フジファブリック LIVE TOUR 2023 "Particle Dreams" 振替公演 @TSUTAYA O-EAST 9/12
- 2023/09/13
- 19:01
元々この公演は7月に予定されていたものであるのだが、山内総一郎(ボーカル&ギター)がコロナに感染したことによって延期かつ、会場も恵比寿リキッドルームからこの渋谷O-EASTに変わっての開催となった。本来はファイナルも大阪の服部緑地公園だったが、結果的には延期によってこの日がファイナルになるという、フジファブリックの新曲「Particle Dreams」を引っ提げてのツアーである。
会場が変わってキャパが少し広くなったことによって自分は追加で販売されたチケットをゲットして参加できることになったのであるが、やはり客席は後方から2階まで満員となっている中で、開演時間の19時ピッタリになるとステージにメンバー3人とサポートドラマーの伊藤大地が登場し、山内がギターを鳴らしながら歌い始め、そこに金澤ダイスケ(キーボード)のピアノの音がさりげなく重なっていくのはいきなりの「陽炎」。夏に始まって夏に終わる予定だったツアーだからこその選曲であるが、今にして聴く
「きっと今では無くなったものもたくさんあるだろう
きっとそれでもあの人は変わらず過ごしているだろう」
というフレーズが刺さるのは、それがいろんな喪失などの経験を経てきたフジファブリックによって歌われているからであるし、コロナの影響や後遺症を感じさせないくらいに山内の声が出ているからであるし、最初からずっと山内が歌ってきたかのようにこの曲をものにしているからである。
「フジファブリックです!渋谷会いたかったぜー!来てくれて本当にありがとうー!」
と山内が挨拶すると、自分はこのツアーはこの日だけなので他の公演のセトリも見ていないが故に最初の「陽炎」の段階で驚いてしまったのだが、かつて収録アルバム「VOYAGER」リリース時はロッキンのLAKE STAGEなどで演奏されていた記憶が蘇るような「自分勝手エモーション」と続くことでさらに驚くし、伊藤の溌剌とした手数のドラムが曲にさらに疾走感を与えていることがよくわかる。それはツアーファイナルだからこその仕上がりでもあるだろうし、もうサポート歴の長い伊藤がこのバンドに完全に溶け込んでいるということでもある。
すると山内がイントロから手拍子をし、それが客席にも広がっていくのは、フジファブリックならではの妖しいサウンドを金澤のキーボードが担う「東京」であるが、早くもここで加藤慎一のベースから始まり、金澤、伊藤、そして山内という順番でソロ回しの演奏も挟まれる。それは改めてフジファブリックのメンバーそれぞれの演奏技術の高さと、それがあるからこそこうして独特な、唯一無二の曲が出来ているということであるが、それは加藤から金澤へとボーカルがリレーされるパートのある「Shiny Days」もそうである。見た目通りにダンディな加藤と、穏やかな人間性がそのまま素朴な声に表れている金澤という対比も面白いが、そんなメンバー全員の歌唱と真っ白な照明がタイトル通りにこの場所やここにいる一人一人に光を当ててくれているかのようである。
すると山内が自身のコロナ感染によって延期になってのこの日であるだけに、いつも以上に来てくれた観客への感謝を口にするのであるが、その際(なんなら登場した時から)に起こった客席からの大きく長い拍手はここにいた全員が山内の帰還と完全復活を待っていたから起きたものだと言っていいだろうし、そこには確かにバンドへの思いが詰まっていた。
そんな観客たちに向けて山内はこのツアータイトルであり、新曲のタイトルを
「今までずっと一緒に夢を見てきてくれてありがとう。これからもずっと一緒に夢を見ていこうぜっていう曲です。今年も来年も再来年も、フジファブリックとずっと一緒に生きていってください!」
と、まるでライブが終わる直前みたいな感じで口にするのであるが、その言葉の後に演奏された配信による最新曲「Particle Dreams」はタイトル通りにフジファブリックなりのドリームポップと言っていいような曲だ。それは前半では音数を絞り込んで削ぎ落としながら、サビにかけて一気に光が射し込むようになって天井のミラーボールが回るという構成や演出というライブで見ることによってより強く感じられるものである。
