曲は確かにデュエットソングという本来の形となっていた。これは幻だったのか。私は夢の中にいるのか。ライブ開始3分でそんな自問自答をせざるを得ない、いきなりのクライマックス感。
当然、この先制パンチを浴びせて峯田はステージを去るのかと思いきや、まだステージにとどまり、しかも次の曲の演奏が始まる。音源では神聖かまってちゃんの、の子が参加していた「非国民的ヒーロー」の、まさかの峯田参加バージョン。しかも峯田と大森靖子は間奏で合わせなかのように両サイドから客席にダイブ。最後にはステージに倒れこみながら歌う峯田に大森靖子が手を差し伸べるも、最終的には2人してステージに座り込みながら歌うという展開に。そんな、なんならアンコールでやるようなコラボでこの日は幕を開けた。
そうなるとライブのテンションや熱気は峯田が去ってから落ちていきそうなものだが、全くそんなことにはならない。客席ではピンクのサイリウムが光る中、「イミテーションガール」では大森靖子が振り付けを踊りながら歌う。
「本当に高校生の時から銀杏BOYZが大好きで。でも夢が叶ったっていう感じではなくて。これまで一歩一歩確実に歩いてきた結果なのかなって思ってます」
と初めてステージ上で憧れの峯田と共演できた(対談などは何回かしている)感慨を、舞い上がることなくいたって平静に語ると、アコギを手にして弾き語りのように放たれていく言葉たちがどんどん鋭さと生々しさを増していき、それまでの熱狂とは打って変わって、その言葉の一つ一つを決して聴き逃すまいという緊張感に満ちていく。
「マジックミラー」も弾き語りで始まり、かなりの長さを弾き語っていたので、1曲このまま通すのかな?と思っていたら、曲終盤でいきなりバンドの演奏が爆音で入ってくる。これはまるで銀杏BOYZの「人間」のライブバージョンを見ているかのようだった。
サポートギタリストのみならず、ステージ袖にいるスタッフまでもがサビで振り付けを踊るのが実に微笑ましい「絶対彼女」では間奏で
「高校生の時に本屋で痴漢されたことがあるんですよ。その時に銀杏BOYZをイヤホンで聴いてたんですけど、その触ってきたやつの耳にイヤホン当てて無理矢理銀杏BOYZ聴かせたら、すぐに去っていきました(笑)
その時に読んでたのが峯田さんのインタビューだったんですけど、病院に行ったらお医者さんに
「喉を潰したり足を骨折したりしないように歌うのがプロの歌手だ、って言われた」
って言ってて。それを見て、私はそうならないような歌手になろう、って思って(笑)
で、この前の武道館でも峯田さんが
「フルマラソンを最初から全力ダッシュするような生き方しかできない」
って言ってて。そうはならないようにしよう、って思ったはずなのに、今日は2曲目で喉が潰れました(笑)
引きずられてるな~って(笑)」
と、銀杏BOYZ、峯田和伸からもはや逃れられなくなってしまった自身の性を語るのだが、それは本当にいつまで経ってもGOING STEADYから連なる峯田和伸の音楽から逃れられない我々と同じである。
そんな人がステージから
「女子だけ!」「ヤリマン!」「童貞!」
とかなり振り切った合唱を求めるのだが、間口が狭くなるにつれて、1人1人の声が大きくなるという、振り切った人たちならではのエネルギーの強さを改めて実感させられる。
それまでの凄みを感じさせるような歌唱から一転して囁くようなボーカルでの「TOKYO BLACK HOLE」から、ライブにおける定番曲であり、
「音楽は魔法ではない」
というリフレインが頭から離れなくなる、「音楽を捨てよ、そして音楽へ」。
去年の夏フェスではこのフレーズを巡ってちょっとした騒動が起きたりもした。確かに、自分も音楽は魔法だ、と思っているところもある。だが、同じように銀杏BOYZで人生が変わってこうしてステージに立っている人がそうしてあえて「音楽は魔法ではない」と言うこと。それはこの日も大森靖子が言っていたように、あくまで
「あなたがあなたであること、それだけが最高です!」
ということ。それは決して音楽がなかったとしても。
轟音サウンドにまみれながら、ソロ回しを兼ねたメンバー紹介をして、メンバーたちをステージから送り出して終わりかと思いきや、ギターを抱えた大森靖子が1人ステージに残り、弾き語りで最後に「PINK」を歌った。普段は最初にこの曲を演奏してからバンドメンバーが出てきてバンドでの演奏へ、というパターンが多いが、この日はあの先制パンチを繰り出すためにこうした流れにしたのだろう。
