Hello Sleepwalkers ONE MAN LIVE 「アルストロメリア」 @恵比寿LIQUIDROOM 7/30
- 2023/07/31
- 21:48
Hello Sleepwalkersからドラムのユウキが脱退することが発表された。デビューから活動休止を挟んでも誰も変わらなかった、抜けることがなかったバンドがついに変わらなければならない時を迎えてしまった。そんな5人でのHello Sleepwalkersの最後のライブとなるのがこの日の恵比寿LIQUIDROOMでのワンマン「アルストロメリア」。すでに大阪を終えており、正真正銘最後の日となる。
現体制最後のライブということで開演前の客席は少し緊張感みたいなものも漂っているのであるが、そんな中にBGMとしてYOASOBI「アイドル」が流れると明らかにそれまでよりもざわついたり踊ったりする人が出現するというあたりにこの曲の凄まじさを感じざるを得ない。
そうして意外な感じで客席が温まった中、18時を10分ほど過ぎた中で場内が暗転して、この日が最後になるユウキを先頭にしてメンバー5人がステージに登場。ステージ背面にはバンド名が描かれているが、それを背負ったこの5人でのライブがこの日で最後だと思うと少し感じるものがある。
そんな空気を切り裂くように鳴らされたのは「SCAPEGOAT」であり、実にハロスリらしい複雑なリズムと、シュンタロウ(ボーカル&ギター)、タソコ(ギター)、ナルミ(ボーカル&ギター)のトリプルギターのアンサンブルも最初から実にこのバンドらしさというか、このバンドでしかなさを感じさせるのであるが、サビをナルミが歌うことによってその複雑なアンサンブルすらも全てキャッチーなものとして集約されていくかのような昨年リリースされた最新作収録の「流浪奇譚」ではタソコがステージ前に出てきてソロを弾きまくる。完全に最初から全開であり、そのパフォーマンスが「この5人の最後」という湿っぽさをアッパーに昇華していく。だからこそ観客も最初から腕を振り上げまくっているのである。
それは激しくぶつかり合うような演奏の中でシュンタロウも思いっきり感情を込めるようにして張り上げて歌う「虚言症」もそうであるが、社会への言及的な強い言葉が並ぶ中でサビの最後の
「真っ赤な嘘」
というフレーズに合わせてステージを真っ赤な照明が照らし、より演奏が燃え上がっているかのように見えるし、なんならこの5人での最後にしてこれが最高なんじゃないか?と思うような凄まじさを序盤から感じる。
するとシュンタロウがギターを下ろしてステージを歩き回り、飛び跳ねながら歌う「Jamming」は一転してEDMなんかの影響も感じさせるような、マコト(ベース)とユウキのリズムも一気に軽快になるダンスチューンであるが、ナルミもマコトも飛び跳ねるようにして演奏することによって、観客もそうして飛び跳ねることによってこの5人での最後という寂しさよりも今この瞬間にこうして踊っている楽しさが上回っていくかのようだ。
シュンタロウがMCで改めてこの日が本当にこの5人での最後のライブであり、だからこそこの日は
「今まで5人で築き上げてきたものを見せるようなライブ」
にすることを告げると、
「こちら海底 地上に向けて再交信中」
というフレーズから始まる「水面」によって、爆裂するような熱狂だけではなく、まさに深海のようなこのバンドの深い部分にまで引っ張り込まれていくかのような表現力を感じさせてくれると、その海底や水面から浮上したことによって降り注ぐ光を見ることができているということを示すように、音を盛りまくるのではなくて削ぎ落とすことによってシュンタロウの英語歌詞のボーカルによるメロディがさらに神聖なものに感じられるような「Ray of Sunlight」と繋がっていくというのはワンマンならではであるし、この曲たちをライブで聴くのも実に久々であるために意外な選曲、まさにハロスリのこれまでに築き上げてきたものを全て放出するかのようだ。
するとシュンタロウ、ナルミ、タソコがステージ上に座り込むようにするのだが、それはギターをチューニングするようにしながらもユウキがしっかり見えるようにという配慮だったに違いないと思うのは、ここでユウキにスポットライトが当てられてドラムソロを叩き出したからだ。そのソロを見ていると改めてとんでもないドラマーだなと思うし、その手数や変拍子の連発というこのバンドの曲の複雑な部分を最も担っていたのはユウキだったんだなと思う。その象徴というようにドラムソロからそのまま「2XXX」へと繋がるのであるが、この直後のMCでは
