米津玄師 TOUR2017 Fogbound @パシフィコ横浜 12/14
- 2017/12/15
- 00:16
新曲を解禁すれば朝の情報番組がこぞって取り上げ、特集が組まれるようにすらなるという、もはや国民的アーティストの領域に踏み込みつつある、米津玄師。
先月待望のニューアルバム「BOOTLEG」をリリースし、ツアーがその発売日からスタートするという、ものすごいスピード感というか、制作が押したのか、というスケジュールだが、そのツアーももはや後半戦。今回のツアーは全国のホールを廻るという規模の大きなものになっており、関東圏ではすでに大宮ソニックシティでも2daysで行われている。規模としてはソニックシティよりもはるかに大きいが、当たり前のようにチケットは即完。
19時過ぎに会場が暗転すると、真っ暗な中、メンバーがステージに登場して大きな歓声が上がる。アルバム発売前に新曲を披露した国際フォーラムの時と同様に、米津玄師以外のサポートの3人はそれぞれ台座の上に立ち、その台座の下には機材全てをまるごと乗せたボード状の台座、さらに上には格子状のセット、背面には三角形の鏡のようなものが張り巡らされている。
暗闇が少しずつ灯りに照らされると、同期サウンドをふんだんに使った、ライブタイトルになっている「fogbound」の不穏なサウンドが精悍にホールに響き渡る。ギターを持たずにマイクスタンドで歌唱に徹する米津玄師は時折腕を組みながら歌ったりという、ツアーを経てきたからなのか余裕のようなものを感じる。アルバムでフィーチャーされている池田エライザはやはり登場することはなかったが。
「米津玄師です!よろしくお願いしまーす!!」
と、もはや元気がウリの若手芸人かのようなテンションの高さで米津玄師が挨拶すると、スタンドからマイクを外し、ステージを歩き回りながら歌う「砂の惑星」へ。国際フォーラムの時は後に公開されたMVが流れていたが、今回はそれはなし。米津玄師は台座から降りて最前列の観客を指差したりし、神聖な雰囲気だった「fogbound」からは一変。ボカロカルチャーに全く触れてこなかった自分としてはこの曲のメッセージはそこまで考えさせられるものではなく、こうしてアッパーにライブが盛り上がる曲という立ち位置で捉えている。
「ありがとうございまーす!!!」
と、「このテンションの振り切れ具合はなんなんだろうか?今回のツアーはみんなこんな感じなんだろうか?」と逆に違和感すら覚えてしまうくらいのテンションは、米津玄師が自身の声が非常に良く出ていることから来るものだったのだろうか?実際、須藤優(ベース)がイントロで高々と一本指を掲げてから始まった「ナンバーナイン」でもサビの
「美しくあれるように」
というフレーズのファルセットが、力任せに声を張って乗り切るというものではなく、その通りに美しく広がっていった。国際フォーラムの2日目でもあまりの声の調子の良さにビックリしたが、これが基本というレベルまで来たのならば、ライブそのものの満足度はだいぶ変わってくる。
米津玄師が初めてギター(アコギ)を持って歌われたのは「BOOTLEG」のオープニング曲である「飛燕」であるが、この曲ではギターの中島宏もアコギを弾くという、ともするとアコースティックな雰囲気を感じてしまいそうな形態であるのに、ここまでの曲で最もバンド感を感じるのは、ここまではサンプリングパッドをメインに叩いていた堀正輝がこの曲ではドラムセットを叩きまくっているから。堀はDAOKOなどのサポート時はサンプリングパッドのみを叩くことだってあるし、そもそも須藤とともにサポートを務めていた80kidzがダンスミュージックユニットだっただけに、「BOOTLEG」のバンド編成とサウンドを解体したポップミュージックをライブで形にするのにこんなに適した人材はいないが、そもそものドラムの演奏があってこそそうした引き出しを手に入れたのだということがよくわかる。
また、この曲では床のボードに緑色の光が鮮やかに輝くという演出があったのだが、通常はそうした演出は背面にスクリーンを設けて行われるものだけに、床をスクリーンに使うという演出のアイデアには驚かされるし、それがさらに背面の三角形の鏡に反射されることで、正面からでも、上から見ても美しい光の演出を楽しむことができる。このセットがホールでのライブに向けて作られたことで、こうして米津玄師がホールでライブをする意義がよくわかるものになっている。
