今年も例年通りに長いツアーを敢行中のNICO Touches the Walls。今回の某アニメ映画を明らかにもじったと思われるツアーの東京公演はNHKホールでの2daysで、この日が2日目。通常とは異なるのは、この東京がファイナルではなくツアー中盤であるということ。
ステージ背面には大きな絵が描かれており、17時になってBGMの音量が徐々に大きくなると場内が暗転し、その絵の上にレーザーが様々な模様を描くと、メンバーが登場。しかしいつもと違うのは現れたのが4人ではなく5人であり、その増えた1人がステージに配置されたキーボードの前に立つ。その1人が今回のツアーでサポートを務める浅野君こと、浅野尚志。NICOのこれまでの曲のアレンジを手がけてきた男でもあるが、この男がどれだけすごい男かというのがこれから2時間に渡って明らかになっていく。
その浅野君を含めた5人編成で最初に演奏されたのは、まさかのいきなりの新曲。かなり演奏の重心が低めの曲で、初期のNICOのダークな雰囲気すら感じさせるが、
「君は永遠に僕のもの」
と近年ではトップクラスに髪が伸びた光村がパワフルかつ伸びのあるボーカルで歌いあげるフレーズがあるあたり、演奏の重さとは裏腹に実はラブソングなのかもしれないが、それは実際に歌詞を見ないとわからない。
浅野氏がキーボードで音色を加えながらも、元々はアッパーなギターロックな「チェインリアクション」もかなりリズムが重めのアレンジが施されており、「そのTAXI,160km/h」では浅野氏がドラムパッドを叩き、最後にはキーボードからギターにスイッチするというマルチプレイヤーぶりを早くも見せつける。逆に光村と古村はメロディ部分ではギターをほとんど弾かないという、リズムを中心として隙間を作る引き算的なアレンジにより、対馬と坂倉のリズムの強さが際立つ。
と思えば「バイシクル」は大胆なアレンジはなくストレートに楽曲の爽やかさを感じさせ、キーボードによってメロディが強調される中で観客の手拍子が響く「手をたたけ」はこの序盤に演奏される。
光村の挨拶から浅野氏の紹介をし、光村のボーカルのパワーを感じさせる「Diver」、キーボードと揺らぐようなステージ背面の映像が幻想的な雰囲気をさらに強くする「夢1号」とシングル曲が続くが、曲製作時にアレンジとして関わった浅野氏の手腕により、「夢1号」は曲の真価を発揮したと言えるだろう。
なかなかレアかつ渋い選曲の「GUERNICA」では浅野氏がなんとヴァイオリンを演奏するのだが、古村のギターソロなども盛り込まれ、曲の中で強弱をつけたアレンジ、もうやりたい放題やってますという感じしかしない(もはや観客置いてきぼり感すら少しする)間奏での長尺ジャムセッションと、10分超えているかもしれないくらいの超大曲に変貌。この、一瞬でも気をぬくと「今なんの曲を聴いてるんだろう」と思ってしまうくらいの演奏を見ているのが主に若い女性であるという構図が実にシュールだが、曲が終わると大きな拍手が湧き上がるあたりは、さすがにこのバンドのワンマンに来る人たちであり、ワンマンでしか絶対に見れないこの演奏を本当に楽しんでいる。1番楽しんでいるのはメンバーだろうけど(笑)
そんなアレンジしまくりの「GUERNICA」から一転し、かつてアルバム「オーロラ」発売前後の時期には毎回のようにライブでやってたいたが、今ではすっかりレア曲になった「Aurora (Prelude)」では、まさにオーロラそのもののようなレーザーが光村を囲む中、浅野氏のピアノのみというシンプルな形で光村の歌唱力の高さを堪能させてくれる。
ワンマンでのNICOは曲と曲を繋げて演奏するというライブならではのアレンジをよく行うが、この日もそのアレンジを最も担っていた対馬が一定のリズムをキープし続けるという、地味だが曲の構造そのものがガラッと変わるアレンジが施された「TOKYO Dreamer」はステージ背面の映像も含め、たくさんの人が行き交う東京で聴くのが最も似合う。願わくば東京でオリンピックが開催される時にライブで聴きたいものだが。
アコギに持ち替えた光村が、
「チャック・ベリーが亡くなりました。ロックンロールの巨星というか、ロックンロールそのもののような人で。90歳、大往生ですよ」
とチャック・ベリーについて話し始めるが、客席にはチャック・ベリーを知らない人が多かったようで、光村も「あれ?(笑)」と言ってしまうくらいの温度差に。それでも
「BACK TO THE FUTUREは知ってるでしょ?あれの1で主人公がチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」っていう曲を弾くんだけど…」
と説明するも、やはりあまり伝わらず、結局古村が「ジョニー・B・グッド」のイントロを弾くという展開に。これはこれで嬉しいものが見れたが、古村が
「チャック・ベリーの曲は全部このリフでできている(笑)」
と身もふたもないことを言ってしまいながらも、
「そのチャック・ベリーに捧げます」
と言って軽快な「ブギウギルティ」を演奏。ちなみにこのパートは前日は「April」だったようで、そっちも聴きたかった次第。
「GUERNICA」で浅野氏がヴァイオリンを演奏してる時に、ヴァイオリンが似合うだろうなぁと思っていた「天地ガエシ」はやはりヴァイオリンを加えてのアレンジだが、続く「MOROHA IROHA」も、序盤はBPMを落としてリズムを強化したアレンジだったのから一転して後半は楽しさに特化したアレンジが続き(曲自体がそういう曲だからというのもあるが)、ホールでありながらも場内にはライブハウスと変わらぬ熱気が満ちていく。
