ヤバイTシャツ屋さん "BEST of the Tank-top" 47都道府県TOUR 2023-24 ゲスト:瑛人 @KT Zepp Yokohama 10/17
- 2023/10/18
- 22:29
もうヤバTも10周年である。フェスでも未だにトップバッターが多かったりするだけに、永遠の若手感が強いけれど、そんなヤバTの10周年イヤーは何と47都道府県TOURという、やはりライブ好きすぎるとしか言えない活動が軸に。ツアータイトルに「BEST」とついているのは翌月にベストアルバムのリリースを控えているからである。
この日のZepp Yokohamaは8本目というツアーの序盤も序盤なのであるが、今回のツアーは各地に対バンを招いており、今までの活動からすると「このバンドと!?」と思うような名前が多いだけに、メンバーがよく「友達がいない」と言っているけれど、実は友達がたくさんいるんじゃないかと思ったりもするが、この日の会場のフラワースタンドはレギュラーコーナーを持っていたSPACE SHOWER TVからしか送られてきておらず、本当に友達がいないのかもしれないと思ってしまう。
・瑛人
そんなこの日の対バンは瑛人。メンバーはかねてから大好きな存在であることを口にしているし、実際にライブで曲をカバーしたりもしているのだが、前のツアー時に対バンする予定もあったのだが、瑛人がコロナになって急遽ヤバTのワンマンになったということもあった。
・瑛人
ハム太郎の曲がBGMで流れると大合唱が起こるというライブ開始前から凄まじい一体感を発揮している中で、18時30分くらいになるとステージにはギター、ドラム、ベース、キーボードというバンドメンバーたちが登場し、最後に瑛人本人がピースを掲げながら登場して、1曲目はチルなヒップホップの「Hey brother」からスタートするのであるが、こうして生で瑛人の姿を見るとチョコレートプラネットの長田に実によく似ていると思うし、どうしたって「香水」のアコギと歌というアコースティックなシンガーというイメージが強い人であるが、実際はこうした心地良いサウンドの上に素朴な歌唱とフロウのボーカルを乗せるという、R&Bやレゲエなどのブラックミュージックの影響が強いミュージシャンであることがよくわかる。
そんなヒップホップ的な曲を1曲目に歌った直後に演奏されたのが「HIPHOPは歌えない」であるあたりが、マジなのかそれともネタ的な流れなのかよくわからないのは、どうにもサビで手を振ったり、ピースサインを掲げたりしながら歌う瑛人の立ち振る舞いが、どうにも常人とは違う時空の流れの中で生きているような、今までに数え切れないくらいにたくさんのアーティストのライブを観てきた身としても、こんなに独特なタイム感、テンポで生きているような人は初めてだなと思わせる。
しかしながら
「HIPHOPは歌えない 俺はリアルじゃないからさ
現実ばっかを見てたら きっと涙が出るんだ」
という歌い出しからのフレーズは瑛人の持つ言葉に対する才気を確かに感じさせる。だからこそあの「香水」の歌詞を書けたんだろうなということもわかるが、最後の
「HIPHOPを歌いたい 俺もリアルになりたいよ
夢ばっかを語れば そりゃ楽しくなるもんさ
愛想ばっかふりかざして いつも笑ってるんじゃないよ
だから言われるお前は ただのPEACE野郎だと」
という歌詞は自分がどんな人間であり、いわゆるステレオタイプなヒップホップを歌える人がどういう人間かをわかっているからこそ書けるものだと思う。今でこそ普通の人でもラップをするような時代になったけれど、瑛人の中では好きだからこそヒップホップにはなれないことがわかっているのだろう。
そんなPEACE野郎だからこそ、サビで観客も一緒にピースサインを掲げてはタイトルフレーズに合わせてその手を裏返すという「ピース オブ ケーク」は実にチルな空気が漂うというか、改めてこうして聴いているとヤバTの音楽との飛距離の差が凄まじいなとも思ってしまう。それくらいにかけ離れた音楽性であってもほとんど全員がピースをしているのは顧客(ヤバTファンの総称)の優しさを表しているし、
「横浜出身だから初めてZepp Yokohamaでライブできるの嬉しい!」
と言って歌詞に「横浜」などを入れる瑛人の人間性によってその空気が生み出されているとも言える。そういえば何かのTV番組で、山下公園の近くにあるカフェの常連が瑛人であるというのを紹介していた記憶もある。
そんな瑛人がアコギを持って歌うのは「ハッピーになれよ」であるのだが、自分が瑛人を「実は「香水」だけの一発屋ではないのでは?」と思ったのは、この曲をTVで歌っているのを観た時に
「黄色い上原モデルの
グローブとヘルメを持って
野球を終えた帰り道」
というフレーズを聴いたからだ。「野球をやっていた少年時代」というモチーフの歌詞はたくさんある。けれどこんな歌詞でそれを表した人は他にいないし、このフレーズを聞くだけで、巨人に入団していきなり大活躍していた上原浩治(今や里崎智也に並ぶプロ野球OB YouTuberであるが)に憧れて野球を始めたという瑛人の少年時代の情景がありありと浮かんでくる。それはこの日目の前で聴いてもそうだったからこそ、やはり瑛人は実は卓越した歌詞のセンスを持った、現代の音楽シーンに現れるべくして現れた詩人であることがわかるのだ。
そんな瑛人は本当にずっと笑顔を浮かべたままで、事前に考えているというよりはその場のノリで喋るかのようにして、
「ヤバTと初めて会ったのは3年前。最近は会ってなかったんだけど、この会ってない期間に俺は父親になりました!」
と子供が産まれたことを語り、だからこそ祖父のことを思い出すと言って、祖父が世話をしていた金魚を通して祖父との思い出を綴る「らんちゅう」を披露するのであるが、まさか瑛人のライブでこんなに心が震わされるとは、というくらいに響いたのは、そうした瑛人の祖父への想いを歌った曲を通して自分の祖父のことを思い出したりしてしまうから。それはつまり誰しものそうした記憶を呼び起こす力を持つ曲であるということだ。実は瑛人はやはりすごいアーティストであるなと感じたのは、曲終わりで2階席にいた子供が声を上げるというタイミングの良さもあってのことである。
すると
「新曲やりま〜す」
