銀杏BOYZ 特別公演 「東京の銀杏好きの集まり」 @中野サンプラザ 8/17
- 2016/08/18
- 16:06
今年、およそ8年ぶりの全国ツアーを開催している、銀杏BOYZ。Zepp DiverCityから始まり、全国を周ってきた最後は追加公演的な位置になる、中野サンプラザでのワンマン。ツアーとは異なるタイトルが冠されているだけに、否が応でも期待は膨らむ。ホールで銀杏BOYZのライブを見るのは、2005年のアルバムリリース直後の、峯田和伸が自身のメールアドレスを公開してしまった渋谷公会堂ワンマン以来。
やたらと音量が大きい開演前のBGMが流れる中、19時になるとスクリーンがステージに降りてきて、そこにラーメンを食べている峯田の姿が映し出される。どうやらツアーの札幌でのライブ後の姿のようだ。ラーメン屋を出てから峯田は札幌の街を歩いているのだが、峯田に気付いて声をかけてきた人たちと気さくに会話に応じたり、一緒に写真を撮ったりしている。銀杏BOYZをずっと聴いていた若者が話しかける中、年配の男性が「NHKの奇跡の人、見てたよ!」と峯田が主演したドラマを見ていたと言って握手を申し出る場面は、未だにテレビの力がどんなメディアよりも大きなことを実感させられる。もちろんそれはドラマ自体が、峯田が主演でなければならない理由しかない、素晴らしい内容だったということもあるからだが。
映像が終わるや否や、場内に響く
「君が泣いてる夢を見たよ」
という峯田の歌声。しかしステージには峯田はおらず、声のする方向を探していると、なんと客席の扉の前に白いTシャツに短パンの峯田の姿が。客席の通路を練り歩き、通路側にいる観客にもみくちゃにされながらステージまでたどり着くと、
「まわる まわる ぐるぐるまわる」
のフレーズで峯田が客席にマイクを向けると大合唱が起こる。ライブハウスではなくてホールということでやや客席にはいつもと違った緊張感というか、遠慮みたいなものも見られたが。
弾き語りでの「人間」を終えると、
「一ヶ月半、ツアー周って東京に帰ってきました。8年ぶりの全国ツアーで、「待ってたよー!」とか「死ねー!」って言ってくれる人がいて(笑)
札幌とか名古屋なんてなかなか行く機会がないんだけど、本当に行って良かったなって思っていて。そこで待っててくれた人たちから受け取ったものを、今日は俺がまたみなさんに返したいと思います。
でもツアーをやって思ったのは、俺はずっとこのままなんだろうなって。こうして曲を作って歌っていく。綺麗な歌ばかり作ったりはしないと思うけど、ずっとそうやって生きていこうと思ってます。
俺は西中野っていうところに住んでるんだけど、中野サンプラザは近くていいなぁって(笑)」
と、1人になってから初めての全国ツアーで銀杏BOYZが来るのをずっと待っていた人たちの姿から大きな力をもらったこと、近所であるこの会場でライブができることの幸せを語り、そのまま「生きたい」を歌い始める。スクリーンには歌う峯田の姿。途中で山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、後藤大樹(ドラム)というもはやお馴染みとなったバンドメンバーたちがステージに登場すると、山本の轟音ギターを中心とした、どしゃめしゃなバンドサウンドに移行。ちなみにこの冒頭の2曲が終わるまででおそらく30分くらいは費やしているという、普通のバンドではそうそうないくらいに初っ端から重い展開である。
そのまま峯田がギターを持ち、激しいパンクサウンドの「若者たち」へ。ツアーでは毎回序盤に演奏されていた曲だが、DiverCityと名古屋で見てきたのと違うのは、本来なら曲が終わるタイミングで峯田がもう一回サビを追加して歌い始めたこと。もしかしたらそういうアレンジに変えたという可能性もあるが、袖にいたスタッフがその瞬間にみんな手を叩きながら笑っていたので、急遽そうしたという可能性が高い。だとしたらそのアドリブに実に自然な形でついていけるこのメンバーの技量はやはりすごいものがある。
