THE SUN ALSO RISES vol.210 -THE KEBABS / キツネツキ @F.A.D YOKOHAMA 8/2
- 2023/08/03
- 19:06
今年1月に佐々木亮介と菅原卓郎の弾き語りでの対バンの際に、今後も様々な形態でこのF.A.Dの対バンライブシリーズ「THE SUN ALSO RISES」に出演したいということを両者が口にしていたが、その時にも話が出た、本隊ではないバンド同士の対バンが早くも実現。THE KEBABSとキツネツキという、本隊が多忙な中でも活動し続ける両バンドである。
・キツネツキ
先攻は9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎と滝善充による2人組ロックバンドのキツネツキ。しかしながらギターヒーローでありながらもこのバンドでは滝はドラムであり、ハットを被った滝はステージ上手のドラムセットに座り、逆サイドの下手に長身であるが故にステージが低くて演者が見にくいこのF.A.Dでも白いTシャツ姿なのがよく見えるのであるが、そんな卓郎が歪んだギターを弾き、実はドラムもめちゃ上手い滝がビートを叩いて始まるのは「101匹オオカミ」であり、これはライブ会場限定&通販で販売されているデモCDに収録されている曲であるが、話題になるようなこともなければ普通に流通することはなくても、キツネツキもこうして曲を作り、活動しているということがわかる曲である。キツネツキなのにオオカミの遠吠え的なフレーズもあるというのは実にこのバンドらしいシュールなものでもあるけれど。
続く「よるのにじ」もその最新デモCDに収録されている曲であるのだが、卓郎が歌詞を「横浜F.A.D」とこの日だからこそのものに変えて歌うと、滝はドラムを叩きながらも笛のようなものを吹いたり(ステージが低くて全然見えないけど)というあたりはドラムになっても落ち着くことがない滝らしさを表していると言える。究極にシンプルなロックバンドの形であるが、だからこそメロディが際立つ編成であるとも言える。
卓郎がタイトルをコールすることによってそのタイトル通りに観客が体を揺らし、腕を上げたりして踊る「Odoro Odoro」では卓郎の歪んだギターも、滝が連発するキメも、形態が変わってもこの2人がやはり凄まじい技術を持ったバンドマンであることを示すと、
「平日に横浜のライブハウスに来ている皆さんは我々と同じケダモノじゃないでしょうか!」
と卓郎が言って「ケダモノダモノ」が演奏され、卓郎のギターもギターロックとしてのドライブ感を感じさせてくれるのであるが、音は間違いなくギターとドラムと歌声だけであるのに、そうとは思えないくらいに分厚く感じられるのもこのバンドならではである。
「俺は7月19日生まれなんで、この間誕生日を迎えて40歳になりました!」
と自分からアピールしていくスタイルで卓郎が観客の拍手と歓声を浴びると、
「俺はかに座だから、ジャンケンする時は必ずチョキって決めてる。だからTHE KEBABSには一生勝てない(笑)」
と、しっかりTHE KEBABSの曲を知っているということを感じさせてくれると、童謡をポップかつ歪んだギターサウンドで鳴らすというこのバンドならではのスタイルによって、なんだかめちゃくちゃカッコいい曲に聞こえてくる「小ぎつね」「証城寺の狸囃子」という流れに。卓郎が
「ぽんぽこぽんのぽん」
と歌うのもまた実にシュールであるが、この童謡カバーシリーズはもはや記憶から消えそうになっている幼少期に聴いた曲がこんなにキャッチーな曲だったということを思い出させてくれるとともに、他のバンドではできない(というか多分誰もやろうと思ってないはず)ものであろうだけに、今後のシリーズにも是非期待したいところである。
すると一転して卓郎のギターが穏やかなサウンドを奏で、それに浸るように観客が体を動かしたかと思ったら後半で一気に激しく展開していくという1曲の中での緩急を見せてくれるインスト曲「It and moment」でさらにこのバンドの世界の中に浸らせると、
「さっき滝と楽屋で話していたら同意してくれたんだけど、俺はチェンソーマンが好きなのね。アニメ化もされたけど、そのアニメが良いか悪いかはどっちでもいいんだけど、漫画を読んでるとデンジは亮介の声で再生されるんだよね(笑)そう思う人いない?「永久機関の完成だー!」ってめちゃくちゃ亮介に似合わない?(笑)」
というMCで同意の拍手を巻き起こすのであるが、それは「チェンソーだ!」という完全にチェンソーマンにインスパイアされた曲を作ったTHE KEBABSからしたらめちゃくちゃ嬉しいことなんじゃないかと思う。
