近年、自分がトップクラスに応援しているバンドである。それはやはりミイラズが完全に忘れ去られた存在になってしまっている、というのがあるが、そんな状況でも楽曲と作品のクオリティは全く落ちていないため、動員がかつての1/10くらいにまで落ち込んでもこうしてライブに足を運んでいるのである。
ミイラズの状況を整理すると、2月にドラムレスでのスリーピースでの集大成的な大傑作であるアルバム「ぼなぺてぃっ!!!」をリリースしてツアーを行い、その余韻醒めやらぬ中でエイプリルフールに配信限定でまさかのフルアルバム「Mr. KingKong」をリリースというとてつもないハイペースなリリース。さらにさらに5月には4週間連続で配信限定シングルリリースと、バンドの制作ペースは止まることを知らない。
そして今回のツアーは関東のみのショートツアーであり、「Mr.KingKong」を引っさげてのものである。
18時になると、場内が暗転し、「ドラゴンクエストのテーマ」が流れるという若干の笑いも起きる中で、全く勇者感のないメンバーが登場。今回のツアー、今までと何が違うかというと、サポートドラマー(まのたかし。ex.夜ハ短シ)がいるということ。つまり、ドラムレスのスリーピースだったミイラズが久しぶりに4ピースのバンド形態に戻ってきたのである。
畠山はいつものようにキャップを被ってサングラスをかけた中、「スーパーフレア」からの定番曲にして代表曲3曲の連発で幕を開けるのだが、やはり久々の生ドラムはバンドのサウンドに勢いと熱量を与えている。DJキノイ君も可愛かったが、この時期のミイラズの曲はドラムがいるのが当たり前の編成だっただけに、ドラムがいるのは本当に大きいと、ドラムがいない編成でのライブを見続けてきたからこそ思う。
当然バンドのサウンドが変われば、客席のリアクションも変わる。ドラムレスの時よりもさらにダイレクトに目の前で鳴っている音を受け止められるだけに、明らかに今までよりも盛り上がりぶりが激しくなっている。それはある意味ではかつてミイラズが絶頂期にいた頃に戻ったとも言える。もちろんそこにいる人数は当時とは比べものにならないが…。
「関係ないね」からは「Mr.KingKong」の曲が続くのだが、シンプルなガレージロックに回帰したアルバムの方向性は、間違いなくライブでもドラムが入るというのを前提にして制作されたものだろう。
しかしただの原点回帰になっていないのは、初期のミイラズは「Arctic Monkeysのパクり」と言われていたようにUKロックを軸にしていたが、今のガレージサウンドはUKよりもUSのインディーバンド感が強い。そのあたりの嗅覚と取捨選択ぶりは畠山が世界中の様々な音楽を聴くリスナーであり、時には海外までライブを観に行くこともあるくらいにあらゆる音楽を同じ地平で聴いているからこそ。
しかしながらまだこのサウンドの本領は発揮できていない部分もあるというか、畠山の声が聴き取りにくいミックスも含め、完全にバンドのものになっているとは言い難いところもある。歌詞は相変わらず畠山でしか書けないような、世の中を斜めから見たものや、他のバンドでは確実に出てこないような単語がたくさん出てくるだけに、そこはもったいなさを感じてしまう。
「ここからはシンセが入った曲を」
とだけ畠山が言うと、a flood of circleの佐々木亮介が「UKでアルバムチャート1位のKASABIANのさらに先を行っていた」と評した、ダークなEDMのエッセンスを取り入れた曲が続くのだが、その中でも最初に演奏された
「朝のニュースで有名人がまた1人死んだって聞いた
忘れたくせに涙流してる
そしてそれに便乗するかのようにハイエナが集まってくる
人の死すら商売になる世界 最高だね 次は何を売ろうか?
