銀杏BOYZ presents 「東京のロック好きの集まり」 Guest:never young beach @新木場STUDIO COAST 5/28
- 2017/05/29
- 00:56
今年に入り、峯田和伸がNHKの朝の連続テレビ小説に出演するのと並行して、様々なニュースが発表されて活動が活発化してきている、銀杏BOYZ。その最初のアクションがこの大都市圏での対バンツアーであり、各地のゲストには銀杏BOYZより一回りほど下の世代のアーティスト達が出演。かなり音楽的には幅の広い(というか意外な)面々である。
またこの新木場STUDIO COASTは、自分が4人時代の銀杏BOYZを最後に見た場所であり、メンバーが全員脱退して峯田和伸1人になってから最初にライブを見た場所でもある。
・never young beach
この日のゲストはnever young beach。サウンドもスタイルも全く銀杏BOYZと一緒にやるとは思えない、Suchmosらとともに新しいインディーシーンを作っているバンドである。
バンド名からも察せられるように、「夏」が大きなテーマとなっているバンドだが、それだけにメンバー5人が登場して、音を奏で始めた段階で空気はガラッと変わる。ギラギラとしたテンションの上がるような夏ではなく、ダラダラと過ごしたくなるような夏の空気をサウンドにし、実にビールを飲みながら太陽と青空の下で聴きたくなる。安部の渋いボーカルもそのサウンドに実によく合っている。
「銀杏BOYZ好きな人は俺たちのこと好きじゃないだろうなって…(笑)」
と自虐していたが、予想していたほどのアウェー感はなく、手拍子なども発生してむしろウェルカムな雰囲気に安部は安堵し、
「もっと仲良くなりましょう!」
と、後半はロックモードに転じて行くのだが、安部はギターの音が出なくなって演奏を止めてやり直すというハプニングも。
しかしながらメンバーはそれぞれ銀杏BOYZとGOING STEADYをずっと聴いていたということを明かし(リズム隊は「好きな曲は?」という問いに「若者たちか、夢で逢えたら」「ナイトライダー」と即答)、この対バンが全く違う音楽性と意思をもった組み合わせではないことを示しながらも、
「もう楽屋に峯田さんがいるっていう状態が信じられない(笑)
世代的にみんな聴いてたよね。だって、みなさんも聴いてたでしょ?…って、そりゃそうか、銀杏BOYZのライブに来てるんだからみんな聴いてますよね(笑)」
と天然ぶりを炸裂させ、新曲も披露しながら、銀杏BOYZのファンの前で自分たちの音楽を自分たちのやり方で鳴らしてみせた。メンバーがステージから去る時には客席からは大きな拍手が起こっていた。
・銀杏BOYZ
そして銀杏BOYZ。ライブ自体は1月のGOING UNDER GROUNDとの2マン以来。その時も弾き語りで新曲をやっていたが、その新曲もリリースが発表されているだけに、それまでとは少し違った内容のライブになるはず。
会場が暗転してステージ背面を丸ごと使った巨大スクリーンに峯田和伸がステージに向かう姿が映し出されると、峯田がステージに現れ、エレキギターを手にする。
そのまま歌い始めたのは「人間」。今までのアコギではなく、エレキでの弾き語り。スクリーンには歌っている峯田の顔がアップで映し出される中、峯田がマイクから少し離れると、峯田の声の代わりに観客の大合唱が響く。やはり、こうして銀杏BOYZのライブに来る人たちにとっては、他のどの曲よりも銀杏BOYZの曲が「自分の歌」になっている。それが2000人以上集まることによって「自分たちの歌」になる。
ワンコーラス終わるあたりでメンバーが登場するのだが、ステージ上のセッティングを見るだけでも今までと違うのは予想していたが、ギターがおなじみの山本幹宗に、現在は古舘佑太郎(ex.The SALOVERS)のバンドに参加している加藤綾太が加わり、ドラムが後藤大樹から岡山健二に変わっているという、andymoriの変遷を見ているかのような交代劇。ベースは藤原寛のままなので、リズム隊は後期andymoriである。
