GRAPEVINE SUMMER SHOW @Zepp Shinjuku 9/14
- 2023/09/15
- 19:22
去年には一時的に活動できない期間もあったけれども、それを経て、というかそれを経たからこそここにきて一気にバンドとしてアクセルを踏み込んでいる感があるのは、今月末に待望のニューアルバム「Almost there」のリリースを控えているからであり、そんなGRAPEVINEがアルバム発売前に開催するライブがこの「SUMMER SHOW」と題された初のZepp Shinjukuでのワンマンであり、ある意味ではアルバムリリース後の10月から開催されるツアーとは切り離されている感もあるのだが、間違いなくアルバムリリース前からそこに収録される新曲が聴ける貴重な機会である。
チケットソールドアウトで客席は満員の中、19時ピッタリになると場内が暗転して亀井亨(ドラム)を先頭にして不動の5人(もはやサポートという領域を超えているベーシストの金戸覚は長く伸びた髪を結き、キーボードなどのマルチプレイヤーの高野勲は全く変わらない白髪混じりのパーマ姿)がステージに登場すると、髪がセンター分けっぽくなった田中和将(ボーカル&ギター)がジャキジャキとしたロックなサウンドのギターを弾きながら歌い始めたのは、すでに先行配信されている「Ub (You bet on it)」からスタートするのであるが、
「新しい果実には当然
熟す時が訪れる
彼等はもう頬張る寸前 いやもう遅い
既に食べてしまったんだろう」
という歌詞はバンドが前作アルバム「新しい果実」を経てすでに新しい領域に足を踏み入れているということがわかるし、もうそれと同じサウンドやスタイルのGRAPEVINEはいないということを感じさせる。鳴らしている音だけではなくて、そんな歌詞からも今のGRAPEVINEのロックさを感じさせるようなオープニングである。
すると金戸のうねりまくるようなイントロのベースのリズムのみでグルーヴを生み出すような「冥王星」というカップリング曲からの選曲には驚かされるのであるが、GRAPEVINEのライブではいつも何の飾りなどもないがゆえに背面も黒バックであるのだが、そこに照射される照明の光がまさに冥王星を想起させるように星の数々のように光るというあたりはさりげなくも最大限の視覚効果を表現すると、一気にバンドのサウンドが重さを増していく「スレドニ・ヴァシュター」へと続いていくのだが、その歌唱の伸びやかさとともに、冒頭の「Ub〜」から田中がはちきれんばかりの笑顔を浮かべて歌っているということに気付く。それはこうしてライブをやれていることが何よりも楽しくて仕方がないということが素直に表情に表れていると言っていいだろう。その表情はとてもメジャーデビューから25周年を迎えたバンドのものとは思えないくらいに瑞々しいものである。
「Zepp Shinjuku、初めて来たぜー!後、26日に新しいアルバムが出るぜー!それくらいしか言うことはないぜー!」
と田中が口にすると、そのままタイトルを口にしたことによって、まだ音源を聴くことができない「Ready to get started?」だとわかるのであるが、この曲が実にギターロック感の強い曲であり、間奏では田中と西川弘剛(ギター)が向かい合ってギターを弾いたり、あるいは同じタイミングでステージ前に出てきてギターを弾いたりする場面もある。その構図は前作の曲では見ることが出来なかったものであり、サウンドとしてもライブとしても新作でGRAPEVINEがプリミティブなロックサウンドに回帰してるんじゃないかという想像をしてしまう。
かと思えば音数を削ぎ落とし、絞り込んだ、田中のファルセットボーカルに金戸と亀井のコーラスが美しく重なっていく「目覚ましはいつも鳴り止まない」へと続くあたりが、常に観客の期待や予想を心地良く裏切り、また観客側もそんな天邪鬼さを楽しんできたバインらしくもあるのだが、田中がアコギに持ち替えてさらにそのハイトーンボーカルの安定感を響かせる「NOS」と続いていくことによって、やはりまだアルバムリリース前ということもあり、新作アルバムの曲以外にどんな曲が演奏されるのかが全くわからなくなるのであるが、そんな楽しみはこの日のライブならではのものであろうし、どんな曲であっても毎回ライブで演奏されてきたかのような安定感を誇る演奏とグルーヴを見せてくれるのもさすがバインである。
