東京初期衝動 トキョショキフェス'23 @下北沢SHELTER 10/31
- 2023/11/02
- 23:40
このライブは元々は8月に2daysで開催されるはずだったものであるが、しーなちゃん(ボーカル&ギター)の体調不良で延期となり、前週とこの日という間隔を空けた2daysでの開催である。日付が変わったことによってこの日しか参加できなくなってしまったが、無事に開催されたことにまずは一安心。一応「フェス」というタイトルがついてはいるが、8月の段階ですでに「ワンマンだろうな」とは思っていたし、ツアーも対バン形式だっただけにワンマンで長い時間観ることができるのが嬉しい。
この日は世間的にはハロウィンということであり、下北沢にも若干そうした人がいたが、乗り換え駅の渋谷では凄まじいまでの仮装した人が大挙していた。そうした日だからか、メンバーのアンプの上にもハロウィングッズのかぼちゃの被り物が置かれていたり、前説に登場したおなじみのP青木の第一声が
「ハッピーハロウィーン!」
だったりするのであるが、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく」によって急に聖地扱いされるようになったこの下北沢SHELTERには海外から聖地巡礼に来た方々もたくさんいるということで最後には
「ジャパニーズナンバーワンクレイジーガールズバンド!」
と英語で挨拶するあたりが海外の人向けでありながらも、ブルーハーツから銀杏BOYZという伝説のバンドたちのライブを作ってきたP青木のこのバンドへの深く強い愛情を感じざるを得ない。
おなじみのTommy february6「je t'aime ☆ je t'aime」のSEが流れてメンバーが登場すると、あさか(ベース)は最近のフェスやイベントで見た時よりもさらに黒髪が長くなっている中、最後に登場したしーなちゃんは白のタンクトップにジャージという完全なる戦闘態勢で、ギターを持って歌い始めたのは実にメロディアスな新曲。あさかの跳ねるようなベースのメロディも含めて、これはストレートに新たな名曲か…と思っていたら、最後にしーなちゃんが情念を爆発させるようにして叫び、捲し立てるように歌う。それはメロディの美しさと爆発力と激しさの融合というこのバンドだからこそのものである。
するとしーなちゃんはギターを置いてマイクを手に持ち、
「愛してるよー!」
と観客への愛情を叫んでから口に含んだ水を吹きかけて客席に飛び込むのは「高円寺ブス集合」で、サビではおなじみの「バニラの求人」のメンバーと観客含めての大合唱となるのであるが、客席に飛び込んだしーなちゃんが天井に足をつくようにして観客の上でバランスを取るというあたりはもはやダイブの達人と言っていいくらいのレベルだ。だから観客の上にいながらもマイクをしっかり握りしめて歌うことができている。
そんなしーなちゃんがステージに戻って再びギターを手にして、
「黒髪少女のギブソンのギターは…」
と歌い始めた時にいつもより長く希(ギター)の顔を見るようにし、さらには2人で笑顔を見せるという今までとどこか違う空気を醸し出して始まるのは「ベイビー・ドント・クライ」なのであるが、しーなちゃんの歌唱の表現力はもちろんのこと、希のギターがライブを重ねまくってきたことによって確かに進化しているのが聴いていてよくわかる。そのギターが激しいだけではない、東京初期衝動のメロディの美しさをよりしっかり伝えるためのものになっている。つまりめちゃくちゃ良い曲であるこの曲の良さがさらに引き出されているということである。
それはメロディも歌詞もしーなちゃんの歌唱もポップに振り切れた「マァルイツキ」も紛れもなくそうであるが、観客がサビでMVの丸い月を表現するような振り付け(若い女性からおっさんまでみんな踊っているのがこのバンドのファン層の広さを感じさせてくれる)をするのであるが、その客席の光景を見たしーなちゃんは
「ありがとう!」
と笑顔で口にする。
そんなしーなちゃんに観客も曲間で
「ありがとう!」
と叫ぶとしーなちゃんは
「こちらこそありがとうだよ!」
