UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2017-2018 「One roll, One romance」 @幕張メッセ 1/28
- 2018/01/28
- 23:19
今からちょうど10年前の2008年3月30日、オープンしたばかりのTOKYO DOME CITY HALL(当時はネーミングライセンスにより、JCB HALLという名称だった気がする)で行われたライブイベントのオープニングアクト的な立ち位置だった、「流星前夜」をリリースしたばかりのUNISON SQUARE GARDENのライブを見た。
すでに「新世界ノート」も「流星前夜」もかなり聴き込んだ状態であり、その楽曲から溢れ出すきらめきから「このバンドは近い将来、ここよりももっとデカいところでライブが見れるようなバンドになるんじゃないか」と思っていたが、その日にライブを初めて見てその思いはさらに強くなり、それから再オープンしたばかりの赤坂BLITZ、今はなき渋谷AXと順調にキャパを広くしていく中で、それは確信に変わっていった。
しかしながら、当時はまだそこに言及してはいなかったが、アニメのタイアップシングルなども増え、世間の認知度が高まっていってる中にもかかわらず、やっても渋谷公会堂やNHKホール、Zepp Tokyoという3000人ほどのキャパ以上のところでなかなかライブをやらないことに違和感を抱いていたのだが、そのことについてバンドのブレーンである田淵は
「デカいところで1日やるよりも、NHKホールで2,3daysやった方がいい」
と、デカいステージを目指しているわけではない独自のスタンスを語っていた。
しかしながら「オリオンをなぞる」や「シュガーソングとビターステップ」というシングルがロックバンドを普段から聴かないような層にも訴求してきたことにより、2015年7月には日本武道館でワンマンを行い、そしてこの日、田淵が「ボーナスステージ」と位置付けた、幕張メッセ1~3ホールというワンマンとしては過去最高規模を大幅に更新するステージに立つ。
この日はシングル「10% roll, 10% romance」のリリースツアーのファイナルというものではあるのだが、数日前にその「10% roll, 10% romance」も収録したアルバム「MODE MOOD MODE」をリリースしたばかりという異様なタイミングになった。つまり、ツアー中に披露していたアルバムに収録された新曲はもはや新曲ではないということである。そしてそのアルバムはバンド初のオリコンチャート1位を獲得した。
通常、幕張メッセでワンマンというと、9~11ホールを丸ごと使って、というのが一般的なのだが、今回は1~3ホール、COUNTDOWN JAPANで言うとEARTH STAGEを丸ごと使うというようなイメージである。よって、最後方に位置するUブロックからはステージがほとんど見えないという距離。
17時というかなり早い設定の開演時間(ここにも田淵なりの美学があるらしい)をちょっと過ぎた頃、場内がゆっくりと暗転し、おなじみのイズミカワソラ「絵の具」がSEとして流れ始めると、ビックリするくらいにいつもと変わらない様子の3人がステージに登場。田淵の様子のおかしい歩き方も、斎藤のフォーマルな出で立ちも、これまでのツアー、あるいはこれまでのライブと何ら変わらない、本当にただただ立つステージが幕張メッセになっただけ、という感じだ。
斎藤の切れ味鋭いギターが鳴らされると、メジャー1stフルアルバムに収録されている「サンポサキマイライフ」からスタートするのだが、やはり序盤は幕張メッセならではの音響の良くなさが少し目立ったというか、特に斎藤はボーカルというよりもギターのサウンドでその部分と戦っているように見えた。
またステージ左右ではなく、ステージの真上に決して大きくはないスクリーンが設置されており、時には1人がアップで、時には3人が画面に分割するように映し出される。これはいつも通りのライブにするからこそ、あくまで後ろの方の見えない人に対しての最低限の配慮だろう。
しかしそんな中にあって田淵は同期の音も使った「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」で早くもステージ左右に激しく動きまくり、鈴木は一打一打がしっかりと響くような重さを持ちながらも実に軽やかに感じるというこのバンドの最も安定した軸の部分を担っている。初期の曲では手数を加えるという、自身のスキルが向上しているからこそできる、楽曲のアップデートも果たしている。
