RADWIMPS Human Bloom Tour 2017 @横浜アリーナ 3/8
- 2017/03/09
- 01:25
2016年の下半期のロックシーンの中心にいたのはもうメジャーデビュー10年を越え、中堅の域に差し掛かったRADWIMPSであった。
もちろんそれは映画「君の名は。」の主題歌のみならず劇伴音楽全てを手がけたこと、その中の中心的な2曲である「前前前世」「スパークル」が収録されたフルアルバム「人間開花」が年末にリリースされたこと、そして年末に紅白歌合戦に初出演したことによるものであるが、近年はアリーナクラスであればほぼ確実にチケットが取れるくらいにまで落ち着いた状況になっていたバンドを、再びアリーナクラスですらチケットが全く取れないレベルのバンドにまで引き上げてしまったということがその状況をリアルに物語っている。
この日はその「人間開花」のリリースツアーの前半、横浜アリーナ2daysの2日目。2007年8月31日の初アリーナワンマン「セプテンバーまだじゃん。」以来、バンドの地元であるこの会場は特別な場所。そんな場所でワンマンを見るのはこれが通算4回目である。
アリーナはブロック分けされたスタンディング、スタンド指定席も後ろの立ち見まで含めて人で埋め尽くされた中、19時ちょうどくらいになると場内が暗転し、SEが流れる中、ステージを隠すようにツアータイトルの文字が映し出されたLEDの画面が光の粒が弾けるような映像に切り替わると、その裏からバンドが「人間開花」のオープニングを飾る「Lights go out」を演奏している音が聴こえてくる。洋次郎がピアノを弾きながら歌っている姿が微かに見えるが、ステージの全貌は見えないままで曲が終わるとLEDが上昇し、智史休養後以降はおなじみの編成である、サポートの森瑞希と刃田綴色のツインドラムを含めた5人の姿が露わになる。ギターを手にした洋次郎はバスローブのようにすら見える真っ白な衣装に、ファーのような帽子を被っている。すると「君の名は。」のサントラのオープニング曲「夢灯籠」をストレートなバンドサウンドで鳴らし、実にオープニング感の強い2曲の連発となった。
アルバムからMVが制作された、「人間開花」のタイトル通りの解放感を象徴するようなリード曲「光」が始まった瞬間、桑原と武田がステージ左右に伸びた花道に駆け出していく。その一瞬、本当に何気ない瞬間であったが、自分の中に込み上げてくるものを感じた。同世代ですでに家庭を持ち、年相応に太った(それは桑原だけだが)体になって、寂しいことも経験してすっかり大人になってしまったのを実感せざるを得ないが、その駆け出した時の無邪気な子供のような笑顔は、まだお互いに10代、学生だった頃と何も変わっていないような気がして。自分ももしかしたらその時と変わっていないのかもしれない、とすら思えてきた。客席には頭上にまでまさに光でしかないような照明が広がっていたのも実に綺麗だった。
そんな感傷的な空気を一変させたのが、武田がシンセを弾き、洋次郎がハンドマイクで歌う複雑なリズム(実に乗りにくい)の「AADAAKOODAA」。洋次郎の社会や世間に対する皮肉が歌われた、ある意味ではRADらしい曲であるが、LEDに映る演奏中のメンバーの姿もサウンドと連動するようにグニョグニョと加工される中、ステージ前の花道に立った洋次郎の体がどんどん上昇していくという、アリーナならではのギミックも序盤からふんだんに盛り込んでくるあたりはさすがに何度もアリーナでライブをやっているバンドである。
続くミクスチャー色の強い「ハイパーベンチレイション」はシングル「携帯電話」のカップリング曲で、リリース当時はロッキンなどのフェスに出演した時もよく演奏されていたが、その頃はメンバーの技量が曲に追いついておらず、なんだかつかみどころがないというか、よくわからない曲という感じだったが、現在の盤石な演奏力で鳴らされることにより、ファンクっぽいリズムの要素を持った曲だということがわかる。つまりはもうこの時点でバンドの演奏、そして洋次郎の歌は素晴らしいことがわかるということである。