と返した。そのやり取りにドキッとしたのは、今までそうした返し方をするしーなちゃんを見たことがなかったから。(ただ単に自分が行ってないライブでは言っていたかもしれないが)
そのしーなちゃんとメンバーが醸し出す幸せな空気がこのライブをさらに楽しいものにしてくれるのであるが、凄烈なギターサウンドとあさかの重いベースが重なり合う、イントロからして名曲でしかない「恋セヨ乙女」というシリアスさが強い曲でもそうした楽しくて幸福な空気は感じられるし、鮮やかな金髪が目を惹くなお(ドラム)がコーラスを重ねるフレーズが多くなっているのもバンドの表現の幅の広がりを感じさせてくれる要素である。
するとここで演奏された新曲は「死ねお前マジで」というとんでもないタイトルのものであるのだが、てっきり爆裂系の曲かと思いきや、実際はメロディが際立つギターロックというイメージの曲である。しかしながらもちろん歌詞には強烈な恨み節が盛り込まれており、しーなちゃんが時折SNSで発信してきた経験がそのまま曲になっているのかもしれないとも思うのであるが、そんな歌詞をも笑顔で歌える(元ネタはわからないが、曲終わりにあさかと胸に手を当てるポーズを取り合っていた)というのはそんな精神状態から抜け出せたと思っていいのだろうか。その抜け出せた理由がライブでファンの想いを感じたからというものだとしたら、それほど嬉しいことは他にないと思う。
そんな雰囲気、空気の日だからこそしーなちゃんは「中央線」の前に
「私の大切な曲」
と、思いを曲に乗せるように口にしたのだろう。そのしーなちゃんの弾き語りからバンドサウンドへ展開していくことによって曲の持つ切なさや情感がさらに増すのであるが、それは歌唱表現力の向上があるからこそ感じられるものでもある。
「さよならは言わない
さよならは言わないで
さよなら中央線」
という歌詞とその直後に鳴らされるギターリフからは、どこに住んでいるかは知る由もないけれど、しーなちゃんの中央線にまつわる記憶や思い出が微かでも流れ込んでくるかのようだ。
「新曲ばかりで恐縮ですが」
と言ってここでまたしても新曲が演奏されるのであるが、タイトル通りに
「次に生まれるなら君の細胞になりたい」
と言って始まる、この日演奏された新曲の中でもメロディックさが際立つ曲なのであるが、サビでの「低空飛行」から始まるフレーズの繰り返しが実にクセになるというか、もうその部分を聴くだけでバンドにとっての新たな名曲だとわかる曲だ。1stでの衝動と2ndで会得したポップさが理想的なバランスで混じり合っているというか。
何よりもこうして新しい名曲と言えるような曲が次々に生まれていて、すでにライブで演奏できるような状態にまで仕上がっているというのが今のバンドの状況の良さを物語っていると言っていいだろう。ということは新しい作品がリリースされるのも近いのだろうか?と期待してしまうのもファンだからこそである。
そんなメロディアスさを引き継ぐように、というかこの曲で獲得したそうしたものに新曲たちが連なっていると言ってもいいような「春」はタイトル的には季節外れとも言えるけれど、そうした季節を問わないようなメロディの美しさである。あさかとなおのコーラスがそのメロディをさらに際立たせているが、しーなちゃんは歌だけではなくて希同様にギターも実に進化しているなとこの曲を聴くと改めてわかる。
そうしたメロディの煌めきを最大限に感じられるのは「STAND BY ME」であるが、歌い出しからの歌唱はそのメロディを届けるように感情を込めて、
「ここでつまずくなよ 東京初期衝動!」
の叫びではそこに思いっきりしーなちゃんが自身の感情をぶち込むようにして歌う。その感情が伝わってくるからこそ、聴いていてグッときてしまうというか、感動してしまうところがある。それはやはりそうした曲を歌っている時もしーなちゃんが笑顔だからである。
しかしながら曲というかサウンドの振り幅が広いというか、あさかが前に出てきて台の上に立ち、しーなちゃんは拡声器を持って客席に飛び込みながら歌う「山田!恐ろしい男」は一転してバンドの爆裂っぷりを感じさせる曲であるし、しーなちゃんはあさかにも「お前も行け」的に客席を指差すジェスチャーをしているのも面白いが、そもそも客席でも序盤からダイバーが頻発していた。SHELTERはダイブしても押し戻されるだけなので、普段のステージ前に降りて戻って…的な面白さはない会場であるが、それでも飛びたくなるくらいの衝動をバンドが与えてくれているということである。
