ザ・ラヂオカセッツ&少年キッズボウイ presents 「童ラ祭2023 -少年とラヂオ-」 @吉祥寺WARP 10/1
- 2023/10/02
- 21:31
自分が今1番聴いている若手バンドである、少年キッズボウイのライブを初めて観た4月の新宿紅布でのライブのトリとして出演したのが、ザ・ラヂオカセッツだった。その2組はそのライブで運命的な出会いを果たし、その結果としてこの日に大人の本気の文化祭的な2マンライブ「童ラ祭2023」をザ・ラヂオカセッツの本拠地でもある吉祥寺WARPで開催。単なる2マンライブではなくて、様々な企画が催される、まさに文化祭的なライブとなる。
17時過ぎに会場に入ると、入り口では少年キッズボウイのトランペット奏者のきもす(かなやま)氏がこの日のフードのサンドイッチを仕込み中。前日から鶏肉をカレーパウダーとヨーグルトで下味をつけていたという手の込みっぷりで、食べてみたら普通に美味かった。これからいろんなフェスの飲食ブースへの出店が期待される。
客席に入ると今度は少年キッズボウイのギターの山岸氏がDJをしている。ほとんどDJをやったことはないらしいが、その姿は実に様になっているし、そうしたメンバー自らでこの日を作っているというあたりが実に大人の文化祭らしい。
そうしてDJ山岸が曲をかけ終わると、少年キッズボウイのGB(ドラム)と、ザ・ラヂオカセッツの大谷ペン(ドラム)、沢田レヲ(キーボード)という面々で、この日1日の内容を説明すると、大谷がドラムセットに移動し、少年キッズボウイのこーしくん(ボーカル)と、ザ・ラヂオカセッツの渡辺ヒロ(ベース)がステージに登場すると、この3人でGreen Day「Basket Case」をカバー。つまりはコピバンもありという、まさに文化祭的なノリであるのだが、両バンドの混合メンバーでのコピバンであり、それぞれのバンドでちゃんとスタジオに入ったりしてきたという。だからこそ、ラヂオカセッツの2人が上手いというのもあってか、なんなら本家の音源よりもはるかに上手い。ちなみにこーしくんは約2年振りにギターを弾いたということらしいが、ルーツにパンクがあるということがわかるのが個人的には嬉しい。かつてサマソニでGreen Dayを観たけれど、また日本に来てくれるだろうかなんてことも思ってしまう。
続いてはシーナ&ザ・ロケッツのカバーバンドであるのだが、ラヂオカセッツの樋口三四郎(ギター)が鮎川誠になり切ってサングラスをかけ、ボーカルがアキラ、ベースが服部という少年キッズボウイ、ドラムは引き続き大谷という4人編成で「レモンティー」を演奏するのであるが、アキラのボーカルと樋口のギターはまるで天国から若きシーナと鮎川誠を召喚しているかのようですらあった。何よりも世代もルーツも違うであろうメンバーたちが上手いのはもちろん、本当に楽しそうに演奏しているのが最高である。
カバーバンドのトリはラヂオカセッツの山下秀樹(ボーカル)と渡辺ヒロ、少年キッズボウイからはGBと山岸(ギター)という布陣による、フラワーカンパニーズのコピバン。何よりも山下のボーカルが鈴木敬介に実に似ており、だからこそ観客も一緒になって歌える。それも含めてそれぞれのメンバーが好きな曲を演奏しているのがわかるようなコピバン大会だった。大変だろうけど、是非またやって欲しいのはこの日の曲のチョイスも演奏も最高だったから。
バンドのライブ前には1階のバースペースでのアコースティックライブという目まぐるしいほどの盛りだくさんっぷり。ここではラヂオカセッツから樋口と、少年キッズボウイのカツマタという両バンドの、普段は歌うイメージがないギターコンビがアコギを弾き、樋口の作ったブルージーな「常磐線」、カツマタがどこかマーシーに見えてくる歌唱とギターを弾くブルーハーツの「1000のバイオリン」のカバー、実は良い曲を作れるソングライターでもあるんじゃないか?と思わせるようなカツマタの作曲による新曲から、最後はブルースの名曲であり、様々なアーティストがカバーしている「Sweet Home Chicago」を日本語かつ吉祥寺バージョンで演奏するのであるが、観客の合唱も求めながら、カツマタも樋口もギターソロを急遽長めに弾くという展開に。それもそれぞれのギタリストとしての力量を改めて感じさせながらも、実に楽しそうな時間であった。
・少年キッズボウイ
コピバンなども終わったことによって、いよいよここからはそれぞれのバンドとしてのライブであり、先攻は少年キッズボウイ。メンバーそれぞれが社会人として仕事をしながら活動しているためにライブ本数は多くないけれど、TOKYO CALLING下北沢編から2週間という短いスパンでライブを観れることに。
おなじみのフィンガー5「学園天国」のSEでおなじみのツナギを着たメンバーたちが客席後方からステージに登場すると、1人白いツナギを着たアキラの挨拶的な言葉から「スラムドック・サリー」でスタートするというのはおなじみの展開であるが、タンバリンを叩きながら歌うこーしくんが、GBと服部による祭囃子的なリズムに合わせて吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」のフレーズを盛り込んだりというお祭りモード。それも含めてメンバーも踊りまくっている楽しさが客席にも伝わってくるのであるが、きもすのトランペットが高らかに鳴り響くのがやはりこのバンドが他のバンドとは違う編成・サウンドのポップミュージックを作り出していることがよくわかる。
