メレンゲ ワンマンライブ 「真昼の月」 @新代田FEVER 9/9
- 2023/09/09
- 21:55
こうして今でもワンマンライブをやってくれているだけでもありがたいメレンゲが、盟友のGOING UNDER GROUNDがやっていることに触発されてか、キャリア初の昼のワンマンを新代田FEVERで開催。そこにはベテランという領域に突入してきたバンドだからこその要素(ファンの年齢層など)もあると思われるけれど、何にせよこうしてメレンゲのライブを定期的に観ることができるというだけでも嬉しいし、幸せなのである。
なんやかんやで12時前にも8割くらいは埋まっていると言えるだろうかという新代田FEVERにのステージには普段とは異なるセッティングが。それは今やクボケンジ(ボーカル&ギター)最大の盟友としてソロライブにもサポートメンバーとして参加している、キーボードの山本健太がB'zのサポートメンバーとして絶賛スタジアムツアーを回っていることによって不在であるため、この日はキーボードなしの4人編成。なのでタケシタツヨシ(ベース)を先頭に登場したメンバーはこの日は松江潤(ギター)と小野田尚史(ドラム)のみのサポートメンバーとなっている。
最後におなじみの帽子を被った姿のクボケンジが登場すると、4人で呼吸を合わせるようにして、クボがギターを鳴らしながら
「さよなら もう会えないな」
と歌う「声」でスタートするのであるが、やはりキーボードがないことによってそのサウンドは実にギターロックと言っていいものになっており、音数が減ったことによってクボの歌声が良く出ていることも聴いていてはっきりとわかるし、この日のライブがファンのライブとは違ったものになることもわかる。それはもう20年近くメレンゲのライブを見てきた中でも初めてであろう、バンドとしてのライブでは珍しい4人編成でのギターロックバンドとしてのメレンゲのものになっている。
なのでその編成を見たら時にはどちらかというと初期のインディーズ期の曲が多くなるんじゃないかとも思っていたのであるが、しかしながらバンドの音源的には後期(それでも2014年にリリースしたアルバム「CAMPFIRE」収録曲であるだけに、どれだけリリースがなかったかがわかる)の曲と言えるような「Ladybird」が早くも演奏され、どうやらそういうわけでもないらしいということがこの段階でよくわかる。クボのボーカルもタケシタのコーラスも昼ライブで早起きしてるから的な調子の悪さは一切なく、むしろここ最近観たライブの中ではトップクラスに調子が良さそうですらある。
するとクボがギターをアコギに持ち替えて、特に何も言うことなく演奏されたのはファンからの人気も実に高い(かつてのファン投票ライブでは2位に輝いた)、クボの大好きなドラえもんを歌詞のモチーフに使った「タイムマシーンについて」であり、リリースから20年経ってもその全く変わらない名曲っぷりには聴きいらざるを得ないし、クボのボーカルの調子が良いだけにより一層歌詞の一字一句の細部まで噛み締めながら聴くことができる。折りしもこの日はドラえもんのライブの翌週というタイミングも意識したのだろうかとも思う。
クボが再びギターをエレキに持ち替えると、そのギターが新しいものであることを告げながら、
クボ「もう夏も終わりますけど、夏にどこか行きましたか?」
タケシタ「この前のライブでも言ったけど、久しぶりに沖縄に行って、バスケットボールの日本対ドイツの試合を見てきた。負けちゃった試合だったけどね」
クボ「誰が負けたの?」
タケシタ「いや、誰とかじゃなく、日本が…」
クボ「全く興味ないから(笑)」
タケシタ「そうでしょうね(笑)」
と、2人の対称っぷりを感じさせるやり取りもあったけれど、それでもインドアなイメージしかないクボまでもが「沖縄に行きたい」と言っていると、まだ沖縄に行ったことがないためにMONGOL800の沖縄のフェスなんかに行きたくなってしまう。
そんな終わりゆく夏の曲とクボがチラッと口にしたために、編成的にも「夕凪」や「初恋サンセット」が演奏されるのかとも思っていたのであるが、ここで演奏されたのは普段からよく演奏されている初期の「ソト」。しかしながらやはりキーボード不在のギター、ベース、ドラムのみという編成での演奏はいつも以上に重厚なバンドサウンドであることを感じさせる。サビに入る瞬間にはタケシタが小野田と目を合わせながらベースを振り上げるようにして音を鳴らすのであるが、なんやかんや松江とも小野田とももう長い年月一緒に活動してきたからこそのグルーヴを確かに感じる。