君は何を売るんだい?」
というフレーズで始まる「パンドラの箱、ツンデレっすね」は先日病気で亡くなってしまった芸能人と、それを取り巻くマスコミやインターネットについて考えられさせざるを得ない。ツアーではその前から演奏しているので、今回のニュースに合わせた選曲ではないが、ここまでタイミング的にリンクしてしまうというのは、畠山にはこうなることがツアー前からわかっていたんだろうか、とすら思ってしまう。
しかしながら、新作のガレージロックサウンドよりも、まののドラムはこうしたEDMを取り入れたタイプの曲の方が良く似合っているし、ともすると無機質に感じてしまう電子音中心のバンドサウンドに確かな肉体性をもたらしている。新谷元輝もEDM路線に転向した初期はまだこのバンドでドラムを叩いていたが、その時よりも相性が良いと思えるのは意外な収穫であった。
駆け抜けるように曲を連発してきたが、ここでこの日初のMC。しかしながら内容は畠山がジャケットを着てきたので、「暑くて仕方がない」という内容はほぼ0のものなだけに、ケイゾーに「それを脱がないんなら暑いって言うんじゃない!」と一喝されて終わってしまう。
すでに前作のツアー時から演奏され、バンドの新たな方向性を予感させていた「Get Money」からは後半戦に突入。
ロックンロールのテーマの一つとして数々のバンドが歌にしてきた「Jack&Betty」をもじってミイラズらしいユーモアをまぶした「Jack&Terry」では
「ロックンロールはただじゃ死なねぇよ」
とサビで連呼するのだが、これはミイラズというロックンロールバンドそのものもただじゃ死なねぇ、まだまだこれからだ、と自分たちに言い聞かせているかのように感じる。
後半戦は新作の中でも真彦のギターリフが際立つエッジーな曲が多く並んだが、観客が手拍子を打ち鳴らす代表曲「気持ち悪りぃ」でモードを変えると、かつてのバンドの名曲「君の料理」と正反対のことを歌う「飯マズ嫁と僕の物語」へ。「あれ?畠山、結婚してないよね?」とも思うが、結婚していてこんな曲を作ったら間違いなく即離婚に至るであろう、毒の強い曲。
そんな曲の直後にストレートなラブバラード「腕枕」をやるんだから、気持ちの切り替えが難しい。きっとこれは畠山も狙ってこの曲順にしているのだろうけれど。
この日唯一のバラード曲を挟んだことによって、客席側もちょっと一息、という雰囲気もあったが、それを許さないかのように全く間髪入れずに「観覧車に乗る君が夜景に照らさてるうちは」からラストスパートへ。
やはりこの流れになると、生ドラムであるのが本当に効いている。客席も一層熱量が上がり、バンドもそれに触発されるようにテンポが早まる。これは打ち込みのドラムでは絶対にあり得ない、ロックバンドのライブだからこそ。そしてミイラズはテンポの速い曲が多いだけに、本当にそれが似合うバンドだったんだ、ということを改めて思い出させてくれた。そうしてテンポが速くなったからか、本編が終わったのは19時過ぎ。20曲やってわずか1時間ちょっとだった。
アンコールで再びメンバーが登場すると、畠山はしっかりとジャケットを脱いで「Get Money」Tシャツに着替えており、本編でMCを全くしなかったのは、その方がカッコいいと思ったから、あえて3回やる予定だったMCを全て飛ばしたということを語る。ちなみにケイゾーらメンバーは全くそれを知らされていなかったためにビックリしたらしい。
そのぶん、ここで喋りますよ、という勢いで畠山がひたすらにケイゾーに話を振りまくるのだが、どうにも面白い話を引き出せず、
「MCしても盛り上がらないから、もう「スーパーフレア」から頭3曲をもう一回やった方が盛り上がる気がする(笑)」
と言うと、当然客席からはもう一回その流れをやってくれ、という空気になるのだが、メンバーもどうしようかと迷っていると、畠山がこの前に
「「腕枕」ってペルソナ4の主人公たちにすごい合う曲だと思うんだよね。ペルソナ4知ってる人いる?あ、いた。お前はどう思った?」
という問いかけに対して声を発さずに親指を立てただけというリアクションをした男性に、
「お前はもう一回頭3曲やった方がいいと思う?」
と問いかけると、再び親指を立てるだけで言葉を発さず、客席が笑いに包まれると、
「お前はわかってるな(笑)お前が「いいんじゃないっすかね~」みたいに言ったらぶっ殺してたところだ(笑)」
と言い、本当に「スーパーフレア」から頭3曲をもう一回フルに演奏するという信じられない展開に。あまりの盛り上がりぶりにダイバーも発生し、マイクスタンドに当たってスタンドが倒れ、メンバーがビックリするという予期せぬ事態にもなったが、観客が無理矢理やらせたわけでもなければ、バンドが勝手にやったわけでもない。お互いが聴きたい、やりたいと思いが一致したことによってこのような展開になった。そこには、バンドとファンの間に確かな信頼関係が出来ていた。