サンプラーを持った洋次郎とギターを鳴らす桑原の掛け合いから始まる「アイアンバイブル」では洋次郎がマイクを向けると観客が大きなコーラスをし、その様子が3面あるうちの中央のLEDに映っている。メンバーはもちろん、観客も実に楽しそうである。曲の終わりには洋次郎が武田側の花道に移動し、そこに置かれたピアノを弾くという、近年進んでいるメンバーのマルチプレイヤーっぷりは今回のツアーでも健在。
洋次郎の挨拶的なMCでは
「俺が歌ってる間にツイッターとかやらないでね(笑)
後ろまで全部見えてるからそういうの見たら凹むから(笑)
一瞬も俺たちが歌って、演奏してる姿から目を離さないでください!」
と笑わせながら言っていたが、最初はギターを弾きながら歌う洋次郎にのみスポットライトが当たっている中、曲後半で洋次郎がピアノにスイッチするとメンバーそれぞれにスポットライトが当たり、LEDの雨の映像に合間って、そのスポットライトすらも雨が降り注いでいるように見える「アメノヒニキク」の演出などは言われなくても一瞬足りとも目が離せない。
「ロックバンドなんてもんをやっていて良かった」
というアルバムの中でも最大のキラーフレーズを洋次郎が弾き語りのように歌ってからメンバーが演奏に加わる、バンドのこれまでの歩みを歌詞にしたような「トアルハルノヒ」はメンバーで全ての音を鳴らしているロックバンドのライブだからこそそのキラーフレーズにこの上ない説得力を持たせてくれる。Aメロでバスドラを踏みながら刃田が腕を振って観客を煽る様は、メンバーよりかなり年上なこの男がすっかりバンドになくてはならない存在になっているのを物語っている。
洋次郎がドラムセットの間に置かれた巨大なピアノの前に移動し、ポロポロとピアノを弾きながら
「この横浜アリーナは何度もやってるけど、俺と桑原が17歳の時にRADで出たこの場所でやったコンテストで武田と智史に出会って。当時は反抗期だったりして。もう今年32歳になるんだけど、あの頃と何にも変わってないなって。大人になれないし。だから大人なんて存在はないのかなって。子供のままだから人を殺したり騙したりする人もいる。でもそういうことをした人をあたかも人間ではない、みたいに扱う風潮が俺は本当に嫌いで。俺だって人を憎んだことも騙したこともあるから、誰しもちょっとした弾みでそっち側にいってしまう可能性があるだけで。そんな人間になり切れない、棒人間みたいな存在なんです」
とバンドのストーリーから曲につなげてみせた「棒人間」は洋次郎の言葉を紡ぐ巧さの結晶と言えるような曲。これだけ巨大な存在になっても、こうした歌詞を書くということは、洋次郎の中にあるコンプレックスのようなものはこれからも一生消えないんだろうなと思う。
曲終わりで桑原と武田が向かい合いながら演奏するのはアルバムのインタールード的なインスト曲「Bring the morning」。演奏するのが2人から花道でピアノを弾く洋次郎に変わると、「君の名は。」のサントラの中から「三葉のテーマ」を哀愁漂わせながら演奏し、そのまま映画の中で重要な位置で流れる「スパークル」につながると、LEDには画面いっぱいに光るたくさんの星が映し出される。それはまるで、映画の主人公の滝と三葉が見た流星群のようで、劇中でこの曲が流れる場面が否が応でも脳内に浮かんでしまうくらいに、映画とRADの作った音楽は密接に重なり合っている。
するとここで突如として桑原が喋り始めるのだが、前日にスベり倒したということで、
「我々にはいろんなタイプの曲がありますが、ここからは盛り上がる曲をやるんですけど、いけますかー!」
と無難なことしか言わないようになったとのこと(笑)
その様子を見た洋次郎が
