go!go!vanillas DREAMS TOUR 23-24 @Zepp DiverCity 11/17
- 2023/11/18
- 18:13
先週にはSHISHAMOの10周年を祝う「同騒会」にも出演していたが、go!go!vanillasもまたSHISHAMO同様にスペシャ列伝ツアー時は新人だったために、こちらも10周年を迎えたことによって、ベストアルバムというわけではないギフトアルバム「DREAMS」をリリースしてのツアーであるが、その収録曲の中でも最近あまり演奏してない曲を聴けるのか、そのギフトアルバムのバージョンで聴けるのかというのも実に楽しみなところである。
ステージ背面には巨大な「DREAMS」の文字が描かれている中、19時過ぎに場内が暗転するとおなじみのSEが流れて、この日も井上惇志(キーボード)を加えた5人編成なのだが、いつものようにスティックを振りかざすようにポーズを取ってドラムセットに立つジェットセイヤ(ドラム)だけでなく、柳沢進太郎(ギター&ボーカル)も長谷川プリティ敬祐(ベース)もステージ前まで出てきて観客を煽るようにするという気合いの入りっぷりをいきなり見せるのはワンマンならではの熱さを感じさせる中で、黒のスーツ姿が実にスタイリッシュな牧達弥(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら歌い始めたのは、まさにこの日がロックンロールの魔法にかけられるような日であることを示すかのような「マジック」であり、演奏が始まるとともに背面の「DREAMS」の文字が光ることによって、ただのタイトルだけではなくて電飾の効果も兼ねているということがわかるのだが、早くも手拍子のタイミングなどが完璧な満員の客席の光景は、ここにいる人がこのライブをどれだけ待ち望んでいたのかということがわかる。もうこの時点で完全にこの会場はバニラズのロックンロールに、騙されたままなのである。それを牧はラモーンズ「電撃バップ」のコーラスを引用することによってさらに強く感じさせてくれる。
そのまま勢いよく突入していくのは「ヒンキーディンキーパーティークルー」であるのだが、牧はイントロでお立ち台の上に立とうとしてコケてしまうという姿を見せる。頭を打ったりしなかったのは幸いであるが、その見た目はスタイリッシュなのに完璧に決まりきらないというあたりが実にバニラズらしいし、それはこの曲がタイトルの通りのパーティーチューンであることによって、鳴らしている音と演奏しているメンバーの姿がこのバンドのライブの持つ熱さを感じさせてくれるのである。
そんな熱さを持ちながらも、背面のDREAMSオブジェとステージを照らす照明が真っ青に染まるのは、曲のサウンドからも「水色」という歌詞からも爽やかさを感じさせる「バイリンガール」であるのだが、その爽やかさをさらに際立たせているのはリリース当時は参加していなかった井上の存在だろう。この曲をはじめとして「DREAMS」のgift盤ではホーン隊のサウンドも加わるというアレンジがなされているが、そのホーン隊のメンバーは今回のライブには参加していないために(昨年の日本武道館でのワンマンでは参加していた)、その井上の鳴らすサウンドこそがアルバムのアレンジと、今のバニラズとしてのサウンドを感じさせてくれるのである。
ちなみにこの曲の途中で牧が
「大丈夫かー?」
と客席に呼びかけると、スタッフがライトを持って最前の観客の方を照らしていた。押され過ぎたりしてキツそうな観客の姿が歌いながらにしても見えていたということだろう。曲中にもかかわらずそうして観客の方を思いやることを忘れないというのも実に牧らしい。
すると牧がギターを置き、早くもジャケットも脱いで白シャツ姿になると、個人的にも「DREAMS」に収録されたことによって、このツアーで演奏されるだろうと楽しみにしていた「チェンジユアワールド」へ。牧はハンドマイクであることによって自由自在にステージを歩き回りながら歌うのであるが、ジェットセイヤは立ち上がってバスドラだけを踏んだりしながらも軽快なリズムを鳴らしてくれる。常に革ジャンにサングラスという、出で立ちからしてバンドの中で最もロックンロールを体現している男であるが、同時にバニラズのサウンドの幅広さの土台を支えている男でもあるのだ。
そのサウンドの幅広さをこの前半から存分に感じさせてくれるのは、サビからCメロでガラッと変わるのを中心に、めまぐるしく展開していき、それに合わせて照明や背面の電飾も色を変えていく「サイシンサイコウ」であるのだが、この曲のタイトルとテーマは今もずっと変わらないバニラズの軸であり、核である。こうしてライブに来ている人もそれをわかっているし、その人数がずっと増え続けているのがそれを証明している。牧は歌詞に「東京ー!」とこの会場ならではの単語を入れて叫ぶというテンションの高さ。もうこの時点でまだツアー2公演目とは思えないくらいの完成度の高さをも存分に感じさせてくれる。
それは牧が観客にコーラスをコール&レスポンスさせ、そのレスポンスの大きさに驚きながら、
「みんな最高に青いよ!」
と観客を称えてから演奏された「青いの。」のイントロからもわかることであるが、そのアレンジの後にはやはり井上の爽やかなキーボードのサウンドに合わせてセイヤがスティックを叩き、プリティも手拍子をしながらステージが照明によって青く染まっていく。先週のぴあアリーナのような大きな会場だとスクリーンに映像が映されて…という演出も使われる曲であるが、こうしたライブハウスだとやはりその青さを感じさせるのはメンバーの演奏と牧の歌唱である。特に
