ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2016-2017 「20th Anniversary Live」 @幕張メッセイベントホール 12/17
- 2016/12/18
- 15:34
メジャーデビュー以降、常にこの国のロックシーンの先頭を走り続けてきたASIAN KUNG-FU GENERATIONもついに結成20周年を迎えた。
今回のツアーはその20周年を記念したものでもあるが、2ndアルバムにしてバンドをお茶の間レベルにまで押し上げた名盤「ソルファ」の再録版も先日リリースされたばかりという状況でもあり、果たしてどんな内容のライブになるのかが楽しみでしょうがない。この日の幕張メッセイベントホールはそのツアーの初日。
とはいえ、ベストアルバムリリース時も武道館2daysでライブを行ったり(ベストアルバムの収録曲を意外なほどにやらなかったけど)、メジャーデビュー10周年記念ライブを横浜スタジアムで2days行ったりと、近年は2,3年置きに「結成」か「メジャーデビュー」のアニバーサリーイヤーが訪れている。(それについてはゴッチ自身も以前のツアーで口にしていた)
あと10日ほどに迫ったCOUNTDOWN JAPANではASTRO ARENAとして使用されるイベントホールはアリーナも含めて全席指定であり、ステージには薄い紗幕がかかる中、開演前から立体的な映像が映し出されていて、「Wonder Future」ツアーで新たに獲得した演出への期待感が増す。
18時を少し過ぎたあたりで満員の場内が暗転すると、その瞬間響いてきたのはベースの音だけ。ということは1曲目はまさかの「遥か彼方」。まだ紗幕はかかったまま、薄いピンクというか紫のような照明に包まれているが、バンドの演奏もゴッチのボーカルも実に力強いのがわかる。
続いても紗幕がかかったままで演奏されたのは「センスレス」。その紗幕にはかつて10年近く前に「ファンクラブ」のツアーで隣の幕張メッセ9~11ホールでライブを行った時と同じように、カタカナのメッセージがグルグルと回りながら映し出される。
ゴッチの歌い出しで大歓声が起こった「アンダースタンド」の「イェー!」の部分で紗幕が落ちると、メンバーの姿があらわに。ゴッチはやはり髪型は対バンツアーの時に自分で言っていたように、若干久保田利伸みたいになっている。ここからはステージ両サイドのモニターにメンバーの演奏する様子なども映し出される。
ゴッチの挨拶的なMCでは「20周年おめでとうー!」という観客の歓声に対して喜多がギターをかざして応えるなど、どこかメンバーもこのライブが感慨深いように見える。それはゴッチが
「昔の曲もたくさんやります」
と言ったように、20周年を作ってきた過去の曲たちを演奏するからというのもあるかもしれない。
その言葉通りに「ファンクラブ」からの、ここまでのアッパーな流れとは一変してタイトル通りにワルツのリズムを伊地知潔が叩き出す「暗号のワルツ」、ステージ背面に無数のテレビに映った曲のPVが映し出された「ブラックアウト」、当時バンドのPVを毎作撮っていた豊田利晃監督の作品ではおなじみの俳優・マメ山田が踊るPVが映し出される「君という花」という初期の曲が続く。
しかしNANO-MUGENコンピが初収録だった、「ブラックアウト」ももう11年前の曲。そのNANO-MUGENコンピによってASHやFARRAHといった後にNANO-MUGEN FESで何度かライブを見ることになるバンドを知ったきっかけになった曲と考えると実に感慨深いものがある。ちなみにそのコンピにはNANO-MUGEN FESのレギュラーと言っていい存在だったストレイテナーとELLEGARDENに加えて、先日再始動が発表されたSPARTA LOCALSも収録されている。
