ぼくのりりっくのぼうよみ 遺失物取扱所 東京公演 @日比谷野外音楽堂 10/8
- 2017/10/08
- 22:11
音楽雑誌「MUSICA」などで「早熟の天才」としてフィーチャーされている、19歳の若きアーティスト、ぼくのりりっくのぼうよみ。
現役高校生としてデビューした際にその高校生離れした音楽の完成度と、「東大を目指す」という宣言(結局東大には入学できなかったが)、さらにはツイッター上での細かすぎるエゴサーチなど、様々な面で話題を呼んでいたが、近年は他アーティストへの積極的な客演なども音楽ニュースを賑わせている。
そんなぼくのりりっくのぼうよみの初の野外ライブとなる日比谷野外音楽堂でのワンマンがこの日。このライブは翌週の大阪公演もあるが、夏の野外フェスへの出演は果たしているものの、音楽や本人のイメージからはなかなか野外のイメージがないだけに、果たしてどんなライブになるのかは全く予想外。
ステージには楽器とともにライブタイトル「遺失物取扱所」に合わせて、ソファーを始め、様々なオブジェと多数のゴミ袋が置かれている中、かなり早めの17時(本人が若いことで、年齢が若いファンが多いからだろうか)をかなり過ぎたところで、まずはサポートメンバーたちが登場。
かつてVIVA LA ROCKで初ライブを行った時はDJとキーボードだけという打ち込み要素が強かったが、近年はドラムとパーカッションを加え、さらにこの日からベースに須藤優(ARDBECK、米津玄師など)を加えた5人によるサポート陣が音を出し始める(須藤はウッドベースとエレキを半々くらいの割合で使う)と、LEDには「遺失物取扱所」というライブタイトルが映し出され、ぼくのりりっくのぼうよみ本人がステージに。やはりもう見た目からして若いし、笑った時の顔は19歳よりもはるかに幼く、中学生くらいにすら見える。それは身長的な要素もあるからかもしれないが。
サポートメンバーが爽やかなサウンドを奏でて始まった1曲目は「after that」。アルバム「Noah's Ark」では物語の総括的に最後に収録されていた曲なだけに、まさか最初に演奏されるとは。それだけに「Noah's Ark」の世界観とは全く違う内容のライブになるということがわかる。
音源では曲の最後には
「Thank you for listening」
というセリフが入るのだが、それを
「Thank you for coming」
とサラッとさりげなくライブ仕様に変えてみせる機転の効きようはさすがであるが、やはりそれ以上にさすがなのは彼の歌唱力の高さ。初ライブ時はひたすらに歌の上手さが際立っていたが、こうして多彩なサウンドに囲まれてもその中心で最も大きな存在感を放っているのは彼の声である。
基本的にはぼくのりりっくのぼうよみ(以下、ぼくりり)の音楽はヒップホップを軸にしたものだが、我々世代が聴いていたヒップホップ(KICK THE CAN CREWやRIP SLYMEなど)とは質感が全く違う。それはやはりヒップホップであっても「歌」が強すぎるからなのだが、歌モノに特化したヒップホップもたくさんあった中で、それとも全く違うのは、ヒップホップ以外の様々な要素を含んだサウンドと、やはりぼくりりの歌唱力によるもの。だから日本語と英語をミックスした、早口のヴァースの切れ味も鋭いが、それ以上にサビのメロディが本当に耳に残る。
「たまに音楽をやっている意味とか理由っていうのを忘れてしまいそうになる時があるんですけど、今日いろんな曲をやることで、そうした遺失物を回収していけたらな、と」
と歌に比べるとややたどたどしい喋りでこの日のライブタイトルに込められた意味を説明すると、
「今年は夏フェスにもたくさん出させてもらって。あっという間に夏が終わった感じなんだけど、今日暖かくて夏みたいだよね。だから夏のカバー曲!」
と言って披露されたカバーは真心ブラザーズの「サマーヌード」。原曲は海パンにビーサンで晴れ渡った浜辺を歩いているような、カラッとしたイメージだが、ぼくりりの手にかかれば、一気にナイトプールで写真を撮っている時に流れていそうなBGMに変わってしまう。原曲を聴きなれた身としてはこの解釈は実に新鮮だったし、YO-KINGと桜井秀俊の影が全く見えないくらいにオシャレなサウンドに変貌してしまう。