しかし、かつてのミイラズを思い返すと、畠山は「売れたい」「デカいところでやりたい」と口にしながらも(だからこそミュージックステーションにも出たのだろうし)、あえてそうしたバンドとファンの信頼を避けていた。それがミイラズのらしさになっていた部分もあったのだが、それではやはり上手くいかなかったし、それが今のような状況になった一因でもある。それだけに、この状況、このキャパ、この距離感でそんなファンを突っぱねるようなことをしていたら完全にただの勘違い野郎になってしまうし、今よりもさらに観に来てくれる人はいなくなってしまうだろう。
でも今は、我々観客はミイラズの曲とバンドの存在を心から欲していて、バンドはその観客の思いに向き合ってしっかりと応えようとしている。そんな、普通のバンドだったら当たり前であることがミイラズの当たり前になるまで、これだけ長い時間がかかったが、それでも絶頂期にすら見れなかったそうした信頼関係で我々とバンドが結ばれているというのがしっかりとわかるようになったのが、何よりも嬉しかった。
だからこそ、ケイゾーは頭3曲をやり終えた時に、
「あとは最後の曲だけやる?」
と畠山に聞いたが、畠山は
「いや、全部やろう」
と言い切って、本来予定されていた、バンドの大事な代表曲たちを全てやり切った。その姿を見て、盛り上がりが増していくばかりの客席の後ろで、自分は感動して涙が出そうになっていた。決して演奏されていた曲はそういうタイプの曲ではなかったにもかかわらず。
だし、バンド側が何か感動するようなMCをしたわけでもないし、きっとこれからもそういうことを言うバンドにはならないだろう。でも、この日のバンドの姿勢からはミイラズが確かに変わったことがはっきりと伝わってきた。
演奏が終わったあと、畠山もケイゾーもかつてのライブでは
「さっさと帰れ!」
と言っていたのが違う人かのように晴れやかな笑顔を浮かべながら、
「ありがとう!」
と感謝の気持ちを伝えていた。
元輝が脱退した時、畠山は「これ以上バンドのメンバーとして新しい関係性を築くことはできない」と言い、ドラマーをバンドに加えないで活動していくという宣言をした。しかし、やはりそれには無理があったことを悟り、新しい関係性を築くのが苦手であっても、ドラマーを迎え入れることに考えを改めた。
そんなめんどくさいバンドでドラムを叩いてくれるまのには本当に感謝しかないが、序盤で「絶頂期にいた頃に戻った」と書いたが、それは編成だけを見るとそうだが、内面はあの頃とは全く変わっている。だから戻ったんじゃなくて、新しい形になった。ミイラズは変わった。
「昔の突っぱねてる時の方がミイラズらしかった」
って言う人もいるかもしれないが、そう言う人はきっと今のミイラズのライブを見ていない人だろう。
でも自分はライブを重ねる度に、今の新しいミイラズのままで、またもう一回デカいステージに立つ姿が見たいと思う。その時は、これまでで1番楽しくて、1番感動するようなミイラズのライブが見れるっていう確信があるから。
1.スーパーフレア
2.check it out! check it out! check it out! check it out!
3.ふぁっきゅー
4.関係ないね
5.KingKong
6.ミュージシャンライフ!
7.エイプリルフール
8.パンドラの箱、ツンデレっすね
9.ぺ・ル・ソ・ナ ~邪魔しないでよ~
10.つーか、っつーか
11.Get Money
12.Jack&Terry
13.昼間っからビール
14.ボクハ芸能人
15.気持ち悪りぃ
16.飯マズ嫁と僕の物語
17.腕枕
18.観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは
19.ラストナンバー
20.マジか。そう来たか、やっぱそう来ますよね。はいはい、ですよね、知ってます。
encore
21.スーパーフレア
22.check it out! check it out! check it out! check it out!
23.ふぁっきゅー
24.僕らは
25.プロタゴニストの一日は
26.CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい
Get Money
https://youtu.be/xrSatE_HBaw
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