XIIX LIVE TOUR「2&5」 @Zepp Shinjuku 8/9
- 2023/08/10
- 18:49
UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介と、米津玄師やsumikaなど様々なアーティストのサポートとして活躍するベーシストの須藤優によるユニット、XIIXがセルフタイトルの新作アルバムをリリース。どちらも夏フェスで多忙(斎藤はユニゾンで、須藤はsumika [camp session]でロッキンにも出演していた)な中でも夏と秋にツアーを開催。夏のツアーである「2&5」はこの日がツアーファイナルとなる。
開演時間の19時になると、強い低音の上に美しいピアノの音が乗るSEが流れると、ステージにはバンドセットがセッティングされている中に出てきたのは斎藤と須藤の2人だけで、斎藤がアコギ、須藤がベースを持って「タイニーダンサー」が演奏された段階でようやくこのツアーのタイトルが「2&5」であることがわかる。それは2人編成と5人編成で分かれたライブであるということであるのだが、斎藤のアコギはやはりこれだけ削ぎ落とされたサウンドになるとめちゃくちゃ上手いギタリストであることがわかるし、須藤の腕だけではなくて全身を使って弾くような、サビ前で高く自身の愛機を掲げるベースプレイは改めてこの2人のプレイヤーとしての凄まじさを感じさせてくれる。
「タイニーダンサー」のアウトロではまさに真剣試合であるかのように向かい合って楽器を鳴らしていた2人がそのままイントロでも同じように向かい合うようにして演奏し始めたのはアニメ「ダイの大冒険」のタイアップとしてお茶の間にもこのユニットの音楽が流れた「アカシ」であり、この曲の「ひたすらに良いメロディの曲を作る」というモードで生み出されたのが今回のアルバムだと思っているのだが、そのメロディの美しさによるものもあるのだろう、これだけ研ぎ澄まされた、しかしアコースティック感の全くない音に反応してサビでは満員の客席からたくさんの腕が上がる。
「歌舞伎町に似つかわしくない爽やかな始まり方をしてしまいました(笑)」
と、初めてのZepp Shinjukuでのライブならではの挨拶をした斎藤が改めて今回のツアーの「2人編成と5人編成の2部構成」というコンセプトを伝えると、徐に椅子に座った須藤がアコギを弾いて斎藤のボーカルをリードするという驚きの形で始まったのは「White Song」であるのだが、さらに須藤は曲中にキーボードに移動してそれを弾くという凄まじいマルチプレイヤーっぷりを見せてくれる。これは普段のサポート稼業では間違いなく見れないものであり、須藤の1ミュージシャンとしての技術と引き出しの凄まじさを感じざるを得ないし、これをたった2人だけでやっているというこのユニットの凄まじさも改めて感じてしまう。ちなみにこの曲のサビの締めの
「運命が二人をわかつまでは」
という歌詞はユニゾンでは基本的に歌詞を書いていない斎藤のロマンチックな詩情を感じさせてくれるものだと思っている。
そんなこのユニットの凄まじさは斎藤がエレアコのギターのボディをパーカッションのように叩いてループさせ、さらには自身の声までをもその場でループさせてドラムとコーラスをたった1人で演奏しているかのようになる「Light & Shadow」もそうで、須藤のギターやキーボードと同様にこうしたボーカリスト、ギタリストとしてだけではなく、斎藤のシンガーソングライターとしての技量の高さも存分に感じさせてくれる。
そんな2人がイントロでギターとベースだけとは思えないくらいの音の豊かさと厚みを持ってセッション的な演奏を繰り広げてから曲に入ったのは、公式YouTubeチャンネルで公開されたにも関わらずアルバムに収録されなかったことによって音源化が幻のようになってしまった「ハンドレッド・グラビティ」であるが、それをこうしてライブで鳴らしているということは互いに多忙な中でもこのユニットはまだまだ続いていくということを示唆しているように感じるし、このセッション的なイントロが追加されたようにまだまだ曲に進化の余地を感じているからこそ、今回はレコーディングしなかったんじゃないかとも思う。