斎藤の
「うわ、すごい人だ…。ジブリの映画みたいだな(笑)
後ろの方の人は豆粒くらいにしか見えないと思うけど、最後まで自由に楽しんでいってください!」
という、普段のワンマンとは全く違う景色に驚きつつも少し感極まっているだろうか?と感じさせるような挨拶的なMCから、会場の四方に設置されたミラーボールが輝き、幕張メッセが巨大なダンスフロアに変貌する「MR.アンディ」へ。ユニゾンのライブの中では演出らしい演出であると言えるが、インディーズ時代の小さいライブハウスからずっと演奏されてきたこの曲がこんなに大きなステージで演奏されることになるってメンバーたちは想像していただろうか。今こうして聴いてもこの曲はそれだけのスケールをちゃんと持っている曲であるということが実によくわかるが、斎藤はエフェクターを踏み間違えたのか、ギターの音が出ていない部分が数秒あるというハプニングも。
序盤はどちらかというとアッパーなギターロックで押しまくっていくのだが、「リニアブルーを聴きながら」では
「今日を行け、何度でも、メロディ」
というこのメロディにはこの歌詞しかハマりようがないというバシッと決まった爽快感を感じさせてくれるとともに、「メロディ」の部分で田淵が大きくジャンプする。このバンドの作詞と作曲を担うのはこの田淵であるが(今ではすっかり慣れきってしまったが、全く歌わないベーシストが作詞作曲を手がけるバンドというのはやはりあんまりいない)、その田淵が曲と歌詞を作った時点で、自身のライブでのアクションも考えているんじゃないだろうか、というくらいの完璧なハマりっぷりである。
このツアー開始後にリリースされたシングル曲、というのが今回のツアーと去年から今年にかけてのユニゾンのスケジュールのただごとではなさを物語っている「fake town baby」は歌い出しのAメロが英語詞という、これまでは日本語の響きに重きを置いてきたこのバンドにとっては明らかな新境地。ごくスラスラと歌える斎藤の帰国子女であるという経歴があるからこそかもしれないが。
するとここからの「クロスハート1号線」「flat song」という流れは、性急さも手数の多さも激しいアクションも抑え、斎藤の歌を活かすように丁寧に丁寧に演奏されている印象を受けたミドルテンポのパート。「flat song」は「10% roll, 10%romance」のカップリング収録曲なので、今後演奏される機会は少なくなるかもしれないという意味ではこのツアーで聴けるのは実に貴重。現に田淵もインタビューで「カップリング曲はライブでやると想定していない」的なことを言っているが、音楽と人誌上ではインタビュアーの
「ユニゾンはカップリングにするにはもったいないくらいに名曲が多いので、ライブでやらないのはもったいない。カップリング曲限定ライブをやって欲しい」
という言葉に興味を示していたというから、いつかこうした隠れた名曲たちがライブの場で輝きを放つ瞬間が見れる日がくるかもしれない。インディーズ時代からライブでやりまくっていた「ガリレオのショーケース」がまさかの「センチメンタルピリオド」のカップリングになった時には、「こっちがシングルタイトル曲だろ!?」と驚いたのも今となっては良い思い出である。(「ガリレオのショーケース」はカップリングの中ではライブで演奏される機会が多い)
「今回のツアーは10月から始まったんですけど、ツアー中にうちの鈴木がスプラトゥーンっていうゲームにどハマりしまして(笑)
なんの因果か、今日はこの会場の隣のホールで、スプラトゥーンの小学生の関東大会が開催されていて、鈴木が楽屋で真剣な表情でスマホを凝視していると思ったら、その大会の実況中継を見ていました(笑)
小学生からも学ぼうというこの姿勢!(笑)」
と散々いじられるように紹介された鈴木は立ち上がったまま、言葉を発することなく、恥ずかしさを誤魔化すかのようにペットボトルの水を一気飲みし、客席から笑いが起こる。
しかしこのMCはあながち笑えるだけではなく、先輩ドラマーのライブや動画を見まくって技術を向上させてきた鈴木貴雄という男の人間性をわかりやすく示している。
しかし斎藤が言いたかったのはそこではなく、今回のツアーはシングルのリリースツアーということで、セトリをかなり冒険できると言って演奏されたのは「桜のあと (all quartet lead to the?)」のカップリングに収録されていた「ノンフィクションコンパス」。シングルリリース当時のツアーでは演奏されていたが、こうしてライブで聴けるのはおそらくその時以来。しかしながら「flat song」と同様にこの曲もユニゾンのカップリングは名曲ばかりというのを体現している曲である。(「桜のあと」はもう1曲のカップリングの「セク × カラ × シソンズール」も名曲)