今年からライブではおなじみになりつつある、GOING STEADY時代の「DON'T TRUST OVER THIRTY」のこのメンバーでのノイズパンクアレンジバージョン「大人全滅」では峯田がハンドマイクで歌いながら客席に突入。もみくちゃにされながら客席の椅子の上に立ち、まるでライブハウスでダイブするかのようにその峯田に飛びかかっていく観客たち。ホールでライブをやる上で決して行儀がいいとは言えない光景だが、かつての4人時代の銀杏BOYZのライブは、何が起こるかわからないスリルに満ち溢れていた。だからこそ峯田は骨折したり流血したりしていた(今回のツアーでも足を骨折したらしいが)。その、銀杏BOYZのライブだからこそのたまらないスリルが、バンドになったこととこのメンバーでライブを重ねてきたことによって、少しずつであるが戻ってきつつある。
峯田がステージに戻るとバンドメンバーがいったんステージから去り、アコギを手にすると、
「高校卒業して、山形から千葉に行く時に母親の車で家から駅に行こうとしてて。もうこの街ともお別れか~って思ってたら、車の窓を叩く音がして。近所に住むたかしくんだったんだけど、弟のスケボー友達みたいな感じの人で、俺は全然話したこともなかったんだけど、たかしくんがいきなりアコギを俺にくれて。ケースとかなんもないこのままで。今でもたかしくんがなんで俺にくれたのかはわからないけど、その後にそのアコギで俺はたくさん曲を作ってきた。20年前に作ったこの曲も」
と、峯田が音楽を始めた原点ともいうべき話をしてから弾き語りで歌い始めたのは、GOING STEADY初期からずっとファンに愛されてきた「YOU & I」。弾き語りという形態なのでシンプルそのもの、
「君と僕は永遠に 手と手つなぎどこまでも」
という今の銀杏BOYZからしたらストレート過ぎる歌詞もスッと耳の中に入ってくる。
さらに
「この中野から中央線に乗ってすぐのところにある高円寺っていう駅。俺にとっては1番思い出深い場所で。今でもこの曲を歌うとその時のことを思い出してしまうんだけど、最後まで歌いたいと思います」
と言って、ここも弾き語りで「佳代」。ちょっと歌につまるようなところもあったから、やはり色々と歌っていてこみ上げるようなものもある曲だと思うが、本人がこの曲によって高円寺にいた時のことを思い出すのと同じように、この曲を聴いていると、GOING STEADYの「さくらの唄」がリリースされて、そればっかりずーっと聴いていた高校生の頃を思い出して、やはり色々とこみ上げてきてしまう。紛れもなく1人の人間に対して作った曲が、自分を含めてたくさんの人の人生の中で大切な存在になっているということを実感させられる。それはもちろんこの曲が超がつくくらいでは足りないくらいの名曲だから。
そのまま弾き語りで歌い始めた「べろちゅー」では再び途中でバンドが合流するのだが、「若者たち」と同じように最後にサビをもう一回追加し、
「生まれてこなければ良かったと思った時もあったけど でも生きてて良かったよ」
というサビのフレーズが、この特別な時間だからこそ一層説得力を増す。
峯田主演ドラマ「奇跡の人」のエンディングで流れていたポップな新曲「骨」(もともとは安藤裕子に提供された曲)を軽快なバンドサウンドアレンジで演奏すると、
「俺が夢の中で何度あなたを抱きしめたか、あなたはどうせ知らないでしょう」
と、「BABY BABY」のアウトロの英語のフレーズの日本語訳を口にしながらギターをかき鳴らしていたので、てっきり「BABY BABY」をやるものかと思っていたが、「夢の中で」という単語があったからか、演奏されたのは「夢で逢えたら」。ここからの曲はこれまでよりさらにバンド感を増していく。
「死にたくない、死にたくない、あいどんわなだい!」