「SOS 本当に痛い」
のフレーズはまさに青春期の心の痛さを強く感じさせる歌唱なのであるが、それは青春が過ぎ去ったからではなくて、今も続いているものだからこんなにリアリティを感じさせるように歌えるのだと思う。
ここまではほぼノンストップで演奏をしてきたが、ここで一旦MCへ。プリティは背面の電飾の凄さに驚きながらも、柳沢が自らの髪色と同じ赤に染めたことによって髪色被りの危機を感じてか、
「もう次は坊主しかないな…」
と何故か柳沢に坊主にすることを勧める。ちなみにバニラズメンバーは全員学生時代に坊主にした経験があり、井上までも高校時代は部活で坊主にしていたらしいのだが、その部活が弓道部だったことには観客だけではなくメンバーも驚いていた。
そんなまさに青春期を振り返るようなトークも挟みながらも、
「今日はオールスターみたいな選曲だから。久しぶりにやる曲もあるし」
と、やはり「DREAMS」の収録曲に焦点が当たるベスト的な内容になることを窺わせるのであるが、そんな言葉の後に
「ピクニックに行こうぜ!」
と言って演奏されたのはその「DREAMS」には収録されていない「ナイトピクニック」という今となっては実にレアな選曲で、牧がサビでは実に見事なファルセットボーカルを響かせるのであるが、なんと2コーラス目では歌詞が完全に吹っ飛び、助けを求めるようにして柳沢の方をずっと向いていた。その際に柳沢はコーラスを歌っていたのであるが、コーラスを終えた後にマイクから離れた時にはめちゃくちゃ笑っていた。それもやはり久しぶりにライブで演奏する曲ならではである。
その「ナイトピクニック」では照明が薄暗くなり、背面に光の粒が飛び散るような演出が施されていたのであるが、その光の粒がさらにカラフルになり、それだけではなくレーザー光線もステージから客席に向かって飛び交う「雑食」もまた今となってはレアな選曲であるが、そのタイトルはバニラズの音楽性そのものであるとも言えるし、ある意味ではそのカラフルな光の粒がその雑食感を視覚的に表しているとも言える。最初はライブハウスだからこそ地味というかストイックに演奏を見せるような演出かと思いきや、使い方次第でガラッと見せ方を変えることができるのはさすがアリーナなどでも驚くような演出を作ってきたバニラズチームである。
すでにここまでにも牧がコール&レスポンスを煽ったりしてきたが、そうした観客の声をさらに巨大に集めるべく、セイヤがリズムを叩きながらのイントロで牧が観客の合唱を求めるのはもちろん「おはようカルチャー」であり、キーが低いバージョンと高いバージョンで交互にコール&レスポンスを巻き起こすのであるが、実際に歌うとキーが高いバージョンが本当に高くて少し驚くのだが、それはコロナ禍中はこの曲でも合唱が出来なかった(むしろこの曲は規制があった期間はほとんど演奏されてなかった)のが、ようやくこうして最大限に我々観客が声を出せるようになったという喜びを感じさせてくれる。個人的にはプリティが事故に遭ってライブに参加出来なかった時のCOUNTDOWN JAPAN(夜の本気ダンスのマイケルがサポートベーシストとして参加した)の祈りを込めたような大合唱が今も記憶に焼き付いているのだが、井上が担う色彩豊かなサウンドは今のバニラズのシグネチャーとも言えるアイリッシュ・トラッド的なサウンドの目覚めとも言える。それをプロデューサーとして担ったストレイテナーのホリエアツシの手腕もやはり素晴らしかったと思う。
そんな大合唱から一転して柳沢がアコギ、牧も最初は椅子に座る形で歌い、淡いオレンジ色に染まる照明が夕日が射し込む放課後の教室なんかでこうやって音を鳴らしているように感じさせてくれるのは「ツインズ」であるのだが、ここでもやはりalt ver.のホーンなどの多彩なサウンドを井上のキーボードが担っているという意味ではもはやサポートという枠を超え、今のバニラズサウンドの最重要人物だと言っていいだろう。牧は座っていたのがすぐに立ち上がってステージ上を歩き回りながら歌うのであるが、アコギのサウンドだからこそより映える歌唱で
「どこまでも行けそうなくらい最高な二人でいようね
心配ばかりかけるけど いつまでも ずっと」
と歌うのはこの日、このツアーはそれがバンドと観客、ファンとの関係性であるかのように響いていたのだ。
するとMCでは牧が「DREAMS」が発売されたことについて改めて触れると、最前列の観客に
「何の曲が好き?」
とマイクを向けて尋ねて、その観客は「LIFE IS BEAUTIFUL」と答えるのであるが、
「ああ、「DREAMS」に入ってない曲を挙げる(笑)」
というやり取りで笑わせると、柳沢は急に
「写真撮っていいですか?」
と懐かしの写るんですで客席を撮影する。それもまた修学旅行らしいものであるし、柳沢からカメラを受け取ってドラムセット上から撮影していたセイヤいわく「何らかの形で公開されるかもしれない」らしいが、前日にも用意されていたのにメンバーがすっかりカメラの存在を忘れており、前日は使われなかったという。
かと思えばプリティはまたもや電飾のカッコよさに触れるのであるが、
「俺、結構ライブの夢見るんよ。その夢の中では急に牧が
「新曲やります!「ダブルマシンガン!」」
みたいに俺が全然知らない曲がいきなり始まって「え!?え!?」って焦って目が覚めるんやけど、そんな夢を吹き飛ばしてくれるくらいに今日が楽しい!」