「キツネツキの中では珍しいラブソングで、妖怪と人間の恋の話なんだけど、それをいろんなものに置き換えて聞いてもらってもいいと思う」
と言って演奏された「てんぐです」ではイントロのコーラスパートで合唱が起き、滝がスティックを持って手を振るようにすることによって、客席にもその光景が広がっていく。空調効いてないんじゃないかというくらいにあまりに暑すぎるけれど、それでもやっぱり楽しいし、その暑さがバンドも観客をもさらに燃え上がらせてくれているような感がある。卓郎はもちろん歌詞を
「横浜に来たばかりの」
に変えて喝采を浴びる。実はそうしたこの日限りのライブの作り方が実に上手いバンドでもあるのだ。
卓郎のギターがさらに歪みも音圧も増していくことによって、2人だけとは思えないくらいの迫力を感じさせてくれる「ハイカラちゃん」でも、この歌詞の中に出てくる「アルカラだとか」という盟友の名前が出てくるフレーズを「THE KEBABSだとか」に変えることによってさらなる歓声を浴びるのであるが、卓郎のその反射神経は凄まじいものがあると思うし、対バンをしているからこそそうした歌詞を聴くことができて実に嬉しいのである。
するとこの日2曲目のインスト曲はどこか演奏する2人の姿から神々しさすら感じさせる曲であり、それもそのはずこの曲のタイトルは「Ozizo3」(読み:お地蔵さん)だからである。そうして歌詞がない、歌がない曲でも全く違う情景を描いてみせる、全く違う空気を感じさせるというあたりはさすが卓郎と滝の演奏力と表現力である。
そしてキツネツキのライブといえば、取り憑かれメンバーという名のゲストであり、この日はもちろん
「俺たちのチェンソーマンを呼んでもいいかー!」
と言って佐々木亮介、さらには田淵智也もステージに登場したことによって2人組バンドから、ボーカル、ギター、ベース、ドラムという4人組バンドへと進化するのであるが、亮介と田淵は登場時からすでにお茶割りを飲んでおり、亮介は先ほどの卓郎のMCを受けて
「永久機関の完成だー!」
と叫ぶと、このバンドの中でもどっしりとしたバラード曲である「まなつのなみだ」を亮介が歌うことによって、実に暑苦しい曲へと変貌させる。それはやはり亮介が「誰のどんな曲でも亮介が歌うとロックンロールになるし、亮介の曲になる」という力を持ったボーカリストであることを示しているが、何度も
「永久機関の完成だー!」
と叫ぶというあたりは完全にデンジの声と言われて喜びまくっている感すらあり、卓郎と滝の間でベースを弾くことによって曲の音の隙間を埋める田淵も実に楽しそうである。
そのまま最後はこの4人で、ライブの締めとしておなじみの「C.C.Odoshi」へ。インスト曲であるために亮介はやはり
「永久機関の完成だー!」
と叫んだり、「オイ!オイ!」と観客を煽りまくり、田淵は滝のドラムに合わせてキメを打ちまくるという、キツネツキを正統的にカッコよく進化させるような2人の取り憑かれっぷり。しかし亮介は酒を飲みながら去り際に
「気をつけてお帰りください」
と、もうこれでこの日のライブが終わったかのようなことを言うと、卓郎が
「まだ帰らないから!(笑)」
としっかりツッコミを入れる。そんなあまりに仲が良すぎる両者のコラボも含めて、やっぱりキツネツキのライブは本当に楽しい。それは卓郎と滝の他のどんな活動でも、世の中に存在するどんなバンドでも味わえない楽しさ。本隊や本命にはならないかもしれないけれど、でももうサイドでも余技でもない。キツネツキはそんなバンドになっている。
1.101匹オオカミ
2.よるのにじ
3.Odoro Odoro
4.ケダモノダモノ
5.小ぎつね
6.証城寺の狸囃子
7.It and moment
8.てんぐです
9.ハイカラちゃん
10.Ozizo3
11.まなつのなみだ w/ 佐々木亮介,田淵智也
12.C.C.Odoshi w/ 佐々木亮介,田淵智也
・THE KEBABS
そうしてすでに亮介と田淵がキツネツキに出演したことによって、始まる前からさらに期待が高まっている、THE KEBABS。先日O-EASTでツアーを見たばかりであり、次に見れるのはいつになるかと思っていたが、こんなに早くまた見れる機会があったのである。
メンバー4人がすぐにステージに登場するというあたりは意表を突くような形だったツアーとはやはり違うが、キツネツキに出演した亮介と田淵は登場時からお茶割りを飲んで登場という自由っぷりで、亮介がギターを持たずにバンドのタオルを持ってそれを掲げながら歌う「ジャキジャキハート」からスタートし、しゃがれたロックンロールな声質ながらも伸びやかな亮介の歌唱に、フレーズによってはボーカルをも務める田淵のコーラスが重なるのであるが、亮介はそのタオルで新井弘毅(ギター)を扇いだり、新井を牛のようにして闘牛士のマネをしたりと、もうこのバンドでライブをやるのが楽しくて仕方がないという感情が初っ端から溢れ出しまくっている。
