佐々木亮介 × ホリエアツシ 「GOLD & SILVER NIGHT」 @下北沢空き地 9/5
- 2023/09/05
- 23:15
a flood of circleとストレイテナーが同じ時期に新曲をリリースし、しかもフラッドの新曲はホリエアツシがプロデュースかつ、タイトルにフラッドは「GOLD」、ストレイテナーは「SILVER」がつくということによって企画されたであろうイベントがこの日の弾き語りライブである。
会場の下北沢空き地は再開発されたことによってできた、下北沢駅から出てすぐの場所にあるまさに空き地がピッタリな名称のイベントスペースであり、カフェが併設していたり、キッチンカーも出店していたりと、昔の下北沢駅前を思い出すと考えられない場所になっている。抽選が行われた前方の芝生エリアは座れるようになっているが、当然のように落選したのでその後ろのスペースで立って見ることに。ステージはランプ的な照明がいくつも取り付けられていて、意外なくらいにしっかりしている。
ライブ開始時間の18時30分の少し前にはフラッドのマネージャー氏が登場してこの日のライブが生配信されることなどを説明してから、ギターを持ったホリエアツシとおなじみの緑茶ハイを持った佐々木亮介が登場。
「百々さん(MO'SOME TONEBENDERの百々和宏)が楽屋にいて、すでに飲んでるから酔っ払ってる(笑)だから先に言わなきゃいけないことを言っておく」
と亮介が先に互いの新曲が翌日の9月6日にリリースされること、その新曲の音源をこの日この後に流すことなどを告知すると、亮介がデザインしたこの日のグッズのTシャツをホリエが持ってきて観客に見せるというあたり、早くもホリエの良い先輩っぷりが伺える。
・ホリエアツシ
そんなホリエはメガネをかけてハットを被っているという出で立ちで、亮介がステージから去るとアコギを爪弾くようにしながら、初めて見る人も多いだろうということで丁寧に自己紹介。いや、さすがにフラッドファンや亮介を観に来た側の人は全員知っているだろうとは思うけれど、そうではなくてたまたま通りがかった人なんかにも向けた自己紹介だったのかなとも思うのであるが、
「井の頭線に乗って吉祥寺から下北沢に来ました」
と言って、会場が下北沢であるにもかかわらず、この曲を1曲目にやる意味合いを持たせるように「吉祥寺」から始まるというのは実にさすがであり、暑い日が続く中でもその清冽なアコギの音と爽やかでありながらも儚いホリエの歌声がどこか涼しい風を吹かせてくれるようにも感じられる。
それを感じさせてくれるのは、18時半でももうすっかり暗くなったことが8月の夏フェスとは季節が変わりつつあることを感じさせるように歌い始めた「シーグラス」で、下北沢には全く海のイメージはないけれど、それでも
「夏が終わりを急いでる」
というフレーズがまさに今この瞬間のための曲のように感じられる。ホリエはこの曲の時には高音、特にファルセット部分がいつもよりも出ていなかったというか、出すのがキツそうな感じもしていたけれど、それすらもこの後の歌唱では感じさせないあたりもさすがである。
そうした歌を前面に押し出すような、実に弾き語りらしい曲の後に、アコギをギターだけではなくベースのように低音を鳴らすように弾くというあたりにもギタリストとしてのホリエの凄さを感じさせてくれるのは、全く弾き語りらしくない選曲である「SPEED GUN」であり、そもそもバンドとしても近年ほとんど聴いた記憶がない曲をこの日のセトリに入れた理由は全くわからないのだが、それはバンドのライブでは4人で練り上げてきた、タイトル通りに狂騒的なグルーヴを感じさせる曲である「BERSERKER TUNE」もそうで、ホリエの弾き語りはこれまでにも何度も見ているけれど、こんなに弾き語りらしくない曲をやるのは実に珍しい。ただそこには、どんなアレンジで演奏したとしても良い曲は良い曲であるとでもいうような、ホリエの自身が作ってきた曲への矜持を感じさせる。実際に弾き語りで聴く「BERSERKER TUNE」はバンドでの演奏よりもはるかに歌心を感じさせる。