そんな中で客席から若干のどよめき(本当にさりげないくらいの)が起こったのは懐かしのシングル曲にして至上の名曲の一つである「想うということ」。「音楽と人」最新号での田中のインタビューで、自身がまだ音楽活動ができない、曲が作れない時にも亀井がたくさん曲を作ってくれていたということを語っていたけれど、その亀井の作曲家としてのメロディメーカーっぷりがはるか昔から現出していたというか、むしろバインの名曲サイドの曲を担ってきたのが実は亀井だったということがよくわかる曲だ。だからこそ、田中の報道が出て一時的にバンドが活動を止めた時にも、
「彼をこれからサポートしていきたいと思っています」
というコメントを出していた亀井が誰よりもGRAPEVINEというバンドのことを想っていたということがわかるのである。
そんな名曲の後に、その亀井のドラムのみが響き渡りながら、田中のファルセットボーカルに金戸のコーラスが重なっていくという「ねずみ浄土」が演奏されるのであるが、前作のリード曲であったこの曲は今やバインの中で最もライブで欠かさずに演奏している曲だと言えるかもしれない。
「新たな普通 何かが狂う」
というフレーズはコロナ禍になった当時のZepp Hanedaなんかでのスタンディングエリアにも全て椅子を並べたり、あるいはホールで一席ずつ開けた状態でライブを思い出させるし、そうした時期を乗り越えて、今では満員のスタンディングでのライブハウスで、決して一緒に歌えるような曲は全くないけれど、イントロが鳴った瞬間や曲終わりで観客が歓声を上げることができるようになったくらいになったんだなと思えるのである。
そんな前作を象徴するようなリード曲の後に演奏されたことによって、すでに配信されている新曲の「雀の子」が今のバインのロックモードを指し示している曲であることがよくわかるのであるが、亀井のリズムマシーンのようにイーブンに刻むハイハットのリズムも含めて、こんなにもライブ映えする曲なのかと驚いてしまう。例えばバインのグルーヴサイドの極みというと「豚の皿」や「CORE」というあたりがすぐに浮かんでくるけれども、そうした曲の深さや濃さを引き継ぎながらも、そこにギターロックとしてのシャープなサウンドとメロディが融合している、間違いなくこの日本においてこのバンドにしか作れない曲が生まれたなと思ったし、今の時点でそう思うということは、アルバムリリース後のツアーを経てさらにそれが進化していくということをも感じさせるのである。自分がこの世で1番好きな作家でもある町田康の影響も表出した関西弁丸出しの歌詞もまた今になって新鮮なバインらしさを感じさせてくれる。
するとイントロでは激しくメンバーの鳴らす音が重なり、その演奏がどんどん高まっていきながらも、サビではやはり亀井によって描かれたメロディが田中の歌声によって美しく響く「here」はバインのライブでのグルーヴとメロディの美しさを1曲の中で同時に感じさせてくれる曲である。基本的にバインのライブではよっぽど激しめの曲が演奏されない限りはほとんど客席から腕が上がったりすることはないのであるが、この曲ではイントロから、さらにサビでも腕を上げている人がかなりいたという光景がそれを示している。
そんな中で田中は再びアルバムのリリースを告知して、
「あと6千万曲」
と嘯きながら、
「新宿というこの街に捧げる!」
と言って「This Town」を演奏するのであるが、田中のアコギに乗せたメロディによって個人的にはどこか牧歌的なイメージの、いろんな人里離れた野外会場でのフェスで吹く風に似合う曲だと思っているだけに、この歌舞伎町といういつまで経ってもその街が持つ猥雑さに馴染めない自分としては「こんなにこの曲が似合わない街もあるんだな」なんてことを思ってしまう。
