SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2023 day2 @山中湖交流プラザきらら 8/26
- 2023/08/29
- 19:26
山中湖でのSWEET LOVE SHOWERの2日目。この日は午後から雨予報だったけれど、朝は実に気持ちの良い天気であるだけに、まさかあんな結末を迎えるなんて全く想像していなかった。
9:25〜 森大翔 [WATERFRONT STAGE] [MORNING ACOUSTIC]
時間的に入場時間待ちをしている人くらいじゃないと見れないような、山中湖畔の湖の真上に作られたWATERFRONT STAGEでのMORNING ACOUSTIC。この日はフジロックなどにも出演した新星、森大翔が弾き語りで登場。
去年はこのステージ自体が稼働していなかったため、2019年以来となるこのステージはかつては斜面に直で座って見るという形だったのが椅子が設置されていてそこに座って見ることができるようになって快適感が増している中で、森大翔が登場すると、アコギを手にしてその超絶テクニックを存分に見せつけるような「台風の目」からスタートするのであるが、朝イチの弾き語りというのはとかく眠くなりがちなものなのだが、森大翔の弾き語りはそうした感覚とは全く無縁なのはそのアコギの凄まじい技術による清冽なサウンドあってこそである。
それは観客も手拍子をしながら、歌唱にはヒップホップ的な影響を感じられる部分もあり、その歌詞には世の中への揶揄的なメッセージも含まれている「オテテツナイデ」もそうなのであるが、その森大翔の姿の背後には山中湖が広がっているという情景がこの弾き語りのサウンドに実によく似合っている。
そんな山中湖を眺めながら、カヌーに乗っている人たちに触れるあたりの素朴さが実に森大翔らしいのであるが、北海道育ちであるだけに都心の夏の暑さが苦手だという森大翔もこの会場の涼しさや景観は気に入ってくれていたんじゃないだろうかと思う。
するとルーパーも駆使してアコギの音を重ねながら「オテテツナイデ」を歌うのであるが、その弾き語りという枠すらも飛び越えるようなパフォーマンスを朝から見せられると脳や神経が覚醒していくような感じすらあるし、最後の「剣とパレット」はそんな森大翔のロックさを最大限に感じさせてくれるものであるし、そのロックさをたった1人で、しかもアコギと歌だけで感じさせてくれる。もちろんそこにはハードロックやヒップホップなどの様々な要素を吸収しているということもあるのだが、軸にあるのはギターと声。歌唱も見るたびに感情がこもるようになっているだけに、そのギターと歌だけでどこまでも行ける気がしている。
わずか20分という短い時間だったけれど、初めてライブを見たという人たちもそのあまりの凄まじさに衝撃を受けていた。自身のライブが終わってもいろんな出演者のライブを見ていたようであるし、いろんなアーティストの音楽を吸収することによってその衝撃はこれから間違いなくさらに強くなる。来年は他のステージで見ることができると思うから、森大翔が夏を少しでも好きになってくれたらいいなと思う。
1.台風の目
2.たいしたもんだよ
3.オテテツナイデ
4.剣とパレット
9:55〜 プッシュプルポット [FOREST STAGE] [OPENING ACT]
2日目のオープニングアクトは石川県金沢市のプッシュプルポット。スペシャ列伝を経てのこのフェスのオープニングアクトへと抜擢である。
メンバー4人がステージに登場すると、山口大貴(ボーカル&ギター)が
「石川県金沢市の小さなライブハウスから来ました、プッシュプルポットです!」
と挨拶して、「こんな日々を終わらせて」からスタートするのであるが、自分は何度かこのバンドのライブをすでに見ているのだが、そのスタイルは変わることはない。桑原拓也(ギター)、堀内一憲(ベース)、明神竜太郎(ドラム)の全員で思いっきり歌い、思いっきり演奏するというものである。音楽的にも決して新しいことをやっているわけではない。
でもそこにありったけの嘘偽りない感情を乗っけることによって、それが特別なものになるということをこのバンドとファンたちは知っている。だからこそ拳を振り上げるようにして一緒に歌い、「ダイナマイトラブソング」以降からはダイバーも続出しまくるのであるが、ただ音や演奏が激しいからダイブしているというよりも、何というかこのバンドの音楽の優しさを確かめるためにダイブしているというような。実際に誰もが笑顔で、ダイブしていた人たち同士がハイタッチしたりしながらまた客席の方へ戻っていく姿を見てそんなことを感じたりしていた。それはまだあそこまでいろんなことがあった人生の深みが滲んでいるわけではないが、どこかSUPER BEAVERにも通じるところもあると思う。
だからこそ「笑って」では大合唱が起こる中で、タイトル通りに笑おうとしても感情が溢れ出してきて泣きそうになってしまう。それはメンバーの鳴らす音に宿っているものが確かにあるからであるが、地元のライブハウスへの愛をこの場所まで持ってきた上で、
「俺たちもオープニングアクトから本編を狙っている」
と言うのであるが、こうしたバンドがこのフェスの大きなステージに立ったら変わるものが間違いなくあるはず。オシャレさとか流行りとかじゃなくて、ただ自分たちの内側にある感情を真っ直ぐに音と曲にするという音楽の根源的なものがシーンのど真ん中に戻ってくるかのような。
最後の「最終列車」の爆音パンクサウンドの中に潜む切なさが、確かにそんなことを感じさせてくれたからこそ、また前に見た時のようにこのフェスが終わったらライブハウスでもこのバンドのライブが見たいと思った。
1.こんな日々を終わらせて
2.Unity
3.Fine!!
4.ダイナマイトラブソング
5.笑って
6.ともに
7.最終列車
10:20〜 NEE [Mt.FUJI STAGE]
前日のPEOPLE1と同様に去年のオープニングアクトからMt.FUJI STAGEのトップバッターという位置までジャンプアップしてきた、NEE。このフェスに至るまでにも様々なフェスやイベントに出演しまくり、アリーナのステージなんかにも立ってきた上でのこのフェスへの帰還である。
プッシュプルポットが終わってから急いでMt.FUJI STAGEへ向かうとすでに「ボキは最強」の演奏が始まっており、そのまま「本日の正体」へと突入していき、朝イチからたくさんの人で埋まった客席はこのバンドが今やこの規模にふさわしいバンドになったことを示すとともに、この開放的なシチュエーションだからこそメンバーの表情も実に明るく見える。こんなにたくさんの人が自分たちのライブを見に来ているということを嬉しく思っているかのような。
「今日はトップバッターですけど、このフェスの1番を取りに来ました!」
とくぅ(ボーカル&ギター)が叫び、夕日(ギター)がエキゾチックロックバンドとしての不穏さをも感じさせるサウンドを鳴らし、かほ(ベース)もステージ前から端まで出て行って演奏するのは、くぅが
「ラブシャ!革命は…起こりません」
と言ってから演奏された、このバンドの存在を知らしめた代表曲の「不革命前夜」であるのだが、この観客が飛び跳ねまくる熱狂っぷりはもはや革命が起きていると言っていいくらいのレベルのものであろう。
するとくぅがハンドマイクになってステージ上を歩き回りながら、メンバーだけではなく観客の声もコーラスとして求めるようにしながら歌う「おもちゃ帝国」ではくぅ以外のメンバーによる歌唱のうち、夕日の歌唱がさらに強くなったような感じがした。バランスを考えながら歌っている部分もあるのだろうけれど、それでもさらにはっきりと声が聞き取れるような。
そんなアッパーな流れの中で後半に演奏されたのが少し意外な選曲に感じた「九鬼」では大樹のドラムがさらに逞しく叩き鳴らされるのであるが、この夕日のギターを起点にして激しく展開していくような曲すらもフェスにおけるキラーチューンになっているというあたりに今のこのバンドの求心力の強さを感じられるのであるが、このバンドの鳴らす音の重さを感じさせるように観客がリズムに合わせて飛び跳ねまくる「第一次世界」ではくぅがハンドマイクで歌いながら、自身のマイクスタンドに取り付けられた小さめの銅羅を叩きまくるのであるが、叩く強さが強すぎたのかスティックが折れてしまうというまさかの事態に。
それもまたこの日のライブを特別なものにする要素であるのだが、最後にくぅがギターを弾きながら歌う「月曜日の歌」ではくぅがもう言葉にならないような感情をシャウトしまくるのであるが、それはネットミュージックからの影響も強いこのバンドがライブバンドとしての感情を思いっきり解き放っている存在だといえるし、そんな姿に生きる力をもらっている、世の中が生きづらいと思っている人も間違いなくたくさんいるはずだ。
と思っていたらアウトロではくぅと夕日が向かい合って轟音ギターを鳴らし、くぅが夕日のトレモロアームを操作しまくるという状態に。そんな整理がつかないような、でもロックバンドとしての衝動に満ち溢れたライブを見せてくれたNEEはまさに最強の新世代であることを示しているかのようだった。何かとスケジュールが合わなくて行けていないワンマンに本当に行きたいし、もっといろんな曲をライブでどう鳴らすのかを見てみたい。
1.ボキは最強
2.本日の正体
3.不革命前夜
4.おもちゃ帝国
5.九鬼
6.第一次世界
7.月曜日の歌
11:05〜 DISH// [LAKESIDE STAGE]
いろんなフェスに出演するようになったとはいえ、このフェスにも出演、ましてやいきなりLAKESIDE STAGEでトップバッターというあたりには驚いてしまうDISH//。この日は橘柊生(キーボード・DJ)がクロージングDJも務めるなど、初出演にしてこのフェスでの存在感を強めている。
サポートギターとベースも含めた6人編成でステージに登場すると、北村匠海(ボーカル&ギター)の髪が短くなって可愛さを感じざるを得ないようになっている中で、アニメタイアップとなった「No.1」からスタートし、さらには北村匠海がギターを弾きながら歌うストレートなロックサウンドの「僕たちがやりました」へと続くのであるが、去年の春にJAPAN JAMで見た時以上にバンドとしての強度が上がっているのが一目でわかる。北村匠海は元から優れた歌唱力を持つボーカリストだとわかっていたが、泉大智のドラムが驚くくらいに力強さを増しているというあたりにバンドとしてライブを重ねてきたことによる成果を感じるし、橘の存在が同期を重ねるのではなくてキーボードがいるロックバンドというこのバンドならではの特色を感じさせる確かな要素の一つになっている。
そんなDISH//はたまに富士山の近く(河口湖ステラシアターとかだろうか)でライブをすると毎回雨が降るという雨バンドだというが、この日はこの段階では実に天気が良く、そんな状況の中でライブが出来ていることの喜びを口にしながら、暑いからこそ定期的に北村が水分補給をするように呼びかけると、その北村の歌唱力の高さと感情の表現力を感じさせる、あいみょんが手がけた「猫」をこの広大な情景の中で響かせることによって、その声の魅力を存分に感じさせてくれる。
そんなDISH//は今月にアルバムをリリースしたばかりであり、そのアルバムのタイトル曲にして、提供曲がメインだったのがバンドで作曲、北村が作詞というロックバンドとしての形を獲得した「HAPPY」では矢部昌暉(ギター)が、サポートギターがメインを弾くという有名人アーティストにありがちな形ではなくて、自身がメインのギターを弾きまくる。泉のドラム含めて、メンバーたちがめちゃくちゃ努力してDISH//がカッコいいバンドになろうとしているのがよくわかるし、それが「勝手にMY SOUL」のあまりにも前向きかつストレートな歌詞に実に良く似合っている。北村匠海のいるバンドということでクールなイメージが持たれがちだろうし、なんなら舐められることだってあったかもしれないが、こうして今ライブを見ていて思うのはDISH//が熱いロックバンドだということだ。それは自分が好きなロックバンドの形であり、去年見た時よりも本当に良いライブをする良いバンドだなと思うようになった。
そして「JUMPer」では北村も橘もステージ左右に展開してタオルを回し、それが客席にも広がりながらタイトル通りにジャンプさせまくるのであるが、その光景はこれからもいろんな夏フェスでこのバンドのライブを見ることができるだろうなという未来を予感させると、最後に演奏されたのはマカロニえんぴつのはっとりが手がけた「沈丁花」。はっとりが手がけたというとどこか捻くれた部分も感じるのだけれど、それを北村の歌唱とバンドの演奏が真っ直ぐに伝えている。そこからはメンバーの確かなひたむきさを感じさせてくれる。俳優や芸能としての姿を自分はほとんど見たことがないけれど、それでもステージに立って音を鳴らしているのを見ればそれがわかる。それは彼らが自分たちで音を鳴らして歌うロックバンドだからだ。
元々、DISH//は自分が絶大な信頼を寄せている新井弘毅(THE KEBABS)がコンポーザー、プロデューサーであることから、ロック志向が強かったとは思っているが、初期からのファンからはダンスグループではなくなっていくことの寂しさがあったり、それによって離れていく人もいるということを以前にニュースで見た。
でも今のこの世界的にヒップホップやR&Bが全盛になって久しい世の中で、そうではないロックという音楽、バンドという形態を彼らが選んでくれたのは、そうした音楽を聴いて生きてきた者として本当に嬉しいし、だからこそこうしてライブを見ていて刺さるものがたくさんあった。今まで数え切れないくらいに忘れられないライブを見てきたこのステージでまた忘れられないライブが増えたのは、ロックバンドとしてのDISH//に出会うことができたライブだったからだ。
