サンボマスター [1st 日本武道館2017] ~そのたてものに用がある~ @日本武道館 12/3
- 2017/12/03
- 23:04
サンボマスターとの出会いは、そのちょっと前に出会った、盟友バンドGOING STEADYの時ほど劇的なものではなかった。
GOING STEADYをプッシュしまくっていた雑誌の発行人にして、オナニーマシーンというとんでもない名前のバンドのボーカルであるイノマーという男が設立したレーベルから、そのオナニーマシーンとのスプリットアルバムという形で世に登場したのがサンボマスターで、イノマーのその時のサンボマスターの売り文句は、
「ボーカルの山口は東日本一のブサイク」
という、キワモノバンドの域を出ないようなものであった。
しかしながらそのキワモノイメージとは裏腹にサンボマスターはパンクやソウルミュージックの要素を強く含んだロックンロールというあまりに真っ当な音楽と、見ているものの胸を熱くさせるライブでみるみるうちに人気を獲得して行く。
その熱狂ぶりがピークに達したのが、やはりドラマ「電車男」の主題歌であり、今でもバンドの最大の代表曲である「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」リリース時であるが、その時やバンド10周年というタイミングなど、やろうと思えばやれたはずの動員を持ちながらもあえてやろうとしなかった日本武道館ワンマンについにサンボマスターが挑む。
かつてZepp Tokyoで2daysライブを行なったり、武道館はやらないけど東京でそれに見合うくらいの規模でライブをしていた時には、
「これだけ人が入るんなら武道館やればいいだろ、って思うかもしれないけど…やっぱりライブハウスの人なんだよ。俺たちもあんたたちも。そうだろ?」
と言っていたが、こうして武道館でやると決めた背景には、近年サンボマスターよりもさらに長い活動歴を誇るベテランバンドたちが武道館で記念碑的なライブを行うようになってきており、その姿を見てきたからなのかもしれない。また決まったタイミングはそんなに変わらないだろうが、今年は10月に最大の盟友バンドである銀杏BOYZも武道館を行なっており、偶然と呼ぶにはあまりにも出来すぎている2017年の下半期。
武道館の入り口には先輩バンドから近年対バンを果たした後輩バンド、同世代の盟友バンド、さらにはKREVAやスチャダラパーという異ジャンルのアーティストに加え、古坂大魔王や武井壮という異業種の人まで、本当に様々な人から花が届いており、サンボマスターの人脈の広さを感じさせる。
ワンマンのスタートとして17時というのはかなり早めの時間ではあるが、これは間違いなく遠方から来てくれる人へのバンドからの配慮だと思われる。そんな中、17時をちょっと過ぎたあたりで会場が暗転すると、それだけで怒号のような歓声が上がり、おなじみ「モンキーマジック」のSEが鳴ると、このライブのビジュアルである幕が後ろにある以外はスクリーンすらもないというシンプルなステージに手拍子まで発生してメンバー3人を迎える。
全席指定のライブとなると、どうしても普段のライブハウスよりは大人しくなりがちだし、そうなった場面を何度も見てきただけにそれはそういうものだとも思っていたが、この日はもうこの登場の瞬間から全くそうはならなかった。大人しめどころか、ライブハウスと全く変わらない熱気に満ち溢れていた。それはこの日客席にいた人たち誰もが、この日を本当に楽しみにしていたということである。
「SEありがとうございます!武道館準備できてんのか!1曲目は1stアルバムの最初の曲!」
と山口がいつもと変わらぬテンションの高さでまくしたてると、「愛しき日々」からスタート。この時点でもはやこの日のライブが伝説になることは確定したようなものであるが、木内も間奏で「アー!」と思いっきり叫ぶ。するとサビでは普段の武道館のライブではアンコールの最後の曲でなるような、客電がついて場内が明るくなるという演出を1曲目からやってしまうといういきなりのクライマックス感。これは序盤の数曲でも続いたが。
山口のギターのイントロだけで大歓声があがったのは、この日のライブタイトルの元ネタにもなっている、バンド初期の代名詞的な名曲「そのぬくもりに用がある」で、山口はギターソロを弾きまくりながら、
「やべぇ!俺めっちゃギター上手え!」
と武道館だからといって全く緊張感を見せず、普段の力を発揮していることがわかる。