「1998年から25年バンドをやってます。どこにでもいるような…いや、どこにでもはいないな(笑)唯一無二ではあったけど、うだつの上がらないバンドマンで、ずっと下北沢でもライブをやってきました。
さっき、佐々木亮介君が「下北沢のどの辺りのライブハウスでやってたんですか?」って聞いてきて、当時のいろんなことを思い出して、今ここでこうして歌っていると感極まりそうになります(笑)
下北沢に飲みに来る時は電車に乗ってくるけど、今では車で移動することも多くなったので、車の歌を」
とホリエが言った時には「テナーに車の歌らしい曲あったっけ?」とも思ってしまったのであるが、確かに
「カーステレオ」
などの歌詞を聞くと、車の歌だったということがよくわかる「混ぜれば黒になる絵具」(2020年のアルバム「Applause」収録)はライブで聴いたことがなかったという人もたくさんいる曲だろう。もしこうした曲を歌うのがバンドよりも弾き語りの方がやりやすいというのならば、またこうしてすぐに弾き語りのライブを、なんなら弾き語りでワンマンとかもやって欲しいくらいだ。それくらいにホリエの弾き語りは「ただボーカルがバンドの曲を弾き語りでやる」というようなライブではないことが見ているとよくわかる。
一転してテナーのライブでもおなじみであり、こうして弾き語りで演奏されることによって、ステージに取り付けらたランプが揺れるくらいの風が吹くのが実に心地良く、ここだけ時間がゆっくり流れているのかとすら思う「彩雲」のメロディと歌詞の載せ方の美しさに浸らせたかと思ったらホリエは袖にいるスタッフに
「時間余ってる?あと8分もあるの!?What happen!?」
と、オヤジギャグを言うくらいに穏やかな歳の取り方をしてきたことを感じさせながら、なんとか喋りで繋ごうと
「フラッドの新曲のプロデュースをやらせてもらって、そこら辺の街のスタジオで一緒に曲を作ってたんだけど、スタジオが鏡張りになってるから鏡越しに亮介と向かい合ってるみたいな感じになってた(笑)」
というプロデューサーとしてのエピソードも開陳するのであるが、いよいよ喋りだけでは繋がらないと勘弁したのか、
「今日みたいな日に似合う曲を最後にやります」
と言って歌い始めたのは
「いつも新しい心で
いつか懐かしい景色に」
「もう何度目の夜が明ける
また君の街へ」
というフレーズの数々が、かつてはテナーがホームにしていた下北沢の街並みが変わってきた中でも、今でもホリエがこの街で歌っているという感慨を本人だけならず我々観客にも与えてくれるような「FREE ROAD」という2015年リリースの「DAY TO DAY」のカップリング曲。そうしたレア曲までもが全て自身の頭の中や体の中に入っているというのは、ストレイテナーがフェスやイベントなどの短い持ち時間のライブであっても毎回セトリを変えるバンドであるということが弾き語りでもそうであるということを感じさせてくれた。
何よりも、来るたびに迷子になりそうなくらいに街並みが大きく変わってしまっていても、今でもホリエの曲を下北沢で聴いていると、ストレイテナーがSHELTERやQUEのステージに立っている姿がイメージできる。それくらいに今でもずっと、あの頃のギターロックバンドたちにとってはどれだけバンドが大きくなってもホームだと言える街だ。
1.吉祥寺
2.シーグラス
3.SPEED GUN
4.BERSERKER TUNE
5.混ぜれば黒になる絵具
6.彩雲
7.FREE ROAD
・佐々木亮介
弾き語りということでホリエと入れ替わりですぐにステージに現れた、a flood of circleの佐々木亮介。個人的には先週にMARSBERG SUBWAY SYSTEMとの対バンでフラッドのライブを見たばかりであるが、佐々木亮介のライブなら何でもすぐに見たいと思うからこそ、こうして平日の早い時間から下北沢まで来たのである。
