銀杏BOYZ 世界ツアー 弾き語り23-24 ボーイ・ミーツ・ガール @渋谷WWW X 9/19
- 2023/09/20
- 19:43
今年の春には峯田和伸の地元の山形で凱旋公演を行った銀杏BOYZの新たなアクションは、まさかの18年ぶりとなる全都道府県ツアー。今回はバンド形態ではなくて弾き語り形式であるものの、まさか今になって銀杏BOYZがこうして全国を回るツアーをやることになるとは…という感慨でいっぱいなのは、前回こうして全国を回った際には度重なるメンバーの怪我などで延期を連発していたからである。さすがに今回は弾き語りであるためにそんな心配はないけれど。
そのツアーの初日がこの東京のWWW X。今回のツアーは隈なく全国を回るからこそ、キャパは狭い会場が中心になっているのであるが、初日の東京でこのキャパというのでチケットは争奪戦を極めたのであるが、なんとか無事に観ることができることに。銀杏BOYZのライブはいつもどこか他のライブとはまた違う緊張感を感じさせるのは、やはりこのバンドが自分の音楽人生、ライブ人生の原点であるからである。
ステージ前の前方は椅子席で、その後ろがスタンディングになっているというのも弾き語りツアーならではであるが、19時を少し過ぎたところで場内が暗転して峯田和伸がステージに登場。アコギを手にすると、歌い始めたのは最近のライブではインタールード的に映像とともに流れていた「二回戦」。まるで吐きそうなくらいの怨念を全て込めるかのようにして歌う峯田の歌声は実によく出ているが、それは弾き語りという形態によるところもあるだろうし、そもそも峯田がこのツアーに合わせてしっかり練習してきたからだとも言える。
こうして初日から来てくれた観客に感謝を告げると、弾き語りでありながらも燃え盛るような照明によって演奏されたのは「NO FUTURE NO CRY」であり、テンポはバンドでの演奏よりもかなり落としているとはいえ、そこに込められた激情のようなものは全く変わることがなく、客席では拳を振り上げている観客もいるくらいである。
峯田が改めて今回のツアーがどこも前方が椅子席で、後方がスタンディングになっていることを告知し、だからこそ腰が痛かったり立っているのがキツい人にも座って見てもらうことができることを告げると、みうらじゅんに貰ったというアコギを掲げながら、アコギのサウンドが爽やかなメロディと歌詞に実によく似合う「夢で逢えたら」へ。そのメロディの美しさについつい浸ってしまいがちになるのであるが、サポートメンバーかいないことによって峯田自身がコーラスフレーズを歌うと、ささやかながらも客席からも合唱が起きる。
それは峯田が
「歌ってもいいし、踊ってもいいし、好きに楽しんでください。周りの人の迷惑にさえならなければ何だってしていいです」
と言ったからこその合唱でもあったと思われるのであるが、続く「援助交際」はリアレンジカップリングバージョンの「円光」ではなくて、原曲バージョンであるのが嬉しいところだ。それはこの曲のあまりに美しすぎるメロディと、哀愁漂う歌詞が原曲のまんまで堪能できるからだ。峯田は1サビで歌詞を
「あの子はどこかの誰かとマッチングアプリ」
に変えるという最近のライブではおなじみの歌詞変えをして笑いを誘うのであるが、そうして時代を感じさせる言葉遣いの歌詞をも現代のめのとしてアップデートしているというあたりはさすがであるし、弾き語りだからこそその集中力がさらに研ぎ澄まされている感すらある。
そんな峯田は
「本当は40歳にもなってこの曲を歌いたくないんですけど、でも誰かが「自分が作った曲は自分が産み落とした子供みたいなものだから、死ぬまで歌わないといけない」みたいなことを言ってて…。いや、誰もそんなこと言ってないな(笑)」
と嘘か誠かわからないようなことを口にしてから「トラッシュ」を歌い始めるのであるが、以前やっていたアコースティックツアーでのこの曲がそうであったように、テンポを落として音も削ぎ落とされた中で歌うことによって、その毒々しいというか、凶悪的とも言えるような歌唱方法がより際立っている。
