9mm Parabellum Bullet TOUR OF BABEL @神奈川県民ホール 6/11
- 2017/06/11
- 21:38
現在、ギターの滝が負傷によりライブ活動を休止という手負い状態の中、その滝が全曲を作曲したアルバム「BABEL」をリリースした、9mm Parabellum Bullet。現在はHEREの武田将幸などをサポートに迎えてライブを行っている中、この日は武田に加え、folcaの為川裕也を迎えるという編成になるが、「BABEL」の曲をどこまでできるのかという部分が気になるところ。
大ホールとはいえ、ステージと客席との距離が近く感じる神奈川県民ホールに、けたたましいブザー音が鳴ると場内アナウンスが流れ、場内が暗転して紗幕がかかったステージにメンバーのシルエットが現れ、それまでと別世界に引きずり込むような轟音サウンドが耳に飛び込んでくる。卓郎の歌声が聴こえてくるとともに紗幕が落ちると、「BABEL」の1曲目である「ロング・グッドバイ」から始まったのだが、目を惹くのはその編成とステージ上の立ち位置。卓郎が真ん中で和彦が下手というのは変わらないが、かみじょうのドラムセットが上手に配置され、その要塞のごときドラムセットとかみじょうのドラミング、さらには超人ドラムを実現するための両腕の凄まじい筋肉がいつもよりもはるかに近く見える。そして3人の後ろに階段を設けて高く設置したステージには武田と為川のサポート2人。ステージ背面には「BABEL」のジャケット、ステージの床も赤と黒の「BABEL」色で染められるという完全「BABEL」仕様で、
「僕らは感じてた 光浴びて ステージに刻まれたいくつもの奇跡を
思い出して 終われないって」
というバンドの状況そのものを歌ったかのような「Story of Glory」、武田と為川がタイトルのコーラスを叫ぶ「I.C.R.A」とセトリも完全に「BABEL」仕様。
というか、春フェスでも演奏されていた、これまでの9mmど真ん中と言えるリード曲「ガラスの街のアリス」、為川がアコギに持ち替えるミドルナンバー「眠り姫」と、機材交換はあれど、全くMCを挟まずに(いつもならばとっくに卓郎の挨拶くらいはしているはずである)「BABEL」の曲順通りに演奏していくと、これはこのままアルバムを順番通りに再現するライブなのだろうな、ということに気付くとともに、武田が主に滝のギターを、為川がそれ以外の部分を補完するようなギターとコーラスを務めるというこの編成の意味もわかってくる。
また、照明すらも基本的に赤と黒しか使わないという、徹底して「BABEL」の世界観を再現するような演出は、「火の鳥」では髪が本当に伸びまくっている和彦の姿が隠れるくらいに大量のスモークが焚かれるというこれまでのライブではまずなかったような部分にも波及している。
「Everyone~」では卓郎の声がちょっと厳しそうなところもあったが、アルバムのメッセージとアルバムの元ネタである神話を歌詞にしたかのような「バベルのこどもたち」ではなんの問題もなかったようにそのさらに色気を増した声を響かせ、再び為川がアコギに持ち替えた「ホワイトアウト」は、
「なんにも知らないふたりには戻れない
どれだけ昨日が眩しく見えても」
という歌い出しのフレーズが、フィクションとしての恋人たちのことのようでもあり、デビューから10年経って形が変わってしまったバンドそのもののことのようにも響く。
そして卓郎の高速ポエトリーリーディング的な部分がおどろおどろしくすら感じる「それから」では和彦に加えてサポートギターの2人も轟音を発しながら激しく暴れまわるという9mmらしさを発揮すると、曲終わりでメンバーが楽器を置いてステージを去っていく。
大量の「?」が浮かびながらも客席からは大きな拍手が起きると、えらく男前な場内アナウンスが
「第1部、LIVE OF BABELは終了しました。第2部、OTHER SIDE OF BABELが間も無く始まります」
と、このライブが2部構成であったことを告げる。ちなみにこの場内アナウンス、9mmが「インフェルノ」と「サクリファイス」でオープニングテーマを務めたアニメ「ベルセルク」の登場人物の声優の方がやってくれていたらしい。
すると間も無くして、おなじみATARI TEENAGE RIOTの「Digital Hardcore」が爆音で流れると(そういえば第1部では流れずに始まった)、すでに第1部を終えてテンションが最高潮に達している状態の6人がみな腕を掲げたりしながら再びステージに登場。ステージ背面の「BABEL」のジャケットもいつものバンドロゴに変わり、ここからはいつもの9mmのライブが展開していくと思わせてくれる演出。