「メカトル時空探検隊」も含め、ややポップな流れになってきたのをぶった切るように田淵が派手なアクションを見せまくる「パンデミックサドンデス」で再びアッパーかつ攻撃的な曲に転じていくのかと思いきや、「Populus Populus」収録の、まさかやるとは思っていなかったので曲の存在自体を忘れかけていた「僕らのその先」でこの日1番のセンチメンタルを放出させる。
「夕方5時のベル 西日が眩しい街」
というサビの歌詞に合わせるようにステージには夕焼けを思わせるオレンジ色の照明が斎藤をメインにピンスポット的にメンバーに降り注ぐ。
するとここでツアーではおなじみの、メンバーのソロ回しを含めたセッションが展開されるのだが、これまでのセッションの中で最も曲になっていると感じるのは、斎藤のギターのリフがカーニバル的なものを感じさせるのが大きいのかもしれない。
しかしこれまでのツアーと同様に、ソロ回しで最も目立つのは3人の中で最後にソロを披露した鈴木のドラムである。時にはスティックを回しながら、一切抑えたり遠慮したりすることなく、最大限の力と最大限の手数を発揮していく。
これまでのユニゾンのライブレポでも毎回のように書いてきたが、あれだけ普通に歌うだけでも難しいボーカルと普通に弾くだけでも難しいギターを両立させている斎藤、初めて見たらそっちばっかりに目が行ってしまうくらいに普通のベーシストの運動量を何倍も凌駕している田淵は、インディーズの時からすでにその自身のスタイルが確立されていた。その一方で、鈴木はと言うと2人に比べたら普通のドラマーだったように見えていた。それはデビュー当時に9mmのかみじょうや凛として時雨のピエール中野、andymoriの後藤大樹という、いわゆる超人ドラマーと呼ばれていた男たちが脚光を浴びていたからかもしれない。しかしながら鈴木は今やそのドラマーたちと並んでも全く見劣りしないくらいのスーパードラマーとしての位置を完全に確立している。MCもほとんどしないし、常に笑顔でドラムを叩いているからそんな感じはしないが、きっとその裏には我々では想像もできないくらいのとてつもない努力があったんだろうと思う。それがあったからこそ、ユニゾンは均等な三角形のバンドになれたし、ここまで来れたのである。
セッションから雪崩れ込むように、アニメタイアップ曲として先行配信された「Silent Libre Mirage」からはさらにバンドの演奏が忙しなくなっていき、それが極まったのがツアータイトルである「10% roll, 10% romance」で、めちゃくちゃ難解な演奏ばかりやっているのに、表に出てくるメロディはポップとしか形容しようがなく、その演奏は1ミリでもズレたら曲が成り立たないようなギリギリのバランスを保っている。間違いなく今のユニゾン、今のこの3人でしかできないような曲である。
そしてそのままアウトロから間髪入れずに「誰かが忘れているかもしれない~」のポップかつキャッチーなメロディが今ここでこうしてこの曲を聴けていることの幸せを感じさせ、バンド最大のヒット曲「シュガーソングとビターステップ」へ。かつてユニゾンはあれだけヒットした「オリオンをなぞる」をフェスやイベントでもたまにしか演奏しなかった時期があったが、この曲はリリースされてからほぼ100%演奏されている。自分たちのやりたいように自分たちのライブをやるという軸は変わらないながらも、やはりそこにはこの曲をライブで聴きたい人がたくさんいるというのがわかっているのだと思うし、ユニゾンはみんなが楽しんでくれるにはどうしたらいいか?というところと常に向き合い続けてきたバンドである。
「ありがとうございました、UNISON SQUARE GARDENでした!」
と斎藤がサラッと言ってから本編最後に演奏されたのは、ライブならではのテンポが音源よりはるかに速くなったアレンジの「23:25」。もはや丁寧さよりも衝動だ!とばかりに斎藤のボーカルも上手さよりも強さが目立つようになり、田淵はそんな斎藤に接近して見つめ合いながらベースを弾く。鈴木は立ち上がってシンバルを目一杯叩きまくる。その姿はメンバー自身が本当にこの瞬間を楽しんでいると感じさせると同時に、10年前に出会った時はお互いに20歳過ぎの若者だったのが、今やMCで自らを「おじさん」と称するような中堅~ベテランになった。同世代のバンドには、いなくなってしまった人たちもいるし、形が変わってしまったバンドもたくさんいる。でもユニゾンは規模こそ変わり、バンドとして進化はしてきたけれど、根本的には何も変わっていない。それが見ていて本当によくわかったのがこの瞬間だから、とてつもなく感動してしまったし、メンバーが鳴らして斎藤が歌うのと同じように自分も