「我々にはいろんな曲があって、世の中にはいろんなバンドがいる。youtubeで見るだけでいいバンドもいると思うけど、そのバンドの新しい曲を聴きたいって思ったら、CDを買ったりライブに行ってくれ。そうしてお金を出したことが君たちの意思表示になるから。そしてそのお金と意思がバンドにさらなる名曲を作らせるから。デビューして契約1~2年で切られるバンドを見ると、こういう素晴らしい景色を見て欲しかったなって思うんだ。こういうこと言うのはもうおっさんだからなのかもしれないけど(笑)」
と言うと、客席から大きな拍手が起こった。みんなRADのライブが見たい、さらなる新曲が聴きたいから、こうしてチケットを買ってライブに来るという意思表示をしている人たちだから。
そこからは桑原の言う通りに、アッパーな曲が次々に繰り出される。その皮切りとなる「DADA」ではハンドマイク姿の洋次郎が再びステージ前の花道に立って舞いながら歌うと体が上昇し、久々の「セツナレンサ」もこのパートの中で演奏される。「ふたりごと」「有心論」という今となってはバンドの代表曲的なシングルもリリース時はオリコンTOP10にすら入らなかったが、その直後にリリースされたこの曲はオリコン4位を獲得し、その後に出たアルバム「RADWIMPS4 ~おかずのごはん~」へと続く快進撃への布石となった、という過去のストーリーもついこの間のことのようでいて、もう10年以上も前の話である。
桑原と武田も歌い出しでシンバルを連打しまくる「おしゃかしゃま」ではライブではおなじみの、洋次郎が指揮者のようになって桑原と武田、さらには森と刃田をもコントロールし、各々のソロ回しから音量を操るセッションに展開。いつ見てもこの演出は圧巻だし、ベースソロでこれだけ観客をリズムに乗せる武田の本当に力強いこと。
その武田が観客を煽りながら飛び跳ねるようにしてベースを弾く「ます。」では観客全体での
「迷わずYOU!」
の大合唱が起き、左右の花道に分かれて演奏していた桑原と武田が揃って中央の花道に歩み出して演奏する。本当に頼もしい姿だ。
「君と羊と青」でもコーラスを観客が大合唱すると、洋次郎が「もう1回?」と客席に問いかけ、アウトロをさらに2回、高速バージョンで演奏する。
「喜怒哀楽の全方位」というよりはひたすらに「楽」に突出した空気が会場には溢れている。
すると今度は武田のMC、というよりはバンドを支えてくれている森と刃田の紹介から、
「俺たちはいろんな曲を作ってきたけど、自分たちがやりたいことしかやってこなかった。だから曲を聴いて、離れてくれても全然いい。離れたままでもいいし、いつか「あ~、RADって昔聴いてたな~」って思って戻ってきてくれてもいい。
俺たちはずっとこうやって音を鳴らしてるから。また会える時に会いましょう!」
と、実に洋次郎らしい言い回しで再開の約束をした。ドライに感じるかもしれないが、こう言えるのは自分たちが作る音楽を他の何よりも信頼しているからこそ。ある意味では最も誠実な形とも言える。そして
「みんなで一緒に歌いたいんだ!」
と言って観客の声を求めるも、最初は予想よりテンションの低い声が返ってきたことにより、
「もう次もこんな感じだったら、先生不貞腐れて帰っちゃうよ!(笑)」
とよくわからないキャラクターになってさらなる大声を煽ってから、去年至る所で流れまくった「前前前世」をところどころ観客にマイクを預けて歌わせ、最後に演奏されたのはアルバムの最後を飾るバラード「告白」。これまでもRADのアルバムは「最後の歌」「バグッバイ」「37458」「針と棘」と、情報量の非常に多いアルバムをまとめ上げて包むようなバラード曲で終わっていたが、この曲も紛れもなくその流れに連なる曲。こうした曲で本編を締めるのを見れるのは、リリースツアーならでは。リリースツアーが終わったら、まず間違いなくライブでは聴けなくなるだけに。
観客が携帯のライトを点灯させながら「もしも」を合唱してアンコールを待つと、洋次郎がアリーナ席の入り口から登場し、PA卓の隣のミニステージへ。(開演前からそのあたりにグレーシートがかけられていたのでそんな予感はしていた)
そのステージに置かれたピアノの前に座り、
「子供の頃に憧れたヒーローたちを思って作った曲」