鈴木浩之(ドラム)のキックのリズムに合わせて手拍子が起こる「常勝アミーゴ」では
「常勝 常勝」
のコーラスの最中に亮介が
「海南のように!」
と、SLAM DUNKで神奈川屈指の常勝高校として描かれている海南大附属高校の名前を出すのであるが、ワンマンの時には言っていなかったことすらも言ってしまうというのはこの日の対バンがそれを凌ぐくらいの常勝っぷりだということである。それはやはりロックシーン屈指のメロディメーカーが居並ぶこのバンドが、我々みんなを巻き込んでいるからこそ。
新井のカッティングが観客の体を否が応でも揺らす「ジャンケンはグー」はTHE KEBABSならではのファンクナンバーであるが、卓郎が言っていたようにジャンケンではKEBABSはキツネツキに常勝できることを示す曲であり、だからこそ観客も手をグーにして突き上げるのであるが、それがそのまま熱狂の光景に繋がるという計算尽くされた(?)曲でもある。亮介と田淵による間奏のやり取りもいつも以上にファンキーな感じなのは圧倒的に酒を飲んでいるからだろうか。
それはご機嫌な、というかもはや歌詞に意味性やメッセージなど全くないからこそ、ただただメロディの良さと新井の弾きまくるギターを軸にしたロックンロールに浸ることができる「ゴールデンキウイ」、さらにはワンマンではやっていなかったのにこのタイミングでセトリに入ってくる、メジャーじゃない食べ物シリーズの「オーロラソース」と、亮介は片手に緑茶割りを手放すことはほとんどなく、それでも柵の上に足をかけて観客からよく見えるように、自身も観客のことがよく見えるように歌っている。
合間には田淵が
「過去最高に酒を飲んでいる。これはヤバいやつだ。それにしてもF.A.Dのお茶割りは美味い」
と、ヤバいと言いながらも酒を手放すつもりはなく飲みながら口にするのであるが、亮介は中華街が大好きであることを話すと、その中華街で肉まんを食べたくなってしまう、キャッチーな新曲「ときめき肉まんパーティー」を披露する。惜しむらくはこのライブが終わった後には中華街に行けるような時間は全くないし、何より冷房がカバーできる範囲が狭過ぎてF.A.Dは極暑であり、ライブ後にすぐに何かを食べることができる気がしないくらいのレベルである。
そんな新曲のタイトルも含めてTHE KEBABSがかわいいバンドであることを示すのが「かわかわ」であり、亮介は歌いながら新井のパーマがかった髪をわしゃわしゃとしながら、
「髪型かわいくないですか?」
と観客に問いかけるのであるが、その姿も含めてやはり誰よりも亮介自身がずっきゅんとするくらいにかわかわなのである。
するとギターを持って泣きのコードを鳴らし、あたかもa flood of circleのライブで「Honey Moon Song」なんかをやる前みたいな空気を醸し出しながらも、
「良いこと言うみたいな空気になってるけど、何にもそういうこと言うつもりない〜」
と嘯きながら、
「中華街最高〜。何人でも行っていい〜。日本人でも中国人でも宇宙人でもいい〜。何人でも関係ない〜。親が明日戸籍持ってきて、あなたは実は日本人じゃないって君が言われても関係ない〜」
と言うのは実際に亮介が中華街に行って見てきたことや感じたことをストレートに口に出しているのだろう。それを聞くとやはりさらに中華街に行って中華料理を食べながらビールや紹興酒を飲み干したくなってしまう。F.A.Dで土曜日にフラッドやKEBABSがワンマンをやったらそうしたライブ後のコースもできるだろうか。
そんな泣きのギターを鳴らしながら歌い始めた「ともだちのうた」はKEBABS随一の沁みるバラード曲であり、学生視点の歌詞の曲を今でも書くことができる亮介の純真さをも感じさせる曲であるが、
「元気でいてくれ 元気でいてくれ」
のフレーズを歌う田淵も実に声が伸びやかであり、むしろ酒を飲みまくっていることによって声のボリュームが上がっている感すらある。
しかしながらここから一気にロックンロールに振り切れていくのは「恐竜あらわる」であり、新井のジャキジャキとしたギターと田淵のうねりまくるベースから、Bメロでは一転して隙間を活かしてメンバーが飛び跳ねまくるようになるというロックンロールチューンであるのだが、その熱さがタイトル通りにこちらはあつあつの、まさに出来立ての肉まんを頬張るような熱さのロックンロールな新曲「あつあつ肉まんパーティー」へと繋がっていく。ツアーですでに聴いている曲であるが、この中華街にあるF.A.Dで聴くとここで演奏されるために書かれた曲であるかのようにしか思えないから不思議である。