リハ.愛の導火線
1.No.1
2.僕たちがやりました
3.猫
4.HAPPY
5.勝手にMY SOUL
6.JUMPer
7.沈丁花
11:55〜 UNISON SQUARE GARDEN [Mt.FUJI STAGE]
現在は斎藤宏介(ボーカル&ギター)がレギュラー番組をスペシャで持っており、この日はその番組の出張版とも言えるようなライブも行われるが、これまでにもLAKESIDE STAGEに出演してきたりもしたUNISON SQUARE GARDENが先にこの昼間のMt.FUJI STAGEに登場。まだ天気は良いという野外ライブ日和である。
おなじみの「絵の具」のSEでメンバーが登場すると、最初から鈴木貴雄(ドラム)がヘッドホンを装着してピアノの同期の音が流れて始まったのは「mix juiceのいうとおり」からという実に意外なオープニングであるが、やはりこうして聴くと改めて名曲だなと思うのは、ライブで聴く斎藤宏介の歌唱とバンドの演奏力が抜群の安定感を誇っているからであるが、そのまま鈴木がヘッドホンをつけて華やかなホーンの音を取り入れた「恋する惑星」と続くことによって、ユニゾンの持つキャッチーさを感じさせる前半である。鈴木は早くも立ち上がったままドラムを叩いたりするというド派手なアクションでスーパードラマーっぷりをたくさんの人に見せつける。
「かくしてまたストーリーが始まる」
という歌い出しがまたここからライブが始まるかのようなワクワクした気持ちにさせてくれる「kaleido pround fiesta」はツアーでの素晴らしい演出も忘れられないのであるが、斎藤のギターを弾きながらとは思えないハイトーンなボーカルはやはり素晴らしいし、逆に言うと歌いながらとは思えないくらいのギターを弾きまくっているとも言える。
すると鈴木のロールするドラムの連打に合わせて斎藤のボーカルと田淵智也(ベース)のコーラスがタイトルフレーズのリフレインを繰り返し、斎藤の早口ボーカルなど次々に激しく展開していく「Hatch I need」から、今年リリースの最新アルバム「Ninth Peel」収録の「ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ」というまさに制御不能なハードさを持ったロックナンバーを演奏することによって田淵のアクションも徐々に激しくなっていくのであるが、ユニゾンの名を広く世の中に浸透させた「シュガーソングとビターステップ」ではそのキャッチーさ全開なメロディによって満員の観客を飛び跳ねさせ、踊らせまくってくれるのであるが、鈴木はやはり立ち上がってドラムを連打したりという、なんの演出もMCもないが、曲を演奏することこそが最大のエンターテイメントであるということを感じさせてくれる。
その姿勢が短い持ち時間の中でもギリギリまで曲を演奏するというライブの内容になっているのであるが、鈴木がイントロから立ち上がって「ヒャッホー!」というように叫びながらドラムを連打する「場違いハミングバード」では田淵もベースを抱えたままでステージを駆け回り飛び跳ねまくっている。そのユニゾンスタイルが全く変わらないことをこの曲はいつだって示してくれるからこそ、これからもこうしてフェスで演奏されていて欲しいと思う。
「ラスト!」
というおなじみの斎藤の言葉の後に演奏されたのはステージサイドのLEDには炎が燃え盛るような映像も映し出され、デジタルコーラスも取り入れられた「カオスが極まる」であるのだが、決してユニゾンのメンバーたちは煽ったりすることはしないけれど、そのサビ前のコーラスパートではたくさんの人が手を挙げて歌っている。それがフェスだからこその解放感と相まって、普段のワンマンとはまた違うライブの実感を抱かせてくれる。斎藤と田淵がアウトロで向き合って轟音を鳴らしている姿も含めて、つまりはこの日もユニゾンだからこそというか、ユニゾンでしかできないライブが極まってしまっていたのである。何の特別な演出もないけれど、何回見ても1ミリ足りとも飽きない。なんなら毎週ライブを見たくなるユニゾンはやっぱり凄すぎる。
1.mix juiceのいうとおり
2.恋する惑星
3.kaleido proud fiesta
4.Hatch I need
5.ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ
6.シュガーソングとビターステップ
7.場違いハミングバード
8.カオスが極まる
12:40〜 go!go!vanillas [LAKESIDE STAGE]
去年まではMt.FUJI STAGEへの出演であり、どこかそのステージの番人的な感じもあったgo!go!vanillasであるが、今年はついに初のLAKESIDE STAGE進出。ロッキンも含めてあらゆるフェスでメインステージに立つようなバンドになってきたと言っていいだろう。
おなじみのSEでメンバーが登場すると、牧達弥(ボーカル&ギター)が
「夏始めようぜー!」
と叫んで始まったのは実に久しぶりの「SUMMER BREEZE」であり、牧と柳沢進太郎(ギター&ボーカル)のギターサウンドも、ジェットセイヤ(ドラム)のドラムロールも含めて夏らしさ全開である。ロッキンなどではやってなかったのに、というのもあるけれど、この湖畔のロケーションというのが夏らしさをバンドに呼び起こしたのかもしれない。牧のボーカルはもちろん、柳沢のハイトーンコーラスも実に爽やかである。
すると柳沢が
「ラブシャ!ラブシャ!」
とコール&レスポンスをしてから始まったのは「カウンターアクション」なのであるが、柳沢と長谷川プリティ敬祐(ベース)が位置を入れ替わりながら歌うと、マイクスタンドの高さが全く合っていないのがなんだか微笑ましく見える。最後には牧と柳沢が一つのマイクで歌うというのももはやおなじみである。
さらにはプリティの歌唱を皮切りにメンバー全員のマイクリレーによって、バニラズがメンバー全員が歌えるバンドであることを示しながら、牧も自身が歌わないパートではステージ前まで出てきてギターを弾きまくる「デッドマンズチェイス」から、牧が改めて初めてこのLAKESIDE STAGEに立てることの喜びを口にしてからハンドマイクを持って歌うのもまた、このまだ真っ青な青空とステージの奥に広がる山中湖の情景にピッタリな「青いの。」では牧がステージを飛び降りて、客席の近くの台の上に乗って歌うのであるが、まさか今年最初にこのステージを降りるのが牧になるとは全く思っていなかった。
さらにはプリティが人文字で「E・M・A」の文字を作るのを観客も真似をする「エマ」ではスクリーンにポップな映像が映し出され、その映像内のアニメーションに合わせるようにサビではたくさんの観客がコーラスに合わせて左右の腕を交互に上に挙げるというバニラズのこの曲ならではの光景が広がっていくと、牧は
「俺たちは平成生まれとして平成を愛してきたし、ここにいる人たちは平成を生き抜いてきて今ここにいる!そんな平成を歌った曲!」
と言って最後に「平成ペイン」を演奏するのであるが、そうした牧の言葉にもあったように、この曲は観客がMVの振り付けを踊るのも最後のサビ前の大合唱も含めて、平成を生き抜いてきたからこそ、これから先の時代も生き抜いていこうという力をくれる。そんな平成を経て令和にこうして巨大なバンドになったバニラズは、最後に牧が告知していた通りに幕張メッセで2daysライブを3月に行う。そこに立ったのを見た時にどんなことを思うのだろうか。それを経て来年、さらにこのステージに似合うバンドになっているはず。
リハ.お子さまプレート
リハ.マジック
1.SUMMER BREEZE
2.カウンターアクション
3.デッドマンズチェイス
4.青いの。
5.エマ
6.平成ペイン
13:30〜 須田景凪 [Mt.FUJI STAGE]
今年はあまり夏フェスに出演しているイメージはなかったが、このフェスに初出演というのは今まで出たことがないところに行こうとしているのかもしれないと思う、須田景凪。初出演にしてMt.FUJI STAGEへの出演である。
最新アルバムのリリースも経たからか去年までのバンドメンバーから一新され、ベースが渋谷すばるのバンドなどでもおなじみの安達貴史(翌日にはずっと真夜中でいいのに。にも出演)になり、キーボードも加わった5人編成になった中で、元々はボカロPという顔も持つ須田景凪だからこそのサウンドの「パメラ」からスタートし、その艶やかな歌唱が曲の表情をさらに色っぽく、かつ切なくしている「veil」と続く。ツアーでは歌唱が心配された時もあったというが、須田景凪の歌唱も野外だからこそというような解放感を感じさせてくれるものになっている。
この会場に来ることができたことの喜びを絶景のロケーションであることとともに語ってからの最新アルバム「雲を恋う」は須田景凪はバラードと紹介したが、バンドサウンドの分厚さがあることによっていわゆる歌が立ったJ-POP的なバラードという形ではないのは須田景凪ならではの音楽であるし、タイトルに合わせてスクリーンには上空にかかる白い雲が映し出されるというあたりがスペシャからの須田景凪への愛の深さを感じさせると、同じく最新作収録の「メロウ」は一転して煌めくような夏の曲であり、そのサウンドと歌詞から感じられる青春感がまるでこうした夏の野外フェスで演奏されるために作られたかのようで、この瞬間は空に雲がかかっていたのであるが、それが晴れてくれて太陽が出てきた中で聞きたかったとも思った。
「みんなが知ってると思う曲を」
と言って演奏されたのは、もちろんボカロPバルーンとして世に放った大ヒット曲の本人歌唱バージョンである「シャルル」であり、歌い出しから空気がガラッと変わり、それまでは客席の後ろの方で座って聴いていた人たちも立ち上がって体を揺らしている。ある意味ではこうしたフェスの中で最も知られている曲とも言えるかもしれないが、この曲を作ったのをこの人だとは思ってなかった人もいるんじゃないだろうか。そんな曲がキーボードも加わったバンドサウンドでさらに分厚い演奏になっている。
「本当に個人的な話なんですけど、僕は埼玉出身なんですけど、大学生の時にあまりに暇すぎてこの辺まで車でドライブしてきてこの辺りの駐車場で寝てたんで、こうしてここでライブをすることができて本当に嬉しいです」
という意外なこの場所との関わりを口にすると、ボカロ由来の高速BPMのロックサウンドをリアルなバンドで演奏する「パレイドリア」から、最後に演奏されたのはこちらも最新アルバムの収録曲にして、THE FIRST TAKEでも歌唱された「ダーリン」で、その曲に宿る切なさが須田景凪独特の歌声によってさらに倍増されている。そんな感覚に浸っていると、須田景凪は
「ありがとうございました。また必ずここに帰ってきます!」
と力強く宣言した。それくらいにやはり初出演であっても彼の人生の中でこの場所は大切な記憶がある場所であり、須田景凪がネットの中のクリエイターではなくてリアルなライブの世界で生きているミュージシャンであるということを実感させてくれたのだった。
リハ.メーベル
1.パメラ
2.veil
3.雲を恋う
4.メロウ
5.シャルル
6.パレイドリア
7.ダーリン
14:15〜 Creepy Nuts [LAKESIDE STAGE]
ロッキンではR-指定(MC)の体調不良によって当日になってからキャンセルになってしまったCreepy Nuts。心配なところもあったが、このフェスでは無事に出演である。
おなじみの扉が開くような音からR-指定とDJ松永がステージに登場すると、いきなりの「2way nice guy」から観客がサビで腕を左右に振るのであるが、その人数の凄まじさたるや。松永もスマホで客席を撮影していたが、その松永の背面から客席を映し出す映像がスクリーンに映し出されると、こんなにたくさんの人が腕を振っているという事実に驚いてしまう。
「堕天」というライブではおなじみの曲が続くと、まだ完璧な本調子ではないのか、ラップのキレ自体は変わることはないが、Rは歌うことができないような箇所もちょくちょくあるのが少し気になってしまうところではある。
「かつて天才だった俺たちへ」でも松永が
「今も天才でした!」
と言わしめるほどのターンテーブルさばきを見せてくれるのであるが、Rの方は少し心配にもなってしまうのは、曲間のMCでは松永が3日前に誕生日を迎えたことによって観客から「おめでとうー!」という声が飛ぶのであるが、Rがいつものようなキレを感じさせるMCを感じさせなかったところもあったからだ。
それでも自分たちのスタンスを日本の怪談に重ねた「耳なし芳一style」では観客とタイトル部分をコール&レスポンスのようにしながら、そのラップのテクニックを存分に見せつけてくれるのであるが、さらには「ビリケン」「ジミヘン」などの韻を踏む単語が怒涛のように押し寄せていく新曲が本調子ではなかったとしてもRのラッパーとしての凄まじさを感じさせてくれるのである。
松永「山中湖にはお盆に間に合わなかった亡霊がたくさんいる…」
R「俺なんか死んで亡霊になったら絶対お盆に遅刻するもんな(笑)」
なんていう話をしていたら割と近くの空で落雷の音が鳴って観客もビックリしていると、
松永「お盆に間に合わなかった亡霊が聞いた記憶の中の爆撃の音が聞こえてきた(笑)」
と、パニックになってもおかしくないような事態を笑いによって収めてくれるというあたりはさすがである。
そんなMCから、
R「今年は声を出すのも全て合法でございます!」