すると山内がツインネックギターに持ち替えて、リフを下のネック、コードを上のネックで弾き分けながらしっかり歌唱もするというスーパーギタリストかつボーカリストっぷりを見せるのは、伊藤と加藤のリズムが大地をしっかり踏みしめて歩いていくような力強さを感じさせてくれる「地平線を越えて」であるのだが、山内は今はかつて志村正彦と2人で分担していたものを1人だけで表現できるようになっている。そこには飄々としていながらも凄まじい努力があったのだろうし、それをカッコつけたりすることなく、あくまで自身の自然体でやってのけているということに山内の人間性が現れている。今のシーンにおいてこんなギターを弾く人がいるのだろうか。
そんな今の体制になってのフジファブリックのメロディの美しさ、キャッチーさを存分に感じさせてくれるのが金澤作曲の「Time」から山内作曲の「ブルー」という、どちらももうリリースから10年くらい経っているのが信じられない壮大な曲の流れであるのだが、明るい照明の下で鳴らされることによって時の尊さを噛み締めるような「Time」と、薄暗い照明で始まって徐々に光を獲得していく「ブルー」は演出も対照的であるが、何よりも「ブルー」のアウトロでの、昨今の「ギターソロ不要論」という言説なんて知ったことかというくらいにギターを弾きまくり、長尺のセッション的な演奏が山内のギターを基点としてバンド全体で極まっていくというのは、フジファブリックが世の中の流れがどうとかではなくて自分たちが今やりたいことだけをやっているということを証明しているし、昔の曲を聴くとそれはずっと変わっていないものであるということもわかる。
そんな「ブルー」の熱演を山内自ら
「史上最高の「ブルー」」
と自画自賛すると、そのままMCタイムへと突入していくのであるが、金澤は関ジャムのキーボード特集に出演したことによって、自身の手元ばかりに注目されているんじゃないかと言ってみたり、加藤はこのO-EASTで開催されているという怪談イベントに出演していることによって渋谷がホームであり聖地であることを語り、さらには激レアな伊藤のハンドマイクMCという場面も。
そんな朗らかなMCタイムの後には山内が今年リリースされたコラボ曲を演奏することを告げるのであるが、
「今日は東京かつ、ツアーファイナルということで、フレデリックの健ちゃん(三原健司)が…来ていません(笑)」
というベタなフェイントを入れてから、その三原健司のパートを歌うボーカルとして金澤を紹介するのであるが、さすがに金澤はかなり気恥ずかしそうであった。しかしながらそのコラボ曲「瞳のランデブー」のフレデリックらしいダンスサウンドを自身のシンセの音で鳴らしながらボーカルも務めるという芸当ができるのはきっと金澤だけである。このツアーだけのフジファブリックでのスペシャルバージョンと山内は言っていたが、もちろん三原健司やフレデリックが来てくれた方が嬉しいけれど(フレデリックのファンとしても)、この曲がもうフジファブリックだけでも演奏できる、両者が揃わなくてもライブで聴けるということを証明したツアーになったんじゃないだろうか。
そんなスペシャルバージョンでの演奏からさらに盛り上がりを増す後半は、伊藤のドラムの手数と勢いまでもがさらに増す「WIRED」と続く。久しぶりにライブで聴いたような感じもするが、この曲もまたリリースされてから10年近く経つけれど、今にしてこうしてライブ後半の盛り上がる部分を担う曲であり、どこか聴いていて宙に浮くというか、体が飛ぶような感覚を覚えるのは自分だけだろうか。
それはこのライブが観ていて本当に楽しいと思える感覚があるからこそだと思うのであるが、そんな楽しさを聴覚的にだけではなく、視覚的、さらには身体的に感じさせてくれるのは曲に合わせて手をひらひらさせて左右に振るという振り付けが説明せずとも客席に完璧に広がっていく「Feverman」であり、その振り付けを誰よりも実践している加藤もまた実に楽しそうである。
そんな楽しい感覚がさらに極まるのは、ライブで聴くのが本当に久しぶりな感じがする「Surfer King」であり、やはりサビで山内がギターを弾きまくるというくらいに弾いているギターソロを聴いていて、フジファブリックは志村がボーカルだった頃から全くブレていないなと思った。その自由な発想がいきなりレゲエのようなチルいサウンドに展開したりしていくのであるが、山内の歌声の伸びやかさも含めて完全に今のフジファブリックの曲になっている。