サビの歌詞通りに音源ではカラフルなシンセサイザーの音も取り入れている「てんとう虫の夏」では曲中にステージ上にいた亮介が見えなくなり、間奏で鈴木も立ち上がってキックを踏みながらどこにいるのか探していると、いつの間にか歌いながら客席奥のバーカウンターの前にまで移動しており、
「緑茶割りください〜」
と、もはやこのF.A.D名物になっている、亮介がライブをやる日だけ登場するスペシャルメニューの「佐々木亮介の緑茶割り」を自らオーダーして飲みながら客席に突入して観客と乾杯しながら歌いまくる。しかしながらこの曲の間奏は鈴木のドラムソロの見せ場であるところであり、結果的にそれを奪ってしまった形になっていたが、それは続く「猿でもできる」の間奏で炸裂しまくることになり、亮介も
「誰でもできる!猿でもできる!キツネでもできる!」
とこの日の対バンならではのバージョンにして歌い、もう暑過ぎてぐちゃぐちゃのフロアをさらに熱くする。それはやはりKEBABSの鳴らしている音があまりに熱すぎるからそうなってしまうのである。
そんな熱すぎるライブの最後に演奏された「THE KEBABSを抱きしめて」はサビで言葉を詰め込みながらもメロディは超絶キャッチーという実にこのバンドらしい曲であるのだが、今度は田淵がステージから飛び出して客席の非常口の前まで行って演奏するという実に珍しい事態に。それくらいに田淵がこの日のライブを楽しみまくっていたということでもあるのだが、そうしたパフォーマンスが我々を幸せにしてくれるし、メンバーたち自身も幸せだったとしか思えない…と思っていたら去り際に亮介は
「飲み過ぎた…」
と言っており、ギターを弾いている時以外はほぼずっと酒を飲んでいただけにその自覚はあったようだ。
しかしおそらくは楽屋に戻ってもなお酒を飲んでいただろうと思うのは、アンコールで卓郎&滝と当たり前のように6人で登場して酒を持っていたからであるが、田淵は今でこそ仲が良い滝について、
「ユニゾンの10周年の時に9mmと対バンするまでは全然喋ってなかった。俺はどうせ仲良くなるってわかってる人には自分からは話しかけにいかないようにしてるから(笑)新井君も6回目くらいの対バンの時に初めて喋ったくらい(笑)」
というやはり独特すぎる人付き合いの仕方について語ると、
「でも大学生の時に「RADWIMPSのツアーのオープニングアクトに9mm Parabellum Bulletっていうバンドが出るらしい」って聞いて、サークルの後輩がそのライブを見に行ったら「ギター版の田淵さんみたいな人がいましたよ」って言ってきた(笑)」
という滝のステージングの衝撃っぷりを語るエピソードを開陳する。ちなみに滝はこの日亮介と田淵が語っていたところによると、X JAPANのコピーをした時にhide→PATA→YOSHIKIというギター→ドラムという順番でコピーしたらしく、それによって普通のドラマーでは思いつかないようなフレーズや展開を叩けるとのこと。
そんな滝がフライングVのギターを持ち、亮介と卓郎のツインボーカルスタイルで演奏されたのは「THE KEBABSは忙しい」で、歌詞には「緑茶割り」「ハイネケン」などこのF.A.Dで販売されているドリンクも取り入れられ、さらには滝も含めた楽器陣のソロ回し的な演奏も展開されたと思ったら、なぜか滝はスピーカーの上によじ登ってギターを弾きまくる。
田淵「滝さんが楽しそうにしてると生きてて良かったなって思う」
と、リスペクトっぷりと仲の良さが溢れ出すようなことを口にしていたが、それは滝が苦しんでいた時期も田淵は見てきたということを示していることでもあり、そういう意味では田淵はこの日人生最大級に生きていて良かったと思えたんじゃないだろうか。緑茶割りを飲みながらギターを弾く滝の姿は本当に心から楽しそうでしかなかったから。
そういう意味ではTHE KEBABSもキツネツキとともに、心が通じ合っているバンドとの対バンでこそ最大限に楽しさを発揮できるバンドだと言えるのかもしれない。それくらいにいつも楽しいTHE KEBABSのライブが、過去最高に楽しかった。それこそがこの2組の最大の共通点だと思ったりもするし、この対バンを企画してくれたF.A.Dには感謝しかない。だからこそ次はここで9mmとフラッドの対バンで。
1.ジャキジャキハート
2.常勝アミーゴ
3.ジャンケンはグー
4.ゴールデンキウイ
5.オーロラソース
6.ときめき肉まんパーティー
7.かわかわ
8.ともだちのうた