「20周年だからっていうか、今日ツアー初日だからね。やっぱり緊張するよね。なんで緊張するかって言うと、やっぱりみんなにいいところを見せたいし、ちょっとでも楽しんで欲しいからなんだけど。でもよくよく考えたらここには基本的に俺たちの味方しかいないっていうか、「あいつ早くミスんねーかな?」みたいな感じでヤジ飛ばすやつとかはいないだろうから(笑)、緊張する必要はないんだけど(笑)
次は初めて日本語で書いた曲、恥ずかしいくらいに昔の曲をやります」
というゴッチの言葉に後ろで潔がうなずいたりしていたMCの後に演奏されたのはまさかのデビューミニアルバム「崩壊アンプリファー」からの「粉雪」。まさに粉雪がステージに降っているかのような演出でこの時期にぴったりな曲を鳴らすと、ライブならではの深い海底を潜るようなイントロのセッションからサビで一気に光の方へ飛び出すような「マーチングバンド」、ベストアルバムリリース時の武道館ライブで足踏みを変なタイミングで起こしたのが未だに忘れられない「踵で愛を打ち鳴らせ」、近年のライブでは最後に演奏されることも多い、「イェーイェー」のコーラスが楽しい「今を生きて」と続いていく。
「マーチングバンド」から「今を生きて」まではベストアルバム~「ランドマーク」期までの曲たちであるが、この時期はアジカンのライブはサポートメンバーを加えた大所帯編成の豊かな音で曲に彩りを加えていただけに、近年はもはや第五のメンバーと言ってもいい存在のシモリョーのシンセの貢献が実に大きい。彼もまたアジカン(というかゴッチ)にフックアップされて、ほとんど休止状態にあった自身のバンド、the chef cooks meを再び走らせることができ、その才能を改めて音楽ファンに知らしめた。そういう意味ではここに集まった人たちと同様にアジカンに救われた男と言ってもいいはず。
「みんな知らなそうだったけど、さっきやったのは「粉雪」っていう曲です(笑)いい曲なんだけどね、レミオロメンにまくられちゃってね(笑)(いきなりレミオロメンの方の「粉雪」のサビを歌いだす)
まぁこっちもいい曲だからね。俺は藤巻君と仲良いしね…ってなにその「お前がああいう人気者と仲良いわけねーだろ」みたいな空気(笑)」
とゴッチ特有の自虐っぷりで笑わせると、
「当時使っていた横浜のスタジオの部屋番号をタイトルにした曲」
と言って、「君繋ファイブエム」から初期衝動を強く感じさせるソリッドなギターサウンドの「E」を演奏。
「ここから僕のスタート」「ここから君のスタート」
というサビの歌詞もまた、まだ何者でもなかった若かりし頃だからこそというのを今になると感じさせる。
そんな初期の曲と並んでも「スタンダード」「ブラッドサーキュレーター」という近年の曲は全く違和感がないくらいのエモーショナルさを感じさせる。特に「スタンダード」でのギターを高く掲げながら歌うゴッチの歌唱の素晴らしさ。歳を重ねるにつれて「エモさがなくなった」と言われることも近年はあるが、この日は全くそんなことはなく、むしろ歳を重ねたことで歌唱力は間違いなく上がってきていることを実感させてくれる。それはつまりアジカンがこれからまだまだ進化していくということでもある。
かつて2013年のNANO-MUGEN CIRCUITで演奏された時にシモリョーが盛大にイントロをミスって、荘厳な曲の雰囲気にまるっきり似合わない失笑が起きた「月光」もこの日は一切ミスなしで、
「最後の時が訪れて 夢ならば醒めて欲しかったよ
迷子を探すような月が 今日も光るだけ」
というあまりにも切ない別れの情景が歌われると、メンバーが次々にステージからはけていき、喜多も深々とお辞儀をしてからはけたので、会場からは「え?もう終わり?」という雰囲気に。
ゴッチと喜多の「月光」のギターの残響音が響く中、モニターにはこれまでの歴代のアーティスト写真が次々に映し出される。(「秋葉原のkj(Dragon Ash)」と言われていた長髪時代のゴッチの姿が映ると場内から失笑が起きる)
だんだん若い時代のアー写になっていくが、山田だけは全く変わっていないため、彼だけの写真だったら年代を見分けることが不可能だな、と思っていると「ソルファ」期のアー写で止まり、そこに映る4人が今の4人に変わる。そして「ソルファ」のジャケ写がプリントされた白シャツを着て再登場した4人。そう、まだ「ソルファ」の曲は1曲も演奏されていなかった。(「Re:Re:」あたりは序盤に演奏されることが多いだけに薄々予感はしていた)
