音楽と人 LIVE 2016 Northern Soul NIGHT THE COLLECTORS / 銀杏BOYZ @恵比寿LIQUIDROOM 1/18
- 2016/01/19
- 01:41
去年、新木場STUDIO COASTでの主催イベントが一部でいろんな意味で話題になった音楽雑誌、音楽と人が仕掛けるイベントである。
そもそもは銀杏BOYZの峯田和伸がTHE COLLECTORSのファンであるというのを雑誌編集が知って企画したというこのイベント。当然スペシャルなコラボにも期待が膨らむが、何はともあれ、2016年初の銀杏BOYZのライブである。こんなに3~4ヶ月くらいのスパンで見れることになるとは、全くライブをやっていなかった時期には想像だにしていなかった。
・THE COLLECTORS
先攻はTHE COLLECTORS。結成30周年を迎え、怒髪天→フラワーカンパニーズと続く、ベテランバンドの武道館ワンマンを次にやるんじゃないかと言われているバンドである。
しかしステージに現れたのは、スーツを着た古市コータロー(ギター)と、まさかの銀杏BOYZ、峯田和伸。古市がギターを弾き始めると、峯田が歌い始めたのは「BABY BABY」。
弾き語りではなく、ギタリストが弾くギターに合わせて歌うというだけあって、峯田の歌もリズムから外れないし、ブレない。当然客席では大合唱が起こるが、峯田は歌い終わると古市とハイタッチしてすぐさまステージを去っていった。
すると峯田と入れ代わりにメンバーがステージへ。加藤ひさし(ボーカル)は実にド派手なスーツ姿でインパクト抜群。
実にシンプルかつタイトなリズム隊の演奏なだけに、加藤の拳の効いた歌声と、古市の年齢を全く感じさせない、ブルースなどの要素を含んだキレキレのギターが映えるが、ブリティッシュロックへの素直な愛情が感じ取れるギターロックサウンドは、現在の若手ギターロックバンドの系譜をたどっていくとこのバンドに行き着くのかもしれない、とも思う。
「銀杏BOYZの若いファンに合わせた」と、「おじゃる丸」のエンディングテーマ「Da!Da!!Da!!」を演奏するも、客席の銀杏BOYZ目当てであろう観客からは反応はイマイチ。(自分もそうだが、若いとはいえおじゃる丸世代ではない)
加藤の懐の深いボーカルを聴かせるバラード「深海魚」、サビの繰り返しのフレーズが頭に残る「ガリレオ・ガリレイ」、偉人たちの名前が次々に歌詞に登場する「たよれる男」と、曲を続けていくたびに、
「もうちょっとで心を開きそうなやつがいるんだよな~」
という加藤の言葉通りに徐々に盛り上がりを増していく。
その加藤のMCの最中は古市がステージで普通にタバコを吸う中、「代表曲」と紹介された名バラード「世界を止めて」、そして勇壮なコーラスが轟き、政治や社会に触れた歌詞が並ぶ中、
「世界を変えれる気がしてる」「誰にも負けない気がしてる」
と高らかに宣言する、最新作からの「Tシャツレボリューション」で終了。
30年続けてきたバンドだからこそ説得力のある曲を未だに生み出しているのは本当にすごい。今のロックシーンの主流の音楽ではないけれど、こうして続けている姿は、ファンや後輩のバンドマン達に確実に力を与えているはず。
1.BABY BABY (峯田和伸と古市コータロー)
2.Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!
3.東京虫バグズ
4.Da!Da!!Da!!
5.深海魚
6.ガリレオ・ガリレイ
7.たよれる男
8.Nick! Nick! Nick!
