a flood of circle VS THE KEBABS @恵比寿LIQUIDROOM 10/2
- 2023/10/03
- 18:59
この10月2日は我らがスーパーロックンロールボーカリストである佐々木亮介の誕生日である。この日で37歳になった記念的に、まさかの亮介がボーカルの2バンド、a flood of circleと THE KEBABSの対バンがリキッドルームで開催。つまりは自分自身が出ずっぱりになることによって自分を祝うという、実に佐々木亮介らしいスタイルである。
会場に着くと開演時間ギリギリだったこともあり、全然出るのを知らなかった開場時間中のオープニングアクトがちょうど終わったところであった。全く見れなかったことに申し訳なさを感じながら、やはり超満員になっている客席を見ると全員が亮介の誕生日を祝いに来ているということがわかって嬉しい。
・THE KEBABS
先攻はTHE KEBABS。田淵智也(ベース&ボーカル)はUNISON SQUARE GARDENで前日にフェス出演したばかりというタイミングであるが、その田淵も亮介もお茶割りなどのアルコールを持ってステージに登場。一応生誕祭とも言える日であるが、そんなTHE KEBABSらしさは全く変わることはない。
亮介もギターを弾きながら歌う「Cocktail Party Anthem」でスタートし、亮介と田淵という日本屈指のメロディメーカー2人がいるこのバンドならではのメロディの美しさを高らかな亮介の歌唱とメンバーのコーラスによって感じさせると、「すごいやばい」では鈴木浩之(ドラム)が叩き出すリズムに合わせて亮介も田淵も新井弘毅(ギター)も飛び跳ねまくりながら演奏しているのであるが、何がすごいやばいかって、新井のギターソロも含めてこのバンドの存在がすごくヤバすぎるのである。
すると鈴木のビートがより高速化して、バンドの演奏自体が激しくなる「THE KEBABSは忙しい」ではユニゾンではまず聴けない田淵のボーカルも聴けるのであるが、その田淵は
「ビールくださーい」
で亮介は
「お茶割りくださーい」
と共に歌詞を変えて酒をねだっている。それくらいに飲みながらライブができるバンドがKEBABSであるということである。
さらには亮介がハンドマイクになっての「THE KEBABSのテーマ」では亮介が鈴木だけではなくて、新井と田淵の髪をわしゃわしゃするようにして可愛がるパターンとなっているのであるが、「いかしたやつら」のフレーズやバンド名を歌うサビでは観客の腕が振り上がりながら声が重なっていく…というかシンプル極まりないサウンドと歌詞だからこそ、こうして聴いていると歌いたくなってしまうのである。革ジャンではなくてジャージを着ているからこそ、亮介もハンドマイクを持ったまま高く飛び跳ねることができるのである。
すると一気に新井のギターがトロピカルなサウンドに切り替わって演奏されるのは「かわかわ」なのであるが、何が1番かわかわかと言うと、
「恵比寿でも緑茶割り飲んじゃうよ」
と歌詞を変えて歌う亮介なのである。つまり亮介は亮介のままでかわかわなのであり、観ているこちら側がずっきゅんしてしまうのである。
そのまま鈴木がドンドンと2連のドラムのイントロを叩くと、新井のギターのメロディがすでにめちゃくちゃ良い曲であることを伝える「うれしいきもち」ではやはりそのイントロからメンバーが飛び跳ねまくっている。田淵のやけに気合いの入ったボーカルからも亮介を祝ってあげようという想いを感じるのであるが、そんな姿を見ているとこちらがやはりうれしいきもちになるのである。
すると亮介は自身の生誕祭的な日であるにも関わらず、
「浜崎あゆみさん、誕生日おめでとうございます!あとガンジーも。もう生きてないけど」
と、同じ誕生日である浜崎あゆみ(意外なところと同じだなと思う)とガンジー(こちらはたまにMCで同じ誕生日であることを口にしてきた)を祝うというあたりが実に亮介らしいのであるが、リリースからライブで演奏され始めた時はコロナ禍真っ只中の我々の心境を歌っているかのようであった「ラビュラ」が、田淵のサビのボーカルで切なさもふんだんに感じさせながらも、亮介は
「今年のクリスマスはサンタクロースを呼ぼうぜ!トナカイも連れてこようぜ!」
と、これからの季節を楽しみにさせてくれる歌詞に変えて歌っているのであるが、亮介はどんなクリスマスの過ごし方をしているんだろうかと思ってしまう。こうやってまたライブで一緒に過ごせたら最高だと思うんだけどとも。
