2017年 年間ベストディスクなど
- 2017/12/23
- 20:37
もう2017年も残すところあと1週間ほど、もう自分に残されたライブはCOUNTDOWN JAPAN 17/18の4日間だけということで、毎年やっている、年間ベストディスクなどを選んだ理由、レビュー的なものも含めて。
まずは2017年の年間ベストディスクを20位から。
20. サイダーガール 「SODA POP FANCLUB 1」
サイダーガールというと、バンド名からも「爽やかなギターロック」というイメージが強いバンドだし、このフルアルバムも「ソーダ」「ポップ」というそうしたイメージ通りのタイトルが冠されており、全体を貫くトーンもやはりその通りなのだが、前半のグランジバンドかと思うほどのギターのノイジーさは、このバンドをそのイメージのみに留めておくにはもったいなく感じるほどのロックバンドとしてのポテンシャルを感じさせる。
でもやっぱり聴き終わった後には、誰かに会いに行きたくなるような爽やかな感情にさせるバンド。
メッセンジャー
https://youtu.be/zbsIpPCL3Go
19. 電波少女 「HEALTH」
フリースタイルがブームになったヒップホップシーンだが、コアかつアンダーグラウンドにいくか、J-POP的な歌モノになるかの二極化がさらに進んだような印象を受ける。
そんな中にあって、電波少女はそのちょうど真ん中、ポップでありながらヒップホップであるという道をいけるような可能性を感じさせる可能性のある2人組である。それは彼らがネットシーンから登場した、という既存のヒップホップグループとはそもそもの出自が違うからというのもあるが、だからこそこのアルバムも従来のヒップホップとはサウンドや聴き心地が全く違うし、ヒップホップが必ずしもストリート出身じゃなくてもできるものである、というのを証明している。
NO NAME.
https://youtu.be/GWPlvImIYoo
18. KAGEKI / アルカラ
アルカラの15周年記念アルバムは、結果的に4人での最後のアルバムになってしまった。田原の脱退はバンドにとっても青天の霹靂だっただけに、そうした意識で制作したアルバムではないが、それでもやはり20年というのを意識したからか、近年の中では最も「アルカラらしい」アルバムになっている。
というとこのアルバムがアルカラの完成形なのかとも思うが、稲村はアルバム発売後に
「気付いたら15年経ってた。でも15年凄いですね、って言われても、はーん?っていう感じ。まだまだドキドキすること、ワクワクすること、楽しいことがある。それをただ待ってるんじゃなくて、自分で捕まえに行きたい」
と語っていた。だからこそ、3人になっても我々をワクワクさせてくれると信じている。
如月に彼女
https://youtu.be/n6M29scDZOc
17. That's Fantastic! / POLYSICS
カヨ脱退後はハヤシ、フミ、ヤノの3人でずっと活動してきたが、POLYSICSの20年の活動の中でメンバーの入れ替わりがかなり多かったバンドである。しかし20年目を迎えた今年、まさか新メンバーが加入するということを予想した人はいただろうか。それくらい例のないような加入劇を果たした、ハヤシの特撮仲間であるナカムラリョウが加わったことにより、「POLYSICSに今までなかったような予想が入りまくっているのに、今までで最もPOLYSICSらしいアルバム」になっているという、どう考えてもPOLYSICSにしか作れないアルバムが生まれてしまった。
ということを最も簡潔かつ的確に表しているアルバムタイトルのセンスも本当に素晴らしい。
That's Fantastic!
https://youtu.be/M8q1T0mzyCo
16. mothers / My Hair is Bad
迷いが一切ない。3人だけでデカい音を鳴らして、椎木が独自の視点で描いた男女の物語を歌にする。他の楽器を入れようとも全くしていないし、もっと壮大なテーマを曲にしよう、というような感じも今の時点では伺えない。(いずれそういう曲もできるかもしれないけど)
つまり、今作もMy Hair is BadがMy Hair is Badたるアルバムであるというのはインディーズ時代から全く変わることはないが、去年の「woman's」があまりに1曲1曲のクオリティが高過ぎたために、ハードルが高くなり過ぎたのも事実。武道館も控えているが、次はもう少しじっくりと制作したアルバムが聴きたい。
復讐
https://youtu.be/SYFN3GuJOQM
15. 東京カランコロン01 / 東京カランコロン
バンドがメジャーからインディーズに戻ると規模が一気に縮小するというのは世の常だが(そもそもavexを選んだ理由が「大好きなTRFと同じレーベルだから」と言っていた段階でヤバい気はしていた)、そうしたバンドがインディーズに戻ってから出すアルバムが自分たちの持ち味を再確認した、メジャー時代よりそのバンドらしいものになるというのもまた世の常である。
ちょっと前まではワンマンをZeppクラスで当たり前にやっていた東京カランコロンもまたその方程式に見事なまでに当てはまってしまったバンドであるが、
「笑うなら笑え、歌いたいから歌う
自分だけのステージ見えたから
進むよ 明日へ、明後日へ」
(「どういたしまして」)
という決意を歌えるようになったのは、そうした経験を経てきたから。相変わらずのシュールさやキュートさ、ポップさを持ちながら、今までで今が1番強い。
どういたしまして
https://youtu.be/ioRpq5LezyE
14. NUMBER SEVEN / THE PINBALLS
結成11年目のメジャーデビューという、オールドルーキーなロックンロールバンドである。しかし11年ただなんとなくバンドを続けてきたのか、というと全くそんなことはなく、地道かつ確実に彼らは自分たちの武器を磨いてきた。それはロックンロールというスタイルには不釣り合いなほどの物語性の強い、中世ヨーロッパの小説的な歌詞。インディーズ時代にも「劇場支配人のテーマ」やら「くたばれ専制君主」というタイトルの曲があったが、今回のリード曲のタイトルは「蝙蝠と聖レオンハルト」である。こんなタイトルの曲はロックンロールバンドどころか、日本の音楽の長い歴史の中で聴いたことがないし、レオンハルトという単語を聴いたのはFINAL FANTASY II以来である。
野球ファンとしてオールドルーキーと言われて頭に浮かぶのは、28歳でダイエーにプロ入りした三瀬幸司。三瀬はルーキーイヤーに史上最年長での新人王に輝き、中日で現役を引退するまでに11年も中継ぎとして活躍した。THE PINBALLSもそのくらいにシーンをかき回して欲しい。
蝙蝠と聖レオンハルト
https://youtu.be/7o7LCTaMlHg
13. LEO / 佐々木亮介
a flood of circleとしても生き急いでいるかのようなリリースペースを見せているボーカルの佐々木亮介が、バンド活動と並行してソロアルバムをリリースした。「フラッドとそんなに変わらない感じならソロやる意味なくない?」という懸念は遥か彼方、メンフィスに赴いて現地のソウルミュージックやブルースを生み出してきたミュージシャンたちとともに作られたこの「LEO」は、フラッドが掲げる「ロックンロール」ではなく、やはりソウルやブルース色が強いものになった。
その背景にあるのは、ソロツアーで凄腕メンバーとともに演奏された、アメリカのソウルミュージックやブルース、さらには現代のR&Bに至るまでの佐々木亮介のブラックミュージックへの愛情と憧憬。そして最後に収録された弾き語りでの「無題」は亮介の魂の叫びそのもの。フラッドではなくて、佐々木亮介名義でしか出し得なかった作品。