そのままアコギを鳴らしながら歌い始めたのはまさかの「ナイトライダー」という選曲であり、峯田が心憎いのはこうして普段のライブではあまりやらないような曲をやる時だけは前フリ的なMCをせずに歌い始めるというところであるのだが、本当にカップリング曲だったとは思えないくらいの名曲である。
「しょうもない写メールを撮って」
というフレーズなどには時代感をも感じてしまうけれど、それはその当時の峯田のリアルがそのまま刻まれているということである。
そんな峯田は前日に深夜までやっている銭湯に行ってサウナに入っていたらしいが、
「入れ墨した人も入れるところだから、ヤクザの人ばっかりで(笑)実際に話したりしてないから本当のところはわからないけど、でも醸し出すオーラみたいなのがあって。その人たちも普通の周りの人に迷惑かけまいとしてる感じが出てて、凄いいいなって。そしたら出た時に19歳の男の子2人が待ってて。
「峯田さんですよね?ライブ行きます」
って声かけられて。ち○ことか全部見られたなって思って(笑)」
というエピソードで爆笑させてくれるのであるが、アコギと歌だけという形にも関わらず「エンジェルベイビー」ではどこかその音からロックの初期衝動のようなものを強く感じさせてくれるし、どこかここまでは弾き語りならではの聴き入るというような感じの楽しみ方だった観客たちも拳を挙げたり、声を上げたりするようになったのは、その衝動が観客にも確かに伝わっているからだろう。
それは
「抱きしめたい 抱きしめたい」
という歌い出しからして感情が歌にこもりまくっている「骨」もそうであるのだが、この日の客席は若い人が非常に多かった。普段の銀杏BOYZのライブは割と、峯田の音楽をずっと聴いて一緒に歳をとってきた人たちという年代が多いけれど、それ以上に峯田が銭湯で会った人たちの世代が多かったのは、この時期の曲がちゃんとそうした若い人たちのリアルタイムな銀杏BOYZの音楽として届いているからなんじゃないかと思う。この日は
「三軒茶屋までジャンプする」
という原曲通りの歌詞であり、バンドでのライブではドラマーの岡山健二が素朴な歌声で歌うことが多くなっている曲でもあるだけに、こうして峯田が歌うこの曲を聴けるのも少し久しぶりだ。
すると
「じゃあちょっとカバーを」
と言ってアコギを爪弾くようにして鳴らしただけで何の曲かわかるのは、忌野清志郎による日本語バージョンの「デイ・ドリーム・ビリーバー」のカバーという弾き語りだからこその選曲であるのだが、峯田の声がよく出ていることによってその名曲っぷりがそのまま伝わってくるし、峯田の歌声はこの曲がずっと峯田が歌ってきた曲であるかのように自分のものに染め上げてしまう力があるなと改めて思う。
「今日のライブとか、今回のツアーでは配信とかもやってなくて。チケットが取れなかったっていう人がいるのもわかってるけど、俺はこの空間でしか伝わらないものがあると思ってるし、日常とかネットとかでも嫌なこととか山ほどあるじゃん?ツイッターとか僕はやってないですけど、文字数制限とかがあるから、そういう意図がなくても尖って見えちゃうみたいなところもあるし。だからみんなSNSとかネットを一回やめてみません?(笑)
そういうところじゃなくて、カッコよく言うと俺が生きる場所はこういうライブハウスの中なんだなと思う」
という峯田の言葉に強く感じるものがあるのは、優しい人だからこそネット上でのギズギスした感じや攻撃し合っているやり取りにいろんなことを感じたり、メンタルがやられそうになるんだろうなと思う。それは10-FEETのTAKUMAもずっと口にしていることであるが、だからこそどちらの作る曲も聴いている我々を抱きしめてくれるような感覚が確かにあるのだ。
それは「恋は永遠」もそうであり、峯田の穏やかな人柄がそのまま曲になっているとも言える。音源ではYUKIが歌っているパートも全て峯田が歌うのであるが、「エンジェルベイビー」からの峯田1人だけになった後の銀杏BOYZのシングル3曲はもうライブにおいても欠かせない存在である。
曲終わりには歌詞の
「セブンティーンアイスうんめー」
に合わせて、
