正直、「そして、愛してる E.P.」を聴いた時は不安であった。ラブソングというコンセプトがあったものの、EDMを取り入れたサウンドがあまりに深いとこまで行きすぎなんじゃないかと。しかし、先週リリースされたばかりのニューアルバム「ぼなぺてぃっ!!!」が過去のミイラズの代名詞でもあったギターのリフを中心とした性急で言葉数の多いギターロックと、近年のEDMを導入したサウンドがこれまでで最高のバランスで融合したアルバムであるだけに、リリースツアーの初日である千葉LOOKでのワンマンも期待が高まらざるを得ない。
もはやかつてほどではないにしても、このキャパの会場で物販に列が出来ているのはさすがミイラズというのを感じさせる中、19時を少し過ぎると場内が暗転し、「ぼなぺてぃっ!!!」の最後に収録されている「年貢の納め時 ~僕から見た右は君の左~」がSEとして流れ、いつも通りの出で立ちのケイゾー(ベース)と真彦(ギター)に、全身を最新のバンドグッズで固めて(今回のTシャツやパーカーはブランドの服かと思うくらいにオシャレで、めちゃくちゃかっこいい)サングラスをかけた畠山がDJキノイ君をDJ卓まで誘導する形で登場。
すると1曲目はなぜか最近になってタイアップを獲得して話題になっている、2013年にリリースされた「夏を好きになるための6の法則」収録の「NEW WORLD」からスタート。畠山はところどころ歌詞が飛び気味(ミイラズの中でも特に言葉数が多いだけに仕方ないところではある)だが、
「Dragon AshやTHE BLUE HEARTSが起こした革命が無意味になる前に
誰かが何かを始めるべきだ」
というしっかりと聴き取れるフレーズは、毒や皮肉らしい面が多い歌詞のミイラズが何よりも音楽の力を信じ、音楽で理想や夢を見ていることがよくわかる。
一転してEDMのアッパーなサウンドが曲の下地として鳴る「ヴァーチャルリアリティワールド」からは新作のモードに。同じ「ワールド」というタイトルを冠した曲ではあるが、「NEW WORLD」とこの曲は全く歌詞の方向性が違うのが面白いし、だからこそこの2曲を続けたのだろう。
実にミイラズらしい歌詞の「ぺ・ル・ソ・ナ ~邪魔しないでよ~」ではキャップにヘッドフォンを装着した、見るからにDJという装備品を纏ったキノイ君がノリノリになっていて、見ているだけでも可愛らしいが、制作の段階からすでにドラムレスの編成である新作の曲はもちろん、かつての4ピース編成だった頃からの定番の熱狂曲でも生ドラムではないことによるライブ感の希薄さが、去年までよりもなくなっており、違和感がなくなってきている。この編成でもかなりのライブを重ねてきて、サウンドの試行錯誤をしてアップデートを果たしてきた成果であろう。
ミイラズのEDMと言えばこれまではダークかつけたたましいサウンドの曲が多かったが、そのEDMサウンドが温かさを感じさせる「baby」からはメロウなムードに。この路線の原点と言ってもいい「シスター」が今でも聴けるのは実に嬉しいところ。
すると曲終わりで真彦がステージから消え、畠山もギターを下ろすと、
「ちょっと酒を取ってくる」
と言って、2人は酒を持って再登場し、ここからは2人は酒を飲みながらのライブとなる。QUATTRO在籍時は曲間にパックの日本酒を飲んでいたケイゾーはライブ中には飲まなくなっているが。
今でも畠山の中に残る少年性を、畠山の大好きなガンダムのシャアのセリフのようなタイトルを用いて曲にした「B.O.Y.だったのさ」からはメロウなムードよりはテンポが上がり、どちらかというとロマンチックな一面を感じさせる曲が続く。
「Kiss Me Baby」ではキノイ君が投げキスをしまくるのが実に可愛らしく、リリース時は賛否両論が巻き起こった、ロマンチックサイドオブミイラズの極みと言ってもいい「観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは」はもはや完璧にキラーチューンと化しており、畠山の当時の舵切りが間違いではなかったことがよくわかる。