「今握りしめて走り出せば 空も飛べるようなお年頃ですもの」
ってこの曲を初めてライブで聴いた渋谷AXでのワンマンの時と同じように今でも思える。それが本当に嬉しかった。
アンコールでは斎藤がフォーマルな衣装からT シャツに着替えて登場し、
「普段は僕らはライブハウスやホールでやってるんですけど、ありがたいことにそういうところじゃ収まらないくらいにたくさんの人に見たいと思っていただけるようになって。田淵が売れるのが嫌だって言ってるけど(笑)、だからたまにはこうしてデカいところでやってみようってなって。
でも僕らがやることはこれからも変わらない。作詞作曲おじさんが作った曲を、スプラトゥーンおじさんや僕がアレンジして完成させて、それをみんなが住んでる街に届けに行くのはこれからもずっと変わりません」
と、今回この会場でやることにした意味と、これからもバンドの姿勢は変わらないことを改めて示すと(それはすでに発表されているアルバムのツアーからもわかる)、
「だから、生きてほしい!」
という田淵の書いた言葉とは思えないくらいに真っ直ぐなメッセージが突き刺さる「Invisible Sensation」から、先輩であるthe pillowsに
「田淵はthe pillowsから影響を受けてるって言ってるくせに全然曲に影響が見えない(笑)」
と言われたことで、そのthe pillowsの「RUNNERS HIGH」のアンサーソングとしてthe pillowsへの愛をこれでもかというくらいにわかりやすく示した「RUNNERS HIGH REPRISE」、そして
「UNISON SQUARE GARDENでした!バイバイ!」
とやはりいつもと変わらない斎藤の言葉の後に演奏されたラストの「シャンデリア・ワルツ」ではリズムに合わせて観客がぴょんぴょん飛び跳ねる中、客電が一斉に点いてまるで武道館ワンマンのラストのように明るい中で演奏され、さらに照明すらも客席を照らして一層明るくなる中、
「だからこそ今 大事な約束をしよう さぁ、ワルツ・ワルツで」
という歌詞によって、次のツアーでまた会おうという大事な約束をした。そうやって今までもこうしてこのバンドに会いにきたのだ。
演奏が終わると、鈴木が清々しい表情を浮かべながら、最後まで観客の歓声に応えていた。鈴木は何方かと言えば田淵と同じような考えなだけに、このキャパでやるのには少なからず抵抗があったかもしれないが、この景色を見てどう思ったのだろうか。
ボーナスステージと位置づけながら、あくまで「ツアーファイナルを幕張メッセでやりました」というくらいに、特別な演出も選曲もなく、幕張メッセだからと言っても何も変えない、変えさせない、いつものユニゾンのライブだった。だからこそユニゾンの曲と演奏の素晴らしさがよくわかるのだ。
でもいつも通りとは言いながらも、やっぱり違うところはあって。それはステージではなくて客席。ユニゾンのワンマンを見たいと思っている人たちがこんなにたくさんいるんだということが、この規模でやることでリアルに感じることができる。これはZeppやホールで何日かやっても絶対わからないこと。その空気がこの日のライブを、いつもと変わらないけれど特別なものにしていた。またいつもと変わらないユニゾンのライブを見るために、春から始まるアルバムのツアーに行って、大事な約束を果たさなくては。
1.サンポサキマイライフ
2.徹頭徹尾夜な夜なドライブ
3.kid, I like quartet
4.MR.アンディ
5.シューゲイザースピーカー
6.リニアブルーを聴きながら
7.fake town baby
8.クロスハート1号線 (advantage in a long time)
9.flat song
10.ノンフィクションコンパス
11.メカトル時空探検隊
12.パンデミックサドンデス
13.僕らのその先
14.SESSION
15.Silent Libre Mirage
16.10% roll, 10% romance
17.誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと
18.シュガーソングとビターステップ
19.23:25
encore
20.Invisible Sensation
21.RUNNERS HIGH REPRISE
22.シャンデリア・ワルツ
10% roll, 10% romance
