ストレイテナー 「25TH ANNIVERSARY ROCK BAND」 @日本武道館 10/15
- 2023/10/17
- 22:27
良い変化しかなかったけれども、バンドの形が変わりながらもストレイテナーは結成から25周年を迎えた。もうそんなキャリアになるのかとも思うけれども、自分がバンドに出会って、初めてライブを観てからもう20年も経っているということを考えると、確かに25周年なんだなと改めて感じる。その周年を記念した日本武道館ワンマンは楽曲の人気投票の上位30曲を元にセトリを組んだ2013年以来、バンドとしては通算3回目のこの会場でのワンマンとなる。
開演時間の直前になってもたくさんの人が並んでいる物販はすでに売り切れ商品が多発しており、改めてストレイテナーがたくさんの人に愛されていることを感じさせてくれるのであるが、武道館の客席に入ると2階は立ち見席や見切れ席まで人がいるくらいの超満員っぷりであるのがより一層そう思わせてくれる。
なので人で埋め尽くされた場内が開演時間の17時30分を少し過ぎたあたりで暗転すると、ステージ背面の巨大なLEDスクリーンが真っ白に染まる中でSEもなしにメンバー4人が登場するのであるが、それぞれが立ち位置に着く前にステージ真ん中で4人が固まって肩を組むようにして満員の客席を自分達の目に、脳内に焼き付けるようにして見渡す。その姿を見ていきなり驚いてしまったのは、かつては尖っているというくらいにクールなメンバーたちのバンドだったからである。
そうして登場してから少しの間を置いてからメンバーが持ち場に着くと、真っ白な光を背面から浴びながらホリエアツシ(ボーカル&ギター)がギターを鳴らしながら歌い始めたのはこの4人になって最初に作られたアルバムのタイトル曲である「ネクサス」であり、サビになるとスクリーンにメンバー紹介的にホリエ、ナカヤマシンペイ(ドラム)、日向秀和(ベース)、大山純(ギター)と、バンドに加わった順番にメンバーがそれぞれアップで映し出されるとともに名前も表示されるというオープニングであるのだが、
「僕らはたまたま同じ船に
乗り合わせただけの赤の他人じゃないのさ
わかっていたんだ」
というフレーズでホリエが明らかに全方位に向けるようにして歌っていたのは、その歌詞が示しているのがバンドのメンバーだけではなくて観客、ファンの一人一人もそうであるということであり、この段階ですでにこの日が本当に素晴らしい、特別なものになることがはっきりとわかった。
大山と日向の楽器がハモるように重なり、メガネをかけた鮮やかな金髪のシンペイが激しくドラムを連打してから四つ打ちのリズムになる「Little Miss Weekend」と続くと大山がその場で足を交互に上げるような動きを見せ、客席からも無数の腕が上がる。ひなっちのうねりまくるベースのイントロから始まり、それぞれの楽器がぶつかり合うように鳴らされる、この4人で鳴らすからこそのバンドのダイナミズムを持つ形に進化した「泳ぐ鳥」と、序盤は実にロックなテナーのカッコよさを存分に感じさせてくれるものになっている。特に最後のサビに入る前にホリエが「オイ!」とさらにバンドを鼓舞しながらも観客を煽るようにして演奏された「泳ぐ鳥」の、広いステージでもバンドの音がギュッと固まっているかのような密度の濃さを感じさせる演奏はテナーのライブだからこそ味わうことができるものである。
「俺たちストレイテナーって言います!」
と挨拶するホリエの後ろでシンペイがウインドチャイムを煌びやかに鳴らすと、この序盤で早くも「Melodic Storm」が演奏されることによって早くも何とも言えないクライマックス感を感じさせるのはこの会場が武道館だからであり、サビに入る前の
「指先に触れる瞬間に」
のフレーズで大山が右手の人差し指を高く掲げるからでもあり、また最後にホリエが
「歌ってくれ!」
と言ってマイクスタンドから離れると、シンペイがリードする形となって
「Blow! The Melodic Storm」
の大合唱が響き渡るからであるが、そんな景色を作り出せる曲をこの序盤で演奏できるくらいに今のテナーはこの曲の後を担える楽曲をたくさん作ってきたということである。
それは「ネクサス」同様に初めてこの武道館でワンマンをやったタイミングでリリースされた「Ark」もそうであるのだが、
「気流が乱れてうまく飛べないけれど
少しでもいいから近付いていたい
煙る雨 軋む羽
未来へと運ぶ舟
思考が暴れてうまく言えないけれど
今だけでいいから抱き締めていたい
強く願い 繋ぐ世界
未来へと拓く瞬間まで」
という願いを込めるような歌詞の通りの初武道館からここまでの道のりであったと思うし、この曲のスケールはひなっちが笑顔を浮かべながら演奏しているのを含めてやはりこの会場が実によく似合う。
そんなスケールの大きさから一転してバンドの日常と言えるツアーの風景を描いたような「Graffiti」へと至るというのがテナーの初武道館からここまでの変遷を感じさせるというか、こうした日常的な風景を描く曲というのはかつてはほとんどなかった。でもそんな曲が生まれるようになったのもわかる。それは今のテナーがソリッドなギターロックだけではなくて、こうした人間の体温の温かさを感じさせてくれるような曲を生み出すバンドにもなったからである。
とはいえここまで全く曲間を挟むことなく曲をひたすら連打してきたのであるが、ここでもまだMCを挟むことなく、重い同期の音が流れるとともに背面のLEDに朝日が昇るような美しい映像が映し出されて演奏されたのは「DAY TO DAY」であり、サビでのホリエの歌唱が一気に開放感を感じさせながらも、アウトロではシンペイの細かく速く刻むドラムを軸にして、大山がステージ端まで行ってギターを弾きまくったりという激しい演奏へと展開していくのがやはり鳴らしている音はいつだってバチバチのテナーらしさである。
この日ホリエは後のMCで
「1日1日、一歩ずつ」
的なことを口にしていたが、その言葉を聞いた時に真っ先に浮かんだのがこの曲だったという人もたくさんいたんじゃないかと思う。