すると須藤がループの録音用のマイクを客席に向けると、やはりすでにエレアコを叩くリズムをループさせていた斎藤が
「皆さんの手拍子を録音させてください!」
と言って観客の手拍子までをもループさせてリズムにする「シトラス」ではその手拍子がずっと鳴り響く中、サビ前では須藤が手を3回叩くのを観客も合わせるように叩くというシーンも。それはそのまま観客の手拍子の音を流しっぱなしにする、つまりは同じリズムのままで演奏された「Answer5」も含めて、2人だけれど2人だけではなくて、目の前にいるあなたと一緒に音楽を鳴らしてライブを作ることができるのがこの2人編成でのライブだということを示していた。
それは同時に2人だけという音の少なさは不自由なものではなく、技術とセンスとアイデア次第でいかようにも音を重ねることができるという、むしろ2人だからこその自由さ、それこそがXIIXというユニットのライブであり音楽であることを示していた。なんならこのままこの編成で1本丸々ライブを見たいと思ってしまうくらいに。
そんな2人編成から5人編成に切り替わるべく、ステージには岡本啓佑(ドラム)、粂絢哉(ギター)、山本健太(キーボード)のサポートメンバーたちが登場。以前ライブを見た時はDJもいたし、ドラムが須藤の相方の堀正輝だったのであるが、その編成も変わって音を合わせるように鳴らし合う姿からはXIIXがこの編成だとれっきとしたバンドであることを感じさせてくれるのであるが、だからこそデビュー作収録の「Stay Mellow」もタイトル通りに音源ではメロウなR&Bなどの要素を取り入れた曲というイメージだったのが、このツインギターのバンドサウンドになると一気にロック感が増すし、ツインギターでもリードを担うのが斎藤であるというあたりはさすがである。その斎藤の後ろにもう1人ギターがいるという構図はユニゾンでのギターの凄まじさを考えると信じられないものであるが。
オープニング時から「確実に背面のスクリーンに映像が映るだろうな」と思っていたにもかかわらず、ここまでは全くそうした演出を使ってこなかったのであるが、最新アルバム1曲目収録の、斎藤のハイトーンボイスによる
「鏡よ鏡 魔法をかけて」
というサビのフレーズが一度聴いたら頭から離れない「魔法の鏡」でようやくそのスクリーンにサイケデリックな色彩の映像が映し出されると、斎藤が最初はハンドマイクで歌い、音源にゲストとして参加しているリアル後輩のSKY-HIのラップパートまでも自身でラップするという、ギタリストとしてでもシンガーソングライターとしてもだけでなく、歌い手として超絶進化を果たしたことを示すような「スプレー」では曲後半からギターを背負い、最後には粂、須藤と並んでギターを弾きまくるという姿は紛れもなくこのメンバーによるバンドと言ってもいいものであるが、以前から参加していた山本だけではなくて岡本(黒猫チェルシーとして絡みがあったのだろうか)も粂もかれこれ15年にもなる付き合いだという。
そんな付き合いの長いメンバーたちと一緒にライブができることの喜びを語りながら、斎藤の歌い出しのタイトルフレーズの歌唱法の表現力が「この人はきっと演技とかもいけるんだろうな…」とすら思わせてくれる「あれ」はXIIXなりのファンクチューンと言っていいくらいに強力なグルーヴが押し寄せてくる曲であり、ステージを色とりどりの照明が照らすあたりもまたそのグルーヴをさらに強く感じさせてくれる。
そのグルーヴがさらにアッパーに響き渡る「正者の行進」は斎藤による少し皮肉めいた歌詞と陰影を意識した照明の演出が実に美しくマッチしており、このライブ映像がなんとか世の中に出てこのXIIXのカッコよさが広まってくれないかと思うほど。基本的にはコーラスは同期も交えているが、そこに須藤の声が重なることによってこのユニットだからこその音楽とライブになっていく。
