今年はMONOEYESのアルバムをリリースし、ツアーも行なった細美武士が、今度はthe HIATUSでツアーを敢行。恐ろしいスケジュールであるが、今回は特になんのリリースもないツアーであるだけに、各地でいろんな曲が演奏されているということ、さらには先日のACIDMANのフェス「SAI」でのライブが短い時間だったにもかかわらず素晴らしいものだったために期待は高い。
この日は新木場STUDIO COASTでの2daysの初日。
トライバルなビートのSEが流れてメンバーが歩幅大きくステージに登場すると、1曲目は1stアルバムからの「堕天」というかなり意外な選曲。しかしこれが早くもダイバーの応酬という凄まじい盛り上がりとなり、細美武士も
「「堕天」の盛り上がりは今日がツアーで1番だった」
というほど。ただでさえチケットの競争率が高い東京公演。みんなthe HIATUSの音に飢えていたのがすごくよくわかる。
バチバチのメンバーの音がぶつかりながらも一つに溶け合っていく圧倒的な迫力の「The Flare」からはライブではおなじみの、先日の「SAI」でも演奏されていた曲たちだが、このあたりの初期の曲のダイバーが絶えることのない会場の熱気を見ていると、the HIATUSがELLEGARDENが活動休止した後に始動したバンドという、ついつい普段は忘れてしまいがちな事実を思い出させる。
そんな熱気が徐々に演奏への集中力に変わっていくのは「My Own Worst Enemy」から。細美のボーカルが気持ちいいくらいのノビを発揮する中(歌詞はめちゃ暗いけど)、「Clone」では美しいメロディが照明とともに降り注いでいく。
「こんばんは、the HIATUSです!
今日はthe HIATUSを好きなやつらだけのための曲をガンガンやっていくんで。
結構この会場で俺たちはやってて。最初のツアーのファイナルもここだったんだけど、あの時の俺は今から比べると、めちゃ痩せてた(笑)
あと、ファッションセンスがないのにハット被ったりしてオシャレになろうとしてて(笑)
それが全然似合ってないんだよなぁ(笑)」
と細美が挨拶するが、近年はフェスやイベントでは聴ける曲がほとんど変わらないために、この言葉が実に嬉しいところ。
「Let Me Fall」からの「Thist」「Unhurt」という、どちらかというと近年の部類に入る曲では、細美がハンドマイクを持って飛び跳ねながら歌い、序盤のパンク要素を備えた初期曲とはかなり飛距離がある、というか普通ならこれらの曲を同じバンドで出すことなんてまずないだろうというくらいにエレクトロニカの要素が濃くなっていく。
その流れが一転するのは、masasucksが1コーラス目はほとんどギターを弾かず、柏倉とウエノのリズム隊で引っ張っていく「Bonfire」。
「街を駆け抜ける猟犬の曲。この曲の猟犬みたいに、地位とか収入とか髪の色とか政治的な姿勢とかを全部抜きにして、みんなが街を走り抜けていく景色をイメージして作った」
という「Deerhounds」からは細美がアコギを弾きながら歌い、色とりどりの照明が明滅する様が複雑極まりないリズムを引き立てる「The Tower and The Snake」、一気に場内を希望に満ち溢れたメロディが包み込む「Horse Riding」、細美とmasasucksが早口の英語で歌う「Shimmer」と続いていく。
the HIATUSはおそらく出会った時期や、その人の音楽的な嗜好で1番好きなアルバムが全く変わるバンドだと思っているのだが、ELLEGARDENから細美武士の音楽を聴いてきた身ではあるが、自分が1番好きなアルバムは初期の2枚ではなく、「Deerhounds」や「Shimmer」が収録されている3rdアルバム「A World Of Pandemonium」なので、この辺りの曲が久々に聴けるというのは実に嬉しい。それはこのアルバムのレコ発ツアーであり、ストリングス隊を加えて行なったバンド初のホールツアーであった、「The Afterglow Tour」があまりに素晴らしかったというのを今でも覚えているからかもしれないが。
