9mm Parabellum Bullet ”TOUR OF BABEL II” @昭和女子大学 人見記念講堂 7/2
- 2017/07/02
- 23:51
今年リリースされた9mm Parabellum Bulletのこれまでの方程式「作曲:滝、作詞:卓郎」に則って作られたアルバム「BABEL」のリリースツアーは先月の横浜、神戸、名古屋の3都市という、サポートメンバーを加えた編成であるため仕方ないが、滝が負傷離脱する前のツアーの本数からは信じられないくらいに少ないものであった。
6月11日のツアー初日の神奈川県民ホールでのライブも見ていただきたいのだが(http://rocknrollisnotdead.blog.fc2.com/blog-entry-403.html?sp)、サポートメンバーを加えた編成ならではのステージ構成、ホールだからこその内容と、このメンバーとこの会場でライブをやるという意味がしっかりわかるような、9mm史上最もコンセプチュアルなものとなっていたが、追加公演的なこの日の昭和女子大学人見記念講堂でのモバイル会員限定ライブには、滝が久しぶりに9mmのライブに参加することが発表され、さらには盟友である石毛輝(lovefilm,the telephones)も参加するという、同じツアーでも内容は全く内容は異なるものになる予感に満ち溢れている。
ステージにはこのツアーでおなじみの上手の前にかみじょうのドラムセットが組まれ、サポートギターの2人がメンバー3人より後ろの高い位置に配置されている中、開演時刻をかなり過ぎた17:50頃、おなじみのATARI TEENAGE RIOTの「Digital Hardcore」が場内に流れる。しかし、神奈川の時はSEなしでメンバーが出てきてそのまま「BABEL」の曲を全曲演奏、第2部でこのSEが流れて登場して既存曲を演奏、という流れだったので、違和感を感じていると、
「9mm Parabellum Bulletです」
と挨拶した卓郎がギターを弾き始める…のだが、思いっきりミス(明らかになんの曲か全くわからないようなギターを弾いていた)し、すぐさまやり直すという、ある意味では漂っていた緊張感がほぐれるようなスタートになる。和彦は卓郎を指差し、サポートの武田と為川は両腕を上げてミスすらも盛り上げようとする。
そんなミスを経て再スタートしたのは最新シングル「サクリファイス」、さらに卓郎がイントロで滝のようなタッピングを見せる「インフェルノ」というベルセルクのタイアップ曲の連発といういきなりの飛ばしっぷり。さらに早くもクライマックスかと思ってしまう「The Revolutionary」で、この日のライブはツアーとは全く違う内容であることがはっきりとわかる。
「Story of Glory」でようやくこの日最初に「BABEL」の曲が鳴らされたのだが、
「僕らは感じてた 光浴びて
ステージに刻まれた いくつもの奇跡を」
というサビの歌詞はまさに9mmそのものを歌っている内容であり、
「わけなんてなくて笑っていた
俺たちは今夜無敵なんだ」
という、これまでに何度もライブを見るたびに実感してきたフレーズに説得力を持たせるような音がまさに目の前で鳴っている。
卓郎の口からもこの日のライブが「TOUR OF BABEL」とは全く違うものになることが告げられると、そのツアーではやらなかった「The Lightning」でこの5人編成でのサウンドが曲をさらに激しく強く重く進化させていることを実感させると、ステージにはスモークが焚かれ、赤い照明とともに幻想的な空気を作り出した「火の鳥」、為川がアコギに持ち替えた、ミドルテンポながらも轟音ギターが鳴っているという、9mmの曲でしかない「眠り姫」と、「BABEL」の曲と既存曲を織り交ぜることにより、「BABEL」の曲がこれまでの9mmの曲と全く同じ線上にいること、それに合わせて既存曲がこのメンバーだからこその進化を遂げていることがよくわかる。
すると卓郎がこの日のライブを
「目と耳と舌で充分に堪能してもらって…」
と言ったところを和彦が「舌!?」と突っ込むという微笑ましい流れを経てから、いきなりステージに男女のダンサーが登場して始まったのは「Lost!!」。この男女はPVに出演してもらっている方らしいのだが、曲中盤からは客席の通路を走って多数のダンサーの女性、卓郎曰く「Lost!! girls」が登場し、広いステージに華を添える。いきなり過ぎてかなりビックリしたけれど。