山岸とカツマタのギターコンビ含めたメンバーの演奏によるイントロによって聴いている側の感情も高まっていくのは、バンドのブレーンであり、タンバリンで自身もきもすも顔を隠して変顔をしたりするこーしくんがメインボーカルの「なんてったっけタイトル」なのであるが、そのボーカルが実に力強さを増しているように感じるのはこの日に向けてしっかり準備をし、それが身を結んだ楽しさがその声に乗っかっているからだろう。そのあらゆる芸術からの引用が炸裂しまくる歌詞(そもそもタイトルも)も素晴らしい発想力であるが、この曲ではボーカルマイクを低くして歌うアキラの声が最後のサビで重なっていく部分にはポップミュージックの魔法のようなものが確かに宿っていると思う。曲中に挟まれる「オイ!」のコールでメンバーとともに拳を振り上げながら叫ぶのも実に楽しい。
こーしくんが一度床に座るかのように身を屈める中でアキラが海に風が吹くようなギターサウンド(こうした情景を想起させるような音作りも実に見事だと思う)に乗せてムーディーに歌い始める「海をみにいく」では直後に服部のモータウン的なベースラインが流れ、コーラスパートも含めて観客の体を心地よく揺らしてくれるし、曲中ではきもすのトランペットのサウンドが海辺に吹く風を想起させる。海に行くようなことはほぼ全くないけれど(フェスで海の近くに行くことはある)、この曲を聴きながら雲に覆われた海を見に行きたいと思えるような曲である。
そんなムーディーな流れから、こーしくんがDragon Ash「Grateful Days」のZeebraパートの
「俺は東京生まれヒップホップ育ち」
から始まるラップをイントロで追加したのは「だってTake it easy」という、アキラによるタイトルフレーズの歌唱が癖になる曲であるが、そのボーカルや心地良いサウンドに浸っていると、明日仕事で朝早かろうが忙しかろうがTake it easyになるなと思えてくるのもまたこのバンド、この曲が持つポップミュージックの魔法であるし、イベントの30分ではなくて2マンでの長い持ち時間だからこそできる曲でもあると思う。
するとMC担当になった山岸が全員が働きながらこうしてバンドをやっている社会人バンドであることなど、改めて挨拶的にバンドの紹介をすると、まだ音源化はされていないけれどライブではおなじみの存在になっている、こーしくんのポエトリーリーディング的な歌唱がノイジーなギターサウンドとともに押し寄せてくる「インザシティ」へ。この曲は来るべき今月発売の1stアルバムにも収録される曲であるだけに、その歌詞をじっくり見ながら聴くことができるようになる日も楽しみである。
するとせっかくの文化祭ということで、運命的な出会いを果たして以降は尊敬する先輩バンドになったザ・ラヂオカセッツの「古いギター」のカバーという予期せぬ選曲まで飛び出すのであるが、カツマタに樋口三四郎のロックンロールなギターが降臨している中、この曲もきもすのトランペットが加わることによって、このバンドでしかできないカバーになっている。このバンドのアレンジ力の高さを改めて実感するカバーでありながらも、ラヂオカセッツへのリスペクトに溢れている。なんなら音源化して欲しいくらいだが、そう思っていたらこーしくんも
「トリビュートアルバムが出るときは呼んでください(笑)」
と言っていた。それくらいに今回だけで終わるにはもったいないカバーである。もちろんこのイベントが2回、3回と続いていくことによって、そこでまた演奏されていくのだろうけれど。
さらにはなんとラヂオカセッツのキーボードのレヲまでもを呼び込むと、メンバーに合わせてしっかりツナギを着ているという出で立ちまで揃えて現れ、演奏されたのは最新曲である「中野シャンゼリゼ」で、レヲのキーボードが原曲のフレーズを見事に鳴らすのであるが、中野にある麦酒大学という店とのコラボ曲で、こんなにも店やビールというテーマに寄り添ったラブソングを書けるとなると、これからもいろんなタイアップやコラボ曲を聴いてみたくなる。バンドのブレーンであるこーしくんがそうした制約がある曲作りが好きかどうかはわからないが、間違いなくそれに応える曲が作れているし、きもすもボーカルを披露する中でもアキラの歌声にはどこか人を惹きつける魔力のような力が宿っているということをも実感させてくれる曲である。
するとこーしくんがステージ前に出てきて勢いよく、
「人生初のコール&レスポンスをします!」
と言うと、
「愛とラヴを永遠にフォーエバー...」
のフレーズを、メロディやリズムを変えながら何度もコール&レスポンスさせ、そこからGBの軽快な4つ打ちのリズムに繋がっていくという新しいアレンジが加わったことによって、アキラの歌い出しからして早くも我々を今まで以上に踊らせてくれるようになったのはミラーボールも煌めく「最終兵器ディスコ」。そのコール&レスポンスによって、どこか観客はもちろんバンド側もテンションが極まった状態で演奏することができている感が確かにあっただけに、このコール&レスポンスは間違いなく成功しているし、このバンドのライブはやっぱり「楽しい」という感情に集約されてることを考えると、こうしたバンドと観客が一体になるパフォーマンスはその楽しさを最大限に感じさせてくれるものである。ライブでは毎回演奏している、自分がこのバンドと出会ったきっかけの曲であるが、この日が今までで1番楽しかった。それはきっとこれからも何度だって更新されていくはずである。サビでボーカル2人に合わせて手を左右に振りながら、そんなことを考えていた。
そして山岸が今月にアルバムがリリースされ、来月にはリリースライブが行われることを改めて告知すると、そのアルバムに収録される新曲「君が生きる理由」を初披露する。千葉の銚子までMV撮影をしに行ったというこの曲はすでに様々なラジオ局のパワープレイも決まっているらしいけれど、それも納得の一回聴いただけで「これはまた素晴らしい名曲が生まれたな」と思える曲である。このバンドの持ち曲には名曲しかないけれど、さらにこの曲が生まれたことによって今の状況は間違いなく変化するだろうし、アルバムがより一層楽しみになった。