峯田がそのメンバーたちを紹介してから、山本と加藤が思いっきり歪ませたギターをかき鳴らすと、ギターを持ったまま峯田が客席に突入し、「若者たち」が始まるのだが、峯田は全くステージに戻れず、峯田が飛び込んだあたりの客席では将棋倒しが起こり、スタッフ(キュウソネコカミや水曜日のカンパネラのライブでおなじみのAT FIELDのP青木氏)が袖から出てきて演奏を中止させ、峯田を客席から引き上げる。
「俺が言うのもなんですけど、怪我しないでくださいね?」
とステージに戻った峯田は言っていたが、昔、4人時代の銀杏BOYZはメンバーが骨折することも日常茶飯事で、今のようなマナーが叫ばれて、様々な決まりごとが増えていくようなライブとは真逆のようなライブをやっていた。
その中にいて、紛れもなく「若者たち」の年齢だったかつての我々は、今だったら「害悪」と言われるような存在だっただろうか。決して銀杏BOYZのファンは大人数で連んだりするようなことはなかったイメージがあるが。
仕切り直しとばかりに峯田がメンバーを再び紹介してからからの「若者たち」では峯田はもう客席に飛び込まないが、代わりに観客が次々とダイブしていく。前方はもうぐっちゃぐちゃの状態であるが、やはりライブを再開してからは、後ろの方ではおとなしく見ているかような人も増えた。それはかつての若者たちが、なんとなく大人になったということだろうか。
そして両サイドのギターのノイズから立ち上がってきたメロディは、まさかの「駆け抜けて性春」。こうしてライブで聴くのはどれくらいぶりだろうか。暴れまくりながら叫ぶように峯田は歌うが、銀杏BOYZバージョンとして、YUKIがコーラスをしていた部分ではマイクを客席に向けて大合唱させる。
峯田がマイクスタンドをドラムセットに寄せると、客席に背を向けるようにしてギターをかき鳴らし、GOING STEADY時代の「DON'T TRUST OVER THIRTY」のノイズパンクアレンジと言える「大人全滅」へ。峯田はすぐさまギターを下ろしてハンドマイク状態で歌うのだが、やはりギターが増えたことにより、音が豊かになっている。一方がノイズを出しながら一方がメロディを弾いたり。それによって峯田も歌に集中できるようになっている。(とは言っても歌い方は変わっていないけど)
アコギに持ち替えて
「ネットとかでもライブが見れる時代にこうしてチケットを買ってみんなが新木場まで来てライブを見に来てくれる。ライブをやるのは4ヶ月ぶりだけど、こうして歌っていると、生きてて良かったって思うわけです」
と歌詞のフレーズを引用したのは「べろちゅー」。ここからはそれまでのノイズでパンクでダイブが起きまくるのではなく、しっかりとメロディを構築して聴かせる曲が続く。
「東京タワー」のフレーズを「新木場」に変えた、峯田主演ドラマのテーマ曲だった「骨」はメンバーが増えたことでさらに豊かなポップさを獲得し、
「4ヶ月、レコーディングもしてたんだけど、こうやってみんなの前で歌いたかった。この曲を歌いたかったんだ!」
と言って「夢で逢えたら」。この曲あたりではおなじみの藤原だけでなく、加藤に加えて岡山までもがコーラスをするようになり、サウンドだけでなく声までもがさらに分厚くなっているが、続くGOING UNDER GROUNDがトリビュートアルバムでカバーし、1月の対バン時に松本素生が
「これ良い曲なんだからもっとライブでやった方がいいよ!」
と言った「ナイトライダー」もこの編成で聴くとかなり新鮮に聞こえる。