Strange Dancer
https://youtu.be/iXdrtnMTh34
12. THUNDERBOLT ~帰ってきたサンダーボルト~ / RIZE
活動休止前にリリースされた「K.O.」や「EXPERIENCE」はどこかブレているというか、物足りなさを感じるようなアルバムだった。しかし、活動再開してから各地のフェスやイベントでも衝撃を与えまくった、JESSE、金子ノブアキ、kenken、Rioによる4人編成でのRIZEの7年ぶりのアルバム「THUNDERBOLT ~帰ってきたサンダーボルト~」は、そのライブでの衝撃をそのまま音に封じ込めたような、一片の物足りなさすらないような傑作となった。
そこにはJESSEのThe BONEZや金子ノブアキのソロ、kenkenのDragon Ashを始めとする様々なバンドでのサポートなど、休止期間中に個々がRIZE以外の経験を経たことにより、RIZEでやるべきことが明確になったというのが大きいはず。かつてロックシーンだけでなく、日本の音楽シーン全体に衝撃を与えるデビューを果たしたRIZEによる、カミナリのような一撃。しかもただのカミナリではなく、帰ってきたカミナリ。それは経験やスキルを得たぶん、あの頃よりもはるかに威力が増している。
帰ってきたサンダーボルト
https://youtu.be/bBXHv-8mbHA
11. KICK! / KICK THE CAN CREW
数年前からフェスやイベントではこの3人でライブを行なってきたが、なかなか出なかった再終結後初のアルバムは今年ようやくリリースを迎えた。基本的にコンポーザーはKREVAであるが、活動休止期間中に日本のヒップホップの次元をさらに上に引き上げたKREVAのソロとはやはり感触は全く違う。吉井和哉がソロでイエモンの曲を歌うのと、イエモンが再結成してイエモンの曲を吉井和哉が歌うのが全く違うように、演奏するメンバーによって音そのものが変わるバンドであればそれは非常にわかりやすい。
しかし基本的にDJがトラックを担当するヒップホップというスタイルであるKICK THE CAN CREWがここまでソロとグループで違うというのは、やはりそれぞれの全くタイプの異なる3人のMCの個性があってこそ。1フレーズごとに3人が次々にマイクリレーをしていく「Summer Spot」はその3人の個性が過去最高に融合しており、「アンバランス」や「ユートピア」が持つ切なさも孕んでいるのも合間って、もはや感動すらしてしまうし、過去の曲のキラーフレーズをしのばせまくるMCUのリリックセンスは活動休止を経たからこそ。
千%
https://youtu.be/wFKvOPQyVL0
10. ミカヅキの航海 / さユり
デビュー以降、名曲シングルを連発しまくってきたシンガーソングライター、さユり。配信も含めるとアルバム前に5枚もシングルをリリースしているし、カップリングに「弾き語りver.」という曲も入っていたりしたので、そうした曲のリアレンジも含めた、既発曲のオンパレードのベストアルバム的な内容になるかと思いきや、それは半分正解で半分外れであった。
半分外れというのはシングル曲こそ網羅しているが、全14曲というボリュームであるために新曲が半分を占めたこと、半分正解というのはクオリティ的には1stアルバムにしてベストアルバムと言っていいくらいの楽曲しか入っていないということである。
とかくRADWIMPSの野田洋次郎が提供した「フラレガイガール」や、アニメタイアップであり梶浦由記が手がけた「それは小さな光のような」が注目されがちだが、このアルバムの最大の聴きどころはそれら提供曲よりも圧倒的な名曲である、さユり自身が作詞作曲した曲である。だからこそこのアルバムはそれら提供シングル曲を上回る、オリコンデイリーチャート初登場1位という、とんでもない結果を残した。それだけに、次は全曲自身が作詞作曲したアルバムが聴きたい。
十億年
https://youtu.be/CUnIza2lr90
9. BABEL / 9mm Parabellum Bullet
メンバーそれぞれが作った曲を持ち寄るという、滝が負傷中だからこその状況下で制作された前作「Waltz on Life Line」リリース時のインタビューで菅原卓郎は
「作ってる時は、これはもしかしかたら失敗かもしれないと思った」
と、決して全てに満足したアルバムではなかったことを素直に明かしていた。
だからこその「作曲:滝、作詞:卓郎」というこれまでで最も多くの曲を生み出してきた9mmの制作タッグのみですぐさまアルバムを作るという選択肢はある意味必然的でもあった。
意図的ではなく、「出来てしまった超傑作」の「Revolutionary」、9mmが9mmらしさを取り戻そうとした「Dawning」の2枚が自分は9mm最大の傑作アルバムだと思っているのだが、「BABEL」はその2枚とは違う。「滝と卓郎」というコンビで作ることを想定した段階で「Revolutionary」とは違うが、同じように9mmらしさを見つめた「Dawning」とは何が違うのか。それは「BABEL」が初めて9mmが9mmのことを歌ったアルバムだからである。それはバンドがこうした状況に置かれたからこそそうした歌詞になった(しようと思ったのではなくて、自然に出てきた)。それはこれまでの活動が書かせたものであるし、「BABEL」はそうして4人がこれまでの活動を経て積み上げてきた9mmの巨大なシンボルなのである。
ガラスの街のアリス
https://youtu.be/uY-QrSbVRW8
8. Familia / sumika
先日、とんねるずのみなさんのおかげでした。内の人気コーナーであった「細かすぎて伝わらないモノマネ王決定戦」が最終回を迎えた。そのコーナーにかつて「驚異の素人」「モノマネ王子」として出演していたのが、このバンドのキーボードの小川貴之であるが、彼は途中で「普通の社会人になるため」と言って番組を卒業し、とんねるずや関根勤から「お笑いの道に進まないのか~」と惜しまれるほどの逸材であった。
しかしながら彼がもしあの時に「こっちで食べていける!」と決意してモノマネ芸人になっていたとしたら、sumikaに加入することがなかったわけだし、もし彼がsumikaに加入していなかったら、今やお茶の間にまで流れることになったこのアルバムが世に出ることすらなかった。
それぐらい小川のキーボードはこのバンドのポップさ、キャッチーさという面においては欠かせないものになっているし、そうしたポップさやキャッチーさが最も表に出ていても、このバンドの音楽とライブから「熱さ」「人間らしさ」をとことん感じられるのは、片岡がこのバンドの前にやっていたのがパンクバンドだったからで、そうした各メンバーの持つ要素が見事に融合したこのアルバムは、確かに「いつフルアルバム出すんだ?」と言われまくりながらも来るべきタイミングが来るまでは出したくなかった、という言葉通りに今しか出せないアルバムになった。
Lovers
https://youtu.be/FFITBgsyVr4
7. にゅ~うぇいぶ / キュウソネコカミ
キュウソネコカミは見た目やバンドのイメージからは想像できないくらいにメンバーそれぞれが様々な音楽を聴いている(ドラムのソゴウにいたっては、アメリカのThe FoalsというインディバンドのTシャツをたまに着ている)し、そうした様々な音楽の要素を自分たちのバンドにしっかりと取り入れられるようなそれぞれの演奏力の高さや器用さをも兼ね備えた、実に音楽的なバンドなのである。
