ライブナタリー "GRAPEVINE × ACIDMAN" @Spotify O-EAST 11/7
- 2023/11/08
- 13:34
これまでにも様々な組み合わせの対バンを企画してきたライブナタリー。今回の対バンは夏にZepp HanedaでのGGでも対バンしている、GRAPEVINEとACIDMAN。同じ時代を生き抜いてきた、もう完全にベテランと呼んで差し支えない領域に到達している両者である。
平日にも関わらずソールドアウトのO-EASTは完全なる超満員であり、もうこれ入りきらないんじゃないとすら思ってしまうレベル。確かにどちらもワンマンでは今もZeppクラスがソールドする存在ではあるけれど。
・ACIDMAN
前週にワンマン「This is ACIDMAN」を観たばかりのACIDMAN。間髪入れずにこうしてライブをしているのもバンドが走り続けている証拠である。
おなじみの「最後の国」のSEが鳴ると、この日は浦山一悟(ドラム)、佐藤雅俊(ベース)、大木伸夫(ボーカル&ギター)の3人がすでに手拍子をしている観客とともにリズムに合わせて手拍子をしながらステージに登場し、浦山がリズムを刻み始めてから大木のギターと佐藤のベースがそこに重なるようにして始まったのはワンマンでも1曲目に演奏されていた「to live」であるのだが、スクリーンに映像と歌詞が映し出されていたワンマンの時とは違ってそうした演出がないだけに、歌詞はもちろんであるがそれよりもはるかに音が迫ってくるかのようである。それはACIDMANのライブを都内で観るにはかなり小さい規模であるこのO-EASTだからこそでもある。
すると大木がその場できらめくようなサウンドのギターを重ねるようにして演奏を始める「FREE STAR」では飛び跳ねる観客ももちろんいるし、大木も間奏でステージ前まで出てきて観客の方を見ながらギターを弾いている。その際に客席から拳が振り上げる光景はACIDMANがこの日決してアウェーではないことを示している。
再び曲間では浦山のビートが繋ぐようにして鳴り響くのは「Rebirth」と、やはり「This is ACIDMAN」の抜粋版と言えるような前半であるが、バンドにとっては規模が大きくない会場だからこそ、佐藤がベースを弾いている躍動感もハッキリと見ることができる。
すると大木は
「僕らもバンドを始めてから結構長いんで、先輩と対バンすることも少なくなってきてるんだけど、GRAPEVINEは5年先輩。大先輩なんだけど、尖ってるバンド。自分たちがやりたいことを追求しているっていう。時にはお酒を飲ませてもらったりしてきたけど、何が良いって新作がめちゃくちゃ良いっていうこと。だから皆さん、GRAPEVINEの新譜をよろしくお願いします(笑)」
と先輩を紹介しながらリリースされたばかりのGRAPEVINEの新作を紹介するというあたり、大木が実に良い後輩であることがわかるのであるが、その大木が鳴らすギターのサウンドの隙間を佐藤のベースが埋めるように鳴らされる「リピート」もまた「This is ACIDMAN」で演奏されていた曲であるが、こうしてライブで聴くことができるのは嬉しい。演奏が進むにつれて熱量を増していき、アウトロでそれが極まっていくACIDMANの静と動を表してくれることによって、我々を別世界に連れて行ってくれるからだ。
するとどこか浮遊感のあるイントロのサウンドから大木がタイトルフレーズを囁くようにして演奏されたのは「This is ACIDMAN」でも演奏されていなかった「spaced out」というまさかの選曲。ACIDMANが(というか大木が)ずっと表現してきた宇宙を漂っている気分にさせてくれる曲であるのだが、この曲がこの日聴けるなんて全く予想だにしていなかっただけに実に嬉しい。大木が
「21年前の曲」
と言った時にはACIDMANがデビューしてからのあまりの時の流れの速さに愕然としてしまうところもあるけれど。
その大木は初めて自分たちのライブを観るという人にもいろいろな曲を聴いて欲しいし、実際にいろんなタイプの曲を作ってきたというのであるが、この「spaced out」からの流れはGRAPEVINEに合わせたかのようにバンドの尖っているところを見せる面らしく、大木がアコギに持ち替えて歌うのは「季節の灯」。こちらは「This is ACIDMAN」でも演奏されていた曲であるが、その大木のアコギも含めて穏やかなサウンドだからこそ、歌詞のテーマであり大木が一貫して歌ってきた「生きることと死ぬこと」について思いを馳せてしまう。死ぬまでにあと何回ACIDMANのライブが観れるだろうか、なんてことをライブ中に考えてしまうのはこのバンドくらいである。