再び新井がトロピカルなイントロのギターを弾くと、そのサウンドとリズムに合わせて亮介も田淵もどこかコミカルな動きを見せる「THE KEBABSを抱きしめて」はしかし、サビで一気にノイジーなギターサウンドに変化すると、ステージ上手の最前列の前まで行くようにして歌っていた亮介はマイクを掲げて観客の歌声を求めるようにする。メンバー3人も声を重ねているけれども、それでも観客の声の方が大きく聞こえるくらいに、THE KEBABSのことを観客が幸せにしようとしてくれている。
するとなんとこの日は田淵がベース弾き語りのようにして
「遠くまで行ける 多分行ける」
と「ジャキジャキハート」の歌始まりを担うのであるが、それを歌い切るとこのタイミングで田淵と新井が亮介に誕生日プレゼントを進呈する。歌いながらも間奏部分や田淵歌唱部分でその中身を開けるのであるが、新井の方はPANTERAのバンドTシャツのように見え、そのド派手なデザインに亮介は困惑気味だったのであるが、田淵が渡した袋からは開けても開けても缶ビールなどの酒が出てきて、律儀にアンプの上にその缶を並べていくのが実に面白い。
THE KEBABSはワンマンではメンバーそれぞれが結構喋ったりすることも多いのであるが、この日はほとんど喋らずに曲を連発するという形だったのだが、そんな中でも亮介はこのリキッドに思い入れがあり、ずっと憧れの場所だからこそこの日この会場でライブをやれていることの喜びを語ると、「恐竜あらわる」から一気にメンバーの鳴らすサウンドが激しくなり、ハンドマイクで歌う亮介の動きも激しくなっていくのであるが、最後に次々に口から出てくる恐竜の名前はマニアックすぎてもう自分にはどんな恐竜なのか全くわからないくらい。
その激しさは田淵も鈴木がビートで曲間を繋ぐ間に一度ベースを降ろして酒を飲んだりしてから再び演奏に入る「猿でもできる」へと続いていく。その祭囃子的なビートがより狂騒感を煽っていくのであるが、それは誰もが「猿でもできる」というKEBABSのライブでないと口にすることがないようなフレーズを合唱しているからかもしれない。
そしてライブのクライマックスを迎えるかのようにして、イントロから勇壮なコーラスが響き渡る「ロバート・デ・ニーロ」が演奏されると、亮介はマイクを持ったままで客席の中に突入し、まるでモーゼの十戒のごとくに観客が道を開けるとそこを歩いてPA横の階段上の客席の柵の上に立つようにして歌い、間奏ではその場にヤンキー座りをして新井のギターソロを鑑賞し、さらには「ちょっと疲れてきたから」と最後のサビで田淵にもボーカルを任せてからその場を離れてステージに戻っていく。そんな亮介の自由っぷりが存分に発揮されていて笑ってしまうし、それはこうして曲を演奏しているだけでKEBABSのライブが本当に楽しいということである。
そんなライブの最後に演奏されたのは「ケバブ!」のコールも響く「オーロラソース」で、亮介はこの日の会心の勝利を確信するかのようにして腕を伸ばしながらサビを思いっきり歌うのであるが、思いっきりドラムを連打するようにして手数と力強さを増していた鈴木もまた演奏が終わると亮介に誕生日プレゼントを渡していた。その中身だけはわからなかったけれど、なんらかのSNSで公開されたりするのだろうか。
こうしてこの日のライブを観ていて思ったのは、やっぱりKEBABSは本当にメロディが良いということ。どの曲も思いっきり歌いたくなるし、その歌詞に意味性がほとんどないからこそ、こんなにもこのメンバーたちが楽しそうに演奏している。
プレゼントをライブ中に渡すのも、フラッドのライブでは考えられないのは、このバンドが背負っているものが何もないバンドだから。(強いて言うならばこの4人でのバンドであるということくらい)
そういう意味ではこうした祝祭的なライブに似合うのはこのバンドなのかもしれないと思うし、だからこそ毎年じゃなくてもいいから、こうして観客とメンバーが一緒になって亮介の誕生日を祝うことがこれからもできたらいいなと思った。
1.Cocktail Party Anthem
2.すごいやばい
3.THE KEBABSは忙しい
4.THE KEBABSのテーマ
5.かわかわ
6.うれしいきもち
7.ラビュラ
8.THE KEBABSを抱きしめて
9.ジャキジャキハート
10.恐竜あらわる
11.猿でもできる
12.ロバート・デ・ニーロ
13.オーロラソース
・a flood of circle
そして後攻はもちろんa flood of circle。単体ではこうして亮介の誕生日にライブをやらなかっただろうし、中津川帰還を経てツアーが始まったばかりというタイミングである。