かみじょうの、力強さとツーバスを含めた手数の多さだけではない、軽やかさを感じさせるリズムの「光の雨が降る夜に」のアウトロでの拍手がさらに大きくなったのは、和彦がベースをウッドベースに変えたから。ということは「キャンドルの灯を」を演奏するということだが、この日はモバイル会員限定ライブということで、普段のワンマンでも9mmファンしかいないが、その中でもさらに濃いファンしかいないということで、もうそのベースの交換だけで何の曲をやるのかはみんなすぐわかるし、その時の歓声が明らかにいつも以上に大きい。でもそれもそのはず。ここにいた人はみんな9mmがどんな状況になっても9mmのファンでい続けることを選んだ人たちなのだから。
メンバーは「BABEL」を作ったことにより、都内で開催されていた「BABEL展」にも行ったらしいが、その「BABEL」の物語の中核を担う「バベルのこどもたち」を演奏すると、武田がステージをいったん去る。すると卓郎が
「バベルのおともだち」
と、「バベルのこどもたち」に合わせるようにしてステージに招いたのは、現在はlovefilmとして活動している、かつてはthe telephonesで9mmとずっと一緒に戦ってきた石毛輝。武田がいた位置に石毛がギターを持って移動すると卓郎が
「みんなに聞きたいこと、言いたいことがある。愛しあってるかー!!」
と叫んでタイトルが完全に「愛し合え」に聞こえる「I.C.R.A」。この日もギターに加えてコーラスもこなしているという貢献度の高さを見せていた為川に加えて石毛もコーラスをするのだが、明らかに声が高いので実に石毛だとわかりやすい。
しかし石毛は本当にしっかりギターを練習してきたようで、
「最初はテンポを50くらい落として練習してた(笑)難しいんだもん!(笑)」
と9mmの曲の難易度が高いことを改めて感じさせながら、
「だから武田くんも裕也(為川)も本当に凄いよ。もちろん滝も凄い」
と、9mmのメンバーとしてステージに立ってギターを弾く3人を褒め称えた。
そして
「俺たちと輝(石毛のことを卓郎は今年から輝と呼んでいるらしい)の思い出の曲!」
と言って演奏された「Supernova」では為川もいなくなったため、石毛が1人で滝のギターパートを完全に弾きこなす。ギターソロでは卓郎と和彦が石毛の元に集まるのも石毛と9mmの絆を感じさせる。そしてtelephones時代からなかなかスポットが当たらないが、石毛は本当にギターが上手い。あんなに様々なタイプの曲があるtelephonesの曲を1人でずっとギター弾いてたんだから当たり前といえば当たり前だが。
telephonesのラストパーティでのライブのことなどを感慨深そうに石毛と卓郎が話す中、ステージ上にはミラーボールが天井から降りてきている。9mmの曲にミラーボールを使う曲なんてないだけに、客席もざわついていると、石毛に
「行けるかー!」
を叫ばせてから演奏したのはまさかのthe telephonesの「Monkey Discooooooo」だった。いや、確かに9mmはtelephonesのトリビュートアルバムでこの曲をカバーしているが、完全にメタルアレンジにしたカバーバージョンではなく、telephonesによる原曲バージョンであり、卓郎がギターでノブのシンセのフレーズを弾いている。
当然猿のように踊りまくり、叫びまくる客席。石毛は歌いながら(卓郎はコーラス部分だけを歌う)間奏ではtelephones時代と同じようにブリッジしながらギターソロを弾き、最後には卓郎と一つのマイクで一緒に歌っていた。
それは本当に楽しい瞬間だったが、かつてtelephonesが活動休止を発表する前にこの曲をライブで聴いていた時のような、楽しいだけではなかった。なぜなら、かつては当たり前のように聴いていたこの曲も、ライブでこうして聴くのはさいたまスーパーアリーナでのラストパーティ以来、こういう特別な時しか聴けない曲になったんだ、ということに改めて気づいてしまったから。
でも、だからと言って今すぐtelephonesに活動再開して欲しいとは自分は思っていない。メンバーはそれぞれ自分がやりたいことをちゃんとやりながら音楽を続けている姿を見ているから。その姿はtelephones後期の様々な悩みを抱えていた姿よりもはるかに楽しそうだから。