という「週刊少年ジャンプ」を弾き語りすると、ツアーTシャツに着替えた桑原と武田もミニステージに呼び込まれる。その際に登場曲的な感じで「君の名は。」の「糸守高校」をピアノで演奏するというサービス精神を見せるが、2人がミニステージに立つと、桑原がTシャツを前後反対に着ていることを観客に指摘されるという天然さを見せるも、
「絶対狙ってやってる(笑) そういう顔をしてるのがすぐわかる(笑)」
と洋次郎に見破られていた模様。
そんな仲睦まじいやり取りもありつつ、観客の手拍子が鳴り響く「いいんですか?」を演奏しながら客席の通路を通って3人がステージに戻ると、ステージにはすでにドラマー2人がスタンバイしており、途中からは通常のバンド編成に。最後のサビ前には洋次郎が
「幸せになれよ!」
と叫んだ。
ライブが終わってしまうのが惜しいのか、この日の観客のほとんどが春休み中の学生であったりして翌日が休みであることをいじったり、卒業シーズンだからそういう曲をやりたいけど、季節感のある曲がないという話をしたり(桑原「オーストラリアで曲作ればいい」洋次郎「アメリカも入学式は9月」と展開)、いつにも増して喋りまくっただけに
「喋りすぎってあとで怒られるかもしれない(笑)」
と自覚があることを語り、
「逆に1回全員黙ってみようか(笑)」
と沈黙しようとするも、洋次郎の名前を呼ぶ声は大きくなる一方で、
「全然黙らないじゃん(笑)
好きな人ができたら、それくらい大きな声で気持ちを伝えてあげてください!最後に1曲やります!」
と言って演奏されたのは「なんでもないや」。この曲の
「君のいない世界など 夏休みのない8月のよう
君のいない世界など 笑うことのないサンタのよう」
というフレーズの時の洋次郎の歌唱がすごく好きなのだが、それは誰もが知る単語の組み合わせで誰も歌ったことのない歌詞を生み出すという作家性あってこそ。そしてこの曲は「君の名は。」で三葉役を演じた、上白石萌音がカバーしたバージョンも素晴らしいのだが、それはやはり曲自体が素晴らしい名曲であるからということをライブで聴くと改めて実感させてくれる。
これで締めかと思いきや、
「やっぱりもう1曲やらせて!楽しかったから!」
と言うとメンバーが集まって会議をし、演奏された曲は大合唱を巻き起こした「有心論」で、演奏が終わると5人がそれぞれ深々と頭を下げ、ステージ前で手を取って再び深々と一礼してから、名残惜しそうにステージを去って行った。
こんなにも「楽しい」という感情が全身を支配しているRADWIMPSのライブはいつ以来だろうか。もしかしたらそれこそ10年前の「セプテンバーまだじゃん。」以来なのかもしれないが、それは「人間開花」というアルバムが過去最高に解放感に満ちたものだからというのもあるが、バンドの演奏も過去最高レベルに素晴らしかったから。そして今までで1番アリーナでやるべきライブだった。
RADWIMPSは常に今が最高、みたいなバンドではなかった。ライブが全然良くなかった「アルトコロニーの定理」の時期もあったし、震災後に出したアルバムは空気が重かったし、胎盤の時は智史がいないという喪失感が強かった。しかしそんな状況であっても、いつかまた素晴らしいライブを見せてくれるはずって思ってた。そんな紆余曲折のあった活動も含めて、ロックバンドなんてもんを聴いていて本当に良かったと思うライブだった。これまでよりさらにすごいバンドになった理由をまざまざと見せつけられたようだった。
1.Lights go out
2.夢灯籠
3.光
4.AADAAKOODAA
5.ハイパーベンチレイション
6.アイアンバイブル
7.O&O
8.アメノヒニキク
9.トアルハルノヒ
10.棒人間
11.Bring the morning
12.三葉のテーマ
13.スパークル
14.DADA
15.セツナレンサ
16.おしゃかしゃま
17.ます。
18.君と羊と青
19.前前前世
20.告白
encore
21.週刊少年ジャンプ
22.糸守高校
23.いいんですか?