対バンかつ相手が先輩だからこそか、ワンマンよりも大木は丁寧に観客に話しかけているような印象もあったのであるが、その口調でおなじみの宇宙の話をし始めた時にも、
「あ、言い忘れてましたけど、僕は宇宙マニアです(笑)」
と自己紹介するあたりが対バンならではで、そうして宇宙について語った後に演奏されたのはもちろん「ALMA」。この対バンでの「spaced out」からの3連打は大木が言う通りに実に尖っている選曲だとも言えるのであるが、個人的には夜の野外会場などの広い場所が似合う曲だとも思っているこの曲をこの規模で聴くとやはりこの会場全てを包み込むかのようなスケールを感じざるを得ない。映像などは全くないが、聴いている人それぞれが脳裏に美しい星空の景色が浮かんでいたはずだ。
そんなバラード連発という尖りっぷりから一気にギアを上げるようにして大木がギターを鳴らして始まり、佐藤が強く大きなアクションで手拍子をするとそれが観客にも広がっていくのは今やライブには欠かせない存在の曲と言っていい「夜のために」。それは結果的には「赤橙」や「ある証明」すら演奏していないこの日でもこの曲が演奏されているということが示しているけれども、ワンマンで見たばかりだからか、聴いているとその時にスクリーンに映し出されていた歌詞が脳内に浮かび上がってくるかのようだ。
「輝いて 夜のために
世界はきっと美しいはずなんだよ
消えないで その心で その命で
生き抜くんだ」
というフレーズなんかはまさにそうで、そう歌い鳴らしている姿が我々に生き抜くための力を与えてくれている。
そして大木が
「最後にもう一段上に行こう!」
と言って演奏されたのは激しく歪んだギターが掻き鳴らされ、佐藤が凄まじい熱量とテンションで観客を煽りまくる「飛光」。ワンマンの時に比べると「ALMA」あたりから大木は声が少しキツそうでもあったのだけれど、そんな中でもおそらくACIDMANの曲の中で屈指の歌のキツさを誇るこの曲を最後まで飛ばすことなく歌い切ってみせる。それが2000年代前半から中盤あたりの若手だった頃からの大木のボーカリストとしての進化を感じさせるし、それを両サイドで支えながらも、演奏面ではリズム隊として引っ張っているかのような佐藤と浦山の進化とも捉えられる。つまりはACIDMANのライブにはずっと遠くまで届くような、生ける衝動があり続けているということだ。だからたくさんの人が腕を振り上げて「オイ!オイ!」と叫んでいるのである。
なんやかんやでずっと出演し続けてきた今年のCOUNTDOWN JAPANにはこのバンドの名前はない。つまりはこの日が今年最後のACIDMANのライブとなる可能性が高い。今年もいろんな場所で観れて本当に嬉しかったけれど、また来年には夜の野外で観ることができたら最高だなと思っている。そうやって25年でも30年でもずっとライブを観続けていきたい、一緒に年を重ねながら、生きていることと終わってしまうことに思いを馳せていたいのだ。
1.to live
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.リピート
5.spaced out
6.季節の灯
7.ALMA
8.夜のために
9.飛光
・GRAPEVINE
そして後攻は先輩であるGRAPEVINE。大木も口にしていたが、最新アルバム「Almost there」がリリースされ、すでにそのツアーも始まっている(自分が観たのはリリース直前というタイミングでのZepp Shinjukuのワンマンだったけれど)だけに、果たしてどれだけその新作モードになっているのか。
SEなど一切なしでメンバーが登場するというあたりがACIDMANとは対照的であるが、おなじみの白シャツ姿の田中和将(ボーカル&ギター)が意外なくらいにテンション高く
「どうもー!こんばんはー!」
と挨拶して観客に
「Are you ready?」
と問いかけてから西川弘剛(ギター)が近年のバインの曲の中では飛び抜けて(個人の主観です)ロックなサウンドを鳴らす、新作からの「Ready to get started?」から文字通りにスタートするのであるが、いつも飄々としている田中と西川が間奏で向かい合ってギターを弾いている姿はもうメジャーデビューから25年を迎えたバンドとは思えないくらいに瑞々しいし、決してそうした部分を出すわけではないけれど、やはりこの2人にはどこか絆のようなものが確かにあるんだろうなと思う。
そのままライブではおなじみの、名曲メロディメーカー亀井亨(ドラム)の本領発揮とも言える「Glare」も、元からギターロック的なサウンドの曲ではあるけれど、先に「Ready to get started?」を演奏しただけに、いつも以上にそのロックさが際立つような感覚がある。このキャリアと年齢になってもそう感じさせてくれるこのバンドは本当に凄いと改めて思うし、それは田中の独特かつ伸びやな歌唱からも感じられることである。
