米津玄師 2017 LIVE / RESCUE @東京国際フォーラムホールA 7/14
- 2017/07/15
- 02:34
アルバム「Bremen」のツアー「音楽隊」を終えてからの米津玄師の絶好調ぶりが凄い。昨年「LOSER / ナンバーナイン」のシングル、ロッキンオンジャパンの連載をまとめた「かいじゅうずかん」に収録された「love」、今年に入って「orion」、そして「ピースサイン」と、様々なタイプの楽曲が湯水のごとく、しかし大量生産ではなく米津玄師が作った曲だからこその必然性を持って世に放たれている。
その米津玄師のおよそ半年ぶりのライブとなるのが、今回の東京国際フォーラム2daysであるワンマンライブ「RESCUE」。ライブのキャパにおいては着実に一歩ずつ階段を登ってきた(3段飛ばしくらいでいいくらいのセールスを上げているにも関わらず)ため、今回が初のホールツアーとなる。
開演前のステージ上は暗く、2階席からではステージの詳細を伺い知ることはできないが、19時過ぎに場内が暗転すると、ステージにはおなじみのサポートメンバーである中島宏(ギター)、須藤優(ベース)、堀正輝(ドラム)に続いて、鮮やかな水色の上着を身に纏った米津玄師がステージに登場し、大きな拍手と歓声が上がり、須藤のシンセがポップな音色を奏でる「ナンバーナイン」からスタート。米津玄師はギターを弾くことなくスタンドマイクを握りしめて歌に徹するが、長いスパンが空いたことにより不安だったボーカルはこの段階ではガッカリとすることはない。
米津玄師がギター、須藤がベースという通常のバンド編成になっての「フローライト」は「音楽隊」ツアーからおなじみの曲ではあるが、米津玄師はサビの裏声部分が上手く発声できず、声を張って歌うことで凌ぐという力技を使って歌い切る。「音楽隊」ツアーではキーを下げていたサビの部分は音源通りになっている。
「ラーラーララー」
というコーラス部分では観客にも合唱を促すが、演奏しながらコーラスもしっかりやってみせるARDBECKのリズム隊2人はやはり安定感が際立っている。
この日はメンバーそれぞれが自身の楽器と機材を四角形の台座に乗せており、ある意味ではメンバー1人1人が独立した形になっていたのだが、それを最初に実感させられたのは台座の縁が黄色やオレンジ色に光る「メランコリーキッチン」。さらに米津玄師がアコギに持ち替えて演奏された「あたしはゆうれい」は軽やかなサウンドと間奏で巻き起こるハンドクラップがライブだからこその楽しさを加速させる。
ライブ初披露となった「orion」のカップリング曲「翡翠の狼」ではメンバー頭上の映像を投射する鳥かご状の網にまさに翡翠色というような照明が映し出される中、中島はギターを背負って両手でスティックを持ってタムを連打するというマルチプレイヤーぶりをみせる。
「今回のライブには参加しないんじゃないか?」という噂も流れていたが、中島が米津玄師のライブにおいて重要な役割を担っているのは間違いのないところである。
また、コーラスこそサポートメンバーたちが務めるものの、曲後半での「ワォーン」という狼の鳴き声は米津玄師本人が発していたというのも嬉しい発見である。
そんなライブならではの楽しい演出や発見が続いた流れから一転して映像もサウンドもダークになったのは「Black Sheep」。演出そのものは前回のツアーである「はうる」のものとは違った、幾何学的な曲線が蠢くような映像であったが、1stアルバム収録曲であるこの曲をこうしてライブで聴けるのは嬉しいところ。
ギターを置いてハンドマイクを手にした米津玄師が
「新曲をやります」
と言って突如として演奏されたのは、ボカロを使った新曲としてすでに発表されている「砂の惑星」。まさに「砂の惑星」で生きる少女と部族のアニメーションはこの曲のMVだろうか?と思わされるが、かつて「ドーナツホール」が発表された時の「いかにもボカロ曲だ」という性急な情報量の多い曲ではない、現在の世界のポップミュージックの主流であるR&Bなどのブラックミュージックをロックバンドのサウンドで昇華した、というタイプの、前情報がなければボカロ曲だとは思えないような曲。米津玄師はこの日初めて台座から降りて客席に近づきながら歌うが、サビでかなり声を張り上げていたために、歌い終わったあとの