するとここで、前回のツアーでは「Noah's Ark」の曲を曲順通りにライブで披露するというコンセプチュアルなものだったが、その曲順を入れ替えることによって、また違う物語が生まれるという解説をし、「shadow」で人間が誕生して「Noah's Ark」で救済されるというストーリーを、映像も使いながら5曲続けて演奏して紡いでみせる。
正直、「Noah's Ark」は先行シングルの段階でコンセプトは決まっており、その時点でかなり期待度が高かった割には、そこまでコンセプトアルバム然としたものには感じなくて、物足りなさを感じたりしたのだが、こうしてアルバムの中の半分の曲を使って新たなストーリーを作ってしまうというぼくりりの作家性の高さと発想力には恐れ入ってしまうというか、「Noah's Ark」をナメてしまっていた、と反省せざるを得ない。そうした聴き方をするには、自分の中に確立された「アルバムは絶対1曲目から最後の曲までを順番に聴く」というセオリーを崩していかなくてはならないし、彼の世代は当たり前のようにそういう聴き方をしているんだろうけれど。
新たな物語を紡ぎ終えると、ぼくりりが一旦ステージから去り、LEDには「どうぞチルアウトください」という文字が映し出され、観客が一斉に着席。キーボードの音色が実にゆったりとした時間を作り出してくれたが、正直この時間の意味はよくわからない。一部と二部、みたいな構成でもないだけに。
再びぼくりりがステージに登場すると、アネッサのタイアップでお茶の間にも流れまくった「SKY's the limit」の夏を感じさせるウキウキしたサウンドで、観客も手を左右に振る。その際には最初にDJが手を振るのだが、そのDJの手を振る順番(右が先か左が先か)を確認してからそれに合わせて手を振るぼくりりは子供みたいで実に可愛らしい。
すると現在「新曲が次々にできている状態」であるということで、新曲を披露。LEDに歌詞が映し出された「Playing」は本人いわく「エッチな曲」だそうだが、クラブにおける男女の一夜の営みを描いた歌詞は確かにこれまでのぼくりりの曲にはなかった「エロス」の要素を感じさせるが、言うなればこれはWANIMAの「BIG UP」や「1CHANCE」と同じことを歌っている曲なわけで、同じテーマでも全くサウンドが違うというあたりに作り手の人間性や音楽観の違いがはっきりと出ている。
カバー第2弾として披露されたのは、マクロスの劇中歌である「星間飛行」。LEDに宇宙の星空が映し出されるというロマンチックな演出もあったが、完全に女性ボーカルであるこの曲を原曲キーで歌いあげるぼくりりの歌唱力はもはや親殺しならぬカバー元殺しと言いたくなるくらいにとてつもない。だから「原曲探して聴いてみようかな」とはならず、「この曲このままレコーディングしてくれないかな」とすら思ってしまう。普通はカバーというのは原曲を掘らせるという目的であることがほとんどなのだが、その普通すらもぼくりりには通用しない。
「SKY's the limit」のカップリングにして、対になるようなイメージの「つきとさなぎ」はこの日最も野音の夜景に似合う曲として響き、新曲第2弾として披露された「たのしいせいかつ」はそのイメージとはまた全く違った、ダブの要素が強い曲。歌詞がわからないだけにどのあたりが「たのしいせいかつ」なのかはわからないが、「Playing」と全く曲のタイプは違えど、共通しているのはこれまでのディスコグラフィーには全くなかった曲であるということ。様々な音楽を吸収してそれが新しい自分の音楽になってきているのだろうか。
水が部屋に溢れてくる立体的な映像とともに演奏された「Water boarding」はぼくりりの中で最も重く長い曲。この曲をシングルとしてリリースするというあたりがやはり只者ではないということを物語っている。
「僕には怖いものがあるんです。それは孤立すること」
と、実に意外というか、むしろ孤立するくらいに独自の道を歩いているようなイメージがあるぼくりりだが、四つ打ちのダンサブルな「孤立恐怖症」ではそんな孤立することを怖れる自分を支えてくれているサポートメンバーを紹介し、それぞれのソロ回しも披露。
「僕は1人でインターネットで音楽を作り始めたんですけど、今はこうして一緒に演奏してくれるメンバーがいて、支えてくれるスタッフがたくさんいて、何よりこうして僕の音楽を聴きに来てくれる人たちがいることを素直に嬉しいと思ってます」