「俺はラジオをずっとやってて。そこで、ツアーで絶対この曲やれよ細美!っていう曲があったら言ってくれ、って言ったんだけど、次にやる曲はそうして募集した中で1番票が集まった曲なんだけど、その数20票!」
と聞いた時は思わず「少なっ!」と思ってしまったが、そもそもラジオ番組自体がめちゃ深夜の時間帯(だから基本的に全然聞けない)ということもあるのだろうし、かなり票が割れてもいるのだろうし、なにより
「まぁラジオで1番票が集まった曲だからと言って、お前たちの総意ではないだろうからあまり参考にしてない(笑)
それはラジオでも、ツイッターやフェイスブックで募集してもそうだろうけど」
と細美が言ったように、それはあくまで一つの目安に過ぎなかったのかもしれないが、
「俺はガキの頃、当たり前のように将来は剣と盾を持ってドラゴンと戦ったり、宇宙船に乗ったりするような未来を思い描いてたんだけど、俺は宇宙船から置いていかれた。でもお前らもこうして宇宙船に置いていかれてて。その時に見た夜空の星のことを今でもよく覚えてる。その景色を歌った歌」
と幼少期のエピソードを語って、細美の歌と伊澤のピアノのみという極限までシンプルな編成で演奏されたのは「Little Odyssey」。「SAI」の時もそうだったが、この編成でのこの曲が本当に素晴らしかった。細美の声と伊澤のピアノという音だけで、まさに静寂の中に広がる一面の星空の景色を聴いている人たちの脳内に描き出してみせる。今までほとんどライブでやっていなかった曲だが、ここまで想像力を喚起させられるようになったのは、やはり当時とは比べものにならないくらいに進化した細美のボーカルがあってこそだろう。
カップリング曲という立ち位置から、全くライブでやるとは思っていなかった(リリース直後はよくやっていたが)「Antibiotic」でこのバンドの最も深い部分を曝け出し、同じエレクトロニカ系統の曲でありながら、柔らかい光に包まれる中で演奏するメンバーが聴き手に力を与えてくれるような「Something Ever After」と本当に幅広い曲が演奏されると、
「俺たちはただ楽しければいいとか、嫌な上司の顔を今だけは忘れさせてやるぜ!みたいな音楽をやってない。俺たちの音楽にあるのは、嘆き」
という細美の言葉をそのまま曲にしたかのような「Insomnia」でライブはクライマックスへ向かっていく。
もはや曲全編に渡って大合唱が起きるくらいに、バンドとファンの絆を体現するアンセムとなった「Lone Train Running」、「紺碧の夜に」というライブではおなじみの曲たちでは再びダイバーが次々とステージの方に転がっていき、本編の締めに演奏されたのは「Sunburn」。自分は今年リリースされたMONOEYESの「Dim The Lights」を「夏に野外で聴きたいアルバム」と評しているが、この曲はthe HIATUSの中で1番夏の野外で聴きたい曲だったりする。あまりライブで演奏されないので、その景色を見ることはなかなかできないけれど。
すぐさまアンコールにメンバーが登場すると、ウエノコウジが来年で50歳になるが、これからさらに体を鍛えていくという、細美武士と一緒にバンドをやらなかったら絶対に口にしない言葉であろう挨拶をし、
「土砂降りの雨の中を傘もささずに走っていくような…っていう曲があったけれど(ブルーハーツの「TRAIN-TRAIN」)、そんな時に聴きたくなるような曲」
と紹介されて演奏されたのは、ここに来て細美の歌声がさらなるノビを見せる「Radio」。そして、
「素直なことを言うと、こうして大好きな仲間たちと、それはお前らもそうだぞ、一緒にライブができて本当に幸せです!
