Bentham presents FASTMUSIC CARNIVAL 2023 @新宿LOFT 10/29
- 2023/10/31
- 15:39
前月にTOKYO CALLING下北沢編で観たBenthamのライブは素晴らしかった。元々ライブで生きてきたバンドではあるけれど、自分たちでバンドを動かして生きていく楽しさのようなものをメンバーの表情から感じていた。だからこそこの主催フェスである「FASTMUSIC CARNIVAL 2023」に参加しようと思ったのである。
全18組が新宿LOFTと、その敷地内のbar stageに出演するという被りなしの2ステージのタイムテーブルによるフェスとなっており、イベント公式グッズは何とBenthamのメンバーの手売りとなっているので、ライブ開始前に須田元生(ギター)と鈴木敬(ドラム)が販売しているTシャツとタオルを購入。ちなみにTシャツは2000円という今のクソみたいな物価高の中では信じられないくらいの破格っぷりである。
11:30〜 青はるまき [HALL Stage]
このフェスの始まりを告げるのは静岡のバンド、青はるまき。なんでこんなバンド名なのかというところが気になるところであるし、メンバーチェンジなどによって、あきやまさる(ボーカル&ギター)、花房(ベース)の2人になっており、ギターとドラムはサポートメンバーを加えての4人編成に。
やはり新宿LOFTのステージということによって若干の緊張感も感じさせる中であるが、疾走感のあるギターロックからダンスロック、さらにはあきやまが弾き語りでも活動しているということが、アコギを弾きながら歌っている姿から実によくわかるような、キーボードの同期を使ったバラードなど、バンドの持ち得る要素を全てこの持ち時間で使っていくのであるが、そうして同期のキーボードのサウンドを使っているのは元々はメンバーにキーボード担当がいたからこそだろう。後でメンバーたちの会話を聞いていたら、今はそのメンバーとは連絡が取れなくなっているらしいけれど。
あきやまはバンドでのライブと弾き語りでの2回だけ一緒になったことで、Benthamがこうしてこの日に呼んでくれたことへの感謝を語るのであるが、その口調もやはり緊張感を隠しえないというくらいに間延びしていたのであるが、それも仕方ないところだろう。
ちなまにあきやまはこの日LOFTのバースペースの飲食で麻婆丼などのメニューを出していて(ライブ出番前まで仕込みをしていて大変だっただけに、断ればよかったと後悔していたそう)、実際に後で食べたらめちゃくちゃ美味かったし、700円とは思えないほどボリュームがあって、いわゆるフェス飯というやつで感じがちな物足りなさが皆無だった。なんなら全ての飯の飲食がこのコスパとクオリティであってほしいし、外に出て食べるよりもはるかにお得だったと思っている。
12:00〜 初恋モーテル [BAR Stage]
LOFTがイベントで2ステージ組めるのはこのLOFT BARをステージとして活用できるからである。ということで、このBAR Stageのトップバッターは初恋モーテル。名前は知っていたが、ライブを観るのは初めてのバンドである。
メンバーの髪色が4者4様なのがそのまま見た目の覚えやすさと個性になっており、ワカメケイナ(ボーカル&ギター)は赤、筒井翔平(ギター)は金、五十嵐がんば郎(ベース、この名前で合ってるのか)は緑、そしていだてん(ドラム、やっぱりこの名前で合ってるのか)は黒という中、ファンクなどのミクスチャーからハードロック、メタル、さらにはパンク(客席で観ていたBenthamの小関がいだてんの突っ走るようなツービートを聴いて爆笑していた)と雑多な音楽性を1曲の中に混在させるという独特のサウンドで、それは演奏技術が高いからこそできることだよなと思っていたら、全身を使ってグルーヴを生み出す五十嵐、カッティングから轟音まで自由自在な筒井、そしてまだ早い時間であるだけに寝ている脳内をその力強いビートで叩き起こしてくれるかのようないだてんのドラムと、めちゃくちゃメンバーの演奏が上手い。
特にいだてんのドラムはこの普段はアコースティックのライブが行われるイメージが強いBAR Stageの音響と、おそらくはLOFT備え付けのドラムセット(バスドラのプリントにLOFTと書かれているし、このステージの出演者はみんなそのセットを使っていたから)を使っているとは思えないくらいに凄まじい。個人的には黒髪に髭というワイルドな出で立ちから、RIZEの金子ノブアキに通じるスーパードラマーらしさを感じていた。
そんな爆音かつ凄腕のメンバーに負けないような歌唱を響かせるのがワカメケイナのボーカルなのであるが、そのロックバンドのボーカルをやるために持って生まれたかのような歌声はこのバンドの記名性の強さに間違いなく繋がっているし、あらゆるサウンドを乗りこなす器用さも持ち合わせている。最初はサングラスをかけていたが、後半は外して素顔になるというのもどこかセクシーさを感じさせる。
そうしたライブパフォーマンスと楽曲の完成度からしても、この小さいステージのトップバッターとは思えないくらいの存在のバンドだったのであるが、そのライブの凄まじさだけでも「またじっくりライブハウスでライブを観てみたいな」と思ったのであるが、12時半にライブを終えながらも、すぐに帰るのではなくてメンバー全員が夜の最後までずっと出演者のライブを観ていた。それは音楽を聴く、ライブを観るのが好きじゃなければできないことだ。自分自身がそうしたタイプの人間だからこそ、同じようにずっとライブを観ているこのバンドのメンバーがさらに好きになった。またすぐにライブハウスに会いに行きたいと想うくらいに。
12:30〜 サイダーガール [HALL Stage]
この日の出演者には何年かぶりにライブを観るようなバンドたちもいる。その先陣を切るのが、今やなかなかイベントなどには出演しないイメージのある、サイダーガールである。
爽やかな長身とエモーショナルなギターが持ち味な知が活動を休止しているだけに、ギターとドラムにサポートメンバーを加えた4人編成で登場すると、かつてライブ活動始めたてで各地のフェスなんかにもよく出演していた2018〜2019年頃(多分、自分が最後にライブを観たのは2019年に静岡の清水で開催された、マグロック)から比べると、当時は少年のような出で立ちだったYurin(ボーカル&ギター)が少し大人びたというか、体がデカくなったり、サングラスをかけているからそう感じるようになったのかもしれないと思う。
しかしながらフジムラ(ベース)とサポートギターはガンガン前に出てきて演奏するというアグレッシブさを見せると、「エバーグリーン」「飛行船」という爽やかなギターロックサウンドの曲によって一気に会場の空気はこのバンドの持つ蒼さに染まっていく。客席前方にはこのバンドのタオルを持った人がたくさんいるのも、そう多くはないライブの機会を見逃さないようにしたいという表れだろう。
するとYurinがハンドマイクになって、同期の音も使いながら歌うのはテーマや歌詞までもがユーモアに富んだポップな「来世はねこ」であり、そのYurinハンドマイクの流れはフジムラがシンセベースを弾くことによってデジタルサウンドの要素が強くなる「シンデレラ」へと繋がっていくのであるが、その辺りは元々ボカロPとしても活動してきたYurinのバンドだからこその幅広さであると言えるだろう。
フジムラはもう7〜8年来の付き合いであるBenthamからのオファーであるが故に、今回このイベントの出演を決断したと語っていたが、やはり今このバンドはそうしてワンマン以外は考え抜いた上で出演するという方針なのだろう。
だからこそこのライブがより貴重なものに思えるのであるが、Yurinの歌唱はやはり少し高音や張り上げる部分で不安定に感じる部分もあっただけに、もうちょっとライブを重ねるようになれば変わるんじゃないかとも思うのであるが、ラストの「約束」から今年リリースされた新作EPのタイトル曲である「Bluebell」という、新旧のバンド名のように爽やかさが弾けるようなギターロック曲でフジムラとギタリストがアグレッシブに前に出てきて演奏する姿は、バンドじゃなくても音楽家として生きていける手段があるYurinが、それでも今もなおこのバンドを続けている理由が滲んでいた。それはバンドじゃないと放出できない衝動が確かにあるということ。それがある限り、またどれだけ年月が空いたとしても会える日が必ず来る。バンドが音を鳴らす場所はこうしたライブハウスであるからだ。
1.エバーグリーン
2.飛行船
3.来世はねこ
4.シンデレラ
5.約束
6.Bluebell
13:00〜 irienchy [BAR Stage]
これだけ出演者が多いとはじめましての出演者もたくさんいる。ということでライブ観るのも曲を聴くのも完全に初めてなのがこのirienchyである。
編成としてはシンプルな4人編成のロックバンドなのであるが、ギターアンプの上に思いっきり「入江」という表札が置いてあるのが気になっていると、そのギタリストの諒孟が低いステージから降りて客席の中に入ってギターを弾きまくる。シンプルなサウンドではあるが、ゆーま(ベース)ときょうへい(ドラム)はモータウン的なビートを刻んでいたりと、メンバーの素朴そうな人柄がその音楽には出ているし、昔のdustboxのSUGAを思わせるような金髪のそう(ボーカル&ギター)はあらゆる方向の観客をしっかり見て目を合わせるようにしながら歌っている。そこには自分たちの思いや音楽を目の前にいるあなたにしっかり届けたいという思いが確かに感じられる。
とはいえこのユニークな、というか意味がよくわからない単語である「irienchy」というバンド名の由来はなんなんだろう?と思っていたら、
「ギターの入江さんの家で結成されたから、入江ん家(irienchy)」
という身も蓋もない理由であることが明かされ、その入江こと諒孟はアンプの上に置いてある表札を掲げたりするのであるが、最新曲「最強のぼっち!」にもその聴く人を後押ししたいという気持ちが現れているし、そうのMCは福岡出身ということでどんどん博多弁が前面に出るようになっていく。そこにはカッコつけたりとかではないありのままの自分たちをステージの上で出すという意識があるのだろうし、だからこそ最前でバンドのタオルを持ってライブを見ていたファンの女性に目を合わせて歌ったりという形で感謝を示すのだろう。
そんな穏やかで朗らか、でも真っ直ぐで熱い人間性がそのまま音楽やライブに出ていたバンドであるが、このバンドも早い時間のライブにも関わらず、最後の最後まで会場に残ってメンバーがいろんなバンドを観ていた。ライブの感想をツイートしたらすぐにそうがフォローしてくれただけに、少し挨拶でもすれば良かったとも思っていた。
13:30〜 NITRODAY [HALL Stage]
ライブを観たことはないけれど、曲はすでに結構聴いているという自分内立ち位置のバンドである、NITRODAY。まだめちゃくちゃ若いバンドである。
メンバー4人が轟音を鳴らすというオルタナサウンドはこの日の出演バンドの中ではかなり異質であるが、小室ぺい(ボーカル&ギター)、やぎひろみ(ギター)、松島早紀(ベース)の3人は若さ相応のあどけない表情をしているのに対し、岩方ロクロー(ドラム)だけは体がデカいこともあってかどこか貫禄のようなものも感じさせるというか、1人だけかなり年上に見える。
しかしながら長い黒髪を靡かせてクールな立ち振る舞いでありながら、トレモロアームも駆使して轟音を鳴らすやぎのギターがとんでもなくカッコいい。アニメ「ぼっち・ざ・ロック」の影響でギターを買う人が増えたという話は聞いているが、そうした人たちに是非このバンドのライブを観て、このギターを聴いて欲しいと思うくらいに、ギターってなんてカッコいい楽器なんだと思わせてくれること請け合いなくらいの凄まじさ。
そこに金髪が映える松島のハイトーンコーラスが曲にキャッチーさを与えていくのであるが、MC一切なしでひたすら轟音を鳴らしていただけに、Benthamとの関係性もあまりよくわからない中で小室が時間を確認してから最後に演奏された
「不甲斐ないな」
のリフレインがやはり音の洪水のような轟音ギターとともに響き渡る「レモンド」で小室は叫ぶようにして歌う。それはこの音楽じゃないと吐き出せないものがあるというように。
正直言って流行るような要素が1ミリもない音楽である。世界的に流行ってる音楽の要素を取り入れたりということを全くしていない、90年代後半のグランジブーム真っ只中のアメリカからタイムスリップしてきたかのような。
でも合わせていないということは、自分たちがやりたい音楽だけをひたすら貫いているということ。どうすれば売れるかというのではなくて、その軸がこんなにしっかりしていて、音が凄まじくカッコいい若手バンドがいるということにこの上ない希望をもらったような感覚になった。
14:00〜 Calm Law [BAR Stage]
BAR Stageのバンドの機材の前にはDJ的な機材が設置されており、そこに立つのは黄色いニット帽を被った男性。てっきりバンドしか出演していないのかと思いきや、このCalm Lawは単独でのエレクトロミュージックアーティストである。
ビートとともに煌びやかな音も発しながら、本人が「新宿LOFT」「FASTMUSIC CARNIVAL」などのこの日の会場やイベント名などをその場で重ねていき、さらには
「楽しんでますかー!」
と叫んだりしながらビートや音量を調整していくのであるが、誰よりも自身の音に合わせて頭を振ったりして楽しみながらも、その膨大なツマミなどを繊細に操作して音を変化させていく。
そうした演奏だけかと思ったら、ステージ前の椅子にマイクを置いて、自身は卓の上から長い竹の棒のようなもの(楽器の名前がマジでわからない)でそのマイクに向かって声を吹き込むようにしたりという、なかなか見ないというか見たことがないようなパフォーマンスを見せてくれる。
しかし観客と会話でコミュニケーションを取るようにしながらも、客席で見ていたBenthamの小関に
「あと8分だよ!時間押さないでね!」
と言われていたのには笑ってしまった。何よりもバンドだけではなくてこうした音楽性のアーティストとも交流があるBenthamの交友関係の広さ、音楽的な素養の広さは凄いなと改めて思った。どこでどうやってこの人と知り合ったのかが気になったけれど。
14:30〜 Panorama Panama Town [HALL Stage]
この辺りからは普段からライブを観ているようなバンドも続々登場する。おそらくはライブを観ている回数で言うならこの日の出演者でもトップクラスと言えるPanorama Panama Townである。
なので見慣れてるバンドでもあるのだが、メンバーがステージに出てきて驚いてしまったのは、岩渕想太(ボーカル&ギター)が長くなった髪を後ろで結いているという姿に変わっているからである。ちなみに岩渕はギターも変わっているという新モードとなっている中、浪越康平(ギター)が細かくギターを刻む「King's Eyes」からスタートすると、
「最低な夜にしましょう(笑)」
とタイトルに合わせて自虐的に口にして「Bad Night」へ。クールなダンスロックという近年のモードでもあるのだが、サポートドラマーのオオミハヤトがメインコーラスを務めていたりと、その存在感は完全にサポートの域を超えているというレベルであるし、「100yen coffee」でのタノアキヒコ(ベース)の体全体を使ってグルーヴを生み出すようなリズムも含めて、完全にこの4人だからこそ生み出すことができるバンドのロックサウンドである。
さらには岩渕の艶のあるボーカルがトーン低く歌われるかと思いきや、タイトルフレーズで一気に高らかに響く「Faceless」、さらには新しい挑戦をしてきたBenthamに捧げるように演奏された「Knock!!!」と続くと岩渕は
「さっきオゼ君に会ったらもうバテてました(笑)」
と舞台裏のBenthamメンバーの様子を伝えてくれるのであるが、そこに
「俺たちもBenthamもずっと走り続けてきた」
とエールを加えるようにして配信でも先行リリースされた、今年リリースの最新アルバム「Dance for Sorrow」収録の「Run」を演奏するのであるが、その悩み迷いながらも走るしかないという歌詞は、まさにそうしたことがたくさんありながらも続いてきたであろうパノパナとBenthamに向けられているものだからこそ説得力があるし、どちらのバンドもこれからもずっと走り続けて欲しいと思える。
そんなライブのラストに演奏された「Strange Days」はオオミによる均一なビートが実に心地良くも、サビでは浪越とタノも一気にグルーヴを解放し、そこに岩渕の歌唱が乗る。その歌詞が
「消えかかってた衝動
閉ざしてた心
抑えようとしたって何度も湧き上がって」
というものであるというのが、きっと何度もそうした場面を経験してきたであろうBenthamに向けられたものであり、だからこそ最後に演奏したのだろう。
何よりも自分はこのバンドを「グルーヴの化身」的なバンドだと思っているのだが、それがこのたくさんのバンドが出演するようなフェスやイベントだとよりわかる。今年はVIVA LA ROCKにも出演していたけれど、またそうした大きな場所でこのグルーヴを響かせれば、昔よりもこのバンドのカッコよさに気付いてくれる人がたくさんいると思っている。
1.King's Eyes
2.Bad Night
3.100yen coffee
4.Faceless
5.Knock!!!