と、ステージ上では元気であるプリティが実は繊細かつ自分に自信がない性格であることを改めて感じさせてくれるのであるが、そのMCを受けて牧が
「じゃあ聴いてください。新曲「ダブルマシンガン」」
と言ってセイヤのツービートから始まる曲が本当に演奏されてプリティがビックリするというやり取りに展開していく(もちろん即興でのイントロだけ)ということが瞬時にできるのも、タイトルだけを聞いて
「セイヤのドラム始まりだよな」
という意思疎通ができているのもバニラズのメンバーの意識や思想が完璧に統一されているということだ。マジで1人だけ全然ついていけてないプリティは本当に面白かったけど。
そんな幻の新曲の後からは後半戦へと突入していくのであるが、ここからはライブでもおなじみの「これぞバニラズ」的な曲が続いていく。その口火を切るのは柳沢もプリティもイントロでステージ前まで出ていき、セイヤが自身のリズムに合わせて「オイ!オイ!」と叫びまくることによってそれが客席にも広がっていく「平成ペイン」であるのだが、やはりワンマンともなるとサビでの振り付けが完璧であるというのが見ていて壮観である。それはきっと平成という時代を知らない人がライブに来るような時が来てもずっと続いていくはずだと改めて思った。
続いておなじみのプリティによる「EMA」の人文字を作ってから演奏される「エマ」はなんと、その「E」「M」「A」のコールに合わせて背面の「DREAMS」の電飾の「E」「M」「A」の部分が光るというこのツアーだけの演出が。もうこれを考えたスタッフは天才としか言いようがないのであるが、その演出によってさらに観客のテンションを上げて飛び跳ねさせてくれるし、サビでは左右の腕を交互に挙げるというおなじみの振り付けは映像がなくても完璧に観客に共有されている。もちろんそうして腕を上げながらコーラスも歌うことによってさらなる熱気に満ちていくのがわかる。
さらにはパンクな演奏のイントロアレンジから始まったのはプリティを皮切りにメンバーがマイクリレーしていく「デッドマンズチェイス」であり、ボーカルだけではなくてセイヤのドラムソロや井上のキーボードソロなど、上手側まで走って行ったプリティが自分の位置に戻ろうとしたらすでにそこに牧がいてセンターマイクで歌うという歌だけではなく音でもリレーしていくのであるが、間奏では柳沢がギターソロでお立ち台の上に立つと、イントロ部分ですでに吹き上がっていたスモークがまるで柳沢を狙っているかのように大量に吹き上がり、1番前にいるのに柳沢の姿が隠れてしまうほどに。演奏後に咽せながら、ソロで前に出るように促したプリティに向かって
「これ無理っすよ〜」
みたいな感じで手を左右に振っている柳沢の姿も実に面白かった。
そんなスモークを喰らいまくった柳沢がメインボーカルを務める「ストレンジャー」はこの流れの中で演奏されるからこそ、柳沢の声が持つロックさと、元々バニラズ加入前は自身がボーカルであった歌の上手さを改めて感じさせてくれるのであるが、このオールスター的な選曲の中でもセトリに並ぶ強さを持った楽曲でもあるということを示してくれるし、牧だけではなくてこんなに歌えるギタリストを擁しているバニラズのバンドとしての強さをも実感させてくれる。自身が歌わないからこそ牧は背中から客席に飛び込んで、観客に支えられながらギターを弾いているというのも柳沢というボーカリストがいるからこそ。
さらにロックンロールでしかないイントロのアレンジから繋がるようにその柳沢がおなじみの曲前のコール&レスポンスで「go!go!」というバンド名を様々なメロディに乗せる形(タメなどの難しいコールもしっかりついて行ってレスポンスするファンたちはさすが毎回ライブでついてきただけはある)でレスポンスさせるという大活躍っぷりを見せる「カウンターアクション」ではイントロから牧が
「跳べー!」
と言うまでもなく観客たちが飛び跳ねまくるのであるが、この曲の最大の見どころである、牧と柳沢が一本のマイクで顔を密着させながら歌うパフォーマンスはこの日ももちろん健在であるし、やはりこれはこのバンドがビートルズなどからの脈々と受け継がれてきた影響を見せるロックンロールバンドであることを示している。
すると牧が突然最前の観客に向かって
「やるよ!」
と言ってから演奏されたのは、先ほどその観客が1番好きな曲だと言った「LIFE IS BEAUTIFUL」であるのだが、牧がその観客の名前を聞いて「りん」と返ってくると、
「君となら大丈夫」
という歌い出しのフレーズを
「りんとなら大丈夫」
に変えて歌うというとんでもないサービスをする。果たしてそのりんさんはそのまま立ってライブを観ていられただろうかとも思うのであるが、「君」と「りん」が同じ文字数であることの収まりの良さを牧が口にした後には
「東京のみんなとなら大丈夫」
とさらに重ねることによってこの日ここにいた誰しものための歌にしてしまう。フルートなども使ったそのサウンド(もちろんこの日は井上が担う)は直接的に「DREAMS」のalt ver.に繋がっているとも言えるけれど、それがこのライブで示すものはやはり最大級の多幸感と楽しさだ。バニラズが元から持っていたその要素が今にして最大限に開花したのがそのアレンジであると言えるし、この曲をライブで聴くたびに、こうした光景を見れるやはり人生は美しいと思える。つまりは翌日からの日々を生きる力をくれるということである。