そうしてアッパーな、ライブでこそより真価を発揮するような曲の後に厳かな雰囲気で演奏されたのはそのメロディの美しさに引き込まれていくように斎藤が全編に渡って伸びやかなハイトーンボイスで歌う「まばたきの途中」であるのだが、自分はNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」を全部見ているので、この曲の音源にボーカルとして参加している橋本愛がツアーファイナルなだけにゲストで来たりするんじゃないだろうか、そしたら近くで生で見れるなと思っていたのだがやはりそんなことはなかった。それでもこの曲の名曲っぷりは変わることはないけれど。
ライブも終盤に差し掛かったことによって、わずか3本のツアーながらもグッズを作ったことを告知するのであるが、
斎藤「絵が上手い2人っていうXIIXなんで、グッズに自分たちの絵を使って…」
須藤「そっちで行く?(笑)「まばたきの途中」の演奏中にスクリーンにその絵を映そうか(笑)」
と、他の現場ではほとんど喋ることのない2人だからこそ、こうしてステージ上で喋っていることが実に新鮮であるのだが、バンドセットでの演奏だからこそより山本のキーボードが浮遊感を感じさせ、そうしたサウンドでも一打の強さと正確性が10代の時からそうだったけど、やはり凄いドラマーだなと思わせてくれる岡本のドラム(久しぶりに見れて実に嬉しい)による「No More」が後半戦の火蓋を切って落とす。
サビでタイトル通りに一気に春らしくポップなサウンドに振り切れていくかのような「うらら」ではなんと斎藤がハンドマイクになってステージ左右へ歩き回りながら歌い、須藤も立ち位置とは真逆の方向へ歩いていきながらベースを弾くという、MCと同様に他の現場では滅多に見ることができないパフォーマンスを展開する。その姿は超一流プレイヤーと呼ばれてもいいくらいに自身のスタイルを確立している2人が、今でもさらに上を目指して今までにやってきていないことに挑戦しているかのようであり、何よりもそうした新しい形での観客とのコミュニケーションを楽しんでいるように感じさせてくれる。この曲では斎藤にギターを一任されている粂のシャープかつエッジが立ったサウンドもさすがである。
そんな振り切れるくらいのキャッチーさから一転して、須藤がシンセベースを弾くことによってイントロから妖しさをその音で振りまくのは「月と蝶」であるが、そのアダルトな魅力とスクリーンに映るサイケデリックであったり美しい蝶の映像は歌舞伎町というよりも麻布(ライブハウスがないと行くことがない街なのであくまでイメージでしかない)というような街が似合うようにすら思えてくる。
そんなライブの最後に斎藤がユニゾンでのライブと同じように「ラスト!」と言ってから演奏されたのは2人編成でも最後に演奏された「Answer5」であるのだが、もちろん1stアルバム収録曲であるために意味合いは違うだろうけれど、タイトルとしてもこの5人編成で演奏されるのが最適解であるかのように新たな意味が曲に宿ったかのように感じられた。それくらいに2人編成とは別の曲と言っていいくらいに全く違うし、何よりも最後にはメンバー1人1人のソロ回しも披露されていたから。それはこの音楽がこの5人でこの場所で鳴らされている、作られているということの証明であるかのようだった。
アンコールでは須藤がこのツアーの物販で販売されている、曲タイトルに合わせたスプレーを吹きかけたりしながら、こうして音楽を鳴らして、ライブをやって生きていくということを溌剌とした斎藤の歌唱とバンドの演奏で鳴らす「LIFE IS MUSIC!!!!!」でやはりこのユニットがこれからもずっと続いていくということを感じさせると、ラストは最新アルバムを締める曲である「All Light」であるのだが、優しく包み込むようなサウンドの中で歌われる
「サンライト 全てを包むから