そのバンドサウンドの重さは「忘れ物」にも引き継がれていき、やはりこの日はメレンゲのギターロックさを自分たちの鳴らす音によって感じさせてくれる。それはクボと松江のギターがメレンゲというバンドのフワッとしたイメージよりもはるかに轟音で鳴らされているからこそ感じられるものでもある。
すると普段の編成では浮遊感のあるキーボードのイントロによって始まるのがおなじみになっている名曲「カメレオン」も、クボがギターでそうした音を鳴らしてから演奏されるというアレンジに。この曲はサビがとりわけキーが高いだけにクボはかなり歌うのがキツそうな感じもしたというか、実際に少し歌が飛んでしまう部分もあったのであるが、それでもたくさんの観客がサビで腕を挙げていたのであるが、それは照明によっても表現されていたこの曲の七色の輝きが今も全く失われていないということである。
すると松江がシタールを弾く「CAMPFIRE」という、昼にやるイメージが全くない曲を演奏することによって逆にメレンゲの曲にはそうした時間や状況などを全て忘れさせて曲の世界の中に没入していくような力があるということを示してくれるのであるが、イントロ前にクボとタケシタが何やら話し合っている。実は松江が曲順を間違えていたのだが、もうギターをシタールに持ち替えてしまっていただけにそのまま「CAMPFIRE」が演奏されたらしい。
そうしたライブならではのアクシデントを
クボ「この前、初恋の嵐の隅倉弘至のイベントにゲストボーカルで呼ばれて。俺の前がGOING UNDER GROUNDの松本素生だったんだけど、ドッキリを仕掛けられて、俺の曲と順番入れ替えられてたのを思い出した(笑)」
というエピソードからは同世代の下北沢ギターロックバンドたちの仲睦まじさを感じさせてくれるものであるのだが、さすがにメレンゲのライブでドッキリを仕掛けるメンバーはいないだろう。
そうして順番が入れ替わり、元々は「CAMPFIRE」の前に演奏されるはずだったのは「願い事」であるのだが、その曲が進むにつれてじわじわと高まっていくバンドのアンサンブルはむしろそうしたアクシデントがあったからこそ、より強くなっているかのような気さえするし、それはクボのボーカルも同じくである。
そんな中で演奏された「絵本」は実にレアな選曲であるのだが、「絵本の中のストーリーを歌詞にする」のではなくて、「絵本を書こうとしている主人公の心境」を描くというあたりが実にクボらしいし、それは単なるラブソングではなくてもはや1曲がそのまま映画になってもいいんじゃないかと思うほど。その心境がAメロではトーン低めのボーカルが一気に高くなるというメロディの構成によって表現されているし、それをクボの声で歌うことによってさらに歌詞の世界の中に入り込める。これぞ初期のアルバムのコピーになっていた「ジョバンニも憧れた純文学ギターロック」としてのメレンゲらしさである。
さらにはこちらも普段のライブでもおなじみではあるが、キーボードの浮遊感あるサウンドがないことによって、どっしりとしたギターロックサウンドになることで普段以上にここからまた新しいライブの流れが始まっていくことを感じさせるような「アルカディア」でも小野田のドラムの力強さ(短髪になってより見た目も逞しくなったような感じがする)を感じさせていたが、それは人間が大地を踏み鳴らすように歩いていく音を表現しているような「ライカ」のドラムもまたそうである。その力強さにとびっきりのポップさを加えるのがクボのメロディでありメレンゲらしさであるが、タケシタのベースソロやアウトロでのセッション的な演奏はメレンゲというバンドが活動してきた長い年月は決して無駄なものではなく、こうしてバンドの力としてしっかり表れていると思う。
するとすでに今が真っ昼間のライブであることを完全に忘れるくらいにメレンゲの曲の世界の中に入っているというのに、さらにその没入感を強めてくれるのが「ムーンライト」であり、普段は山本の美しいピアノのフレーズが彩りを与える曲であるが、それがないこの編成は実にタイトなバンドサウンドであり、日比谷野音ワンマンでの素晴らしい光景など、何度となくライブで聴いてきたこの曲に新しいイメージを加えてくれる。それはもちろん時折は歌が飛びながらではあるが、クボの歌声の伸びやかさによってもそう感じさせてくれるものである。
