佐々木亮介 (a flood of circle) Juke Joint Tour ”Hello, My Name Is Leo” @渋谷WWW X 10/2
- 2017/10/03
- 00:19
バンドをやっている人が、バンドが活動している時にソロをやるというのはだいたい2パターンくらいあって、一つは「バンドがやっている音楽性以外のことをやりたくなった時」で、アジカンのゴッチやSUPERCARのナカコー、the telephonesの時の石毛輝などがこっちのパターンになり、こちらは最初からある程度どういう音楽をやりたいかが明確に決まっていることが多く、バンド本隊に比べるとマニアックなものになりがちである。
もう一方は「バンドメンバー以外の人と音楽を作るとどうなるかを試したくなった時」で、これはPlastic Treeの有村竜太郎など、若い頃から一つのバンドをずっと続けてきた人に多いパターンになり、そこまでバンド本隊の音楽性からかけ離れたものにはならないことが多い。
a flood of circleのボーカリストとしてガンガン活動している佐々木亮介が今年リリースしたソロアルバムはそのどちらとも違っているという稀有なパターンであり、亮介は自身が愛し、自身の音楽観を作り上げてきたソウルミュージックやブルースが生まれた、アメリカのメンフィスにあるロイヤルスタジオでレコーディングしたいという思いで生まれたものである。
そこで数々の名盤を作ってきた現地のミュージシャンたちと作り上げたアルバムは、亮介が現地で呼ばれていた「LEO」という愛称を与えられ、やはりフラッドとは違う感触、音楽性のアルバムとなった。
その「LEO」を携えたツアーは、フラッドのメンバーを迎えるでも、1人で弾き語りをするわけでもなく、ましてや現地のレコーディングをしたミュージシャンが来てくれるわけもなく、
ギター:弓木英梨乃 (KIRINJI,Base Ball Bear)
ベース:ウエノコウジ (the HIATUSなど)
ドラム:澤村一平 (SANABAGUN.)
キーボード:高野勲 (GRAPEVINEなど)
というオールスター的な、あまりに豪華過ぎるメンバーが集結。
会場の渋谷WWW Xの客席には最前の5列目くらいまでだけなぜか椅子が置かれるという(でもライブ始まるとみんな立ってたからあまり意味がない気がする)、アコースティックライブみたいなセッティング。
19時をかなり過ぎたあたりで場内が暗転すると、フラッドのライブ時の革ジャンではなく、黒いジャケットを着た亮介がステージに登場。いきなり勢揃いしたメンバーたちもみな黒いジャケットを着ているので、これは揃えたものなのかもしれない。ウエノコウジはいつも黒ジャケットを着ているために普段と出で立ちが変わらないが。
まずは挨拶も兼ねて、今までも弾き語りライブのオープニング的に披露されていた、その日その会場のフレーズを入れまくった即興性の高いブルースからスタートし、亮介の気合いが客席に伝染するのは「LEO」収録の「Hustle」。手拍子を叩いたり踊ったりする客席の様子からは、ソロだから大人しく見る、という感じでは全くないライブであることがこの時点でわかる。
亮介による1人1人のメンバー紹介では、澤村を呼んだのはウエノと歳が離れているドラマーにしようと思ったこと、弓木が打ち上げで果物を包んでいた白い網をネックレスに加工して亮介にプレゼントしたという天然エピソード、さらにこのバンドのバンマスが亮介自身ではなく、高野であることが語られる。
THE BAWDIESのライブ時のSEとしておなじみのウィルソン・ピケットの「ダンス天国」こと「Land of 1,000 Dancers」のカバーでは、亮介の洋楽カバーではおなじみの「1コーラス目は原曲の歌詞通りに歌うが、2コーラス目からは自分で勝手につけた日本語詞で歌う」という方式が弾き語りではなくバンド編成でも変わらないことがわかる(この後に演奏されたカバーも全てこのパターン)と同時に、コーラス部分を観客とともに合唱して、どういうライブになるか全く未知数だったため、やや構え気味でもあった中で楽しい空気を作り上げていく。