と呟くようにして始まった「I DON'T WANNA DIE FOREVER」では、かつてandymori時代に超人ドラマーの1人として衝撃的な手数の多さを見せていた後藤のドラムが真価をフルに発揮する凄まじさ。ある意味ではこの形がこの曲の演奏の完成系と言えるのかもしれない。当然サビでは
「イエス!イエス!イエス!イエス!イエス!」
の大合唱。
「この曲を中野で歌えるのが本当に嬉しい」
と言って演奏された「BABY BABY」では追加されたサビでやはり大合唱が起こる。ライブ開始当初はホールならではの遠慮みたいなものもあったが、ここまでくると全くそういった感じはない、いつもの銀杏BOYZのライブそのものである。こうして銀杏BOYZが好きで好きでしょうがない人たちと一緒にこの曲を歌えるというのはこの上なく幸せであるということをこの曲をライブで聴くと改めて実感する。
峯田がギターを置いてタンバリンを手にして叩きながら歌う「漂流教室」から、スクリーンの代わりにステージの後ろに夜空の星のようなたくさんの小さな電球がきらめき、途中で照明が真っ暗になると客席の頭上にあるミラーボールが回る「新訳 銀河鉄道の夜」は
「中央線を乗り換え 中野駅で降ります」
と、まるで最初からこの場所、この会場で歌われるためにこの歌詞になったかのように、演出も含めて美しく響く。
「人間」「生きたい」とは対照的にバンド編成で演奏された「光」では途中からギターを置いてハンドマイクで歌う峯田がステージ上を転がりまわりながら歌う。序盤からやっていたマイクで自らの頭を叩くのもやめない。
この4人でのバンドでのテーマソングと言えるくらいにこの編成で演奏されるのが説得力を持つ「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を終えると、
「どんだけ覚せい剤やったっていい。援助交際してもいい。リストカットしてもいい。生きていてくれ。どんな手を使ってでも生き延びてくれ。そうすればまた会えるから。
フェスとかも出るけど、また新曲作ってアルバム出して、またライブやるから。銀杏BOYZ好きな人だけがこうやって集まって、そこで歌えて本当に嬉しかった」
と、峯田なりの言葉で再会を約束し、最後にメンバー紹介もしての「僕たちは世界を変えることができない」を演奏し、晴れやかな表情を見せながらメンバー4人が揃ってステージを去って行った。
アンコールで再び4人が揃って登場すると、この中野サンプラザが取り壊されることについて触れ、
「いろんなライブをここで見てきたけど、1番印象に残ってるのは、フジファブリックの志村くんが亡くなった時にここで葬儀をやって。ステージに祭壇みたいなのを作ってたんだけど、それに俺も行ってさ。寂しいけどね。
でもここがなくなったら1万人規模のライブ会場ができるんだって。そこができたら、そこでもライブやりたいな」
とこの会場での思い出を語った。なくなっていく場所、いなくなっていく人。銀杏BOYZだって、いつかはなくなってしまう。見れなくなる時が必ずくる。それがわかっているから、こうしてライブを見れるうちはずっとライブを見続けていたい。
そして演奏されたのはまさかの「夜王子と月の姫」。原曲に忠実なアレンジのままだが、「9月の11日」を「3月の11日」に変えて歌った。この日も峯田は少し震災に触れたMCをしていたが、あの日が峯田にとってどれだけ大きな出来事だったのかというのがよくわかる。
そのまま打ち込みも使った「ぽあだむ」。こちらは歌詞を「銀杏BOYZみたいにポップになれんだ」ととびきりポップな曲に乗せて歌う。後藤もアドリブのフレーズを多く挟んで、それに反応した山本と目を合わせながら笑う。実に楽しそうな姿。本当に銀杏BOYZは峯田とそのバックバンドではなく、今の4人でのバンドになってきている。