6.Run
7.Strange Days
15:00〜 愛はズボーン [BAR Stage]
最近はGIMA☆KENTA(ボーカル&ギター)のおめでたいニュースでも話題になった大阪の4人組バンド、愛はズボーン。そうした話題性ではなくてライブの楽しさがしっかり伝わってきているからこそ、BAR Stageはこんなに人いたのかってくらいに満員になっている。
先に短い金髪が少し厳つく感じられる金城昌秀(ギター)、白井達也(ベース)、富永遼右(ドラム)の3人が登場して、金城が挨拶しながら演奏を開始すると、素肌に白いジャケットで胸元をはだけさせたスタイルがインパクト抜群なGIMAもステージに登場して、バンドの自己紹介ソング的な「愛はズボーン」を演奏すると、途中でメンバー紹介を挟んだかと思ったら、ステージから消えていたGIMAが大量の風船を持って戻ってきて、Bentham小関とともに客席に撒き散らすといういきなりのやりたい放題っぷり。それがこのBAR Stageという距離の近さも相まってホームパーティのようにすら感じられるのはバンドと観客の精神的な距離の近さということもあるだろう。
しかしながらだいぶ前にライブを観た時(確か見放題東京編)は「シュールな曲を演奏する大阪の兄ちゃんたち的なバンド」というイメージだったのだが、この日観てそのイメージは一変した。金城の掻き鳴らすギター、見た目が普通過ぎてこのバンドの中では逆に浮いている白井のうねりまくるベース、そしてバンダナを頭に巻いて絶えず笑顔で叩く富永の演奏がグルーヴの塊的なものに進化しているし、そんな曲を1番前で歌うGIMAのカリスマ的なオーラ。完全なるロックスターのそれは前に観た時とは全く違うものである。
するとGIMAは曲中にマイクスタンドごと客席に突入して歌うと、
「みんなでぐるぐる回ろうぜー!」
と言って、マイクスタンドの周りを自身が先導するような形で観客とともに走り回り、
「ありがとう兄弟!」
と言って一緒に走り回っていた観客たちとハイタッチしながらマイクスタンドごとステージに戻っていく。そのパフォーマンスは面白くもありながら、観ていて、参加していてめちゃくちゃカッコよく思えたし、この会場の空気をこのバンドのものに完全に塗り替えていた。
自分がもしバンドマンだったら。大阪にライブをしにいく時にこのバンドがいてくれたら、めちゃくちゃ頼りになるアニキ的に感じられるだろうなと思った。ただ面白いだけじゃなくて、そこにバンドとしての強さが備わっている。紛れもなく愛はズボーンはロックスターと言っていいバンドになっていた。
1.愛はズボーン
2.Z scream!
3.アナコンダ
4.MAJIMEチャンネル
5.ひっぱられる
15:30〜 MARSBERG SUBWAY SYSTEM [HALL Stage]
個人的に今年ようやくライブを観れて嬉しかったバンドの一つが、古川貴之(ボーカル&ギター)が新たに始動させたこのMARSBERG SUBWAY SYSTEMである。決してライブ本数が多いわけではないし、あんまり(というかほとんど)フェスなんかにも出るようなバンドでもないだけに、こうしてこの日観ることができるのが実に嬉しい。
古川は柄シャツ、松本翔(ギター)と鈴木勇真(ベース)はスーツ、金髪の岩中英明(ドラム)は白のYシャツ姿という出で立ちでメンバーが登場すると、いきなりバンド名がタイトルになっているという意味でもこのバンドのサウンドを示すような「MARSBERG SUBWAY SYSTEM」の鋭いロックンロールが鳴らされると、松本のギターがキャッチーに響く「金星」、さらには全英語歌詞で古川によるどこかヒップホップなどの要素をも感じさせる歌唱による「walking dude」と次々に曲が演奏されていく。古川のロックンロールを歌うために持ち合わせたような歌唱はもちろん、その出で立ちも含めて「ロックバンドってなんてカッコいいんだ」と思わせてくれるようなメンバーの演奏も実に力強い。
それは古川がサビで一気に声を張り上げ、岩中が連打するドラムの音がやはり力強さをもって響く、鈴木も含めたリズムがどこかパンク的ですらある「廃棄物の月」もそうであるが、古川のロマンチックさがこうした曲や「辻斬り惑星」というような曲には溢れ出している。そのサウンドと歌詞のコントラストこそが変わらぬ古川のロックンロールでありバンドであると感じさせてくれる。
その古川がBenthamと前に対バンした際に、ドラムの鈴木が体調不良で出れなくなり、ほかの出演バンドのドラマーが代わる代わる演奏し、それによって出演者たちの結束が強くなってより良い日になったという実に素晴らしいエピソードを語る横で松本は足元のエフェクターに明らかに異常が発生している様子でスタッフとともに調整しているのだが、
「Benthamへの想いが熱すぎて足元系がショートしちゃった!」
と、エフェクター類が使えなくなってしまい、古川はその修復作業中に
「チャールズ・チャップリンがいかに素晴らしい表現者であり優しい人か」
ということを語るという映画大好きな一面を感じさせてくれるのであるが、結局エフェクターは治らずにアンプにそのまま直でシールドをブッ刺してラストの「0.14パーセントの星屑」を演奏するのであるが、アンプ直ということでキャッチーなギターリフを持つこの曲も完全なるロックンロールサウンドになるのであるが、
「そよ風の中に打たれて
その胸に水色のブローチ」
というフレーズなどはライブハウスでも、いや、この4人がそれぞれこのバンドを始める前から生きてきた場所であるライブハウスだからこそ、聴いていてその情景が脳内に浮かんでくる。
最後のキメで古川はドラムセットに足をかけてから思いっきりジャンプしていたけれど、そのカッコよさに見惚れながらも、ギタートラブルが起きて予定していたセトリから削った曲がどの曲だったのかということが気になりまくっていた。
1.MARSBERG SUBWAY SYSTEM
2.金星
3.walking dude
4.廃棄物の月
5.辻斬り惑星
6.0.14パーセントの星屑
16:00〜 ZARIGANI$ [BAR Stage]
このBAR Stageにセッティングされているドラムセットの向きが、下手側に向き合うように変わっている。それはベース&ボーカルのEriとドラムのMizukiという最小編成によるロックバンド、ZARIGANI$(ザリガニダラー)のセッティングだからである。もう活動歴は20年近く、自分が学生時代から存在を知っているバンドである。
しかしながらライブを観るのは初めてなので、当時のイメージからすると2人ともキャリアを重ねたなと思ったりするのであるが、だからこそ完全にやることが定まっているというような爆音のロック。Eriはサウンドチェックにかなり手間取っていたし、実際にベースをリズム楽器だけではなくてメロディ楽器としてもエフェクターなどで音を変えながら演奏するだけに機材トラブルが多いバンドであるとも本人も口にしていたが。
「愛はズボーンの時にいた人たちはどこに行っちゃったのかな?(笑)」
と自虐的に笑わせながらも、観てくれている人たちを自分たちの近くに招くのであるが、手数も力強さも凄まじいドラマーであるMizukiもその際には実にフレンドリーさを感じさせるのであるが、何よりもやはりこのリズム隊と呼ばれる2つの楽器だけでバンドとして成立するアイデアと技術の凄まじさたるや。ついついEriの足元に広がるエフェクターの山にも目がいってしまうのであるが、それを操作して切り替えて演奏しながら歌ってもいるのだから、本当にとんでもないバンドである。
最後にはザリガニというバンド名らしく両手でピースを作るコール&レスポンスを観客と繰り広げながらも、Eriがマイクを持って客席に降りると、目の前にいた女性の観客にマイクを持たせてそこに向かって歌うという観客も一体となったパフォーマンスを行う。その全てが絶対にこのバンド、この2人でなくてはできないものであり、衝撃度という意味ではこの日トップクラス。名前と存在だけを知っていた学生時代から、今までずっとバンドを続けてきたことに心から感謝。だからこの日ついにこうして出会うことができたのだから。
16:30〜 シナリオアート [HALL Stage]
久しぶりにライブを観るバンドの2組目。かつてはKANA-BOONとスプリット盤をリリースしたり(後にベースのヤマシタタカヒサはKANA-BOONのベース不在時のサポートも務めた)、大型フェスなどにも出演しまくっていたスリーピースバンド、シナリオアートである。ライブを観るのはおそらくコロナ禍になる前の新木場STUDIO COASTで行われたイベント出演時以来だろうか。
上手にドラム&ボーカルのハットリクミコ、下手にボーカル&ギターのハヤシコウスケ、中央奥にヤマシタという立ち位置は変わらないが、そもそもずっとメンバーが変わっていないのが凄いなと思いながらも、「ブルースメル」でハヤシが暴れるようにして轟音ギターを鳴らしているのを見て、変わらないままで変わったなと思った。それは大手事務所などから離れて独立してからもずっとライブをやり続けて生きてきたということがその姿や音から確かに伝わってくる。
嬉しい選曲となるのは自分がライブを観ていた当時から演奏していた「ホワイトレインコートマン」であるのだが、ハヤシとハットリの掛け合い的なボーカルも実に力強さを増している。だからこそ「ファンタジックなポップ」というイメージよりもはるかに「ロック」を感じるし、それはダークな世界観の歌詞をもキャッチーに響かせることができる「スーサイドスポット」も同様である。
そんなバンドは今ちょうど独立してから5周年ということで、独立して1年のBenthamに先輩としてエールを送りながら、自分たちだけでバンドを動かすことの大変さとやりがい、楽しさをも口にする。間違いなく今のこのバンドから感じられる逞しさはそうした活動背景によるものもあるだろう。
しかしハヤシはまだあと2曲あるのに思いっきり最後の曲のイントロを弾こうとしてハットリに突っ込まれるという変わらぬ天然っぷりを感じさせながら、言葉遊び的な歌詞とタイトルが実に面白い「アイマイナー」を静謐なギターのイントロに変えて鳴らす。ハヤシはかなり前髪が伸びていて表情は見えなかったが、間違えた時にどんな表情をしていたのだろうか。
そして最後に演奏された「シーユーネバーランド」はメンバーがBenthamに向けていた。それはまたこうしてバンドが作ってくれた夢のような国で会おうという共闘を約束するもの。シナリオアートの曲は脳内に映画や絵本のような情景を思い浮かばせてくれるが、この曲だけは違った。今も戦い続けているバンドたちのこの先を思い描かせてくれた。アウトロでのハヤシとヤマシタの暴れるような演奏も、ハットリの叫ぶような歌唱も、あの頃に見た記憶がない。それは今だからこそ手に入れた、ロックバンドとしてのシナリオアートの本質だったんじゃないかと思った。
この日のライブ終了後には出口でヤマシタがセトリカードを観客1人1人に自分で配っていた。驚きすぎてKANA-BOONを救ってくれたお礼も言えなかったのだが、独立して活動するというのは大変なことの方が多いだろうけれど、でもこうして我々の近くにいてくれるということでもある。だからこそそんな感謝も必ず直接伝えられるような日が来るはずだと思っている。
1.ブルースメル
2.ホワイトレインコートマン
3.スーサイドスポット
4.アイマイナー
5.シーユーネバーランド
17:00〜 MO MOMA [BAR Stage]
現在はyonigeのサポートギタリストとしても活躍する土器大洋と、当時から美人ベーシストとして名高かった黒瀬莉世というLI LI LIMITというバンドで活動していた2人が再びバンドを組み、そこにドラマーのShogo Takahashiを加えたスリーピースバンドがこのMO MOMAである。yonigeのファンであるために土器はしょっちゅう観ているが、黒瀬がステージに立つ姿を観るのは実に久しぶりである。
LI LI LIMIT時代は男性メインボーカルがいたためにメインボーカルではなかったが、こうして自身がメインボーカルとして歌うのを聴くと、黒瀬のウィスパーボイスは実に独特の浮遊感のような感覚を与えてくれるということが改めてわかる。自分たちでも「オルタナティブエレクトロバンド」と称しているが、まさにその通りに人力のリズムに土器の作るエレクトロサウンドが乗っており、yonigeではバンドサウンドに合わせて歪んだギターを弾くことも多い土器がサウンドを手がけるとやはりこうした音楽になるんだなと改めて思うし、LI LI LIMITにSUPERCARの影響を感じてライブを何回も観ていた自分としては黒瀬と土器がこうしてまたそうした自分たちが好きで、やりたい音楽を自分たちで鳴らしているのを聴くことができるのはやっぱり嬉しいし、何よりも編成などは変わっても土器の作る曲には独特のポップさが確かにあるよなとも思う。
そんなMO MOMAはこのバンドになってからはBenthamと対バンするのは初めてということであるが、LI LI LIMIT時代から2人はずっと付き合いがあり、こうしてまたこのバンドでBenthamとの新たなストーリーが始まったことを喜んでいた。
持ち時間30分あるのに20分ちょっとで終わり、この日の出演者では珍しく時間が巻くという展開になったのだが、まだそこまで曲が多くなかったりするのだろうか。いずれにせよ、初めてライブを観るバンドだけれど、嬉しい再会がここにもあった。LI LI LIMITは出会ってから割とすぐに終わってしまっただけに、このバンドとは長い付き合いになりますように。
1.Nights Wave Comes
2.Game
3.Party A
4.Ele Brain,New Life
5.MAMA
17:30〜 ドラマチックアラスカ [HALL Stage]
