クリープハイプ 「熱闘世界観」 -10回表 東京- @Zepp Tokyo 11/9
- 2016/11/10
- 00:23
今年は尾崎世界観が自伝的小説「祐介」で小説家デビューを果たし、バンドでも新境地を切り開いたアルバム「世界観」をリリースした、クリープハイプ。その「世界観」のリリースツアーは初日の富山が1回表、ファイナルの仙台が12回裏になるという計24本の、野球大好きな尾崎(ヤクルトの大ファン)ならではのサブタイトルがついたもの。物販では野球のユニフォーム仕様のシャツやベースボールキャップも並んでいるが、なんといっても「世界観」をライブでどう見せて聴かせるかというのがこのツアーの最大の焦点である。
19時を過ぎるとBGMが徐々に大きくなって会場が暗転。すると明らかに野球のウグイス嬢のような声で「クリープハイプの熱闘世界観のスターティングメンバーを紹介します」というアナウンスが始まり、
「1番ドラム小泉拓」と最初に走って登場した小泉は客席に向かって投げキス、
「2番ベース長谷川カオナシ」とやはり元気良く登場したカオナシはハイキック、
「3番ギター小川幸慈」といつものようにハットを被ってフォーマルな出で立ちの小川は中軸バッターらしいフルスイング、
「4番ボーカル尾崎世界観」と普通に出てきた尾崎が
「こういうこと言うのは恥ずかしいんだけど、今日が32歳の誕生日です。これまでの31年間全てをかけた最高のライブにします」
とこの日のライブがバースデーライブであることを発表して、「世界観」の1曲目でありメジャー1stフルアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」収録の「手と手」の続編である「手」からスタートし、そのまま「手と手」に繋がるという歓声が起こらないわけがない流れをいきなり組んでくるので客席は早くも沸騰していくのだが、やはり尾崎は冒頭はかなり喉がキツそうで、特に声を張るような部分はあまり声が出ていない。ただワンマンにおいてはこれはもう慣れたものであるが。
「会いたいから会いにきたんだよ」
と言って演奏されたアニメのタイアップ曲である「アイニー」は素直なラブソングではあるが、「会いに」と中国語で「愛してる」という意味のタイトル「アイニー」とのダブルミーニングが秀逸な曲。
「みんなの寝癖が見たいんだよ。気取ってる姿じゃなくてそのままが見たいんだよ」
と言って演奏されたのはもちろん「寝癖」だが、「左耳」のようなストレートなクリープハイプの名曲を作りたくて作ったと尾崎が語っていたこの曲に続けて「左耳」が演奏されるというのは冒頭の「手」→「手と手」という流れ同様に、バンドの変わらない部分を感じさせてくれた。
尾崎がギターを置いて、ハードなサウンドの中で凄まじい言葉数を乱射する「テレビサイズ」からは毒や皮肉の部分も徐々に顔を出してくる。
これまでのライブで幾度となくクライマックスを担ってきた「HE IS MINE」もまだ序盤と言えるこのタイミングで演奏され、例のコール前の間奏では
「この行為があるからこそ生まれてきたと思ってます」
という誕生日ならではの煽りからの「セックスしよう!」の大合唱。
カオナシが
「まだ前半ですけどすでに最高ですね。みなさんと我々が作るこの空気、しっかり覚えて帰ってくださいね」
と相変わらず飄々としたMCをすると尾崎に
「いきなり俺よりも世界観を出すな(笑)」
となぜか怒られながら、このタイミングで演奏されたのが実に意外な、素直な心境をさらけ出した「さっきはごめんね、ありがとう」からカオナシがメインボーカルのシュールな歌詞が実にカオナシらしい「かえるの唄」へ。
さらに自身のヒット曲「憂、燦々」のオマージュとも言えるタイトルの「炭、酸々」では爽やかなサウンドに合わせたようにステージの両サイドから無数のシャボン玉が舞う。基本的にライブの演出は照明以外にほとんどないこのバンドからすると実に珍しい場面である。また、
「消えてしまうそうだ」「変われそうだ」
というサビの最後のフレーズが炭酸がテーマということで「ソーダ」にかかっているあたりの尾崎の作家性は素晴らしいものがあるし、普通なら逆に喉を消耗して声が出なくなってきてもおかしくないこの辺りの後半から一気に声に伸びが出てくるのはどうなっているのだろうか。
