ZION LIVE (((( 4 Peaks )))) @WWW X 10/5
- 2023/10/06
- 18:14
今年の夏はSWEET LOVE SHOWERにも出演し、かつて最多出演記録を持っていたフェスに光村龍哉が帰還を果たした、ZION。そうしたフェス稼働後のライブがこの日のWWW Xでのワンマンであり、このバンドが初ライブを行った会場でもある。
当然のようにソールドアウトして満員の観客の中であるが、開演時間の19時をとっくに過ぎているはずなのに全然ライブが始まらない。今日開演時間19時30分だっけ?と思うくらいに始まらないのであるが、19時15分くらいになるとようやく場内が暗転してSEが流れてメンバー5人がステージに登場すると、深々と観客に向かって頭を下げた光村(ボーカル&ギター)は少しパーマがかったような髪型になっているというのはラブシャで観た時と全く違うものであるが、その光村を軸として長髪に帽子を被った吉澤幸男(ギター)以外のメンバーがファルセットコーラスを重ねていくと徐々にバンドの音が立ち上がっていくのであるが、そうして歌声だけでグルーヴを作っていたことが演奏のグルーヴにも現れる「Deathco Island」からスタートすると、観客も手拍子をしながらその音に合わせて体を揺らしているのであるが、それも自然とそうなってしまうというくらいに鳴らしている音で我々を踊らせてくれる。それは吉澤と櫛野啓介のギターコンビがいきなりステージ前に出てきて、やはりギターを弾いている光村と並び立つようにしてギターを弾く姿からしても、すでにバンドのグルーヴがクライマックス的に高まっていることがよくわかる。
すると早くも光村はギターを下ろしてシェイカーを振り始めるのであるが、そのリズムを牽引するのは下手にいる佐藤慎之介(ベース)であり、そのベースの音だけでリズムを醸成していると、鳴橋大地(ドラム)のハイハットなどの金物のみのリズムが重なっていき、光村はハンドマイクでジェームス・ブラウン「セックス・マシーン」のフレーズを口ずさんでいる。以前も洋楽のスタンダード曲のカバーを演奏していたけれど、この日は曲への繋ぎ的な意味合いも含めたセッションという感が強く、そのファンキーな佐藤と鳴橋のリズムにギターのキメが重なると光村も拳を振るような仕草をして「Setogiwa」へと繋がっていくのであるが、そうしたカバーの導入があったことによって、原曲よりもさらにファンキーになっているというか、何度見ても驚いてしまうくらいに音源とライブが別物であるということを感じさせてくれるバンドである。
光村がすぐさま再びギターを持つと、一転してファンキーさ溢れる演奏から一気に青い照明も相まって夏の海的な情景を想起させてくれる爽やかな「Rinco」が演奏されるという振れ幅の激しさであるのだが、通販限定で販売されたCDの収録曲がこうして常に曲を聴ける状態になってからライブで聴けるのが実に嬉しいし、やはりライブを経てきたこと、バンドが自分たちのスタジオで音を練り上げてきたことによって、さらにその音にライブ感が溢れている。
それは「New Moanin'」も同様であるが、爽やかさにグルーヴさがより強く加わったかのような演奏はもちろん、光村の歌唱が本当に素晴らしい。これだけ強いグルーヴを完全に乗りこなしているというか、光村のボーカルに引っ張られるようにしてさらにバンドのグルーヴが引き出されているような感すらあるし、その姿を見ていると、やっぱり光村はこういうことがやりたかったんだなぁと思う。ただ音源をなぞるように演奏するんじゃなくて、その時のテンションや状態がそのまま音になるような音楽を、バンドを、ライブをやりたかったんだろうなと。それはなかなかNICO Touches the Wallsの後期にはメンバーに理解してもらえなかった的なことを話していたりもしたけれど、今のこのメンバーならわかるし、このバンドになったからこそ我々観客もわかる。光村は今本当にやりたいことをやりたいようにできていると。だから本当に楽しそうな顔をして歌っている。