レコーディングが順調に進んでおり、これから予定通りに7月から3ヶ月連続でシングルが出せそうということを話すと(今までの制作ペースからしたら信じられないことだが)、すでに1月のライブで原型を弾き語りで披露していた、7月にリリースされる新曲「エンジェルベイビー」をバンドアレンジで演奏。ロックに初めて触れた時の衝撃という歌詞のテーマは変わってはいないが、他の曲のアレンジと比べると予想以上にストレートなパンクロックになっており、ある意味ではノイズにまみれていたサウンドから原点に回帰したとも言える。しかしこれにはその後のMCで言った、
「本当は代官山とか恵比寿で流れてるような音楽をやりたいんだけど(笑)、それは自分がやらなくちゃいけないことではないと思っている」
という内容の通りに、使命感に駆られてこうしたアレンジにしているという理由もありそうだ。それはある意味ファンの望むものを作っているということでもあるのだが、the telephonesの石毛輝も「自分がやりたいことと求められていることの違い」に悩まされていただけに、表現者として健全な精神状態を保てるのか、という不安も感じる。峯田には役者という違う形でのアウトプットもあるとはいえ。
そして峯田は先日イギリスで起きた、アリアナ・グランデのコンサートでのテロについて話し始める。
「俺はサッカーも音楽も大好きだから、そういう場所がテロの標的になってしまうのが本当に辛い。亡くなった中には小学生くらいの女の子もいて…。本当なら、アリアナちゃん凄かった、楽しかったね~って言いながら帰れるところだったのに…」
と、あのニュースでかなり参ってしまっていたことを明かし、全員で被害者に黙祷を捧げる。これはかつての銀杏BOYZのライブからは自分は考えられなかった光景だと思った。悪い意味で捉えられるかもしれないが、かつての銀杏BOYZのライブではそこまで顔も名前も知らない人のことを思いやるようなことはしなかった。ただひたすらにかつての峯田少年のようなやつに向かって叫んでいるような。そこには震災と、震災の後でボランティアとして被災地を訪れた経験も多分に影響しているはず。かつては己と対峙していた銀杏BOYZは、今は本当の意味でもっと大きな、社会や世界と対峙している。(その変化には賛否両論あるだろうけど)
そして「ワン、ツー、スリー、フォー!」のカウントの後に演奏されたのは、まさかの「援助交際」。しかし、アレンジは当時のパンクなものとは打って変わり、踊れるポップなサウンド、というかこれはトリビュートアルバムでカバーした、クリープハイプのバージョンに非常に近い。(その後にリリースされたクリープハイプの「イト」にも)
原曲バージョンが聴きたかった人もたくさんいるだろうが、サビのメロディの変化も含め、「銀河鉄道の夜」のようにこの曲もこれからさらにアップデートされながら演奏されていくのかもしれない。
そして去年まではライブでやっていなかった3曲、「駆け抜けて性春」、「ナイトライダー」、「援助交際」。これはみんなトリビュートアルバムでカバーされた曲である。GOING UNDER GROUNDの松本も直接言ったし、クリープハイプの尾崎世界観との対談で峯田は
「クリープハイプがカバーしてくれたことで、「援助交際」って良い曲なんだな、って自分で気付いた。ライブでやりたくなりました」
と言っていた。本人は直接参加していないが、あのトリビュートアルバムは峯田に大きな影響を与えているし、それがこうしてライブという場で還元されている。我々からしたら大切な名盤が1枚増え、それによってライブで大好きな曲がまた聴けるようになる。ある意味ではトリビュートアルバムはノイズサウンドを確立させた「BEACH」と同じか、それ以上に意義の大きなものだったのではないかと思う。
そして峯田が弾き語りのように歌い始めると、その歌に合わせて大合唱が発生し、
「もう今日はこのままでいいんじゃない?(笑)」