そんなライブのラスト(曲数が少なめなことによって、ライブを観ている時はそうは感じなかったけれどやっぱり演奏時間が長いことに気付く)は、今度は曲の前に加藤がしっかり観客に振り付けをレクチャーする「ミラクルレボリューションNo.9」であり、そのタイアップである野球のフォームも取り入れた振り付けやド派手な金澤のシンセの音も含めて、「Surfer King」からこの曲がサウンドも作られた時期も全く違えど、フジファブリックでしかない曲として一直線に繋がっていると思った。それはかつては「変態的」とも言われた要素でもあるのだが、それを続けていたらバンドにとって王道になるということを証明しているようだったし、山内のファルセットを交えたボーカルの見事さは本当にスーパーボーカリストと言っていい領域に達しているなと思った。
その「ミラクルレボリューションNo.9」の演奏前にすでに山内は
「すぐに戻ってくるから!」
とメタ的にアンコールがあるということを示唆していたけれど、実際にツアーTシャツに着替えてすぐにステージに登場すると、他のメンバーはまだ出てこずに、来月からすぐに新たなツアーが始まることを告知して、そのツアーがシングルのリリースに伴うものであることも告げる。すでにタイトルが発表されているそのシングル「プラネタリア」はアニメ主題歌ということで山内が原作を是非読んでほしいと観客に勧めるのだが、ここで演奏されたのはその曲ではなくてカップリング曲。それも山内の弾き語りという素朴な形で披露されたために、実際にバンドで形にした時にどんな曲になっているのかは全くわからないのであるが、聞き取れた限りでは「心コロコロ」というタイトル(表記があってるかはわからない)であるためにこのイメージはそんなに変わらないかもしれない。
そんな新曲の後に3人もツアーTシャツに着替えてステージに現れると山内は
「だいぶ涼しくなってきましたけど、夏の終わりの曲を」
と言って今やバンド最大の代表曲と言える「若者のすべて」を演奏するのであるが、山内の言葉とは裏腹にまだ30°C以上を計測するような真夏日が続いているために涼しさは全く感じないのが正直なところだが、暗くなる時間は確実に早くなってきているだけに、今聴くこの曲は夏の終わりを実感せざるを得ないし、ロッキンでこのバンドがこの曲を演奏した時のことや、他のフェスで出演者がこの曲をカバーした時のことなど、今年の夏の様々な思い出が脳内に去来する。この日この瞬間も含めて、それはきっと何年経っても思い出してしまうものになるはずだ。
そうして少ししんみりしていると山内は急に思い立ったかのようにメンバーたちにこのツアーがどうだったかを訊ねるのであるが、やはり金澤も加藤も
「え?今それ聞く?」
と戸惑いながらも、短いながらも充実したツアーだったことを語る。その充実感はこの日のバンドが鳴らす音に確かに現れているのであるが、伊藤も服部緑地公園での灼熱の野外ライブを良い思い出として捉えていてくれているようである。
そして山内は自身が持っているギターが新しく製作したものであることを明かすと、そのギターを鳴り響かせて演奏されたのは3人になってからの代表曲と言える「徒然モノクローム」。このツアーファイナルで、すでに次のツアーが発表されている中で演奏されることによってこの曲が新たな旅立ちのテーマであるかのように鳴らされると、最後に演奏された「LIFE」では山内がギターを下ろしてハンドマイクでステージを左右に歩き回りながら、サビでは腕を左右に振って歌う。それは自身で口にしていたように、このフジファブリックというバンドのLIFEがこれからも続いていくということ。もちろん永遠なんてものが存在しないのも、いつか終わる時が来るのもわかっているけれど、何故だかフジファブリックのライブを見るとそんな安心感を感じることができる。それはバンドを続けることによって我々の居場所を作ってくれていると感じられるからだ。最後にキメを打つ瞬間だけギターを持ってジャンプするように鳴らした山内の姿は本当にカッコよく、そして頼もしかった。
演奏が終わると4人が手を繋ぐというわけでもない微妙な距離感のままで腕を上げてこのツアーを締める。しかしまたすぐにツアーが始まって、フジファブリックに会える。新しい曲を聴くこともできる。それが生きる理由になっている人がたくさんいることを実感する、本当にライブを観ているのが楽しいと思えたライブであり、ツアーだった。
1.陽炎
2.自分勝手エモーション
3.東京
4.Shiny Days
5.Particle Dreams
6.地平線を越えて
7.Time
