Base Ball Bear ”10th&15th Anniversary” 「日比谷ノンフィクションV ~LIVE BY THE C2~」 @日比谷野外音楽堂 4/30
- 2016/05/01
- 01:04
かつては邦ロック界きっての夏バンドとして、夏のヒットシングルを連発してきたBase Ball Bearにとって、かつての日比谷野音でのワンマンは、夏の到来を実感させられる、このバンドだからこその開放感に満ちていた。
しかし、今回で5回目となる日比谷野音でのワンマンが、過去4回とは全く異なる意味合いを持ってしまったのは、今年になってギターの湯浅将平が失踪→脱退というバンドにとって初めてであり、このバンドにおいては絶対そんなことはないだろうと思っていた事態が起こってしまったから。
なので過去の、サカナクションやRHYMESTERがゲストで登場した時の日比谷野音でのワンマンの前の楽しみな気持ちはほぼ皆無、初めて緊張感に包まれた中でのBase Base Bearのライブを見ることになってしまった。(初の武道館の時ですらも楽しみな感じしかなかった)
この日のライブはかねてから、4人のサポートギタリストを迎えて開催されることが発表されていたが、まだ明るさの残る18時過ぎ、いつものようにXTCのSEが流れると、ドラムセットの後ろに「HIBIYA NONFICTION V」と書かれたバックドロップがせり上がると、メンバーが登場。最初のゲストギタリスト、年明けからのツアーを一緒に廻っていた、フルカワユタカ(ex.DOPING PANDA)とともに。
そのフルカワユタカとの4人編成で最初に演奏されたのは、昨年リリースのアルバム「C2」の起点になった、「「それって、for 誰?」part.1」。それまでの青春を感じさせる爽やかなギターロックから一変した、ブラックミュージックのリズムを咀嚼したサウンドは、かつて「YELLOW FUNK」というアルバムで、日本人ならではのブラックミュージックをバンドで表現した先輩であるフルカワにはうってつけの曲と言える。
ちょっと歌唱には緊張感を感じる(歌詞が飛んだりするのはいつものこと)小出が
「こんばんは、Base Ball Bearです!」
と曲終わりに告げると「不思議な夜」へ。フルカワのギターもそうだが、この冒頭の2曲は小出のギターのカッティングが実に目立っていた。湯浅がいない分、自分がウワモノのサウンドをリードしようと思っているかのように。
「今日のギタリスト4人はみんな、活動休止や解散やメンバー脱退を経験してるメンバーで。だから爽やかとか、青春とか言われてるこのバンドに俺たちが毒を入れて、ベボベを大人のバンドにしてやります!」
と、実に「らしい」挨拶をフルカワがかますと、関根のベースソロ、さらには小出とフルカワのギターソロが冴えまくるファンクロック「曖してる」でフルカワはステージを去る。
こうしてギター専任のフルカワを見るのはあまり見慣れないが、やはり自ら「ロックスター」を名乗るだけはあり、ギターは非常に上手い。だが、やはりこうしてステージに並ぶと、メンバー+先輩という構図は覆しがたい。そしてそのロックスターたるオーラゆえに、全く喋らず、演奏以外では主張が全くなかった湯浅と正反対のタイプだからこそ。
フルカワと入れ替わりでステージに登場したのは、田渕ひさ子。(LAMA、toddle、ex.NUMBER GIRL)
かつてNUMBER GIRLのライブをメンバー4人で見に行っていたという意味でも憧れの存在だが、ステージに現れるなり小出が、田渕がこの野音のステージに立つのはNUMBER GIRLのライブ以来であることを告げると、
「NUMBER GIRLが解散した直後にインディーズで「夕方ジェネレーション」っていうアルバムを出したら、タイミング的にも「NUMBER GIRLのまがいものだ!」って叩かれまくって(笑)
でも今こうして本人と同じステージに立ってるぞ!まがいものどころか本物だろ!」