さらに「歌声よおこれ」では文字通りに歌声が響き合って大合唱となるのだが、このバンドにとっては初期の曲となる3曲の連発だけでもう胸がいっぱいになっていた。
前述の通り、サンボマスターは武道館をやらないバンドだと思っていたし、そもそもこの曲たちが世に出た頃は、まだ武道館でやれるような規模のバンドになるなんてことすら全く想像できなかったから。そんな時の曲たちが、この武道館の日の丸の下のステージで、まるでこの時を待っていたかのように鳴らされている。その光景を見るだけで本当に感動してしまう。
「誰だ、武道館ではできないって思ってるやつは。ロックンロールはできるだろ!」
と言って、畳み掛けるように今年のツアーからはクライマックスではなく前半に演奏されるようになった「できっこないを やらなくちゃ」では
「アイワナビーア君の全て!」
のフレーズを一斉に叫ぶ。本当にとんでもない力を持った曲になった。
木内がイントロから「オイ!オイ!オイ!オイ!」とスティックを叩きながら煽る最新アルバム「YES」からの「このラブソングはパンクナンバー」もそれまでの曲と全く変わらぬ熱さで鳴らされ、山口の熱い前フリを挟みながら「可能性」、「光のロック」とこれまでライブのキラーチューンとなってきた曲たちがテンポ良く次々に演奏されていく。
「俺たちは今日、ロックンロールやりにきた。パンクロックやりにきた。ソウルミュージックをやりにきた。
でもそれだけじゃねぇ。俺たちはお前たちの誰にも言えない孤独とか不安を終わらせに来たんだ。見せてくれよ。あんたらを見てると、ブルーハーツやRCサクセションやGREEN DAYや10-FEETや銀杏BOYZを見てるようだよ。そんなあんたらをロックンロールって呼ばせてくれ!」
と山口がまくしたててから演奏されたのは、
「誰にも言えない孤独だとか 君の不安を終わらせに来た
君が生きるなら僕も生きるよ ロックンロールイズくたばるものか」
とまさに山口の言葉そのものが歌われ、音楽のジャンルとしてのロックンロールだけではなく、それを愛する人たち全てに生きていて欲しいと願う「ロックンロール イズ ノットデッド」。ツアーでも中盤に演奏されるようになっていたとはいえ、この日はアンコールや終盤で演奏されるだろうと思っていたが、この位置で演奏されたことによって、常にピーク、常にクライマックスという空気が全く途切れることはなかった。
一気にダンスロックの要素が強くなる「愛してる 愛して欲しい」が始まった瞬間にはメンバーの後ろの幕が落ちて、もとよりシンプルなステージはより一層シンプルに。
最新作からの「Sad Town,Hot Love」で少し落ち着いた空気になり、その空気が続くのかと思いきや、山口のイントロのギターが再び熱狂を呼び戻す「美しき人間の日々」。記念すべきメジャーでの最初のシングルになった曲だが、山口が歌う後ろで近藤と木内がひたすら叫んでいるというサビの構成はデビュー時のバンドに漲るエネルギーそのもの。
「もう今日は14歳くらいの人から55歳くらいの人まで集まってくれて。男はみんな童貞ですけど(笑)、女性の方はみんな読モかなんかですか?(笑)
そんな14歳の人も55歳の人も、17歳18歳になって、青春になったつもりで踊り狂っちゃいましょうよ!」
と「青春狂騒曲」に突入したのだが、かつてサンボマスターのライブに来ていたのはおじさんばかりだった。それはサンボマスターがその世代の人たちが思い描いたロックンロールを鳴らすバンドであり、それを発見した人たちが集まっていたのかもしれないが、近年は本当に若い人が増えたし、親子で来ているような人も見かけるようになった。今でもライブに来ている年上の人たちの姿を見かけるのは本当に心強いし、おそらくフェスでサンボマスターのライブを見て音楽に触れて凄さに気付いてワンマンまで来るようになったであろう若い人たちを見ると、サンボマスターの音楽が世代を限定しないものであるという事実に改めて気付かされる。この規模でここまで幅広い年代が集まるバンドってそうはいないし、自分がこれからもっと歳を重ねたとしても、サンボマスターのライブにはずっと先輩たちがいっぱいいるんだろうな、とも思える。
すぐさま突入した「世界を変えさせておくれよ」では山口が
「あれ?みなさんは武道館では盛り上がらない協会のみなさんですか?(笑)
違うでしょ!今日は伝説のミラクルを起こす1日でしょうよ!」
とさらなる熱狂を煽り、「全ての夜と全ての朝にタンバリンを鳴らすのだ」「手紙 ~来たるべき音楽として~」というソウルミュージック色の濃い、大ブレイク後にリリースされた曲を続けて演奏。