黒の革ジャンというのは見慣れた亮介スタイルであるが、下に履いているのはデザインが入った黒のパンツというのが少し珍しい感じがするのであるが、ホリエが丁寧に自己紹介をしたことによってか、
「俺も自己紹介します!」
と言ってから
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
と歌い始めた「月夜の道を俺が行く」で、
「気付けば結局 佐々木亮介」
というフレーズを自己紹介がてらに歌ったかと思ったら再度
「佐々木亮介」
と繰り返して、歌をもってして自己紹介するというのがMCすらもブルースになる亮介らしいし、弾き語りであっても亮介のロックンロールさが炸裂するこの曲ができたのは実に大きいと改めて思う。亮介が歌う曲は電気の無駄でも酸素の無駄でもない。我々が生きていくために必要不可欠なものであるとも。
「月が出てると思ってセトリ組んだんだよね(笑)」
と言って亮介がステージから空を見上げるようにするも、晴れているのにどこを見ても全く月は見えないというのは逆に持っているような気がしなくもない、フラッド屈指のロマンチックな月ソング「Honey Moon Song」をサビ始まりの歌い出しから思いっきりそのロックンロールを歌うために持って生まれたような声を張り上げるようにして歌う。するとおなじみの
「ギター、俺!」
も飛び出した、間奏に当たる部分では
「20年前からしたら下北沢はここがどこかわからなくなるくらいに変わった」
という言葉を挟むのは、ホリエ同様にフラッドにとってもこの下北沢がホームと言えるくらいにずっとライブをやってきた街であり、なんなら近年でもFC限定などの形でSHELTERでライブをやったりするだけに、その街の移り変わりを自分の目で見てきたからだろう。
そんな亮介は新曲でプロデューサーを務めたホリエを
「酒を飲む時はいつも奢ってくれる」
と、やはり実に良い先輩であると感じさせてくれるように紹介してから、
「スタジオで鏡越しに向かい合ってる時にはにかんでる」
と歌詞にもそんなホリエのかわいいエピソードを交えたバージョンでTHE KEBABSの「かわかわ」を歌うのであるが、普段のTHE KEBABSのライブでも頻繁に歌詞を変えて歌われているだけに、この曲の汎用性の高さに改めて驚かされる。そのメロディはもちろん、
「ずっきゅん!」
と歌う亮介が誰よりもかわかわなことにも。
「今日は見られてる感じがする。前からじゃなくて、上から」
と言ってまた空を見上げるようにしてから、その空の上にいる人に向けて想いを馳せるようにしてアコギを鳴らしながら歌った「人工衛星のブルース」は、こうしたシチュエーションだからこそ、もう届くことがない、聴いている人にとっての応答がない人の存在を思い起こさせる。亮介の歌唱には間違いなくそんな力があるからこそ、こうして聴いていて心が震えてしまうのである。
「ホリエさん、駅の名前言うとその近くのおすすめの店を教えてくれる(笑)1番モテるやつだよね(笑)だからホリエさんに泣かされたガールもたくさんいると思うから、そんな思いを込めて(笑)」
と、まさかのホリエに泣かされた(あくまで亮介の妄想)女性の気持ちになって歌われたのは「くたばれマイダーリン」で、この曲は以前ホリエも一緒に歌ったことがあるだけに、
「ホリエさんが一緒に歌っていると想像してもらって」
と言って演奏されたのだが、個人的にはバンドでのライブで聴きまくっている曲であるだけに、最後のタイトルフレーズの歌唱ではホリエよりも青木テツがコーラスをしている声や姿が弾き語りであっても浮かんできてしまう。それくらいに自分の中に染み付いている曲と言えるようになっているのである。