「あと4曲で終わりです」
という宣言に観客が「えー!」と声を上げるのは体感的にも現実的にもあまりの時間の経過の早さによるものであるが、その言葉の後に演奏されたのは2ndアルバム「えんど・おぶ・ざ・わーるど」収録の「世界の終わりと夜明け前」であるのだが、そこまでライブで毎回やっているわけではないこの曲が演奏されたということがこの日を貫くメロディアスさという要素を象徴していると思うし、サビの最後の
「ほら そんな顔で僕を見ないでくれよ」
というフレーズのメロディのあまりのキャッチーさは本当にこのバンドがメロディの力によってこうして支持されているということを改めて感じさせてくれる。
さらには
「MV見てくれましたか?情念を放出します」
と言って演奏されたのは、公開されたばかりのMVがまさにそうした、何というか人間というか女性というかの想いの怖さのようなものを感じさせる「はないちもんめ」であるのだが、そうした情念を切なさを湛えた、あくまでキャッチーなロックに昇華することができるのがしーなちゃんというソングライターと東京初期衝動というバンドだと思っているし、それは童謡のタイトルとフレーズを引用することによってより際立っている。だからこの曲の時だけはそれまでの楽しさを感じていた空気が少し異なるものになっていた。
そしてあさかのベースの音ともにしーなちゃんが歌い出したのはバンドの始まりを告げた曲にして、最大のアンセムと言っていいであろう「再生ボタン」。この曲の何が感動するって、煽らずともフレーズとフレーズの間で観客が「オイ!オイ!」と叫び、サビでは合唱が起こっているという光景。それはこうしてライブに来る観客たちが本当にこのバンドのことを信じているという思いの強さを感じさせるものだ。だからこそしーなちゃんもそれに応えるかのようにギターを置いて客席に飛び込む。それがさらに観客を熱くさせる。そんな最高に美しく幸せな相乗効果を確かに感じられる。初めて聴いた時から良い曲だと思っていたけれど、もはやそんなレベルではなくて、自分の人生におけるアンセムの一つだと思うようになっている。
そんなライブの最後に演奏されたのはしーなちゃんが思いっきり曲タイトルを叫んでから轟音ギターが鳴らされ、照明が眩く明滅する「ロックン・ロール」。
「ロックンロールは鳴り止まないって誰かが言ってた」
というフレーズは間違いなく神聖かまってちゃんの引用であるが、このバンドがライブハウスのステージに立って
「きみを待ってる ここで鳴ってる いつかきっと
世界のどっかで きみを待ってる いつかきっと」
と歌ってさえいれば、いつだってロックンロールは鳴り止まないって思えるのだ。だからこそ、どうかたくさんの人にこのバンドのライブを見て欲しいと思う。しーなちゃんが投げキスを連発して観客に感謝を伝えているのを見て、心からそう思っていた。
観客が呼ぶ声に応えてアンコールで再びメンバーが登場すると、しーなちゃんが
「トラブルメーカーチャンピオン、東京初期衝動です」
と自己紹介して、その言葉の通りの曲であり、
「産みたいくらいに愛してる!」
の超キラーフレーズを発明した「トラブルメイカーガール」がキュートでありながらもパンクというこのバンドの要素を1曲で示してくれるのであるが、しーなちゃんがギターを置いて客席上手の前の方にまで出てくると、何故か「君が代」を歌い始めて観客も大合唱するというカオスさに。確かに誰しもが絶対に知っている曲ではあるけれど。
そんな「君が代」の大合唱からそのまま繋がるように突入した「兆楽」ではしーなちゃんがやはり客席に飛び込み、喘ぐようなセクシーな声を発しまくりながら、客席後ろの上方にある配管を掴んでぶら下がるという驚異的な身体能力を発揮する。もちろんしーなちゃんが鍛えていることは知っているけれど、観客の支えなしで腕の力だけでぶら下がっている姿はSASUKEのアトラクションに挑んでいるようにすら見えて来る。見ている瞬間はそんな冷静にはなれないくらいに笑ってしまったし、「あの掴んでる配管が折れたりしないよな…」とも思ってしまったけれど。
