ROCK IN JAPAN FES. 2023 day5 @蘇我スポーツ公園 8/13
- 2023/08/15
- 22:48
いよいよ5日間の最終日。朝から雨が降ったり止んだりという天気ではあったが、その時点ではこの後に待っている展開をまだ全く予想できていなかった。ただなんやかんや晴れたまま終わるだろうと思っていたのである。
11:50〜 imase [HILLSIDE STAGE]
前説のrockin'on JAPAN編集長の山崎洋一郎が「ロッキンどころかフェス自体初出演、そもそもライブやるのもまだ7回目くらいだから、俺もどんなライブになるか全然わからない」と紹介した、imase。ライブ経験は浅くても今やCMなどでやたらとその声を耳にする存在である。
その前説中にメンバーが登場して前説終わりで演奏を始めてからimaseがステージに登場。なんだかその姿はその辺りにいる大学生というくらいに自然体であるが、「Nagisa」からスタートすると、特段海が近いわけでもないこの蘇我スポーツ公園が一気に海沿いであるかのように感じてしまうくらいにそのハイトーンボイスは魔法のように情景を喚起させてくれる。それを至って軽やかに歌っているというあたり、普通なようでいて只者ではないということがよくわかる。
それはこのまだ明るい晴れた空の下で歌われることによって青春感を感じさせる「僕らだ」では声から少年性を感じさせてくれるのであるが、Vaundyなどのライブメンバーでもあるboboによる細かいハイハットの刻みなど、ライブ経験は浅くとも強力なメンバーによってその曲が鳴らされており、ムーディーかつスムースなアーバンサウンドの「Pale Rain」ではギターのモリシー(Awesome City Club)の得意とするところであろうし、人選も抜群の目利きというか、自身の音楽を最も理解して解像度高く演奏してくれる人が集まっていることがよくわかる。
実はimaseは昨年は見る側としてこのフェスを訪れており、それが見る側としてのフェス初参加だったというが、それがわずか1年でこうして出る側になったことを本人自身がビックリしていたのであるが、メジャーデビュー曲である「Have a nice day」はその急激な状況の変化もまぁそうなるだろうと納得してしまうくらいのキャッチーさを持った曲であるし、例えばCMや TVから流れてきてもその声を聞くだけで「あ、これimaseの曲だな」と思ってしまうくらいの強い記名性を持っていて、それがフェスという場でも最大限に発揮されている。
それは本人も心地良く体を動かしながら歌う「Night Dancer」でもそうであるが、本当にライブをまだ数本しかやったことがないのだろうかというくらいにそこに未熟さを感じられない歌唱を見せてくれるからでもある。特にファルセットの実に自然な出し方も含めて、ただ歌が上手いというだけでは言い表せないような天才的なオーラを感じさせる。それは全くボーカリストとしての歌い方やタイプは違うけれど、boboがサポートということもあってVaundyが出てきた時、初めてライブを見た2年前を思い出さざるを得ない。
そんなimaseが曲中に実に軽やかにメンバー紹介をし、モリシーのギターソロでは背中を合わせてエアギターまでするという、ライブ経歴逆詐称してるんじゃないかというくらいに堂々たるパフォーマンスを見せるのは、この日この場所がまさにそうした場所であるということを歌うかのような「ユートピア」で、これからimaseが自身のライブでそうした空間を作り続けて増やしていくことになるんだろうなと思った。
それはこのライブをトップバッターでありながらもたくさんの人が見にきていたからであり、このペースで曲をリリースして行ったら来年はどこに立っているのだろうかと思う。
1.Nagisa
2.僕らだ
3.Pale Rain
4.Have a nice day
5.NIGHT DANCER
6.ユートピア
12:30〜 WurtS [PARK STAGE]
始まる前からHILLSIDE STAGEの方まで観客で埋め尽くされるくらいの超満員。実はこのフェスには初出演であるWurtSの現在の位置がわかるというか、ワンマンをやればZeppクラスでもチケットが取れず、他のフェスではアリーナ規模のステージに立っているだけに当然であるとも言える。
今まではうさぎDJ→バンドメンバーの順番で出てくることが多かったが、この日は逆に先にバンドメンバーと帽子型の仮面を被ったWurtSが先にステージに出てきてからうさぎDJもステージに現れると、半袖Tシャツに物販で販売されているバスケユニフォームを着ており、その意外な腕の細さに少し驚かされると、そのうさぎDJもターンテーブルを操作するようにしてメンバー全員が音を合わせるようにして鳴らすと、WurtS(ボーカル&ギター)と新井弘毅(ギター)の轟音ギターによる「BORDER」からスタートし、そのまま「ふたり計画」へと繋がっていくというロックな流れは最近のフェスなどでもおなじみの流れであるが、WurtSの感情を感じさせるような歌声はさらに強くなっているし、それは新井と雲丹亀卓人(ベース)が楽器を抱えてジャンプするという熱さを見せてくれていることによるものかもしれないとも思う。
WurtSがハンドマイクになると、観客とともに手拍子のリズムから徐々に高まっていく「Talking Box」で観客を飛び跳ねさせまくるのであるが、後ろを見てもスクリーンに映る客席を見ても、何でこれでメインステージじゃないんだと思うくらいの超満員っぷり。サウンドは曲ごとにガラッと変わるし、この曲に関してはダンスミュージックと言えるものであるが、WurtSの音楽が確実に時代を捉えている。
しかしながらWurtSの挨拶的なMCは少し噛み気味で新井と雲丹亀に苦笑いされるというのもまたこのメンバーの関係性と素顔がハッキリとは見えないWurtSの人間らしさを感じさせてくれるのであるが、どちらかというと初期にあたるだけに新井のギターを軸にしたギターロックな「NERVEs」から「オブリビエイト」と続く流れから、その間では袖に引っ込んでいた(暑さ対策?)うさぎDJがステージ前に出てきてまさにダンサーのように踊り、WurtSもハンドマイクでステージ左右に歩きながら歌う「リトルダンサー」はもしかしたらPEOPLE1のメンバーが出てきたりするんじゃないか…とも思っていたけれど、さすがにトリということでそれはなかったが、それでもWurtSのヒップホップ的な歌唱の心地良さによって気持ちよく体が揺れる。
そして新井のイントロのギターが鳴らされただけで大歓声が起きたのはもちろんラストの「分かってないよ」であるのだが、この日最大の手拍子が起こる中、最後のサビ前では観客が声出しをできるようになったことによって設けられた、タイトルフレーズのコール&レスポンスが行われ、これだけの超満員の観客がいることによって大合唱が響く。
WurtSは春にも様々なフェスに出ていたし、そこには野外フェスもいくつかあったりしたけれど、コロナ禍になってからデビューしてライブをやるようになったアーティストにとっては今年の夏は初めて観客の声が聞こえる夏だ。それがどれだけ特別なものであるかというのがその大合唱を聴いていてわかるから、その光景に感動してしまっていた。ライブ自体は何度も見ていて、この曲だって何度も聴いてるけど、この光景を見るのは初めてだったから。何度も観客に「もっと!」と求めるWurtSも、楽器を抱えて高くジャンプする新井と雲丹亀も、そして大合唱していた観客たちも、みんなこの夏の特別さと尊さは分かっているはず。
リハ.リトルダンサー
1.BORDER
2.ふたり計画
3.Talking Box
4.NERVEs
5.オブリビエイト
6.リトルダンサー
7.分かってないよ
13:10〜 This is LAST [HILLSIDE STAGE]
今年のJAPAN JAMにはBUZZ STAGEという小さいステージが新設されて、そこにたくさんの若手バンドたちが出演していたが、そのBUZZ STAGEから夏のロッキンへと続いて出演するのがThis is LASTである。会場は同じでもこの広大な芝生の上に立つというのは客席から見ていても全く違う場所で見ている感じがする。
メンバー3人だけというシンプル極まりない編成で臨むというのは変わることはないが、サポートベースがメガネをかけていたのがこの日はかけていないという変化もある中、
「千葉県柏市からThis is LASTです!」
と菊池陽報(ボーカル&ギター)が挨拶して「もういいの?」からスタートすると、やはり歌詞は女々しさ全開のラブソングであり、自分もJAPAN JAMで見た時に「ラブソング的な歌詞に共感できない」と書いたのであるが、歌詞には共感できなくても、バンドのサウンドのカッコよさはわかる。菊池のギターの歪みももちろん、歌声の太さもいわゆる失恋ソングを歌うバンドというイメージの細さとは真逆なものである。
それは元々はこのバンドがパンク・メロコア・ハードコア的な音楽をやっていたからだという下地があるからであるが、だからこそ鹿又輝直(ドラム)の四つ打ちのリズムによるダンサブルな「恋愛凡人は踊らない」も軽やかさだけではなくて力強さを持ったサウンドで観客を踊らせているし、ところどころにハッとするような強いフレーズがいくつもあるあたりも菊池の歌唱の強さを感じさせる要素になっている。
かと思えば大胆に同期のサウンドも取り入れた「カスミソウ」ではその美しいメロディがこの大きな会場の規模いっぱいに広がっていく。パンクなどの音楽をやってきたということは音はもちろん歌唱も大きな声で歌えるということであり、実際にその菊池の声量によってさらに響くものになっている。
意外なくらいの天気の良さになっていることによって、観客に注意を促しながらの簡単な挨拶的なMCをすると、その天気の良さによってこの澄み切った青空の下が実によく似合う最新シングル「ヨーソロー」はこの曲と爽やかなバンドのサウンドがこの青空を呼んだんじゃないかと思ってしまうくらいに似合っている。ライブハウスで生きてきて、これからも生きていくバンドだろうけれど、この野外の空の下だからこそ感じられるものも確かにある。
そして菊池のギターの歪みと力強いリズムとバンドの演奏が「ディアマイ」でさらにロックになっていき、客席がみんな腕を振り上げているという光景も納得できるくらいの音を鳴らすと、ラストは歌詞からMVから何までフェスで聴くと甘さ以上に飯テロにしか思えない「オムライス」が演奏され、最後のサビ前では
「オムライス食べたい」
から始まるコール&レスポンスが展開されるというのがそこに拍車をかけるのであるが、そのレスポンスの大きさはこのバンドの音楽を普段から聴いていて、ライブを見ている人たちがこのフェスにたくさん来ているということを感じさせてくれた。演奏が終わってから告知としてツアーの発表をするのも、目の前に来てくれる人に真っ先に伝えたいという思いを持ったライブバンドだからこそ。名前はLASTだけれど、これが最後じゃなくて、ロッキンでのこのバンドの物語の始まり。JAMのBUZZ STAGEに出ていたバンド全部がロッキンには出れていない中で、このバンドがこうして出演できたのはあの時に確かな爪痕を残したからだ。
いわゆるラブソング的な歌詞はやっぱり共感はできない。できないけれど、共感だけが好きになる要素じゃない。自分が1番大事にしてるのは、カッコいいかどうかということ。このバンドの鳴らす音やライブはそのカッコよさを間違いなく感じさせてくれるものであるし、今ではライブくらいでしか行かないけれど、自分にとっての学生時代からの思い出がたくさん詰まっている柏という街を背負ってくれているこのバンドを、ライブを見るたびに好きになっている。
1.もういいの?
2.恋愛凡人は踊らない
3.カスミソウ
4.ヨーソロー
5.ディアマイ
6.オムライス
13:50〜 yama [PARK STAGE]
ライブ前から「クロージングアクトみたいにこの時間、他のステージは何にもやってないんだっけ?」と思うくらいにHILLSIDE STAGE側までも観客で溢れかえる、yama。2年連続での出演であるが、状況は去年から激変している。
先におなじみの仮面をつけたバンドメンバーたちがステージに現れると、ギタリストがステージ前に出てきて音を鳴らし始め、キーボード、ベース、ドラムと他のメンバーたちの音が重なってキメを打った後に鮮やかな青い髪色で白い仮面を装着したyamaが登場すると、歌い始めたのはアニメ「SPY × FAMILY」のエンディングテーマとなった「色彩」で、まさにカラフルさを感じさせるキーボードのサウンドに乗るyamaの独特な低さの歌唱によって客席からはいきなり歓声が上がり、体を揺らす。yamaも音に乗るようにして体を動かしているのであるが、その姿からはどこか貫禄のようなオーラも感じる。
一気にキーが高くなることによってyamaの音域の幅広さを感じさせる、yamaのシーンへの登場を告げた「春を告げる」でもyamaは実に楽しそうかつ心地良さそうに音に合わせて体を揺らしながら歌い、その姿を見ているとかつてはライブに苦手意識があったと言っていたのも昔の話なんだなと思う。それはライブの数をたくさん重ねて、そこで出会ってきた人たち、見てきた景色によって変わってきたんだよなと思う。
この直前まで天気が良かっただけに、挨拶的なMCも体調に気をつけるようなものであったのだが、
「ひとりぼっちにはさせないでよ」
という震えるような、でも最後には
「ひとりぼっちにはさせないよ」
という歌詞に変化することによって強い芯を感じさせるような「Oz.」がこの会場を包み込むようにして歌われ、その歌唱は聴いているだけで胸が震えるような感覚になるのであるが、シンセがブラスのサウンドを鳴らすことによってバンドメンバーによる演奏が一気に激しさを増す「麻痺」ではライブ前までは青空が広がっていたのが一気に薄暗くなり、なんと
「通り雨 貴方の頭上に落ちていく」
というフレーズに合わせて雨も降ってくるという、まるで祈祷師のような力を発揮する。やはりこの人の歌にはそんな何かを呼び寄せるような力があると思わざるを得ないくらいの瞬間だった。すぐに雨が止んだことも含めて。
そんなyamaは最近特に歌った後に体の調子が悪かったのが、ある整体師の方に出会ったことによって回復し(SNSでも触れていたが)、それは自分の体を褒めたり労ったりするようになったからだということを語る。その話は実に怪しい感じのリアクションも客席からは起きていたが、確かに体を責めるんじゃなくて労わることによって回復したり、まだいけると思えることは確かにあるよなとこうしてフェスに全日参加している身としても思ったりする。
そんなyamaが自身で作詞作曲を手掛けた「ストロボ」は曲タイトルに合わせたように照明の光が明滅し、yamaもそれまでよりもさらに歌に感情を込めるように感じられることで、これまでは基本的には提供してもらった曲を歌ってきたyamaの表現がこれから大きく変わっていくんじゃないかということを感じさせてくれる。それはこれからはより一層、今自分が歌いたいことを歌っていくようになるだろうと思ったということ。
そうしてその声や姿からいろんなことを感じさせながらも、最後に演奏されることによって全てを掻っ攫ってしまうようにすら感じるくらいに圧巻かつ壮絶な歌唱が展開されるのは「slash」。「ガンダム水星の魔女」のオープニングテーマとしてyamaの存在をさらに広く知らしめたこの曲は、ライブで聴くと本当にとんでもないカードを手に入れたなと思うし、そんな曲がこんなに広く届いて、聴いている人の心を震わせられるのはyamaのその歌声だからこそだ。
同じように大タイアップの大ヒット曲を持つようになったLiSAやAimerのように、yamaも来年以降は間違いなくこのステージのメインステージに名前を連ねるようになると思う。でもどんなに売れて巨大な存在になっても、こうしてフェスには出続けて欲しいと思う。それはこの場所が2021年の春に初めてフェスに出たことによって、yamaが初めてライブというものの楽しさを実感できた場所であることを知っているからだ。
リハ.春を告げる
1.色彩
2.春を告げる
3.Oz.