と言って演奏されたのは、ここまでのライブを見ていると瑛人のシグネチャーとも言えるようなチルなサウンドであるのだが、歌詞をよく聴くとそれはなんとヤバTの「ハッピーウェディング前ソング」の瑛人によるアレンジでのカバーであるのだが、ヤバTの
「ええやん」
は瑛人は横浜出身らしく
「いいじゃん」
へと翻訳され、サビ前でも
「キッス〜」「入籍〜」
と連呼することなく伸ばして歌うことによって完全に曲を瑛人のものにしているのだが、そのあまりの変貌っぷりにはヤバTファンとしてはやはりついつい笑ってしまうのである。それはヤバTがただ瑛人を好きなんじゃなくて、瑛人もまたヤバTを好きであるということを感じさせてくれるカバーである。
するとステージにパイプ椅子が運び込まれ、もちろん「香水」をやるのかと思いきや、瑛人はその椅子の上に立ち上がって観客に手を振るという、誰もが「何だそれ!」と心の中でツッコミを入れながらも、ようやく椅子に座るとギタリストがアコギを弾くというおなじみの形で「香水」が演奏されるのであるが、2コーラス目のサビで瑛人が立ち上がって
「行く〜?」
と問いかけてくるので、「え?何が?」と思っていたら瑛人はマイクを客席に向けてくるので、それが瑛人流の合唱を促す手段であることがわかるのだが、それはコーラスパートまでも続いていく。今や誰もが知る大ヒット曲であるし、ヤバTファンからしてもおなじみの曲であるが、それでもこんなに大合唱となるあたりはやはり曲の持つ力を改めて感じさせるし、
「ドルチェ&ガッバーナ」
のフレーズを歌うのが実に気持ちいいものであることも改めてわかるのである。何故か瑛人は「ガッバーナ」の部分だけを観客に何度も歌わせようとするあたりは本当に掴みきれないけれど。
そしてラストは再びバンドサウンドへと回帰して演奏された「あっちゅうま」であるのだが、瑛人はこの日のライブ自体も「あっちゅうま」であると口にしていたけれど、森山直太朗の相棒としてもおなじみの御徒町凧が歌詞を共作していることもあって、人の心もあっちゅうまに移り変わっていくという人生の真理を、こうした少し砕けた言い回しによってあくまでポップな聴き心地に着地しているというあたりはもはやさすがとすら言えるレベルである。
つまりはこうして初めてライブを観ることによって、一発屋なわけではないだろうと思っていた瑛人への評価がさらに確信的なものになった。それはヤバTがそうであるように「今まで誰も歌詞に使っていなかった、でも誰が聴いてもわかるような単語を使って歌詞を書くアーティスト」であるということ。ヤバTと瑛人が最も通じ合っているのはその言語に対する感覚なのかもしれないとも思っている。
1.Hey brother
2.HIPHOPは歌えない
3.ピース オブ ケーク
4.ハッピーになれよ
5.らんちゅう
6.ハッピーウェディング前ソング
7.香水
8.あっちゅうま
・ヤバイTシャツ屋さん
そんな瑛人の後というそうそうない空気の中でのヤバT。おなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEが流れてメンバーが登場すると、もりもりもと(ドラム)が観客の歓声を聞いてガッツポーズをし、しばたありぼぼ(ベース&ボーカル)は鮮やかな金髪姿で、こやまたくや(ボーカル&ギター)は全く変わることない真っ黒な出で立ちで、
「ツアー8本目!ヤバイTシャツ屋さんです!」
と挨拶すると、この日の1曲目は「喜志駅周辺なんもない」でスタートし、曲中にはおなじみのコール&レスポンスもようやく観客のレスポンス声量MAXで行われるのであるが、
「瑛人のライブめっちゃ良い」「瑛人めちゃセンスある」
と後輩を褒め称えるようなコール&レスポンスになると、さらにはいきなり客席をど真ん中で分けてウォールオブデスをさせ、さらにはアウトロ部分で「香水」のパンクバージョンのサビを演奏して、
「「香水」はもう俺たちのもんだー!」
と叫ぶという、1曲目から余りにも多すぎる情報量。それは紛れもなく瑛人との対バンであるこの日をさらに最高のものにしようとするがゆえのものである。
そんなオープニングから、もりもとのツービートがパンクに疾走する「無線LANばり便利」でタイトルフレーズの大合唱を起こすと、もうこの序盤からダイバーが壁のようにリフトしてから転がっていく。こやまはそのダイバーを指差して「ええやん!」と声をかけたり、
「コロナが明けすぎている!」
と言うあたり、その光景を見ることができて本当に嬉しそうであるし、フェスなどでは今年に入ってからそうした光景を見れるようになってきたけれど、ようやくヤバTのライブハウスのツアーにおいてその光景が、楽しみ方が戻ってきたのである。
さらには今年リリースの最新アルバム「Tank-top Flower for Friends」のタイトル曲とすら言える「Blooming the Tank-top」でしばたがAメロで無表情で右足だけを動かしながら演奏するというシュールさからこやまのデス声、そしてサビでのキャッチーなメロディと目まぐるしく展開して行くのであるが、アルバムのツアーからフェス、そしてこのツアーとライブで欠かさずに演奏されてきたことによって明らかにさらにバンドの中に馴染んでいる感がある。これまでの代表曲たちと同じように演奏できるようになっているというか。
CDを買って初めて聴いた時に爆笑してしまったのを今でも思い出すくらいにインパクトがある「げんきもりもり!モーリーファンタジー」では曲の主人公であるもりもとのセリフ部分でこやまとしばたが真顔になっているのが実にシュールであるのだが、そのセリフ部分のもりもとの歌唱が実に熱さを帯びるようになっているのも自分たちのツアーかつライブハウスという状況であることが関係していると言えるだろう。
未だにこやまが観客による手拍子が鳴り響く中で
「新曲」
と言ってからギターを弾くということをやめない「癒着☆NIGHT」では最後のサビ前で観客が手拍子をする中でやはり大量のリフトが発生すると、こやまもいつも以上に気合いを込めるようにして
「うまいことやろうぜー!」
と言ってから一気にダイバーが転がっていく。そこにはこうした楽しみ方を求めるバンドと、そうした楽しみ方をしたい観客との想いが確かに交わっているように感じられる。
そんな流れから一息つくようなMCではしばたが横浜を「縦海」と絶妙にわかりづらい形で逆に言ったりしながらの挨拶的なものになるのだが、