だが当時この曲たちが収録された大作「僕と君の全てをロックンロールと呼べ」が出た時、「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」でサンボマスターを知った人たちに敢えて背中を向けるような、言ってしまえばやや迷走しているように見えたし、当時のライブではサビ以外で山口が曲のメロディをちゃんと歌わずにひたすらに語りまくっているという様もそれに拍車をかけているように見えた。大ブレイクを果たして世間の目に触れるようになったことで感じるようになったストレスやプレッシャー(しかもそうして世間に存在を知られたことにより、お笑い番組ではサンボマスターのビジュアルをネタにしたブサンボマスターというグループの曲がリリースされ、しかもヒットしたことにより、ファンの怒りや悲しみを招きまくった)があったのかもしれないし、だからこそこの時期の曲はあまりライブでやらなくなったのかもしれない。
だがこの日演奏されたこの曲たちからは、そうした時期もあったからこそ、今こうして自分たちはここに立ってライブができているという堂々とした誇りのようなものを感じたし、混迷を極めていたように見えていたが、音楽そのものは本当に真っ直ぐなものを作っていたということが改めてわかる。
「武道館っていうのは俺にとっては人様のライブを見に来る場所で。ポール・マッカートニーとか、BECKとか、怒髪天とかフラワーカンパニーズとか。こうして武道館でやるって決めたのはやっぱり2011年のこと(震災)もあったからなんだけど、あの年にやってた曲を次にやるんだけど、しばらくやってなくて。でも武道館やるんならやりたいなと思った曲で…。親でも友達でも飼ってたワンちゃんでも好きなアイドルでも、あんたらの本当に大切な人を思い浮かべながら聴いて欲しい」
と、それまでのまくしたてる様子とは異なり、しっかりと言葉を選ぶようにして山口が語りかけてから演奏された「ラブソング」では最後のサビの前で山口がかなり長い間を置く。我々に大切な人を思う時間を与えるのと同時に、山口もまたいなくなってしまった大切な人たちを思い浮かべていたんだろう。
山口は震災直後のライブで、
「今回の震災で亡くなった人の中には、君のライブに来ていた人や、君の音楽を聴いてた人たちがたくさんいる」
と箭内道彦に言われ、ただ自身の地元である福島が被害にあったというだけではなく、さらに震災に深く向き合うようになったことを明かしていたが、ちょうどその震災を境にしてサンボマスターのライブは変わった。ブレイク直後の混迷から抜け出し、自分たちの音楽で何をすべきか?ということにそれまでよりさらに真剣に向き合うようになった。それがこの日まで続く、自分たちの周りにいる人(それはもちろんこうしてライブに来てくれる人も)にひたすらに「生きていて欲しい」と願うようになった。そうした今のモードはこの曲から始まっているのかもしれない。
しかしそうした感傷的なムードを引きずることなく、複雑なリズムと展開の中、山口が語るように歌詞をまくしたてる最新作の「Stand by me & you」で踊らせると、木内が立ち上がってドラムをぶっ叩く、近年のサンボマスターのテーマの一つである「ミラクル」をテーマに据えた「ミラクルをキミと起こしたいんです」でいよいよ伝説の夜はクライマックスへ向かっていく。
そのクライマックスで演奏されたのはやはり「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」なのだが、もうこれまでに数え切れないくらいに聴いた曲なのに、この日が最も素晴らしいと思えたのはここまでの流れがあるからなのだが、サンボマスターがこの曲を出してブレイクした後も、バンドが望んだようには世界は変わらなかった。世界全体は変わらなかったけど、サンボマスターと出会って己の世界が変わったという人はたくさんいる。そうした人たちがこうしてライブに集まれば、どんなにクソみたいな世の中や社会だったとしても、この場所でだけは「愛と平和」という単語が決して綺麗事や夢物語ではなくなる。それはサンボマスターが続いていく限りはずっとそうなのだろうし、そうして少しずつでもそういう人が増えれば、もしかしたら世界は変わるかもしれない、と思えるようになるのかもしれない。