それは米津玄師の新たなポップの扉を開いた「春雷」でも同様で、床と背面を原色の光が目まぐるしく駆け抜けていく。
しかしそんな演出も少し様変わりしたのは「かいじゅうのマーチ」で背面に照明を映すためのスクリーンが設置された時。夕暮れを思わせるような、オレンジに青が混ざり合った照明は、この曲のポップな中に潜む寂寞感を見事に可視化している。
ここまではひたすらに「BOOTLEG」の世界に浸るようにアルバムの収録曲を連発してきたが、「かいじゅうのマーチ」のアウトロから轟音セッションに展開し、一瞬の静寂の後に米津玄師が歌い出したのは、至上の名曲「アイネクライネ」。この曲をこうして万全の状態と言えるような声の出方で聴けると曲の持つ美しいメロディが完璧に伝わってくる。去年のSWEET LOVE SHOWERでの声が全く出ないことによる観客の大合唱も美しいものだったが。
国際フォーラムではオープニングを担っていた「orion」では背面ではなく、床に眩い星空が広がり、それが反射して背面にも映る。まるで米津玄師の足元には宇宙が広がっているかのようで、こうした星や空は高いところで映すものという固定概念すらも揺さぶられてしまう演出。またこの曲では須藤がキーボードを弾いており、そうした部分からもこのメンバーで米津玄師のライブが成り立っているということがよくわかる。
米津玄師のライブは実にテンポ良く進んでいく。合間にMCを入れたりすることもないし、ギターを持ったり置いたりするのもスムーズだ。何よりもほとんど水を飲んだりせずにこうして曲を連発できるというのが、これからさらに経験を積んで鍛えられればすごいボーカリストになるんじゃないか、と思うところだが、ここでようやく一息つくようなMC。
「俺は夏が大好きだから、寒すぎて冬眠したい(笑)起きたら春になってて欲しいけど、ここでこうして出会えたんだから、今日は美しい空間をみんなで作りましょう!」
と、緩いようでいてやはりテンションは高めで突入した「LOSER」ではやはりMVのように米津玄師がリズムに合わせて体を動かしながらハンドマイクで歌う。自分はこの曲が「BOOTLEG」を貫く米津玄師の新しいポップミュージックとしてのサウンドの始まりの曲だと思っているが、その後の「ゴーゴー幽霊船」からは一転して力強いバンドサウンドで押しまくっていく。ちなみに「ゴーゴー幽霊船」のカウントも今までにないくらいのテンションの高さであった。
音源ではKing Gnuの常田大希、八十八ケ所巡礼のマーガレット廣井、元パスピエのやおたくやという米津玄師の意外な飲み仲間たちによって演奏されていた「爱丽丝」はこのサポートメンバーたちでも米津玄師のバンド音楽を愛しながらボカロPとしてのエッセンスを含んだ独特なロックサイドの魅力を存分に発揮。さらに須藤や中島が手拍子を促す「ドーナツホール」というテンポの速いバンドサウンドが続く流れは非常によく合っていた。というよりこの2曲がここまで相性が良く繋がる曲だったというのはこの日のライブの収穫の一つかもしれない。
米津玄師が歌う前に人差し指と中指を頭上に差し出すと観客も同じように指を差し出す「ピースサイン」、さらにBUMP OF CHICKENやRADWIMPSという米津玄師が聴いて育ってきたアーティストへの敬意とアンサーを込めた(最初は「天体観測」のギターリフを入れようとすらしたらしい)、「BOOTLEG」で最もストレートな曲と言っていい「Nighthawks」へ…と思いきや、歌い出す瞬間に米津玄師がメンバーに演奏中止を指示。
「何が起きたのか?」とざわつく場内(基本的にライブで歌詞を間違えたり飛んだりすることはよくあるので、そんなくらいではライブを止めないというのがわかるだけに)。
「4カポでした!」
と、ギターにつけるカポタストの位置がズレていたことによって演奏を止めたのだが、ともすれば流れが寸断されてマイナスなイメージになりかねないこのミスすらも全くそう感じなかったのは間違いなくここまでのライブが素晴らしいものだったからであろう。
今まではバンドサウンドで押しまくる展開=ライブのクライマックスというのがお決まりだったが、今回はその後にステージ前に紗幕をかけ、そこに映像が映し出され、米津玄師とメンバーは紗幕の向こうで演奏する「love」からクライマックスに向かう。映像自体は国際フォーラムの時と変わらない、大きな木とハート型の風船が印象的なものだが、この映像が曲をさらに壮大なものにしている。