9.恐竜あらわる
10.あつあつ肉まんパーティー
11.てんとう虫の夏
12.猿でもできる
13.THE KEBABSを抱きしめて
encore
14.THE KEBABSは忙しい w/ 菅原卓郎,滝善充
・キツネツキ
先攻は9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎と滝善充による2人組ロックバンドのキツネツキ。しかしながらギターヒーローでありながらもこのバンドでは滝はドラムであり、ハットを被った滝はステージ上手のドラムセットに座り、逆サイドの下手に長身であるが故にステージが低くて演者が見にくいこのF.A.Dでも白いTシャツ姿なのがよく見えるのであるが、そんな卓郎が歪んだギターを弾き、実はドラムもめちゃ上手い滝がビートを叩いて始まるのは「101匹オオカミ」であり、これはライブ会場限定&通販で販売されているデモCDに収録されている曲であるが、話題になるようなこともなければ普通に流通することはなくても、キツネツキもこうして曲を作り、活動しているということがわかる曲である。キツネツキなのにオオカミの遠吠え的なフレーズもあるというのは実にこのバンドらしいシュールなものでもあるけれど。
続く「よるのにじ」もその最新デモCDに収録されている曲であるのだが、卓郎が歌詞を「横浜F.A.D」とこの日だからこそのものに変えて歌うと、滝はドラムを叩きながらも笛のようなものを吹いたり(ステージが低くて全然見えないけど)というあたりはドラムになっても落ち着くことがない滝らしさを表していると言える。究極にシンプルなロックバンドの形であるが、だからこそメロディが際立つ編成であるとも言える。
卓郎がタイトルをコールすることによってそのタイトル通りに観客が体を揺らし、腕を上げたりして踊る「Odoro Odoro」では卓郎の歪んだギターも、滝が連発するキメも、形態が変わってもこの2人がやはり凄まじい技術を持ったバンドマンであることを示すと、
「平日に横浜のライブハウスに来ている皆さんは我々と同じケダモノじゃないでしょうか!」
と卓郎が言って「ケダモノダモノ」が演奏され、卓郎のギターもギターロックとしてのドライブ感を感じさせてくれるのであるが、音は間違いなくギターとドラムと歌声だけであるのに、そうとは思えないくらいに分厚く感じられるのもこのバンドならではである。
「俺は7月19日生まれなんで、この間誕生日を迎えて40歳になりました!」
と自分からアピールしていくスタイルで卓郎が観客の拍手と歓声を浴びると、
「俺はかに座だから、ジャンケンする時は必ずチョキって決めてる。だからTHE KEBABSには一生勝てない(笑)」
と、しっかりTHE KEBABSの曲を知っているということを感じさせてくれると、童謡をポップかつ歪んだギターサウンドで鳴らすというこのバンドならではのスタイルによって、なんだかめちゃくちゃカッコいい曲に聞こえてくる「小ぎつね」「証城寺の狸囃子」という流れに。卓郎が
「ぽんぽこぽんのぽん」
と歌うのもまた実にシュールであるが、この童謡カバーシリーズはもはや記憶から消えそうになっている幼少期に聴いた曲がこんなにキャッチーな曲だったということを思い出させてくれるとともに、他のバンドではできない(というか多分誰もやろうと思ってないはず)ものであろうだけに、今後のシリーズにも是非期待したいところである。
すると一転して卓郎のギターが穏やかなサウンドを奏で、それに浸るように観客が体を動かしたかと思ったら後半で一気に激しく展開していくという1曲の中での緩急を見せてくれるインスト曲「It and moment」でさらにこのバンドの世界の中に浸らせると、
「さっき滝と楽屋で話していたら同意してくれたんだけど、俺はチェンソーマンが好きなのね。アニメ化もされたけど、そのアニメが良いか悪いかはどっちでもいいんだけど、漫画を読んでるとデンジは亮介の声で再生されるんだよね(笑)そう思う人いない?「永久機関の完成だー!」ってめちゃくちゃ亮介に似合わない?(笑)」
というMCで同意の拍手を巻き起こすのであるが、それは「チェンソーだ!」という完全にチェンソーマンにインスパイアされた曲を作ったTHE KEBABSからしたらめちゃくちゃ嬉しいことなんじゃないかと思う。
「キツネツキの中では珍しいラブソングで、妖怪と人間の恋の話なんだけど、それをいろんなものに置き換えて聞いてもらってもいいと思う」
と言って演奏された「てんぐです」ではイントロのコーラスパートで合唱が起き、滝がスティックを持って手を振るようにすることによって、客席にもその光景が広がっていく。空調効いてないんじゃないかというくらいにあまりに暑すぎるけれど、それでもやっぱり楽しいし、その暑さがバンドも観客をもさらに燃え上がらせてくれているような感がある。卓郎はもちろん歌詞を