「昨日の10-FEETのライブにNHKから花が届いてた。これは10-FEET紅白確定演出や。ヤバTはずっとNHKでラジオやってるのに花が来ない(笑)こんな楽しいライブするバンドが紅白出てないっておかしくない?(笑)」
とやはり今年も紅白への思いを口にするこやまは早くもこの日の観客の熱さを
「横浜、めっちゃええやん。もうコロナどうとかなる前よりすごいやん。さすが瑛人を生んだ街」
と称えるのであるが、そんな熱狂っぷりでも結構ヤバTのライブに来るのが初めての人も、ライブハウスに来るのが初めての人もいたというあたりはヤバTがそうした初体験のきっかけ的なバンドになっているということである。
このツアーは来月リリースされるベストアルバムを控えてのものであり、リリース後もツアーは続いていくのであるが、ここからは明らかにベストには収録されないであろうレア曲もふんだんに演奏されていく。
その口火を切るのは最新アルバム収録の「俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ」であるのだが、その何とも切ないけれど共感を呼ぶこと必至な歌詞とは裏腹に、サウンドは実にシャープなギターロックというカッコよさとのギャップが凄まじい曲だなとライブで聴くことによって改めて思わされる。
さらには歌い出しでこやまとしばたが歌声を重ねるのが実にキャッチーな「小ボケにマジレスするボーイ&ガール」はサビで観客たちが一気に飛び跳ねまくるというのも実に楽しい曲であるが、やはりこの曲も歌詞とのギャップが凄まじい曲であり、そこから一気に初期の名曲「ウェイウェイ大学生」へと繋がっていく。コロナ禍ではよくわからない振り付けが加わるという楽しみ方もあった曲であるが、この日はしばたの歌唱パートでこやまがしばたの前に立って邪魔するというおなじみのパフォーマンスはあったけれどストレートに曲を演奏して楽しむという形であり、こうしてこの曲が聴けることの喜びを感じさせてくれるのである。それはリリースから7年も経ってもこの曲のキャッチーさは全く変わることがないからである。
そんなヤバTのベストアルバムに収録される新曲「BEST」は収録曲リストとタイトルが発表された時から薄々内容はわかってはいたが、
「ベストアルバムを出せってレーベルや事務所に言われたわけでもないのに、自分たちが出したいから出すことにした」
という、ヤバTのベストアルバムに入る新曲だからこそのシュール極まりない歌詞。
「プレイリストで事足りるのに」
という歌詞もあったが、ヤバTのベストアルバムは間違いなく現物をCDとして買うからこそ意味があるものになると思っている。この曲も間違いなくその要素を担う曲であるだけに、CDの歌詞カードでおなじみのこやまの曲解説も含めて楽しみになる曲である。
そして「瑛人の「香水」と交換した(笑)」という、瑛人がカバーした「ハッピーウェディング前ソング」の本家バージョンが演奏されるのであるが、先ほどのMCでも
「あんな「キッス〜」「入籍〜」って歌われたらそのフレーズ歌う回数減っちゃいそう(笑)」
と言いながらもしっかり原曲として歌うのであるが、さりげなく照明が「KISS」の文字になっているというあたりが、演奏している姿や鳴っている音がメインでありながらも最低限のらしい演出をするというヤバTのライブならではのものだ。やはりライブハウスで演奏されるこの曲で大合唱だけではなくてダイバーが続出する光景は見ていて実に幸せな気分にしてくれる。
そんなヤバTはNHKでラジオ番組をずっとやっているのであるが、
こやま「NHKって滅多にピー音入らないのに、瑛人がゲストで来た時だけピー音入ること言った(笑)」
という話から珍しく下ネタ(しばたも普通に言いまくる)の応酬となるのだが、もりもとが
「俺らはそういうの言いそうで言わないのがいいのに!」
と冷静に反応するも、そのもりもとも先日下ネタを言いまくっていたということが明かされ、さらにはこやまは以前瑛人とすぐ近くに住んでいたらしいのであるが、だからこそたくさんエピソードがあるかと思いきや全然何も出てこずに、むしろ
こやま「昨日10-FEETのライブ行った人いる?少なっ!同じ事務所なのに客層全然被ってないやん!(笑)
昨日のセトリで何が良かった?やっぱり「BE NOTHING」よな〜!」
という10-FEETが好きすぎるからこその10-FEETトークの方が盛り上がるということに。
そして
「なんで瑛人のライブでダイブしなかったん?「HIPHOPは歌えない」でダイブすればよかったやん(笑)」
と言いながら、瑛人のライブのチルな空気を自分たちのライブでも出すべく、もはやBuyer Client名義の設定はどこに行ったのかというくらいに普通にもりもとが曲再生して「dabscription」を歌い始めるのであるが、曲途中でバンド演奏になってパンクに切り替わる部分を待つようにリフトしている人がたくさんいるのが実に面白い。この曲でこうした光景が見れるようになったのも規制のなくなったライブハウスだからだ。
その熱狂はもりもとの歌唱フレーズにも実に力が入る「Universal Serial Bus」へと続き、ダイブはもちろん客席前方の両サイドでは激しいサークルまでもが発生すると、サビで観客が飛び跳ねまくってコーラスフレーズでは合唱も起きる「KOKYAKU満足度1位」へと続いて行くというのは実にベスト的なツアーのセトリらしくもあるのだが、そこはツアー中も毎回ライブごとにガラッとセトリを変える(だからこそツアー中でも公式アカウントが毎回セトリを公表している)ヤバTであるだけに、何通りものベスト的な流れをもってこのツアーを回っていくのだろう。
それはやはり歌い出しからダイバーとサークルが続出しまくる、ヤバTの曲の中でも屈指の激しさを誇る「Tank-top in your heart」へと続いていく。
「Tank-topの力で さあ、Punk Rockを超えれるか」
という歌詞の通りに、ヤバTは自分たちだからこそのTank-topの力でこれまでのロックシーンに脈々と受け継がれてきたパンクを更新しようとしている。そのためにはやはりこうした自由な楽しみ方ができるライブハウスでなければダメなのだ。