「セブンティーンアイスってあんまり売ってないじゃない?ある場所は市営プールとかああいう場所。水場にセブンティーンアイスはある(笑)」
という豆知識を披露するも、ここまでがかなり喋り過ぎているというのもあるからか、ここからはあまり喋らずに曲を続けて演奏することを宣言する。
なのですぐさま「GOD SAVE THE わーるど」を歌い始めるのであるが、バンドでのライブを観てきた残像が頭の中にあるのか、どこか弾き語りであっても軽快なダンスチューンであるようにも聞こえてくるのだが、それは峯田が
「銀杏BOYZを背負ってる」
という覚悟のもとに自ら志願してこのツアーを行なっているからということもあるだろう。
すると一気にステージを照らす照明が薄暗くなる中で歌い始めたのは大曲「光」。今までのライブでは弾き語りから曲中でバンドサウンドになっていくことによるカタルシスを感じさせてくれていたのが、峯田の背後から薄っすらとした淡い光を当てるような照明のみという演出によって、弾き語りでも全く長い演奏時間に飽きることがないどころか、その歌に引き込まれている間にあっという間に終わってしまった感すらある。それは今の峯田は1人だけでもこの曲の持つ力を最大限に引き出すことができるということだ。
さらにはイントロでアコギを弾いている音に「あれ?これは…」と思っていたら、
「誰も君のことを悲しませたくない」
と峯田が歌い始めたのは、まさかの「もしも君が泣くならば」というファンが歓喜せざるを得ないような選曲。しかもコーラス部分の歌詞は
「I WANNA BE SO BEAUTIFUL」
と「SO」が入っているGOING STEADYバージョンのものであり、だからこそ弾き語りでもパンクにすら感じるのであるが、サビでは峯田がマイクスタンドを客席に向けるようにして回すと、観客たちの大合唱が起こる。
いろんなアーティストのいろんな曲を聴いているけれども、人生で1番聴いてきたCDは GOING STEADYの「さくらの唄」だ。もう高校生の頃はそればっかり聴いていた。だから歌詞なんか見なくても全部歌える。そうするとあの頃の記憶が蘇ってくる。それはやはり峯田和伸が作ってきた音楽が自分の人生と密接に紐づいているということだ。それはこうして同じような想いを持つ人たちと一緒に歌うことができたからそう感じたのかもしれない。
そんな激情というような、込み上げてきてしまう感情を一旦クールダウンさせるかのようにして峯田はしっとりと、しかしながらしっかりと感情を込めるようにして「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」を歌い始める。バンドでのライブでもそのメロディの美しさは実感できるけれど、それでも弾き語りという形態だと
「もうきみのこと すきなんかじゃないよ
愛しているだけ
ぼくが生きるまで きみは死なないで
つないだ手も
こぼれた精液も
光なきこの世界も」
という歌詞がいつも以上にダイレクトに脳内に突き刺さってくる。タイトルだけで敬遠されたりするかもしれない曲だけど、ただの下ネタソングじゃなくて、神聖さすら感じられるような曲であるということがよくわかる。
そしてバンドでのライブではクライマックスを担う曲になっている「少年少女」もまた、そのバンドでの残像が残っているからか、「エンジェルベイビー」と同じように弾き語りでありながらも確かな疾走感を感じる。
「今日は汗ひとつかかずに軽やかに歌って帰る」
と言っていた峯田もすでに汗をかきまくっているのがわかるし、実際に本人も
「軽やかにやるのは無理だった(笑)」
と言っていたが、それはそのくらいに感情を込めて歌っているからだ。特にこの曲のサビの最後の
「DON'T SAY GOODBYE」
のフレーズを声を張り上げるどころか、叫ぶようにして歌っているあたりはまさにそうしたものである。
そして峯田は以前にMOROHAとここで対バンをした時に、客席で痴漢が取り押さえられて警察に連行されたことを明かすと、
「触りたいなら金払って風俗行ってください。渋谷にはそういう店いっぱいあるから。電車プレイできる店もあるから(笑)俺も行ってるし(笑)