「ありがとう」
の一言はかなり喉を消耗していたように感じた。
須藤が再びシンセに向き合う中で演奏された「orion」ではメンバーの後ろに思わず「キレイだな…」と思ってしまうような星空の映像が広がったかと思いきや、後半ではその映像からミラーボールが回る演出に切り替えられ、星空という外界からダンスホールというインナーワールドを一直線に繋いで見せる。
場内が真っ暗になると、鳥かご状の網がメンバーを隠すように上から降りてきてから演奏されたのは、ボカロ時代の曲のリメイクが最新シングルのカップリングに収録された「ゆめくいしょうじょ」。まさに
「君の悪い夢も 私が全部食べてあげる」
という「ゆめくいしょうじょ」そのもののアニメーションがメンバーの前で展開される。この映像の後ろでメンバーが演奏するという演出そのものはamazarashiが毎回ライブで使っている手法であるが、童話性の強い歌詞とそれをそのまま可視化したかのような映像は米津玄師だからこそ、ましてやホールでのライブだからこその演出だと言える。少女がハート型の風船を空に放つ中、最後に登場する片目が髪で隠れた馬は米津玄師本人であるに間違いない。
「ここから後半戦、まだまだ行けますか!?」
という言葉に「相変わらず後半戦に行くのが早いな」と思わされるが、耳に圧倒的なギターの残響を残す「ゴーゴー幽霊船」から、ハンドマイク歌唱の米津玄師がステージを歩き回りながら歌い、最後にはステージに座り込みながら歌うと、立ち上がってモニターに足をかけて立とうとするもモニターが固定されておらず、よろけてしまい、結果的に客席最前列の前に降りてしまうというハプニングもあった「駄菓子屋商売」(転落事故にならなくて本当に良かった)、間奏のソロ部分で須藤が台座を降りて観客の目の前でベースを弾くという見せ場を作った「ドーナツホール」と、これまでのライブでもおなじみだった、外せない核となる曲を連発し、一体感が生まれにくいホールに熱気が満ちて行く。
そんな盛り上がりぶりを更新し続けるかのような流れの後に演奏されたのは、至上の名曲「アイネクライネ」。間奏部分でのギターがこれまで以上にノイジーに響くと、米津玄師がギターを置き、独特のダンスを踊りながら歌う「LOSER」へ。こうしてワンマンライブでたくさんの曲を聴いた後にこの曲を聴くと、ブラックミュージックの要素が強いこの曲はやはり米津玄師の新たな一面を示してみせた曲であるということがよくわかる。
そして観客が人差し指と中指を掲げてコーラス部分を合唱するのは最新シングル「ピースサイン」だ。アニメのタイアップ曲として、王道のギターロックを鳴らしている曲だが、このあとのMCで本人が
「子供の頃のことばかり歌うようになってきてる。大人になったからなのか、子供に戻ったのか」
と語っていたが、自分は確かに青春時代を通過した人だからこその曲だと感じている。それは
「さらば掲げろピースサイン」
というフレーズからも感じられるが、今でもずっと青春の真っ只中にいるかのような蒼さを持ったパンクバンドたちが鳴らすサウンドとは全く違う、どこか青春を俯瞰している青年の目線を感じるから。だから蒼さを感じることはあれど、良い意味でこの曲からは初期衝動という要素は感じない。あくまで米津玄師のサウンドの一つの要素としての蒼さというべきか。
前述のMCに加え、最近新曲が次々に生まれてきているという絶好調ぶりを語ると、「かいじゅうずかん」に収録された「love」では上下に分かれた映像がはるか海底から根を張り、雲の上まで伸びる世界樹のような一本の樹をテーマにした壮大な世界観を提示。ここでも「ゆめくいしょうじょ」の映像に出てきたハート型の風船が空を飛んでいたあたり、この曲と「ゆめくいしょうじょ」には本人の中に繋がっている部分があるのかもしれない。