そして最後にここにいる人たちの全てを肯定するように演奏されたのは、最新アルバムのタイトルでもある「YES」。この曲もそうだが、その前に演奏された「オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで」しかり、決してかつての代表曲ばかりが望まれているのではなく、こうして最新の曲たちがライブの最後を担うようにどんどん更新されてきている。だからこそサンボマスターはブレイク期を経ても決して勢いが衰えることなく、こうして今でも最前線でロックンロールを鳴らすことができている。
アンコール待ちの間には、これまでに数々の熱戦を繰り広げてきた「男ドアホウサンボマスター」が大阪でも開催されることを発表してからメンバーが再び登場。本編よりはかなりリラックスしたというか、プレッシャーから開放されたかのように全員で話し始める。山口はメンバーそれぞれがプロデュースした限定グッズの中で自らが手がけたキャップだけが売れ残っていることに対して2人にグチり始めるが、ツアーでは全く喋っていなかった木内が喋っているのを見るのはかなり久々。
その木内がドラムを叩き始めると、これまでも記念碑的なライブではアンコールで何度も演奏されてきた「朝」で、明日からの日常を生きる全ての人に前を向かせ、
「また絶対ここで会おうぜ。次はライブハウスだけどな、また武道館もやりたいよな。俺はあんたらと一緒に生きていきたいんだ。もうあんたらは4人目のサンボマスターだからよ」
と、武道館がこの一回限りではなく、また何年後かにこうしてここで会えることを予感させながら、最後に演奏されたのは
「心には今太陽や僕に微笑むあなたの顔が
浮かぶから僕は生きれる 心に浮かぶあなたと生きたい」
というフレーズがここにいた全ての人との再会を約束する「あなたといきたい」。
サンボマスターが我々と一緒に生きたいと言ってくれたように、我々もこれからもサンボマスターと一緒に生きていきたい。そんな我々の心に浮かぶのは、きっとこの日のライブのような景色なのだろう。そしてこの日まで生き抜いてきたメンバーや観客を祝福するかのように明るくなった場内を紙吹雪が舞い、演奏が終わると観客をバックに写真撮影をし、近藤と木内が丁寧に客席全体に手を振る中、山口は終演SEのカーティス・メイフィールド「Move On Up」に合わせてダンスを踊り、最後にはこの日が伝説の夜になったのを確信したかのように、ピースサインを掲げてからステージを去って行った。
終わってみれば、武道館だからといってスペシャルゲストも特別な演出もスクリーンすらもないという、いつもと変わらぬライブだったが、それが間違いなく伝説のミラクルなライブになったというのは、サンボマスターがステージに立って演奏すれば、例え30分のフェスでも3時間に及ぶワンマンでも、そのライブが全て伝説になるということ。そんなバンドが他にいるだろうか。しかも見た目はロックスターでもイケメンでもなく、神保町の古本屋にいても全く気づかないような男たちである。だがそれは裏返せば、サンボマスターは音楽的でしかないバンドであるということの証拠。その姿に自分は何度も生きる力を貰ってきた。そしてそれはこれからも。
2017年は自分の中では銀杏BOYZとサンボマスターが武道館で初めてワンマンをやった年として、これから先も生きている限りはずっと記憶され続けるだろう。サンボマスターが2003年の12月3日にデビューして彼らの音楽にのめり込むようになった高校生の頃の自分に一つだけ言いたいことがあるとしたら、「ずっと好きでいるとキツく感じるタイミングもあるだろうけど、それでも信じて聴き続けてさえいれば、今は想像できないくらいに凄い景色を見れるようになるから」ということ。それだけで、この年まで生きてきた意味は確かにあった。それはあのたてものに用があった。
1.愛しき日々
2.そのぬくもりに用がある
3.歌声よおこれ
4.できっこないを やらなくちゃ
5.このラブソングはパンクナンバー
6.可能性
7.光のロック
8.ロックンロール イズ ノットデッド
9.愛してる 愛して欲しい
10.Sad Town,Hot Love
11.美しき人間の日々
12.青春狂騒曲
13.世界を変えさせておくれよ
14.全ての夜と全ての朝にタンバリンを鳴らすのだ
15.手紙 ~来たるべき音楽として~
16.ラブソング
17.Stand by me & you
18.ミラクルをキミと起こしたいんです
19.オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで
20.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