光村がアコギに持ち替えると、櫛野のもアコギ、吉澤は曲によってはフライングVに持ち替えるという、どんなギターの種類の使い方をしてるんだと思いながらも、「Jigsaw」はチルというかむしろもはやダルめなサウンドにじっくり浸らせるような曲であるのだが、そんな曲でもグルーヴの強さを感じるのはこのバンドならではのものであると言えるだろう。
さらには光村のアコギ弾き語り的な歌唱から穏やかなバンドサウンドへ展開していくことによって、まだ音源がリリースされていない時に初めてこの会場で観た時から「この曲、めちゃ良い曲だな」と思った「Shield」のメロディがより一層際立つようになっている。こうした歌を軸にした曲であってもアレンジを施してライブならではのものを見せてくれるのだから、本当に油断ならないし面白いバンドである。なんならこの日はやらなかったけれど、ラブシャの1曲目は全員でのアカペラ歌唱だったりもしたし。
そのまま「Yowamushi」へと光村アコギ曲が続いていくのであるが、やはり光村はどんなにバンドや鳴らすメンバーが変わっても素晴らしいメロディメーカーであるなと改めて思うし、こうした曲では我々観客も聴き入り、バンドもじっくりと音を奏でるという形になりがちであるのだが、このバンドはそうした曲でも櫛野と吉澤がステージ前に出てきて、光村を挟むようにして寄り添って演奏している。そんな音はもちろん、鳴らしている姿からもライブだからこそ見れるもの、わかるものを感じさせてくれるのであるし、そうしたメンバーのアクションはここで初めてライブを観た時よりもさらに自覚的になっていると思う。
そうして光村がアコギを弾きながら歌う曲からエレキに持ち替えると、その光村のギターが鳴らすのは昨年リリースのアルバム「SUN'n'JOY」の1曲目として収録されているインスト曲「Innipi(N)」であるのだが、この曲でも冒頭同様に吉澤以外のメンバーがコーラスを重ねることによって、まるでゴスペルバージョンとでもいうかのような形に生まれ変わっている。その際のメンバーの後ろから真っ白な光が当たる姿も実に神聖であり、まさかこの曲までこんな形で進化するとはと改めて驚かされざるを得ない。
その「Innipi(N)」からアルバムの曲順通りに繋がるのは、ここで初めて聴いた時に光村が
「まだ歌っていたいよ」
という歌詞を思いっきり歌い上げていることに魂が震えるような感覚になったのが今も忘れられない「Hurricane」であるのだが、鳴橋がデジタルドラムも駆使することによってサビでの飛翔感をより強く感じられるし、やはりその光村の歌唱には何回聴いても魂を震わされる。それはこのバンドを始めてからのリアルがいつだってその歌唱には込められているから。佐藤や櫛野は観客の手拍子を煽っていたけれど、それ以上にサビで拳が突き上がっているのが光村の思いがしっかり届いているように感じられる。それもまた震える要素の一つである。
すると光村がいきなり
「新曲やるよー」
とだけ言って演奏されたのはまだ音源化されてない新曲であり、そのギター隊のサウンドは完全にZIONのハードロック、いやスタジアムロックと言っていいくらいのスケールを描き出しており、まさか北海道で暮らして、そこで感じたことが音になっているからこそ土着的なサウンドを鳴らしてきたと思っていたZIONでこんな曲が生まれるとは全く思っていなかったので実に意外だったのだが、続けて演奏されたもう1曲の新曲はギターのサウンドやフレーズがどこかオリエンタルな要素を感じさせ、それもまた北海道というイメージからは程遠いものであるのだが、種明かしを先にするとアンコールで佐藤が
「メンバー全員でアメリカに行って受けた刺激を持ち帰って曲にした」