そして本編を締めくくったのは、観客全員が初めて聴く、タイトルすらもわからない新曲2曲だった。1曲目は油絵が漂うような映像に合わせたかのような削ぎ落とされたエレクトロ、ミニマムなサウンドデザイン(須藤がシンセ、米津玄師はボーカルのみで、堀もドラムよりもパッドを叩く方が多い)の、「はうる」ツアーでSEに使っていたアメリカのバンド、The XXを彷彿とさせるような曲。
もう1曲の本編ラストに演奏された曲は、言葉数の多さがヒップホップからの影響を強く感じさせる曲で、
「「ピースサイン」みたいに子供の頃を思い出すような曲ばかり出来ている」
という言葉から連想する蒼さの強いギターロックからははるかに飛距離がある曲。この2曲は直近シングル曲とともに、来るべき次のアルバムに収録されるのは間違いないが、これまで米津玄師はこうしてライブで全く未発表の新曲をやることはほとんどなかった。新曲をライブでやるにしても、すでに発売が発表されているシングル曲くらいだったから。ライブで曲を練り上げてから音源に仕上げるというタイプのアーティストではないし、そもそもこの新曲たちはすでにレコーディングが終わっているという。そこから浮かび上がるのは、米津玄師がすでに新たなモードに突入しているという事実。幼少の頃の自分が聴きたかったような曲というテーマはありながらも、そのジャンルやサウンド自体は多岐に渡る。近いうちに(翌日?)発表されるであろうアルバムは、過去3枚よりもさらに曲の幅が広い、バラエティに富んだ作品になる予感がしている。
特に着替えたりすることもなくアンコールにメンバーが登場すると、メンバー紹介もして、
「徳島っていうところで生まれ育ったんだけど、なんでこんなところに生まれてしまったんだろう、ってずっと思ってて。絶対東京に行ってやるって思って東京に出てきて音楽をやってたら、こうしてサポートしてくれるメンバーや、裏で動いてくれているスタッフに支えられながらみんなでこうして一つのものを一緒になって作ることができて…。
だから今置かれている状況から抜け出したいっていう人がいたら、遠くに行ってみるのもいいんじゃない?って(笑)」
と自身の経験と選択による現在の状況を語ってから演奏された「アンビリーバーズ」では中島と須藤がシンセを弾き、米津玄師はハンドマイクで歌い、サビ前ではタムを連打するというおなじみのギターレス編成。しかしこの曲を歌うときはいつも喉がなかなかキツそうであるだけに、歌いこなすのが難しい曲であることを改めて思い知らされる。
そして米津玄師がアコギを持ち、通常のバンド編成で中島のギターがOasisのような王道かつ壮大なフレーズを鳴らすのは、
「右曲がりのトラックに 巻き込まれたらしいよ
あの子がくれたガンダム まだ残ってるかな」
と幼少の頃の記憶をありのままに歌った「Neighbourhood」。
「どうしたんだなあ兄弟」
というサビのフレーズで想起させられるのは、やはり隣に立ってギターを弾いている、小学4年生の頃からの付き合いだという中島。「ピースサイン」ではギターを他の人が弾いていたが、果たしてソロ活動も活発化している彼はこのまま米津玄師の横でずっとギターを弾いているのだろうか。
演奏が終わると米津玄師がピックを客席に投げ込み、メンバーたちも半年ぶりのライブという緊張感から解き放たれたかのような晴れやかな表情をしながらステージを去って行った。
かなり作り込まれた演出だっただけにやる曲を変えるのはかなり厳しいと思われるが、翌日の2日目では果たして自分が予想しているアルバムの発表などはあるのだろうか。
この日のライブを見て感じた、「RESCUE」の芯の部分については、翌日のライブを見てからしっかりと書こうかと思う。
1.ナンバーナイン
2.フローライト
3.メランコリーキッチン
4.あたしはゆうれい
5.翡翠の狼
6.Black Sheep
7.砂の惑星
8.orion
9.ゆめくいしょうじょ
10.ゴーゴー幽霊船
11.駄菓子屋商売
12.ドーナツホール
13.アイネクライネ
14.LOSER
15.ピースサイン
16.love
17.新曲