するとなんとここで早くも大名曲にして代表曲である「光について」が演奏される。ワンマンほどではないとはいえ薄暗い照明の中で演奏が始まると、最後の
「僕らはまだここにあるさ」
のフレーズで一気にステージがパッと明るくなるというこの曲ならではの演出はこの対バンでも健在。今でもたまに出演するフェスなどではクライマックスに演奏されることも多い曲であり続けているけれど、そんな曲がこの位置で演奏されるということは今のバンドのモードが確実に変わっているということでもある。
そんな中で田中は何故かACIDMANを「ドシマン」(としまえんと同じイントネーションとのこと)と業界人っぽく略すのであるが、これまでも一緒のイベントなどのライブに出演することは多々あれど、こうして2マンをするのは意外にも初めてということで実に楽しみにしていた様子。
そんな田中が
「我々はACIDMANみたいに宇宙の話はできないですけど、皆さんを宇宙に連れて行くことならできます」
と観客を誘うようにしてから演奏された新作からの「The Long Bright Dark」のサイケデリックなサウンドがまさに聴いている我々の意識を宇宙にまで飛ばしてくれるかのようなのだが、大木が言っていたようにやはりバインは尖っているというのは、一応それなりにヒットした曲を持っていながらも、そうした曲でセトリを埋めるようなことは一切せずに、自分たちが最新の作品でどんな曲、サウンドを鳴らしているかということを示しているからだ。思えば昔はフェスでも10分くらいあるような大曲を3曲くらいぶっ込んだりしてきたバンドだったことを今になって思い出したりする。
それはトラップミュージック的な同期のハイハットの音も取り入れながらも、亀井によるタイトな人力のドラムが重なることによってバンドとしての肉体性が損なわれることはない「停電の夜」もそうであり、自分は「Almost there」はバインの久しぶりのロックアルバムだと思っていたのであるが、こうしてライブで聴くとそのイメージは少し変わっていく。もっと多彩なアルバムであることに気付かされるのである。
すると亀井によるドラムロールからのソロ的なドラム回しが行われたことによって「なんだこの演奏は!?」と思っていると、そのドラムのビートが隙間を広げながらも一打の強さが増していき、金戸覚(ベース)と高野勲(キーボードやギターなど)というもはやメンバーと言っていいレベルでバンドに欠かせない存在になっているサポート2人によるコーラスも重なる「ねずみ浄土」は2021年リリースの前作アルバム「新しい果実」収録曲であるのだが、そのサウンドは前に演奏された2曲と実に違和感なく繋がっている。それはサウンドは多岐に渡っていてもバインの音楽であるということはブレていないということでもある。
それは最新作のリード曲であり、キツめの関西弁による歌詞の存在も相まって「ねずみ浄土」との連なりを感じさせる「雀の子」でもそうなのであるが、曲を支配するかのような西川のノイジーなギターはやはり前作よりもロックなサウンド、ギター中心のサウンドに回帰していると思えるし、それはサポートメンバーにしてプロデュースをも務めた高野による効果も大きいのだろうと思う。何よりも田中がこの声でキツめの関西弁を歌うことによる迫力たるや。インタビューで田中本人は芥川賞作家にしてパンク歌手の町田康の著作からの影響を口にしていたが、確かに町田康作品の主人公たちの口調がそのまま歌詞になっているかのようである。
さらに新作モードが続くのは、暗闇の中で射し込んでくる一筋の光が田中を照らし出すかのように輝く中で、田中はヒップホップ的な歌唱も駆使して社会や世の中への皮肉を歌う「アマテラス」。その視点の鋭さとその思考をそのまま、しかし詩的に歌詞に落とし込むことができるというのがバインが他のバンドと一線を画している理由だと言えるだろうし、だからこそバインの曲は歌詞カードを見ながら自分で意味を想像して聴きたくなるのである。
すると田中が曲前にブルージーなギターソロを弾きまくって観客からの歓声を浴びてから始まるのは、なんでこの新作モードの中にこの曲が?と思ってしまうような「Come On」であるのだが、西川という飄々としながらも名ギタリストを擁するこのバンドの中にあっても田中もギター&ボーカルという立ち位置じゃなかったら(結成当時はまさにボーカルじゃなくてギター志望だった)こうしてギターを弾きまくっていたんじゃないかというくらいの上手さである。金戸が亀井の方に近づきながらリズムを刻むというのも含めて、曲が進むにつれて徐々に高まっていくグルーヴもやはり絶品である。