しーなちゃんがステージに戻ると、またしても「君が代」を歌い始めて大合唱を巻き起こして、
「メンバー、ごめん。高速高円寺!」
と言ってもはや誰が合っているのかすらわからないくらいに速いのが、しーなちゃんのなおへの指示でさらに速くなる爆速バージョンの「高円寺ブス集合」が演奏されるのであるが、もはやバニラの求人のフレーズを合唱できないくらいの速さはいつも笑ってしまうし、しーなちゃんはやはり客席に飛び込んで、ダイブしてきた観客にまみれるようにして歌う。駆け抜けるようなライブであるために最後にこの曲を演奏するのは本当にキツいだろうけれど、それでも演奏するのは自分がやりたいからでもあり、観客のためでもあるだろう。しーなちゃんが再び投げキスをしながらセトリの紙やピックをばら撒きまくる姿を見てそう思ったのだ。
これは前にもこのバンドのレポで書いたことであるが、好きな人が泣いたり怒っているよりも、笑っている顔を見ていたいと思う。2020年の2月にこの下北沢SHELTERで初めてこのバンドのライブを観た時は、しーなちゃんもバンドも自分自身と戦っているように見えた。それはそれでカッコいいライブだったけれど、やっぱり今の方が楽しい。いや、見るたびに楽しさを感じるようになってきている。幸せになれている。
それはやはりしーなちゃんの、メンバーの笑顔を見ることができるからである。他の出演者は誰もいないフェスであるけれど、だからこそバンドと観客の双方向の愛が満ち溢れていた。それがこのライブがトキョショキフェスというタイトルである理由だと思っている。
その愛の深さと強さは身バレするのにビビって参加しなかった、ライブ後のFC会員のメンバーとのオフ会に参加しておけばよかったかなと思ってしまうくらいに。
1.新曲
2.高円寺ブス集合
3.ベイビー・ドント・クライ
4.マァルイツキ
5.恋セヨ乙女
6.死ねお前マジで (新曲)
7.中央線
8.次に生まれる時は (新曲)
9.春
10.STAND BY ME
11.山田!恐ろしい男
12.世界の終わりと夜明け前
13.はないちもんめ
14.再生ボタン
15.ロックン・ロール
encore
16.トラブルメイカーガール
17.君が代 〜 兆楽
18.君が代 〜 高円寺ブス集合 爆速ver.
この日は世間的にはハロウィンということであり、下北沢にも若干そうした人がいたが、乗り換え駅の渋谷では凄まじいまでの仮装した人が大挙していた。そうした日だからか、メンバーのアンプの上にもハロウィングッズのかぼちゃの被り物が置かれていたり、前説に登場したおなじみのP青木の第一声が
「ハッピーハロウィーン!」
だったりするのであるが、アニメ「ぼっち・ざ・ろっく」によって急に聖地扱いされるようになったこの下北沢SHELTERには海外から聖地巡礼に来た方々もたくさんいるということで最後には
「ジャパニーズナンバーワンクレイジーガールズバンド!」
と英語で挨拶するあたりが海外の人向けでありながらも、ブルーハーツから銀杏BOYZという伝説のバンドたちのライブを作ってきたP青木のこのバンドへの深く強い愛情を感じざるを得ない。
おなじみのTommy february6「je t'aime ☆ je t'aime」のSEが流れてメンバーが登場すると、あさか(ベース)は最近のフェスやイベントで見た時よりもさらに黒髪が長くなっている中、最後に登場したしーなちゃんは白のタンクトップにジャージという完全なる戦闘態勢で、ギターを持って歌い始めたのは実にメロディアスな新曲。あさかの跳ねるようなベースのメロディも含めて、これはストレートに新たな名曲か…と思っていたら、最後にしーなちゃんが情念を爆発させるようにして叫び、捲し立てるように歌う。それはメロディの美しさと爆発力と激しさの融合というこのバンドだからこそのものである。
するとしーなちゃんはギターを置いてマイクを手に持ち、
「愛してるよー!」