すると突如としてフラッドの「Rex Girl」のカバーも披露されるのだが、そもそもキーボードも入っているし、フラッドとは全く音像が違う。やはりどうしてもロックンロールになるフラッドよりも、ものすごくざっくり言うとポップ、なんだけどそのポップさの下敷きにあるのはブラックミュージックというか。しかしながら短期間でこの曲まで演奏できてしまうこのメンバーたちは本当に恐ろしいし、しっかり曲中にそれぞれのソロ回しも入れてくる。
Al Green「Let's Stay Together」のカバーからはややしっとりとしたブルースを聴かせていくのだが、
「メンフィスで生まれたブルース、ソウル、俺は本当に大好きだよ」
と言ってから演奏するあたり、この日のライブのテーマはやはりそのメンフィスで生まれた音楽に対する愛であるということがわかる。
しかしそれにしても亮介のあの声で歌われると、原曲を忘れてしまうというか、もはや佐々木亮介の曲にしかならないあたりは亮介のボーカリストの唯一無二さを改めて実感させてくれるカバー曲のコーナーである。
弓木とウエノがコーラスまでも務める「LEO」のオープニング曲である「Night Swimmers」でゆるく踊らせると、いったんステージには亮介とウエノコウジの2人だけに。ウエノコウジはアコベに持ち替えるのだが、こうしてアコギとアコベで並んでいると、まるで武藤昭平 with ウエノコウジの、武藤昭平だけめちゃ若返った、みたいになるのだが、当然ウエノコウジもMCではそこをいじりまくる。(the HIATUSでは基本的に喋らないが、この人はこういう形式のライブだとビックリするくらいに喋りまくる)
ウエノ「旅館みたいなとこの座敷でライブやったりもしたんだけど、やっぱりねぇ、一応強面で売ってるから(笑)、靴を脱いで靴下でやらなきゃいけないっていうのがねぇ(笑)
しかもまた武藤昭平がキティちゃんの靴下なんかを履いてるんだよ、あんな顔して(会場爆笑)」
と、もはや武藤昭平の欠席裁判的なウエノコウジの爆笑MCが展開される中、サム・クックの「Bring It On Home to Me」(これも前にTHE BAWDIESもカバーしていた。フラッドもTHE BAWDIESもロックンロールを掲げているだけに、そこを掘った先で辿り着くところはやはり同じなのだ)で亮介の歌をしっとりと聴かせると、
「俺が編み出した奏法を見てくれ!」
とアコベにもかかわらず弾きまくりのマディ・ウォーターズ「Got My Mojo Working」では曲中に亮介が
「お客様の中にギタリストはいませんか?フラッドと武藤昭平 with ウエノコウジの沖縄でのライブの時にステージに乱入して尻を出した、白髪のギタリストはいませんか!?」
と呼びかけると、客席の1番後ろにいたイマイアキノブ(ex.The Birthday)が観客をかき分けてステージに上がり、亮介のエレキギターを弾きまくるというあまりに自由なコラボ。イマイはこの後も普通に客席で酒を飲みながらライブを見ていたのだが、去り際に亮介に
「6万円でいいから」
と数分しかステージにいなかったのに法外なギャラを請求してステージから飛び降りた。
高野勲いわく「居酒屋・ウエノコウジ」のコーナーが終わると、ウエノの代わりに高野と弓木がステージに。しかも弓木はギターではなくヴァイオリンを持っての登場。しかし弓木はヴァイオリンはやりたくなかったらしいのだが、亮介に「とりあえず一回持ってきて」と言われてヴァイオリンを弾くことになったというエピソードが語られたが、なんでそんなに嫌だったのかがわからないくらいにこの編成で演奏されたフラッドの「コインランドリー・ブルース」は美しかった。弾き語りでもよくやってる曲だから曲の良さはわかっているんだけど、この2人のサウンドがメロディの美しさを何段階も引き上げている。
この2日前にBase Ball Bearのワンマンで弓木のギタリストとしての凄さを堪能したばかりであるが、この人はそれだけじゃない、もっとすごい能力を持った人であるというのがこの日、さらに良くわかった。小出がフェスで
