サカナクション SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Around @幕張メッセ9~11ホール 10/1
- 2017/10/02
- 01:23
もはや幕張メッセでライブをやるのも当たり前というか、関東圏ではこのクラスじゃないとチケットが取れないという状態が続いているサカナクション。今回のアリーナツアーは特段何らかのリリースによるものではないのだが、これまでも「音響に難がある」としておなじみの幕張メッセにおいていかに最高の音質でライブを届けられるか、ということに向き合ってきたサカナクションが、6.1chサラウンドという最新鋭の音響システムを使用したライブに挑戦。
この日は幕張メッセ9~11ホールの2日目だが、前日に参加した方々も絶賛しているだけに期待は高まる。
まるで広大な深海の中にいるかのような薄暗い会場の中に入ると、ステージにはワンマンではおなじみの紗幕がかかっており、ステージの全貌と演出はわからないが、会場内の至る場所にスピーカーが設置されているのが「どんなサウンドなんだろうか?」と何度も見てきた幕張メッセでのワンマンであるにもかかわらずドキドキさせてくれる。
18時をかなり過ぎた頃(15分くらい?)、場内が暗転すると、紗幕にはDOLBYの文字が映し出され、早くも大歓声と拍手が起こる。紗幕が開くと、ドン!という重低音とともに客席のブロック周りに張り巡らされたポールが赤く発光。そのポールがステージの上、つまり会場全体を囲むように設置されているのがこの段階でわかる。
その発光に気を取られていると、すでにメンバーがステージにスタンバイしており、丸い黒のサングラスに背中にはマリオの敵キャラのようなトゲトゲの衣装を身にまとった岡崎英美のシンセの音が鳴り響く「新宝島」からスタート。山口も岩寺もステップを踏みながら歌い、ギターを鳴らし、続く「M」では岡崎と草刈の女性陣によるサビのボーカルが華やかかつ神聖に響く。
山口による挨拶も曲中に挟みながら「アルクアラウンド」、ダンサーはステージには登場しないが両サイドのスクリーンにダンサーが踊る映像が映る「夜の踊り子」、さらにはギターロック性の強いストレートな「Aoi」と、フェスの後半に畳み掛けるような曲を序盤から連発し、フェスでも良く見ている身としては早くもクライマックス感を感じさせる。
そして幕張メッセ9~11のキャパだとステージとの距離を感じざるを得ないし(自分はBブロックの後ろの方にいた)、実際にメンバーはかなり小さく見えるのだが、サラウンドシステムによって、音自体はリキッドルームあたりでライブを見ているかのように近くで鳴っているように感じる。このクラスのアリーナだとその遠さが嫌になってしまう人も多いが、このサラウンドシステムはそういう人すらも距離感を気にせずにライブを楽しめるようになっていると思う。
さらに演奏中にはステージの上からメンバーを映し出す映像もよく挟み込まれ、山口と岩寺のギター、草刈のベースが足元にどんな機材があって、どうサウンドを切り替えているのかが実によくわかる。これはバンドをやっている人や機材マニアにはたまらない演出だろうし、スクリーンにこのアングルをこんなに映すバンドを自分は他に見たことがない。
ここまでは演出というよりはバンドサウンドの強さで勝負するような内容だったのだが、スクリーンに波が押し寄せる映像が映し出されると、その波間から徐々に海の中の深海に潜っていくという「シーラカンスと僕」の演出はこれまでにも何度か見てきたものであるが、その波が押し寄せる音が後ろや横からも聞こえてくるため、ついつい後ろを振り返って「波来てないよな!?」と確認してしまうくらいにリアルに迫ってくるかのようだった。