基本的にテナーはワンマンでもライブハウスの時などは映像を使ったりするタイプのバンドではないけれど、この日はその「DAY TO DAY」含めて武道館の規模感ならではの映像演出も曲によっては用いられており、続く「タイムリープ」では白い羽根とともに歌詞の言葉の一つ一つが次々に散らばって舞っていくような映像とともに演奏される。今でこそ当たり前に定着した「タイムリープ」という言葉もこの曲がリリースされた時はまだそこまで使われていたわけではないイメージだったし、こうした演出ができるのは普遍的でありながらもこの曲でしかない歌詞で紡がれているからだよなと改めて映し出されていく歌詞を見て思う。
すると一転して薄暗くなったステージの上でホリエがキーボードを弾き始めると、メンバーの足元にはスモークが焚かれて真っ白に染まっていく中で演奏された「Braver」はその演出があってこそより一層未だ見ぬ暗闇の中を力強く進んでいくという感覚を得られる。それはホリエがサビ前に
「君がいるから」
と言って客席を指差し、大山がステージ端の方で激しく動き回りながら演奏する姿によって感じさせてくれるものでもある。
「Braver」では立ったままキーボードを弾いていたホリエが座ってキーボードに向き合って美しい旋律を響かせるのは「Toneless Twilight」で、やはりこの日はあらゆるタイプのテナーの名曲たちが惜しげなく演奏されていくことがわかるし、この前半のホリエのキーボード曲はメロディの美しさとバンドサウンドのダイナミズムを両立したような曲になっている。
そのバンドのダイナミズムが一旦の極まりを見せるのは「宇宙の夜 二人の朝」であり、特にシンペイのドラムとひなっちのベースという今やバンドシーン屈指のリズム隊と言える存在である2人の重さと強さは今なおテナーがロックバンドとしてライブを重ねることで進化を遂げている象徴ですらあると思わせてくれるようなものになっている。
しかしそんなメンバー(特にひなっち)はMCになると途端に緩くなり、
ホリエ「今日この周りでマラソン大会が開催されるから道が混むかなと思って早めに出たらむしろめちゃ空いてて早く着いた。なんなら衣装忘れて一回戻ったのに(笑)」
ひなっち「めちゃ空いてたよね。早く着き過ぎたから俺もマラソン出ようかなと思ったもん(笑)」
という、今それ?と思ってしまう会話が繰り広げられるのであるが、早くもMCを振られた大山は
「今日も皆さんのMCを楽しみにしております(笑)」
と最初は遠慮がち。しかしながら最終的にはひなっちが
「5年後の30周年の時には武道館で2daysやるから。みんな友達呼んで来いよ!」
と締め、まだまだテナーが止まることなく走り続け、武道館クラスのキャパでライブをやろうという意識を持ち続けていることを感じさせてくれる。
そんなMCの後に演奏された「246」はMCの話にあった、メンバーが車を運転する時の情景が浮かんでくるような素朴さを持った今年リリースの曲であり、タイトルこそ車道の名称であるけれど、テナーが「東京」をテーマにした曲をこの東京の象徴的な会場である武道館で聴けるのも感慨深い。
すると一気にバンドのサウンドが激しさと力強さを増し、客席ではイントロから拳が振り上がるのは前回の武道館ではホーン隊をゲストとして招いて演奏されたことが未だに強く記憶に残っている「From Noon Till Dawn」であり、もしかしたら今回もそうした特別なコラボがあるだろうか?ともライブ前には思ったりしていたが、それをやらずに4人だけで演奏したのはこのライブ前にリリースされた新しいベストアルバムのタイトルが「フォーピース」という今のテナーの形を示すものであるとともに、大山とホリエの絡み合うギターを聴いていたら、もうそのフォーピースでのサウンドでこの曲は完成していると思えるくらいだった。
そんな4人でのサウンドがさらに激しさを増していくのは、シンペイのドラムが細かく刻まれながら驚異的な手数を持って叩かれる「シンデレラソング」であり、ひなっちのゴリゴリのベースも含めてやはりこうした曲ではリズム隊の強さを改めて実感できるのであるが、一転してメンバーの姿がはっきりとは見えないくらいに真っ暗になった中でホリエが
「(人気投票)87位の曲(笑)」
と自虐するように言ってから演奏された「Owl」はその照明の演出も相まって、ここから夜が到来し、メンバーはその夜の闇の中で蠢くクリーチャーであるかのようにすら感じられる。こうした人気があるわけではないことを自覚してしまうような曲にもこの規模で最適の演出をもって演奏されるというあたりはさすがである。
そんな暗闇が晴れるようになってから大山がギターを刻むようにして演奏されたのは、そのイントロに合わせてシンペイも立ち上がって体を揺らす「DONKEY BOOGIE DODO」であり、かつてのリリース当時よりもはるかに揺れるという以上に踊れるようになっているのはやはりリズム隊のさらなる進化と、サビ前には「オイ!」と煽るように声を上げて飛び跳ねるようにしたホリエが
「日本武道館!」
と歌詞を変えて歌ったことによる高揚感も含めてのものであろうけれど、誰よりも大山がステージ上で踊るようにしてギターを弾いているのが、この日この曲が演奏された何よりの理由であるように思える。
そんな4人で進んできた15年(大山が加入してからの方がもはや圧倒的に長くなっていることに今更ながら驚いてしまう)の月日がそのまま曲になっているかのような「群像劇」はそのどこかジャズなどの要素も含んだサウンドがまさに
「きみは行く 未知なる方へ」
という歌詞の通りに今もテナーが未知なるサウンドを求めて旅しているかのように鳴らされると、まるで絵本の中に誘われるかのような美しい映像とともに演奏されたのは何と新曲。本人たちも最近は何も言わずに新曲を演奏することにハマっているようだが、
シンペイ「何人かは「2人時代の曲だ」って思ったかもしれない」
ひなっち「その頃にこの曲作ってたらホリエ氏天才でしょ。まぁ今も天才だけど(笑)」
と褒めちぎるくらいにメロディも映像同様に美しい曲であるのだが、サビでの
「気付いて傷ついて」
のフレーズが印象に残る曲でもあるだけに、早く歌詞の全貌を見ながら聴きたい曲でもある。
そんな新曲に続いて演奏されることによって、まるでこの曲がその続きかと思うように響く、ホリエがキーボードを弾きながら歌うバラード「シンクロ」が実に沁みるし、一輪の花が連なっていくような映像がこの曲のイメージを見事に可視化している。ホリエのファルセットも交えた歌唱がさらに曲の温かさや優しさを引き出しているかのようですらある。
するとここで再びMCになるのだが、シンペイがステージ左右の通路を歩きたいという、演奏中は移動することができないドラマーだからこその意見を口にするも、まだここでは叶わず、ホリエが前述の通りに