歌い終わると大森靖子は前述の、ただ自分自身であることを肯定することを強く訴える言葉を観客へ送ってからステージを去った。それは後で峯田和伸が発した言葉と全く同じであり、銀杏BOYZを追いかけ続けてこのステージまで辿り着いた大森靖子だからこそ、この日の観客には心に響いた。
1.駆け抜けて性春 w/ 峯田和伸
2.非国民的ヒーロー w/ 峯田和伸
3.ミッドナイト清純異性交遊
4.イミテーションガール
5.draw(A)drow
6.死神
7.マジックミラー
8.絶対彼女
9.あまい
10.TOKYO BLACK HOLE
11.音楽を捨てよ、そして音楽へ
12.PINK
ミッドナイト清純異性交遊
https://youtu.be/WdQ6wmap8U4
・銀杏BOYZ
そしてこの日のあらゆる方向からのリスペクトを一身に受ける、銀杏BOYZ。2018年初ライブである。
SEもなくステージに登場したのは、峯田と加藤綾太(ギター)の2人。2人の前には譜面台と椅子が置いてあるので、アコギを手にしてそれぞれ椅子に座ると、加藤の爪弾くギターに反応し、
「ぴーちゃんはギターいつから始めたんだっけ?小5?早いねぇ。お父さんも音楽関係の仕事してるんだよね。桑田佳祐さんとかミスチルと一緒に仕事してる」
と加藤に話しかけ、なかなか演奏が始まらなかったが、いざ最初に2人の弾き語りという形態で演奏されたのは、大森靖子の「ミッドナイト清純異性交遊」のカバー。大森靖子ファンがピンクのサイリウムをかざして待ち受け、峯田は歌詞を少し変えて歌っていた。
すると
「昨日は1人でビルボードライブ東京に宮本信子さんのライブに出て。色々な曲を歌ってすごい楽しかった。
今日見にきてくれてるみんなにも、今日が特別な1日になりますように。16年ぶりにこの曲を演奏します」
と山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、岡山健二(ドラム)のサポートメンバーが合流して鳴らされたのは、まさかのGOING STEADY時代の「星に願いを」。アレンジもほとんど変わらぬ激しくもロマンチックなパンクナンバーだが、
「歩んできた道に後悔はない 向かうべき道に希望が見える」
というフレーズが
「歩んできた道は後悔だらけ でも向かうべき道に希望が見える」
に変化し、
「アイ・シー・ザ・ライト」
のフレーズが
「愛してる」
に変化。これは銀杏BOYZとしての次のアルバムに、現在の銀杏BOYZのバージョンとして収録されそうな予感もするが、GOING STEADY時代のライブを見たことがない自分にとっては、この曲はライブで聴くことはできない曲だと思っていた。しかしながらメンバーは違えど、確かにこの日峯田和伸はこの曲をライブで歌っていた。そこに対して批判的な意見もあるかもしれないが、この曲を歌えるのは峯田和伸だけなのである。だからこの曲も然り、「愛しておくれ」や「童貞ソー・ヤング」といった、GOING STEADY時代の曲もこうしてライブで聴いてみたいのだ。
かつて「DON'T TRUST OVER THIRTY」と歌ったバンドが大好きだった。だからそのバンドに合わせるかのように、当時高校生だった自分は30代以上の、いわゆる大人を信用していなかったし、数々のロックスターたちのように、20代で死んでいくことへかっこよさを感じていた。(死のうと思ったことは全くないが)
でも今、かつて信用できなかった年代に自分自身がなり、そこまで生きてきて、今でも峯田和伸が歌う姿をこうして見にきたからこそ、かつて数えきれないくらいに聴きまくった「さくらの唄」の収録曲を峯田が歌う姿が見れた。やっぱり長生きはするものである。そうすればこうして、生きてて良かったと思える瞬間が増えていく。
2階席でライブを見ていた大森靖子が「転落するんじゃないか?」と思うくらいに盛り上がっていた「NO FUTURE NO CRY」では峯田がギターを抱えて、加藤、山本とタイミングを合わせて何度もジャンプし、峯田は客席に何度も飛び込む。
「気が狂いそうな夜を何度も越えて お前に会いたくてここまで来たんだ
死に急ぐのではなく生き急ぐのさ 傷だらけで恥を晒しても生きるのさ」
というこの曲のフレーズに救われた人は大森靖子以外にもたくさんいるはずだ。