そんな新作「Almost there」が来年1月に新曲1曲を追加したアナログ盤としてもリリースされることを田中が発表すると、高野による煌びやかなシンセの音が鳴り響く中で田中が
「渋谷系のギャルたちへ…」
というセリフを発しながら、かつてのディスコやジュリアナを彷彿とさせるようなポーズを取ってから西川のカッティングギターが重なっていく、まさに渋谷系やシティポップを今のGRAPEVINEで演奏したのが「実はもう熟れ」であるのだが、音源で聴いた時はそこまでそうしたサウンドは際立っていなかった感もあったのだが、ライブで聴いたら完全なる渋谷系のシティポップ。なんならその時代のバブル期のディスコのようにすら踊れそうな曲でもあるのだが、さすがにリリースされたばかりかつここまでの振り切れっぷりを想定していなかった戸惑いもあったのか、観客はじっと見守って時折体を揺らすという感じだった。しかしこんなサウンドの曲を演奏してもGRAPEVINEでしかないというのは改めて恐ろしいバンドであるし、どんなジャンルやサウンドを取り入れてもそうなるということである。
さらにはアルバムリリース前のZepp Shinjukuでのライブですでに演奏された時から名曲感を放ちまくっていた「それは永遠」はやはりバインの、というか亀井というソングライターの尽きることのない名曲創造っぷりを実感させてくれる。どんな時代でリリースされていてもそう思うことは間違いない曲ではあるが、それでもこの流れで聴くとやはり今のバインの新曲だと思えるのは、田中が精神的な不調によって休んでいた際に亀井がたくさんの曲を作って待っていたというバンドのストーリーを読んでいたからであろう。
そんなライブの最後はこの夜に賭けるかのようにして演奏された新作のリード曲「Ub (You bet on it)」であるのだが、やはりこの曲で締められることによって感じるのは、今のバインはロックであるということと、その抜群のグルーヴと安定感溢れる演奏でそのロックのカッコよさを伝えてくれるということ。個人的にはやはりこうして歪んだサウンドのギターを弾きまくる西川の姿が見れるのがなんだか嬉しい。いつまでも見た目が変わらないような田中と違って髪が白くなったことで年相応の見た目になっても、そうしてギターを弾いている姿は少年のようにも見えるからだ。
かなり長めに(ACIDMANより明らかに長い)本編のライブをやっていただけに、果たしてアンコールはあるのだろうかとも思っていたのであるが、田中がTシャツに着替えてしっかり登場。この対バンを組んでくれたナタリーと、ドシマンことACIDMANへの感謝を口にしながらも、コラボ的なことが出来なかったことを少々寂しがりながら、
「ここは渋谷だけど南部の男になってくれー!」
と言って演奏された「B.D.S.」のブルージーなギターとリズムはまだ若い時代からバインがこうした音楽の素養を持っていたことを改めて感じさせるし、そうした音楽で体を揺らすのも、メンバーたちが笑顔で演奏しているのを見るのも実に楽しい。確かにドシマンのメンバーたちがこの曲なんかに参加してくるイメージは1ミリたりとも持てないけれど。
もうさすがに曲数的にもその「B.D.S.」でラストかと思っていたのだが、なんとさらに
「もう1曲だけやらせてくれ!」
と田中が言ってから演奏されたのは「Arma」。ACIDMANの大木も
「スペルは違うけれど同じ読み方の曲がある」
と言って「ALMA」を演奏していたけれど、それはきっと田中も知っていて意識していたからこそ、こうしてこの曲を最後に演奏したのだろう。高野がシンセでホーンのサウンドを鳴らす中で穏やかに、しかし力強く鳴らされるサウンドはこのバンドの未だ底知れぬグルーヴの強さを感じさせるとともに、それは
「このままここで終われないさ
先はまだ長そうだ
疲れなんか微塵もない
とは言わないこともないけど」
というフレーズの通りに、このバンドがまだまだこれから先もずっと続いていくことを示している。
かなりの長丁場だったけれど、まさか対バンでこんなにたくさん曲が聴けるなんて思ってなかったし、田中は
「終わって欲しくない夜もある」
と言うくらいにこの日は本当に終始楽しそうだった。去年からいろいろあったし、それは本人が招いてしまったことでもあるけれど、それでも田中が楽しそうな顔を見ることができると凄く嬉しくなる。本人たちも手応えを感じているということだろうし、その表情を見ているとより一層我々ファンも幸せだと感じることができるからだ。
1.Ready to get started?
2.Glare
3.光について
4.The Long Bright Dark
5.停電の夜
6.ねずみ浄土
7.雀の子
8.アマテラス
9.Come On
10.実はもう熟れ
11.それは永遠
12.Ub (You bet on it)
encore
13.B.D.S.