と、かつて受けたバッシングに対してリベンジを果たすと、「田渕さんのギターを頭に浮かべながら作った」という小出のフリから、「こぼさないでShadow」へ。
田渕ひさ子のギターを思い浮かべた、と言われると、NUMBER GIRL時代のあの轟音ギターが頭に浮かんだが、それとは全く異なるタイプの曲だったのは、今でも小出が田渕のファンであり、現在進行形の活動を見ているからか。確かにNUMBER GIRLというよりはLAMAなどで見せるギタープレイに近いが。
バンドの憧れの存在であっただけに、田渕のギターは湯浅のものと比べても最も違和感がないが(湯浅のギターサウンドが田渕のものを参考にしていたんだから当たり前だが)、イメージ的にはPVのような少女が浮かぶ「short hair」はデビュー時から一貫してショートヘアである田渕が演奏するのは、狙っていたかはわからないが、あまりにも出来すぎていた。
そして「PERFECT BLUE」で爽やかな風を吹かせた頃には、会場はすっかり暗くなってきていた。
堀之内がドラムでギタリスト交代の間を繋ぐと、今度はオレンジのツナギを着てバイザーを装着した男、POLYSICSのハヤシヒロユキが登場。田渕とは違い、いきなりその繋ぎのリズムに乗せてギターをギャンギャン鳴らしまくると、小出から「トイス禁止」という縛りを設けられながら、元はヒャダインとのコラボ曲である「僕らのfrai away」という、今となってはなかなかレアな曲を演奏。ともに鬱屈した青春時代を過ごしてきた小出とハヤシだからこそこの選曲なんだろうか。
関根のコーラスというか、ほぼツインボーカルのような「UNDER THE STAR LIGHT」ではハヤシは手拍子を煽ったりしながらステージを左右に動いてギターを演奏。このあたりの2曲のギターはPOLYSICSのハヤシのギターそのものといったイメージ。
するとここでようやくハヤシの紹介。バンド同士での共演自体は少ないが、小出の特撮仲間ということで、「レッドマン」という会場で数人しか理解できていないようなマニアックな話を始めてしまう。
さらには
「ロッキンの朝イチのケータリングはご飯と味噌汁と、ご飯ですよしかなかった(笑)」
「ハヤシさんは話す時にバイザーの上から覗き込むようにしてるから、実際は全然見えてない(笑)」
など、いじりまくる中、「ハヤシ君のイメージにあまりない曲」という「どうしよう」では、鳴らしまくるではなく、刻む感じ(しかもテレキャス)のギターを弾く。確かにこうした「C2」のブラックミュージックの要素を感じさせるサウンドはなかなかハヤシのイメージにはないもの。間奏のギターソロでは待ってましたと言わんばかりにギターを弾き倒し、バイザーをステージ袖に投げ捨てていた。しかし、ツアーではメンバー4人それぞれがかなり長くコーラスを続けていたアレンジになっていたのが、この日は割とあっさり終わるというところは湯浅がいなくなってしまった影響を感じてしまったが。
そしてハヤシと入れ替わりでステージに登場したのは、the telephones活動休止後、新たにlovefilmというバンドの活動をスタートさせたばかりの石毛輝。
こちらもバンドの繋ぎに合わせて演奏に参加すると、「17才」が始まる。メンバーと同世代であるとはいえ、石毛が青春感そのもののようなこの曲のギターを弾いている。それはまるでlovefilmの新しくバンドを始めた空気に合わせたかのように。
続いて演奏されたのは「changes」。かつては演奏するのが嫌だったとも小出は語っていたが、この曲は紛れもなくこのバンドの代表曲である。が、
「すべてが今変わってく すべてが始まる
胸躍る 新しい季節を迎えに行く」
という、新生活が始まった人へのエールとして書かれた歌詞が、こんなにもバンドの今の状況とリンクしてしまうとは。まるでこのために書かれた歌詞のよう。このバンドの場合は必然的な変化ではなく、望まざる変化になってしまったわけだが。