しかし、そうした面を持っているがゆえに、世間からの声に反応して、自らの最大の持ち味から遠ざかろうとしてしまったりというストラグルをしてしまう(技術がないバンドなら自分たちのできることしかやらないので、逆にそうした声に惑わされることがない)のだが、かつての「キュウソネコカミ」や「ウィーアーインディーズバンド!!」に通じる今作の1曲目である「5RATS」は
「上澄みしか見てないやつらに言われっぱなしです
声が痛いほどに届く ミスったら袋叩きだ
実力でねじ伏せるしかないぜ わくわくしてるんだ
舐めてる態度にゃキレる 真顔の奴らにゃ衝撃与えたい」
などの、自分たちのやり方で生きていくという覚悟に満ちたフレーズのマシンガンのごときな畳み掛けである。
じゃあやっぱりキュウソネコカミのやり方っていうと、世間への皮肉っぽい面白い曲?とも思いがちだが、もちろんそうした曲もありながらも、このバンドの最大の芯は、銀杏BOYZやサンボマスターをリスペクトしていること(今でも客としてライブに来ている)からわかるような、ありのままの自分の姿を全力でさらけ出す、アルバム最後の「わかってんだよ」のような熱さである。
と色々書きながらも、アルバムの歌詞カードに入っている、ヤマサキセイヤのセルフライナーノーツが他のレビューなんか不必要なくらいに素晴らしいので、これから聴いてみようという方はCDを買って、レビューを読みながら聴いた方が絶対いいです。
メンヘラちゃん
https://youtu.be/Nal2-SeMy7c
6. Dim The Lights / MONOEYES
パンク・メロコアバンドの活動の仕方としては、他ジャンルの音楽を取り入れて進化をしていくか、ひたすらにメロディに磨きをかけていくかのどちらかである。
ということをかつて某ライターの方が言っていたが、ELLEGARDENは確実に後者のタイプであったのに対し、the HIATUSは前者。ではMONOEYESは?と聞かれたら、ある意味では難解さすら感じる部分もあるthe HIATUSの反動的な意味もあるバンドなだけに間違いなく後者であり、その通りに今作は前作の「A Mirage In The Sun」からさらにメロディを磨き上げたアルバムと言える。
しかしながら先行シングル「Get Up」からも顕著だったように、パンク要素はやや減退しているのだが、今作でそのパンク要素を担っているのは、ベースのスコットが作った曲である。もともとは細美武士のソロプロジェクトとして始まったMONOEYESは、もはや完全にこの4人でしか成り立たないようなバンドになったし、結局のところ細美武士のバンドは全てそうした、このメンバーでしかあり得ないバンドになる。
来年、MONOEYESとしてはリリースはしないことを本人は早くも口にしていたが、このアルバムの曲は夏の野外で聴くのが本当に似合っていただけに、リリースはなくても夏フェス出演だけはお願いします。
Free Throw
https://youtu.be/dQVl8urlE2o
5. BOOTLEG / 米津玄師
このタームでの米津玄師の活動は、散々いろんなところで言われているように、他者の存在によって進んできた。このアルバムはその他者との関わりの集大成であるかのように、菅田将暉や池田エライザ、さらにはKing Gnuの常田などの客演陣がクレジットされており、DAOKOとのコラボシングルであった「打上花火」、初音ミクのイベントのために制作された「砂の惑星」、タイアップありきの「ピースサイン」や「ナンバーナイン」など、たった独りきりだったからこそ架空の設定や登場人物が必要だったデビューアルバムの「diorama」からは100万光年くらい遠いところまで、あっという間にたどり着いてしまった。
とはいえ、現在の世界のポップミュージックのトレンドであるUSのR&Bを取り入れた楽曲が多いこともあってか、「diorama」「YANKEE」「Bremen」のように、たった1回アルバムを通して聴いただけで、
「これはもう今年はこれ以上のアルバムはないだろう」
と思えるくらいに美しいメロディの曲が並んだアルバムには個人的には思えず、リリース年で全てぶっちぎりの1位だった前作までの3作と比べるとこのくらいの位置になってしまうが、それはもはやこの男の音楽に対するハードルが見上げても見えないくらいに高くそびえ立ち過ぎてしまったんだろうか。様々な音楽への入り口になるという面は今までのアルバムで最も大きいが。
春雷
https://youtu.be/zkNzxsaCunU
4. FREEDOM / BRADIO
革ジャンを着ているバンドはほぼ100%ロックンロールをやっているし、アロハシャツを着ているバンドはほぼ100%サーフミュージックやハワイアンをやっている。ではボーカルがアフロ、というとやはりファンクをやってるバンドなんだろうな(同じアフロであるレキシも根底にあるのはファンクだし)という意味ではボーカルの真行寺がアフロであるBRADIOはわかりやすいくらいに見た目からして「僕たちはファンクバンドです!」と宣言しているようなバンドである。
だがコテコテの濃厚なファンクとなるとそうした音楽を好きな人たちだけに向けたものになってしまいがちだが、BRADIOはこの「FREEDOM」でそうしたファンクが好きな人たちだけには止まらないようなところに足を踏み入れている。それは世界中の古い音楽から最新の音楽までを並列に聴けて、その中からファンクをチョイスし、2017年を生きている日本のバンドマンとしての視座がこのアルバムには詰まっており、ファンクであるけれども現在の日本のバンドミュージックを聴いている人たちの耳にも違和感なく馴染んでいく。
そしてこのバンドの音楽は今やそうしたバンドシーンにすら止まらないところまで届いている。先日のプロ野球の国際試合で大活躍した、西武ライオンズの外崎選手の応援歌が、普段は西武ライオンズの試合を見ないような野球ファンたちから「あのノリの良い、頭から離れなくなって歌わずにはいられなくなる応援歌はなんなんだ!?」と一気に話題になった。その応援歌がこのBRADIOの「Flyers」(前作アルバム収録曲だが)であった。つまりこのバンドの音楽は音楽が生活の中心にないような人たちのところにまで浸透し始めた。
何年か前に某有名神社にバンドのスタッフが書いたと思われる「BRADIOのみんなと一緒に武道館まで行けますように」という絵馬があったのを見たことがあるのだが、その願いはもうすぐ実現する。
-Freedom-
https://youtu.be/n0AkKVDmdtM
3. 地方都市のメメント・モリ / amazarashi
「死を想いながら生きる」(メメント・モリ)というのは難しい。どうしたって楽しいことだけやって生きていきたいから。
でもあのバンドだっていつか終わる日が来るし、今近くにいる大切な人も、憧れてきたステージの上に立つあの人も、世界のどこかで暮らす全く知らない人も、いつか必ず死んでしまう。
「悲しみ一つも残さないで」別れられたらどんなに楽だろうか、とも思えど、その人との思い出が多ければ多いほど、最後の瞬間に悲しみは襲ってきてしまう。
それでもこの音楽は消えてなくなることはない。いつか生み出した人たちや、こうして今聴いている我々がいなくなったとしても。
前作「世界収束ニ一一六」ほどにはシリアスな重さはないが、それでもやはりamazarashiのアルバムを聴く時は気軽な気持ちでは聴けない。今からこのアルバムの世界の中に入っていく、という覚悟を持って最後まで聴けるような状態でなければ、このアルバムの再生ボタンは押せない。
フィロソフィー
https://youtu.be/Bg_UIwjYnMQ
2. NEW TRIBE / a flood of circle