と言って去年の飛び跳ねるだけではなくて、観客が一緒に歌うことによって曲の真価を最大限に発揮する「合法的トビ方ノススメ」から、何度もこのフェスに出演している2人だからこそこのフェスのこれからと未来に今まで以上の希望を感じさせるように「のびしろ」を演奏するのであるが、そのサビでの手拍子の凄まじさもやはりこのグループがもはやヒップホップシーンだけには止まらないような位置まで来ているということを感じさせた。なかなか遅刻だったりキャンセルだったりが多くなってしまっているのは、このグループを見るためにフェスのチケットを取ったりしている人からしたら大変かもしれないけれど。
1.2way nice guy
2.堕天
3.かつて天才だった俺たちへ
4.耳なし芳一Style
5.新曲
6.合法的トビ方ノススメ
7.のびしろ
15:20〜 斎遊記 -富士山編- [GOOD VIBES]
このライブの直前にいきなり豪雨となり、さらには雷までもが鳴ってしまったことによって、一時避難して待ってからのライブ再開。なので予定時間よりはかなり遅れてしまったけれど、それでもこのライブを見れるのが嬉しいのは、ユニゾンの項でも触れたとおりに、このライブがスペシャの番組の出張版的なライブだからである。
そうした中断があってもたくさんの人が待っていたこのステージではまずは番組の概要を説明するアナウンスが流れ、この番組Tシャツを着た斎藤宏介もステージに登場すると、改めてこのライブが普段はゲストを招いて白バック一色のスタジオで収録しているものの出張版ライブであることを告げると、最初に招かれたゲストはバンドとしてのライブは前日だったandropの内澤崇仁で、最初は普段通りの白シャツ姿なのだが、
「ウォーミングアップしてきたら暑いからシャツ脱いでいい?」
と言って白シャツを脱ぐと、斎藤とお揃いの番組Tシャツを着ている。ちなみにandropはデビューして14年経つが、内澤がTシャツでライブをやるのは初というくらいのレアな場面になる。
そんな2人で、斎藤がギターを弾きながら歌い、内澤もボーカルを分け合うようにして歌うのはandropの「SuperCar」で、斎藤がアコギを弾きながらもジャンプして前に出てきてコーラスパートで観客の歌声を煽るようにするというユニゾンのライブではまず見れないことをすると、負けじと内澤も前に出てきて観客にマイクを向けたり、斎藤にマイクを向けたりするのであるが、斎藤がジャンプしたのにかなり驚いていた。
そうしてアコギだけでのアレンジでカバー曲なりを歌うというコンセプトなのであるが、内澤は斎藤のやっているユニット、XIIXの最新アルバム収録曲で歌詞を共作しており、その曲「魔法の鏡」を2人で歌うのであるが、斎藤が内澤に依頼の電話をした際にはベロベロに酔っ払った状態で内澤が電話に出て食い気味にOKしてくれただけに、翌日になったら覚えてないんじゃないかと思っていたという。
その曲も含めてこの2曲はともひR&Bやヒップホップの要素をも感じさせるのであるが、そんな曲たちをもアコギ一本でアレンジしてさらに歌う斎藤の手腕はやはり凄まじいものがあるし、ある意味ではそれを見せるための番組であるとも言える。あまりにも内澤が喋りまくるという意外な一面を見せたことによって、時間があまりない中で押したりしなかったかが心配になったけれど。
そんな内澤と入れ替わりで現れたのはライブを終えたばかりのgo!go!vanillasの牧達弥で、牧もやはり番組Tシャツを着る中、斎藤がずっと好きだと言っていたバニラズの曲だという「倫敦」を弾き語りかつ2人の歌唱で歌うのであるが、やはりこの曲も斎藤のアコギだけでのアレンジによって原曲とは全く違う清冽さを感じさせる。斎藤いわく
「良い曲っていうのはどんなアレンジで歌っても良い曲」
とのことだが、斎藤がそう言ってくれたというのは牧にとってはたまらなく嬉しかったんじゃないかと思う。
その牧が歌唱だけではなくて高音コーラスでもボーカリストとしての資質、歌唱力の高さを感じさせてくれるのはサザンオールスターズの「真夏の果実」であり、そのコーラスと斎藤の歌唱は桑田佳祐歌唱の原曲にある粘り的な要素を全て爽やかさに還元していくかのようですらあった。客席にはバニラズメンバー3人の姿もあったが、果たして3人はこの牧の歌唱をどう見ていたのだろうか。やっぱりうちのボーカルはすげえなって思えたりしたのだろうか。
そして再び内澤も招き入れると、牧はこの特別なライブに参加できたことによって斎藤に
「もう来年もこの3人でやりましょう!他の人にこのTシャツを絶対に渡さないでください!(笑)」
という独占欲の強さを見せるのであるが、最後に3人で歌ったのは、曲を作った男がこの会場のすぐ近くの富士吉田で育ち、その街のチャイムにこの曲のメロディが使われているという斎藤の解説だけでもう涙が出てきそうになってしまう、フジファブリック「若者のすべて」のカバーであり、やはり3人でボーカルを分け合いながらも牧が高音コーラスを重ねるという、歌えるメンバーが他にもいるバンドのボーカリストとしての力を発揮するのであるが、この3人はこの曲をここで歌うということの特別さをよくわかっている。そうしてここでこの曲を歌い継いでいくことによって、志村正彦の魂は生き続けているということも。志村がこの3人での歌唱を見たらどう思うだろうか。あるいは先輩としてこの3人と関わっていたらどんな話をしていたのだろうか。そんな思いが去来したことも含めて、このライブはやっぱり何年経っても思い出してしまうものになった。
だからこそまた来年もこのフェスで出張版をやって欲しいし、なんなら1時間くらいの持ち時間でやって欲しいくらいだ。斎藤は
「普段の収録もリハとか一切ない、ぶっつけ一発。リアルTHE FIRST TAKE(笑)」
とこの番組の大変さを口にしていたが、だからこそ改めて斎藤宏介というボーカリストがどれだけとんでもない存在かということがわかる企画、番組なのである。
1.SuperCar (androp) w/ 内澤崇仁
2.魔法の鏡 (XIIX) w/ 内澤
3.倫敦 w/ 牧達弥 (go!go!vanillas)
4.真夏の果実 (サザンオールスターズ) w/ 牧
5.若者のすべて (フジファブリック) w/ 牧,内澤
16:50〜 ポルノグラフィティ [LAKESIDE STAGE]
雨と雷による中断を挟んだ際に真っ先に雨バンドとして名前が上がったこのポルノグラフィティ。それくらいに野外ワンマンは毎回のように雨に見舞われているらしいが、そうして野外規模でワンマンができる存在であるにも関わらず、こうしてこのフェスに何度も出演しているという最前線を走っている姿は本当に頼もしさを感じる。
大所帯のバンドメンバーとともに新藤晴一がギターをカッティングするというファンキーなセッション的な演奏によってライブがスタートするというのは実に意外な幕開けだったが、そのまま岡野昭仁(ボーカル)が登場して、
「いきなり変な踊りを踊りましょう!」
と言って、岡野自身が踊る、まさに曲の内容と全く合っていないようなダンスが客席にも広がっていく「ミュージック・アワー」は今でも変わることない、誰もが知る夏の名曲であることを示してくれるのであるが、オープニングのセッション的な演奏のまま始まっただけに原曲にはないファンキーさを感じさせるものになっているというアレンジもベテランになってもライブをやり続ける中で会得してきたものであるだろう。
前にこのフェスでチラッと見た時は「音源に忠実なライブをやる人たち」というイメージだったので、こうしたファンキーなアレンジに驚いてしまったのだが、岡野の歌い出しだけで大歓声が上がった「メリッサ」も含めて、大胆にアレンジするというわけではなくてライブの味付けという形でファンキーな要素を足しているという感じなので、原曲のイメージを壊すことなく大ヒット曲を連発するというあたりもさすがである。
自ら雨バンドであることに触れて、中断する事態にまでなってしまったことを岡野が謝るという自虐的な一面も見せながら、
「ワシらが野外ライブをやると毎回何かある。そこに関してはゴメン(笑)
でもワシらはこの過酷な状況の対処法も知っとる。声を出せ!暴れろ!盛り上がって一つになれ!そして今日を伝説にするんや!」
と我々を勇気付けてくれるあたりもさすがであるし、
「徐々に盛り上げていこうと思ってます」
と言ったのでバラード曲をやるのかと思ったらなんと次に演奏されたのは大ヒット曲「サウダージ」であり、そうした誰もが知る曲によって言葉を実践してくれている。そんな「サウダージ」は新藤のアコギなどによって、ラテンミュージックの要素を強く持った曲であるということが、今になるとリリース当時の幼少期の頃よりもよくわかる。
そんな岡野の雨の対処法を最も実践していたのは、人気アニメのタイアップ曲としてまさに人々を勇気づけるようなロックナンバーである「THE DAY」だろう。決して最新と言えるくらいに新しい曲というわけではないが、それでも他の大ヒット曲に比べると、ポルノグラフィティが2000年代だけではなくて、2010年代以降から今に至るまでもヒット曲を生み出していることがよくわかるし、そのロックサウンドの鋭さには驚かされる。岡野の出で立ちやMCからは年齢を重ねてベテランになったことをも感じさせるけど。
しかしながらまたしても岡野が歌い始めただけで大歓声が湧き上がった「アゲハ蝶」の、特に曲後半のサビのキーが上がる、カラオケでの鬼門というべきフレーズを今でも原曲キーのまま、しかもライブだからこそより声を張って歌う姿は歌唱には全く年齢やベテラン感を感じさせないし、それはあまりにもあっという間のラストとなった「ハネウマライダー」でのタオル回しが客席で起こる中での声と爽やかさを感じさせてくれるあたりもそうだ。結果的には全曲誰もが知る名曲たちで我々のことを過酷な状態から最高に楽しい状態へと引き上げてくれる。ポルノグラフィティの強さを実感せずにはいられなかった。
持ち時間がもう少し長かったらもしかしたら今の自分たちが作り出した曲なんかも演奏されたのかもしれないが、岡野は様々な世代やジャンルの人が作ってくれた曲を歌うというソロアルバム(スペシャでも特集されている)を、新藤は何と演劇の脚本を、というように近年は個々それぞれが人生においてやりたかったであろう活動も活発になってきている。
そんな中でのポルノグラフィティのヒット曲連発のフェスでのライブは、2人にとってポルノグラフィティがどういう存在であるか、フェスに来る人たちにとってどういう存在であるかを改めて示すようなものだった。聴いているとどうしてもリリース当時のことを思い出すというのは大ヒット曲を持つバンドだからできることだ。
1.ミュージック・アワー
2.メリッサ
3.サウダージ
4.THE DAY
5.アゲハ蝶
6.ハネウマライダー
17:40〜 OAU [FOREST STAGE]
メンバーはBRAHMANとしてはこのフェスに出演したこともあるが、OAUとしては初出演。一時中断でだいぶ時間は押してしまったが、雨も止んだ中での出演である。
メンバーがステージに登場すると、椅子に座ったKOHKI(ギター)がアコギをスライドさせる音が実に美しい、MARTIN(ボーカル&ヴァイオリン)の英語歌唱にTOSHI-LOW(ボーカル&ギター)のコーラスが乗り、メガネをかけた中分けの長髪が又吉直樹みたいにも見えるMAKOTO(ベース)も、手拍子をしながらのKAKUEI(パーカッション)も飛び跳ねまくる「Thank You」で実にOAUらしい温かい気持ちにさせてくれると、TOSHI-LOWの紡ぐ日本語歌詞によって、実はTOSHI-LOWは、なんならBRAHMANもこのバンドも美しいメロディを持っているバンドであることを示してくれる「夢の続きを」と続くのであるが、後に本人も言っていたが、こんな天気になるとは思ってなかったというだけにTOSHI-LOWは半袖シャツに短パンという、天気が良い日に山中湖観光をしにきたおじさん的な出で立ちになっているのが雨具を着た観客とは全く対照的で笑ってしまう。
そんなOAUはなんならBRAHMAN以上のペースで積極的にリリースをしており、「夢の続きを」もそうであるが、今年の4月に最新アルバム「Tradition」をリリースしており、MARTINのヴァイオリンの音もこの森の中だからこそより神秘的に聴こえる「Homeward Bounce」という収録曲も演奏し、曲の完成度やバンドとしての方向がリリースを重ねるたびにさらに強靭なものになっているという感じがする。
さらには近年はまさかのソロ活動も活発なRONZI(ドラム)のこのバンドのトラッド的な音楽性ならではのリズムに合わせてKAKUEIの煽りやメンバーの演奏も激しさを増していき、もちろん観客もより激しく踊る「Making Time」と、ただアコースティックに聞き惚れるだけではない、パンクが強くルーツにあるバンドとしてのアコースティックサウンドを響かせると、MARTINが
「30分は短い!(笑)」
と言いながらTOSHI-LOWのMCへ。
「先週ギックリ腰やって、今週家族旅行で河口湖行って樹海散歩してきた(笑)だから河口湖から東京に戻ってすぐにまた山中湖に来てるっていう(笑)
でもその樹海散歩の時に、腰が痛くて早く歩けないからガイドさんの話を聞いてゆっくり歩いたら、今までは自殺の名所としか思ってなかった気持ち悪い森が、富士山が噴火した灰が積もった上に根を生やしたりしていて、長い時間をかけて生命を繋いできた森なんだって思った。それは腰をやらなきゃ話なんか聞かないで早歩きしてただろうからわからなかった。だから雨も今この瞬間で良い悪いはわからねぇ。もしかしたら、農家の人にとっては恵みの雨かもしれない」