石毛は正式に湯浅の脱退が発表される前にチャットモンチーの主催フェスでサポートとして出演した、言わばこのバンドの最初のサポートギタリストなだけに、ステージ上手側からメンバー3人を見て、
「この景色が好きなんだよねぇ」
としみじみと語ると、関根の実家と石毛の実家がすぐ近くであることを明かし、レーベルメイトであるベボベとの思い出を語り始める。中でも栃木のベリテンライブで、一日中雨が降る中、ベボベの時だけ雨が止み、次の出番だったtelephonesの時は土砂降りだったというエピソードは面白かった。石毛いわく「埼玉県民は栃木とは相性が悪いから(笑)」とのこと。
そして近年は間奏でダンス湯浅将平が行われていた「十字架 You and I」では、間奏でギターを置いてダンス石毛輝と言ってもいい動きで観客を沸かせると、telephonesの「HABANERO」の演奏時のようなバク転を見事に決め、最初は小出に禁止されていた「ディスコー!」を叫ぶ(lovefilmでは絶対やらないだけに、およそ半年ぶりの「ディスコ」コール)と、続いて小出も甲高い声で「ディスコー!」と叫び、石毛らしさを最大限に発揮してステージを去って行った。
するとステージには入れ替わりで再びフルカワユタカが。やはりツアーを一緒に廻ってきただけに、1番このバンドの曲を演奏できるのはこの男ということか。ちなみにお互いにツアーを廻る前よりは相手のことが好きになっているという。
ここまでのゲスト陣が入れ替わりで出てくる楽しいという空気を一変させるような、真っ暗の中で最低限の照明がメンバーを写し出すシリアスな「ホーリーロンリーマウンテン」から、「C2」の中で最もストレートなギターロック曲「カシカ」へ。去年のツアーでは演奏されず、自分は湯浅がこの曲を弾いている姿を見れなかったので、今回がこの曲のライブバージョンとしてこれからも頭に残っていくことになるだろう。
するとイントロで大歓声が起きた、「真夏の条件」「LOVE MATHEMATICS」というシングル曲2連発で客席の盛り上がり的にはピークを迎え、フルカワは独特のステップを繰り返しながらギターを弾いているのがDOPING PANDAを思い出させる。
そしてフルカワに話が長いと突っ込まれながらも、
「我々は今、片腕を失った状態。僕が片腕で、2人(関根と堀之内)が両足で。でもBase Ball Bearっていうバンドの本体が頭だとして、その本体が、まだやることがある、まだ続けたいと言っていて、その意思に我々は従っている。
で、今までは4人でやることに拘ってたけど、これからはまだ決まってないけど、サポートでキーボードの方に入ってもらったりとか、サックスの人に毎曲ソロの度に袖から出てきてもらって吹いてもらったり、その曲に最も合った形も探していきたい。そして、そのBase Ball Bearっていう本体はロックバンドなのです」
という、ここに集まったすべての人が聞きたかったであろう、これからの展望を口にする。
そんな、聞いていて泣きそうになるくらいに良いMCをしてるのに、「仮面ライダースーパーワンとライダーマンを掛け合わせた感じ」という、会場で10人くらいしかわからないくらいめんどくさい例えをするのが小出という男であり、Base Ball Bearそのものなんだよなぁと思う。
前回のこの野音で、小出は
「ロックバンドはもう時代にそぐわないかもしれない。わかりづらいし、面倒だし。
でも僕らはそこを含めてロックバンドでありたい」
という旨のことを話していたが、メンバーが脱退しても、その芯の部分は変わらないであろう。
そして最後に演奏されたのは、「C2」収録の「HUMAN」。ステージに立っている人の演奏と声、それだけが全てだった、ロックバンドそのもののベボベだからこそ感じられる人間らしさ。だからこれからもこのバンドの人間味をまだまだ味わっていく。こうして続いていく限りは。
フルカワが帰る方向を間違えたりして笑いを誘ったりしつつ、アンコールで再登場したのはサポートなしの3人のみ。