https://youtu.be/jXDbGQxnedM
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すでに「新世界ノート」も「流星前夜」もかなり聴き込んだ状態であり、その楽曲から溢れ出すきらめきから「このバンドは近い将来、ここよりももっとデカいところでライブが見れるようなバンドになるんじゃないか」と思っていたが、その日にライブを初めて見てその思いはさらに強くなり、それから再オープンしたばかりの赤坂BLITZ、今はなき渋谷AXと順調にキャパを広くしていく中で、それは確信に変わっていった。
しかしながら、当時はまだそこに言及してはいなかったが、アニメのタイアップシングルなども増え、世間の認知度が高まっていってる中にもかかわらず、やっても渋谷公会堂やNHKホール、Zepp Tokyoという3000人ほどのキャパ以上のところでなかなかライブをやらないことに違和感を抱いていたのだが、そのことについてバンドのブレーンである田淵は
「デカいところで1日やるよりも、NHKホールで2,3daysやった方がいい」
と、デカいステージを目指しているわけではない独自のスタンスを語っていた。
しかしながら「オリオンをなぞる」や「シュガーソングとビターステップ」というシングルがロックバンドを普段から聴かないような層にも訴求してきたことにより、2015年7月には日本武道館でワンマンを行い、そしてこの日、田淵が「ボーナスステージ」と位置付けた、幕張メッセ1~3ホールというワンマンとしては過去最高規模を大幅に更新するステージに立つ。
この日はシングル「10% roll, 10% romance」のリリースツアーのファイナルというものではあるのだが、数日前にその「10% roll, 10% romance」も収録したアルバム「MODE MOOD MODE」をリリースしたばかりという異様なタイミングになった。つまり、ツアー中に披露していたアルバムに収録された新曲はもはや新曲ではないということである。そしてそのアルバムはバンド初のオリコンチャート1位を獲得した。
通常、幕張メッセでワンマンというと、9~11ホールを丸ごと使って、というのが一般的なのだが、今回は1~3ホール、COUNTDOWN JAPANで言うとEARTH STAGEを丸ごと使うというようなイメージである。よって、最後方に位置するUブロックからはステージがほとんど見えないという距離。
17時というかなり早い設定の開演時間(ここにも田淵なりの美学があるらしい)をちょっと過ぎた頃、場内がゆっくりと暗転し、おなじみのイズミカワソラ「絵の具」がSEとして流れ始めると、ビックリするくらいにいつもと変わらない様子の3人がステージに登場。田淵の様子のおかしい歩き方も、斎藤のフォーマルな出で立ちも、これまでのツアー、あるいはこれまでのライブと何ら変わらない、本当にただただ立つステージが幕張メッセになっただけ、という感じだ。
斎藤の切れ味鋭いギターが鳴らされると、メジャー1stフルアルバムに収録されている「サンポサキマイライフ」からスタートするのだが、やはり序盤は幕張メッセならではの音響の良くなさが少し目立ったというか、特に斎藤はボーカルというよりもギターのサウンドでその部分と戦っているように見えた。
またステージ左右ではなく、ステージの真上に決して大きくはないスクリーンが設置されており、時には1人がアップで、時には3人が画面に分割するように映し出される。これはいつも通りのライブにするからこそ、あくまで後ろの方の見えない人に対しての最低限の配慮だろう。
しかしそんな中にあって田淵は同期の音も使った「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」で早くもステージ左右に激しく動きまくり、鈴木は一打一打がしっかりと響くような重さを持ちながらも実に軽やかに感じるというこのバンドの最も安定した軸の部分を担っている。初期の曲では手数を加えるという、自身のスキルが向上しているからこそできる、楽曲のアップデートも果たしている。
斎藤の
「うわ、すごい人だ…。ジブリの映画みたいだな(笑)
後ろの方の人は豆粒くらいにしか見えないと思うけど、最後まで自由に楽しんでいってください!」