そんな弾き語りの最後に演奏されたのは、アコギも弾きながらでもあるけれど、亮介の歌唱がひたすらに胸に突き刺さるように響いてくる「本気で生きているのなら」であり、屋外のイベントスペースということで自分はこの日のライブに音響の良さを期待していなかったのだが、驚くくらいに音が良かったし、だからこそめちゃくちゃ亮介の声が響いていた。この曲の時に客席に警官が現れたのは声が響きすぎてうるさいと思われたりしているのだろうかと思うくらいに響いていたし(ただ近くに交番があるから観に来ただけだと思うけど)、それは間違いなく下北沢駅前を歩いているような人たちにも聴こえていたはずであるが、なんならそんな人たちすらも飛び越えて、この声がもっと遠くにまで、どこまでだって響いて欲しいとすら思っていた。弾き語りでそこまで思わせるくらいに声量を持っているボーカリストの存在を自分は佐々木亮介しか知らない。
すると亮介が再びホリエをステージに呼ぶのであるが、ホリエが譜面台に譜面を置いた瞬間に風が強く吹いてそれが飛び、
亮介「さすらいの譜面が…」
ホリエ「(譜面を自身で拾い集めてから)さすらいの譜面がさすらってしまった(笑)」
亮介「今拾ってる時からそれ言いたくて仕方がなかったでしょ?(笑)」
と、実に朗らかなプロデューサーとソングライターの関係性を感じさせると、亮介が百々和宏の誕生日ライブのチラシを配りながら互いのバンドの新曲の音源を流し、その間はステージから捌けていて、フラッドの渡邊一丘がオオゼキで買ってきてくれたという缶ビールを持って出てきたホリエがプロデュースしたフラッドの新曲「ゴールド・ディガーズ」を2人で歌うのであるが、ホリエが
「弾き語りでやる曲なのか(笑)」
と言った通りに、すでにフラッドのライブでも演奏されているこの曲は原曲では初めてというくらいにフラッドがハードロックの要素を感じさせるような曲である。まさかそんな部分を引き出すとは、というホリエのアコギとサビを歌う爽やかな声質によって原曲とは全く違う、ひたすらにメロディの美しさのみを抽出したようなアレンジになっているのであるが、ホリエが思いっきり巻き舌で歌ったり、2人で向かい合って飛び跳ねながらギターを弾いたりと、まさか笑いの要素がホリエの存在によってもたらされているとは、と思わずにはいられない。
そんなホリエだからこそ亮介は
「「Traveling Gargoyle」を初めて聴いた時に、そもそも2人編成でバンド始めたっていうところからしてイカれてるなと思ってたけど、みんながギターロックなテナーを聴きたい時にピアノを弾き始めたりするあたりもやっぱりイカれてるなって思った(笑)」
と評した上で、この会場のすぐ近くのビルの屋上がMVの撮影場所であるということが明かされた、テナーが5月に配信リリースしたばかりの「246」を2人でコラボ。そもそも原曲からしてホリエが「東京」と歌い上げるだけでも、昔のファンタジックな世界観の歌詞を歌っていたテナーからは想像できないくらいにエモーショナルな気分になるのであるが、そんな曲を亮介がその声をもってして一緒に歌っているというのがそのエモーションを増大させる。それは時には翻弄されたりもしたかもしれないけれど、2人がずっと東京で生活して、こうして歌い続けてきたからだ。それを東京のバンドシーンの中心地と言えるような下北沢の空の下で歌っている。配信もされていたけれど、この情景を含めて自分の目で見て感じることができて本当に良かったと思えたライブだった。
ストレイテナーの久しぶりの日本武道館ワンマンも、フラッドのインディーズ期の曲の再現ライブやテナーとの対バンを含めたツアーも。またすぐにこの2人がステージで歌っているのを見ることができるのが本当に楽しみだし、それはきっとこれから先何十年もそうして楽しみが続いていくのだと思っている。
1.月夜の道を俺が行く
2.Honey Moon Song
3.かわかわ
4.人工衛星のブルース
5.くたばれマイダーリン