閉まった紗幕がメンバーの姿を隠し、そこに映像が映し出される中でノイジーなギターサウンドが爆音で鳴らされた「壁」ではこれまでのワンマンでも照明が一切ない真っ暗闇の中で演奏されたりと、様々な趣向を凝らした演出が施されてきたが、今回は最後の
「僕が覚悟を決めたのは 庭の花が咲く頃」
というフレーズに合わせて紗幕に一輪の花が映し出され、曲のアウトロでまさに壁が消失するかのように紗幕が燃えてメンバーの姿が見えてくるという、「よくこんなことを思いつくな…」とチーム・サカナクションのアイデアと実行力の素晴らしさにただただひれ伏すしかない演出を見せてくれた。
一転して「ユリイカ」ではモノクロのトーキョーの映像とオイルアートに演奏するメンバーの姿が混ざり合うという映像と演出と演奏の融合を見せ、山口がハンドマイクで歌う「ボイル」はまさに熱唱と言っていい(サカナクションのライブではあまり使わない形容である)ようなもので、ボーカル部分が終わると、まだ楽器隊は演奏しているにもかかわらず客席から大きな拍手が起きた。これは間違いなく山口のボーカルに向けられた拍手であり、演出だけでなく、山口の歌唱力がこのキャパに相応しいものに進化してきたことを示している。
サカナクションの存在をさらに広い場所に認識させた曲である「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」では、MVで強烈なインパクトを与えた山口一郎の連結人形が2セットも登場し、山口自身に被りながら踊る様には思わず客席からは笑いが起こる。演奏中は常にシリアスな空気が漂っているサカナクションのライブにおいては実に珍しい場面である。
するとここからはライブならではの、曲のアウトロからそのままイントロに繋がるというアレンジがまるで一つの組曲のようになり、「夜の東側」「三日月サンセット」という初期の曲たちは、近年の曲と比べるとやはりシンプルなアレンジ(当時はまだこういうアレンジしか出来なかったということもこうしてライブで聴くとよくわかる)だが、当時は四畳半的なフォークミュージックの要素も強かった曲たちがこの巨大な会場で鳴らされるのが当然になっているというのも実に感慨深いものがある。
するとメンバーのソロ回し兼メンバー紹介から、
「みんなもっと自由に踊ろう!」
と呼びかける山口がこの会場の中で最も自由に飛び跳ねて踊る中、ハイパーなダンスミュージックに音像が変化していき、ステージを覆った紗幕に鮮やかな星空の映像が映し出される中、バンドサウンドから打ち込みのサウンドに切り替わり、緑色のレーザー光線が飛び交いまくる中、紗幕の向こう側のメンバーはラップトップに横並びという編成になっているのだが、その位置が信じられないくらい高いところまで床がせり上がっている。自分のような高所恐怖症の人間では絶対に立てないくらいに高い。
その状態で演奏されたのは今や毎回ライブではこの編成で演奏されている「SORATO」なのだが、この曲をライブでやり始めた時はまだ「この部分長いな…」と思うことも多々あったが、ライブで毎回演奏することにより、間違いなくこの曲は大きく成長した。サカナクションの音楽の中での大きな要素の一つである「踊る」という部分においてこの日のピークを刻んだのは間違いなくこの瞬間だった。
メンバーの位置が通常のステージの高さに戻ったものの、同じラップトップ横並びの編成のままで始まったのは「ミュージック」。この流れもおなじみではあるのだが、この編成での状態では何色もの鮮やかなレーザー光線が会場を飛び交う中、なんとメンバーの着ている衣装もレーザーに合わせて発光するという、服すらも演出の一部にしてしまうというアイデアには改めて感服せざるを得ない。