そしてステージが赤と青の照明で交互に照らされる「あつまれ!パーティーピーポー」ではもちろん大合唱が起こりながらサビでは腕が左右に揺れまくる。フェスなどでは基本的に1曲目か最後の曲として演奏されることが多いだけに、こうしてそのどちらでもない位置で演奏されるのが新鮮でもあるのだが、それは夏が過ぎてもこうしてセトリのクライマックスの一つを担うようになった「ちらばれ!サマーピーポー」に繋がるためということもあるだろう。その「ちらばれ!〜」ではもちろん間奏でサークルを作ることをこやまが指示するのであるが、その際に
「今日はちょっと柵が多いけど〜」
とZeppの客席の特性を理解しているのはさすが元々は10-FEETなどのライブに行っていたライブキッズである。ということでこの日は客席左右に分かれていくつかの小さなサークルが発生するというZeppならではの形に。個人的には翌日の千葉LOOKの規模でこの曲がどんな光景を生み出したのかというのが気になる。チケットが取れなかっただけに。
そして改めてこやまがこの日のノリの最高っぷりを口にして、
「ほんまにライブハウスって楽しいなぁ!」
と、もうそれしかないだろうというようなことを口にすると、それをさらに最高のものにするために演奏された「ヤバみ」はやはり音源よりもさらに速さと熱さを増しているのであるが、最後のサビ前で手拍子が起こりながらリフトしていく観客の数はこの日最大と言っていいくらいだった。こやまも
「気をつけろよ!」
と言っていたくらいの乱立っぷりは、そのままこの日のライブがどれだけ激しかったのか、熱かったのかということを示していた。
そんなライブの最後を締めるのは「Give me the Tank-top」であり、数々のキラーチューンや代表曲的なアンセムもあるヤバTがこの曲をライブの最後に選んだのは、コロナ禍になってライブハウスに入れる人数を減らしたり、椅子を置いたりしていた時期に願いを込めるようにして演奏していたこの曲がようやくその願い通りに規制がなくなったライブハウスで演奏できるようになったからだ。特にZepp Tokyoでは5日間で10公演も行ったりしたけれど、ヤバTの聖地の一つと言えるそのZepp Tokyoはもうなくなってしまった。でもこうして新しいZeppができて、そこでまたヤバTのライブを観ることができているというのも、あの頃にいろんなことを言われながらもヤバTがライブをやり続けることで守ってきたものがあるからだ。
そんなことを思い出してしまいながら聴いていたから、この日のこの曲で感動して泣けてきてしまった。そんな感情にさせてくれるライブを見せてくれるバンドだからこそ、これからも
「うるさくてくそ速い音楽を もっと浴びるように 着るように 聴く」
のである。
アンコールで再び3人がステージに現れると、まずは瑛人もステージに呼び込んでの記念撮影。その際に
「タオルを掲げていいのは1番後ろの人だけ」
と配慮するのも、
「6+6=12」
という意味不明すぎる掛け声で写真を撮るのも実にヤバTらしいのであるが、しばたがベストアルバムの完全限定生産盤に付属する、タンクトップくんが実に可愛らしいバスタオルを羽織っているあたりもCDの宣伝に余念がないヤバTしさである。
そんなアンコールではこやまが
「3つ目の柵から後ろの人たちだけ、この曲の時は動画撮っていいよ!SNSにあげるのは切り取った30秒だけな!前の方にいる人はライブハウスの熱さを見せてやろうぜー!」
と言って怒号のような歓声が上がる中で演奏された「かわE」ではやはり前方ではダイバーが続出し、後方ではその様子を撮影するという構図になるのであるが、全体が撮影OKというのではなくて後方だけというあたりが安全に配慮している(前の方で撮影していたら確実にスマホが吹っ飛ぶ。タオルや靴の落とし物がライブ後にたくさん並びまくっていただけに)ヤバTらしさでありながら、今ライブハウスではこうやって楽しんでるんですよということをまだライブハウスに来ていないような人にも伝える、実に良く考えられた取り組みである。
もちろんそこにはバンドの演奏が拡散されることによってその楽しさを伝えられるという自信があってこそのものであるが、照明が「KAWA E」の文字を映し出しながら、最後のサビでは「ヤバみ」をも凌ぐくらいのリフトとダイバーが続出し、こやまも
「よくできましたー!」
といつも以上の笑顔と伸びやかさで口にしていた。
さらには
「ヤバイTシャツ屋さんの大ヒット曲やります!」
と言って演奏されたのはなんと「香水」のヤバTバージョンと言えるパンクアレンジでのフルコーラスカバー。
「なんで瑛人の曲でダイブしなかったん?」
という先ほどの言葉を自ら回収するというように瑛人の曲でダイバーが続出しまくるのであるが、このカバーがあまりにハマり過ぎていて、本当にヤバTの曲にしていいくらいだったので、是非とも音源化してもらいたい。特に「ガッバーナ」の部分でのもりもとのドラムのカッコよさたるや。そうしたアレンジがこの曲の名曲っぷりをさらに際立たせている。
そんな瑛人との対バンだからこそ(さすがにツアーの他の対バン相手の時にはやらないだろう)のカバーの後に最後に演奏されたのはイントロで同期のピアノの音が鳴ると同時に手拍子が鳴り響き、観客がサビで大合唱する「NO MONEY DANCE」。合唱とともにダイバーが転がりながら最後は全員でピースをするというのは、「Give me the Tank-top」同様に、リリース当時は見ることが出来なかったこの曲の真価をようやくライブハウスで発揮できるようになったと言えるだろう。演奏が終わった後にどこか名残惜しそうに長い時間ステージに止まってピックやスティックを客席に投げていたメンバーの姿からも、この日のライブへの手応えを確かに感じられた。それは我々顧客側も、こんなど平日に縦海のライブハウスまで来て本当に良かったと思うくらいに楽しかったからこそ。
それはつまりこれからヤバTのライブはもっと楽しくなっていくということであり、そんなツアーがまだ40本近く残っている。出来る限り行きたいとも思うけれど、千葉LOOKのように近くてもキャパ的にチケットが取れないライブハウスもたくさんある。でも間違いなく言えるのは、47都道府県全通したとしてもヤバTのライブは飽きることなんか絶対ないということ。それくらいに毎回全く違うライブを見せてくれるから、またすぐに観たくなってしまうのだ。
1.喜志駅周辺なんもない (香水ver.)