この日は配信があるということもあってか、SEはなしでメンバーがステージに登場。亮介は最近おなじみの黄色い革ジャンを着ているというフラッド仕様で、その亮介がロックンロールかつブルージーなギターを弾いてから、渡邊一丘(ドラム)が複雑なリズムのイントロを叩き、そこにこの日も艶やかなHISAYOのベースが加わって始まるのは「美しい悪夢」であるのだが、サビのコーラスフレーズを青木テツ(ギター)が思いっきり叫ぶようにして歌っているというのは彼なりのこの日のライブへの気合いを感じざるを得ないが、リリース直後以降はあまり演奏される機会が多くなかったこの曲が完全に爆裂ロックンロール曲になっている。
そのままサビからバンドの演奏と亮介の歌が始まるのは亮介の早口ボーカルも含めて、この曲をプロデュースした田淵の手腕もあってフラッドの持ち味全部盛り的な曲になった「ミッドナイト・クローラー」であるのだが、その選曲は間違いなくこの日KEBABSとして出演してくれた田淵への恩返し的な意味もあるだろう。KEBABSが凄まじい盛り上がり(いつの間にかO-EASTクラスでは即完するレベルになってる)だったためにフラッドはどうなるだろうか…とも思っていたが、一切心配いらなかったくらいの客席の熱さ。何ならそこの激しさはフラッドの方があったかもしれないというくらいに。
HISAYOがイントロから手拍子を煽る「Dancing Zombiez」でもその熱さは続き、観客は亮介による吐息的なコーラスに合わせて手を挙げ、間奏では亮介もテツもステージ前に出てきてギターを弾きまくるのであるが、それがアウトロまで続いていくと、亮介はギターを置いてハンドマイクとお茶割りを持って
「行け行け亮ちゃん〜」
と、すでに結構飲んでることによって酔いが回っているのか、自らを亮ちゃん呼びしながら客席に突入していき、観客に支えられながら立ち上がる(お茶割りを近くの観客に一旦持ってもらってこぼれないようにしているあたりもさすがだ)ようにして歌う「如何様師のバラード」はそのパフォーマンスもあってかさらにバンドの演奏自体も熱さを増していく。特に渡邊のドラムの連打っぷりは亮介と同級生であるだけに、この年齢になっても1人のドラマーとして進化を重ねているということがよくわかる。
そんな亮介らしい自由なパフォーマンスからステージに戻るとアコギを手にしてポロポロと弾きながら
「Happy birthday to you」
と、亮介ならyouじゃなくて俺って歌って自身を祝いそうなものであるが、と思っていたら
「dear 津野米咲〜」
と口にした。自分の生誕祭的なライブで自分ではなくて、自分と同じ誕生日のもう会えない人のことを祝う。そこにこそ亮介の人間性が現れているし、その言葉の後に演奏された「人工衛星のブルース」の
「あなたがここにいてほしい」
というフレーズはこの日だけはその対象がはっきりと頭に浮かんでくる。リリースタイミング的に津野米咲のことを受けて書いた曲ではないだろうけれど、それでもこの日のこの曲はもう会えない、応答がない同じ誕生日のミュージシャンに向けて歌われていた。
亮介がアコギから再びエレキに取り替えながら響くのは渡邊の叩く軽快なビート。そこに乗せて亮介は
「37歳になったけど、37歳ってもっと大人かと思ってた。今でもコンビニのレジの横に置いてある雑誌のグラビアとか見ちゃう!」
と言うのであるが、紛れもない同世代として本当にそれがよくわかる。自分がそうであるように、もしかしたら亮介もその年齢である自覚がないのかもしれないし、そうして精神がまだ実年齢に追いついてないからこそ、そんな亮介の表現や変わらぬ立ち振る舞いがずっと好きなのかもしれないと。
だからこそ
「忘れるな。どんな時代だって、どんな世界だって、世界は君のもの!」
と言って、渡邊のビートにテツのキャッチーなメロディのギターが重なり、観客も手拍子をする「世界は君のもの」がいつにも増して我々のためのテーマソングであるかのように響くのである。どんなに年齢を経ても亮介も変わらないし、フラッドをずっと追ってきた人も(毎回ライブに行くと見かける人がたくさんいるからわかる)変わることはないというか、変われないだろう。だからこれからも一緒に、好きな場所に飛んでいけるのである。
しかしこの日はそれだけでは終わらず、
「忘れるな!まだ世界は君のもの!」
と言って続け様に「GIFT ROCKS」で田淵が提供した「世界は君のもの」の続編である「まだ世界は君のもの」が演奏される。田淵のフラッド愛に満ちた曲だからこそ、やはりこうしてこの日に演奏されたのだろうし、そのフラッドとフラッドファンの変わらなさを曲にできる田淵もまたずっと変わらないんだなと思う。だから今でもKEBABSとして亮介と一緒にバカ笑いしながらバンドをやっているのだ。まさに、まだまだこれからも世界は我々のものであり、今も「ロックンロールだよな?」だと思えた瞬間であった。