そして後半は「世界観」で獲得した新たなクリープハイプの音楽を存分に味あわせてくれる。その筆頭となるのがカオナシがピアノで尾崎がギターを弾かずにマイクスタンドを握りしめて歌うという編成のラブソング「5%」。
「この気持ちは一番搾りでも 君の気持ちはスーパードライ」
というアルコール度数の5%に合わせた歌詞もやはり秀逸極まりないが、サウンドがまるっきりこれまでのラブソングとは違うだけに目にも耳にも実に新鮮。どこか酒を飲みつつゆらゆらと揺れながら聴きたくなる曲というのもこれまではあまりなかった。
尾崎の弾き語りのような歌い出しから始まるというライブならではのアレンジが施された「誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる」、イントロの小川のギターサウンドが不穏さを駆り立てる「けだものだもの」、「かえるの唄」同様にカオナシならではのシュールな歌詞でしっかりと自身の世界観を確立している「キャンバスライフ」と「5%」から一転してツアーで鍛えあげられたバンドサウンドを響かせる「世界観」の曲が続くと、このバンドの存在を一躍シーンに知らしめた「オリコン初登場7位の」メジャーデビューシングル曲「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」をセンチメンタルかつソリッドなサウンドで鳴らし、
「あまりにもディスられるんで、バンドに対する悪口を集めた展示会をやってます(笑)
よくこんなこと思いつくよなぁってのがいっぱいあるんだけど。例えば「アナルにバイブが刺さってる声」みたいな(笑)
みなさんはアナルにバイブが刺さってる声の歌を聴きにきてるんですよ(笑)」
と尾崎が自身の声を自虐してから始まったのはもちろん
「もっと普通の声で歌えばいいのに」
と声に対するディスを利用するかのようなフレーズを曲に入れた「社会の窓」。
「でもどうしてもあんな声しか出せないからあんな声で歌ってるんなら
可哀想だからもう少し我慢して聴いてあげようかなって余計なお世話だよ」
の後の「ばーか!」は直前のMCがあったからかいつもよりも感情がこもっていたように感じた。
そして「世界観」の中で最大の新境地と言っていいのがラッパーのチプルソをフィーチャーした「TRUE LOVE」なのだが、やはりこの日はゲストとしてサングラスをかけ、いかにもラッパーらしい出で立ちのチプルソがステージに。出てきていきなりフリースタイルをかますと、尾崎の
「16小節の中でカッコよくラップを決めたら曲に入りますけど、カッコ良くなかったらこのまま帰ってもらいます(笑)」
という無茶振りに応え、小泉のビートにあわせて「るろうに剣心」や「ドラクエ」のワードを多数取り入れたラップを披露し、見事に合格してそのまま入った曲でも独特のリズムに乗せた斬れ味鋭い言葉を次々に放っていく。まさかクリープハイプのライブにゲストボーカル、しかもラッパーが参加することになるなんて全く想像しなかったことがこうして現実になっている。
「いやー、鬼カッコよかったですね~」
と尾崎がチプルソを讃えてから始まったのは当然「鬼」。シングルとしては最新曲であり、ブラックミュージックのリズムとグルーヴを導入したこの曲の時点で「世界観」がこうした新機軸のアルバムになるのは当然だったと言えるかもしれない。
クリープハイプはライブのテンポが非常に良く、曲によっては尾崎や小川は楽器の交換を曲のアウトロで行なったりもしているのだが、この日1番長いこの「鬼」終わりの時間に観客から様々な歓声が飛び交い、ついには尾崎に向けた「ハッピーバースデー」の大合唱にまで発展。観客が歌ってる最中に合わせたかのように水を飲む尾崎とカオナシ。
「今から真面目な曲をやろうとしてるのにそうやってやりにくい空気にして…」
とペースを崩されて苛立っているのかと思いきや、
「めちゃくちゃ嬉しいだろ!ありがとうございます」
と素直に祝ってもらったことに感謝を告げる。そして
「バンドをやってても良くないことばかり頭に浮かんでしまう。さっきあそこダメだったな、とか。でもそうやって思うから次に繋がるし、それがバンドを続ける理由になるのかなって。で、あなたたちもその理由の一つになってください。今日は来てくれてありがとうございます」
と祝ってくれたことに加えてこうしてライブを見に来てくれたことにも最大限の感謝を告げてアコギを爪弾きながら歌い出したのは「僕は君の答えになりたいな」。サウンド的には「世界観」の中ではやや地味めな曲ではあるが、これほど直前のMCの後に演奏されるのに似つかわしいタイトルの曲はない。