そんなクボが少し苦笑いを浮かべながらも、曲途中でマイクをスタンドから外してハンドマイク的な歌唱になるのはタイトル通りに爽やかなメロディとサウンドによる「さらさら90'S」であり、もっと編成的に初期の曲メインになるかと思われたあたりを4人でアレンジすることによって、幅広いサウンドの曲をギターロックというフォーマットで表現することができている。当然ハイパーなシンセのサウンドを取り入れた曲なんかはこの編成では演奏できないけれど、改めてメレンゲのバンドとしての強さを感じることができるし、それが今になって感じられるというのがずっと見てきたファンの身として本当に嬉しいのである。
それはクボがイントロで煽るようにすると観客の手拍子が響き、
「フレディ」
のフレーズのリフレインが実に気持ちいい「アンカーリング」もそう。ギターロックバンド編成であり、実際に曲後半ではキメを連発するカッコよさも感じさせながらも、曲のキャッチーさは決して失われることはない。それはメレンゲの2人はもちろん、ずっとこうしてギターを弾いてくれているから忘れがちではあるけれど、実は様々なバンドやアーティストを手掛けてきたプロデューサーでもある松江の手腕によるところも大きいんじゃないかとも思う。
そんなギターロックバンドとしての重厚なサウンドを最後に思いっきり発揮するのは「火の鳥」。亡くなってしまった人への想いを歌詞にした曲であるだけに、タケシタはライブ後に感極まっていたということをツイートしていたけれど、そのメンバーの感情がダイレクトに音に乗っているからこそ、我々観客もそうして感極まってしまうところが確かにある。人によって思い浮かべる対象は違うだろうけれど、クボは本当に大きな喪失を経験してきたし、タケシタも口にはしないけれどそうしたことがたくさんあったんだろうと思う。それでも我々は生きていて、メレンゲの2人も生きている。だからこうして今もライブでこの曲を聴くことができている。それだけは、どうかこれからもずっと変わらないものであって欲しいと改めて思った。
アンコールでは先にステージに現れたタケシタが、初の昼ライブということでこの日会場に来るまでは憂鬱だったという。普段のライブ通りのルーティンができないことの違和感もあったらしいが、観客に聞いてみたところ、たくさんの人がまた昼にライブをやって欲しいと手を挙げていたので、またこうして昼にライブをやるかもしれないし、色々と試しながら続けていきたいと口にするのであるが、クボもアンコールでステージに現れると、来月のライブが発表されるのであるが、それもこの会場での昼ライブということで、この試みは続きそうだ。もしかしたら土日に働いている人は逆にライブに来れないかもしれないけれど、個人的にはもうメレンゲがライブをやってくれるなら何でもいいという感すらある。やってくれるなら時間がどうあれずっと観に行くから。
そんな昼ライブならではの「夜も他のライブあるんで撤収は○時までに…」という言葉にクボが
「わかってるわ!(笑)」
と何故か急に声を荒げると、アンコールとして演奏されたのは小野田のリズムに合わせてタケシタと観客が手拍子をし、タケシタの煽りによってその手が頭の上にまで上がる「ビスケット」。その曲が持つポップさもやはりいつもよりもギターロック然としたものになっていたけれど、メレンゲのライブでのこの曲の楽しさは変わることはない。やはりさすがに近年生み出されている新曲たちはキーボードありきであるだろうだけに演奏されなかったけれど。
それは編成が変わるとより楽しみが増える、いつもの曲でもいつもとはまた違うものが見ることができるということを示していた。クボもタケシタもどこかいつも以上に名残惜しそうにステージを去っていったし、ライブハウスの外に出た時の空が明るいなという感覚が、どこか非日常の世界を我々に見せてくれるライブハウスが、いつも以上にさらに非日常的なものだったように感じられたのだった。これからも昼でも夜でも、会える機会をたくさん作ってくれるなら本当に嬉しい。会えない期間が長かったバンドであるだけに。
1.声
2.Ladybird
3.タイムマシーンについて
4.ソト
5.忘れ物
6.カメレオン
7.CAMPFIRE
8.願い事
9.絵本
10.アルカディア