オールライト きっと大丈夫」
という締めのフレーズは、結成してデビューしてすぐにコロナ禍に見舞われてライブができなくなり、ある意味では自分たちのアイデンティティの喪失といえるような経験をしてきたこの2人によるユニットだからこそ強い説得力を持つものであるし、それはそのままこれから先の我々の人生においてもこの曲が、XIIXの音楽が支えになってそう思わせてくれると感じることができる。そこには確かにこのバンドだからこその体温と温もりが音に宿っていたからだ。
正直、XIIXがデビューした時には自分は「こういう感じか」という、ロックさよりもR&Bやヒップホップのサウンド感が強いことに戸惑いを覚えていたというか、ロックバンドが好きであるがゆえにイマイチハマりきれない感じがどこかあった。
でもそうした今までとは違う面も残しながら、斎藤が
「これからの土台になるようなアルバムができた」
と言っていたように、セルフタイトルのこのアルバムでもって本格的にXIIXがこれからやりたいことをやっていく体制が整ったと言えるし、斎藤はユニゾンのメジャーデビュー前、須藤はサポートをやっていた80kidzが2ndアルバムをリリースした時のライブ(米津玄師がライブを始めてそこに参加するよりもはるかに前)で見てから、斎藤がサポートメンバーたちと共有してきたように長い年月、この2人を見てきた。
そんな2人の凄さをさらに知ることができて、この2人のことを今までよりももっと好きになれたのはこのXIIXというユニットの存在と音楽があって、この日のライブを見ることができたからだ。それに気付いたのは少し遅かったかもしれないけれど、これからもいろんな活動とともにずっとこの2人での音楽を聴いて、ライブを見ていたいと思えたツアーファイナルだった。
2
1.タイニーダンサー
2.アカシ
3.White Song
4.Light & Shadow
5.ハンドレッド・グラビティ
6.シトラス
7.Answer5
5
8.Stay Mellow
9.魔法の鏡
10.スプレー
11.あれ
12.正者の行進
13.まばたきの途中
14.No More
15.うらら
16.月と蝶
17.Answer5
encore
18.LIFE IS MUSIC!!!!!
19.All Light
開演時間の19時になると、強い低音の上に美しいピアノの音が乗るSEが流れると、ステージにはバンドセットがセッティングされている中に出てきたのは斎藤と須藤の2人だけで、斎藤がアコギ、須藤がベースを持って「タイニーダンサー」が演奏された段階でようやくこのツアーのタイトルが「2&5」であることがわかる。それは2人編成と5人編成で分かれたライブであるということであるのだが、斎藤のアコギはやはりこれだけ削ぎ落とされたサウンドになるとめちゃくちゃ上手いギタリストであることがわかるし、須藤の腕だけではなくて全身を使って弾くような、サビ前で高く自身の愛機を掲げるベースプレイは改めてこの2人のプレイヤーとしての凄まじさを感じさせてくれる。
「タイニーダンサー」のアウトロではまさに真剣試合であるかのように向かい合って楽器を鳴らしていた2人がそのままイントロでも同じように向かい合うようにして演奏し始めたのはアニメ「ダイの大冒険」のタイアップとしてお茶の間にもこのユニットの音楽が流れた「アカシ」であり、この曲の「ひたすらに良いメロディの曲を作る」というモードで生み出されたのが今回のアルバムだと思っているのだが、そのメロディの美しさによるものもあるのだろう、これだけ研ぎ澄まされた、しかしアコースティック感の全くない音に反応してサビでは満員の客席からたくさんの腕が上がる。
「歌舞伎町に似つかわしくない爽やかな始まり方をしてしまいました(笑)」