24.なんでもないや
25.有心論
スパークル
https://youtu.be/a2GujJZfXpg
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もちろんそれは映画「君の名は。」の主題歌のみならず劇伴音楽全てを手がけたこと、その中の中心的な2曲である「前前前世」「スパークル」が収録されたフルアルバム「人間開花」が年末にリリースされたこと、そして年末に紅白歌合戦に初出演したことによるものであるが、近年はアリーナクラスであればほぼ確実にチケットが取れるくらいにまで落ち着いた状況になっていたバンドを、再びアリーナクラスですらチケットが全く取れないレベルのバンドにまで引き上げてしまったということがその状況をリアルに物語っている。
この日はその「人間開花」のリリースツアーの前半、横浜アリーナ2daysの2日目。2007年8月31日の初アリーナワンマン「セプテンバーまだじゃん。」以来、バンドの地元であるこの会場は特別な場所。そんな場所でワンマンを見るのはこれが通算4回目である。
アリーナはブロック分けされたスタンディング、スタンド指定席も後ろの立ち見まで含めて人で埋め尽くされた中、19時ちょうどくらいになると場内が暗転し、SEが流れる中、ステージを隠すようにツアータイトルの文字が映し出されたLEDの画面が光の粒が弾けるような映像に切り替わると、その裏からバンドが「人間開花」のオープニングを飾る「Lights go out」を演奏している音が聴こえてくる。洋次郎がピアノを弾きながら歌っている姿が微かに見えるが、ステージの全貌は見えないままで曲が終わるとLEDが上昇し、智史休養後以降はおなじみの編成である、サポートの森瑞希と刃田綴色のツインドラムを含めた5人の姿が露わになる。ギターを手にした洋次郎はバスローブのようにすら見える真っ白な衣装に、ファーのような帽子を被っている。すると「君の名は。」のサントラのオープニング曲「夢灯籠」をストレートなバンドサウンドで鳴らし、実にオープニング感の強い2曲の連発となった。
アルバムからMVが制作された、「人間開花」のタイトル通りの解放感を象徴するようなリード曲「光」が始まった瞬間、桑原と武田がステージ左右に伸びた花道に駆け出していく。その一瞬、本当に何気ない瞬間であったが、自分の中に込み上げてくるものを感じた。同世代ですでに家庭を持ち、年相応に太った(それは桑原だけだが)体になって、寂しいことも経験してすっかり大人になってしまったのを実感せざるを得ないが、その駆け出した時の無邪気な子供のような笑顔は、まだお互いに10代、学生だった頃と何も変わっていないような気がして。自分ももしかしたらその時と変わっていないのかもしれない、とすら思えてきた。客席には頭上にまでまさに光でしかないような照明が広がっていたのも実に綺麗だった。
そんな感傷的な空気を一変させたのが、武田がシンセを弾き、洋次郎がハンドマイクで歌う複雑なリズム(実に乗りにくい)の「AADAAKOODAA」。洋次郎の社会や世間に対する皮肉が歌われた、ある意味ではRADらしい曲であるが、LEDに映る演奏中のメンバーの姿もサウンドと連動するようにグニョグニョと加工される中、ステージ前の花道に立った洋次郎の体がどんどん上昇していくという、アリーナならではのギミックも序盤からふんだんに盛り込んでくるあたりはさすがに何度もアリーナでライブをやっているバンドである。
続くミクスチャー色の強い「ハイパーベンチレイション」はシングル「携帯電話」のカップリング曲で、リリース当時はロッキンなどのフェスに出演した時もよく演奏されていたが、その頃はメンバーの技量が曲に追いついておらず、なんだかつかみどころがないというか、よくわからない曲という感じだったが、現在の盤石な演奏力で鳴らされることにより、ファンクっぽいリズムの要素を持った曲だということがわかる。つまりはもうこの時点でバンドの演奏、そして洋次郎の歌は素晴らしいことがわかるということである。