しかし、石毛のlovefilmもなかなか思うようには活動できていない。去年はドラマーが脱退し、今年は江夏詩織が活動を見合わせ、シングルをリリースしたばかりなのにメンバーが揃ってライブができる状況ではないだけに。
しかし、それでもこの日はそうした諸々を全て忘れてしまえるくらいに石毛は楽しそうな顔をしていた。9mmは石毛に助けを求め、石毛はそれに応えたが、もしかしたら石毛もこの日ステージで久々にtelephonesの曲を(しかも9mmのメンバーと一緒に)たくさんの人の前でやったことで、9mmに助けられたのかもしれない。必ずしもここにいた人全員が全員telephonesを好きなわけではないだろうが、telephonesが9mmと過ごしてきた10年と、telephonesがその活動で積み上げてきたものは決して間違いではなかった。ステージ上で本当に楽しそうに演奏している4人と思いっきり叫んで踊っている人たちの姿を見てそう思えた。何より、自分が今でもtelephonesが大好きなことも。
石毛がステージを去ると、武田と為川の2人が再びステージに登場し、為川が再びアコギを弾く「ホワイトアウト」、卓郎の語り部分でギターの2人が暴れまくる「それから」という「BABEL」の中でも不穏な空気を持つ曲を演奏し、再び女性ダンサーがステージ上を華麗に舞う「カモメ」と、フェスで同じようなセトリが続いていたのはなんだったのかと思うくらいに選曲は多岐に渡る。
卓郎が去年中止になってしまって行けなかった地域を廻る新たなツアーの告知をし、自分たちを最も支えてくれているモバイル会員たちに最大限の感謝を告げると、卓郎が本家の
「行けるかー!」
を叫び、「BABEL」で証明した9mmのど真ん中と言える「ガラスの街のアリス」から再びサウンドの勢いと熱量はさらに増していく。
卓郎がギターを置いてハンドマイク状態でモンキーダンスを踊りながら歌う「ハートに火をつけて」ではツアー同様にメンバー紹介を兼ねたソロ回し。武田は
「モバイル会員の方!」
と卓郎が呼びかけると真っ先に声を出しながら手を挙げ、為川は卓郎に似ていること、和彦は髪が伸びすぎていることをいじられるが、かみじょうのドラムソロ時にはメンバーが全員ドラムセットの前で正座してドラムソロを聴いているのが実に面白い。
さらには「バベルのおともだち」こと石毛も再び紹介すると、石毛はギターを持ったまま、和彦のガニ股ベースの真似をしながらステージに登場して爆笑を誘う。そして最後には和彦がマイクを持ち、
「最初にミスった時は絶対いじりまくってやろうと思ったけど、俺もガチガチだったから今日は許す!ボーカル!ギター!菅原!卓郎!」
と卓郎を紹介する。この和彦の喋りも滝がいない部分をなんとかカバーしようという意識の表れだと思う。ギターをサポートしてもらってカバーするんじゃなく、全員でできることは全てやって少しでも穴を埋める。だからこそ、かみじょうも「Everyone~」ではコーラスもしている。全員がやれることをやって、少しでもバンドの底上げをする。それは「Waltz on Life Line」で全員が作曲をしたのもそうだったが、今はステージ上でそれをやっている。この経験は間違いなくこれからの9mmをさらに逞しく、強くするはず。
そして卓郎がマラカスを振りまくるおなじみの「talking machine」ではもうサポートの2人はもう暴れまくり。それにさらに拍車をかけるべく、とどめとばかりに演奏されたのは9mmの中で最も激しい「Punishment」。終わった後、メンバーのうち卓郎と和彦は丁寧に観客に頭を下げながらステージを去ったが、この曲で終わった後の爽快感は格別。それはライブハウスじゃなくてホールでも変わらない。
アンコールを待つ間、ステージはドラムセットの位置などの転換が。それもそのはず、この日の目玉でもある、滝がまだステージに出てきていないし、滝は1人だけ後ろの方でギターを弾くということはないんだろうから。
すると再び「Digital Hardcore」のSEとともにメンバーが登場。今回はサポートではなく、最後に滝が腕を上げてステージに出てきての久しぶりの4人編成。もちろん、会場はこの日最大の大歓声。
かみじょうのドラムがさらに上手に移動したことにより、滝が卓郎とかみじょうの間に立ち、メンバー4人が横並びの状態で演奏されたのはキメが連発される「BABEL」のオープニングナンバー「ロング・グッドバイ」。滝は負傷の影響を全く感じさせないくらいにギターを弾きまくり、時にはギターを弾くことなくステージを暴れまくる。これぞ滝である。