つまり、4人だけの力強いロックサウンドで「振動覚」が始まると、そこからは第2部、「ソルファ」完全再現ライブの始まりである。この手法はかつて「サーフブンガクカマクラ」ツアーでやったものと同じでもある。
「リライト」では近年おなじみの間奏でのダブアレンジ→コール&レスポンス、次いでこの位置に収録された「ループ&ループ」(中村佑介が手がけた歴代のCDジャケ写が出てくる映像とともに客席の様子もリアルタイムで映るという演出)と、再録版に準じたアレンジになっているが、「夜の向こう」「ラストシーン」あたりではギターが少し合っていない印象を受けた場面もあっただけに、これからツアーを経てさらにがっしりと噛み合った演奏になることを期待したい。
ちなみに「ラストシーン」の喜多と山田の「逢瀬、舞う合間」という高音コーラスは当時「なんて言ってるのか?」という議論がファンの間で交わされていたのだが、「アウト、セーフ、マグワイア」という意見をゴッチがブログで拾い上げていたのが面白かったが、その意見の元ネタである、当時セントルイス・カージナルスでメジャーリーグのシーズン最多本塁打記録を打ち立てた、マーク・マグワイアのことを覚えている人は今や全くいないであろう。
赤い照明に照らされながら演奏する4人の姿が実にカッコいい「サイレン」、この再録版の契機になった曲と言っても過言ではない、ライブバージョンのアレンジが再録版にも採用された「Re:Re:」から、今やライブでは全く聴けなくなった「24時」、タイトル通りに聴いていると時間軸を見失いそうになる「真夜中と真昼の夢」がこうしてまたライブで聴けるというのは「ソルファ」をリアルタイムで聴いてきたファンにとっては本当に嬉しいところ。
ゴッチがやはり「月光」でライブが終わった感じになってしまったのは喜多が深々とお辞儀をするからだ、とメンバーをいじっている間にドラムセットの後ろに並べられた椅子にはストリングスメンバーの方々が座る。
ということは曲順からしても当然演奏されるのは、再録版でかつては入れることができなかった生ストリングスが入ったバージョンを収録することができた「海岸通り」。アジカン屈指の名曲バラードがストリングスの音色によってさらに壮大になり、こうした大会場で響くアンセムに進化。曲順としても個人的にはこの曲で終わる方が余韻が残って実にいいと思う。もちろんオリジナル版の最後に「ループ&ループ」で「最終形のその先を担う世代」に繋げる終わり方も好きだったが。
しかしこうして改めて聴くと、当時も大ヒットしたアルバムだったが、オリコン初登場2位を記録してシーンに驚きを与えた「サイレン」、アジカンの存在をお茶の間に知らしめた「ループ&ループ」「リライト」というライトな層でも聴いたことがあるシングル曲があり、かつて横浜スタジアムでの人気投票ライブで4位になった「海岸通り」、2位の「Re:Re:」とコアなファンからも支持される曲が揃った「ソルファ」は本当に奇跡のような作品であったということを実感する。そしてその曲たちを発売から10年以上経った今になってこうして聴けるという幸せがこの日の本編が終わった後の会場には満ち溢れていた。
アンコールを待っていると、アリーナ後方側のPA周りがが慌ただしい動きを見せている。するとPA前にはいつの間にか簡易的なステージが作られ、アコギ、エフェクターが置かれている。そこに1人現れたのはやはりゴッチ。
「近くで見ると、こいつやっちゃったな、って思うでしょ?(笑)」
とその久保田利伸ライクな髪型を至近距離で後方の観客に見られながら、「ソラニン」「Wonder Future」の2曲を弾き語り。人気投票で1位だった「ソラニン」の名曲ぶりはもはや言わずもがなだが、歌とアコギだけという至極シンプルな形態で聴くと、重厚なギターサウンドで覆われた「Wonder Future」のメロディの良さに改めて気がつく。もしかしたらそれは「Wonder Future」のアルバム収録曲全てに言えることなのかもしれないけど。