「今日の出演者で1番ギターが上手い」
と言うのは大袈裟では全くなく、真実を述べているだけである。
なのに本人のギタープレイからは「私めっちゃギター上手いから見て!」という、上手いギタリストにありがちな自己満足的な空気を1%たりとも感じないというあたりがまた印象がすこぶる良く、これからも彼女の活動を見ていきたいと思わせる。
そのヴァイオリンとしての弓木と入れ替わりでステージに現れたのはドラムの澤村で、普段SANABAGUN.では全くMCをしないという彼がバンドの告知に加え、自身がワンマンではラップもやっているというのをいじられながら、今回のツアーのTシャツまでも宣伝するという後輩キャラっぷりを見せる。亮介は
「完全に俺が言わせてるみたいじゃん」
と、これまでキョウスケ(爆弾ジョニー)くらいにしか見せてこなかった先輩キャラを発揮しつつ、ドラムとキーボードのみという絞り込まれたサウンドでチャンス・ザ・ラッパーの「Same Drugs」を歌い上げる。現行のUSポップのメインストリームのヒット曲であるが、ソウルやブルースのルーツミュージックからこの最新のR&Bまでを等しく歌う亮介の姿からは音楽が受け継がれながら進化していくものであるというのを見せてもらった気がするし、この曲ってこんなに美しいメロディの曲だったのか、と改めて教えられた。
再びバンドメンバーが勢ぞろいした中で、
「つばきの一色徳保さん、川島道行さん(BOOM BOOM SATELLITES)に捧げます」
と、いなくなってしまった人たちに向けて歌われたのは「LEO」の中でも最も歌にスポットが当たった「Roadside Flowers」。
「Hey it's time to go ねえ 君はいないから 私が言う」
という歌詞はラブソングのようにも取れるが、その歌の先にいるのは、音楽を愛しながらも新しい音楽を作ることができなくなってしまった先輩たちだった。2人ともそこまでフラッドと絡んでいたイメージはないけれど(一色は曽根巧つながりがあっただろうけど)、バンドのボーカリストとして亮介は2人のことをリスペクトしていたのだろう。
そんなしんみりした空気を切り裂くかのように、そこからはぶっ続けのダンスタイムで、ここまでは意外なほどに薄かったロック濃度が濃くなっていく。亮介はステージを降りて客席に突入しながら歌ったり、フラッドの「Sweet Home Battle Field」ではおなじみのタンバリン片手に歌い(当然ながらサウンドは全然違うけど)、マーク・ロンソンの「Uptown Funk」はファンクとロックンロールの融合と言ってもいいくらいの熱さを放っていた。
そうしてバンドのグルーヴが上昇しまくった中で演奏された「LEO」の「Strange Dancer」が本当に最高にカッコよく、もうこれは亮介のソロでしか作り得ない曲だな、とすら思える。テンションの上がりまくった亮介は床に倒れこみながらギターを弾くというパフォーマンスも見せる。
そして最後はタイトル通りに歌に包まれるかのような、熱さではなく暖かさが満ちていく「Blanket Song」を演奏し、本当に楽しかった表情を浮かべながらメンバーと亮介はステージを去って行った。
アンコールでは亮介が1人で登場。アコギを手にし、
「ソロをやってるけどフラッドもガンガンライブやってるっていうスケジュールだから喉がちょっとキツくて。(確かにファルセットが出てないところもあった)
ポリープとかではないんだけど、病院に行ったら薬をもらって。その薬の副作用が「現実とは思えないくらいに陽気になる」っていうやつで(笑)」
と、「それヤバいクスリなんじゃ?」と思いながらも笑ってしまったが、ちゃんと処方箋を出してもらったやつとのこと。
そして語るように歌い始めるのだが、アメリカの空港で警備員に止められ、白人以外が50人以上詰め込まれた部屋で携帯を見せられた、というエピソードは最初は笑い話かという空気が流れていたが、
「俺もあんたも同じ人間だろ 何が違うっていうんだ」