「言いたいことはすべて言ったし、演奏に込めた」
と小出が言いながらも、やはり
「今回の発表をした時、今日のギタリストとか周りのミュージシャンと、こうしてライブに来たりしてくれる人たちがこんなにBase Ball Bearのことを考えてくれてるのかってわかったのが救いだった」
と最後に語った。こうして、今やベボベはファンが自分の人生を重ねられるような存在のバンドになっていた。それは、長く続けてきたバンドだからこそ。
そして本当に3人だけ、明らかに足りないサウンドと、上手側に誰もいないという寂しい見た目。それはサポートギタリスト陣の演奏と、小出との愉快なやり取りによって楽しさばかりを感じさせた本編とは全く違い、湯浅がもうバンドにいない、ベボベがスリーピースになってしまったということを強烈なほどに実感させられる瞬間であった。
だからこそリズム隊2人の演奏がこれまでよりずっとダイレクトに耳に入り、サウンドのウワモノの部分を一身に背負う小出のギターが本当に頼もしさを感じさせた。
最後に演奏された、
「終わりはそう、終わりじゃない
ラストシーンはスタートラインでしかない
「昔々の話」じゃない
僕の人生は つづくつづく」
という「The End」の歌詞は、紛れもなくこれからの決意表明であり、これから何があってもこのバンドは止まることはないというのを、どんな言葉よりも真っ直ぐに、かつ雄弁に語っていた。
小出がMCで言っていたが、現在早くもアルバム製作中であり、年内にリリースしてツアーもやりたいという。
それは果たして3人のサウンドだけで作られたものになるのか、それとも他の楽器の音をガンガンに入れたものになるのかはわからないが、これからこのバンドのライブは間違いなく変わる。小出が言ってたように、これまでの愚直なまでにメンバーのみでの演奏に拘っていた部分はもうなくなるだろう。
そうしてバンドが変わっても、ここまでこのバンドを追い続けてきた以上、もうきっとこのバンドから離れることはできない。それは同世代として、同じように(年齢だけは)大人になり、歳を重ねてきてしまったという部分もあるが、いつだってこのバンドは良い曲、良い歌詞を書いて、毎回毎回ツアーで進化を果たした姿を見せてきてくれたから。
その進化がいったんリセットされてしまったのは本当に惜しいし、もしも湯浅が、同じようにずっと同じメンバーのままで続いていくと思っていたチャットモンチーを脱退した久美子のように、ひと言だけでも何かコメントを残してくれたらもう少しこの複雑な気分は違ったものになっていただろう。
でも、この日のライブからは確かにこれからのバンドの未来への希望が感じられた。そう、メンバー3人はもう落ち込んでいない。前に進もうとしているのである。
バンドは運命共同体とは良く言うが、結成が高校生の時だから、もう15年間、同じYUME is VISIONをずっと4人で共有してきたBase Ball Bearは、運命共同体としてのバンドそのものだった。あらゆる音楽形態の中で自分がロックバンドが1番好きなのは、間違いなくそういう部分。
Base Ball Bearがロックバンドだからこそ、今回の湯浅の脱退劇は、改めてそれを再確認させてくれた。自分はロックバンドが好きであり、だからこそBase Ball Bearが心から好きだと。15周年の時には心から笑ってライブを見れていますように。
ギター:フルカワユタカ
1.「それって、for 誰?」part.1
2.不思議な夜
3.曖してる
ギター:田渕ひさ子
4.こぼさないでShadow
5.short hair
6.PERFECT BLUE
ギター:ハヤシヒロユキ
7.僕らのfrai away
8.UNDER THE STAR LIGHT
9.どうしよう
ギター:石毛輝
10.17才
11.changes
12.十字架 You and I
ギター:フルカワユタカ
13.ホーリーロンリーマウンテン
14.カシカ
15.真夏の条件