ゴッチが歌い終わった瞬間にメインのステージからは音が鳴り始める。ゴッチがいないのに始めてどうするんだ?と思っていると、シモリョーを含めたゴッチレスの4人編成の演奏で、喜多がメインボーカルの「タイムトラベラー」(「Re:Re:」のカップリングに収録)、
「期せずして20周年みたいな歌詞になった」
と自己分析した「八景」(「ブラッドサーキュレーター」のカップリングに収録)という、今年リリースされた、ある意味最新形と言える曲たちでそのハイトーンなボーカルを響かせる。やはりゴッチとまるっきりタイプは違うというか、高音コーラスに適したタイプの声と言えるが、サウンド自体はアジカンそのものでしかない(かつての「嘘とワンダーランド」とかよりも)だけに、もはやゴッチだけでなくメンバー全員が、アジカンの曲を作る上では完全に意思統一されているように思える。
ゴッチがステージに合流すると、
「ここからは撮影OKみたいです」
と写真撮影が許可されて、慌てて携帯を探す観客を見て即興で
「携帯を探せ~」
と歌ってから始まったのは、「海岸通り」同様にストリングス隊が加わり、スクリーンに歌詞が次々に映し出された「さよならロストジェネレイション」。ベストアルバムリリース時の武道館ライブなど、大事なワンマンなどではこうして終盤に演奏されることが多い曲だが、時代を切り取ったような歌詞の曲であっても、リリースされた「マジックディスク」期に聴いても今聴いても歌詞に違和感が全くないというか、常に「今」の状況を歌っているかのように
「「暗いね」って切なくなって
「辛いね」ってそんなこと言わないで
「暗いね」って君が嘆くような時代なんて
今日でやめにしよう」
というフレーズが刺さる。結局、日本の状況は当時と何も変わってないんじゃないかと思うように。
そしてラストに演奏されたのは、まさかのこの曲でストリングスバージョンをやるかという「新世紀のラブソング」。しかしこれが冒頭のポエトリーリーディングからサビの一気に飛翔していく部分をさらに壮大に仕上げていて、実にハマっていた。この曲をこうしたアレンジにするというのが本当にさすがとしか言いようがない。スクリーンには開演前に映し出されていた、立体的な映像が映し出され、まるでライブ前に戻ったかのようだった。
演奏を終えるとシモリョーを含めた5人が前に並んで肩を組み、ゴッチがそれぞれのメンバーを紹介。
「俺の紹介は…なくていい(笑)」
と言っていたゴッチは満面の笑みで両手でピースサインをしてからステージを去っていった。
この日、何より嬉しかったのは、こうしたゴッチの充実した表情や、ゴッチの言葉に潔が頷いたり、山田が笑っていたりと、メンバー同士の雰囲気の良さがステージから伝わってきたこと。かつてはどこかヒリヒリしたような雰囲気だったツアーも多々あったし、それを解消するために「マジックディスク」期は金澤ダイスケ(フジファブリック)、「ランドマーク」期は岩崎愛などのサポートメンバーがいたような感覚もあっただけに。
自分には高校時代に出会って、今の人生を決定づけた4つのバンドがいて。それは音楽に本当の意味で目覚めたきっかけになったGOING STEADY、洋楽を含めて様々な音楽の広がりを教えてくれたアジカン、歌詞の奥深さを教えてくれたスーパーカー、今のような人生を過ごす後押しをしてくれたELLEGARDENなのだが、アジカン以外がもうやっていない今、こうして変わらずにライブが見れるアジカンの存在は本当に頼もしいし、生きていく力をくれる。
横浜スタジアムの時も同じようなことを思ったが、アジカンの20年の歴史を作ってきた曲たちを、力強い演奏と歌、今だからできる演出で、同じようにアジカンをずっと聴いてきたたくさんの人たちと一緒に聴く。そして思うのは、アジカンと出会えて、こうして今でもライブが見れて本当に良かったということ。やっぱり、君じゃないとさ!