と藤原に言うほどの一体感を見せた「BABY BABY」は去年までの合唱パートはなくなって原曲通りの尺に戻ったとはいえ、今の銀杏BOYZのライブで最も大事な曲になっていることは間違いない。月9ドラマで使われたという要素もあるが、GOING STEADY時代は、確かに名曲ではあったが、数ある名曲であり代表曲の中の1曲という感じの位置付けだった。それがこんなに大きな曲になったのは、1人になってからこの曲を歌うときに観客が大合唱するようになったから。奇しくもアリアナ・グランデのコンサートのテロ後にイギリス国民を勇気付けたOasis「Don't Look Back In Anger」のように、この曲は我々銀杏BOYZのファンに「今日まで生きていて本当に良かった」と思わせてくれる。
「新訳・銀河鉄道の夜」ではステージ上の電球が夜空にきらめく星たちのように輝くという楽曲に合わせたロマンチックな演出がなされ、峯田の弾き語りからバンドサウンドになだれ込んでいく「光」がやはり今回もクライマックスを担う。
ノイズギターにまみれながらその上を泳いでいく峯田の歌。それを支えるのは堅実という言葉が似合う藤原のベースと、曲に合わせて力強くかつ柔軟な岡山のドラム。特に岡山はこうしてライブで叩くのが初めてとは思えないくらいにこの曲に憑依しており、演奏が終わった時には峯田から「よくやった!」とばかりにガッチリと握手を求められた。andymoriに参加したての頃は前任者の後藤があまりにも凄すぎたために物足りなさを感じてしまったこともあったが、今となってはそんな思いは微塵も感じさせないくらいのドラマーになっている。
そして峯田が再びメンバーを紹介してから最後に演奏されたのは「僕たちは世界を変えることはできない」。「光」を演奏し切ったメンバーはどこか映画のエンドロールを奏でるかのような穏やかな表情でこの曲を演奏してみせた。
アンコールではメンバーとともに峯田がタバコと灰皿を持参して登場。これからレコーディングもあるが、毎月ライブがあること、そして10月に武道館に立つことに触れるが、
「武道館はThe Beatlesが初めて音楽のライブとして使って…」
とうんちくを語る様は連続テレビ小説で演じているロック好きのおっさんの役そのもののよう。というか、あの役が峯田和伸そのもののようなのかもしれないが。
そしてとびっきりポップな「ぽあだむ」を夕日のような照明の下で鳴らすと、岡山と山本が去り、峯田と藤原と加藤の3MCによる「愛してるってゆってよね」。加藤も完全にノリノリで、銀杏BOYZのメンバーとしてこのステージに立てているという喜びを感じさせた。そしてそれはそのままこの編成での可能性を感じさせるものでもあった。
形態としてはバンドだが、かつてのようにメンバー全員で好き放題やって暴れまくるのではなく、そんな峯田を音楽的に支えるという、実に音楽的な(メンバーの技量を考えたら当然なのだが)ユニットに銀杏BOYZはなってきている。しかしただのサポートメンバーではなく、全員が「銀杏BOYZとして曲を演奏すること」の楽しさと喜びも確かに感じさせてくれる。ツアー初日にしてこの完成度なだけに、本数を重ねたら音楽的な部分はそのままに、もっとバンド感は増すはず。4人時代とはもうベクトルがかなり違っているが、それでもこうして昔の曲をやりながら前に進んでいるという峯田の姿は、他のどのライブよりも生きていく力をくれる。
そしてそれを来月のクリープハイプとの対バン、7月のPOLYSICSとの対バン、8月のフェス参戦から10月の武道館ワンマンまで、ほぼ1ヶ月に1回のペースで感じさせてくれる。こんな幸せなことがあるだろうか。少なくとも自分には他にない。自分は峯田和伸という男の音楽に出会って、今こうした生き方をしているんだから。
1.人間
2.若者たち
3.駆け抜けて性春
4.大人全滅
5.べろちゅー
6.骨
7.夢で逢えたら
8.ナイトライダー
9.エンジェルベイビー
10.援助交際
11.BABY BABY
12.新訳・銀河鉄道の夜