そんな名曲しかないということは、ライブの締めを担える曲もたくさんあるということであるが、この日の最後に演奏されたのは「ぼくらのラプソディー」であり、
「ベイベー ぼくらが生まれた街で
海賊たちがみんなを殺す
列に並んで、なけなしのパンと
死んだプライドを差し出すのです。」
という残酷とも言えるような歌い出しであっても合唱を巻き起こす曲だ。個人的にはいつかONE PIECEの主題歌に起用されて欲しい曲だとすら思っているのであるが、それくらいにメンバーの歌声がサビで重なっていくことによる大団円感は他のどんなアーティストのどんな曲でも得ることができないものだ。それはアキラのラップ的な歌唱から続く間奏できもすのトランペットからカツマタのギターと、このメンバーだからこそのソロが続くことからもわかるのであるが、最後にはGBが今まで見たことがないくらいに髪を振り乱しながらドラムを連打する。
まだライブ経験はそこまで多くはないけれど、間違いなくこのバンドのライブは見るたびに進化している。生まれてくる曲が本当に素晴らしい名曲ばかりで、その曲たちがどれも心も体も楽しくなるような曲だからこそ、ライブで目の前で鳴らされるのを聴くことによってその楽しさを最大限に感じることができる。
音楽が素晴らしいことによって、我々を最高に楽しく、これ以上ないくらいに幸せな気分にさせてくれる。自分が毎朝このバンドの曲を聴いているのも、そうなることによって1日をポジティブに乗り越えることができることを本能でわかっているからだろう。本当にこの音楽がもっとメインストリームで鳴り響くようになれば世の中は変わるような予感すらしている。少なくともいろんな音楽を聴いてきた身であっても、自分の日常はこのバンドに出会ったことで変わった、さらに楽しくなったから。そういう意味でも、今1番たくさんの人に聴いてもらいたいバンドだと思っている。
1.スラムドック・サリー
2.なんてったっけタイトル
3.海をみにいく
4.だってTake it easy
5.インザシティ
6.古いギター
7.中野シャンゼリゼ w/ 沢田レヲ
8.最終兵器ディスコ
9.君が生きる理由
10.ぼくらのラプソディー
転換中には今まさにライブを終えたばかりで汗ダクのこーしくんと、この後にライブをやるザ・ラヂオカセッツの山下によるアコースティックライブ。山下がアコギを弾き、こーしくんは歌だけという形で吉田拓郎からゆずの「いつか」とどこかフォーク色が強い選曲は2人で決めたらしいが、歌い方からしても山下に似合っている選曲であると感じるのだが、最後にはアキラも現れてチューリップ「心の旅」を観客も含めた大合唱でこの日のアコースティックライブを締めくくる。こうして自分が好きなボーカリストたちがいろんな曲を歌う姿が見れる、曲が聴けるのも本当に嬉しいし楽しいだけに、また是非このアコースティックもやって欲しい。
・ザ・ラヂオカセッツ
そんな盛りだくさんなこの日の最後を飾るのはもちろんザ・ラヂオカセッツ。4月に新宿紅布で観た時以来であるが、あの時と同じなのはすでに少年キッズボウイのメンバーたちが客席で楽しむ気満々であり、自分たちのライブで盛り上がってくれるそんな姿を見たからこそ、こうして運命的な出会いを果たしたのかもしれないとも思う。
メンバーが客席の後ろから登場してくるというのは変わらないけれど、なんと山下がステージに向かいながら歌い始めたのは少年キッズボウイの「ぼくらのラプソディー」のカバーであり、しかもそれをちゃんとキーボードがいるこのバンドとしてのアレンジで鳴らしている。もちろん少年キッズボウイのメンバーたちも客席でめちゃくちゃ喜んでいたのであるが、いきなり対バン相手のカバーから始めるという心意気が素敵すぎるし、フル尺でのラヂオカセッツアレンジでの演奏というのはこのバンドのメンバーたちもまた少年キッズボウイの音楽を愛しているということがよくわかる。客席からいきなり合唱(少年キッズボウイのメンバーたちも含めて)が起こるのも含めて、最高の先制攻撃である。
そうしてこの対バンならではの幕開けを鳴らした後には、このバンドの持ち味でありスタイルである、シンプルなロックバンドのフォーマットで、ただひたすらにメロディが良い曲を鳴らし歌うという曲たちが続くのであるが、前に観た時同様にやはり「演奏が上手いな〜」と思うし、しかも山下だけではなくてレヲ、渡辺、大谷が曲によってボーカルを担当するというスタイルであるのも凄い。ベースやドラムという、なかなかメインボーカルを担うのが難しい楽器であってもそれぞれの歌唱力も抜群なのは、実はこのバンドは見た目はちょっと素朴に見える(山下や大谷の出で立ちによって)けれど、実は凄腕ミュージシャンの集合体バンドであることがわかる。
そうしたポップさだけではなく、バンドとしてのロックさを担うのがギターの樋口で、鳴らしているサウンドはもちろん、ピート・タウンゼント的な腕をぐるぐる回すギターや足を高く上げる姿は、革ジャン姿であることもあってギターヒーローそのもの。個人的には樋口がこのバンド加入前にずっと活動してきたOver The Dogsのファンであるだけに、こうして今も溌溂としたギターを弾く姿を見ることができるのが嬉しいし、同時にこんなにロックなギターを弾く人だったのかとも思う。