シナリオアートに続いて実に久しぶりにライブを観る、ドラマチックアラスカ。Benthamとは実に長い付き合いのバンドであり、個人的なイメージとしても1番一緒に走り続けてきたバンドという感がある。
なのでヒジカタナオト(ボーカル&ギター)も気合いを込めるようにしてタイトルコールをした「TEPPEN」からスタートするのであるが、いきなりヒジカタが弦を切ってしまってBentham小関のギターを借りながらも、その体がついつい動いたり踊ったりしてしまう、ニシバタアツシ(ドラム)の四つ打ちのリズムを巧みに使ったダンサブルなサウンドのギターロックというスタイルも、ヒジカタの少年性を強く感じさせる見た目も変わることはないが、ライブでおなじみの「リダイヤル」から「無理無理無理」という流れでは自分たちのスタイルを変えることなくその刃を研ぎ澄ませてきたんだなということがわかる。個人的に好きだった長身ベーシストのマルオカも2016年に脱退し、ベースはタケムラカズキ、ギターはやはり活動休止したトバナオヤから、元THE NAMPA BOYSのキレ味鋭いサウンドを担っていたサワヤナギマサタカに変わっているのだが、その両翼2人の激しい演奏の姿と出で立ちによってか、バンドがさらにロックキッズ感を増しているような感じすらある。
自身も見た目が全く変わらないヒジカタは
「バンドマンって見た目で年齢がわからない人が多いけど、Benthamなんてまさにそんな感じじゃないですか。でも今日はやっぱり疲れてるからか、普段よら4歳くらい老けてた(笑)
あの見た目が全く変わらない辻怜次すら目元が浮腫んでた(笑)」
とBenthamメンバーをイジると、客席にいた辻から「うるせぇ!」というツッコミが入るのも仲の良さを感じさせてくれるのであるが、最新曲「大正解」ではもう夏は過ぎ去っても観客がタオル回しをするというこのバンドの楽しみ方の新機軸的な曲であり、これからライブのキラーチューンになっていくのは間違いないだろう。
するとヒジカタは
「俺たちはKANA-BOONの次にはなれなかったし、BenthamもKEYTALKの次にはなれなかった」
と叫んでから「ファイナルフラッシュ」を演奏するのであるが、それは日本全国を一緒に回ってきたというくらいに距離が近く、互いにそうして先輩に比較されてきたこのバンドだからこそ言えることだ。確かにそこまでは行けなかったけれど、今でもどちらも続いている。続けてきたことで二番煎じでもフォロワーでもなく、このバンドでしかないという存在にまで辿り着いたんだなと思える。
そんなライブのラストはやはり「人間ロック」で観客がカウントをメンバーと一緒に数えながら飛び跳ねまくる。それはこれからもこのバンドがこうして自分たちらしく、自分たちのロックを貫き通して生きていくということ。メンバーの変遷はあったけれど、それでも止まることがなかったバンドの強さが確かに鳴っていた。
1.TEPPEN
2.リダイヤル
3.無理無理無理
4.大正解
5.ファイナルフラッシュ
6.人間ロック
18:00〜 NECOKICKS [BAR Stage]
ドラマチックアラスカが終わってBAR Stageに行こうとしたら、もうステージが見えないくらいの超満員っぷり。それはかつてライブハウスシーンやMURO FESなどで独特の存在感を放ってきたNECOKICKSが実に6年ぶりにライブを行うからであり、おそらくは昔からのバンド仲間と思しき人も客席にはたくさんいた。
そんな満員を超えてるレベルの人たちの思いに応えるように、6年ぶりでも今でも変わらずに少年性を強く感じさせる見た目のメンバーは当時と変わらぬストレートな蒼いギターロックを鳴らす。TAKUMI(ボーカル&ギター)のパーマがかった大きな頭も全く変わっていない。
鳴らしている音は正直言って、他の現役バリバリにライブハウスで生きているバンドと比べたらそこまでの圧力のようなものはない。でもそうしたものはなくても実に演奏はしっかりしているのは、今はそれぞれの生活をしているメンバーたちがめちゃくちゃ練習してきて、そこでやはりバンドであることの楽しさに改めて向き合えた部分もあるのだろうと思う。
ちなみに
KO-Ki(ドラム) 地元の長野で野菜を作っている
YU-TA(ベース) パン屋を紹介する雑誌の編集
HARA-KUN(ギター) 営業の仕事を辞めて無職
TAKUMI アイドル事務所設立
というあまりにバラバラな形で6年間を生きてきたらしいが、度々バンドをやるやらやらないやらという話になりながらも流れ続けて、ようやくこのライブで全員の気持ちが合致したという。
TAKUMIは何故か最前列にいる観客のメガネを奪って自分でかけたりしながらも、「days of summer」や「ブルーオレンジ」という曲からは未だに消えることがない、どうしようもないくらいの青春感を強く感じるし、その感覚を聴き手も失っていないからこそ、これだけたくさんの人がこのバンドの再始動を待っていたのだろう。
いや、正直個人的にはこんなにこの日に待っていた人たちが集結するなんて思ってなかった。6年も経てば懐かしくは思ってもライブを観にくる人はそう多くはないと。でもこの日観たこの時間の光景は、NECOKICKSがたくさんの人をライブの現場に連れ戻すことができる力を持っているバンドだということを実感させてくれた。
自分自身もグッドモーニングアメリカのコンピレーションCDや主催フェスでNECOKICKSのことを知っただけに、今年の夏にグドモもライブを行い、このバンドも戻ってきたということに偶然ではない運命めいたものを感じてしまう。そうして何年経ってもバンドが音を鳴らしてくれる限り、青春は決して終わることはないのだ。
1.1秒先の未来
2.右往左往
3.Remember
4.days of summer
5.ブルーオレンジ
6.1R
18:30〜 the engy [HALL Stage]
NECOKICKSによるBAR Stageの大混雑を抜けてHALL Stageに戻るとすでに京都の4人組バンドのthe engyが演奏中。そのサウンドはもちろん雰囲気も、この日の出演者の中では唯一と言っていい、R&Bなどのブラックミュージックを軸にしたバンドである。
しかしながら確かに境井(ドラム)による音の隙間を感じさせるようなリズムからもそうしたサウンドのバンドが持つオシャレさのようなものは確かにあれど、それでも山路(ボーカル&ギター)は汗を大量にかきながらステージを動き回って歌うというあたりはそうしたオシャレさとは対極と言っていいものであるし、サビでは藤田(ギター&キーボード)と濱田(ベース)が一気に轟音に転じたり、間違いなくロックな要素が強くあるというのは京都の先輩バンドたちやポストロックやポストハードコア的なバンドたちの影響を吸収してきたりしたんだろうかとも思う。
そうした曲をシームレスに繋いでひたすらに演奏するだけに、わずかな曲間にBenthamへの感謝を告げるだけなのであるが、その演奏している姿からその気持ちはめちゃくちゃ伝わってくるし、後半の曲はサビで一気に解放されていくかのような感覚が確かにあった。それはオシャレなだけのバンドにはない、夜や闇の向こうにある希望や光のようなコントラストを確かに感じさせてくれた。それこそがこのバンドがこの日このイベントにいた理由だと思う。
正直、オシャレなサウンドのバンドが苦手な自分としては「ああ、こういう感じか〜」とも思ったけれど、もう途中から客席のかなり前の方まで行って腕を振り上げていた。そうさせるバンドだというあたりがさすがBenthamの目利きである。
19:00〜 nolala [BAR Stage]
この日のライブのまさに前日に、12月で活動休止することが発表された、nolala。ライブを観るのが初めてであるのに、最後のライブ前としては最後の東京でのライブという重さを感じざるを得ない展開に。
しかしながらメンバー3人がライブ前にしっかり話し合うようにしてから手を合わせて気合いを入れる姿からも、
「自然と涙が出るような、感情が溢れてしまうような音楽をやるバンドだと思ってます!」
という千陽(ボーカル&ギター)の言葉からも、後ろ向きな空気は皆無。ただひたすら今この一瞬に全てをかけて燃やし尽くそうとしていることがよくわかる。
その言葉を感じさせるのは、ロックバンドのボーカルらしい千陽と、どちらかというと声優さんなどのようなキュートさを感じさせるような美寿々(ベース&ボーカル)というツインボーカルのコントラストによってシンプルなようでいてそうではない変化を見せるギターロックサウンド。その歌い分けが実に巧みであるだけに、聴いていて感情が溢れ出しそうになってしまうのであるが、実はそんな2人を支えるひなのドラムの力強さと2人をしっかり見ながらタイミングを取る献身っぷりがこのバンドの土台になっていると思う。
Benthamとは一度対バンしただけでありながらもこうして呼んでくれたことへの喜びを語るのであるが、メンバー全員がなかなか友達を作るのが苦手であり、自分たちのツアーなどにBenthamを呼ぶのも躊躇してしまっていたという千陽の言葉による人間性はそのまま曲の歌詞になっていたりするなと感じるのであるが、千陽はギターをミスったりするとめちゃくちゃリアクションを取ったり顔に出たりするのが実に面白いのであるが、最後には
「いろんな発表をして不安にさせちゃったりもしたかもしれないけど、今日で終わりにしたくない。今目の前にいるあなたを12月のワンマンに連れて行きたい!」
と、終わりが近づいていることを全く感じさせない楽しさだったライブから一転して切なさを感じざるを得なくなってしまう。でも終わる前に出会えて良かったと思ったのは、きっとそれぞれとこれから先に別の形で出会った時に、この日のライブのことを思い出すことができるからだ。それが少しでも早く訪れてくれたら嬉しいなと思う。
NECOKICKSのように戻ってきたバンドがいる一方で、止まってしまうバンドもいる。理由にはそれぞれのこれからの人生について、違う生き方を選んだ的なことが書いてあった。そうしてあっという間に止まったり、終わったりしてしまうのがバンドである。でもそんな部分も含めてやっぱりバンドが好きだし、もっといろんなバンドと出会って、後悔しなくなるくらいまでたくさんライブを観たいと思うのである。
19:30〜 The Cheserasera [HALL Stage]
もう気付いたらメインステージはトリ前という時間に。開始から8時間が経過しているが、主催者でもないのに開演時間からずっと客席で見ていたのがわかるのは、宍戸翼(ボーカル&ギター)の長身&長髪が目立つからこそであるし、Benthamへの愛である。
その宍戸がギターを掻き鳴らしながら歌う「月と太陽の日々」でスタートすると、持ち時間が短いとはいえ序盤でバラードと言っていいような「最後の恋」が演奏されるのであるが、ずっと会場にいたとは思えないくらいに宍戸の歌声は疲労感もなく実に伸びやかで、やはりこの男の歌声はロックバンドをやるためのものだよなと改めて思うくらいに記名性が強い。これだけたくさんのアーティストが出演している中でも似た声というのが全くない。
そんなバンドは会場限定シングルなどで新曲を発表しているという創作意欲の高まりを見せてくれているのであるが、その新曲の中の一つの「GUS TOKYO」は宍戸の言う通りのロックチューンであり、美代一貴(ドラム)と西田裕作(ベース)によるリズム隊は派手さこそないが、スリーピースのギターロックバンドかくあるべきというお手本のように最小の編成で最大限のカッコよさを生み出しているし、最近は宍戸の弾き語り(この後に出る佐々木亮介ともよく共演している)を聴く機会も増えているけれど、やはりその歌声はこうしたバンドでのサウンドでこそより映えると思う。
そんな宍戸はこの「FASTMUSIC CARNIVAL」の意味について小関に聞いたといい、
「転換とかなしにファストフードみたいに次々にアーティストが出てきてライブが観れる」
と説明し、ファストフードの代表的存在であるマクドナルドを引き合いに出して
「みんな、マクドナルドのメニューで何が好き?俺はビッグマックかな。コスパ最強だから。5個は軽くいけるけど、それだと普通だからロックに10個はいけるって言っておこう(笑)」
というよくわからない自己紹介をするのであるが、後でBenthamのライブ時に小関に「一応説明したけど、意味が違う(笑)」と言われてしまっていた。
そんなバンドのもう一方の新曲はもうタイトルが全てを表していると言ってもいいような「君がギターを弾かないなんて」であり、もちろんそれはやめてしまったバンドマン、ギタリストに向けてのものである。宍戸が誰のことを思って書いたかまでは知らないけれど、この曲で歌っていることは好きなバンドが解散、休止、メンバー脱退をした経験がある人なら誰にだって当てはまる曲だ。つまりは宍戸はロックスターでありながらも我々と同じ目線や視点を持って曲を作っているということ。
そんな曲の後に演奏された「賛美歌」はやはりどうしたってこの日このイベントを作ったBenthamに向けられているようにしか聞こえなかったのであるが、こうしてじっくりバンドとしてのライブを観ると宍戸はめちゃいろんな方向の観客をしっかり見ながら歌っている。だから何回も目が合うような感覚があってドキッとするのである。
そして最後に演奏されたのはバンドの持つ獰猛さが音や演奏する姿に現れる「I Hate Love Song」であり、もちろんタイトル通りに皮肉や捻くれた心境もそこには含まれているのだけれども、ただただその鳴らしている音や発せられるオーラが、このバンドがこんな出演者たちの中でトリ前を務めるべきバンドであるということを示していたし、一度止まってしまってもまた走り出すことができるという勇気を我々に伝えてくれている。
1.月と太陽の日々
2.最後の恋
3.GUS TOKYO
4.君がギターを弾かないなんて
5.賛美歌
6.I Hate Love Song