16.LOVE MATHEMATICS
17.HUMAN
encore
18.「それって、for 誰?」 part.2
19.The End
Next→ 5/5 JAPAN JAM 2016 @幕張海浜公園
しかし、今回で5回目となる日比谷野音でのワンマンが、過去4回とは全く異なる意味合いを持ってしまったのは、今年になってギターの湯浅将平が失踪→脱退というバンドにとって初めてであり、このバンドにおいては絶対そんなことはないだろうと思っていた事態が起こってしまったから。
なので過去の、サカナクションやRHYMESTERがゲストで登場した時の日比谷野音でのワンマンの前の楽しみな気持ちはほぼ皆無、初めて緊張感に包まれた中でのBase Base Bearのライブを見ることになってしまった。(初の武道館の時ですらも楽しみな感じしかなかった)
この日のライブはかねてから、4人のサポートギタリストを迎えて開催されることが発表されていたが、まだ明るさの残る18時過ぎ、いつものようにXTCのSEが流れると、ドラムセットの後ろに「HIBIYA NONFICTION V」と書かれたバックドロップがせり上がると、メンバーが登場。最初のゲストギタリスト、年明けからのツアーを一緒に廻っていた、フルカワユタカ(ex.DOPING PANDA)とともに。
そのフルカワユタカとの4人編成で最初に演奏されたのは、昨年リリースのアルバム「C2」の起点になった、「「それって、for 誰?」part.1」。それまでの青春を感じさせる爽やかなギターロックから一変した、ブラックミュージックのリズムを咀嚼したサウンドは、かつて「YELLOW FUNK」というアルバムで、日本人ならではのブラックミュージックをバンドで表現した先輩であるフルカワにはうってつけの曲と言える。
ちょっと歌唱には緊張感を感じる(歌詞が飛んだりするのはいつものこと)小出が
「こんばんは、Base Ball Bearです!」
と曲終わりに告げると「不思議な夜」へ。フルカワのギターもそうだが、この冒頭の2曲は小出のギターのカッティングが実に目立っていた。湯浅がいない分、自分がウワモノのサウンドをリードしようと思っているかのように。
「今日のギタリスト4人はみんな、活動休止や解散やメンバー脱退を経験してるメンバーで。だから爽やかとか、青春とか言われてるこのバンドに俺たちが毒を入れて、ベボベを大人のバンドにしてやります!」
と、実に「らしい」挨拶をフルカワがかますと、関根のベースソロ、さらには小出とフルカワのギターソロが冴えまくるファンクロック「曖してる」でフルカワはステージを去る。
こうしてギター専任のフルカワを見るのはあまり見慣れないが、やはり自ら「ロックスター」を名乗るだけはあり、ギターは非常に上手い。だが、やはりこうしてステージに並ぶと、メンバー+先輩という構図は覆しがたい。そしてそのロックスターたるオーラゆえに、全く喋らず、演奏以外では主張が全くなかった湯浅と正反対のタイプだからこそ。
フルカワと入れ替わりでステージに登場したのは、田渕ひさ子。(LAMA、toddle、ex.NUMBER GIRL)
かつてNUMBER GIRLのライブをメンバー4人で見に行っていたという意味でも憧れの存在だが、ステージに現れるなり小出が、田渕がこの野音のステージに立つのはNUMBER GIRLのライブ以来であることを告げると、
「NUMBER GIRLが解散した直後にインディーズで「夕方ジェネレーション」っていうアルバムを出したら、タイミング的にも「NUMBER GIRLのまがいものだ!」って叩かれまくって(笑)
でも今こうして本人と同じステージに立ってるぞ!まがいものどころか本物だろ!」
と、かつて受けたバッシングに対してリベンジを果たすと、「田渕さんのギターを頭に浮かべながら作った」という小出のフリから、「こぼさないでShadow」へ。
