Chilli Beans. TOUR 2023 「for you TOUR」 @Zepp DiverCity 9/28
- 2023/09/29
- 20:57
某音楽メディアで「今年の夏フェス出演数ランキング」みたいなのがまとめられていたが、そのランキングには載ってなかったけれど、自分が今年の夏に1番フェスで観たのはおそらくChilli Beans.である。
ざっと振り返るだけでも、Love Music Fes、Talking Rock Fes、フジロック、ロッキン、SWEET LOVE SHOWERと毎週のごとくに(室内の夏フェスと言っていいのかってのもあるけど)観てきた中で、とりわけSWEET LOVE SHOWERの時には最新EP「for you」リリース直後ということで、その収録曲が早くも演奏されたが、その時期からすでに行われていた「for you」のリリースツアーのファイナルがこの日のZepp DiverCityワンマンである。
前回のツアーも豊洲PITがソールドアウトしているし、今の状況を考えると狭いと言っていいこのキャパはやはり即完となり、満員の観客が待つ待ち受ける中、19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転しておなじみのSEが流れる中でメンバーが登場すると、Moto(ボーカル&ギター)がカエルの被り物を頭に装着しているのが目を惹くのであるが、そのMotoがギターを持って演奏を始めたのは「for you」収録曲にして、すでにラブシャでも演奏されるくらいの仕上がりっぷりであった「aaa」。そのポップであることを自覚せずともポップになっているかのようなキャッチーさはライブの幕開けに実にふさわしいものであり、そのMotoの歌うキャッチーなメロディにLily(ギター)とMaika(ベース)、さらにはサポートドラマーのYuumiのコーラスが重なっていくことによってより一層それが際立っている。
何よりも驚くのはメンバーの背面には「for you」のジャケット写真とともに、その下にライブ開演時はバンドロゴが映し出されていたLEDビジョンが配置されており、そこに曲のイメージをさらに膨らませる映像が映し出されるというのはバンドにとって新機軸と言えるけれど、それだけではなくてそのLEDは上に登れるようになっており、まさかのZeppのステージに2階部分が出現しているのであるが、「neck」で早くもカエルの被り物を外したMotoがその2階部分に駆け上がって行って歌うというのは、これまでにもいろんなステージを所狭しと左右に駆け回ってきたこのボーカリストが、左右だけではなくて上まで行けるようになったということを示している。つまりはMotoの自由っぷりがさらに引き出されるステージ作りとなっているのであるが、ステージ上でもメンバーたちの横でスモークが噴き上がるという演出面がはるかにパワーアップしている。
それはもちろんメンバーの演奏面もそうであり、Vaundyとのコラボ曲である「rose」でもMotoが2階部分を自由に(本当にこんなに「自由」という単語が似合うボーカルはなかなかいないというくらいに、自身の衝動やテンションによるパフォーマンスに見える)歩き回りながら歌うのであるが、yuumiとMaikaによる重いグルーヴと、そこにLilyも加えたコーラスもやはりより研ぎ澄まされているのであるが、このツアーを回ってきたこと、あるいはこの曲をライブで演奏し続けてきたことによってか、Bメロ部分で観客の大合唱が起こるようになっている。このツアーに参加するのは初めてかつ、フェスではさすがにここまでの合唱はなかったがために、この光景にはライブ序盤で早くもグッときてしまう。それはこのバンドがコロナ禍真っ最中にデビューしたために、前のツアーまでは声を出して一緒に歌うというこの光景を見ることが出来なかったからである。つまりは初めての、Chilli Beans.のファンしかいないライブでの合唱をこの目で観て、耳で聴けているのである。これまでのライブを思い返すと感動しないわけがない。
Motoが2階からステージに戻ってくると、Lilyによるイントロのギターのフレーズが一回聴くと癖になり、キャッチーかつキュートなメロディがサビになると一気に飛翔する「HAPPY END」へ。ここまではどちらかというと囁くような歌唱の曲が続いてきただけに、Motoの歌の伸びやかさを実感できるし、やはりそんな曲でもステージ上を走り回っているというあたりがMotoである。