そして本編最後に演奏されたのは「世界観」という尾崎の芸名を冠したアルバムの最後に収録されている「バンド」。この日中盤に演奏された
「さっきはごめんね いつもありがとうね
そんなこと歌じゃなくても言えますように」
と歌われた「さっきはごめんね、ありがとう」、前作の最後に収録された
「あーなんかもう恥ずかしい位いけるような気がしてる
ずっと誰にも言わなかったけど 今なら言える」
と歌った「二十九、三十」に続いて、ひねくれまくりな尾崎が素直に心の中の気持ちを歌詞にした曲だが、この曲ではその対象が
「ギターもベースもドラムも全部 うるさいから消してくれないか
今はひとりで歌いたいから 少し静かにしてくれないか
こんなことを言える幸せ 消せるということはあるということ
そしてまた鳴るということ いつでもすぐにバンドになる」
と、シーンで最もディスられているバンドと言ってもいいこのバンドのメンバーであり続けてくれている、横と後ろにいる3人に対してのものになっている。
当時、友達からクリープハイプという「バンド」の存在を聞いていたが、歌詞にある、アンコールでこの3人が正式にメンバーになることが発表された「2009年11月16日」のライブを自分は見ていない。そんな自分ですら感動してしまうんだから、その日のライブを見ていた人がライブで実際にこの曲を聴いたらどんな心境になるんだろうか。そんな様々な思念を巡らせながらこの曲を聴いていたら、なぜだか涙が出てきた。クリープハイプのライブでこんな感情になるのは間違いなく初めてのことだった。
そんな感動の余韻に浸りながら、アンコールで再びメンバーが登場すると、東京出身の尾崎がこの東京が帰ってきたと実感できる場所であることを語り、カオナシのコーラスにより爽やかかつ柔らかなラブソングというイメージのある「ボーイズENDガールズ」から、
「こうやって新曲を作ってライブをやる。これが本当に幸せ。これだけでいいってくらいに幸せ。こういうこと言うとニュースサイトに「尾崎世界観、ステージで幸せを語る!」みたいに書かれるんだろうけど(笑)」
と最後はやはり持ち前のひねくれぶりを出しながら演奏されたのはバンドの代表曲にして屈指の名曲「イノチミジカシコイセヨオトメ」。まるで延長戦に突入した直後に出てきた代打の切り札が放った決勝ホームランのような、鮮やかなラストだった。
メンバーがステージから去ると、オープニングと同じようにウグイス嬢的なアナウンスが。
「今日の試合はこれで終了です。これからもクリープハイプはあなたの心のストライクゾーン目掛けて全力投球していきますので応援よろしくお願いします」
と最後の最後まで洒落ていたし、このセンスが本当にさすがだ、と思った。
前作までの2枚はインディーズ時代から「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」までと同じやり方でそれを超えようとしていたけどやっぱり超えられてなかった。結局作為は衝動には勝てない。「死ぬまで一生~」までには作為はなく、衝動があった。しかし狙って作った前2作には逆に衝動よりも作為が優っていた。
そんなこのまま右肩下がりになってもおかしくない状況の中でリリースされた「世界観」が素晴らしいと感じるのは、これまでと違うやり方で新たなバンドの到達点を刻んだところ。今までとは到達点に行くまでの乗り物もルートも全く違う。しかしながら尾崎の天性のメロディと歌詞の良さは決して失われない。こういうアルバムが作れる限り、自分はまだまだクリープハイプの音楽にワクワクできる。つまり、やっぱり「今を愛してる」。
1.手
2.手と手
3.アイニー
4.リバーシブルー
5.寝癖
6.左耳
7.テレビサイズ (TV size)
8.HE IS MINE
9.身も蓋もない水槽
10.さっきはごめんね、ありがとう
11.かえるの唄
12.炭、酸々
13.百八円の恋
14.5%
15.誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる
16.けだものだもの
17.キャンバスライフ
18.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