8.ブルー
9.瞳のランデブー
10.WIRED
11.Feverman
12.Surfer King
13.ミラクルレボリューションNo.9
encore
14.新曲
15.若者のすべて
16.徒然モノクローム
17.LIFE
会場が変わってキャパが少し広くなったことによって自分は追加で販売されたチケットをゲットして参加できることになったのであるが、やはり客席は後方から2階まで満員となっている中で、開演時間の19時ピッタリになるとステージにメンバー3人とサポートドラマーの伊藤大地が登場し、山内がギターを鳴らしながら歌い始め、そこに金澤ダイスケ(キーボード)のピアノの音がさりげなく重なっていくのはいきなりの「陽炎」。夏に始まって夏に終わる予定だったツアーだからこその選曲であるが、今にして聴く
「きっと今では無くなったものもたくさんあるだろう
きっとそれでもあの人は変わらず過ごしているだろう」
というフレーズが刺さるのは、それがいろんな喪失などの経験を経てきたフジファブリックによって歌われているからであるし、コロナの影響や後遺症を感じさせないくらいに山内の声が出ているからであるし、最初からずっと山内が歌ってきたかのようにこの曲をものにしているからである。
「フジファブリックです!渋谷会いたかったぜー!来てくれて本当にありがとうー!」
と山内が挨拶すると、自分はこのツアーはこの日だけなので他の公演のセトリも見ていないが故に最初の「陽炎」の段階で驚いてしまったのだが、かつて収録アルバム「VOYAGER」リリース時はロッキンのLAKE STAGEなどで演奏されていた記憶が蘇るような「自分勝手エモーション」と続くことでさらに驚くし、伊藤の溌剌とした手数のドラムが曲にさらに疾走感を与えていることがよくわかる。それはツアーファイナルだからこその仕上がりでもあるだろうし、もうサポート歴の長い伊藤がこのバンドに完全に溶け込んでいるということでもある。
すると山内がイントロから手拍子をし、それが客席にも広がっていくのは、フジファブリックならではの妖しいサウンドを金澤のキーボードが担う「東京」であるが、早くもここで加藤慎一のベースから始まり、金澤、伊藤、そして山内という順番でソロ回しの演奏も挟まれる。それは改めてフジファブリックのメンバーそれぞれの演奏技術の高さと、それがあるからこそこうして独特な、唯一無二の曲が出来ているということであるが、それは加藤から金澤へとボーカルがリレーされるパートのある「Shiny Days」もそうである。見た目通りにダンディな加藤と、穏やかな人間性がそのまま素朴な声に表れている金澤という対比も面白いが、そんなメンバー全員の歌唱と真っ白な照明がタイトル通りにこの場所やここにいる一人一人に光を当ててくれているかのようである。
すると山内が自身のコロナ感染によって延期になってのこの日であるだけに、いつも以上に来てくれた観客への感謝を口にするのであるが、その際(なんなら登場した時から)に起こった客席からの大きく長い拍手はここにいた全員が山内の帰還と完全復活を待っていたから起きたものだと言っていいだろうし、そこには確かにバンドへの思いが詰まっていた。
そんな観客たちに向けて山内はこのツアータイトルであり、新曲のタイトルを
「今までずっと一緒に夢を見てきてくれてありがとう。これからもずっと一緒に夢を見ていこうぜっていう曲です。今年も来年も再来年も、フジファブリックとずっと一緒に生きていってください!」
と、まるでライブが終わる直前みたいな感じで口にするのであるが、その言葉の後に演奏された配信による最新曲「Particle Dreams」はタイトル通りにフジファブリックなりのドリームポップと言っていいような曲だ。それは前半では音数を絞り込んで削ぎ落としながら、サビにかけて一気に光が射し込むようになって天井のミラーボールが回るという構成や演出というライブで見ることによってより強く感じられるものである。
すると山内がツインネックギターに持ち替えて、リフを下のネック、コードを上のネックで弾き分けながらしっかり歌唱もするというスーパーギタリストかつボーカリストっぷりを見せるのは、伊藤と加藤のリズムが大地をしっかり踏みしめて歩いていくような力強さを感じさせてくれる「地平線を越えて」であるのだが、山内は今はかつて志村正彦と2人で分担していたものを1人だけで表現できるようになっている。そこには飄々としていながらも凄まじい努力があったのだろうし、それをカッコつけたりすることなく、あくまで自身の自然体でやってのけているということに山内の人間性が現れている。今のシーンにおいてこんなギターを弾く人がいるのだろうか。