その2階部分があることにも触れたMCはやはりMaikaが主導しながら、こうしてライブに来てくれた人への感謝を口にすると、再びMotoがギターを弾きながら歌う「School」へ。セルフタイトルの1stフルアルバムの1曲目ということもあり、やはりこの曲を聴くといつだって「ライブが始まった!」という感覚になるのであるが、それくらいに何度ライブで聴いても鮮烈な印象を与えてくれるし、曲最後のコーラスフレーズを観客も一緒に歌いながら飛び跳ねて手を挙げるのが実に楽しい曲であるし、Lilyの弾きまくるギターソロで歓声と拍手が起こっているのを見ると、ギターソロ不要論なんてものがこのバンドには不要であると思う。
この日に取り入れられた背面のスクリーンが最もわかりやすく機能していたのは、そこに「¥$」の文字が大量に浮かび上がる「L.I.B」であり、メンバー3人全員が歌えるバンドとしてLilyとMotoのツインボーカルとして展開していくのであるが、その歌声を聴いていてもやっぱりそれぞれが本当に歌が上手いと思う。楽器もそうであるが、これだけ演奏ができて歌えるメンバーしかいないというあたりも、このバンドがどこか他のバンドとは全く違う、新世代感というか今までいなかったバンドという感覚を覚える部分である。
するとMotoがタンバリンを手にして、削ぎ落とされたサウンドと薄暗い照明の中で歌い始めたのはサビで一気に視界がひらけていくようなアレンジと展開の「アンドロン」なのであるが、最後のサビ前で歌に詰まって苦笑いしていた感じがあったのは、この満員の観客が手拍子をしている光景に感極まったりしていたところもあったりしたのだろうかなんてことを想像してしまう。
さらにはその薄暗い中に淡い光が照らされるように、それは暗闇の中に見える一筋の希望のようにも感じられる演出が
「今遠ざけて 遠ざけても
なお夢の中
怖いわ
あとどのくらい続く?」
という内省的な歌詞に実によく似合っているというか、なんなら曲の世界観をそのまま視覚化したかのように感じられる「you said」へ。この曲は「for you」収録曲の中でも初めてライブで聴く曲であったが、その曲をこんなにライブ映えさせることができているのはメンバーの演奏や歌唱はもちろん、曲を完璧に理解しているスタッフ、チームの尽力あってこそだろう。
そうしたマイクスタンドにマイクを置いて歌にじっくり歌うように歌っていたMotoが再びハンドマイクを手にしてイキイキとして歌う「Vacance」はYuumiの複雑なリズムのドラムが際立つというあたりが、彼女が今や完全にバンドにとって欠かせない存在になっているという証拠である。
するとこの部分のMCは何を喋るのか全く決めていないということで、逆に観客から話しかけてもらい、聞かれたことに答えるという時間に。そうしたやり取りがワンマンでできるようになったのも今回のツアーからであるために、メンバー3人はこの観客との会話を心から楽しんでいるように感じられるのだが、Maikaが大阪でラジオ番組をやるようになったことで、そのラジオ内のコーナーをどういうものにするのか観客て一緒に考えることに。
「恋愛相談」というか意見にMotoもLilyも賛成していたし、Motoもラジオネーム「カエルちゃん」として相談を送ろうとしていたのだが、
「1年間毎回恋愛相談を受けるのはさすがにキツい(笑)」
ということで、恋愛にこだわらない相談に応えるものにするらしいが、果たして実際にはどうなるのかはラジオを聞いてのお楽しみだろうか。MotoとLilyは「2週間に1回大阪から生放送」というラジオの設定を全く覚えていないことも明らかになってしまったが(笑)、Lilyにも髪色についての質問があったりというのはファイナルならではだろうか。オレンジのイメージが強いけれど、真っ赤にしたのが見たいという観客のリクエストは叶うのか。
そうして観客とコミュニケーションを取るようなMCから、 Maikaのベースがさらにゴリゴリに重さを増していくことによってこのバンドならではのグルーヴを生み、それがライブでおなじみになっているというのがバンドの強さになっている「See C Love」では今までよりもMotoがやはりステージ上を動き回りながらもその歌唱に感情のメリハリをつけているような歌い方になっており、実はこのバンドの曲に多いネガティブな感情を歌詞に込めているのがよりよくわかるようになっているのであるが、さらには
「I don't need your love」