第2部の始まりは最新シングル「サクリファイス」から。なのでいつもの9mmというよりは「BABEL」のさらに先を見せるかのようだが、この曲、最初にMVが公開されて聴いた時は、和彦が作った曲だと思っていた。これまでに和彦が手がけた「Cold Edge」や「ダークホース」に連なる、シンプルなリズムのストレートなギターロックだったから。しかし実際にCDを買ってクレジットを見てみたら、作曲は滝で作詞は卓郎という「BABEL」と同じく、9mmの王道と言えるものだった。
「BABEL」は紛れもなくその「9mmの王道」を意識しつつ、歌詞や世界観には神話というコンセプトを取り入れたものだったが、その次に出した曲が滝らしさをあまり感じられない滝の曲になっているということは、これからは滝が作る曲もいわゆる9mm的な曲以外のものも増えてくる予感がする。
第1部同様にサポートの2人がコーラスを務めた「The Revolutionary」では卓郎も含めて和彦とサポートの2人も一斉にジャンプ。その瞬間が本当にカッコいいし、もはや美しくもある。
「ダークホース」ではイントロとサビ前でピンスポットが当たった作曲者の和彦のストレートさが
「真っ直ぐにまっしぐらに突き進んで」
というフレーズに本当にピッタリで、さらには「Keyword」という予想だにしなかったような懐かしい曲までも飛び出す。
その選曲について卓郎はようやく口を開いたMCで
「「BABEL」は本当に完成度が高いものができたと思っているんだけど、その「BABEL」の曲とこれまでの俺たちの曲にも何処か通じるところがあると思う」
と語っていたが、その通じるものとは、この4人で作ればどんな曲でも9mmの曲になるということである。アルバムの性質上、曲順通りに一気に演奏するのが最も「BABEL」の真価を引き出すのは間違いないが、このツアー以降のライブで「BABEL」の曲をセトリの合間に挟んでも違和感は全く感じないはず。
MCの後には和彦が座り込んでイントロをベースで弾く。それは「黒い森の旅人」のイントロなのだが、これまでは滝がギターでその部分を弾いてから曲に入っていた。それをそのままやるなら弾くべきは武田であろう。だが、そこをあえて和彦がベースでやった。滝の穴を埋めるのはサポートメンバーだけではなく、今ステージに立っている全員である、という意思がこのわずかなシーンから伝わってきた。ましてや和彦はバンド内では末っ子的な立ち位置の男であり、自分の口でバンドの意思を語ることはライブにおいてはほとんどない。そんな男が見せた、バンドへの愛情。わずか数秒だったが、見ていて涙が出てきそうだった。それはきっとこれまで9mmをずっと見てきた人ならみんなそうなんじゃないか、と思うんだが。
その和彦がウッドベースに持ち替えただけで拍手が起きたのは昭和歌謡とメタルを融合というかごった煮にしたような「キャンドルの灯を」。ウッドベース自体はかつてよりも小型化しているが、この編成でもこの曲が演奏されることが実に嬉しい。
卓郎が感慨深そうに
「こうして俺たちがバンドを続けていられるのは、メンバー、スタッフ、サポートメンバーはもちろん、こうして見にきてくれるみんなのおかげです。本当にありがとう」
とファンへの感謝をストレートに語ると、90秒の衝撃こと「インフェルノ」からはラストスパートへ。
おなじみの大合唱が起きた「新しい光」では間奏前にサポートの2人が高いステージを飛び降りて卓郎と和彦の2人と並んでキメで4人揃ってヘッドを立てるという、理屈では説明できない、カッコよさしか感じられないファイヤーフォーメーションとなる。もはやサポートの2人も完全に9mmのメンバーと化している。
そして間髪入れずに始まった、卓郎がハンドマイク状態になった「ハートに火をつけて」では間奏で卓郎が曲をいったん止めると、なんと曲中にメンバー紹介を挟むという、今までの9mmのライブでは考えられなかったような展開に。しかも卓郎はマイク片手にバラエティ番組の司会者のように1人ずつメンバーの元へ近寄り、
「9mmモバイル会員にして、9mmを最も愛している男、武田将幸!」
「俺に似てると言われてるけど、俺より100万倍ギターが上手い男、為川裕也!」