「この世のすべての争いや悲しい事件がなくなるまで、あの娘がリストカットをしなくなるまで…僕は歌います!」
と峯田が高らかに宣言してから演奏された「恋は永遠」からは昨年リリースのシングル3部作曲が続く。それまでの焦燥感とは異なり、どこか温もり(それは例えば「骨」のMVのような、なんでもないけれど何よりも大切な瞬間のような)のようなものを感じるし、
「あなたがあなたでいる限り、あなたは間違ってない。どれだけ人にバカにされようと、惨めな人生を送っていても。あなたがあなたである限り、あなたは間違ってない」
と、大森靖子のMCとシンクロするかのような言葉を峯田が放った「エンジェルベイビー」でも
「ここにしかないどこかへ」
向かって走り出すかのような光に満ちていた。
そんな光の中から一瞬でドロドロのリビドーの沼の底に引きずり込まれるようなサウンドに変わった「SEXTEEN」は実に久しぶりに演奏された曲。そこまで持ち時間が長いわけではないこの日のライブにあえてこの曲を入れてきた意味とは。間違いなくテレビやラジオではオンエアできないような過激な歌詞だが、それこそがまた銀杏BOYZがやり場のない感情を抱えていた少年少女たちを撃ち抜いた理由の一つである。それまでの暴れっぷりから一転してほとんど動かずに歌う峯田の姿も印象的。
「この曲を作ったのは、千葉のボロいアパートの風呂で。風呂は反響するからリバーブがかかってる中で歌いながら作って。それを今もあんのかなぁ…。吉祥寺のスタジオに持っていって、メンバーに向かいあうようにして聴かせたんだけど…。今日その時と同じ感じでやっていい?」
と言うと、観客に背を向けて、峯田がドラムの岡山と正対するようにし、最初は弾き語りのようにして「BABY BABY」を歌い始める。
「ここはハモりが入ります!」
と言うと藤原がハモりを入れ、
「ここからバンド演奏になります!」
と言うとメンバーが一気に演奏を始める。それは本当にこの曲ができて、バンドの曲になっていく様を再現しているかのようだったが、最後には
「この曲のサビはお客さんも歌ってくれるはず!」
といつものように大合唱が起きた。1人の部屋で生まれた曲がバンドのものになり、そしてみんなの歌になっていく。そのドキュメントを見せられたかのようで、峯田は観客に歌わせるようになると、マイクスタンドを戻して、大声で歌う観客たちの顔を見つめていた。
ライブで合唱が起きることを快く思わない人も多いし、バンドによっては合唱をしないでほしいという人もいる。確かにボーカルの声も聴きたいが、こうして集まったみんなで同じ曲を歌うことによって、銀杏BOYZを好きな人がこんなにたくさんいるということをしっかり確認することができる。武道館のオープニング映像で映った、名前も年齢もどこで何をして生きているのかも知らない、でも確かに自分そのもののような、銀杏BOYZとともに人生を送ってきた人たち。この大合唱はいつもその存在を確かめさせてくれる。だって、もう普通に仕事だけしてたら、銀杏BOYZ聴いてる人なんか周りに全然いないんだから。
「また絶対会いましょうね。今日はやってないけど、新曲もいっぱい作ってるから。またいっぱいライブやるから、そしたらまた会いにきて」
と、かつてだったら「どうせそう言いながら全然CD出ないんでしょ」と思っていたが、今は本当にそのまだ見ぬ銀杏BOYZの新曲たちをすぐ聴けるような気がしている。それはこの日新しい形での「星に願いを」を聴けたからだし、去年の怒涛の活動をずっと見ていたから。
そして最後に演奏されたのは「もしも君が泣くならば」。Zeppでのライブにおいては珍しく、客電がついて、客席が明るくなった。それはまるで、あの日の武道館で最後の最後にこの曲が演奏された時の景色と同じであるかのようだった。
アンコールで再びメンバーたちを引き連れて峯田が登場すると、
「今日のライブの最初に出すぎたマネをしてしまいました」
と、コラボを行なった大森靖子をステージに呼び込む。銀杏BOYZのロングTシャツを着た大森靖子は、
「昔、銀杏BOYZのBBSってあったじゃないですか。あれに毎日「女は銀杏BOYZを聴くな」っていうスレッドが立ってて。実際に軽音楽部に入ってから「銀杏BOYZが好きです」って言うとバカにされたから、言わないようにしてた」
とかつてただのファンの1人であったエピソードを語ると、