14.Arma
自分が本格的にロックバンドのライブを観に行くようになったのは2004年のロッキン。当時のあのフェスをACIDMANはGRASS STAGEで、GRAPEVINEはLAKE STAGEでずっと支え続けていた。その前からずっと聴いていたから、初めてライブを観れた時は本当に嬉しかったし、あの時にすでに確固たる地位を確立していたこの2組は、今でもこうしてライブハウスという最前線に立ち続けていて、自分たちの音楽やスタンスや思想を貫き続けている。そう思えるだけで、ここまで生きてきて、この2組をずっと観ていることができて本当に幸せだなと思えた一夜だった。そんな日を作ってくれたナタリーにも感謝。
平日にも関わらずソールドアウトのO-EASTは完全なる超満員であり、もうこれ入りきらないんじゃないとすら思ってしまうレベル。確かにどちらもワンマンでは今もZeppクラスがソールドする存在ではあるけれど。
・ACIDMAN
前週にワンマン「This is ACIDMAN」を観たばかりのACIDMAN。間髪入れずにこうしてライブをしているのもバンドが走り続けている証拠である。
おなじみの「最後の国」のSEが鳴ると、この日は浦山一悟(ドラム)、佐藤雅俊(ベース)、大木伸夫(ボーカル&ギター)の3人がすでに手拍子をしている観客とともにリズムに合わせて手拍子をしながらステージに登場し、浦山がリズムを刻み始めてから大木のギターと佐藤のベースがそこに重なるようにして始まったのはワンマンでも1曲目に演奏されていた「to live」であるのだが、スクリーンに映像と歌詞が映し出されていたワンマンの時とは違ってそうした演出がないだけに、歌詞はもちろんであるがそれよりもはるかに音が迫ってくるかのようである。それはACIDMANのライブを都内で観るにはかなり小さい規模であるこのO-EASTだからこそでもある。
すると大木がその場できらめくようなサウンドのギターを重ねるようにして演奏を始める「FREE STAR」では飛び跳ねる観客ももちろんいるし、大木も間奏でステージ前まで出てきて観客の方を見ながらギターを弾いている。その際に客席から拳が振り上げる光景はACIDMANがこの日決してアウェーではないことを示している。
再び曲間では浦山のビートが繋ぐようにして鳴り響くのは「Rebirth」と、やはり「This is ACIDMAN」の抜粋版と言えるような前半であるが、バンドにとっては規模が大きくない会場だからこそ、佐藤がベースを弾いている躍動感もハッキリと見ることができる。
すると大木は
「僕らもバンドを始めてから結構長いんで、先輩と対バンすることも少なくなってきてるんだけど、GRAPEVINEは5年先輩。大先輩なんだけど、尖ってるバンド。自分たちがやりたいことを追求しているっていう。時にはお酒を飲ませてもらったりしてきたけど、何が良いって新作がめちゃくちゃ良いっていうこと。だから皆さん、GRAPEVINEの新譜をよろしくお願いします(笑)」
と先輩を紹介しながらリリースされたばかりのGRAPEVINEの新作を紹介するというあたり、大木が実に良い後輩であることがわかるのであるが、その大木が鳴らすギターのサウンドの隙間を佐藤のベースが埋めるように鳴らされる「リピート」もまた「This is ACIDMAN」で演奏されていた曲であるが、こうしてライブで聴くことができるのは嬉しい。演奏が進むにつれて熱量を増していき、アウトロでそれが極まっていくACIDMANの静と動を表してくれることによって、我々を別世界に連れて行ってくれるからだ。
するとどこか浮遊感のあるイントロのサウンドから大木がタイトルフレーズを囁くようにして演奏されたのは「This is ACIDMAN」でも演奏されていなかった「spaced out」というまさかの選曲。ACIDMANが(というか大木が)ずっと表現してきた宇宙を漂っている気分にさせてくれる曲であるのだが、この曲がこの日聴けるなんて全く予想だにしていなかっただけに実に嬉しい。大木が
「21年前の曲」
と言った時にはACIDMANがデビューしてからのあまりの時の流れの速さに愕然としてしまうところもあるけれど。
その大木は初めて自分たちのライブを観るという人にもいろいろな曲を聴いて欲しいし、実際にいろんなタイプの曲を作ってきたというのであるが、この「spaced out」からの流れはGRAPEVINEに合わせたかのようにバンドの尖っているところを見せる面らしく、大木がアコギに持ち替えて歌うのは「季節の灯」。こちらは「This is ACIDMAN」でも演奏されていた曲であるが、その大木のアコギも含めて穏やかなサウンドだからこそ、歌詞のテーマであり大木が一貫して歌ってきた「生きることと死ぬこと」について思いを馳せてしまう。死ぬまでにあと何回ACIDMANのライブが観れるだろうか、なんてことをライブ中に考えてしまうのはこのバンドくらいである。
対バンかつ相手が先輩だからこそか、ワンマンよりも大木は丁寧に観客に話しかけているような印象もあったのであるが、その口調でおなじみの宇宙の話をし始めた時にも、