ユウキ「ドラムソロの後に「2XXX」はないでしょ〜(笑)」
ナルミ「でも曲順を並べたのは私たちだけど、ユウキがやりたい曲を選んだからそれは自業自得(笑)」
と、やはりハロスリのライブでの演奏が一筋縄ではいかないことを感じさせるやり取りが行われるのであるが、その会話からも悲しさや寂しさよりも5人全員が今をしっかり刻み込もうとしている、この日を楽しもうとしていることがよくわかるし、その関係性はこれからも変わらないんだろうなと思える。
そのユウキが
「デビュー曲をやります」
と言って演奏されたのは、タソコのギターが宇宙空間にいるかのような音をエフェクトによって奏でる「センチメンタル症候群」であり、この曲でこのバンドのことを知った(枚数限定のこの曲のシングル盤も当時発売日にタワレコに買いに行った)身としてはその当時の「すげえバンド出てきたな」という衝撃を思い出させてくれるのであるが、それは今でも全く変わらないというか、これから先もこうしてライブを見るたびに衝撃を与えてくれるんだろうなと思うくらいに今演奏されるこの曲はさらに進化しているのであるが、
「涙を堪えて虚しさ殺して
どこまで遠くへ僕ら行けるだろう」
というシュンタロウとナルミの声が重なるサビはこの日だけは別れを経験して尚前に進んでいくバンドの今の心境と重なって聞こえてきてしまう。それはしかしバンドが止まらないことを選んだからこそそう感じられるものであるのだ。
さらにはもうイントロからして何か起こるのは確実というか、1stアルバムを聴いた時の「先行シングルですらとんでもなかったのにこんな曲がまだあったのか」と思ったことを今でも思い出す「月面歩行」もまたバンドの今の状態が最高かつ最強なものであることを感じさせてくれるくらいに音の迫力や圧力が凄まじいのであるが、その音に負けないくらいのナルミのサビでのボーカルの凄まじさたるや。何故このバンドを好きになったのかという理由がその音に全て詰まっていたし、これまでに見てきたこのバンドのライブの激しさを思い出す。きっとこの日にそうしたモッシュなどがなかったのは、そうした楽しみ方をするよりも、ユウキの最後の勇姿を、5人での最後の姿を観客全員がしっかり目に焼き付けようとしていたからだと思っている。
するとステージには椅子やアコギなどが運び込まれる。それはユウキを除いた4人で作られた新曲でありこの日のライブタイトルにもなっている「アルストロメリア」を演奏するためのものなのだが、シュンタロウはその言葉の意味を説明しながら、
「ユウキにとっても俺たちにとってもみんなにとっても新しい旅立ちっていうこと」
とまとめるのであるが、アコギ3本とベースというアコースティック編成のこの曲はユウキが
「今までで1番ストレートな歌詞だと思った」
と言ったように、
「同じ呼吸を始めたその日
僕らひとつの生き物になった
同じ景色に焦がれたあの日
飽きもせずただ風の吹くまま」
という歌詞から始まる全てのフレーズがこの5人でHello Sleepwalkersであることについて歌っている。シュンタロウも
「複雑な歌詞や展開になりがちなバンドだけど、この曲だけはストレートに歌おうと思った」
と自身で言うくらいのストレートさ。それは今この状況になったことによって引き出された新たな一面であるとも言えるが、Bメロの歌唱を担うナルミは泣いてしまって歌につまる箇所もあった。どうやら大阪でもそうだったらしいが、そのナルミの姿が改めて「本当に今日でこの5人でライブをやるのは最後なんだな…」と感じさせて、観客側にも沁み入るものがある。楽しいものにしたいと思いながらも、やっぱりそれだけではいられないのである。
それはこのバンド名になる前から(ナルミは普通に前のバンド名を口にしていてシュンタロウに「言っていいのか?」と言われてもいたが、タソコは「調べたら普通に出てくるから」と実に冷静であった)だと実に15年間、上京してからは全員で共同生活をし、みんなでご飯を食べて…という家族のように生きてきたバンドだからこそだ。そんな15年の中での思い出をユウキは