9.世界を止めて
10.Tシャツレボリューション
世界を止めて
http://youtu.be/Nv-HdZmmIsE
・銀杏BOYZ
いよいよ今年最初の銀杏BOYZのライブである。サウンドチェックの段階では暗幕がかかっているが、ドラムやベースの音から、この日も去年の夏以降同様にバンド編成であることがわかる。
当然のようにSEも何もなく、まずは最近ステージでいつも着ているコート着用、フードを被った峯田和伸1人で登場。アコギを手にすると、
「最後に東京の都市でライブをやったのは7年半前のせんそうはんたいツアー。あの時の、また東京で必ずライブやるっていう約束をようやく果たせるのが本当に嬉しい」
と話し始めるが、どこか峯田は声を詰まらせているかのように感じる(つまり少し涙をこらえているような)部分もあった。そして1曲目は「生きたい」。弾き語りで歌い始めるが、初めて聴いた、去年のビバラの時よりも、ライブで演奏する回数を重ねたことで、曲がかなり整理されてきた印象。それは曲途中から、山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、後藤大樹(ドラム)という、去年の秋以降と同じメンバーのバンドが合流し、ノイズにまみれていても同じで、曲がだんだん完成形に近づいているんじゃないか、と感じた。弾き語りですら長い曲なのに、バンドになるとアウトロのノイズ垂れ流しタイムなどでさらに長くなっているが。
ノイズが会場を包む中、バンドが合流してからはハンドマイクだった峯田がエレキギターを肩にかけると、喋っている単語が聞き取れないくらいのノイズの洪水の中から、
「まだ見ぬ明日に何があるのか 何があるのか僕は知らない」
という峯田の歌が浮かび上がってくる。GOING STEADYの「さくらの唄」の1曲目であり、ライブミックスアルバム「BEACH」にノイズバージョンが収録された、「アホンダラ行進曲」改め「まだ見ぬ明日に」である。
ライブで聴くのは初めてであるが、「BEACH」収録バージョン同様に、完全にノイズパンク。客席ではダイバーも発生し、峯田は唾を吐き散らしながら歌う。ちなみにこの日は峯田の声が実に良く出ていた。
さらにそのノイズパンク状態を引きずるようにして続いたのは、まさかのGOING STEADYの1stアルバム「BOYS & GIRLS」収録の「DON'T TRUST OVER THIRTY」。こちらも完全なるノイズパンクバージョンに化しているが、歌詞の英語の部分は日本語になり、
「いつの日にか 僕らが心から笑えるように
いつの日にか 僕らが心から笑えますように」
というサビのフレーズでは客席から拳が突き上がる。アレンジこそ超ノイジーだが、メロディ自体は原曲そのもの。つまり、とびっきりポップな、あのGOING STEADYのままである。
しかし、当時20代前半で「DON'T TRUST OVER THIRTY」と叫んでいた峯田はもう30代後半になり、聴いていた10代だった我々ももはや30代に突入するようになった。曲の中でこそ、「30代以上は信じない」と叫んではいるが、今になると信じられる30代もいる、それこそすぐ目の前にいる、という事実。当時10代でまさに「DON'T TRUST OVER THIRTY」状態だった過去の自分にこの光景を見せてやりたい。
しかしこんなにGOING STEADY時代に死ぬほど聴きまくっていた曲たちを続けられたら(ましてややるなんて全く思っていなかった)、泣くなというのは無理な話である。
するとここでメンバーがいったんステージを去り、峯田1人に。再びアコギを背負うと、
「7年半ぶりに東京でこうしてたくさん曲やれて。アルバムも出さなかったし、ライブもやらなかったから人も離れていくんじゃねぇかって言われたりしたけど、俺は全然寂しくなんてなかったよ。アルバム出して、ライブやれば絶対みんな見に来てくれるって信じてたから。
メンバーみんないなくなったけど、俺には歌があるし、こうして目の前にいるあんたらがいてくれるって信じてたから。だから全然寂しくなんてなかった」
と、ずっとバンドのことを待っていた我々としては涙を堪えざるを得ないことをサラッと言う。でもやはり、メンバーがいなくなってしまったのは、口ではそう言っていても、どこか寂しそうに見えた。「寂しくない」って自分に言い聞かせているかのようだった。あれだけただの音楽を一緒にやる人間ではなくて、汚い部分まで全てさらけ出し合える関係の人がいなくなってしまったんだから、寂しくないわけがない。見てるこっちだって、やっぱりまだ寂しい気持ちがあるんだから。
そして弾き語り始めたのは、冒頭の「生きたい」に連なるストーリーである「光」。声がよく出ることで、より一層峯田の歌は光を求めるように切実に聴こえたが、
「僕を置いてけよ」
という最後のサビ部分でのフレーズで声を詰まらせていた。