という話はこうした一時中断という状況すらも実にポジティブなものに転換してくれるというのはさすがTOSHI-LOWであるし、それをこの会場から近い場所の話を絡めることによって、さらにこの周辺の場所に行ってみたいと思える。それはこの場所が好きな人であればあるほど。
そんなMCの後に最後に演奏された「帰り道」はTOSHI-LOWの歌声と歌詞が本当に沁みる。そのメンバーたちの穏やかな表情も含めて、こんなにこの会場、このステージに合うんだから、これからも毎年このバンドでこのフェスに来て欲しいと思うとともに、毎年お世話になっている旅館の方々の顔なんかが浮かんできた。このバンドにはBRAHMANとはまた違う、そうした人間の感情に寄り添ってくれる力が確かにある。
1.Thank You
2.夢の続きを
3.Homeward Bounce
4.Making Time
5.帰り道
18:50〜 ASIAN KUNG-FU GENERATION [LAKESIDE STAGE]
実は山中湖初開催の2007年にメインステージのトップバッターとしてフェスの始まりを告げたのはこのアジカンである。(その年はまだ2日間開催で、Mt.FUJI STAGEがメインステージだった)
それ以降も大トリを務めたりするなどしてきたバンドが今年は2日目のトリ前というスロットでの登場である。
しかしながら開演前にまた雨が強く降ってくるという悪天候の中で、もはやおなじみのGeorge(キーボード)とアチコ(コーラスなど)も含めた6人編成でステージに登場すると、今年はフェスでおなじみの飲食店のKIYOSHI'S KITCHENだけではなくて、スペシャキッチンでコラボメニューの焼きそばまでも売っているというフェス飯でも多大な貢献を果たしている伊地知潔(ドラム)がスティックを振り上げるようにしてリズムを刻み始め、そこにゴッチ(ボーカル&ギター)と喜多建介(ギター)のギターが交互に重なっていく…フェスで聴くのは実に久しぶりな感じがする「ブルートレイン」からのスタートという事実に驚いてしまい、強い雨の中でもテンションが上がらざるを得ないのであるが、さらにイントロが流れるだけで再びファンから大歓声が上がるのはメインコーラスのアチコや山田貴洋(ベース)ではなくて、喜多がカップリングバージョンのコーラスを入れるという、いわゆる表裏両面ミックスでの「サイレン」。正直言ってロッキンの時と変わらない感じの近年のフェスセトリ的なものになるだろうと思っていただけに、歓喜しながらもバンドに「申し訳ありませんでした」と謝罪したくなる感じすらあった。それは伊地知と山田のリズム隊がサビでさらに力強さを増しているからこそよりそう思うところもある。
するとゴッチは降り続く雨に
「昔、フジロックに出た時も俺たちの時だけ豪雨っていう年があって。増水して奥の方のステージに行く道が封鎖されるくらいになったりしたんだけど、そんな雨の諸々を吹き飛ばすような演奏をしますので」
と口にしてくれるのが、選曲とともに雨の中でもさらに我々のテンションを上げてくれるのであるが、
「晴れた夕方に演奏するつもりでいたから、合わないのはわかってる(笑)」
と言って演奏されたのは、絶賛リリースされたばかりの完全版でも名曲っぷりが際立っている「サーフ ブンガク カマクラ」収録の「江ノ島エスカー」であり、フェスでは追加されてシングルにもなった「出町柳パラレルユニバース」を演奏されることが多かっただけに、これまた実に意外な選曲に嬉しくなる。雨が降る夜という情景はマジでビックリするくらいに歌詞にもサウンドにも似合ってなかったけれど。
さらには伊地知が四つ打ちのビートを刻む中で喜多も腕を振り上げるようにしてこの曲を演奏するのを楽しんでいることがわかる「君という花」では足場が悪くなり、雨具を装備している人が多い中でも体を揺らしたり踊っている人もたくさんいることがよくわかるのはやはりこの名曲の持つ力であろうし、ゴッチが近年この曲を演奏する時にはおなじみの、アウトロで「大洋航路」のフレーズを歌うのもまた、雨に負けずに進んでいく、楽しむための力をくれる。それはアジカンファンがそうして曲やライブで力を貰うようにして生きてきたからこそ。
その「君という花」でもやはり
「らっせーらっせー」
のコーラスを観客は大合唱していたが、ゴッチのギターが激しく唸る「リライト」でも雨をものともせずに観客から大合唱が起こり、むしろこの辺りではもはやこれは雨の中だからこその伝説のライブになりつつあるのでは?という感覚にすらなっていく。
それはイントロが鳴らされただけで歓声が上がり、喜多もそのリアクションにガッツポーズするようにして鳴らされた「ソラニン」もそうであるが、サビ前のGeorgeの流麗な鍵盤さばきがよりこの曲の持つ切なさを際立たせる中、ゴッチはこの後も自分自身を大切にしながら楽しむように口にすると、最後に少しずつ音を鳴らし、重ねながらイントロに繋がっていったのはメンバーの名前をモチーフにしたキャラクターたちのバンドアニメ「ぼっち・ざ・ろっく」で主人公歌唱バージョンが最終回に流れた「転がる岩、君に朝が降る」なのであるが、きっと昔だったらそうして光が当たっている状況だったら敢えてその曲をやらないという天邪鬼さを発揮していただろうけれど(主にゴッチが)、今はそうした期待にアジカンはしっかり応えてくれる。それはやっぱり今もアジカンが日本のロックバンドシーンを誰よりも背負った上でこうしてフェスのステージに立ち続けているからだ。そんな思いが伝わってくるからこそ、冷たい雨もどこかシャワーのように体に降り注いでくれている気分になった。それはこの状況でもこれだけたくさんの人がアジカンのライブを見ていることで、それぞれの孤独を洗い流してくれているかのようだった。
いよいよ来月からは完全版「サーフ〜」のツアーも始まる。出会ってからもう20年以上経っているけれど、今もアジカンの音楽に、ライブに、活動にワクワクしているし、それはどんなに雨が強かろうと折れることはない。
1.ブルートレイン
2.サイレン
3.江ノ島エスカー
4.君という花 〜 大洋航路
5.リライト
6.ソラニン
7.転がる岩、君に朝が降る
19:45〜 04 Limited Sazabys [Mt.FUJI STAGE]
何度もLAKESIDE STAGEにも出演しているフォーリミがこのMt.FUJI STAGEのトリであるのは、LAKESIDE STAGEのトリ以外の時間帯よりもこのステージのトリの方が持ち時間が長いこと、この夜の時間にフォーリミにライブをやってもらいたいというフェス側の愛情によるものだろう。GEN(ボーカル&ベース)がスペシャで長くVJを務め、この山中湖でレコーディングなどの合宿をしてきたバンドであるだけに。
しかしながら始まる前に再び降り始めた雨はメンバーがおなじみのSEで登場し、GENが
「ラブシャ、雨の中だけど楽しめる!?」
と問いかけて始まった「swim」の曲中からさらに強さを増していくことによって、GENも最後のサビ前には
「伝説の予感がしてます!」
というくらいの状況になっている。それは目の前にはそんな状況であってもダイブ、サークルなど普段のライブと変わらない、いや、普段以上に楽しんでいる、このライブが特別なものになるということをわかっている人たちがいるからこそ出てきた言葉だろう。
そのまますぐに突入していく「Keep going」でもGEN特有のハイトーンボイスはいつも以上に伸びやかであるし、KOUHEI(ドラム)のメロコア全開のビートも実に力強く、RYU-TA(ギター)がイントロから「オイ!オイ!」と叫びまくる「Kitchen」ではリズムと歌詞に合わせて完璧な手拍子が起こるのもいつもと全く変わらないのだけれど、むしろ曲が演奏されるたびに客席のサークルが巨大化し、そこに飛び込んでいく人が増えていくような感覚すらあるのは、こんな状況でのライブを楽しみ尽くそうとしている人が本当に多いからだろう。
バンドもそれをわかっているようで、当然ながら星なんか全く見えないくらいの雨の中で演奏された「midnight cruising」ではRYU-TAが
「こんな雨の中で残ってくれて本当にありがとう!」
と叫び、サークルを組んでいる人たちが直後の間奏部分で思いっきりヘドバンすることによってバンドの想いに応えるようにさらに楽しもうとしている。夜の空の下でこの曲を聴くのはやはり格別であるが、ましてや流星群の代わりに雨が降る中でのこの曲なんて状況はそうそうないというのも観客のテンションを上げる要素になっているだろうと思う。
前述の通りにスペシャでは長くVJを務めてきただけあり、GENもMCでは
「スペシャのフェスはもう出演者っていうより内部の人っていう感じすらしてるから、みんなを迎え入れてる感じがする」
と、もはや主催者的な心境であることを口にすると、HIROKAZ(ギター)も含めたメンバーたちによる「ZIG ZAG」というコーラスがリズミカルで癖になるような「Jumper」がこんな状況の中でもさらに我々の体を高く飛翔させてくれるような感覚にさせると、KOUHEIが立ち上がり、HIROKAZも「オイ!オイ!」と声を上げて観客を煽る「fiction」から「Finder」という、フォーリミの音の強さ、ハードさを感じさせるような流れではステージからスモークが噴き出していくという演出も。雨が強くなるばかりで視認性は最悪と言っていい状態だけれど、それでもこのステージのトリを務めるバンドとして、パンクとしてアリーナクラスでワンマンをしてきたバンドとしての演出である。
そんな状況であるだけにきっとGENは予定されていたMCをかなり削っていた感じも自身の言葉から感じられたのであるが、
「こんな雨の中で一緒に遊んでくれるバカが大好き!」
というのは実際に目の前でダイブやサークルを笑顔で楽しんでいる人たちがいるからこそ出てきた言葉だろうし、そのGENやメンバーの顔は本当に楽しそうだった。そしてまさにこの状況のように雨を歌った曲である「Squall」ではKOUHEIのイントロのリズムもそうであるが、何よりもGENの歌唱にこの上ないくらいに今この瞬間の感情が乗っていた。それは普段が100だとしたら、150くらいになっていたと言っていいくらいであるし、そうしようとしたのではなくてこの状況が自然とそうさせたのだ。その歌唱と演奏を聴いていて体が震えたのは雨で濡れて寒かったからじゃなくて、そのバンドの姿や音の凄まじさによって震えていたのだ。
それはこの日のフォーリミのライブがやはり伝説と呼べるものになったということを、ここにいた人はみんなわかるものになっていたけれど、さらにGENが思いっきり腕を振り下ろすようにして渾身の「monolith」が鳴らされ、さらに強くなる一方の雨の中でもこの日最大級のサークルとダイバーの嵐を巻き起こした。それは伝説を作るのはバンドだけじゃなくて、観客も一緒になって作るものであるということを教えてくれるかのような。それは誰にでもできることじゃなくて、やっぱりフォーリミがこのステージのトリだったからこそできることだったのだ。
その巨大なサークルが自分のいたエリアで巻き起こっていた。普段自分はステージをしっかり見たいというタイプなので、盛り上がることはすれど、あまりそうしたところに自分から参加しにいくことはない。
でもこの日はその真っ只中にいた。それはそんな自分に対してもキラッキラの笑顔で肩を組んでくれる人たちがたくさんいたからであり、この状況をそうして楽しみ尽くそうとしている人たちが肩を組んでくれたら、そこに参加するしかないなと思った。そうした人たちの存在がこのあまりに激しい雨すらもライブを楽しむ装置にしてくれたのだ。いなかった人からしたら雨のライブなんて行きたくないと思うかもしれないけれど、いた側だからわかる。やっぱりこの日のフォーリミのライブは紛れもなく伝説だったと。全ての出演を見てきたこのフェスでのフォーリミのライブで、ダントツで1番楽しかった。伝説の瞬間に居合わせることができて本当に幸せだった。
リハ.Chicken race
リハ.Galapagos II
1.swim
2.Keep going
3.Kitchen
4.midnight cruising
5.Jumper
6.fiction
7.Finder
8.Squall
9.monolith
フォーリミのライブ後により一層激しさを増す雨。目も開けてるのがキツいくらいであるし、スマホを出したらすぐに水没しそう、なんなら地面も完遂してきてるレベルですらあるが、それでもこのフォーリミからの流れなら行くしかないとばかりにLAKESIDE STAGEのトリであるSEKAI NO OWARIを観に行ったら、再びの雷の接近によって、残りのアクトの中止が発表された。
状況的には確かにこの雨の強さ(会場の外の道も完全に冠水していた)では仕方ないとも思うけれど、この日1番グッズを身につけている人が多かったのはセカオワだったし、物販も昼過ぎには全て売り切れていた。セカオワは誰よりも人間以外の自然や生物の存在と強さ、それと共存していくことを時には楽曲で、時にはライブのコンセプトで示してきたバンドであるけれど、セカオワが見たくてここまで来た人たちの気持ちを考えたらやり切れなくなってしまった。Fukaseも「誰も悪くない」と言っていたけれど、個人的にも前回このフェスに出演した時以来に見るライブを本当に楽しみにしていたし、そうした人たちのためにまた来年にでもリベンジしに来て欲しい。
それはセカオワだけじゃなくて、他のステージに出演するはずだったのが叶わなくなってしまった佐藤千亜紀も、DISH//の橘柊生のDJも。去年キャンセルになったアーティストも、代打で出演したアーティストもスペシャは今年全員呼んでくれている。そんな義理堅いフェスだからこそ、来年必ず彼らがここでライブをする姿が見れると信じている。