「1日1日…」
と口にするのを聞いたひなっちは
「何ロックスターっぽくないこと言ってるんだって思ったけど、初武道館の時にホリエ氏は
「俺はみんなのために曲を作ってない。自分のためだけに作ってるから」
っ言ってて。聞きながら内心「ええ!?」って思ってた(笑)」
と14年前のことを思い返すとホリエは今は
「俺が1番このバンドの曲を好きじゃないといけないし、1番ストレイテナーを、この4人を好きじゃないといけない。今こうして目の前にいてくれる、我々の音楽を聴いてくれるあなたは希望です」
と言った。それは14年前のMCがこの日のためのフリだったのかと思うくらいに真逆のことであるが、本当にテナーは変わった。というかホリエは変わった。今でこそフェスの客席なんかで見かけて声をかけると笑顔で握手してくれたりするが、昔はとても話しかけられるような空気じゃなかったし、MCすらも全くしないようなバンドだった。そんな尖っていたホリエが丸くなった。それはでも決して悪いことじゃないということを今のテナーのライブが示しているのは、物語のような曲だけではなくて、ホリエが本来持っていた人間としての温かさや優しさを感じさせてくれるような曲が生まれるようになって、こうしてライブに来ている人たちがテナーのそうした部分を愛していて、その人たちで武道館が満員になっているからだ。何より、MCも含めて昔よりもはるかにテナーのライブは楽しくなった。この日の武道館はそんなホリエの変化を改めて実感させてくれるような場所でもあったのだ。
そんなテナーのリリースされている曲としては最新曲である「Silver Lining」はやはり今でも「Silver」というさりげなく輝く色が似合うのがテナーであることを改めて示すような曲であり、シンペイの連打するドラムの上でホリエが
「ハニー大丈夫さ」
と歌う瞬間に何度聴いてもドキッとしてしまうのは、やはり昔だったら絶対にこんな歌詞は書かなかっただろうと思うからである。
そんな最新曲から突入した終盤は現在のテナーのライブ定番曲であり、今の代表曲の連打に次ぐ連打となるのであるが、その口火を勢いよく切るのが「REMINDER」であるというのは昔からのファンとしては実に嬉しいし、大山のギターが加わってさらに鋭さが増しているのがわかるのも、シンペイのコーラスが重要な役割を果たしているのがわかるのも嬉しい曲である。
続いてイントロでは同期の音も使いながら、1曲の中でバンドの静の部分と動の部分を両立して表現するかのようにサビで一気に解き放たれていく感覚になる「冬の太陽」ではやはりスクリーンに太陽が昇っていくことを思わせるような映像が映し出され、サビのホリエが吠えるように口にするフレーズは今やテナーのライブではおなじみの合唱ポイントとなっている。それがこの曲を今のライブアンセムの一つたらしめていると言っても過言ではない。
するとわずかな曲間の静寂を切り裂くようにしてホリエがギターを弾きながら歌い始めたのは「シーグラス」。もはやその瞬間に空気が変わると言っていいレベルの名曲であるが、個人的にこの曲をこうした規模の屋内の会場で聴くと思い出すのは、テナーのコロナ禍になってからの初めて有観客ライブとなった、中野サンプラザでの中津川ソーラー武道館の公開収録ライブ。あの時は海に向かうことなんて全く想像できない中で聴いていたこの曲を、今はまたいろんな場所で聴くことができている。もちろんその中には海の近くの場所だってある。そうした場所に毎年足を運んではそこでテナーのライブを観てこの曲を聴いて、何度だって今年最後の海に向かいたいと改めて思う。最後のサビでひなっちがクルッとその場で回りながら笑顔で演奏している姿は本当に毎回グッと来てしまう。今やテナー最大の名曲にして、たくさんの人の大切な想いが乗ったアンセムだと言っていいだろう。
さらには大山のギターのサウンドがまさに泣き叫んでいるかのように鳴らされる「叫ぶ星」と、この辺りになるともはや演出どうのというよりもバンドのダイナミズムと気合いを見せるというくらいのレベルになってきているのであるが、それは普段のライブよりもはるかに長いライブになっていることで感じられることだろう。少しでもたくさんの曲を今この瞬間に鳴らしたいという思いがバンドが鳴らす音の力になっているかのような。だからここに来てもなおシンペイのドラムはまだライブ序盤であるかのような力強さを保っている。
しかしながらそんなライブもいよいよ終わりの時が訪れる。ホリエが、最もバンドを愛さなければいけない立場としてこれからのバンドへの想いを
「これからもストレイテナーに着いてこい!」
と力強く込めるようにして演奏されたのはテナーの始まりの曲の一つと言えるような「ROCKSTEADY」であるのだが、スクリーンにはまだ下北沢の小さなライブハウスでホリエとシンペイの2人だけで活動していた若き頃のライブ映像が映し出される。そこから徐々に現在に向かって過去の重要なライブの映像が流れるのであるが、その映像の前で演奏している4人の姿を見て感極まってしまうのは、ひなっちと大山の2人がいる今のテナーこそが1番カッコいいということを目の前で示してくれているからだ。過去の映像よりも、今この瞬間こそが最高であるから、
「僕らは急がなくちゃ 先を急がなくちゃ」
という言葉の通りにテナーが生きてきたことがわかる。過去の映像ばかり見てしまいそうになるけれど、今この瞬間の演奏しているメンバーの姿が画面に4分割で映し出されるのがやっぱり1番カッコよかったのだ。
そんな、もうこれで終わりだったとしても文句はないというくらいの最高の本編を経てのアンコールでは近年のライブではおなじみのSEである「STNR Rock and Roll」が流れると、ホリエが何とハンドマイクを持ってステージに現れて、今まではSEとして流すだけだったこの曲をメンバーが演奏して、ホリエが歌っている。コーラス部分ではステージ前に出てきて客席にマイクを向けると勇壮な大合唱が響く。それを聴いて本当の意味でこの曲が完成したんだなと思った。それは観客が声を出すことができなかったりという規制があったコロナ禍を乗り越えて辿り着いた久しぶりの武道館ワンマンで果たされたからこそ、より感慨深いものがあったのだ。