もともとはDAOKOとのコラボ曲であった「打上花火」はアルバム同様に米津玄師ソロバージョンとして披露。やはりバンドでの生演奏がメインということで、打ち込みメインのDAOKOのライブで聴くのとはだいぶ感触が違うが、お互いにライブでソロでやっているこの曲を生でデュエットする日が見れる日は来るのだろうか。
暗闇の中で演奏するメンバーの存在がまさに光のようですらあった「Moonlight」でこの最終盤に削ぎ落とされまくったサウンドのダークな雰囲気が会場を包むと、最後に演奏されたのは、俳優の菅田将暉とコラボして話題を呼んだ「灰色と青」。やはり菅田将暉の登場はなく、米津玄師のソロバージョンとなったが、ゲストが登場するとついついそのことにばかり目や集中力がいってしまうだけに、こうして米津玄師だけで歌うと曲そのものをしっかり聴くことができる。
アンコールでは国際フォーラムでのライブ時に話題になった美しい映像が今回も使われた「ゆめくいしょうじょ」をバラードでありながらもエモーショナルに響かせる。紗幕越しの映像ではあるが、米津玄師がギターを弾かずにマイクスタンドで歌う姿は見えたので、中島がアコギを弾いていたのだろうか。
するとこのタイミングでいきなり新曲が来月スタートする石原さとみ主演ドラマの主題歌になることが発表される。タイトルが「Lemon」ということは決まっているみたいだが、曲はまだ出来上がっていないらしい。ということはライブで披露されるのは武道館が最初ということになるのだろうか。
そして米津玄師と中島による、お互いにポケモンやどうぶつの森をやっているというゲーム話から、
「仙台で食べた白味噌のカツがめちゃくちゃ美味しかった」
という中島が「パシフィコ」を「パシッと」にかけてMCをしたことで、須藤から褒められるという微笑ましい空気に。にもかかわらず米津玄師はなぜか全くMCの言葉が出てこず、観客から「かわいいー!」と言われると、
「知ってる!」
と返す。だがあまりにも前半のテンションの高さと比べると落差がありすぎただけに、いろいろとヤバいものに手を出していないだろうか、という余計な心配をしてしまう。
そして米津玄師がアコギを手にすると、最後に演奏されたのは国際フォーラムの時と同様に「Neighbourhood」。Oasisなどを彷彿とさせる王道のメロディを持ち、こうしてライブでも大事な位置で演奏される曲なだけに、なぜアルバム曲ではなく、カップリング曲にしたんだろうか、とも思ってしまう。
演奏が終わると、
「米津玄師です。よろしくお願いします!じゃねぇや、ありがとうございました!」
と、なぜそんなとこを間違える!?というところを間違える天然さを見せながら、客席両サイドにピックを投げ込んでステージを去って行った。
ロックバンドのライブばかりを見に行っていると、忘れられない瞬間というのがいくつもある。あの日、あの場所であのバンドがあの曲を演奏していた瞬間、のように。それはその瞬間があまりにも素晴らしいものだったから未だに脳裏に焼き付いているのだが、何度も見てきた米津玄師のライブではそうした瞬間というのはあまりなかったりする。
それは前作のツアーまではやはり「ライブが音源を大きく上回る」というレベルにまで達していなかったからそうした瞬間が残っていなかったのだが、国際フォーラムからこの日までで、米津玄師は確実にボーカリスト、パフォーマーとして大きな進化を果たしているし、「米津玄師でしかできないライブ」の形を見つけつつある。
だからこそ武道館はこの日よりもはるかに忘れられない瞬間をたくさん見せてくれるだろうという期待しかない。
「BOOTLEG」がこれまでのアルバムの中で1番好きじゃないものであったとしても。
1.fogbound
2.砂の惑星
3.ナンバーナイン
4.飛燕
5.春雷
6.かいじゅうのマーチ
7.アイネクライネ
8.orion
9.LOSER
10.ゴーゴー幽霊船
11.爱丽丝
12.ドーナツホール
13.ピースサイン
14.Nighthawks
15.love
16.打上花火
17.Moonlight
18.灰色と青
encore
19.ゆめくいしょうじょ
20.Neighbourhood
春雷