「メジャーデビューする時のアー写を撮ってくれたカメラマンが長髪でイケメンの人だったんだけど、「いいねいいね〜」みたいに言って撮るから、「音楽業界ってやっぱりこんな感じなんだな〜」って思った(笑)
「沖縄の基地の壁の前にいるつもりで!」って言われたけど、あんまり行くことないんだよなって思いながら(笑)」
と笑いを交えて話してくれることによって和むのであるが、その出来事を今でもはっきりと覚えているというのが、それがメンバーにとってどれだけ衝撃的なことだったのかということを感じさせてくれる。
そんなMCの後にはいよいよ終盤戦へ。イントロのシュンタロウによるカウントダウンが否が応でも観客の心にも火をつけるかのような「猿は木から何処へ落ちる」ではそのカウントダウンも、サビでの
「1,2,3,4」「A,B,C,D」
のフレーズも、
「アイトヘイワ アイトヘイワ」
のフレーズもメンバーとともに観客の大合唱が響く。個人的には本当に久しぶりのこのバンドのライブでの大合唱は、曲の持つポテンシャルとライブの楽しさを最大限に引き出してくれると改めて思う。タソコのギターソロもより爆発するかのような激しさと凄まじさを感じさせてくれるものになっている。
イントロから客席からリズムに合わせて手拍子が起こる「円盤飛来」もまたバンドの鳴らす音の重さと複雑極まりないリズムがこのバンドでしか絶対に作れない曲であると感じさせてくれるのだが、間奏部分に入るマコトのセリフ的な歌唱では、メンバーの中で最も物静かなイメージの(MCすらほとんど喋ることはしない)マコトがなんと
「今日で最後だぞー!」
と歌詞をぶっ飛ばして叫ぶという驚きのパフォーマンスを見せる。リズム隊の相棒として1番ユウキと音も呼吸も合わせてきたのがマコトであり、マコトがユウキのことを本当に大事な存在だと思っていることが伝わってくる。それから後もマコトはステージの1番前まで出て行ったりというアグレッシブさを見せていたのだが、そうした姿からも彼の今までに見たことがないくらいの気合いを感じていた。
そしてシュンタロウとナルミがギターを置いてハンドマイクになると、デジタルサウンドも取り入れてメンバーも観客も飛び跳ねまくる「Worker Ant」ではナルミによるおなじみの
「もくもく働こう」
というフレーズを観客も一緒に大合唱するのであるが、この日はこれから先にまさにバンドとは違う形で働くことになるユウキに向かってナルミが
「ユウキ君、もくもく働く準備はできてますか!?」
と問いかけてマイクを向けるという一幕も。もう5人で演奏するのが最後な、これまでにも最高に楽しい光景を描いてきたこの曲を最後に楽しみ尽くそうとしていた。それはびっくりするくらいに大きな合唱を起こしていた観客も含めて。
そんなライブの最後を締めるのはもちろんハロスリ随一の爆裂曲であり、ナルミによる
「チクタク 針はチクタクと」
のコーラスでも合唱が起きる「午夜の待ち合わせ」。それを聴きながら、ユウキがいなくなった後にこれからこの曲はどうやって鳴らされていくんだろうかと思ったけれど、トリプルギターの分厚く複雑さとキャッチーさを備えたサウンドはきっとこれからも変わることはないと思ったし、その最後にぶっ叩くようにしたユウキのドラムのカッコよさは忘れないようにしよう…と思いもしたのだが、忘れようとしなくてもきっと忘れることはないだろうなとも思っていた。
手拍子だけだったのが大きな「アンコール!アンコール!」という声になったことに応えるかのように再びメンバーがステージに現れると、まずはこの5人での最後の光景を記録するために観客を背にして写真撮影が行われる。その音頭を取ったユウキが決して面白いことを言わないというあたりにも彼の真面目さが表れているなと思ったし、何よりもメンバーが誰も呼びかけていないのに前の方の観客たちが後ろの人たちが映るように自主的にしゃがんだりする姿を見て、ハロスリは本当に素敵なファンたちに愛されているなと思った。そんな人たちで満員になったこの日の会場にいられたことが本当に幸せだと思うとともに、この人たちがいるんだからハロスリはこれからもきっと大丈夫だと思った。
そうして写真撮影をした後にはシュンタロウが
「もう4人で新しい曲を作ってる。この5人が最強だと思ってるけど、新しい4人のHello Sleepwalkersも最強だから。ちゃんと着いてきてください!」
と、視線はすでにこの日の先に向かっていることを告げるのであるが、ユウキは最後に