13.光
14.僕たちは世界を変えることができない
encore
15.ぽあだむ
16.愛してるってゆってよね
援助交際
https://youtu.be/Y2MGtwB-oFc
Next→ 6/3 amazarashi @豊洲PIT
またこの新木場STUDIO COASTは、自分が4人時代の銀杏BOYZを最後に見た場所であり、メンバーが全員脱退して峯田和伸1人になってから最初にライブを見た場所でもある。
・never young beach
この日のゲストはnever young beach。サウンドもスタイルも全く銀杏BOYZと一緒にやるとは思えない、Suchmosらとともに新しいインディーシーンを作っているバンドである。
バンド名からも察せられるように、「夏」が大きなテーマとなっているバンドだが、それだけにメンバー5人が登場して、音を奏で始めた段階で空気はガラッと変わる。ギラギラとしたテンションの上がるような夏ではなく、ダラダラと過ごしたくなるような夏の空気をサウンドにし、実にビールを飲みながら太陽と青空の下で聴きたくなる。安部の渋いボーカルもそのサウンドに実によく合っている。
「銀杏BOYZ好きな人は俺たちのこと好きじゃないだろうなって…(笑)」
と自虐していたが、予想していたほどのアウェー感はなく、手拍子なども発生してむしろウェルカムな雰囲気に安部は安堵し、
「もっと仲良くなりましょう!」
と、後半はロックモードに転じて行くのだが、安部はギターの音が出なくなって演奏を止めてやり直すというハプニングも。
しかしながらメンバーはそれぞれ銀杏BOYZとGOING STEADYをずっと聴いていたということを明かし(リズム隊は「好きな曲は?」という問いに「若者たちか、夢で逢えたら」「ナイトライダー」と即答)、この対バンが全く違う音楽性と意思をもった組み合わせではないことを示しながらも、
「もう楽屋に峯田さんがいるっていう状態が信じられない(笑)
世代的にみんな聴いてたよね。だって、みなさんも聴いてたでしょ?…って、そりゃそうか、銀杏BOYZのライブに来てるんだからみんな聴いてますよね(笑)」
と天然ぶりを炸裂させ、新曲も披露しながら、銀杏BOYZのファンの前で自分たちの音楽を自分たちのやり方で鳴らしてみせた。メンバーがステージから去る時には客席からは大きな拍手が起こっていた。
・銀杏BOYZ
そして銀杏BOYZ。ライブ自体は1月のGOING UNDER GROUNDとの2マン以来。その時も弾き語りで新曲をやっていたが、その新曲もリリースが発表されているだけに、それまでとは少し違った内容のライブになるはず。
会場が暗転してステージ背面を丸ごと使った巨大スクリーンに峯田和伸がステージに向かう姿が映し出されると、峯田がステージに現れ、エレキギターを手にする。
そのまま歌い始めたのは「人間」。今までのアコギではなく、エレキでの弾き語り。スクリーンには歌っている峯田の顔がアップで映し出される中、峯田がマイクから少し離れると、峯田の声の代わりに観客の大合唱が響く。やはり、こうして銀杏BOYZのライブに来る人たちにとっては、他のどの曲よりも銀杏BOYZの曲が「自分の歌」になっている。それが2000人以上集まることによって「自分たちの歌」になる。
ワンコーラス終わるあたりでメンバーが登場するのだが、ステージ上のセッティングを見るだけでも今までと違うのは予想していたが、ギターがおなじみの山本幹宗に、現在は古舘佑太郎(ex.The SALOVERS)のバンドに参加している加藤綾太が加わり、ドラムが後藤大樹から岡山健二に変わっているという、andymoriの変遷を見ているかのような交代劇。ベースは藤原寛のままなので、リズム隊は後期andymoriである。