のフレーズをMotoが歌うとメンバーと観客も続けて合唱する「duri-dade」ではMotoが2階部分に行ってその場に寝そべり、足だけを使って動いたりする姿についつい笑ってしまうというか、Maikaもそっちが気になって仕方がないみたいになっている中で、間奏では3人がYuumiのドラムセットに集まってスティックを持ってドラムを連打するというおなじみのパフォーマンスが展開され、それに合わせて手拍子も起こるのであるが、個人的な発見は今年の夏はいたる場所でこのパフォーマンスをやっていたけれど、フジロックという初見の人が多いであろうフェスの大きなステージでこのパフォーマンスで客席がめちゃくちゃ湧いていたこと。音を聴きに来ている深いリスナーにこそ刺さる、驚かせられるという。そんな確かな武器をバンドが手にした夏だったなと思うし、そのドラム連打の精度や強さも確かに向上している。
すると道路をひたすらに直進し続けるような映像が、タイトルの「This Way」がこの道をひたすらに前に歩き続けていくという意志を示すかのように映し出されるのであるが、曲を通してキーが実に低いこの曲までをいたって軽やかに歌いこなすMotoはやはり天性のボーカリストであると思うし、そのキーと歌唱の幅はそのままバンドのサウンドの幅になっていると思う。
さらにはスクリーンに龍が炎を吐き出す映像が映し出されることによって、カッコいいながらもLilyのギターサウンドが実はオリエンタルな要素を強く含んでいることを感じさせてくれる「blue berry」ではMotoがやはり2階部分まで駆け回りながら、先程とは一転してMotoがサビで伸びやかな声を響かせる。それはこの曲順によってより一層ハッキリとわかるものであるが、MCタイムになるのに歌い終わっても元の位置に戻ってこないMotoの姿にMaikaもついつい笑ってしまっていた。それはやはりリハなどではやっていない、その場のテンションと衝動によるパフォーマンスだからだろう。
そのMCでは改めてこの日来てくれたことへの感謝を示すとともに、この日がファイナルということでツアーが終わってしまうことの寂しさを感じさせると、そんな思いを胸に抱えてさらに前に進んでいくことを感じさせるのが「ONE PIECE」のタイアップになったことでバンドの名前をあらゆる層に轟かせた「Raise」であるのだが、いわゆる炎を噴き出しまくるようなアニソン的な派手な展開の曲では全くなく、むしろ炎を自分の胸の中に絶やすことなく燃やし続けるというような曲になっているのは、今のバンドのモードがそのままタイアップと合致したということだろう。今回の「for you」収録曲は全てMotoのメインボーカルという形になっているが、この曲のサビでの覚醒感を感じさせるような力強さはそうなるべくしてその形になったことをも感じさせる。
そのままLilyの軽快なカッティングギターの音色が心地良い「Tremolo」ではサビで観客がMotoに合わせて手を左右に振る中で、Maikaのラップ的な歌唱も炸裂するのであるが、その歌唱も、間奏でメンバー3人が密着して演奏する姿の楽しそうな表情も、見ているとその全てが
「どこまでも行こうじゃないの」
と思わせてくれる。それはこれからも一緒にさらに良い景色をもっと見ることができるという確信を感じさせてくれるし、それくらいの楽曲とライブのスケールをこの曲は備えている。
Maikaがクライマックスとしてさらに楽しく、盛り上がっていくことを観客に告げると、キャッチーなイントロに合わせてMotoがギターを持ったままステップを踏むのが実に楽しく、かつキュートに見える「マイボーイ」ではやはりスクリーンに映し出された、銃からハートが発射される映像がより曲のポップさを引き出し、それは流星が流れるような「シェキララ」の映像へと繋がっていくのであるが、Motoはポーズを取るようにしながら歌うと、最前の観客をまるでステージ上に引っ張り上げるかのように強く手を握ったりしている。その姿を見ていると思わず笑ってしまうのであるが、それもまたツアーやフェスなどのライブを経て進化してきた結果であろうし、そのあまりの自由っぷりはやはり最高に「シェキララ」している。それはバンドだけではなくて、腕を振り上げて飛び跳ねながら歌っている観客も。MC以上にこうして曲を演奏することが最高に楽しいコミュニケーションになっていることを実感させてくれるのである。