「横浜に来たばかりの」
に変えて喝采を浴びる。実はそうしたこの日限りのライブの作り方が実に上手いバンドでもあるのだ。
卓郎のギターがさらに歪みも音圧も増していくことによって、2人だけとは思えないくらいの迫力を感じさせてくれる「ハイカラちゃん」でも、この歌詞の中に出てくる「アルカラだとか」という盟友の名前が出てくるフレーズを「THE KEBABSだとか」に変えることによってさらなる歓声を浴びるのであるが、卓郎のその反射神経は凄まじいものがあると思うし、対バンをしているからこそそうした歌詞を聴くことができて実に嬉しいのである。
するとこの日2曲目のインスト曲はどこか演奏する2人の姿から神々しさすら感じさせる曲であり、それもそのはずこの曲のタイトルは「Ozizo3」(読み:お地蔵さん)だからである。そうして歌詞がない、歌がない曲でも全く違う情景を描いてみせる、全く違う空気を感じさせるというあたりはさすが卓郎と滝の演奏力と表現力である。
そしてキツネツキのライブといえば、取り憑かれメンバーという名のゲストであり、この日はもちろん
「俺たちのチェンソーマンを呼んでもいいかー!」
と言って佐々木亮介、さらには田淵智也もステージに登場したことによって2人組バンドから、ボーカル、ギター、ベース、ドラムという4人組バンドへと進化するのであるが、亮介と田淵は登場時からすでにお茶割りを飲んでおり、亮介は先ほどの卓郎のMCを受けて
「永久機関の完成だー!」
と叫ぶと、このバンドの中でもどっしりとしたバラード曲である「まなつのなみだ」を亮介が歌うことによって、実に暑苦しい曲へと変貌させる。それはやはり亮介が「誰のどんな曲でも亮介が歌うとロックンロールになるし、亮介の曲になる」という力を持ったボーカリストであることを示しているが、何度も
「永久機関の完成だー!」
と叫ぶというあたりは完全にデンジの声と言われて喜びまくっている感すらあり、卓郎と滝の間でベースを弾くことによって曲の音の隙間を埋める田淵も実に楽しそうである。
そのまま最後はこの4人で、ライブの締めとしておなじみの「C.C.Odoshi」へ。インスト曲であるために亮介はやはり
「永久機関の完成だー!」
と叫んだり、「オイ!オイ!」と観客を煽りまくり、田淵は滝のドラムに合わせてキメを打ちまくるという、キツネツキを正統的にカッコよく進化させるような2人の取り憑かれっぷり。しかし亮介は酒を飲みながら去り際に
「気をつけてお帰りください」
と、もうこれでこの日のライブが終わったかのようなことを言うと、卓郎が
「まだ帰らないから!(笑)」
としっかりツッコミを入れる。そんなあまりに仲が良すぎる両者のコラボも含めて、やっぱりキツネツキのライブは本当に楽しい。それは卓郎と滝の他のどんな活動でも、世の中に存在するどんなバンドでも味わえない楽しさ。本隊や本命にはならないかもしれないけれど、でももうサイドでも余技でもない。キツネツキはそんなバンドになっている。
1.101匹オオカミ
2.よるのにじ
3.Odoro Odoro
4.ケダモノダモノ
5.小ぎつね
6.証城寺の狸囃子
7.It and moment
8.てんぐです
9.ハイカラちゃん
10.Ozizo3
11.まなつのなみだ w/ 佐々木亮介,田淵智也
12.C.C.Odoshi w/ 佐々木亮介,田淵智也
・THE KEBABS
そうしてすでに亮介と田淵がキツネツキに出演したことによって、始まる前からさらに期待が高まっている、THE KEBABS。先日O-EASTでツアーを見たばかりであり、次に見れるのはいつになるかと思っていたが、こんなに早くまた見れる機会があったのである。
メンバー4人がすぐにステージに登場するというあたりは意表を突くような形だったツアーとはやはり違うが、キツネツキに出演した亮介と田淵は登場時からお茶割りを飲んで登場という自由っぷりで、亮介がギターを持たずにバンドのタオルを持ってそれを掲げながら歌う「ジャキジャキハート」からスタートし、しゃがれたロックンロールな声質ながらも伸びやかな亮介の歌唱に、フレーズによってはボーカルをも務める田淵のコーラスが重なるのであるが、亮介はそのタオルで新井弘毅(ギター)を扇いだり、新井を牛のようにして闘牛士のマネをしたりと、もうこのバンドでライブをやるのが楽しくて仕方がないという感情が初っ端から溢れ出しまくっている。
鈴木浩之(ドラム)のキックのリズムに合わせて手拍子が起こる「常勝アミーゴ」では