そして最後のサビ前ではいつものように暗闇の中でバンドセットへの早転換が行われるのだが、「ゴトッ」という音がしたのは誰かがマイクを落としたりしたんだろうか、と思ってしまうくらいにいつもより転換に時間がかかっていた気がする。
そのまま繋がるように突入した「アイデンティティ」ではサラウンドシステムによって最前から最後方まで等しくエモーションを発揮し、今回も山口は間奏で観客が手を振る光景に
「すごいよ!すごい景色だ!」
と叫ぶ。幕張メッセにおいても毎回必ず演奏される曲だし、この会場よりも広い場所、たくさんの人がいる場所でもこの景色を見ているはずだが、何度見てもそう叫ばざるを得ないくらいの光景がステージからは見えているんだろうか。
そして山口がMVでおなじみのロングコートを身に纏ってから演奏された「多分、風。」ではまさに風にたなびくかのように客席の至る場所で白い布が揺れ、山口がアコギを手にして観客に
「楽しんでいただけたでしょうか?」
と問いかけると、曲間が全くないだけに本当にあっという間(1時間半くらいは経っていたが、体感的にはもっと短い感じがした)のラストに演奏されたのは「グッドバイ」。
サカナクションの中ではミドル、バラードという部類に入る曲だが、そんなタイプのこの曲がこの日のここまでのライブで最大の熱量を放っており、最後の
「グッドバイ 世界」
と繰り返される、山口以外のメンバーによるコーラスはこれまで何度も聴いてきたこの曲の中で最も感動的な力を放っていた。
アンコールでは軽装になったメンバーが再登場し、「SAKANACTION 6.1ch SAROUND SESSION」と題して「サンプル」をサンプラーなどを駆使しながら、PA席にいるスタッフ一人一人をフィーチャーし、どうやってこの音が出ていて、こうやって音が会場に届けられているというのがよくわかる演出に。スタッフ一人一人の名前と役割がスクリーンでリアルタイムに映し出されるのだが、PA席の周りでライブを見ている人たちがそのスタッフに向けて拍手を送るという光景は他のバンドでは絶対見れないし、こうしてPA席の周りでライブを見ている人の中には、将来こうした職業に就きたいと思っている人もいるはず。そう思わせるようなバンドも他には絶対いない。
サビで一気にダンサブルに飛翔する「ホーリーダンス」を終えると、
「新曲をやります!今のサカナクションはこんな感じです!」
と言って、待望の新曲を披露。実にサカナクションらしいキャッチーかつポップなダンスチューンだが、イントロでの岡崎と草刈のコーラスと岩寺のギターからはオリエンタルな空気も感じさせる。(間奏での岩寺のギターソロ時には山口が岩寺に近寄って髪の毛をいじるという微笑ましい一幕も)
だが、この曲の肝は間違いなくこれまでとは全く違う山口の歌唱である。もはや演歌か歌謡曲かというくらいにコブシの効いた歌い方はこれまでのサカナクションの曲には絶対合わなかっただろうが、最後に山口が拳を握ってカメラ目線で歌い終える姿からは、この曲をこうして歌う必然性が感じられた。そして山口がこういう歌い方ができることに驚き。
ここにきてこの日最初にして最後のMC。バンドが今年10周年を迎えたことにより、山口がメンバーそれぞれに10年を振り返ることを言うのだが、
草刈=まさか結婚して母親になるとは思わなかった
岡崎=クッパになった(笑)
岩寺=高校1年生の時に出会ってから20年経って、ついに誕生日にメールが来なくなり、友達から仕事仲間になった(笑)
江島=10年前からいたっけ?(笑)
という草刈以外へのいじりっぷりとともに、この6.1chサラウンドライブが全てソールドアウトしているのに赤字であること(だからこそ物販を買って欲しいとのこと)、この日のライブがNHKで8K放送されることを告げ、ついに
「5年ぶりにアルバムの目処が立ちました!来年の春くらいにリリースする予定です!