6.本気で生きているのなら
encore
7.ゴールド・ディガーズ w/ ホリエアツシ
8.246 w/ ホリエアツシ
会場の下北沢空き地は再開発されたことによってできた、下北沢駅から出てすぐの場所にあるまさに空き地がピッタリな名称のイベントスペースであり、カフェが併設していたり、キッチンカーも出店していたりと、昔の下北沢駅前を思い出すと考えられない場所になっている。抽選が行われた前方の芝生エリアは座れるようになっているが、当然のように落選したのでその後ろのスペースで立って見ることに。ステージはランプ的な照明がいくつも取り付けられていて、意外なくらいにしっかりしている。
ライブ開始時間の18時30分の少し前にはフラッドのマネージャー氏が登場してこの日のライブが生配信されることなどを説明してから、ギターを持ったホリエアツシとおなじみの緑茶ハイを持った佐々木亮介が登場。
「百々さん(MO'SOME TONEBENDERの百々和宏)が楽屋にいて、すでに飲んでるから酔っ払ってる(笑)だから先に言わなきゃいけないことを言っておく」
と亮介が先に互いの新曲が翌日の9月6日にリリースされること、その新曲の音源をこの日この後に流すことなどを告知すると、亮介がデザインしたこの日のグッズのTシャツをホリエが持ってきて観客に見せるというあたり、早くもホリエの良い先輩っぷりが伺える。
・ホリエアツシ
そんなホリエはメガネをかけてハットを被っているという出で立ちで、亮介がステージから去るとアコギを爪弾くようにしながら、初めて見る人も多いだろうということで丁寧に自己紹介。いや、さすがにフラッドファンや亮介を観に来た側の人は全員知っているだろうとは思うけれど、そうではなくてたまたま通りがかった人なんかにも向けた自己紹介だったのかなとも思うのであるが、
「井の頭線に乗って吉祥寺から下北沢に来ました」
と言って、会場が下北沢であるにもかかわらず、この曲を1曲目にやる意味合いを持たせるように「吉祥寺」から始まるというのは実にさすがであり、暑い日が続く中でもその清冽なアコギの音と爽やかでありながらも儚いホリエの歌声がどこか涼しい風を吹かせてくれるようにも感じられる。
それを感じさせてくれるのは、18時半でももうすっかり暗くなったことが8月の夏フェスとは季節が変わりつつあることを感じさせるように歌い始めた「シーグラス」で、下北沢には全く海のイメージはないけれど、それでも
「夏が終わりを急いでる」
というフレーズがまさに今この瞬間のための曲のように感じられる。ホリエはこの曲の時には高音、特にファルセット部分がいつもよりも出ていなかったというか、出すのがキツそうな感じもしていたけれど、それすらもこの後の歌唱では感じさせないあたりもさすがである。
そうした歌を前面に押し出すような、実に弾き語りらしい曲の後に、アコギをギターだけではなくベースのように低音を鳴らすように弾くというあたりにもギタリストとしてのホリエの凄さを感じさせてくれるのは、全く弾き語りらしくない選曲である「SPEED GUN」であり、そもそもバンドとしても近年ほとんど聴いた記憶がない曲をこの日のセトリに入れた理由は全くわからないのだが、それはバンドのライブでは4人で練り上げてきた、タイトル通りに狂騒的なグルーヴを感じさせる曲である「BERSERKER TUNE」もそうで、ホリエの弾き語りはこれまでにも何度も見ているけれど、こんなに弾き語りらしくない曲をやるのは実に珍しい。ただそこには、どんなアレンジで演奏したとしても良い曲は良い曲であるとでもいうような、ホリエの自身が作ってきた曲への矜持を感じさせる。実際に弾き語りで聴く「BERSERKER TUNE」はバンドでの演奏よりもはるかに歌心を感じさせる。
「1998年から25年バンドをやってます。どこにでもいるような…いや、どこにでもはいないな(笑)唯一無二ではあったけど、うだつの上がらないバンドマンで、ずっと下北沢でもライブをやってきました。