ストレートな「Broken Youth」と「渦と渦」は疾走感がさらに増しているのはメンバーの演奏そのものの進化によるもの。こうした曲を後半に固めてくるセトリの組み方は実に納得できるし、お見事である。
そして最後に演奏されたのは、冒頭同様にまさかの新曲。
「森羅万象 クソ喰らえ」
などの、かなり過激な歌詞が並ぶロックチューンだが、すでに各地で披露されているだけに観客のノリはもはや新曲のそれではなく、まだタイトルも知らない曲がライブのキラーチューンと化している。間奏では光村が指を立てると、その指の本数に応じてキメに合わせたハンドクラップが起こるという、バンドのアレンジに観客全員が参加しているかのような演出。また、古村、坂倉、対馬の3人がコーラスをする割合が多く(それは序盤のあらゆる曲からそうであったが)、これは紛れもなく「勇気も愛もないなんて」を経て獲得した力である。
アンコールではメンバーがツアーTシャツに着替えて登場し、古村はステージの端にスタンドに置いたスマホを設置し、「THE BUNGY」へ。フェスなどでは表拍で手拍子が起きてしまい、煽るメンバーとズレてしまうことも多いのだが、観客全員が裏拍で手拍子しているのはさすがNICOファンしかいないワンマンならではである。
盛り上がりはもちろんだが、間奏では浅野が前に出てきて、ヴァイオリンを手にして古村のギターとバトル。古村も本当に楽しそうだが、浅野のプレイへのリアクションから、ここは決まりごとはなく、その場でやり合っていると思われる。最後には「THE BUNGY」のイントロをヴァイオリンで弾いて大歓声が起こり、浅野がキーボードの位置に戻ると古村が凄まじいギターソロを炸裂させる。
すると曲終わりで光村からお知らせが。少しドキッとしたが、内容はツアーの追加公演が光村の地元である浦安の文化会館で行われるという嬉しいもので、
「あのステージに立つのは中学生の合唱コンクール以来」
「実家から徒歩2分の会場なので、楽屋は僕の楽屋(笑)」
という実にアットホームな空気が期待できるライブになりそう。
そして光村がアコギを手にして「ストラト」をストレートに演奏すると、
「好き勝手にやらせてもらいました。でも好きに生きるのって難しいし、好きに生きれない人もいる。そういう時は、僕らの背中を見にきてください。あとは君次第」
と曲に繋がるMCをしてから、最後に演奏されたのは最新シングル「マシ・マシ」。金テープが放たれる中、
「あとはきみしだいです あとはきみしだい」
という歌詞が聴き手の背中をスッと押すが、ラストサビ前には光村が
「あとはじぶんしだい」
という語りのようなボーカルを追加して、CDで聴くよりもさらに背中を押してくれる。これからもこの曲はライブで重要な位置を担う、NICOの他の曲とは違う大きな武器になりそうだ。
演奏が終わると、古村がスマホスタンドをドラムとキーボードの間に設置し、カメラマン不在のため、まさかのタイマー撮影。なぜか異様に微笑ましい光景だった。
5人が手をつないでお辞儀をすると、光村はステージに散らばった金テープを最前列の観客に渡し、最後には投げキスをして去っていった。これは女子からしたらたまらなかっただろう。
ライブやツアーのリハというと、バンドによっては喧々諤々となったり、張り詰めたような空気になることもあるという。しかしNICOはメンバー(と今回は浅野氏も)が「この曲、こうしたらカッコよくない?」「このアレンジ面白いな~」と言いながら笑顔で、何よりも楽しみながらライブのアレンジを作っているんだろうなぁというのがよくわかる。
その結果であるライブを見ると、これだけ多彩なアレンジができるなら、どんな曲ができたりしても驚かないだろうなぁと思うけれど、毎回ワンマンを見るたびにやっぱり驚いてしまうだけに、これからも毎回驚かされるんだろうなぁと思う。それだけにもうワンマン行くのはやめられないし、「ポップな感じのバンド」と思っている人たちもワンマン見たら絶対驚くだろうなぁと思う。
そして「好きに生きていく」という光村の言葉。アニメなどのタイアップの曲も多いバンドだけに、時にはやりたくないこともやっていかなきゃいけないんだろうかと思ったりもするが、ライブを見るとNICOは間違いなく自分たちがやりたいことしかやっていないというのがよくわかる。
生きていくためには、やりたくないような仕事もしないと食べていけない。自分も含め、社会に出ているたくさんの人はそうだと思う。しかし同世代の男たちが、これだけ自分たちの好きなように生きている姿を見ると、その姿からこれからを生きていく力と勇気をもらえる。こうしてライブに行くというのも、ある意味では好きに生きていると言えるんだよな。
1.新曲
2.チェインリアクション
3.そのTAXI,160km/h
4.バイシクル
5.手をたたけ
6.Diver
7.夢1号
8.GUERNICA
9.Aurora (Prelude)
10.TOKYO Dreamer
11.ブギウギルティ
12.天地ガエシ
13.MOROHA IROHA
14.Broken Youth
15.渦と渦
16.新曲
encore
17.THE BUNGY
18.ストラト
19.マシ・マシ
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