と観客への愛情を叫んでから口に含んだ水を吹きかけて客席に飛び込むのは「高円寺ブス集合」で、サビではおなじみの「バニラの求人」のメンバーと観客含めての大合唱となるのであるが、客席に飛び込んだしーなちゃんが天井に足をつくようにして観客の上でバランスを取るというあたりはもはやダイブの達人と言っていいくらいのレベルだ。だから観客の上にいながらもマイクをしっかり握りしめて歌うことができている。
そんなしーなちゃんがステージに戻って再びギターを手にして、
「黒髪少女のギブソンのギターは…」
と歌い始めた時にいつもより長く希(ギター)の顔を見るようにし、さらには2人で笑顔を見せるという今までとどこか違う空気を醸し出して始まるのは「ベイビー・ドント・クライ」なのであるが、しーなちゃんの歌唱の表現力はもちろんのこと、希のギターがライブを重ねまくってきたことによって確かに進化しているのが聴いていてよくわかる。そのギターが激しいだけではない、東京初期衝動のメロディの美しさをよりしっかり伝えるためのものになっている。つまりめちゃくちゃ良い曲であるこの曲の良さがさらに引き出されているということである。
それはメロディも歌詞もしーなちゃんの歌唱もポップに振り切れた「マァルイツキ」も紛れもなくそうであるが、観客がサビでMVの丸い月を表現するような振り付け(若い女性からおっさんまでみんな踊っているのがこのバンドのファン層の広さを感じさせてくれる)をするのであるが、その客席の光景を見たしーなちゃんは
「ありがとう!」
と笑顔で口にする。
そんなしーなちゃんに観客も曲間で
「ありがとう!」
と叫ぶとしーなちゃんは
「こちらこそありがとうだよ!」
と返した。そのやり取りにドキッとしたのは、今までそうした返し方をするしーなちゃんを見たことがなかったから。(ただ単に自分が行ってないライブでは言っていたかもしれないが)
そのしーなちゃんとメンバーが醸し出す幸せな空気がこのライブをさらに楽しいものにしてくれるのであるが、凄烈なギターサウンドとあさかの重いベースが重なり合う、イントロからして名曲でしかない「恋セヨ乙女」というシリアスさが強い曲でもそうした楽しくて幸福な空気は感じられるし、鮮やかな金髪が目を惹くなお(ドラム)がコーラスを重ねるフレーズが多くなっているのもバンドの表現の幅の広がりを感じさせてくれる要素である。
するとここで演奏された新曲は「死ねお前マジで」というとんでもないタイトルのものであるのだが、てっきり爆裂系の曲かと思いきや、実際はメロディが際立つギターロックというイメージの曲である。しかしながらもちろん歌詞には強烈な恨み節が盛り込まれており、しーなちゃんが時折SNSで発信してきた経験がそのまま曲になっているのかもしれないとも思うのであるが、そんな歌詞をも笑顔で歌える(元ネタはわからないが、曲終わりにあさかと胸に手を当てるポーズを取り合っていた)というのはそんな精神状態から抜け出せたと思っていいのだろうか。その抜け出せた理由がライブでファンの想いを感じたからというものだとしたら、それほど嬉しいことは他にないと思う。
そんな雰囲気、空気の日だからこそしーなちゃんは「中央線」の前に
「私の大切な曲」
と、思いを曲に乗せるように口にしたのだろう。そのしーなちゃんの弾き語りからバンドサウンドへ展開していくことによって曲の持つ切なさや情感がさらに増すのであるが、それは歌唱表現力の向上があるからこそ感じられるものでもある。
「さよならは言わない
さよならは言わないで
さよなら中央線」
という歌詞とその直後に鳴らされるギターリフからは、どこに住んでいるかは知る由もないけれど、しーなちゃんの中央線にまつわる記憶や思い出が微かでも流れ込んでくるかのようだ。
「新曲ばかりで恐縮ですが」
と言ってここでまたしても新曲が演奏されるのであるが、タイトル通りに
「次に生まれるなら君の細胞になりたい」
と言って始まる、この日演奏された新曲の中でもメロディックさが際立つ曲なのであるが、サビでの「低空飛行」から始まるフレーズの繰り返しが実にクセになるというか、もうその部分を聴くだけでバンドにとっての新たな名曲だとわかる曲だ。1stでの衝動と2ndで会得したポップさが理想的なバランスで混じり合っているというか。