と、初めてのZepp Shinjukuでのライブならではの挨拶をした斎藤が改めて今回のツアーの「2人編成と5人編成の2部構成」というコンセプトを伝えると、徐に椅子に座った須藤がアコギを弾いて斎藤のボーカルをリードするという驚きの形で始まったのは「White Song」であるのだが、さらに須藤は曲中にキーボードに移動してそれを弾くという凄まじいマルチプレイヤーっぷりを見せてくれる。これは普段のサポート稼業では間違いなく見れないものであり、須藤の1ミュージシャンとしての技術と引き出しの凄まじさを感じざるを得ないし、これをたった2人だけでやっているというこのユニットの凄まじさも改めて感じてしまう。ちなみにこの曲のサビの締めの
「運命が二人をわかつまでは」
という歌詞はユニゾンでは基本的に歌詞を書いていない斎藤のロマンチックな詩情を感じさせてくれるものだと思っている。
そんなこのユニットの凄まじさは斎藤がエレアコのギターのボディをパーカッションのように叩いてループさせ、さらには自身の声までをもその場でループさせてドラムとコーラスをたった1人で演奏しているかのようになる「Light & Shadow」もそうで、須藤のギターやキーボードと同様にこうしたボーカリスト、ギタリストとしてだけではなく、斎藤のシンガーソングライターとしての技量の高さも存分に感じさせてくれる。
そんな2人がイントロでギターとベースだけとは思えないくらいの音の豊かさと厚みを持ってセッション的な演奏を繰り広げてから曲に入ったのは、公式YouTubeチャンネルで公開されたにも関わらずアルバムに収録されなかったことによって音源化が幻のようになってしまった「ハンドレッド・グラビティ」であるが、それをこうしてライブで鳴らしているということは互いに多忙な中でもこのユニットはまだまだ続いていくということを示唆しているように感じるし、このセッション的なイントロが追加されたようにまだまだ曲に進化の余地を感じているからこそ、今回はレコーディングしなかったんじゃないかとも思う。
すると須藤がループの録音用のマイクを客席に向けると、やはりすでにエレアコを叩くリズムをループさせていた斎藤が
「皆さんの手拍子を録音させてください!」
と言って観客の手拍子までをもループさせてリズムにする「シトラス」ではその手拍子がずっと鳴り響く中、サビ前では須藤が手を3回叩くのを観客も合わせるように叩くというシーンも。それはそのまま観客の手拍子の音を流しっぱなしにする、つまりは同じリズムのままで演奏された「Answer5」も含めて、2人だけれど2人だけではなくて、目の前にいるあなたと一緒に音楽を鳴らしてライブを作ることができるのがこの2人編成でのライブだということを示していた。
それは同時に2人だけという音の少なさは不自由なものではなく、技術とセンスとアイデア次第でいかようにも音を重ねることができるという、むしろ2人だからこその自由さ、それこそがXIIXというユニットのライブであり音楽であることを示していた。なんならこのままこの編成で1本丸々ライブを見たいと思ってしまうくらいに。
そんな2人編成から5人編成に切り替わるべく、ステージには岡本啓佑(ドラム)、粂絢哉(ギター)、山本健太(キーボード)のサポートメンバーたちが登場。以前ライブを見た時はDJもいたし、ドラムが須藤の相方の堀正輝だったのであるが、その編成も変わって音を合わせるように鳴らし合う姿からはXIIXがこの編成だとれっきとしたバンドであることを感じさせてくれるのであるが、だからこそデビュー作収録の「Stay Mellow」もタイトル通りに音源ではメロウなR&Bなどの要素を取り入れた曲というイメージだったのが、このツインギターのバンドサウンドになると一気にロック感が増すし、ツインギターでもリードを担うのが斎藤であるというあたりはさすがである。その斎藤の後ろにもう1人ギターがいるという構図はユニゾンでのギターの凄まじさを考えると信じられないものであるが。
オープニング時から「確実に背面のスクリーンに映像が映るだろうな」と思っていたにもかかわらず、ここまでは全くそうした演出を使ってこなかったのであるが、最新アルバム1曲目収録の、斎藤のハイトーンボイスによる