そんな歌舞伎町に似つかわしくないような曲から一転して、ステージを色とりどりの照明が淫靡に照らす新曲はそうした演出と、テルミンまでも操り、新作ではプロデューサーも務めている高野のシンセやキーボードによるいかがわしさを感じさせるようなサウンドがこの街に実によく似合う。しかしそこにもやはりバンド感、ロック感を強く感じるし、それは続けて演奏されたもう1曲の新曲の溌溂としたギターロック感もそうだ。そちらの新曲では
「アキバ おもてなし どうでもいい」
的な(あくまで自分が聴き取れた範囲で)歌詞が田中からの現在の社会への皮肉を込めたメッセージとして響くという意味でバインらしい曲であるのだが、田中はインタビューで
「社会や政治に対する歌詞を書くバンドが減ってきている」
とも言っていた。何を歌うかはそれぞれの自由だけれど、こうしたことを歌うことには少なからずリスクも付きまとう。考え方が違う人を弾いてしまうような。でもそうした打算的な考えよりも、今自分が思うこと、考えていることを自分らしい言語表現で歌詞にする。田中の、バインのその表現を自分はずっと信頼してきたし、そこにこのバンドのカッコよさを感じてきた。それがいろんなことを経ての新曲でも全く変わっていないということが実に嬉しく感じる。
そんな田中の歌唱が後半にきてさらに極まるように感じられるのは「Goodbye my world」であり、特にそのタイトルフレーズでの声を張り上げる部分からは全くベテランらしさを感じない。それくらいに声から瑞々しさを感じる。どうしても年齢を重ねるとかつてのキーが出なくなったり、声量が小さくなったりしがちだけれど、ことバインにとっては全くそんな心配がない。だからこそこうして今でもずっとデビュー期から最新作までの25年間という長い年月の中で生み出してきたあらゆる曲をライブで演奏することができているのであるし、その全ての曲たちが全く風化しない。全てが今のバインの曲になっている。
それは2008年リリースのアルバム「Sing」に収録されてから、ずっとライブで定期的に演奏され続けてきた「Glare」のからも如実に感じられる。やはり亀井の描く美しいメロディに、表情的には淡々としているように見えて実は音に全ての感情を込めているような西川のブルージーなギターが胸を震わせるように鳴らされる。それはまさに
「胸がいっぱいになって」
という歌詞そのものであるかのように。
そんなライブの最後を担うことになったのが2001年リリースの「Circulator」収録の「B.D.S.」というあまりに久しぶりにライブで聴く曲なのだからやっぱり驚かされざるを得ない。そのブルースとロックのこのバンドならではのサウンドスタイルは、もしかしたら最新作に収録されていてもおかしくないものなんじゃないかと思いながら、アウトロでギターを弾きまくる西川を軸としたセッション的な長尺の演奏に浸り、そこに歓声と拍手を送るというのがやはりバインファンの方々だなと思った。最後のキメで亀井が少し苦笑いを浮かべていたのはあまりライブでやらないだけにそのタイミングが少しバラけたのかもしれないが、その表情がまた鉄壁のバンドサウンドの中に宿る人間らしさを感じさせてくれたのだった。
アンコールでは田中が白シャツからツアーTシャツに着替えて登場するとすぐに「SPF」が演奏される。その亀井作曲の美しいメロディと穏やかなサウンド、太陽に照らされているような情景の歌詞がどうしたってまだ季節が夏であり、このライブが「SUMMER SHOW」というタイトルを冠しているということを改めて感じさせると、バインのアンコールではだいたい必ずと言っていいくらいに代表曲と言っていいくらいのシングル曲が1曲は演奏されるのであるが、この日のそれは「スロウ」。