「「BABEL」の紹介コメントでTHE BACK HORNの山田将司さんに「どこまで髪が伸びるのか」と言われた男、中村和彦!」
「この位置でライブやるのは初めてです!みなさん、いつもよりスティックを回す姿がよく見えるでしょう!?(その瞬間、スティックを落とした(笑))かみじょうちひろ!」
と紹介しながらそれぞれソロ回しをさせ、改めてメンバーの演奏力の凄まじさに圧倒されると、なんと和彦がハンドマイクを持ち、
「身長、髪型も合わせて2m!(笑)卓郎ー!」
と卓郎を紹介する。ライブで和彦のデスボイス以外の声を聞けることは滅多にないだけに会場はかなりどよめいていたが、これからはこうしてマイクを通して声を発する機会も増えてくるのか。少なくともこのツアーではその姿は毎回見れるはず。
その和彦が最初に手がけた、地獄の三三七拍子こと「Cold Edge」では最後に和彦のベースのシールドが抜けてベースの音が出なくなると、ベースをスタッフに渡してデスボイスに専念するという、ある意味ではアクシデントに慣れてきた、頼もしい姿を見せてくれる。
そして卓郎のカッティングギターから突入したのは、9mm史上最もメタリックな「Punishment」で和彦だけでなくサポート2人も暴れまくりながらギターを弾き、めちゃくちゃ激しいのに爽快感を感じるという9mmのワンマンならではの感覚を思い出させてくれるエンディングで、演奏が終わると卓郎と和彦はいつものように丁寧に観客に頭を下げたり手を振ったりしてからステージを去って行った。
アンコールではメンバーがツアーTシャツに着替えて登場し、再び観客への感謝を告げると、
「俺たち、声高に「頑張れ」とかは言わないけど、「BABEL」がみんなの生活や人生の後押しになってくれたらいいなと…。本当に心からそれだけを思ってます」
と、9mmがバンドを続ける理由、こうして新作を作る理由の最も根源的な部分を言葉にし、卓郎がギターを弾かずにハンドマイクで歌いながら踊りまくる「Black Market Blues」、そしてトドメの一撃とばかりに「Discommunication」とキラーチューンを連発すると、かみじょうはスティック3本をお手玉のようにクルクルと回しながら客席に投げ入れ、卓郎と和彦は再度深々とお辞儀をしたり、観客の声に応えながらステージを後にした。
すると、終演を告げたのも「ベルセルク」の声優のアナウンス。メンバーがいなくなってから会場に響いたメンバー以外の声によって、我々は爆音の世界から、現実に引き戻されたのだった。
なぜライブハウスではなくホールなのか、なぜこの編成なのか。その疑問が、見れば一発で解決するようなライブだった。9mm史上最もコンセプチュアルなツアーだが、そこからわかるのは、9mmの追随不可能なカッコよさと、バンドの持つ美しさ。初日にして、しかも完全体ではないのにこの完成度。やはり9mmは底知れなかった。
しかし、先月までの春フェスの段階では、代表曲を並べたセトリも、滝不在のステージも、物足りなさを感じてしまっていたのが事実。(だからこそJAPAN JAMではコラボした山本リンダのイメージのみが強く残っている)
だからこそ、
「今後、フェスでは他に見たいバンドと被っていたら、もうそこまで優先しなくてもいい存在かもしれない」
とすら思っていた。しかし、この日の2時間でその思考は鮮やかに、かつ圧倒的に覆された。だからこそ現在の9mmの状態への評価と、「BABEL」への評価はこのツアーを見たかどうかで全く変わる。
ライブの合間に、1人の男性ファンが、
「やっぱり9mm最高にカッコいいよー!」
と、どこか涙を滲ませるような声で叫び、大きな拍手が起こった。この日この会場にいたファン全員の意見はその言葉に集約されていた。果たして、滝も久しぶりにライブに参加するツアーファイナルではどうやってこれ以上の感情を我々から引き出してくれるのだろうか。
1.ロング・グッドバイ
2.Story of Glory
3.I.C.R.A
4.ガラスの街のアリス
5.眠り姫
6.火の鳥
7.Everyone is fighting on this stage of lonely
8.バベルのこどもたち
9.ホワイトアウト
10.それから
11.サクリファイス
12.The Revolutionary
13.ダークホース
14.Keyword
15.黒い森の旅人
16.キャンドルの灯を
17.インフェルノ
18.新しい光
19.ハートに火をつけて
20.Cold Edge
21.Punishment
encore