そしてラストは「新しい光」。滝のギターが激しいサウンドを先導すると、自身に当たるはずのスポットライトを避けるかのようにサポートメンバーが弾いていた位置まで移動していく。そしてラストのサビで銀テープが炸裂すると、曲の最後の1音が鳴った瞬間、ステージ背面にバンドのロゴが一瞬にして表れるというあまりに完璧過ぎる演出。ステージにはメンバーの4人。これが9mm Parabellum Bulletだ、と堂々と宣言するかのような終わり方だったが、滝はこれまでとおなじように真っ先にステージから去っていき、かみじょうは高々とスティックを客席に放り投げ、やはり卓郎は最後まで観客の歓声に応えていた。
「これからもいろんな形でやっていくかもしれないけど、これからも9mmをよろしく!」
と卓郎は言った。この4人ではまだ今まで通りにライブはできないかもしれない。でも、5人編成であってももう9mmは大丈夫。それを自らのライブでもって証明したのが、この日のライブと「BABEL」ツアーだった。
滝が出てきた時、それまでとは空気が全然違った。9mmの心臓はやはり滝であり、代わりはいない。もう究極な話、ギターを弾かずに抱えたままでステージを暴れまわっているだけでも、それで9mmになってしまうくらいに滝の存在=9mmなのである。だからこそアンコールが終わった後、本当に久しぶりに「今日は勝った」という感覚を9mmのライブで味わうことができたのだが、それを誰よりもわかっているのは、同じギタリストであり、最強の9mmファンである武田である。それでも「物足りない」とか、「滝がいない9mmは9mmじゃない」という声もある中で9mmのサポートを買って出て、こんなにも様々な曲をここまでの完成度に高めてくれた武田には本当に感謝しかない。もちろん為川や三橋というこのツアーをサポートした他のギタリストも。
9mmがこのツアーで獲得した1番大きなものは、結局のところはそれなのかもしれない。バンドがキツい状況の時に手を差し伸べてくれる仲間たち。そして1番大事なのはその仲間たちがみんな9mmが大好きだということ。だから彼らはどんな難しい曲でも完璧に弾きこなしてくれるし、すでにバンドの一部になっている。もうサポートというよりは、武田も為川も5人目、6人目のメンバーと言ってもいいかもしれない。
そして9mmをこの境地まで連れてきたアルバム「BABEL」とはなんだったのか。意図的ではなく、「出来てしまった超傑作」の「Revolutionary」、9mmが9mmらしさを取り戻そうとした「Dawning」の2枚が自分は9mm最大の傑作アルバムだと思っているのだが、「BABEL」はその2枚とは違う。「滝と卓郎」というコンビで作ることを想定した段階で「Revolutionary」とは違うが、同じように9mmらしさを見つめた「Dawning」とは何が違うのか。それは「BABEL」が初めて9mmが9mmのことを歌ったアルバムだからである。それはバンドがこうした状況に置かれたからこそそうした歌詞になった(しようと思ったのではなくて、自然に出てきた)。それはこれまでの活動が書かせたものであるし、「BABEL」はそうして4人がこれまでの活動を経て積み上げてきた9mmの巨大なシンボルなのである。
10年も経つと衝撃は薄れるし、慣れてしまう。滝と和彦の暴れっぷりも、かみじょうの超人ドラムも、9mmの音楽の斬新さや独自性も。しかし今日のライブとこのツアーはその衝撃と、9mmのカッコよさを改めて思い出させてくれるものだった。やっぱり9mmは最高にカッコいいバンドだ。
もう9mmと同世代のスポーツ選手には引退する人も増えてきている。しかし10年前にデビューした時、この世代は紛れもなく新人であり、若手であった。そうしてバンドが世に出てきた時も、駆け上がっていく時も、変わらなきゃいけない瞬間を迎えた時も、それを乗り越えて進んでいく時も全て見ていると、そのバンドはただ好きなバンドではなく、最期まで見届けなきゃいけないバンドになる。チャットモンチーもベボベも、そしてもちろん9mmも。その最期の瞬間が、1日でも遠い日でありますように。
1.サクリファイス
2.インフェルノ
3.The Revolutionary
4.Story of Glory
5.The Lightning
6.火の鳥
7.眠り姫
8.Lost!!