あと、チケット手に入らないからって転売されてるのを買ってる人もいるかもしれない。そこまでしてでも行きたいのはわかる。でもいつかそれはしっぺ返しが来るよ」
と、観客に改めて伝えたのは自分のライブがそうしたことで荒れたり、嫌な思いをしたりする人を見たくないからだろうけれど、
「アイドルのライブ行ったり、他のカッコいいロックバンドのライブ行ったりしていいよ。銀杏BOYZだけじゃなくて全然いい。でもたまには近くにライブしに来たらまた観にきてね」
と言うあたりが本当に峯田和伸という人だなぁと思う。もうこっちは観れる限り、行ける限りライブを観に行きたいと思っているというのに。それくらいに銀杏BOYZ(GOING STEADY)に人生を捻じ曲げられてしまったのだ。
そんなライブの最後はやはり「BABY BABY」で、峯田は再びマイクスタンドを客席の方に向けて合唱を促す。それは弾き語りという形態であるだけに、バンドでのライブよりも合唱に特化した、観客の声がよく聞ける形であると言える。だからこそタイトルフレーズをメインで歌っている人もいれば、コーラスで歌っている人がいるのもはっきりとわかる。もう数え切れないくらいにライブで聴いてきても変わらずに感動してしまうのは、やはりこうしてみんなで歌うと銀杏BOYZを好きな人が、今だけは周りにたくさんいるということがわかるからだ。それは銀杏BOYZのライブという空間にいないと味わうことができない。
そしてラストは峯田が
「ギターリフ弾けないから(笑)」
と言ってアコギを鳴らしながら、バンドでの演奏のギターリフ部分を口で発する「僕たちは世界を変えることはできない」。その口でのリフも弾き語りにしてバンドでのライブでのこの曲のクライマックス感を感じさせるのであるが、そのリフを観客も一緒になって歌うのがなんだか面白い。そんな一切の殺伐さみたいなものもないからこそ、
「来年7月までこのツアーは続くけど、また東京に帰ってくるから!」
と峯田は観客との再会を約束したのだ。そこには今もこうして目の前で峯田が歌い続けてくれていることの幸せや喜びが満ち溢れていた。
しかしながらアンコールでマイクを持ってギターなしという峯田が登場すると、不穏なノイズサウンドが流れ、そのオケに合わせて峯田が歌い始めたのは「愛してるってゆってよね」で、客席は峯田にマイクを向けられて
「愛してるってノイバウテン!」
のフレーズを叫びながら、この日最大の熱狂を生み出すように飛び跳ねまくっていた。それはやはり1人だけであっても、峯田がこうして銀杏BOYZとして生み出してきた曲たちを歌えばそれは銀杏BOYZのライブになるということを示していた。それはライブが終わってステージから去っていく峯田に浴びせられる「峯田ー!」の声がいつものライブと同じものだったからだ。
峯田の弾き語りでの銀杏BOYZというと、どうしてもメンバーが全員脱退して1人になってから最初のライブとなった2014年の新木場STUDIO COASTでのUKFC on the Roadを思い出す。あの時、本当に1人きりになってしまって、我々が大好きだったあの4人での銀杏BOYZをもう観ることができないという現実を受け入れたくなくて、また峯田が
「1人だけど…聞こえないかな?あいつのギター、あいつのベース、あの人のドラムが」
と言うもんだから、もうめちゃくちゃ泣きながらライブを観ていた。きっと自分の人生史上1番ライブ中に泣いていたのはあの日だ。
でもこの日の弾き語りにはそんな空気は一切ない。今はただ、こうして銀杏BOYZの曲を聴くことができていること、今回はきっと無事に全都道府県を回ってまた帰ってくるであろうことの喜びだけが溢れていた。だから終わった後に出口へ向かっていく観客の表情はみんな笑顔だった。もう本当にいろいろあったけれど、今はこれでいいのかもしれないと思った。明日が必ず来るように、銀杏BOYZのライブもまた必ず観れるということがわかっているから。
1.二回戦
2.NO FUTURE NO CRY
3.夢で逢えたら
4.援助交際
5.トラッシュ
6.ナイトライダー
7.エンジェルベイビー
8.骨
9.デイ・ドリーム・ビリーバー
10.恋は永遠