ロックンロールバンドはどの時代においても地下のライブハウスにはある程度の数はおれど、2000年代後半からTHE BAWDIESとこのa flood of circleが早くもシーンに浮上してきたのは、他のロックンロールバンドたちよりも多くの人たちに届くような楽曲とスタイルを持っていたからだが、その当時に予想していた位置にフラッドはまだたどり着いていないどころか、そこまで大きく状況が飛躍したとも言いづらい。それはひとえにあまりにもメンバーの入れ替わりが多過ぎたことにより、リセットボタンを押しまくってきたというバンド活動が試練の日々そのものだったからなのだが、それでも全く止まることもめげることもなく、デカいことをぶち上げるのがフラッドというバンドである。
だからこそ佐々木亮介は毎回のようにアルバムを「マジで日本が変わる。最高傑作」と言うのだが、今回もタイトルからして「NEW TRIBE」というぶち上げっぷり。じゃあ果たして内容は亮介の言う通りなのかと言うと、最高傑作かどうかは個々人のアルバムへの思い入れなんかによって変わってくるが、間違いなくこれまでのフラッドを更新するようなアルバムであり、特にタイトル曲からは、デカいところで俺たちのロックンロールという旗を突き刺してやるんだ、という強い決意が感じられる。
そしてこのアルバムを名作と決定付けているのは、ラストの「Honey Moon Song」。これまでにもこのバンドは数々の名バラードを生んできたが、その最新系。決して激しいロックンロールばかりでなく、こうした曲が書けるのはスピッツがルーツにある亮介だからこそである。
「月に吠える」、「月面のプール」、そして「Honey Moon Song」という月をテーマにした名曲たち。人類が宇宙旅行に行けるようになったら、真っ先に月に行って、この曲たちを演奏するライブが見たい。それまで、じいさんになっても転がり続けてくれ。
NEW TRIBE
https://youtu.be/0Ml5Pi-kDC0
1. ぼなぺてぃっ!!! / The Mirraz
まずこのアルバムを年間ベストディスクの1位にしている人は数えられるくらいしかいないであろう。それは内容が良くないとか、聴く人を選ぶ、とかの意味ではなく、そもそも聴いている人の絶対数がめちゃくちゃ少ないからである。だからこそ、もしこれを見てこのアルバムを聴いたという人が1人でもいたのならば、わざわざこんな長文、駄文を書き連ねた甲斐があったというものである。
というくらいにもはや忘れ去られてしまったバンド、The Mirraz。しかしながら今年、ミイラズはフルアルバム3枚、ミニアルバム2枚、シングル4枚(配信含む)というとんでもない(おそらく今年最もリリースしたアーティストだろう)リリースペースで活動した。
その皮切りになったのがこの「ぼなぺてぃっ!!!」だが、どの辺りが1位にするくらいの名盤なのかと言うと、これまで怒りなどの感情はよく歌詞にしてきたが、心の奥底の感情やバンドの状況のことを歌詞にすることは全くなかった畠山が、「夢見る少年は夢を見るなり」という曲で、
「負けたんだ 負けてしまったんだ」
とバンドの状況を素直に歌詞にしながらも、
「まだ終わってない」
「デカいステージをいつもイメージしてるんだ」
とこのバンドを諦めていない己のリアルな心境を歌っていること。
ワンマンではZeppクラスも即完、フェスに出れば1万人規模のステージも満員、ミュージックステーションにも出演と、シーンを掻き回しまくっていた時からまだ3~4年しか経っていない。しかし今では200人くらいのキャパすら即完しないというくらいの規模にまで落ち着いてしまった。だがこの曲を聴くと、ライブに来なくなった人たちも、まだミイラズを知らない人たちも連れて、もう一回デカいステージのところまで行こうと思える。今まで、ミイラズの曲でここまで感動した曲は他になかった。
このアルバムでミイラズは「マジか。と つーか、E.P.」から続けていたEDMを取り入れたロックサウンドに終わりを告げ、ガレージロックに回帰した。それはEDMが合わなかったからではない。この「ぼなぺてぃっ!!!」でそのスタイルは完成したからである。
2017年、最も良かったアルバムにして、最も聴いてもらいたいと思うアルバム。
ペ・ル・ソ・ナ ~邪魔しないでよ~
https://youtu.be/il3t1D5C6Lw
・2017年の10曲
荒野を歩け / ASIAN KUNG-FU GENERATION
夢見る少年は夢を見るなり / The Mirraz
Honey Moon Song / a flood of circle
大人になれない / Shout it out
イト / クリープハイプ
ハッピーウエディング前ソング / ヤバイTシャツ屋さん
骨 / 銀杏BOYZ
Summer Spot / KICK THE CAN CREW
明日、また / [Alexandros]
Squall / 04 Limited Sazabys
・表彰2017
MVP: The Mirraz
新人王: teto
最優秀公演賞: 銀杏BOYZ @日本武道館 10/13
・総評
2017年は大本命的な作品こそ不在で、去年以上に上位は迷った結果だが、20位以内に入れたアルバムはほとんどが「アーティストが自身の持ち味や武器をしっかり見つめ直した」という内容のものが強かった印象。
そんな中でベストアルバムでも1位にしたThe Mirrazは触れた通りにフルアルバム3枚、ミニアルバム2枚、シングル4枚をリリースし、しかもツアーも箇所は少ないながらもしっかり行うというとんでもない活躍を見せたため、作品、ライブのクオリティも含めてダントツのMVP。
一方で新人は各メディアで推されているような、おいしくるメロンパンもSaucy DogもSIX LOUNGEもどこかもう一つ物足りない、というところで、今後への期待も込めて、「dystopia」で衝動を炸裂させまくっていたtetoに。ただ、新人王とするには阪神の上園が取った時くらいに満場一致感ではない感じだが。
でもやっぱり2017年は個人的には銀杏BOYZとサンボマスターが武道館でワンマンをやったのを見れた年、ということで深く記憶に刻まれることになるはず。
Next→ 12/28~12/31 COUNTDOWN JAPAN 17/18 @幕張メッセ
まずは2017年の年間ベストディスクを20位から。
20. サイダーガール 「SODA POP FANCLUB 1」
サイダーガールというと、バンド名からも「爽やかなギターロック」というイメージが強いバンドだし、このフルアルバムも「ソーダ」「ポップ」というそうしたイメージ通りのタイトルが冠されており、全体を貫くトーンもやはりその通りなのだが、前半のグランジバンドかと思うほどのギターのノイジーさは、このバンドをそのイメージのみに留めておくにはもったいなく感じるほどのロックバンドとしてのポテンシャルを感じさせる。
でもやっぱり聴き終わった後には、誰かに会いに行きたくなるような爽やかな感情にさせるバンド。
メッセンジャー
https://youtu.be/zbsIpPCL3Go
19. 電波少女 「HEALTH」
フリースタイルがブームになったヒップホップシーンだが、コアかつアンダーグラウンドにいくか、J-POP的な歌モノになるかの二極化がさらに進んだような印象を受ける。
そんな中にあって、電波少女はそのちょうど真ん中、ポップでありながらヒップホップであるという道をいけるような可能性を感じさせる可能性のある2人組である。それは彼らがネットシーンから登場した、という既存のヒップホップグループとはそもそもの出自が違うからというのもあるが、だからこそこのアルバムも従来のヒップホップとはサウンドや聴き心地が全く違うし、ヒップホップが必ずしもストリート出身じゃなくてもできるものである、というのを証明している。
NO NAME.