9.光の雨が降る夜に
10.キャンドルの灯を
11.バベルのこどもたち
12.I.C.R.A w/石毛輝
13.Supernova w/石毛輝
14.Monkey Discoooooooo w/石毛輝
15.ホワイトアウト
16.それから
17.カモメ
18.ガラスの街のアリス
19.Everyone is fightning on this stage of lonely
20.ハートに火をつけて
21.talking machine
22.Punishment
encore
23.ロング・グッドバイ
24.新しい光
ガラスの街のアリス
https://youtu.be/uY-QrSbVRW8
眠り姫
https://youtu.be/syzs_9fmlnI
Next→ 7/9 POLYSICS × 銀杏BOYZ @渋谷CLUB QUATTRO
6月11日のツアー初日の神奈川県民ホールでのライブも見ていただきたいのだが(http://rocknrollisnotdead.blog.fc2.com/blog-entry-403.html?sp)、サポートメンバーを加えた編成ならではのステージ構成、ホールだからこその内容と、このメンバーとこの会場でライブをやるという意味がしっかりわかるような、9mm史上最もコンセプチュアルなものとなっていたが、追加公演的なこの日の昭和女子大学人見記念講堂でのモバイル会員限定ライブには、滝が久しぶりに9mmのライブに参加することが発表され、さらには盟友である石毛輝(lovefilm,the telephones)も参加するという、同じツアーでも内容は全く内容は異なるものになる予感に満ち溢れている。
ステージにはこのツアーでおなじみの上手の前にかみじょうのドラムセットが組まれ、サポートギターの2人がメンバー3人より後ろの高い位置に配置されている中、開演時刻をかなり過ぎた17:50頃、おなじみのATARI TEENAGE RIOTの「Digital Hardcore」が場内に流れる。しかし、神奈川の時はSEなしでメンバーが出てきてそのまま「BABEL」の曲を全曲演奏、第2部でこのSEが流れて登場して既存曲を演奏、という流れだったので、違和感を感じていると、
「9mm Parabellum Bulletです」
と挨拶した卓郎がギターを弾き始める…のだが、思いっきりミス(明らかになんの曲か全くわからないようなギターを弾いていた)し、すぐさまやり直すという、ある意味では漂っていた緊張感がほぐれるようなスタートになる。和彦は卓郎を指差し、サポートの武田と為川は両腕を上げてミスすらも盛り上げようとする。
そんなミスを経て再スタートしたのは最新シングル「サクリファイス」、さらに卓郎がイントロで滝のようなタッピングを見せる「インフェルノ」というベルセルクのタイアップ曲の連発といういきなりの飛ばしっぷり。さらに早くもクライマックスかと思ってしまう「The Revolutionary」で、この日のライブはツアーとは全く違う内容であることがはっきりとわかる。
「Story of Glory」でようやくこの日最初に「BABEL」の曲が鳴らされたのだが、
「僕らは感じてた 光浴びて
ステージに刻まれた いくつもの奇跡を」
というサビの歌詞はまさに9mmそのものを歌っている内容であり、
「わけなんてなくて笑っていた
俺たちは今夜無敵なんだ」
という、これまでに何度もライブを見るたびに実感してきたフレーズに説得力を持たせるような音がまさに目の前で鳴っている。
卓郎の口からもこの日のライブが「TOUR OF BABEL」とは全く違うものになることが告げられると、そのツアーではやらなかった「The Lightning」でこの5人編成でのサウンドが曲をさらに激しく強く重く進化させていることを実感させると、ステージにはスモークが焚かれ、赤い照明とともに幻想的な空気を作り出した「火の鳥」、為川がアコギに持ち替えた、ミドルテンポながらも轟音ギターが鳴っているという、9mmの曲でしかない「眠り姫」と、「BABEL」の曲と既存曲を織り交ぜることにより、「BABEL」の曲がこれまでの9mmの曲と全く同じ線上にいること、それに合わせて既存曲がこのメンバーだからこその進化を遂げていることがよくわかる。
すると卓郎がこの日のライブを
「目と耳と舌で充分に堪能してもらって…」
と言ったところを和彦が「舌!?」と突っ込むという微笑ましい流れを経てから、いきなりステージに男女のダンサーが登場して始まったのは「Lost!!」。この男女はPVに出演してもらっている方らしいのだが、曲中盤からは客席の通路を走って多数のダンサーの女性、卓郎曰く「Lost!! girls」が登場し、広いステージに華を添える。いきなり過ぎてかなりビックリしたけれど。