そうしてバンドとしては形を変えたりしながら(4月に観た時はまだ加入したばかりだったレヲも完璧にこのバンドの1/5的な存在のメンバーになっている)続いてきたのであるが、今でもバンドに抱える煌めきを感じさせるような新曲はこのバンドがこれからもっとたくさんの人の耳に届くような存在になるんじゃないかと思えるし、山下がこのホームと言える会場への想いを口にしてから演奏された「ライブハウス」ではたくさんの観客が音に合わせて腕を振り上げている。その観客の姿を見てバンドのサウンドもさらに熱量を増していく。それこそがライブハウスであるというこの曲のメッセージを視覚的に示すかのように。
するとここでスペシャルゲストとしてステージに招かれたのは、客席にいなかったことからサンドイッチを作っていたんじゃないかと思う、少年キッズボウイのきもす。山下から「なんできもすって名前なの?」と聞かれた理由が悲しすぎてなかなか活字にできないレベルであるが、逆に山下はちゃんと名前の「かなやま」と呼んでいたのが理由を聞いてからきもすに変えていた。ステージ上で理由を聞いたことによって距離が縮まった部分も確かにあるのだろう。
そんなきもすがトランペットの音を加えるのはバンド屈指の名曲「東京」なのであるが、なんと演奏が始まってからトランペットが詰まって音が出なくなるというアクシデントに見舞われる。最初はトランペット用のマイクを使って口でトランペットのフレーズを歌うという、信じられないくらい見事な機転を効かせて笑わせてくれたのであるが、無事に曲中から音が出るようになって一安心。そのトランペットの高らかなサウンドはこのバンドに新たな力を宿らせていたし、だからこそ山下も
「次レコーディングする時に呼ぶわ」
と言っていたのだろう。この祭りがまた新たなそれぞれの活動に還元されて交わり合っていくのである。
そうしたコラボもあったからか、穏やかな曲でありながらも後半になるにつれて観客のノリがさらに良くなっていく。それは汗を飛び散らせながら歌う山下の、バンドそのものの熱量がしっかり客席に伝わっていたことでもあるのだが、なんとバンドはこの本拠地に藍坊主を呼んで対バンするという。武道館でワンマンもやったことがあるバンドを呼べるのも驚きであるが、藍坊主が「憧れの大先輩」と呼ばれるようなキャリアのバンドになっていることにも驚きである。それは10代の時から聴いているからこそ。
4月にライブを観た時にも、情景が脳内に思い浮かぶ良い曲だなと思った「僕の部屋へ」はアコースティックでも感じられた、山下の持つフォークの要素を感じさせる曲であるのだが、何よりも最後に演奏された「リフレイン」の名曲っぷりには勝手に腕が上がってしまう。そこには音を止めずに鳴らし続けていくという意志が確かに感じられる。前に観た時から良いバンドだとは思っていたけれど、こうしてこの日のライブを観ていたら、メレンゲ、Over The Dogs、ウソツキという自分が好きなバンドたちに通じる、ひたすらにキャッチーな曲をロックバンドとして鳴らすという系譜にいるバンドであると思った。それはきっとこの日このライブを観ないと気付かなかったことかもしれないけれど、気づけたからこそ、これからも何回だってライブを観に行くことができる。
しかしながら演奏を終えたばかりの山下が自発的にアンコールの手拍子を始めると、せっかくだからこの「童ラ祭」のテーマソングを作ったということで、となると欠かせないのは一緒にこの祭りを作った少年キッズボウイのメンバーたちである。なのでステージにギターとしてカツマタ、ボーカルとしてアキラとこーしくん、賑やかしとしてGBが上がるというコラボによって「童ラ祭のテーマ」が演奏される。あえて誰もが歌えるようにしたという通りにコーラスパートでは観客の合唱までも加わるからこそ、これからも何回だってこうして聴きたいし、歌いたい曲だ。それはそうしているということはこの祭りがまた開催されているということだから。
そしてラヂオカセッツの山下以外のメンバーがアキラのことが大好きであるという「まぁそうなるのはめちゃくちゃわかるよ」というやり取りなど、終わりたくないから喋っているという空気もある中で、最後にはきもす、山岸、服部の3人もステージに上がり、それぞれが肩を組んだりしながら観客も一緒になって歌う「デイ・ドリーム・ビリーバー」の忌野清志郎の訳による日本語バージョンのカバーがこの日を締める。
「ずっと夢を見て 幸せだったな
僕は Day Dream Believer そんで
彼女はクイーン」
というサビのフレーズが、まさにメンバー全員がこの日に夢を見ていたと思わせてくれる。それはメンバーたちだけでなく、我々をも最高に幸せにしてくれたからである。
1.ぼくらのラプソディー
2.いつかの君の声のように
3.ウィズネイル
4.キラキラ
5.新曲
6.ライブハウス
7.東京 w/ きもす
8.待ち合わせ
9.僕の部屋へ
10.リフレイン
encore
11.童ラ祭のテーマ w/ こーしくん、アキラ、カツマタ
12.デイ・ドリーム・ビリーバー w/ 少年キッズボウイ
ライブ後には何と、DJをほぼやったことがないというカツマタによる、好きな曲をひたすらかけまくる、お見送りDJ。それもまた文化祭の後片付けをしながら流れるBGMのようですらあったのであるが、我々はこの祭りに参加しただけの身ではあるけれど、それでもどこか一緒に作っているような気持ちになれた。
それは部活が忙しくて準備にはほとんど参加できないけれど、それでも当日になればしっかり文化祭に参加して楽しめるかのような、そんな感覚を確かに思い出していた。山下は
「大谷とは高校の時に一緒に文化祭でバンドをやったけれど、思い出したくないことばかり(笑)」