11.ライカ
12.ムーンライト
13.さらさら'90S
14.アンカーリング
15.火の鳥
encore
16.ビスケット
なんやかんやで12時前にも8割くらいは埋まっていると言えるだろうかという新代田FEVERにのステージには普段とは異なるセッティングが。それは今やクボケンジ(ボーカル&ギター)最大の盟友としてソロライブにもサポートメンバーとして参加している、キーボードの山本健太がB'zのサポートメンバーとして絶賛スタジアムツアーを回っていることによって不在であるため、この日はキーボードなしの4人編成。なのでタケシタツヨシ(ベース)を先頭に登場したメンバーはこの日は松江潤(ギター)と小野田尚史(ドラム)のみのサポートメンバーとなっている。
最後におなじみの帽子を被った姿のクボケンジが登場すると、4人で呼吸を合わせるようにして、クボがギターを鳴らしながら
「さよなら もう会えないな」
と歌う「声」でスタートするのであるが、やはりキーボードがないことによってそのサウンドは実にギターロックと言っていいものになっており、音数が減ったことによってクボの歌声が良く出ていることも聴いていてはっきりとわかるし、この日のライブがファンのライブとは違ったものになることもわかる。それはもう20年近くメレンゲのライブを見てきた中でも初めてであろう、バンドとしてのライブでは珍しい4人編成でのギターロックバンドとしてのメレンゲのものになっている。
なのでその編成を見たら時にはどちらかというと初期のインディーズ期の曲が多くなるんじゃないかとも思っていたのであるが、しかしながらバンドの音源的には後期(それでも2014年にリリースしたアルバム「CAMPFIRE」収録曲であるだけに、どれだけリリースがなかったかがわかる)の曲と言えるような「Ladybird」が早くも演奏され、どうやらそういうわけでもないらしいということがこの段階でよくわかる。クボのボーカルもタケシタのコーラスも昼ライブで早起きしてるから的な調子の悪さは一切なく、むしろここ最近観たライブの中ではトップクラスに調子が良さそうですらある。
するとクボがギターをアコギに持ち替えて、特に何も言うことなく演奏されたのはファンからの人気も実に高い(かつてのファン投票ライブでは2位に輝いた)、クボの大好きなドラえもんを歌詞のモチーフに使った「タイムマシーンについて」であり、リリースから20年経ってもその全く変わらない名曲っぷりには聴きいらざるを得ないし、クボのボーカルの調子が良いだけにより一層歌詞の一字一句の細部まで噛み締めながら聴くことができる。折りしもこの日はドラえもんのライブの翌週というタイミングも意識したのだろうかとも思う。
クボが再びギターをエレキに持ち替えると、そのギターが新しいものであることを告げながら、
クボ「もう夏も終わりますけど、夏にどこか行きましたか?」
タケシタ「この前のライブでも言ったけど、久しぶりに沖縄に行って、バスケットボールの日本対ドイツの試合を見てきた。負けちゃった試合だったけどね」
クボ「誰が負けたの?」
タケシタ「いや、誰とかじゃなく、日本が…」
クボ「全く興味ないから(笑)」
タケシタ「そうでしょうね(笑)」
と、2人の対称っぷりを感じさせるやり取りもあったけれど、それでもインドアなイメージしかないクボまでもが「沖縄に行きたい」と言っていると、まだ沖縄に行ったことがないためにMONGOL800の沖縄のフェスなんかに行きたくなってしまう。
そんな終わりゆく夏の曲とクボがチラッと口にしたために、編成的にも「夕凪」や「初恋サンセット」が演奏されるのかとも思っていたのであるが、ここで演奏されたのは普段からよく演奏されている初期の「ソト」。しかしながらやはりキーボード不在のギター、ベース、ドラムのみという編成での演奏はいつも以上に重厚なバンドサウンドであることを感じさせる。サビに入る瞬間にはタケシタが小野田と目を合わせながらベースを振り上げるようにして音を鳴らすのであるが、なんやかんや松江とも小野田とももう長い年月一緒に活動してきたからこそのグルーヴを確かに感じる。
そのバンドサウンドの重さは「忘れ物」にも引き継がれていき、やはりこの日はメレンゲのギターロックさを自分たちの鳴らす音によって感じさせてくれる。それはクボと松江のギターがメレンゲというバンドのフワッとしたイメージよりもはるかに轟音で鳴らされているからこそ感じられるものでもある。