と言っていたのを聞いて合点がいった。北海道から飛び出して、アメリカに行った経験や感じたことがそのまま音楽になっているというのがこんなにわかりやすく感じられる曲になっているからだ。もちろんこのメンバーで鳴らされるのだからレコーディング前ではあるけれど完成度は他の曲と比べても全く遜色ない。また北海道でアレンジされて全然違う曲に変わっていく可能性はあるけれど。
そうした新曲たちの後に演奏されたのは通販限定のCD収録の「Apple Valley」であるのだが、少し皮肉や毒も含んだ歌詞も実に光村らしい(NICO時代にも多々あった要素である)ものでありながらも、曲後半には光村と櫛野がリズムに合わせて手拍子をして観客もそれに倣うのであるが、鳴橋と佐藤のリズム隊によって手拍子も倍速になったりまた戻ったりという一筋縄ではいかない感じが実に光村らしいというかこのバンドらしくてついつい笑ってしまうのであるが、そうした手拍子もあるからか、初めてライブで聴いたこの曲は音源で聴いた以上にはるかにロックだった。それはもしかしたら観客と一緒に作り上げるロックさだったと言えるのかもしれない。
そんなライブの最後に演奏されたのはイントロからして幻想的かつ神聖な空気やオーラが漂う「Eve」。この曲こそアメリカの刺激を音にした新曲たちとは違い、北海道の自然の中で生活しているからこその土着的なサウンドを感じられる曲であるが、何よりも光村のボーカルの素晴らしさが曲後半になるにつれてさらに引き出されていく。
「真朱に染まり出した ひとすじの涙にも
朝が注ぐだろう」
という締めのフレーズの歌唱の伸びやかさは歌詞と相まってそのまま我々の明日への希望となっていく。そこからメンバーが重ねていく
「Here Comes The SUN'n'JOY」
のフレーズのやはりゴスペル的な人間の生命力に溢れた神聖さは何度聴いても本当に素晴らしいし、例えば「Innipi(N)」をもこうしたアレンジにしたことによってさらに際立つものになっている。それはこのバンド以外では間違いなく体験できないようなものであると思えるだけに、やっぱり光村の歌声も作る音楽も、自分にとってはバンドが変わってもずっと必要なものだと思うのだ。
アンコールではまず佐藤が1人で登場すると、おなじみの手紙の朗読が始まるのだが、いつもは親族に向けたものであることが多いが、この日は半年ぶりの東京でのライブということで観客へ向けたものとして朗読される。
内容は新曲のところで書いたように、メンバー全員でアメリカに行って、ひたすら車で砂漠の中を走ったりしたことによって新たなインスピレーションを音楽に落とし込むことができたということだが、アメリカ行きの発案者の櫛野によって「アメリカ集合アメリカ解散」という行程だったことによって、初めてアメリカに行く佐藤は非常に緊張していたという。
さらには新たな発表として、まさかの来年3月にZepp Shinjukuでのワンマン開催を発表する。まさかのと書いたのは、これまでの東京の最大キャパを一気に更新するものであり、これまでの最大が恵比寿リキッドルームだったこと、この日がそれより小さいWWW Xだったことから、ZIONとしてはこれくらいの規模感で活動していくのかとも思っていた。巨大な会場に立つようになるバンドの苦労や苦悩を光村は身をもって実感してきただろうし、それよりも自分たちが自由にやりたいことを優先して活動していくと思っていたから。
でもそうではなかった。光村のことを20歳くらいの時からずっと見てきて、わかったつもりになっていたけれど、自分は全然わかってなかった。フェスに出たのも懐かしい場所に帰るためとかではなかった。光村はこのバンドの音楽で、自分たちのやりたいことを貫いたままで、もっとたくさんの人にこの音楽を届けようとしている。まだ出会ってない人に出会おうとしている。その発表を聞いて嬉しかったのは、まだ光村の音楽に出会ってない人も、かつてNICOを聴いていたけれど、今はもうZIONを追っていないという人もこのバンドの音楽に触れてもらえるようになる、そこに届けようとしていることがわかったからだ。それは光村の歌唱を何度も大きなステージで聴いてきて、この規模で歌うべき人だと思った感覚をまた味わえるようになると思ったからでもある。