何よりもこうして新しい名曲と言えるような曲が次々に生まれていて、すでにライブで演奏できるような状態にまで仕上がっているというのが今のバンドの状況の良さを物語っていると言っていいだろう。ということは新しい作品がリリースされるのも近いのだろうか?と期待してしまうのもファンだからこそである。
そんなメロディアスさを引き継ぐように、というかこの曲で獲得したそうしたものに新曲たちが連なっていると言ってもいいような「春」はタイトル的には季節外れとも言えるけれど、そうした季節を問わないようなメロディの美しさである。あさかとなおのコーラスがそのメロディをさらに際立たせているが、しーなちゃんは歌だけではなくて希同様にギターも実に進化しているなとこの曲を聴くと改めてわかる。
そうしたメロディの煌めきを最大限に感じられるのは「STAND BY ME」であるが、歌い出しからの歌唱はそのメロディを届けるように感情を込めて、
「ここでつまずくなよ 東京初期衝動!」
の叫びではそこに思いっきりしーなちゃんが自身の感情をぶち込むようにして歌う。その感情が伝わってくるからこそ、聴いていてグッときてしまうというか、感動してしまうところがある。それはやはりそうした曲を歌っている時もしーなちゃんが笑顔だからである。
しかしながら曲というかサウンドの振り幅が広いというか、あさかが前に出てきて台の上に立ち、しーなちゃんは拡声器を持って客席に飛び込みながら歌う「山田!恐ろしい男」は一転してバンドの爆裂っぷりを感じさせる曲であるし、しーなちゃんはあさかにも「お前も行け」的に客席を指差すジェスチャーをしているのも面白いが、そもそも客席でも序盤からダイバーが頻発していた。SHELTERはダイブしても押し戻されるだけなので、普段のステージ前に降りて戻って…的な面白さはない会場であるが、それでも飛びたくなるくらいの衝動をバンドが与えてくれているということである。
「あと4曲で終わりです」
という宣言に観客が「えー!」と声を上げるのは体感的にも現実的にもあまりの時間の経過の早さによるものであるが、その言葉の後に演奏されたのは2ndアルバム「えんど・おぶ・ざ・わーるど」収録の「世界の終わりと夜明け前」であるのだが、そこまでライブで毎回やっているわけではないこの曲が演奏されたということがこの日を貫くメロディアスさという要素を象徴していると思うし、サビの最後の
「ほら そんな顔で僕を見ないでくれよ」
というフレーズのメロディのあまりのキャッチーさは本当にこのバンドがメロディの力によってこうして支持されているということを改めて感じさせてくれる。
さらには
「MV見てくれましたか?情念を放出します」
と言って演奏されたのは、公開されたばかりのMVがまさにそうした、何というか人間というか女性というかの想いの怖さのようなものを感じさせる「はないちもんめ」であるのだが、そうした情念を切なさを湛えた、あくまでキャッチーなロックに昇華することができるのがしーなちゃんというソングライターと東京初期衝動というバンドだと思っているし、それは童謡のタイトルとフレーズを引用することによってより際立っている。だからこの曲の時だけはそれまでの楽しさを感じていた空気が少し異なるものになっていた。
そしてあさかのベースの音ともにしーなちゃんが歌い出したのはバンドの始まりを告げた曲にして、最大のアンセムと言っていいであろう「再生ボタン」。この曲の何が感動するって、煽らずともフレーズとフレーズの間で観客が「オイ!オイ!」と叫び、サビでは合唱が起こっているという光景。それはこうしてライブに来る観客たちが本当にこのバンドのことを信じているという思いの強さを感じさせるものだ。だからこそしーなちゃんもそれに応えるかのようにギターを置いて客席に飛び込む。それがさらに観客を熱くさせる。そんな最高に美しく幸せな相乗効果を確かに感じられる。初めて聴いた時から良い曲だと思っていたけれど、もはやそんなレベルではなくて、自分の人生におけるアンセムの一つだと思うようになっている。
そんなライブの最後に演奏されたのはしーなちゃんが思いっきり曲タイトルを叫んでから轟音ギターが鳴らされ、照明が眩く明滅する「ロックン・ロール」。