さっき、佐々木亮介君が「下北沢のどの辺りのライブハウスでやってたんですか?」って聞いてきて、当時のいろんなことを思い出して、今ここでこうして歌っていると感極まりそうになります(笑)
下北沢に飲みに来る時は電車に乗ってくるけど、今では車で移動することも多くなったので、車の歌を」
とホリエが言った時には「テナーに車の歌らしい曲あったっけ?」とも思ってしまったのであるが、確かに
「カーステレオ」
などの歌詞を聞くと、車の歌だったということがよくわかる「混ぜれば黒になる絵具」(2020年のアルバム「Applause」収録)はライブで聴いたことがなかったという人もたくさんいる曲だろう。もしこうした曲を歌うのがバンドよりも弾き語りの方がやりやすいというのならば、またこうしてすぐに弾き語りのライブを、なんなら弾き語りでワンマンとかもやって欲しいくらいだ。それくらいにホリエの弾き語りは「ただボーカルがバンドの曲を弾き語りでやる」というようなライブではないことが見ているとよくわかる。
一転してテナーのライブでもおなじみであり、こうして弾き語りで演奏されることによって、ステージに取り付けらたランプが揺れるくらいの風が吹くのが実に心地良く、ここだけ時間がゆっくり流れているのかとすら思う「彩雲」のメロディと歌詞の載せ方の美しさに浸らせたかと思ったらホリエは袖にいるスタッフに
「時間余ってる?あと8分もあるの!?What happen!?」
と、オヤジギャグを言うくらいに穏やかな歳の取り方をしてきたことを感じさせながら、なんとか喋りで繋ごうと
「フラッドの新曲のプロデュースをやらせてもらって、そこら辺の街のスタジオで一緒に曲を作ってたんだけど、スタジオが鏡張りになってるから鏡越しに亮介と向かい合ってるみたいな感じになってた(笑)」
というプロデューサーとしてのエピソードも開陳するのであるが、いよいよ喋りだけでは繋がらないと勘弁したのか、
「今日みたいな日に似合う曲を最後にやります」
と言って歌い始めたのは
「いつも新しい心で
いつか懐かしい景色に」
「もう何度目の夜が明ける
また君の街へ」
というフレーズの数々が、かつてはテナーがホームにしていた下北沢の街並みが変わってきた中でも、今でもホリエがこの街で歌っているという感慨を本人だけならず我々観客にも与えてくれるような「FREE ROAD」という2015年リリースの「DAY TO DAY」のカップリング曲。そうしたレア曲までもが全て自身の頭の中や体の中に入っているというのは、ストレイテナーがフェスやイベントなどの短い持ち時間のライブであっても毎回セトリを変えるバンドであるということが弾き語りでもそうであるということを感じさせてくれた。
何よりも、来るたびに迷子になりそうなくらいに街並みが大きく変わってしまっていても、今でもホリエの曲を下北沢で聴いていると、ストレイテナーがSHELTERやQUEのステージに立っている姿がイメージできる。それくらいに今でもずっと、あの頃のギターロックバンドたちにとってはどれだけバンドが大きくなってもホームだと言える街だ。
1.吉祥寺
2.シーグラス
3.SPEED GUN
4.BERSERKER TUNE
5.混ぜれば黒になる絵具
6.彩雲
7.FREE ROAD
・佐々木亮介
弾き語りということでホリエと入れ替わりですぐにステージに現れた、a flood of circleの佐々木亮介。個人的には先週にMARSBERG SUBWAY SYSTEMとの対バンでフラッドのライブを見たばかりであるが、佐々木亮介のライブなら何でもすぐに見たいと思うからこそ、こうして平日の早い時間から下北沢まで来たのである。
黒の革ジャンというのは見慣れた亮介スタイルであるが、下に履いているのはデザインが入った黒のパンツというのが少し珍しい感じがするのであるが、ホリエが丁寧に自己紹介をしたことによってか、