21.YES
encore
22.朝
23.あなたといきたい
Next→ 12/6 amazarashi @舞浜アンフィシアター


GOING STEADYをプッシュしまくっていた雑誌の発行人にして、オナニーマシーンというとんでもない名前のバンドのボーカルであるイノマーという男が設立したレーベルから、そのオナニーマシーンとのスプリットアルバムという形で世に登場したのがサンボマスターで、イノマーのその時のサンボマスターの売り文句は、
「ボーカルの山口は東日本一のブサイク」
という、キワモノバンドの域を出ないようなものであった。
しかしながらそのキワモノイメージとは裏腹にサンボマスターはパンクやソウルミュージックの要素を強く含んだロックンロールというあまりに真っ当な音楽と、見ているものの胸を熱くさせるライブでみるみるうちに人気を獲得して行く。
その熱狂ぶりがピークに達したのが、やはりドラマ「電車男」の主題歌であり、今でもバンドの最大の代表曲である「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」リリース時であるが、その時やバンド10周年というタイミングなど、やろうと思えばやれたはずの動員を持ちながらもあえてやろうとしなかった日本武道館ワンマンについにサンボマスターが挑む。
かつてZepp Tokyoで2daysライブを行なったり、武道館はやらないけど東京でそれに見合うくらいの規模でライブをしていた時には、
「これだけ人が入るんなら武道館やればいいだろ、って思うかもしれないけど…やっぱりライブハウスの人なんだよ。俺たちもあんたたちも。そうだろ?」
と言っていたが、こうして武道館でやると決めた背景には、近年サンボマスターよりもさらに長い活動歴を誇るベテランバンドたちが武道館で記念碑的なライブを行うようになってきており、その姿を見てきたからなのかもしれない。また決まったタイミングはそんなに変わらないだろうが、今年は10月に最大の盟友バンドである銀杏BOYZも武道館を行なっており、偶然と呼ぶにはあまりにも出来すぎている2017年の下半期。
武道館の入り口には先輩バンドから近年対バンを果たした後輩バンド、同世代の盟友バンド、さらにはKREVAやスチャダラパーという異ジャンルのアーティストに加え、古坂大魔王や武井壮という異業種の人まで、本当に様々な人から花が届いており、サンボマスターの人脈の広さを感じさせる。
ワンマンのスタートとして17時というのはかなり早めの時間ではあるが、これは間違いなく遠方から来てくれる人へのバンドからの配慮だと思われる。そんな中、17時をちょっと過ぎたあたりで会場が暗転すると、それだけで怒号のような歓声が上がり、おなじみ「モンキーマジック」のSEが鳴ると、このライブのビジュアルである幕が後ろにある以外はスクリーンすらもないというシンプルなステージに手拍子まで発生してメンバー3人を迎える。
全席指定のライブとなると、どうしても普段のライブハウスよりは大人しくなりがちだし、そうなった場面を何度も見てきただけにそれはそういうものだとも思っていたが、この日はもうこの登場の瞬間から全くそうはならなかった。大人しめどころか、ライブハウスと全く変わらない熱気に満ち溢れていた。それはこの日客席にいた人たち誰もが、この日を本当に楽しみにしていたということである。
「SEありがとうございます!武道館準備できてんのか!1曲目は1stアルバムの最初の曲!」
と山口がいつもと変わらぬテンションの高さでまくしたてると、「愛しき日々」からスタート。この時点でもはやこの日のライブが伝説になることは確定したようなものであるが、木内も間奏で「アー!」と思いっきり叫ぶ。するとサビでは普段の武道館のライブではアンコールの最後の曲でなるような、客電がついて場内が明るくなるという演出を1曲目からやってしまうといういきなりのクライマックス感。これは序盤の数曲でも続いたが。
山口のギターのイントロだけで大歓声があがったのは、この日のライブタイトルの元ネタにもなっている、バンド初期の代名詞的な名曲「そのぬくもりに用がある」で、山口はギターソロを弾きまくりながら、
「やべぇ!俺めっちゃギター上手え!」
と武道館だからといって全く緊張感を見せず、普段の力を発揮していることがわかる。
さらに「歌声よおこれ」では文字通りに歌声が響き合って大合唱となるのだが、このバンドにとっては初期の曲となる3曲の連発だけでもう胸がいっぱいになっていた。