「あ、言い忘れてましたけど、僕は宇宙マニアです(笑)」
と自己紹介するあたりが対バンならではで、そうして宇宙について語った後に演奏されたのはもちろん「ALMA」。この対バンでの「spaced out」からの3連打は大木が言う通りに実に尖っている選曲だとも言えるのであるが、個人的には夜の野外会場などの広い場所が似合う曲だとも思っているこの曲をこの規模で聴くとやはりこの会場全てを包み込むかのようなスケールを感じざるを得ない。映像などは全くないが、聴いている人それぞれが脳裏に美しい星空の景色が浮かんでいたはずだ。
そんなバラード連発という尖りっぷりから一気にギアを上げるようにして大木がギターを鳴らして始まり、佐藤が強く大きなアクションで手拍子をするとそれが観客にも広がっていくのは今やライブには欠かせない存在の曲と言っていい「夜のために」。それは結果的には「赤橙」や「ある証明」すら演奏していないこの日でもこの曲が演奏されているということが示しているけれども、ワンマンで見たばかりだからか、聴いているとその時にスクリーンに映し出されていた歌詞が脳内に浮かび上がってくるかのようだ。
「輝いて 夜のために
世界はきっと美しいはずなんだよ
消えないで その心で その命で
生き抜くんだ」
というフレーズなんかはまさにそうで、そう歌い鳴らしている姿が我々に生き抜くための力を与えてくれている。
そして大木が
「最後にもう一段上に行こう!」
と言って演奏されたのは激しく歪んだギターが掻き鳴らされ、佐藤が凄まじい熱量とテンションで観客を煽りまくる「飛光」。ワンマンの時に比べると「ALMA」あたりから大木は声が少しキツそうでもあったのだけれど、そんな中でもおそらくACIDMANの曲の中で屈指の歌のキツさを誇るこの曲を最後まで飛ばすことなく歌い切ってみせる。それが2000年代前半から中盤あたりの若手だった頃からの大木のボーカリストとしての進化を感じさせるし、それを両サイドで支えながらも、演奏面ではリズム隊として引っ張っているかのような佐藤と浦山の進化とも捉えられる。つまりはACIDMANのライブにはずっと遠くまで届くような、生ける衝動があり続けているということだ。だからたくさんの人が腕を振り上げて「オイ!オイ!」と叫んでいるのである。
なんやかんやでずっと出演し続けてきた今年のCOUNTDOWN JAPANにはこのバンドの名前はない。つまりはこの日が今年最後のACIDMANのライブとなる可能性が高い。今年もいろんな場所で観れて本当に嬉しかったけれど、また来年には夜の野外で観ることができたら最高だなと思っている。そうやって25年でも30年でもずっとライブを観続けていきたい、一緒に年を重ねながら、生きていることと終わってしまうことに思いを馳せていたいのだ。
1.to live
2.FREE STAR
3.Rebirth
4.リピート
5.spaced out
6.季節の灯
7.ALMA
8.夜のために
9.飛光
・GRAPEVINE
そして後攻は先輩であるGRAPEVINE。大木も口にしていたが、最新アルバム「Almost there」がリリースされ、すでにそのツアーも始まっている(自分が観たのはリリース直前というタイミングでのZepp Shinjukuのワンマンだったけれど)だけに、果たしてどれだけその新作モードになっているのか。
SEなど一切なしでメンバーが登場するというあたりがACIDMANとは対照的であるが、おなじみの白シャツ姿の田中和将(ボーカル&ギター)が意外なくらいにテンション高く
「どうもー!こんばんはー!」
と挨拶して観客に
「Are you ready?」
と問いかけてから西川弘剛(ギター)が近年のバインの曲の中では飛び抜けて(個人の主観です)ロックなサウンドを鳴らす、新作からの「Ready to get started?」から文字通りにスタートするのであるが、いつも飄々としている田中と西川が間奏で向かい合ってギターを弾いている姿はもうメジャーデビューから25年を迎えたバンドとは思えないくらいに瑞々しいし、決してそうした部分を出すわけではないけれど、やはりこの2人にはどこか絆のようなものが確かにあるんだろうなと思う。
そのままライブではおなじみの、名曲メロディメーカー亀井亨(ドラム)の本領発揮とも言える「Glare」も、元からギターロック的なサウンドの曲ではあるけれど、先に「Ready to get started?」を演奏しただけに、いつも以上にそのロックさが際立つような感覚がある。このキャリアと年齢になってもそう感じさせてくれるこのバンドは本当に凄いと改めて思うし、それは田中の独特かつ伸びやな歌唱からも感じられることである。
するとなんとここで早くも大名曲にして代表曲である「光について」が演奏される。ワンマンほどではないとはいえ薄暗い照明の中で演奏が始まると、最後の
「僕らはまだここにあるさ」