と、人と人の間に知らないうちに引かれてしまった線に対する違和感を歌にしていく。それがそのまま「LEO」のラストの弾き語りブルース「無題 [No Tittle]」になっていくのだが、ブルースやソウルは白人から迫害を受けた黒人が作り出したものだという。アメリカで自分が差別される側であることを知ってしまった亮介だからこそ、このメッセージは切実に響いた。
アメリカの白人至上主義による人種差別問題のニュースは本当によく見るし、亮介はアメリカ大統領の名前を直接出していたりもした。悲しいことに、自分が大好きなアメリカのメジャーリーグでも今になって差別問題が報じられている。かつて、ブルーハーツは
「生まれたところや 皮膚や目の色でいったいこの僕のなにがわかるというのだろう」 (「青空」)
と差別される側の視点で歌った。アメリカに行けば、我々日本人は差別される側になってしまう。
メジャーリーグの試合を生で見たい、とは常々思っているが、この日の亮介のこの言葉から、アメリカで生まれた音楽を巡ってみたいという思いと、何よりもそのアメリカの差別問題をこの目で見てみたい、つまり初めてハッキリと「アメリカに行ってみたい」と思った。これはきっと日本にいるだけでは絶対わからないから。
その「無題 [No Tittle]」はサビの最後に「バカヤロウ」と亮介が叫ぶのだが、その「バカヤロウ」はフラッドの「鬼殺し」での同フレーズとは全く意味が違う。亮介はこの曲で、大切な人を蝕んでしまうガン細胞や、「悲しいほどに揺れるこの国の地面」など、人の力ではどうしようもできないものに対して、己の無力さを嘆くように「バカヤロウ」と叫んでいる。
それが何よりも切実だったからこそ、たった1人で、最後にはマイクを通さずに
「君を愛してるよ」
と歌ったこの曲が、この日最も素晴らしかった。つまり、あれだけすごいメンバーたちが音を鳴らしていても、やはりど真ん中にいるのは亮介だし、ど真ん中にあるのは亮介の声なのだ。
この日は亮介の31歳の誕生日だった。(ウエノコウジから高級なローリング・ストーンズのノートをもらったらしい)
こんな素晴らしいロックンローラーが生まれてきたことに、心から感謝したくなる1日だった。
歌い終わると再びメンバーを呼び込み、手を繋いで観客に一礼。今回のツアーはこれで終わりだが、これからもこのソロでの編成でも活動を続けていくとのこと。それはこの日HISAYOも渡邊一丘も会場に来てライブを見ていたフラッド本隊にどのような影響を及ぼすのだろうか。来月から始まる新宿LOFTでの対バン5daysはこれまでよりもさらにとんでもないことになりそうだ。
自分は実はあまりブラックミュージック色が強い音楽は得意ではない。だから現在の、ブラックミュージックの影響を受けたポップミュージックを作っている若手バンドたちにもイマイチピンと来ていない。亮介の「LEO」もおそらくものすごくざっくりと分けたらそっちに入るのかもしれないが、そういうバンドと亮介の音楽には決定的に違うものがあると思っている。
それはメロディである。リズムよりもメロディ。そのメロディはこうしたルーツミュージックと等しくスピッツなどを愛する亮介だからこそ生まれるものなのかもしれないが、フラッドとソロでサウンドの質感は違っても、そのメロディの良さ、美しさは決して変わらない。
1.LEOのブルース
2.Hustle
3.Land of 1,000 Dances
4.Rex Girl
5.Let's Stay Together
6.I Can't Stand the Rain
7.Night Swimmers
8.Bring It On Home to Me
9.Got My Mojo Working
10.コインランドリー・ブルース
11.Same Drugs
12.Roadside Flowers
13.How Many More Years
14.How Can You Be So Mean
15.Sweet Home Battle Field
16.Uptown Funk