「俺に毎日長文のメールを送ってくるやつがいて。タイトルに全部「大森靖子です」って書いてあんの(笑)だから内容は覚えてないんだけど、その名前を覚えてしまっていたから、インディーズでデビューした時に、「あれ?この名前は…」って思って。素晴らしいプロデュース能力ですよ」
と峯田もかつてファンの1人であった時代の大森靖子とのエピソードを語り、
「この人は多分派手な死に方をすると思うから(笑)、ライブ見に行けるうちに全部見に行った方がいいかもよ。
お世辞でもなんでもなく、大森さんみたいなカッコいい年下の人たちの活躍が自分の今の一番の原動力になっている」
と、もはや若手ではないからこその立場で大森靖子を称えた。確かに、昨年の対バンツアーも峯田よりはるかに年下のアーティストばかり出ていた。そしてそこに出ていたアーティストたちは、やっている音楽もスタイルも全く違うような人たちばかりだったが、みな人生のどこかで銀杏BOYZに出会っていて、そして今ステージに立っている人たちだった。
自分から影響を受けた人たちの活動によって、峯田も刺激されている。理想的な音楽の循環が今の銀杏BOYZの周りにはある。
そしてアンコールで演奏されたのは、大森靖子とのデュエットでの「夢で逢えたら」。もはや全く上手く歌おうという気はさらさらないとばかりに声を張り上げまくって歌う大森靖子。その大森靖子にボーカルを任せて、やはり客席にダイブしたり、スピーカーによじ登ったりする峯田。最後には峯田が大森靖子を抱き抱え、2人でクルクルとバレリーナのようにその場を回転した。夢で何度も逢っていた人と、こうして同じステージに立って同じ時間を過ごせる。それは自分からは想像もつかないような出来事だが、この日の大森靖子はそんな銀杏BOYZファンの代表のような存在であった。
もはや銀杏BOYZだけが好きなだけでも、アジカン、米津玄師、フラッド、ミイラズ、telephones…それだけが好きなわけじゃなくて、音楽が好き。でもやっぱり銀杏BOYZだけは特別。もう曲にこれまでの自分の人生が染みついているから。久しぶりに聴いた「星に願いを」も「SEXTEEN」も、聴きまくっていた当時の自分の状況が曲を聴くとすぐに浮かんでくる。何より、GOING STEADYがいなかったら、こうして挙げた、今当たり前のように聴いてライブに行っているバンドに出会わなかった人生だったかもしれない。
でも当時千葉の田舎の高校生だった自分はGOING STEADYのライブを見れなかった。チケットを取る方法も知らなかったし、ネットがほとんどなかった当時、ライブがどういうものなのかも全く知らなかった。だから友達に貸したり、聴きまくったゴイステの曲でも、銀杏BOYZバージョンで演奏している曲以外はライブで聴いたことがない。でも今日、16年ぶりに「星に願いを」をやった。ってことは、生きてれば「愛しておくれ」や「童貞ソー・ヤング」もいつか聴ける日がくるんじゃないか。そう思えば、これから先にどんなことがあっても生きていたいって思える。その感情はゴイステに出会った時に抱いたものと全く同じだ。やっぱり、どれだけ歳を重ねても変われないんだろうな。
1.ミッドナイト清純異性交遊
2.星に願いを
3.NO FUTURE NO CRY
4.恋は永遠
5.骨
6.エンジェルベイビー
7.SEXTEEN
8.BABY BABY
9.もしも君が泣くならば
encore
10.夢で逢えたら w/ 大森靖子
夢で逢えたら
https://youtu.be/hojcfUQvX2U
Next→ 3/3 見放題東京 @新宿歌舞伎町エリア
それを示すのが、この日のuP!!!主催の対バンライブ。対バン相手の大森靖子はかねてから銀杏BOYZファンを公言、かつては銀杏BOYZのホームページのBBSに書き込みをしていたという、まさにファンを代表してステージに立つと言ってもいい。
・大森靖子
19時になり、場内が暗転すると、流れてきたSEはYUKIの「センチメンタルジャーニー」。ドラムのピエール中野を中心とした、大人数編成のバンドは間違いなく大森靖子のものだが、メンバーたちに続いてステージに現れたのは、なんとジャージ姿の銀杏BOYZ・峯田和伸。
「え?なんで?」
と思ってる間もなく放たれた、
「ワンツー!」