2.無線LANばり便利
3.Blooming the Tank-top
4.げんきもりもり!モーリーファンタジー
5.癒着☆NIGHT
6.俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ
7.小ボケにマジレスするボーイ&ガール
8.ウェイウェイ大学生
9.BEST
10.ハッピーウェディング前ソング
11.dabscription
12.Universal Serial Bus
13.KOKYAKU満足度1位
14.Tank-top in your heart
15.あつまれ!パーティーピーポー
16.ちらばれ!サマーピーポー
17.ヤバみ
18.Give me the Tank-top
encore
19.かわE
20.香水
21.NO MONEY DANCE
この日のZepp Yokohamaは8本目というツアーの序盤も序盤なのであるが、今回のツアーは各地に対バンを招いており、今までの活動からすると「このバンドと!?」と思うような名前が多いだけに、メンバーがよく「友達がいない」と言っているけれど、実は友達がたくさんいるんじゃないかと思ったりもするが、この日の会場のフラワースタンドはレギュラーコーナーを持っていたSPACE SHOWER TVからしか送られてきておらず、本当に友達がいないのかもしれないと思ってしまう。
・瑛人
そんなこの日の対バンは瑛人。メンバーはかねてから大好きな存在であることを口にしているし、実際にライブで曲をカバーしたりもしているのだが、前のツアー時に対バンする予定もあったのだが、瑛人がコロナになって急遽ヤバTのワンマンになったということもあった。
・瑛人
ハム太郎の曲がBGMで流れると大合唱が起こるというライブ開始前から凄まじい一体感を発揮している中で、18時30分くらいになるとステージにはギター、ドラム、ベース、キーボードというバンドメンバーたちが登場し、最後に瑛人本人がピースを掲げながら登場して、1曲目はチルなヒップホップの「Hey brother」からスタートするのであるが、こうして生で瑛人の姿を見るとチョコレートプラネットの長田に実によく似ていると思うし、どうしたって「香水」のアコギと歌というアコースティックなシンガーというイメージが強い人であるが、実際はこうした心地良いサウンドの上に素朴な歌唱とフロウのボーカルを乗せるという、R&Bやレゲエなどのブラックミュージックの影響が強いミュージシャンであることがよくわかる。
そんなヒップホップ的な曲を1曲目に歌った直後に演奏されたのが「HIPHOPは歌えない」であるあたりが、マジなのかそれともネタ的な流れなのかよくわからないのは、どうにもサビで手を振ったり、ピースサインを掲げたりしながら歌う瑛人の立ち振る舞いが、どうにも常人とは違う時空の流れの中で生きているような、今までに数え切れないくらいにたくさんのアーティストのライブを観てきた身としても、こんなに独特なタイム感、テンポで生きているような人は初めてだなと思わせる。
しかしながら
「HIPHOPは歌えない 俺はリアルじゃないからさ
現実ばっかを見てたら きっと涙が出るんだ」
という歌い出しからのフレーズは瑛人の持つ言葉に対する才気を確かに感じさせる。だからこそあの「香水」の歌詞を書けたんだろうなということもわかるが、最後の
「HIPHOPを歌いたい 俺もリアルになりたいよ
夢ばっかを語れば そりゃ楽しくなるもんさ
愛想ばっかふりかざして いつも笑ってるんじゃないよ
だから言われるお前は ただのPEACE野郎だと」
という歌詞は自分がどんな人間であり、いわゆるステレオタイプなヒップホップを歌える人がどういう人間かをわかっているからこそ書けるものだと思う。今でこそ普通の人でもラップをするような時代になったけれど、瑛人の中では好きだからこそヒップホップにはなれないことがわかっているのだろう。
そんなPEACE野郎だからこそ、サビで観客も一緒にピースサインを掲げてはタイトルフレーズに合わせてその手を裏返すという「ピース オブ ケーク」は実にチルな空気が漂うというか、改めてこうして聴いているとヤバTの音楽との飛距離の差が凄まじいなとも思ってしまう。それくらいにかけ離れた音楽性であってもほとんど全員がピースをしているのは顧客(ヤバTファンの総称)の優しさを表しているし、
「横浜出身だから初めてZepp Yokohamaでライブできるの嬉しい!」
と言って歌詞に「横浜」などを入れる瑛人の人間性によってその空気が生み出されているとも言える。そういえば何かのTV番組で、山下公園の近くにあるカフェの常連が瑛人であるというのを紹介していた記憶もある。
そんな瑛人がアコギを持って歌うのは「ハッピーになれよ」であるのだが、自分が瑛人を「実は「香水」だけの一発屋ではないのでは?」と思ったのは、この曲をTVで歌っているのを観た時に
「黄色い上原モデルの
グローブとヘルメを持って
野球を終えた帰り道」
というフレーズを聴いたからだ。「野球をやっていた少年時代」というモチーフの歌詞はたくさんある。けれどこんな歌詞でそれを表した人は他にいないし、このフレーズを聞くだけで、巨人に入団していきなり大活躍していた上原浩治(今や里崎智也に並ぶプロ野球OB YouTuberであるが)に憧れて野球を始めたという瑛人の少年時代の情景がありありと浮かんでくる。それはこの日目の前で聴いてもそうだったからこそ、やはり瑛人は実は卓越した歌詞のセンスを持った、現代の音楽シーンに現れるべくして現れた詩人であることがわかるのだ。
そんな瑛人は本当にずっと笑顔を浮かべたままで、事前に考えているというよりはその場のノリで喋るかのようにして、
「ヤバTと初めて会ったのは3年前。最近は会ってなかったんだけど、この会ってない期間に俺は父親になりました!」
と子供が産まれたことを語り、だからこそ祖父のことを思い出すと言って、祖父が世話をしていた金魚を通して祖父との思い出を綴る「らんちゅう」を披露するのであるが、まさか瑛人のライブでこんなに心が震わされるとは、というくらいに響いたのは、そうした瑛人の祖父への想いを歌った曲を通して自分の祖父のことを思い出したりしてしまうから。それはつまり誰しものそうした記憶を呼び起こす力を持つ曲であるということだ。実は瑛人はやはりすごいアーティストであるなと感じたのは、曲終わりで2階席にいた子供が声を上げるというタイミングの良さもあってのことである。
すると
「新曲やりま〜す」