4.麻痺
5.ストロボ
6.slash
14:30〜 鈴木愛理 [HILLSIDE STAGE]
自分は千葉県在住の千葉ロッテマリーンズファンであるだけに、中継をやっている時は極力ネット放送ではなくて千葉テレビのマリーンズナイターでロッテの試合を見るようにしているのであるが、その放送内でよく千葉銀行のCMが流れており、それに出演しているこの綺麗な人は誰だろうかと思って調べたら鈴木愛理だったという経緯があったので、見れるタイミングでライブを見てみることに。
しかしながら直前に飲食ブースで04 Limited SazabysのRYU-TAプロデュースの「麺屋おがた」のまぜそばを食べたりしていたので少し遅れてしまったのであるが、HILLSIDE STAGEに到着すると驚くくらいに溢れんばかりの観客の多さ。JAPAN JAMでも大きなステージに出ていたのは知っていたが、まさかここまでとはと思ってしまう。
肝心のライブはというと、オレンジの衣装が鮮やかな鈴木愛理はCMで見た時よりも少女感を感じさせるというか、少しアイドルグループのメンバーだったということをも思い出させるのであるが、フルバンド編成の豪華な演奏で自身のソロ曲を歌っていると、実に歌が上手い。本当にビックリするくらいに上手い。自分が幼少期の頃とは違って、今はハロプロのグループのメンバーやその出身者は実にストイックに音楽活動をしていて、確かな実力を持っているということはJAPAN JAMでモーニング娘。やアンジュルムのライブを見てわかっていたつもりだったが、まさかこれほどまでとはと思うくらいだ。
さらには自身が所属していた°C-uteの曲のメドレーではその頃からずっと鈴木愛理を応援してきたであろう方々のコールの大きさによる熱量や、客席後方でも振り付けを踊っている女性がいたりと、自分は申し訳ないことに全然曲を知らないのであるが、そんなに広く知られた曲たちであることにも驚かされてしまった。
そんな驚きは
「今日この後に出演する方々への愛と敬意を込めて」
と言って、今回はソロで出演するアイナ・ジ・エンドへ
「アイナ、大好きだよー!」
と愛を叫んで演奏されたBiSH「オーケストラ」のカバーは自分は全く関係性がわからないが、ハロプロとWACKが互いにリスペクトし合っていることによってグループとして実力を高め合ってきたということを感じさせてくれると、まさかのYOASOBI「アイドル」を天才的なアイドルとしてカバーする。もちろん観客も原曲通りのコールで応えるのであるが、こんなに難しすぎる曲を悠々と歌いこなす(ように見える)姿は、この後に演奏されるであろうYOASOBIのライブへのハードルを高くするのであるが、それはまさかのYOASOBIのライブが見れなくなるという事態をこの時はまだ全く想定していなかったからである。
そんな飛び道具的なパフォーマンスに意表を突かれただけに、結局はもしかしたらそのカバーが最も印象に残るのかも…とも思っていたが、全くそんなことがなかったのは、最後に演奏された「初恋サイダー」がめちゃくちゃ良い曲だったから。それはソロになってからの曲ではないけれど、その曲を鈴木愛理自身もファンの方々も今も大切にしていて、今の歌の表現力とバンドサウンドによって演奏することができていたから。
家に帰ってすぐにこの曲を検索してサブスクで聴いたくらいに頭の中に強く残ったとともに、もっとちゃんと聴こう、向き合おうと思った。ちゃんと曲を知りたい、この人が歌う音楽を知りたいとも思った。それくらいにこの日ライブを見たことによって、鈴木愛理は自分の中で「千葉銀行のCMに出ている人」から「このフェスに呼ばれるべきアーティスト」という存在に変わった。それは他にもそう思えるような人やグループがまだまだたくさんいるだろうということも。
16:15〜 10-FEET [LOTUS STAGE]
本来ならば10-FEETは15:35〜の出演であり、それに合わせてすでにLOTUS STAGEで待機していたのであるが、待ち時間に落雷の危険性があるということで全ステージ、全エリアの観客たちが一斉に避難することに。その際に避難エリアが屋根のない場所(テントの中だとむしろ落雷の危険性があるため)だったためにその落雷の危険性とともにやってきた豪雨によってずぶ濡れになってしまったのであるが、そんな状況からすぐに復旧して、以降のタイムテーブルが変更になりながらも、予定されていた全アクトがちゃんと持ち時間通りにステージに立てるようにしてくれたフェスの運営サイドには本当に感謝しかない。
そんな状況であるだけに、おなじみの「そして伝説へ…」のSEが流れただけでいつものフェス以上の大歓声が上がるのであるが、それは再開を信じて待っていた人たちの思いがそのまま具現化されたものであると言えるのだが、ステージに現れた3人は薄オレンジのサングラスをかけており、
「俺らのせいじゃないけど、なんかゴメン(笑)NAOKIもKOUICHIも謝りや」
とTAKUMA(ボーカル&ギター)が促して、NAOKI(ベース)もKOUICHI(ドラム)も謝ったのは、これまでに自分達が主催する「京都大作戦」でも落雷の中断などを経験してきたことによる「嵐を呼んでしまうバンド」という自負が少なからずあるからだろう。それでもサングラスがどこか悪ふざけ感が出てしまって全然真剣に謝っているように見えないというのも10-FEETならではであるが。
そんな謝罪と
「汗か涙か涎か雨かわからんようにしたる!」
という気合いが入り混じって始まったライブはいきなりの「goes on」で観客の大歓声を巻き起こす。モッシュやダイブのみならず、サークルだったり肩を組んで回ったりというこの曲でおなじみの光景は見れないけれど、それでも
「隣の知らない人とハイタッチやー!」
とTAKUMAが叫ぶと自分の隣にいた男性と目が合ってハイタッチしたりすることができたのは中断を挟んだことによってさらにライブへの渇望感があって、我々のテンションが上がっていたからだろう。
そのテンションをさらに上げるようにKOUICHIのビートが速く激しく疾走し、NAOKIの叫ぶようなコーラスも響く「1sec.」から、最近は前半で演奏されることも多くなった「RIVER」が
「利根川」「養老川」
と歌詞を変えた千葉県バージョンで演奏され、
「助けてのその一言は…」
から始まるパートではTAKUMAが観客に委ねるようにマイクの前から離れて大合唱を巻き起こす。まるで京都大作戦かのような光景ですらあるが、それはこの曲が今やあらゆるフェスのアンセムとなり、10-FEETがこのフェスのメインステージのトリを務めたりと、確実にこのフェスを担っている存在になっているからだ。そんなあらゆる人や物や場所の思いが確かに重なっていることをいつも以上に感じられるし、本人たちにもその意識があったからこそ、この合唱パートをこの日観客に任せたんじゃないかと思う。
そんな中でイントロのダンサブルなサウンドが演奏されただけで大歓声が上がったのはもちろん、今になって10-FEETの存在をさらに上のステージへと引き上げることになった「第ゼロ感」なのであるが、コーラスパートでは驚くくらいの大合唱となる。それは本当にこの曲によってこのバンドの立ち位置が変わったんだなと思えるくらいに、このバンドや他の出演バンド以外の、ソロアーティストのタオルを持った人たちすらも大合唱していたからだ。TAKUMAは
「映画の曲終わったから移動しようとしたらそこだけ豪雨になるようになってるから(笑)」
とおどけていたけれど。
するとTAKUMAは
「前にフェスで俺たちがライブやってる時に後ろから押された人がそのまま前の人にぶつかってしまって、前の人に髪を掴まれたらしいんやけど、やり返したりしなかったって。でもモヤモヤしたものが残ってたからそれをSNSに書いたりしたんやと思うけど、周りのことやそのライブのことを考えてやり返さずに我慢してくれたそいつのことを俺は本当にカッコいいと思うし、会ったらベロチューしてやりたい(笑)」
と以前フェスで経験したエピソードを語るのであるが、その人の優しさはきっとこうして10-FEETのライブを見たことで得られたものだと思うし、その時は嫌な思いをしたかもしれないけれど、TAKUMAはその思いをわかってくれてるということは伝わっていて欲しいなと思う。
そんなMCの後だからこそ、TAKUMAの心境がそのまま綴られたかのような切ないメロディとサウンドによる「アンテナラスト」がいつも以上に沁み入るし、大胆にシーケンスを導入した「ハローフィクサー」がより観客の体を踊らせてくれるのであるが、やっぱりぶち上がれるのは「VIBES BY VIBES」であり、観客も思いっきり飛び跳ねまくる。また雨が少し降ってきたりという不安定な天気ではあるけれど、そんな状況で見る10-FEETのライブがむしろ最高なものになるということはこのバンドを少しでも追ってきた人であればわかるはずだ。
そしてNAOKIの大開脚ベースプレイがスクリーンに真っ正面から映し出されて爆笑を誘っていた「ヒトリセカイ」ではNAOKIは雨で濡れているステージ左右の通路まで出て行ってまた開脚ベースを披露したり、自らKOUICHIのドラムに寄っていって、ハイハット代わりにスティックで頭を叩かれまくったりしている。それら全てが今この瞬間に目の前にいてくれる人のためのパフォーマンスであるということがよくわかる。
そんなライブの残り時間は2分半ほどということで、ギリギリまでどの曲をやるか悩みながら演奏されたのはワンコーラスのみの「CHERRY BLOSSOM」で、雨に濡れて重くなっているであろう(自分はそうだった)中でも客席ではタオルが舞い上がるのであるが、それでも時間がなくてKOUICHIのドラムがファストコアパンクかと思うくらいに超速になっていたのは笑わざるを得なかったのであるが、それでも数秒だけ時間をオーバーしたことによって、TAKUMAはライブ後に謝りに行くことを決意しながら急いで去って行った。
もちろん「第ゼロ感」の大ヒットもあったけれど、それがある前から10-FEETはフェスを主催し、このフェスでトリを務めるくらいに巨大なバンドであり続けてきた。それはやはりかつての雷雨の中での京都大作戦など、これまでにもこうした逆境の中でこそ伝説的なライブができるというバンドの底力がそうさせてきたのだ。改めてそれを実感するとともに、来年はどんなに雨が降ろうがなんだろうがまたあの太陽ヶ丘のステージに立つ3人に会いに行きたいと思った。
1.goes on
2.1sec.