17.Strange Dancer
18.Blanket Song
encore
19.無題 [No Tittle]
Strange Dancer
https://youtu.be/iXdrtnMTh34
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もう一方は「バンドメンバー以外の人と音楽を作るとどうなるかを試したくなった時」で、これはPlastic Treeの有村竜太郎など、若い頃から一つのバンドをずっと続けてきた人に多いパターンになり、そこまでバンド本隊の音楽性からかけ離れたものにはならないことが多い。
a flood of circleのボーカリストとしてガンガン活動している佐々木亮介が今年リリースしたソロアルバムはそのどちらとも違っているという稀有なパターンであり、亮介は自身が愛し、自身の音楽観を作り上げてきたソウルミュージックやブルースが生まれた、アメリカのメンフィスにあるロイヤルスタジオでレコーディングしたいという思いで生まれたものである。
そこで数々の名盤を作ってきた現地のミュージシャンたちと作り上げたアルバムは、亮介が現地で呼ばれていた「LEO」という愛称を与えられ、やはりフラッドとは違う感触、音楽性のアルバムとなった。
その「LEO」を携えたツアーは、フラッドのメンバーを迎えるでも、1人で弾き語りをするわけでもなく、ましてや現地のレコーディングをしたミュージシャンが来てくれるわけもなく、
ギター:弓木英梨乃 (KIRINJI,Base Ball Bear)
ベース:ウエノコウジ (the HIATUSなど)
ドラム:澤村一平 (SANABAGUN.)
キーボード:高野勲 (GRAPEVINEなど)
というオールスター的な、あまりに豪華過ぎるメンバーが集結。
会場の渋谷WWW Xの客席には最前の5列目くらいまでだけなぜか椅子が置かれるという(でもライブ始まるとみんな立ってたからあまり意味がない気がする)、アコースティックライブみたいなセッティング。
19時をかなり過ぎたあたりで場内が暗転すると、フラッドのライブ時の革ジャンではなく、黒いジャケットを着た亮介がステージに登場。いきなり勢揃いしたメンバーたちもみな黒いジャケットを着ているので、これは揃えたものなのかもしれない。ウエノコウジはいつも黒ジャケットを着ているために普段と出で立ちが変わらないが。
まずは挨拶も兼ねて、今までも弾き語りライブのオープニング的に披露されていた、その日その会場のフレーズを入れまくった即興性の高いブルースからスタートし、亮介の気合いが客席に伝染するのは「LEO」収録の「Hustle」。手拍子を叩いたり踊ったりする客席の様子からは、ソロだから大人しく見る、という感じでは全くないライブであることがこの時点でわかる。
亮介による1人1人のメンバー紹介では、澤村を呼んだのはウエノと歳が離れているドラマーにしようと思ったこと、弓木が打ち上げで果物を包んでいた白い網をネックレスに加工して亮介にプレゼントしたという天然エピソード、さらにこのバンドのバンマスが亮介自身ではなく、高野であることが語られる。
THE BAWDIESのライブ時のSEとしておなじみのウィルソン・ピケットの「ダンス天国」こと「Land of 1,000 Dancers」のカバーでは、亮介の洋楽カバーではおなじみの「1コーラス目は原曲の歌詞通りに歌うが、2コーラス目からは自分で勝手につけた日本語詞で歌う」という方式が弾き語りではなくバンド編成でも変わらないことがわかる(この後に演奏されたカバーも全てこのパターン)と同時に、コーラス部分を観客とともに合唱して、どういうライブになるか全く未知数だったため、やや構え気味でもあった中で楽しい空気を作り上げていく。
すると突如としてフラッドの「Rex Girl」のカバーも披露されるのだが、そもそもキーボードも入っているし、フラッドとは全く音像が違う。やはりどうしてもロックンロールになるフラッドよりも、ものすごくざっくり言うとポップ、なんだけどそのポップさの下敷きにあるのはブラックミュージックというか。しかしながら短期間でこの曲まで演奏できてしまうこのメンバーたちは本当に恐ろしいし、しっかり曲中にそれぞれのソロ回しも入れてくる。