と言って演奏されたのは、ここまでのライブを見ていると瑛人のシグネチャーとも言えるようなチルなサウンドであるのだが、歌詞をよく聴くとそれはなんとヤバTの「ハッピーウェディング前ソング」の瑛人によるアレンジでのカバーであるのだが、ヤバTの
「ええやん」
は瑛人は横浜出身らしく
「いいじゃん」
へと翻訳され、サビ前でも
「キッス〜」「入籍〜」
と連呼することなく伸ばして歌うことによって完全に曲を瑛人のものにしているのだが、そのあまりの変貌っぷりにはヤバTファンとしてはやはりついつい笑ってしまうのである。それはヤバTがただ瑛人を好きなんじゃなくて、瑛人もまたヤバTを好きであるということを感じさせてくれるカバーである。
するとステージにパイプ椅子が運び込まれ、もちろん「香水」をやるのかと思いきや、瑛人はその椅子の上に立ち上がって観客に手を振るという、誰もが「何だそれ!」と心の中でツッコミを入れながらも、ようやく椅子に座るとギタリストがアコギを弾くというおなじみの形で「香水」が演奏されるのであるが、2コーラス目のサビで瑛人が立ち上がって
「行く〜?」
と問いかけてくるので、「え?何が?」と思っていたら瑛人はマイクを客席に向けてくるので、それが瑛人流の合唱を促す手段であることがわかるのだが、それはコーラスパートまでも続いていく。今や誰もが知る大ヒット曲であるし、ヤバTファンからしてもおなじみの曲であるが、それでもこんなに大合唱となるあたりはやはり曲の持つ力を改めて感じさせるし、
「ドルチェ&ガッバーナ」
のフレーズを歌うのが実に気持ちいいものであることも改めてわかるのである。何故か瑛人は「ガッバーナ」の部分だけを観客に何度も歌わせようとするあたりは本当に掴みきれないけれど。
そしてラストは再びバンドサウンドへと回帰して演奏された「あっちゅうま」であるのだが、瑛人はこの日のライブ自体も「あっちゅうま」であると口にしていたけれど、森山直太朗の相棒としてもおなじみの御徒町凧が歌詞を共作していることもあって、人の心もあっちゅうまに移り変わっていくという人生の真理を、こうした少し砕けた言い回しによってあくまでポップな聴き心地に着地しているというあたりはもはやさすがとすら言えるレベルである。
つまりはこうして初めてライブを観ることによって、一発屋なわけではないだろうと思っていた瑛人への評価がさらに確信的なものになった。それはヤバTがそうであるように「今まで誰も歌詞に使っていなかった、でも誰が聴いてもわかるような単語を使って歌詞を書くアーティスト」であるということ。ヤバTと瑛人が最も通じ合っているのはその言語に対する感覚なのかもしれないとも思っている。
1.Hey brother
2.HIPHOPは歌えない
3.ピース オブ ケーク
4.ハッピーになれよ
5.らんちゅう
6.ハッピーウェディング前ソング
7.香水
8.あっちゅうま
・ヤバイTシャツ屋さん
そんな瑛人の後というそうそうない空気の中でのヤバT。おなじみの「はじまるよ〜」の脱力SEが流れてメンバーが登場すると、もりもりもと(ドラム)が観客の歓声を聞いてガッツポーズをし、しばたありぼぼ(ベース&ボーカル)は鮮やかな金髪姿で、こやまたくや(ボーカル&ギター)は全く変わることない真っ黒な出で立ちで、
「ツアー8本目!ヤバイTシャツ屋さんです!」
と挨拶すると、この日の1曲目は「喜志駅周辺なんもない」でスタートし、曲中にはおなじみのコール&レスポンスもようやく観客のレスポンス声量MAXで行われるのであるが、
「瑛人のライブめっちゃ良い」「瑛人めちゃセンスある」
と後輩を褒め称えるようなコール&レスポンスになると、さらにはいきなり客席をど真ん中で分けてウォールオブデスをさせ、さらにはアウトロ部分で「香水」のパンクバージョンのサビを演奏して、
「「香水」はもう俺たちのもんだー!」
と叫ぶという、1曲目から余りにも多すぎる情報量。それは紛れもなく瑛人との対バンであるこの日をさらに最高のものにしようとするがゆえのものである。
そんなオープニングから、もりもとのツービートがパンクに疾走する「無線LANばり便利」でタイトルフレーズの大合唱を起こすと、もうこの序盤からダイバーが壁のようにリフトしてから転がっていく。こやまはそのダイバーを指差して「ええやん!」と声をかけたり、
「コロナが明けすぎている!」
と言うあたり、その光景を見ることができて本当に嬉しそうであるし、フェスなどでは今年に入ってからそうした光景を見れるようになってきたけれど、ようやくヤバTのライブハウスのツアーにおいてその光景が、楽しみ方が戻ってきたのである。
さらには今年リリースの最新アルバム「Tank-top Flower for Friends」のタイトル曲とすら言える「Blooming the Tank-top」でしばたがAメロで無表情で右足だけを動かしながら演奏するというシュールさからこやまのデス声、そしてサビでのキャッチーなメロディと目まぐるしく展開して行くのであるが、アルバムのツアーからフェス、そしてこのツアーとライブで欠かさずに演奏されてきたことによって明らかにさらにバンドの中に馴染んでいる感がある。これまでの代表曲たちと同じように演奏できるようになっているというか。
CDを買って初めて聴いた時に爆笑してしまったのを今でも思い出すくらいにインパクトがある「げんきもりもり!モーリーファンタジー」では曲の主人公であるもりもとのセリフ部分でこやまとしばたが真顔になっているのが実にシュールであるのだが、そのセリフ部分のもりもとの歌唱が実に熱さを帯びるようになっているのも自分たちのツアーかつライブハウスという状況であることが関係していると言えるだろう。
未だにこやまが観客による手拍子が鳴り響く中で
「新曲」
と言ってからギターを弾くということをやめない「癒着☆NIGHT」では最後のサビ前で観客が手拍子をする中でやはり大量のリフトが発生すると、こやまもいつも以上に気合いを込めるようにして
「うまいことやろうぜー!」
と言ってから一気にダイバーが転がっていく。そこにはこうした楽しみ方を求めるバンドと、そうした楽しみ方をしたい観客との想いが確かに交わっているように感じられる。
そんな流れから一息つくようなMCではしばたが横浜を「縦海」と絶妙にわかりづらい形で逆に言ったりしながらの挨拶的なものになるのだが、
「昨日の10-FEETのライブにNHKから花が届いてた。これは10-FEET紅白確定演出や。ヤバTはずっとNHKでラジオやってるのに花が来ない(笑)こんな楽しいライブするバンドが紅白出てないっておかしくない?(笑)」