フェスなどでも最近は「光について」を毎回のように演奏するようになっているが、この「スロウ」もまたそれに並ぶくらいの至上の名曲である。決してリズム的にはアッパーというわけではないのであるが、それでも聴いていて確かに体と心が高揚していく感覚(それはイントロの重厚なギターサウンドからも、サビの「めぐりあうたびに溺れて」のフレーズを聴いた瞬間からも感じられる)が確かにあるし、たくさんの人がそうした感覚を得ているからこそ、客席から無数の手が上がっていたんじゃないかと思っている。
そして田中がリリース後のツアーでの再会を約束するようにして手を振りながら最後に演奏されたのは、夏の終わりの情景を感じざるを得ない(MVでもメンバーがBBQ場で演奏している)「放浪フリーク」で、それはこの9月半ばという時期だからこそ、その揺蕩うようなサウンドと甘さを持った田中の歌声に浸りながら、今年の夏がこの3年の中で最も楽しかったなということを思い返していた。そこにはもちろん野外では観れていなくても、このバンドのライブを観れたという記憶も確かにあるし、この曲によって締められるくらいに、このライブはやはりSUMMER SHOWであったのだ。
インタビューで田中は
「中野サンプラザで復帰一発目のライブをやった時に感極まったというか、やっぱりここが自分の居場所だと思った」
と語っていた。そんな気持ちをこの日も噛み締めているかのように、ただただ田中の表情は穏やかかつ楽しそうだった。
活動できない期間があったことは良くないことだったかもしれないし、本人も精神的に参ってしまっていたところもあっただろう。でもその期間や出来事があったからこそ、気付けたことだって間違いなくある。それは田中も、バンドも、我々も、こうしてGRAPEVINEのライブを観ることができる場所が居場所だということだ。なんやかんや、自分が中学生くらいの時に知って、ずっとツアーに行き続けているバンドは他にもうほとんどいない。つまりは最も付き合いが長いと言っていいバンドとの歴史はまだまだ続く。
1.Ub (You bet on it)
2.冥王星
3.スレドニ・ヴァシュター
4.Ready to get started?
5.目覚ましはいつも鳴り止まない
6.NOS
7.想うということ
8.ねずみ浄土
9.雀の子
10.here
11.This Town
12.新曲
13.新曲
14.Goodbye my world
15.Glare
16.B.D.S.
encore
17.SPF
18.スロウ
19.放浪フリーク
チケットソールドアウトで客席は満員の中、19時ピッタリになると場内が暗転して亀井亨(ドラム)を先頭にして不動の5人(もはやサポートという領域を超えているベーシストの金戸覚は長く伸びた髪を結き、キーボードなどのマルチプレイヤーの高野勲は全く変わらない白髪混じりのパーマ姿)がステージに登場すると、髪がセンター分けっぽくなった田中和将(ボーカル&ギター)がジャキジャキとしたロックなサウンドのギターを弾きながら歌い始めたのは、すでに先行配信されている「Ub (You bet on it)」からスタートするのであるが、
「新しい果実には当然
熟す時が訪れる
彼等はもう頬張る寸前 いやもう遅い
既に食べてしまったんだろう」
という歌詞はバンドが前作アルバム「新しい果実」を経てすでに新しい領域に足を踏み入れているということがわかるし、もうそれと同じサウンドやスタイルのGRAPEVINEはいないということを感じさせる。鳴らしている音だけではなくて、そんな歌詞からも今のGRAPEVINEのロックさを感じさせるようなオープニングである。
すると金戸のうねりまくるようなイントロのベースのリズムのみでグルーヴを生み出すような「冥王星」というカップリング曲からの選曲には驚かされるのであるが、GRAPEVINEのライブではいつも何の飾りなどもないがゆえに背面も黒バックであるのだが、そこに照射される照明の光がまさに冥王星を想起させるように星の数々のように光るというあたりはさりげなくも最大限の視覚効果を表現すると、一気にバンドのサウンドが重さを増していく「スレドニ・ヴァシュター」へと続いていくのだが、その歌唱の伸びやかさとともに、冒頭の「Ub〜」から田中がはちきれんばかりの笑顔を浮かべて歌っているということに気付く。それはこうしてライブをやれていることが何よりも楽しくて仕方がないということが素直に表情に表れていると言っていいだろう。その表情はとてもメジャーデビューから25周年を迎えたバンドのものとは思えないくらいに瑞々しいものである。