サンプラーを持った洋次郎とギターを鳴らす桑原の掛け合いから始まる「アイアンバイブル」では洋次郎がマイクを向けると観客が大きなコーラスをし、その様子が3面あるうちの中央のLEDに映っている。メンバーはもちろん、観客も実に楽しそうである。曲の終わりには洋次郎が武田側の花道に移動し、そこに置かれたピアノを弾くという、近年進んでいるメンバーのマルチプレイヤーっぷりは今回のツアーでも健在。
洋次郎の挨拶的なMCでは
「俺が歌ってる間にツイッターとかやらないでね(笑)
後ろまで全部見えてるからそういうの見たら凹むから(笑)
一瞬も俺たちが歌って、演奏してる姿から目を離さないでください!」
と笑わせながら言っていたが、最初はギターを弾きながら歌う洋次郎にのみスポットライトが当たっている中、曲後半で洋次郎がピアノにスイッチするとメンバーそれぞれにスポットライトが当たり、LEDの雨の映像に合間って、そのスポットライトすらも雨が降り注いでいるように見える「アメノヒニキク」の演出などは言われなくても一瞬足りとも目が離せない。
「ロックバンドなんてもんをやっていて良かった」
というアルバムの中でも最大のキラーフレーズを洋次郎が弾き語りのように歌ってからメンバーが演奏に加わる、バンドのこれまでの歩みを歌詞にしたような「トアルハルノヒ」はメンバーで全ての音を鳴らしているロックバンドのライブだからこそそのキラーフレーズにこの上ない説得力を持たせてくれる。Aメロでバスドラを踏みながら刃田が腕を振って観客を煽る様は、メンバーよりかなり年上なこの男がすっかりバンドになくてはならない存在になっているのを物語っている。
洋次郎がドラムセットの間に置かれた巨大なピアノの前に移動し、ポロポロとピアノを弾きながら
「この横浜アリーナは何度もやってるけど、俺と桑原が17歳の時にRADで出たこの場所でやったコンテストで武田と智史に出会って。当時は反抗期だったりして。もう今年32歳になるんだけど、あの頃と何にも変わってないなって。大人になれないし。だから大人なんて存在はないのかなって。子供のままだから人を殺したり騙したりする人もいる。でもそういうことをした人をあたかも人間ではない、みたいに扱う風潮が俺は本当に嫌いで。俺だって人を憎んだことも騙したこともあるから、誰しもちょっとした弾みでそっち側にいってしまう可能性があるだけで。そんな人間になり切れない、棒人間みたいな存在なんです」
とバンドのストーリーから曲につなげてみせた「棒人間」は洋次郎の言葉を紡ぐ巧さの結晶と言えるような曲。これだけ巨大な存在になっても、こうした歌詞を書くということは、洋次郎の中にあるコンプレックスのようなものはこれからも一生消えないんだろうなと思う。
曲終わりで桑原と武田が向かい合いながら演奏するのはアルバムのインタールード的なインスト曲「Bring the morning」。演奏するのが2人から花道でピアノを弾く洋次郎に変わると、「君の名は。」のサントラの中から「三葉のテーマ」を哀愁漂わせながら演奏し、そのまま映画の中で重要な位置で流れる「スパークル」につながると、LEDには画面いっぱいに光るたくさんの星が映し出される。それはまるで、映画の主人公の滝と三葉が見た流星群のようで、劇中でこの曲が流れる場面が否が応でも脳内に浮かんでしまうくらいに、映画とRADの作った音楽は密接に重なり合っている。
するとここで突如として桑原が喋り始めるのだが、前日にスベり倒したということで、
「我々にはいろんなタイプの曲がありますが、ここからは盛り上がる曲をやるんですけど、いけますかー!」
と無難なことしか言わないようになったとのこと(笑)
その様子を見た洋次郎が
「我々にはいろんな曲があって、世の中にはいろんなバンドがいる。youtubeで見るだけでいいバンドもいると思うけど、そのバンドの新しい曲を聴きたいって思ったら、CDを買ったりライブに行ってくれ。そうしてお金を出したことが君たちの意思表示になるから。そしてそのお金と意思がバンドにさらなる名曲を作らせるから。デビューして契約1~2年で切られるバンドを見ると、こういう素晴らしい景色を見て欲しかったなって思うんだ。こういうこと言うのはもうおっさんだからなのかもしれないけど(笑)」