という、普段のワンマンとは全く違う景色に驚きつつも少し感極まっているだろうか?と感じさせるような挨拶的なMCから、会場の四方に設置されたミラーボールが輝き、幕張メッセが巨大なダンスフロアに変貌する「MR.アンディ」へ。ユニゾンのライブの中では演出らしい演出であると言えるが、インディーズ時代の小さいライブハウスからずっと演奏されてきたこの曲がこんなに大きなステージで演奏されることになるってメンバーたちは想像していただろうか。今こうして聴いてもこの曲はそれだけのスケールをちゃんと持っている曲であるということが実によくわかるが、斎藤はエフェクターを踏み間違えたのか、ギターの音が出ていない部分が数秒あるというハプニングも。
序盤はどちらかというとアッパーなギターロックで押しまくっていくのだが、「リニアブルーを聴きながら」では
「今日を行け、何度でも、メロディ」
というこのメロディにはこの歌詞しかハマりようがないというバシッと決まった爽快感を感じさせてくれるとともに、「メロディ」の部分で田淵が大きくジャンプする。このバンドの作詞と作曲を担うのはこの田淵であるが(今ではすっかり慣れきってしまったが、全く歌わないベーシストが作詞作曲を手がけるバンドというのはやはりあんまりいない)、その田淵が曲と歌詞を作った時点で、自身のライブでのアクションも考えているんじゃないだろうか、というくらいの完璧なハマりっぷりである。
このツアー開始後にリリースされたシングル曲、というのが今回のツアーと去年から今年にかけてのユニゾンのスケジュールのただごとではなさを物語っている「fake town baby」は歌い出しのAメロが英語詞という、これまでは日本語の響きに重きを置いてきたこのバンドにとっては明らかな新境地。ごくスラスラと歌える斎藤の帰国子女であるという経歴があるからこそかもしれないが。
するとここからの「クロスハート1号線」「flat song」という流れは、性急さも手数の多さも激しいアクションも抑え、斎藤の歌を活かすように丁寧に丁寧に演奏されている印象を受けたミドルテンポのパート。「flat song」は「10% roll, 10%romance」のカップリング収録曲なので、今後演奏される機会は少なくなるかもしれないという意味ではこのツアーで聴けるのは実に貴重。現に田淵もインタビューで「カップリング曲はライブでやると想定していない」的なことを言っているが、音楽と人誌上ではインタビュアーの
「ユニゾンはカップリングにするにはもったいないくらいに名曲が多いので、ライブでやらないのはもったいない。カップリング曲限定ライブをやって欲しい」
という言葉に興味を示していたというから、いつかこうした隠れた名曲たちがライブの場で輝きを放つ瞬間が見れる日がくるかもしれない。インディーズ時代からライブでやりまくっていた「ガリレオのショーケース」がまさかの「センチメンタルピリオド」のカップリングになった時には、「こっちがシングルタイトル曲だろ!?」と驚いたのも今となっては良い思い出である。(「ガリレオのショーケース」はカップリングの中ではライブで演奏される機会が多い)
「今回のツアーは10月から始まったんですけど、ツアー中にうちの鈴木がスプラトゥーンっていうゲームにどハマりしまして(笑)
なんの因果か、今日はこの会場の隣のホールで、スプラトゥーンの小学生の関東大会が開催されていて、鈴木が楽屋で真剣な表情でスマホを凝視していると思ったら、その大会の実況中継を見ていました(笑)
小学生からも学ぼうというこの姿勢!(笑)」
と散々いじられるように紹介された鈴木は立ち上がったまま、言葉を発することなく、恥ずかしさを誤魔化すかのようにペットボトルの水を一気飲みし、客席から笑いが起こる。
しかしこのMCはあながち笑えるだけではなく、先輩ドラマーのライブや動画を見まくって技術を向上させてきた鈴木貴雄という男の人間性をわかりやすく示している。
しかし斎藤が言いたかったのはそこではなく、今回のツアーはシングルのリリースツアーということで、セトリをかなり冒険できると言って演奏されたのは「桜のあと (all quartet lead to the?)」のカップリングに収録されていた「ノンフィクションコンパス」。シングルリリース当時のツアーでは演奏されていたが、こうしてライブで聴けるのはおそらくその時以来。しかしながら「flat song」と同様にこの曲もユニゾンのカップリングは名曲ばかりというのを体現している曲である。(「桜のあと」はもう1曲のカップリングの「セク × カラ × シソンズール」も名曲)
「メカトル時空探検隊」も含め、ややポップな流れになってきたのをぶった切るように田淵が派手なアクションを見せまくる「パンデミックサドンデス」で再びアッパーかつ攻撃的な曲に転じていくのかと思いきや、「Populus Populus」収録の、まさかやるとは思っていなかったので曲の存在自体を忘れかけていた「僕らのその先」でこの日1番のセンチメンタルを放出させる。