https://youtu.be/zkNzxsaCunU
Next→ 12/20 [Alexandros] @Zepp Tokyo
先月待望のニューアルバム「BOOTLEG」をリリースし、ツアーがその発売日からスタートするという、ものすごいスピード感というか、制作が押したのか、というスケジュールだが、そのツアーももはや後半戦。今回のツアーは全国のホールを廻るという規模の大きなものになっており、関東圏ではすでに大宮ソニックシティでも2daysで行われている。規模としてはソニックシティよりもはるかに大きいが、当たり前のようにチケットは即完。
19時過ぎに会場が暗転すると、真っ暗な中、メンバーがステージに登場して大きな歓声が上がる。アルバム発売前に新曲を披露した国際フォーラムの時と同様に、米津玄師以外のサポートの3人はそれぞれ台座の上に立ち、その台座の下には機材全てをまるごと乗せたボード状の台座、さらに上には格子状のセット、背面には三角形の鏡のようなものが張り巡らされている。
暗闇が少しずつ灯りに照らされると、同期サウンドをふんだんに使った、ライブタイトルになっている「fogbound」の不穏なサウンドが精悍にホールに響き渡る。ギターを持たずにマイクスタンドで歌唱に徹する米津玄師は時折腕を組みながら歌ったりという、ツアーを経てきたからなのか余裕のようなものを感じる。アルバムでフィーチャーされている池田エライザはやはり登場することはなかったが。
「米津玄師です!よろしくお願いしまーす!!」
と、もはや元気がウリの若手芸人かのようなテンションの高さで米津玄師が挨拶すると、スタンドからマイクを外し、ステージを歩き回りながら歌う「砂の惑星」へ。国際フォーラムの時は後に公開されたMVが流れていたが、今回はそれはなし。米津玄師は台座から降りて最前列の観客を指差したりし、神聖な雰囲気だった「fogbound」からは一変。ボカロカルチャーに全く触れてこなかった自分としてはこの曲のメッセージはそこまで考えさせられるものではなく、こうしてアッパーにライブが盛り上がる曲という立ち位置で捉えている。
「ありがとうございまーす!!!」
と、「このテンションの振り切れ具合はなんなんだろうか?今回のツアーはみんなこんな感じなんだろうか?」と逆に違和感すら覚えてしまうくらいのテンションは、米津玄師が自身の声が非常に良く出ていることから来るものだったのだろうか?実際、須藤優(ベース)がイントロで高々と一本指を掲げてから始まった「ナンバーナイン」でもサビの
「美しくあれるように」
というフレーズのファルセットが、力任せに声を張って乗り切るというものではなく、その通りに美しく広がっていった。国際フォーラムの2日目でもあまりの声の調子の良さにビックリしたが、これが基本というレベルまで来たのならば、ライブそのものの満足度はだいぶ変わってくる。
米津玄師が初めてギター(アコギ)を持って歌われたのは「BOOTLEG」のオープニング曲である「飛燕」であるが、この曲ではギターの中島宏もアコギを弾くという、ともするとアコースティックな雰囲気を感じてしまいそうな形態であるのに、ここまでの曲で最もバンド感を感じるのは、ここまではサンプリングパッドをメインに叩いていた堀正輝がこの曲ではドラムセットを叩きまくっているから。堀はDAOKOなどのサポート時はサンプリングパッドのみを叩くことだってあるし、そもそも須藤とともにサポートを務めていた80kidzがダンスミュージックユニットだっただけに、「BOOTLEG」のバンド編成とサウンドを解体したポップミュージックをライブで形にするのにこんなに適した人材はいないが、そもそものドラムの演奏があってこそそうした引き出しを手に入れたのだということがよくわかる。
また、この曲では床のボードに緑色の光が鮮やかに輝くという演出があったのだが、通常はそうした演出は背面にスクリーンを設けて行われるものだけに、床をスクリーンに使うという演出のアイデアには驚かされるし、それがさらに背面の三角形の鏡に反射されることで、正面からでも、上から見ても美しい光の演出を楽しむことができる。このセットがホールでのライブに向けて作られたことで、こうして米津玄師がホールでライブをする意義がよくわかるものになっている。
それは米津玄師の新たなポップの扉を開いた「春雷」でも同様で、床と背面を原色の光が目まぐるしく駆け抜けていく。