そんなことを思っていると、佐藤が1人ずつメンバーを呼び込む。櫛野は
「Zepp Shinjukuに集合!」
と、早くもその日を楽しみにしていることを感じさせることを笑顔で口にすると、光村が
「最後にまたレコーディングしてない新曲を」
と言って演奏されたのは通販限定CDの3枚目に光村の弾き語りバージョンがシークレットトラックとして収録されていた曲のバンドアレンジ。それが聴いてすぐにわかるくらいに光村の弾き語りの時点でメロディが際立っていた曲ということであるが、その曲が他の新曲に比べるとストレートなギターロックサウンドとしてバンドで演奏されることによって、これからのZIONの代表曲になっていくと思わされるような曲。新たなインスピレーションを得ながら生み出された曲もありつつ、これまでの光村の音楽人生の延長線上(個人的には「demon (is there?)」に聴いた感覚が近い)と思えるような曲もある。
それはつまりこれから先もZIONは様々なタイプの、時には我々の予想を裏切るような曲を作っていきながら、こうしてライブではその曲をさらにアレンジして演奏するようになっていくはず。何だか、ライブを観るたびにこのバンドを好きになってきているのがわかる。それはNICOの時もそうだった。それは歌声も演奏やアレンジも、このバンドのライブでしか絶対に得ることができないものだったから。やっぱり光村龍哉という音楽家をずっと心から信頼しているし、その存在を求めている。またZepp Shinjukuはもちろん、その間にもなんらかの形ですぐにこのバンドに会えますように。
1.Deathco lsland
2.Setogiwa
3.Rinco
4.New Moanin'
5.Jigsaw
6.Shield
7.Yowamushi
8.Innipi(N)
9.Hurricane
10.新曲
11.新曲
12.Apple Valley
13.Eve
encore
14.新曲
当然のようにソールドアウトして満員の観客の中であるが、開演時間の19時をとっくに過ぎているはずなのに全然ライブが始まらない。今日開演時間19時30分だっけ?と思うくらいに始まらないのであるが、19時15分くらいになるとようやく場内が暗転してSEが流れてメンバー5人がステージに登場すると、深々と観客に向かって頭を下げた光村(ボーカル&ギター)は少しパーマがかったような髪型になっているというのはラブシャで観た時と全く違うものであるが、その光村を軸として長髪に帽子を被った吉澤幸男(ギター)以外のメンバーがファルセットコーラスを重ねていくと徐々にバンドの音が立ち上がっていくのであるが、そうして歌声だけでグルーヴを作っていたことが演奏のグルーヴにも現れる「Deathco Island」からスタートすると、観客も手拍子をしながらその音に合わせて体を揺らしているのであるが、それも自然とそうなってしまうというくらいに鳴らしている音で我々を踊らせてくれる。それは吉澤と櫛野啓介のギターコンビがいきなりステージ前に出てきて、やはりギターを弾いている光村と並び立つようにしてギターを弾く姿からしても、すでにバンドのグルーヴがクライマックス的に高まっていることがよくわかる。
すると早くも光村はギターを下ろしてシェイカーを振り始めるのであるが、そのリズムを牽引するのは下手にいる佐藤慎之介(ベース)であり、そのベースの音だけでリズムを醸成していると、鳴橋大地(ドラム)のハイハットなどの金物のみのリズムが重なっていき、光村はハンドマイクでジェームス・ブラウン「セックス・マシーン」のフレーズを口ずさんでいる。以前も洋楽のスタンダード曲のカバーを演奏していたけれど、この日は曲への繋ぎ的な意味合いも含めたセッションという感が強く、そのファンキーな佐藤と鳴橋のリズムにギターのキメが重なると光村も拳を振るような仕草をして「Setogiwa」へと繋がっていくのであるが、そうしたカバーの導入があったことによって、原曲よりもさらにファンキーになっているというか、何度見ても驚いてしまうくらいに音源とライブが別物であるということを感じさせてくれるバンドである。