と、意外なくらいに素直な言葉を口にしたが、中村一義も米津玄師も、たった1人で自分の部屋で音楽を作っていた。しかし彼らは部屋の中や画面の中ではなく、一緒に演奏してくれる仲間たちと、目の前に確かに存在する自分の音楽を信じてくれる人たちの前に立つことを選んだ。ぼくりりもまた同じようにその道を選び、打ち込みではなく生のサウンドを求めてこの編成に至った。きっとこれからもネットから新たな才能が次々に出てくるし、その方法論はさらに斬新に更新されていくだろうが、辿り着く場所はいつの時代になってもきっとこうした場所なんだろうと思う。
そしてラストに演奏されたのは、フェスなどでも毎回最後に演奏されてきた「Sunrise」。観客は再びDJに合わせて手を左右に振ったが、やはりぼくりりも観客同様にDJに合わせて手を振っていたのが微笑ましかった。
アンコールではぼくりりが1人で登場し、最近様々なアーティストとコラボしていることに触れ、そのコラボ相手の1人であり、インターネットでの先輩である電波少女のハシシを呼び込む。
ぼくりり「最初にSkypeで話した時、僕がテニスの練習があるからって言って一方的に切っちゃったんですよね(笑)」
ハシシ「全然覚えてない!(笑)」
という全く意味のないエピソードを語り、リリースされたばかりの電波少女のアルバムに参加してコラボした「クビナワ」を披露。
ぼくりりも電波少女もヒップホップが最も大きな要素を占めるアーティストであるが、既存のヒップホップシーンのラッパーたちとは全く違うところにいる。それはやはりネットから出てきたという出自によるものだろうが、彼らからはフリースタイルでテクニックを見せつけたり、フローの技術を磨いたりということをするイメージが全くない。だからこそ従来のヒップホップシーンには属せないのだろうが、「ヒップホップは好きだけど、ヒップホップシーンのマッチョイズムにはついていけない」という人たちの希望や、後に続いていこうと思わせる存在になれるはずだ。
ハシシがステージから去ると、入れ替わりにライブTシャツを着たサポートメンバーたちが再び登場し、早くも11月に発売が決まったアルバム(随分急な発表だと思うが)の最初に収録される曲であり、「エッチな曲第2弾」であるという「罠」を披露。同じテーマの「Playing」とは違い、軽い女性に弄ばれるというテーマの曲だが、これが自身の経験から書かれたものだとしたら面白いとともに、見た目は幼いがもう大人なんだな、とも思う。
終演SEが流れると、
「帰るタイミングを逃した」
と言ってそのままステージから去って行ったが、特にサポートメンバーと手を取り合って、ということもなくあっさりと帰っていく様が逆に新鮮だった。
LEDにはアルバムのタイトルとともに、齧られたあとのリンゴのような人間によるアートワークが公開された。この日聴いた新曲から察するに、アルバムは前作までとは全く違う内容のものになるはず。他に収録される曲がどんな曲なのかこれほどまでに予想できないアーティストもなかなかいない。
デビュー時の「早熟の天才」的な持ち上げられ方から思うと、現在の状況はやや物足りなくも感じる。だがこうしてワンマンを見ると、その持ち上げられ方は決して大袈裟ではないと思えるし、普通の人ならまだデビューしてすらいない年齢でここまで来ていることを考えれば、順調と言ってもいいくらいのキャリアである。
彼の発想やこれまでの音楽との関わり方を見ていると、もう自分とは全く世代や思想が違うということを実感せざるを得ない。(それはMrs. GREEN APPLEを見ていても思うが)
でもそれを「もう最近の若い人の音楽はわけわかんない」とは絶対に思うようになりたくない。ちゃんと、なぜ彼らがそういう考えで音楽をやっていて、なぜこの音楽をやっているのか、というのを全ては無理だとしても少しでも理解したい。まだまだ置いていかれたくないんだ。
1.after that
2.sub / objective
3.CITI
4.Collapse
5.サマーヌード
6.shadow
7.在り処
8.Be Noble
9.liar
10.Noah's Ark
11.SKY's the limit
12.Playing (新曲)
13.星間飛行
14.つきとさなぎ
15.たのしいせいかつ (新曲)
16.Water boarding
17.孤立恐怖症
18.Sunrise
encore
19.クビナワ feat.ハシシ
20.罠 (新曲)
SKY's the limit