そんなクライマックス中のクライマックスを描いてからホリエがギターを手にすると、大山の浮遊感あるギターサウンドがゴリゴリのリズムの上に乗る「羊の群れは丘を登る」へと続くのであるが、この曲は中津川THE SOLAR BUDOKANの大トリとしてのライブでも演奏されていただけに、間違いなくこの日も演奏されるだろうとは思っていたけれど、こんな位置になるとはさすがに思っていなかった。
「バイバーイ」
のフレーズでたくさんの観客が手を振る仕草を見せるだけに、別れが近づいているこのアンコールにふさわしい曲でもあると改めて思うけれど。
そしてホリエがギターを下ろしてキーボードの前に座ると、そのキーボードを鳴らすホリエと、リズムを刻むシンペイの横に置いてある間接照明のみがステージを淡く照らし出す中で演奏されたのは、今この日この瞬間を慈しむようにして演奏された「MARCH」で、そこにひなっちのベースと大山のギターが加わると、2人の横に置いてある照明も光る。それはもうテナーはこの4人のものであり、この4人こそがテナーであるということを証明するかのようであった。だからこそ曲が終わると何も言わずに1人ずつステージを去って行った後には、確かな余韻が残り続けていた。
その余韻から覚めたかのように再びアンコールを求める手拍子が鳴ると、再びメンバーが登場。シンペイも含めて全員がステージ左右に伸びる通路の先まで行って観客に手を振りながら、まだこれでは終われないのは、最新ベストアルバムの人気投票1位になった曲が演奏されていないから。ということでついにアンコールでその1位になった「彩雲」が雄大な風景の映像を背に演奏されるのであるが、天井からは紙飛行機のようなもの(なんかもっとカッコいい言い方があった気がするけど忘れた)が、この日を、バンドの25周年を祝福するかのように降り注ぐ。スタンド席まではそれが飛んで来なかったために、どんな言葉が書かれていたのかはわからないが、4人になってからはさらに幅広く様々なジャンルのサウンドを取り入れてきた中で1位に選ばれたのがこの曲であるということが、今のテナーの魅力がどこにあるのかということを物語っている。これは初回の武道館の時には絶対に見ることが出来なかった景色であるから。それを今この瞬間に自分の目で観ることができていて、本当に幸せだと思っていた。
しかしそれでもまだメンバーはステージから去らず、ホリエは
「次に武道館でやる時はこんなに曲数できないかも(笑)あとMCが長くなって、チケット代も高くなるかも(笑)」
と、やはりこの日のライブが限界を超えるくらいのもの(メンバーの表情などからは全くそんな感じはしないけれど)だったことを感じさせると、それぞれ最後に一言ずつということで、
ひなっち「またすぐにライブで会いましょう」
シンペイ「次のライブは下北沢SHELTERです。みんな来てね!」
と言って、シンペイはホリエに
「もう行ける人決まってるから(笑)」
とツッコミを入れられるのであるが、大山は
「僕、普段耳栓をしているんで、みんなの声があんまり聞こえないんです。でも今だけは外すから、みんなの声を聞かせてください」
と言って観客の雄叫びを聞くと、満足そうな表情で
「良い人生だ」
と言うのであるが、そこに深さを感じるのは、かつて成人の日に向けて書かれた大山のコラムが、ART-SCHOOLのメンバーとしてデビューしてから一度音楽を廃業して、こうしてテナーのメンバーになるまでに本当に様々な葛藤や困難を経てきたことを思い出してしまうから。そんな大山が今こんなことを言っているのだから、もう感極まらざるを得ない。
そしてホリエが
「明日、10月16日はストレイテナーのデビュー記念日。だからデビュー曲をやって終わります!」
と言った瞬間にイントロが鳴らされると、武道館の客電が点いて明るくなるという、武道館の最後の曲だからこその演出が。前回の武道館の時にこの演出で演奏されたのは「YES,SIR」だったが、この日はひなっちが観客とともに腕を振り上げて
「オイ!オイ!」
と叫ぶのは今でも変わることがないデビュー曲「TRAVELING GARGOYLE」。それは始まりの曲でありながらも、
「飛び発って行くのさ 次の時計塔へ」
というフレーズの通りに、まだまだこれからも先に進み続けて行くための曲。つまりは今年観た全てのライブの中でベストクラスというくらいにあまりに完璧な25周年ライブだったのだけど、それを成し得たのはメンバー自身の演奏やパフォーマンスによってこそ。そこに今は我々ファンの想いや感情も確かに乗っている。今までに数え切れないくらいにライブを観てきたバンドだけれど、今までで圧倒的に1番良いライブだった。それはきっとこれから先もテナーはまたこの日を更新するライブを必ず見せてくれるということ。どれだけチケ代が高くなっても、MCが長くなっても、これからもずっと着いて行く。最後にステージ前に出てきて肩を組んだメンバーの姿を見て心からそう思っていた。
メンバーがステージから去ると、スクリーンには来年に「Silver Lining Tour」が開催されることが発表された。これからもそうやって、また次の時計塔へバンドは飛び発って行くのである。
4人になってからは本当にいろんなタイプの曲を作ってきた。ギターロックだけではなく、ホリエがキーボードを弾くバラードや、「Man-Like Creatures」のような我々の予想をはるかに上回るような曲まで。(この日やらなかったけれど)
でもそうして様々なタイプの曲を作りながらも、やっぱりこの日感じさせてくれたのは「ロックバンドってなんてカッコいいんだろうか」というものだった。それはつまりテナーというバンドである限り、その軸はブレることがないということ。絶対に2日とも行くから、5年後にはここで2daysでまたそう思わせてくれ。
1.ネクサス
2.Little Miss Weekend
3.泳ぐ鳥
4.Melodic Storm
5.Ark
6.Graffiti
7.DAY TO DAY
8.タイムリープ
9.Braver
10.Toneless Twilight
11.宇宙の夜 二人の朝
12.246
13.From Noon Till Dawn
14.シンデレラソング
15.Owl
16.DONKEY BOOGIE DODO
17.群像劇
18.インビジブル (新曲)
19.シンクロ
20.Silver Lining
21.REMINDER
22.冬の太陽
23.シーグラス
24.叫ぶ星
25.ROCKSTEADY
encore