のフレーズで一気にステージがパッと明るくなるというこの曲ならではの演出はこの対バンでも健在。今でもたまに出演するフェスなどではクライマックスに演奏されることも多い曲であり続けているけれど、そんな曲がこの位置で演奏されるということは今のバンドのモードが確実に変わっているということでもある。
そんな中で田中は何故かACIDMANを「ドシマン」(としまえんと同じイントネーションとのこと)と業界人っぽく略すのであるが、これまでも一緒のイベントなどのライブに出演することは多々あれど、こうして2マンをするのは意外にも初めてということで実に楽しみにしていた様子。
そんな田中が
「我々はACIDMANみたいに宇宙の話はできないですけど、皆さんを宇宙に連れて行くことならできます」
と観客を誘うようにしてから演奏された新作からの「The Long Bright Dark」のサイケデリックなサウンドがまさに聴いている我々の意識を宇宙にまで飛ばしてくれるかのようなのだが、大木が言っていたようにやはりバインは尖っているというのは、一応それなりにヒットした曲を持っていながらも、そうした曲でセトリを埋めるようなことは一切せずに、自分たちが最新の作品でどんな曲、サウンドを鳴らしているかということを示しているからだ。思えば昔はフェスでも10分くらいあるような大曲を3曲くらいぶっ込んだりしてきたバンドだったことを今になって思い出したりする。
それはトラップミュージック的な同期のハイハットの音も取り入れながらも、亀井によるタイトな人力のドラムが重なることによってバンドとしての肉体性が損なわれることはない「停電の夜」もそうであり、自分は「Almost there」はバインの久しぶりのロックアルバムだと思っていたのであるが、こうしてライブで聴くとそのイメージは少し変わっていく。もっと多彩なアルバムであることに気付かされるのである。
すると亀井によるドラムロールからのソロ的なドラム回しが行われたことによって「なんだこの演奏は!?」と思っていると、そのドラムのビートが隙間を広げながらも一打の強さが増していき、金戸覚(ベース)と高野勲(キーボードやギターなど)というもはやメンバーと言っていいレベルでバンドに欠かせない存在になっているサポート2人によるコーラスも重なる「ねずみ浄土」は2021年リリースの前作アルバム「新しい果実」収録曲であるのだが、そのサウンドは前に演奏された2曲と実に違和感なく繋がっている。それはサウンドは多岐に渡っていてもバインの音楽であるということはブレていないということでもある。
それは最新作のリード曲であり、キツめの関西弁による歌詞の存在も相まって「ねずみ浄土」との連なりを感じさせる「雀の子」でもそうなのであるが、曲を支配するかのような西川のノイジーなギターはやはり前作よりもロックなサウンド、ギター中心のサウンドに回帰していると思えるし、それはサポートメンバーにしてプロデュースをも務めた高野による効果も大きいのだろうと思う。何よりも田中がこの声でキツめの関西弁を歌うことによる迫力たるや。インタビューで田中本人は芥川賞作家にしてパンク歌手の町田康の著作からの影響を口にしていたが、確かに町田康作品の主人公たちの口調がそのまま歌詞になっているかのようである。
さらに新作モードが続くのは、暗闇の中で射し込んでくる一筋の光が田中を照らし出すかのように輝く中で、田中はヒップホップ的な歌唱も駆使して社会や世の中への皮肉を歌う「アマテラス」。その視点の鋭さとその思考をそのまま、しかし詩的に歌詞に落とし込むことができるというのがバインが他のバンドと一線を画している理由だと言えるだろうし、だからこそバインの曲は歌詞カードを見ながら自分で意味を想像して聴きたくなるのである。
すると田中が曲前にブルージーなギターソロを弾きまくって観客からの歓声を浴びてから始まるのは、なんでこの新作モードの中にこの曲が?と思ってしまうような「Come On」であるのだが、西川という飄々としながらも名ギタリストを擁するこのバンドの中にあっても田中もギター&ボーカルという立ち位置じゃなかったら(結成当時はまさにボーカルじゃなくてギター志望だった)こうしてギターを弾きまくっていたんじゃないかというくらいの上手さである。金戸が亀井の方に近づきながらリズムを刻むというのも含めて、曲が進むにつれて徐々に高まっていくグルーヴもやはり絶品である。
そんな新作「Almost there」が来年1月に新曲1曲を追加したアナログ盤としてもリリースされることを田中が発表すると、高野による煌びやかなシンセの音が鳴り響く中で田中が
「渋谷系のギャルたちへ…」
というセリフを発しながら、かつてのディスコやジュリアナを彷彿とさせるようなポーズを取ってから西川のカッティングギターが重なっていく、まさに渋谷系やシティポップを今のGRAPEVINEで演奏したのが「実はもう熟れ」であるのだが、音源で聴いた時はそこまでそうしたサウンドは際立っていなかった感もあったのだが、ライブで聴いたら完全なる渋谷系のシティポップ。なんならその時代のバブル期のディスコのようにすら踊れそうな曲でもあるのだが、さすがにリリースされたばかりかつここまでの振り切れっぷりを想定していなかった戸惑いもあったのか、観客はじっと見守って時折体を揺らすという感じだった。しかしこんなサウンドの曲を演奏してもGRAPEVINEでしかないというのは改めて恐ろしいバンドであるし、どんなジャンルやサウンドを取り入れてもそうなるということである。