そんなライブの最後に演奏されたのはもちろん「DREAMS」収録の新曲である「コンビニエンスラブ」。牧は再びハンドマイクになると、ヒップホップ的な歌唱からサビでは一気にキャッチーなメロディに開いていく。そのキャッチーなメロディに乗せて歌われる
「コンビニエンスラブ
便利な世の中 出逢ったよ
コンビニエンスラブ」
というフレーズに少しハッとするのは、どれだけ便利な世の中になっても、バニラズの、ロックンロールの、ロックバンドのライブのこうして目の前まで来ることによってしか感じられない体温のようなものはきっと変わることはないということにも気付くからだ。それを感じさせてくれるのはやはりメンバーの鳴らす姿と観客の笑顔と声によってそう思わせてくれるのだ。それこそがバニラズのライブの楽しさの理由であるからこそ、これからもこうしてライブに足を運び続けたいと思うのである。
観客による「おはようカルチャー」のコーラスの合唱が響くアンコール待ちに応じるようにメンバーが登場すると、まずは井上不在のメンバー4人だけで演奏されたのは最初期と言える曲である「オリエント」であるのだが、今の曲たちに比べると圧倒的にシンプルなサウンドで演奏されるこの曲を聴いていたら、否が応でもこの曲を演奏していた2014年のスペシャ列伝ツアーの赤坂BLITZでのライブ(自分が初めてバニラズのライブを見た日である)を思い出していた。あの時はほとんどの観客がKANA-BOONかキュウソネコカミ目当てであり、まだバニラズは「誰?」みたいな空気が充満していたのだが、そんなバンドが9年という長い月日をかけてこのZepp規模すらチケットが手に入らない、幕張メッセで2daysライブをやるような規模のバンドになった。そんな記憶を呼び起こしてくれたからこそ、こうして満員のZeppで4人だけでこの曲を演奏している姿に感動してしまったのである。
そんな「オリエント」終わりで井上が招かれて再びステージに登場すると、素肌に透けたシャツというセクシー極まりない出で立ちでいることをメンバーにいじられるのであるが、開演時にステージに出てきた時に真っ先に客席から上がったのが
「あっちゃーん!」
という井上を呼ぶ声だったことにメンバーは危機感を抱いていた。
そうして井上を加えた5人編成でのアレンジが施された「パンドラ」もまた同名タイトルのアルバムのリリース(バニラズ屈指の名盤だと思っている)をとっくに終えた今となっては実にレアな選曲とも言える曲であるのだが、
「お情けで 君と生きているわけじゃないから
ぎゅっと抱き寄せた
見た目よりずっと か弱い君のこと
知ってるよ 口にはしないけど」
という歌詞もまた観客へ向けられているかのようであり、また観客からバンドへ向けての思いでもあるかのよう。そんな感覚が確かにあったし、だからこそこのツアーで演奏されているんじゃないかとも思う。
そうしたバンドの歴史を総括するかのように牧は
「バニラズは難しいバンドだと思う。「Kameleon Lights」っていうアルバムをメジャーから2枚目で出して、そのタイトル通りにいろんな色に染まるように音楽性を変えて行って。そこからずっとメンバー変わらずにここまで来ました。これからもこのバンドの音楽をずっと愛してくれたらなと思います」
と告げる。そこからはやはり音楽性を変化させてきたことに対する様々な声や意見もあったんだろうなと思うけれど、それでも自分たちを曲げなかったからこそ今この光景が見れている。その選択が、自分たちがやりたいことをやってきたことが間違ってなかったことを自分たちで証明している。
そんなライブの最後に演奏されたのは「DREAMS」の新アレンジ盤のタイトルにもなった「ギフト」。牧が口にしていた、バンドとしての変化のきっかけになった「Kameleon Lights」の最後に収録されている曲であるが、井上も加わって豊潤なアレンジが施された上で歌われる
「太陽の子 綺麗なその目
曇らせないように僕は歌を唄ってる
ここで待ってるから
どうかまた会える日まで さよならは言わないよ
夢から覚めても」
というフレーズが今になってバンドと我々の絆を示してくれるようなものになっているし、再会を約束するものになっている。「DREAMS」で今のバンドの形でアレンジしたのは曲に新たな命や意味を吹き込むというものだったのかもしれないと、牧の見事なくらいに伸びやかなファルセットの歌唱を聴きながら思っていた。
アンコールが終わると
「幕張メッセ来いよ!」
という声もメンバーから飛んでいた。3月にこのバンドは初の幕張メッセワンマンと、まさに「DREAMS」な対バンを集めた主催フェスでこの10年間を自ら祝う。もちろん行くしかないし、その時には必ずこの日をも上回る景色を見せてくれるはずだ。それはこれまでのバニラズのライブが毎回そうしたものだったからだ。
柳沢がこの日
「ライブだと音源とはまた違うアレンジになる」
と言っていた。それを最も感じさせたのは「バニラズの曲ってこんなにみんなで歌えるような曲ばかりだったんだな」と改めて思わせてくれるような観客たちの声だった。「DREAMS」の曲はそうしたライブでしか得ることができないアレンジを施されることによって完成するんじゃないだろうかとも思った。もちろんその最大の完成形が幕張メッセでのライブになるはず。それまでも、それからもこのロックンロールに、騙されたままがいいんだ。
1.マジック
2.ヒンキーディンキーパーティークルー
3.バイリンガール
4.チェンジユアワールド
5.サイシンサイコウ
6.青いの。
7.ナイトピクニック
8.雑食
9.おはようカルチャー
10.ツインズ