「常勝 常勝」
のコーラスの最中に亮介が
「海南のように!」
と、SLAM DUNKで神奈川屈指の常勝高校として描かれている海南大附属高校の名前を出すのであるが、ワンマンの時には言っていなかったことすらも言ってしまうというのはこの日の対バンがそれを凌ぐくらいの常勝っぷりだということである。それはやはりロックシーン屈指のメロディメーカーが居並ぶこのバンドが、我々みんなを巻き込んでいるからこそ。
新井のカッティングが観客の体を否が応でも揺らす「ジャンケンはグー」はTHE KEBABSならではのファンクナンバーであるが、卓郎が言っていたようにジャンケンではKEBABSはキツネツキに常勝できることを示す曲であり、だからこそ観客も手をグーにして突き上げるのであるが、それがそのまま熱狂の光景に繋がるという計算尽くされた(?)曲でもある。亮介と田淵による間奏のやり取りもいつも以上にファンキーな感じなのは圧倒的に酒を飲んでいるからだろうか。
それはご機嫌な、というかもはや歌詞に意味性やメッセージなど全くないからこそ、ただただメロディの良さと新井の弾きまくるギターを軸にしたロックンロールに浸ることができる「ゴールデンキウイ」、さらにはワンマンではやっていなかったのにこのタイミングでセトリに入ってくる、メジャーじゃない食べ物シリーズの「オーロラソース」と、亮介は片手に緑茶割りを手放すことはほとんどなく、それでも柵の上に足をかけて観客からよく見えるように、自身も観客のことがよく見えるように歌っている。
合間には田淵が
「過去最高に酒を飲んでいる。これはヤバいやつだ。それにしてもF.A.Dのお茶割りは美味い」
と、ヤバいと言いながらも酒を手放すつもりはなく飲みながら口にするのであるが、亮介は中華街が大好きであることを話すと、その中華街で肉まんを食べたくなってしまう、キャッチーな新曲「ときめき肉まんパーティー」を披露する。惜しむらくはこのライブが終わった後には中華街に行けるような時間は全くないし、何より冷房がカバーできる範囲が狭過ぎてF.A.Dは極暑であり、ライブ後にすぐに何かを食べることができる気がしないくらいのレベルである。
そんな新曲のタイトルも含めてTHE KEBABSがかわいいバンドであることを示すのが「かわかわ」であり、亮介は歌いながら新井のパーマがかった髪をわしゃわしゃとしながら、
「髪型かわいくないですか?」
と観客に問いかけるのであるが、その姿も含めてやはり誰よりも亮介自身がずっきゅんとするくらいにかわかわなのである。
するとギターを持って泣きのコードを鳴らし、あたかもa flood of circleのライブで「Honey Moon Song」なんかをやる前みたいな空気を醸し出しながらも、
「良いこと言うみたいな空気になってるけど、何にもそういうこと言うつもりない〜」
と嘯きながら、
「中華街最高〜。何人でも行っていい〜。日本人でも中国人でも宇宙人でもいい〜。何人でも関係ない〜。親が明日戸籍持ってきて、あなたは実は日本人じゃないって君が言われても関係ない〜」
と言うのは実際に亮介が中華街に行って見てきたことや感じたことをストレートに口に出しているのだろう。それを聞くとやはりさらに中華街に行って中華料理を食べながらビールや紹興酒を飲み干したくなってしまう。F.A.Dで土曜日にフラッドやKEBABSがワンマンをやったらそうしたライブ後のコースもできるだろうか。
そんな泣きのギターを鳴らしながら歌い始めた「ともだちのうた」はKEBABS随一の沁みるバラード曲であり、学生視点の歌詞の曲を今でも書くことができる亮介の純真さをも感じさせる曲であるが、
「元気でいてくれ 元気でいてくれ」
のフレーズを歌う田淵も実に声が伸びやかであり、むしろ酒を飲みまくっていることによって声のボリュームが上がっている感すらある。
しかしながらここから一気にロックンロールに振り切れていくのは「恐竜あらわる」であり、新井のジャキジャキとしたギターと田淵のうねりまくるベースから、Bメロでは一転して隙間を活かしてメンバーが飛び跳ねまくるようになるというロックンロールチューンであるのだが、その熱さがタイトル通りにこちらはあつあつの、まさに出来立ての肉まんを頬張るような熱さのロックンロールな新曲「あつあつ肉まんパーティー」へと繋がっていく。ツアーですでに聴いている曲であるが、この中華街にあるF.A.Dで聴くとここで演奏されるために書かれた曲であるかのようにしか思えないから不思議である。
サビの歌詞通りに音源ではカラフルなシンセサイザーの音も取り入れている「てんとう虫の夏」では曲中にステージ上にいた亮介が見えなくなり、間奏で鈴木も立ち上がってキックを踏みながらどこにいるのか探していると、いつの間にか歌いながら客席奥のバーカウンターの前にまで移動しており、