https://youtu.be/OfCeHiQcM4E
Next→ 10/11 MONOEYES @新木場STUDIO COAST
現役高校生としてデビューした際にその高校生離れした音楽の完成度と、「東大を目指す」という宣言(結局東大には入学できなかったが)、さらにはツイッター上での細かすぎるエゴサーチなど、様々な面で話題を呼んでいたが、近年は他アーティストへの積極的な客演なども音楽ニュースを賑わせている。
そんなぼくのりりっくのぼうよみの初の野外ライブとなる日比谷野外音楽堂でのワンマンがこの日。このライブは翌週の大阪公演もあるが、夏の野外フェスへの出演は果たしているものの、音楽や本人のイメージからはなかなか野外のイメージがないだけに、果たしてどんなライブになるのかは全く予想外。
ステージには楽器とともにライブタイトル「遺失物取扱所」に合わせて、ソファーを始め、様々なオブジェと多数のゴミ袋が置かれている中、かなり早めの17時(本人が若いことで、年齢が若いファンが多いからだろうか)をかなり過ぎたところで、まずはサポートメンバーたちが登場。
かつてVIVA LA ROCKで初ライブを行った時はDJとキーボードだけという打ち込み要素が強かったが、近年はドラムとパーカッションを加え、さらにこの日からベースに須藤優(ARDBECK、米津玄師など)を加えた5人によるサポート陣が音を出し始める(須藤はウッドベースとエレキを半々くらいの割合で使う)と、LEDには「遺失物取扱所」というライブタイトルが映し出され、ぼくのりりっくのぼうよみ本人がステージに。やはりもう見た目からして若いし、笑った時の顔は19歳よりもはるかに幼く、中学生くらいにすら見える。それは身長的な要素もあるからかもしれないが。
サポートメンバーが爽やかなサウンドを奏でて始まった1曲目は「after that」。アルバム「Noah's Ark」では物語の総括的に最後に収録されていた曲なだけに、まさか最初に演奏されるとは。それだけに「Noah's Ark」の世界観とは全く違う内容のライブになるということがわかる。
音源では曲の最後には
「Thank you for listening」
というセリフが入るのだが、それを
「Thank you for coming」
とサラッとさりげなくライブ仕様に変えてみせる機転の効きようはさすがであるが、やはりそれ以上にさすがなのは彼の歌唱力の高さ。初ライブ時はひたすらに歌の上手さが際立っていたが、こうして多彩なサウンドに囲まれてもその中心で最も大きな存在感を放っているのは彼の声である。
基本的にはぼくのりりっくのぼうよみ(以下、ぼくりり)の音楽はヒップホップを軸にしたものだが、我々世代が聴いていたヒップホップ(KICK THE CAN CREWやRIP SLYMEなど)とは質感が全く違う。それはやはりヒップホップであっても「歌」が強すぎるからなのだが、歌モノに特化したヒップホップもたくさんあった中で、それとも全く違うのは、ヒップホップ以外の様々な要素を含んだサウンドと、やはりぼくりりの歌唱力によるもの。だから日本語と英語をミックスした、早口のヴァースの切れ味も鋭いが、それ以上にサビのメロディが本当に耳に残る。
「たまに音楽をやっている意味とか理由っていうのを忘れてしまいそうになる時があるんですけど、今日いろんな曲をやることで、そうした遺失物を回収していけたらな、と」
と歌に比べるとややたどたどしい喋りでこの日のライブタイトルに込められた意味を説明すると、
「今年は夏フェスにもたくさん出させてもらって。あっという間に夏が終わった感じなんだけど、今日暖かくて夏みたいだよね。だから夏のカバー曲!」
と言って披露されたカバーは真心ブラザーズの「サマーヌード」。原曲は海パンにビーサンで晴れ渡った浜辺を歩いているような、カラッとしたイメージだが、ぼくりりの手にかかれば、一気にナイトプールで写真を撮っている時に流れていそうなBGMに変わってしまう。原曲を聴きなれた身としてはこの解釈は実に新鮮だったし、YO-KINGと桜井秀俊の影が全く見えないくらいにオシャレなサウンドに変貌してしまう。
するとここで、前回のツアーでは「Noah's Ark」の曲を曲順通りにライブで披露するというコンセプチュアルなものだったが、その曲順を入れ替えることによって、また違う物語が生まれるという解説をし、「shadow」で人間が誕生して「Noah's Ark」で救済されるというストーリーを、映像も使いながら5曲続けて演奏して紡いでみせる。