と言っていたけれど、そうした過去を持つ人たちが、学生ではなくなっても今でも文化祭を作り、今だからこそそれを楽しむことができる。それは遅れてきた青春そのものだった。観客までもがそんな気持ちになれるようなお祭りだったからこそ、これからも定期的にずっと続いていて欲しいし、本人たちがどう考えているかはわからないけれど、いつかは大きなフェスにまで発展したらそれもまた最高だなとも思っていた。
17時過ぎに会場に入ると、入り口では少年キッズボウイのトランペット奏者のきもす(かなやま)氏がこの日のフードのサンドイッチを仕込み中。前日から鶏肉をカレーパウダーとヨーグルトで下味をつけていたという手の込みっぷりで、食べてみたら普通に美味かった。これからいろんなフェスの飲食ブースへの出店が期待される。
客席に入ると今度は少年キッズボウイのギターの山岸氏がDJをしている。ほとんどDJをやったことはないらしいが、その姿は実に様になっているし、そうしたメンバー自らでこの日を作っているというあたりが実に大人の文化祭らしい。
そうしてDJ山岸が曲をかけ終わると、少年キッズボウイのGB(ドラム)と、ザ・ラヂオカセッツの大谷ペン(ドラム)、沢田レヲ(キーボード)という面々で、この日1日の内容を説明すると、大谷がドラムセットに移動し、少年キッズボウイのこーしくん(ボーカル)と、ザ・ラヂオカセッツの渡辺ヒロ(ベース)がステージに登場すると、この3人でGreen Day「Basket Case」をカバー。つまりはコピバンもありという、まさに文化祭的なノリであるのだが、両バンドの混合メンバーでのコピバンであり、それぞれのバンドでちゃんとスタジオに入ったりしてきたという。だからこそ、ラヂオカセッツの2人が上手いというのもあってか、なんなら本家の音源よりもはるかに上手い。ちなみにこーしくんは約2年振りにギターを弾いたということらしいが、ルーツにパンクがあるということがわかるのが個人的には嬉しい。かつてサマソニでGreen Dayを観たけれど、また日本に来てくれるだろうかなんてことも思ってしまう。
続いてはシーナ&ザ・ロケッツのカバーバンドであるのだが、ラヂオカセッツの樋口三四郎(ギター)が鮎川誠になり切ってサングラスをかけ、ボーカルがアキラ、ベースが服部という少年キッズボウイ、ドラムは引き続き大谷という4人編成で「レモンティー」を演奏するのであるが、アキラのボーカルと樋口のギターはまるで天国から若きシーナと鮎川誠を召喚しているかのようですらあった。何よりも世代もルーツも違うであろうメンバーたちが上手いのはもちろん、本当に楽しそうに演奏しているのが最高である。
カバーバンドのトリはラヂオカセッツの山下秀樹(ボーカル)と渡辺ヒロ、少年キッズボウイからはGBと山岸(ギター)という布陣による、フラワーカンパニーズのコピバン。何よりも山下のボーカルが鈴木敬介に実に似ており、だからこそ観客も一緒になって歌える。それも含めてそれぞれのメンバーが好きな曲を演奏しているのがわかるようなコピバン大会だった。大変だろうけど、是非またやって欲しいのはこの日の曲のチョイスも演奏も最高だったから。
バンドのライブ前には1階のバースペースでのアコースティックライブという目まぐるしいほどの盛りだくさんっぷり。ここではラヂオカセッツから樋口と、少年キッズボウイのカツマタという両バンドの、普段は歌うイメージがないギターコンビがアコギを弾き、樋口の作ったブルージーな「常磐線」、カツマタがどこかマーシーに見えてくる歌唱とギターを弾くブルーハーツの「1000のバイオリン」のカバー、実は良い曲を作れるソングライターでもあるんじゃないか?と思わせるようなカツマタの作曲による新曲から、最後はブルースの名曲であり、様々なアーティストがカバーしている「Sweet Home Chicago」を日本語かつ吉祥寺バージョンで演奏するのであるが、観客の合唱も求めながら、カツマタも樋口もギターソロを急遽長めに弾くという展開に。それもそれぞれのギタリストとしての力量を改めて感じさせながらも、実に楽しそうな時間であった。
・少年キッズボウイ
コピバンなども終わったことによって、いよいよここからはそれぞれのバンドとしてのライブであり、先攻は少年キッズボウイ。メンバーそれぞれが社会人として仕事をしながら活動しているためにライブ本数は多くないけれど、TOKYO CALLING下北沢編から2週間という短いスパンでライブを観れることに。
おなじみのフィンガー5「学園天国」のSEでおなじみのツナギを着たメンバーたちが客席後方からステージに登場すると、1人白いツナギを着たアキラの挨拶的な言葉から「スラムドック・サリー」でスタートするというのはおなじみの展開であるが、タンバリンを叩きながら歌うこーしくんが、GBと服部による祭囃子的なリズムに合わせて吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」のフレーズを盛り込んだりというお祭りモード。それも含めてメンバーも踊りまくっている楽しさが客席にも伝わってくるのであるが、きもすのトランペットが高らかに鳴り響くのがやはりこのバンドが他のバンドとは違う編成・サウンドのポップミュージックを作り出していることがよくわかる。
山岸とカツマタのギターコンビ含めたメンバーの演奏によるイントロによって聴いている側の感情も高まっていくのは、バンドのブレーンであり、タンバリンで自身もきもすも顔を隠して変顔をしたりするこーしくんがメインボーカルの「なんてったっけタイトル」なのであるが、そのボーカルが実に力強さを増しているように感じるのはこの日に向けてしっかり準備をし、それが身を結んだ楽しさがその声に乗っかっているからだろう。そのあらゆる芸術からの引用が炸裂しまくる歌詞(そもそもタイトルも)も素晴らしい発想力であるが、この曲ではボーカルマイクを低くして歌うアキラの声が最後のサビで重なっていく部分にはポップミュージックの魔法のようなものが確かに宿っていると思う。曲中に挟まれる「オイ!」のコールでメンバーとともに拳を振り上げながら叫ぶのも実に楽しい。