https://youtu.be/GWPlvImIYoo
18. KAGEKI / アルカラ
アルカラの15周年記念アルバムは、結果的に4人での最後のアルバムになってしまった。田原の脱退はバンドにとっても青天の霹靂だっただけに、そうした意識で制作したアルバムではないが、それでもやはり20年というのを意識したからか、近年の中では最も「アルカラらしい」アルバムになっている。
というとこのアルバムがアルカラの完成形なのかとも思うが、稲村はアルバム発売後に
「気付いたら15年経ってた。でも15年凄いですね、って言われても、はーん?っていう感じ。まだまだドキドキすること、ワクワクすること、楽しいことがある。それをただ待ってるんじゃなくて、自分で捕まえに行きたい」
と語っていた。だからこそ、3人になっても我々をワクワクさせてくれると信じている。
如月に彼女
https://youtu.be/n6M29scDZOc
17. That's Fantastic! / POLYSICS
カヨ脱退後はハヤシ、フミ、ヤノの3人でずっと活動してきたが、POLYSICSの20年の活動の中でメンバーの入れ替わりがかなり多かったバンドである。しかし20年目を迎えた今年、まさか新メンバーが加入するということを予想した人はいただろうか。それくらい例のないような加入劇を果たした、ハヤシの特撮仲間であるナカムラリョウが加わったことにより、「POLYSICSに今までなかったような予想が入りまくっているのに、今までで最もPOLYSICSらしいアルバム」になっているという、どう考えてもPOLYSICSにしか作れないアルバムが生まれてしまった。
ということを最も簡潔かつ的確に表しているアルバムタイトルのセンスも本当に素晴らしい。
That's Fantastic!
https://youtu.be/M8q1T0mzyCo
16. mothers / My Hair is Bad
迷いが一切ない。3人だけでデカい音を鳴らして、椎木が独自の視点で描いた男女の物語を歌にする。他の楽器を入れようとも全くしていないし、もっと壮大なテーマを曲にしよう、というような感じも今の時点では伺えない。(いずれそういう曲もできるかもしれないけど)
つまり、今作もMy Hair is BadがMy Hair is Badたるアルバムであるというのはインディーズ時代から全く変わることはないが、去年の「woman's」があまりに1曲1曲のクオリティが高過ぎたために、ハードルが高くなり過ぎたのも事実。武道館も控えているが、次はもう少しじっくりと制作したアルバムが聴きたい。
復讐
https://youtu.be/SYFN3GuJOQM
15. 東京カランコロン01 / 東京カランコロン
バンドがメジャーからインディーズに戻ると規模が一気に縮小するというのは世の常だが(そもそもavexを選んだ理由が「大好きなTRFと同じレーベルだから」と言っていた段階でヤバい気はしていた)、そうしたバンドがインディーズに戻ってから出すアルバムが自分たちの持ち味を再確認した、メジャー時代よりそのバンドらしいものになるというのもまた世の常である。
ちょっと前まではワンマンをZeppクラスで当たり前にやっていた東京カランコロンもまたその方程式に見事なまでに当てはまってしまったバンドであるが、
「笑うなら笑え、歌いたいから歌う
自分だけのステージ見えたから
進むよ 明日へ、明後日へ」
(「どういたしまして」)
という決意を歌えるようになったのは、そうした経験を経てきたから。相変わらずのシュールさやキュートさ、ポップさを持ちながら、今までで今が1番強い。
どういたしまして
https://youtu.be/ioRpq5LezyE
14. NUMBER SEVEN / THE PINBALLS
結成11年目のメジャーデビューという、オールドルーキーなロックンロールバンドである。しかし11年ただなんとなくバンドを続けてきたのか、というと全くそんなことはなく、地道かつ確実に彼らは自分たちの武器を磨いてきた。それはロックンロールというスタイルには不釣り合いなほどの物語性の強い、中世ヨーロッパの小説的な歌詞。インディーズ時代にも「劇場支配人のテーマ」やら「くたばれ専制君主」というタイトルの曲があったが、今回のリード曲のタイトルは「蝙蝠と聖レオンハルト」である。こんなタイトルの曲はロックンロールバンドどころか、日本の音楽の長い歴史の中で聴いたことがないし、レオンハルトという単語を聴いたのはFINAL FANTASY II以来である。
野球ファンとしてオールドルーキーと言われて頭に浮かぶのは、28歳でダイエーにプロ入りした三瀬幸司。三瀬はルーキーイヤーに史上最年長での新人王に輝き、中日で現役を引退するまでに11年も中継ぎとして活躍した。THE PINBALLSもそのくらいにシーンをかき回して欲しい。
蝙蝠と聖レオンハルト
https://youtu.be/7o7LCTaMlHg
13. LEO / 佐々木亮介
a flood of circleとしても生き急いでいるかのようなリリースペースを見せているボーカルの佐々木亮介が、バンド活動と並行してソロアルバムをリリースした。「フラッドとそんなに変わらない感じならソロやる意味なくない?」という懸念は遥か彼方、メンフィスに赴いて現地のソウルミュージックやブルースを生み出してきたミュージシャンたちとともに作られたこの「LEO」は、フラッドが掲げる「ロックンロール」ではなく、やはりソウルやブルース色が強いものになった。
その背景にあるのは、ソロツアーで凄腕メンバーとともに演奏された、アメリカのソウルミュージックやブルース、さらには現代のR&Bに至るまでの佐々木亮介のブラックミュージックへの愛情と憧憬。そして最後に収録された弾き語りでの「無題」は亮介の魂の叫びそのもの。フラッドではなくて、佐々木亮介名義でしか出し得なかった作品。
Strange Dancer
https://youtu.be/iXdrtnMTh34
12. THUNDERBOLT ~帰ってきたサンダーボルト~ / RIZE
活動休止前にリリースされた「K.O.」や「EXPERIENCE」はどこかブレているというか、物足りなさを感じるようなアルバムだった。しかし、活動再開してから各地のフェスやイベントでも衝撃を与えまくった、JESSE、金子ノブアキ、kenken、Rioによる4人編成でのRIZEの7年ぶりのアルバム「THUNDERBOLT ~帰ってきたサンダーボルト~」は、そのライブでの衝撃をそのまま音に封じ込めたような、一片の物足りなさすらないような傑作となった。