11.平成ペイン
12.エマ
13.デッドマンズチェイス
14.ストレンジャー
15.カウンターアクション
16.LIFE IS BEAUTIFUL
17.コンビニエンスラブ
encore
18.オリエント
19.パンドラ
20.ギフト
ステージ背面には巨大な「DREAMS」の文字が描かれている中、19時過ぎに場内が暗転するとおなじみのSEが流れて、この日も井上惇志(キーボード)を加えた5人編成なのだが、いつものようにスティックを振りかざすようにポーズを取ってドラムセットに立つジェットセイヤ(ドラム)だけでなく、柳沢進太郎(ギター&ボーカル)も長谷川プリティ敬祐(ベース)もステージ前まで出てきて観客を煽るようにするという気合いの入りっぷりをいきなり見せるのはワンマンならではの熱さを感じさせる中で、黒のスーツ姿が実にスタイリッシュな牧達弥(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら歌い始めたのは、まさにこの日がロックンロールの魔法にかけられるような日であることを示すかのような「マジック」であり、演奏が始まるとともに背面の「DREAMS」の文字が光ることによって、ただのタイトルだけではなくて電飾の効果も兼ねているということがわかるのだが、早くも手拍子のタイミングなどが完璧な満員の客席の光景は、ここにいる人がこのライブをどれだけ待ち望んでいたのかということがわかる。もうこの時点で完全にこの会場はバニラズのロックンロールに、騙されたままなのである。それを牧はラモーンズ「電撃バップ」のコーラスを引用することによってさらに強く感じさせてくれる。
そのまま勢いよく突入していくのは「ヒンキーディンキーパーティークルー」であるのだが、牧はイントロでお立ち台の上に立とうとしてコケてしまうという姿を見せる。頭を打ったりしなかったのは幸いであるが、その見た目はスタイリッシュなのに完璧に決まりきらないというあたりが実にバニラズらしいし、それはこの曲がタイトルの通りのパーティーチューンであることによって、鳴らしている音と演奏しているメンバーの姿がこのバンドのライブの持つ熱さを感じさせてくれるのである。
そんな熱さを持ちながらも、背面のDREAMSオブジェとステージを照らす照明が真っ青に染まるのは、曲のサウンドからも「水色」という歌詞からも爽やかさを感じさせる「バイリンガール」であるのだが、その爽やかさをさらに際立たせているのはリリース当時は参加していなかった井上の存在だろう。この曲をはじめとして「DREAMS」のgift盤ではホーン隊のサウンドも加わるというアレンジがなされているが、そのホーン隊のメンバーは今回のライブには参加していないために(昨年の日本武道館でのワンマンでは参加していた)、その井上の鳴らすサウンドこそがアルバムのアレンジと、今のバニラズとしてのサウンドを感じさせてくれるのである。
ちなみにこの曲の途中で牧が
「大丈夫かー?」
と客席に呼びかけると、スタッフがライトを持って最前の観客の方を照らしていた。押され過ぎたりしてキツそうな観客の姿が歌いながらにしても見えていたということだろう。曲中にもかかわらずそうして観客の方を思いやることを忘れないというのも実に牧らしい。
すると牧がギターを置き、早くもジャケットも脱いで白シャツ姿になると、個人的にも「DREAMS」に収録されたことによって、このツアーで演奏されるだろうと楽しみにしていた「チェンジユアワールド」へ。牧はハンドマイクであることによって自由自在にステージを歩き回りながら歌うのであるが、ジェットセイヤは立ち上がってバスドラだけを踏んだりしながらも軽快なリズムを鳴らしてくれる。常に革ジャンにサングラスという、出で立ちからしてバンドの中で最もロックンロールを体現している男であるが、同時にバニラズのサウンドの幅広さの土台を支えている男でもあるのだ。
そのサウンドの幅広さをこの前半から存分に感じさせてくれるのは、サビからCメロでガラッと変わるのを中心に、めまぐるしく展開していき、それに合わせて照明や背面の電飾も色を変えていく「サイシンサイコウ」であるのだが、この曲のタイトルとテーマは今もずっと変わらないバニラズの軸であり、核である。こうしてライブに来ている人もそれをわかっているし、その人数がずっと増え続けているのがそれを証明している。牧は歌詞に「東京ー!」とこの会場ならではの単語を入れて叫ぶというテンションの高さ。もうこの時点でまだツアー2公演目とは思えないくらいの完成度の高さをも存分に感じさせてくれる。
それは牧が観客にコーラスをコール&レスポンスさせ、そのレスポンスの大きさに驚きながら、
「みんな最高に青いよ!」
と観客を称えてから演奏された「青いの。」のイントロからもわかることであるが、そのアレンジの後にはやはり井上の爽やかなキーボードのサウンドに合わせてセイヤがスティックを叩き、プリティも手拍子をしながらステージが照明によって青く染まっていく。先週のぴあアリーナのような大きな会場だとスクリーンに映像が映されて…という演出も使われる曲であるが、こうしたライブハウスだとやはりその青さを感じさせるのはメンバーの演奏と牧の歌唱である。特に
「SOS 本当に痛い」
のフレーズはまさに青春期の心の痛さを強く感じさせる歌唱なのであるが、それは青春が過ぎ去ったからではなくて、今も続いているものだからこんなにリアリティを感じさせるように歌えるのだと思う。