そんなライブの最後は今やすっかりライブを締める存在として定着した感のある「you n me」であり、初めて聴いた時、あるいはライブでこの曲を演奏しているのを観た時から自分は「光が降り注ぐような」という形容をしてきた曲であるが、まさにスクリーンに映る映像も照明もそれを示しているかのよう。その光はこれから先のこのバンドを照らし出すものだなと思っていたら、Motoがステージを飛び降りて客席最前列の前を歩き回り、観客とハイタッチしまくるという、左右と2階という上だけではなくて、まさかの客席最前列前という下までも利用するという全方向制覇っぷり。それを観ながら、デビューがコロナ禍じゃなかったら最初から小さなライブハウスでこうしたパフォーマンスをしていたのかもしれないとも思ったりしていた。それくらいにこのバンドは精神的にも物理的にも観客の近くでライブをやり、音楽を鳴らそうとしている。それはどんなに広い会場に立つようになってもきっと変わることがないはずだ。MaikaとLilyがなかなかステージに戻ってこないことを笑いながらMotoのことを待ってからキメを打ったのがこのバンドの持つ軽やかで自由な空気感を何よりも示していた。
アンコールを待つコールの音がどんどん大きくなっていくのに応えるようにメンバーたちが再びステージに登場すると、Motoがマイクスタンド、Lilyがアコギという形で演奏されたのは1stアルバムの最後を飾る曲である「call my name」。そのグルーヴよりも落ち着いた曲のメロディを感じさせるような演奏と歌唱はこのバンドの持つ温かさや優しさを確かに感じさせるのであるが、そんな曲の歌詞がやはり喪失感を感じさせるものであるというのもまたこのバンドらしさだ。ただ楽しいだけでもオシャレなだけでもカッコいいだけでもなく、人間が抱くあらゆる感情がそれぞれの曲に込められている。それをこのメンバーの体温を感じられるように鳴らすからその音楽や鳴らしている姿が響くのである。
そんなアンコールでは告知があるということで、すでに武道館ワンマン開催も発表されているが、そのライブタイトル「Welcome to My Castle」と同タイトルのアルバムが12月に発売されることを発表。その時の拍手の大きさと長さは凄まじかったのであるが、Motoいわく
「お城に招くためのお城のような」
という作品であるというのは、聴いたら間違いなく武道館ワンマンに行きたくなるようなライブ感のある作品になっているということだろう。年末前ということで、2023年のラスボス的な作品になるのはまず間違いない。
さらにそのアルバムに収録される新曲「I like you」が10月からスタートする、吉岡里帆と瑛太主演ドラマのテーマ曲になることも発表される。リリース前日にドラマの初回が放送されるということは、その日が解禁日になるということだろう。すでに脚本を読んでいるというMaikaが「凄く面白そうなドラマ」と言っていただけに、自分たちのやりたい音楽は貫きながらも、そのドラマの脚本や内容に寄り添っている部分があったりするのだろうか。
そうして武道館へ向けたさらなる楽しみを発表した後に演奏されたのは、Lilyの鳴らすイントロのギターの音で観客が歓声と腕を上げる「Lemonade」。メンバーをタイトルに合わせた黄色い照明が照らす中で、サビでは演奏しながら左右にステップを踏む。それが客席にも広がってたくさんの人が揺れている。その光景を見ていたら、これを武道館で観たらどうなるんだろうかと思った。このステージセットだって、きっと武道館に繋がっている。そう思っていたら
「See you my castle」
という文字がスクリーンに映し出された。やはりこのライブそのものが武道館に繋がっている。それくらいに今のバンドにとって大きな挑戦であり、大切な日にしようとしているということ。
でもインタビューでMaikaが
「武道館を発表した時に「チリビじゃ客席埋まらないだろ」って言われてるのを見た」
と悔しさをあらわにしていたのを見た。でも自分は間違いなく、余裕で武道館は埋まる、売り切れると思っている。そうなるであろう光景を今年の夏にいろんな場所で、そしてこの日も見てきたからこそそう思っている。2月3日がそんなメンバーの悔しさが晴れるような、最高の1日になるように。
1.aaa
2.neck
3.rose
4.HAPPY END
5.School
6.L.I.B
7.アンドロン
8.you said
9.Vacance
10.See C Love
11.duri-dade
12.This Way
13.blue berry