山本と後藤がステージから去ると、峯田と藤原の2人によるカラオケ状態での「愛してるってゆってよね」で合唱を誘って、この日のワンマンは幕を閉じた。
「東京の銀杏好きの集まり」というタイトルなだけに、「東京」は演奏されると思っていたが、まさかの演奏されず。しかし、この日はカメラが入っていたので、ライブは映像化されるだろうし、もしかしたら冒頭の映像もドキュメンタリーとしてセットになってパッケージされるのかもしれない。
自分は今まで「死にたい」とほとんど全く思ったことがない(銀杏BOYZのファンにはそういう思考の人もいるが)が、それは間違いなく高校生の時にGOING STEADYに出会い、メンバーが変わってしまっても、今に至るまで峯田和伸という男が歌い続けてきたから。(ライブを見れない期間も長かったけど)
だから「この人が歌っているうちは死にたくない」ってずっと思いながら生きてきたが、今では「この人が歌っているうちはなんとしてでも生き延びてやる」と思うようになった。微妙な変化だが、この変化は自分の中では非常に大きいものだと思っている。それはそういう峯田の言葉を実際に自分が目の前で聞いてきたからに間違いないが。
そしてこの日でこのメンバーでの銀杏BOYZは間違いなく一つの形になった。あの頃のような無茶苦茶さではなく、卓越した技術を持つメンバーによるしっかりとした演奏を聴かせるというバンドになったことによって。
来月にはBAYCAMPやサンボマスターとの対バンも控えているという状況が幸せで仕方がないが、果たしてそこではどんなライブを見せてくれるのだろうか。こんなに曲を聴く、ライブを見るのが人生そのものになっているのは、間違いなく銀杏BOYZだけ。これまでも、そしてこれからも。
1.人間
2.生きたい
3.若者たち
4.大人全滅
5.YOU & I
6.佳代
7.べろちゅー
8.骨
9.夢で逢えたら
10.I DON'T WANNA DIE FOREVER
11.BABY BABY
12.漂流教室
13.新訳 銀河鉄道の夜
14.光
15.ボーイズ・オン・ザ・ラン
16.僕たちは世界を変えることができない
encore
17.夜王子と月の姫
18.ぽあだむ
19.愛してるってゆってよね
Next→ 8/21 SUMMER SONIC @QVCマリンスタジアム&幕張メッセ
やたらと音量が大きい開演前のBGMが流れる中、19時になるとスクリーンがステージに降りてきて、そこにラーメンを食べている峯田の姿が映し出される。どうやらツアーの札幌でのライブ後の姿のようだ。ラーメン屋を出てから峯田は札幌の街を歩いているのだが、峯田に気付いて声をかけてきた人たちと気さくに会話に応じたり、一緒に写真を撮ったりしている。銀杏BOYZをずっと聴いていた若者が話しかける中、年配の男性が「NHKの奇跡の人、見てたよ!」と峯田が主演したドラマを見ていたと言って握手を申し出る場面は、未だにテレビの力がどんなメディアよりも大きなことを実感させられる。もちろんそれはドラマ自体が、峯田が主演でなければならない理由しかない、素晴らしい内容だったということもあるからだが。
映像が終わるや否や、場内に響く
「君が泣いてる夢を見たよ」
という峯田の歌声。しかしステージには峯田はおらず、声のする方向を探していると、なんと客席の扉の前に白いTシャツに短パンの峯田の姿が。客席の通路を練り歩き、通路側にいる観客にもみくちゃにされながらステージまでたどり着くと、
「まわる まわる ぐるぐるまわる」
のフレーズで峯田が客席にマイクを向けると大合唱が起こる。ライブハウスではなくてホールということでやや客席にはいつもと違った緊張感というか、遠慮みたいなものも見られたが。
弾き語りでの「人間」を終えると、
「一ヶ月半、ツアー周って東京に帰ってきました。8年ぶりの全国ツアーで、「待ってたよー!」とか「死ねー!」って言ってくれる人がいて(笑)