1.遥か彼方
2.センスレス
3.アンダースタンド
4.暗号のワルツ
5.ブラックアウト
6.君という花
7.粉雪
8.マーチングバンド
9.踵で愛を打ち鳴らせ
10.今を生きて
11.E
12.スタンダード
13.ブラッドサーキュレーター
14.月光
15.振動覚
16.リライト
17.ループ&ループ
18.君の街まで
19.マイワールド
20.夜の向こう
21.ラストシーン
22.サイレン
23.Re:Re:
24.24時
25.真夜中と真昼の夢
26.海岸通り
encore
27.ソラニン (弾き語り)
28.Wonder Future (弾き語り)
29.タイムトラベラー
30.八景
31.さよならロストジェネレイション
32.新世紀のラブソング
Next→ 12/28 COUNTDOWN JAPAN 16/17 @幕張メッセ
今回のツアーはその20周年を記念したものでもあるが、2ndアルバムにしてバンドをお茶の間レベルにまで押し上げた名盤「ソルファ」の再録版も先日リリースされたばかりという状況でもあり、果たしてどんな内容のライブになるのかが楽しみでしょうがない。この日の幕張メッセイベントホールはそのツアーの初日。
とはいえ、ベストアルバムリリース時も武道館2daysでライブを行ったり(ベストアルバムの収録曲を意外なほどにやらなかったけど)、メジャーデビュー10周年記念ライブを横浜スタジアムで2days行ったりと、近年は2,3年置きに「結成」か「メジャーデビュー」のアニバーサリーイヤーが訪れている。(それについてはゴッチ自身も以前のツアーで口にしていた)
あと10日ほどに迫ったCOUNTDOWN JAPANではASTRO ARENAとして使用されるイベントホールはアリーナも含めて全席指定であり、ステージには薄い紗幕がかかる中、開演前から立体的な映像が映し出されていて、「Wonder Future」ツアーで新たに獲得した演出への期待感が増す。
18時を少し過ぎたあたりで満員の場内が暗転すると、その瞬間響いてきたのはベースの音だけ。ということは1曲目はまさかの「遥か彼方」。まだ紗幕はかかったまま、薄いピンクというか紫のような照明に包まれているが、バンドの演奏もゴッチのボーカルも実に力強いのがわかる。
続いても紗幕がかかったままで演奏されたのは「センスレス」。その紗幕にはかつて10年近く前に「ファンクラブ」のツアーで隣の幕張メッセ9~11ホールでライブを行った時と同じように、カタカナのメッセージがグルグルと回りながら映し出される。
ゴッチの歌い出しで大歓声が起こった「アンダースタンド」の「イェー!」の部分で紗幕が落ちると、メンバーの姿があらわに。ゴッチはやはり髪型は対バンツアーの時に自分で言っていたように、若干久保田利伸みたいになっている。ここからはステージ両サイドのモニターにメンバーの演奏する様子なども映し出される。
ゴッチの挨拶的なMCでは「20周年おめでとうー!」という観客の歓声に対して喜多がギターをかざして応えるなど、どこかメンバーもこのライブが感慨深いように見える。それはゴッチが
「昔の曲もたくさんやります」
と言ったように、20周年を作ってきた過去の曲たちを演奏するからというのもあるかもしれない。
その言葉通りに「ファンクラブ」からの、ここまでのアッパーな流れとは一変してタイトル通りにワルツのリズムを伊地知潔が叩き出す「暗号のワルツ」、ステージ背面に無数のテレビに映った曲のPVが映し出された「ブラックアウト」、当時バンドのPVを毎作撮っていた豊田利晃監督の作品ではおなじみの俳優・マメ山田が踊るPVが映し出される「君という花」という初期の曲が続く。
しかしNANO-MUGENコンピが初収録だった、「ブラックアウト」ももう11年前の曲。そのNANO-MUGENコンピによってASHやFARRAHといった後にNANO-MUGEN FESで何度かライブを見ることになるバンドを知ったきっかけになった曲と考えると実に感慨深いものがある。ちなみにそのコンピにはNANO-MUGEN FESのレギュラーと言っていい存在だったストレイテナーとELLEGARDENに加えて、先日再始動が発表されたSPARTA LOCALSも収録されている。