19.社会の窓
20.TRUE LOVE
21.鬼
22.僕は君の答えになりたいな
23.バンド
encore
24.ボーイズENDガールズ
25.イノチミジカシコイセヨオトメ
鬼
https://youtu.be/TEviDZgKl1w
Next→ 11/12 Czecho No Republic @Zepp DiverCity
19時を過ぎるとBGMが徐々に大きくなって会場が暗転。すると明らかに野球のウグイス嬢のような声で「クリープハイプの熱闘世界観のスターティングメンバーを紹介します」というアナウンスが始まり、
「1番ドラム小泉拓」と最初に走って登場した小泉は客席に向かって投げキス、
「2番ベース長谷川カオナシ」とやはり元気良く登場したカオナシはハイキック、
「3番ギター小川幸慈」といつものようにハットを被ってフォーマルな出で立ちの小川は中軸バッターらしいフルスイング、
「4番ボーカル尾崎世界観」と普通に出てきた尾崎が
「こういうこと言うのは恥ずかしいんだけど、今日が32歳の誕生日です。これまでの31年間全てをかけた最高のライブにします」
とこの日のライブがバースデーライブであることを発表して、「世界観」の1曲目でありメジャー1stフルアルバム「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」収録の「手と手」の続編である「手」からスタートし、そのまま「手と手」に繋がるという歓声が起こらないわけがない流れをいきなり組んでくるので客席は早くも沸騰していくのだが、やはり尾崎は冒頭はかなり喉がキツそうで、特に声を張るような部分はあまり声が出ていない。ただワンマンにおいてはこれはもう慣れたものであるが。
「会いたいから会いにきたんだよ」
と言って演奏されたアニメのタイアップ曲である「アイニー」は素直なラブソングではあるが、「会いに」と中国語で「愛してる」という意味のタイトル「アイニー」とのダブルミーニングが秀逸な曲。
「みんなの寝癖が見たいんだよ。気取ってる姿じゃなくてそのままが見たいんだよ」
と言って演奏されたのはもちろん「寝癖」だが、「左耳」のようなストレートなクリープハイプの名曲を作りたくて作ったと尾崎が語っていたこの曲に続けて「左耳」が演奏されるというのは冒頭の「手」→「手と手」という流れ同様に、バンドの変わらない部分を感じさせてくれた。
尾崎がギターを置いて、ハードなサウンドの中で凄まじい言葉数を乱射する「テレビサイズ」からは毒や皮肉の部分も徐々に顔を出してくる。
これまでのライブで幾度となくクライマックスを担ってきた「HE IS MINE」もまだ序盤と言えるこのタイミングで演奏され、例のコール前の間奏では
「この行為があるからこそ生まれてきたと思ってます」
という誕生日ならではの煽りからの「セックスしよう!」の大合唱。
カオナシが
「まだ前半ですけどすでに最高ですね。みなさんと我々が作るこの空気、しっかり覚えて帰ってくださいね」
と相変わらず飄々としたMCをすると尾崎に
「いきなり俺よりも世界観を出すな(笑)」
となぜか怒られながら、このタイミングで演奏されたのが実に意外な、素直な心境をさらけ出した「さっきはごめんね、ありがとう」からカオナシがメインボーカルのシュールな歌詞が実にカオナシらしい「かえるの唄」へ。
さらに自身のヒット曲「憂、燦々」のオマージュとも言えるタイトルの「炭、酸々」では爽やかなサウンドに合わせたようにステージの両サイドから無数のシャボン玉が舞う。基本的にライブの演出は照明以外にほとんどないこのバンドからすると実に珍しい場面である。また、
「消えてしまうそうだ」「変われそうだ」
というサビの最後のフレーズが炭酸がテーマということで「ソーダ」にかかっているあたりの尾崎の作家性は素晴らしいものがあるし、普通なら逆に喉を消耗して声が出なくなってきてもおかしくないこの辺りの後半から一気に声に伸びが出てくるのはどうなっているのだろうか。
そして後半は「世界観」で獲得した新たなクリープハイプの音楽を存分に味あわせてくれる。その筆頭となるのがカオナシがピアノで尾崎がギターを弾かずにマイクスタンドを握りしめて歌うという編成のラブソング「5%」。
「この気持ちは一番搾りでも 君の気持ちはスーパードライ」