3.RIVER
4.第ゼロ感
5.アンテナラスト
6.ハローフィクサー
7.VIBES BY VIBES
8.ヒトリセカイ
9.CHERRY BLOSSOM (超速ワンコーラスのみ)
17:00〜 ASIAN KUNG-FU GENERATION [GRASS STAGE]
10-FEET同様にこのフェスのメインステージのトリを務めた経験のあるアジカン。そんなバンドたちがこの夕方の時間に出ているというあたりにこの日のラインナップの凄まじさを実感するのであるが、直前のKANA-BOONとの対バンが伊地知潔(ドラム)のコロナ感染によってキャンセルになっただけに心配していたが、なんとか出演できることに。その潔のプロデュースによるフェス飯ブースももはやバンドとともにロッキンオンのフェスの常連と言える存在である。
Georgeとアチコという近年おなじみのサポートメンバー2人とともにSEもなくメンバーがステージに登場すると、その2人もキーボード、シンセを駆使してイントロの浮遊感のあるサウンドを構築し、ゴッチ(ボーカル&ギター)と喜多建介(ギター)がギターを鳴らすと大歓声が起きて観客が「オイ!オイ!」と拳を振り上げる、今やイントロの長さがネタになるようになってしまったアレンジでの「Re:Re:」からスタートすると、やはりその演奏している姿を見ていて「君じゃないとさ」と思わざるを得ない。それは潔がコロナに感染して出演が危ぶまれたからでもあるのだが、山田貴洋(ベース)も客席を眺めて笑みを浮かべるようにしながら演奏しているように見える。
するとゴッチがシャープなギターを鳴らして始まるのはもちろん「リライト」であるのだが、ワンコーラス演奏が終わると凄まじい音量の歓声と拍手が沸き起こる。それはここにいる人たちが本当にアジカンを待っていたということであり、その客席を見て笑顔になる喜多の顔がさらに我々を嬉しくさせてくれるのであるが、間奏のダブパートではゴッチが挨拶しながら、
「みんなそれぞれ誰の真似もしなくていいから、好きに楽しんで」
と観客に告げておなじみのコール&レスポンスをしてから最後のサビへと突入して大合唱を巻き起こす。真似をしているわけではないけれど、やっぱりフェスで演奏されるこの曲はみんなで歌いたくなるのである。
さらにはゴッチが鳴らすギターのイントロで大歓声が上がった「ソラニン」ではサビ前でGeorgeが流麗な鍵盤捌きを見せ、サビではアチコのコーラスが重なるという、今やこのメンバーたちの存在がアジカンのライブに欠かせないものであることを感じさせると、さらにイントロで大歓声が上がったのは「ぼっち・ざ・ろっく」で主人公(そもそも主人公たちバンドメンバーの名前がアジカンメンバーの名前のもじりである)がカバーして大きな話題を呼んだ「転がる岩、君に朝が降る」までもが演奏される。元々リリース時からファンにとっては特別な大名曲であったが、そんな曲に今になってこんなに光が当たるとは全く思っていなかった。それでもまたこうした形でアジカンの音楽が若い人たちに広まっていくのを1ファンとして心から嬉しく思うし、雨がまた降ってきた中でのこの曲はアジカンを愛する人たちが周りにいてくれることによって、自分の孤独を全て洗い流してくれるかのようですらあった。
そんな雨が降っていて、さっきまでの豪雨も見ていたであろうゴッチは
「生きてこそ、命があってこそのロックフェスだから。みんな、無理しないでね」
と観客に優しく呼びかけてくれる。そこには社会の様々な問題と向き合ってきて、いろんな人に出会ってきた、その人たちを支援する活動をしてきたゴッチの優しさが確かに滲んでいた。
そんなアジカンは今年かつてのアルバム「サーフ ブンガク カマクラ」の完全版をリリースしているのだが、その先行シングルとしてリリースされた「柳小路パラレルユニバース」はこの流れで聴くことによってそのパワーポップサウンドが他の代表曲たちとはまた違うアジカンらしさであることを感じさせてくれる。それを時には歌詞に合わせて身振り手振りしながら歌うゴッチも、ギターソロを弾きまくる喜多も本当に楽しそうである。
そして潔のドラムのイントロに合わせて客席から手拍子が響くのはおなじみの「今を生きて」であり、ゴッチだけならずこの曲では喜多のハイトーンコーラスが実に映える中で、合いの手的なパートでは観客の声までもが響くのであるが、それがどれだけ雨が降っていてもアジカンのライブが楽しいということを実感させてくれると、最後にはゴッチがハンドマイクを持ってポエトリー的なボーカルも見せる「Be Alright」。アチコがタイトルフレーズをリフレインし、メンバーがみんな笑顔で演奏していることによって、やっぱりアジカンがいればBe Alrightだなと思う。それは演奏後に6人で前に出てきて肩を組む姿から最も強く感じられるものであり、今年これから回る「サーフ ブンガク カマクラ 完全版」のツアーも本当に楽しみだ。なんだか、オリジナル版がリリースされた10年以上前のように、いや、今はもうそれ以上にワクワクしている。
そう思えるのはアジカンが大御所的な存在になっても、こうしてフェスの最前線で戦い続けているから。思えばデビューからずっと聴いていたアジカンのライブを初めて見たのも2004年に初めてこのフェスに来た時で、その時にはゴッチがメガネを壊してレンズがなくなった状態でライブをしていた。後に「鵠沼サーフ」を演奏して客席が凍り付いた状態になったりしたのも見てきた。もちろんGRASS STAGEでの大トリも。またいつか、いや、できれば来年のひたちなかでまたそれが見たいくらいに、アジカンじゃないとさ。
1. Re:Re:
2.リライト
3.ソラニン
4.転がる岩、君に朝が降る
5.柳小路パラレルユニバース
6.今を生きて
7.Be Alright
17:50〜 sumika [LOTUS STAGE]
すでに初日にも2アクトの代打として本隊とsumika [camp session]で出演しているだけに、1年で3回という、かつてユニコーンとソロバンドと弾き語りなどの形態で出演していた奥田民生のごとき存在になりつつある、sumika。それはひとえに片岡健太(ボーカル&ギター)のこのフェスへの愛の強さによるものであるが、この日この時間が当初の予定通りの出演スロットである。
メンバーがステージに現れると、片岡は真っ先に
「あなたの声を聞かせてください!」
と言って「「伝言歌」」を演奏するのであるが、そのサビ前にも
「夏フェスでじゃない!ROCK IN JAPANで歌いたいんだ!」
と叫んでこのフェスへの強い思いを感じさせる。その思いに応えるかのような大合唱は初日の時とはまた違う。初日は代打として出れなくなったアーティストの想いを背負うようにして演奏していたけれど、この日はただひたすらに真っ直ぐにこのフェスへの思いを伝えようとしているし、そこには中断があっても続けることを選んでくれたこの日への感謝という思いも少なからずあったんじゃないかと思っている。
「伝えたい 今の私の半分以上が
あなたで出来ていたと気付いたから」
というフレーズもこのフェスで聴くとまた少し違う意味合いを感じるかのような。それくらいにこのフェスに片岡は強い思い入れを持っているのである。
なので続いて演奏されたのが「Lovers」という怒涛の名曲の連打っぷりであるのだが、その曲のリフをホーン隊が演奏していて、おなじみの岩村乃菜(コーラス)だけではなくて、ギターも務める三浦太郎(フレンド)らによるコーラス隊も含めた、まるで横浜スタジアムワンマンの時を思わせるかのような大所帯編成。もちろんギターが初日同様に上口浩平だったり、キーボードもサングラスをかけたクールビューティーなKAYO-CHAAANだったり、ベースが須藤優だったりと、あの日を経てのものになっているところももちろんあるのだが、それでも自分達が今できることの最大値でこのフェスに恩返ししようという強い意志が感じられる。だからこそこの日の「Lovers」は本当に幸せな空気に満ち溢れていた。
しかしながら片岡はギターを持ちながら、雨に濡れたことによって観客が100%の元気がないんじゃないかと心配して、そんな観客を復活させるようにして「ふっかつのじゅもん」を演奏する。小川貴之(キーボード)が観客を煽るようにコーラスをしながら、間奏ではやはり片岡がステージ前に出てきてギターを弾きまくる。それはもはやおなじみになりつつあるし、これから先にもっとそう思うようになっていくのだろうけれど、それでもやはり少ししんみりしてしまうところもまだあったりする。片岡が弾かなければいけなくなった部分なんだよなと。
しかしそんな空気を吹き飛ばすように、片岡と小川がタオルを持ち、観客にもタオルを持つように促して演奏された「マイリッチサマーブルース」ではその片岡と小川がタオルとともにハンドマイクを持ち、前半が片岡、後半が小川というツインボーカルというアレンジで演奏されるのであるが、小川が歌っている時に片岡がタオルで小川をバシバシ叩き、小川もそれに反撃しているのが実に楽しいのであるが、片や下手側では荒井智之(ドラム)と須藤が黒サングラスをかけて演奏して2人で笑い合っていたり、コーラス隊やホーン隊もステージ前まで出てきてわちゃわちゃしていたり…誰よりもメンバーたちが楽しんでいることによって、雨に濡れたりした我々観客をもっと楽しくさせてくれる。それはあの横浜スタジアムの時と同じだ。振り回されるタオルが雨に濡れて重くなっているのも含めて。あの時のことをきっとこれから先もずっと忘れることはないように、この日のこのライブもきっと最高に楽しかった夏の思い出として残っていくはずだ。
そんな楽しさから一度クールダウンするように演奏されたのはsumika [camp session]名義でも演奏されていた「Summer Vacation」であれのだが、座って演奏していた[camp session]とは違い、やはり片岡はハンドマイクでステージ上を歩き回りながら歌うのであるが、それもどこかいつも以上に左右の通路の端から端までを歩きながら演奏していたようなイメージだ。それは全ての方角にいる観客のことをしっかり自分の目で見るかのように。
さらには片岡がギターを持ち、スクリーンには歌詞が次々に映し出される演出で演奏されたのはsumikaのメンバーたちの心のように真っ直ぐなバラード曲「透明」。それはこのフェスのメインステージで歌うことによって、
「愛している あなたを」
というフレーズがこのフェスそのものであり、そこに集まった我々一人一人であり、かつての片岡少年に対して歌われているかのように響くのである。
しかし、何故そんなにこのフェスが特別なのか?それを片岡は
「専門学校2年生の時に、就職前の最後の思い出作りと思ってこのフェスに遊びにきました。1日いろんなアーティストのライブを見て、やっぱり俺は音楽をやって生きていきたいと思った。
たった1日で変えられた価値観が20年続いてる。そんな日を俺たちがもう一回作れないはずがねぇっ!」
と、驚いてしまうくらいに感情を爆発させるようにして改めて自分の人生がこのフェスに来たことによって変わったことを語ると、ありったけの思いを込めて「Shake & Shake」が演奏され、ハンドマイクでステージを歩き回りながら歌う片岡は小川に水を飲ませてあげたりするのであるが、2コーラス目のBメロでは荒井も立ち上がって思いっきりドラムを叩きながらサビで大合唱を起こし、やはり片岡は
「むしろ大好きだぜ!」
と笑顔で叫ぶ。そこにはきっと他のどの場所、どのステージでも見れないような喜びが宿っていた。
そして片岡が再びギターを手にして最後に演奏されたのは最新シングルにして、図らずもバンドの新たな旅立ちを感じさせるものになってしまった「Starting Over」。やはりメンバーだけではなくて観客の大合唱も響いたこの曲を聞いていて、片岡にとって人生を変えられたこの場所はもうバンドが帰ってくるべき場所になったと思った。夏フェスシーズン真っ盛りの中で、毎ライブメンバーや編成を変えながら5日間で3回の出演を果たしたsumikaは自分達が救われたフェスを救った存在になった。専門学校時代にこのフェスでBUMP OF CHICKENのライブを見てミュージシャンとして生きていくことを志した片岡少年に「いつかあなたはこのフェスのメインステージに一年で3回も立つようになる」って言ったら信じるだろうか。きっと、全然信じないなんてことはないんじゃないかと思う。
自分は片岡のようにステージに立ちたいと思うようにはならなかった。けれど、同じように自分も初めてこのフェスに来て人生が変わった。価値観を変えられた。片岡と同じように、それが20年近くずっと続いているのだ。だからこそおこがましくも、自分は片岡を「バンドをやっていた世界線の自分」だと少しは思っているし、片岡はバンドをやっていなかったら自分のように生きているんじゃないだろうかと思ったりもする。そんなこのフェスによって人生を変えられた仲間だと思っているから、これからもずっとこのフェスで、来年は我々の人生が変わった場所である、ひたちなかで会えるように。
1.「伝言歌」
2.Lovers
3.ふっかつのじゅもん
4.マイリッチサマーブルース
5.Summer Vacation
6.透明
7.Shake & Shake
8.Starting Over
18:30〜 Vaundy [GRASS STAGE]
春のJAPAN JAMでは全アーティストの中で大トリを務めた、Vaundy。今年のロッキンではその大トリの前であり、GRASS STAGEの最後のライブアクト(クロージングDJはあるけど)として登場。もはや完全にこのフェスにおけるボスキャラの1人になっている。
時間になると去年は顔はハッキリとは映っていなかったけれど、歌う姿が映し出されていたステージ両サイドのスクリーンにはアーティストロゴが映し出されているだけなので、ステージを直で見ないとその姿が見えないのであるが、人が多すぎるかつまた雨が降ってきているという状況によって実にステージが見づらい。そんな中でもおなじみのバンドメンバー(トップバッターのimaseとトリのVaundyでともにドラムを叩くboboは凄い)が演奏する中でVaundyが体を動かしながら歌う「恋風邪にのせて」でスタートすると、その歌声の聖なる力を改めて感じさせてくれるような「そんなbitterな話」、さらにはギターのリフもメロディも超絶キャッチーなことによって観客も雨の中で口ずさみながら体を揺らす「Tokimeki」と、前日のあいみょんがそうであったようにもはやどの曲を歌っても大ヒット曲の連発になるという無双状態で、こんなに広いステージに溢れかえるくらいに観客が集まっているというのもよくわかる。
「こっからまだまだ熱くいくぜ?」
と観客に不敵に問いかけながらも、むしろクールなサウンドとVaundyの美しい歌声についつい聴き入ってしまう「napori」から、Vaundy自身が音に乗るように体を動かしながら歌う姿がまさにタイトルを表しているかのような「踊り子」と続くと、明らかに視界に雨がハッキリと映るくらいに強さを増していくのであるが、この日も最大級の神聖さを持って光輝くように響いた「しわあわせ」をその状態で聞いていたら、むしろその雨すらもこの男が呼び寄せた自然の演出なんじゃないかと思えてくる。やはりこの男の歌にはそんな人類の力を超えたものが宿っているんじゃないかと改めて思うのである。
ムーディーかつ不穏なコーラスパートからサビで一気に飛翔していくかのような歌唱が何度聴いても素晴らしい「不可幸力」を歌うと、Vaundyはステージ前まで出てきて、