光村がすぐさま再びギターを持つと、一転してファンキーさ溢れる演奏から一気に青い照明も相まって夏の海的な情景を想起させてくれる爽やかな「Rinco」が演奏されるという振れ幅の激しさであるのだが、通販限定で販売されたCDの収録曲がこうして常に曲を聴ける状態になってからライブで聴けるのが実に嬉しいし、やはりライブを経てきたこと、バンドが自分たちのスタジオで音を練り上げてきたことによって、さらにその音にライブ感が溢れている。
それは「New Moanin'」も同様であるが、爽やかさにグルーヴさがより強く加わったかのような演奏はもちろん、光村の歌唱が本当に素晴らしい。これだけ強いグルーヴを完全に乗りこなしているというか、光村のボーカルに引っ張られるようにしてさらにバンドのグルーヴが引き出されているような感すらあるし、その姿を見ていると、やっぱり光村はこういうことがやりたかったんだなぁと思う。ただ音源をなぞるように演奏するんじゃなくて、その時のテンションや状態がそのまま音になるような音楽を、バンドを、ライブをやりたかったんだろうなと。それはなかなかNICO Touches the Wallsの後期にはメンバーに理解してもらえなかった的なことを話していたりもしたけれど、今のこのメンバーならわかるし、このバンドになったからこそ我々観客もわかる。光村は今本当にやりたいことをやりたいようにできていると。だから本当に楽しそうな顔をして歌っている。
光村がアコギに持ち替えると、櫛野のもアコギ、吉澤は曲によってはフライングVに持ち替えるという、どんなギターの種類の使い方をしてるんだと思いながらも、「Jigsaw」はチルというかむしろもはやダルめなサウンドにじっくり浸らせるような曲であるのだが、そんな曲でもグルーヴの強さを感じるのはこのバンドならではのものであると言えるだろう。
さらには光村のアコギ弾き語り的な歌唱から穏やかなバンドサウンドへ展開していくことによって、まだ音源がリリースされていない時に初めてこの会場で観た時から「この曲、めちゃ良い曲だな」と思った「Shield」のメロディがより一層際立つようになっている。こうした歌を軸にした曲であってもアレンジを施してライブならではのものを見せてくれるのだから、本当に油断ならないし面白いバンドである。なんならこの日はやらなかったけれど、ラブシャの1曲目は全員でのアカペラ歌唱だったりもしたし。
そのまま「Yowamushi」へと光村アコギ曲が続いていくのであるが、やはり光村はどんなにバンドや鳴らすメンバーが変わっても素晴らしいメロディメーカーであるなと改めて思うし、こうした曲では我々観客も聴き入り、バンドもじっくりと音を奏でるという形になりがちであるのだが、このバンドはそうした曲でも櫛野と吉澤がステージ前に出てきて、光村を挟むようにして寄り添って演奏している。そんな音はもちろん、鳴らしている姿からもライブだからこそ見れるもの、わかるものを感じさせてくれるのであるし、そうしたメンバーのアクションはここで初めてライブを観た時よりもさらに自覚的になっていると思う。
そうして光村がアコギを弾きながら歌う曲からエレキに持ち替えると、その光村のギターが鳴らすのは昨年リリースのアルバム「SUN'n'JOY」の1曲目として収録されているインスト曲「Innipi(N)」であるのだが、この曲でも冒頭同様に吉澤以外のメンバーがコーラスを重ねることによって、まるでゴスペルバージョンとでもいうかのような形に生まれ変わっている。その際のメンバーの後ろから真っ白な光が当たる姿も実に神聖であり、まさかこの曲までこんな形で進化するとはと改めて驚かされざるを得ない。