26.STNR Rock and Roll
27.羊の群れは丘を登る
28.MARCH
encore2
29.彩雲
30.TRAVELING GARGOYLE
開演時間の直前になってもたくさんの人が並んでいる物販はすでに売り切れ商品が多発しており、改めてストレイテナーがたくさんの人に愛されていることを感じさせてくれるのであるが、武道館の客席に入ると2階は立ち見席や見切れ席まで人がいるくらいの超満員っぷりであるのがより一層そう思わせてくれる。
なので人で埋め尽くされた場内が開演時間の17時30分を少し過ぎたあたりで暗転すると、ステージ背面の巨大なLEDスクリーンが真っ白に染まる中でSEもなしにメンバー4人が登場するのであるが、それぞれが立ち位置に着く前にステージ真ん中で4人が固まって肩を組むようにして満員の客席を自分達の目に、脳内に焼き付けるようにして見渡す。その姿を見ていきなり驚いてしまったのは、かつては尖っているというくらいにクールなメンバーたちのバンドだったからである。
そうして登場してから少しの間を置いてからメンバーが持ち場に着くと、真っ白な光を背面から浴びながらホリエアツシ(ボーカル&ギター)がギターを鳴らしながら歌い始めたのはこの4人になって最初に作られたアルバムのタイトル曲である「ネクサス」であり、サビになるとスクリーンにメンバー紹介的にホリエ、ナカヤマシンペイ(ドラム)、日向秀和(ベース)、大山純(ギター)と、バンドに加わった順番にメンバーがそれぞれアップで映し出されるとともに名前も表示されるというオープニングであるのだが、
「僕らはたまたま同じ船に
乗り合わせただけの赤の他人じゃないのさ
わかっていたんだ」
というフレーズでホリエが明らかに全方位に向けるようにして歌っていたのは、その歌詞が示しているのがバンドのメンバーだけではなくて観客、ファンの一人一人もそうであるということであり、この段階ですでにこの日が本当に素晴らしい、特別なものになることがはっきりとわかった。
大山と日向の楽器がハモるように重なり、メガネをかけた鮮やかな金髪のシンペイが激しくドラムを連打してから四つ打ちのリズムになる「Little Miss Weekend」と続くと大山がその場で足を交互に上げるような動きを見せ、客席からも無数の腕が上がる。ひなっちのうねりまくるベースのイントロから始まり、それぞれの楽器がぶつかり合うように鳴らされる、この4人で鳴らすからこそのバンドのダイナミズムを持つ形に進化した「泳ぐ鳥」と、序盤は実にロックなテナーのカッコよさを存分に感じさせてくれるものになっている。特に最後のサビに入る前にホリエが「オイ!」とさらにバンドを鼓舞しながらも観客を煽るようにして演奏された「泳ぐ鳥」の、広いステージでもバンドの音がギュッと固まっているかのような密度の濃さを感じさせる演奏はテナーのライブだからこそ味わうことができるものである。
「俺たちストレイテナーって言います!」
と挨拶するホリエの後ろでシンペイがウインドチャイムを煌びやかに鳴らすと、この序盤で早くも「Melodic Storm」が演奏されることによって早くも何とも言えないクライマックス感を感じさせるのはこの会場が武道館だからであり、サビに入る前の
「指先に触れる瞬間に」
のフレーズで大山が右手の人差し指を高く掲げるからでもあり、また最後にホリエが
「歌ってくれ!」
と言ってマイクスタンドから離れると、シンペイがリードする形となって
「Blow! The Melodic Storm」
の大合唱が響き渡るからであるが、そんな景色を作り出せる曲をこの序盤で演奏できるくらいに今のテナーはこの曲の後を担える楽曲をたくさん作ってきたということである。
それは「ネクサス」同様に初めてこの武道館でワンマンをやったタイミングでリリースされた「Ark」もそうであるのだが、
「気流が乱れてうまく飛べないけれど
少しでもいいから近付いていたい
煙る雨 軋む羽
未来へと運ぶ舟
思考が暴れてうまく言えないけれど
今だけでいいから抱き締めていたい
強く願い 繋ぐ世界
未来へと拓く瞬間まで」
という願いを込めるような歌詞の通りの初武道館からここまでの道のりであったと思うし、この曲のスケールはひなっちが笑顔を浮かべながら演奏しているのを含めてやはりこの会場が実によく似合う。
そんなスケールの大きさから一転してバンドの日常と言えるツアーの風景を描いたような「Graffiti」へと至るというのがテナーの初武道館からここまでの変遷を感じさせるというか、こうした日常的な風景を描く曲というのはかつてはほとんどなかった。でもそんな曲が生まれるようになったのもわかる。それは今のテナーがソリッドなギターロックだけではなくて、こうした人間の体温の温かさを感じさせてくれるような曲を生み出すバンドにもなったからである。
とはいえここまで全く曲間を挟むことなく曲をひたすら連打してきたのであるが、ここでもまだMCを挟むことなく、重い同期の音が流れるとともに背面のLEDに朝日が昇るような美しい映像が映し出されて演奏されたのは「DAY TO DAY」であり、サビでのホリエの歌唱が一気に開放感を感じさせながらも、アウトロではシンペイの細かく速く刻むドラムを軸にして、大山がステージ端まで行ってギターを弾きまくったりという激しい演奏へと展開していくのがやはり鳴らしている音はいつだってバチバチのテナーらしさである。
この日ホリエは後のMCで
「1日1日、一歩ずつ」
的なことを口にしていたが、その言葉を聞いた時に真っ先に浮かんだのがこの曲だったという人もたくさんいたんじゃないかと思う。
基本的にテナーはワンマンでもライブハウスの時などは映像を使ったりするタイプのバンドではないけれど、この日はその「DAY TO DAY」含めて武道館の規模感ならではの映像演出も曲によっては用いられており、続く「タイムリープ」では白い羽根とともに歌詞の言葉の一つ一つが次々に散らばって舞っていくような映像とともに演奏される。今でこそ当たり前に定着した「タイムリープ」という言葉もこの曲がリリースされた時はまだそこまで使われていたわけではないイメージだったし、こうした演出ができるのは普遍的でありながらもこの曲でしかない歌詞で紡がれているからだよなと改めて映し出されていく歌詞を見て思う。