そして亮介がタイトルを口にして勇壮なコーラスとともに演奏が始まったのは最新曲「ゴールド・ディガーズ」であるのだが、ストレイテナーのホリエアツシによって引き出されたフラッドのハードロックさがテツのギターによって鳴らされている…と思ったら、
「大爆笑しようぜ」
のフレーズでまさにテツが爆笑しながらマイクスタンドを蹴っ飛ばし、バランスを崩した自身もそのまま転倒するかのようになると、その場で座ったままギターを弾くという姿についつい笑ってしまうし、亮介がその状態のテツにマイクを向けてコーラスをさせる姿からもやはり笑ってしまう。この辺りはいつものフラッドのライブの緊張感とは違う空気が確かに出ていたと思う。
その「ゴールド・ディガーズ」では具体的に日本武道館でのワンマンという思いが歌詞になっているのであるが、それを10周年を迎えた際に作った「花」の
「届け 届いてくれ」
というフレーズがもう20年を迎えようとしている今もその思いを持って鳴らしているかのように繋がっていく。もちろん当時のままではないなと思うのは渡邊の感情を思いっきり込めたドラムの一打一打あってこそ。
そしてテツが思いっきりイントロでギターをかき鳴らすようにして始まったのは、亮介がこの日も
「俺たちとあんたたちの明日に捧げる!」
と言って演奏された「シーガル」であるのだが、すでに1コーラス目からそうなっていたというくらいに熱くなっていたのを察してか、2コーラス目のサビでは亮介がマイクスタンドを客席側に向けて大合唱が起こる。よくメンバーの誕生日ライブだと観客が「ハッピーバースデー」を歌うということもあるし、それは実に幸福なものであるが、フラッドのライブにそれは似合わないとも思う。だからこそ我々はこの曲を声の限りに歌う。
「明日がやって来る それを知ってるからまた この手を伸ばす」
と、バンドもファンもずっとそうして生きてきたフレーズを改めてバンドに向けて歌うのである。それこそが何よりも観客からの亮介への誕生日を迎えたことへの祝福だったと思っている。
すると亮介がマイクスタンドから離れながら、
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
と抜群の、というか驚異的とも言えるような声量で歌い始めた「月夜の道を俺が行く」では渡邊のドラムがあまりに爆裂しすぎたことによって明らかにメンバーの演奏が合わなくなり、亮介も歌い出しをどうしようみたいな感じで全員が目を合わせるようにすると、亮介が落ち着いてAメロを歌い始めたことによってしっかりバンドの演奏が整理されてまとまっていく。その力も含めての
「気づけば結局 佐々木亮介」
のフレーズではたくさんの観客が亮介を指差す。だからこそこの日の
「愛してるぜbaby?」
の咆哮のような歌唱はいつも以上に我々観客に向けて歌われているかのようであったのだが、爆裂し過ぎた渡邊は演奏しながら自分でめちゃくちゃ爆笑しており、その姿を見るとやはりこちらも笑顔になる。「音楽と人」の最新号の亮介のインタビューでは「マジか」と思うようなエピソードも語られていたが、どうか渡邊にはずっと亮介の後ろでドラムを叩き続けていて欲しいし、そうあれるような状況にフラッドが達して欲しいと心から思っている。
そして亮介は
「今日はアンコールとかやるつもりないから」
と言ってステージ前に出てきて、再びアカペラで「本気で生きているのなら」を歌い始める。その際の亮介の表情も歌声も、銀髪から飛び散る汗も、全てが今この瞬間に全てをかけて本気で生きている人のものでしかない。そこに途中からバンドのサウンドが加わることによって、そうして生きているのは亮介だけではなく、この3人も本気でフラッドとして生きていることがわかる。HISAYOが1番最後に晴れやかな表情で手を振りながら去っていったのを見て、待っていた人もたくさんいたけれど、この日はこれ以上ないなと思った。これでいいんだと。
フラッドはマジで色々あった。多分、亮介ではない人がフロントマンだったらもう活動終了していてもおかしくないくらいに色々ありすぎた。でもそんな色々を見てきたからこそ、こうして亮介がフラッドをずっと続けてきて、こうして亮介の誕生日にフラッドのライブを観ることができているということ、出会った時はまだお互いに20歳そこそこだったのが、もう30代後半になってもフラッドの佐々木亮介の誕生日を祝えているということが本当に嬉しい。
そしてそんな亮介が、フラッドが、まだまだここから攻め続けていくということをそのライブでもって感じさせてくれるのも本当に嬉しい。またこうやって毎年10月2日はフラッドのライブを観ることができたらいいなと改めて思えた、2023年の佐々木亮介の誕生日だった。
1.美しい悪夢
2.ミッドナイト・クローラー
3.Dancing Zombiez
4.如何様師のバラード
5.人工衛星のブルース