そこにはJESSEのThe BONEZや金子ノブアキのソロ、kenkenのDragon Ashを始めとする様々なバンドでのサポートなど、休止期間中に個々がRIZE以外の経験を経たことにより、RIZEでやるべきことが明確になったというのが大きいはず。かつてロックシーンだけでなく、日本の音楽シーン全体に衝撃を与えるデビューを果たしたRIZEによる、カミナリのような一撃。しかもただのカミナリではなく、帰ってきたカミナリ。それは経験やスキルを得たぶん、あの頃よりもはるかに威力が増している。
帰ってきたサンダーボルト
https://youtu.be/bBXHv-8mbHA
11. KICK! / KICK THE CAN CREW
数年前からフェスやイベントではこの3人でライブを行なってきたが、なかなか出なかった再終結後初のアルバムは今年ようやくリリースを迎えた。基本的にコンポーザーはKREVAであるが、活動休止期間中に日本のヒップホップの次元をさらに上に引き上げたKREVAのソロとはやはり感触は全く違う。吉井和哉がソロでイエモンの曲を歌うのと、イエモンが再結成してイエモンの曲を吉井和哉が歌うのが全く違うように、演奏するメンバーによって音そのものが変わるバンドであればそれは非常にわかりやすい。
しかし基本的にDJがトラックを担当するヒップホップというスタイルであるKICK THE CAN CREWがここまでソロとグループで違うというのは、やはりそれぞれの全くタイプの異なる3人のMCの個性があってこそ。1フレーズごとに3人が次々にマイクリレーをしていく「Summer Spot」はその3人の個性が過去最高に融合しており、「アンバランス」や「ユートピア」が持つ切なさも孕んでいるのも合間って、もはや感動すらしてしまうし、過去の曲のキラーフレーズをしのばせまくるMCUのリリックセンスは活動休止を経たからこそ。
千%
https://youtu.be/wFKvOPQyVL0
10. ミカヅキの航海 / さユり
デビュー以降、名曲シングルを連発しまくってきたシンガーソングライター、さユり。配信も含めるとアルバム前に5枚もシングルをリリースしているし、カップリングに「弾き語りver.」という曲も入っていたりしたので、そうした曲のリアレンジも含めた、既発曲のオンパレードのベストアルバム的な内容になるかと思いきや、それは半分正解で半分外れであった。
半分外れというのはシングル曲こそ網羅しているが、全14曲というボリュームであるために新曲が半分を占めたこと、半分正解というのはクオリティ的には1stアルバムにしてベストアルバムと言っていいくらいの楽曲しか入っていないということである。
とかくRADWIMPSの野田洋次郎が提供した「フラレガイガール」や、アニメタイアップであり梶浦由記が手がけた「それは小さな光のような」が注目されがちだが、このアルバムの最大の聴きどころはそれら提供曲よりも圧倒的な名曲である、さユり自身が作詞作曲した曲である。だからこそこのアルバムはそれら提供シングル曲を上回る、オリコンデイリーチャート初登場1位という、とんでもない結果を残した。それだけに、次は全曲自身が作詞作曲したアルバムが聴きたい。
十億年
https://youtu.be/CUnIza2lr90
9. BABEL / 9mm Parabellum Bullet
メンバーそれぞれが作った曲を持ち寄るという、滝が負傷中だからこその状況下で制作された前作「Waltz on Life Line」リリース時のインタビューで菅原卓郎は
「作ってる時は、これはもしかしかたら失敗かもしれないと思った」
と、決して全てに満足したアルバムではなかったことを素直に明かしていた。
だからこその「作曲:滝、作詞:卓郎」というこれまでで最も多くの曲を生み出してきた9mmの制作タッグのみですぐさまアルバムを作るという選択肢はある意味必然的でもあった。
意図的ではなく、「出来てしまった超傑作」の「Revolutionary」、9mmが9mmらしさを取り戻そうとした「Dawning」の2枚が自分は9mm最大の傑作アルバムだと思っているのだが、「BABEL」はその2枚とは違う。「滝と卓郎」というコンビで作ることを想定した段階で「Revolutionary」とは違うが、同じように9mmらしさを見つめた「Dawning」とは何が違うのか。それは「BABEL」が初めて9mmが9mmのことを歌ったアルバムだからである。それはバンドがこうした状況に置かれたからこそそうした歌詞になった(しようと思ったのではなくて、自然に出てきた)。それはこれまでの活動が書かせたものであるし、「BABEL」はそうして4人がこれまでの活動を経て積み上げてきた9mmの巨大なシンボルなのである。
ガラスの街のアリス
https://youtu.be/uY-QrSbVRW8
8. Familia / sumika
先日、とんねるずのみなさんのおかげでした。内の人気コーナーであった「細かすぎて伝わらないモノマネ王決定戦」が最終回を迎えた。そのコーナーにかつて「驚異の素人」「モノマネ王子」として出演していたのが、このバンドのキーボードの小川貴之であるが、彼は途中で「普通の社会人になるため」と言って番組を卒業し、とんねるずや関根勤から「お笑いの道に進まないのか~」と惜しまれるほどの逸材であった。
しかしながら彼がもしあの時に「こっちで食べていける!」と決意してモノマネ芸人になっていたとしたら、sumikaに加入することがなかったわけだし、もし彼がsumikaに加入していなかったら、今やお茶の間にまで流れることになったこのアルバムが世に出ることすらなかった。
それぐらい小川のキーボードはこのバンドのポップさ、キャッチーさという面においては欠かせないものになっているし、そうしたポップさやキャッチーさが最も表に出ていても、このバンドの音楽とライブから「熱さ」「人間らしさ」をとことん感じられるのは、片岡がこのバンドの前にやっていたのがパンクバンドだったからで、そうした各メンバーの持つ要素が見事に融合したこのアルバムは、確かに「いつフルアルバム出すんだ?」と言われまくりながらも来るべきタイミングが来るまでは出したくなかった、という言葉通りに今しか出せないアルバムになった。
Lovers
https://youtu.be/FFITBgsyVr4
7. にゅ~うぇいぶ / キュウソネコカミ
キュウソネコカミは見た目やバンドのイメージからは想像できないくらいにメンバーそれぞれが様々な音楽を聴いている(ドラムのソゴウにいたっては、アメリカのThe FoalsというインディバンドのTシャツをたまに着ている)し、そうした様々な音楽の要素を自分たちのバンドにしっかりと取り入れられるようなそれぞれの演奏力の高さや器用さをも兼ね備えた、実に音楽的なバンドなのである。
しかし、そうした面を持っているがゆえに、世間からの声に反応して、自らの最大の持ち味から遠ざかろうとしてしまったりというストラグルをしてしまう(技術がないバンドなら自分たちのできることしかやらないので、逆にそうした声に惑わされることがない)のだが、かつての「キュウソネコカミ」や「ウィーアーインディーズバンド!!」に通じる今作の1曲目である「5RATS」は