の絶叫。大森靖子のバンドなのに、明らかに普段の大森靖子での演奏とは違う、どしゃめしゃなサウンド。その上に暴れながら歌う峯田のボーカルが乗るのは…銀杏BOYZの「駆け抜けて性春」である。峯田は早くも客席にダイブを敢行すると、間奏ではピエール中野が立ち上がってスティックを思いっきり振るう。いつもとは違う類の気合いの漲りっぷり。彼もまた、大森靖子同様に銀杏BOYZが人生に多大なる影響を与えた人間なのである。
するとCメロ部分で
「星降る青い夜さ」
と峯田が歌う後に、いつの間にかステージの下から登場した、黒いドレスを着た大森靖子が
「私は幻なの あなたの夢の中にいるの」
と、この曲のYUKIのフレーズを歌い始める。この曲が収録されたアルバムが出てから13年。YUKI本人はおろか、このフレーズを歌った女性シンガーはおそらくいない。いつも歌うのは我々、観客だった。しかしこの日、この曲は確かにデュエットソングという本来の形となっていた。これは幻だったのか。私は夢の中にいるのか。ライブ開始3分でそんな自問自答をせざるを得ない、いきなりのクライマックス感。
当然、この先制パンチを浴びせて峯田はステージを去るのかと思いきや、まだステージにとどまり、しかも次の曲の演奏が始まる。音源では神聖かまってちゃんの、の子が参加していた「非国民的ヒーロー」の、まさかの峯田参加バージョン。しかも峯田と大森靖子は間奏で合わせなかのように両サイドから客席にダイブ。最後にはステージに倒れこみながら歌う峯田に大森靖子が手を差し伸べるも、最終的には2人してステージに座り込みながら歌うという展開に。そんな、なんならアンコールでやるようなコラボでこの日は幕を開けた。
そうなるとライブのテンションや熱気は峯田が去ってから落ちていきそうなものだが、全くそんなことにはならない。客席ではピンクのサイリウムが光る中、「イミテーションガール」では大森靖子が振り付けを踊りながら歌う。
「本当に高校生の時から銀杏BOYZが大好きで。でも夢が叶ったっていう感じではなくて。これまで一歩一歩確実に歩いてきた結果なのかなって思ってます」
と初めてステージ上で憧れの峯田と共演できた(対談などは何回かしている)感慨を、舞い上がることなくいたって平静に語ると、アコギを手にして弾き語りのように放たれていく言葉たちがどんどん鋭さと生々しさを増していき、それまでの熱狂とは打って変わって、その言葉の一つ一つを決して聴き逃すまいという緊張感に満ちていく。
「マジックミラー」も弾き語りで始まり、かなりの長さを弾き語っていたので、1曲このまま通すのかな?と思っていたら、曲終盤でいきなりバンドの演奏が爆音で入ってくる。これはまるで銀杏BOYZの「人間」のライブバージョンを見ているかのようだった。
サポートギタリストのみならず、ステージ袖にいるスタッフまでもがサビで振り付けを踊るのが実に微笑ましい「絶対彼女」では間奏で
「高校生の時に本屋で痴漢されたことがあるんですよ。その時に銀杏BOYZをイヤホンで聴いてたんですけど、その触ってきたやつの耳にイヤホン当てて無理矢理銀杏BOYZ聴かせたら、すぐに去っていきました(笑)
その時に読んでたのが峯田さんのインタビューだったんですけど、病院に行ったらお医者さんに
「喉を潰したり足を骨折したりしないように歌うのがプロの歌手だ、って言われた」
って言ってて。それを見て、私はそうならないような歌手になろう、って思って(笑)
で、この前の武道館でも峯田さんが
「フルマラソンを最初から全力ダッシュするような生き方しかできない」
って言ってて。そうはならないようにしよう、って思ったはずなのに、今日は2曲目で喉が潰れました(笑)
引きずられてるな~って(笑)」
と、銀杏BOYZ、峯田和伸からもはや逃れられなくなってしまった自身の性を語るのだが、それは本当にいつまで経ってもGOING STEADYから連なる峯田和伸の音楽から逃れられない我々と同じである。
そんな人がステージから
「女子だけ!」「ヤリマン!」「童貞!」
とかなり振り切った合唱を求めるのだが、間口が狭くなるにつれて、1人1人の声が大きくなるという、振り切った人たちならではのエネルギーの強さを改めて実感させられる。
それまでの凄みを感じさせるような歌唱から一転して囁くようなボーカルでの「TOKYO BLACK HOLE」から、ライブにおける定番曲であり、
「音楽は魔法ではない」
というリフレインが頭から離れなくなる、「音楽を捨てよ、そして音楽へ」。