峯田がそのメンバーたちを紹介してから、山本と加藤が思いっきり歪ませたギターをかき鳴らすと、ギターを持ったまま峯田が客席に突入し、「若者たち」が始まるのだが、峯田は全くステージに戻れず、峯田が飛び込んだあたりの客席では将棋倒しが起こり、スタッフ(キュウソネコカミや水曜日のカンパネラのライブでおなじみのAT FIELDのP青木氏)が袖から出てきて演奏を中止させ、峯田を客席から引き上げる。
「俺が言うのもなんですけど、怪我しないでくださいね?」
とステージに戻った峯田は言っていたが、昔、4人時代の銀杏BOYZはメンバーが骨折することも日常茶飯事で、今のようなマナーが叫ばれて、様々な決まりごとが増えていくようなライブとは真逆のようなライブをやっていた。
その中にいて、紛れもなく「若者たち」の年齢だったかつての我々は、今だったら「害悪」と言われるような存在だっただろうか。決して銀杏BOYZのファンは大人数で連んだりするようなことはなかったイメージがあるが。
仕切り直しとばかりに峯田がメンバーを再び紹介してからからの「若者たち」では峯田はもう客席に飛び込まないが、代わりに観客が次々とダイブしていく。前方はもうぐっちゃぐちゃの状態であるが、やはりライブを再開してからは、後ろの方ではおとなしく見ているかような人も増えた。それはかつての若者たちが、なんとなく大人になったということだろうか。
そして両サイドのギターのノイズから立ち上がってきたメロディは、まさかの「駆け抜けて性春」。こうしてライブで聴くのはどれくらいぶりだろうか。暴れまくりながら叫ぶように峯田は歌うが、銀杏BOYZバージョンとして、YUKIがコーラスをしていた部分ではマイクを客席に向けて大合唱させる。
峯田がマイクスタンドをドラムセットに寄せると、客席に背を向けるようにしてギターをかき鳴らし、GOING STEADY時代の「DON'T TRUST OVER THIRTY」のノイズパンクアレンジと言える「大人全滅」へ。峯田はすぐさまギターを下ろしてハンドマイク状態で歌うのだが、やはりギターが増えたことにより、音が豊かになっている。一方がノイズを出しながら一方がメロディを弾いたり。それによって峯田も歌に集中できるようになっている。(とは言っても歌い方は変わっていないけど)
アコギに持ち替えて
「ネットとかでもライブが見れる時代にこうしてチケットを買ってみんなが新木場まで来てライブを見に来てくれる。ライブをやるのは4ヶ月ぶりだけど、こうして歌っていると、生きてて良かったって思うわけです」
と歌詞のフレーズを引用したのは「べろちゅー」。ここからはそれまでのノイズでパンクでダイブが起きまくるのではなく、しっかりとメロディを構築して聴かせる曲が続く。
「東京タワー」のフレーズを「新木場」に変えた、峯田主演ドラマのテーマ曲だった「骨」はメンバーが増えたことでさらに豊かなポップさを獲得し、
「4ヶ月、レコーディングもしてたんだけど、こうやってみんなの前で歌いたかった。この曲を歌いたかったんだ!」
と言って「夢で逢えたら」。この曲あたりではおなじみの藤原だけでなく、加藤に加えて岡山までもがコーラスをするようになり、サウンドだけでなく声までもがさらに分厚くなっているが、続くGOING UNDER GROUNDがトリビュートアルバムでカバーし、1月の対バン時に松本素生が
「これ良い曲なんだからもっとライブでやった方がいいよ!」
と言った「ナイトライダー」もこの編成で聴くとかなり新鮮に聞こえる。
レコーディングが順調に進んでおり、これから予定通りに7月から3ヶ月連続でシングルが出せそうということを話すと(今までの制作ペースからしたら信じられないことだが)、すでに1月のライブで原型を弾き語りで披露していた、7月にリリースされる新曲「エンジェルベイビー」をバンドアレンジで演奏。ロックに初めて触れた時の衝撃という歌詞のテーマは変わってはいないが、他の曲のアレンジと比べると予想以上にストレートなパンクロックになっており、ある意味ではノイズにまみれていたサウンドから原点に回帰したとも言える。しかしこれにはその後のMCで言った、