「めちゃ雨降ってるじゃん!」
と驚きながらも、そんな雨を全く意に介さないようにステージ左右の通路を雨に打たれながら歩き回って歌うのはど迫力のロックサウンドとVaundyの歌声がぶつかり合いながらこちらに迫ってくる「CHAINSAW BLOOD」であり、そのタイトルフレーズを一緒に歌いたいと思ってもさすがに歌えないくらいの歌の凄みを放っている。
そんな「CHAINSAW BLOOD」以降は雨に濡れた寒さや冷たさを吹き飛ばしてくれるかのように、Vaundyがポーズを取るようにしながら思いっきり感情を込めるようにして歌う「裸の勇者」、サウンドの迫力っぷりもVaundyの押し寄せてくるような歌唱も歌詞の通りに聴いているこちらがなんだか追い込まれているようにすら感じてしまう「泣き地蔵」と、ここに来てのアッパーな曲の連発っぷりはあらゆるフェスや対バンに出演しながらも自身のワンマンツアーも規模を拡大しながら回ってきたVaundyの今のフィジカルの強さを感じさせるのであるが、やっぱりVaundyは
「さすがに疲れてきた(笑)」
と言いながらも、
「みんな、元気を貰いにライブに来てると思ってるだろ?逆だぜ。アーティストがみんなから元気を貰いに来てるんだぜ」
と言うあたりは不敵さはありながらも、Vaundyにとってのライブというものの捉え方がまた少し変わってきたんだなとも感じられる。
「俺は元気だけど(笑)」
と、自身は他のアーティストとは違うことを感じさせるあたりもさすがVaundyであるが。
そして袖でスタッフたちも曲に合わせて楽しそうに踊っている姿が雨が降る中でも我々をさらに楽しませてくれる「花占い」から、合唱したくてもこの曲をこんなに見事に歌いこなせるのはVaundyだけだろうと毎回思う「怪獣の花唄」と、最後の最後にそのVaundyの声を張り上げた瞬間に感じられるカタルシスを体感させてくれるキラーチューンによって締められたかと思いきや、なんとアルバムのリリースを告知してから、その中に収録される新曲を最後に演奏するという予想だにしないラスト。
しかもその曲がサビで
「Hey now」
と歌われる、Oasisを彷彿とさせる(既存曲で1番近いものを挙げるならば「benefits」になるだろうか)、雄大かつ荒々しさも共存するような、そのサウンドだけでカッコいい!と思わざるを得ないようなロックナンバー。
アルバムはそうした新曲から既発曲に至るまで、あらゆるVaundyの要素を詰め込んだものになるだろうけれど、そのリリースペースの凄まじさと、そんな速さなのに百発百中の名曲っぷりは恐ろしさすら感じてしまう。このフェスの5年後や10年後にVaundyは果たしてどんな位置で、どんなライブを我々に見せてくれるのだろうか。それがこんなにも想像できないアーティストは他にいない。
1.恋風邪にのせて
2.そんなbitterな話
3.Tokimeki
4.napori
5.踊り子
6.しわあわせ
7.不可幸力
8.CHAINSAW BLOOD
9.裸の勇者
10.泣き地蔵
11.花占い
12.怪獣の花唄
13.新曲
19:30〜 ROTTENGRAFFTY [HILLSIDE STAGE]
落雷の危険による中断によってタイムテーブルが変わったことによって自分の予定も変更。本来ならば被りがない時間だった大トリのYOASOBIの真裏になってしまった、HILLSIDE STAGEのトリのROTTENGRAFFTYから、PARK STAGEのトリのPEOPLE1という流れへ。そんなタイムテーブルなので、集まっている観客はこのバンドのTシャツや京都大作戦のTシャツを着た、興味本位0の、ガチでこのバンドが見たくてこの場所にいるという人しかいないくらいに熱量が凝縮されたものになっている。
しかしながらVaundyが終わった瞬間に始まるというタイテのため、急いでHILLSIDE STAGEまで向かって着いた時にはすでにメンバーがステージに登場しており、NAOKI(ボーカル)の気合いの一言とともに「ハレルヤ」が演奏されていたのであるが、その曲に込めた思いによるものなのか、つい数分前まであれだけ降っていた雨がすっかり止んでいる。その瞬間に、10-FEETがそうであるように盟友であるこのバンドもまたこうした逆境的な状況の中で伝説のライブを作ってきたバンドだということを思い出す。
NOBUYA(ボーカル)のガイドによって、コーラスフレーズでは侑威地(ベース)も合わせるように腕を頭の上で左右に振るのが客席に広がるのも、コーラスフレーズの大合唱も完璧なのはやはりこのバンドへの熱量が高い観客しかいないからというのもあるだろうけれど、その「夏休み」がまさに今が夏休み真っ只中であることを夏の野外フェスだからこそ実感させてくれると、イントロから手拍子が鳴り響き、ボーカル2人の大ジャンプによって始まるのは「THIS WORLD」であるのだが、NOBUYAはこの日は客席に突入して歌うことができないことを告げながら、
「俺たちロッキン大好きやねん!いろんなルールあるの本当は嫌やで?でも来年も再来年もずっと出たいし、この場所が潰れて欲しくないからみんなにもルールを守って欲しいって思ってる」
と、このフェスのルールを理解し、それを守った上で楽しもうということを告げる。それはやはり言葉通りにこのフェスへの愛がなければできないことであるし、その思いが全て音にこもっているからこそ、そうしたモッシュやダイブがなくても最高にカッコいい、楽しいと思える。思い返せば他の同世代のバンドからかなり遅れて、まだ広くなる前のひたちなかのPARK STAGEに出演した時にNOBUYAは
「俺たちをGRASS STAGEまで連れて行ってくれー!」
と言っていた。場所やルールが変わっても、あの時からずっと、このバンドのこのフェスへの愛と憧れは変わっていないんだろうなと思った。
そんなこのフェスへの思いが音の強さではなくて視覚的に現れるのは、NOBUYAがスマホライトを観客に掲げさせることによって美しい光が輝く「ハロー、ハロー」であるのだが、去年は自身がコロナに感染してしまったことによって出演出来なかったHIROSHI(ドラム)もスティックを左右に振る。それはこうしてこのフェスのトリ、夜の時間を任されたバンドだからこそできることでもある。
そして同期のダンサブルなサウンドも響く中で始まった「D.A.N.C.E.」ではNAOKIが指示することによって一度深くその場にしゃがんでからの大ジャンプという光景が現れることによって、さらに我々のテンションをぶち上げてくれるし、MASAHIKO(サポートギター)も実に生き生きとした表情で演奏しているように見える。
そして最後に演奏されたのはもちろん「金色グラフティー」であり、曲始まりから観客の大合唱が響くのであるが、決して超満員とは言えないような状況でも大合唱と言えるような声が響いていたのは、やはり一人一人がありったけの思いを込めて力のかぎりに歌っていたから。それを引き出したのはもちろんバンドの演奏だ。最初にNOBUYAは
「この時間まで残ってくれて、俺たちを選んでくれてありがとう!」
と言っていたが、激しい雨と中断まであった中で自分たちのライブを見るために残ってくれていた観客への想い、ずっと出演させてくれるこのフェスへの想い、自分たちが1番かっこいいということを証明しようという想い。そんな全てが鳴らしている音に乗っていた。そんな音を鳴らすことができるからこそ、自分はロックバンドが1番カッコいいと思っているし、年間何度もフェスやイベントで見ているロットンがこの日1番ライブを見て良かったと思えた。そんな生き様がカッコ良すぎて本当に感動していたら、後ろにいた女性2人組が「泣いちゃった」と言っていて、その気持ちがわかるなと思った。
去り際に口にしていたが、ロットンは年末に京都超特急(ポルノ超特急から名前が変わった)というフェスを主催している。かつてロッキンオン社長の渋谷陽一は「年末にフェスをやるのは無理だと言われていた」と年末のCDJの前説で何度も言っていた。
ロッキンオンとロットンは、そう言われていた年末フェスを開催している同士。しかもロットンは自分たちが主催フェスをやった直後でも毎年CDJに欠かさず出演してきた。だからこそロッキンオンもロットンを愛しているし、ロットンもロッキンオンを愛している。このフェスにおける特別なバンドがまた増えた。それくらいにこの日を掻っ攫ったのはロットンだった。
1.ハレルヤ
2.夏休み
3.THIS WORLD
4.ハロー、ハロー
5.D.A.N.C.E.
6.金色グラフティー
20:10〜 PEOPLE1 [PARK STAGE]
タイムテーブルが変わったことによって、このバンドの出演時間自体は変わらないけれど、YOASOBIが後にズレて丸かぶりという実に厳しい状況になってしまった、PEOPLE1。しかし自分はこのバンドで今年のロッキンを締めると決めていたために、YOASOBIを見ないでこのバンドを見る選択をしたのだ。
ステージにはバンドのロゴ的なオブジェも置かれている中でおなじみのサポート2人も加えた5人編成で登場すると、ステージ下手のTakeuchi(ドラム)が力強くドラムを連打しまくって気合いを感じさせると、Ito(ボーカル&ギター)の独特なハイトーンボーカルが響く「銃の部品」からスタートするのであるが、おなじみの長い髪を靡かせるサポートギターの方が後方からステージ中央まで走り出てきてギターを弾きまくるという、ステージに立っている5人全員での強い気合いを感じさせるし、サポートベースとTakeuchiの演奏の強さによってライブならではのスピード感を感じさせてくれる。
するとDeu(ボーカル&ギター&ベースなど)がハンドマイクを持ってヒップホップ的な影響の強い歌唱を始めただけで大歓声が起こったのは「チェンソーマン」のエンディングテーマの1曲に起用された「DOGLAND」であり、そのタイプが全く異なるDeuの歌声とItoの歌声が重なることによる魔法の心地はこのバンドでしか体感できないものであるし、そこにはやはりこのメンバーたちで積み重ねてきたからこそのライブ感を確かに感じさせる。本当に凄いバンドがそれに見合う曲を得たんだなと思う。
そんなこのバンドだからこその魔法を曲として感じさせてくれるような「魔法の歌」はItoの歌声からも人間としての温もりや優しさを確かに感じさせてくれるような、シンプルにそのメロディが響いてくる曲であり、それはこの5日間の最後のアクトとして聴くことによって、このフェスに参加した全ての人を労い、労ってくれるようにも響いている。
そんなこのバンドが早くもリリースした最新曲「closer」はそのタイトルであるだけに、このフェスを締めるようなエンディングテーマのように響くのは内省的かつ自問自答的なDeuのボーカルから始まり、サビで一気にパーティーのような高揚感を持って聴き手を肯定してくれる曲だ。Takeuchiはデジタルドラムを叩いたりとメンバーの編成が目まぐるしく変わっていくのもこのバンドのライブならではであるが、
「何食わぬ顔で手を取り合って
なんとかなるって伝えたいんだ」
というフレーズはこうしたフェスの空間、ライブの空間で響かせるために生み出されたようにすら思えてくる。
そんなサビでのパーティー感を引き継ぐように演奏されたのは、Deuが忙しなくステージを動き回りながら歌い、Itoも観客も飛び跳ねまくる狂乱チューンの「怪獣」であるのだが、初のフェス出演となった昨年のJAPAN JAMから演奏されてきたこの曲もライブで磨かれてきたことによってミクスチャー感がより強くなったなと思う。それはそのままこのバンド自身が怪獣のような巨大な存在になったということである。
ここまではひたすらに曲を連発してきたのだが、Itoは最後のアクトとして
「YOASOBIさんと被ることになっちゃったけど、この最終日のクロージングアクトっていうのは今年の5日間と来年のこのフェスを繋ぐための存在だと思ってる。そこで最高のライブをやるっていうのが僕らの意思表示です」
と、このフェスを来年に繋げようという意思を口にする。まだ2回目の出演だが、JAPAN JAMも含めるともう4回もこの蘇我でライブを行っている。そんなバンドとしてこのフェスをこれからも背負っていこうという意志や覚悟を確かに感じられるし、
「みんなの未来に光を照らせるように」
と言ってItoが歌い始めた「常夜燈」でDeuはスマホライトを掲げると、それがすぐに広がっていった客席に向かってグッと親指を突き出すのであるが、YOASOBIと被ってしまったことによって前日までの4日間のクロージングアクトのように2ステージ分溢れかえるくらいにはならなかったけれど、それでもこんなにたくさんの人がこのバンドを最後に選んで、こうして美しい光景を描き出している。自分は去年JAPAN JAMで初めてこのバンドのライブを見てこの曲を聴いた時に「これからロッキンオンのフェスのアンセムとして響くようになる曲」と書いたが、それはわずか1年ちょっとで現実になった。それをこの景色が証明していた。
そしてDeuが
「俺たちを最後に選んでくれてありがとう!今年のロッキン最後の曲!」
と言って演奏された「東京」は、フィクション的な情景を描くことが多いこのバンドのリアルな心境が綴られた曲だと思っている。だからこそ、ああ、今年ももう終わって行ってしまう、本当に楽しい5日間だったな…と今年のこのフェスで見てきたあらゆる名シーンが頭の中にフラッシュバックしてきて、思わず泣きそうになってしまった。そんな自分に喝を入れるかのように、最後にTakeuchiが力強くドラムを連打して、客席に手を挙げて応えてから走ってステージを去って行った。来年からは間違いなくメインステージで会うようになるだろうけれど、今年がクロージングアクトだったからこそ、繋いだ存在として、来年はメインステージのトップバッターとして会えたら本当に嬉しいと思っていた。
あまりインタビューなどの発言が載らないバンドであるだけに(rockin'on JAPANにもインタビューは載っていない)、実体が見えないバンド的に紹介されることも多い。でもこうしてメンバーの姿や顔が見えるライブを見ると、そこからはこれ以上ないくらいの人間らしさを感じることができる。それは鳴らしている音の全てに感情が宿っているということ。凄まじいスピードで支持を広げているのは、彼らの曲を聴いてライブを見ている人たちがそういうバンドだとわかっているからだ。PEOPLE1がクロージングアクトで良かった。このバンドを最後に選んで本当に良かった。大好きなこのフェスを来年に繋いでくれて本当にありがとう。
リハ.エッジワース・カイパーベルト
1.銃の部品
2.DOGLAND
3.魔法の歌
4.closer
5.怪獣
6.常夜燈
7.東京
5日間を無事に走りきったことを祝して稲里の枡酒を飲みながら、来年もここで、そしてひたちなかのみなと屋でもこうして余韻に浸っていたいと思っていた。
人生において欲しいものはそんなに多くない。仕事における出世や権力も欲しくないし、友人も手で数えられるくらいでいい。金だって分不相応なくらいにはなくていい。ただ、このフェスに毎年こうやってフルに参加できるような人生でありたい。それは2004年に初めてこのフェスに参加した時に思ったことと全く変わっていない。
11:50〜 imase [HILLSIDE STAGE]
前説のrockin'on JAPAN編集長の山崎洋一郎が「ロッキンどころかフェス自体初出演、そもそもライブやるのもまだ7回目くらいだから、俺もどんなライブになるか全然わからない」と紹介した、imase。ライブ経験は浅くても今やCMなどでやたらとその声を耳にする存在である。