すごく暗いアルバムになると思いますけど(笑)、アルバムを聴いてくれて、またライブを見てみたいなって思ってくれたらまた会いましょう!」
と出す出す詐欺をしていたアルバムがついにリリースされることを発表。その間にシングルを挟むかもしれないということだが、シングル自体はそれなりに定期的にリリースされているだけに、かなりシングル曲の割合が高くなるアルバムになるんじゃないかとも思ってしまうが。
そして最後に演奏されたのは、今年の春フェスや夏フェスのアンコールでも久しぶりに演奏されていた「目が明く藍色」。ロックオペラとでも言うような展開が変わりまくる曲だが、かつて「ナイトフィッシングイズグッド」がライブの締めの定番だった中で、今では完全にこの曲がその位置に来るまでに成長を遂げたことを、この日の曲が進むたびにピークを更新し続けたライブの最後に演奏されたことが示していた。
山口が客席の写真を撮る中、メンバー全員が並んで客席に頭を下げてからステージを去ると、スクリーンにはスタッフロールの後に、2007年からのバンドの歴代のアー写が次々に映し出されていた。「若っ!」とも思うし、当時から比べると特に岡崎と草刈はだいぶ垢抜けた。10周年ということは「GO TO THE FUTURE」がリリースされてから10年が経ったということだが、自分はサカナクションに出会ったのがまさに「GO TO THE FUTURE」がリリースされた時だった。それから「NIGHT FISHING」までは、
「すごく良いバンドだし、好きなタイプのバンドだが、万人にウケるかという点では、SUPERCARのように良い音楽を作っていてもそこまではいかないバンドかもしれない」
と思っていたし、実際に初出演を果たしたCDJ07/08は当時1番小さいステージだったMOON STAGEですらガラガラと言ってもいい状態だった。
それが変わり始めたのは「セントレイ」が出た時。まさにそれは「僕と君が繋がる世界」だったし、その後の「シンシロ」でその予感は確信に変わり、さらにその次の「アルクアラウンド」の大ヒット(オリコン初登場3位)により、サカナクションはシーンの最前線を走る若手バンドとなった。その過程とこれまでをずっと見てこれたのは本当に幸せなことだった。
それから長い年月が経って、今年で10周年。相変わらず妥協という言葉を一切知らないが故に、なかなかアルバムが出なくてやきもきしていたが、5年もアルバムが出ていないのに幕張メッセ2daysがソールドアウトできるバンドというのはそうそういない。(もはやそれができるのはレジェンドクラスのバンドである)
しかしサカナクションが未だにロックシーンで最も巨大な存在のバンドの一つであり続けている理由は、映像などの演出で毎回期待を超えるものを見せてくれながらも、もしそういう演出が一切なかったとしても絶対勝てるようなライブでの地力の強さがあるからこそ。
もし仮に全く人気がなくなって、演出が使えないくらいに小さなライブハウスでしかライブができなくなったとしても、サカナクションはこの日と同じくらいに満足できるライブをやってくれるはず。でも、そういう日が来ても今「チーム・サカナクション」として一緒にライブを作り上げている人たちは絶対バラバラになったりしないで、生きるも死ぬもサカナクションと一緒なんだろうなぁと思いながら、スクリーンに最後に写し出された
「GO TO THE NEXT FUTURE with you」
という文字は、サカナクションにはまだまだロック界のトップランナーとしてやらなければいけないことがたくさんあることを示していた。
この日のサカナクションと前日のBase Ball Bear。かつてはボーカルがともに「お互い他に友達がいない」と自嘲する、親友同士と言ってもいい間柄だった。しかしながら近年は規模感や関係性が少し離れてきてしまったように感じる。でも、こうして続けてライブを見ると、いつかまた2組が揃ってコラボ曲の「kimino-me」をライブで演奏してくれる日が来ることを信じて待ちたい。(実際、同時期にチャットモンチーの福岡晃子とコラボして生まれた「クチビル・ディテクティブ」は前日に久々に披露されているし)