すると普段の編成では浮遊感のあるキーボードのイントロによって始まるのがおなじみになっている名曲「カメレオン」も、クボがギターでそうした音を鳴らしてから演奏されるというアレンジに。この曲はサビがとりわけキーが高いだけにクボはかなり歌うのがキツそうな感じもしたというか、実際に少し歌が飛んでしまう部分もあったのであるが、それでもたくさんの観客がサビで腕を挙げていたのであるが、それは照明によっても表現されていたこの曲の七色の輝きが今も全く失われていないということである。
すると松江がシタールを弾く「CAMPFIRE」という、昼にやるイメージが全くない曲を演奏することによって逆にメレンゲの曲にはそうした時間や状況などを全て忘れさせて曲の世界の中に没入していくような力があるということを示してくれるのであるが、イントロ前にクボとタケシタが何やら話し合っている。実は松江が曲順を間違えていたのだが、もうギターをシタールに持ち替えてしまっていただけにそのまま「CAMPFIRE」が演奏されたらしい。
そうしたライブならではのアクシデントを
クボ「この前、初恋の嵐の隅倉弘至のイベントにゲストボーカルで呼ばれて。俺の前がGOING UNDER GROUNDの松本素生だったんだけど、ドッキリを仕掛けられて、俺の曲と順番入れ替えられてたのを思い出した(笑)」
というエピソードからは同世代の下北沢ギターロックバンドたちの仲睦まじさを感じさせてくれるものであるのだが、さすがにメレンゲのライブでドッキリを仕掛けるメンバーはいないだろう。
そうして順番が入れ替わり、元々は「CAMPFIRE」の前に演奏されるはずだったのは「願い事」であるのだが、その曲が進むにつれてじわじわと高まっていくバンドのアンサンブルはむしろそうしたアクシデントがあったからこそ、より強くなっているかのような気さえするし、それはクボのボーカルも同じくである。
そんな中で演奏された「絵本」は実にレアな選曲であるのだが、「絵本の中のストーリーを歌詞にする」のではなくて、「絵本を書こうとしている主人公の心境」を描くというあたりが実にクボらしいし、それは単なるラブソングではなくてもはや1曲がそのまま映画になってもいいんじゃないかと思うほど。その心境がAメロではトーン低めのボーカルが一気に高くなるというメロディの構成によって表現されているし、それをクボの声で歌うことによってさらに歌詞の世界の中に入り込める。これぞ初期のアルバムのコピーになっていた「ジョバンニも憧れた純文学ギターロック」としてのメレンゲらしさである。
さらにはこちらも普段のライブでもおなじみではあるが、キーボードの浮遊感あるサウンドがないことによって、どっしりとしたギターロックサウンドになることで普段以上にここからまた新しいライブの流れが始まっていくことを感じさせるような「アルカディア」でも小野田のドラムの力強さ(短髪になってより見た目も逞しくなったような感じがする)を感じさせていたが、それは人間が大地を踏み鳴らすように歩いていく音を表現しているような「ライカ」のドラムもまたそうである。その力強さにとびっきりのポップさを加えるのがクボのメロディでありメレンゲらしさであるが、タケシタのベースソロやアウトロでのセッション的な演奏はメレンゲというバンドが活動してきた長い年月は決して無駄なものではなく、こうしてバンドの力としてしっかり表れていると思う。
するとすでに今が真っ昼間のライブであることを完全に忘れるくらいにメレンゲの曲の世界の中に入っているというのに、さらにその没入感を強めてくれるのが「ムーンライト」であり、普段は山本の美しいピアノのフレーズが彩りを与える曲であるが、それがないこの編成は実にタイトなバンドサウンドであり、日比谷野音ワンマンでの素晴らしい光景など、何度となくライブで聴いてきたこの曲に新しいイメージを加えてくれる。それはもちろん時折は歌が飛びながらではあるが、クボの歌声の伸びやかさによってもそう感じさせてくれるものである。