「WARNING! WARNING! WARNING!」からは毒や皮肉をたっぷり含んだモードになり、曲を包むEDMサウンドも徐々に不穏なものに変化していく。とはいえ、「君の目が見えなくなったら」というテーマの「eYe」ではキノイ君が両目を両手で隠したりという可愛らしいところを見せつけてくるのだが。
新作の曲では心地よく体を揺らすというノリ方が主とはいえ、徐々に会場の温度が上がってきたせいか、畠山が
「ケイゾーさん、暑くないっすか」
と着ているパーカーを脱ぎたがるも、普段のパーカーとは違って今回のグッズのパーカーはオーバータイプなのですぐさま脱げず、
「斉藤さんだぞ、みたいにすることもできない(笑)
畠山さんだぞ、って(笑)」
と最近ハマっているというトレンディエンジェルのネタを挟み込んでくるが、ケイゾーには
「字余り感がすごいですね(笑)」
と突っ込まれる。ケイゾーも「ケイゾーさんだぞ、ならぴったりじゃん」とツッコミ返されていたが(笑)
そんな暑くなってきた会場をさらに暑く&熱くするのは、「パンドラの箱、ツンデレっすね」からの狂乱的なEDMナンバーたち。暴れるというよりは飛び跳ねるという楽しみ方になるサウンドだが、歌詞こそ重いものの100%ラブソングである「そして、愛してる」もこのゾーンに入ったことにより、盛り上がり曲に変貌している。
トレンディエンジェル以外にもブルゾンちえみと平野ノラにハマっているという畠山はひたすらに両者のネタを連発しながら、
「平野ノラは物件見にいく番組のロケで扉が2つある物件を見た瞬間に「ダブル浅野~!」って言った時、こいつ天才だなって思った(笑)」
「俺も電話する時は「しもしも~」って最初に言うもんね。なんなら昔ケイゾーにサポートやってくれってお願いした時も「しもしも~」って言ったもんね(笑)」
とケイゾーに突っ込まれまくるエピソードを次々と投下。なぜか畠山は「ケイゾーは平野ノラがタイプ」というのを定着させようとしていたが、その流れがなぜか
「ケイゾーは石原さとみを「あのビッチが!」って言ってた(笑)」
と飛躍しまくっていくのは酒を飲みながら喋っていたからか。
そうこうしているうちにもう終盤、近年のミイラズのライブはMCも挟みながらも実にテンポが良い。
「ラストナンバー」では「ふざけんなってんだ!」の大合唱が起こり、「世の中クソ!」では身の回りのものや事象に毒を撒き散らすが、最も今回のアルバムで重要な曲は「夢見る少年は夢を見るなり」である。これまで怒りなどの感情はよく歌詞にしてきたが、心の奥底の感情やバンドの状況のことを歌詞にすることは全くなかった畠山が、
「負けたんだ 負けてしまったんだ」
とバンドの状況を素直に歌詞にしながらも、
「まだ終わってない」
「デカいステージをいつもイメージしてるんだ」
とこのバンドを諦めていない己のリアルな心境を歌った、ミイラズ史上で最も感動的な曲。
ワンマンではZeppクラスも即完、フェスに出れば1万人規模のステージも満員、ミュージックステーションにも出演と、シーンを掻き回しまくっていた時からまだ3~4年しか経っていない。しかし今ではこのキャパすら即完しないというくらいの規模にまで落ち着いてしまった。それはバンド側に責任が全くないとは言えないが(もし不器用極まりない畠山がキュウソネコカミのセイヤくらい素直に観客のことを気遣う言葉を口にできる人だったらどうなっていただろうか、とも思うけど)、こうしてアルバムとこの曲を聴くと、ライブに来なくなった人たちも、まだミイラズを知らない人たちも連れて、もう一回デカいステージのところまで行こう、と思える。実際、その下降っぷりが顕著になり始めた「OPPOTUNITY」以降も、バンドはそこまで行っても全くおかしくないくらいの曲を作り続けている。
そんなことを考えていると、「マジか。~」で踊らせまくって3人はすぐさまステージから去って行った。