すると一転して薄暗くなったステージの上でホリエがキーボードを弾き始めると、メンバーの足元にはスモークが焚かれて真っ白に染まっていく中で演奏された「Braver」はその演出があってこそより一層未だ見ぬ暗闇の中を力強く進んでいくという感覚を得られる。それはホリエがサビ前に
「君がいるから」
と言って客席を指差し、大山がステージ端の方で激しく動き回りながら演奏する姿によって感じさせてくれるものでもある。
「Braver」では立ったままキーボードを弾いていたホリエが座ってキーボードに向き合って美しい旋律を響かせるのは「Toneless Twilight」で、やはりこの日はあらゆるタイプのテナーの名曲たちが惜しげなく演奏されていくことがわかるし、この前半のホリエのキーボード曲はメロディの美しさとバンドサウンドのダイナミズムを両立したような曲になっている。
そのバンドのダイナミズムが一旦の極まりを見せるのは「宇宙の夜 二人の朝」であり、特にシンペイのドラムとひなっちのベースという今やバンドシーン屈指のリズム隊と言える存在である2人の重さと強さは今なおテナーがロックバンドとしてライブを重ねることで進化を遂げている象徴ですらあると思わせてくれるようなものになっている。
しかしそんなメンバー(特にひなっち)はMCになると途端に緩くなり、
ホリエ「今日この周りでマラソン大会が開催されるから道が混むかなと思って早めに出たらむしろめちゃ空いてて早く着いた。なんなら衣装忘れて一回戻ったのに(笑)」
ひなっち「めちゃ空いてたよね。早く着き過ぎたから俺もマラソン出ようかなと思ったもん(笑)」
という、今それ?と思ってしまう会話が繰り広げられるのであるが、早くもMCを振られた大山は
「今日も皆さんのMCを楽しみにしております(笑)」
と最初は遠慮がち。しかしながら最終的にはひなっちが
「5年後の30周年の時には武道館で2daysやるから。みんな友達呼んで来いよ!」
と締め、まだまだテナーが止まることなく走り続け、武道館クラスのキャパでライブをやろうという意識を持ち続けていることを感じさせてくれる。
そんなMCの後に演奏された「246」はMCの話にあった、メンバーが車を運転する時の情景が浮かんでくるような素朴さを持った今年リリースの曲であり、タイトルこそ車道の名称であるけれど、テナーが「東京」をテーマにした曲をこの東京の象徴的な会場である武道館で聴けるのも感慨深い。
すると一気にバンドのサウンドが激しさと力強さを増し、客席ではイントロから拳が振り上がるのは前回の武道館ではホーン隊をゲストとして招いて演奏されたことが未だに強く記憶に残っている「From Noon Till Dawn」であり、もしかしたら今回もそうした特別なコラボがあるだろうか?ともライブ前には思ったりしていたが、それをやらずに4人だけで演奏したのはこのライブ前にリリースされた新しいベストアルバムのタイトルが「フォーピース」という今のテナーの形を示すものであるとともに、大山とホリエの絡み合うギターを聴いていたら、もうそのフォーピースでのサウンドでこの曲は完成していると思えるくらいだった。
そんな4人でのサウンドがさらに激しさを増していくのは、シンペイのドラムが細かく刻まれながら驚異的な手数を持って叩かれる「シンデレラソング」であり、ひなっちのゴリゴリのベースも含めてやはりこうした曲ではリズム隊の強さを改めて実感できるのであるが、一転してメンバーの姿がはっきりとは見えないくらいに真っ暗になった中でホリエが
「(人気投票)87位の曲(笑)」
と自虐するように言ってから演奏された「Owl」はその照明の演出も相まって、ここから夜が到来し、メンバーはその夜の闇の中で蠢くクリーチャーであるかのようにすら感じられる。こうした人気があるわけではないことを自覚してしまうような曲にもこの規模で最適の演出をもって演奏されるというあたりはさすがである。
そんな暗闇が晴れるようになってから大山がギターを刻むようにして演奏されたのは、そのイントロに合わせてシンペイも立ち上がって体を揺らす「DONKEY BOOGIE DODO」であり、かつてのリリース当時よりもはるかに揺れるという以上に踊れるようになっているのはやはりリズム隊のさらなる進化と、サビ前には「オイ!」と煽るように声を上げて飛び跳ねるようにしたホリエが
「日本武道館!」
と歌詞を変えて歌ったことによる高揚感も含めてのものであろうけれど、誰よりも大山がステージ上で踊るようにしてギターを弾いているのが、この日この曲が演奏された何よりの理由であるように思える。
そんな4人で進んできた15年(大山が加入してからの方がもはや圧倒的に長くなっていることに今更ながら驚いてしまう)の月日がそのまま曲になっているかのような「群像劇」はそのどこかジャズなどの要素も含んだサウンドがまさに
「きみは行く 未知なる方へ」
という歌詞の通りに今もテナーが未知なるサウンドを求めて旅しているかのように鳴らされると、まるで絵本の中に誘われるかのような美しい映像とともに演奏されたのは何と新曲。本人たちも最近は何も言わずに新曲を演奏することにハマっているようだが、
シンペイ「何人かは「2人時代の曲だ」って思ったかもしれない」
ひなっち「その頃にこの曲作ってたらホリエ氏天才でしょ。まぁ今も天才だけど(笑)」
と褒めちぎるくらいにメロディも映像同様に美しい曲であるのだが、サビでの
「気付いて傷ついて」
のフレーズが印象に残る曲でもあるだけに、早く歌詞の全貌を見ながら聴きたい曲でもある。
そんな新曲に続いて演奏されることによって、まるでこの曲がその続きかと思うように響く、ホリエがキーボードを弾きながら歌うバラード「シンクロ」が実に沁みるし、一輪の花が連なっていくような映像がこの曲のイメージを見事に可視化している。ホリエのファルセットも交えた歌唱がさらに曲の温かさや優しさを引き出しているかのようですらある。
するとここで再びMCになるのだが、シンペイがステージ左右の通路を歩きたいという、演奏中は移動することができないドラマーだからこその意見を口にするも、まだここでは叶わず、ホリエが前述の通りに
「1日1日…」
と口にするのを聞いたひなっちは
「何ロックスターっぽくないこと言ってるんだって思ったけど、初武道館の時にホリエ氏は
「俺はみんなのために曲を作ってない。自分のためだけに作ってるから」
っ言ってて。聞きながら内心「ええ!?」って思ってた(笑)」
と14年前のことを思い返すとホリエは今は