そんな今の体制になってのフジファブリックのメロディの美しさ、キャッチーさを存分に感じさせてくれるのが金澤作曲の「Time」から山内作曲の「ブルー」という、どちらももうリリースから10年くらい経っているのが信じられない壮大な曲の流れであるのだが、明るい照明の下で鳴らされることによって時の尊さを噛み締めるような「Time」と、薄暗い照明で始まって徐々に光を獲得していく「ブルー」は演出も対照的であるが、何よりも「ブルー」のアウトロでの、昨今の「ギターソロ不要論」という言説なんて知ったことかというくらいにギターを弾きまくり、長尺のセッション的な演奏が山内のギターを基点としてバンド全体で極まっていくというのは、フジファブリックが世の中の流れがどうとかではなくて自分たちが今やりたいことだけをやっているということを証明しているし、昔の曲を聴くとそれはずっと変わっていないものであるということもわかる。
そんな「ブルー」の熱演を山内自ら
「史上最高の「ブルー」」
と自画自賛すると、そのままMCタイムへと突入していくのであるが、金澤は関ジャムのキーボード特集に出演したことによって、自身の手元ばかりに注目されているんじゃないかと言ってみたり、加藤はこのO-EASTで開催されているという怪談イベントに出演していることによって渋谷がホームであり聖地であることを語り、さらには激レアな伊藤のハンドマイクMCという場面も。
そんな朗らかなMCタイムの後には山内が今年リリースされたコラボ曲を演奏することを告げるのであるが、
「今日は東京かつ、ツアーファイナルということで、フレデリックの健ちゃん(三原健司)が…来ていません(笑)」
というベタなフェイントを入れてから、その三原健司のパートを歌うボーカルとして金澤を紹介するのであるが、さすがに金澤はかなり気恥ずかしそうであった。しかしながらそのコラボ曲「瞳のランデブー」のフレデリックらしいダンスサウンドを自身のシンセの音で鳴らしながらボーカルも務めるという芸当ができるのはきっと金澤だけである。このツアーだけのフジファブリックでのスペシャルバージョンと山内は言っていたが、もちろん三原健司やフレデリックが来てくれた方が嬉しいけれど(フレデリックのファンとしても)、この曲がもうフジファブリックだけでも演奏できる、両者が揃わなくてもライブで聴けるということを証明したツアーになったんじゃないだろうか。
そんなスペシャルバージョンでの演奏からさらに盛り上がりを増す後半は、伊藤のドラムの手数と勢いまでもがさらに増す「WIRED」と続く。久しぶりにライブで聴いたような感じもするが、この曲もまたリリースされてから10年近く経つけれど、今にしてこうしてライブ後半の盛り上がる部分を担う曲であり、どこか聴いていて宙に浮くというか、体が飛ぶような感覚を覚えるのは自分だけだろうか。
それはこのライブが観ていて本当に楽しいと思える感覚があるからこそだと思うのであるが、そんな楽しさを聴覚的にだけではなく、視覚的、さらには身体的に感じさせてくれるのは曲に合わせて手をひらひらさせて左右に振るという振り付けが説明せずとも客席に完璧に広がっていく「Feverman」であり、その振り付けを誰よりも実践している加藤もまた実に楽しそうである。
そんな楽しい感覚がさらに極まるのは、ライブで聴くのが本当に久しぶりな感じがする「Surfer King」であり、やはりサビで山内がギターを弾きまくるというくらいに弾いているギターソロを聴いていて、フジファブリックは志村がボーカルだった頃から全くブレていないなと思った。その自由な発想がいきなりレゲエのようなチルいサウンドに展開したりしていくのであるが、山内の歌声の伸びやかさも含めて完全に今のフジファブリックの曲になっている。
そんなライブのラスト(曲数が少なめなことによって、ライブを観ている時はそうは感じなかったけれどやっぱり演奏時間が長いことに気付く)は、今度は曲の前に加藤がしっかり観客に振り付けをレクチャーする「ミラクルレボリューションNo.9」であり、そのタイアップである野球のフォームも取り入れた振り付けやド派手な金澤のシンセの音も含めて、「Surfer King」からこの曲がサウンドも作られた時期も全く違えど、フジファブリックでしかない曲として一直線に繋がっていると思った。それはかつては「変態的」とも言われた要素でもあるのだが、それを続けていたらバンドにとって王道になるということを証明しているようだったし、山内のファルセットを交えたボーカルの見事さは本当にスーパーボーカリストと言っていい領域に達しているなと思った。