「Zepp Shinjuku、初めて来たぜー!後、26日に新しいアルバムが出るぜー!それくらいしか言うことはないぜー!」
と田中が口にすると、そのままタイトルを口にしたことによって、まだ音源を聴くことができない「Ready to get started?」だとわかるのであるが、この曲が実にギターロック感の強い曲であり、間奏では田中と西川弘剛(ギター)が向かい合ってギターを弾いたり、あるいは同じタイミングでステージ前に出てきてギターを弾いたりする場面もある。その構図は前作の曲では見ることが出来なかったものであり、サウンドとしてもライブとしても新作でGRAPEVINEがプリミティブなロックサウンドに回帰してるんじゃないかという想像をしてしまう。
かと思えば音数を削ぎ落とし、絞り込んだ、田中のファルセットボーカルに金戸と亀井のコーラスが美しく重なっていく「目覚ましはいつも鳴り止まない」へと続くあたりが、常に観客の期待や予想を心地良く裏切り、また観客側もそんな天邪鬼さを楽しんできたバインらしくもあるのだが、田中がアコギに持ち替えてさらにそのハイトーンボーカルの安定感を響かせる「NOS」と続いていくことによって、やはりまだアルバムリリース前ということもあり、新作アルバムの曲以外にどんな曲が演奏されるのかが全くわからなくなるのであるが、そんな楽しみはこの日のライブならではのものであろうし、どんな曲であっても毎回ライブで演奏されてきたかのような安定感を誇る演奏とグルーヴを見せてくれるのもさすがバインである。
そんな中で客席から若干のどよめき(本当にさりげないくらいの)が起こったのは懐かしのシングル曲にして至上の名曲の一つである「想うということ」。「音楽と人」最新号での田中のインタビューで、自身がまだ音楽活動ができない、曲が作れない時にも亀井がたくさん曲を作ってくれていたということを語っていたけれど、その亀井の作曲家としてのメロディメーカーっぷりがはるか昔から現出していたというか、むしろバインの名曲サイドの曲を担ってきたのが実は亀井だったということがよくわかる曲だ。だからこそ、田中の報道が出て一時的にバンドが活動を止めた時にも、
「彼をこれからサポートしていきたいと思っています」
というコメントを出していた亀井が誰よりもGRAPEVINEというバンドのことを想っていたということがわかるのである。
そんな名曲の後に、その亀井のドラムのみが響き渡りながら、田中のファルセットボーカルに金戸のコーラスが重なっていくという「ねずみ浄土」が演奏されるのであるが、前作のリード曲であったこの曲は今やバインの中で最もライブで欠かさずに演奏している曲だと言えるかもしれない。
「新たな普通 何かが狂う」
というフレーズはコロナ禍になった当時のZepp Hanedaなんかでのスタンディングエリアにも全て椅子を並べたり、あるいはホールで一席ずつ開けた状態でライブを思い出させるし、そうした時期を乗り越えて、今では満員のスタンディングでのライブハウスで、決して一緒に歌えるような曲は全くないけれど、イントロが鳴った瞬間や曲終わりで観客が歓声を上げることができるようになったくらいになったんだなと思えるのである。