Al Green「Let's Stay Together」のカバーからはややしっとりとしたブルースを聴かせていくのだが、
「メンフィスで生まれたブルース、ソウル、俺は本当に大好きだよ」
と言ってから演奏するあたり、この日のライブのテーマはやはりそのメンフィスで生まれた音楽に対する愛であるということがわかる。
しかしそれにしても亮介のあの声で歌われると、原曲を忘れてしまうというか、もはや佐々木亮介の曲にしかならないあたりは亮介のボーカリストの唯一無二さを改めて実感させてくれるカバー曲のコーナーである。
弓木とウエノがコーラスまでも務める「LEO」のオープニング曲である「Night Swimmers」でゆるく踊らせると、いったんステージには亮介とウエノコウジの2人だけに。ウエノコウジはアコベに持ち替えるのだが、こうしてアコギとアコベで並んでいると、まるで武藤昭平 with ウエノコウジの、武藤昭平だけめちゃ若返った、みたいになるのだが、当然ウエノコウジもMCではそこをいじりまくる。(the HIATUSでは基本的に喋らないが、この人はこういう形式のライブだとビックリするくらいに喋りまくる)
ウエノ「旅館みたいなとこの座敷でライブやったりもしたんだけど、やっぱりねぇ、一応強面で売ってるから(笑)、靴を脱いで靴下でやらなきゃいけないっていうのがねぇ(笑)
しかもまた武藤昭平がキティちゃんの靴下なんかを履いてるんだよ、あんな顔して(会場爆笑)」
と、もはや武藤昭平の欠席裁判的なウエノコウジの爆笑MCが展開される中、サム・クックの「Bring It On Home to Me」(これも前にTHE BAWDIESもカバーしていた。フラッドもTHE BAWDIESもロックンロールを掲げているだけに、そこを掘った先で辿り着くところはやはり同じなのだ)で亮介の歌をしっとりと聴かせると、
「俺が編み出した奏法を見てくれ!」
とアコベにもかかわらず弾きまくりのマディ・ウォーターズ「Got My Mojo Working」では曲中に亮介が
「お客様の中にギタリストはいませんか?フラッドと武藤昭平 with ウエノコウジの沖縄でのライブの時にステージに乱入して尻を出した、白髪のギタリストはいませんか!?」
と呼びかけると、客席の1番後ろにいたイマイアキノブ(ex.The Birthday)が観客をかき分けてステージに上がり、亮介のエレキギターを弾きまくるというあまりに自由なコラボ。イマイはこの後も普通に客席で酒を飲みながらライブを見ていたのだが、去り際に亮介に
「6万円でいいから」
と数分しかステージにいなかったのに法外なギャラを請求してステージから飛び降りた。
高野勲いわく「居酒屋・ウエノコウジ」のコーナーが終わると、ウエノの代わりに高野と弓木がステージに。しかも弓木はギターではなくヴァイオリンを持っての登場。しかし弓木はヴァイオリンはやりたくなかったらしいのだが、亮介に「とりあえず一回持ってきて」と言われてヴァイオリンを弾くことになったというエピソードが語られたが、なんでそんなに嫌だったのかがわからないくらいにこの編成で演奏されたフラッドの「コインランドリー・ブルース」は美しかった。弾き語りでもよくやってる曲だから曲の良さはわかっているんだけど、この2人のサウンドがメロディの美しさを何段階も引き上げている。
この2日前にBase Ball Bearのワンマンで弓木のギタリストとしての凄さを堪能したばかりであるが、この人はそれだけじゃない、もっとすごい能力を持った人であるというのがこの日、さらに良くわかった。小出がフェスで
「今日の出演者で1番ギターが上手い」
と言うのは大袈裟では全くなく、真実を述べているだけである。
なのに本人のギタープレイからは「私めっちゃギター上手いから見て!」という、上手いギタリストにありがちな自己満足的な空気を1%たりとも感じないというあたりがまた印象がすこぶる良く、これからも彼女の活動を見ていきたいと思わせる。