かみじょうの、力強さとツーバスを含めた手数の多さだけではない、軽やかさを感じさせるリズムの「光の雨が降る夜に」のアウトロでの拍手がさらに大きくなったのは、和彦がベースをウッドベースに変えたから。ということは「キャンドルの灯を」を演奏するということだが、この日はモバイル会員限定ライブということで、普段のワンマンでも9mmファンしかいないが、その中でもさらに濃いファンしかいないということで、もうそのベースの交換だけで何の曲をやるのかはみんなすぐわかるし、その時の歓声が明らかにいつも以上に大きい。でもそれもそのはず。ここにいた人はみんな9mmがどんな状況になっても9mmのファンでい続けることを選んだ人たちなのだから。
メンバーは「BABEL」を作ったことにより、都内で開催されていた「BABEL展」にも行ったらしいが、その「BABEL」の物語の中核を担う「バベルのこどもたち」を演奏すると、武田がステージをいったん去る。すると卓郎が
「バベルのおともだち」
と、「バベルのこどもたち」に合わせるようにしてステージに招いたのは、現在はlovefilmとして活動している、かつてはthe telephonesで9mmとずっと一緒に戦ってきた石毛輝。武田がいた位置に石毛がギターを持って移動すると卓郎が
「みんなに聞きたいこと、言いたいことがある。愛しあってるかー!!」
と叫んでタイトルが完全に「愛し合え」に聞こえる「I.C.R.A」。この日もギターに加えてコーラスもこなしているという貢献度の高さを見せていた為川に加えて石毛もコーラスをするのだが、明らかに声が高いので実に石毛だとわかりやすい。
しかし石毛は本当にしっかりギターを練習してきたようで、
「最初はテンポを50くらい落として練習してた(笑)難しいんだもん!(笑)」
と9mmの曲の難易度が高いことを改めて感じさせながら、
「だから武田くんも裕也(為川)も本当に凄いよ。もちろん滝も凄い」
と、9mmのメンバーとしてステージに立ってギターを弾く3人を褒め称えた。
そして
「俺たちと輝(石毛のことを卓郎は今年から輝と呼んでいるらしい)の思い出の曲!」
と言って演奏された「Supernova」では為川もいなくなったため、石毛が1人で滝のギターパートを完全に弾きこなす。ギターソロでは卓郎と和彦が石毛の元に集まるのも石毛と9mmの絆を感じさせる。そしてtelephones時代からなかなかスポットが当たらないが、石毛は本当にギターが上手い。あんなに様々なタイプの曲があるtelephonesの曲を1人でずっとギター弾いてたんだから当たり前といえば当たり前だが。
telephonesのラストパーティでのライブのことなどを感慨深そうに石毛と卓郎が話す中、ステージ上にはミラーボールが天井から降りてきている。9mmの曲にミラーボールを使う曲なんてないだけに、客席もざわついていると、石毛に
「行けるかー!」
を叫ばせてから演奏したのはまさかのthe telephonesの「Monkey Discooooooo」だった。いや、確かに9mmはtelephonesのトリビュートアルバムでこの曲をカバーしているが、完全にメタルアレンジにしたカバーバージョンではなく、telephonesによる原曲バージョンであり、卓郎がギターでノブのシンセのフレーズを弾いている。
当然猿のように踊りまくり、叫びまくる客席。石毛は歌いながら(卓郎はコーラス部分だけを歌う)間奏ではtelephones時代と同じようにブリッジしながらギターソロを弾き、最後には卓郎と一つのマイクで一緒に歌っていた。
それは本当に楽しい瞬間だったが、かつてtelephonesが活動休止を発表する前にこの曲をライブで聴いていた時のような、楽しいだけではなかった。なぜなら、かつては当たり前のように聴いていたこの曲も、ライブでこうして聴くのはさいたまスーパーアリーナでのラストパーティ以来、こういう特別な時しか聴けない曲になったんだ、ということに改めて気づいてしまったから。
でも、だからと言って今すぐtelephonesに活動再開して欲しいとは自分は思っていない。メンバーはそれぞれ自分がやりたいことをちゃんとやりながら音楽を続けている姿を見ているから。その姿はtelephones後期の様々な悩みを抱えていた姿よりもはるかに楽しそうだから。
しかし、石毛のlovefilmもなかなか思うようには活動できていない。去年はドラマーが脱退し、今年は江夏詩織が活動を見合わせ、シングルをリリースしたばかりなのにメンバーが揃ってライブができる状況ではないだけに。