そんな前作を象徴するようなリード曲の後に演奏されたことによって、すでに配信されている新曲の「雀の子」が今のバインのロックモードを指し示している曲であることがよくわかるのであるが、亀井のリズムマシーンのようにイーブンに刻むハイハットのリズムも含めて、こんなにもライブ映えする曲なのかと驚いてしまう。例えばバインのグルーヴサイドの極みというと「豚の皿」や「CORE」というあたりがすぐに浮かんでくるけれども、そうした曲の深さや濃さを引き継ぎながらも、そこにギターロックとしてのシャープなサウンドとメロディが融合している、間違いなくこの日本においてこのバンドにしか作れない曲が生まれたなと思ったし、今の時点でそう思うということは、アルバムリリース後のツアーを経てさらにそれが進化していくということをも感じさせるのである。自分がこの世で1番好きな作家でもある町田康の影響も表出した関西弁丸出しの歌詞もまた今になって新鮮なバインらしさを感じさせてくれる。
するとイントロでは激しくメンバーの鳴らす音が重なり、その演奏がどんどん高まっていきながらも、サビではやはり亀井によって描かれたメロディが田中の歌声によって美しく響く「here」はバインのライブでのグルーヴとメロディの美しさを1曲の中で同時に感じさせてくれる曲である。基本的にバインのライブではよっぽど激しめの曲が演奏されない限りはほとんど客席から腕が上がったりすることはないのであるが、この曲ではイントロから、さらにサビでも腕を上げている人がかなりいたという光景がそれを示している。
そんな中で田中は再びアルバムのリリースを告知して、
「あと6千万曲」
と嘯きながら、
「新宿というこの街に捧げる!」
と言って「This Town」を演奏するのであるが、田中のアコギに乗せたメロディによって個人的にはどこか牧歌的なイメージの、いろんな人里離れた野外会場でのフェスで吹く風に似合う曲だと思っているだけに、この歌舞伎町といういつまで経ってもその街が持つ猥雑さに馴染めない自分としては「こんなにこの曲が似合わない街もあるんだな」なんてことを思ってしまう。
そんな歌舞伎町に似つかわしくないような曲から一転して、ステージを色とりどりの照明が淫靡に照らす新曲はそうした演出と、テルミンまでも操り、新作ではプロデューサーも務めている高野のシンセやキーボードによるいかがわしさを感じさせるようなサウンドがこの街に実によく似合う。しかしそこにもやはりバンド感、ロック感を強く感じるし、それは続けて演奏されたもう1曲の新曲の溌溂としたギターロック感もそうだ。そちらの新曲では
「アキバ おもてなし どうでもいい」
的な(あくまで自分が聴き取れた範囲で)歌詞が田中からの現在の社会への皮肉を込めたメッセージとして響くという意味でバインらしい曲であるのだが、田中はインタビューで
「社会や政治に対する歌詞を書くバンドが減ってきている」
とも言っていた。何を歌うかはそれぞれの自由だけれど、こうしたことを歌うことには少なからずリスクも付きまとう。考え方が違う人を弾いてしまうような。でもそうした打算的な考えよりも、今自分が思うこと、考えていることを自分らしい言語表現で歌詞にする。田中の、バインのその表現を自分はずっと信頼してきたし、そこにこのバンドのカッコよさを感じてきた。それがいろんなことを経ての新曲でも全く変わっていないということが実に嬉しく感じる。
そんな田中の歌唱が後半にきてさらに極まるように感じられるのは「Goodbye my world」であり、特にそのタイトルフレーズでの声を張り上げる部分からは全くベテランらしさを感じない。それくらいに声から瑞々しさを感じる。どうしても年齢を重ねるとかつてのキーが出なくなったり、声量が小さくなったりしがちだけれど、ことバインにとっては全くそんな心配がない。だからこそこうして今でもずっとデビュー期から最新作までの25年間という長い年月の中で生み出してきたあらゆる曲をライブで演奏することができているのであるし、その全ての曲たちが全く風化しない。全てが今のバインの曲になっている。
それは2008年リリースのアルバム「Sing」に収録されてから、ずっとライブで定期的に演奏され続けてきた「Glare」のからも如実に感じられる。やはり亀井の描く美しいメロディに、表情的には淡々としているように見えて実は音に全ての感情を込めているような西川のブルージーなギターが胸を震わせるように鳴らされる。それはまさに
「胸がいっぱいになって」