と言うと、客席から大きな拍手が起こった。みんなRADのライブが見たい、さらなる新曲が聴きたいから、こうしてチケットを買ってライブに来るという意思表示をしている人たちだから。
そこからは桑原の言う通りに、アッパーな曲が次々に繰り出される。その皮切りとなる「DADA」ではハンドマイク姿の洋次郎が再びステージ前の花道に立って舞いながら歌うと体が上昇し、久々の「セツナレンサ」もこのパートの中で演奏される。「ふたりごと」「有心論」という今となってはバンドの代表曲的なシングルもリリース時はオリコンTOP10にすら入らなかったが、その直後にリリースされたこの曲はオリコン4位を獲得し、その後に出たアルバム「RADWIMPS4 ~おかずのごはん~」へと続く快進撃への布石となった、という過去のストーリーもついこの間のことのようでいて、もう10年以上も前の話である。
桑原と武田も歌い出しでシンバルを連打しまくる「おしゃかしゃま」ではライブではおなじみの、洋次郎が指揮者のようになって桑原と武田、さらには森と刃田をもコントロールし、各々のソロ回しから音量を操るセッションに展開。いつ見てもこの演出は圧巻だし、ベースソロでこれだけ観客をリズムに乗せる武田の本当に力強いこと。
その武田が観客を煽りながら飛び跳ねるようにしてベースを弾く「ます。」では観客全体での
「迷わずYOU!」
の大合唱が起き、左右の花道に分かれて演奏していた桑原と武田が揃って中央の花道に歩み出して演奏する。本当に頼もしい姿だ。
「君と羊と青」でもコーラスを観客が大合唱すると、洋次郎が「もう1回?」と客席に問いかけ、アウトロをさらに2回、高速バージョンで演奏する。
「喜怒哀楽の全方位」というよりはひたすらに「楽」に突出した空気が会場には溢れている。
すると今度は武田のMC、というよりはバンドを支えてくれている森と刃田の紹介から、
「俺たちはいろんな曲を作ってきたけど、自分たちがやりたいことしかやってこなかった。だから曲を聴いて、離れてくれても全然いい。離れたままでもいいし、いつか「あ~、RADって昔聴いてたな~」って思って戻ってきてくれてもいい。
俺たちはずっとこうやって音を鳴らしてるから。また会える時に会いましょう!」
と、実に洋次郎らしい言い回しで再開の約束をした。ドライに感じるかもしれないが、こう言えるのは自分たちが作る音楽を他の何よりも信頼しているからこそ。ある意味では最も誠実な形とも言える。そして
「みんなで一緒に歌いたいんだ!」
と言って観客の声を求めるも、最初は予想よりテンションの低い声が返ってきたことにより、
「もう次もこんな感じだったら、先生不貞腐れて帰っちゃうよ!(笑)」
とよくわからないキャラクターになってさらなる大声を煽ってから、去年至る所で流れまくった「前前前世」をところどころ観客にマイクを預けて歌わせ、最後に演奏されたのはアルバムの最後を飾るバラード「告白」。これまでもRADのアルバムは「最後の歌」「バグッバイ」「37458」「針と棘」と、情報量の非常に多いアルバムをまとめ上げて包むようなバラード曲で終わっていたが、この曲も紛れもなくその流れに連なる曲。こうした曲で本編を締めるのを見れるのは、リリースツアーならでは。リリースツアーが終わったら、まず間違いなくライブでは聴けなくなるだけに。
観客が携帯のライトを点灯させながら「もしも」を合唱してアンコールを待つと、洋次郎がアリーナ席の入り口から登場し、PA卓の隣のミニステージへ。(開演前からそのあたりにグレーシートがかけられていたのでそんな予感はしていた)
そのステージに置かれたピアノの前に座り、
「子供の頃に憧れたヒーローたちを思って作った曲」