というアルコール度数の5%に合わせた歌詞もやはり秀逸極まりないが、サウンドがまるっきりこれまでのラブソングとは違うだけに目にも耳にも実に新鮮。どこか酒を飲みつつゆらゆらと揺れながら聴きたくなる曲というのもこれまではあまりなかった。
尾崎の弾き語りのような歌い出しから始まるというライブならではのアレンジが施された「誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる」、イントロの小川のギターサウンドが不穏さを駆り立てる「けだものだもの」、「かえるの唄」同様にカオナシならではのシュールな歌詞でしっかりと自身の世界観を確立している「キャンバスライフ」と「5%」から一転してツアーで鍛えあげられたバンドサウンドを響かせる「世界観」の曲が続くと、このバンドの存在を一躍シーンに知らしめた「オリコン初登場7位の」メジャーデビューシングル曲「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」をセンチメンタルかつソリッドなサウンドで鳴らし、
「あまりにもディスられるんで、バンドに対する悪口を集めた展示会をやってます(笑)
よくこんなこと思いつくよなぁってのがいっぱいあるんだけど。例えば「アナルにバイブが刺さってる声」みたいな(笑)
みなさんはアナルにバイブが刺さってる声の歌を聴きにきてるんですよ(笑)」
と尾崎が自身の声を自虐してから始まったのはもちろん
「もっと普通の声で歌えばいいのに」
と声に対するディスを利用するかのようなフレーズを曲に入れた「社会の窓」。
「でもどうしてもあんな声しか出せないからあんな声で歌ってるんなら
可哀想だからもう少し我慢して聴いてあげようかなって余計なお世話だよ」
の後の「ばーか!」は直前のMCがあったからかいつもよりも感情がこもっていたように感じた。
そして「世界観」の中で最大の新境地と言っていいのがラッパーのチプルソをフィーチャーした「TRUE LOVE」なのだが、やはりこの日はゲストとしてサングラスをかけ、いかにもラッパーらしい出で立ちのチプルソがステージに。出てきていきなりフリースタイルをかますと、尾崎の
「16小節の中でカッコよくラップを決めたら曲に入りますけど、カッコ良くなかったらこのまま帰ってもらいます(笑)」
という無茶振りに応え、小泉のビートにあわせて「るろうに剣心」や「ドラクエ」のワードを多数取り入れたラップを披露し、見事に合格してそのまま入った曲でも独特のリズムに乗せた斬れ味鋭い言葉を次々に放っていく。まさかクリープハイプのライブにゲストボーカル、しかもラッパーが参加することになるなんて全く想像しなかったことがこうして現実になっている。
「いやー、鬼カッコよかったですね~」
と尾崎がチプルソを讃えてから始まったのは当然「鬼」。シングルとしては最新曲であり、ブラックミュージックのリズムとグルーヴを導入したこの曲の時点で「世界観」がこうした新機軸のアルバムになるのは当然だったと言えるかもしれない。
クリープハイプはライブのテンポが非常に良く、曲によっては尾崎や小川は楽器の交換を曲のアウトロで行なったりもしているのだが、この日1番長いこの「鬼」終わりの時間に観客から様々な歓声が飛び交い、ついには尾崎に向けた「ハッピーバースデー」の大合唱にまで発展。観客が歌ってる最中に合わせたかのように水を飲む尾崎とカオナシ。
「今から真面目な曲をやろうとしてるのにそうやってやりにくい空気にして…」
とペースを崩されて苛立っているのかと思いきや、
「めちゃくちゃ嬉しいだろ!ありがとうございます」
と素直に祝ってもらったことに感謝を告げる。そして
「バンドをやってても良くないことばかり頭に浮かんでしまう。さっきあそこダメだったな、とか。でもそうやって思うから次に繋がるし、それがバンドを続ける理由になるのかなって。で、あなたたちもその理由の一つになってください。今日は来てくれてありがとうございます」
と祝ってくれたことに加えてこうしてライブを見に来てくれたことにも最大限の感謝を告げてアコギを爪弾きながら歌い出したのは「僕は君の答えになりたいな」。サウンド的には「世界観」の中ではやや地味めな曲ではあるが、これほど直前のMCの後に演奏されるのに似つかわしいタイトルの曲はない。
そして本編最後に演奏されたのは「世界観」という尾崎の芸名を冠したアルバムの最後に収録されている「バンド」。この日中盤に演奏された