「20周年だからっていうか、今日ツアー初日だからね。やっぱり緊張するよね。なんで緊張するかって言うと、やっぱりみんなにいいところを見せたいし、ちょっとでも楽しんで欲しいからなんだけど。でもよくよく考えたらここには基本的に俺たちの味方しかいないっていうか、「あいつ早くミスんねーかな?」みたいな感じでヤジ飛ばすやつとかはいないだろうから(笑)、緊張する必要はないんだけど(笑)
次は初めて日本語で書いた曲、恥ずかしいくらいに昔の曲をやります」
というゴッチの言葉に後ろで潔がうなずいたりしていたMCの後に演奏されたのはまさかのデビューミニアルバム「崩壊アンプリファー」からの「粉雪」。まさに粉雪がステージに降っているかのような演出でこの時期にぴったりな曲を鳴らすと、ライブならではの深い海底を潜るようなイントロのセッションからサビで一気に光の方へ飛び出すような「マーチングバンド」、ベストアルバムリリース時の武道館ライブで足踏みを変なタイミングで起こしたのが未だに忘れられない「踵で愛を打ち鳴らせ」、近年のライブでは最後に演奏されることも多い、「イェーイェー」のコーラスが楽しい「今を生きて」と続いていく。
「マーチングバンド」から「今を生きて」まではベストアルバム~「ランドマーク」期までの曲たちであるが、この時期はアジカンのライブはサポートメンバーを加えた大所帯編成の豊かな音で曲に彩りを加えていただけに、近年はもはや第五のメンバーと言ってもいい存在のシモリョーのシンセの貢献が実に大きい。彼もまたアジカン(というかゴッチ)にフックアップされて、ほとんど休止状態にあった自身のバンド、the chef cooks meを再び走らせることができ、その才能を改めて音楽ファンに知らしめた。そういう意味ではここに集まった人たちと同様にアジカンに救われた男と言ってもいいはず。
「みんな知らなそうだったけど、さっきやったのは「粉雪」っていう曲です(笑)いい曲なんだけどね、レミオロメンにまくられちゃってね(笑)(いきなりレミオロメンの方の「粉雪」のサビを歌いだす)
まぁこっちもいい曲だからね。俺は藤巻君と仲良いしね…ってなにその「お前がああいう人気者と仲良いわけねーだろ」みたいな空気(笑)」
とゴッチ特有の自虐っぷりで笑わせると、
「当時使っていた横浜のスタジオの部屋番号をタイトルにした曲」
と言って、「君繋ファイブエム」から初期衝動を強く感じさせるソリッドなギターサウンドの「E」を演奏。
「ここから僕のスタート」「ここから君のスタート」
というサビの歌詞もまた、まだ何者でもなかった若かりし頃だからこそというのを今になると感じさせる。
そんな初期の曲と並んでも「スタンダード」「ブラッドサーキュレーター」という近年の曲は全く違和感がないくらいのエモーショナルさを感じさせる。特に「スタンダード」でのギターを高く掲げながら歌うゴッチの歌唱の素晴らしさ。歳を重ねるにつれて「エモさがなくなった」と言われることも近年はあるが、この日は全くそんなことはなく、むしろ歳を重ねたことで歌唱力は間違いなく上がってきていることを実感させてくれる。それはつまりアジカンがこれからまだまだ進化していくということでもある。
かつて2013年のNANO-MUGEN CIRCUITで演奏された時にシモリョーが盛大にイントロをミスって、荘厳な曲の雰囲気にまるっきり似合わない失笑が起きた「月光」もこの日は一切ミスなしで、
「最後の時が訪れて 夢ならば醒めて欲しかったよ
迷子を探すような月が 今日も光るだけ」
というあまりにも切ない別れの情景が歌われると、メンバーが次々にステージからはけていき、喜多も深々とお辞儀をしてからはけたので、会場からは「え?もう終わり?」という雰囲気に。
ゴッチと喜多の「月光」のギターの残響音が響く中、モニターにはこれまでの歴代のアーティスト写真が次々に映し出される。(「秋葉原のkj(Dragon Ash)」と言われていた長髪時代のゴッチの姿が映ると場内から失笑が起きる)
だんだん若い時代のアー写になっていくが、山田だけは全く変わっていないため、彼だけの写真だったら年代を見分けることが不可能だな、と思っていると「ソルファ」期のアー写で止まり、そこに映る4人が今の4人に変わる。そして「ソルファ」のジャケ写がプリントされた白シャツを着て再登場した4人。そう、まだ「ソルファ」の曲は1曲も演奏されていなかった。(「Re:Re:」あたりは序盤に演奏されることが多いだけに薄々予感はしていた)