「俺も自己紹介します!」
と言ってから
「俺の夢を叶えるのは俺しかいない」
と歌い始めた「月夜の道を俺が行く」で、
「気付けば結局 佐々木亮介」
というフレーズを自己紹介がてらに歌ったかと思ったら再度
「佐々木亮介」
と繰り返して、歌をもってして自己紹介するというのがMCすらもブルースになる亮介らしいし、弾き語りであっても亮介のロックンロールさが炸裂するこの曲ができたのは実に大きいと改めて思う。亮介が歌う曲は電気の無駄でも酸素の無駄でもない。我々が生きていくために必要不可欠なものであるとも。
「月が出てると思ってセトリ組んだんだよね(笑)」
と言って亮介がステージから空を見上げるようにするも、晴れているのにどこを見ても全く月は見えないというのは逆に持っているような気がしなくもない、フラッド屈指のロマンチックな月ソング「Honey Moon Song」をサビ始まりの歌い出しから思いっきりそのロックンロールを歌うために持って生まれたような声を張り上げるようにして歌う。するとおなじみの
「ギター、俺!」
も飛び出した、間奏に当たる部分では
「20年前からしたら下北沢はここがどこかわからなくなるくらいに変わった」
という言葉を挟むのは、ホリエ同様にフラッドにとってもこの下北沢がホームと言えるくらいにずっとライブをやってきた街であり、なんなら近年でもFC限定などの形でSHELTERでライブをやったりするだけに、その街の移り変わりを自分の目で見てきたからだろう。
そんな亮介は新曲でプロデューサーを務めたホリエを
「酒を飲む時はいつも奢ってくれる」
と、やはり実に良い先輩であると感じさせてくれるように紹介してから、
「スタジオで鏡越しに向かい合ってる時にはにかんでる」
と歌詞にもそんなホリエのかわいいエピソードを交えたバージョンでTHE KEBABSの「かわかわ」を歌うのであるが、普段のTHE KEBABSのライブでも頻繁に歌詞を変えて歌われているだけに、この曲の汎用性の高さに改めて驚かされる。そのメロディはもちろん、
「ずっきゅん!」
と歌う亮介が誰よりもかわかわなことにも。
「今日は見られてる感じがする。前からじゃなくて、上から」
と言ってまた空を見上げるようにしてから、その空の上にいる人に向けて想いを馳せるようにしてアコギを鳴らしながら歌った「人工衛星のブルース」は、こうしたシチュエーションだからこそ、もう届くことがない、聴いている人にとっての応答がない人の存在を思い起こさせる。亮介の歌唱には間違いなくそんな力があるからこそ、こうして聴いていて心が震えてしまうのである。
「ホリエさん、駅の名前言うとその近くのおすすめの店を教えてくれる(笑)1番モテるやつだよね(笑)だからホリエさんに泣かされたガールもたくさんいると思うから、そんな思いを込めて(笑)」
と、まさかのホリエに泣かされた(あくまで亮介の妄想)女性の気持ちになって歌われたのは「くたばれマイダーリン」で、この曲は以前ホリエも一緒に歌ったことがあるだけに、
「ホリエさんが一緒に歌っていると想像してもらって」
と言って演奏されたのだが、個人的にはバンドでのライブで聴きまくっている曲であるだけに、最後のタイトルフレーズの歌唱ではホリエよりも青木テツがコーラスをしている声や姿が弾き語りであっても浮かんできてしまう。それくらいに自分の中に染み付いている曲と言えるようになっているのである。
そんな弾き語りの最後に演奏されたのは、アコギも弾きながらでもあるけれど、亮介の歌唱がひたすらに胸に突き刺さるように響いてくる「本気で生きているのなら」であり、屋外のイベントスペースということで自分はこの日のライブに音響の良さを期待していなかったのだが、驚くくらいに音が良かったし、だからこそめちゃくちゃ亮介の声が響いていた。この曲の時に客席に警官が現れたのは声が響きすぎてうるさいと思われたりしているのだろうかと思うくらいに響いていたし(ただ近くに交番があるから観に来ただけだと思うけど)、それは間違いなく下北沢駅前を歩いているような人たちにも聴こえていたはずであるが、なんならそんな人たちすらも飛び越えて、この声がもっと遠くにまで、どこまでだって響いて欲しいとすら思っていた。弾き語りでそこまで思わせるくらいに声量を持っているボーカリストの存在を自分は佐々木亮介しか知らない。