「今日ライブなのに、昨日の夜にみうらじゅんから電話来て。新宿で飲むから来いって。1軒目終わって帰れるかなと思ったら、もう1軒行くぞって言われて。2軒目出たら歌舞伎町が雪まみれになってて。ホストたちの横でみうらじゅんと田口トモロヲと雪合戦して(笑) なんでこんなことをと(笑)
でも、雪が降るとこの曲を歌いたくなる」
と言って歌い出したのは、「新訳 銀河鉄道の夜」。この日、東京も朝まで雪が降り、道には雪の残りがまだあった。そんな景色の日に聴くこの曲は格別。最後のサビではマイクを客席に向けると、主に男性の声を中心とした大合唱が起こる。こうしてたくさんの人の声が重なると、この曲は学校の合唱コンクールとかで歌われていても不思議ではないな、と思うほどの普遍性を持った曲であることがわかる。いや、それはわかってはいたことなのだが、実際にみんなで歌うことによって、改めてその事実に気付かされる。やはり何度アレンジやバージョンが変わろうと、この曲はこの国最大のロックアンセムの一つであると自分は信じている。
歌い終わると、
「あんたらが何やったっていい。覚醒剤やったって、援助交際やったっていい。MDMAやったっていい。生きていてくれればそれでいい。そうすれば、必ずまた会えるから。俺も少しいいもん食って、長生きできるようにするから。
山形から東京に出てきて20年経って、出てくる時、CDウォークマンとCDいっぱい持って。その中にはCOLLECTORSのもあって。メンバーには直接言わないけど、COLLECTORS、ずっと続けてて下さい!」
と先輩に感謝を告げると、タイトルはあれだけど
「生まれてこなければよかったと
思った時もあったけど
でも生きててよかったよ」
というサビのフレーズが、直前のMCの内容と同じように、ここにいる全ての人の「生」と「性」を肯定する、超名曲「べろちゅー」。途中で再びバンドが合流するアレンジは初だろうか。前半のバンド部分とは違い、確かに音こそ大きいが、決してノイジーではない。
峯田が再びエレキを手にすると、山本のギターがイントロのフレーズを奏でたのは、「BABY BABY」。
「いや、さっき古市コータローと一緒にやったじゃん!」
と心の中でツッコミを入れた人もかなりいたと思われるが、やはりバンドバージョンのほうが良い。藤原と後藤の元andymoriコンビもコーラスを務め、本来なら曲が終わるタイミングで峯田がマイクスタンドを客席に向けると、ここでも大合唱が起こる。銀杏BOYZのファンはきっと、なんでもこなせるような器用な人たちじゃない。むしろ、ほとんどなんもできないような不器用な人たちばかりだと思う。でも、この曲をみんなで歌っている時だけは、我々は間違いなく無敵。そんな気分にさせてくれる。合唱部分が終わると、バンドというよりは歌っていた1人1人に向けたように客席から大きな拍手が起こる。
「次の曲をやる前に、照明を夕方3時半くらいの感じにしてください」
と峯田が照明スタッフに注文し、オレンジの光に照らされた中で打ち込みの音が流れ出したのは、「ぽあだむ」。以前までは峯田のカラオケで披露されていたが、イントロのギターを山本が生でカッティングし、藤原と後藤のリズム隊も演奏に加わる、バンドアレンジに打ち込みを足したような新アレンジに。つまり、ついにこの曲も完成形に向かってきているということである。
終盤、峯田はまた声が詰まって歌えなくなっていた。泣いていたような気がしたが、それを振り払うかのようにして、次の
「涙は似合わないぜ 男の子だから」
というフレーズを歌った。ここだけしっかり歌ったというのはあまりに出来すぎているような感じもするが、この人はそこまで計算できるような人じゃない。そもそも計算できるような人ならもっと上手いバンド運営ができるはずである。
後藤と山本がステージを去り、峯田と藤原も楽器を置いたので、これで終了かと思いきや、峯田と藤原はマイクを掴み、完全カラオケ、しかもツインボーカルという新境地で披露されたのは、「愛してるってゆってよね」。まさか藤原がツインボーカルの片割れを担うことになるとは全く思わなかったが、多分我々が思っている以上にこのメンバーは銀杏BOYZになってきている。
最後に
「恋と退屈と銀杏BOYZでした!」
と言って本編は終了。1時間ちょっとだったが、あまりにも濃厚過ぎる時間だった。
「やるなら今しかねーべ」
というアンコールを求める声に応え、メンバー全員がステージに登場すると、峯田の前には譜面台が。
「せっかくなので、THE COLLECTORSの曲を」
と言うと、コレクターズ初期の「チョークでしるされた手紙」をカバー。途中で加藤ひさしと古市コータローも加わるが、加藤ですらチラチラ歌詞を見ながら歌うようなこの曲をチョイスするあたり、本当に峯田はコレクターズを聴いていたんだな、というのがよくわかる。