名曲ばかりを生み出してきた両バンドの中でも、トップクラスの名曲だと思っている曲だから。
1.新宝島
2.M
3.アルクアラウンド
4.夜の踊り子
5.Aoi
6.シーラカンスと僕
7.壁
8.ユリイカ
9.ボイル
10.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
11.夜の東側
12.三日月サンセット
13.SORATO
14.ミュージック
15.アイデンティティ
16.多分、風。
17.グッドバイ
encore
18.サンプル
19.ホーリーダンス
20.新曲
21.目が明く藍色
SORATO
https://youtu.be/ID6gwhMWyns
Next→ 10/2 佐々木亮介 (a flood of circle) @渋谷WWW X
この日は幕張メッセ9~11ホールの2日目だが、前日に参加した方々も絶賛しているだけに期待は高まる。
まるで広大な深海の中にいるかのような薄暗い会場の中に入ると、ステージにはワンマンではおなじみの紗幕がかかっており、ステージの全貌と演出はわからないが、会場内の至る場所にスピーカーが設置されているのが「どんなサウンドなんだろうか?」と何度も見てきた幕張メッセでのワンマンであるにもかかわらずドキドキさせてくれる。
18時をかなり過ぎた頃(15分くらい?)、場内が暗転すると、紗幕にはDOLBYの文字が映し出され、早くも大歓声と拍手が起こる。紗幕が開くと、ドン!という重低音とともに客席のブロック周りに張り巡らされたポールが赤く発光。そのポールがステージの上、つまり会場全体を囲むように設置されているのがこの段階でわかる。
その発光に気を取られていると、すでにメンバーがステージにスタンバイしており、丸い黒のサングラスに背中にはマリオの敵キャラのようなトゲトゲの衣装を身にまとった岡崎英美のシンセの音が鳴り響く「新宝島」からスタート。山口も岩寺もステップを踏みながら歌い、ギターを鳴らし、続く「M」では岡崎と草刈の女性陣によるサビのボーカルが華やかかつ神聖に響く。
山口による挨拶も曲中に挟みながら「アルクアラウンド」、ダンサーはステージには登場しないが両サイドのスクリーンにダンサーが踊る映像が映る「夜の踊り子」、さらにはギターロック性の強いストレートな「Aoi」と、フェスの後半に畳み掛けるような曲を序盤から連発し、フェスでも良く見ている身としては早くもクライマックス感を感じさせる。
そして幕張メッセ9~11のキャパだとステージとの距離を感じざるを得ないし(自分はBブロックの後ろの方にいた)、実際にメンバーはかなり小さく見えるのだが、サラウンドシステムによって、音自体はリキッドルームあたりでライブを見ているかのように近くで鳴っているように感じる。このクラスのアリーナだとその遠さが嫌になってしまう人も多いが、このサラウンドシステムはそういう人すらも距離感を気にせずにライブを楽しめるようになっていると思う。
さらに演奏中にはステージの上からメンバーを映し出す映像もよく挟み込まれ、山口と岩寺のギター、草刈のベースが足元にどんな機材があって、どうサウンドを切り替えているのかが実によくわかる。これはバンドをやっている人や機材マニアにはたまらない演出だろうし、スクリーンにこのアングルをこんなに映すバンドを自分は他に見たことがない。
ここまでは演出というよりはバンドサウンドの強さで勝負するような内容だったのだが、スクリーンに波が押し寄せる映像が映し出されると、その波間から徐々に海の中の深海に潜っていくという「シーラカンスと僕」の演出はこれまでにも何度か見てきたものであるが、その波が押し寄せる音が後ろや横からも聞こえてくるため、ついつい後ろを振り返って「波来てないよな!?」と確認してしまうくらいにリアルに迫ってくるかのようだった。