札幌とか名古屋なんてなかなか行く機会がないんだけど、本当に行って良かったなって思っていて。そこで待っててくれた人たちから受け取ったものを、今日は俺がまたみなさんに返したいと思います。
でもツアーをやって思ったのは、俺はずっとこのままなんだろうなって。こうして曲を作って歌っていく。綺麗な歌ばかり作ったりはしないと思うけど、ずっとそうやって生きていこうと思ってます。
俺は西中野っていうところに住んでるんだけど、中野サンプラザは近くていいなぁって(笑)」
と、1人になってから初めての全国ツアーで銀杏BOYZが来るのをずっと待っていた人たちの姿から大きな力をもらったこと、近所であるこの会場でライブができることの幸せを語り、そのまま「生きたい」を歌い始める。スクリーンには歌う峯田の姿。途中で山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、後藤大樹(ドラム)というもはやお馴染みとなったバンドメンバーたちがステージに登場すると、山本の轟音ギターを中心とした、どしゃめしゃなバンドサウンドに移行。ちなみにこの冒頭の2曲が終わるまででおそらく30分くらいは費やしているという、普通のバンドではそうそうないくらいに初っ端から重い展開である。
そのまま峯田がギターを持ち、激しいパンクサウンドの「若者たち」へ。ツアーでは毎回序盤に演奏されていた曲だが、DiverCityと名古屋で見てきたのと違うのは、本来なら曲が終わるタイミングで峯田がもう一回サビを追加して歌い始めたこと。もしかしたらそういうアレンジに変えたという可能性もあるが、袖にいたスタッフがその瞬間にみんな手を叩きながら笑っていたので、急遽そうしたという可能性が高い。だとしたらそのアドリブに実に自然な形でついていけるこのメンバーの技量はやはりすごいものがある。
今年からライブではおなじみになりつつある、GOING STEADY時代の「DON'T TRUST OVER THIRTY」のこのメンバーでのノイズパンクアレンジバージョン「大人全滅」では峯田がハンドマイクで歌いながら客席に突入。もみくちゃにされながら客席の椅子の上に立ち、まるでライブハウスでダイブするかのようにその峯田に飛びかかっていく観客たち。ホールでライブをやる上で決して行儀がいいとは言えない光景だが、かつての4人時代の銀杏BOYZのライブは、何が起こるかわからないスリルに満ち溢れていた。だからこそ峯田は骨折したり流血したりしていた(今回のツアーでも足を骨折したらしいが)。その、銀杏BOYZのライブだからこそのたまらないスリルが、バンドになったこととこのメンバーでライブを重ねてきたことによって、少しずつであるが戻ってきつつある。
峯田がステージに戻るとバンドメンバーがいったんステージから去り、アコギを手にすると、
「高校卒業して、山形から千葉に行く時に母親の車で家から駅に行こうとしてて。もうこの街ともお別れか~って思ってたら、車の窓を叩く音がして。近所に住むたかしくんだったんだけど、弟のスケボー友達みたいな感じの人で、俺は全然話したこともなかったんだけど、たかしくんがいきなりアコギを俺にくれて。ケースとかなんもないこのままで。今でもたかしくんがなんで俺にくれたのかはわからないけど、その後にそのアコギで俺はたくさん曲を作ってきた。20年前に作ったこの曲も」
と、峯田が音楽を始めた原点ともいうべき話をしてから弾き語りで歌い始めたのは、GOING STEADY初期からずっとファンに愛されてきた「YOU & I」。弾き語りという形態なのでシンプルそのもの、
「君と僕は永遠に 手と手つなぎどこまでも」
という今の銀杏BOYZからしたらストレート過ぎる歌詞もスッと耳の中に入ってくる。
さらに
「この中野から中央線に乗ってすぐのところにある高円寺っていう駅。俺にとっては1番思い出深い場所で。今でもこの曲を歌うとその時のことを思い出してしまうんだけど、最後まで歌いたいと思います」