「さっきはごめんね いつもありがとうね
そんなこと歌じゃなくても言えますように」
と歌われた「さっきはごめんね、ありがとう」、前作の最後に収録された
「あーなんかもう恥ずかしい位いけるような気がしてる
ずっと誰にも言わなかったけど 今なら言える」
と歌った「二十九、三十」に続いて、ひねくれまくりな尾崎が素直に心の中の気持ちを歌詞にした曲だが、この曲ではその対象が
「ギターもベースもドラムも全部 うるさいから消してくれないか
今はひとりで歌いたいから 少し静かにしてくれないか
こんなことを言える幸せ 消せるということはあるということ
そしてまた鳴るということ いつでもすぐにバンドになる」
と、シーンで最もディスられているバンドと言ってもいいこのバンドのメンバーであり続けてくれている、横と後ろにいる3人に対してのものになっている。
当時、友達からクリープハイプという「バンド」の存在を聞いていたが、歌詞にある、アンコールでこの3人が正式にメンバーになることが発表された「2009年11月16日」のライブを自分は見ていない。そんな自分ですら感動してしまうんだから、その日のライブを見ていた人がライブで実際にこの曲を聴いたらどんな心境になるんだろうか。そんな様々な思念を巡らせながらこの曲を聴いていたら、なぜだか涙が出てきた。クリープハイプのライブでこんな感情になるのは間違いなく初めてのことだった。
そんな感動の余韻に浸りながら、アンコールで再びメンバーが登場すると、東京出身の尾崎がこの東京が帰ってきたと実感できる場所であることを語り、カオナシのコーラスにより爽やかかつ柔らかなラブソングというイメージのある「ボーイズENDガールズ」から、
「こうやって新曲を作ってライブをやる。これが本当に幸せ。これだけでいいってくらいに幸せ。こういうこと言うとニュースサイトに「尾崎世界観、ステージで幸せを語る!」みたいに書かれるんだろうけど(笑)」
と最後はやはり持ち前のひねくれぶりを出しながら演奏されたのはバンドの代表曲にして屈指の名曲「イノチミジカシコイセヨオトメ」。まるで延長戦に突入した直後に出てきた代打の切り札が放った決勝ホームランのような、鮮やかなラストだった。
メンバーがステージから去ると、オープニングと同じようにウグイス嬢的なアナウンスが。
「今日の試合はこれで終了です。これからもクリープハイプはあなたの心のストライクゾーン目掛けて全力投球していきますので応援よろしくお願いします」
と最後の最後まで洒落ていたし、このセンスが本当にさすがだ、と思った。
前作までの2枚はインディーズ時代から「死ぬまで一生愛されてると思ってたよ」までと同じやり方でそれを超えようとしていたけどやっぱり超えられてなかった。結局作為は衝動には勝てない。「死ぬまで一生~」までには作為はなく、衝動があった。しかし狙って作った前2作には逆に衝動よりも作為が優っていた。
そんなこのまま右肩下がりになってもおかしくない状況の中でリリースされた「世界観」が素晴らしいと感じるのは、これまでと違うやり方で新たなバンドの到達点を刻んだところ。今までとは到達点に行くまでの乗り物もルートも全く違う。しかしながら尾崎の天性のメロディと歌詞の良さは決して失われない。こういうアルバムが作れる限り、自分はまだまだクリープハイプの音楽にワクワクできる。つまり、やっぱり「今を愛してる」。
1.手
2.手と手
3.アイニー
4.リバーシブルー
5.寝癖
6.左耳
7.テレビサイズ (TV size)
8.HE IS MINE
9.身も蓋もない水槽
10.さっきはごめんね、ありがとう
11.かえるの唄
12.炭、酸々
13.百八円の恋
14.5%
15.誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる
16.けだものだもの
17.キャンバスライフ
18.おやすみ泣き声、さよなら歌姫
19.社会の窓
20.TRUE LOVE
21.鬼
22.僕は君の答えになりたいな
23.バンド
encore
24.ボーイズENDガールズ
25.イノチミジカシコイセヨオトメ
鬼
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第55回東邦祭 ARTIST LIVE 2016 出演:フレデリック @東邦大学スポーツアリーナ2F 11/6