9:25〜 森大翔 [WATERFRONT STAGE] [MORNING ACOUSTIC]
時間的に入場時間待ちをしている人くらいじゃないと見れないような、山中湖畔の湖の真上に作られたWATERFRONT STAGEでのMORNING ACOUSTIC。この日はフジロックなどにも出演した新星、森大翔が弾き語りで登場。
去年はこのステージ自体が稼働していなかったため、2019年以来となるこのステージはかつては斜面に直で座って見るという形だったのが椅子が設置されていてそこに座って見ることができるようになって快適感が増している中で、森大翔が登場すると、アコギを手にしてその超絶テクニックを存分に見せつけるような「台風の目」からスタートするのであるが、朝イチの弾き語りというのはとかく眠くなりがちなものなのだが、森大翔の弾き語りはそうした感覚とは全く無縁なのはそのアコギの凄まじい技術による清冽なサウンドあってこそである。
それは観客も手拍子をしながら、歌唱にはヒップホップ的な影響を感じられる部分もあり、その歌詞には世の中への揶揄的なメッセージも含まれている「オテテツナイデ」もそうなのであるが、その森大翔の姿の背後には山中湖が広がっているという情景がこの弾き語りのサウンドに実によく似合っている。
そんな山中湖を眺めながら、カヌーに乗っている人たちに触れるあたりの素朴さが実に森大翔らしいのであるが、北海道育ちであるだけに都心の夏の暑さが苦手だという森大翔もこの会場の涼しさや景観は気に入ってくれていたんじゃないだろうかと思う。
するとルーパーも駆使してアコギの音を重ねながら「オテテツナイデ」を歌うのであるが、その弾き語りという枠すらも飛び越えるようなパフォーマンスを朝から見せられると脳や神経が覚醒していくような感じすらあるし、最後の「剣とパレット」はそんな森大翔のロックさを最大限に感じさせてくれるものであるし、そのロックさをたった1人で、しかもアコギと歌だけで感じさせてくれる。もちろんそこにはハードロックやヒップホップなどの様々な要素を吸収しているということもあるのだが、軸にあるのはギターと声。歌唱も見るたびに感情がこもるようになっているだけに、そのギターと歌だけでどこまでも行ける気がしている。
わずか20分という短い時間だったけれど、初めてライブを見たという人たちもそのあまりの凄まじさに衝撃を受けていた。自身のライブが終わってもいろんな出演者のライブを見ていたようであるし、いろんなアーティストの音楽を吸収することによってその衝撃はこれから間違いなくさらに強くなる。来年は他のステージで見ることができると思うから、森大翔が夏を少しでも好きになってくれたらいいなと思う。
1.台風の目
2.たいしたもんだよ
3.オテテツナイデ
4.剣とパレット
9:55〜 プッシュプルポット [FOREST STAGE] [OPENING ACT]
2日目のオープニングアクトは石川県金沢市のプッシュプルポット。スペシャ列伝を経てのこのフェスのオープニングアクトへと抜擢である。
メンバー4人がステージに登場すると、山口大貴(ボーカル&ギター)が
「石川県金沢市の小さなライブハウスから来ました、プッシュプルポットです!」
と挨拶して、「こんな日々を終わらせて」からスタートするのであるが、自分は何度かこのバンドのライブをすでに見ているのだが、そのスタイルは変わることはない。桑原拓也(ギター)、堀内一憲(ベース)、明神竜太郎(ドラム)の全員で思いっきり歌い、思いっきり演奏するというものである。音楽的にも決して新しいことをやっているわけではない。
でもそこにありったけの嘘偽りない感情を乗っけることによって、それが特別なものになるということをこのバンドとファンたちは知っている。だからこそ拳を振り上げるようにして一緒に歌い、「ダイナマイトラブソング」以降からはダイバーも続出しまくるのであるが、ただ音や演奏が激しいからダイブしているというよりも、何というかこのバンドの音楽の優しさを確かめるためにダイブしているというような。実際に誰もが笑顔で、ダイブしていた人たち同士がハイタッチしたりしながらまた客席の方へ戻っていく姿を見てそんなことを感じたりしていた。それはまだあそこまでいろんなことがあった人生の深みが滲んでいるわけではないが、どこかSUPER BEAVERにも通じるところもあると思う。
だからこそ「笑って」では大合唱が起こる中で、タイトル通りに笑おうとしても感情が溢れ出してきて泣きそうになってしまう。それはメンバーの鳴らす音に宿っているものが確かにあるからであるが、地元のライブハウスへの愛をこの場所まで持ってきた上で、
「俺たちもオープニングアクトから本編を狙っている」
と言うのであるが、こうしたバンドがこのフェスの大きなステージに立ったら変わるものが間違いなくあるはず。オシャレさとか流行りとかじゃなくて、ただ自分たちの内側にある感情を真っ直ぐに音と曲にするという音楽の根源的なものがシーンのど真ん中に戻ってくるかのような。
最後の「最終列車」の爆音パンクサウンドの中に潜む切なさが、確かにそんなことを感じさせてくれたからこそ、また前に見た時のようにこのフェスが終わったらライブハウスでもこのバンドのライブが見たいと思った。
1.こんな日々を終わらせて
2.Unity
3.Fine!!
4.ダイナマイトラブソング
5.笑って
6.ともに
7.最終列車
10:20〜 NEE [Mt.FUJI STAGE]
前日のPEOPLE1と同様に去年のオープニングアクトからMt.FUJI STAGEのトップバッターという位置までジャンプアップしてきた、NEE。このフェスに至るまでにも様々なフェスやイベントに出演しまくり、アリーナのステージなんかにも立ってきた上でのこのフェスへの帰還である。
プッシュプルポットが終わってから急いでMt.FUJI STAGEへ向かうとすでに「ボキは最強」の演奏が始まっており、そのまま「本日の正体」へと突入していき、朝イチからたくさんの人で埋まった客席はこのバンドが今やこの規模にふさわしいバンドになったことを示すとともに、この開放的なシチュエーションだからこそメンバーの表情も実に明るく見える。こんなにたくさんの人が自分たちのライブを見に来ているということを嬉しく思っているかのような。
「今日はトップバッターですけど、このフェスの1番を取りに来ました!」
とくぅ(ボーカル&ギター)が叫び、夕日(ギター)がエキゾチックロックバンドとしての不穏さをも感じさせるサウンドを鳴らし、かほ(ベース)もステージ前から端まで出て行って演奏するのは、くぅが
「ラブシャ!革命は…起こりません」
と言ってから演奏された、このバンドの存在を知らしめた代表曲の「不革命前夜」であるのだが、この観客が飛び跳ねまくる熱狂っぷりはもはや革命が起きていると言っていいくらいのレベルのものであろう。
するとくぅがハンドマイクになってステージ上を歩き回りながら、メンバーだけではなく観客の声もコーラスとして求めるようにしながら歌う「おもちゃ帝国」ではくぅ以外のメンバーによる歌唱のうち、夕日の歌唱がさらに強くなったような感じがした。バランスを考えながら歌っている部分もあるのだろうけれど、それでもさらにはっきりと声が聞き取れるような。
そんなアッパーな流れの中で後半に演奏されたのが少し意外な選曲に感じた「九鬼」では大樹のドラムがさらに逞しく叩き鳴らされるのであるが、この夕日のギターを起点にして激しく展開していくような曲すらもフェスにおけるキラーチューンになっているというあたりに今のこのバンドの求心力の強さを感じられるのであるが、このバンドの鳴らす音の重さを感じさせるように観客がリズムに合わせて飛び跳ねまくる「第一次世界」ではくぅがハンドマイクで歌いながら、自身のマイクスタンドに取り付けられた小さめの銅羅を叩きまくるのであるが、叩く強さが強すぎたのかスティックが折れてしまうというまさかの事態に。
それもまたこの日のライブを特別なものにする要素であるのだが、最後にくぅがギターを弾きながら歌う「月曜日の歌」ではくぅがもう言葉にならないような感情をシャウトしまくるのであるが、それはネットミュージックからの影響も強いこのバンドがライブバンドとしての感情を思いっきり解き放っている存在だといえるし、そんな姿に生きる力をもらっている、世の中が生きづらいと思っている人も間違いなくたくさんいるはずだ。
と思っていたらアウトロではくぅと夕日が向かい合って轟音ギターを鳴らし、くぅが夕日のトレモロアームを操作しまくるという状態に。そんな整理がつかないような、でもロックバンドとしての衝動に満ち溢れたライブを見せてくれたNEEはまさに最強の新世代であることを示しているかのようだった。何かとスケジュールが合わなくて行けていないワンマンに本当に行きたいし、もっといろんな曲をライブでどう鳴らすのかを見てみたい。
1.ボキは最強
2.本日の正体
3.不革命前夜
4.おもちゃ帝国
5.九鬼
6.第一次世界
7.月曜日の歌
11:05〜 DISH// [LAKESIDE STAGE]
いろんなフェスに出演するようになったとはいえ、このフェスにも出演、ましてやいきなりLAKESIDE STAGEでトップバッターというあたりには驚いてしまうDISH//。この日は橘柊生(キーボード・DJ)がクロージングDJも務めるなど、初出演にしてこのフェスでの存在感を強めている。
サポートギターとベースも含めた6人編成でステージに登場すると、北村匠海(ボーカル&ギター)の髪が短くなって可愛さを感じざるを得ないようになっている中で、アニメタイアップとなった「No.1」からスタートし、さらには北村匠海がギターを弾きながら歌うストレートなロックサウンドの「僕たちがやりました」へと続くのであるが、去年の春にJAPAN JAMで見た時以上にバンドとしての強度が上がっているのが一目でわかる。北村匠海は元から優れた歌唱力を持つボーカリストだとわかっていたが、泉大智のドラムが驚くくらいに力強さを増しているというあたりにバンドとしてライブを重ねてきたことによる成果を感じるし、橘の存在が同期を重ねるのではなくてキーボードがいるロックバンドというこのバンドならではの特色を感じさせる確かな要素の一つになっている。
そんなDISH//はたまに富士山の近く(河口湖ステラシアターとかだろうか)でライブをすると毎回雨が降るという雨バンドだというが、この日はこの段階では実に天気が良く、そんな状況の中でライブが出来ていることの喜びを口にしながら、暑いからこそ定期的に北村が水分補給をするように呼びかけると、その北村の歌唱力の高さと感情の表現力を感じさせる、あいみょんが手がけた「猫」をこの広大な情景の中で響かせることによって、その声の魅力を存分に感じさせてくれる。
そんなDISH//は今月にアルバムをリリースしたばかりであり、そのアルバムのタイトル曲にして、提供曲がメインだったのがバンドで作曲、北村が作詞というロックバンドとしての形を獲得した「HAPPY」では矢部昌暉(ギター)が、サポートギターがメインを弾くという有名人アーティストにありがちな形ではなくて、自身がメインのギターを弾きまくる。泉のドラム含めて、メンバーたちがめちゃくちゃ努力してDISH//がカッコいいバンドになろうとしているのがよくわかるし、それが「勝手にMY SOUL」のあまりにも前向きかつストレートな歌詞に実に良く似合っている。北村匠海のいるバンドということでクールなイメージが持たれがちだろうし、なんなら舐められることだってあったかもしれないが、こうして今ライブを見ていて思うのはDISH//が熱いロックバンドだということだ。それは自分が好きなロックバンドの形であり、去年見た時よりも本当に良いライブをする良いバンドだなと思うようになった。
そして「JUMPer」では北村も橘もステージ左右に展開してタオルを回し、それが客席にも広がりながらタイトル通りにジャンプさせまくるのであるが、その光景はこれからもいろんな夏フェスでこのバンドのライブを見ることができるだろうなという未来を予感させると、最後に演奏されたのはマカロニえんぴつのはっとりが手がけた「沈丁花」。はっとりが手がけたというとどこか捻くれた部分も感じるのだけれど、それを北村の歌唱とバンドの演奏が真っ直ぐに伝えている。そこからはメンバーの確かなひたむきさを感じさせてくれる。俳優や芸能としての姿を自分はほとんど見たことがないけれど、それでもステージに立って音を鳴らしているのを見ればそれがわかる。それは彼らが自分たちで音を鳴らして歌うロックバンドだからだ。
元々、DISH//は自分が絶大な信頼を寄せている新井弘毅(THE KEBABS)がコンポーザー、プロデューサーであることから、ロック志向が強かったとは思っているが、初期からのファンからはダンスグループではなくなっていくことの寂しさがあったり、それによって離れていく人もいるということを以前にニュースで見た。
でも今のこの世界的にヒップホップやR&Bが全盛になって久しい世の中で、そうではないロックという音楽、バンドという形態を彼らが選んでくれたのは、そうした音楽を聴いて生きてきた者として本当に嬉しいし、だからこそこうしてライブを見ていて刺さるものがたくさんあった。今まで数え切れないくらいに忘れられないライブを見てきたこのステージでまた忘れられないライブが増えたのは、ロックバンドとしてのDISH//に出会うことができたライブだったからだ。
リハ.愛の導火線
1.No.1
2.僕たちがやりました
3.猫