その前説中にメンバーが登場して前説終わりで演奏を始めてからimaseがステージに登場。なんだかその姿はその辺りにいる大学生というくらいに自然体であるが、「Nagisa」からスタートすると、特段海が近いわけでもないこの蘇我スポーツ公園が一気に海沿いであるかのように感じてしまうくらいにそのハイトーンボイスは魔法のように情景を喚起させてくれる。それを至って軽やかに歌っているというあたり、普通なようでいて只者ではないということがよくわかる。
それはこのまだ明るい晴れた空の下で歌われることによって青春感を感じさせる「僕らだ」では声から少年性を感じさせてくれるのであるが、Vaundyなどのライブメンバーでもあるboboによる細かいハイハットの刻みなど、ライブ経験は浅くとも強力なメンバーによってその曲が鳴らされており、ムーディーかつスムースなアーバンサウンドの「Pale Rain」ではギターのモリシー(Awesome City Club)の得意とするところであろうし、人選も抜群の目利きというか、自身の音楽を最も理解して解像度高く演奏してくれる人が集まっていることがよくわかる。
実はimaseは昨年は見る側としてこのフェスを訪れており、それが見る側としてのフェス初参加だったというが、それがわずか1年でこうして出る側になったことを本人自身がビックリしていたのであるが、メジャーデビュー曲である「Have a nice day」はその急激な状況の変化もまぁそうなるだろうと納得してしまうくらいのキャッチーさを持った曲であるし、例えばCMや TVから流れてきてもその声を聞くだけで「あ、これimaseの曲だな」と思ってしまうくらいの強い記名性を持っていて、それがフェスという場でも最大限に発揮されている。
それは本人も心地良く体を動かしながら歌う「Night Dancer」でもそうであるが、本当にライブをまだ数本しかやったことがないのだろうかというくらいにそこに未熟さを感じられない歌唱を見せてくれるからでもある。特にファルセットの実に自然な出し方も含めて、ただ歌が上手いというだけでは言い表せないような天才的なオーラを感じさせる。それは全くボーカリストとしての歌い方やタイプは違うけれど、boboがサポートということもあってVaundyが出てきた時、初めてライブを見た2年前を思い出さざるを得ない。
そんなimaseが曲中に実に軽やかにメンバー紹介をし、モリシーのギターソロでは背中を合わせてエアギターまでするという、ライブ経歴逆詐称してるんじゃないかというくらいに堂々たるパフォーマンスを見せるのは、この日この場所がまさにそうした場所であるということを歌うかのような「ユートピア」で、これからimaseが自身のライブでそうした空間を作り続けて増やしていくことになるんだろうなと思った。
それはこのライブをトップバッターでありながらもたくさんの人が見にきていたからであり、このペースで曲をリリースして行ったら来年はどこに立っているのだろうかと思う。
1.Nagisa
2.僕らだ
3.Pale Rain
4.Have a nice day
5.NIGHT DANCER
6.ユートピア
12:30〜 WurtS [PARK STAGE]
始まる前からHILLSIDE STAGEの方まで観客で埋め尽くされるくらいの超満員。実はこのフェスには初出演であるWurtSの現在の位置がわかるというか、ワンマンをやればZeppクラスでもチケットが取れず、他のフェスではアリーナ規模のステージに立っているだけに当然であるとも言える。
今まではうさぎDJ→バンドメンバーの順番で出てくることが多かったが、この日は逆に先にバンドメンバーと帽子型の仮面を被ったWurtSが先にステージに出てきてからうさぎDJもステージに現れると、半袖Tシャツに物販で販売されているバスケユニフォームを着ており、その意外な腕の細さに少し驚かされると、そのうさぎDJもターンテーブルを操作するようにしてメンバー全員が音を合わせるようにして鳴らすと、WurtS(ボーカル&ギター)と新井弘毅(ギター)の轟音ギターによる「BORDER」からスタートし、そのまま「ふたり計画」へと繋がっていくというロックな流れは最近のフェスなどでもおなじみの流れであるが、WurtSの感情を感じさせるような歌声はさらに強くなっているし、それは新井と雲丹亀卓人(ベース)が楽器を抱えてジャンプするという熱さを見せてくれていることによるものかもしれないとも思う。
WurtSがハンドマイクになると、観客とともに手拍子のリズムから徐々に高まっていく「Talking Box」で観客を飛び跳ねさせまくるのであるが、後ろを見てもスクリーンに映る客席を見ても、何でこれでメインステージじゃないんだと思うくらいの超満員っぷり。サウンドは曲ごとにガラッと変わるし、この曲に関してはダンスミュージックと言えるものであるが、WurtSの音楽が確実に時代を捉えている。
しかしながらWurtSの挨拶的なMCは少し噛み気味で新井と雲丹亀に苦笑いされるというのもまたこのメンバーの関係性と素顔がハッキリとは見えないWurtSの人間らしさを感じさせてくれるのであるが、どちらかというと初期にあたるだけに新井のギターを軸にしたギターロックな「NERVEs」から「オブリビエイト」と続く流れから、その間では袖に引っ込んでいた(暑さ対策?)うさぎDJがステージ前に出てきてまさにダンサーのように踊り、WurtSもハンドマイクでステージ左右に歩きながら歌う「リトルダンサー」はもしかしたらPEOPLE1のメンバーが出てきたりするんじゃないか…とも思っていたけれど、さすがにトリということでそれはなかったが、それでもWurtSのヒップホップ的な歌唱の心地良さによって気持ちよく体が揺れる。
そして新井のイントロのギターが鳴らされただけで大歓声が起きたのはもちろんラストの「分かってないよ」であるのだが、この日最大の手拍子が起こる中、最後のサビ前では観客が声出しをできるようになったことによって設けられた、タイトルフレーズのコール&レスポンスが行われ、これだけの超満員の観客がいることによって大合唱が響く。
WurtSは春にも様々なフェスに出ていたし、そこには野外フェスもいくつかあったりしたけれど、コロナ禍になってからデビューしてライブをやるようになったアーティストにとっては今年の夏は初めて観客の声が聞こえる夏だ。それがどれだけ特別なものであるかというのがその大合唱を聴いていてわかるから、その光景に感動してしまっていた。ライブ自体は何度も見ていて、この曲だって何度も聴いてるけど、この光景を見るのは初めてだったから。何度も観客に「もっと!」と求めるWurtSも、楽器を抱えて高くジャンプする新井と雲丹亀も、そして大合唱していた観客たちも、みんなこの夏の特別さと尊さは分かっているはず。
リハ.リトルダンサー
1.BORDER
2.ふたり計画
3.Talking Box
4.NERVEs
5.オブリビエイト
6.リトルダンサー
7.分かってないよ
13:10〜 This is LAST [HILLSIDE STAGE]
今年のJAPAN JAMにはBUZZ STAGEという小さいステージが新設されて、そこにたくさんの若手バンドたちが出演していたが、そのBUZZ STAGEから夏のロッキンへと続いて出演するのがThis is LASTである。会場は同じでもこの広大な芝生の上に立つというのは客席から見ていても全く違う場所で見ている感じがする。
メンバー3人だけというシンプル極まりない編成で臨むというのは変わることはないが、サポートベースがメガネをかけていたのがこの日はかけていないという変化もある中、
「千葉県柏市からThis is LASTです!」
と菊池陽報(ボーカル&ギター)が挨拶して「もういいの?」からスタートすると、やはり歌詞は女々しさ全開のラブソングであり、自分もJAPAN JAMで見た時に「ラブソング的な歌詞に共感できない」と書いたのであるが、歌詞には共感できなくても、バンドのサウンドのカッコよさはわかる。菊池のギターの歪みももちろん、歌声の太さもいわゆる失恋ソングを歌うバンドというイメージの細さとは真逆なものである。
それは元々はこのバンドがパンク・メロコア・ハードコア的な音楽をやっていたからだという下地があるからであるが、だからこそ鹿又輝直(ドラム)の四つ打ちのリズムによるダンサブルな「恋愛凡人は踊らない」も軽やかさだけではなくて力強さを持ったサウンドで観客を踊らせているし、ところどころにハッとするような強いフレーズがいくつもあるあたりも菊池の歌唱の強さを感じさせる要素になっている。
かと思えば大胆に同期のサウンドも取り入れた「カスミソウ」ではその美しいメロディがこの大きな会場の規模いっぱいに広がっていく。パンクなどの音楽をやってきたということは音はもちろん歌唱も大きな声で歌えるということであり、実際にその菊池の声量によってさらに響くものになっている。
意外なくらいの天気の良さになっていることによって、観客に注意を促しながらの簡単な挨拶的なMCをすると、その天気の良さによってこの澄み切った青空の下が実によく似合う最新シングル「ヨーソロー」はこの曲と爽やかなバンドのサウンドがこの青空を呼んだんじゃないかと思ってしまうくらいに似合っている。ライブハウスで生きてきて、これからも生きていくバンドだろうけれど、この野外の空の下だからこそ感じられるものも確かにある。
そして菊池のギターの歪みと力強いリズムとバンドの演奏が「ディアマイ」でさらにロックになっていき、客席がみんな腕を振り上げているという光景も納得できるくらいの音を鳴らすと、ラストは歌詞からMVから何までフェスで聴くと甘さ以上に飯テロにしか思えない「オムライス」が演奏され、最後のサビ前では
「オムライス食べたい」
から始まるコール&レスポンスが展開されるというのがそこに拍車をかけるのであるが、そのレスポンスの大きさはこのバンドの音楽を普段から聴いていて、ライブを見ている人たちがこのフェスにたくさん来ているということを感じさせてくれた。演奏が終わってから告知としてツアーの発表をするのも、目の前に来てくれる人に真っ先に伝えたいという思いを持ったライブバンドだからこそ。名前はLASTだけれど、これが最後じゃなくて、ロッキンでのこのバンドの物語の始まり。JAMのBUZZ STAGEに出ていたバンド全部がロッキンには出れていない中で、このバンドがこうして出演できたのはあの時に確かな爪痕を残したからだ。
いわゆるラブソング的な歌詞はやっぱり共感はできない。できないけれど、共感だけが好きになる要素じゃない。自分が1番大事にしてるのは、カッコいいかどうかということ。このバンドの鳴らす音やライブはそのカッコよさを間違いなく感じさせてくれるものであるし、今ではライブくらいでしか行かないけれど、自分にとっての学生時代からの思い出がたくさん詰まっている柏という街を背負ってくれているこのバンドを、ライブを見るたびに好きになっている。
1.もういいの?
2.恋愛凡人は踊らない
3.カスミソウ
4.ヨーソロー
5.ディアマイ
6.オムライス
13:50〜 yama [PARK STAGE]
ライブ前から「クロージングアクトみたいにこの時間、他のステージは何にもやってないんだっけ?」と思うくらいにHILLSIDE STAGE側までも観客で溢れかえる、yama。2年連続での出演であるが、状況は去年から激変している。
先におなじみの仮面をつけたバンドメンバーたちがステージに現れると、ギタリストがステージ前に出てきて音を鳴らし始め、キーボード、ベース、ドラムと他のメンバーたちの音が重なってキメを打った後に鮮やかな青い髪色で白い仮面を装着したyamaが登場すると、歌い始めたのはアニメ「SPY × FAMILY」のエンディングテーマとなった「色彩」で、まさにカラフルさを感じさせるキーボードのサウンドに乗るyamaの独特な低さの歌唱によって客席からはいきなり歓声が上がり、体を揺らす。yamaも音に乗るようにして体を動かしているのであるが、その姿からはどこか貫禄のようなオーラも感じる。
一気にキーが高くなることによってyamaの音域の幅広さを感じさせる、yamaのシーンへの登場を告げた「春を告げる」でもyamaは実に楽しそうかつ心地良さそうに音に合わせて体を揺らしながら歌い、その姿を見ているとかつてはライブに苦手意識があったと言っていたのも昔の話なんだなと思う。それはライブの数をたくさん重ねて、そこで出会ってきた人たち、見てきた景色によって変わってきたんだよなと思う。
この直前まで天気が良かっただけに、挨拶的なMCも体調に気をつけるようなものであったのだが、
「ひとりぼっちにはさせないでよ」
という震えるような、でも最後には
「ひとりぼっちにはさせないよ」
という歌詞に変化することによって強い芯を感じさせるような「Oz.」がこの会場を包み込むようにして歌われ、その歌唱は聴いているだけで胸が震えるような感覚になるのであるが、シンセがブラスのサウンドを鳴らすことによってバンドメンバーによる演奏が一気に激しさを増す「麻痺」ではライブ前までは青空が広がっていたのが一気に薄暗くなり、なんと
「通り雨 貴方の頭上に落ちていく」
というフレーズに合わせて雨も降ってくるという、まるで祈祷師のような力を発揮する。やはりこの人の歌にはそんな何かを呼び寄せるような力があると思わざるを得ないくらいの瞬間だった。すぐに雨が止んだことも含めて。
そんなyamaは最近特に歌った後に体の調子が悪かったのが、ある整体師の方に出会ったことによって回復し(SNSでも触れていたが)、それは自分の体を褒めたり労ったりするようになったからだということを語る。その話は実に怪しい感じのリアクションも客席からは起きていたが、確かに体を責めるんじゃなくて労わることによって回復したり、まだいけると思えることは確かにあるよなとこうしてフェスに全日参加している身としても思ったりする。
そんなyamaが自身で作詞作曲を手掛けた「ストロボ」は曲タイトルに合わせたように照明の光が明滅し、yamaもそれまでよりもさらに歌に感情を込めるように感じられることで、これまでは基本的には提供してもらった曲を歌ってきたyamaの表現がこれから大きく変わっていくんじゃないかということを感じさせてくれる。それはこれからはより一層、今自分が歌いたいことを歌っていくようになるだろうと思ったということ。
そうしてその声や姿からいろんなことを感じさせながらも、最後に演奏されることによって全てを掻っ攫ってしまうようにすら感じるくらいに圧巻かつ壮絶な歌唱が展開されるのは「slash」。「ガンダム水星の魔女」のオープニングテーマとしてyamaの存在をさらに広く知らしめたこの曲は、ライブで聴くと本当にとんでもないカードを手に入れたなと思うし、そんな曲がこんなに広く届いて、聴いている人の心を震わせられるのはyamaのその歌声だからこそだ。
同じように大タイアップの大ヒット曲を持つようになったLiSAやAimerのように、yamaも来年以降は間違いなくこのステージのメインステージに名前を連ねるようになると思う。でもどんなに売れて巨大な存在になっても、こうしてフェスには出続けて欲しいと思う。それはこの場所が2021年の春に初めてフェスに出たことによって、yamaが初めてライブというものの楽しさを実感できた場所であることを知っているからだ。
リハ.春を告げる
1.色彩
2.春を告げる
3.Oz.