6.世界は君のもの
7.まだ世界は君のもの
8.ゴールド・ディガーズ
9.花
10.シーガル
11.月夜の道を俺が行く
12.本気で生きているのなら
会場に着くと開演時間ギリギリだったこともあり、全然出るのを知らなかった開場時間中のオープニングアクトがちょうど終わったところであった。全く見れなかったことに申し訳なさを感じながら、やはり超満員になっている客席を見ると全員が亮介の誕生日を祝いに来ているということがわかって嬉しい。
・THE KEBABS
先攻はTHE KEBABS。田淵智也(ベース&ボーカル)はUNISON SQUARE GARDENで前日にフェス出演したばかりというタイミングであるが、その田淵も亮介もお茶割りなどのアルコールを持ってステージに登場。一応生誕祭とも言える日であるが、そんなTHE KEBABSらしさは全く変わることはない。
亮介もギターを弾きながら歌う「Cocktail Party Anthem」でスタートし、亮介と田淵という日本屈指のメロディメーカー2人がいるこのバンドならではのメロディの美しさを高らかな亮介の歌唱とメンバーのコーラスによって感じさせると、「すごいやばい」では鈴木浩之(ドラム)が叩き出すリズムに合わせて亮介も田淵も新井弘毅(ギター)も飛び跳ねまくりながら演奏しているのであるが、何がすごいやばいかって、新井のギターソロも含めてこのバンドの存在がすごくヤバすぎるのである。
すると鈴木のビートがより高速化して、バンドの演奏自体が激しくなる「THE KEBABSは忙しい」ではユニゾンではまず聴けない田淵のボーカルも聴けるのであるが、その田淵は
「ビールくださーい」
で亮介は
「お茶割りくださーい」
と共に歌詞を変えて酒をねだっている。それくらいに飲みながらライブができるバンドがKEBABSであるということである。
さらには亮介がハンドマイクになっての「THE KEBABSのテーマ」では亮介が鈴木だけではなくて、新井と田淵の髪をわしゃわしゃするようにして可愛がるパターンとなっているのであるが、「いかしたやつら」のフレーズやバンド名を歌うサビでは観客の腕が振り上がりながら声が重なっていく…というかシンプル極まりないサウンドと歌詞だからこそ、こうして聴いていると歌いたくなってしまうのである。革ジャンではなくてジャージを着ているからこそ、亮介もハンドマイクを持ったまま高く飛び跳ねることができるのである。
すると一気に新井のギターがトロピカルなサウンドに切り替わって演奏されるのは「かわかわ」なのであるが、何が1番かわかわかと言うと、
「恵比寿でも緑茶割り飲んじゃうよ」
と歌詞を変えて歌う亮介なのである。つまり亮介は亮介のままでかわかわなのであり、観ているこちら側がずっきゅんしてしまうのである。
そのまま鈴木がドンドンと2連のドラムのイントロを叩くと、新井のギターのメロディがすでにめちゃくちゃ良い曲であることを伝える「うれしいきもち」ではやはりそのイントロからメンバーが飛び跳ねまくっている。田淵のやけに気合いの入ったボーカルからも亮介を祝ってあげようという想いを感じるのであるが、そんな姿を見ているとこちらがやはりうれしいきもちになるのである。
すると亮介は自身の生誕祭的な日であるにも関わらず、
「浜崎あゆみさん、誕生日おめでとうございます!あとガンジーも。もう生きてないけど」
と、同じ誕生日である浜崎あゆみ(意外なところと同じだなと思う)とガンジー(こちらはたまにMCで同じ誕生日であることを口にしてきた)を祝うというあたりが実に亮介らしいのであるが、リリースからライブで演奏され始めた時はコロナ禍真っ只中の我々の心境を歌っているかのようであった「ラビュラ」が、田淵のサビのボーカルで切なさもふんだんに感じさせながらも、亮介は
「今年のクリスマスはサンタクロースを呼ぼうぜ!トナカイも連れてこようぜ!」
と、これからの季節を楽しみにさせてくれる歌詞に変えて歌っているのであるが、亮介はどんなクリスマスの過ごし方をしているんだろうかと思ってしまう。こうやってまたライブで一緒に過ごせたら最高だと思うんだけどとも。
再び新井がトロピカルなイントロのギターを弾くと、そのサウンドとリズムに合わせて亮介も田淵もどこかコミカルな動きを見せる「THE KEBABSを抱きしめて」はしかし、サビで一気にノイジーなギターサウンドに変化すると、ステージ上手の最前列の前まで行くようにして歌っていた亮介はマイクを掲げて観客の歌声を求めるようにする。メンバー3人も声を重ねているけれども、それでも観客の声の方が大きく聞こえるくらいに、THE KEBABSのことを観客が幸せにしようとしてくれている。
するとなんとこの日は田淵がベース弾き語りのようにして
「遠くまで行ける 多分行ける」