11.GOD SAVE THE わーるど
12.光
13.もしも君が泣くならば
14.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
15.少年少女
16.BABY BABY
17.僕たちは世界を変えることはできない
encore
18.愛してるってゆってよね
そのツアーの初日がこの東京のWWW X。今回のツアーは隈なく全国を回るからこそ、キャパは狭い会場が中心になっているのであるが、初日の東京でこのキャパというのでチケットは争奪戦を極めたのであるが、なんとか無事に観ることができることに。銀杏BOYZのライブはいつもどこか他のライブとはまた違う緊張感を感じさせるのは、やはりこのバンドが自分の音楽人生、ライブ人生の原点であるからである。
ステージ前の前方は椅子席で、その後ろがスタンディングになっているというのも弾き語りツアーならではであるが、19時を少し過ぎたところで場内が暗転して峯田和伸がステージに登場。アコギを手にすると、歌い始めたのは最近のライブではインタールード的に映像とともに流れていた「二回戦」。まるで吐きそうなくらいの怨念を全て込めるかのようにして歌う峯田の歌声は実によく出ているが、それは弾き語りという形態によるところもあるだろうし、そもそも峯田がこのツアーに合わせてしっかり練習してきたからだとも言える。
こうして初日から来てくれた観客に感謝を告げると、弾き語りでありながらも燃え盛るような照明によって演奏されたのは「NO FUTURE NO CRY」であり、テンポはバンドでの演奏よりもかなり落としているとはいえ、そこに込められた激情のようなものは全く変わることがなく、客席では拳を振り上げている観客もいるくらいである。
峯田が改めて今回のツアーがどこも前方が椅子席で、後方がスタンディングになっていることを告知し、だからこそ腰が痛かったり立っているのがキツい人にも座って見てもらうことができることを告げると、みうらじゅんに貰ったというアコギを掲げながら、アコギのサウンドが爽やかなメロディと歌詞に実によく似合う「夢で逢えたら」へ。そのメロディの美しさについつい浸ってしまいがちになるのであるが、サポートメンバーかいないことによって峯田自身がコーラスフレーズを歌うと、ささやかながらも客席からも合唱が起きる。
それは峯田が
「歌ってもいいし、踊ってもいいし、好きに楽しんでください。周りの人の迷惑にさえならなければ何だってしていいです」
と言ったからこその合唱でもあったと思われるのであるが、続く「援助交際」はリアレンジカップリングバージョンの「円光」ではなくて、原曲バージョンであるのが嬉しいところだ。それはこの曲のあまりに美しすぎるメロディと、哀愁漂う歌詞が原曲のまんまで堪能できるからだ。峯田は1サビで歌詞を
「あの子はどこかの誰かとマッチングアプリ」
に変えるという最近のライブではおなじみの歌詞変えをして笑いを誘うのであるが、そうして時代を感じさせる言葉遣いの歌詞をも現代のめのとしてアップデートしているというあたりはさすがであるし、弾き語りだからこそその集中力がさらに研ぎ澄まされている感すらある。
そんな峯田は
「本当は40歳にもなってこの曲を歌いたくないんですけど、でも誰かが「自分が作った曲は自分が産み落とした子供みたいなものだから、死ぬまで歌わないといけない」みたいなことを言ってて…。いや、誰もそんなこと言ってないな(笑)」
と嘘か誠かわからないようなことを口にしてから「トラッシュ」を歌い始めるのであるが、以前やっていたアコースティックツアーでのこの曲がそうであったように、テンポを落として音も削ぎ落とされた中で歌うことによって、その毒々しいというか、凶悪的とも言えるような歌唱方法がより際立っている。
そのままアコギを鳴らしながら歌い始めたのはまさかの「ナイトライダー」という選曲であり、峯田が心憎いのはこうして普段のライブではあまりやらないような曲をやる時だけは前フリ的なMCをせずに歌い始めるというところであるのだが、本当にカップリング曲だったとは思えないくらいの名曲である。