4.麻痺
5.ストロボ
6.slash
14:30〜 鈴木愛理 [HILLSIDE STAGE]
自分は千葉県在住の千葉ロッテマリーンズファンであるだけに、中継をやっている時は極力ネット放送ではなくて千葉テレビのマリーンズナイターでロッテの試合を見るようにしているのであるが、その放送内でよく千葉銀行のCMが流れており、それに出演しているこの綺麗な人は誰だろうかと思って調べたら鈴木愛理だったという経緯があったので、見れるタイミングでライブを見てみることに。
しかしながら直前に飲食ブースで04 Limited SazabysのRYU-TAプロデュースの「麺屋おがた」のまぜそばを食べたりしていたので少し遅れてしまったのであるが、HILLSIDE STAGEに到着すると驚くくらいに溢れんばかりの観客の多さ。JAPAN JAMでも大きなステージに出ていたのは知っていたが、まさかここまでとはと思ってしまう。
肝心のライブはというと、オレンジの衣装が鮮やかな鈴木愛理はCMで見た時よりも少女感を感じさせるというか、少しアイドルグループのメンバーだったということをも思い出させるのであるが、フルバンド編成の豪華な演奏で自身のソロ曲を歌っていると、実に歌が上手い。本当にビックリするくらいに上手い。自分が幼少期の頃とは違って、今はハロプロのグループのメンバーやその出身者は実にストイックに音楽活動をしていて、確かな実力を持っているということはJAPAN JAMでモーニング娘。やアンジュルムのライブを見てわかっていたつもりだったが、まさかこれほどまでとはと思うくらいだ。
さらには自身が所属していた°C-uteの曲のメドレーではその頃からずっと鈴木愛理を応援してきたであろう方々のコールの大きさによる熱量や、客席後方でも振り付けを踊っている女性がいたりと、自分は申し訳ないことに全然曲を知らないのであるが、そんなに広く知られた曲たちであることにも驚かされてしまった。
そんな驚きは
「今日この後に出演する方々への愛と敬意を込めて」
と言って、今回はソロで出演するアイナ・ジ・エンドへ
「アイナ、大好きだよー!」
と愛を叫んで演奏されたBiSH「オーケストラ」のカバーは自分は全く関係性がわからないが、ハロプロとWACKが互いにリスペクトし合っていることによってグループとして実力を高め合ってきたということを感じさせてくれると、まさかのYOASOBI「アイドル」を天才的なアイドルとしてカバーする。もちろん観客も原曲通りのコールで応えるのであるが、こんなに難しすぎる曲を悠々と歌いこなす(ように見える)姿は、この後に演奏されるであろうYOASOBIのライブへのハードルを高くするのであるが、それはまさかのYOASOBIのライブが見れなくなるという事態をこの時はまだ全く想定していなかったからである。
そんな飛び道具的なパフォーマンスに意表を突かれただけに、結局はもしかしたらそのカバーが最も印象に残るのかも…とも思っていたが、全くそんなことがなかったのは、最後に演奏された「初恋サイダー」がめちゃくちゃ良い曲だったから。それはソロになってからの曲ではないけれど、その曲を鈴木愛理自身もファンの方々も今も大切にしていて、今の歌の表現力とバンドサウンドによって演奏することができていたから。
家に帰ってすぐにこの曲を検索してサブスクで聴いたくらいに頭の中に強く残ったとともに、もっとちゃんと聴こう、向き合おうと思った。ちゃんと曲を知りたい、この人が歌う音楽を知りたいとも思った。それくらいにこの日ライブを見たことによって、鈴木愛理は自分の中で「千葉銀行のCMに出ている人」から「このフェスに呼ばれるべきアーティスト」という存在に変わった。それは他にもそう思えるような人やグループがまだまだたくさんいるだろうということも。
16:15〜 10-FEET [LOTUS STAGE]
本来ならば10-FEETは15:35〜の出演であり、それに合わせてすでにLOTUS STAGEで待機していたのであるが、待ち時間に落雷の危険性があるということで全ステージ、全エリアの観客たちが一斉に避難することに。その際に避難エリアが屋根のない場所(テントの中だとむしろ落雷の危険性があるため)だったためにその落雷の危険性とともにやってきた豪雨によってずぶ濡れになってしまったのであるが、そんな状況からすぐに復旧して、以降のタイムテーブルが変更になりながらも、予定されていた全アクトがちゃんと持ち時間通りにステージに立てるようにしてくれたフェスの運営サイドには本当に感謝しかない。
そんな状況であるだけに、おなじみの「そして伝説へ…」のSEが流れただけでいつものフェス以上の大歓声が上がるのであるが、それは再開を信じて待っていた人たちの思いがそのまま具現化されたものであると言えるのだが、ステージに現れた3人は薄オレンジのサングラスをかけており、
「俺らのせいじゃないけど、なんかゴメン(笑)NAOKIもKOUICHIも謝りや」
とTAKUMA(ボーカル&ギター)が促して、NAOKI(ベース)もKOUICHI(ドラム)も謝ったのは、これまでに自分達が主催する「京都大作戦」でも落雷の中断などを経験してきたことによる「嵐を呼んでしまうバンド」という自負が少なからずあるからだろう。それでもサングラスがどこか悪ふざけ感が出てしまって全然真剣に謝っているように見えないというのも10-FEETならではであるが。
そんな謝罪と
「汗か涙か涎か雨かわからんようにしたる!」
という気合いが入り混じって始まったライブはいきなりの「goes on」で観客の大歓声を巻き起こす。モッシュやダイブのみならず、サークルだったり肩を組んで回ったりというこの曲でおなじみの光景は見れないけれど、それでも
「隣の知らない人とハイタッチやー!」
とTAKUMAが叫ぶと自分の隣にいた男性と目が合ってハイタッチしたりすることができたのは中断を挟んだことによってさらにライブへの渇望感があって、我々のテンションが上がっていたからだろう。
そのテンションをさらに上げるようにKOUICHIのビートが速く激しく疾走し、NAOKIの叫ぶようなコーラスも響く「1sec.」から、最近は前半で演奏されることも多くなった「RIVER」が
「利根川」「養老川」
と歌詞を変えた千葉県バージョンで演奏され、
「助けてのその一言は…」
から始まるパートではTAKUMAが観客に委ねるようにマイクの前から離れて大合唱を巻き起こす。まるで京都大作戦かのような光景ですらあるが、それはこの曲が今やあらゆるフェスのアンセムとなり、10-FEETがこのフェスのメインステージのトリを務めたりと、確実にこのフェスを担っている存在になっているからだ。そんなあらゆる人や物や場所の思いが確かに重なっていることをいつも以上に感じられるし、本人たちにもその意識があったからこそ、この合唱パートをこの日観客に任せたんじゃないかと思う。
そんな中でイントロのダンサブルなサウンドが演奏されただけで大歓声が上がったのはもちろん、今になって10-FEETの存在をさらに上のステージへと引き上げることになった「第ゼロ感」なのであるが、コーラスパートでは驚くくらいの大合唱となる。それは本当にこの曲によってこのバンドの立ち位置が変わったんだなと思えるくらいに、このバンドや他の出演バンド以外の、ソロアーティストのタオルを持った人たちすらも大合唱していたからだ。TAKUMAは
「映画の曲終わったから移動しようとしたらそこだけ豪雨になるようになってるから(笑)」
とおどけていたけれど。
するとTAKUMAは
「前にフェスで俺たちがライブやってる時に後ろから押された人がそのまま前の人にぶつかってしまって、前の人に髪を掴まれたらしいんやけど、やり返したりしなかったって。でもモヤモヤしたものが残ってたからそれをSNSに書いたりしたんやと思うけど、周りのことやそのライブのことを考えてやり返さずに我慢してくれたそいつのことを俺は本当にカッコいいと思うし、会ったらベロチューしてやりたい(笑)」
と以前フェスで経験したエピソードを語るのであるが、その人の優しさはきっとこうして10-FEETのライブを見たことで得られたものだと思うし、その時は嫌な思いをしたかもしれないけれど、TAKUMAはその思いをわかってくれてるということは伝わっていて欲しいなと思う。
そんなMCの後だからこそ、TAKUMAの心境がそのまま綴られたかのような切ないメロディとサウンドによる「アンテナラスト」がいつも以上に沁み入るし、大胆にシーケンスを導入した「ハローフィクサー」がより観客の体を踊らせてくれるのであるが、やっぱりぶち上がれるのは「VIBES BY VIBES」であり、観客も思いっきり飛び跳ねまくる。また雨が少し降ってきたりという不安定な天気ではあるけれど、そんな状況で見る10-FEETのライブがむしろ最高なものになるということはこのバンドを少しでも追ってきた人であればわかるはずだ。
そしてNAOKIの大開脚ベースプレイがスクリーンに真っ正面から映し出されて爆笑を誘っていた「ヒトリセカイ」ではNAOKIは雨で濡れているステージ左右の通路まで出て行ってまた開脚ベースを披露したり、自らKOUICHIのドラムに寄っていって、ハイハット代わりにスティックで頭を叩かれまくったりしている。それら全てが今この瞬間に目の前にいてくれる人のためのパフォーマンスであるということがよくわかる。
そんなライブの残り時間は2分半ほどということで、ギリギリまでどの曲をやるか悩みながら演奏されたのはワンコーラスのみの「CHERRY BLOSSOM」で、雨に濡れて重くなっているであろう(自分はそうだった)中でも客席ではタオルが舞い上がるのであるが、それでも時間がなくてKOUICHIのドラムがファストコアパンクかと思うくらいに超速になっていたのは笑わざるを得なかったのであるが、それでも数秒だけ時間をオーバーしたことによって、TAKUMAはライブ後に謝りに行くことを決意しながら急いで去って行った。
もちろん「第ゼロ感」の大ヒットもあったけれど、それがある前から10-FEETはフェスを主催し、このフェスでトリを務めるくらいに巨大なバンドであり続けてきた。それはやはりかつての雷雨の中での京都大作戦など、これまでにもこうした逆境の中でこそ伝説的なライブができるというバンドの底力がそうさせてきたのだ。改めてそれを実感するとともに、来年はどんなに雨が降ろうがなんだろうがまたあの太陽ヶ丘のステージに立つ3人に会いに行きたいと思った。
1.goes on
2.1sec.