古市のギターもキレまくりで、峯田もこんなに無垢な笑顔を見るのはいつぶりだろうか、というくらいの楽しそうな笑顔を浮かべていた。その顔が見れただけでも、ファンとして本当に嬉しかった。
前半、峯田はバンドメンバーを指差しながら、
「今日は俺たちとみんなで、最後まで楽しい時間を作りましょう」
と言った。「俺」ではなくて「俺たち」。それはこのメンバーが単なる峯田和伸のバックバンドではなく、銀杏BOYZのメンバーになってきていることの証明である。
峯田に「カンちゃん!」と呼ばれ、様々なエフェクターを駆使して曲を作る山本、実は安孫子とかなり似たタイプのベーシストである藤原、まだその超人的な能力をフルに発揮できてはいないが、確実にバンドの馬力を上げている後藤と、明らかにこのメンバーたちでなければいけない瞬間が増えてきている。
まだなんとも言えない部分ではあるが、これからもこの4人でやっていくんじゃないだろうか、という予感がしている。とりあえず次に見れるのは5月のはVIVA LA ROCKになるんだろうか。
そして、かつてゴイステばかり聴いていた15年くらい前とはもう違う。いろんな音楽、いろんなバンドを聴くようになったし、昔ほど盲信的なファンではない。でも、やはりステージに立つだけで、歌っている姿を見るだけで涙が出てしまうのは銀杏BOYZだけ。やはり峯田和伸の音楽が自分にはまだ必要だ。
1.生きたい
2.まだ見ぬ明日に Dragon Days
3.DON'T TRUST OVER THIRTY
4.光
5.新訳 銀河鉄道の夜
6.べろちゅー
7.BABY BABY
8.ぽあだむ
9.愛してるってゆってよね
encore
10.チョークでしるされた手紙 (THE COLLECTORSのカバー。 w/加藤ひさし、古市コータロー)
銀河鉄道の夜
http://youtu.be/r0yT3h66guk
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そもそもは銀杏BOYZの峯田和伸がTHE COLLECTORSのファンであるというのを雑誌編集が知って企画したというこのイベント。当然スペシャルなコラボにも期待が膨らむが、何はともあれ、2016年初の銀杏BOYZのライブである。こんなに3~4ヶ月くらいのスパンで見れることになるとは、全くライブをやっていなかった時期には想像だにしていなかった。
・THE COLLECTORS
先攻はTHE COLLECTORS。結成30周年を迎え、怒髪天→フラワーカンパニーズと続く、ベテランバンドの武道館ワンマンを次にやるんじゃないかと言われているバンドである。
しかしステージに現れたのは、スーツを着た古市コータロー(ギター)と、まさかの銀杏BOYZ、峯田和伸。古市がギターを弾き始めると、峯田が歌い始めたのは「BABY BABY」。
弾き語りではなく、ギタリストが弾くギターに合わせて歌うというだけあって、峯田の歌もリズムから外れないし、ブレない。当然客席では大合唱が起こるが、峯田は歌い終わると古市とハイタッチしてすぐさまステージを去っていった。
すると峯田と入れ代わりにメンバーがステージへ。加藤ひさし(ボーカル)は実にド派手なスーツ姿でインパクト抜群。
実にシンプルかつタイトなリズム隊の演奏なだけに、加藤の拳の効いた歌声と、古市の年齢を全く感じさせない、ブルースなどの要素を含んだキレキレのギターが映えるが、ブリティッシュロックへの素直な愛情が感じ取れるギターロックサウンドは、現在の若手ギターロックバンドの系譜をたどっていくとこのバンドに行き着くのかもしれない、とも思う。
「銀杏BOYZの若いファンに合わせた」と、「おじゃる丸」のエンディングテーマ「Da!Da!!Da!!」を演奏するも、客席の銀杏BOYZ目当てであろう観客からは反応はイマイチ。(自分もそうだが、若いとはいえおじゃる丸世代ではない)
加藤の懐の深いボーカルを聴かせるバラード「深海魚」、サビの繰り返しのフレーズが頭に残る「ガリレオ・ガリレイ」、偉人たちの名前が次々に歌詞に登場する「たよれる男」と、曲を続けていくたびに、
「もうちょっとで心を開きそうなやつがいるんだよな~」
という加藤の言葉通りに徐々に盛り上がりを増していく。
その加藤のMCの最中は古市がステージで普通にタバコを吸う中、「代表曲」と紹介された名バラード「世界を止めて」、そして勇壮なコーラスが轟き、政治や社会に触れた歌詞が並ぶ中、
「世界を変えれる気がしてる」「誰にも負けない気がしてる」
と高らかに宣言する、最新作からの「Tシャツレボリューション」で終了。
30年続けてきたバンドだからこそ説得力のある曲を未だに生み出しているのは本当にすごい。今のロックシーンの主流の音楽ではないけれど、こうして続けている姿は、ファンや後輩のバンドマン達に確実に力を与えているはず。
1.BABY BABY (峯田和伸と古市コータロー)
2.Stay Cool! Stay Hip! Stay Young!