と「ジャキジャキハート」の歌始まりを担うのであるが、それを歌い切るとこのタイミングで田淵と新井が亮介に誕生日プレゼントを進呈する。歌いながらも間奏部分や田淵歌唱部分でその中身を開けるのであるが、新井の方はPANTERAのバンドTシャツのように見え、そのド派手なデザインに亮介は困惑気味だったのであるが、田淵が渡した袋からは開けても開けても缶ビールなどの酒が出てきて、律儀にアンプの上にその缶を並べていくのが実に面白い。
THE KEBABSはワンマンではメンバーそれぞれが結構喋ったりすることも多いのであるが、この日はほとんど喋らずに曲を連発するという形だったのだが、そんな中でも亮介はこのリキッドに思い入れがあり、ずっと憧れの場所だからこそこの日この会場でライブをやれていることの喜びを語ると、「恐竜あらわる」から一気にメンバーの鳴らすサウンドが激しくなり、ハンドマイクで歌う亮介の動きも激しくなっていくのであるが、最後に次々に口から出てくる恐竜の名前はマニアックすぎてもう自分にはどんな恐竜なのか全くわからないくらい。
その激しさは田淵も鈴木がビートで曲間を繋ぐ間に一度ベースを降ろして酒を飲んだりしてから再び演奏に入る「猿でもできる」へと続いていく。その祭囃子的なビートがより狂騒感を煽っていくのであるが、それは誰もが「猿でもできる」というKEBABSのライブでないと口にすることがないようなフレーズを合唱しているからかもしれない。
そしてライブのクライマックスを迎えるかのようにして、イントロから勇壮なコーラスが響き渡る「ロバート・デ・ニーロ」が演奏されると、亮介はマイクを持ったままで客席の中に突入し、まるでモーゼの十戒のごとくに観客が道を開けるとそこを歩いてPA横の階段上の客席の柵の上に立つようにして歌い、間奏ではその場にヤンキー座りをして新井のギターソロを鑑賞し、さらには「ちょっと疲れてきたから」と最後のサビで田淵にもボーカルを任せてからその場を離れてステージに戻っていく。そんな亮介の自由っぷりが存分に発揮されていて笑ってしまうし、それはこうして曲を演奏しているだけでKEBABSのライブが本当に楽しいということである。
そんなライブの最後に演奏されたのは「ケバブ!」のコールも響く「オーロラソース」で、亮介はこの日の会心の勝利を確信するかのようにして腕を伸ばしながらサビを思いっきり歌うのであるが、思いっきりドラムを連打するようにして手数と力強さを増していた鈴木もまた演奏が終わると亮介に誕生日プレゼントを渡していた。その中身だけはわからなかったけれど、なんらかのSNSで公開されたりするのだろうか。
こうしてこの日のライブを観ていて思ったのは、やっぱりKEBABSは本当にメロディが良いということ。どの曲も思いっきり歌いたくなるし、その歌詞に意味性がほとんどないからこそ、こんなにもこのメンバーたちが楽しそうに演奏している。
プレゼントをライブ中に渡すのも、フラッドのライブでは考えられないのは、このバンドが背負っているものが何もないバンドだから。(強いて言うならばこの4人でのバンドであるということくらい)
そういう意味ではこうした祝祭的なライブに似合うのはこのバンドなのかもしれないと思うし、だからこそ毎年じゃなくてもいいから、こうして観客とメンバーが一緒になって亮介の誕生日を祝うことがこれからもできたらいいなと思った。
1.Cocktail Party Anthem
2.すごいやばい
3.THE KEBABSは忙しい
4.THE KEBABSのテーマ
5.かわかわ
6.うれしいきもち
7.ラビュラ
8.THE KEBABSを抱きしめて
9.ジャキジャキハート
10.恐竜あらわる
11.猿でもできる
12.ロバート・デ・ニーロ
13.オーロラソース
・a flood of circle
そして後攻はもちろんa flood of circle。単体ではこうして亮介の誕生日にライブをやらなかっただろうし、中津川帰還を経てツアーが始まったばかりというタイミングである。
この日は配信があるということもあってか、SEはなしでメンバーがステージに登場。亮介は最近おなじみの黄色い革ジャンを着ているというフラッド仕様で、その亮介がロックンロールかつブルージーなギターを弾いてから、渡邊一丘(ドラム)が複雑なリズムのイントロを叩き、そこにこの日も艶やかなHISAYOのベースが加わって始まるのは「美しい悪夢」であるのだが、サビのコーラスフレーズを青木テツ(ギター)が思いっきり叫ぶようにして歌っているというのは彼なりのこの日のライブへの気合いを感じざるを得ないが、リリース直後以降はあまり演奏される機会が多くなかったこの曲が完全に爆裂ロックンロール曲になっている。