18.新曲
encore
19.アンビリーバーズ
20.Neighbourhood
ピースサイン
https://youtu.be/9aJVr5tTTWk
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その米津玄師のおよそ半年ぶりのライブとなるのが、今回の東京国際フォーラム2daysであるワンマンライブ「RESCUE」。ライブのキャパにおいては着実に一歩ずつ階段を登ってきた(3段飛ばしくらいでいいくらいのセールスを上げているにも関わらず)ため、今回が初のホールツアーとなる。
開演前のステージ上は暗く、2階席からではステージの詳細を伺い知ることはできないが、19時過ぎに場内が暗転すると、ステージにはおなじみのサポートメンバーである中島宏(ギター)、須藤優(ベース)、堀正輝(ドラム)に続いて、鮮やかな水色の上着を身に纏った米津玄師がステージに登場し、大きな拍手と歓声が上がり、須藤のシンセがポップな音色を奏でる「ナンバーナイン」からスタート。米津玄師はギターを弾くことなくスタンドマイクを握りしめて歌に徹するが、長いスパンが空いたことにより不安だったボーカルはこの段階ではガッカリとすることはない。
米津玄師がギター、須藤がベースという通常のバンド編成になっての「フローライト」は「音楽隊」ツアーからおなじみの曲ではあるが、米津玄師はサビの裏声部分が上手く発声できず、声を張って歌うことで凌ぐという力技を使って歌い切る。「音楽隊」ツアーではキーを下げていたサビの部分は音源通りになっている。
「ラーラーララー」
というコーラス部分では観客にも合唱を促すが、演奏しながらコーラスもしっかりやってみせるARDBECKのリズム隊2人はやはり安定感が際立っている。
この日はメンバーそれぞれが自身の楽器と機材を四角形の台座に乗せており、ある意味ではメンバー1人1人が独立した形になっていたのだが、それを最初に実感させられたのは台座の縁が黄色やオレンジ色に光る「メランコリーキッチン」。さらに米津玄師がアコギに持ち替えて演奏された「あたしはゆうれい」は軽やかなサウンドと間奏で巻き起こるハンドクラップがライブだからこその楽しさを加速させる。
ライブ初披露となった「orion」のカップリング曲「翡翠の狼」ではメンバー頭上の映像を投射する鳥かご状の網にまさに翡翠色というような照明が映し出される中、中島はギターを背負って両手でスティックを持ってタムを連打するというマルチプレイヤーぶりをみせる。
「今回のライブには参加しないんじゃないか?」という噂も流れていたが、中島が米津玄師のライブにおいて重要な役割を担っているのは間違いのないところである。
また、コーラスこそサポートメンバーたちが務めるものの、曲後半での「ワォーン」という狼の鳴き声は米津玄師本人が発していたというのも嬉しい発見である。
そんなライブならではの楽しい演出や発見が続いた流れから一転して映像もサウンドもダークになったのは「Black Sheep」。演出そのものは前回のツアーである「はうる」のものとは違った、幾何学的な曲線が蠢くような映像であったが、1stアルバム収録曲であるこの曲をこうしてライブで聴けるのは嬉しいところ。
ギターを置いてハンドマイクを手にした米津玄師が
「新曲をやります」
と言って突如として演奏されたのは、ボカロを使った新曲としてすでに発表されている「砂の惑星」。まさに「砂の惑星」で生きる少女と部族のアニメーションはこの曲のMVだろうか?と思わされるが、かつて「ドーナツホール」が発表された時の「いかにもボカロ曲だ」という性急な情報量の多い曲ではない、現在の世界のポップミュージックの主流であるR&Bなどのブラックミュージックをロックバンドのサウンドで昇華した、というタイプの、前情報がなければボカロ曲だとは思えないような曲。米津玄師はこの日初めて台座から降りて客席に近づきながら歌うが、サビでかなり声を張り上げていたために、歌い終わったあとの
「ありがとう」
の一言はかなり喉を消耗していたように感じた。