正直、「Noah's Ark」は先行シングルの段階でコンセプトは決まっており、その時点でかなり期待度が高かった割には、そこまでコンセプトアルバム然としたものには感じなくて、物足りなさを感じたりしたのだが、こうしてアルバムの中の半分の曲を使って新たなストーリーを作ってしまうというぼくりりの作家性の高さと発想力には恐れ入ってしまうというか、「Noah's Ark」をナメてしまっていた、と反省せざるを得ない。そうした聴き方をするには、自分の中に確立された「アルバムは絶対1曲目から最後の曲までを順番に聴く」というセオリーを崩していかなくてはならないし、彼の世代は当たり前のようにそういう聴き方をしているんだろうけれど。
新たな物語を紡ぎ終えると、ぼくりりが一旦ステージから去り、LEDには「どうぞチルアウトください」という文字が映し出され、観客が一斉に着席。キーボードの音色が実にゆったりとした時間を作り出してくれたが、正直この時間の意味はよくわからない。一部と二部、みたいな構成でもないだけに。
再びぼくりりがステージに登場すると、アネッサのタイアップでお茶の間にも流れまくった「SKY's the limit」の夏を感じさせるウキウキしたサウンドで、観客も手を左右に振る。その際には最初にDJが手を振るのだが、そのDJの手を振る順番(右が先か左が先か)を確認してからそれに合わせて手を振るぼくりりは子供みたいで実に可愛らしい。
すると現在「新曲が次々にできている状態」であるということで、新曲を披露。LEDに歌詞が映し出された「Playing」は本人いわく「エッチな曲」だそうだが、クラブにおける男女の一夜の営みを描いた歌詞は確かにこれまでのぼくりりの曲にはなかった「エロス」の要素を感じさせるが、言うなればこれはWANIMAの「BIG UP」や「1CHANCE」と同じことを歌っている曲なわけで、同じテーマでも全くサウンドが違うというあたりに作り手の人間性や音楽観の違いがはっきりと出ている。
カバー第2弾として披露されたのは、マクロスの劇中歌である「星間飛行」。LEDに宇宙の星空が映し出されるというロマンチックな演出もあったが、完全に女性ボーカルであるこの曲を原曲キーで歌いあげるぼくりりの歌唱力はもはや親殺しならぬカバー元殺しと言いたくなるくらいにとてつもない。だから「原曲探して聴いてみようかな」とはならず、「この曲このままレコーディングしてくれないかな」とすら思ってしまう。普通はカバーというのは原曲を掘らせるという目的であることがほとんどなのだが、その普通すらもぼくりりには通用しない。
「SKY's the limit」のカップリングにして、対になるようなイメージの「つきとさなぎ」はこの日最も野音の夜景に似合う曲として響き、新曲第2弾として披露された「たのしいせいかつ」はそのイメージとはまた全く違った、ダブの要素が強い曲。歌詞がわからないだけにどのあたりが「たのしいせいかつ」なのかはわからないが、「Playing」と全く曲のタイプは違えど、共通しているのはこれまでのディスコグラフィーには全くなかった曲であるということ。様々な音楽を吸収してそれが新しい自分の音楽になってきているのだろうか。
水が部屋に溢れてくる立体的な映像とともに演奏された「Water boarding」はぼくりりの中で最も重く長い曲。この曲をシングルとしてリリースするというあたりがやはり只者ではないということを物語っている。
「僕には怖いものがあるんです。それは孤立すること」
と、実に意外というか、むしろ孤立するくらいに独自の道を歩いているようなイメージがあるぼくりりだが、四つ打ちのダンサブルな「孤立恐怖症」ではそんな孤立することを怖れる自分を支えてくれているサポートメンバーを紹介し、それぞれのソロ回しも披露。
「僕は1人でインターネットで音楽を作り始めたんですけど、今はこうして一緒に演奏してくれるメンバーがいて、支えてくれるスタッフがたくさんいて、何よりこうして僕の音楽を聴きに来てくれる人たちがいることを素直に嬉しいと思ってます」