20:00〜 佐々木亮介 [BAR Stage]
様々過ぎる形態のアーティストたちが出演してきたこのBAR Stageもいよいよトリ。弾き語りという最もこのステージにふさわしい形でトリを務めるのは、小関がBenthamを組む前からの知り合いである、a flood of circleの佐々木亮介である。
黒の革ジャンを着た佐々木亮介がステージに登場すると、
「じゃあオゼが1番好きだって言ってた曲を」
と言って、アコギの弾き語りというこの曲においては実に珍しい形で「世界は君のもの」を歌うのであるが、亮介1人しかいないはずなのにめちゃコーラスを重ねている人がいるなと思ったら、それは亮介が曲中に何度も
「オゼー!」
と名前を口にしていた、Benthamの小関その人で、最後のサビでは亮介が小関を呼んで肩を組むようにして一緒に歌うといういきなりのコラボに。というかBenthamは自分たちのライブの準備があるために、亮介のライブを観ることができるのはこの最初の時間だけだったのだろう。最後の「Oh Yeah」も「オゼ」に変えて歌うくらいのオゼバージョンである。
「めちゃくちゃ良い曲やるけど、スピッツの曲だから(笑)」
と前置きして始まったのは「夢追い虫」のカバーであるのだが、どこか脳内で勝手に「その日まで」のコーラスフレーズが浮かんでくる中、亮介はこうして弾き語りの時はよくスピッツのカバーをするが本当に歌い慣れている感が凄いし、それはBenthamの辻と
「いつかスピッツのカバーバンドやりたいよね」
という話をするくらいである。しかしながら
「そういうのって叶わないことの方が多いからね」
と言って、弾き語りだとより切なさとメロディの美しさが強調されるような「くたばれマイダーリン」を歌うのであるが、是非とも同じスピッツファンとしてはそのカバーバンドをやって欲しいと思う。
「LOFTは俺たちもずっと昔からお世話になってるし、ライブ以外でもよく来てるのね。それはここで何回も葬式やってるから。だから皆さん、出ますよここは(笑)」
と笑いも交えながらしんみりするようなことを言うのがまた実に亮介であるのだが、そんないなくなってしまった人の思いを込めるようにして「人工衛星のブルース」を歌う。
「あなたがここにいてほしい」
と優しさを感じさせるように穏やかに歌う亮介はいったい誰の葬式でこのLOFTに来たりしていたんだろうか、とそんなことを思ったりしてしまう。
そしてあっという間に最後の曲になったのは、Benthamに捧げるようにして歌われた「Honey Moon Song」であるのだが、亮介はマイクスタンドの前まで出てきてアカペラで歌う場面も何度もあった。それがやっぱり心に突き刺さるように響いて震えてしまう。やっぱり亮介は凄まじいシンガーだというのが、弾き語りを見ればわかるのである。
亮介も
「オゼの昔のバイトも知ってるし、当時の俺のガールフレンドも知ってる(笑)」
と言っていたが、かつてフラッドが「2days同じバンドと2マンする」という企画を新代田FEVERで開催した時にそのバイトのことも明かされていた。それくらいに昔からの付き合いだからこそ、Benthamはその日にフラッドの「The Beautiful Monkeys」をカバーするという形で愛を表現していた。それを今も鮮明に覚えているからこそ、次に開催する時にはメインステージのトリ前はフラッドでよろしくお願いします。
1.世界は君のもの w/ 小関竜矢 (Bentham)
2.夢追い虫 (スピッツのカバー)
3.くたばれマイダーリン
4.人工衛星のブルース
5.Honey Moon Song
20:30〜 Bentham [HALL Stage]
ずっとライブを観続けていたら、9時間にも及ぶ長丁場もあっという間にトリ。メンバー自身も出演アーティストのライブを観て、物販を販売していたBenthamがいよいよこの日を締めるべくステージに立つのである。
メンバーがステージに登場すると、1曲目はTOKYO CALLINGの時にも演奏されていた「And」からスタートするのであるが、他の出演者から「疲れている」といじられていたとは思えないくらいにメンバー全員がこの段階から実にエネルギッシュで、特に小関竜矢(ボーカル&ギター)は早くも汗を飛び散らせながら、その持ち前のハイトーンボイスを思いっきり振り絞るように出している。その声量の大きさは驚いてしまうくらいであるが、本人も普段よりも声が出ているという感覚があったりしたのだろうか。
須田元生(ギター)も辻怜次(ベース)もガンガン前に出てきて観客を煽るようにして「APOLLO」を演奏するのであるが、須田のコーラスや掛け声の気合いの入りっぷりもまたいつも以上の力強さを感じさせる中、この日は衣装のパンツにこだわったという割には色合いが地味な鈴木敬(ドラム)のリズムに合わせて観客が手拍子をするのはバンドの代表曲の一つと言ってもいいアンセム「パブリック」であり、やはり須田も辻も前にガンガン出てきて、辻はピョンピョン飛び跳ねるようにしながらベースを弾く。ドラマチックアラスカのヒジカタには「いつもより老けてる」といじられていたが、ステージに立つとやはり本当に少年のようですらあるし、そうした姿が我々をより楽しくさせてくれる。曲後半には一気に轟音になり、メンバーが頭を振るようにして演奏するのもまたライブで演奏されるたびに進化してきたこの曲の今の形だと言えるだろう。
すると最初は
「こんなんもう二度とやるか!」
と言っていた小関も
「次は20組でやるから(笑)」
と、さらに1組増やす意向を口にしたのは、この日実際にやってみて確かな感触を得ることができたからだろう。辻は「え〜」と言っていたが、須田は
「もう1組くらい増えたって変わらないよ」
と実にポジティブである。
音源や今までのライブでは軽やかな疾走感を感じさせてくれていた「Undulate」にどっしりとしたロックバンドの重みや風格を感じるのはこの日を走り切った後のライブだからかもしれないが、 Bentham流の聴き手の体が動くようなバラードと言っていい「夜明けの歌」はサビで
「当たり前に飛んじゃって
僕のせいにしてくれよ」
というフレーズが繰り返されるのであるが、それはこの日だけは「おかげ」と思うことはたくさんあれど、「せい」なんて思うことは何もないんだと思える。それくらいに幸福な感覚をこの日のこの曲からは確かに感じていた。
そして小関はThe Cheseraseraの宍戸が言っていたこのイベントのタイトルについて
「俺たちの音楽が消費されているような感覚があった。だからファストフードみたいにならない音楽というか…。まぁマクドナルドも美味しいし、また考え方は変わるかもしれないけれど」
と自身の口でしっかりと言葉にしたからこそ、「僕から君へ」の疾走感の上で歌われるキャッチーなメロディが、確かにバンドから我々へのものとして響いていたのであるし、明らかに客席の盛り上がりがやはりこの日1番と言えるものになっている。それくらいにこの日のBenthamのそもそものライブが本当に素晴らしかったのだし、それはコーラスフレーズで観客も合唱をしながら、辻が誰よりも高く飛び跳ねまくりながら演奏する「クレイジーガール」へと繋がっていく。やはりこうした日の締めくくりにふさわしい、これぞBenthamというセットリストを、今の最強な状態で鳴らしている。だからこそこんなに我々観客や、この日出演したミュージシャンたちもがこんなに楽しそうな表情をしてライブを観ているのである。
「今日はまた、夢でも会いましょう」
と言って最後に演奏されたのは「TONIGHT」。実はa flood of circleに影響されているという意味でも自分にとっては思い入れが強い曲であるが、そんな曲が明らかにさらに速く激しくなっている。何よりも起きてから何時間経っているんだろうと思えるような状態での小関の高らかな歌唱。本当に、夢でも会いたいと思うくらいに幸せな時間だった。それはこのライブ自体も、この日1日も。
アンコールではメンバー自らが販売していた物販を、
「今日しか売れない商品なので(笑)」
と小関が着用してアピールすると、本当に最後の最後に演奏されたのはバラード曲「アルルの夜」だった。決して盛り上がるような曲ではない。だからこそ、伝えたい思いが本当にダイレクトに、刺さるように伝わってきた。それはまたこうした夜が必ずやってくるということも。今までに観たことがなかった、主催フェスでの Benthamのライブは、今まで観てきたどのライブよりも素晴らしかった。
それは10-FEETにおける京都大作戦、フォーリミにおけるYON FESなどのアーティスト主催フェスで証明されてきたように、やはりそうした場で主催バンドがどこよりも素晴らしいライブを見せてくれるのは、この日を一緒に作ってくれた出演者や観客の力がバンドのものになってるから。規模的にもその力の純度の高さは最高レベルとすら言えるフェスだったが、またこの出演者たちでもっと大きなところでこのフェスをやりたいとも口にしていたらしい。
Benthamならきっとできる。バンドとしてもっと上まで必ず行ける。このライブを観たらそう思わずにはいられない。アーティスト主催フェスのもう一つの力は、参加する前よりも参加した後の方がそのアーティストを好きになれるということ。元から好きだったBenthamが、もっと好きになった。また来年になるのかわからないけれど、必ず行くから是非またよろしく。
1.And
2.APOLLO
3.パブリック
4.Undulate
5.夜明けの歌
6.僕から君へ
7.クレイジーガール
8.TONIGHT
encore
9.アルルの夜
メンバーの目が行き届く規模感の小ささもあるだろうけれど、最初は新宿LOFTの規模で長時間はキツいなとも思っていた。でも終わった時には「もう終わってしまった…」と思うくらいにあっという間だった。ソールドアウトはしているけれど、入れ過ぎない人数、ライブにおいてはあまりにコスパが良すぎる飲食など、小さい規模だから作れるものがたくさんあったし、やはりライブハウスで生きてきたバンドのフェスはライブを観ていて本当にカッコいいと思えるライブばかりだった。だからこんなにもあっという間だったのだ。
物価高騰ばかりのクソみたいな世の中に逆行するようなチケット代や物販、飲食のあまりの採算度外視の安さには逆に心配になってしまうけれど、だからこそこのフェスはBenthamにしか作れないものだった。至らないところがあるかもとメンバーは思っていたかもしれないが、あらゆるフェスに参加してきた自分としても本当にマイナスに思う部分が全くないフェスだった。この日、第一回のこのフェスにいれたことをのちに自慢できるようになりますように。いや、間違いなくそうなっていくはずだ。
全18組が新宿LOFTと、その敷地内のbar stageに出演するという被りなしの2ステージのタイムテーブルによるフェスとなっており、イベント公式グッズは何とBenthamのメンバーの手売りとなっているので、ライブ開始前に須田元生(ギター)と鈴木敬(ドラム)が販売しているTシャツとタオルを購入。ちなみにTシャツは2000円という今のクソみたいな物価高の中では信じられないくらいの破格っぷりである。
11:30〜 青はるまき [HALL Stage]
このフェスの始まりを告げるのは静岡のバンド、青はるまき。なんでこんなバンド名なのかというところが気になるところであるし、メンバーチェンジなどによって、あきやまさる(ボーカル&ギター)、花房(ベース)の2人になっており、ギターとドラムはサポートメンバーを加えての4人編成に。
やはり新宿LOFTのステージということによって若干の緊張感も感じさせる中であるが、疾走感のあるギターロックからダンスロック、さらにはあきやまが弾き語りでも活動しているということが、アコギを弾きながら歌っている姿から実によくわかるような、キーボードの同期を使ったバラードなど、バンドの持ち得る要素を全てこの持ち時間で使っていくのであるが、そうして同期のキーボードのサウンドを使っているのは元々はメンバーにキーボード担当がいたからこそだろう。後でメンバーたちの会話を聞いていたら、今はそのメンバーとは連絡が取れなくなっているらしいけれど。
あきやまはバンドでのライブと弾き語りでの2回だけ一緒になったことで、Benthamがこうしてこの日に呼んでくれたことへの感謝を語るのであるが、その口調もやはり緊張感を隠しえないというくらいに間延びしていたのであるが、それも仕方ないところだろう。
ちなまにあきやまはこの日LOFTのバースペースの飲食で麻婆丼などのメニューを出していて(ライブ出番前まで仕込みをしていて大変だっただけに、断ればよかったと後悔していたそう)、実際に後で食べたらめちゃくちゃ美味かったし、700円とは思えないほどボリュームがあって、いわゆるフェス飯というやつで感じがちな物足りなさが皆無だった。なんなら全ての飯の飲食がこのコスパとクオリティであってほしいし、外に出て食べるよりもはるかにお得だったと思っている。
12:00〜 初恋モーテル [BAR Stage]
LOFTがイベントで2ステージ組めるのはこのLOFT BARをステージとして活用できるからである。ということで、このBAR Stageのトップバッターは初恋モーテル。名前は知っていたが、ライブを観るのは初めてのバンドである。
メンバーの髪色が4者4様なのがそのまま見た目の覚えやすさと個性になっており、ワカメケイナ(ボーカル&ギター)は赤、筒井翔平(ギター)は金、五十嵐がんば郎(ベース、この名前で合ってるのか)は緑、そしていだてん(ドラム、やっぱりこの名前で合ってるのか)は黒という中、ファンクなどのミクスチャーからハードロック、メタル、さらにはパンク(客席で観ていたBenthamの小関がいだてんの突っ走るようなツービートを聴いて爆笑していた)と雑多な音楽性を1曲の中に混在させるという独特のサウンドで、それは演奏技術が高いからこそできることだよなと思っていたら、全身を使ってグルーヴを生み出す五十嵐、カッティングから轟音まで自由自在な筒井、そしてまだ早い時間であるだけに寝ている脳内をその力強いビートで叩き起こしてくれるかのようないだてんのドラムと、めちゃくちゃメンバーの演奏が上手い。