こーしくんが一度床に座るかのように身を屈める中でアキラが海に風が吹くようなギターサウンド(こうした情景を想起させるような音作りも実に見事だと思う)に乗せてムーディーに歌い始める「海をみにいく」では直後に服部のモータウン的なベースラインが流れ、コーラスパートも含めて観客の体を心地よく揺らしてくれるし、曲中ではきもすのトランペットのサウンドが海辺に吹く風を想起させる。海に行くようなことはほぼ全くないけれど(フェスで海の近くに行くことはある)、この曲を聴きながら雲に覆われた海を見に行きたいと思えるような曲である。
そんなムーディーな流れから、こーしくんがDragon Ash「Grateful Days」のZeebraパートの
「俺は東京生まれヒップホップ育ち」
から始まるラップをイントロで追加したのは「だってTake it easy」という、アキラによるタイトルフレーズの歌唱が癖になる曲であるが、そのボーカルや心地良いサウンドに浸っていると、明日仕事で朝早かろうが忙しかろうがTake it easyになるなと思えてくるのもまたこのバンド、この曲が持つポップミュージックの魔法であるし、イベントの30分ではなくて2マンでの長い持ち時間だからこそできる曲でもあると思う。
するとMC担当になった山岸が全員が働きながらこうしてバンドをやっている社会人バンドであることなど、改めて挨拶的にバンドの紹介をすると、まだ音源化はされていないけれどライブではおなじみの存在になっている、こーしくんのポエトリーリーディング的な歌唱がノイジーなギターサウンドとともに押し寄せてくる「インザシティ」へ。この曲は来るべき今月発売の1stアルバムにも収録される曲であるだけに、その歌詞をじっくり見ながら聴くことができるようになる日も楽しみである。
するとせっかくの文化祭ということで、運命的な出会いを果たして以降は尊敬する先輩バンドになったザ・ラヂオカセッツの「古いギター」のカバーという予期せぬ選曲まで飛び出すのであるが、カツマタに樋口三四郎のロックンロールなギターが降臨している中、この曲もきもすのトランペットが加わることによって、このバンドでしかできないカバーになっている。このバンドのアレンジ力の高さを改めて実感するカバーでありながらも、ラヂオカセッツへのリスペクトに溢れている。なんなら音源化して欲しいくらいだが、そう思っていたらこーしくんも
「トリビュートアルバムが出るときは呼んでください(笑)」
と言っていた。それくらいに今回だけで終わるにはもったいないカバーである。もちろんこのイベントが2回、3回と続いていくことによって、そこでまた演奏されていくのだろうけれど。
さらにはなんとラヂオカセッツのキーボードのレヲまでもを呼び込むと、メンバーに合わせてしっかりツナギを着ているという出で立ちまで揃えて現れ、演奏されたのは最新曲である「中野シャンゼリゼ」で、レヲのキーボードが原曲のフレーズを見事に鳴らすのであるが、中野にある麦酒大学という店とのコラボ曲で、こんなにも店やビールというテーマに寄り添ったラブソングを書けるとなると、これからもいろんなタイアップやコラボ曲を聴いてみたくなる。バンドのブレーンであるこーしくんがそうした制約がある曲作りが好きかどうかはわからないが、間違いなくそれに応える曲が作れているし、きもすもボーカルを披露する中でもアキラの歌声にはどこか人を惹きつける魔力のような力が宿っているということをも実感させてくれる曲である。
するとこーしくんがステージ前に出てきて勢いよく、
「人生初のコール&レスポンスをします!」
と言うと、
「愛とラヴを永遠にフォーエバー...」
のフレーズを、メロディやリズムを変えながら何度もコール&レスポンスさせ、そこからGBの軽快な4つ打ちのリズムに繋がっていくという新しいアレンジが加わったことによって、アキラの歌い出しからして早くも我々を今まで以上に踊らせてくれるようになったのはミラーボールも煌めく「最終兵器ディスコ」。そのコール&レスポンスによって、どこか観客はもちろんバンド側もテンションが極まった状態で演奏することができている感が確かにあっただけに、このコール&レスポンスは間違いなく成功しているし、このバンドのライブはやっぱり「楽しい」という感情に集約されてることを考えると、こうしたバンドと観客が一体になるパフォーマンスはその楽しさを最大限に感じさせてくれるものである。ライブでは毎回演奏している、自分がこのバンドと出会ったきっかけの曲であるが、この日が今までで1番楽しかった。それはきっとこれからも何度だって更新されていくはずである。サビでボーカル2人に合わせて手を左右に振りながら、そんなことを考えていた。
そして山岸が今月にアルバムがリリースされ、来月にはリリースライブが行われることを改めて告知すると、そのアルバムに収録される新曲「君が生きる理由」を初披露する。千葉の銚子までMV撮影をしに行ったというこの曲はすでに様々なラジオ局のパワープレイも決まっているらしいけれど、それも納得の一回聴いただけで「これはまた素晴らしい名曲が生まれたな」と思える曲である。このバンドの持ち曲には名曲しかないけれど、さらにこの曲が生まれたことによって今の状況は間違いなく変化するだろうし、アルバムがより一層楽しみになった。