と言って、ここも弾き語りで「佳代」。ちょっと歌につまるようなところもあったから、やはり色々と歌っていてこみ上げるようなものもある曲だと思うが、本人がこの曲によって高円寺にいた時のことを思い出すのと同じように、この曲を聴いていると、GOING STEADYの「さくらの唄」がリリースされて、そればっかりずーっと聴いていた高校生の頃を思い出して、やはり色々とこみ上げてきてしまう。紛れもなく1人の人間に対して作った曲が、自分を含めてたくさんの人の人生の中で大切な存在になっているということを実感させられる。それはもちろんこの曲が超がつくくらいでは足りないくらいの名曲だから。
そのまま弾き語りで歌い始めた「べろちゅー」では再び途中でバンドが合流するのだが、「若者たち」と同じように最後にサビをもう一回追加し、
「生まれてこなければ良かったと思った時もあったけど でも生きてて良かったよ」
というサビのフレーズが、この特別な時間だからこそ一層説得力を増す。
峯田主演ドラマ「奇跡の人」のエンディングで流れていたポップな新曲「骨」(もともとは安藤裕子に提供された曲)を軽快なバンドサウンドアレンジで演奏すると、
「俺が夢の中で何度あなたを抱きしめたか、あなたはどうせ知らないでしょう」
と、「BABY BABY」のアウトロの英語のフレーズの日本語訳を口にしながらギターをかき鳴らしていたので、てっきり「BABY BABY」をやるものかと思っていたが、「夢の中で」という単語があったからか、演奏されたのは「夢で逢えたら」。ここからの曲はこれまでよりさらにバンド感を増していく。
「死にたくない、死にたくない、あいどんわなだい!」
と呟くようにして始まった「I DON'T WANNA DIE FOREVER」では、かつてandymori時代に超人ドラマーの1人として衝撃的な手数の多さを見せていた後藤のドラムが真価をフルに発揮する凄まじさ。ある意味ではこの形がこの曲の演奏の完成系と言えるのかもしれない。当然サビでは
「イエス!イエス!イエス!イエス!イエス!」
の大合唱。
「この曲を中野で歌えるのが本当に嬉しい」
と言って演奏された「BABY BABY」では追加されたサビでやはり大合唱が起こる。ライブ開始当初はホールならではの遠慮みたいなものもあったが、ここまでくると全くそういった感じはない、いつもの銀杏BOYZのライブそのものである。こうして銀杏BOYZが好きで好きでしょうがない人たちと一緒にこの曲を歌えるというのはこの上なく幸せであるということをこの曲をライブで聴くと改めて実感する。
峯田がギターを置いてタンバリンを手にして叩きながら歌う「漂流教室」から、スクリーンの代わりにステージの後ろに夜空の星のようなたくさんの小さな電球がきらめき、途中で照明が真っ暗になると客席の頭上にあるミラーボールが回る「新訳 銀河鉄道の夜」は
「中央線を乗り換え 中野駅で降ります」
と、まるで最初からこの場所、この会場で歌われるためにこの歌詞になったかのように、演出も含めて美しく響く。
「人間」「生きたい」とは対照的にバンド編成で演奏された「光」では途中からギターを置いてハンドマイクで歌う峯田がステージ上を転がりまわりながら歌う。序盤からやっていたマイクで自らの頭を叩くのもやめない。
この4人でのバンドでのテーマソングと言えるくらいにこの編成で演奏されるのが説得力を持つ「ボーイズ・オン・ザ・ラン」を終えると、
「どんだけ覚せい剤やったっていい。援助交際してもいい。リストカットしてもいい。生きていてくれ。どんな手を使ってでも生き延びてくれ。そうすればまた会えるから。
フェスとかも出るけど、また新曲作ってアルバム出して、またライブやるから。銀杏BOYZ好きな人だけがこうやって集まって、そこで歌えて本当に嬉しかった」