「しょうもない写メールを撮って」
というフレーズなどには時代感をも感じてしまうけれど、それはその当時の峯田のリアルがそのまま刻まれているということである。
そんな峯田は前日に深夜までやっている銭湯に行ってサウナに入っていたらしいが、
「入れ墨した人も入れるところだから、ヤクザの人ばっかりで(笑)実際に話したりしてないから本当のところはわからないけど、でも醸し出すオーラみたいなのがあって。その人たちも普通の周りの人に迷惑かけまいとしてる感じが出てて、凄いいいなって。そしたら出た時に19歳の男の子2人が待ってて。
「峯田さんですよね?ライブ行きます」
って声かけられて。ち○ことか全部見られたなって思って(笑)」
というエピソードで爆笑させてくれるのであるが、アコギと歌だけという形にも関わらず「エンジェルベイビー」ではどこかその音からロックの初期衝動のようなものを強く感じさせてくれるし、どこかここまでは弾き語りならではの聴き入るというような感じの楽しみ方だった観客たちも拳を挙げたり、声を上げたりするようになったのは、その衝動が観客にも確かに伝わっているからだろう。
それは
「抱きしめたい 抱きしめたい」
という歌い出しからして感情が歌にこもりまくっている「骨」もそうであるのだが、この日の客席は若い人が非常に多かった。普段の銀杏BOYZのライブは割と、峯田の音楽をずっと聴いて一緒に歳をとってきた人たちという年代が多いけれど、それ以上に峯田が銭湯で会った人たちの世代が多かったのは、この時期の曲がちゃんとそうした若い人たちのリアルタイムな銀杏BOYZの音楽として届いているからなんじゃないかと思う。この日は
「三軒茶屋までジャンプする」
という原曲通りの歌詞であり、バンドでのライブではドラマーの岡山健二が素朴な歌声で歌うことが多くなっている曲でもあるだけに、こうして峯田が歌うこの曲を聴けるのも少し久しぶりだ。
すると
「じゃあちょっとカバーを」
と言ってアコギを爪弾くようにして鳴らしただけで何の曲かわかるのは、忌野清志郎による日本語バージョンの「デイ・ドリーム・ビリーバー」のカバーという弾き語りだからこその選曲であるのだが、峯田の声がよく出ていることによってその名曲っぷりがそのまま伝わってくるし、峯田の歌声はこの曲がずっと峯田が歌ってきた曲であるかのように自分のものに染め上げてしまう力があるなと改めて思う。
「今日のライブとか、今回のツアーでは配信とかもやってなくて。チケットが取れなかったっていう人がいるのもわかってるけど、俺はこの空間でしか伝わらないものがあると思ってるし、日常とかネットとかでも嫌なこととか山ほどあるじゃん?ツイッターとか僕はやってないですけど、文字数制限とかがあるから、そういう意図がなくても尖って見えちゃうみたいなところもあるし。だからみんなSNSとかネットを一回やめてみません?(笑)
そういうところじゃなくて、カッコよく言うと俺が生きる場所はこういうライブハウスの中なんだなと思う」
という峯田の言葉に強く感じるものがあるのは、優しい人だからこそネット上でのギズギスした感じや攻撃し合っているやり取りにいろんなことを感じたり、メンタルがやられそうになるんだろうなと思う。それは10-FEETのTAKUMAもずっと口にしていることであるが、だからこそどちらの作る曲も聴いている我々を抱きしめてくれるような感覚が確かにあるのだ。
それは「恋は永遠」もそうであり、峯田の穏やかな人柄がそのまま曲になっているとも言える。音源ではYUKIが歌っているパートも全て峯田が歌うのであるが、「エンジェルベイビー」からの峯田1人だけになった後の銀杏BOYZのシングル3曲はもうライブにおいても欠かせない存在である。
曲終わりには歌詞の
「セブンティーンアイスうんめー」
に合わせて、
「セブンティーンアイスってあんまり売ってないじゃない?ある場所は市営プールとかああいう場所。水場にセブンティーンアイスはある(笑)」
という豆知識を披露するも、ここまでがかなり喋り過ぎているというのもあるからか、ここからはあまり喋らずに曲を続けて演奏することを宣言する。