閉まった紗幕がメンバーの姿を隠し、そこに映像が映し出される中でノイジーなギターサウンドが爆音で鳴らされた「壁」ではこれまでのワンマンでも照明が一切ない真っ暗闇の中で演奏されたりと、様々な趣向を凝らした演出が施されてきたが、今回は最後の
「僕が覚悟を決めたのは 庭の花が咲く頃」
というフレーズに合わせて紗幕に一輪の花が映し出され、曲のアウトロでまさに壁が消失するかのように紗幕が燃えてメンバーの姿が見えてくるという、「よくこんなことを思いつくな…」とチーム・サカナクションのアイデアと実行力の素晴らしさにただただひれ伏すしかない演出を見せてくれた。
一転して「ユリイカ」ではモノクロのトーキョーの映像とオイルアートに演奏するメンバーの姿が混ざり合うという映像と演出と演奏の融合を見せ、山口がハンドマイクで歌う「ボイル」はまさに熱唱と言っていい(サカナクションのライブではあまり使わない形容である)ようなもので、ボーカル部分が終わると、まだ楽器隊は演奏しているにもかかわらず客席から大きな拍手が起きた。これは間違いなく山口のボーカルに向けられた拍手であり、演出だけでなく、山口の歌唱力がこのキャパに相応しいものに進化してきたことを示している。
サカナクションの存在をさらに広い場所に認識させた曲である「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」では、MVで強烈なインパクトを与えた山口一郎の連結人形が2セットも登場し、山口自身に被りながら踊る様には思わず客席からは笑いが起こる。演奏中は常にシリアスな空気が漂っているサカナクションのライブにおいては実に珍しい場面である。
するとここからはライブならではの、曲のアウトロからそのままイントロに繋がるというアレンジがまるで一つの組曲のようになり、「夜の東側」「三日月サンセット」という初期の曲たちは、近年の曲と比べるとやはりシンプルなアレンジ(当時はまだこういうアレンジしか出来なかったということもこうしてライブで聴くとよくわかる)だが、当時は四畳半的なフォークミュージックの要素も強かった曲たちがこの巨大な会場で鳴らされるのが当然になっているというのも実に感慨深いものがある。
するとメンバーのソロ回し兼メンバー紹介から、
「みんなもっと自由に踊ろう!」
と呼びかける山口がこの会場の中で最も自由に飛び跳ねて踊る中、ハイパーなダンスミュージックに音像が変化していき、ステージを覆った紗幕に鮮やかな星空の映像が映し出される中、バンドサウンドから打ち込みのサウンドに切り替わり、緑色のレーザー光線が飛び交いまくる中、紗幕の向こう側のメンバーはラップトップに横並びという編成になっているのだが、その位置が信じられないくらい高いところまで床がせり上がっている。自分のような高所恐怖症の人間では絶対に立てないくらいに高い。
その状態で演奏されたのは今や毎回ライブではこの編成で演奏されている「SORATO」なのだが、この曲をライブでやり始めた時はまだ「この部分長いな…」と思うことも多々あったが、ライブで毎回演奏することにより、間違いなくこの曲は大きく成長した。サカナクションの音楽の中での大きな要素の一つである「踊る」という部分においてこの日のピークを刻んだのは間違いなくこの瞬間だった。
メンバーの位置が通常のステージの高さに戻ったものの、同じラップトップ横並びの編成のままで始まったのは「ミュージック」。この流れもおなじみではあるのだが、この編成での状態では何色もの鮮やかなレーザー光線が会場を飛び交う中、なんとメンバーの着ている衣装もレーザーに合わせて発光するという、服すらも演出の一部にしてしまうというアイデアには改めて感服せざるを得ない。