4.HAPPY
5.勝手にMY SOUL
6.JUMPer
7.沈丁花
11:55〜 UNISON SQUARE GARDEN [Mt.FUJI STAGE]
現在は斎藤宏介(ボーカル&ギター)がレギュラー番組をスペシャで持っており、この日はその番組の出張版とも言えるようなライブも行われるが、これまでにもLAKESIDE STAGEに出演してきたりもしたUNISON SQUARE GARDENが先にこの昼間のMt.FUJI STAGEに登場。まだ天気は良いという野外ライブ日和である。
おなじみの「絵の具」のSEでメンバーが登場すると、最初から鈴木貴雄(ドラム)がヘッドホンを装着してピアノの同期の音が流れて始まったのは「mix juiceのいうとおり」からという実に意外なオープニングであるが、やはりこうして聴くと改めて名曲だなと思うのは、ライブで聴く斎藤宏介の歌唱とバンドの演奏力が抜群の安定感を誇っているからであるが、そのまま鈴木がヘッドホンをつけて華やかなホーンの音を取り入れた「恋する惑星」と続くことによって、ユニゾンの持つキャッチーさを感じさせる前半である。鈴木は早くも立ち上がったままドラムを叩いたりするというド派手なアクションでスーパードラマーっぷりをたくさんの人に見せつける。
「かくしてまたストーリーが始まる」
という歌い出しがまたここからライブが始まるかのようなワクワクした気持ちにさせてくれる「kaleido pround fiesta」はツアーでの素晴らしい演出も忘れられないのであるが、斎藤のギターを弾きながらとは思えないハイトーンなボーカルはやはり素晴らしいし、逆に言うと歌いながらとは思えないくらいのギターを弾きまくっているとも言える。
すると鈴木のロールするドラムの連打に合わせて斎藤のボーカルと田淵智也(ベース)のコーラスがタイトルフレーズのリフレインを繰り返し、斎藤の早口ボーカルなど次々に激しく展開していく「Hatch I need」から、今年リリースの最新アルバム「Ninth Peel」収録の「ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ」というまさに制御不能なハードさを持ったロックナンバーを演奏することによって田淵のアクションも徐々に激しくなっていくのであるが、ユニゾンの名を広く世の中に浸透させた「シュガーソングとビターステップ」ではそのキャッチーさ全開なメロディによって満員の観客を飛び跳ねさせ、踊らせまくってくれるのであるが、鈴木はやはり立ち上がってドラムを連打したりという、なんの演出もMCもないが、曲を演奏することこそが最大のエンターテイメントであるということを感じさせてくれる。
その姿勢が短い持ち時間の中でもギリギリまで曲を演奏するというライブの内容になっているのであるが、鈴木がイントロから立ち上がって「ヒャッホー!」というように叫びながらドラムを連打する「場違いハミングバード」では田淵もベースを抱えたままでステージを駆け回り飛び跳ねまくっている。そのユニゾンスタイルが全く変わらないことをこの曲はいつだって示してくれるからこそ、これからもこうしてフェスで演奏されていて欲しいと思う。
「ラスト!」
というおなじみの斎藤の言葉の後に演奏されたのはステージサイドのLEDには炎が燃え盛るような映像も映し出され、デジタルコーラスも取り入れられた「カオスが極まる」であるのだが、決してユニゾンのメンバーたちは煽ったりすることはしないけれど、そのサビ前のコーラスパートではたくさんの人が手を挙げて歌っている。それがフェスだからこその解放感と相まって、普段のワンマンとはまた違うライブの実感を抱かせてくれる。斎藤と田淵がアウトロで向き合って轟音を鳴らしている姿も含めて、つまりはこの日もユニゾンだからこそというか、ユニゾンでしかできないライブが極まってしまっていたのである。何の特別な演出もないけれど、何回見ても1ミリ足りとも飽きない。なんなら毎週ライブを見たくなるユニゾンはやっぱり凄すぎる。
1.mix juiceのいうとおり
2.恋する惑星
3.kaleido proud fiesta
4.Hatch I need
5.ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ
6.シュガーソングとビターステップ
7.場違いハミングバード
8.カオスが極まる
12:40〜 go!go!vanillas [LAKESIDE STAGE]
去年まではMt.FUJI STAGEへの出演であり、どこかそのステージの番人的な感じもあったgo!go!vanillasであるが、今年はついに初のLAKESIDE STAGE進出。ロッキンも含めてあらゆるフェスでメインステージに立つようなバンドになってきたと言っていいだろう。
おなじみのSEでメンバーが登場すると、牧達弥(ボーカル&ギター)が
「夏始めようぜー!」
と叫んで始まったのは実に久しぶりの「SUMMER BREEZE」であり、牧と柳沢進太郎(ギター&ボーカル)のギターサウンドも、ジェットセイヤ(ドラム)のドラムロールも含めて夏らしさ全開である。ロッキンなどではやってなかったのに、というのもあるけれど、この湖畔のロケーションというのが夏らしさをバンドに呼び起こしたのかもしれない。牧のボーカルはもちろん、柳沢のハイトーンコーラスも実に爽やかである。
すると柳沢が
「ラブシャ!ラブシャ!」
とコール&レスポンスをしてから始まったのは「カウンターアクション」なのであるが、柳沢と長谷川プリティ敬祐(ベース)が位置を入れ替わりながら歌うと、マイクスタンドの高さが全く合っていないのがなんだか微笑ましく見える。最後には牧と柳沢が一つのマイクで歌うというのももはやおなじみである。
さらにはプリティの歌唱を皮切りにメンバー全員のマイクリレーによって、バニラズがメンバー全員が歌えるバンドであることを示しながら、牧も自身が歌わないパートではステージ前まで出てきてギターを弾きまくる「デッドマンズチェイス」から、牧が改めて初めてこのLAKESIDE STAGEに立てることの喜びを口にしてからハンドマイクを持って歌うのもまた、このまだ真っ青な青空とステージの奥に広がる山中湖の情景にピッタリな「青いの。」では牧がステージを飛び降りて、客席の近くの台の上に乗って歌うのであるが、まさか今年最初にこのステージを降りるのが牧になるとは全く思っていなかった。
さらにはプリティが人文字で「E・M・A」の文字を作るのを観客も真似をする「エマ」ではスクリーンにポップな映像が映し出され、その映像内のアニメーションに合わせるようにサビではたくさんの観客がコーラスに合わせて左右の腕を交互に上に挙げるというバニラズのこの曲ならではの光景が広がっていくと、牧は
「俺たちは平成生まれとして平成を愛してきたし、ここにいる人たちは平成を生き抜いてきて今ここにいる!そんな平成を歌った曲!」
と言って最後に「平成ペイン」を演奏するのであるが、そうした牧の言葉にもあったように、この曲は観客がMVの振り付けを踊るのも最後のサビ前の大合唱も含めて、平成を生き抜いてきたからこそ、これから先の時代も生き抜いていこうという力をくれる。そんな平成を経て令和にこうして巨大なバンドになったバニラズは、最後に牧が告知していた通りに幕張メッセで2daysライブを3月に行う。そこに立ったのを見た時にどんなことを思うのだろうか。それを経て来年、さらにこのステージに似合うバンドになっているはず。
リハ.お子さまプレート
リハ.マジック
1.SUMMER BREEZE
2.カウンターアクション
3.デッドマンズチェイス
4.青いの。
5.エマ
6.平成ペイン
13:30〜 須田景凪 [Mt.FUJI STAGE]
今年はあまり夏フェスに出演しているイメージはなかったが、このフェスに初出演というのは今まで出たことがないところに行こうとしているのかもしれないと思う、須田景凪。初出演にしてMt.FUJI STAGEへの出演である。
最新アルバムのリリースも経たからか去年までのバンドメンバーから一新され、ベースが渋谷すばるのバンドなどでもおなじみの安達貴史(翌日にはずっと真夜中でいいのに。にも出演)になり、キーボードも加わった5人編成になった中で、元々はボカロPという顔も持つ須田景凪だからこそのサウンドの「パメラ」からスタートし、その艶やかな歌唱が曲の表情をさらに色っぽく、かつ切なくしている「veil」と続く。ツアーでは歌唱が心配された時もあったというが、須田景凪の歌唱も野外だからこそというような解放感を感じさせてくれるものになっている。
この会場に来ることができたことの喜びを絶景のロケーションであることとともに語ってからの最新アルバム「雲を恋う」は須田景凪はバラードと紹介したが、バンドサウンドの分厚さがあることによっていわゆる歌が立ったJ-POP的なバラードという形ではないのは須田景凪ならではの音楽であるし、タイトルに合わせてスクリーンには上空にかかる白い雲が映し出されるというあたりがスペシャからの須田景凪への愛の深さを感じさせると、同じく最新作収録の「メロウ」は一転して煌めくような夏の曲であり、そのサウンドと歌詞から感じられる青春感がまるでこうした夏の野外フェスで演奏されるために作られたかのようで、この瞬間は空に雲がかかっていたのであるが、それが晴れてくれて太陽が出てきた中で聞きたかったとも思った。
「みんなが知ってると思う曲を」
と言って演奏されたのは、もちろんボカロPバルーンとして世に放った大ヒット曲の本人歌唱バージョンである「シャルル」であり、歌い出しから空気がガラッと変わり、それまでは客席の後ろの方で座って聴いていた人たちも立ち上がって体を揺らしている。ある意味ではこうしたフェスの中で最も知られている曲とも言えるかもしれないが、この曲を作ったのをこの人だとは思ってなかった人もいるんじゃないだろうか。そんな曲がキーボードも加わったバンドサウンドでさらに分厚い演奏になっている。
「本当に個人的な話なんですけど、僕は埼玉出身なんですけど、大学生の時にあまりに暇すぎてこの辺まで車でドライブしてきてこの辺りの駐車場で寝てたんで、こうしてここでライブをすることができて本当に嬉しいです」
という意外なこの場所との関わりを口にすると、ボカロ由来の高速BPMのロックサウンドをリアルなバンドで演奏する「パレイドリア」から、最後に演奏されたのはこちらも最新アルバムの収録曲にして、THE FIRST TAKEでも歌唱された「ダーリン」で、その曲に宿る切なさが須田景凪独特の歌声によってさらに倍増されている。そんな感覚に浸っていると、須田景凪は
「ありがとうございました。また必ずここに帰ってきます!」
と力強く宣言した。それくらいにやはり初出演であっても彼の人生の中でこの場所は大切な記憶がある場所であり、須田景凪がネットの中のクリエイターではなくてリアルなライブの世界で生きているミュージシャンであるということを実感させてくれたのだった。
リハ.メーベル
1.パメラ
2.veil
3.雲を恋う
4.メロウ
5.シャルル
6.パレイドリア
7.ダーリン
14:15〜 Creepy Nuts [LAKESIDE STAGE]
ロッキンではR-指定(MC)の体調不良によって当日になってからキャンセルになってしまったCreepy Nuts。心配なところもあったが、このフェスでは無事に出演である。
おなじみの扉が開くような音からR-指定とDJ松永がステージに登場すると、いきなりの「2way nice guy」から観客がサビで腕を左右に振るのであるが、その人数の凄まじさたるや。松永もスマホで客席を撮影していたが、その松永の背面から客席を映し出す映像がスクリーンに映し出されると、こんなにたくさんの人が腕を振っているという事実に驚いてしまう。
「堕天」というライブではおなじみの曲が続くと、まだ完璧な本調子ではないのか、ラップのキレ自体は変わることはないが、Rは歌うことができないような箇所もちょくちょくあるのが少し気になってしまうところではある。
「かつて天才だった俺たちへ」でも松永が
「今も天才でした!」
と言わしめるほどのターンテーブルさばきを見せてくれるのであるが、Rの方は少し心配にもなってしまうのは、曲間のMCでは松永が3日前に誕生日を迎えたことによって観客から「おめでとうー!」という声が飛ぶのであるが、Rがいつものようなキレを感じさせるMCを感じさせなかったところもあったからだ。
それでも自分たちのスタンスを日本の怪談に重ねた「耳なし芳一style」では観客とタイトル部分をコール&レスポンスのようにしながら、そのラップのテクニックを存分に見せつけてくれるのであるが、さらには「ビリケン」「ジミヘン」などの韻を踏む単語が怒涛のように押し寄せていく新曲が本調子ではなかったとしてもRのラッパーとしての凄まじさを感じさせてくれるのである。
松永「山中湖にはお盆に間に合わなかった亡霊がたくさんいる…」
R「俺なんか死んで亡霊になったら絶対お盆に遅刻するもんな(笑)」
なんていう話をしていたら割と近くの空で落雷の音が鳴って観客もビックリしていると、
松永「お盆に間に合わなかった亡霊が聞いた記憶の中の爆撃の音が聞こえてきた(笑)」
と、パニックになってもおかしくないような事態を笑いによって収めてくれるというあたりはさすがである。
そんなMCから、
R「今年は声を出すのも全て合法でございます!」