そんな名曲しかないということは、ライブの締めを担える曲もたくさんあるということであるが、この日の最後に演奏されたのは「ぼくらのラプソディー」であり、
「ベイベー ぼくらが生まれた街で
海賊たちがみんなを殺す
列に並んで、なけなしのパンと
死んだプライドを差し出すのです。」
という残酷とも言えるような歌い出しであっても合唱を巻き起こす曲だ。個人的にはいつかONE PIECEの主題歌に起用されて欲しい曲だとすら思っているのであるが、それくらいにメンバーの歌声がサビで重なっていくことによる大団円感は他のどんなアーティストのどんな曲でも得ることができないものだ。それはアキラのラップ的な歌唱から続く間奏できもすのトランペットからカツマタのギターと、このメンバーだからこそのソロが続くことからもわかるのであるが、最後にはGBが今まで見たことがないくらいに髪を振り乱しながらドラムを連打する。
まだライブ経験はそこまで多くはないけれど、間違いなくこのバンドのライブは見るたびに進化している。生まれてくる曲が本当に素晴らしい名曲ばかりで、その曲たちがどれも心も体も楽しくなるような曲だからこそ、ライブで目の前で鳴らされるのを聴くことによってその楽しさを最大限に感じることができる。
音楽が素晴らしいことによって、我々を最高に楽しく、これ以上ないくらいに幸せな気分にさせてくれる。自分が毎朝このバンドの曲を聴いているのも、そうなることによって1日をポジティブに乗り越えることができることを本能でわかっているからだろう。本当にこの音楽がもっとメインストリームで鳴り響くようになれば世の中は変わるような予感すらしている。少なくともいろんな音楽を聴いてきた身であっても、自分の日常はこのバンドに出会ったことで変わった、さらに楽しくなったから。そういう意味でも、今1番たくさんの人に聴いてもらいたいバンドだと思っている。
1.スラムドック・サリー
2.なんてったっけタイトル
3.海をみにいく
4.だってTake it easy
5.インザシティ
6.古いギター
7.中野シャンゼリゼ w/ 沢田レヲ
8.最終兵器ディスコ
9.君が生きる理由
10.ぼくらのラプソディー
転換中には今まさにライブを終えたばかりで汗ダクのこーしくんと、この後にライブをやるザ・ラヂオカセッツの山下によるアコースティックライブ。山下がアコギを弾き、こーしくんは歌だけという形で吉田拓郎からゆずの「いつか」とどこかフォーク色が強い選曲は2人で決めたらしいが、歌い方からしても山下に似合っている選曲であると感じるのだが、最後にはアキラも現れてチューリップ「心の旅」を観客も含めた大合唱でこの日のアコースティックライブを締めくくる。こうして自分が好きなボーカリストたちがいろんな曲を歌う姿が見れる、曲が聴けるのも本当に嬉しいし楽しいだけに、また是非このアコースティックもやって欲しい。
・ザ・ラヂオカセッツ
そんな盛りだくさんなこの日の最後を飾るのはもちろんザ・ラヂオカセッツ。4月に新宿紅布で観た時以来であるが、あの時と同じなのはすでに少年キッズボウイのメンバーたちが客席で楽しむ気満々であり、自分たちのライブで盛り上がってくれるそんな姿を見たからこそ、こうして運命的な出会いを果たしたのかもしれないとも思う。
メンバーが客席の後ろから登場してくるというのは変わらないけれど、なんと山下がステージに向かいながら歌い始めたのは少年キッズボウイの「ぼくらのラプソディー」のカバーであり、しかもそれをちゃんとキーボードがいるこのバンドとしてのアレンジで鳴らしている。もちろん少年キッズボウイのメンバーたちも客席でめちゃくちゃ喜んでいたのであるが、いきなり対バン相手のカバーから始めるという心意気が素敵すぎるし、フル尺でのラヂオカセッツアレンジでの演奏というのはこのバンドのメンバーたちもまた少年キッズボウイの音楽を愛しているということがよくわかる。客席からいきなり合唱(少年キッズボウイのメンバーたちも含めて)が起こるのも含めて、最高の先制攻撃である。
そうしてこの対バンならではの幕開けを鳴らした後には、このバンドの持ち味でありスタイルである、シンプルなロックバンドのフォーマットで、ただひたすらにメロディが良い曲を鳴らし歌うという曲たちが続くのであるが、前に観た時同様にやはり「演奏が上手いな〜」と思うし、しかも山下だけではなくてレヲ、渡辺、大谷が曲によってボーカルを担当するというスタイルであるのも凄い。ベースやドラムという、なかなかメインボーカルを担うのが難しい楽器であってもそれぞれの歌唱力も抜群なのは、実はこのバンドは見た目はちょっと素朴に見える(山下や大谷の出で立ちによって)けれど、実は凄腕ミュージシャンの集合体バンドであることがわかる。
そうしたポップさだけではなく、バンドとしてのロックさを担うのがギターの樋口で、鳴らしているサウンドはもちろん、ピート・タウンゼント的な腕をぐるぐる回すギターや足を高く上げる姿は、革ジャン姿であることもあってギターヒーローそのもの。個人的には樋口がこのバンド加入前にずっと活動してきたOver The Dogsのファンであるだけに、こうして今も溌溂としたギターを弾く姿を見ることができるのが嬉しいし、同時にこんなにロックなギターを弾く人だったのかとも思う。
そうしてバンドとしては形を変えたりしながら(4月に観た時はまだ加入したばかりだったレヲも完璧にこのバンドの1/5的な存在のメンバーになっている)続いてきたのであるが、今でもバンドに抱える煌めきを感じさせるような新曲はこのバンドがこれからもっとたくさんの人の耳に届くような存在になるんじゃないかと思えるし、山下がこのホームと言える会場への想いを口にしてから演奏された「ライブハウス」ではたくさんの観客が音に合わせて腕を振り上げている。その観客の姿を見てバンドのサウンドもさらに熱量を増していく。それこそがライブハウスであるというこの曲のメッセージを視覚的に示すかのように。