22.Black Market Blues
23.Discommunication
ガラスの街のアリス
https://youtu.be/uY-QrSbVRW8
Next→ 6/15 クリープハイプ × 銀杏BOYZ @Zepp Nagoya
大ホールとはいえ、ステージと客席との距離が近く感じる神奈川県民ホールに、けたたましいブザー音が鳴ると場内アナウンスが流れ、場内が暗転して紗幕がかかったステージにメンバーのシルエットが現れ、それまでと別世界に引きずり込むような轟音サウンドが耳に飛び込んでくる。卓郎の歌声が聴こえてくるとともに紗幕が落ちると、「BABEL」の1曲目である「ロング・グッドバイ」から始まったのだが、目を惹くのはその編成とステージ上の立ち位置。卓郎が真ん中で和彦が下手というのは変わらないが、かみじょうのドラムセットが上手に配置され、その要塞のごときドラムセットとかみじょうのドラミング、さらには超人ドラムを実現するための両腕の凄まじい筋肉がいつもよりもはるかに近く見える。そして3人の後ろに階段を設けて高く設置したステージには武田と為川のサポート2人。ステージ背面には「BABEL」のジャケット、ステージの床も赤と黒の「BABEL」色で染められるという完全「BABEL」仕様で、
「僕らは感じてた 光浴びて ステージに刻まれたいくつもの奇跡を
思い出して 終われないって」
というバンドの状況そのものを歌ったかのような「Story of Glory」、武田と為川がタイトルのコーラスを叫ぶ「I.C.R.A」とセトリも完全に「BABEL」仕様。
というか、春フェスでも演奏されていた、これまでの9mmど真ん中と言えるリード曲「ガラスの街のアリス」、為川がアコギに持ち替えるミドルナンバー「眠り姫」と、機材交換はあれど、全くMCを挟まずに(いつもならばとっくに卓郎の挨拶くらいはしているはずである)「BABEL」の曲順通りに演奏していくと、これはこのままアルバムを順番通りに再現するライブなのだろうな、ということに気付くとともに、武田が主に滝のギターを、為川がそれ以外の部分を補完するようなギターとコーラスを務めるというこの編成の意味もわかってくる。
また、照明すらも基本的に赤と黒しか使わないという、徹底して「BABEL」の世界観を再現するような演出は、「火の鳥」では髪が本当に伸びまくっている和彦の姿が隠れるくらいに大量のスモークが焚かれるというこれまでのライブではまずなかったような部分にも波及している。
「Everyone~」では卓郎の声がちょっと厳しそうなところもあったが、アルバムのメッセージとアルバムの元ネタである神話を歌詞にしたかのような「バベルのこどもたち」ではなんの問題もなかったようにそのさらに色気を増した声を響かせ、再び為川がアコギに持ち替えた「ホワイトアウト」は、
「なんにも知らないふたりには戻れない
どれだけ昨日が眩しく見えても」
という歌い出しのフレーズが、フィクションとしての恋人たちのことのようでもあり、デビューから10年経って形が変わってしまったバンドそのもののことのようにも響く。
そして卓郎の高速ポエトリーリーディング的な部分がおどろおどろしくすら感じる「それから」では和彦に加えてサポートギターの2人も轟音を発しながら激しく暴れまわるという9mmらしさを発揮すると、曲終わりでメンバーが楽器を置いてステージを去っていく。
大量の「?」が浮かびながらも客席からは大きな拍手が起きると、えらく男前な場内アナウンスが
「第1部、LIVE OF BABELは終了しました。第2部、OTHER SIDE OF BABELが間も無く始まります」
と、このライブが2部構成であったことを告げる。ちなみにこの場内アナウンス、9mmが「インフェルノ」と「サクリファイス」でオープニングテーマを務めたアニメ「ベルセルク」の登場人物の声優の方がやってくれていたらしい。
すると間も無くして、おなじみATARI TEENAGE RIOTの「Digital Hardcore」が爆音で流れると(そういえば第1部では流れずに始まった)、すでに第1部を終えてテンションが最高潮に達している状態の6人がみな腕を掲げたりしながら再びステージに登場。ステージ背面の「BABEL」のジャケットもいつものバンドロゴに変わり、ここからはいつもの9mmのライブが展開していくと思わせてくれる演出。