なのですぐさま「GOD SAVE THE わーるど」を歌い始めるのであるが、バンドでのライブを観てきた残像が頭の中にあるのか、どこか弾き語りであっても軽快なダンスチューンであるようにも聞こえてくるのだが、それは峯田が
「銀杏BOYZを背負ってる」
という覚悟のもとに自ら志願してこのツアーを行なっているからということもあるだろう。
すると一気にステージを照らす照明が薄暗くなる中で歌い始めたのは大曲「光」。今までのライブでは弾き語りから曲中でバンドサウンドになっていくことによるカタルシスを感じさせてくれていたのが、峯田の背後から薄っすらとした淡い光を当てるような照明のみという演出によって、弾き語りでも全く長い演奏時間に飽きることがないどころか、その歌に引き込まれている間にあっという間に終わってしまった感すらある。それは今の峯田は1人だけでもこの曲の持つ力を最大限に引き出すことができるということだ。
さらにはイントロでアコギを弾いている音に「あれ?これは…」と思っていたら、
「誰も君のことを悲しませたくない」
と峯田が歌い始めたのは、まさかの「もしも君が泣くならば」というファンが歓喜せざるを得ないような選曲。しかもコーラス部分の歌詞は
「I WANNA BE SO BEAUTIFUL」
と「SO」が入っているGOING STEADYバージョンのものであり、だからこそ弾き語りでもパンクにすら感じるのであるが、サビでは峯田がマイクスタンドを客席に向けるようにして回すと、観客たちの大合唱が起こる。
いろんなアーティストのいろんな曲を聴いているけれども、人生で1番聴いてきたCDは GOING STEADYの「さくらの唄」だ。もう高校生の頃はそればっかり聴いていた。だから歌詞なんか見なくても全部歌える。そうするとあの頃の記憶が蘇ってくる。それはやはり峯田和伸が作ってきた音楽が自分の人生と密接に紐づいているということだ。それはこうして同じような想いを持つ人たちと一緒に歌うことができたからそう感じたのかもしれない。
そんな激情というような、込み上げてきてしまう感情を一旦クールダウンさせるかのようにして峯田はしっとりと、しかしながらしっかりと感情を込めるようにして「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」を歌い始める。バンドでのライブでもそのメロディの美しさは実感できるけれど、それでも弾き語りという形態だと
「もうきみのこと すきなんかじゃないよ
愛しているだけ
ぼくが生きるまで きみは死なないで
つないだ手も
こぼれた精液も
光なきこの世界も」
という歌詞がいつも以上にダイレクトに脳内に突き刺さってくる。タイトルだけで敬遠されたりするかもしれない曲だけど、ただの下ネタソングじゃなくて、神聖さすら感じられるような曲であるということがよくわかる。
そしてバンドでのライブではクライマックスを担う曲になっている「少年少女」もまた、そのバンドでの残像が残っているからか、「エンジェルベイビー」と同じように弾き語りでありながらも確かな疾走感を感じる。
「今日は汗ひとつかかずに軽やかに歌って帰る」
と言っていた峯田もすでに汗をかきまくっているのがわかるし、実際に本人も
「軽やかにやるのは無理だった(笑)」
と言っていたが、それはそのくらいに感情を込めて歌っているからだ。特にこの曲のサビの最後の
「DON'T SAY GOODBYE」
のフレーズを声を張り上げるどころか、叫ぶようにして歌っているあたりはまさにそうしたものである。
そして峯田は以前にMOROHAとここで対バンをした時に、客席で痴漢が取り押さえられて警察に連行されたことを明かすと、
「触りたいなら金払って風俗行ってください。渋谷にはそういう店いっぱいあるから。電車プレイできる店もあるから(笑)俺も行ってるし(笑)
あと、チケット手に入らないからって転売されてるのを買ってる人もいるかもしれない。そこまでしてでも行きたいのはわかる。でもいつかそれはしっぺ返しが来るよ」
と、観客に改めて伝えたのは自分のライブがそうしたことで荒れたり、嫌な思いをしたりする人を見たくないからだろうけれど、