するとここでスペシャルゲストとしてステージに招かれたのは、客席にいなかったことからサンドイッチを作っていたんじゃないかと思う、少年キッズボウイのきもす。山下から「なんできもすって名前なの?」と聞かれた理由が悲しすぎてなかなか活字にできないレベルであるが、逆に山下はちゃんと名前の「かなやま」と呼んでいたのが理由を聞いてからきもすに変えていた。ステージ上で理由を聞いたことによって距離が縮まった部分も確かにあるのだろう。
そんなきもすがトランペットの音を加えるのはバンド屈指の名曲「東京」なのであるが、なんと演奏が始まってからトランペットが詰まって音が出なくなるというアクシデントに見舞われる。最初はトランペット用のマイクを使って口でトランペットのフレーズを歌うという、信じられないくらい見事な機転を効かせて笑わせてくれたのであるが、無事に曲中から音が出るようになって一安心。そのトランペットの高らかなサウンドはこのバンドに新たな力を宿らせていたし、だからこそ山下も
「次レコーディングする時に呼ぶわ」
と言っていたのだろう。この祭りがまた新たなそれぞれの活動に還元されて交わり合っていくのである。
そうしたコラボもあったからか、穏やかな曲でありながらも後半になるにつれて観客のノリがさらに良くなっていく。それは汗を飛び散らせながら歌う山下の、バンドそのものの熱量がしっかり客席に伝わっていたことでもあるのだが、なんとバンドはこの本拠地に藍坊主を呼んで対バンするという。武道館でワンマンもやったことがあるバンドを呼べるのも驚きであるが、藍坊主が「憧れの大先輩」と呼ばれるようなキャリアのバンドになっていることにも驚きである。それは10代の時から聴いているからこそ。
4月にライブを観た時にも、情景が脳内に思い浮かぶ良い曲だなと思った「僕の部屋へ」はアコースティックでも感じられた、山下の持つフォークの要素を感じさせる曲であるのだが、何よりも最後に演奏された「リフレイン」の名曲っぷりには勝手に腕が上がってしまう。そこには音を止めずに鳴らし続けていくという意志が確かに感じられる。前に観た時から良いバンドだとは思っていたけれど、こうしてこの日のライブを観ていたら、メレンゲ、Over The Dogs、ウソツキという自分が好きなバンドたちに通じる、ひたすらにキャッチーな曲をロックバンドとして鳴らすという系譜にいるバンドであると思った。それはきっとこの日このライブを観ないと気付かなかったことかもしれないけれど、気づけたからこそ、これからも何回だってライブを観に行くことができる。
しかしながら演奏を終えたばかりの山下が自発的にアンコールの手拍子を始めると、せっかくだからこの「童ラ祭」のテーマソングを作ったということで、となると欠かせないのは一緒にこの祭りを作った少年キッズボウイのメンバーたちである。なのでステージにギターとしてカツマタ、ボーカルとしてアキラとこーしくん、賑やかしとしてGBが上がるというコラボによって「童ラ祭のテーマ」が演奏される。あえて誰もが歌えるようにしたという通りにコーラスパートでは観客の合唱までも加わるからこそ、これからも何回だってこうして聴きたいし、歌いたい曲だ。それはそうしているということはこの祭りがまた開催されているということだから。
そしてラヂオカセッツの山下以外のメンバーがアキラのことが大好きであるという「まぁそうなるのはめちゃくちゃわかるよ」というやり取りなど、終わりたくないから喋っているという空気もある中で、最後にはきもす、山岸、服部の3人もステージに上がり、それぞれが肩を組んだりしながら観客も一緒になって歌う「デイ・ドリーム・ビリーバー」の忌野清志郎の訳による日本語バージョンのカバーがこの日を締める。
「ずっと夢を見て 幸せだったな
僕は Day Dream Believer そんで
彼女はクイーン」
というサビのフレーズが、まさにメンバー全員がこの日に夢を見ていたと思わせてくれる。それはメンバーたちだけでなく、我々をも最高に幸せにしてくれたからである。
1.ぼくらのラプソディー
2.いつかの君の声のように
3.ウィズネイル
4.キラキラ
5.新曲
6.ライブハウス
7.東京 w/ きもす
8.待ち合わせ
9.僕の部屋へ
10.リフレイン
encore
11.童ラ祭のテーマ w/ こーしくん、アキラ、カツマタ
12.デイ・ドリーム・ビリーバー w/ 少年キッズボウイ
ライブ後には何と、DJをほぼやったことがないというカツマタによる、好きな曲をひたすらかけまくる、お見送りDJ。それもまた文化祭の後片付けをしながら流れるBGMのようですらあったのであるが、我々はこの祭りに参加しただけの身ではあるけれど、それでもどこか一緒に作っているような気持ちになれた。
それは部活が忙しくて準備にはほとんど参加できないけれど、それでも当日になればしっかり文化祭に参加して楽しめるかのような、そんな感覚を確かに思い出していた。山下は
「大谷とは高校の時に一緒に文化祭でバンドをやったけれど、思い出したくないことばかり(笑)」
と言っていたけれど、そうした過去を持つ人たちが、学生ではなくなっても今でも文化祭を作り、今だからこそそれを楽しむことができる。それは遅れてきた青春そのものだった。観客までもがそんな気持ちになれるようなお祭りだったからこそ、これからも定期的にずっと続いていて欲しいし、本人たちがどう考えているかはわからないけれど、いつかは大きなフェスにまで発展したらそれもまた最高だなとも思っていた。