「俺が1番このバンドの曲を好きじゃないといけないし、1番ストレイテナーを、この4人を好きじゃないといけない。今こうして目の前にいてくれる、我々の音楽を聴いてくれるあなたは希望です」
と言った。それは14年前のMCがこの日のためのフリだったのかと思うくらいに真逆のことであるが、本当にテナーは変わった。というかホリエは変わった。今でこそフェスの客席なんかで見かけて声をかけると笑顔で握手してくれたりするが、昔はとても話しかけられるような空気じゃなかったし、MCすらも全くしないようなバンドだった。そんな尖っていたホリエが丸くなった。それはでも決して悪いことじゃないということを今のテナーのライブが示しているのは、物語のような曲だけではなくて、ホリエが本来持っていた人間としての温かさや優しさを感じさせてくれるような曲が生まれるようになって、こうしてライブに来ている人たちがテナーのそうした部分を愛していて、その人たちで武道館が満員になっているからだ。何より、MCも含めて昔よりもはるかにテナーのライブは楽しくなった。この日の武道館はそんなホリエの変化を改めて実感させてくれるような場所でもあったのだ。
そんなテナーのリリースされている曲としては最新曲である「Silver Lining」はやはり今でも「Silver」というさりげなく輝く色が似合うのがテナーであることを改めて示すような曲であり、シンペイの連打するドラムの上でホリエが
「ハニー大丈夫さ」
と歌う瞬間に何度聴いてもドキッとしてしまうのは、やはり昔だったら絶対にこんな歌詞は書かなかっただろうと思うからである。
そんな最新曲から突入した終盤は現在のテナーのライブ定番曲であり、今の代表曲の連打に次ぐ連打となるのであるが、その口火を勢いよく切るのが「REMINDER」であるというのは昔からのファンとしては実に嬉しいし、大山のギターが加わってさらに鋭さが増しているのがわかるのも、シンペイのコーラスが重要な役割を果たしているのがわかるのも嬉しい曲である。
続いてイントロでは同期の音も使いながら、1曲の中でバンドの静の部分と動の部分を両立して表現するかのようにサビで一気に解き放たれていく感覚になる「冬の太陽」ではやはりスクリーンに太陽が昇っていくことを思わせるような映像が映し出され、サビのホリエが吠えるように口にするフレーズは今やテナーのライブではおなじみの合唱ポイントとなっている。それがこの曲を今のライブアンセムの一つたらしめていると言っても過言ではない。
するとわずかな曲間の静寂を切り裂くようにしてホリエがギターを弾きながら歌い始めたのは「シーグラス」。もはやその瞬間に空気が変わると言っていいレベルの名曲であるが、個人的にこの曲をこうした規模の屋内の会場で聴くと思い出すのは、テナーのコロナ禍になってからの初めて有観客ライブとなった、中野サンプラザでの中津川ソーラー武道館の公開収録ライブ。あの時は海に向かうことなんて全く想像できない中で聴いていたこの曲を、今はまたいろんな場所で聴くことができている。もちろんその中には海の近くの場所だってある。そうした場所に毎年足を運んではそこでテナーのライブを観てこの曲を聴いて、何度だって今年最後の海に向かいたいと改めて思う。最後のサビでひなっちがクルッとその場で回りながら笑顔で演奏している姿は本当に毎回グッと来てしまう。今やテナー最大の名曲にして、たくさんの人の大切な想いが乗ったアンセムだと言っていいだろう。
さらには大山のギターのサウンドがまさに泣き叫んでいるかのように鳴らされる「叫ぶ星」と、この辺りになるともはや演出どうのというよりもバンドのダイナミズムと気合いを見せるというくらいのレベルになってきているのであるが、それは普段のライブよりもはるかに長いライブになっていることで感じられることだろう。少しでもたくさんの曲を今この瞬間に鳴らしたいという思いがバンドが鳴らす音の力になっているかのような。だからここに来てもなおシンペイのドラムはまだライブ序盤であるかのような力強さを保っている。
しかしながらそんなライブもいよいよ終わりの時が訪れる。ホリエが、最もバンドを愛さなければいけない立場としてこれからのバンドへの想いを
「これからもストレイテナーに着いてこい!」
と力強く込めるようにして演奏されたのはテナーの始まりの曲の一つと言えるような「ROCKSTEADY」であるのだが、スクリーンにはまだ下北沢の小さなライブハウスでホリエとシンペイの2人だけで活動していた若き頃のライブ映像が映し出される。そこから徐々に現在に向かって過去の重要なライブの映像が流れるのであるが、その映像の前で演奏している4人の姿を見て感極まってしまうのは、ひなっちと大山の2人がいる今のテナーこそが1番カッコいいということを目の前で示してくれているからだ。過去の映像よりも、今この瞬間こそが最高であるから、
「僕らは急がなくちゃ 先を急がなくちゃ」
という言葉の通りにテナーが生きてきたことがわかる。過去の映像ばかり見てしまいそうになるけれど、今この瞬間の演奏しているメンバーの姿が画面に4分割で映し出されるのがやっぱり1番カッコよかったのだ。
そんな、もうこれで終わりだったとしても文句はないというくらいの最高の本編を経てのアンコールでは近年のライブではおなじみのSEである「STNR Rock and Roll」が流れると、ホリエが何とハンドマイクを持ってステージに現れて、今まではSEとして流すだけだったこの曲をメンバーが演奏して、ホリエが歌っている。コーラス部分ではステージ前に出てきて客席にマイクを向けると勇壮な大合唱が響く。それを聴いて本当の意味でこの曲が完成したんだなと思った。それは観客が声を出すことができなかったりという規制があったコロナ禍を乗り越えて辿り着いた久しぶりの武道館ワンマンで果たされたからこそ、より感慨深いものがあったのだ。
そんなクライマックス中のクライマックスを描いてからホリエがギターを手にすると、大山の浮遊感あるギターサウンドがゴリゴリのリズムの上に乗る「羊の群れは丘を登る」へと続くのであるが、この曲は中津川THE SOLAR BUDOKANの大トリとしてのライブでも演奏されていただけに、間違いなくこの日も演奏されるだろうとは思っていたけれど、こんな位置になるとはさすがに思っていなかった。
「バイバーイ」
のフレーズでたくさんの観客が手を振る仕草を見せるだけに、別れが近づいているこのアンコールにふさわしい曲でもあると改めて思うけれど。