「ロックンロールは鳴り止まないって誰かが言ってた」
というフレーズは間違いなく神聖かまってちゃんの引用であるが、このバンドがライブハウスのステージに立って
「きみを待ってる ここで鳴ってる いつかきっと
世界のどっかで きみを待ってる いつかきっと」
と歌ってさえいれば、いつだってロックンロールは鳴り止まないって思えるのだ。だからこそ、どうかたくさんの人にこのバンドのライブを見て欲しいと思う。しーなちゃんが投げキスを連発して観客に感謝を伝えているのを見て、心からそう思っていた。
観客が呼ぶ声に応えてアンコールで再びメンバーが登場すると、しーなちゃんが
「トラブルメーカーチャンピオン、東京初期衝動です」
と自己紹介して、その言葉の通りの曲であり、
「産みたいくらいに愛してる!」
の超キラーフレーズを発明した「トラブルメイカーガール」がキュートでありながらもパンクというこのバンドの要素を1曲で示してくれるのであるが、しーなちゃんがギターを置いて客席上手の前の方にまで出てくると、何故か「君が代」を歌い始めて観客も大合唱するというカオスさに。確かに誰しもが絶対に知っている曲ではあるけれど。
そんな「君が代」の大合唱からそのまま繋がるように突入した「兆楽」ではしーなちゃんがやはり客席に飛び込み、喘ぐようなセクシーな声を発しまくりながら、客席後ろの上方にある配管を掴んでぶら下がるという驚異的な身体能力を発揮する。もちろんしーなちゃんが鍛えていることは知っているけれど、観客の支えなしで腕の力だけでぶら下がっている姿はSASUKEのアトラクションに挑んでいるようにすら見えて来る。見ている瞬間はそんな冷静にはなれないくらいに笑ってしまったし、「あの掴んでる配管が折れたりしないよな…」とも思ってしまったけれど。
しーなちゃんがステージに戻ると、またしても「君が代」を歌い始めて大合唱を巻き起こして、
「メンバー、ごめん。高速高円寺!」
と言ってもはや誰が合っているのかすらわからないくらいに速いのが、しーなちゃんのなおへの指示でさらに速くなる爆速バージョンの「高円寺ブス集合」が演奏されるのであるが、もはやバニラの求人のフレーズを合唱できないくらいの速さはいつも笑ってしまうし、しーなちゃんはやはり客席に飛び込んで、ダイブしてきた観客にまみれるようにして歌う。駆け抜けるようなライブであるために最後にこの曲を演奏するのは本当にキツいだろうけれど、それでも演奏するのは自分がやりたいからでもあり、観客のためでもあるだろう。しーなちゃんが再び投げキスをしながらセトリの紙やピックをばら撒きまくる姿を見てそう思ったのだ。
これは前にもこのバンドのレポで書いたことであるが、好きな人が泣いたり怒っているよりも、笑っている顔を見ていたいと思う。2020年の2月にこの下北沢SHELTERで初めてこのバンドのライブを観た時は、しーなちゃんもバンドも自分自身と戦っているように見えた。それはそれでカッコいいライブだったけれど、やっぱり今の方が楽しい。いや、見るたびに楽しさを感じるようになってきている。幸せになれている。
それはやはりしーなちゃんの、メンバーの笑顔を見ることができるからである。他の出演者は誰もいないフェスであるけれど、だからこそバンドと観客の双方向の愛が満ち溢れていた。それがこのライブがトキョショキフェスというタイトルである理由だと思っている。
その愛の深さと強さは身バレするのにビビって参加しなかった、ライブ後のFC会員のメンバーとのオフ会に参加しておけばよかったかなと思ってしまうくらいに。
1.新曲
2.高円寺ブス集合
3.ベイビー・ドント・クライ
4.マァルイツキ
5.恋セヨ乙女
6.死ねお前マジで (新曲)
7.中央線
8.次に生まれる時は (新曲)
9.春
10.STAND BY ME
11.山田!恐ろしい男
12.世界の終わりと夜明け前
13.はないちもんめ
14.再生ボタン
15.ロックン・ロール
encore
16.トラブルメイカーガール
17.君が代 〜 兆楽
18.君が代 〜 高円寺ブス集合 爆速ver.
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