「本当は代官山とか恵比寿で流れてるような音楽をやりたいんだけど(笑)、それは自分がやらなくちゃいけないことではないと思っている」
という内容の通りに、使命感に駆られてこうしたアレンジにしているという理由もありそうだ。それはある意味ファンの望むものを作っているということでもあるのだが、the telephonesの石毛輝も「自分がやりたいことと求められていることの違い」に悩まされていただけに、表現者として健全な精神状態を保てるのか、という不安も感じる。峯田には役者という違う形でのアウトプットもあるとはいえ。
そして峯田は先日イギリスで起きた、アリアナ・グランデのコンサートでのテロについて話し始める。
「俺はサッカーも音楽も大好きだから、そういう場所がテロの標的になってしまうのが本当に辛い。亡くなった中には小学生くらいの女の子もいて…。本当なら、アリアナちゃん凄かった、楽しかったね~って言いながら帰れるところだったのに…」
と、あのニュースでかなり参ってしまっていたことを明かし、全員で被害者に黙祷を捧げる。これはかつての銀杏BOYZのライブからは自分は考えられなかった光景だと思った。悪い意味で捉えられるかもしれないが、かつての銀杏BOYZのライブではそこまで顔も名前も知らない人のことを思いやるようなことはしなかった。ただひたすらにかつての峯田少年のようなやつに向かって叫んでいるような。そこには震災と、震災の後でボランティアとして被災地を訪れた経験も多分に影響しているはず。かつては己と対峙していた銀杏BOYZは、今は本当の意味でもっと大きな、社会や世界と対峙している。(その変化には賛否両論あるだろうけど)
そして「ワン、ツー、スリー、フォー!」のカウントの後に演奏されたのは、まさかの「援助交際」。しかし、アレンジは当時のパンクなものとは打って変わり、踊れるポップなサウンド、というかこれはトリビュートアルバムでカバーした、クリープハイプのバージョンに非常に近い。(その後にリリースされたクリープハイプの「イト」にも)
原曲バージョンが聴きたかった人もたくさんいるだろうが、サビのメロディの変化も含め、「銀河鉄道の夜」のようにこの曲もこれからさらにアップデートされながら演奏されていくのかもしれない。
そして去年まではライブでやっていなかった3曲、「駆け抜けて性春」、「ナイトライダー」、「援助交際」。これはみんなトリビュートアルバムでカバーされた曲である。GOING UNDER GROUNDの松本も直接言ったし、クリープハイプの尾崎世界観との対談で峯田は
「クリープハイプがカバーしてくれたことで、「援助交際」って良い曲なんだな、って自分で気付いた。ライブでやりたくなりました」
と言っていた。本人は直接参加していないが、あのトリビュートアルバムは峯田に大きな影響を与えているし、それがこうしてライブという場で還元されている。我々からしたら大切な名盤が1枚増え、それによってライブで大好きな曲がまた聴けるようになる。ある意味ではトリビュートアルバムはノイズサウンドを確立させた「BEACH」と同じか、それ以上に意義の大きなものだったのではないかと思う。
そして峯田が弾き語りのように歌い始めると、その歌に合わせて大合唱が発生し、
「もう今日はこのままでいいんじゃない?(笑)」
と藤原に言うほどの一体感を見せた「BABY BABY」は去年までの合唱パートはなくなって原曲通りの尺に戻ったとはいえ、今の銀杏BOYZのライブで最も大事な曲になっていることは間違いない。月9ドラマで使われたという要素もあるが、GOING STEADY時代は、確かに名曲ではあったが、数ある名曲であり代表曲の中の1曲という感じの位置付けだった。それがこんなに大きな曲になったのは、1人になってからこの曲を歌うときに観客が大合唱するようになったから。奇しくもアリアナ・グランデのコンサートのテロ後にイギリス国民を勇気付けたOasis「Don't Look Back In Anger」のように、この曲は我々銀杏BOYZのファンに「今日まで生きていて本当に良かった」と思わせてくれる。