田渕ひさ子のギターを思い浮かべた、と言われると、NUMBER GIRL時代のあの轟音ギターが頭に浮かんだが、それとは全く異なるタイプの曲だったのは、今でも小出が田渕のファンであり、現在進行形の活動を見ているからか。確かにNUMBER GIRLというよりはLAMAなどで見せるギタープレイに近いが。
バンドの憧れの存在であっただけに、田渕のギターは湯浅のものと比べても最も違和感がないが(湯浅のギターサウンドが田渕のものを参考にしていたんだから当たり前だが)、イメージ的にはPVのような少女が浮かぶ「short hair」はデビュー時から一貫してショートヘアである田渕が演奏するのは、狙っていたかはわからないが、あまりにも出来すぎていた。
そして「PERFECT BLUE」で爽やかな風を吹かせた頃には、会場はすっかり暗くなってきていた。
堀之内がドラムでギタリスト交代の間を繋ぐと、今度はオレンジのツナギを着てバイザーを装着した男、POLYSICSのハヤシヒロユキが登場。田渕とは違い、いきなりその繋ぎのリズムに乗せてギターをギャンギャン鳴らしまくると、小出から「トイス禁止」という縛りを設けられながら、元はヒャダインとのコラボ曲である「僕らのfrai away」という、今となってはなかなかレアな曲を演奏。ともに鬱屈した青春時代を過ごしてきた小出とハヤシだからこそこの選曲なんだろうか。
関根のコーラスというか、ほぼツインボーカルのような「UNDER THE STAR LIGHT」ではハヤシは手拍子を煽ったりしながらステージを左右に動いてギターを演奏。このあたりの2曲のギターはPOLYSICSのハヤシのギターそのものといったイメージ。
するとここでようやくハヤシの紹介。バンド同士での共演自体は少ないが、小出の特撮仲間ということで、「レッドマン」という会場で数人しか理解できていないようなマニアックな話を始めてしまう。
さらには
「ロッキンの朝イチのケータリングはご飯と味噌汁と、ご飯ですよしかなかった(笑)」
「ハヤシさんは話す時にバイザーの上から覗き込むようにしてるから、実際は全然見えてない(笑)」
など、いじりまくる中、「ハヤシ君のイメージにあまりない曲」という「どうしよう」では、鳴らしまくるではなく、刻む感じ(しかもテレキャス)のギターを弾く。確かにこうした「C2」のブラックミュージックの要素を感じさせるサウンドはなかなかハヤシのイメージにはないもの。間奏のギターソロでは待ってましたと言わんばかりにギターを弾き倒し、バイザーをステージ袖に投げ捨てていた。しかし、ツアーではメンバー4人それぞれがかなり長くコーラスを続けていたアレンジになっていたのが、この日は割とあっさり終わるというところは湯浅がいなくなってしまった影響を感じてしまったが。
そしてハヤシと入れ替わりでステージに登場したのは、the telephones活動休止後、新たにlovefilmというバンドの活動をスタートさせたばかりの石毛輝。
こちらもバンドの繋ぎに合わせて演奏に参加すると、「17才」が始まる。メンバーと同世代であるとはいえ、石毛が青春感そのもののようなこの曲のギターを弾いている。それはまるでlovefilmの新しくバンドを始めた空気に合わせたかのように。
続いて演奏されたのは「changes」。かつては演奏するのが嫌だったとも小出は語っていたが、この曲は紛れもなくこのバンドの代表曲である。が、
「すべてが今変わってく すべてが始まる
胸躍る 新しい季節を迎えに行く」
という、新生活が始まった人へのエールとして書かれた歌詞が、こんなにもバンドの今の状況とリンクしてしまうとは。まるでこのために書かれた歌詞のよう。このバンドの場合は必然的な変化ではなく、望まざる変化になってしまったわけだが。
石毛は正式に湯浅の脱退が発表される前にチャットモンチーの主催フェスでサポートとして出演した、言わばこのバンドの最初のサポートギタリストなだけに、ステージ上手側からメンバー3人を見て、
「この景色が好きなんだよねぇ」