その「Innipi(N)」からアルバムの曲順通りに繋がるのは、ここで初めて聴いた時に光村が
「まだ歌っていたいよ」
という歌詞を思いっきり歌い上げていることに魂が震えるような感覚になったのが今も忘れられない「Hurricane」であるのだが、鳴橋がデジタルドラムも駆使することによってサビでの飛翔感をより強く感じられるし、やはりその光村の歌唱には何回聴いても魂を震わされる。それはこのバンドを始めてからのリアルがいつだってその歌唱には込められているから。佐藤や櫛野は観客の手拍子を煽っていたけれど、それ以上にサビで拳が突き上がっているのが光村の思いがしっかり届いているように感じられる。それもまた震える要素の一つである。
すると光村がいきなり
「新曲やるよー」
とだけ言って演奏されたのはまだ音源化されてない新曲であり、そのギター隊のサウンドは完全にZIONのハードロック、いやスタジアムロックと言っていいくらいのスケールを描き出しており、まさか北海道で暮らして、そこで感じたことが音になっているからこそ土着的なサウンドを鳴らしてきたと思っていたZIONでこんな曲が生まれるとは全く思っていなかったので実に意外だったのだが、続けて演奏されたもう1曲の新曲はギターのサウンドやフレーズがどこかオリエンタルな要素を感じさせ、それもまた北海道というイメージからは程遠いものであるのだが、種明かしを先にするとアンコールで佐藤が
「メンバー全員でアメリカに行って受けた刺激を持ち帰って曲にした」
と言っていたのを聞いて合点がいった。北海道から飛び出して、アメリカに行った経験や感じたことがそのまま音楽になっているというのがこんなにわかりやすく感じられる曲になっているからだ。もちろんこのメンバーで鳴らされるのだからレコーディング前ではあるけれど完成度は他の曲と比べても全く遜色ない。また北海道でアレンジされて全然違う曲に変わっていく可能性はあるけれど。
そうした新曲たちの後に演奏されたのは通販限定のCD収録の「Apple Valley」であるのだが、少し皮肉や毒も含んだ歌詞も実に光村らしい(NICO時代にも多々あった要素である)ものでありながらも、曲後半には光村と櫛野がリズムに合わせて手拍子をして観客もそれに倣うのであるが、鳴橋と佐藤のリズム隊によって手拍子も倍速になったりまた戻ったりという一筋縄ではいかない感じが実に光村らしいというかこのバンドらしくてついつい笑ってしまうのであるが、そうした手拍子もあるからか、初めてライブで聴いたこの曲は音源で聴いた以上にはるかにロックだった。それはもしかしたら観客と一緒に作り上げるロックさだったと言えるのかもしれない。
そんなライブの最後に演奏されたのはイントロからして幻想的かつ神聖な空気やオーラが漂う「Eve」。この曲こそアメリカの刺激を音にした新曲たちとは違い、北海道の自然の中で生活しているからこその土着的なサウンドを感じられる曲であるが、何よりも光村のボーカルの素晴らしさが曲後半になるにつれてさらに引き出されていく。
「真朱に染まり出した ひとすじの涙にも
朝が注ぐだろう」
という締めのフレーズの歌唱の伸びやかさは歌詞と相まってそのまま我々の明日への希望となっていく。そこからメンバーが重ねていく
「Here Comes The SUN'n'JOY」
のフレーズのやはりゴスペル的な人間の生命力に溢れた神聖さは何度聴いても本当に素晴らしいし、例えば「Innipi(N)」をもこうしたアレンジにしたことによってさらに際立つものになっている。それはこのバンド以外では間違いなく体験できないようなものであると思えるだけに、やっぱり光村の歌声も作る音楽も、自分にとってはバンドが変わってもずっと必要なものだと思うのだ。
アンコールではまず佐藤が1人で登場すると、おなじみの手紙の朗読が始まるのだが、いつもは親族に向けたものであることが多いが、この日は半年ぶりの東京でのライブということで観客へ向けたものとして朗読される。