という「週刊少年ジャンプ」を弾き語りすると、ツアーTシャツに着替えた桑原と武田もミニステージに呼び込まれる。その際に登場曲的な感じで「君の名は。」の「糸守高校」をピアノで演奏するというサービス精神を見せるが、2人がミニステージに立つと、桑原がTシャツを前後反対に着ていることを観客に指摘されるという天然さを見せるも、
「絶対狙ってやってる(笑) そういう顔をしてるのがすぐわかる(笑)」
と洋次郎に見破られていた模様。
そんな仲睦まじいやり取りもありつつ、観客の手拍子が鳴り響く「いいんですか?」を演奏しながら客席の通路を通って3人がステージに戻ると、ステージにはすでにドラマー2人がスタンバイしており、途中からは通常のバンド編成に。最後のサビ前には洋次郎が
「幸せになれよ!」
と叫んだ。
ライブが終わってしまうのが惜しいのか、この日の観客のほとんどが春休み中の学生であったりして翌日が休みであることをいじったり、卒業シーズンだからそういう曲をやりたいけど、季節感のある曲がないという話をしたり(桑原「オーストラリアで曲作ればいい」洋次郎「アメリカも入学式は9月」と展開)、いつにも増して喋りまくっただけに
「喋りすぎってあとで怒られるかもしれない(笑)」
と自覚があることを語り、
「逆に1回全員黙ってみようか(笑)」
と沈黙しようとするも、洋次郎の名前を呼ぶ声は大きくなる一方で、
「全然黙らないじゃん(笑)
好きな人ができたら、それくらい大きな声で気持ちを伝えてあげてください!最後に1曲やります!」
と言って演奏されたのは「なんでもないや」。この曲の
「君のいない世界など 夏休みのない8月のよう
君のいない世界など 笑うことのないサンタのよう」
というフレーズの時の洋次郎の歌唱がすごく好きなのだが、それは誰もが知る単語の組み合わせで誰も歌ったことのない歌詞を生み出すという作家性あってこそ。そしてこの曲は「君の名は。」で三葉役を演じた、上白石萌音がカバーしたバージョンも素晴らしいのだが、それはやはり曲自体が素晴らしい名曲であるからということをライブで聴くと改めて実感させてくれる。
これで締めかと思いきや、
「やっぱりもう1曲やらせて!楽しかったから!」
と言うとメンバーが集まって会議をし、演奏された曲は大合唱を巻き起こした「有心論」で、演奏が終わると5人がそれぞれ深々と頭を下げ、ステージ前で手を取って再び深々と一礼してから、名残惜しそうにステージを去って行った。
こんなにも「楽しい」という感情が全身を支配しているRADWIMPSのライブはいつ以来だろうか。もしかしたらそれこそ10年前の「セプテンバーまだじゃん。」以来なのかもしれないが、それは「人間開花」というアルバムが過去最高に解放感に満ちたものだからというのもあるが、バンドの演奏も過去最高レベルに素晴らしかったから。そして今までで1番アリーナでやるべきライブだった。
RADWIMPSは常に今が最高、みたいなバンドではなかった。ライブが全然良くなかった「アルトコロニーの定理」の時期もあったし、震災後に出したアルバムは空気が重かったし、胎盤の時は智史がいないという喪失感が強かった。しかしそんな状況であっても、いつかまた素晴らしいライブを見せてくれるはずって思ってた。そんな紆余曲折のあった活動も含めて、ロックバンドなんてもんを聴いていて本当に良かったと思うライブだった。これまでよりさらにすごいバンドになった理由をまざまざと見せつけられたようだった。
1.Lights go out
2.夢灯籠
3.光
4.AADAAKOODAA
5.ハイパーベンチレイション
6.アイアンバイブル
7.O&O
8.アメノヒニキク
9.トアルハルノヒ
10.棒人間
11.Bring the morning
12.三葉のテーマ
13.スパークル
14.DADA
15.セツナレンサ
16.おしゃかしゃま
17.ます。
18.君と羊と青
19.前前前世
20.告白
encore
21.週刊少年ジャンプ
22.糸守高校
23.いいんですか?
24.なんでもないや
25.有心論
スパークル
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