「アイドルのライブ行ったり、他のカッコいいロックバンドのライブ行ったりしていいよ。銀杏BOYZだけじゃなくて全然いい。でもたまには近くにライブしに来たらまた観にきてね」
と言うあたりが本当に峯田和伸という人だなぁと思う。もうこっちは観れる限り、行ける限りライブを観に行きたいと思っているというのに。それくらいに銀杏BOYZ(GOING STEADY)に人生を捻じ曲げられてしまったのだ。
そんなライブの最後はやはり「BABY BABY」で、峯田は再びマイクスタンドを客席の方に向けて合唱を促す。それは弾き語りという形態であるだけに、バンドでのライブよりも合唱に特化した、観客の声がよく聞ける形であると言える。だからこそタイトルフレーズをメインで歌っている人もいれば、コーラスで歌っている人がいるのもはっきりとわかる。もう数え切れないくらいにライブで聴いてきても変わらずに感動してしまうのは、やはりこうしてみんなで歌うと銀杏BOYZを好きな人が、今だけは周りにたくさんいるということがわかるからだ。それは銀杏BOYZのライブという空間にいないと味わうことができない。
そしてラストは峯田が
「ギターリフ弾けないから(笑)」
と言ってアコギを鳴らしながら、バンドでの演奏のギターリフ部分を口で発する「僕たちは世界を変えることはできない」。その口でのリフも弾き語りにしてバンドでのライブでのこの曲のクライマックス感を感じさせるのであるが、そのリフを観客も一緒になって歌うのがなんだか面白い。そんな一切の殺伐さみたいなものもないからこそ、
「来年7月までこのツアーは続くけど、また東京に帰ってくるから!」
と峯田は観客との再会を約束したのだ。そこには今もこうして目の前で峯田が歌い続けてくれていることの幸せや喜びが満ち溢れていた。
しかしながらアンコールでマイクを持ってギターなしという峯田が登場すると、不穏なノイズサウンドが流れ、そのオケに合わせて峯田が歌い始めたのは「愛してるってゆってよね」で、客席は峯田にマイクを向けられて
「愛してるってノイバウテン!」
のフレーズを叫びながら、この日最大の熱狂を生み出すように飛び跳ねまくっていた。それはやはり1人だけであっても、峯田がこうして銀杏BOYZとして生み出してきた曲たちを歌えばそれは銀杏BOYZのライブになるということを示していた。それはライブが終わってステージから去っていく峯田に浴びせられる「峯田ー!」の声がいつものライブと同じものだったからだ。
峯田の弾き語りでの銀杏BOYZというと、どうしてもメンバーが全員脱退して1人になってから最初のライブとなった2014年の新木場STUDIO COASTでのUKFC on the Roadを思い出す。あの時、本当に1人きりになってしまって、我々が大好きだったあの4人での銀杏BOYZをもう観ることができないという現実を受け入れたくなくて、また峯田が
「1人だけど…聞こえないかな?あいつのギター、あいつのベース、あの人のドラムが」
と言うもんだから、もうめちゃくちゃ泣きながらライブを観ていた。きっと自分の人生史上1番ライブ中に泣いていたのはあの日だ。
でもこの日の弾き語りにはそんな空気は一切ない。今はただ、こうして銀杏BOYZの曲を聴くことができていること、今回はきっと無事に全都道府県を回ってまた帰ってくるであろうことの喜びだけが溢れていた。だから終わった後に出口へ向かっていく観客の表情はみんな笑顔だった。もう本当にいろいろあったけれど、今はこれでいいのかもしれないと思った。明日が必ず来るように、銀杏BOYZのライブもまた必ず観れるということがわかっているから。
1.二回戦
2.NO FUTURE NO CRY
3.夢で逢えたら
4.援助交際
5.トラッシュ
6.ナイトライダー
7.エンジェルベイビー
8.骨
9.デイ・ドリーム・ビリーバー
10.恋は永遠
11.GOD SAVE THE わーるど
12.光
13.もしも君が泣くならば
14.アーメン・ザーメン・メリーチェイン
15.少年少女
16.BABY BABY
17.僕たちは世界を変えることはできない
encore
18.愛してるってゆってよね