俺たちは来年は1曲も曲を作らないけど。うん、俺は遊ぶから。でも、お前らと一緒に遊ぶんだからな!?」
と、リリースはなくてもツアーは行う(MONOEYESのツアーでも同じことを言っていたが、さすがにどちらでもリリースなしということはないだろう。スコットが曲を作れるぶん、MONOEYESの方が曲はできそうだが)ことを匂わせながら演奏されたのは、その「仲間たち」の大切さ、かけがえのなさを音にしたかのような、これまでもライブのハイライトを何度も担ってきた「Silver Birch」で圧倒的な多幸感の余韻に浸っていたくなるようなラストシーンを描いてみせた。
しかしながらそれでも止まぬ、さらなるアンコールを求める声。すると再びメンバーが登場。
「スタッフが楽屋に来て。これはやった方がいいやつです!っていうから、1曲だけやります。最後に、お前たちを守ってくれてるセキュリティの人たちに拍手。最後に1番忙しくなる曲をやるけど、セキュリティのみなさん、お願いします!」
と言って演奏されたのは「べテルギウスの灯」。伊澤が立ち上がってピアノを弾き、柏倉もサビに入る前などは立ち上がってから思いっきりドラムを叩く。客席ではまさにセキュリティの方に向かって転がっていこうとしている人たちが肩を組んで歌っている。普段生きていて、他の人と肩を組む機会なんてまずない。でもライブハウスに来れば、同じ音楽が好きというだけで、どこに住んでるのかも名前も年齢も知らない人と肩を組んで一緒に歌える。この光景こそがライブハウスの素晴らしさ。最後に細美とmasasucksはともに伊澤のピアノ台に登り、タイミングを合わせて一緒にジャンプした。爽快感しか残らないような、最高の1日の締めだった。
かれこれthe HIATUSは5枚もアルバムを世に送り出しているが、こうしてリリースではなく、これまでに出した曲から満遍なく選んでライブをやるということはなかった。
それだけに、アルバム毎に音楽性が全く違うバンドであるというのを頭ではわかっていても、それを人間のありとあらゆる感性で体現させてくれる、バンドの音楽の変遷が非常によくわかるライブとなった。
だからこそ、この次は一体どうなるのか?というのが楽しみでしょうがないのだが、それが見えるのはまだだいぶ先なのかもしれない。
そして細美はこの日、かつて最初にツアーを行った時のことを回想していたが、その頃と変わったのはMCで触れていたような、出で立ちだけではない。もちろん当時の出で立ちはELLEGARDENの細美武士から離れようとしていた結果のものだというのも今になるとわかるが、それ以上に変わったのは、まずは細美のボーカル。当時はこんなに上手いだけでなく、豊かな表現ができるようなボーカリストではなかった。それはいろんな出来事を体験したり、いろんな新しい仲間と出会ったり、バンド以外にも様々な場所で歌うようになったからというのもあるが、このボーカリストとしての進化っぷりを見ていると、心配になるくらいに体を鍛えているのも全然無駄ではないと思えてくる。
もう一つは表情。それこそ前述のThe Afterglow Tourまでは、ライブ中にここまでの笑顔を見ることはできなかったし、「嘆き」というワードでバンドのことを説明していたように、どこか音楽をやっているのがキツそうに見える時が非常に多かった。(「Insomnia」の「Save me」という叫びはその最たるものであるが)
でも今は細美武士は本当によくステージで笑うようになった、というか笑ってない時の方が珍しいというくらいにまでなっている。その変化において最も多かったのは、やはりMONOEYESを始動させたことだと思う。ある意味何も考えないで音楽をできるバンドの存在と、その仲間の存在が細美を大きく変えたんじゃないだろうか。実際、MONOEYESの相棒である戸高はこの日バルコニーからずっと笑顔でライブを見つめていた。
そうして互いに良い影響を与えながら、本人の言うところによればこれからはマイペースで、the HIATUSとMONOEYESは続いていく。
1.堕天
2.The Flare
3.Storm Racers
4.Monkeys
5.My Own Worst Enemy
6.Clone
7.Let Me Fall
8.Thist
9.Unhurt
10.Bonfire
11.Deerhounds
12.The Tower and The Snake
13.Horse Riding
14.Shimmer
15.Little Odyssey
16.Antibiotic
17.Something Ever After
18.Insomnia
19.Lone Train Running
20.紺碧の夜に
21.Sunburn
encore1
22.Radio
23.Silver Birch
encore2
24.ベテルギウスの灯
Clone
https://youtu.be/h9aLBoHFeOQ
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