前述の通り、サンボマスターは武道館をやらないバンドだと思っていたし、そもそもこの曲たちが世に出た頃は、まだ武道館でやれるような規模のバンドになるなんてことすら全く想像できなかったから。そんな時の曲たちが、この武道館の日の丸の下のステージで、まるでこの時を待っていたかのように鳴らされている。その光景を見るだけで本当に感動してしまう。
「誰だ、武道館ではできないって思ってるやつは。ロックンロールはできるだろ!」
と言って、畳み掛けるように今年のツアーからはクライマックスではなく前半に演奏されるようになった「できっこないを やらなくちゃ」では
「アイワナビーア君の全て!」
のフレーズを一斉に叫ぶ。本当にとんでもない力を持った曲になった。
木内がイントロから「オイ!オイ!オイ!オイ!」とスティックを叩きながら煽る最新アルバム「YES」からの「このラブソングはパンクナンバー」もそれまでの曲と全く変わらぬ熱さで鳴らされ、山口の熱い前フリを挟みながら「可能性」、「光のロック」とこれまでライブのキラーチューンとなってきた曲たちがテンポ良く次々に演奏されていく。
「俺たちは今日、ロックンロールやりにきた。パンクロックやりにきた。ソウルミュージックをやりにきた。
でもそれだけじゃねぇ。俺たちはお前たちの誰にも言えない孤独とか不安を終わらせに来たんだ。見せてくれよ。あんたらを見てると、ブルーハーツやRCサクセションやGREEN DAYや10-FEETや銀杏BOYZを見てるようだよ。そんなあんたらをロックンロールって呼ばせてくれ!」
と山口がまくしたててから演奏されたのは、
「誰にも言えない孤独だとか 君の不安を終わらせに来た
君が生きるなら僕も生きるよ ロックンロールイズくたばるものか」
とまさに山口の言葉そのものが歌われ、音楽のジャンルとしてのロックンロールだけではなく、それを愛する人たち全てに生きていて欲しいと願う「ロックンロール イズ ノットデッド」。ツアーでも中盤に演奏されるようになっていたとはいえ、この日はアンコールや終盤で演奏されるだろうと思っていたが、この位置で演奏されたことによって、常にピーク、常にクライマックスという空気が全く途切れることはなかった。
一気にダンスロックの要素が強くなる「愛してる 愛して欲しい」が始まった瞬間にはメンバーの後ろの幕が落ちて、もとよりシンプルなステージはより一層シンプルに。
最新作からの「Sad Town,Hot Love」で少し落ち着いた空気になり、その空気が続くのかと思いきや、山口のイントロのギターが再び熱狂を呼び戻す「美しき人間の日々」。記念すべきメジャーでの最初のシングルになった曲だが、山口が歌う後ろで近藤と木内がひたすら叫んでいるというサビの構成はデビュー時のバンドに漲るエネルギーそのもの。
「もう今日は14歳くらいの人から55歳くらいの人まで集まってくれて。男はみんな童貞ですけど(笑)、女性の方はみんな読モかなんかですか?(笑)
そんな14歳の人も55歳の人も、17歳18歳になって、青春になったつもりで踊り狂っちゃいましょうよ!」
と「青春狂騒曲」に突入したのだが、かつてサンボマスターのライブに来ていたのはおじさんばかりだった。それはサンボマスターがその世代の人たちが思い描いたロックンロールを鳴らすバンドであり、それを発見した人たちが集まっていたのかもしれないが、近年は本当に若い人が増えたし、親子で来ているような人も見かけるようになった。今でもライブに来ている年上の人たちの姿を見かけるのは本当に心強いし、おそらくフェスでサンボマスターのライブを見て音楽に触れて凄さに気付いてワンマンまで来るようになったであろう若い人たちを見ると、サンボマスターの音楽が世代を限定しないものであるという事実に改めて気付かされる。この規模でここまで幅広い年代が集まるバンドってそうはいないし、自分がこれからもっと歳を重ねたとしても、サンボマスターのライブにはずっと先輩たちがいっぱいいるんだろうな、とも思える。
すぐさま突入した「世界を変えさせておくれよ」では山口が
「あれ?みなさんは武道館では盛り上がらない協会のみなさんですか?(笑)
違うでしょ!今日は伝説のミラクルを起こす1日でしょうよ!」
とさらなる熱狂を煽り、「全ての夜と全ての朝にタンバリンを鳴らすのだ」「手紙 ~来たるべき音楽として~」というソウルミュージック色の濃い、大ブレイク後にリリースされた曲を続けて演奏。