去年の夏フェスではこのフレーズを巡ってちょっとした騒動が起きたりもした。確かに、自分も音楽は魔法だ、と思っているところもある。だが、同じように銀杏BOYZで人生が変わってこうしてステージに立っている人がそうしてあえて「音楽は魔法ではない」と言うこと。それはこの日も大森靖子が言っていたように、あくまで
「あなたがあなたであること、それだけが最高です!」
ということ。それは決して音楽がなかったとしても。
轟音サウンドにまみれながら、ソロ回しを兼ねたメンバー紹介をして、メンバーたちをステージから送り出して終わりかと思いきや、ギターを抱えた大森靖子が1人ステージに残り、弾き語りで最後に「PINK」を歌った。普段は最初にこの曲を演奏してからバンドメンバーが出てきてバンドでの演奏へ、というパターンが多いが、この日はあの先制パンチを繰り出すためにこうした流れにしたのだろう。
歌い終わると大森靖子は前述の、ただ自分自身であることを肯定することを強く訴える言葉を観客へ送ってからステージを去った。それは後で峯田和伸が発した言葉と全く同じであり、銀杏BOYZを追いかけ続けてこのステージまで辿り着いた大森靖子だからこそ、この日の観客には心に響いた。
1.駆け抜けて性春 w/ 峯田和伸
2.非国民的ヒーロー w/ 峯田和伸
3.ミッドナイト清純異性交遊
4.イミテーションガール
5.draw(A)drow
6.死神
7.マジックミラー
8.絶対彼女
9.あまい
10.TOKYO BLACK HOLE
11.音楽を捨てよ、そして音楽へ
12.PINK
ミッドナイト清純異性交遊
https://youtu.be/WdQ6wmap8U4
・銀杏BOYZ
そしてこの日のあらゆる方向からのリスペクトを一身に受ける、銀杏BOYZ。2018年初ライブである。
SEもなくステージに登場したのは、峯田と加藤綾太(ギター)の2人。2人の前には譜面台と椅子が置いてあるので、アコギを手にしてそれぞれ椅子に座ると、加藤の爪弾くギターに反応し、
「ぴーちゃんはギターいつから始めたんだっけ?小5?早いねぇ。お父さんも音楽関係の仕事してるんだよね。桑田佳祐さんとかミスチルと一緒に仕事してる」
と加藤に話しかけ、なかなか演奏が始まらなかったが、いざ最初に2人の弾き語りという形態で演奏されたのは、大森靖子の「ミッドナイト清純異性交遊」のカバー。大森靖子ファンがピンクのサイリウムをかざして待ち受け、峯田は歌詞を少し変えて歌っていた。
すると
「昨日は1人でビルボードライブ東京に宮本信子さんのライブに出て。色々な曲を歌ってすごい楽しかった。
今日見にきてくれてるみんなにも、今日が特別な1日になりますように。16年ぶりにこの曲を演奏します」
と山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、岡山健二(ドラム)のサポートメンバーが合流して鳴らされたのは、まさかのGOING STEADY時代の「星に願いを」。アレンジもほとんど変わらぬ激しくもロマンチックなパンクナンバーだが、
「歩んできた道に後悔はない 向かうべき道に希望が見える」
というフレーズが
「歩んできた道は後悔だらけ でも向かうべき道に希望が見える」
に変化し、
「アイ・シー・ザ・ライト」
のフレーズが
「愛してる」
に変化。これは銀杏BOYZとしての次のアルバムに、現在の銀杏BOYZのバージョンとして収録されそうな予感もするが、GOING STEADY時代のライブを見たことがない自分にとっては、この曲はライブで聴くことはできない曲だと思っていた。しかしながらメンバーは違えど、確かにこの日峯田和伸はこの曲をライブで歌っていた。そこに対して批判的な意見もあるかもしれないが、この曲を歌えるのは峯田和伸だけなのである。だからこの曲も然り、「愛しておくれ」や「童貞ソー・ヤング」といった、GOING STEADY時代の曲もこうしてライブで聴いてみたいのだ。
かつて「DON'T TRUST OVER THIRTY」と歌ったバンドが大好きだった。だからそのバンドに合わせるかのように、当時高校生だった自分は30代以上の、いわゆる大人を信用していなかったし、数々のロックスターたちのように、20代で死んでいくことへかっこよさを感じていた。(死のうと思ったことは全くないが)