3.RIVER
4.第ゼロ感
5.アンテナラスト
6.ハローフィクサー
7.VIBES BY VIBES
8.ヒトリセカイ
9.CHERRY BLOSSOM (超速ワンコーラスのみ)
17:00〜 ASIAN KUNG-FU GENERATION [GRASS STAGE]
10-FEET同様にこのフェスのメインステージのトリを務めた経験のあるアジカン。そんなバンドたちがこの夕方の時間に出ているというあたりにこの日のラインナップの凄まじさを実感するのであるが、直前のKANA-BOONとの対バンが伊地知潔(ドラム)のコロナ感染によってキャンセルになっただけに心配していたが、なんとか出演できることに。その潔のプロデュースによるフェス飯ブースももはやバンドとともにロッキンオンのフェスの常連と言える存在である。
Georgeとアチコという近年おなじみのサポートメンバー2人とともにSEもなくメンバーがステージに登場すると、その2人もキーボード、シンセを駆使してイントロの浮遊感のあるサウンドを構築し、ゴッチ(ボーカル&ギター)と喜多建介(ギター)がギターを鳴らすと大歓声が起きて観客が「オイ!オイ!」と拳を振り上げる、今やイントロの長さがネタになるようになってしまったアレンジでの「Re:Re:」からスタートすると、やはりその演奏している姿を見ていて「君じゃないとさ」と思わざるを得ない。それは潔がコロナに感染して出演が危ぶまれたからでもあるのだが、山田貴洋(ベース)も客席を眺めて笑みを浮かべるようにしながら演奏しているように見える。
するとゴッチがシャープなギターを鳴らして始まるのはもちろん「リライト」であるのだが、ワンコーラス演奏が終わると凄まじい音量の歓声と拍手が沸き起こる。それはここにいる人たちが本当にアジカンを待っていたということであり、その客席を見て笑顔になる喜多の顔がさらに我々を嬉しくさせてくれるのであるが、間奏のダブパートではゴッチが挨拶しながら、
「みんなそれぞれ誰の真似もしなくていいから、好きに楽しんで」
と観客に告げておなじみのコール&レスポンスをしてから最後のサビへと突入して大合唱を巻き起こす。真似をしているわけではないけれど、やっぱりフェスで演奏されるこの曲はみんなで歌いたくなるのである。
さらにはゴッチが鳴らすギターのイントロで大歓声が上がった「ソラニン」ではサビ前でGeorgeが流麗な鍵盤捌きを見せ、サビではアチコのコーラスが重なるという、今やこのメンバーたちの存在がアジカンのライブに欠かせないものであることを感じさせると、さらにイントロで大歓声が上がったのは「ぼっち・ざ・ろっく」で主人公(そもそも主人公たちバンドメンバーの名前がアジカンメンバーの名前のもじりである)がカバーして大きな話題を呼んだ「転がる岩、君に朝が降る」までもが演奏される。元々リリース時からファンにとっては特別な大名曲であったが、そんな曲に今になってこんなに光が当たるとは全く思っていなかった。それでもまたこうした形でアジカンの音楽が若い人たちに広まっていくのを1ファンとして心から嬉しく思うし、雨がまた降ってきた中でのこの曲はアジカンを愛する人たちが周りにいてくれることによって、自分の孤独を全て洗い流してくれるかのようですらあった。
そんな雨が降っていて、さっきまでの豪雨も見ていたであろうゴッチは
「生きてこそ、命があってこそのロックフェスだから。みんな、無理しないでね」
と観客に優しく呼びかけてくれる。そこには社会の様々な問題と向き合ってきて、いろんな人に出会ってきた、その人たちを支援する活動をしてきたゴッチの優しさが確かに滲んでいた。
そんなアジカンは今年かつてのアルバム「サーフ ブンガク カマクラ」の完全版をリリースしているのだが、その先行シングルとしてリリースされた「柳小路パラレルユニバース」はこの流れで聴くことによってそのパワーポップサウンドが他の代表曲たちとはまた違うアジカンらしさであることを感じさせてくれる。それを時には歌詞に合わせて身振り手振りしながら歌うゴッチも、ギターソロを弾きまくる喜多も本当に楽しそうである。
そして潔のドラムのイントロに合わせて客席から手拍子が響くのはおなじみの「今を生きて」であり、ゴッチだけならずこの曲では喜多のハイトーンコーラスが実に映える中で、合いの手的なパートでは観客の声までもが響くのであるが、それがどれだけ雨が降っていてもアジカンのライブが楽しいということを実感させてくれると、最後にはゴッチがハンドマイクを持ってポエトリー的なボーカルも見せる「Be Alright」。アチコがタイトルフレーズをリフレインし、メンバーがみんな笑顔で演奏していることによって、やっぱりアジカンがいればBe Alrightだなと思う。それは演奏後に6人で前に出てきて肩を組む姿から最も強く感じられるものであり、今年これから回る「サーフ ブンガク カマクラ 完全版」のツアーも本当に楽しみだ。なんだか、オリジナル版がリリースされた10年以上前のように、いや、今はもうそれ以上にワクワクしている。
そう思えるのはアジカンが大御所的な存在になっても、こうしてフェスの最前線で戦い続けているから。思えばデビューからずっと聴いていたアジカンのライブを初めて見たのも2004年に初めてこのフェスに来た時で、その時にはゴッチがメガネを壊してレンズがなくなった状態でライブをしていた。後に「鵠沼サーフ」を演奏して客席が凍り付いた状態になったりしたのも見てきた。もちろんGRASS STAGEでの大トリも。またいつか、いや、できれば来年のひたちなかでまたそれが見たいくらいに、アジカンじゃないとさ。
1. Re:Re:
2.リライト
3.ソラニン
4.転がる岩、君に朝が降る
5.柳小路パラレルユニバース
6.今を生きて
7.Be Alright
17:50〜 sumika [LOTUS STAGE]
すでに初日にも2アクトの代打として本隊とsumika [camp session]で出演しているだけに、1年で3回という、かつてユニコーンとソロバンドと弾き語りなどの形態で出演していた奥田民生のごとき存在になりつつある、sumika。それはひとえに片岡健太(ボーカル&ギター)のこのフェスへの愛の強さによるものであるが、この日この時間が当初の予定通りの出演スロットである。
メンバーがステージに現れると、片岡は真っ先に
「あなたの声を聞かせてください!」
と言って「「伝言歌」」を演奏するのであるが、そのサビ前にも
「夏フェスでじゃない!ROCK IN JAPANで歌いたいんだ!」
と叫んでこのフェスへの強い思いを感じさせる。その思いに応えるかのような大合唱は初日の時とはまた違う。初日は代打として出れなくなったアーティストの想いを背負うようにして演奏していたけれど、この日はただひたすらに真っ直ぐにこのフェスへの思いを伝えようとしているし、そこには中断があっても続けることを選んでくれたこの日への感謝という思いも少なからずあったんじゃないかと思っている。
「伝えたい 今の私の半分以上が
あなたで出来ていたと気付いたから」
というフレーズもこのフェスで聴くとまた少し違う意味合いを感じるかのような。それくらいにこのフェスに片岡は強い思い入れを持っているのである。
なので続いて演奏されたのが「Lovers」という怒涛の名曲の連打っぷりであるのだが、その曲のリフをホーン隊が演奏していて、おなじみの岩村乃菜(コーラス)だけではなくて、ギターも務める三浦太郎(フレンド)らによるコーラス隊も含めた、まるで横浜スタジアムワンマンの時を思わせるかのような大所帯編成。もちろんギターが初日同様に上口浩平だったり、キーボードもサングラスをかけたクールビューティーなKAYO-CHAAANだったり、ベースが須藤優だったりと、あの日を経てのものになっているところももちろんあるのだが、それでも自分達が今できることの最大値でこのフェスに恩返ししようという強い意志が感じられる。だからこそこの日の「Lovers」は本当に幸せな空気に満ち溢れていた。
しかしながら片岡はギターを持ちながら、雨に濡れたことによって観客が100%の元気がないんじゃないかと心配して、そんな観客を復活させるようにして「ふっかつのじゅもん」を演奏する。小川貴之(キーボード)が観客を煽るようにコーラスをしながら、間奏ではやはり片岡がステージ前に出てきてギターを弾きまくる。それはもはやおなじみになりつつあるし、これから先にもっとそう思うようになっていくのだろうけれど、それでもやはり少ししんみりしてしまうところもまだあったりする。片岡が弾かなければいけなくなった部分なんだよなと。
しかしそんな空気を吹き飛ばすように、片岡と小川がタオルを持ち、観客にもタオルを持つように促して演奏された「マイリッチサマーブルース」ではその片岡と小川がタオルとともにハンドマイクを持ち、前半が片岡、後半が小川というツインボーカルというアレンジで演奏されるのであるが、小川が歌っている時に片岡がタオルで小川をバシバシ叩き、小川もそれに反撃しているのが実に楽しいのであるが、片や下手側では荒井智之(ドラム)と須藤が黒サングラスをかけて演奏して2人で笑い合っていたり、コーラス隊やホーン隊もステージ前まで出てきてわちゃわちゃしていたり…誰よりもメンバーたちが楽しんでいることによって、雨に濡れたりした我々観客をもっと楽しくさせてくれる。それはあの横浜スタジアムの時と同じだ。振り回されるタオルが雨に濡れて重くなっているのも含めて。あの時のことをきっとこれから先もずっと忘れることはないように、この日のこのライブもきっと最高に楽しかった夏の思い出として残っていくはずだ。
そんな楽しさから一度クールダウンするように演奏されたのはsumika [camp session]名義でも演奏されていた「Summer Vacation」であれのだが、座って演奏していた[camp session]とは違い、やはり片岡はハンドマイクでステージ上を歩き回りながら歌うのであるが、それもどこかいつも以上に左右の通路の端から端までを歩きながら演奏していたようなイメージだ。それは全ての方角にいる観客のことをしっかり自分の目で見るかのように。
さらには片岡がギターを持ち、スクリーンには歌詞が次々に映し出される演出で演奏されたのはsumikaのメンバーたちの心のように真っ直ぐなバラード曲「透明」。それはこのフェスのメインステージで歌うことによって、
「愛している あなたを」
というフレーズがこのフェスそのものであり、そこに集まった我々一人一人であり、かつての片岡少年に対して歌われているかのように響くのである。
しかし、何故そんなにこのフェスが特別なのか?それを片岡は
「専門学校2年生の時に、就職前の最後の思い出作りと思ってこのフェスに遊びにきました。1日いろんなアーティストのライブを見て、やっぱり俺は音楽をやって生きていきたいと思った。
たった1日で変えられた価値観が20年続いてる。そんな日を俺たちがもう一回作れないはずがねぇっ!」
と、驚いてしまうくらいに感情を爆発させるようにして改めて自分の人生がこのフェスに来たことによって変わったことを語ると、ありったけの思いを込めて「Shake & Shake」が演奏され、ハンドマイクでステージを歩き回りながら歌う片岡は小川に水を飲ませてあげたりするのであるが、2コーラス目のBメロでは荒井も立ち上がって思いっきりドラムを叩きながらサビで大合唱を起こし、やはり片岡は
「むしろ大好きだぜ!」
と笑顔で叫ぶ。そこにはきっと他のどの場所、どのステージでも見れないような喜びが宿っていた。
そして片岡が再びギターを手にして最後に演奏されたのは最新シングルにして、図らずもバンドの新たな旅立ちを感じさせるものになってしまった「Starting Over」。やはりメンバーだけではなくて観客の大合唱も響いたこの曲を聞いていて、片岡にとって人生を変えられたこの場所はもうバンドが帰ってくるべき場所になったと思った。夏フェスシーズン真っ盛りの中で、毎ライブメンバーや編成を変えながら5日間で3回の出演を果たしたsumikaは自分達が救われたフェスを救った存在になった。専門学校時代にこのフェスでBUMP OF CHICKENのライブを見てミュージシャンとして生きていくことを志した片岡少年に「いつかあなたはこのフェスのメインステージに一年で3回も立つようになる」って言ったら信じるだろうか。きっと、全然信じないなんてことはないんじゃないかと思う。
自分は片岡のようにステージに立ちたいと思うようにはならなかった。けれど、同じように自分も初めてこのフェスに来て人生が変わった。価値観を変えられた。片岡と同じように、それが20年近くずっと続いているのだ。だからこそおこがましくも、自分は片岡を「バンドをやっていた世界線の自分」だと少しは思っているし、片岡はバンドをやっていなかったら自分のように生きているんじゃないだろうかと思ったりもする。そんなこのフェスによって人生を変えられた仲間だと思っているから、これからもずっとこのフェスで、来年は我々の人生が変わった場所である、ひたちなかで会えるように。
1.「伝言歌」
2.Lovers
3.ふっかつのじゅもん
4.マイリッチサマーブルース
5.Summer Vacation
6.透明
7.Shake & Shake
8.Starting Over
18:30〜 Vaundy [GRASS STAGE]
春のJAPAN JAMでは全アーティストの中で大トリを務めた、Vaundy。今年のロッキンではその大トリの前であり、GRASS STAGEの最後のライブアクト(クロージングDJはあるけど)として登場。もはや完全にこのフェスにおけるボスキャラの1人になっている。
時間になると去年は顔はハッキリとは映っていなかったけれど、歌う姿が映し出されていたステージ両サイドのスクリーンにはアーティストロゴが映し出されているだけなので、ステージを直で見ないとその姿が見えないのであるが、人が多すぎるかつまた雨が降ってきているという状況によって実にステージが見づらい。そんな中でもおなじみのバンドメンバー(トップバッターのimaseとトリのVaundyでともにドラムを叩くboboは凄い)が演奏する中でVaundyが体を動かしながら歌う「恋風邪にのせて」でスタートすると、その歌声の聖なる力を改めて感じさせてくれるような「そんなbitterな話」、さらにはギターのリフもメロディも超絶キャッチーなことによって観客も雨の中で口ずさみながら体を揺らす「Tokimeki」と、前日のあいみょんがそうであったようにもはやどの曲を歌っても大ヒット曲の連発になるという無双状態で、こんなに広いステージに溢れかえるくらいに観客が集まっているというのもよくわかる。
「こっからまだまだ熱くいくぜ?」
と観客に不敵に問いかけながらも、むしろクールなサウンドとVaundyの美しい歌声についつい聴き入ってしまう「napori」から、Vaundy自身が音に乗るように体を動かしながら歌う姿がまさにタイトルを表しているかのような「踊り子」と続くと、明らかに視界に雨がハッキリと映るくらいに強さを増していくのであるが、この日も最大級の神聖さを持って光輝くように響いた「しわあわせ」をその状態で聞いていたら、むしろその雨すらもこの男が呼び寄せた自然の演出なんじゃないかと思えてくる。やはりこの男の歌にはそんな人類の力を超えたものが宿っているんじゃないかと改めて思うのである。