そして最後のサビ前ではいつものように暗闇の中でバンドセットへの早転換が行われるのだが、「ゴトッ」という音がしたのは誰かがマイクを落としたりしたんだろうか、と思ってしまうくらいにいつもより転換に時間がかかっていた気がする。
そのまま繋がるように突入した「アイデンティティ」ではサラウンドシステムによって最前から最後方まで等しくエモーションを発揮し、今回も山口は間奏で観客が手を振る光景に
「すごいよ!すごい景色だ!」
と叫ぶ。幕張メッセにおいても毎回必ず演奏される曲だし、この会場よりも広い場所、たくさんの人がいる場所でもこの景色を見ているはずだが、何度見てもそう叫ばざるを得ないくらいの光景がステージからは見えているんだろうか。
そして山口がMVでおなじみのロングコートを身に纏ってから演奏された「多分、風。」ではまさに風にたなびくかのように客席の至る場所で白い布が揺れ、山口がアコギを手にして観客に
「楽しんでいただけたでしょうか?」
と問いかけると、曲間が全くないだけに本当にあっという間(1時間半くらいは経っていたが、体感的にはもっと短い感じがした)のラストに演奏されたのは「グッドバイ」。
サカナクションの中ではミドル、バラードという部類に入る曲だが、そんなタイプのこの曲がこの日のここまでのライブで最大の熱量を放っており、最後の
「グッドバイ 世界」
と繰り返される、山口以外のメンバーによるコーラスはこれまで何度も聴いてきたこの曲の中で最も感動的な力を放っていた。
アンコールでは軽装になったメンバーが再登場し、「SAKANACTION 6.1ch SAROUND SESSION」と題して「サンプル」をサンプラーなどを駆使しながら、PA席にいるスタッフ一人一人をフィーチャーし、どうやってこの音が出ていて、こうやって音が会場に届けられているというのがよくわかる演出に。スタッフ一人一人の名前と役割がスクリーンでリアルタイムに映し出されるのだが、PA席の周りでライブを見ている人たちがそのスタッフに向けて拍手を送るという光景は他のバンドでは絶対見れないし、こうしてPA席の周りでライブを見ている人の中には、将来こうした職業に就きたいと思っている人もいるはず。そう思わせるようなバンドも他には絶対いない。
サビで一気にダンサブルに飛翔する「ホーリーダンス」を終えると、
「新曲をやります!今のサカナクションはこんな感じです!」
と言って、待望の新曲を披露。実にサカナクションらしいキャッチーかつポップなダンスチューンだが、イントロでの岡崎と草刈のコーラスと岩寺のギターからはオリエンタルな空気も感じさせる。(間奏での岩寺のギターソロ時には山口が岩寺に近寄って髪の毛をいじるという微笑ましい一幕も)
だが、この曲の肝は間違いなくこれまでとは全く違う山口の歌唱である。もはや演歌か歌謡曲かというくらいにコブシの効いた歌い方はこれまでのサカナクションの曲には絶対合わなかっただろうが、最後に山口が拳を握ってカメラ目線で歌い終える姿からは、この曲をこうして歌う必然性が感じられた。そして山口がこういう歌い方ができることに驚き。
ここにきてこの日最初にして最後のMC。バンドが今年10周年を迎えたことにより、山口がメンバーそれぞれに10年を振り返ることを言うのだが、
草刈=まさか結婚して母親になるとは思わなかった
岡崎=クッパになった(笑)
岩寺=高校1年生の時に出会ってから20年経って、ついに誕生日にメールが来なくなり、友達から仕事仲間になった(笑)
江島=10年前からいたっけ?(笑)
という草刈以外へのいじりっぷりとともに、この6.1chサラウンドライブが全てソールドアウトしているのに赤字であること(だからこそ物販を買って欲しいとのこと)、この日のライブがNHKで8K放送されることを告げ、ついに
「5年ぶりにアルバムの目処が立ちました!来年の春くらいにリリースする予定です!