特にいだてんのドラムはこの普段はアコースティックのライブが行われるイメージが強いBAR Stageの音響と、おそらくはLOFT備え付けのドラムセット(バスドラのプリントにLOFTと書かれているし、このステージの出演者はみんなそのセットを使っていたから)を使っているとは思えないくらいに凄まじい。個人的には黒髪に髭というワイルドな出で立ちから、RIZEの金子ノブアキに通じるスーパードラマーらしさを感じていた。
そんな爆音かつ凄腕のメンバーに負けないような歌唱を響かせるのがワカメケイナのボーカルなのであるが、そのロックバンドのボーカルをやるために持って生まれたかのような歌声はこのバンドの記名性の強さに間違いなく繋がっているし、あらゆるサウンドを乗りこなす器用さも持ち合わせている。最初はサングラスをかけていたが、後半は外して素顔になるというのもどこかセクシーさを感じさせる。
そうしたライブパフォーマンスと楽曲の完成度からしても、この小さいステージのトップバッターとは思えないくらいの存在のバンドだったのであるが、そのライブの凄まじさだけでも「またじっくりライブハウスでライブを観てみたいな」と思ったのであるが、12時半にライブを終えながらも、すぐに帰るのではなくてメンバー全員が夜の最後までずっと出演者のライブを観ていた。それは音楽を聴く、ライブを観るのが好きじゃなければできないことだ。自分自身がそうしたタイプの人間だからこそ、同じようにずっとライブを観ているこのバンドのメンバーがさらに好きになった。またすぐにライブハウスに会いに行きたいと想うくらいに。
12:30〜 サイダーガール [HALL Stage]
この日の出演者には何年かぶりにライブを観るようなバンドたちもいる。その先陣を切るのが、今やなかなかイベントなどには出演しないイメージのある、サイダーガールである。
爽やかな長身とエモーショナルなギターが持ち味な知が活動を休止しているだけに、ギターとドラムにサポートメンバーを加えた4人編成で登場すると、かつてライブ活動始めたてで各地のフェスなんかにもよく出演していた2018〜2019年頃(多分、自分が最後にライブを観たのは2019年に静岡の清水で開催された、マグロック)から比べると、当時は少年のような出で立ちだったYurin(ボーカル&ギター)が少し大人びたというか、体がデカくなったり、サングラスをかけているからそう感じるようになったのかもしれないと思う。
しかしながらフジムラ(ベース)とサポートギターはガンガン前に出てきて演奏するというアグレッシブさを見せると、「エバーグリーン」「飛行船」という爽やかなギターロックサウンドの曲によって一気に会場の空気はこのバンドの持つ蒼さに染まっていく。客席前方にはこのバンドのタオルを持った人がたくさんいるのも、そう多くはないライブの機会を見逃さないようにしたいという表れだろう。
するとYurinがハンドマイクになって、同期の音も使いながら歌うのはテーマや歌詞までもがユーモアに富んだポップな「来世はねこ」であり、そのYurinハンドマイクの流れはフジムラがシンセベースを弾くことによってデジタルサウンドの要素が強くなる「シンデレラ」へと繋がっていくのであるが、その辺りは元々ボカロPとしても活動してきたYurinのバンドだからこその幅広さであると言えるだろう。
フジムラはもう7〜8年来の付き合いであるBenthamからのオファーであるが故に、今回このイベントの出演を決断したと語っていたが、やはり今このバンドはそうしてワンマン以外は考え抜いた上で出演するという方針なのだろう。
だからこそこのライブがより貴重なものに思えるのであるが、Yurinの歌唱はやはり少し高音や張り上げる部分で不安定に感じる部分もあっただけに、もうちょっとライブを重ねるようになれば変わるんじゃないかとも思うのであるが、ラストの「約束」から今年リリースされた新作EPのタイトル曲である「Bluebell」という、新旧のバンド名のように爽やかさが弾けるようなギターロック曲でフジムラとギタリストがアグレッシブに前に出てきて演奏する姿は、バンドじゃなくても音楽家として生きていける手段があるYurinが、それでも今もなおこのバンドを続けている理由が滲んでいた。それはバンドじゃないと放出できない衝動が確かにあるということ。それがある限り、またどれだけ年月が空いたとしても会える日が必ず来る。バンドが音を鳴らす場所はこうしたライブハウスであるからだ。
1.エバーグリーン
2.飛行船
3.来世はねこ
4.シンデレラ
5.約束
6.Bluebell
13:00〜 irienchy [BAR Stage]
これだけ出演者が多いとはじめましての出演者もたくさんいる。ということでライブ観るのも曲を聴くのも完全に初めてなのがこのirienchyである。
編成としてはシンプルな4人編成のロックバンドなのであるが、ギターアンプの上に思いっきり「入江」という表札が置いてあるのが気になっていると、そのギタリストの諒孟が低いステージから降りて客席の中に入ってギターを弾きまくる。シンプルなサウンドではあるが、ゆーま(ベース)ときょうへい(ドラム)はモータウン的なビートを刻んでいたりと、メンバーの素朴そうな人柄がその音楽には出ているし、昔のdustboxのSUGAを思わせるような金髪のそう(ボーカル&ギター)はあらゆる方向の観客をしっかり見て目を合わせるようにしながら歌っている。そこには自分たちの思いや音楽を目の前にいるあなたにしっかり届けたいという思いが確かに感じられる。
とはいえこのユニークな、というか意味がよくわからない単語である「irienchy」というバンド名の由来はなんなんだろう?と思っていたら、
「ギターの入江さんの家で結成されたから、入江ん家(irienchy)」
という身も蓋もない理由であることが明かされ、その入江こと諒孟はアンプの上に置いてある表札を掲げたりするのであるが、最新曲「最強のぼっち!」にもその聴く人を後押ししたいという気持ちが現れているし、そうのMCは福岡出身ということでどんどん博多弁が前面に出るようになっていく。そこにはカッコつけたりとかではないありのままの自分たちをステージの上で出すという意識があるのだろうし、だからこそ最前でバンドのタオルを持ってライブを見ていたファンの女性に目を合わせて歌ったりという形で感謝を示すのだろう。
そんな穏やかで朗らか、でも真っ直ぐで熱い人間性がそのまま音楽やライブに出ていたバンドであるが、このバンドも早い時間のライブにも関わらず、最後の最後まで会場に残ってメンバーがいろんなバンドを観ていた。ライブの感想をツイートしたらすぐにそうがフォローしてくれただけに、少し挨拶でもすれば良かったとも思っていた。
13:30〜 NITRODAY [HALL Stage]
ライブを観たことはないけれど、曲はすでに結構聴いているという自分内立ち位置のバンドである、NITRODAY。まだめちゃくちゃ若いバンドである。
メンバー4人が轟音を鳴らすというオルタナサウンドはこの日の出演バンドの中ではかなり異質であるが、小室ぺい(ボーカル&ギター)、やぎひろみ(ギター)、松島早紀(ベース)の3人は若さ相応のあどけない表情をしているのに対し、岩方ロクロー(ドラム)だけは体がデカいこともあってかどこか貫禄のようなものも感じさせるというか、1人だけかなり年上に見える。
しかしながら長い黒髪を靡かせてクールな立ち振る舞いでありながら、トレモロアームも駆使して轟音を鳴らすやぎのギターがとんでもなくカッコいい。アニメ「ぼっち・ざ・ロック」の影響でギターを買う人が増えたという話は聞いているが、そうした人たちに是非このバンドのライブを観て、このギターを聴いて欲しいと思うくらいに、ギターってなんてカッコいい楽器なんだと思わせてくれること請け合いなくらいの凄まじさ。
そこに金髪が映える松島のハイトーンコーラスが曲にキャッチーさを与えていくのであるが、MC一切なしでひたすら轟音を鳴らしていただけに、Benthamとの関係性もあまりよくわからない中で小室が時間を確認してから最後に演奏された
「不甲斐ないな」
のリフレインがやはり音の洪水のような轟音ギターとともに響き渡る「レモンド」で小室は叫ぶようにして歌う。それはこの音楽じゃないと吐き出せないものがあるというように。
正直言って流行るような要素が1ミリもない音楽である。世界的に流行ってる音楽の要素を取り入れたりということを全くしていない、90年代後半のグランジブーム真っ只中のアメリカからタイムスリップしてきたかのような。
でも合わせていないということは、自分たちがやりたい音楽だけをひたすら貫いているということ。どうすれば売れるかというのではなくて、その軸がこんなにしっかりしていて、音が凄まじくカッコいい若手バンドがいるということにこの上ない希望をもらったような感覚になった。
14:00〜 Calm Law [BAR Stage]
BAR Stageのバンドの機材の前にはDJ的な機材が設置されており、そこに立つのは黄色いニット帽を被った男性。てっきりバンドしか出演していないのかと思いきや、このCalm Lawは単独でのエレクトロミュージックアーティストである。
ビートとともに煌びやかな音も発しながら、本人が「新宿LOFT」「FASTMUSIC CARNIVAL」などのこの日の会場やイベント名などをその場で重ねていき、さらには
「楽しんでますかー!」
と叫んだりしながらビートや音量を調整していくのであるが、誰よりも自身の音に合わせて頭を振ったりして楽しみながらも、その膨大なツマミなどを繊細に操作して音を変化させていく。
そうした演奏だけかと思ったら、ステージ前の椅子にマイクを置いて、自身は卓の上から長い竹の棒のようなもの(楽器の名前がマジでわからない)でそのマイクに向かって声を吹き込むようにしたりという、なかなか見ないというか見たことがないようなパフォーマンスを見せてくれる。
しかし観客と会話でコミュニケーションを取るようにしながらも、客席で見ていたBenthamの小関に
「あと8分だよ!時間押さないでね!」
と言われていたのには笑ってしまった。何よりもバンドだけではなくてこうした音楽性のアーティストとも交流があるBenthamの交友関係の広さ、音楽的な素養の広さは凄いなと改めて思った。どこでどうやってこの人と知り合ったのかが気になったけれど。
14:30〜 Panorama Panama Town [HALL Stage]
この辺りからは普段からライブを観ているようなバンドも続々登場する。おそらくはライブを観ている回数で言うならこの日の出演者でもトップクラスと言えるPanorama Panama Townである。
なので見慣れてるバンドでもあるのだが、メンバーがステージに出てきて驚いてしまったのは、岩渕想太(ボーカル&ギター)が長くなった髪を後ろで結いているという姿に変わっているからである。ちなみに岩渕はギターも変わっているという新モードとなっている中、浪越康平(ギター)が細かくギターを刻む「King's Eyes」からスタートすると、
「最低な夜にしましょう(笑)」
とタイトルに合わせて自虐的に口にして「Bad Night」へ。クールなダンスロックという近年のモードでもあるのだが、サポートドラマーのオオミハヤトがメインコーラスを務めていたりと、その存在感は完全にサポートの域を超えているというレベルであるし、「100yen coffee」でのタノアキヒコ(ベース)の体全体を使ってグルーヴを生み出すようなリズムも含めて、完全にこの4人だからこそ生み出すことができるバンドのロックサウンドである。
さらには岩渕の艶のあるボーカルがトーン低く歌われるかと思いきや、タイトルフレーズで一気に高らかに響く「Faceless」、さらには新しい挑戦をしてきたBenthamに捧げるように演奏された「Knock!!!」と続くと岩渕は
「さっきオゼ君に会ったらもうバテてました(笑)」
と舞台裏のBenthamメンバーの様子を伝えてくれるのであるが、そこに
「俺たちもBenthamもずっと走り続けてきた」
とエールを加えるようにして配信でも先行リリースされた、今年リリースの最新アルバム「Dance for Sorrow」収録の「Run」を演奏するのであるが、その悩み迷いながらも走るしかないという歌詞は、まさにそうしたことがたくさんありながらも続いてきたであろうパノパナとBenthamに向けられているものだからこそ説得力があるし、どちらのバンドもこれからもずっと走り続けて欲しいと思える。
そんなライブのラストに演奏された「Strange Days」はオオミによる均一なビートが実に心地良くも、サビでは浪越とタノも一気にグルーヴを解放し、そこに岩渕の歌唱が乗る。その歌詞が
「消えかかってた衝動
閉ざしてた心
抑えようとしたって何度も湧き上がって」
というものであるというのが、きっと何度もそうした場面を経験してきたであろうBenthamに向けられたものであり、だからこそ最後に演奏したのだろう。
何よりも自分はこのバンドを「グルーヴの化身」的なバンドだと思っているのだが、それがこのたくさんのバンドが出演するようなフェスやイベントだとよりわかる。今年はVIVA LA ROCKにも出演していたけれど、またそうした大きな場所でこのグルーヴを響かせれば、昔よりもこのバンドのカッコよさに気付いてくれる人がたくさんいると思っている。
1.King's Eyes
2.Bad Night
3.100yen coffee
4.Faceless
5.Knock!!!