「鏡よ鏡 魔法をかけて」
というサビのフレーズが一度聴いたら頭から離れない「魔法の鏡」でようやくそのスクリーンにサイケデリックな色彩の映像が映し出されると、斎藤が最初はハンドマイクで歌い、音源にゲストとして参加しているリアル後輩のSKY-HIのラップパートまでも自身でラップするという、ギタリストとしてでもシンガーソングライターとしてもだけでなく、歌い手として超絶進化を果たしたことを示すような「スプレー」では曲後半からギターを背負い、最後には粂、須藤と並んでギターを弾きまくるという姿は紛れもなくこのメンバーによるバンドと言ってもいいものであるが、以前から参加していた山本だけではなくて岡本(黒猫チェルシーとして絡みがあったのだろうか)も粂もかれこれ15年にもなる付き合いだという。
そんな付き合いの長いメンバーたちと一緒にライブができることの喜びを語りながら、斎藤の歌い出しのタイトルフレーズの歌唱法の表現力が「この人はきっと演技とかもいけるんだろうな…」とすら思わせてくれる「あれ」はXIIXなりのファンクチューンと言っていいくらいに強力なグルーヴが押し寄せてくる曲であり、ステージを色とりどりの照明が照らすあたりもまたそのグルーヴをさらに強く感じさせてくれる。
そのグルーヴがさらにアッパーに響き渡る「正者の行進」は斎藤による少し皮肉めいた歌詞と陰影を意識した照明の演出が実に美しくマッチしており、このライブ映像がなんとか世の中に出てこのXIIXのカッコよさが広まってくれないかと思うほど。基本的にはコーラスは同期も交えているが、そこに須藤の声が重なることによってこのユニットだからこその音楽とライブになっていく。
そうしてアッパーな、ライブでこそより真価を発揮するような曲の後に厳かな雰囲気で演奏されたのはそのメロディの美しさに引き込まれていくように斎藤が全編に渡って伸びやかなハイトーンボイスで歌う「まばたきの途中」であるのだが、自分はNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」を全部見ているので、この曲の音源にボーカルとして参加している橋本愛がツアーファイナルなだけにゲストで来たりするんじゃないだろうか、そしたら近くで生で見れるなと思っていたのだがやはりそんなことはなかった。それでもこの曲の名曲っぷりは変わることはないけれど。
ライブも終盤に差し掛かったことによって、わずか3本のツアーながらもグッズを作ったことを告知するのであるが、
斎藤「絵が上手い2人っていうXIIXなんで、グッズに自分たちの絵を使って…」
須藤「そっちで行く?(笑)「まばたきの途中」の演奏中にスクリーンにその絵を映そうか(笑)」
と、他の現場ではほとんど喋ることのない2人だからこそ、こうしてステージ上で喋っていることが実に新鮮であるのだが、バンドセットでの演奏だからこそより山本のキーボードが浮遊感を感じさせ、そうしたサウンドでも一打の強さと正確性が10代の時からそうだったけど、やはり凄いドラマーだなと思わせてくれる岡本のドラム(久しぶりに見れて実に嬉しい)による「No More」が後半戦の火蓋を切って落とす。
サビでタイトル通りに一気に春らしくポップなサウンドに振り切れていくかのような「うらら」ではなんと斎藤がハンドマイクになってステージ左右へ歩き回りながら歌い、須藤も立ち位置とは真逆の方向へ歩いていきながらベースを弾くという、MCと同様に他の現場では滅多に見ることができないパフォーマンスを展開する。その姿は超一流プレイヤーと呼ばれてもいいくらいに自身のスタイルを確立している2人が、今でもさらに上を目指して今までにやってきていないことに挑戦しているかのようであり、何よりもそうした新しい形での観客とのコミュニケーションを楽しんでいるように感じさせてくれる。この曲では斎藤にギターを一任されている粂のシャープかつエッジが立ったサウンドもさすがである。