としみじみと語ると、関根の実家と石毛の実家がすぐ近くであることを明かし、レーベルメイトであるベボベとの思い出を語り始める。中でも栃木のベリテンライブで、一日中雨が降る中、ベボベの時だけ雨が止み、次の出番だったtelephonesの時は土砂降りだったというエピソードは面白かった。石毛いわく「埼玉県民は栃木とは相性が悪いから(笑)」とのこと。
そして近年は間奏でダンス湯浅将平が行われていた「十字架 You and I」では、間奏でギターを置いてダンス石毛輝と言ってもいい動きで観客を沸かせると、telephonesの「HABANERO」の演奏時のようなバク転を見事に決め、最初は小出に禁止されていた「ディスコー!」を叫ぶ(lovefilmでは絶対やらないだけに、およそ半年ぶりの「ディスコ」コール)と、続いて小出も甲高い声で「ディスコー!」と叫び、石毛らしさを最大限に発揮してステージを去って行った。
するとステージには入れ替わりで再びフルカワユタカが。やはりツアーを一緒に廻ってきただけに、1番このバンドの曲を演奏できるのはこの男ということか。ちなみにお互いにツアーを廻る前よりは相手のことが好きになっているという。
ここまでのゲスト陣が入れ替わりで出てくる楽しいという空気を一変させるような、真っ暗の中で最低限の照明がメンバーを写し出すシリアスな「ホーリーロンリーマウンテン」から、「C2」の中で最もストレートなギターロック曲「カシカ」へ。去年のツアーでは演奏されず、自分は湯浅がこの曲を弾いている姿を見れなかったので、今回がこの曲のライブバージョンとしてこれからも頭に残っていくことになるだろう。
するとイントロで大歓声が起きた、「真夏の条件」「LOVE MATHEMATICS」というシングル曲2連発で客席の盛り上がり的にはピークを迎え、フルカワは独特のステップを繰り返しながらギターを弾いているのがDOPING PANDAを思い出させる。
そしてフルカワに話が長いと突っ込まれながらも、
「我々は今、片腕を失った状態。僕が片腕で、2人(関根と堀之内)が両足で。でもBase Ball Bearっていうバンドの本体が頭だとして、その本体が、まだやることがある、まだ続けたいと言っていて、その意思に我々は従っている。
で、今までは4人でやることに拘ってたけど、これからはまだ決まってないけど、サポートでキーボードの方に入ってもらったりとか、サックスの人に毎曲ソロの度に袖から出てきてもらって吹いてもらったり、その曲に最も合った形も探していきたい。そして、そのBase Ball Bearっていう本体はロックバンドなのです」
という、ここに集まったすべての人が聞きたかったであろう、これからの展望を口にする。
そんな、聞いていて泣きそうになるくらいに良いMCをしてるのに、「仮面ライダースーパーワンとライダーマンを掛け合わせた感じ」という、会場で10人くらいしかわからないくらいめんどくさい例えをするのが小出という男であり、Base Ball Bearそのものなんだよなぁと思う。
前回のこの野音で、小出は
「ロックバンドはもう時代にそぐわないかもしれない。わかりづらいし、面倒だし。
でも僕らはそこを含めてロックバンドでありたい」
という旨のことを話していたが、メンバーが脱退しても、その芯の部分は変わらないであろう。
そして最後に演奏されたのは、「C2」収録の「HUMAN」。ステージに立っている人の演奏と声、それだけが全てだった、ロックバンドそのもののベボベだからこそ感じられる人間らしさ。だからこれからもこのバンドの人間味をまだまだ味わっていく。こうして続いていく限りは。
フルカワが帰る方向を間違えたりして笑いを誘ったりしつつ、アンコールで再登場したのはサポートなしの3人のみ。
「言いたいことはすべて言ったし、演奏に込めた」
と小出が言いながらも、やはり
「今回の発表をした時、今日のギタリストとか周りのミュージシャンと、こうしてライブに来たりしてくれる人たちがこんなにBase Ball Bearのことを考えてくれてるのかってわかったのが救いだった」