そんなクボが少し苦笑いを浮かべながらも、曲途中でマイクをスタンドから外してハンドマイク的な歌唱になるのはタイトル通りに爽やかなメロディとサウンドによる「さらさら90'S」であり、もっと編成的に初期の曲メインになるかと思われたあたりを4人でアレンジすることによって、幅広いサウンドの曲をギターロックというフォーマットで表現することができている。当然ハイパーなシンセのサウンドを取り入れた曲なんかはこの編成では演奏できないけれど、改めてメレンゲのバンドとしての強さを感じることができるし、それが今になって感じられるというのがずっと見てきたファンの身として本当に嬉しいのである。
それはクボがイントロで煽るようにすると観客の手拍子が響き、
「フレディ」
のフレーズのリフレインが実に気持ちいい「アンカーリング」もそう。ギターロックバンド編成であり、実際に曲後半ではキメを連発するカッコよさも感じさせながらも、曲のキャッチーさは決して失われることはない。それはメレンゲの2人はもちろん、ずっとこうしてギターを弾いてくれているから忘れがちではあるけれど、実は様々なバンドやアーティストを手掛けてきたプロデューサーでもある松江の手腕によるところも大きいんじゃないかとも思う。
そんなギターロックバンドとしての重厚なサウンドを最後に思いっきり発揮するのは「火の鳥」。亡くなってしまった人への想いを歌詞にした曲であるだけに、タケシタはライブ後に感極まっていたということをツイートしていたけれど、そのメンバーの感情がダイレクトに音に乗っているからこそ、我々観客もそうして感極まってしまうところが確かにある。人によって思い浮かべる対象は違うだろうけれど、クボは本当に大きな喪失を経験してきたし、タケシタも口にはしないけれどそうしたことがたくさんあったんだろうと思う。それでも我々は生きていて、メレンゲの2人も生きている。だからこうして今もライブでこの曲を聴くことができている。それだけは、どうかこれからもずっと変わらないものであって欲しいと改めて思った。
アンコールでは先にステージに現れたタケシタが、初の昼ライブということでこの日会場に来るまでは憂鬱だったという。普段のライブ通りのルーティンができないことの違和感もあったらしいが、観客に聞いてみたところ、たくさんの人がまた昼にライブをやって欲しいと手を挙げていたので、またこうして昼にライブをやるかもしれないし、色々と試しながら続けていきたいと口にするのであるが、クボもアンコールでステージに現れると、来月のライブが発表されるのであるが、それもこの会場での昼ライブということで、この試みは続きそうだ。もしかしたら土日に働いている人は逆にライブに来れないかもしれないけれど、個人的にはもうメレンゲがライブをやってくれるなら何でもいいという感すらある。やってくれるなら時間がどうあれずっと観に行くから。
そんな昼ライブならではの「夜も他のライブあるんで撤収は○時までに…」という言葉にクボが
「わかってるわ!(笑)」
と何故か急に声を荒げると、アンコールとして演奏されたのは小野田のリズムに合わせてタケシタと観客が手拍子をし、タケシタの煽りによってその手が頭の上にまで上がる「ビスケット」。その曲が持つポップさもやはりいつもよりもギターロック然としたものになっていたけれど、メレンゲのライブでのこの曲の楽しさは変わることはない。やはりさすがに近年生み出されている新曲たちはキーボードありきであるだろうだけに演奏されなかったけれど。
それは編成が変わるとより楽しみが増える、いつもの曲でもいつもとはまた違うものが見ることができるということを示していた。クボもタケシタもどこかいつも以上に名残惜しそうにステージを去っていったし、ライブハウスの外に出た時の空が明るいなという感覚が、どこか非日常の世界を我々に見せてくれるライブハウスが、いつも以上にさらに非日常的なものだったように感じられたのだった。これからも昼でも夜でも、会える機会をたくさん作ってくれるなら本当に嬉しい。会えない期間が長かったバンドであるだけに。
1.声
2.Ladybird
3.タイムマシーンについて
4.ソト
5.忘れ物
6.カメレオン
7.CAMPFIRE
8.願い事
9.絵本
10.アルカディア
11.ライカ
12.ムーンライト
13.さらさら'90S
14.アンカーリング
15.火の鳥
encore
16.ビスケット
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a flood of circle 「Mini Album 「a flood of circle」&「泥水のメロディー」再現ライブ」 @新代田FEVER 9/7