ここまではほぼノンストップで演奏をしてきたが、ここで一旦MCへ。プリティは背面の電飾の凄さに驚きながらも、柳沢が自らの髪色と同じ赤に染めたことによって髪色被りの危機を感じてか、
「もう次は坊主しかないな…」
と何故か柳沢に坊主にすることを勧める。ちなみにバニラズメンバーは全員学生時代に坊主にした経験があり、井上までも高校時代は部活で坊主にしていたらしいのだが、その部活が弓道部だったことには観客だけではなくメンバーも驚いていた。
そんなまさに青春期を振り返るようなトークも挟みながらも、
「今日はオールスターみたいな選曲だから。久しぶりにやる曲もあるし」
と、やはり「DREAMS」の収録曲に焦点が当たるベスト的な内容になることを窺わせるのであるが、そんな言葉の後に
「ピクニックに行こうぜ!」
と言って演奏されたのはその「DREAMS」には収録されていない「ナイトピクニック」という今となっては実にレアな選曲で、牧がサビでは実に見事なファルセットボーカルを響かせるのであるが、なんと2コーラス目では歌詞が完全に吹っ飛び、助けを求めるようにして柳沢の方をずっと向いていた。その際に柳沢はコーラスを歌っていたのであるが、コーラスを終えた後にマイクから離れた時にはめちゃくちゃ笑っていた。それもやはり久しぶりにライブで演奏する曲ならではである。
その「ナイトピクニック」では照明が薄暗くなり、背面に光の粒が飛び散るような演出が施されていたのであるが、その光の粒がさらにカラフルになり、それだけではなくレーザー光線もステージから客席に向かって飛び交う「雑食」もまた今となってはレアな選曲であるが、そのタイトルはバニラズの音楽性そのものであるとも言えるし、ある意味ではそのカラフルな光の粒がその雑食感を視覚的に表しているとも言える。最初はライブハウスだからこそ地味というかストイックに演奏を見せるような演出かと思いきや、使い方次第でガラッと見せ方を変えることができるのはさすがアリーナなどでも驚くような演出を作ってきたバニラズチームである。
すでにここまでにも牧がコール&レスポンスを煽ったりしてきたが、そうした観客の声をさらに巨大に集めるべく、セイヤがリズムを叩きながらのイントロで牧が観客の合唱を求めるのはもちろん「おはようカルチャー」であり、キーが低いバージョンと高いバージョンで交互にコール&レスポンスを巻き起こすのであるが、実際に歌うとキーが高いバージョンが本当に高くて少し驚くのだが、それはコロナ禍中はこの曲でも合唱が出来なかった(むしろこの曲は規制があった期間はほとんど演奏されてなかった)のが、ようやくこうして最大限に我々観客が声を出せるようになったという喜びを感じさせてくれる。個人的にはプリティが事故に遭ってライブに参加出来なかった時のCOUNTDOWN JAPAN(夜の本気ダンスのマイケルがサポートベーシストとして参加した)の祈りを込めたような大合唱が今も記憶に焼き付いているのだが、井上が担う色彩豊かなサウンドは今のバニラズのシグネチャーとも言えるアイリッシュ・トラッド的なサウンドの目覚めとも言える。それをプロデューサーとして担ったストレイテナーのホリエアツシの手腕もやはり素晴らしかったと思う。
そんな大合唱から一転して柳沢がアコギ、牧も最初は椅子に座る形で歌い、淡いオレンジ色に染まる照明が夕日が射し込む放課後の教室なんかでこうやって音を鳴らしているように感じさせてくれるのは「ツインズ」であるのだが、ここでもやはりalt ver.のホーンなどの多彩なサウンドを井上のキーボードが担っているという意味ではもはやサポートという枠を超え、今のバニラズサウンドの最重要人物だと言っていいだろう。牧は座っていたのがすぐに立ち上がってステージ上を歩き回りながら歌うのであるが、アコギのサウンドだからこそより映える歌唱で
「どこまでも行けそうなくらい最高な二人でいようね
心配ばかりかけるけど いつまでも ずっと」
と歌うのはこの日、このツアーはそれがバンドと観客、ファンとの関係性であるかのように響いていたのだ。
するとMCでは牧が「DREAMS」が発売されたことについて改めて触れると、最前列の観客に
「何の曲が好き?」
とマイクを向けて尋ねて、その観客は「LIFE IS BEAUTIFUL」と答えるのであるが、
「ああ、「DREAMS」に入ってない曲を挙げる(笑)」
というやり取りで笑わせると、柳沢は急に
「写真撮っていいですか?」
と懐かしの写るんですで客席を撮影する。それもまた修学旅行らしいものであるし、柳沢からカメラを受け取ってドラムセット上から撮影していたセイヤいわく「何らかの形で公開されるかもしれない」らしいが、前日にも用意されていたのにメンバーがすっかりカメラの存在を忘れており、前日は使われなかったという。
かと思えばプリティはまたもや電飾のカッコよさに触れるのであるが、
「俺、結構ライブの夢見るんよ。その夢の中では急に牧が
「新曲やります!「ダブルマシンガン!」」
みたいに俺が全然知らない曲がいきなり始まって「え!?え!?」って焦って目が覚めるんやけど、そんな夢を吹き飛ばしてくれるくらいに今日が楽しい!」
と、ステージ上では元気であるプリティが実は繊細かつ自分に自信がない性格であることを改めて感じさせてくれるのであるが、そのMCを受けて牧が
「じゃあ聴いてください。新曲「ダブルマシンガン」」
と言ってセイヤのツービートから始まる曲が本当に演奏されてプリティがビックリするというやり取りに展開していく(もちろん即興でのイントロだけ)ということが瞬時にできるのも、タイトルだけを聞いて