そのヴァイオリンとしての弓木と入れ替わりでステージに現れたのはドラムの澤村で、普段SANABAGUN.では全くMCをしないという彼がバンドの告知に加え、自身がワンマンではラップもやっているというのをいじられながら、今回のツアーのTシャツまでも宣伝するという後輩キャラっぷりを見せる。亮介は
「完全に俺が言わせてるみたいじゃん」
と、これまでキョウスケ(爆弾ジョニー)くらいにしか見せてこなかった先輩キャラを発揮しつつ、ドラムとキーボードのみという絞り込まれたサウンドでチャンス・ザ・ラッパーの「Same Drugs」を歌い上げる。現行のUSポップのメインストリームのヒット曲であるが、ソウルやブルースのルーツミュージックからこの最新のR&Bまでを等しく歌う亮介の姿からは音楽が受け継がれながら進化していくものであるというのを見せてもらった気がするし、この曲ってこんなに美しいメロディの曲だったのか、と改めて教えられた。
再びバンドメンバーが勢ぞろいした中で、
「つばきの一色徳保さん、川島道行さん(BOOM BOOM SATELLITES)に捧げます」
と、いなくなってしまった人たちに向けて歌われたのは「LEO」の中でも最も歌にスポットが当たった「Roadside Flowers」。
「Hey it's time to go ねえ 君はいないから 私が言う」
という歌詞はラブソングのようにも取れるが、その歌の先にいるのは、音楽を愛しながらも新しい音楽を作ることができなくなってしまった先輩たちだった。2人ともそこまでフラッドと絡んでいたイメージはないけれど(一色は曽根巧つながりがあっただろうけど)、バンドのボーカリストとして亮介は2人のことをリスペクトしていたのだろう。
そんなしんみりした空気を切り裂くかのように、そこからはぶっ続けのダンスタイムで、ここまでは意外なほどに薄かったロック濃度が濃くなっていく。亮介はステージを降りて客席に突入しながら歌ったり、フラッドの「Sweet Home Battle Field」ではおなじみのタンバリン片手に歌い(当然ながらサウンドは全然違うけど)、マーク・ロンソンの「Uptown Funk」はファンクとロックンロールの融合と言ってもいいくらいの熱さを放っていた。
そうしてバンドのグルーヴが上昇しまくった中で演奏された「LEO」の「Strange Dancer」が本当に最高にカッコよく、もうこれは亮介のソロでしか作り得ない曲だな、とすら思える。テンションの上がりまくった亮介は床に倒れこみながらギターを弾くというパフォーマンスも見せる。
そして最後はタイトル通りに歌に包まれるかのような、熱さではなく暖かさが満ちていく「Blanket Song」を演奏し、本当に楽しかった表情を浮かべながらメンバーと亮介はステージを去って行った。
アンコールでは亮介が1人で登場。アコギを手にし、
「ソロをやってるけどフラッドもガンガンライブやってるっていうスケジュールだから喉がちょっとキツくて。(確かにファルセットが出てないところもあった)
ポリープとかではないんだけど、病院に行ったら薬をもらって。その薬の副作用が「現実とは思えないくらいに陽気になる」っていうやつで(笑)」
と、「それヤバいクスリなんじゃ?」と思いながらも笑ってしまったが、ちゃんと処方箋を出してもらったやつとのこと。
そして語るように歌い始めるのだが、アメリカの空港で警備員に止められ、白人以外が50人以上詰め込まれた部屋で携帯を見せられた、というエピソードは最初は笑い話かという空気が流れていたが、
「俺もあんたも同じ人間だろ 何が違うっていうんだ」
と、人と人の間に知らないうちに引かれてしまった線に対する違和感を歌にしていく。それがそのまま「LEO」のラストの弾き語りブルース「無題 [No Tittle]」になっていくのだが、ブルースやソウルは白人から迫害を受けた黒人が作り出したものだという。アメリカで自分が差別される側であることを知ってしまった亮介だからこそ、このメッセージは切実に響いた。