6.Run
7.Strange Days
15:00〜 愛はズボーン [BAR Stage]
最近はGIMA☆KENTA(ボーカル&ギター)のおめでたいニュースでも話題になった大阪の4人組バンド、愛はズボーン。そうした話題性ではなくてライブの楽しさがしっかり伝わってきているからこそ、BAR Stageはこんなに人いたのかってくらいに満員になっている。
先に短い金髪が少し厳つく感じられる金城昌秀(ギター)、白井達也(ベース)、富永遼右(ドラム)の3人が登場して、金城が挨拶しながら演奏を開始すると、素肌に白いジャケットで胸元をはだけさせたスタイルがインパクト抜群なGIMAもステージに登場して、バンドの自己紹介ソング的な「愛はズボーン」を演奏すると、途中でメンバー紹介を挟んだかと思ったら、ステージから消えていたGIMAが大量の風船を持って戻ってきて、Bentham小関とともに客席に撒き散らすといういきなりのやりたい放題っぷり。それがこのBAR Stageという距離の近さも相まってホームパーティのようにすら感じられるのはバンドと観客の精神的な距離の近さということもあるだろう。
しかしながらだいぶ前にライブを観た時(確か見放題東京編)は「シュールな曲を演奏する大阪の兄ちゃんたち的なバンド」というイメージだったのだが、この日観てそのイメージは一変した。金城の掻き鳴らすギター、見た目が普通過ぎてこのバンドの中では逆に浮いている白井のうねりまくるベース、そしてバンダナを頭に巻いて絶えず笑顔で叩く富永の演奏がグルーヴの塊的なものに進化しているし、そんな曲を1番前で歌うGIMAのカリスマ的なオーラ。完全なるロックスターのそれは前に観た時とは全く違うものである。
するとGIMAは曲中にマイクスタンドごと客席に突入して歌うと、
「みんなでぐるぐる回ろうぜー!」
と言って、マイクスタンドの周りを自身が先導するような形で観客とともに走り回り、
「ありがとう兄弟!」
と言って一緒に走り回っていた観客たちとハイタッチしながらマイクスタンドごとステージに戻っていく。そのパフォーマンスは面白くもありながら、観ていて、参加していてめちゃくちゃカッコよく思えたし、この会場の空気をこのバンドのものに完全に塗り替えていた。
自分がもしバンドマンだったら。大阪にライブをしにいく時にこのバンドがいてくれたら、めちゃくちゃ頼りになるアニキ的に感じられるだろうなと思った。ただ面白いだけじゃなくて、そこにバンドとしての強さが備わっている。紛れもなく愛はズボーンはロックスターと言っていいバンドになっていた。
1.愛はズボーン
2.Z scream!
3.アナコンダ
4.MAJIMEチャンネル
5.ひっぱられる
15:30〜 MARSBERG SUBWAY SYSTEM [HALL Stage]
個人的に今年ようやくライブを観れて嬉しかったバンドの一つが、古川貴之(ボーカル&ギター)が新たに始動させたこのMARSBERG SUBWAY SYSTEMである。決してライブ本数が多いわけではないし、あんまり(というかほとんど)フェスなんかにも出るようなバンドでもないだけに、こうしてこの日観ることができるのが実に嬉しい。
古川は柄シャツ、松本翔(ギター)と鈴木勇真(ベース)はスーツ、金髪の岩中英明(ドラム)は白のYシャツ姿という出で立ちでメンバーが登場すると、いきなりバンド名がタイトルになっているという意味でもこのバンドのサウンドを示すような「MARSBERG SUBWAY SYSTEM」の鋭いロックンロールが鳴らされると、松本のギターがキャッチーに響く「金星」、さらには全英語歌詞で古川によるどこかヒップホップなどの要素をも感じさせる歌唱による「walking dude」と次々に曲が演奏されていく。古川のロックンロールを歌うために持ち合わせたような歌唱はもちろん、その出で立ちも含めて「ロックバンドってなんてカッコいいんだ」と思わせてくれるようなメンバーの演奏も実に力強い。
それは古川がサビで一気に声を張り上げ、岩中が連打するドラムの音がやはり力強さをもって響く、鈴木も含めたリズムがどこかパンク的ですらある「廃棄物の月」もそうであるが、古川のロマンチックさがこうした曲や「辻斬り惑星」というような曲には溢れ出している。そのサウンドと歌詞のコントラストこそが変わらぬ古川のロックンロールでありバンドであると感じさせてくれる。
その古川がBenthamと前に対バンした際に、ドラムの鈴木が体調不良で出れなくなり、ほかの出演バンドのドラマーが代わる代わる演奏し、それによって出演者たちの結束が強くなってより良い日になったという実に素晴らしいエピソードを語る横で松本は足元のエフェクターに明らかに異常が発生している様子でスタッフとともに調整しているのだが、
「Benthamへの想いが熱すぎて足元系がショートしちゃった!」
と、エフェクター類が使えなくなってしまい、古川はその修復作業中に
「チャールズ・チャップリンがいかに素晴らしい表現者であり優しい人か」
ということを語るという映画大好きな一面を感じさせてくれるのであるが、結局エフェクターは治らずにアンプにそのまま直でシールドをブッ刺してラストの「0.14パーセントの星屑」を演奏するのであるが、アンプ直ということでキャッチーなギターリフを持つこの曲も完全なるロックンロールサウンドになるのであるが、
「そよ風の中に打たれて
その胸に水色のブローチ」
というフレーズなどはライブハウスでも、いや、この4人がそれぞれこのバンドを始める前から生きてきた場所であるライブハウスだからこそ、聴いていてその情景が脳内に浮かんでくる。
最後のキメで古川はドラムセットに足をかけてから思いっきりジャンプしていたけれど、そのカッコよさに見惚れながらも、ギタートラブルが起きて予定していたセトリから削った曲がどの曲だったのかということが気になりまくっていた。
1.MARSBERG SUBWAY SYSTEM
2.金星
3.walking dude
4.廃棄物の月
5.辻斬り惑星
6.0.14パーセントの星屑
16:00〜 ZARIGANI$ [BAR Stage]
このBAR Stageにセッティングされているドラムセットの向きが、下手側に向き合うように変わっている。それはベース&ボーカルのEriとドラムのMizukiという最小編成によるロックバンド、ZARIGANI$(ザリガニダラー)のセッティングだからである。もう活動歴は20年近く、自分が学生時代から存在を知っているバンドである。
しかしながらライブを観るのは初めてなので、当時のイメージからすると2人ともキャリアを重ねたなと思ったりするのであるが、だからこそ完全にやることが定まっているというような爆音のロック。Eriはサウンドチェックにかなり手間取っていたし、実際にベースをリズム楽器だけではなくてメロディ楽器としてもエフェクターなどで音を変えながら演奏するだけに機材トラブルが多いバンドであるとも本人も口にしていたが。
「愛はズボーンの時にいた人たちはどこに行っちゃったのかな?(笑)」
と自虐的に笑わせながらも、観てくれている人たちを自分たちの近くに招くのであるが、手数も力強さも凄まじいドラマーであるMizukiもその際には実にフレンドリーさを感じさせるのであるが、何よりもやはりこのリズム隊と呼ばれる2つの楽器だけでバンドとして成立するアイデアと技術の凄まじさたるや。ついついEriの足元に広がるエフェクターの山にも目がいってしまうのであるが、それを操作して切り替えて演奏しながら歌ってもいるのだから、本当にとんでもないバンドである。
最後にはザリガニというバンド名らしく両手でピースを作るコール&レスポンスを観客と繰り広げながらも、Eriがマイクを持って客席に降りると、目の前にいた女性の観客にマイクを持たせてそこに向かって歌うという観客も一体となったパフォーマンスを行う。その全てが絶対にこのバンド、この2人でなくてはできないものであり、衝撃度という意味ではこの日トップクラス。名前と存在だけを知っていた学生時代から、今までずっとバンドを続けてきたことに心から感謝。だからこの日ついにこうして出会うことができたのだから。
16:30〜 シナリオアート [HALL Stage]
久しぶりにライブを観るバンドの2組目。かつてはKANA-BOONとスプリット盤をリリースしたり(後にベースのヤマシタタカヒサはKANA-BOONのベース不在時のサポートも務めた)、大型フェスなどにも出演しまくっていたスリーピースバンド、シナリオアートである。ライブを観るのはおそらくコロナ禍になる前の新木場STUDIO COASTで行われたイベント出演時以来だろうか。
上手にドラム&ボーカルのハットリクミコ、下手にボーカル&ギターのハヤシコウスケ、中央奥にヤマシタという立ち位置は変わらないが、そもそもずっとメンバーが変わっていないのが凄いなと思いながらも、「ブルースメル」でハヤシが暴れるようにして轟音ギターを鳴らしているのを見て、変わらないままで変わったなと思った。それは大手事務所などから離れて独立してからもずっとライブをやり続けて生きてきたということがその姿や音から確かに伝わってくる。
嬉しい選曲となるのは自分がライブを観ていた当時から演奏していた「ホワイトレインコートマン」であるのだが、ハヤシとハットリの掛け合い的なボーカルも実に力強さを増している。だからこそ「ファンタジックなポップ」というイメージよりもはるかに「ロック」を感じるし、それはダークな世界観の歌詞をもキャッチーに響かせることができる「スーサイドスポット」も同様である。
そんなバンドは今ちょうど独立してから5周年ということで、独立して1年のBenthamに先輩としてエールを送りながら、自分たちだけでバンドを動かすことの大変さとやりがい、楽しさをも口にする。間違いなく今のこのバンドから感じられる逞しさはそうした活動背景によるものもあるだろう。
しかしハヤシはまだあと2曲あるのに思いっきり最後の曲のイントロを弾こうとしてハットリに突っ込まれるという変わらぬ天然っぷりを感じさせながら、言葉遊び的な歌詞とタイトルが実に面白い「アイマイナー」を静謐なギターのイントロに変えて鳴らす。ハヤシはかなり前髪が伸びていて表情は見えなかったが、間違えた時にどんな表情をしていたのだろうか。
そして最後に演奏された「シーユーネバーランド」はメンバーがBenthamに向けていた。それはまたこうしてバンドが作ってくれた夢のような国で会おうという共闘を約束するもの。シナリオアートの曲は脳内に映画や絵本のような情景を思い浮かばせてくれるが、この曲だけは違った。今も戦い続けているバンドたちのこの先を思い描かせてくれた。アウトロでのハヤシとヤマシタの暴れるような演奏も、ハットリの叫ぶような歌唱も、あの頃に見た記憶がない。それは今だからこそ手に入れた、ロックバンドとしてのシナリオアートの本質だったんじゃないかと思った。
この日のライブ終了後には出口でヤマシタがセトリカードを観客1人1人に自分で配っていた。驚きすぎてKANA-BOONを救ってくれたお礼も言えなかったのだが、独立して活動するというのは大変なことの方が多いだろうけれど、でもこうして我々の近くにいてくれるということでもある。だからこそそんな感謝も必ず直接伝えられるような日が来るはずだと思っている。
1.ブルースメル
2.ホワイトレインコートマン
3.スーサイドスポット
4.アイマイナー
5.シーユーネバーランド
17:00〜 MO MOMA [BAR Stage]
現在はyonigeのサポートギタリストとしても活躍する土器大洋と、当時から美人ベーシストとして名高かった黒瀬莉世というLI LI LIMITというバンドで活動していた2人が再びバンドを組み、そこにドラマーのShogo Takahashiを加えたスリーピースバンドがこのMO MOMAである。yonigeのファンであるために土器はしょっちゅう観ているが、黒瀬がステージに立つ姿を観るのは実に久しぶりである。
LI LI LIMIT時代は男性メインボーカルがいたためにメインボーカルではなかったが、こうして自身がメインボーカルとして歌うのを聴くと、黒瀬のウィスパーボイスは実に独特の浮遊感のような感覚を与えてくれるということが改めてわかる。自分たちでも「オルタナティブエレクトロバンド」と称しているが、まさにその通りに人力のリズムに土器の作るエレクトロサウンドが乗っており、yonigeではバンドサウンドに合わせて歪んだギターを弾くことも多い土器がサウンドを手がけるとやはりこうした音楽になるんだなと改めて思うし、LI LI LIMITにSUPERCARの影響を感じてライブを何回も観ていた自分としては黒瀬と土器がこうしてまたそうした自分たちが好きで、やりたい音楽を自分たちで鳴らしているのを聴くことができるのはやっぱり嬉しいし、何よりも編成などは変わっても土器の作る曲には独特のポップさが確かにあるよなとも思う。