とやはり今年も紅白への思いを口にするこやまは早くもこの日の観客の熱さを
「横浜、めっちゃええやん。もうコロナどうとかなる前よりすごいやん。さすが瑛人を生んだ街」
と称えるのであるが、そんな熱狂っぷりでも結構ヤバTのライブに来るのが初めての人も、ライブハウスに来るのが初めての人もいたというあたりはヤバTがそうした初体験のきっかけ的なバンドになっているということである。
このツアーは来月リリースされるベストアルバムを控えてのものであり、リリース後もツアーは続いていくのであるが、ここからは明らかにベストには収録されないであろうレア曲もふんだんに演奏されていく。
その口火を切るのは最新アルバム収録の「俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ」であるのだが、その何とも切ないけれど共感を呼ぶこと必至な歌詞とは裏腹に、サウンドは実にシャープなギターロックというカッコよさとのギャップが凄まじい曲だなとライブで聴くことによって改めて思わされる。
さらには歌い出しでこやまとしばたが歌声を重ねるのが実にキャッチーな「小ボケにマジレスするボーイ&ガール」はサビで観客たちが一気に飛び跳ねまくるというのも実に楽しい曲であるが、やはりこの曲も歌詞とのギャップが凄まじい曲であり、そこから一気に初期の名曲「ウェイウェイ大学生」へと繋がっていく。コロナ禍ではよくわからない振り付けが加わるという楽しみ方もあった曲であるが、この日はしばたの歌唱パートでこやまがしばたの前に立って邪魔するというおなじみのパフォーマンスはあったけれどストレートに曲を演奏して楽しむという形であり、こうしてこの曲が聴けることの喜びを感じさせてくれるのである。それはリリースから7年も経ってもこの曲のキャッチーさは全く変わることがないからである。
そんなヤバTのベストアルバムに収録される新曲「BEST」は収録曲リストとタイトルが発表された時から薄々内容はわかってはいたが、
「ベストアルバムを出せってレーベルや事務所に言われたわけでもないのに、自分たちが出したいから出すことにした」
という、ヤバTのベストアルバムに入る新曲だからこそのシュール極まりない歌詞。
「プレイリストで事足りるのに」
という歌詞もあったが、ヤバTのベストアルバムは間違いなく現物をCDとして買うからこそ意味があるものになると思っている。この曲も間違いなくその要素を担う曲であるだけに、CDの歌詞カードでおなじみのこやまの曲解説も含めて楽しみになる曲である。
そして「瑛人の「香水」と交換した(笑)」という、瑛人がカバーした「ハッピーウェディング前ソング」の本家バージョンが演奏されるのであるが、先ほどのMCでも
「あんな「キッス〜」「入籍〜」って歌われたらそのフレーズ歌う回数減っちゃいそう(笑)」
と言いながらもしっかり原曲として歌うのであるが、さりげなく照明が「KISS」の文字になっているというあたりが、演奏している姿や鳴っている音がメインでありながらも最低限のらしい演出をするというヤバTのライブならではのものだ。やはりライブハウスで演奏されるこの曲で大合唱だけではなくてダイバーが続出する光景は見ていて実に幸せな気分にしてくれる。
そんなヤバTはNHKでラジオ番組をずっとやっているのであるが、
こやま「NHKって滅多にピー音入らないのに、瑛人がゲストで来た時だけピー音入ること言った(笑)」
という話から珍しく下ネタ(しばたも普通に言いまくる)の応酬となるのだが、もりもとが
「俺らはそういうの言いそうで言わないのがいいのに!」
と冷静に反応するも、そのもりもとも先日下ネタを言いまくっていたということが明かされ、さらにはこやまは以前瑛人とすぐ近くに住んでいたらしいのであるが、だからこそたくさんエピソードがあるかと思いきや全然何も出てこずに、むしろ
こやま「昨日10-FEETのライブ行った人いる?少なっ!同じ事務所なのに客層全然被ってないやん!(笑)
昨日のセトリで何が良かった?やっぱり「BE NOTHING」よな〜!」
という10-FEETが好きすぎるからこその10-FEETトークの方が盛り上がるということに。
そして
「なんで瑛人のライブでダイブしなかったん?「HIPHOPは歌えない」でダイブすればよかったやん(笑)」
と言いながら、瑛人のライブのチルな空気を自分たちのライブでも出すべく、もはやBuyer Client名義の設定はどこに行ったのかというくらいに普通にもりもとが曲再生して「dabscription」を歌い始めるのであるが、曲途中でバンド演奏になってパンクに切り替わる部分を待つようにリフトしている人がたくさんいるのが実に面白い。この曲でこうした光景が見れるようになったのも規制のなくなったライブハウスだからだ。
その熱狂はもりもとの歌唱フレーズにも実に力が入る「Universal Serial Bus」へと続き、ダイブはもちろん客席前方の両サイドでは激しいサークルまでもが発生すると、サビで観客が飛び跳ねまくってコーラスフレーズでは合唱も起きる「KOKYAKU満足度1位」へと続いて行くというのは実にベスト的なツアーのセトリらしくもあるのだが、そこはツアー中も毎回ライブごとにガラッとセトリを変える(だからこそツアー中でも公式アカウントが毎回セトリを公表している)ヤバTであるだけに、何通りものベスト的な流れをもってこのツアーを回っていくのだろう。
それはやはり歌い出しからダイバーとサークルが続出しまくる、ヤバTの曲の中でも屈指の激しさを誇る「Tank-top in your heart」へと続いていく。
「Tank-topの力で さあ、Punk Rockを超えれるか」
という歌詞の通りに、ヤバTは自分たちだからこそのTank-topの力でこれまでのロックシーンに脈々と受け継がれてきたパンクを更新しようとしている。そのためにはやはりこうした自由な楽しみ方ができるライブハウスでなければダメなのだ。
そしてステージが赤と青の照明で交互に照らされる「あつまれ!パーティーピーポー」ではもちろん大合唱が起こりながらサビでは腕が左右に揺れまくる。フェスなどでは基本的に1曲目か最後の曲として演奏されることが多いだけに、こうしてそのどちらでもない位置で演奏されるのが新鮮でもあるのだが、それは夏が過ぎてもこうしてセトリのクライマックスの一つを担うようになった「ちらばれ!サマーピーポー」に繋がるためということもあるだろう。その「ちらばれ!〜」ではもちろん間奏でサークルを作ることをこやまが指示するのであるが、その際に
「今日はちょっと柵が多いけど〜」