と、峯田なりの言葉で再会を約束し、最後にメンバー紹介もしての「僕たちは世界を変えることができない」を演奏し、晴れやかな表情を見せながらメンバー4人が揃ってステージを去って行った。
アンコールで再び4人が揃って登場すると、この中野サンプラザが取り壊されることについて触れ、
「いろんなライブをここで見てきたけど、1番印象に残ってるのは、フジファブリックの志村くんが亡くなった時にここで葬儀をやって。ステージに祭壇みたいなのを作ってたんだけど、それに俺も行ってさ。寂しいけどね。
でもここがなくなったら1万人規模のライブ会場ができるんだって。そこができたら、そこでもライブやりたいな」
とこの会場での思い出を語った。なくなっていく場所、いなくなっていく人。銀杏BOYZだって、いつかはなくなってしまう。見れなくなる時が必ずくる。それがわかっているから、こうしてライブを見れるうちはずっとライブを見続けていたい。
そして演奏されたのはまさかの「夜王子と月の姫」。原曲に忠実なアレンジのままだが、「9月の11日」を「3月の11日」に変えて歌った。この日も峯田は少し震災に触れたMCをしていたが、あの日が峯田にとってどれだけ大きな出来事だったのかというのがよくわかる。
そのまま打ち込みも使った「ぽあだむ」。こちらは歌詞を「銀杏BOYZみたいにポップになれんだ」ととびきりポップな曲に乗せて歌う。後藤もアドリブのフレーズを多く挟んで、それに反応した山本と目を合わせながら笑う。実に楽しそうな姿。本当に銀杏BOYZは峯田とそのバックバンドではなく、今の4人でのバンドになってきている。
山本と後藤がステージから去ると、峯田と藤原の2人によるカラオケ状態での「愛してるってゆってよね」で合唱を誘って、この日のワンマンは幕を閉じた。
「東京の銀杏好きの集まり」というタイトルなだけに、「東京」は演奏されると思っていたが、まさかの演奏されず。しかし、この日はカメラが入っていたので、ライブは映像化されるだろうし、もしかしたら冒頭の映像もドキュメンタリーとしてセットになってパッケージされるのかもしれない。
自分は今まで「死にたい」とほとんど全く思ったことがない(銀杏BOYZのファンにはそういう思考の人もいるが)が、それは間違いなく高校生の時にGOING STEADYに出会い、メンバーが変わってしまっても、今に至るまで峯田和伸という男が歌い続けてきたから。(ライブを見れない期間も長かったけど)
だから「この人が歌っているうちは死にたくない」ってずっと思いながら生きてきたが、今では「この人が歌っているうちはなんとしてでも生き延びてやる」と思うようになった。微妙な変化だが、この変化は自分の中では非常に大きいものだと思っている。それはそういう峯田の言葉を実際に自分が目の前で聞いてきたからに間違いないが。
そしてこの日でこのメンバーでの銀杏BOYZは間違いなく一つの形になった。あの頃のような無茶苦茶さではなく、卓越した技術を持つメンバーによるしっかりとした演奏を聴かせるというバンドになったことによって。
来月にはBAYCAMPやサンボマスターとの対バンも控えているという状況が幸せで仕方がないが、果たしてそこではどんなライブを見せてくれるのだろうか。こんなに曲を聴く、ライブを見るのが人生そのものになっているのは、間違いなく銀杏BOYZだけ。これまでも、そしてこれからも。
1.人間
2.生きたい
3.若者たち
4.大人全滅
5.YOU & I
6.佳代
7.べろちゅー
8.骨
9.夢で逢えたら
10.I DON'T WANNA DIE FOREVER
11.BABY BABY
12.漂流教室
13.新訳 銀河鉄道の夜
14.光
15.ボーイズ・オン・ザ・ラン
16.僕たちは世界を変えることができない
encore
17.夜王子と月の姫
18.ぽあだむ
19.愛してるってゆってよね
Next→ 8/21 SUMMER SONIC @QVCマリンスタジアム&幕張メッセ