しかしそんな演出も少し様変わりしたのは「かいじゅうのマーチ」で背面に照明を映すためのスクリーンが設置された時。夕暮れを思わせるような、オレンジに青が混ざり合った照明は、この曲のポップな中に潜む寂寞感を見事に可視化している。
ここまではひたすらに「BOOTLEG」の世界に浸るようにアルバムの収録曲を連発してきたが、「かいじゅうのマーチ」のアウトロから轟音セッションに展開し、一瞬の静寂の後に米津玄師が歌い出したのは、至上の名曲「アイネクライネ」。この曲をこうして万全の状態と言えるような声の出方で聴けると曲の持つ美しいメロディが完璧に伝わってくる。去年のSWEET LOVE SHOWERでの声が全く出ないことによる観客の大合唱も美しいものだったが。
国際フォーラムではオープニングを担っていた「orion」では背面ではなく、床に眩い星空が広がり、それが反射して背面にも映る。まるで米津玄師の足元には宇宙が広がっているかのようで、こうした星や空は高いところで映すものという固定概念すらも揺さぶられてしまう演出。またこの曲では須藤がキーボードを弾いており、そうした部分からもこのメンバーで米津玄師のライブが成り立っているということがよくわかる。
米津玄師のライブは実にテンポ良く進んでいく。合間にMCを入れたりすることもないし、ギターを持ったり置いたりするのもスムーズだ。何よりもほとんど水を飲んだりせずにこうして曲を連発できるというのが、これからさらに経験を積んで鍛えられればすごいボーカリストになるんじゃないか、と思うところだが、ここでようやく一息つくようなMC。
「俺は夏が大好きだから、寒すぎて冬眠したい(笑)起きたら春になってて欲しいけど、ここでこうして出会えたんだから、今日は美しい空間をみんなで作りましょう!」
と、緩いようでいてやはりテンションは高めで突入した「LOSER」ではやはりMVのように米津玄師がリズムに合わせて体を動かしながらハンドマイクで歌う。自分はこの曲が「BOOTLEG」を貫く米津玄師の新しいポップミュージックとしてのサウンドの始まりの曲だと思っているが、その後の「ゴーゴー幽霊船」からは一転して力強いバンドサウンドで押しまくっていく。ちなみに「ゴーゴー幽霊船」のカウントも今までにないくらいのテンションの高さであった。
音源ではKing Gnuの常田大希、八十八ケ所巡礼のマーガレット廣井、元パスピエのやおたくやという米津玄師の意外な飲み仲間たちによって演奏されていた「爱丽丝」はこのサポートメンバーたちでも米津玄師のバンド音楽を愛しながらボカロPとしてのエッセンスを含んだ独特なロックサイドの魅力を存分に発揮。さらに須藤や中島が手拍子を促す「ドーナツホール」というテンポの速いバンドサウンドが続く流れは非常によく合っていた。というよりこの2曲がここまで相性が良く繋がる曲だったというのはこの日のライブの収穫の一つかもしれない。
米津玄師が歌う前に人差し指と中指を頭上に差し出すと観客も同じように指を差し出す「ピースサイン」、さらにBUMP OF CHICKENやRADWIMPSという米津玄師が聴いて育ってきたアーティストへの敬意とアンサーを込めた(最初は「天体観測」のギターリフを入れようとすらしたらしい)、「BOOTLEG」で最もストレートな曲と言っていい「Nighthawks」へ…と思いきや、歌い出す瞬間に米津玄師がメンバーに演奏中止を指示。
「何が起きたのか?」とざわつく場内(基本的にライブで歌詞を間違えたり飛んだりすることはよくあるので、そんなくらいではライブを止めないというのがわかるだけに)。
「4カポでした!」
と、ギターにつけるカポタストの位置がズレていたことによって演奏を止めたのだが、ともすれば流れが寸断されてマイナスなイメージになりかねないこのミスすらも全くそう感じなかったのは間違いなくここまでのライブが素晴らしいものだったからであろう。
今まではバンドサウンドで押しまくる展開=ライブのクライマックスというのがお決まりだったが、今回はその後にステージ前に紗幕をかけ、そこに映像が映し出され、米津玄師とメンバーは紗幕の向こうで演奏する「love」からクライマックスに向かう。映像自体は国際フォーラムの時と変わらない、大きな木とハート型の風船が印象的なものだが、この映像が曲をさらに壮大なものにしている。