すごく暗いアルバムになると思いますけど(笑)、アルバムを聴いてくれて、またライブを見てみたいなって思ってくれたらまた会いましょう!」
と出す出す詐欺をしていたアルバムがついにリリースされることを発表。その間にシングルを挟むかもしれないということだが、シングル自体はそれなりに定期的にリリースされているだけに、かなりシングル曲の割合が高くなるアルバムになるんじゃないかとも思ってしまうが。
そして最後に演奏されたのは、今年の春フェスや夏フェスのアンコールでも久しぶりに演奏されていた「目が明く藍色」。ロックオペラとでも言うような展開が変わりまくる曲だが、かつて「ナイトフィッシングイズグッド」がライブの締めの定番だった中で、今では完全にこの曲がその位置に来るまでに成長を遂げたことを、この日の曲が進むたびにピークを更新し続けたライブの最後に演奏されたことが示していた。
山口が客席の写真を撮る中、メンバー全員が並んで客席に頭を下げてからステージを去ると、スクリーンにはスタッフロールの後に、2007年からのバンドの歴代のアー写が次々に映し出されていた。「若っ!」とも思うし、当時から比べると特に岡崎と草刈はだいぶ垢抜けた。10周年ということは「GO TO THE FUTURE」がリリースされてから10年が経ったということだが、自分はサカナクションに出会ったのがまさに「GO TO THE FUTURE」がリリースされた時だった。それから「NIGHT FISHING」までは、
「すごく良いバンドだし、好きなタイプのバンドだが、万人にウケるかという点では、SUPERCARのように良い音楽を作っていてもそこまではいかないバンドかもしれない」
と思っていたし、実際に初出演を果たしたCDJ07/08は当時1番小さいステージだったMOON STAGEですらガラガラと言ってもいい状態だった。
それが変わり始めたのは「セントレイ」が出た時。まさにそれは「僕と君が繋がる世界」だったし、その後の「シンシロ」でその予感は確信に変わり、さらにその次の「アルクアラウンド」の大ヒット(オリコン初登場3位)により、サカナクションはシーンの最前線を走る若手バンドとなった。その過程とこれまでをずっと見てこれたのは本当に幸せなことだった。
それから長い年月が経って、今年で10周年。相変わらず妥協という言葉を一切知らないが故に、なかなかアルバムが出なくてやきもきしていたが、5年もアルバムが出ていないのに幕張メッセ2daysがソールドアウトできるバンドというのはそうそういない。(もはやそれができるのはレジェンドクラスのバンドである)
しかしサカナクションが未だにロックシーンで最も巨大な存在のバンドの一つであり続けている理由は、映像などの演出で毎回期待を超えるものを見せてくれながらも、もしそういう演出が一切なかったとしても絶対勝てるようなライブでの地力の強さがあるからこそ。
もし仮に全く人気がなくなって、演出が使えないくらいに小さなライブハウスでしかライブができなくなったとしても、サカナクションはこの日と同じくらいに満足できるライブをやってくれるはず。でも、そういう日が来ても今「チーム・サカナクション」として一緒にライブを作り上げている人たちは絶対バラバラになったりしないで、生きるも死ぬもサカナクションと一緒なんだろうなぁと思いながら、スクリーンに最後に写し出された
「GO TO THE NEXT FUTURE with you」
という文字は、サカナクションにはまだまだロック界のトップランナーとしてやらなければいけないことがたくさんあることを示していた。
この日のサカナクションと前日のBase Ball Bear。かつてはボーカルがともに「お互い他に友達がいない」と自嘲する、親友同士と言ってもいい間柄だった。しかしながら近年は規模感や関係性が少し離れてきてしまったように感じる。でも、こうして続けてライブを見ると、いつかまた2組が揃ってコラボ曲の「kimino-me」をライブで演奏してくれる日が来ることを信じて待ちたい。(実際、同時期にチャットモンチーの福岡晃子とコラボして生まれた「クチビル・ディテクティブ」は前日に久々に披露されているし)
名曲ばかりを生み出してきた両バンドの中でも、トップクラスの名曲だと思っている曲だから。
1.新宝島
2.M
3.アルクアラウンド
4.夜の踊り子
5.Aoi
6.シーラカンスと僕
7.壁
8.ユリイカ
9.ボイル
10.『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
11.夜の東側
12.三日月サンセット
13.SORATO
14.ミュージック
15.アイデンティティ
16.多分、風。
17.グッドバイ
encore
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19.ホーリーダンス
20.新曲
21.目が明く藍色
SORATO
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