ムーディーかつ不穏なコーラスパートからサビで一気に飛翔していくかのような歌唱が何度聴いても素晴らしい「不可幸力」を歌うと、Vaundyはステージ前まで出てきて、
「めちゃ雨降ってるじゃん!」
と驚きながらも、そんな雨を全く意に介さないようにステージ左右の通路を雨に打たれながら歩き回って歌うのはど迫力のロックサウンドとVaundyの歌声がぶつかり合いながらこちらに迫ってくる「CHAINSAW BLOOD」であり、そのタイトルフレーズを一緒に歌いたいと思ってもさすがに歌えないくらいの歌の凄みを放っている。
そんな「CHAINSAW BLOOD」以降は雨に濡れた寒さや冷たさを吹き飛ばしてくれるかのように、Vaundyがポーズを取るようにしながら思いっきり感情を込めるようにして歌う「裸の勇者」、サウンドの迫力っぷりもVaundyの押し寄せてくるような歌唱も歌詞の通りに聴いているこちらがなんだか追い込まれているようにすら感じてしまう「泣き地蔵」と、ここに来てのアッパーな曲の連発っぷりはあらゆるフェスや対バンに出演しながらも自身のワンマンツアーも規模を拡大しながら回ってきたVaundyの今のフィジカルの強さを感じさせるのであるが、やっぱりVaundyは
「さすがに疲れてきた(笑)」
と言いながらも、
「みんな、元気を貰いにライブに来てると思ってるだろ?逆だぜ。アーティストがみんなから元気を貰いに来てるんだぜ」
と言うあたりは不敵さはありながらも、Vaundyにとってのライブというものの捉え方がまた少し変わってきたんだなとも感じられる。
「俺は元気だけど(笑)」
と、自身は他のアーティストとは違うことを感じさせるあたりもさすがVaundyであるが。
そして袖でスタッフたちも曲に合わせて楽しそうに踊っている姿が雨が降る中でも我々をさらに楽しませてくれる「花占い」から、合唱したくてもこの曲をこんなに見事に歌いこなせるのはVaundyだけだろうと毎回思う「怪獣の花唄」と、最後の最後にそのVaundyの声を張り上げた瞬間に感じられるカタルシスを体感させてくれるキラーチューンによって締められたかと思いきや、なんとアルバムのリリースを告知してから、その中に収録される新曲を最後に演奏するという予想だにしないラスト。
しかもその曲がサビで
「Hey now」
と歌われる、Oasisを彷彿とさせる(既存曲で1番近いものを挙げるならば「benefits」になるだろうか)、雄大かつ荒々しさも共存するような、そのサウンドだけでカッコいい!と思わざるを得ないようなロックナンバー。
アルバムはそうした新曲から既発曲に至るまで、あらゆるVaundyの要素を詰め込んだものになるだろうけれど、そのリリースペースの凄まじさと、そんな速さなのに百発百中の名曲っぷりは恐ろしさすら感じてしまう。このフェスの5年後や10年後にVaundyは果たしてどんな位置で、どんなライブを我々に見せてくれるのだろうか。それがこんなにも想像できないアーティストは他にいない。
1.恋風邪にのせて
2.そんなbitterな話
3.Tokimeki
4.napori
5.踊り子
6.しわあわせ
7.不可幸力
8.CHAINSAW BLOOD
9.裸の勇者
10.泣き地蔵
11.花占い
12.怪獣の花唄
13.新曲
19:30〜 ROTTENGRAFFTY [HILLSIDE STAGE]
落雷の危険による中断によってタイムテーブルが変わったことによって自分の予定も変更。本来ならば被りがない時間だった大トリのYOASOBIの真裏になってしまった、HILLSIDE STAGEのトリのROTTENGRAFFTYから、PARK STAGEのトリのPEOPLE1という流れへ。そんなタイムテーブルなので、集まっている観客はこのバンドのTシャツや京都大作戦のTシャツを着た、興味本位0の、ガチでこのバンドが見たくてこの場所にいるという人しかいないくらいに熱量が凝縮されたものになっている。
しかしながらVaundyが終わった瞬間に始まるというタイテのため、急いでHILLSIDE STAGEまで向かって着いた時にはすでにメンバーがステージに登場しており、NAOKI(ボーカル)の気合いの一言とともに「ハレルヤ」が演奏されていたのであるが、その曲に込めた思いによるものなのか、つい数分前まであれだけ降っていた雨がすっかり止んでいる。その瞬間に、10-FEETがそうであるように盟友であるこのバンドもまたこうした逆境的な状況の中で伝説のライブを作ってきたバンドだということを思い出す。
NOBUYA(ボーカル)のガイドによって、コーラスフレーズでは侑威地(ベース)も合わせるように腕を頭の上で左右に振るのが客席に広がるのも、コーラスフレーズの大合唱も完璧なのはやはりこのバンドへの熱量が高い観客しかいないからというのもあるだろうけれど、その「夏休み」がまさに今が夏休み真っ只中であることを夏の野外フェスだからこそ実感させてくれると、イントロから手拍子が鳴り響き、ボーカル2人の大ジャンプによって始まるのは「THIS WORLD」であるのだが、NOBUYAはこの日は客席に突入して歌うことができないことを告げながら、
「俺たちロッキン大好きやねん!いろんなルールあるの本当は嫌やで?でも来年も再来年もずっと出たいし、この場所が潰れて欲しくないからみんなにもルールを守って欲しいって思ってる」
と、このフェスのルールを理解し、それを守った上で楽しもうということを告げる。それはやはり言葉通りにこのフェスへの愛がなければできないことであるし、その思いが全て音にこもっているからこそ、そうしたモッシュやダイブがなくても最高にカッコいい、楽しいと思える。思い返せば他の同世代のバンドからかなり遅れて、まだ広くなる前のひたちなかのPARK STAGEに出演した時にNOBUYAは
「俺たちをGRASS STAGEまで連れて行ってくれー!」
と言っていた。場所やルールが変わっても、あの時からずっと、このバンドのこのフェスへの愛と憧れは変わっていないんだろうなと思った。
そんなこのフェスへの思いが音の強さではなくて視覚的に現れるのは、NOBUYAがスマホライトを観客に掲げさせることによって美しい光が輝く「ハロー、ハロー」であるのだが、去年は自身がコロナに感染してしまったことによって出演出来なかったHIROSHI(ドラム)もスティックを左右に振る。それはこうしてこのフェスのトリ、夜の時間を任されたバンドだからこそできることでもある。
そして同期のダンサブルなサウンドも響く中で始まった「D.A.N.C.E.」ではNAOKIが指示することによって一度深くその場にしゃがんでからの大ジャンプという光景が現れることによって、さらに我々のテンションをぶち上げてくれるし、MASAHIKO(サポートギター)も実に生き生きとした表情で演奏しているように見える。
そして最後に演奏されたのはもちろん「金色グラフティー」であり、曲始まりから観客の大合唱が響くのであるが、決して超満員とは言えないような状況でも大合唱と言えるような声が響いていたのは、やはり一人一人がありったけの思いを込めて力のかぎりに歌っていたから。それを引き出したのはもちろんバンドの演奏だ。最初にNOBUYAは
「この時間まで残ってくれて、俺たちを選んでくれてありがとう!」
と言っていたが、激しい雨と中断まであった中で自分たちのライブを見るために残ってくれていた観客への想い、ずっと出演させてくれるこのフェスへの想い、自分たちが1番かっこいいということを証明しようという想い。そんな全てが鳴らしている音に乗っていた。そんな音を鳴らすことができるからこそ、自分はロックバンドが1番カッコいいと思っているし、年間何度もフェスやイベントで見ているロットンがこの日1番ライブを見て良かったと思えた。そんな生き様がカッコ良すぎて本当に感動していたら、後ろにいた女性2人組が「泣いちゃった」と言っていて、その気持ちがわかるなと思った。
去り際に口にしていたが、ロットンは年末に京都超特急(ポルノ超特急から名前が変わった)というフェスを主催している。かつてロッキンオン社長の渋谷陽一は「年末にフェスをやるのは無理だと言われていた」と年末のCDJの前説で何度も言っていた。
ロッキンオンとロットンは、そう言われていた年末フェスを開催している同士。しかもロットンは自分たちが主催フェスをやった直後でも毎年CDJに欠かさず出演してきた。だからこそロッキンオンもロットンを愛しているし、ロットンもロッキンオンを愛している。このフェスにおける特別なバンドがまた増えた。それくらいにこの日を掻っ攫ったのはロットンだった。
1.ハレルヤ
2.夏休み
3.THIS WORLD
4.ハロー、ハロー
5.D.A.N.C.E.
6.金色グラフティー
20:10〜 PEOPLE1 [PARK STAGE]
タイムテーブルが変わったことによって、このバンドの出演時間自体は変わらないけれど、YOASOBIが後にズレて丸かぶりという実に厳しい状況になってしまった、PEOPLE1。しかし自分はこのバンドで今年のロッキンを締めると決めていたために、YOASOBIを見ないでこのバンドを見る選択をしたのだ。
ステージにはバンドのロゴ的なオブジェも置かれている中でおなじみのサポート2人も加えた5人編成で登場すると、ステージ下手のTakeuchi(ドラム)が力強くドラムを連打しまくって気合いを感じさせると、Ito(ボーカル&ギター)の独特なハイトーンボーカルが響く「銃の部品」からスタートするのであるが、おなじみの長い髪を靡かせるサポートギターの方が後方からステージ中央まで走り出てきてギターを弾きまくるという、ステージに立っている5人全員での強い気合いを感じさせるし、サポートベースとTakeuchiの演奏の強さによってライブならではのスピード感を感じさせてくれる。
するとDeu(ボーカル&ギター&ベースなど)がハンドマイクを持ってヒップホップ的な影響の強い歌唱を始めただけで大歓声が起こったのは「チェンソーマン」のエンディングテーマの1曲に起用された「DOGLAND」であり、そのタイプが全く異なるDeuの歌声とItoの歌声が重なることによる魔法の心地はこのバンドでしか体感できないものであるし、そこにはやはりこのメンバーたちで積み重ねてきたからこそのライブ感を確かに感じさせる。本当に凄いバンドがそれに見合う曲を得たんだなと思う。
そんなこのバンドだからこその魔法を曲として感じさせてくれるような「魔法の歌」はItoの歌声からも人間としての温もりや優しさを確かに感じさせてくれるような、シンプルにそのメロディが響いてくる曲であり、それはこの5日間の最後のアクトとして聴くことによって、このフェスに参加した全ての人を労い、労ってくれるようにも響いている。
そんなこのバンドが早くもリリースした最新曲「closer」はそのタイトルであるだけに、このフェスを締めるようなエンディングテーマのように響くのは内省的かつ自問自答的なDeuのボーカルから始まり、サビで一気にパーティーのような高揚感を持って聴き手を肯定してくれる曲だ。Takeuchiはデジタルドラムを叩いたりとメンバーの編成が目まぐるしく変わっていくのもこのバンドのライブならではであるが、
「何食わぬ顔で手を取り合って
なんとかなるって伝えたいんだ」
というフレーズはこうしたフェスの空間、ライブの空間で響かせるために生み出されたようにすら思えてくる。
そんなサビでのパーティー感を引き継ぐように演奏されたのは、Deuが忙しなくステージを動き回りながら歌い、Itoも観客も飛び跳ねまくる狂乱チューンの「怪獣」であるのだが、初のフェス出演となった昨年のJAPAN JAMから演奏されてきたこの曲もライブで磨かれてきたことによってミクスチャー感がより強くなったなと思う。それはそのままこのバンド自身が怪獣のような巨大な存在になったということである。
ここまではひたすらに曲を連発してきたのだが、Itoは最後のアクトとして
「YOASOBIさんと被ることになっちゃったけど、この最終日のクロージングアクトっていうのは今年の5日間と来年のこのフェスを繋ぐための存在だと思ってる。そこで最高のライブをやるっていうのが僕らの意思表示です」
と、このフェスを来年に繋げようという意思を口にする。まだ2回目の出演だが、JAPAN JAMも含めるともう4回もこの蘇我でライブを行っている。そんなバンドとしてこのフェスをこれからも背負っていこうという意志や覚悟を確かに感じられるし、
「みんなの未来に光を照らせるように」
と言ってItoが歌い始めた「常夜燈」でDeuはスマホライトを掲げると、それがすぐに広がっていった客席に向かってグッと親指を突き出すのであるが、YOASOBIと被ってしまったことによって前日までの4日間のクロージングアクトのように2ステージ分溢れかえるくらいにはならなかったけれど、それでもこんなにたくさんの人がこのバンドを最後に選んで、こうして美しい光景を描き出している。自分は去年JAPAN JAMで初めてこのバンドのライブを見てこの曲を聴いた時に「これからロッキンオンのフェスのアンセムとして響くようになる曲」と書いたが、それはわずか1年ちょっとで現実になった。それをこの景色が証明していた。
そしてDeuが
「俺たちを最後に選んでくれてありがとう!今年のロッキン最後の曲!」
と言って演奏された「東京」は、フィクション的な情景を描くことが多いこのバンドのリアルな心境が綴られた曲だと思っている。だからこそ、ああ、今年ももう終わって行ってしまう、本当に楽しい5日間だったな…と今年のこのフェスで見てきたあらゆる名シーンが頭の中にフラッシュバックしてきて、思わず泣きそうになってしまった。そんな自分に喝を入れるかのように、最後にTakeuchiが力強くドラムを連打して、客席に手を挙げて応えてから走ってステージを去って行った。来年からは間違いなくメインステージで会うようになるだろうけれど、今年がクロージングアクトだったからこそ、繋いだ存在として、来年はメインステージのトップバッターとして会えたら本当に嬉しいと思っていた。
あまりインタビューなどの発言が載らないバンドであるだけに(rockin'on JAPANにもインタビューは載っていない)、実体が見えないバンド的に紹介されることも多い。でもこうしてメンバーの姿や顔が見えるライブを見ると、そこからはこれ以上ないくらいの人間らしさを感じることができる。それは鳴らしている音の全てに感情が宿っているということ。凄まじいスピードで支持を広げているのは、彼らの曲を聴いてライブを見ている人たちがそういうバンドだとわかっているからだ。PEOPLE1がクロージングアクトで良かった。このバンドを最後に選んで本当に良かった。大好きなこのフェスを来年に繋いでくれて本当にありがとう。
リハ.エッジワース・カイパーベルト
1.銃の部品
2.DOGLAND
3.魔法の歌
4.closer
5.怪獣
6.常夜燈
7.東京
5日間を無事に走りきったことを祝して稲里の枡酒を飲みながら、来年もここで、そしてひたちなかのみなと屋でもこうして余韻に浸っていたいと思っていた。
人生において欲しいものはそんなに多くない。仕事における出世や権力も欲しくないし、友人も手で数えられるくらいでいい。金だって分不相応なくらいにはなくていい。ただ、このフェスに毎年こうやってフルに参加できるような人生でありたい。それは2004年に初めてこのフェスに参加した時に思ったことと全く変わっていない。
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