「セイヤのドラム始まりだよな」
という意思疎通ができているのもバニラズのメンバーの意識や思想が完璧に統一されているということだ。マジで1人だけ全然ついていけてないプリティは本当に面白かったけど。
そんな幻の新曲の後からは後半戦へと突入していくのであるが、ここからはライブでもおなじみの「これぞバニラズ」的な曲が続いていく。その口火を切るのは柳沢もプリティもイントロでステージ前まで出ていき、セイヤが自身のリズムに合わせて「オイ!オイ!」と叫びまくることによってそれが客席にも広がっていく「平成ペイン」であるのだが、やはりワンマンともなるとサビでの振り付けが完璧であるというのが見ていて壮観である。それはきっと平成という時代を知らない人がライブに来るような時が来てもずっと続いていくはずだと改めて思った。
続いておなじみのプリティによる「EMA」の人文字を作ってから演奏される「エマ」はなんと、その「E」「M」「A」のコールに合わせて背面の「DREAMS」の電飾の「E」「M」「A」の部分が光るというこのツアーだけの演出が。もうこれを考えたスタッフは天才としか言いようがないのであるが、その演出によってさらに観客のテンションを上げて飛び跳ねさせてくれるし、サビでは左右の腕を交互に挙げるというおなじみの振り付けは映像がなくても完璧に観客に共有されている。もちろんそうして腕を上げながらコーラスも歌うことによってさらなる熱気に満ちていくのがわかる。
さらにはパンクな演奏のイントロアレンジから始まったのはプリティを皮切りにメンバーがマイクリレーしていく「デッドマンズチェイス」であり、ボーカルだけではなくてセイヤのドラムソロや井上のキーボードソロなど、上手側まで走って行ったプリティが自分の位置に戻ろうとしたらすでにそこに牧がいてセンターマイクで歌うという歌だけではなく音でもリレーしていくのであるが、間奏では柳沢がギターソロでお立ち台の上に立つと、イントロ部分ですでに吹き上がっていたスモークがまるで柳沢を狙っているかのように大量に吹き上がり、1番前にいるのに柳沢の姿が隠れてしまうほどに。演奏後に咽せながら、ソロで前に出るように促したプリティに向かって
「これ無理っすよ〜」
みたいな感じで手を左右に振っている柳沢の姿も実に面白かった。
そんなスモークを喰らいまくった柳沢がメインボーカルを務める「ストレンジャー」はこの流れの中で演奏されるからこそ、柳沢の声が持つロックさと、元々バニラズ加入前は自身がボーカルであった歌の上手さを改めて感じさせてくれるのであるが、このオールスター的な選曲の中でもセトリに並ぶ強さを持った楽曲でもあるということを示してくれるし、牧だけではなくてこんなに歌えるギタリストを擁しているバニラズのバンドとしての強さをも実感させてくれる。自身が歌わないからこそ牧は背中から客席に飛び込んで、観客に支えられながらギターを弾いているというのも柳沢というボーカリストがいるからこそ。
さらにロックンロールでしかないイントロのアレンジから繋がるようにその柳沢がおなじみの曲前のコール&レスポンスで「go!go!」というバンド名を様々なメロディに乗せる形(タメなどの難しいコールもしっかりついて行ってレスポンスするファンたちはさすが毎回ライブでついてきただけはある)でレスポンスさせるという大活躍っぷりを見せる「カウンターアクション」ではイントロから牧が
「跳べー!」
と言うまでもなく観客たちが飛び跳ねまくるのであるが、この曲の最大の見どころである、牧と柳沢が一本のマイクで顔を密着させながら歌うパフォーマンスはこの日ももちろん健在であるし、やはりこれはこのバンドがビートルズなどからの脈々と受け継がれてきた影響を見せるロックンロールバンドであることを示している。
すると牧が突然最前の観客に向かって
「やるよ!」
と言ってから演奏されたのは、先ほどその観客が1番好きな曲だと言った「LIFE IS BEAUTIFUL」であるのだが、牧がその観客の名前を聞いて「りん」と返ってくると、
「君となら大丈夫」
という歌い出しのフレーズを
「りんとなら大丈夫」
に変えて歌うというとんでもないサービスをする。果たしてそのりんさんはそのまま立ってライブを観ていられただろうかとも思うのであるが、「君」と「りん」が同じ文字数であることの収まりの良さを牧が口にした後には
「東京のみんなとなら大丈夫」
とさらに重ねることによってこの日ここにいた誰しものための歌にしてしまう。フルートなども使ったそのサウンド(もちろんこの日は井上が担う)は直接的に「DREAMS」のalt ver.に繋がっているとも言えるけれど、それがこのライブで示すものはやはり最大級の多幸感と楽しさだ。バニラズが元から持っていたその要素が今にして最大限に開花したのがそのアレンジであると言えるし、この曲をライブで聴くたびに、こうした光景を見れるやはり人生は美しいと思える。つまりは翌日からの日々を生きる力をくれるということである。
そんなライブの最後に演奏されたのはもちろん「DREAMS」収録の新曲である「コンビニエンスラブ」。牧は再びハンドマイクになると、ヒップホップ的な歌唱からサビでは一気にキャッチーなメロディに開いていく。そのキャッチーなメロディに乗せて歌われる
「コンビニエンスラブ
便利な世の中 出逢ったよ
コンビニエンスラブ」