そんなMO MOMAはこのバンドになってからはBenthamと対バンするのは初めてということであるが、LI LI LIMIT時代から2人はずっと付き合いがあり、こうしてまたこのバンドでBenthamとの新たなストーリーが始まったことを喜んでいた。
持ち時間30分あるのに20分ちょっとで終わり、この日の出演者では珍しく時間が巻くという展開になったのだが、まだそこまで曲が多くなかったりするのだろうか。いずれにせよ、初めてライブを観るバンドだけれど、嬉しい再会がここにもあった。LI LI LIMITは出会ってから割とすぐに終わってしまっただけに、このバンドとは長い付き合いになりますように。
1.Nights Wave Comes
2.Game
3.Party A
4.Ele Brain,New Life
5.MAMA
17:30〜 ドラマチックアラスカ [HALL Stage]
シナリオアートに続いて実に久しぶりにライブを観る、ドラマチックアラスカ。Benthamとは実に長い付き合いのバンドであり、個人的なイメージとしても1番一緒に走り続けてきたバンドという感がある。
なのでヒジカタナオト(ボーカル&ギター)も気合いを込めるようにしてタイトルコールをした「TEPPEN」からスタートするのであるが、いきなりヒジカタが弦を切ってしまってBentham小関のギターを借りながらも、その体がついつい動いたり踊ったりしてしまう、ニシバタアツシ(ドラム)の四つ打ちのリズムを巧みに使ったダンサブルなサウンドのギターロックというスタイルも、ヒジカタの少年性を強く感じさせる見た目も変わることはないが、ライブでおなじみの「リダイヤル」から「無理無理無理」という流れでは自分たちのスタイルを変えることなくその刃を研ぎ澄ませてきたんだなということがわかる。個人的に好きだった長身ベーシストのマルオカも2016年に脱退し、ベースはタケムラカズキ、ギターはやはり活動休止したトバナオヤから、元THE NAMPA BOYSのキレ味鋭いサウンドを担っていたサワヤナギマサタカに変わっているのだが、その両翼2人の激しい演奏の姿と出で立ちによってか、バンドがさらにロックキッズ感を増しているような感じすらある。
自身も見た目が全く変わらないヒジカタは
「バンドマンって見た目で年齢がわからない人が多いけど、Benthamなんてまさにそんな感じじゃないですか。でも今日はやっぱり疲れてるからか、普段よら4歳くらい老けてた(笑)
あの見た目が全く変わらない辻怜次すら目元が浮腫んでた(笑)」
とBenthamメンバーをイジると、客席にいた辻から「うるせぇ!」というツッコミが入るのも仲の良さを感じさせてくれるのであるが、最新曲「大正解」ではもう夏は過ぎ去っても観客がタオル回しをするというこのバンドの楽しみ方の新機軸的な曲であり、これからライブのキラーチューンになっていくのは間違いないだろう。
するとヒジカタは
「俺たちはKANA-BOONの次にはなれなかったし、BenthamもKEYTALKの次にはなれなかった」
と叫んでから「ファイナルフラッシュ」を演奏するのであるが、それは日本全国を一緒に回ってきたというくらいに距離が近く、互いにそうして先輩に比較されてきたこのバンドだからこそ言えることだ。確かにそこまでは行けなかったけれど、今でもどちらも続いている。続けてきたことで二番煎じでもフォロワーでもなく、このバンドでしかないという存在にまで辿り着いたんだなと思える。
そんなライブのラストはやはり「人間ロック」で観客がカウントをメンバーと一緒に数えながら飛び跳ねまくる。それはこれからもこのバンドがこうして自分たちらしく、自分たちのロックを貫き通して生きていくということ。メンバーの変遷はあったけれど、それでも止まることがなかったバンドの強さが確かに鳴っていた。
1.TEPPEN
2.リダイヤル
3.無理無理無理
4.大正解
5.ファイナルフラッシュ
6.人間ロック
18:00〜 NECOKICKS [BAR Stage]
ドラマチックアラスカが終わってBAR Stageに行こうとしたら、もうステージが見えないくらいの超満員っぷり。それはかつてライブハウスシーンやMURO FESなどで独特の存在感を放ってきたNECOKICKSが実に6年ぶりにライブを行うからであり、おそらくは昔からのバンド仲間と思しき人も客席にはたくさんいた。
そんな満員を超えてるレベルの人たちの思いに応えるように、6年ぶりでも今でも変わらずに少年性を強く感じさせる見た目のメンバーは当時と変わらぬストレートな蒼いギターロックを鳴らす。TAKUMI(ボーカル&ギター)のパーマがかった大きな頭も全く変わっていない。
鳴らしている音は正直言って、他の現役バリバリにライブハウスで生きているバンドと比べたらそこまでの圧力のようなものはない。でもそうしたものはなくても実に演奏はしっかりしているのは、今はそれぞれの生活をしているメンバーたちがめちゃくちゃ練習してきて、そこでやはりバンドであることの楽しさに改めて向き合えた部分もあるのだろうと思う。
ちなみに
KO-Ki(ドラム) 地元の長野で野菜を作っている
YU-TA(ベース) パン屋を紹介する雑誌の編集
HARA-KUN(ギター) 営業の仕事を辞めて無職
TAKUMI アイドル事務所設立
というあまりにバラバラな形で6年間を生きてきたらしいが、度々バンドをやるやらやらないやらという話になりながらも流れ続けて、ようやくこのライブで全員の気持ちが合致したという。
TAKUMIは何故か最前列にいる観客のメガネを奪って自分でかけたりしながらも、「days of summer」や「ブルーオレンジ」という曲からは未だに消えることがない、どうしようもないくらいの青春感を強く感じるし、その感覚を聴き手も失っていないからこそ、これだけたくさんの人がこのバンドの再始動を待っていたのだろう。
いや、正直個人的にはこんなにこの日に待っていた人たちが集結するなんて思ってなかった。6年も経てば懐かしくは思ってもライブを観にくる人はそう多くはないと。でもこの日観たこの時間の光景は、NECOKICKSがたくさんの人をライブの現場に連れ戻すことができる力を持っているバンドだということを実感させてくれた。
自分自身もグッドモーニングアメリカのコンピレーションCDや主催フェスでNECOKICKSのことを知っただけに、今年の夏にグドモもライブを行い、このバンドも戻ってきたということに偶然ではない運命めいたものを感じてしまう。そうして何年経ってもバンドが音を鳴らしてくれる限り、青春は決して終わることはないのだ。
1.1秒先の未来
2.右往左往
3.Remember
4.days of summer
5.ブルーオレンジ
6.1R
18:30〜 the engy [HALL Stage]
NECOKICKSによるBAR Stageの大混雑を抜けてHALL Stageに戻るとすでに京都の4人組バンドのthe engyが演奏中。そのサウンドはもちろん雰囲気も、この日の出演者の中では唯一と言っていい、R&Bなどのブラックミュージックを軸にしたバンドである。
しかしながら確かに境井(ドラム)による音の隙間を感じさせるようなリズムからもそうしたサウンドのバンドが持つオシャレさのようなものは確かにあれど、それでも山路(ボーカル&ギター)は汗を大量にかきながらステージを動き回って歌うというあたりはそうしたオシャレさとは対極と言っていいものであるし、サビでは藤田(ギター&キーボード)と濱田(ベース)が一気に轟音に転じたり、間違いなくロックな要素が強くあるというのは京都の先輩バンドたちやポストロックやポストハードコア的なバンドたちの影響を吸収してきたりしたんだろうかとも思う。
そうした曲をシームレスに繋いでひたすらに演奏するだけに、わずかな曲間にBenthamへの感謝を告げるだけなのであるが、その演奏している姿からその気持ちはめちゃくちゃ伝わってくるし、後半の曲はサビで一気に解放されていくかのような感覚が確かにあった。それはオシャレなだけのバンドにはない、夜や闇の向こうにある希望や光のようなコントラストを確かに感じさせてくれた。それこそがこのバンドがこの日このイベントにいた理由だと思う。
正直、オシャレなサウンドのバンドが苦手な自分としては「ああ、こういう感じか〜」とも思ったけれど、もう途中から客席のかなり前の方まで行って腕を振り上げていた。そうさせるバンドだというあたりがさすがBenthamの目利きである。
19:00〜 nolala [BAR Stage]
この日のライブのまさに前日に、12月で活動休止することが発表された、nolala。ライブを観るのが初めてであるのに、最後のライブ前としては最後の東京でのライブという重さを感じざるを得ない展開に。
しかしながらメンバー3人がライブ前にしっかり話し合うようにしてから手を合わせて気合いを入れる姿からも、
「自然と涙が出るような、感情が溢れてしまうような音楽をやるバンドだと思ってます!」
という千陽(ボーカル&ギター)の言葉からも、後ろ向きな空気は皆無。ただひたすら今この一瞬に全てをかけて燃やし尽くそうとしていることがよくわかる。
その言葉を感じさせるのは、ロックバンドのボーカルらしい千陽と、どちらかというと声優さんなどのようなキュートさを感じさせるような美寿々(ベース&ボーカル)というツインボーカルのコントラストによってシンプルなようでいてそうではない変化を見せるギターロックサウンド。その歌い分けが実に巧みであるだけに、聴いていて感情が溢れ出しそうになってしまうのであるが、実はそんな2人を支えるひなのドラムの力強さと2人をしっかり見ながらタイミングを取る献身っぷりがこのバンドの土台になっていると思う。
Benthamとは一度対バンしただけでありながらもこうして呼んでくれたことへの喜びを語るのであるが、メンバー全員がなかなか友達を作るのが苦手であり、自分たちのツアーなどにBenthamを呼ぶのも躊躇してしまっていたという千陽の言葉による人間性はそのまま曲の歌詞になっていたりするなと感じるのであるが、千陽はギターをミスったりするとめちゃくちゃリアクションを取ったり顔に出たりするのが実に面白いのであるが、最後には
「いろんな発表をして不安にさせちゃったりもしたかもしれないけど、今日で終わりにしたくない。今目の前にいるあなたを12月のワンマンに連れて行きたい!」
と、終わりが近づいていることを全く感じさせない楽しさだったライブから一転して切なさを感じざるを得なくなってしまう。でも終わる前に出会えて良かったと思ったのは、きっとそれぞれとこれから先に別の形で出会った時に、この日のライブのことを思い出すことができるからだ。それが少しでも早く訪れてくれたら嬉しいなと思う。
NECOKICKSのように戻ってきたバンドがいる一方で、止まってしまうバンドもいる。理由にはそれぞれのこれからの人生について、違う生き方を選んだ的なことが書いてあった。そうしてあっという間に止まったり、終わったりしてしまうのがバンドである。でもそんな部分も含めてやっぱりバンドが好きだし、もっといろんなバンドと出会って、後悔しなくなるくらいまでたくさんライブを観たいと思うのである。
19:30〜 The Cheserasera [HALL Stage]
もう気付いたらメインステージはトリ前という時間に。開始から8時間が経過しているが、主催者でもないのに開演時間からずっと客席で見ていたのがわかるのは、宍戸翼(ボーカル&ギター)の長身&長髪が目立つからこそであるし、Benthamへの愛である。
その宍戸がギターを掻き鳴らしながら歌う「月と太陽の日々」でスタートすると、持ち時間が短いとはいえ序盤でバラードと言っていいような「最後の恋」が演奏されるのであるが、ずっと会場にいたとは思えないくらいに宍戸の歌声は疲労感もなく実に伸びやかで、やはりこの男の歌声はロックバンドをやるためのものだよなと改めて思うくらいに記名性が強い。これだけたくさんのアーティストが出演している中でも似た声というのが全くない。
そんなバンドは会場限定シングルなどで新曲を発表しているという創作意欲の高まりを見せてくれているのであるが、その新曲の中の一つの「GUS TOKYO」は宍戸の言う通りのロックチューンであり、美代一貴(ドラム)と西田裕作(ベース)によるリズム隊は派手さこそないが、スリーピースのギターロックバンドかくあるべきというお手本のように最小の編成で最大限のカッコよさを生み出しているし、最近は宍戸の弾き語り(この後に出る佐々木亮介ともよく共演している)を聴く機会も増えているけれど、やはりその歌声はこうしたバンドでのサウンドでこそより映えると思う。
そんな宍戸はこの「FASTMUSIC CARNIVAL」の意味について小関に聞いたといい、
「転換とかなしにファストフードみたいに次々にアーティストが出てきてライブが観れる」
と説明し、ファストフードの代表的存在であるマクドナルドを引き合いに出して