すると亮介が再びホリエをステージに呼ぶのであるが、ホリエが譜面台に譜面を置いた瞬間に風が強く吹いてそれが飛び、
亮介「さすらいの譜面が…」
ホリエ「(譜面を自身で拾い集めてから)さすらいの譜面がさすらってしまった(笑)」
亮介「今拾ってる時からそれ言いたくて仕方がなかったでしょ?(笑)」
と、実に朗らかなプロデューサーとソングライターの関係性を感じさせると、亮介が百々和宏の誕生日ライブのチラシを配りながら互いのバンドの新曲の音源を流し、その間はステージから捌けていて、フラッドの渡邊一丘がオオゼキで買ってきてくれたという缶ビールを持って出てきたホリエがプロデュースしたフラッドの新曲「ゴールド・ディガーズ」を2人で歌うのであるが、ホリエが
「弾き語りでやる曲なのか(笑)」
と言った通りに、すでにフラッドのライブでも演奏されているこの曲は原曲では初めてというくらいにフラッドがハードロックの要素を感じさせるような曲である。まさかそんな部分を引き出すとは、というホリエのアコギとサビを歌う爽やかな声質によって原曲とは全く違う、ひたすらにメロディの美しさのみを抽出したようなアレンジになっているのであるが、ホリエが思いっきり巻き舌で歌ったり、2人で向かい合って飛び跳ねながらギターを弾いたりと、まさか笑いの要素がホリエの存在によってもたらされているとは、と思わずにはいられない。
そんなホリエだからこそ亮介は
「「Traveling Gargoyle」を初めて聴いた時に、そもそも2人編成でバンド始めたっていうところからしてイカれてるなと思ってたけど、みんながギターロックなテナーを聴きたい時にピアノを弾き始めたりするあたりもやっぱりイカれてるなって思った(笑)」
と評した上で、この会場のすぐ近くのビルの屋上がMVの撮影場所であるということが明かされた、テナーが5月に配信リリースしたばかりの「246」を2人でコラボ。そもそも原曲からしてホリエが「東京」と歌い上げるだけでも、昔のファンタジックな世界観の歌詞を歌っていたテナーからは想像できないくらいにエモーショナルな気分になるのであるが、そんな曲を亮介がその声をもってして一緒に歌っているというのがそのエモーションを増大させる。それは時には翻弄されたりもしたかもしれないけれど、2人がずっと東京で生活して、こうして歌い続けてきたからだ。それを東京のバンドシーンの中心地と言えるような下北沢の空の下で歌っている。配信もされていたけれど、この情景を含めて自分の目で見て感じることができて本当に良かったと思えたライブだった。
ストレイテナーの久しぶりの日本武道館ワンマンも、フラッドのインディーズ期の曲の再現ライブやテナーとの対バンを含めたツアーも。またすぐにこの2人がステージで歌っているのを見ることができるのが本当に楽しみだし、それはきっとこれから先何十年もそうして楽しみが続いていくのだと思っている。
1.月夜の道を俺が行く
2.Honey Moon Song
3.かわかわ
4.人工衛星のブルース
5.くたばれマイダーリン
6.本気で生きているのなら
encore
7.ゴールド・ディガーズ w/ ホリエアツシ
8.246 w/ ホリエアツシ
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KOTORI 会場限定盤Release Tour "Good Luck" w/ Age Factory @越谷EASY GOINGS 9/1