「緑茶割りください〜」
と、もはやこのF.A.D名物になっている、亮介がライブをやる日だけ登場するスペシャルメニューの「佐々木亮介の緑茶割り」を自らオーダーして飲みながら客席に突入して観客と乾杯しながら歌いまくる。しかしながらこの曲の間奏は鈴木のドラムソロの見せ場であるところであり、結果的にそれを奪ってしまった形になっていたが、それは続く「猿でもできる」の間奏で炸裂しまくることになり、亮介も
「誰でもできる!猿でもできる!キツネでもできる!」
とこの日の対バンならではのバージョンにして歌い、もう暑過ぎてぐちゃぐちゃのフロアをさらに熱くする。それはやはりKEBABSの鳴らしている音があまりに熱すぎるからそうなってしまうのである。
そんな熱すぎるライブの最後に演奏された「THE KEBABSを抱きしめて」はサビで言葉を詰め込みながらもメロディは超絶キャッチーという実にこのバンドらしい曲であるのだが、今度は田淵がステージから飛び出して客席の非常口の前まで行って演奏するという実に珍しい事態に。それくらいに田淵がこの日のライブを楽しみまくっていたということでもあるのだが、そうしたパフォーマンスが我々を幸せにしてくれるし、メンバーたち自身も幸せだったとしか思えない…と思っていたら去り際に亮介は
「飲み過ぎた…」
と言っており、ギターを弾いている時以外はほぼずっと酒を飲んでいただけにその自覚はあったようだ。
しかしおそらくは楽屋に戻ってもなお酒を飲んでいただろうと思うのは、アンコールで卓郎&滝と当たり前のように6人で登場して酒を持っていたからであるが、田淵は今でこそ仲が良い滝について、
「ユニゾンの10周年の時に9mmと対バンするまでは全然喋ってなかった。俺はどうせ仲良くなるってわかってる人には自分からは話しかけにいかないようにしてるから(笑)新井君も6回目くらいの対バンの時に初めて喋ったくらい(笑)」
というやはり独特すぎる人付き合いの仕方について語ると、
「でも大学生の時に「RADWIMPSのツアーのオープニングアクトに9mm Parabellum Bulletっていうバンドが出るらしい」って聞いて、サークルの後輩がそのライブを見に行ったら「ギター版の田淵さんみたいな人がいましたよ」って言ってきた(笑)」
という滝のステージングの衝撃っぷりを語るエピソードを開陳する。ちなみに滝はこの日亮介と田淵が語っていたところによると、X JAPANのコピーをした時にhide→PATA→YOSHIKIというギター→ドラムという順番でコピーしたらしく、それによって普通のドラマーでは思いつかないようなフレーズや展開を叩けるとのこと。
そんな滝がフライングVのギターを持ち、亮介と卓郎のツインボーカルスタイルで演奏されたのは「THE KEBABSは忙しい」で、歌詞には「緑茶割り」「ハイネケン」などこのF.A.Dで販売されているドリンクも取り入れられ、さらには滝も含めた楽器陣のソロ回し的な演奏も展開されたと思ったら、なぜか滝はスピーカーの上によじ登ってギターを弾きまくる。
田淵「滝さんが楽しそうにしてると生きてて良かったなって思う」
と、リスペクトっぷりと仲の良さが溢れ出すようなことを口にしていたが、それは滝が苦しんでいた時期も田淵は見てきたということを示していることでもあり、そういう意味では田淵はこの日人生最大級に生きていて良かったと思えたんじゃないだろうか。緑茶割りを飲みながらギターを弾く滝の姿は本当に心から楽しそうでしかなかったから。
そういう意味ではTHE KEBABSもキツネツキとともに、心が通じ合っているバンドとの対バンでこそ最大限に楽しさを発揮できるバンドだと言えるのかもしれない。それくらいにいつも楽しいTHE KEBABSのライブが、過去最高に楽しかった。それこそがこの2組の最大の共通点だと思ったりもするし、この対バンを企画してくれたF.A.Dには感謝しかない。だからこそ次はここで9mmとフラッドの対バンで。
1.ジャキジャキハート
2.常勝アミーゴ
3.ジャンケンはグー
4.ゴールデンキウイ
5.オーロラソース
6.ときめき肉まんパーティー
7.かわかわ
8.ともだちのうた
9.恐竜あらわる
10.あつあつ肉まんパーティー
11.てんとう虫の夏
12.猿でもできる
13.THE KEBABSを抱きしめて
encore
14.THE KEBABSは忙しい w/ 菅原卓郎,滝善充
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