14.Raise
15.Tremolo
16.マイボーイ
17.シェキララ
18.you n me
encore
19.call my name
20.lemonade
ざっと振り返るだけでも、Love Music Fes、Talking Rock Fes、フジロック、ロッキン、SWEET LOVE SHOWERと毎週のごとくに(室内の夏フェスと言っていいのかってのもあるけど)観てきた中で、とりわけSWEET LOVE SHOWERの時には最新EP「for you」リリース直後ということで、その収録曲が早くも演奏されたが、その時期からすでに行われていた「for you」のリリースツアーのファイナルがこの日のZepp DiverCityワンマンである。
前回のツアーも豊洲PITがソールドアウトしているし、今の状況を考えると狭いと言っていいこのキャパはやはり即完となり、満員の観客が待つ待ち受ける中、19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転しておなじみのSEが流れる中でメンバーが登場すると、Moto(ボーカル&ギター)がカエルの被り物を頭に装着しているのが目を惹くのであるが、そのMotoがギターを持って演奏を始めたのは「for you」収録曲にして、すでにラブシャでも演奏されるくらいの仕上がりっぷりであった「aaa」。そのポップであることを自覚せずともポップになっているかのようなキャッチーさはライブの幕開けに実にふさわしいものであり、そのMotoの歌うキャッチーなメロディにLily(ギター)とMaika(ベース)、さらにはサポートドラマーのYuumiのコーラスが重なっていくことによってより一層それが際立っている。
何よりも驚くのはメンバーの背面には「for you」のジャケット写真とともに、その下にライブ開演時はバンドロゴが映し出されていたLEDビジョンが配置されており、そこに曲のイメージをさらに膨らませる映像が映し出されるというのはバンドにとって新機軸と言えるけれど、それだけではなくてそのLEDは上に登れるようになっており、まさかのZeppのステージに2階部分が出現しているのであるが、「neck」で早くもカエルの被り物を外したMotoがその2階部分に駆け上がって行って歌うというのは、これまでにもいろんなステージを所狭しと左右に駆け回ってきたこのボーカリストが、左右だけではなくて上まで行けるようになったということを示している。つまりはMotoの自由っぷりがさらに引き出されるステージ作りとなっているのであるが、ステージ上でもメンバーたちの横でスモークが噴き上がるという演出面がはるかにパワーアップしている。
それはもちろんメンバーの演奏面もそうであり、Vaundyとのコラボ曲である「rose」でもMotoが2階部分を自由に(本当にこんなに「自由」という単語が似合うボーカルはなかなかいないというくらいに、自身の衝動やテンションによるパフォーマンスに見える)歩き回りながら歌うのであるが、yuumiとMaikaによる重いグルーヴと、そこにLilyも加えたコーラスもやはりより研ぎ澄まされているのであるが、このツアーを回ってきたこと、あるいはこの曲をライブで演奏し続けてきたことによってか、Bメロ部分で観客の大合唱が起こるようになっている。このツアーに参加するのは初めてかつ、フェスではさすがにここまでの合唱はなかったがために、この光景にはライブ序盤で早くもグッときてしまう。それはこのバンドがコロナ禍真っ最中にデビューしたために、前のツアーまでは声を出して一緒に歌うというこの光景を見ることが出来なかったからである。つまりは初めての、Chilli Beans.のファンしかいないライブでの合唱をこの目で観て、耳で聴けているのである。これまでのライブを思い返すと感動しないわけがない。
Motoが2階からステージに戻ってくると、Lilyによるイントロのギターのフレーズが一回聴くと癖になり、キャッチーかつキュートなメロディがサビになると一気に飛翔する「HAPPY END」へ。ここまではどちらかというと囁くような歌唱の曲が続いてきただけに、Motoの歌の伸びやかさを実感できるし、やはりそんな曲でもステージ上を走り回っているというあたりがMotoである。