3.東京虫バグズ
4.Da!Da!!Da!!
5.深海魚
6.ガリレオ・ガリレイ
7.たよれる男
8.Nick! Nick! Nick!
9.世界を止めて
10.Tシャツレボリューション
世界を止めて
http://youtu.be/Nv-HdZmmIsE
・銀杏BOYZ
いよいよ今年最初の銀杏BOYZのライブである。サウンドチェックの段階では暗幕がかかっているが、ドラムやベースの音から、この日も去年の夏以降同様にバンド編成であることがわかる。
当然のようにSEも何もなく、まずは最近ステージでいつも着ているコート着用、フードを被った峯田和伸1人で登場。アコギを手にすると、
「最後に東京の都市でライブをやったのは7年半前のせんそうはんたいツアー。あの時の、また東京で必ずライブやるっていう約束をようやく果たせるのが本当に嬉しい」
と話し始めるが、どこか峯田は声を詰まらせているかのように感じる(つまり少し涙をこらえているような)部分もあった。そして1曲目は「生きたい」。弾き語りで歌い始めるが、初めて聴いた、去年のビバラの時よりも、ライブで演奏する回数を重ねたことで、曲がかなり整理されてきた印象。それは曲途中から、山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、後藤大樹(ドラム)という、去年の秋以降と同じメンバーのバンドが合流し、ノイズにまみれていても同じで、曲がだんだん完成形に近づいているんじゃないか、と感じた。弾き語りですら長い曲なのに、バンドになるとアウトロのノイズ垂れ流しタイムなどでさらに長くなっているが。
ノイズが会場を包む中、バンドが合流してからはハンドマイクだった峯田がエレキギターを肩にかけると、喋っている単語が聞き取れないくらいのノイズの洪水の中から、
「まだ見ぬ明日に何があるのか 何があるのか僕は知らない」
という峯田の歌が浮かび上がってくる。GOING STEADYの「さくらの唄」の1曲目であり、ライブミックスアルバム「BEACH」にノイズバージョンが収録された、「アホンダラ行進曲」改め「まだ見ぬ明日に」である。
ライブで聴くのは初めてであるが、「BEACH」収録バージョン同様に、完全にノイズパンク。客席ではダイバーも発生し、峯田は唾を吐き散らしながら歌う。ちなみにこの日は峯田の声が実に良く出ていた。
さらにそのノイズパンク状態を引きずるようにして続いたのは、まさかのGOING STEADYの1stアルバム「BOYS & GIRLS」収録の「DON'T TRUST OVER THIRTY」。こちらも完全なるノイズパンクバージョンに化しているが、歌詞の英語の部分は日本語になり、
「いつの日にか 僕らが心から笑えるように
いつの日にか 僕らが心から笑えますように」
というサビのフレーズでは客席から拳が突き上がる。アレンジこそ超ノイジーだが、メロディ自体は原曲そのもの。つまり、とびっきりポップな、あのGOING STEADYのままである。
しかし、当時20代前半で「DON'T TRUST OVER THIRTY」と叫んでいた峯田はもう30代後半になり、聴いていた10代だった我々ももはや30代に突入するようになった。曲の中でこそ、「30代以上は信じない」と叫んではいるが、今になると信じられる30代もいる、それこそすぐ目の前にいる、という事実。当時10代でまさに「DON'T TRUST OVER THIRTY」状態だった過去の自分にこの光景を見せてやりたい。
しかしこんなにGOING STEADY時代に死ぬほど聴きまくっていた曲たちを続けられたら(ましてややるなんて全く思っていなかった)、泣くなというのは無理な話である。
するとここでメンバーがいったんステージを去り、峯田1人に。再びアコギを背負うと、
「7年半ぶりに東京でこうしてたくさん曲やれて。アルバムも出さなかったし、ライブもやらなかったから人も離れていくんじゃねぇかって言われたりしたけど、俺は全然寂しくなんてなかったよ。アルバム出して、ライブやれば絶対みんな見に来てくれるって信じてたから。