と最後に語った。こうして、今やベボベはファンが自分の人生を重ねられるような存在のバンドになっていた。それは、長く続けてきたバンドだからこそ。
そして本当に3人だけ、明らかに足りないサウンドと、上手側に誰もいないという寂しい見た目。それはサポートギタリスト陣の演奏と、小出との愉快なやり取りによって楽しさばかりを感じさせた本編とは全く違い、湯浅がもうバンドにいない、ベボベがスリーピースになってしまったということを強烈なほどに実感させられる瞬間であった。
だからこそリズム隊2人の演奏がこれまでよりずっとダイレクトに耳に入り、サウンドのウワモノの部分を一身に背負う小出のギターが本当に頼もしさを感じさせた。
最後に演奏された、
「終わりはそう、終わりじゃない
ラストシーンはスタートラインでしかない
「昔々の話」じゃない
僕の人生は つづくつづく」
という「The End」の歌詞は、紛れもなくこれからの決意表明であり、これから何があってもこのバンドは止まることはないというのを、どんな言葉よりも真っ直ぐに、かつ雄弁に語っていた。
小出がMCで言っていたが、現在早くもアルバム製作中であり、年内にリリースしてツアーもやりたいという。
それは果たして3人のサウンドだけで作られたものになるのか、それとも他の楽器の音をガンガンに入れたものになるのかはわからないが、これからこのバンドのライブは間違いなく変わる。小出が言ってたように、これまでの愚直なまでにメンバーのみでの演奏に拘っていた部分はもうなくなるだろう。
そうしてバンドが変わっても、ここまでこのバンドを追い続けてきた以上、もうきっとこのバンドから離れることはできない。それは同世代として、同じように(年齢だけは)大人になり、歳を重ねてきてしまったという部分もあるが、いつだってこのバンドは良い曲、良い歌詞を書いて、毎回毎回ツアーで進化を果たした姿を見せてきてくれたから。
その進化がいったんリセットされてしまったのは本当に惜しいし、もしも湯浅が、同じようにずっと同じメンバーのままで続いていくと思っていたチャットモンチーを脱退した久美子のように、ひと言だけでも何かコメントを残してくれたらもう少しこの複雑な気分は違ったものになっていただろう。
でも、この日のライブからは確かにこれからのバンドの未来への希望が感じられた。そう、メンバー3人はもう落ち込んでいない。前に進もうとしているのである。
バンドは運命共同体とは良く言うが、結成が高校生の時だから、もう15年間、同じYUME is VISIONをずっと4人で共有してきたBase Ball Bearは、運命共同体としてのバンドそのものだった。あらゆる音楽形態の中で自分がロックバンドが1番好きなのは、間違いなくそういう部分。
Base Ball Bearがロックバンドだからこそ、今回の湯浅の脱退劇は、改めてそれを再確認させてくれた。自分はロックバンドが好きであり、だからこそBase Ball Bearが心から好きだと。15周年の時には心から笑ってライブを見れていますように。
ギター:フルカワユタカ
1.「それって、for 誰?」part.1
2.不思議な夜
3.曖してる
ギター:田渕ひさ子
4.こぼさないでShadow
5.short hair
6.PERFECT BLUE
ギター:ハヤシヒロユキ
7.僕らのfrai away
8.UNDER THE STAR LIGHT
9.どうしよう
ギター:石毛輝
10.17才
11.changes
12.十字架 You and I
ギター:フルカワユタカ
13.ホーリーロンリーマウンテン
14.カシカ
15.真夏の条件
16.LOVE MATHEMATICS
17.HUMAN
encore
18.「それって、for 誰?」 part.2
19.The End
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