しかし、それでもこの日はそうした諸々を全て忘れてしまえるくらいに石毛は楽しそうな顔をしていた。9mmは石毛に助けを求め、石毛はそれに応えたが、もしかしたら石毛もこの日ステージで久々にtelephonesの曲を(しかも9mmのメンバーと一緒に)たくさんの人の前でやったことで、9mmに助けられたのかもしれない。必ずしもここにいた人全員が全員telephonesを好きなわけではないだろうが、telephonesが9mmと過ごしてきた10年と、telephonesがその活動で積み上げてきたものは決して間違いではなかった。ステージ上で本当に楽しそうに演奏している4人と思いっきり叫んで踊っている人たちの姿を見てそう思えた。何より、自分が今でもtelephonesが大好きなことも。
石毛がステージを去ると、武田と為川の2人が再びステージに登場し、為川が再びアコギを弾く「ホワイトアウト」、卓郎の語り部分でギターの2人が暴れまくる「それから」という「BABEL」の中でも不穏な空気を持つ曲を演奏し、再び女性ダンサーがステージ上を華麗に舞う「カモメ」と、フェスで同じようなセトリが続いていたのはなんだったのかと思うくらいに選曲は多岐に渡る。
卓郎が去年中止になってしまって行けなかった地域を廻る新たなツアーの告知をし、自分たちを最も支えてくれているモバイル会員たちに最大限の感謝を告げると、卓郎が本家の
「行けるかー!」
を叫び、「BABEL」で証明した9mmのど真ん中と言える「ガラスの街のアリス」から再びサウンドの勢いと熱量はさらに増していく。
卓郎がギターを置いてハンドマイク状態でモンキーダンスを踊りながら歌う「ハートに火をつけて」ではツアー同様にメンバー紹介を兼ねたソロ回し。武田は
「モバイル会員の方!」
と卓郎が呼びかけると真っ先に声を出しながら手を挙げ、為川は卓郎に似ていること、和彦は髪が伸びすぎていることをいじられるが、かみじょうのドラムソロ時にはメンバーが全員ドラムセットの前で正座してドラムソロを聴いているのが実に面白い。
さらには「バベルのおともだち」こと石毛も再び紹介すると、石毛はギターを持ったまま、和彦のガニ股ベースの真似をしながらステージに登場して爆笑を誘う。そして最後には和彦がマイクを持ち、
「最初にミスった時は絶対いじりまくってやろうと思ったけど、俺もガチガチだったから今日は許す!ボーカル!ギター!菅原!卓郎!」
と卓郎を紹介する。この和彦の喋りも滝がいない部分をなんとかカバーしようという意識の表れだと思う。ギターをサポートしてもらってカバーするんじゃなく、全員でできることは全てやって少しでも穴を埋める。だからこそ、かみじょうも「Everyone~」ではコーラスもしている。全員がやれることをやって、少しでもバンドの底上げをする。それは「Waltz on Life Line」で全員が作曲をしたのもそうだったが、今はステージ上でそれをやっている。この経験は間違いなくこれからの9mmをさらに逞しく、強くするはず。
そして卓郎がマラカスを振りまくるおなじみの「talking machine」ではもうサポートの2人はもう暴れまくり。それにさらに拍車をかけるべく、とどめとばかりに演奏されたのは9mmの中で最も激しい「Punishment」。終わった後、メンバーのうち卓郎と和彦は丁寧に観客に頭を下げながらステージを去ったが、この曲で終わった後の爽快感は格別。それはライブハウスじゃなくてホールでも変わらない。
アンコールを待つ間、ステージはドラムセットの位置などの転換が。それもそのはず、この日の目玉でもある、滝がまだステージに出てきていないし、滝は1人だけ後ろの方でギターを弾くということはないんだろうから。
すると再び「Digital Hardcore」のSEとともにメンバーが登場。今回はサポートではなく、最後に滝が腕を上げてステージに出てきての久しぶりの4人編成。もちろん、会場はこの日最大の大歓声。
かみじょうのドラムがさらに上手に移動したことにより、滝が卓郎とかみじょうの間に立ち、メンバー4人が横並びの状態で演奏されたのはキメが連発される「BABEL」のオープニングナンバー「ロング・グッドバイ」。滝は負傷の影響を全く感じさせないくらいにギターを弾きまくり、時にはギターを弾くことなくステージを暴れまくる。これぞ滝である。
そしてラストは「新しい光」。滝のギターが激しいサウンドを先導すると、自身に当たるはずのスポットライトを避けるかのようにサポートメンバーが弾いていた位置まで移動していく。そしてラストのサビで銀テープが炸裂すると、曲の最後の1音が鳴った瞬間、ステージ背面にバンドのロゴが一瞬にして表れるというあまりに完璧過ぎる演出。ステージにはメンバーの4人。これが9mm Parabellum Bulletだ、と堂々と宣言するかのような終わり方だったが、滝はこれまでとおなじように真っ先にステージから去っていき、かみじょうは高々とスティックを客席に放り投げ、やはり卓郎は最後まで観客の歓声に応えていた。
「これからもいろんな形でやっていくかもしれないけど、これからも9mmをよろしく!」