須藤が再びシンセに向き合う中で演奏された「orion」ではメンバーの後ろに思わず「キレイだな…」と思ってしまうような星空の映像が広がったかと思いきや、後半ではその映像からミラーボールが回る演出に切り替えられ、星空という外界からダンスホールというインナーワールドを一直線に繋いで見せる。
場内が真っ暗になると、鳥かご状の網がメンバーを隠すように上から降りてきてから演奏されたのは、ボカロ時代の曲のリメイクが最新シングルのカップリングに収録された「ゆめくいしょうじょ」。まさに
「君の悪い夢も 私が全部食べてあげる」
という「ゆめくいしょうじょ」そのもののアニメーションがメンバーの前で展開される。この映像の後ろでメンバーが演奏するという演出そのものはamazarashiが毎回ライブで使っている手法であるが、童話性の強い歌詞とそれをそのまま可視化したかのような映像は米津玄師だからこそ、ましてやホールでのライブだからこその演出だと言える。少女がハート型の風船を空に放つ中、最後に登場する片目が髪で隠れた馬は米津玄師本人であるに間違いない。
「ここから後半戦、まだまだ行けますか!?」
という言葉に「相変わらず後半戦に行くのが早いな」と思わされるが、耳に圧倒的なギターの残響を残す「ゴーゴー幽霊船」から、ハンドマイク歌唱の米津玄師がステージを歩き回りながら歌い、最後にはステージに座り込みながら歌うと、立ち上がってモニターに足をかけて立とうとするもモニターが固定されておらず、よろけてしまい、結果的に客席最前列の前に降りてしまうというハプニングもあった「駄菓子屋商売」(転落事故にならなくて本当に良かった)、間奏のソロ部分で須藤が台座を降りて観客の目の前でベースを弾くという見せ場を作った「ドーナツホール」と、これまでのライブでもおなじみだった、外せない核となる曲を連発し、一体感が生まれにくいホールに熱気が満ちて行く。
そんな盛り上がりぶりを更新し続けるかのような流れの後に演奏されたのは、至上の名曲「アイネクライネ」。間奏部分でのギターがこれまで以上にノイジーに響くと、米津玄師がギターを置き、独特のダンスを踊りながら歌う「LOSER」へ。こうしてワンマンライブでたくさんの曲を聴いた後にこの曲を聴くと、ブラックミュージックの要素が強いこの曲はやはり米津玄師の新たな一面を示してみせた曲であるということがよくわかる。
そして観客が人差し指と中指を掲げてコーラス部分を合唱するのは最新シングル「ピースサイン」だ。アニメのタイアップ曲として、王道のギターロックを鳴らしている曲だが、このあとのMCで本人が
「子供の頃のことばかり歌うようになってきてる。大人になったからなのか、子供に戻ったのか」
と語っていたが、自分は確かに青春時代を通過した人だからこその曲だと感じている。それは
「さらば掲げろピースサイン」
というフレーズからも感じられるが、今でもずっと青春の真っ只中にいるかのような蒼さを持ったパンクバンドたちが鳴らすサウンドとは全く違う、どこか青春を俯瞰している青年の目線を感じるから。だから蒼さを感じることはあれど、良い意味でこの曲からは初期衝動という要素は感じない。あくまで米津玄師のサウンドの一つの要素としての蒼さというべきか。
前述のMCに加え、最近新曲が次々に生まれてきているという絶好調ぶりを語ると、「かいじゅうずかん」に収録された「love」では上下に分かれた映像がはるか海底から根を張り、雲の上まで伸びる世界樹のような一本の樹をテーマにした壮大な世界観を提示。ここでも「ゆめくいしょうじょ」の映像に出てきたハート型の風船が空を飛んでいたあたり、この曲と「ゆめくいしょうじょ」には本人の中に繋がっている部分があるのかもしれない。
そして本編を締めくくったのは、観客全員が初めて聴く、タイトルすらもわからない新曲2曲だった。1曲目は油絵が漂うような映像に合わせたかのような削ぎ落とされたエレクトロ、ミニマムなサウンドデザイン(須藤がシンセ、米津玄師はボーカルのみで、堀もドラムよりもパッドを叩く方が多い)の、「はうる」ツアーでSEに使っていたアメリカのバンド、The XXを彷彿とさせるような曲。