というフレーズに少しハッとするのは、どれだけ便利な世の中になっても、バニラズの、ロックンロールの、ロックバンドのライブのこうして目の前まで来ることによってしか感じられない体温のようなものはきっと変わることはないということにも気付くからだ。それを感じさせてくれるのはやはりメンバーの鳴らす姿と観客の笑顔と声によってそう思わせてくれるのだ。それこそがバニラズのライブの楽しさの理由であるからこそ、これからもこうしてライブに足を運び続けたいと思うのである。
観客による「おはようカルチャー」のコーラスの合唱が響くアンコール待ちに応じるようにメンバーが登場すると、まずは井上不在のメンバー4人だけで演奏されたのは最初期と言える曲である「オリエント」であるのだが、今の曲たちに比べると圧倒的にシンプルなサウンドで演奏されるこの曲を聴いていたら、否が応でもこの曲を演奏していた2014年のスペシャ列伝ツアーの赤坂BLITZでのライブ(自分が初めてバニラズのライブを見た日である)を思い出していた。あの時はほとんどの観客がKANA-BOONかキュウソネコカミ目当てであり、まだバニラズは「誰?」みたいな空気が充満していたのだが、そんなバンドが9年という長い月日をかけてこのZepp規模すらチケットが手に入らない、幕張メッセで2daysライブをやるような規模のバンドになった。そんな記憶を呼び起こしてくれたからこそ、こうして満員のZeppで4人だけでこの曲を演奏している姿に感動してしまったのである。
そんな「オリエント」終わりで井上が招かれて再びステージに登場すると、素肌に透けたシャツというセクシー極まりない出で立ちでいることをメンバーにいじられるのであるが、開演時にステージに出てきた時に真っ先に客席から上がったのが
「あっちゃーん!」
という井上を呼ぶ声だったことにメンバーは危機感を抱いていた。
そうして井上を加えた5人編成でのアレンジが施された「パンドラ」もまた同名タイトルのアルバムのリリース(バニラズ屈指の名盤だと思っている)をとっくに終えた今となっては実にレアな選曲とも言える曲であるのだが、
「お情けで 君と生きているわけじゃないから
ぎゅっと抱き寄せた
見た目よりずっと か弱い君のこと
知ってるよ 口にはしないけど」
という歌詞もまた観客へ向けられているかのようであり、また観客からバンドへ向けての思いでもあるかのよう。そんな感覚が確かにあったし、だからこそこのツアーで演奏されているんじゃないかとも思う。
そうしたバンドの歴史を総括するかのように牧は
「バニラズは難しいバンドだと思う。「Kameleon Lights」っていうアルバムをメジャーから2枚目で出して、そのタイトル通りにいろんな色に染まるように音楽性を変えて行って。そこからずっとメンバー変わらずにここまで来ました。これからもこのバンドの音楽をずっと愛してくれたらなと思います」
と告げる。そこからはやはり音楽性を変化させてきたことに対する様々な声や意見もあったんだろうなと思うけれど、それでも自分たちを曲げなかったからこそ今この光景が見れている。その選択が、自分たちがやりたいことをやってきたことが間違ってなかったことを自分たちで証明している。
そんなライブの最後に演奏されたのは「DREAMS」の新アレンジ盤のタイトルにもなった「ギフト」。牧が口にしていた、バンドとしての変化のきっかけになった「Kameleon Lights」の最後に収録されている曲であるが、井上も加わって豊潤なアレンジが施された上で歌われる
「太陽の子 綺麗なその目
曇らせないように僕は歌を唄ってる
ここで待ってるから
どうかまた会える日まで さよならは言わないよ
夢から覚めても」
というフレーズが今になってバンドと我々の絆を示してくれるようなものになっているし、再会を約束するものになっている。「DREAMS」で今のバンドの形でアレンジしたのは曲に新たな命や意味を吹き込むというものだったのかもしれないと、牧の見事なくらいに伸びやかなファルセットの歌唱を聴きながら思っていた。
アンコールが終わると
「幕張メッセ来いよ!」
という声もメンバーから飛んでいた。3月にこのバンドは初の幕張メッセワンマンと、まさに「DREAMS」な対バンを集めた主催フェスでこの10年間を自ら祝う。もちろん行くしかないし、その時には必ずこの日をも上回る景色を見せてくれるはずだ。それはこれまでのバニラズのライブが毎回そうしたものだったからだ。
柳沢がこの日
「ライブだと音源とはまた違うアレンジになる」
と言っていた。それを最も感じさせたのは「バニラズの曲ってこんなにみんなで歌えるような曲ばかりだったんだな」と改めて思わせてくれるような観客たちの声だった。「DREAMS」の曲はそうしたライブでしか得ることができないアレンジを施されることによって完成するんじゃないだろうかとも思った。もちろんその最大の完成形が幕張メッセでのライブになるはず。それまでも、それからもこのロックンロールに、騙されたままがいいんだ。
1.マジック
2.ヒンキーディンキーパーティークルー
3.バイリンガール
4.チェンジユアワールド
5.サイシンサイコウ
6.青いの。
7.ナイトピクニック
8.雑食
9.おはようカルチャー
10.ツインズ
11.平成ペイン
12.エマ
13.デッドマンズチェイス
14.ストレンジャー
15.カウンターアクション
16.LIFE IS BEAUTIFUL
17.コンビニエンスラブ
encore
18.オリエント
19.パンドラ
20.ギフト
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