そのままサビからバンドの演奏と亮介の歌が始まるのは亮介の早口ボーカルも含めて、この曲をプロデュースした田淵の手腕もあってフラッドの持ち味全部盛り的な曲になった「ミッドナイト・クローラー」であるのだが、その選曲は間違いなくこの日KEBABSとして出演してくれた田淵への恩返し的な意味もあるだろう。KEBABSが凄まじい盛り上がり(いつの間にかO-EASTクラスでは即完するレベルになってる)だったためにフラッドはどうなるだろうか…とも思っていたが、一切心配いらなかったくらいの客席の熱さ。何ならそこの激しさはフラッドの方があったかもしれないというくらいに。
HISAYOがイントロから手拍子を煽る「Dancing Zombiez」でもその熱さは続き、観客は亮介による吐息的なコーラスに合わせて手を挙げ、間奏では亮介もテツもステージ前に出てきてギターを弾きまくるのであるが、それがアウトロまで続いていくと、亮介はギターを置いてハンドマイクとお茶割りを持って
「行け行け亮ちゃん〜」
と、すでに結構飲んでることによって酔いが回っているのか、自らを亮ちゃん呼びしながら客席に突入していき、観客に支えられながら立ち上がる(お茶割りを近くの観客に一旦持ってもらってこぼれないようにしているあたりもさすがだ)ようにして歌う「如何様師のバラード」はそのパフォーマンスもあってかさらにバンドの演奏自体も熱さを増していく。特に渡邊のドラムの連打っぷりは亮介と同級生であるだけに、この年齢になっても1人のドラマーとして進化を重ねているということがよくわかる。
そんな亮介らしい自由なパフォーマンスからステージに戻るとアコギを手にしてポロポロと弾きながら
「Happy birthday to you」
と、亮介ならyouじゃなくて俺って歌って自身を祝いそうなものであるが、と思っていたら
「dear 津野米咲〜」
と口にした。自分の生誕祭的なライブで自分ではなくて、自分と同じ誕生日のもう会えない人のことを祝う。そこにこそ亮介の人間性が現れているし、その言葉の後に演奏された「人工衛星のブルース」の
「あなたがここにいてほしい」
というフレーズはこの日だけはその対象がはっきりと頭に浮かんでくる。リリースタイミング的に津野米咲のことを受けて書いた曲ではないだろうけれど、それでもこの日のこの曲はもう会えない、応答がない同じ誕生日のミュージシャンに向けて歌われていた。
亮介がアコギから再びエレキに取り替えながら響くのは渡邊の叩く軽快なビート。そこに乗せて亮介は
「37歳になったけど、37歳ってもっと大人かと思ってた。今でもコンビニのレジの横に置いてある雑誌のグラビアとか見ちゃう!」
と言うのであるが、紛れもない同世代として本当にそれがよくわかる。自分がそうであるように、もしかしたら亮介もその年齢である自覚がないのかもしれないし、そうして精神がまだ実年齢に追いついてないからこそ、そんな亮介の表現や変わらぬ立ち振る舞いがずっと好きなのかもしれないと。
だからこそ
「忘れるな。どんな時代だって、どんな世界だって、世界は君のもの!」
と言って、渡邊のビートにテツのキャッチーなメロディのギターが重なり、観客も手拍子をする「世界は君のもの」がいつにも増して我々のためのテーマソングであるかのように響くのである。どんなに年齢を経ても亮介も変わらないし、フラッドをずっと追ってきた人も(毎回ライブに行くと見かける人がたくさんいるからわかる)変わることはないというか、変われないだろう。だからこれからも一緒に、好きな場所に飛んでいけるのである。
しかしこの日はそれだけでは終わらず、
「忘れるな!まだ世界は君のもの!」
と言って続け様に「GIFT ROCKS」で田淵が提供した「世界は君のもの」の続編である「まだ世界は君のもの」が演奏される。田淵のフラッド愛に満ちた曲だからこそ、やはりこうしてこの日に演奏されたのだろうし、そのフラッドとフラッドファンの変わらなさを曲にできる田淵もまたずっと変わらないんだなと思う。だから今でもKEBABSとして亮介と一緒にバカ笑いしながらバンドをやっているのだ。まさに、まだまだこれからも世界は我々のものであり、今も「ロックンロールだよな?」だと思えた瞬間であった。
そして亮介がタイトルを口にして勇壮なコーラスとともに演奏が始まったのは最新曲「ゴールド・ディガーズ」であるのだが、ストレイテナーのホリエアツシによって引き出されたフラッドのハードロックさがテツのギターによって鳴らされている…と思ったら、
「大爆笑しようぜ」
のフレーズでまさにテツが爆笑しながらマイクスタンドを蹴っ飛ばし、バランスを崩した自身もそのまま転倒するかのようになると、その場で座ったままギターを弾くという姿についつい笑ってしまうし、亮介がその状態のテツにマイクを向けてコーラスをさせる姿からもやはり笑ってしまう。この辺りはいつものフラッドのライブの緊張感とは違う空気が確かに出ていたと思う。