もともとはDAOKOとのコラボ曲であった「打上花火」はアルバム同様に米津玄師ソロバージョンとして披露。やはりバンドでの生演奏がメインということで、打ち込みメインのDAOKOのライブで聴くのとはだいぶ感触が違うが、お互いにライブでソロでやっているこの曲を生でデュエットする日が見れる日は来るのだろうか。
暗闇の中で演奏するメンバーの存在がまさに光のようですらあった「Moonlight」でこの最終盤に削ぎ落とされまくったサウンドのダークな雰囲気が会場を包むと、最後に演奏されたのは、俳優の菅田将暉とコラボして話題を呼んだ「灰色と青」。やはり菅田将暉の登場はなく、米津玄師のソロバージョンとなったが、ゲストが登場するとついついそのことにばかり目や集中力がいってしまうだけに、こうして米津玄師だけで歌うと曲そのものをしっかり聴くことができる。
アンコールでは国際フォーラムでのライブ時に話題になった美しい映像が今回も使われた「ゆめくいしょうじょ」をバラードでありながらもエモーショナルに響かせる。紗幕越しの映像ではあるが、米津玄師がギターを弾かずにマイクスタンドで歌う姿は見えたので、中島がアコギを弾いていたのだろうか。
するとこのタイミングでいきなり新曲が来月スタートする石原さとみ主演ドラマの主題歌になることが発表される。タイトルが「Lemon」ということは決まっているみたいだが、曲はまだ出来上がっていないらしい。ということはライブで披露されるのは武道館が最初ということになるのだろうか。
そして米津玄師と中島による、お互いにポケモンやどうぶつの森をやっているというゲーム話から、
「仙台で食べた白味噌のカツがめちゃくちゃ美味しかった」
という中島が「パシフィコ」を「パシッと」にかけてMCをしたことで、須藤から褒められるという微笑ましい空気に。にもかかわらず米津玄師はなぜか全くMCの言葉が出てこず、観客から「かわいいー!」と言われると、
「知ってる!」
と返す。だがあまりにも前半のテンションの高さと比べると落差がありすぎただけに、いろいろとヤバいものに手を出していないだろうか、という余計な心配をしてしまう。
そして米津玄師がアコギを手にすると、最後に演奏されたのは国際フォーラムの時と同様に「Neighbourhood」。Oasisなどを彷彿とさせる王道のメロディを持ち、こうしてライブでも大事な位置で演奏される曲なだけに、なぜアルバム曲ではなく、カップリング曲にしたんだろうか、とも思ってしまう。
演奏が終わると、
「米津玄師です。よろしくお願いします!じゃねぇや、ありがとうございました!」
と、なぜそんなとこを間違える!?というところを間違える天然さを見せながら、客席両サイドにピックを投げ込んでステージを去って行った。
ロックバンドのライブばかりを見に行っていると、忘れられない瞬間というのがいくつもある。あの日、あの場所であのバンドがあの曲を演奏していた瞬間、のように。それはその瞬間があまりにも素晴らしいものだったから未だに脳裏に焼き付いているのだが、何度も見てきた米津玄師のライブではそうした瞬間というのはあまりなかったりする。
それは前作のツアーまではやはり「ライブが音源を大きく上回る」というレベルにまで達していなかったからそうした瞬間が残っていなかったのだが、国際フォーラムからこの日までで、米津玄師は確実にボーカリスト、パフォーマーとして大きな進化を果たしているし、「米津玄師でしかできないライブ」の形を見つけつつある。
だからこそ武道館はこの日よりもはるかに忘れられない瞬間をたくさん見せてくれるだろうという期待しかない。
「BOOTLEG」がこれまでのアルバムの中で1番好きじゃないものであったとしても。
1.fogbound
2.砂の惑星
3.ナンバーナイン
4.飛燕
5.春雷
6.かいじゅうのマーチ
7.アイネクライネ
8.orion
9.LOSER
10.ゴーゴー幽霊船
11.爱丽丝
12.ドーナツホール
13.ピースサイン
14.Nighthawks
15.love
16.打上花火
17.Moonlight
18.灰色と青
encore
19.ゆめくいしょうじょ
20.Neighbourhood
春雷
https://youtu.be/zkNzxsaCunU
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