メンバーみんないなくなったけど、俺には歌があるし、こうして目の前にいるあんたらがいてくれるって信じてたから。だから全然寂しくなんてなかった」
と、ずっとバンドのことを待っていた我々としては涙を堪えざるを得ないことをサラッと言う。でもやはり、メンバーがいなくなってしまったのは、口ではそう言っていても、どこか寂しそうに見えた。「寂しくない」って自分に言い聞かせているかのようだった。あれだけただの音楽を一緒にやる人間ではなくて、汚い部分まで全てさらけ出し合える関係の人がいなくなってしまったんだから、寂しくないわけがない。見てるこっちだって、やっぱりまだ寂しい気持ちがあるんだから。
そして弾き語り始めたのは、冒頭の「生きたい」に連なるストーリーである「光」。声がよく出ることで、より一層峯田の歌は光を求めるように切実に聴こえたが、
「僕を置いてけよ」
という最後のサビ部分でのフレーズで声を詰まらせていた。
「今日ライブなのに、昨日の夜にみうらじゅんから電話来て。新宿で飲むから来いって。1軒目終わって帰れるかなと思ったら、もう1軒行くぞって言われて。2軒目出たら歌舞伎町が雪まみれになってて。ホストたちの横でみうらじゅんと田口トモロヲと雪合戦して(笑) なんでこんなことをと(笑)
でも、雪が降るとこの曲を歌いたくなる」
と言って歌い出したのは、「新訳 銀河鉄道の夜」。この日、東京も朝まで雪が降り、道には雪の残りがまだあった。そんな景色の日に聴くこの曲は格別。最後のサビではマイクを客席に向けると、主に男性の声を中心とした大合唱が起こる。こうしてたくさんの人の声が重なると、この曲は学校の合唱コンクールとかで歌われていても不思議ではないな、と思うほどの普遍性を持った曲であることがわかる。いや、それはわかってはいたことなのだが、実際にみんなで歌うことによって、改めてその事実に気付かされる。やはり何度アレンジやバージョンが変わろうと、この曲はこの国最大のロックアンセムの一つであると自分は信じている。
歌い終わると、
「あんたらが何やったっていい。覚醒剤やったって、援助交際やったっていい。MDMAやったっていい。生きていてくれればそれでいい。そうすれば、必ずまた会えるから。俺も少しいいもん食って、長生きできるようにするから。
山形から東京に出てきて20年経って、出てくる時、CDウォークマンとCDいっぱい持って。その中にはCOLLECTORSのもあって。メンバーには直接言わないけど、COLLECTORS、ずっと続けてて下さい!」
と先輩に感謝を告げると、タイトルはあれだけど
「生まれてこなければよかったと
思った時もあったけど
でも生きててよかったよ」
というサビのフレーズが、直前のMCの内容と同じように、ここにいる全ての人の「生」と「性」を肯定する、超名曲「べろちゅー」。途中で再びバンドが合流するアレンジは初だろうか。前半のバンド部分とは違い、確かに音こそ大きいが、決してノイジーではない。
峯田が再びエレキを手にすると、山本のギターがイントロのフレーズを奏でたのは、「BABY BABY」。
「いや、さっき古市コータローと一緒にやったじゃん!」
と心の中でツッコミを入れた人もかなりいたと思われるが、やはりバンドバージョンのほうが良い。藤原と後藤の元andymoriコンビもコーラスを務め、本来なら曲が終わるタイミングで峯田がマイクスタンドを客席に向けると、ここでも大合唱が起こる。銀杏BOYZのファンはきっと、なんでもこなせるような器用な人たちじゃない。むしろ、ほとんどなんもできないような不器用な人たちばかりだと思う。でも、この曲をみんなで歌っている時だけは、我々は間違いなく無敵。そんな気分にさせてくれる。合唱部分が終わると、バンドというよりは歌っていた1人1人に向けたように客席から大きな拍手が起こる。