と、意外なくらいに素直な言葉を口にしたが、中村一義も米津玄師も、たった1人で自分の部屋で音楽を作っていた。しかし彼らは部屋の中や画面の中ではなく、一緒に演奏してくれる仲間たちと、目の前に確かに存在する自分の音楽を信じてくれる人たちの前に立つことを選んだ。ぼくりりもまた同じようにその道を選び、打ち込みではなく生のサウンドを求めてこの編成に至った。きっとこれからもネットから新たな才能が次々に出てくるし、その方法論はさらに斬新に更新されていくだろうが、辿り着く場所はいつの時代になってもきっとこうした場所なんだろうと思う。
そしてラストに演奏されたのは、フェスなどでも毎回最後に演奏されてきた「Sunrise」。観客は再びDJに合わせて手を左右に振ったが、やはりぼくりりも観客同様にDJに合わせて手を振っていたのが微笑ましかった。
アンコールではぼくりりが1人で登場し、最近様々なアーティストとコラボしていることに触れ、そのコラボ相手の1人であり、インターネットでの先輩である電波少女のハシシを呼び込む。
ぼくりり「最初にSkypeで話した時、僕がテニスの練習があるからって言って一方的に切っちゃったんですよね(笑)」
ハシシ「全然覚えてない!(笑)」
という全く意味のないエピソードを語り、リリースされたばかりの電波少女のアルバムに参加してコラボした「クビナワ」を披露。
ぼくりりも電波少女もヒップホップが最も大きな要素を占めるアーティストであるが、既存のヒップホップシーンのラッパーたちとは全く違うところにいる。それはやはりネットから出てきたという出自によるものだろうが、彼らからはフリースタイルでテクニックを見せつけたり、フローの技術を磨いたりということをするイメージが全くない。だからこそ従来のヒップホップシーンには属せないのだろうが、「ヒップホップは好きだけど、ヒップホップシーンのマッチョイズムにはついていけない」という人たちの希望や、後に続いていこうと思わせる存在になれるはずだ。
ハシシがステージから去ると、入れ替わりにライブTシャツを着たサポートメンバーたちが再び登場し、早くも11月に発売が決まったアルバム(随分急な発表だと思うが)の最初に収録される曲であり、「エッチな曲第2弾」であるという「罠」を披露。同じテーマの「Playing」とは違い、軽い女性に弄ばれるというテーマの曲だが、これが自身の経験から書かれたものだとしたら面白いとともに、見た目は幼いがもう大人なんだな、とも思う。
終演SEが流れると、
「帰るタイミングを逃した」
と言ってそのままステージから去って行ったが、特にサポートメンバーと手を取り合って、ということもなくあっさりと帰っていく様が逆に新鮮だった。
LEDにはアルバムのタイトルとともに、齧られたあとのリンゴのような人間によるアートワークが公開された。この日聴いた新曲から察するに、アルバムは前作までとは全く違う内容のものになるはず。他に収録される曲がどんな曲なのかこれほどまでに予想できないアーティストもなかなかいない。
デビュー時の「早熟の天才」的な持ち上げられ方から思うと、現在の状況はやや物足りなくも感じる。だがこうしてワンマンを見ると、その持ち上げられ方は決して大袈裟ではないと思えるし、普通の人ならまだデビューしてすらいない年齢でここまで来ていることを考えれば、順調と言ってもいいくらいのキャリアである。
彼の発想やこれまでの音楽との関わり方を見ていると、もう自分とは全く世代や思想が違うということを実感せざるを得ない。(それはMrs. GREEN APPLEを見ていても思うが)
でもそれを「もう最近の若い人の音楽はわけわかんない」とは絶対に思うようになりたくない。ちゃんと、なぜ彼らがそういう考えで音楽をやっていて、なぜこの音楽をやっているのか、というのを全ては無理だとしても少しでも理解したい。まだまだ置いていかれたくないんだ。
1.after that
2.sub / objective
3.CITI
4.Collapse
5.サマーヌード
6.shadow
7.在り処
8.Be Noble
9.liar
10.Noah's Ark
11.SKY's the limit
12.Playing (新曲)
13.星間飛行
14.つきとさなぎ
15.たのしいせいかつ (新曲)
16.Water boarding
17.孤立恐怖症
18.Sunrise
encore
19.クビナワ feat.ハシシ
20.罠 (新曲)
SKY's the limit
https://youtu.be/OfCeHiQcM4E
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