「みんな、マクドナルドのメニューで何が好き?俺はビッグマックかな。コスパ最強だから。5個は軽くいけるけど、それだと普通だからロックに10個はいけるって言っておこう(笑)」
というよくわからない自己紹介をするのであるが、後でBenthamのライブ時に小関に「一応説明したけど、意味が違う(笑)」と言われてしまっていた。
そんなバンドのもう一方の新曲はもうタイトルが全てを表していると言ってもいいような「君がギターを弾かないなんて」であり、もちろんそれはやめてしまったバンドマン、ギタリストに向けてのものである。宍戸が誰のことを思って書いたかまでは知らないけれど、この曲で歌っていることは好きなバンドが解散、休止、メンバー脱退をした経験がある人なら誰にだって当てはまる曲だ。つまりは宍戸はロックスターでありながらも我々と同じ目線や視点を持って曲を作っているということ。
そんな曲の後に演奏された「賛美歌」はやはりどうしたってこの日このイベントを作ったBenthamに向けられているようにしか聞こえなかったのであるが、こうしてじっくりバンドとしてのライブを観ると宍戸はめちゃいろんな方向の観客をしっかり見ながら歌っている。だから何回も目が合うような感覚があってドキッとするのである。
そして最後に演奏されたのはバンドの持つ獰猛さが音や演奏する姿に現れる「I Hate Love Song」であり、もちろんタイトル通りに皮肉や捻くれた心境もそこには含まれているのだけれども、ただただその鳴らしている音や発せられるオーラが、このバンドがこんな出演者たちの中でトリ前を務めるべきバンドであるということを示していたし、一度止まってしまってもまた走り出すことができるという勇気を我々に伝えてくれている。
1.月と太陽の日々
2.最後の恋
3.GUS TOKYO
4.君がギターを弾かないなんて
5.賛美歌
6.I Hate Love Song
20:00〜 佐々木亮介 [BAR Stage]
様々過ぎる形態のアーティストたちが出演してきたこのBAR Stageもいよいよトリ。弾き語りという最もこのステージにふさわしい形でトリを務めるのは、小関がBenthamを組む前からの知り合いである、a flood of circleの佐々木亮介である。
黒の革ジャンを着た佐々木亮介がステージに登場すると、
「じゃあオゼが1番好きだって言ってた曲を」
と言って、アコギの弾き語りというこの曲においては実に珍しい形で「世界は君のもの」を歌うのであるが、亮介1人しかいないはずなのにめちゃコーラスを重ねている人がいるなと思ったら、それは亮介が曲中に何度も
「オゼー!」
と名前を口にしていた、Benthamの小関その人で、最後のサビでは亮介が小関を呼んで肩を組むようにして一緒に歌うといういきなりのコラボに。というかBenthamは自分たちのライブの準備があるために、亮介のライブを観ることができるのはこの最初の時間だけだったのだろう。最後の「Oh Yeah」も「オゼ」に変えて歌うくらいのオゼバージョンである。
「めちゃくちゃ良い曲やるけど、スピッツの曲だから(笑)」
と前置きして始まったのは「夢追い虫」のカバーであるのだが、どこか脳内で勝手に「その日まで」のコーラスフレーズが浮かんでくる中、亮介はこうして弾き語りの時はよくスピッツのカバーをするが本当に歌い慣れている感が凄いし、それはBenthamの辻と
「いつかスピッツのカバーバンドやりたいよね」
という話をするくらいである。しかしながら
「そういうのって叶わないことの方が多いからね」
と言って、弾き語りだとより切なさとメロディの美しさが強調されるような「くたばれマイダーリン」を歌うのであるが、是非とも同じスピッツファンとしてはそのカバーバンドをやって欲しいと思う。
「LOFTは俺たちもずっと昔からお世話になってるし、ライブ以外でもよく来てるのね。それはここで何回も葬式やってるから。だから皆さん、出ますよここは(笑)」
と笑いも交えながらしんみりするようなことを言うのがまた実に亮介であるのだが、そんないなくなってしまった人の思いを込めるようにして「人工衛星のブルース」を歌う。
「あなたがここにいてほしい」
と優しさを感じさせるように穏やかに歌う亮介はいったい誰の葬式でこのLOFTに来たりしていたんだろうか、とそんなことを思ったりしてしまう。
そしてあっという間に最後の曲になったのは、Benthamに捧げるようにして歌われた「Honey Moon Song」であるのだが、亮介はマイクスタンドの前まで出てきてアカペラで歌う場面も何度もあった。それがやっぱり心に突き刺さるように響いて震えてしまう。やっぱり亮介は凄まじいシンガーだというのが、弾き語りを見ればわかるのである。
亮介も
「オゼの昔のバイトも知ってるし、当時の俺のガールフレンドも知ってる(笑)」
と言っていたが、かつてフラッドが「2days同じバンドと2マンする」という企画を新代田FEVERで開催した時にそのバイトのことも明かされていた。それくらいに昔からの付き合いだからこそ、Benthamはその日にフラッドの「The Beautiful Monkeys」をカバーするという形で愛を表現していた。それを今も鮮明に覚えているからこそ、次に開催する時にはメインステージのトリ前はフラッドでよろしくお願いします。
1.世界は君のもの w/ 小関竜矢 (Bentham)
2.夢追い虫 (スピッツのカバー)
3.くたばれマイダーリン
4.人工衛星のブルース
5.Honey Moon Song
20:30〜 Bentham [HALL Stage]
ずっとライブを観続けていたら、9時間にも及ぶ長丁場もあっという間にトリ。メンバー自身も出演アーティストのライブを観て、物販を販売していたBenthamがいよいよこの日を締めるべくステージに立つのである。
メンバーがステージに登場すると、1曲目はTOKYO CALLINGの時にも演奏されていた「And」からスタートするのであるが、他の出演者から「疲れている」といじられていたとは思えないくらいにメンバー全員がこの段階から実にエネルギッシュで、特に小関竜矢(ボーカル&ギター)は早くも汗を飛び散らせながら、その持ち前のハイトーンボイスを思いっきり振り絞るように出している。その声量の大きさは驚いてしまうくらいであるが、本人も普段よりも声が出ているという感覚があったりしたのだろうか。
須田元生(ギター)も辻怜次(ベース)もガンガン前に出てきて観客を煽るようにして「APOLLO」を演奏するのであるが、須田のコーラスや掛け声の気合いの入りっぷりもまたいつも以上の力強さを感じさせる中、この日は衣装のパンツにこだわったという割には色合いが地味な鈴木敬(ドラム)のリズムに合わせて観客が手拍子をするのはバンドの代表曲の一つと言ってもいいアンセム「パブリック」であり、やはり須田も辻も前にガンガン出てきて、辻はピョンピョン飛び跳ねるようにしながらベースを弾く。ドラマチックアラスカのヒジカタには「いつもより老けてる」といじられていたが、ステージに立つとやはり本当に少年のようですらあるし、そうした姿が我々をより楽しくさせてくれる。曲後半には一気に轟音になり、メンバーが頭を振るようにして演奏するのもまたライブで演奏されるたびに進化してきたこの曲の今の形だと言えるだろう。
すると最初は
「こんなんもう二度とやるか!」
と言っていた小関も
「次は20組でやるから(笑)」
と、さらに1組増やす意向を口にしたのは、この日実際にやってみて確かな感触を得ることができたからだろう。辻は「え〜」と言っていたが、須田は
「もう1組くらい増えたって変わらないよ」
と実にポジティブである。
音源や今までのライブでは軽やかな疾走感を感じさせてくれていた「Undulate」にどっしりとしたロックバンドの重みや風格を感じるのはこの日を走り切った後のライブだからかもしれないが、 Bentham流の聴き手の体が動くようなバラードと言っていい「夜明けの歌」はサビで
「当たり前に飛んじゃって
僕のせいにしてくれよ」
というフレーズが繰り返されるのであるが、それはこの日だけは「おかげ」と思うことはたくさんあれど、「せい」なんて思うことは何もないんだと思える。それくらいに幸福な感覚をこの日のこの曲からは確かに感じていた。
そして小関はThe Cheseraseraの宍戸が言っていたこのイベントのタイトルについて
「俺たちの音楽が消費されているような感覚があった。だからファストフードみたいにならない音楽というか…。まぁマクドナルドも美味しいし、また考え方は変わるかもしれないけれど」
と自身の口でしっかりと言葉にしたからこそ、「僕から君へ」の疾走感の上で歌われるキャッチーなメロディが、確かにバンドから我々へのものとして響いていたのであるし、明らかに客席の盛り上がりがやはりこの日1番と言えるものになっている。それくらいにこの日のBenthamのそもそものライブが本当に素晴らしかったのだし、それはコーラスフレーズで観客も合唱をしながら、辻が誰よりも高く飛び跳ねまくりながら演奏する「クレイジーガール」へと繋がっていく。やはりこうした日の締めくくりにふさわしい、これぞBenthamというセットリストを、今の最強な状態で鳴らしている。だからこそこんなに我々観客や、この日出演したミュージシャンたちもがこんなに楽しそうな表情をしてライブを観ているのである。
「今日はまた、夢でも会いましょう」
と言って最後に演奏されたのは「TONIGHT」。実はa flood of circleに影響されているという意味でも自分にとっては思い入れが強い曲であるが、そんな曲が明らかにさらに速く激しくなっている。何よりも起きてから何時間経っているんだろうと思えるような状態での小関の高らかな歌唱。本当に、夢でも会いたいと思うくらいに幸せな時間だった。それはこのライブ自体も、この日1日も。
アンコールではメンバー自らが販売していた物販を、
「今日しか売れない商品なので(笑)」
と小関が着用してアピールすると、本当に最後の最後に演奏されたのはバラード曲「アルルの夜」だった。決して盛り上がるような曲ではない。だからこそ、伝えたい思いが本当にダイレクトに、刺さるように伝わってきた。それはまたこうした夜が必ずやってくるということも。今までに観たことがなかった、主催フェスでの Benthamのライブは、今まで観てきたどのライブよりも素晴らしかった。
それは10-FEETにおける京都大作戦、フォーリミにおけるYON FESなどのアーティスト主催フェスで証明されてきたように、やはりそうした場で主催バンドがどこよりも素晴らしいライブを見せてくれるのは、この日を一緒に作ってくれた出演者や観客の力がバンドのものになってるから。規模的にもその力の純度の高さは最高レベルとすら言えるフェスだったが、またこの出演者たちでもっと大きなところでこのフェスをやりたいとも口にしていたらしい。
Benthamならきっとできる。バンドとしてもっと上まで必ず行ける。このライブを観たらそう思わずにはいられない。アーティスト主催フェスのもう一つの力は、参加する前よりも参加した後の方がそのアーティストを好きになれるということ。元から好きだったBenthamが、もっと好きになった。また来年になるのかわからないけれど、必ず行くから是非またよろしく。
1.And
2.APOLLO
3.パブリック
4.Undulate
5.夜明けの歌
6.僕から君へ
7.クレイジーガール
8.TONIGHT
encore
9.アルルの夜
メンバーの目が行き届く規模感の小ささもあるだろうけれど、最初は新宿LOFTの規模で長時間はキツいなとも思っていた。でも終わった時には「もう終わってしまった…」と思うくらいにあっという間だった。ソールドアウトはしているけれど、入れ過ぎない人数、ライブにおいてはあまりにコスパが良すぎる飲食など、小さい規模だから作れるものがたくさんあったし、やはりライブハウスで生きてきたバンドのフェスはライブを観ていて本当にカッコいいと思えるライブばかりだった。だからこんなにもあっという間だったのだ。
物価高騰ばかりのクソみたいな世の中に逆行するようなチケット代や物販、飲食のあまりの採算度外視の安さには逆に心配になってしまうけれど、だからこそこのフェスはBenthamにしか作れないものだった。至らないところがあるかもとメンバーは思っていたかもしれないが、あらゆるフェスに参加してきた自分としても本当にマイナスに思う部分が全くないフェスだった。この日、第一回のこのフェスにいれたことをのちに自慢できるようになりますように。いや、間違いなくそうなっていくはずだ。
ACIDMAN LIVE TOUR "This is ACIDMAN 2023" @Zepp Haneda 10/30 ホーム
BIGMAMA SCHOOL WARS TOUR @KT Zepp Yokohama 10/28