その「ゴールド・ディガーズ」では具体的に日本武道館でのワンマンという思いが歌詞になっているのであるが、それを10周年を迎えた際に作った「花」の
「届け 届いてくれ」
というフレーズがもう20年を迎えようとしている今もその思いを持って鳴らしているかのように繋がっていく。もちろん当時のままではないなと思うのは渡邊の感情を思いっきり込めたドラムの一打一打あってこそ。
そしてテツが思いっきりイントロでギターをかき鳴らすようにして始まったのは、亮介がこの日も
「俺たちとあんたたちの明日に捧げる!」
と言って演奏された「シーガル」であるのだが、すでに1コーラス目からそうなっていたというくらいに熱くなっていたのを察してか、2コーラス目のサビでは亮介がマイクスタンドを客席側に向けて大合唱が起こる。よくメンバーの誕生日ライブだと観客が「ハッピーバースデー」を歌うということもあるし、それは実に幸福なものであるが、フラッドのライブにそれは似合わないとも思う。だからこそ我々はこの曲を声の限りに歌う。
「明日がやって来る それを知ってるからまた この手を伸ばす」
と、バンドもファンもずっとそうして生きてきたフレーズを改めてバンドに向けて歌うのである。それこそが何よりも観客からの亮介への誕生日を迎えたことへの祝福だったと思っている。
すると亮介がマイクスタンドから離れながら、
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
と抜群の、というか驚異的とも言えるような声量で歌い始めた「月夜の道を俺が行く」では渡邊のドラムがあまりに爆裂しすぎたことによって明らかにメンバーの演奏が合わなくなり、亮介も歌い出しをどうしようみたいな感じで全員が目を合わせるようにすると、亮介が落ち着いてAメロを歌い始めたことによってしっかりバンドの演奏が整理されてまとまっていく。その力も含めての
「気づけば結局 佐々木亮介」
のフレーズではたくさんの観客が亮介を指差す。だからこそこの日の
「愛してるぜbaby?」
の咆哮のような歌唱はいつも以上に我々観客に向けて歌われているかのようであったのだが、爆裂し過ぎた渡邊は演奏しながら自分でめちゃくちゃ爆笑しており、その姿を見るとやはりこちらも笑顔になる。「音楽と人」の最新号の亮介のインタビューでは「マジか」と思うようなエピソードも語られていたが、どうか渡邊にはずっと亮介の後ろでドラムを叩き続けていて欲しいし、そうあれるような状況にフラッドが達して欲しいと心から思っている。
そして亮介は
「今日はアンコールとかやるつもりないから」
と言ってステージ前に出てきて、再びアカペラで「本気で生きているのなら」を歌い始める。その際の亮介の表情も歌声も、銀髪から飛び散る汗も、全てが今この瞬間に全てをかけて本気で生きている人のものでしかない。そこに途中からバンドのサウンドが加わることによって、そうして生きているのは亮介だけではなく、この3人も本気でフラッドとして生きていることがわかる。HISAYOが1番最後に晴れやかな表情で手を振りながら去っていったのを見て、待っていた人もたくさんいたけれど、この日はこれ以上ないなと思った。これでいいんだと。
フラッドはマジで色々あった。多分、亮介ではない人がフロントマンだったらもう活動終了していてもおかしくないくらいに色々ありすぎた。でもそんな色々を見てきたからこそ、こうして亮介がフラッドをずっと続けてきて、こうして亮介の誕生日にフラッドのライブを観ることができているということ、出会った時はまだお互いに20歳そこそこだったのが、もう30代後半になってもフラッドの佐々木亮介の誕生日を祝えているということが本当に嬉しい。
そしてそんな亮介が、フラッドが、まだまだここから攻め続けていくということをそのライブでもって感じさせてくれるのも本当に嬉しい。またこうやって毎年10月2日はフラッドのライブを観ることができたらいいなと改めて思えた、2023年の佐々木亮介の誕生日だった。
1.美しい悪夢
2.ミッドナイト・クローラー
3.Dancing Zombiez
4.如何様師のバラード
5.人工衛星のブルース
6.世界は君のもの
7.まだ世界は君のもの
8.ゴールド・ディガーズ
9.花
10.シーガル
11.月夜の道を俺が行く
12.本気で生きているのなら
ZION LIVE (((( 4 Peaks )))) @WWW X 10/5 ホーム
ザ・ラヂオカセッツ&少年キッズボウイ presents 「童ラ祭2023 -少年とラヂオ-」 @吉祥寺WARP 10/1