その2階部分があることにも触れたMCはやはりMaikaが主導しながら、こうしてライブに来てくれた人への感謝を口にすると、再びMotoがギターを弾きながら歌う「School」へ。セルフタイトルの1stフルアルバムの1曲目ということもあり、やはりこの曲を聴くといつだって「ライブが始まった!」という感覚になるのであるが、それくらいに何度ライブで聴いても鮮烈な印象を与えてくれるし、曲最後のコーラスフレーズを観客も一緒に歌いながら飛び跳ねて手を挙げるのが実に楽しい曲であるし、Lilyの弾きまくるギターソロで歓声と拍手が起こっているのを見ると、ギターソロ不要論なんてものがこのバンドには不要であると思う。
この日に取り入れられた背面のスクリーンが最もわかりやすく機能していたのは、そこに「¥$」の文字が大量に浮かび上がる「L.I.B」であり、メンバー3人全員が歌えるバンドとしてLilyとMotoのツインボーカルとして展開していくのであるが、その歌声を聴いていてもやっぱりそれぞれが本当に歌が上手いと思う。楽器もそうであるが、これだけ演奏ができて歌えるメンバーしかいないというあたりも、このバンドがどこか他のバンドとは全く違う、新世代感というか今までいなかったバンドという感覚を覚える部分である。
するとMotoがタンバリンを手にして、削ぎ落とされたサウンドと薄暗い照明の中で歌い始めたのはサビで一気に視界がひらけていくようなアレンジと展開の「アンドロン」なのであるが、最後のサビ前で歌に詰まって苦笑いしていた感じがあったのは、この満員の観客が手拍子をしている光景に感極まったりしていたところもあったりしたのだろうかなんてことを想像してしまう。
さらにはその薄暗い中に淡い光が照らされるように、それは暗闇の中に見える一筋の希望のようにも感じられる演出が
「今遠ざけて 遠ざけても
なお夢の中
怖いわ
あとどのくらい続く?」
という内省的な歌詞に実によく似合っているというか、なんなら曲の世界観をそのまま視覚化したかのように感じられる「you said」へ。この曲は「for you」収録曲の中でも初めてライブで聴く曲であったが、その曲をこんなにライブ映えさせることができているのはメンバーの演奏や歌唱はもちろん、曲を完璧に理解しているスタッフ、チームの尽力あってこそだろう。
そうしたマイクスタンドにマイクを置いて歌にじっくり歌うように歌っていたMotoが再びハンドマイクを手にしてイキイキとして歌う「Vacance」はYuumiの複雑なリズムのドラムが際立つというあたりが、彼女が今や完全にバンドにとって欠かせない存在になっているという証拠である。
するとこの部分のMCは何を喋るのか全く決めていないということで、逆に観客から話しかけてもらい、聞かれたことに答えるという時間に。そうしたやり取りがワンマンでできるようになったのも今回のツアーからであるために、メンバー3人はこの観客との会話を心から楽しんでいるように感じられるのだが、Maikaが大阪でラジオ番組をやるようになったことで、そのラジオ内のコーナーをどういうものにするのか観客て一緒に考えることに。
「恋愛相談」というか意見にMotoもLilyも賛成していたし、Motoもラジオネーム「カエルちゃん」として相談を送ろうとしていたのだが、
「1年間毎回恋愛相談を受けるのはさすがにキツい(笑)」
ということで、恋愛にこだわらない相談に応えるものにするらしいが、果たして実際にはどうなるのかはラジオを聞いてのお楽しみだろうか。MotoとLilyは「2週間に1回大阪から生放送」というラジオの設定を全く覚えていないことも明らかになってしまったが(笑)、Lilyにも髪色についての質問があったりというのはファイナルならではだろうか。オレンジのイメージが強いけれど、真っ赤にしたのが見たいという観客のリクエストは叶うのか。
そうして観客とコミュニケーションを取るようなMCから、 Maikaのベースがさらにゴリゴリに重さを増していくことによってこのバンドならではのグルーヴを生み、それがライブでおなじみになっているというのがバンドの強さになっている「See C Love」では今までよりもMotoがやはりステージ上を動き回りながらもその歌唱に感情のメリハリをつけているような歌い方になっており、実はこのバンドの曲に多いネガティブな感情を歌詞に込めているのがよりよくわかるようになっているのであるが、さらには
「I don't need your love」