アメリカの白人至上主義による人種差別問題のニュースは本当によく見るし、亮介はアメリカ大統領の名前を直接出していたりもした。悲しいことに、自分が大好きなアメリカのメジャーリーグでも今になって差別問題が報じられている。かつて、ブルーハーツは
「生まれたところや 皮膚や目の色でいったいこの僕のなにがわかるというのだろう」 (「青空」)
と差別される側の視点で歌った。アメリカに行けば、我々日本人は差別される側になってしまう。
メジャーリーグの試合を生で見たい、とは常々思っているが、この日の亮介のこの言葉から、アメリカで生まれた音楽を巡ってみたいという思いと、何よりもそのアメリカの差別問題をこの目で見てみたい、つまり初めてハッキリと「アメリカに行ってみたい」と思った。これはきっと日本にいるだけでは絶対わからないから。
その「無題 [No Tittle]」はサビの最後に「バカヤロウ」と亮介が叫ぶのだが、その「バカヤロウ」はフラッドの「鬼殺し」での同フレーズとは全く意味が違う。亮介はこの曲で、大切な人を蝕んでしまうガン細胞や、「悲しいほどに揺れるこの国の地面」など、人の力ではどうしようもできないものに対して、己の無力さを嘆くように「バカヤロウ」と叫んでいる。
それが何よりも切実だったからこそ、たった1人で、最後にはマイクを通さずに
「君を愛してるよ」
と歌ったこの曲が、この日最も素晴らしかった。つまり、あれだけすごいメンバーたちが音を鳴らしていても、やはりど真ん中にいるのは亮介だし、ど真ん中にあるのは亮介の声なのだ。
この日は亮介の31歳の誕生日だった。(ウエノコウジから高級なローリング・ストーンズのノートをもらったらしい)
こんな素晴らしいロックンローラーが生まれてきたことに、心から感謝したくなる1日だった。
歌い終わると再びメンバーを呼び込み、手を繋いで観客に一礼。今回のツアーはこれで終わりだが、これからもこのソロでの編成でも活動を続けていくとのこと。それはこの日HISAYOも渡邊一丘も会場に来てライブを見ていたフラッド本隊にどのような影響を及ぼすのだろうか。来月から始まる新宿LOFTでの対バン5daysはこれまでよりもさらにとんでもないことになりそうだ。
自分は実はあまりブラックミュージック色が強い音楽は得意ではない。だから現在の、ブラックミュージックの影響を受けたポップミュージックを作っている若手バンドたちにもイマイチピンと来ていない。亮介の「LEO」もおそらくものすごくざっくりと分けたらそっちに入るのかもしれないが、そういうバンドと亮介の音楽には決定的に違うものがあると思っている。
それはメロディである。リズムよりもメロディ。そのメロディはこうしたルーツミュージックと等しくスピッツなどを愛する亮介だからこそ生まれるものなのかもしれないが、フラッドとソロでサウンドの質感は違っても、そのメロディの良さ、美しさは決して変わらない。
1.LEOのブルース
2.Hustle
3.Land of 1,000 Dances
4.Rex Girl
5.Let's Stay Together
6.I Can't Stand the Rain
7.Night Swimmers
8.Bring It On Home to Me
9.Got My Mojo Working
10.コインランドリー・ブルース
11.Same Drugs
12.Roadside Flowers
13.How Many More Years
14.How Can You Be So Mean
15.Sweet Home Battle Field
16.Uptown Funk
17.Strange Dancer
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encore
19.無題 [No Tittle]
Strange Dancer
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