つまり、4人だけの力強いロックサウンドで「振動覚」が始まると、そこからは第2部、「ソルファ」完全再現ライブの始まりである。この手法はかつて「サーフブンガクカマクラ」ツアーでやったものと同じでもある。
「リライト」では近年おなじみの間奏でのダブアレンジ→コール&レスポンス、次いでこの位置に収録された「ループ&ループ」(中村佑介が手がけた歴代のCDジャケ写が出てくる映像とともに客席の様子もリアルタイムで映るという演出)と、再録版に準じたアレンジになっているが、「夜の向こう」「ラストシーン」あたりではギターが少し合っていない印象を受けた場面もあっただけに、これからツアーを経てさらにがっしりと噛み合った演奏になることを期待したい。
ちなみに「ラストシーン」の喜多と山田の「逢瀬、舞う合間」という高音コーラスは当時「なんて言ってるのか?」という議論がファンの間で交わされていたのだが、「アウト、セーフ、マグワイア」という意見をゴッチがブログで拾い上げていたのが面白かったが、その意見の元ネタである、当時セントルイス・カージナルスでメジャーリーグのシーズン最多本塁打記録を打ち立てた、マーク・マグワイアのことを覚えている人は今や全くいないであろう。
赤い照明に照らされながら演奏する4人の姿が実にカッコいい「サイレン」、この再録版の契機になった曲と言っても過言ではない、ライブバージョンのアレンジが再録版にも採用された「Re:Re:」から、今やライブでは全く聴けなくなった「24時」、タイトル通りに聴いていると時間軸を見失いそうになる「真夜中と真昼の夢」がこうしてまたライブで聴けるというのは「ソルファ」をリアルタイムで聴いてきたファンにとっては本当に嬉しいところ。
ゴッチがやはり「月光」でライブが終わった感じになってしまったのは喜多が深々とお辞儀をするからだ、とメンバーをいじっている間にドラムセットの後ろに並べられた椅子にはストリングスメンバーの方々が座る。
ということは曲順からしても当然演奏されるのは、再録版でかつては入れることができなかった生ストリングスが入ったバージョンを収録することができた「海岸通り」。アジカン屈指の名曲バラードがストリングスの音色によってさらに壮大になり、こうした大会場で響くアンセムに進化。曲順としても個人的にはこの曲で終わる方が余韻が残って実にいいと思う。もちろんオリジナル版の最後に「ループ&ループ」で「最終形のその先を担う世代」に繋げる終わり方も好きだったが。
しかしこうして改めて聴くと、当時も大ヒットしたアルバムだったが、オリコン初登場2位を記録してシーンに驚きを与えた「サイレン」、アジカンの存在をお茶の間に知らしめた「ループ&ループ」「リライト」というライトな層でも聴いたことがあるシングル曲があり、かつて横浜スタジアムでの人気投票ライブで4位になった「海岸通り」、2位の「Re:Re:」とコアなファンからも支持される曲が揃った「ソルファ」は本当に奇跡のような作品であったということを実感する。そしてその曲たちを発売から10年以上経った今になってこうして聴けるという幸せがこの日の本編が終わった後の会場には満ち溢れていた。
アンコールを待っていると、アリーナ後方側のPA周りがが慌ただしい動きを見せている。するとPA前にはいつの間にか簡易的なステージが作られ、アコギ、エフェクターが置かれている。そこに1人現れたのはやはりゴッチ。
「近くで見ると、こいつやっちゃったな、って思うでしょ?(笑)」
とその久保田利伸ライクな髪型を至近距離で後方の観客に見られながら、「ソラニン」「Wonder Future」の2曲を弾き語り。人気投票で1位だった「ソラニン」の名曲ぶりはもはや言わずもがなだが、歌とアコギだけという至極シンプルな形態で聴くと、重厚なギターサウンドで覆われた「Wonder Future」のメロディの良さに改めて気がつく。もしかしたらそれは「Wonder Future」のアルバム収録曲全てに言えることなのかもしれないけど。
ゴッチが歌い終わった瞬間にメインのステージからは音が鳴り始める。ゴッチがいないのに始めてどうするんだ?と思っていると、シモリョーを含めたゴッチレスの4人編成の演奏で、喜多がメインボーカルの「タイムトラベラー」(「Re:Re:」のカップリングに収録)、
「期せずして20周年みたいな歌詞になった」