と言って去年の飛び跳ねるだけではなくて、観客が一緒に歌うことによって曲の真価を最大限に発揮する「合法的トビ方ノススメ」から、何度もこのフェスに出演している2人だからこそこのフェスのこれからと未来に今まで以上の希望を感じさせるように「のびしろ」を演奏するのであるが、そのサビでの手拍子の凄まじさもやはりこのグループがもはやヒップホップシーンだけには止まらないような位置まで来ているということを感じさせた。なかなか遅刻だったりキャンセルだったりが多くなってしまっているのは、このグループを見るためにフェスのチケットを取ったりしている人からしたら大変かもしれないけれど。
1.2way nice guy
2.堕天
3.かつて天才だった俺たちへ
4.耳なし芳一Style
5.新曲
6.合法的トビ方ノススメ
7.のびしろ
15:20〜 斎遊記 -富士山編- [GOOD VIBES]
このライブの直前にいきなり豪雨となり、さらには雷までもが鳴ってしまったことによって、一時避難して待ってからのライブ再開。なので予定時間よりはかなり遅れてしまったけれど、それでもこのライブを見れるのが嬉しいのは、ユニゾンの項でも触れたとおりに、このライブがスペシャの番組の出張版的なライブだからである。
そうした中断があってもたくさんの人が待っていたこのステージではまずは番組の概要を説明するアナウンスが流れ、この番組Tシャツを着た斎藤宏介もステージに登場すると、改めてこのライブが普段はゲストを招いて白バック一色のスタジオで収録しているものの出張版ライブであることを告げると、最初に招かれたゲストはバンドとしてのライブは前日だったandropの内澤崇仁で、最初は普段通りの白シャツ姿なのだが、
「ウォーミングアップしてきたら暑いからシャツ脱いでいい?」
と言って白シャツを脱ぐと、斎藤とお揃いの番組Tシャツを着ている。ちなみにandropはデビューして14年経つが、内澤がTシャツでライブをやるのは初というくらいのレアな場面になる。
そんな2人で、斎藤がギターを弾きながら歌い、内澤もボーカルを分け合うようにして歌うのはandropの「SuperCar」で、斎藤がアコギを弾きながらもジャンプして前に出てきてコーラスパートで観客の歌声を煽るようにするというユニゾンのライブではまず見れないことをすると、負けじと内澤も前に出てきて観客にマイクを向けたり、斎藤にマイクを向けたりするのであるが、斎藤がジャンプしたのにかなり驚いていた。
そうしてアコギだけでのアレンジでカバー曲なりを歌うというコンセプトなのであるが、内澤は斎藤のやっているユニット、XIIXの最新アルバム収録曲で歌詞を共作しており、その曲「魔法の鏡」を2人で歌うのであるが、斎藤が内澤に依頼の電話をした際にはベロベロに酔っ払った状態で内澤が電話に出て食い気味にOKしてくれただけに、翌日になったら覚えてないんじゃないかと思っていたという。
その曲も含めてこの2曲はともひR&Bやヒップホップの要素をも感じさせるのであるが、そんな曲たちをもアコギ一本でアレンジしてさらに歌う斎藤の手腕はやはり凄まじいものがあるし、ある意味ではそれを見せるための番組であるとも言える。あまりにも内澤が喋りまくるという意外な一面を見せたことによって、時間があまりない中で押したりしなかったかが心配になったけれど。
そんな内澤と入れ替わりで現れたのはライブを終えたばかりのgo!go!vanillasの牧達弥で、牧もやはり番組Tシャツを着る中、斎藤がずっと好きだと言っていたバニラズの曲だという「倫敦」を弾き語りかつ2人の歌唱で歌うのであるが、やはりこの曲も斎藤のアコギだけでのアレンジによって原曲とは全く違う清冽さを感じさせる。斎藤いわく
「良い曲っていうのはどんなアレンジで歌っても良い曲」
とのことだが、斎藤がそう言ってくれたというのは牧にとってはたまらなく嬉しかったんじゃないかと思う。
その牧が歌唱だけではなくて高音コーラスでもボーカリストとしての資質、歌唱力の高さを感じさせてくれるのはサザンオールスターズの「真夏の果実」であり、そのコーラスと斎藤の歌唱は桑田佳祐歌唱の原曲にある粘り的な要素を全て爽やかさに還元していくかのようですらあった。客席にはバニラズメンバー3人の姿もあったが、果たして3人はこの牧の歌唱をどう見ていたのだろうか。やっぱりうちのボーカルはすげえなって思えたりしたのだろうか。
そして再び内澤も招き入れると、牧はこの特別なライブに参加できたことによって斎藤に
「もう来年もこの3人でやりましょう!他の人にこのTシャツを絶対に渡さないでください!(笑)」
という独占欲の強さを見せるのであるが、最後に3人で歌ったのは、曲を作った男がこの会場のすぐ近くの富士吉田で育ち、その街のチャイムにこの曲のメロディが使われているという斎藤の解説だけでもう涙が出てきそうになってしまう、フジファブリック「若者のすべて」のカバーであり、やはり3人でボーカルを分け合いながらも牧が高音コーラスを重ねるという、歌えるメンバーが他にもいるバンドのボーカリストとしての力を発揮するのであるが、この3人はこの曲をここで歌うということの特別さをよくわかっている。そうしてここでこの曲を歌い継いでいくことによって、志村正彦の魂は生き続けているということも。志村がこの3人での歌唱を見たらどう思うだろうか。あるいは先輩としてこの3人と関わっていたらどんな話をしていたのだろうか。そんな思いが去来したことも含めて、このライブはやっぱり何年経っても思い出してしまうものになった。
だからこそまた来年もこのフェスで出張版をやって欲しいし、なんなら1時間くらいの持ち時間でやって欲しいくらいだ。斎藤は
「普段の収録もリハとか一切ない、ぶっつけ一発。リアルTHE FIRST TAKE(笑)」
とこの番組の大変さを口にしていたが、だからこそ改めて斎藤宏介というボーカリストがどれだけとんでもない存在かということがわかる企画、番組なのである。
1.SuperCar (androp) w/ 内澤崇仁
2.魔法の鏡 (XIIX) w/ 内澤
3.倫敦 w/ 牧達弥 (go!go!vanillas)
4.真夏の果実 (サザンオールスターズ) w/ 牧
5.若者のすべて (フジファブリック) w/ 牧,内澤
16:50〜 ポルノグラフィティ [LAKESIDE STAGE]
雨と雷による中断を挟んだ際に真っ先に雨バンドとして名前が上がったこのポルノグラフィティ。それくらいに野外ワンマンは毎回のように雨に見舞われているらしいが、そうして野外規模でワンマンができる存在であるにも関わらず、こうしてこのフェスに何度も出演しているという最前線を走っている姿は本当に頼もしさを感じる。
大所帯のバンドメンバーとともに新藤晴一がギターをカッティングするというファンキーなセッション的な演奏によってライブがスタートするというのは実に意外な幕開けだったが、そのまま岡野昭仁(ボーカル)が登場して、
「いきなり変な踊りを踊りましょう!」
と言って、岡野自身が踊る、まさに曲の内容と全く合っていないようなダンスが客席にも広がっていく「ミュージック・アワー」は今でも変わることない、誰もが知る夏の名曲であることを示してくれるのであるが、オープニングのセッション的な演奏のまま始まっただけに原曲にはないファンキーさを感じさせるものになっているというアレンジもベテランになってもライブをやり続ける中で会得してきたものであるだろう。
前にこのフェスでチラッと見た時は「音源に忠実なライブをやる人たち」というイメージだったので、こうしたファンキーなアレンジに驚いてしまったのだが、岡野の歌い出しだけで大歓声が上がった「メリッサ」も含めて、大胆にアレンジするというわけではなくてライブの味付けという形でファンキーな要素を足しているという感じなので、原曲のイメージを壊すことなく大ヒット曲を連発するというあたりもさすがである。
自ら雨バンドであることに触れて、中断する事態にまでなってしまったことを岡野が謝るという自虐的な一面も見せながら、
「ワシらが野外ライブをやると毎回何かある。そこに関してはゴメン(笑)
でもワシらはこの過酷な状況の対処法も知っとる。声を出せ!暴れろ!盛り上がって一つになれ!そして今日を伝説にするんや!」
と我々を勇気付けてくれるあたりもさすがであるし、
「徐々に盛り上げていこうと思ってます」
と言ったのでバラード曲をやるのかと思ったらなんと次に演奏されたのは大ヒット曲「サウダージ」であり、そうした誰もが知る曲によって言葉を実践してくれている。そんな「サウダージ」は新藤のアコギなどによって、ラテンミュージックの要素を強く持った曲であるということが、今になるとリリース当時の幼少期の頃よりもよくわかる。
そんな岡野の雨の対処法を最も実践していたのは、人気アニメのタイアップ曲としてまさに人々を勇気づけるようなロックナンバーである「THE DAY」だろう。決して最新と言えるくらいに新しい曲というわけではないが、それでも他の大ヒット曲に比べると、ポルノグラフィティが2000年代だけではなくて、2010年代以降から今に至るまでもヒット曲を生み出していることがよくわかるし、そのロックサウンドの鋭さには驚かされる。岡野の出で立ちやMCからは年齢を重ねてベテランになったことをも感じさせるけど。
しかしながらまたしても岡野が歌い始めただけで大歓声が湧き上がった「アゲハ蝶」の、特に曲後半のサビのキーが上がる、カラオケでの鬼門というべきフレーズを今でも原曲キーのまま、しかもライブだからこそより声を張って歌う姿は歌唱には全く年齢やベテラン感を感じさせないし、それはあまりにもあっという間のラストとなった「ハネウマライダー」でのタオル回しが客席で起こる中での声と爽やかさを感じさせてくれるあたりもそうだ。結果的には全曲誰もが知る名曲たちで我々のことを過酷な状態から最高に楽しい状態へと引き上げてくれる。ポルノグラフィティの強さを実感せずにはいられなかった。
持ち時間がもう少し長かったらもしかしたら今の自分たちが作り出した曲なんかも演奏されたのかもしれないが、岡野は様々な世代やジャンルの人が作ってくれた曲を歌うというソロアルバム(スペシャでも特集されている)を、新藤は何と演劇の脚本を、というように近年は個々それぞれが人生においてやりたかったであろう活動も活発になってきている。
そんな中でのポルノグラフィティのヒット曲連発のフェスでのライブは、2人にとってポルノグラフィティがどういう存在であるか、フェスに来る人たちにとってどういう存在であるかを改めて示すようなものだった。聴いているとどうしてもリリース当時のことを思い出すというのは大ヒット曲を持つバンドだからできることだ。
1.ミュージック・アワー
2.メリッサ
3.サウダージ
4.THE DAY
5.アゲハ蝶
6.ハネウマライダー
17:40〜 OAU [FOREST STAGE]
メンバーはBRAHMANとしてはこのフェスに出演したこともあるが、OAUとしては初出演。一時中断でだいぶ時間は押してしまったが、雨も止んだ中での出演である。
メンバーがステージに登場すると、椅子に座ったKOHKI(ギター)がアコギをスライドさせる音が実に美しい、MARTIN(ボーカル&ヴァイオリン)の英語歌唱にTOSHI-LOW(ボーカル&ギター)のコーラスが乗り、メガネをかけた中分けの長髪が又吉直樹みたいにも見えるMAKOTO(ベース)も、手拍子をしながらのKAKUEI(パーカッション)も飛び跳ねまくる「Thank You」で実にOAUらしい温かい気持ちにさせてくれると、TOSHI-LOWの紡ぐ日本語歌詞によって、実はTOSHI-LOWは、なんならBRAHMANもこのバンドも美しいメロディを持っているバンドであることを示してくれる「夢の続きを」と続くのであるが、後に本人も言っていたが、こんな天気になるとは思ってなかったというだけにTOSHI-LOWは半袖シャツに短パンという、天気が良い日に山中湖観光をしにきたおじさん的な出で立ちになっているのが雨具を着た観客とは全く対照的で笑ってしまう。
そんなOAUはなんならBRAHMAN以上のペースで積極的にリリースをしており、「夢の続きを」もそうであるが、今年の4月に最新アルバム「Tradition」をリリースしており、MARTINのヴァイオリンの音もこの森の中だからこそより神秘的に聴こえる「Homeward Bounce」という収録曲も演奏し、曲の完成度やバンドとしての方向がリリースを重ねるたびにさらに強靭なものになっているという感じがする。
さらには近年はまさかのソロ活動も活発なRONZI(ドラム)のこのバンドのトラッド的な音楽性ならではのリズムに合わせてKAKUEIの煽りやメンバーの演奏も激しさを増していき、もちろん観客もより激しく踊る「Making Time」と、ただアコースティックに聞き惚れるだけではない、パンクが強くルーツにあるバンドとしてのアコースティックサウンドを響かせると、MARTINが
「30分は短い!(笑)」
と言いながらTOSHI-LOWのMCへ。
「先週ギックリ腰やって、今週家族旅行で河口湖行って樹海散歩してきた(笑)だから河口湖から東京に戻ってすぐにまた山中湖に来てるっていう(笑)
でもその樹海散歩の時に、腰が痛くて早く歩けないからガイドさんの話を聞いてゆっくり歩いたら、今までは自殺の名所としか思ってなかった気持ち悪い森が、富士山が噴火した灰が積もった上に根を生やしたりしていて、長い時間をかけて生命を繋いできた森なんだって思った。それは腰をやらなきゃ話なんか聞かないで早歩きしてただろうからわからなかった。だから雨も今この瞬間で良い悪いはわからねぇ。もしかしたら、農家の人にとっては恵みの雨かもしれない」
という話はこうした一時中断という状況すらも実にポジティブなものに転換してくれるというのはさすがTOSHI-LOWであるし、それをこの会場から近い場所の話を絡めることによって、さらにこの周辺の場所に行ってみたいと思える。それはこの場所が好きな人であればあるほど。