と卓郎は言った。この4人ではまだ今まで通りにライブはできないかもしれない。でも、5人編成であってももう9mmは大丈夫。それを自らのライブでもって証明したのが、この日のライブと「BABEL」ツアーだった。
滝が出てきた時、それまでとは空気が全然違った。9mmの心臓はやはり滝であり、代わりはいない。もう究極な話、ギターを弾かずに抱えたままでステージを暴れまわっているだけでも、それで9mmになってしまうくらいに滝の存在=9mmなのである。だからこそアンコールが終わった後、本当に久しぶりに「今日は勝った」という感覚を9mmのライブで味わうことができたのだが、それを誰よりもわかっているのは、同じギタリストであり、最強の9mmファンである武田である。それでも「物足りない」とか、「滝がいない9mmは9mmじゃない」という声もある中で9mmのサポートを買って出て、こんなにも様々な曲をここまでの完成度に高めてくれた武田には本当に感謝しかない。もちろん為川や三橋というこのツアーをサポートした他のギタリストも。
9mmがこのツアーで獲得した1番大きなものは、結局のところはそれなのかもしれない。バンドがキツい状況の時に手を差し伸べてくれる仲間たち。そして1番大事なのはその仲間たちがみんな9mmが大好きだということ。だから彼らはどんな難しい曲でも完璧に弾きこなしてくれるし、すでにバンドの一部になっている。もうサポートというよりは、武田も為川も5人目、6人目のメンバーと言ってもいいかもしれない。
そして9mmをこの境地まで連れてきたアルバム「BABEL」とはなんだったのか。意図的ではなく、「出来てしまった超傑作」の「Revolutionary」、9mmが9mmらしさを取り戻そうとした「Dawning」の2枚が自分は9mm最大の傑作アルバムだと思っているのだが、「BABEL」はその2枚とは違う。「滝と卓郎」というコンビで作ることを想定した段階で「Revolutionary」とは違うが、同じように9mmらしさを見つめた「Dawning」とは何が違うのか。それは「BABEL」が初めて9mmが9mmのことを歌ったアルバムだからである。それはバンドがこうした状況に置かれたからこそそうした歌詞になった(しようと思ったのではなくて、自然に出てきた)。それはこれまでの活動が書かせたものであるし、「BABEL」はそうして4人がこれまでの活動を経て積み上げてきた9mmの巨大なシンボルなのである。
10年も経つと衝撃は薄れるし、慣れてしまう。滝と和彦の暴れっぷりも、かみじょうの超人ドラムも、9mmの音楽の斬新さや独自性も。しかし今日のライブとこのツアーはその衝撃と、9mmのカッコよさを改めて思い出させてくれるものだった。やっぱり9mmは最高にカッコいいバンドだ。
もう9mmと同世代のスポーツ選手には引退する人も増えてきている。しかし10年前にデビューした時、この世代は紛れもなく新人であり、若手であった。そうしてバンドが世に出てきた時も、駆け上がっていく時も、変わらなきゃいけない瞬間を迎えた時も、それを乗り越えて進んでいく時も全て見ていると、そのバンドはただ好きなバンドではなく、最期まで見届けなきゃいけないバンドになる。チャットモンチーもベボベも、そしてもちろん9mmも。その最期の瞬間が、1日でも遠い日でありますように。
1.サクリファイス
2.インフェルノ
3.The Revolutionary
4.Story of Glory
5.The Lightning
6.火の鳥
7.眠り姫
8.Lost!!
9.光の雨が降る夜に
10.キャンドルの灯を
11.バベルのこどもたち
12.I.C.R.A w/石毛輝
13.Supernova w/石毛輝
14.Monkey Discoooooooo w/石毛輝
15.ホワイトアウト
16.それから
17.カモメ
18.ガラスの街のアリス
19.Everyone is fightning on this stage of lonely
20.ハートに火をつけて
21.talking machine
22.Punishment
encore
23.ロング・グッドバイ
24.新しい光
ガラスの街のアリス
https://youtu.be/uY-QrSbVRW8
眠り姫
https://youtu.be/syzs_9fmlnI
Next→ 7/9 POLYSICS × 銀杏BOYZ @渋谷CLUB QUATTRO
POLYSICS 結成20周年記念2マンTOUR!!! POLYMPIC 2017 ゲスト:銀杏BOYZ @渋谷CLUB QUATTRO 7/9 ホーム
musicる FES 2017 ~Summer Edition~ キュウソネコカミ / GLIM SPANKY / NICO Touches the Walls / ヤバイTシャツ屋さん @Zepp Tokyo 7/1