そしてホリエがギターを下ろしてキーボードの前に座ると、そのキーボードを鳴らすホリエと、リズムを刻むシンペイの横に置いてある間接照明のみがステージを淡く照らし出す中で演奏されたのは、今この日この瞬間を慈しむようにして演奏された「MARCH」で、そこにひなっちのベースと大山のギターが加わると、2人の横に置いてある照明も光る。それはもうテナーはこの4人のものであり、この4人こそがテナーであるということを証明するかのようであった。だからこそ曲が終わると何も言わずに1人ずつステージを去って行った後には、確かな余韻が残り続けていた。
その余韻から覚めたかのように再びアンコールを求める手拍子が鳴ると、再びメンバーが登場。シンペイも含めて全員がステージ左右に伸びる通路の先まで行って観客に手を振りながら、まだこれでは終われないのは、最新ベストアルバムの人気投票1位になった曲が演奏されていないから。ということでついにアンコールでその1位になった「彩雲」が雄大な風景の映像を背に演奏されるのであるが、天井からは紙飛行機のようなもの(なんかもっとカッコいい言い方があった気がするけど忘れた)が、この日を、バンドの25周年を祝福するかのように降り注ぐ。スタンド席まではそれが飛んで来なかったために、どんな言葉が書かれていたのかはわからないが、4人になってからはさらに幅広く様々なジャンルのサウンドを取り入れてきた中で1位に選ばれたのがこの曲であるということが、今のテナーの魅力がどこにあるのかということを物語っている。これは初回の武道館の時には絶対に見ることが出来なかった景色であるから。それを今この瞬間に自分の目で観ることができていて、本当に幸せだと思っていた。
しかしそれでもまだメンバーはステージから去らず、ホリエは
「次に武道館でやる時はこんなに曲数できないかも(笑)あとMCが長くなって、チケット代も高くなるかも(笑)」
と、やはりこの日のライブが限界を超えるくらいのもの(メンバーの表情などからは全くそんな感じはしないけれど)だったことを感じさせると、それぞれ最後に一言ずつということで、
ひなっち「またすぐにライブで会いましょう」
シンペイ「次のライブは下北沢SHELTERです。みんな来てね!」
と言って、シンペイはホリエに
「もう行ける人決まってるから(笑)」
とツッコミを入れられるのであるが、大山は
「僕、普段耳栓をしているんで、みんなの声があんまり聞こえないんです。でも今だけは外すから、みんなの声を聞かせてください」
と言って観客の雄叫びを聞くと、満足そうな表情で
「良い人生だ」
と言うのであるが、そこに深さを感じるのは、かつて成人の日に向けて書かれた大山のコラムが、ART-SCHOOLのメンバーとしてデビューしてから一度音楽を廃業して、こうしてテナーのメンバーになるまでに本当に様々な葛藤や困難を経てきたことを思い出してしまうから。そんな大山が今こんなことを言っているのだから、もう感極まらざるを得ない。
そしてホリエが
「明日、10月16日はストレイテナーのデビュー記念日。だからデビュー曲をやって終わります!」
と言った瞬間にイントロが鳴らされると、武道館の客電が点いて明るくなるという、武道館の最後の曲だからこその演出が。前回の武道館の時にこの演出で演奏されたのは「YES,SIR」だったが、この日はひなっちが観客とともに腕を振り上げて
「オイ!オイ!」
と叫ぶのは今でも変わることがないデビュー曲「TRAVELING GARGOYLE」。それは始まりの曲でありながらも、
「飛び発って行くのさ 次の時計塔へ」
というフレーズの通りに、まだまだこれからも先に進み続けて行くための曲。つまりは今年観た全てのライブの中でベストクラスというくらいにあまりに完璧な25周年ライブだったのだけど、それを成し得たのはメンバー自身の演奏やパフォーマンスによってこそ。そこに今は我々ファンの想いや感情も確かに乗っている。今までに数え切れないくらいにライブを観てきたバンドだけれど、今までで圧倒的に1番良いライブだった。それはきっとこれから先もテナーはまたこの日を更新するライブを必ず見せてくれるということ。どれだけチケ代が高くなっても、MCが長くなっても、これからもずっと着いて行く。最後にステージ前に出てきて肩を組んだメンバーの姿を見て心からそう思っていた。
メンバーがステージから去ると、スクリーンには来年に「Silver Lining Tour」が開催されることが発表された。これからもそうやって、また次の時計塔へバンドは飛び発って行くのである。
4人になってからは本当にいろんなタイプの曲を作ってきた。ギターロックだけではなく、ホリエがキーボードを弾くバラードや、「Man-Like Creatures」のような我々の予想をはるかに上回るような曲まで。(この日やらなかったけれど)
でもそうして様々なタイプの曲を作りながらも、やっぱりこの日感じさせてくれたのは「ロックバンドってなんてカッコいいんだろうか」というものだった。それはつまりテナーというバンドである限り、その軸はブレることがないということ。絶対に2日とも行くから、5年後にはここで2daysでまたそう思わせてくれ。
1.ネクサス
2.Little Miss Weekend
3.泳ぐ鳥
4.Melodic Storm
5.Ark
6.Graffiti
7.DAY TO DAY
8.タイムリープ
9.Braver
10.Toneless Twilight
11.宇宙の夜 二人の朝
12.246
13.From Noon Till Dawn
14.シンデレラソング
15.Owl
16.DONKEY BOOGIE DODO
17.群像劇
18.インビジブル (新曲)
19.シンクロ
20.Silver Lining
21.REMINDER
22.冬の太陽
23.シーグラス
24.叫ぶ星
25.ROCKSTEADY
encore
26.STNR Rock and Roll
27.羊の群れは丘を登る
28.MARCH
encore2
29.彩雲
30.TRAVELING GARGOYLE
ヤバイTシャツ屋さん "BEST of the Tank-top" 47都道府県TOUR 2023-24 ゲスト:瑛人 @KT Zepp Yokohama 10/17 ホーム
JUNE ROCK FESTIVAL 2023 @川崎クラブチッタ 10/14