でも今、かつて信用できなかった年代に自分自身がなり、そこまで生きてきて、今でも峯田和伸が歌う姿をこうして見にきたからこそ、かつて数えきれないくらいに聴きまくった「さくらの唄」の収録曲を峯田が歌う姿が見れた。やっぱり長生きはするものである。そうすればこうして、生きてて良かったと思える瞬間が増えていく。
2階席でライブを見ていた大森靖子が「転落するんじゃないか?」と思うくらいに盛り上がっていた「NO FUTURE NO CRY」では峯田がギターを抱えて、加藤、山本とタイミングを合わせて何度もジャンプし、峯田は客席に何度も飛び込む。
「気が狂いそうな夜を何度も越えて お前に会いたくてここまで来たんだ
死に急ぐのではなく生き急ぐのさ 傷だらけで恥を晒しても生きるのさ」
というこの曲のフレーズに救われた人は大森靖子以外にもたくさんいるはずだ。
「この世のすべての争いや悲しい事件がなくなるまで、あの娘がリストカットをしなくなるまで…僕は歌います!」
と峯田が高らかに宣言してから演奏された「恋は永遠」からは昨年リリースのシングル3部作曲が続く。それまでの焦燥感とは異なり、どこか温もり(それは例えば「骨」のMVのような、なんでもないけれど何よりも大切な瞬間のような)のようなものを感じるし、
「あなたがあなたでいる限り、あなたは間違ってない。どれだけ人にバカにされようと、惨めな人生を送っていても。あなたがあなたである限り、あなたは間違ってない」
と、大森靖子のMCとシンクロするかのような言葉を峯田が放った「エンジェルベイビー」でも
「ここにしかないどこかへ」
向かって走り出すかのような光に満ちていた。
そんな光の中から一瞬でドロドロのリビドーの沼の底に引きずり込まれるようなサウンドに変わった「SEXTEEN」は実に久しぶりに演奏された曲。そこまで持ち時間が長いわけではないこの日のライブにあえてこの曲を入れてきた意味とは。間違いなくテレビやラジオではオンエアできないような過激な歌詞だが、それこそがまた銀杏BOYZがやり場のない感情を抱えていた少年少女たちを撃ち抜いた理由の一つである。それまでの暴れっぷりから一転してほとんど動かずに歌う峯田の姿も印象的。
「この曲を作ったのは、千葉のボロいアパートの風呂で。風呂は反響するからリバーブがかかってる中で歌いながら作って。それを今もあんのかなぁ…。吉祥寺のスタジオに持っていって、メンバーに向かいあうようにして聴かせたんだけど…。今日その時と同じ感じでやっていい?」
と言うと、観客に背を向けて、峯田がドラムの岡山と正対するようにし、最初は弾き語りのようにして「BABY BABY」を歌い始める。
「ここはハモりが入ります!」
と言うと藤原がハモりを入れ、
「ここからバンド演奏になります!」
と言うとメンバーが一気に演奏を始める。それは本当にこの曲ができて、バンドの曲になっていく様を再現しているかのようだったが、最後には
「この曲のサビはお客さんも歌ってくれるはず!」
といつものように大合唱が起きた。1人の部屋で生まれた曲がバンドのものになり、そしてみんなの歌になっていく。そのドキュメントを見せられたかのようで、峯田は観客に歌わせるようになると、マイクスタンドを戻して、大声で歌う観客たちの顔を見つめていた。
ライブで合唱が起きることを快く思わない人も多いし、バンドによっては合唱をしないでほしいという人もいる。確かにボーカルの声も聴きたいが、こうして集まったみんなで同じ曲を歌うことによって、銀杏BOYZを好きな人がこんなにたくさんいるということをしっかり確認することができる。武道館のオープニング映像で映った、名前も年齢もどこで何をして生きているのかも知らない、でも確かに自分そのもののような、銀杏BOYZとともに人生を送ってきた人たち。この大合唱はいつもその存在を確かめさせてくれる。だって、もう普通に仕事だけしてたら、銀杏BOYZ聴いてる人なんか周りに全然いないんだから。
「また絶対会いましょうね。今日はやってないけど、新曲もいっぱい作ってるから。またいっぱいライブやるから、そしたらまた会いにきて」
と、かつてだったら「どうせそう言いながら全然CD出ないんでしょ」と思っていたが、今は本当にそのまだ見ぬ銀杏BOYZの新曲たちをすぐ聴けるような気がしている。それはこの日新しい形での「星に願いを」を聴けたからだし、去年の怒涛の活動をずっと見ていたから。