だが当時この曲たちが収録された大作「僕と君の全てをロックンロールと呼べ」が出た時、「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」でサンボマスターを知った人たちに敢えて背中を向けるような、言ってしまえばやや迷走しているように見えたし、当時のライブではサビ以外で山口が曲のメロディをちゃんと歌わずにひたすらに語りまくっているという様もそれに拍車をかけているように見えた。大ブレイクを果たして世間の目に触れるようになったことで感じるようになったストレスやプレッシャー(しかもそうして世間に存在を知られたことにより、お笑い番組ではサンボマスターのビジュアルをネタにしたブサンボマスターというグループの曲がリリースされ、しかもヒットしたことにより、ファンの怒りや悲しみを招きまくった)があったのかもしれないし、だからこそこの時期の曲はあまりライブでやらなくなったのかもしれない。
だがこの日演奏されたこの曲たちからは、そうした時期もあったからこそ、今こうして自分たちはここに立ってライブができているという堂々とした誇りのようなものを感じたし、混迷を極めていたように見えていたが、音楽そのものは本当に真っ直ぐなものを作っていたということが改めてわかる。
「武道館っていうのは俺にとっては人様のライブを見に来る場所で。ポール・マッカートニーとか、BECKとか、怒髪天とかフラワーカンパニーズとか。こうして武道館でやるって決めたのはやっぱり2011年のこと(震災)もあったからなんだけど、あの年にやってた曲を次にやるんだけど、しばらくやってなくて。でも武道館やるんならやりたいなと思った曲で…。親でも友達でも飼ってたワンちゃんでも好きなアイドルでも、あんたらの本当に大切な人を思い浮かべながら聴いて欲しい」
と、それまでのまくしたてる様子とは異なり、しっかりと言葉を選ぶようにして山口が語りかけてから演奏された「ラブソング」では最後のサビの前で山口がかなり長い間を置く。我々に大切な人を思う時間を与えるのと同時に、山口もまたいなくなってしまった大切な人たちを思い浮かべていたんだろう。
山口は震災直後のライブで、
「今回の震災で亡くなった人の中には、君のライブに来ていた人や、君の音楽を聴いてた人たちがたくさんいる」
と箭内道彦に言われ、ただ自身の地元である福島が被害にあったというだけではなく、さらに震災に深く向き合うようになったことを明かしていたが、ちょうどその震災を境にしてサンボマスターのライブは変わった。ブレイク直後の混迷から抜け出し、自分たちの音楽で何をすべきか?ということにそれまでよりさらに真剣に向き合うようになった。それがこの日まで続く、自分たちの周りにいる人(それはもちろんこうしてライブに来てくれる人も)にひたすらに「生きていて欲しい」と願うようになった。そうした今のモードはこの曲から始まっているのかもしれない。
しかしそうした感傷的なムードを引きずることなく、複雑なリズムと展開の中、山口が語るように歌詞をまくしたてる最新作の「Stand by me & you」で踊らせると、木内が立ち上がってドラムをぶっ叩く、近年のサンボマスターのテーマの一つである「ミラクル」をテーマに据えた「ミラクルをキミと起こしたいんです」でいよいよ伝説の夜はクライマックスへ向かっていく。
そのクライマックスで演奏されたのはやはり「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」なのだが、もうこれまでに数え切れないくらいに聴いた曲なのに、この日が最も素晴らしいと思えたのはここまでの流れがあるからなのだが、サンボマスターがこの曲を出してブレイクした後も、バンドが望んだようには世界は変わらなかった。世界全体は変わらなかったけど、サンボマスターと出会って己の世界が変わったという人はたくさんいる。そうした人たちがこうしてライブに集まれば、どんなにクソみたいな世の中や社会だったとしても、この場所でだけは「愛と平和」という単語が決して綺麗事や夢物語ではなくなる。それはサンボマスターが続いていく限りはずっとそうなのだろうし、そうして少しずつでもそういう人が増えれば、もしかしたら世界は変わるかもしれない、と思えるようになるのかもしれない。