内容は新曲のところで書いたように、メンバー全員でアメリカに行って、ひたすら車で砂漠の中を走ったりしたことによって新たなインスピレーションを音楽に落とし込むことができたということだが、アメリカ行きの発案者の櫛野によって「アメリカ集合アメリカ解散」という行程だったことによって、初めてアメリカに行く佐藤は非常に緊張していたという。
さらには新たな発表として、まさかの来年3月にZepp Shinjukuでのワンマン開催を発表する。まさかのと書いたのは、これまでの東京の最大キャパを一気に更新するものであり、これまでの最大が恵比寿リキッドルームだったこと、この日がそれより小さいWWW Xだったことから、ZIONとしてはこれくらいの規模感で活動していくのかとも思っていた。巨大な会場に立つようになるバンドの苦労や苦悩を光村は身をもって実感してきただろうし、それよりも自分たちが自由にやりたいことを優先して活動していくと思っていたから。
でもそうではなかった。光村のことを20歳くらいの時からずっと見てきて、わかったつもりになっていたけれど、自分は全然わかってなかった。フェスに出たのも懐かしい場所に帰るためとかではなかった。光村はこのバンドの音楽で、自分たちのやりたいことを貫いたままで、もっとたくさんの人にこの音楽を届けようとしている。まだ出会ってない人に出会おうとしている。その発表を聞いて嬉しかったのは、まだ光村の音楽に出会ってない人も、かつてNICOを聴いていたけれど、今はもうZIONを追っていないという人もこのバンドの音楽に触れてもらえるようになる、そこに届けようとしていることがわかったからだ。それは光村の歌唱を何度も大きなステージで聴いてきて、この規模で歌うべき人だと思った感覚をまた味わえるようになると思ったからでもある。
そんなことを思っていると、佐藤が1人ずつメンバーを呼び込む。櫛野は
「Zepp Shinjukuに集合!」
と、早くもその日を楽しみにしていることを感じさせることを笑顔で口にすると、光村が
「最後にまたレコーディングしてない新曲を」
と言って演奏されたのは通販限定CDの3枚目に光村の弾き語りバージョンがシークレットトラックとして収録されていた曲のバンドアレンジ。それが聴いてすぐにわかるくらいに光村の弾き語りの時点でメロディが際立っていた曲ということであるが、その曲が他の新曲に比べるとストレートなギターロックサウンドとしてバンドで演奏されることによって、これからのZIONの代表曲になっていくと思わされるような曲。新たなインスピレーションを得ながら生み出された曲もありつつ、これまでの光村の音楽人生の延長線上(個人的には「demon (is there?)」に聴いた感覚が近い)と思えるような曲もある。
それはつまりこれから先もZIONは様々なタイプの、時には我々の予想を裏切るような曲を作っていきながら、こうしてライブではその曲をさらにアレンジして演奏するようになっていくはず。何だか、ライブを観るたびにこのバンドを好きになってきているのがわかる。それはNICOの時もそうだった。それは歌声も演奏やアレンジも、このバンドのライブでしか絶対に得ることができないものだったから。やっぱり光村龍哉という音楽家をずっと心から信頼しているし、その存在を求めている。またZepp Shinjukuはもちろん、その間にもなんらかの形ですぐにこのバンドに会えますように。
1.Deathco lsland
2.Setogiwa
3.Rinco
4.New Moanin'
5.Jigsaw
6.Shield
7.Yowamushi
8.Innipi(N)
9.Hurricane
10.新曲
11.新曲
12.Apple Valley
13.Eve
encore
14.新曲
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