そして最後に演奏されたのは「もしも君が泣くならば」。Zeppでのライブにおいては珍しく、客電がついて、客席が明るくなった。それはまるで、あの日の武道館で最後の最後にこの曲が演奏された時の景色と同じであるかのようだった。
アンコールで再びメンバーたちを引き連れて峯田が登場すると、
「今日のライブの最初に出すぎたマネをしてしまいました」
と、コラボを行なった大森靖子をステージに呼び込む。銀杏BOYZのロングTシャツを着た大森靖子は、
「昔、銀杏BOYZのBBSってあったじゃないですか。あれに毎日「女は銀杏BOYZを聴くな」っていうスレッドが立ってて。実際に軽音楽部に入ってから「銀杏BOYZが好きです」って言うとバカにされたから、言わないようにしてた」
とかつてただのファンの1人であったエピソードを語ると、
「俺に毎日長文のメールを送ってくるやつがいて。タイトルに全部「大森靖子です」って書いてあんの(笑)だから内容は覚えてないんだけど、その名前を覚えてしまっていたから、インディーズでデビューした時に、「あれ?この名前は…」って思って。素晴らしいプロデュース能力ですよ」
と峯田もかつてファンの1人であった時代の大森靖子とのエピソードを語り、
「この人は多分派手な死に方をすると思うから(笑)、ライブ見に行けるうちに全部見に行った方がいいかもよ。
お世辞でもなんでもなく、大森さんみたいなカッコいい年下の人たちの活躍が自分の今の一番の原動力になっている」
と、もはや若手ではないからこその立場で大森靖子を称えた。確かに、昨年の対バンツアーも峯田よりはるかに年下のアーティストばかり出ていた。そしてそこに出ていたアーティストたちは、やっている音楽もスタイルも全く違うような人たちばかりだったが、みな人生のどこかで銀杏BOYZに出会っていて、そして今ステージに立っている人たちだった。
自分から影響を受けた人たちの活動によって、峯田も刺激されている。理想的な音楽の循環が今の銀杏BOYZの周りにはある。
そしてアンコールで演奏されたのは、大森靖子とのデュエットでの「夢で逢えたら」。もはや全く上手く歌おうという気はさらさらないとばかりに声を張り上げまくって歌う大森靖子。その大森靖子にボーカルを任せて、やはり客席にダイブしたり、スピーカーによじ登ったりする峯田。最後には峯田が大森靖子を抱き抱え、2人でクルクルとバレリーナのようにその場を回転した。夢で何度も逢っていた人と、こうして同じステージに立って同じ時間を過ごせる。それは自分からは想像もつかないような出来事だが、この日の大森靖子はそんな銀杏BOYZファンの代表のような存在であった。
もはや銀杏BOYZだけが好きなだけでも、アジカン、米津玄師、フラッド、ミイラズ、telephones…それだけが好きなわけじゃなくて、音楽が好き。でもやっぱり銀杏BOYZだけは特別。もう曲にこれまでの自分の人生が染みついているから。久しぶりに聴いた「星に願いを」も「SEXTEEN」も、聴きまくっていた当時の自分の状況が曲を聴くとすぐに浮かんでくる。何より、GOING STEADYがいなかったら、こうして挙げた、今当たり前のように聴いてライブに行っているバンドに出会わなかった人生だったかもしれない。
でも当時千葉の田舎の高校生だった自分はGOING STEADYのライブを見れなかった。チケットを取る方法も知らなかったし、ネットがほとんどなかった当時、ライブがどういうものなのかも全く知らなかった。だから友達に貸したり、聴きまくったゴイステの曲でも、銀杏BOYZバージョンで演奏している曲以外はライブで聴いたことがない。でも今日、16年ぶりに「星に願いを」をやった。ってことは、生きてれば「愛しておくれ」や「童貞ソー・ヤング」もいつか聴ける日がくるんじゃないか。そう思えば、これから先にどんなことがあっても生きていたいって思える。その感情はゴイステに出会った時に抱いたものと全く同じだ。やっぱり、どれだけ歳を重ねても変われないんだろうな。
1.ミッドナイト清純異性交遊
2.星に願いを
3.NO FUTURE NO CRY
4.恋は永遠
5.骨
6.エンジェルベイビー
7.SEXTEEN
8.BABY BABY
9.もしも君が泣くならば
encore
10.夢で逢えたら w/ 大森靖子
夢で逢えたら
https://youtu.be/hojcfUQvX2U
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