そして最後にここにいる人たちの全てを肯定するように演奏されたのは、最新アルバムのタイトルでもある「YES」。この曲もそうだが、その前に演奏された「オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで」しかり、決してかつての代表曲ばかりが望まれているのではなく、こうして最新の曲たちがライブの最後を担うようにどんどん更新されてきている。だからこそサンボマスターはブレイク期を経ても決して勢いが衰えることなく、こうして今でも最前線でロックンロールを鳴らすことができている。
アンコール待ちの間には、これまでに数々の熱戦を繰り広げてきた「男ドアホウサンボマスター」が大阪でも開催されることを発表してからメンバーが再び登場。本編よりはかなりリラックスしたというか、プレッシャーから開放されたかのように全員で話し始める。山口はメンバーそれぞれがプロデュースした限定グッズの中で自らが手がけたキャップだけが売れ残っていることに対して2人にグチり始めるが、ツアーでは全く喋っていなかった木内が喋っているのを見るのはかなり久々。
その木内がドラムを叩き始めると、これまでも記念碑的なライブではアンコールで何度も演奏されてきた「朝」で、明日からの日常を生きる全ての人に前を向かせ、
「また絶対ここで会おうぜ。次はライブハウスだけどな、また武道館もやりたいよな。俺はあんたらと一緒に生きていきたいんだ。もうあんたらは4人目のサンボマスターだからよ」
と、武道館がこの一回限りではなく、また何年後かにこうしてここで会えることを予感させながら、最後に演奏されたのは
「心には今太陽や僕に微笑むあなたの顔が
浮かぶから僕は生きれる 心に浮かぶあなたと生きたい」
というフレーズがここにいた全ての人との再会を約束する「あなたといきたい」。
サンボマスターが我々と一緒に生きたいと言ってくれたように、我々もこれからもサンボマスターと一緒に生きていきたい。そんな我々の心に浮かぶのは、きっとこの日のライブのような景色なのだろう。そしてこの日まで生き抜いてきたメンバーや観客を祝福するかのように明るくなった場内を紙吹雪が舞い、演奏が終わると観客をバックに写真撮影をし、近藤と木内が丁寧に客席全体に手を振る中、山口は終演SEのカーティス・メイフィールド「Move On Up」に合わせてダンスを踊り、最後にはこの日が伝説の夜になったのを確信したかのように、ピースサインを掲げてからステージを去って行った。
終わってみれば、武道館だからといってスペシャルゲストも特別な演出もスクリーンすらもないという、いつもと変わらぬライブだったが、それが間違いなく伝説のミラクルなライブになったというのは、サンボマスターがステージに立って演奏すれば、例え30分のフェスでも3時間に及ぶワンマンでも、そのライブが全て伝説になるということ。そんなバンドが他にいるだろうか。しかも見た目はロックスターでもイケメンでもなく、神保町の古本屋にいても全く気づかないような男たちである。だがそれは裏返せば、サンボマスターは音楽的でしかないバンドであるということの証拠。その姿に自分は何度も生きる力を貰ってきた。そしてそれはこれからも。
2017年は自分の中では銀杏BOYZとサンボマスターが武道館で初めてワンマンをやった年として、これから先も生きている限りはずっと記憶され続けるだろう。サンボマスターが2003年の12月3日にデビューして彼らの音楽にのめり込むようになった高校生の頃の自分に一つだけ言いたいことがあるとしたら、「ずっと好きでいるとキツく感じるタイミングもあるだろうけど、それでも信じて聴き続けてさえいれば、今は想像できないくらいに凄い景色を見れるようになるから」ということ。それだけで、この年まで生きてきた意味は確かにあった。それはあのたてものに用があった。
1.愛しき日々
2.そのぬくもりに用がある
3.歌声よおこれ
4.できっこないを やらなくちゃ
5.このラブソングはパンクナンバー
6.可能性
7.光のロック
8.ロックンロール イズ ノットデッド
9.愛してる 愛して欲しい
10.Sad Town,Hot Love
11.美しき人間の日々
12.青春狂騒曲
13.世界を変えさせておくれよ
14.全ての夜と全ての朝にタンバリンを鳴らすのだ
15.手紙 ~来たるべき音楽として~
16.ラブソング
17.Stand by me & you
18.ミラクルをキミと起こしたいんです
19.オレたちのすすむ道を悲しみで閉ざさないで
20.世界はそれを愛と呼ぶんだぜ
21.YES
encore
22.朝
23.あなたといきたい
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