のフレーズをMotoが歌うとメンバーと観客も続けて合唱する「duri-dade」ではMotoが2階部分に行ってその場に寝そべり、足だけを使って動いたりする姿についつい笑ってしまうというか、Maikaもそっちが気になって仕方がないみたいになっている中で、間奏では3人がYuumiのドラムセットに集まってスティックを持ってドラムを連打するというおなじみのパフォーマンスが展開され、それに合わせて手拍子も起こるのであるが、個人的な発見は今年の夏はいたる場所でこのパフォーマンスをやっていたけれど、フジロックという初見の人が多いであろうフェスの大きなステージでこのパフォーマンスで客席がめちゃくちゃ湧いていたこと。音を聴きに来ている深いリスナーにこそ刺さる、驚かせられるという。そんな確かな武器をバンドが手にした夏だったなと思うし、そのドラム連打の精度や強さも確かに向上している。
すると道路をひたすらに直進し続けるような映像が、タイトルの「This Way」がこの道をひたすらに前に歩き続けていくという意志を示すかのように映し出されるのであるが、曲を通してキーが実に低いこの曲までをいたって軽やかに歌いこなすMotoはやはり天性のボーカリストであると思うし、そのキーと歌唱の幅はそのままバンドのサウンドの幅になっていると思う。
さらにはスクリーンに龍が炎を吐き出す映像が映し出されることによって、カッコいいながらもLilyのギターサウンドが実はオリエンタルな要素を強く含んでいることを感じさせてくれる「blue berry」ではMotoがやはり2階部分まで駆け回りながら、先程とは一転してMotoがサビで伸びやかな声を響かせる。それはこの曲順によってより一層ハッキリとわかるものであるが、MCタイムになるのに歌い終わっても元の位置に戻ってこないMotoの姿にMaikaもついつい笑ってしまっていた。それはやはりリハなどではやっていない、その場のテンションと衝動によるパフォーマンスだからだろう。
そのMCでは改めてこの日来てくれたことへの感謝を示すとともに、この日がファイナルということでツアーが終わってしまうことの寂しさを感じさせると、そんな思いを胸に抱えてさらに前に進んでいくことを感じさせるのが「ONE PIECE」のタイアップになったことでバンドの名前をあらゆる層に轟かせた「Raise」であるのだが、いわゆる炎を噴き出しまくるようなアニソン的な派手な展開の曲では全くなく、むしろ炎を自分の胸の中に絶やすことなく燃やし続けるというような曲になっているのは、今のバンドのモードがそのままタイアップと合致したということだろう。今回の「for you」収録曲は全てMotoのメインボーカルという形になっているが、この曲のサビでの覚醒感を感じさせるような力強さはそうなるべくしてその形になったことをも感じさせる。
そのままLilyの軽快なカッティングギターの音色が心地良い「Tremolo」ではサビで観客がMotoに合わせて手を左右に振る中で、Maikaのラップ的な歌唱も炸裂するのであるが、その歌唱も、間奏でメンバー3人が密着して演奏する姿の楽しそうな表情も、見ているとその全てが
「どこまでも行こうじゃないの」
と思わせてくれる。それはこれからも一緒にさらに良い景色をもっと見ることができるという確信を感じさせてくれるし、それくらいの楽曲とライブのスケールをこの曲は備えている。
Maikaがクライマックスとしてさらに楽しく、盛り上がっていくことを観客に告げると、キャッチーなイントロに合わせてMotoがギターを持ったままステップを踏むのが実に楽しく、かつキュートに見える「マイボーイ」ではやはりスクリーンに映し出された、銃からハートが発射される映像がより曲のポップさを引き出し、それは流星が流れるような「シェキララ」の映像へと繋がっていくのであるが、Motoはポーズを取るようにしながら歌うと、最前の観客をまるでステージ上に引っ張り上げるかのように強く手を握ったりしている。その姿を見ていると思わず笑ってしまうのであるが、それもまたツアーやフェスなどのライブを経て進化してきた結果であろうし、そのあまりの自由っぷりはやはり最高に「シェキララ」している。それはバンドだけではなくて、腕を振り上げて飛び跳ねながら歌っている観客も。MC以上にこうして曲を演奏することが最高に楽しいコミュニケーションになっていることを実感させてくれるのである。