「夕方5時のベル 西日が眩しい街」
というサビの歌詞に合わせるようにステージには夕焼けを思わせるオレンジ色の照明が斎藤をメインにピンスポット的にメンバーに降り注ぐ。
するとここでツアーではおなじみの、メンバーのソロ回しを含めたセッションが展開されるのだが、これまでのセッションの中で最も曲になっていると感じるのは、斎藤のギターのリフがカーニバル的なものを感じさせるのが大きいのかもしれない。
しかしこれまでのツアーと同様に、ソロ回しで最も目立つのは3人の中で最後にソロを披露した鈴木のドラムである。時にはスティックを回しながら、一切抑えたり遠慮したりすることなく、最大限の力と最大限の手数を発揮していく。
これまでのユニゾンのライブレポでも毎回のように書いてきたが、あれだけ普通に歌うだけでも難しいボーカルと普通に弾くだけでも難しいギターを両立させている斎藤、初めて見たらそっちばっかりに目が行ってしまうくらいに普通のベーシストの運動量を何倍も凌駕している田淵は、インディーズの時からすでにその自身のスタイルが確立されていた。その一方で、鈴木はと言うと2人に比べたら普通のドラマーだったように見えていた。それはデビュー当時に9mmのかみじょうや凛として時雨のピエール中野、andymoriの後藤大樹という、いわゆる超人ドラマーと呼ばれていた男たちが脚光を浴びていたからかもしれない。しかしながら鈴木は今やそのドラマーたちと並んでも全く見劣りしないくらいのスーパードラマーとしての位置を完全に確立している。MCもほとんどしないし、常に笑顔でドラムを叩いているからそんな感じはしないが、きっとその裏には我々では想像もできないくらいのとてつもない努力があったんだろうと思う。それがあったからこそ、ユニゾンは均等な三角形のバンドになれたし、ここまで来れたのである。
セッションから雪崩れ込むように、アニメタイアップ曲として先行配信された「Silent Libre Mirage」からはさらにバンドの演奏が忙しなくなっていき、それが極まったのがツアータイトルである「10% roll, 10% romance」で、めちゃくちゃ難解な演奏ばかりやっているのに、表に出てくるメロディはポップとしか形容しようがなく、その演奏は1ミリでもズレたら曲が成り立たないようなギリギリのバランスを保っている。間違いなく今のユニゾン、今のこの3人でしかできないような曲である。
そしてそのままアウトロから間髪入れずに「誰かが忘れているかもしれない~」のポップかつキャッチーなメロディが今ここでこうしてこの曲を聴けていることの幸せを感じさせ、バンド最大のヒット曲「シュガーソングとビターステップ」へ。かつてユニゾンはあれだけヒットした「オリオンをなぞる」をフェスやイベントでもたまにしか演奏しなかった時期があったが、この曲はリリースされてからほぼ100%演奏されている。自分たちのやりたいように自分たちのライブをやるという軸は変わらないながらも、やはりそこにはこの曲をライブで聴きたい人がたくさんいるというのがわかっているのだと思うし、ユニゾンはみんなが楽しんでくれるにはどうしたらいいか?というところと常に向き合い続けてきたバンドである。
「ありがとうございました、UNISON SQUARE GARDENでした!」
と斎藤がサラッと言ってから本編最後に演奏されたのは、ライブならではのテンポが音源よりはるかに速くなったアレンジの「23:25」。もはや丁寧さよりも衝動だ!とばかりに斎藤のボーカルも上手さよりも強さが目立つようになり、田淵はそんな斎藤に接近して見つめ合いながらベースを弾く。鈴木は立ち上がってシンバルを目一杯叩きまくる。その姿はメンバー自身が本当にこの瞬間を楽しんでいると感じさせると同時に、10年前に出会った時はお互いに20歳過ぎの若者だったのが、今やMCで自らを「おじさん」と称するような中堅~ベテランになった。同世代のバンドには、いなくなってしまった人たちもいるし、形が変わってしまったバンドもたくさんいる。でもユニゾンは規模こそ変わり、バンドとして進化はしてきたけれど、根本的には何も変わっていない。それが見ていて本当によくわかったのがこの瞬間だから、とてつもなく感動してしまったし、メンバーが鳴らして斎藤が歌うのと同じように自分も
「今握りしめて走り出せば 空も飛べるようなお年頃ですもの」
ってこの曲を初めてライブで聴いた渋谷AXでのワンマンの時と同じように今でも思える。それが本当に嬉しかった。
アンコールでは斎藤がフォーマルな衣装からT シャツに着替えて登場し、