とZeppの客席の特性を理解しているのはさすが元々は10-FEETなどのライブに行っていたライブキッズである。ということでこの日は客席左右に分かれていくつかの小さなサークルが発生するというZeppならではの形に。個人的には翌日の千葉LOOKの規模でこの曲がどんな光景を生み出したのかというのが気になる。チケットが取れなかっただけに。
そして改めてこやまがこの日のノリの最高っぷりを口にして、
「ほんまにライブハウスって楽しいなぁ!」
と、もうそれしかないだろうというようなことを口にすると、それをさらに最高のものにするために演奏された「ヤバみ」はやはり音源よりもさらに速さと熱さを増しているのであるが、最後のサビ前で手拍子が起こりながらリフトしていく観客の数はこの日最大と言っていいくらいだった。こやまも
「気をつけろよ!」
と言っていたくらいの乱立っぷりは、そのままこの日のライブがどれだけ激しかったのか、熱かったのかということを示していた。
そんなライブの最後を締めるのは「Give me the Tank-top」であり、数々のキラーチューンや代表曲的なアンセムもあるヤバTがこの曲をライブの最後に選んだのは、コロナ禍になってライブハウスに入れる人数を減らしたり、椅子を置いたりしていた時期に願いを込めるようにして演奏していたこの曲がようやくその願い通りに規制がなくなったライブハウスで演奏できるようになったからだ。特にZepp Tokyoでは5日間で10公演も行ったりしたけれど、ヤバTの聖地の一つと言えるそのZepp Tokyoはもうなくなってしまった。でもこうして新しいZeppができて、そこでまたヤバTのライブを観ることができているというのも、あの頃にいろんなことを言われながらもヤバTがライブをやり続けることで守ってきたものがあるからだ。
そんなことを思い出してしまいながら聴いていたから、この日のこの曲で感動して泣けてきてしまった。そんな感情にさせてくれるライブを見せてくれるバンドだからこそ、これからも
「うるさくてくそ速い音楽を もっと浴びるように 着るように 聴く」
のである。
アンコールで再び3人がステージに現れると、まずは瑛人もステージに呼び込んでの記念撮影。その際に
「タオルを掲げていいのは1番後ろの人だけ」
と配慮するのも、
「6+6=12」
という意味不明すぎる掛け声で写真を撮るのも実にヤバTらしいのであるが、しばたがベストアルバムの完全限定生産盤に付属する、タンクトップくんが実に可愛らしいバスタオルを羽織っているあたりもCDの宣伝に余念がないヤバTしさである。
そんなアンコールではこやまが
「3つ目の柵から後ろの人たちだけ、この曲の時は動画撮っていいよ!SNSにあげるのは切り取った30秒だけな!前の方にいる人はライブハウスの熱さを見せてやろうぜー!」
と言って怒号のような歓声が上がる中で演奏された「かわE」ではやはり前方ではダイバーが続出し、後方ではその様子を撮影するという構図になるのであるが、全体が撮影OKというのではなくて後方だけというあたりが安全に配慮している(前の方で撮影していたら確実にスマホが吹っ飛ぶ。タオルや靴の落とし物がライブ後にたくさん並びまくっていただけに)ヤバTらしさでありながら、今ライブハウスではこうやって楽しんでるんですよということをまだライブハウスに来ていないような人にも伝える、実に良く考えられた取り組みである。
もちろんそこにはバンドの演奏が拡散されることによってその楽しさを伝えられるという自信があってこそのものであるが、照明が「KAWA E」の文字を映し出しながら、最後のサビでは「ヤバみ」をも凌ぐくらいのリフトとダイバーが続出し、こやまも
「よくできましたー!」
といつも以上の笑顔と伸びやかさで口にしていた。
さらには
「ヤバイTシャツ屋さんの大ヒット曲やります!」
と言って演奏されたのはなんと「香水」のヤバTバージョンと言えるパンクアレンジでのフルコーラスカバー。
「なんで瑛人の曲でダイブしなかったん?」
という先ほどの言葉を自ら回収するというように瑛人の曲でダイバーが続出しまくるのであるが、このカバーがあまりにハマり過ぎていて、本当にヤバTの曲にしていいくらいだったので、是非とも音源化してもらいたい。特に「ガッバーナ」の部分でのもりもとのドラムのカッコよさたるや。そうしたアレンジがこの曲の名曲っぷりをさらに際立たせている。
そんな瑛人との対バンだからこそ(さすがにツアーの他の対バン相手の時にはやらないだろう)のカバーの後に最後に演奏されたのはイントロで同期のピアノの音が鳴ると同時に手拍子が鳴り響き、観客がサビで大合唱する「NO MONEY DANCE」。合唱とともにダイバーが転がりながら最後は全員でピースをするというのは、「Give me the Tank-top」同様に、リリース当時は見ることが出来なかったこの曲の真価をようやくライブハウスで発揮できるようになったと言えるだろう。演奏が終わった後にどこか名残惜しそうに長い時間ステージに止まってピックやスティックを客席に投げていたメンバーの姿からも、この日のライブへの手応えを確かに感じられた。それは我々顧客側も、こんなど平日に縦海のライブハウスまで来て本当に良かったと思うくらいに楽しかったからこそ。
それはつまりこれからヤバTのライブはもっと楽しくなっていくということであり、そんなツアーがまだ40本近く残っている。出来る限り行きたいとも思うけれど、千葉LOOKのように近くてもキャパ的にチケットが取れないライブハウスもたくさんある。でも間違いなく言えるのは、47都道府県全通したとしてもヤバTのライブは飽きることなんか絶対ないということ。それくらいに毎回全く違うライブを見せてくれるから、またすぐに観たくなってしまうのだ。
1.喜志駅周辺なんもない (香水ver.)
2.無線LANばり便利
3.Blooming the Tank-top
4.げんきもりもり!モーリーファンタジー
5.癒着☆NIGHT
6.俺の友達が俺の友達と俺抜きで遊ぶ
7.小ボケにマジレスするボーイ&ガール
8.ウェイウェイ大学生
9.BEST
10.ハッピーウェディング前ソング
11.dabscription
12.Universal Serial Bus
13.KOKYAKU満足度1位
14.Tank-top in your heart
15.あつまれ!パーティーピーポー
16.ちらばれ!サマーピーポー
17.ヤバみ
18.Give me the Tank-top
encore
19.かわE
20.香水
21.NO MONEY DANCE