アンコールではサングラスを外した畠山はなおも酒を飲みつつ、恒例の自主企画イベント「Pyramid de 427」が開催10回目を記念してワンマンで開催されることを発表。(日付けこそ4/27ではなくて4/29だが、「みんな歳取ってるから土曜日の方が来やすいでしょ」とのこと)
そこではリクエストに応えたセトリに加え、畠山がかつてライブで使用した衣装がフリーマーケット式に売られるというまさにミイラズによるファン感謝祭的な内容になることが告げられ、
「ここにいる奴らは全員来いよ!」
と畠山が煽ると、客席からは
「おー!」「行くよー!」
という声が返ってくる。何気ないシーンだが、すでにかつてライブに来ていた多くの人が去って行ってしまったミイラズのライブに、今でもこうして来続けている、本当にミイラズの音楽がずっと大好きでい続けている人たちからの返事は心がこもりまくった一言であった。
しかしながら
畠山「全員来いって言っても全員の顔は覚えられない!覚えられるわけがない!でも真ん中あたりにいる、ミイラTシャツで頭にタオル巻いてるやつ、お前の顔は覚えたから、お前が4/29に来なかったら今日来てるやつらを全員殺すからな!(笑)」
ケイゾー「理不尽過ぎる(笑)」
と最後まで笑いが絶えない楽しいMCにしてみせ、最近熱血キャラになってきているというケイゾー(100%嘘だが)が曲を決めたというキラーチューンを3連発し、最後には畠山も
「楽しかった!サンキュー!」
と満足そうに言ってステージを去ると、最後までノリノリだったDJキノイ君も名残惜しそうに手を振りながらステージを去って、熱く笑いに満ちた初日は幕を閉じた。
しかしながらやはりこの状況から再び盛り返して行くのは相当に厳しい。普通に良い曲を作り続けてもなかなかこうしてライブに来るような人以外の耳に届くようにはならないだろう。それだけになんとかまずは耳に触れる機会を作ることをしないといけないが、メジャーにいたままならアニメのタイアップなども可能であったかもしれないが、今になってはそれもなかなか厳しい。
だからこそ畠山も「Pyramid de 427のニュース、RO69とかにも今日出ると思うけど、もう応援してくれるのはRO69だけ(笑)RO69にも載らなくなったら終わりだと思ってくれ(笑)」と自虐的に言っていたが、畠山にEDMを取り入れることを進言した、ロッキンオンジャパンの山崎洋一郎は、夏のロッキン、冬のCDJ、春のJAPAN JAMの全てにミイラズを呼んで、誌面でもゴリ押しって言われるくらいにページ数を取ってインタビューを載せるべきだ。そうやって少しずつでいいから、人の耳や目に触れる場所を作っていけば、まだまだデカいステージは夢ではなくて、現実の目標にできる。その瞬間をこの目で見れるまで、ライブ行き続けるから。とりあえずはそう思えるくらいに「ぼなぺてぃっ!!!」は名盤である。
1.NEW WORLD
2.ヴァーチャルリアリティワールド
3.ぺ・ル・ソ・ナ ~邪魔しないでよ~
4.check it out! check it out! check it out! check it out!
5.ふぁっきゅー
6.baby
7.シスター
8.B.O.Y.だったのさ
9.Kiss Me Baby
10.観覧車に乗る君が夜景に照らされてるうちは
11.WARNING! WARNING! WARNING!
12.嗚呼。今思いつくのはそれだけだ。
13.eYe
14.パンドラの箱、ツンデレっすね
15.つーか、っつーか
16.気持ち悪りぃ
17.そして、愛してる
18.ラストナンバー
19.世の中クソ!
20.夢見る少年は夢を見るなり
21.マジか。そう来たか、やっぱりそう来ますよね。はいはい、ですよね、知ってます。
encore
22.スーパーフレア
23.僕らは
24.CANのジャケットのモンスターみたいのが現れて世界壊しちゃえばいい
NEW WORLD
https://youtu.be/FXLz1d3EK40
そして、愛してる
https://youtu.be/ml143kl0Kkc
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