さらにはアルバムリリース前のZepp Shinjukuでのライブですでに演奏された時から名曲感を放ちまくっていた「それは永遠」はやはりバインの、というか亀井というソングライターの尽きることのない名曲創造っぷりを実感させてくれる。どんな時代でリリースされていてもそう思うことは間違いない曲ではあるが、それでもこの流れで聴くとやはり今のバインの新曲だと思えるのは、田中が精神的な不調によって休んでいた際に亀井がたくさんの曲を作って待っていたというバンドのストーリーを読んでいたからであろう。
そんなライブの最後はこの夜に賭けるかのようにして演奏された新作のリード曲「Ub (You bet on it)」であるのだが、やはりこの曲で締められることによって感じるのは、今のバインはロックであるということと、その抜群のグルーヴと安定感溢れる演奏でそのロックのカッコよさを伝えてくれるということ。個人的にはやはりこうして歪んだサウンドのギターを弾きまくる西川の姿が見れるのがなんだか嬉しい。いつまでも見た目が変わらないような田中と違って髪が白くなったことで年相応の見た目になっても、そうしてギターを弾いている姿は少年のようにも見えるからだ。
かなり長めに(ACIDMANより明らかに長い)本編のライブをやっていただけに、果たしてアンコールはあるのだろうかとも思っていたのであるが、田中がTシャツに着替えてしっかり登場。この対バンを組んでくれたナタリーと、ドシマンことACIDMANへの感謝を口にしながらも、コラボ的なことが出来なかったことを少々寂しがりながら、
「ここは渋谷だけど南部の男になってくれー!」
と言って演奏された「B.D.S.」のブルージーなギターとリズムはまだ若い時代からバインがこうした音楽の素養を持っていたことを改めて感じさせるし、そうした音楽で体を揺らすのも、メンバーたちが笑顔で演奏しているのを見るのも実に楽しい。確かにドシマンのメンバーたちがこの曲なんかに参加してくるイメージは1ミリたりとも持てないけれど。
もうさすがに曲数的にもその「B.D.S.」でラストかと思っていたのだが、なんとさらに
「もう1曲だけやらせてくれ!」
と田中が言ってから演奏されたのは「Arma」。ACIDMANの大木も
「スペルは違うけれど同じ読み方の曲がある」
と言って「ALMA」を演奏していたけれど、それはきっと田中も知っていて意識していたからこそ、こうしてこの曲を最後に演奏したのだろう。高野がシンセでホーンのサウンドを鳴らす中で穏やかに、しかし力強く鳴らされるサウンドはこのバンドの未だ底知れぬグルーヴの強さを感じさせるとともに、それは
「このままここで終われないさ
先はまだ長そうだ
疲れなんか微塵もない
とは言わないこともないけど」
というフレーズの通りに、このバンドがまだまだこれから先もずっと続いていくことを示している。
かなりの長丁場だったけれど、まさか対バンでこんなにたくさん曲が聴けるなんて思ってなかったし、田中は
「終わって欲しくない夜もある」
と言うくらいにこの日は本当に終始楽しそうだった。去年からいろいろあったし、それは本人が招いてしまったことでもあるけれど、それでも田中が楽しそうな顔を見ることができると凄く嬉しくなる。本人たちも手応えを感じているということだろうし、その表情を見ているとより一層我々ファンも幸せだと感じることができるからだ。
1.Ready to get started?
2.Glare
3.光について
4.The Long Bright Dark
5.停電の夜
6.ねずみ浄土
7.雀の子
8.アマテラス
9.Come On
10.実はもう熟れ
11.それは永遠
12.Ub (You bet on it)
encore
13.B.D.S.
14.Arma
自分が本格的にロックバンドのライブを観に行くようになったのは2004年のロッキン。当時のあのフェスをACIDMANはGRASS STAGEで、GRAPEVINEはLAKE STAGEでずっと支え続けていた。その前からずっと聴いていたから、初めてライブを観れた時は本当に嬉しかったし、あの時にすでに確固たる地位を確立していたこの2組は、今でもこうしてライブハウスという最前線に立ち続けていて、自分たちの音楽やスタンスや思想を貫き続けている。そう思えるだけで、ここまで生きてきて、この2組をずっと観ていることができて本当に幸せだなと思えた一夜だった。そんな日を作ってくれたナタリーにも感謝。
04 Limited Sazabys 15th Anniversary 「THE BAND OF LIFE」 day1 @日本武道館 11/11 ホーム
邦ロック大好き芸人まみ pre. 「ロックは正義 vol.1」 @渋谷CLUB CRAWL 11/6