と自己分析した「八景」(「ブラッドサーキュレーター」のカップリングに収録)という、今年リリースされた、ある意味最新形と言える曲たちでそのハイトーンなボーカルを響かせる。やはりゴッチとまるっきりタイプは違うというか、高音コーラスに適したタイプの声と言えるが、サウンド自体はアジカンそのものでしかない(かつての「嘘とワンダーランド」とかよりも)だけに、もはやゴッチだけでなくメンバー全員が、アジカンの曲を作る上では完全に意思統一されているように思える。
ゴッチがステージに合流すると、
「ここからは撮影OKみたいです」
と写真撮影が許可されて、慌てて携帯を探す観客を見て即興で
「携帯を探せ~」
と歌ってから始まったのは、「海岸通り」同様にストリングス隊が加わり、スクリーンに歌詞が次々に映し出された「さよならロストジェネレイション」。ベストアルバムリリース時の武道館ライブなど、大事なワンマンなどではこうして終盤に演奏されることが多い曲だが、時代を切り取ったような歌詞の曲であっても、リリースされた「マジックディスク」期に聴いても今聴いても歌詞に違和感が全くないというか、常に「今」の状況を歌っているかのように
「「暗いね」って切なくなって
「辛いね」ってそんなこと言わないで
「暗いね」って君が嘆くような時代なんて
今日でやめにしよう」
というフレーズが刺さる。結局、日本の状況は当時と何も変わってないんじゃないかと思うように。
そしてラストに演奏されたのは、まさかのこの曲でストリングスバージョンをやるかという「新世紀のラブソング」。しかしこれが冒頭のポエトリーリーディングからサビの一気に飛翔していく部分をさらに壮大に仕上げていて、実にハマっていた。この曲をこうしたアレンジにするというのが本当にさすがとしか言いようがない。スクリーンには開演前に映し出されていた、立体的な映像が映し出され、まるでライブ前に戻ったかのようだった。
演奏を終えるとシモリョーを含めた5人が前に並んで肩を組み、ゴッチがそれぞれのメンバーを紹介。
「俺の紹介は…なくていい(笑)」
と言っていたゴッチは満面の笑みで両手でピースサインをしてからステージを去っていった。
この日、何より嬉しかったのは、こうしたゴッチの充実した表情や、ゴッチの言葉に潔が頷いたり、山田が笑っていたりと、メンバー同士の雰囲気の良さがステージから伝わってきたこと。かつてはどこかヒリヒリしたような雰囲気だったツアーも多々あったし、それを解消するために「マジックディスク」期は金澤ダイスケ(フジファブリック)、「ランドマーク」期は岩崎愛などのサポートメンバーがいたような感覚もあっただけに。
自分には高校時代に出会って、今の人生を決定づけた4つのバンドがいて。それは音楽に本当の意味で目覚めたきっかけになったGOING STEADY、洋楽を含めて様々な音楽の広がりを教えてくれたアジカン、歌詞の奥深さを教えてくれたスーパーカー、今のような人生を過ごす後押しをしてくれたELLEGARDENなのだが、アジカン以外がもうやっていない今、こうして変わらずにライブが見れるアジカンの存在は本当に頼もしいし、生きていく力をくれる。
横浜スタジアムの時も同じようなことを思ったが、アジカンの20年の歴史を作ってきた曲たちを、力強い演奏と歌、今だからできる演出で、同じようにアジカンをずっと聴いてきたたくさんの人たちと一緒に聴く。そして思うのは、アジカンと出会えて、こうして今でもライブが見れて本当に良かったということ。やっぱり、君じゃないとさ!
1.遥か彼方
2.センスレス
3.アンダースタンド
4.暗号のワルツ
5.ブラックアウト
6.君という花
7.粉雪
8.マーチングバンド
9.踵で愛を打ち鳴らせ
10.今を生きて
11.E
12.スタンダード
13.ブラッドサーキュレーター
14.月光
15.振動覚
16.リライト
17.ループ&ループ
18.君の街まで
19.マイワールド
20.夜の向こう
21.ラストシーン
22.サイレン
23.Re:Re:
24.24時
25.真夜中と真昼の夢
26.海岸通り
encore
27.ソラニン (弾き語り)
28.Wonder Future (弾き語り)
29.タイムトラベラー
30.八景
31.さよならロストジェネレイション
32.新世紀のラブソング
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