「次の曲をやる前に、照明を夕方3時半くらいの感じにしてください」
と峯田が照明スタッフに注文し、オレンジの光に照らされた中で打ち込みの音が流れ出したのは、「ぽあだむ」。以前までは峯田のカラオケで披露されていたが、イントロのギターを山本が生でカッティングし、藤原と後藤のリズム隊も演奏に加わる、バンドアレンジに打ち込みを足したような新アレンジに。つまり、ついにこの曲も完成形に向かってきているということである。
終盤、峯田はまた声が詰まって歌えなくなっていた。泣いていたような気がしたが、それを振り払うかのようにして、次の
「涙は似合わないぜ 男の子だから」
というフレーズを歌った。ここだけしっかり歌ったというのはあまりに出来すぎているような感じもするが、この人はそこまで計算できるような人じゃない。そもそも計算できるような人ならもっと上手いバンド運営ができるはずである。
後藤と山本がステージを去り、峯田と藤原も楽器を置いたので、これで終了かと思いきや、峯田と藤原はマイクを掴み、完全カラオケ、しかもツインボーカルという新境地で披露されたのは、「愛してるってゆってよね」。まさか藤原がツインボーカルの片割れを担うことになるとは全く思わなかったが、多分我々が思っている以上にこのメンバーは銀杏BOYZになってきている。
最後に
「恋と退屈と銀杏BOYZでした!」
と言って本編は終了。1時間ちょっとだったが、あまりにも濃厚過ぎる時間だった。
「やるなら今しかねーべ」
というアンコールを求める声に応え、メンバー全員がステージに登場すると、峯田の前には譜面台が。
「せっかくなので、THE COLLECTORSの曲を」
と言うと、コレクターズ初期の「チョークでしるされた手紙」をカバー。途中で加藤ひさしと古市コータローも加わるが、加藤ですらチラチラ歌詞を見ながら歌うようなこの曲をチョイスするあたり、本当に峯田はコレクターズを聴いていたんだな、というのがよくわかる。
古市のギターもキレまくりで、峯田もこんなに無垢な笑顔を見るのはいつぶりだろうか、というくらいの楽しそうな笑顔を浮かべていた。その顔が見れただけでも、ファンとして本当に嬉しかった。
前半、峯田はバンドメンバーを指差しながら、
「今日は俺たちとみんなで、最後まで楽しい時間を作りましょう」
と言った。「俺」ではなくて「俺たち」。それはこのメンバーが単なる峯田和伸のバックバンドではなく、銀杏BOYZのメンバーになってきていることの証明である。
峯田に「カンちゃん!」と呼ばれ、様々なエフェクターを駆使して曲を作る山本、実は安孫子とかなり似たタイプのベーシストである藤原、まだその超人的な能力をフルに発揮できてはいないが、確実にバンドの馬力を上げている後藤と、明らかにこのメンバーたちでなければいけない瞬間が増えてきている。
まだなんとも言えない部分ではあるが、これからもこの4人でやっていくんじゃないだろうか、という予感がしている。とりあえず次に見れるのは5月のはVIVA LA ROCKになるんだろうか。
そして、かつてゴイステばかり聴いていた15年くらい前とはもう違う。いろんな音楽、いろんなバンドを聴くようになったし、昔ほど盲信的なファンではない。でも、やはりステージに立つだけで、歌っている姿を見るだけで涙が出てしまうのは銀杏BOYZだけ。やはり峯田和伸の音楽が自分にはまだ必要だ。
1.生きたい
2.まだ見ぬ明日に Dragon Days
3.DON'T TRUST OVER THIRTY
4.光
5.新訳 銀河鉄道の夜
6.べろちゅー
7.BABY BABY
8.ぽあだむ
9.愛してるってゆってよね
encore
10.チョークでしるされた手紙 (THE COLLECTORSのカバー。 w/加藤ひさし、古市コータロー)
銀河鉄道の夜
http://youtu.be/r0yT3h66guk
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