もう1曲の本編ラストに演奏された曲は、言葉数の多さがヒップホップからの影響を強く感じさせる曲で、
「「ピースサイン」みたいに子供の頃を思い出すような曲ばかり出来ている」
という言葉から連想する蒼さの強いギターロックからははるかに飛距離がある曲。この2曲は直近シングル曲とともに、来るべき次のアルバムに収録されるのは間違いないが、これまで米津玄師はこうしてライブで全く未発表の新曲をやることはほとんどなかった。新曲をライブでやるにしても、すでに発売が発表されているシングル曲くらいだったから。ライブで曲を練り上げてから音源に仕上げるというタイプのアーティストではないし、そもそもこの新曲たちはすでにレコーディングが終わっているという。そこから浮かび上がるのは、米津玄師がすでに新たなモードに突入しているという事実。幼少の頃の自分が聴きたかったような曲というテーマはありながらも、そのジャンルやサウンド自体は多岐に渡る。近いうちに(翌日?)発表されるであろうアルバムは、過去3枚よりもさらに曲の幅が広い、バラエティに富んだ作品になる予感がしている。
特に着替えたりすることもなくアンコールにメンバーが登場すると、メンバー紹介もして、
「徳島っていうところで生まれ育ったんだけど、なんでこんなところに生まれてしまったんだろう、ってずっと思ってて。絶対東京に行ってやるって思って東京に出てきて音楽をやってたら、こうしてサポートしてくれるメンバーや、裏で動いてくれているスタッフに支えられながらみんなでこうして一つのものを一緒になって作ることができて…。
だから今置かれている状況から抜け出したいっていう人がいたら、遠くに行ってみるのもいいんじゃない?って(笑)」
と自身の経験と選択による現在の状況を語ってから演奏された「アンビリーバーズ」では中島と須藤がシンセを弾き、米津玄師はハンドマイクで歌い、サビ前ではタムを連打するというおなじみのギターレス編成。しかしこの曲を歌うときはいつも喉がなかなかキツそうであるだけに、歌いこなすのが難しい曲であることを改めて思い知らされる。
そして米津玄師がアコギを持ち、通常のバンド編成で中島のギターがOasisのような王道かつ壮大なフレーズを鳴らすのは、
「右曲がりのトラックに 巻き込まれたらしいよ
あの子がくれたガンダム まだ残ってるかな」
と幼少の頃の記憶をありのままに歌った「Neighbourhood」。
「どうしたんだなあ兄弟」
というサビのフレーズで想起させられるのは、やはり隣に立ってギターを弾いている、小学4年生の頃からの付き合いだという中島。「ピースサイン」ではギターを他の人が弾いていたが、果たしてソロ活動も活発化している彼はこのまま米津玄師の横でずっとギターを弾いているのだろうか。
演奏が終わると米津玄師がピックを客席に投げ込み、メンバーたちも半年ぶりのライブという緊張感から解き放たれたかのような晴れやかな表情をしながらステージを去って行った。
かなり作り込まれた演出だっただけにやる曲を変えるのはかなり厳しいと思われるが、翌日の2日目では果たして自分が予想しているアルバムの発表などはあるのだろうか。
この日のライブを見て感じた、「RESCUE」の芯の部分については、翌日のライブを見てからしっかりと書こうかと思う。
1.ナンバーナイン
2.フローライト
3.メランコリーキッチン
4.あたしはゆうれい
5.翡翠の狼
6.Black Sheep
7.砂の惑星
8.orion
9.ゆめくいしょうじょ
10.ゴーゴー幽霊船
11.駄菓子屋商売
12.ドーナツホール
13.アイネクライネ
14.LOSER
15.ピースサイン
16.love
17.新曲
18.新曲
encore
19.アンビリーバーズ
20.Neighbourhood
ピースサイン
https://youtu.be/9aJVr5tTTWk
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