その「ミラクルレボリューションNo.9」の演奏前にすでに山内は
「すぐに戻ってくるから!」
とメタ的にアンコールがあるということを示唆していたけれど、実際にツアーTシャツに着替えてすぐにステージに登場すると、他のメンバーはまだ出てこずに、来月からすぐに新たなツアーが始まることを告知して、そのツアーがシングルのリリースに伴うものであることも告げる。すでにタイトルが発表されているそのシングル「プラネタリア」はアニメ主題歌ということで山内が原作を是非読んでほしいと観客に勧めるのだが、ここで演奏されたのはその曲ではなくてカップリング曲。それも山内の弾き語りという素朴な形で披露されたために、実際にバンドで形にした時にどんな曲になっているのかは全くわからないのであるが、聞き取れた限りでは「心コロコロ」というタイトル(表記があってるかはわからない)であるためにこのイメージはそんなに変わらないかもしれない。
そんな新曲の後に3人もツアーTシャツに着替えてステージに現れると山内は
「だいぶ涼しくなってきましたけど、夏の終わりの曲を」
と言って今やバンド最大の代表曲と言える「若者のすべて」を演奏するのであるが、山内の言葉とは裏腹にまだ30°C以上を計測するような真夏日が続いているために涼しさは全く感じないのが正直なところだが、暗くなる時間は確実に早くなってきているだけに、今聴くこの曲は夏の終わりを実感せざるを得ないし、ロッキンでこのバンドがこの曲を演奏した時のことや、他のフェスで出演者がこの曲をカバーした時のことなど、今年の夏の様々な思い出が脳内に去来する。この日この瞬間も含めて、それはきっと何年経っても思い出してしまうものになるはずだ。
そうして少ししんみりしていると山内は急に思い立ったかのようにメンバーたちにこのツアーがどうだったかを訊ねるのであるが、やはり金澤も加藤も
「え?今それ聞く?」
と戸惑いながらも、短いながらも充実したツアーだったことを語る。その充実感はこの日のバンドが鳴らす音に確かに現れているのであるが、伊藤も服部緑地公園での灼熱の野外ライブを良い思い出として捉えていてくれているようである。
そして山内は自身が持っているギターが新しく製作したものであることを明かすと、そのギターを鳴り響かせて演奏されたのは3人になってからの代表曲と言える「徒然モノクローム」。このツアーファイナルで、すでに次のツアーが発表されている中で演奏されることによってこの曲が新たな旅立ちのテーマであるかのように鳴らされると、最後に演奏された「LIFE」では山内がギターを下ろしてハンドマイクでステージを左右に歩き回りながら、サビでは腕を左右に振って歌う。それは自身で口にしていたように、このフジファブリックというバンドのLIFEがこれからも続いていくということ。もちろん永遠なんてものが存在しないのも、いつか終わる時が来るのもわかっているけれど、何故だかフジファブリックのライブを見るとそんな安心感を感じることができる。それはバンドを続けることによって我々の居場所を作ってくれていると感じられるからだ。最後にキメを打つ瞬間だけギターを持ってジャンプするように鳴らした山内の姿は本当にカッコよく、そして頼もしかった。
演奏が終わると4人が手を繋ぐというわけでもない微妙な距離感のままで腕を上げてこのツアーを締める。しかしまたすぐにツアーが始まって、フジファブリックに会える。新しい曲を聴くこともできる。それが生きる理由になっている人がたくさんいることを実感する、本当にライブを観ているのが楽しいと思えたライブであり、ツアーだった。
1.陽炎
2.自分勝手エモーション
3.東京
4.Shiny Days
5.Particle Dreams
6.地平線を越えて
7.Time
8.ブルー
9.瞳のランデブー
10.WIRED
11.Feverman
12.Surfer King
13.ミラクルレボリューションNo.9
encore
14.新曲
15.若者のすべて
16.徒然モノクローム
17.LIFE
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