そんなライブの最後は今やすっかりライブを締める存在として定着した感のある「you n me」であり、初めて聴いた時、あるいはライブでこの曲を演奏しているのを観た時から自分は「光が降り注ぐような」という形容をしてきた曲であるが、まさにスクリーンに映る映像も照明もそれを示しているかのよう。その光はこれから先のこのバンドを照らし出すものだなと思っていたら、Motoがステージを飛び降りて客席最前列の前を歩き回り、観客とハイタッチしまくるという、左右と2階という上だけではなくて、まさかの客席最前列前という下までも利用するという全方向制覇っぷり。それを観ながら、デビューがコロナ禍じゃなかったら最初から小さなライブハウスでこうしたパフォーマンスをしていたのかもしれないとも思ったりしていた。それくらいにこのバンドは精神的にも物理的にも観客の近くでライブをやり、音楽を鳴らそうとしている。それはどんなに広い会場に立つようになってもきっと変わることがないはずだ。MaikaとLilyがなかなかステージに戻ってこないことを笑いながらMotoのことを待ってからキメを打ったのがこのバンドの持つ軽やかで自由な空気感を何よりも示していた。
アンコールを待つコールの音がどんどん大きくなっていくのに応えるようにメンバーたちが再びステージに登場すると、Motoがマイクスタンド、Lilyがアコギという形で演奏されたのは1stアルバムの最後を飾る曲である「call my name」。そのグルーヴよりも落ち着いた曲のメロディを感じさせるような演奏と歌唱はこのバンドの持つ温かさや優しさを確かに感じさせるのであるが、そんな曲の歌詞がやはり喪失感を感じさせるものであるというのもまたこのバンドらしさだ。ただ楽しいだけでもオシャレなだけでもカッコいいだけでもなく、人間が抱くあらゆる感情がそれぞれの曲に込められている。それをこのメンバーの体温を感じられるように鳴らすからその音楽や鳴らしている姿が響くのである。
そんなアンコールでは告知があるということで、すでに武道館ワンマン開催も発表されているが、そのライブタイトル「Welcome to My Castle」と同タイトルのアルバムが12月に発売されることを発表。その時の拍手の大きさと長さは凄まじかったのであるが、Motoいわく
「お城に招くためのお城のような」
という作品であるというのは、聴いたら間違いなく武道館ワンマンに行きたくなるようなライブ感のある作品になっているということだろう。年末前ということで、2023年のラスボス的な作品になるのはまず間違いない。
さらにそのアルバムに収録される新曲「I like you」が10月からスタートする、吉岡里帆と瑛太主演ドラマのテーマ曲になることも発表される。リリース前日にドラマの初回が放送されるということは、その日が解禁日になるということだろう。すでに脚本を読んでいるというMaikaが「凄く面白そうなドラマ」と言っていただけに、自分たちのやりたい音楽は貫きながらも、そのドラマの脚本や内容に寄り添っている部分があったりするのだろうか。
そうして武道館へ向けたさらなる楽しみを発表した後に演奏されたのは、Lilyの鳴らすイントロのギターの音で観客が歓声と腕を上げる「Lemonade」。メンバーをタイトルに合わせた黄色い照明が照らす中で、サビでは演奏しながら左右にステップを踏む。それが客席にも広がってたくさんの人が揺れている。その光景を見ていたら、これを武道館で観たらどうなるんだろうかと思った。このステージセットだって、きっと武道館に繋がっている。そう思っていたら
「See you my castle」
という文字がスクリーンに映し出された。やはりこのライブそのものが武道館に繋がっている。それくらいに今のバンドにとって大きな挑戦であり、大切な日にしようとしているということ。
でもインタビューでMaikaが
「武道館を発表した時に「チリビじゃ客席埋まらないだろ」って言われてるのを見た」
と悔しさをあらわにしていたのを見た。でも自分は間違いなく、余裕で武道館は埋まる、売り切れると思っている。そうなるであろう光景を今年の夏にいろんな場所で、そしてこの日も見てきたからこそそう思っている。2月3日がそんなメンバーの悔しさが晴れるような、最高の1日になるように。
1.aaa
2.neck
3.rose
4.HAPPY END
5.School
6.L.I.B
7.アンドロン
8.you said
9.Vacance
10.See C Love
11.duri-dade
12.This Way
13.blue berry
14.Raise
15.Tremolo
16.マイボーイ
17.シェキララ
18.you n me
encore
19.call my name
20.lemonade