「新訳・銀河鉄道の夜」ではステージ上の電球が夜空にきらめく星たちのように輝くという楽曲に合わせたロマンチックな演出がなされ、峯田の弾き語りからバンドサウンドになだれ込んでいく「光」がやはり今回もクライマックスを担う。
ノイズギターにまみれながらその上を泳いでいく峯田の歌。それを支えるのは堅実という言葉が似合う藤原のベースと、曲に合わせて力強くかつ柔軟な岡山のドラム。特に岡山はこうしてライブで叩くのが初めてとは思えないくらいにこの曲に憑依しており、演奏が終わった時には峯田から「よくやった!」とばかりにガッチリと握手を求められた。andymoriに参加したての頃は前任者の後藤があまりにも凄すぎたために物足りなさを感じてしまったこともあったが、今となってはそんな思いは微塵も感じさせないくらいのドラマーになっている。
そして峯田が再びメンバーを紹介してから最後に演奏されたのは「僕たちは世界を変えることはできない」。「光」を演奏し切ったメンバーはどこか映画のエンドロールを奏でるかのような穏やかな表情でこの曲を演奏してみせた。
アンコールではメンバーとともに峯田がタバコと灰皿を持参して登場。これからレコーディングもあるが、毎月ライブがあること、そして10月に武道館に立つことに触れるが、
「武道館はThe Beatlesが初めて音楽のライブとして使って…」
とうんちくを語る様は連続テレビ小説で演じているロック好きのおっさんの役そのもののよう。というか、あの役が峯田和伸そのもののようなのかもしれないが。
そしてとびっきりポップな「ぽあだむ」を夕日のような照明の下で鳴らすと、岡山と山本が去り、峯田と藤原と加藤の3MCによる「愛してるってゆってよね」。加藤も完全にノリノリで、銀杏BOYZのメンバーとしてこのステージに立てているという喜びを感じさせた。そしてそれはそのままこの編成での可能性を感じさせるものでもあった。
形態としてはバンドだが、かつてのようにメンバー全員で好き放題やって暴れまくるのではなく、そんな峯田を音楽的に支えるという、実に音楽的な(メンバーの技量を考えたら当然なのだが)ユニットに銀杏BOYZはなってきている。しかしただのサポートメンバーではなく、全員が「銀杏BOYZとして曲を演奏すること」の楽しさと喜びも確かに感じさせてくれる。ツアー初日にしてこの完成度なだけに、本数を重ねたら音楽的な部分はそのままに、もっとバンド感は増すはず。4人時代とはもうベクトルがかなり違っているが、それでもこうして昔の曲をやりながら前に進んでいるという峯田の姿は、他のどのライブよりも生きていく力をくれる。
そしてそれを来月のクリープハイプとの対バン、7月のPOLYSICSとの対バン、8月のフェス参戦から10月の武道館ワンマンまで、ほぼ1ヶ月に1回のペースで感じさせてくれる。こんな幸せなことがあるだろうか。少なくとも自分には他にない。自分は峯田和伸という男の音楽に出会って、今こうした生き方をしているんだから。
1.人間
2.若者たち
3.駆け抜けて性春
4.大人全滅
5.べろちゅー
6.骨
7.夢で逢えたら
8.ナイトライダー
9.エンジェルベイビー
10.援助交際
11.BABY BABY
12.新訳・銀河鉄道の夜
13.光
14.僕たちは世界を変えることができない
encore
15.ぽあだむ
16.愛してるってゆってよね
援助交際
https://youtu.be/Y2MGtwB-oFc
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