そんな振り切れるくらいのキャッチーさから一転して、須藤がシンセベースを弾くことによってイントロから妖しさをその音で振りまくのは「月と蝶」であるが、そのアダルトな魅力とスクリーンに映るサイケデリックであったり美しい蝶の映像は歌舞伎町というよりも麻布(ライブハウスがないと行くことがない街なのであくまでイメージでしかない)というような街が似合うようにすら思えてくる。
そんなライブの最後に斎藤がユニゾンでのライブと同じように「ラスト!」と言ってから演奏されたのは2人編成でも最後に演奏された「Answer5」であるのだが、もちろん1stアルバム収録曲であるために意味合いは違うだろうけれど、タイトルとしてもこの5人編成で演奏されるのが最適解であるかのように新たな意味が曲に宿ったかのように感じられた。それくらいに2人編成とは別の曲と言っていいくらいに全く違うし、何よりも最後にはメンバー1人1人のソロ回しも披露されていたから。それはこの音楽がこの5人でこの場所で鳴らされている、作られているということの証明であるかのようだった。
アンコールでは須藤がこのツアーの物販で販売されている、曲タイトルに合わせたスプレーを吹きかけたりしながら、こうして音楽を鳴らして、ライブをやって生きていくということを溌剌とした斎藤の歌唱とバンドの演奏で鳴らす「LIFE IS MUSIC!!!!!」でやはりこのユニットがこれからもずっと続いていくということを感じさせると、ラストは最新アルバムを締める曲である「All Light」であるのだが、優しく包み込むようなサウンドの中で歌われる
「サンライト 全てを包むから
オールライト きっと大丈夫」
という締めのフレーズは、結成してデビューしてすぐにコロナ禍に見舞われてライブができなくなり、ある意味では自分たちのアイデンティティの喪失といえるような経験をしてきたこの2人によるユニットだからこそ強い説得力を持つものであるし、それはそのままこれから先の我々の人生においてもこの曲が、XIIXの音楽が支えになってそう思わせてくれると感じることができる。そこには確かにこのバンドだからこその体温と温もりが音に宿っていたからだ。
正直、XIIXがデビューした時には自分は「こういう感じか」という、ロックさよりもR&Bやヒップホップのサウンド感が強いことに戸惑いを覚えていたというか、ロックバンドが好きであるがゆえにイマイチハマりきれない感じがどこかあった。
でもそうした今までとは違う面も残しながら、斎藤が
「これからの土台になるようなアルバムができた」
と言っていたように、セルフタイトルのこのアルバムでもって本格的にXIIXがこれからやりたいことをやっていく体制が整ったと言えるし、斎藤はユニゾンのメジャーデビュー前、須藤はサポートをやっていた80kidzが2ndアルバムをリリースした時のライブ(米津玄師がライブを始めてそこに参加するよりもはるかに前)で見てから、斎藤がサポートメンバーたちと共有してきたように長い年月、この2人を見てきた。
そんな2人の凄さをさらに知ることができて、この2人のことを今までよりももっと好きになれたのはこのXIIXというユニットの存在と音楽があって、この日のライブを見ることができたからだ。それに気付いたのは少し遅かったかもしれないけれど、これからもいろんな活動とともにずっとこの2人での音楽を聴いて、ライブを見ていたいと思えたツアーファイナルだった。
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1.タイニーダンサー
2.アカシ
3.White Song
4.Light & Shadow
5.ハンドレッド・グラビティ
6.シトラス
7.Answer5
5
8.Stay Mellow
9.魔法の鏡
10.スプレー
11.あれ
12.正者の行進
13.まばたきの途中
14.No More
15.うらら
16.月と蝶
17.Answer5
encore
18.LIFE IS MUSIC!!!!!
19.All Light