第2部の始まりは最新シングル「サクリファイス」から。なのでいつもの9mmというよりは「BABEL」のさらに先を見せるかのようだが、この曲、最初にMVが公開されて聴いた時は、和彦が作った曲だと思っていた。これまでに和彦が手がけた「Cold Edge」や「ダークホース」に連なる、シンプルなリズムのストレートなギターロックだったから。しかし実際にCDを買ってクレジットを見てみたら、作曲は滝で作詞は卓郎という「BABEL」と同じく、9mmの王道と言えるものだった。
「BABEL」は紛れもなくその「9mmの王道」を意識しつつ、歌詞や世界観には神話というコンセプトを取り入れたものだったが、その次に出した曲が滝らしさをあまり感じられない滝の曲になっているということは、これからは滝が作る曲もいわゆる9mm的な曲以外のものも増えてくる予感がする。
第1部同様にサポートの2人がコーラスを務めた「The Revolutionary」では卓郎も含めて和彦とサポートの2人も一斉にジャンプ。その瞬間が本当にカッコいいし、もはや美しくもある。
「ダークホース」ではイントロとサビ前でピンスポットが当たった作曲者の和彦のストレートさが
「真っ直ぐにまっしぐらに突き進んで」
というフレーズに本当にピッタリで、さらには「Keyword」という予想だにしなかったような懐かしい曲までも飛び出す。
その選曲について卓郎はようやく口を開いたMCで
「「BABEL」は本当に完成度が高いものができたと思っているんだけど、その「BABEL」の曲とこれまでの俺たちの曲にも何処か通じるところがあると思う」
と語っていたが、その通じるものとは、この4人で作ればどんな曲でも9mmの曲になるということである。アルバムの性質上、曲順通りに一気に演奏するのが最も「BABEL」の真価を引き出すのは間違いないが、このツアー以降のライブで「BABEL」の曲をセトリの合間に挟んでも違和感は全く感じないはず。
MCの後には和彦が座り込んでイントロをベースで弾く。それは「黒い森の旅人」のイントロなのだが、これまでは滝がギターでその部分を弾いてから曲に入っていた。それをそのままやるなら弾くべきは武田であろう。だが、そこをあえて和彦がベースでやった。滝の穴を埋めるのはサポートメンバーだけではなく、今ステージに立っている全員である、という意思がこのわずかなシーンから伝わってきた。ましてや和彦はバンド内では末っ子的な立ち位置の男であり、自分の口でバンドの意思を語ることはライブにおいてはほとんどない。そんな男が見せた、バンドへの愛情。わずか数秒だったが、見ていて涙が出てきそうだった。それはきっとこれまで9mmをずっと見てきた人ならみんなそうなんじゃないか、と思うんだが。
その和彦がウッドベースに持ち替えただけで拍手が起きたのは昭和歌謡とメタルを融合というかごった煮にしたような「キャンドルの灯を」。ウッドベース自体はかつてよりも小型化しているが、この編成でもこの曲が演奏されることが実に嬉しい。
卓郎が感慨深そうに
「こうして俺たちがバンドを続けていられるのは、メンバー、スタッフ、サポートメンバーはもちろん、こうして見にきてくれるみんなのおかげです。本当にありがとう」
とファンへの感謝をストレートに語ると、90秒の衝撃こと「インフェルノ」からはラストスパートへ。
おなじみの大合唱が起きた「新しい光」では間奏前にサポートの2人が高いステージを飛び降りて卓郎と和彦の2人と並んでキメで4人揃ってヘッドを立てるという、理屈では説明できない、カッコよさしか感じられないファイヤーフォーメーションとなる。もはやサポートの2人も完全に9mmのメンバーと化している。
そして間髪入れずに始まった、卓郎がハンドマイク状態になった「ハートに火をつけて」では間奏で卓郎が曲をいったん止めると、なんと曲中にメンバー紹介を挟むという、今までの9mmのライブでは考えられなかったような展開に。しかも卓郎はマイク片手にバラエティ番組の司会者のように1人ずつメンバーの元へ近寄り、
「9mmモバイル会員にして、9mmを最も愛している男、武田将幸!」
「俺に似てると言われてるけど、俺より100万倍ギターが上手い男、為川裕也!」
「「BABEL」の紹介コメントでTHE BACK HORNの山田将司さんに「どこまで髪が伸びるのか」と言われた男、中村和彦!」
「この位置でライブやるのは初めてです!みなさん、いつもよりスティックを回す姿がよく見えるでしょう!?(その瞬間、スティックを落とした(笑))かみじょうちひろ!」