「上澄みしか見てないやつらに言われっぱなしです
声が痛いほどに届く ミスったら袋叩きだ
実力でねじ伏せるしかないぜ わくわくしてるんだ
舐めてる態度にゃキレる 真顔の奴らにゃ衝撃与えたい」
などの、自分たちのやり方で生きていくという覚悟に満ちたフレーズのマシンガンのごときな畳み掛けである。
じゃあやっぱりキュウソネコカミのやり方っていうと、世間への皮肉っぽい面白い曲?とも思いがちだが、もちろんそうした曲もありながらも、このバンドの最大の芯は、銀杏BOYZやサンボマスターをリスペクトしていること(今でも客としてライブに来ている)からわかるような、ありのままの自分の姿を全力でさらけ出す、アルバム最後の「わかってんだよ」のような熱さである。
と色々書きながらも、アルバムの歌詞カードに入っている、ヤマサキセイヤのセルフライナーノーツが他のレビューなんか不必要なくらいに素晴らしいので、これから聴いてみようという方はCDを買って、レビューを読みながら聴いた方が絶対いいです。
メンヘラちゃん
https://youtu.be/Nal2-SeMy7c
6. Dim The Lights / MONOEYES
パンク・メロコアバンドの活動の仕方としては、他ジャンルの音楽を取り入れて進化をしていくか、ひたすらにメロディに磨きをかけていくかのどちらかである。
ということをかつて某ライターの方が言っていたが、ELLEGARDENは確実に後者のタイプであったのに対し、the HIATUSは前者。ではMONOEYESは?と聞かれたら、ある意味では難解さすら感じる部分もあるthe HIATUSの反動的な意味もあるバンドなだけに間違いなく後者であり、その通りに今作は前作の「A Mirage In The Sun」からさらにメロディを磨き上げたアルバムと言える。
しかしながら先行シングル「Get Up」からも顕著だったように、パンク要素はやや減退しているのだが、今作でそのパンク要素を担っているのは、ベースのスコットが作った曲である。もともとは細美武士のソロプロジェクトとして始まったMONOEYESは、もはや完全にこの4人でしか成り立たないようなバンドになったし、結局のところ細美武士のバンドは全てそうした、このメンバーでしかあり得ないバンドになる。
来年、MONOEYESとしてはリリースはしないことを本人は早くも口にしていたが、このアルバムの曲は夏の野外で聴くのが本当に似合っていただけに、リリースはなくても夏フェス出演だけはお願いします。
Free Throw
https://youtu.be/dQVl8urlE2o
5. BOOTLEG / 米津玄師
このタームでの米津玄師の活動は、散々いろんなところで言われているように、他者の存在によって進んできた。このアルバムはその他者との関わりの集大成であるかのように、菅田将暉や池田エライザ、さらにはKing Gnuの常田などの客演陣がクレジットされており、DAOKOとのコラボシングルであった「打上花火」、初音ミクのイベントのために制作された「砂の惑星」、タイアップありきの「ピースサイン」や「ナンバーナイン」など、たった独りきりだったからこそ架空の設定や登場人物が必要だったデビューアルバムの「diorama」からは100万光年くらい遠いところまで、あっという間にたどり着いてしまった。
とはいえ、現在の世界のポップミュージックのトレンドであるUSのR&Bを取り入れた楽曲が多いこともあってか、「diorama」「YANKEE」「Bremen」のように、たった1回アルバムを通して聴いただけで、
「これはもう今年はこれ以上のアルバムはないだろう」
と思えるくらいに美しいメロディの曲が並んだアルバムには個人的には思えず、リリース年で全てぶっちぎりの1位だった前作までの3作と比べるとこのくらいの位置になってしまうが、それはもはやこの男の音楽に対するハードルが見上げても見えないくらいに高くそびえ立ち過ぎてしまったんだろうか。様々な音楽への入り口になるという面は今までのアルバムで最も大きいが。
春雷
https://youtu.be/zkNzxsaCunU
4. FREEDOM / BRADIO
革ジャンを着ているバンドはほぼ100%ロックンロールをやっているし、アロハシャツを着ているバンドはほぼ100%サーフミュージックやハワイアンをやっている。ではボーカルがアフロ、というとやはりファンクをやってるバンドなんだろうな(同じアフロであるレキシも根底にあるのはファンクだし)という意味ではボーカルの真行寺がアフロであるBRADIOはわかりやすいくらいに見た目からして「僕たちはファンクバンドです!」と宣言しているようなバンドである。
だがコテコテの濃厚なファンクとなるとそうした音楽を好きな人たちだけに向けたものになってしまいがちだが、BRADIOはこの「FREEDOM」でそうしたファンクが好きな人たちだけには止まらないようなところに足を踏み入れている。それは世界中の古い音楽から最新の音楽までを並列に聴けて、その中からファンクをチョイスし、2017年を生きている日本のバンドマンとしての視座がこのアルバムには詰まっており、ファンクであるけれども現在の日本のバンドミュージックを聴いている人たちの耳にも違和感なく馴染んでいく。
そしてこのバンドの音楽は今やそうしたバンドシーンにすら止まらないところまで届いている。先日のプロ野球の国際試合で大活躍した、西武ライオンズの外崎選手の応援歌が、普段は西武ライオンズの試合を見ないような野球ファンたちから「あのノリの良い、頭から離れなくなって歌わずにはいられなくなる応援歌はなんなんだ!?」と一気に話題になった。その応援歌がこのBRADIOの「Flyers」(前作アルバム収録曲だが)であった。つまりこのバンドの音楽は音楽が生活の中心にないような人たちのところにまで浸透し始めた。
何年か前に某有名神社にバンドのスタッフが書いたと思われる「BRADIOのみんなと一緒に武道館まで行けますように」という絵馬があったのを見たことがあるのだが、その願いはもうすぐ実現する。
-Freedom-
https://youtu.be/n0AkKVDmdtM
3. 地方都市のメメント・モリ / amazarashi
「死を想いながら生きる」(メメント・モリ)というのは難しい。どうしたって楽しいことだけやって生きていきたいから。
でもあのバンドだっていつか終わる日が来るし、今近くにいる大切な人も、憧れてきたステージの上に立つあの人も、世界のどこかで暮らす全く知らない人も、いつか必ず死んでしまう。
「悲しみ一つも残さないで」別れられたらどんなに楽だろうか、とも思えど、その人との思い出が多ければ多いほど、最後の瞬間に悲しみは襲ってきてしまう。
それでもこの音楽は消えてなくなることはない。いつか生み出した人たちや、こうして今聴いている我々がいなくなったとしても。