「普段は僕らはライブハウスやホールでやってるんですけど、ありがたいことにそういうところじゃ収まらないくらいにたくさんの人に見たいと思っていただけるようになって。田淵が売れるのが嫌だって言ってるけど(笑)、だからたまにはこうしてデカいところでやってみようってなって。
でも僕らがやることはこれからも変わらない。作詞作曲おじさんが作った曲を、スプラトゥーンおじさんや僕がアレンジして完成させて、それをみんなが住んでる街に届けに行くのはこれからもずっと変わりません」
と、今回この会場でやることにした意味と、これからもバンドの姿勢は変わらないことを改めて示すと(それはすでに発表されているアルバムのツアーからもわかる)、
「だから、生きてほしい!」
という田淵の書いた言葉とは思えないくらいに真っ直ぐなメッセージが突き刺さる「Invisible Sensation」から、先輩であるthe pillowsに
「田淵はthe pillowsから影響を受けてるって言ってるくせに全然曲に影響が見えない(笑)」
と言われたことで、そのthe pillowsの「RUNNERS HIGH」のアンサーソングとしてthe pillowsへの愛をこれでもかというくらいにわかりやすく示した「RUNNERS HIGH REPRISE」、そして
「UNISON SQUARE GARDENでした!バイバイ!」
とやはりいつもと変わらない斎藤の言葉の後に演奏されたラストの「シャンデリア・ワルツ」ではリズムに合わせて観客がぴょんぴょん飛び跳ねる中、客電が一斉に点いてまるで武道館ワンマンのラストのように明るい中で演奏され、さらに照明すらも客席を照らして一層明るくなる中、
「だからこそ今 大事な約束をしよう さぁ、ワルツ・ワルツで」
という歌詞によって、次のツアーでまた会おうという大事な約束をした。そうやって今までもこうしてこのバンドに会いにきたのだ。
演奏が終わると、鈴木が清々しい表情を浮かべながら、最後まで観客の歓声に応えていた。鈴木は何方かと言えば田淵と同じような考えなだけに、このキャパでやるのには少なからず抵抗があったかもしれないが、この景色を見てどう思ったのだろうか。
ボーナスステージと位置づけながら、あくまで「ツアーファイナルを幕張メッセでやりました」というくらいに、特別な演出も選曲もなく、幕張メッセだからと言っても何も変えない、変えさせない、いつものユニゾンのライブだった。だからこそユニゾンの曲と演奏の素晴らしさがよくわかるのだ。
でもいつも通りとは言いながらも、やっぱり違うところはあって。それはステージではなくて客席。ユニゾンのワンマンを見たいと思っている人たちがこんなにたくさんいるんだということが、この規模でやることでリアルに感じることができる。これはZeppやホールで何日かやっても絶対わからないこと。その空気がこの日のライブを、いつもと変わらないけれど特別なものにしていた。またいつもと変わらないユニゾンのライブを見るために、春から始まるアルバムのツアーに行って、大事な約束を果たさなくては。
1.サンポサキマイライフ
2.徹頭徹尾夜な夜なドライブ
3.kid, I like quartet
4.MR.アンディ
5.シューゲイザースピーカー
6.リニアブルーを聴きながら
7.fake town baby
8.クロスハート1号線 (advantage in a long time)
9.flat song
10.ノンフィクションコンパス
11.メカトル時空探検隊
12.パンデミックサドンデス
13.僕らのその先
14.SESSION
15.Silent Libre Mirage
16.10% roll, 10% romance
17.誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと
18.シュガーソングとビターステップ
19.23:25
encore
20.Invisible Sensation
21.RUNNERS HIGH REPRISE
22.シャンデリア・ワルツ
10% roll, 10% romance
https://youtu.be/jXDbGQxnedM
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The Mirraz 節分スペシャルライブ! 第一投 ~鬼は外外外!服は内内内!~ @北浦和KYARA 2/3 ホーム
The Mirraz RED JACKET TOUR ~独立後初!RED(赤字)覚悟の全国ツアー!2018~ @千葉LOOK 1/27