と紹介しながらそれぞれソロ回しをさせ、改めてメンバーの演奏力の凄まじさに圧倒されると、なんと和彦がハンドマイクを持ち、
「身長、髪型も合わせて2m!(笑)卓郎ー!」
と卓郎を紹介する。ライブで和彦のデスボイス以外の声を聞けることは滅多にないだけに会場はかなりどよめいていたが、これからはこうしてマイクを通して声を発する機会も増えてくるのか。少なくともこのツアーではその姿は毎回見れるはず。
その和彦が最初に手がけた、地獄の三三七拍子こと「Cold Edge」では最後に和彦のベースのシールドが抜けてベースの音が出なくなると、ベースをスタッフに渡してデスボイスに専念するという、ある意味ではアクシデントに慣れてきた、頼もしい姿を見せてくれる。
そして卓郎のカッティングギターから突入したのは、9mm史上最もメタリックな「Punishment」で和彦だけでなくサポート2人も暴れまくりながらギターを弾き、めちゃくちゃ激しいのに爽快感を感じるという9mmのワンマンならではの感覚を思い出させてくれるエンディングで、演奏が終わると卓郎と和彦はいつものように丁寧に観客に頭を下げたり手を振ったりしてからステージを去って行った。
アンコールではメンバーがツアーTシャツに着替えて登場し、再び観客への感謝を告げると、
「俺たち、声高に「頑張れ」とかは言わないけど、「BABEL」がみんなの生活や人生の後押しになってくれたらいいなと…。本当に心からそれだけを思ってます」
と、9mmがバンドを続ける理由、こうして新作を作る理由の最も根源的な部分を言葉にし、卓郎がギターを弾かずにハンドマイクで歌いながら踊りまくる「Black Market Blues」、そしてトドメの一撃とばかりに「Discommunication」とキラーチューンを連発すると、かみじょうはスティック3本をお手玉のようにクルクルと回しながら客席に投げ入れ、卓郎と和彦は再度深々とお辞儀をしたり、観客の声に応えながらステージを後にした。
すると、終演を告げたのも「ベルセルク」の声優のアナウンス。メンバーがいなくなってから会場に響いたメンバー以外の声によって、我々は爆音の世界から、現実に引き戻されたのだった。
なぜライブハウスではなくホールなのか、なぜこの編成なのか。その疑問が、見れば一発で解決するようなライブだった。9mm史上最もコンセプチュアルなツアーだが、そこからわかるのは、9mmの追随不可能なカッコよさと、バンドの持つ美しさ。初日にして、しかも完全体ではないのにこの完成度。やはり9mmは底知れなかった。
しかし、先月までの春フェスの段階では、代表曲を並べたセトリも、滝不在のステージも、物足りなさを感じてしまっていたのが事実。(だからこそJAPAN JAMではコラボした山本リンダのイメージのみが強く残っている)
だからこそ、
「今後、フェスでは他に見たいバンドと被っていたら、もうそこまで優先しなくてもいい存在かもしれない」
とすら思っていた。しかし、この日の2時間でその思考は鮮やかに、かつ圧倒的に覆された。だからこそ現在の9mmの状態への評価と、「BABEL」への評価はこのツアーを見たかどうかで全く変わる。
ライブの合間に、1人の男性ファンが、
「やっぱり9mm最高にカッコいいよー!」
と、どこか涙を滲ませるような声で叫び、大きな拍手が起こった。この日この会場にいたファン全員の意見はその言葉に集約されていた。果たして、滝も久しぶりにライブに参加するツアーファイナルではどうやってこれ以上の感情を我々から引き出してくれるのだろうか。
1.ロング・グッドバイ
2.Story of Glory
3.I.C.R.A
4.ガラスの街のアリス
5.眠り姫
6.火の鳥
7.Everyone is fighting on this stage of lonely
8.バベルのこどもたち
9.ホワイトアウト
10.それから
11.サクリファイス
12.The Revolutionary
13.ダークホース
14.Keyword
15.黒い森の旅人
16.キャンドルの灯を
17.インフェルノ
18.新しい光
19.ハートに火をつけて
20.Cold Edge
21.Punishment
encore
22.Black Market Blues
23.Discommunication
ガラスの街のアリス
https://youtu.be/uY-QrSbVRW8
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