前作「世界収束ニ一一六」ほどにはシリアスな重さはないが、それでもやはりamazarashiのアルバムを聴く時は気軽な気持ちでは聴けない。今からこのアルバムの世界の中に入っていく、という覚悟を持って最後まで聴けるような状態でなければ、このアルバムの再生ボタンは押せない。
フィロソフィー
https://youtu.be/Bg_UIwjYnMQ
2. NEW TRIBE / a flood of circle
ロックンロールバンドはどの時代においても地下のライブハウスにはある程度の数はおれど、2000年代後半からTHE BAWDIESとこのa flood of circleが早くもシーンに浮上してきたのは、他のロックンロールバンドたちよりも多くの人たちに届くような楽曲とスタイルを持っていたからだが、その当時に予想していた位置にフラッドはまだたどり着いていないどころか、そこまで大きく状況が飛躍したとも言いづらい。それはひとえにあまりにもメンバーの入れ替わりが多過ぎたことにより、リセットボタンを押しまくってきたというバンド活動が試練の日々そのものだったからなのだが、それでも全く止まることもめげることもなく、デカいことをぶち上げるのがフラッドというバンドである。
だからこそ佐々木亮介は毎回のようにアルバムを「マジで日本が変わる。最高傑作」と言うのだが、今回もタイトルからして「NEW TRIBE」というぶち上げっぷり。じゃあ果たして内容は亮介の言う通りなのかと言うと、最高傑作かどうかは個々人のアルバムへの思い入れなんかによって変わってくるが、間違いなくこれまでのフラッドを更新するようなアルバムであり、特にタイトル曲からは、デカいところで俺たちのロックンロールという旗を突き刺してやるんだ、という強い決意が感じられる。
そしてこのアルバムを名作と決定付けているのは、ラストの「Honey Moon Song」。これまでにもこのバンドは数々の名バラードを生んできたが、その最新系。決して激しいロックンロールばかりでなく、こうした曲が書けるのはスピッツがルーツにある亮介だからこそである。
「月に吠える」、「月面のプール」、そして「Honey Moon Song」という月をテーマにした名曲たち。人類が宇宙旅行に行けるようになったら、真っ先に月に行って、この曲たちを演奏するライブが見たい。それまで、じいさんになっても転がり続けてくれ。
NEW TRIBE
https://youtu.be/0Ml5Pi-kDC0
1. ぼなぺてぃっ!!! / The Mirraz
まずこのアルバムを年間ベストディスクの1位にしている人は数えられるくらいしかいないであろう。それは内容が良くないとか、聴く人を選ぶ、とかの意味ではなく、そもそも聴いている人の絶対数がめちゃくちゃ少ないからである。だからこそ、もしこれを見てこのアルバムを聴いたという人が1人でもいたのならば、わざわざこんな長文、駄文を書き連ねた甲斐があったというものである。
というくらいにもはや忘れ去られてしまったバンド、The Mirraz。しかしながら今年、ミイラズはフルアルバム3枚、ミニアルバム2枚、シングル4枚(配信含む)というとんでもない(おそらく今年最もリリースしたアーティストだろう)リリースペースで活動した。
その皮切りになったのがこの「ぼなぺてぃっ!!!」だが、どの辺りが1位にするくらいの名盤なのかと言うと、これまで怒りなどの感情はよく歌詞にしてきたが、心の奥底の感情やバンドの状況のことを歌詞にすることは全くなかった畠山が、「夢見る少年は夢を見るなり」という曲で、
「負けたんだ 負けてしまったんだ」
とバンドの状況を素直に歌詞にしながらも、
「まだ終わってない」
「デカいステージをいつもイメージしてるんだ」
とこのバンドを諦めていない己のリアルな心境を歌っていること。
ワンマンではZeppクラスも即完、フェスに出れば1万人規模のステージも満員、ミュージックステーションにも出演と、シーンを掻き回しまくっていた時からまだ3~4年しか経っていない。しかし今では200人くらいのキャパすら即完しないというくらいの規模にまで落ち着いてしまった。だがこの曲を聴くと、ライブに来なくなった人たちも、まだミイラズを知らない人たちも連れて、もう一回デカいステージのところまで行こうと思える。今まで、ミイラズの曲でここまで感動した曲は他になかった。
このアルバムでミイラズは「マジか。と つーか、E.P.」から続けていたEDMを取り入れたロックサウンドに終わりを告げ、ガレージロックに回帰した。それはEDMが合わなかったからではない。この「ぼなぺてぃっ!!!」でそのスタイルは完成したからである。
2017年、最も良かったアルバムにして、最も聴いてもらいたいと思うアルバム。
ペ・ル・ソ・ナ ~邪魔しないでよ~
https://youtu.be/il3t1D5C6Lw
・2017年の10曲
荒野を歩け / ASIAN KUNG-FU GENERATION
夢見る少年は夢を見るなり / The Mirraz
Honey Moon Song / a flood of circle
大人になれない / Shout it out
イト / クリープハイプ
ハッピーウエディング前ソング / ヤバイTシャツ屋さん
骨 / 銀杏BOYZ
Summer Spot / KICK THE CAN CREW
明日、また / [Alexandros]
Squall / 04 Limited Sazabys
・表彰2017
MVP: The Mirraz
新人王: teto
最優秀公演賞: 銀杏BOYZ @日本武道館 10/13
・総評
2017年は大本命的な作品こそ不在で、去年以上に上位は迷った結果だが、20位以内に入れたアルバムはほとんどが「アーティストが自身の持ち味や武器をしっかり見つめ直した」という内容のものが強かった印象。
そんな中でベストアルバムでも1位にしたThe Mirrazは触れた通りにフルアルバム3枚、ミニアルバム2枚、シングル4枚をリリースし、しかもツアーも箇所は少ないながらもしっかり行うというとんでもない活躍を見せたため、作品、ライブのクオリティも含めてダントツのMVP。
一方で新人は各メディアで推されているような、おいしくるメロンパンもSaucy DogもSIX LOUNGEもどこかもう一つ物足りない、というところで、今後への期待も込めて、「dystopia」で衝動を炸裂させまくっていたtetoに。ただ、新人王とするには阪神の上園が取った時くらいに満場一致感ではない感じだが。
でもやっぱり2017年は個人的には銀杏BOYZとサンボマスターが武道館でワンマンをやったのを見れた年、ということで深く記憶に刻まれることになるはず。
Next→ 12/28~12/31 COUNTDOWN JAPAN 17/18 @幕張メッセ