という歌詞そのものであるかのように。
そんなライブの最後を担うことになったのが2001年リリースの「Circulator」収録の「B.D.S.」というあまりに久しぶりにライブで聴く曲なのだからやっぱり驚かされざるを得ない。そのブルースとロックのこのバンドならではのサウンドスタイルは、もしかしたら最新作に収録されていてもおかしくないものなんじゃないかと思いながら、アウトロでギターを弾きまくる西川を軸としたセッション的な長尺の演奏に浸り、そこに歓声と拍手を送るというのがやはりバインファンの方々だなと思った。最後のキメで亀井が少し苦笑いを浮かべていたのはあまりライブでやらないだけにそのタイミングが少しバラけたのかもしれないが、その表情がまた鉄壁のバンドサウンドの中に宿る人間らしさを感じさせてくれたのだった。
アンコールでは田中が白シャツからツアーTシャツに着替えて登場するとすぐに「SPF」が演奏される。その亀井作曲の美しいメロディと穏やかなサウンド、太陽に照らされているような情景の歌詞がどうしたってまだ季節が夏であり、このライブが「SUMMER SHOW」というタイトルを冠しているということを改めて感じさせると、バインのアンコールではだいたい必ずと言っていいくらいに代表曲と言っていいくらいのシングル曲が1曲は演奏されるのであるが、この日のそれは「スロウ」。
フェスなどでも最近は「光について」を毎回のように演奏するようになっているが、この「スロウ」もまたそれに並ぶくらいの至上の名曲である。決してリズム的にはアッパーというわけではないのであるが、それでも聴いていて確かに体と心が高揚していく感覚(それはイントロの重厚なギターサウンドからも、サビの「めぐりあうたびに溺れて」のフレーズを聴いた瞬間からも感じられる)が確かにあるし、たくさんの人がそうした感覚を得ているからこそ、客席から無数の手が上がっていたんじゃないかと思っている。
そして田中がリリース後のツアーでの再会を約束するようにして手を振りながら最後に演奏されたのは、夏の終わりの情景を感じざるを得ない(MVでもメンバーがBBQ場で演奏している)「放浪フリーク」で、それはこの9月半ばという時期だからこそ、その揺蕩うようなサウンドと甘さを持った田中の歌声に浸りながら、今年の夏がこの3年の中で最も楽しかったなということを思い返していた。そこにはもちろん野外では観れていなくても、このバンドのライブを観れたという記憶も確かにあるし、この曲によって締められるくらいに、このライブはやはりSUMMER SHOWであったのだ。
インタビューで田中は
「中野サンプラザで復帰一発目のライブをやった時に感極まったというか、やっぱりここが自分の居場所だと思った」
と語っていた。そんな気持ちをこの日も噛み締めているかのように、ただただ田中の表情は穏やかかつ楽しそうだった。
活動できない期間があったことは良くないことだったかもしれないし、本人も精神的に参ってしまっていたところもあっただろう。でもその期間や出来事があったからこそ、気付けたことだって間違いなくある。それは田中も、バンドも、我々も、こうしてGRAPEVINEのライブを観ることができる場所が居場所だということだ。なんやかんや、自分が中学生くらいの時に知って、ずっとツアーに行き続けているバンドは他にもうほとんどいない。つまりは最も付き合いが長いと言っていいバンドとの歴史はまだまだ続く。
1.Ub (You bet on it)
2.冥王星
3.スレドニ・ヴァシュター
4.Ready to get started?
5.目覚ましはいつも鳴り止まない
6.NOS
7.想うということ
8.ねずみ浄土
9.雀の子
10.here
11.This Town
12.新曲
13.新曲
14.Goodbye my world
15.Glare
16.B.D.S.
encore
17.SPF
18.スロウ
19.放浪フリーク
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