そんなMCの後に最後に演奏された「帰り道」はTOSHI-LOWの歌声と歌詞が本当に沁みる。そのメンバーたちの穏やかな表情も含めて、こんなにこの会場、このステージに合うんだから、これからも毎年このバンドでこのフェスに来て欲しいと思うとともに、毎年お世話になっている旅館の方々の顔なんかが浮かんできた。このバンドにはBRAHMANとはまた違う、そうした人間の感情に寄り添ってくれる力が確かにある。
1.Thank You
2.夢の続きを
3.Homeward Bounce
4.Making Time
5.帰り道
18:50〜 ASIAN KUNG-FU GENERATION [LAKESIDE STAGE]
実は山中湖初開催の2007年にメインステージのトップバッターとしてフェスの始まりを告げたのはこのアジカンである。(その年はまだ2日間開催で、Mt.FUJI STAGEがメインステージだった)
それ以降も大トリを務めたりするなどしてきたバンドが今年は2日目のトリ前というスロットでの登場である。
しかしながら開演前にまた雨が強く降ってくるという悪天候の中で、もはやおなじみのGeorge(キーボード)とアチコ(コーラスなど)も含めた6人編成でステージに登場すると、今年はフェスでおなじみの飲食店のKIYOSHI'S KITCHENだけではなくて、スペシャキッチンでコラボメニューの焼きそばまでも売っているというフェス飯でも多大な貢献を果たしている伊地知潔(ドラム)がスティックを振り上げるようにしてリズムを刻み始め、そこにゴッチ(ボーカル&ギター)と喜多建介(ギター)のギターが交互に重なっていく…フェスで聴くのは実に久しぶりな感じがする「ブルートレイン」からのスタートという事実に驚いてしまい、強い雨の中でもテンションが上がらざるを得ないのであるが、さらにイントロが流れるだけで再びファンから大歓声が上がるのはメインコーラスのアチコや山田貴洋(ベース)ではなくて、喜多がカップリングバージョンのコーラスを入れるという、いわゆる表裏両面ミックスでの「サイレン」。正直言ってロッキンの時と変わらない感じの近年のフェスセトリ的なものになるだろうと思っていただけに、歓喜しながらもバンドに「申し訳ありませんでした」と謝罪したくなる感じすらあった。それは伊地知と山田のリズム隊がサビでさらに力強さを増しているからこそよりそう思うところもある。
するとゴッチは降り続く雨に
「昔、フジロックに出た時も俺たちの時だけ豪雨っていう年があって。増水して奥の方のステージに行く道が封鎖されるくらいになったりしたんだけど、そんな雨の諸々を吹き飛ばすような演奏をしますので」
と口にしてくれるのが、選曲とともに雨の中でもさらに我々のテンションを上げてくれるのであるが、
「晴れた夕方に演奏するつもりでいたから、合わないのはわかってる(笑)」
と言って演奏されたのは、絶賛リリースされたばかりの完全版でも名曲っぷりが際立っている「サーフ ブンガク カマクラ」収録の「江ノ島エスカー」であり、フェスでは追加されてシングルにもなった「出町柳パラレルユニバース」を演奏されることが多かっただけに、これまた実に意外な選曲に嬉しくなる。雨が降る夜という情景はマジでビックリするくらいに歌詞にもサウンドにも似合ってなかったけれど。
さらには伊地知が四つ打ちのビートを刻む中で喜多も腕を振り上げるようにしてこの曲を演奏するのを楽しんでいることがわかる「君という花」では足場が悪くなり、雨具を装備している人が多い中でも体を揺らしたり踊っている人もたくさんいることがよくわかるのはやはりこの名曲の持つ力であろうし、ゴッチが近年この曲を演奏する時にはおなじみの、アウトロで「大洋航路」のフレーズを歌うのもまた、雨に負けずに進んでいく、楽しむための力をくれる。それはアジカンファンがそうして曲やライブで力を貰うようにして生きてきたからこそ。
その「君という花」でもやはり
「らっせーらっせー」
のコーラスを観客は大合唱していたが、ゴッチのギターが激しく唸る「リライト」でも雨をものともせずに観客から大合唱が起こり、むしろこの辺りではもはやこれは雨の中だからこその伝説のライブになりつつあるのでは?という感覚にすらなっていく。
それはイントロが鳴らされただけで歓声が上がり、喜多もそのリアクションにガッツポーズするようにして鳴らされた「ソラニン」もそうであるが、サビ前のGeorgeの流麗な鍵盤さばきがよりこの曲の持つ切なさを際立たせる中、ゴッチはこの後も自分自身を大切にしながら楽しむように口にすると、最後に少しずつ音を鳴らし、重ねながらイントロに繋がっていったのはメンバーの名前をモチーフにしたキャラクターたちのバンドアニメ「ぼっち・ざ・ろっく」で主人公歌唱バージョンが最終回に流れた「転がる岩、君に朝が降る」なのであるが、きっと昔だったらそうして光が当たっている状況だったら敢えてその曲をやらないという天邪鬼さを発揮していただろうけれど(主にゴッチが)、今はそうした期待にアジカンはしっかり応えてくれる。それはやっぱり今もアジカンが日本のロックバンドシーンを誰よりも背負った上でこうしてフェスのステージに立ち続けているからだ。そんな思いが伝わってくるからこそ、冷たい雨もどこかシャワーのように体に降り注いでくれている気分になった。それはこの状況でもこれだけたくさんの人がアジカンのライブを見ていることで、それぞれの孤独を洗い流してくれているかのようだった。
いよいよ来月からは完全版「サーフ〜」のツアーも始まる。出会ってからもう20年以上経っているけれど、今もアジカンの音楽に、ライブに、活動にワクワクしているし、それはどんなに雨が強かろうと折れることはない。
1.ブルートレイン
2.サイレン
3.江ノ島エスカー
4.君という花 〜 大洋航路
5.リライト
6.ソラニン
7.転がる岩、君に朝が降る
19:45〜 04 Limited Sazabys [Mt.FUJI STAGE]
何度もLAKESIDE STAGEにも出演しているフォーリミがこのMt.FUJI STAGEのトリであるのは、LAKESIDE STAGEのトリ以外の時間帯よりもこのステージのトリの方が持ち時間が長いこと、この夜の時間にフォーリミにライブをやってもらいたいというフェス側の愛情によるものだろう。GEN(ボーカル&ベース)がスペシャで長くVJを務め、この山中湖でレコーディングなどの合宿をしてきたバンドであるだけに。
しかしながら始まる前に再び降り始めた雨はメンバーがおなじみのSEで登場し、GENが
「ラブシャ、雨の中だけど楽しめる!?」
と問いかけて始まった「swim」の曲中からさらに強さを増していくことによって、GENも最後のサビ前には
「伝説の予感がしてます!」
というくらいの状況になっている。それは目の前にはそんな状況であってもダイブ、サークルなど普段のライブと変わらない、いや、普段以上に楽しんでいる、このライブが特別なものになるということをわかっている人たちがいるからこそ出てきた言葉だろう。
そのまますぐに突入していく「Keep going」でもGEN特有のハイトーンボイスはいつも以上に伸びやかであるし、KOUHEI(ドラム)のメロコア全開のビートも実に力強く、RYU-TA(ギター)がイントロから「オイ!オイ!」と叫びまくる「Kitchen」ではリズムと歌詞に合わせて完璧な手拍子が起こるのもいつもと全く変わらないのだけれど、むしろ曲が演奏されるたびに客席のサークルが巨大化し、そこに飛び込んでいく人が増えていくような感覚すらあるのは、こんな状況でのライブを楽しみ尽くそうとしている人が本当に多いからだろう。
バンドもそれをわかっているようで、当然ながら星なんか全く見えないくらいの雨の中で演奏された「midnight cruising」ではRYU-TAが
「こんな雨の中で残ってくれて本当にありがとう!」
と叫び、サークルを組んでいる人たちが直後の間奏部分で思いっきりヘドバンすることによってバンドの想いに応えるようにさらに楽しもうとしている。夜の空の下でこの曲を聴くのはやはり格別であるが、ましてや流星群の代わりに雨が降る中でのこの曲なんて状況はそうそうないというのも観客のテンションを上げる要素になっているだろうと思う。
前述の通りにスペシャでは長くVJを務めてきただけあり、GENもMCでは
「スペシャのフェスはもう出演者っていうより内部の人っていう感じすらしてるから、みんなを迎え入れてる感じがする」
と、もはや主催者的な心境であることを口にすると、HIROKAZ(ギター)も含めたメンバーたちによる「ZIG ZAG」というコーラスがリズミカルで癖になるような「Jumper」がこんな状況の中でもさらに我々の体を高く飛翔させてくれるような感覚にさせると、KOUHEIが立ち上がり、HIROKAZも「オイ!オイ!」と声を上げて観客を煽る「fiction」から「Finder」という、フォーリミの音の強さ、ハードさを感じさせるような流れではステージからスモークが噴き出していくという演出も。雨が強くなるばかりで視認性は最悪と言っていい状態だけれど、それでもこのステージのトリを務めるバンドとして、パンクとしてアリーナクラスでワンマンをしてきたバンドとしての演出である。
そんな状況であるだけにきっとGENは予定されていたMCをかなり削っていた感じも自身の言葉から感じられたのであるが、
「こんな雨の中で一緒に遊んでくれるバカが大好き!」
というのは実際に目の前でダイブやサークルを笑顔で楽しんでいる人たちがいるからこそ出てきた言葉だろうし、そのGENやメンバーの顔は本当に楽しそうだった。そしてまさにこの状況のように雨を歌った曲である「Squall」ではKOUHEIのイントロのリズムもそうであるが、何よりもGENの歌唱にこの上ないくらいに今この瞬間の感情が乗っていた。それは普段が100だとしたら、150くらいになっていたと言っていいくらいであるし、そうしようとしたのではなくてこの状況が自然とそうさせたのだ。その歌唱と演奏を聴いていて体が震えたのは雨で濡れて寒かったからじゃなくて、そのバンドの姿や音の凄まじさによって震えていたのだ。
それはこの日のフォーリミのライブがやはり伝説と呼べるものになったということを、ここにいた人はみんなわかるものになっていたけれど、さらにGENが思いっきり腕を振り下ろすようにして渾身の「monolith」が鳴らされ、さらに強くなる一方の雨の中でもこの日最大級のサークルとダイバーの嵐を巻き起こした。それは伝説を作るのはバンドだけじゃなくて、観客も一緒になって作るものであるということを教えてくれるかのような。それは誰にでもできることじゃなくて、やっぱりフォーリミがこのステージのトリだったからこそできることだったのだ。
その巨大なサークルが自分のいたエリアで巻き起こっていた。普段自分はステージをしっかり見たいというタイプなので、盛り上がることはすれど、あまりそうしたところに自分から参加しにいくことはない。
でもこの日はその真っ只中にいた。それはそんな自分に対してもキラッキラの笑顔で肩を組んでくれる人たちがたくさんいたからであり、この状況をそうして楽しみ尽くそうとしている人たちが肩を組んでくれたら、そこに参加するしかないなと思った。そうした人たちの存在がこのあまりに激しい雨すらもライブを楽しむ装置にしてくれたのだ。いなかった人からしたら雨のライブなんて行きたくないと思うかもしれないけれど、いた側だからわかる。やっぱりこの日のフォーリミのライブは紛れもなく伝説だったと。全ての出演を見てきたこのフェスでのフォーリミのライブで、ダントツで1番楽しかった。伝説の瞬間に居合わせることができて本当に幸せだった。
リハ.Chicken race
リハ.Galapagos II
1.swim
2.Keep going
3.Kitchen
4.midnight cruising
5.Jumper
6.fiction
7.Finder
8.Squall
9.monolith
フォーリミのライブ後により一層激しさを増す雨。目も開けてるのがキツいくらいであるし、スマホを出したらすぐに水没しそう、なんなら地面も完遂してきてるレベルですらあるが、それでもこのフォーリミからの流れなら行くしかないとばかりにLAKESIDE STAGEのトリであるSEKAI NO OWARIを観に行ったら、再びの雷の接近によって、残りのアクトの中止が発表された。
状況的には確かにこの雨の強さ(会場の外の道も完全に冠水していた)では仕方ないとも思うけれど、この日1番グッズを身につけている人が多かったのはセカオワだったし、物販も昼過ぎには全て売り切れていた。セカオワは誰よりも人間以外の自然や生物の存在と強さ、それと共存していくことを時には楽曲で、時にはライブのコンセプトで示してきたバンドであるけれど、セカオワが見たくてここまで来た人たちの気持ちを考えたらやり切れなくなってしまった。Fukaseも「誰も悪くない」と言っていたけれど、個人的にも前回このフェスに出演した時以来に見るライブを本当に楽しみにしていたし、そうした人たちのためにまた来年にでもリベンジしに来て欲しい。
それはセカオワだけじゃなくて、他のステージに出演するはずだったのが叶わなくなってしまった佐藤千亜紀も、DISH//の橘柊生のDJも。去年キャンセルになったアーティストも、代打で出演したアーティストもスペシャは今年全員呼んでくれている。そんな義理堅いフェスだからこそ、来年必ず彼らがここでライブをする姿が見れると信じている。
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