「これから叩くドラマーは本当に大変なバンドだと思うけど(笑)、これからは1人のファンとしてこのバンドの音楽を楽しみにしてます。最後に2曲、これも僕が選びました。1曲目は僕が好きな曲で、最後はこのバンドで1番難しい曲をやって最後にしようと思います」
と挨拶をしてから先に演奏されたのは昨年リリースの最新作収録の、同期のサウンドなども使った切ない夜のダンスチューン「トワイライト」であり、ステージから客席にはレーザー光線も飛び交う中で飛び跳ねる観客たちの姿はやはりこの瞬間を最後まで存分に楽しもうとしていることが伝わってくるとともに、ハロスリが今でも新しい名曲を次々に生み出していることがわかるような美しいメロディだ。それを最大限に活かすためのダンスミュージック的なアレンジというか。
そして数々の複雑極まりない曲のドラムを叩いていたユウキをして「1番難しい」と言わしめた最後の曲は「新世界」。確かにドラムに注視して見るととんでもない手数やリズムをしている曲だということに改めて気付くのであるが、図らずもそのタイトルは互いにこれから新しい世界へと足を踏み出していくバンドとユウキのためのテーマソングであるかのようだった。
「目の眩むような光源の向こうには
微かな新世界」
と力強く歌うナルミのボーカルも、ステージに倒れ込むようにしてギターを弾きまくっていたタソコも、確かにバンドは新世界を自分たちの手で掴みにいこうとしていた。それはやっぱりハロスリは今が1番最強でありカッコいいということを自分たち自身の音と姿で証明するかのように。
演奏が終わるとナルミが袖からユウキの卒業を祝う花を渡し、それとともにユウキの好きなポケモングッズもプレゼントする。
「ドラム叩きたくなったらまたいつでも戻っておいで」
とやはり涙を堪えるようにして言う姿からは、この5人の関係性はこれからもずっと変わることはないんだろうなと思っていたら、最後にステージに1人残ったシュンタロウは
「来月、新曲出します。来年の3月からはツアーもやります。これからもHello Sleepwalkersをよろしく!」
と高らかに宣言した。それはもうシュンタロウがフロントマンとして、前しか、先しか見えていないことの証明であるとともに、ファンたちを安心させてくれるものでもあった。
正直言って、脱退が発表された時は「こんなに複雑なリズムの曲を叩けるドラマーが他にいるのだろうか」と思った。それは同時にこのバンドがこれからも続いていくのだろうかと思ったということと同義だ。
でもこの日のライブを見て、ハロスリはきっとこれから先にこの日までの最高を更新してくれると思ったし、メンバーたちもそんなバンドの姿を見せることがユウキのためになることだと思っているはずだ。だからこれからも走り続けるのだ。これから先もどうかよろしく。「センチメンタル症候群 / 惑星Qのランドマーク」で出会い、O-nestのスペシャ列伝で初めてライブを見てから12年くらい。活動休止期間もあったけれど、いろんなところでライブを見てきた。その複雑なビートを支え続けてきたユウキ、お疲れ様。今まで本当にありがとう。
1.SCAPEGOAT
2.流浪奇譚
3.虚言症
4.Jamming
5.水面
6.Ray of Sunlight
7.2XXX
8.センチメンタル症候群
9.月面歩行
10.アルストロメリア
11.猿は木から何処へ落ちる
12.円盤飛来
13.Worker Ant
14.午夜の待ち合わせ
encore
15.トワイライト
16.新世界
現体制最後のライブということで開演前の客席は少し緊張感みたいなものも漂っているのであるが、そんな中にBGMとしてYOASOBI「アイドル」が流れると明らかにそれまでよりもざわついたり踊ったりする人が出現するというあたりにこの曲の凄まじさを感じざるを得ない。
そうして意外な感じで客席が温まった中、18時を10分ほど過ぎた中で場内が暗転して、この日が最後になるユウキを先頭にしてメンバー5人がステージに登場。ステージ背面にはバンド名が描かれているが、それを背負ったこの5人でのライブがこの日で最後だと思うと少し感じるものがある。
そんな空気を切り裂くように鳴らされたのは「SCAPEGOAT」であり、実にハロスリらしい複雑なリズムと、シュンタロウ(ボーカル&ギター)、タソコ(ギター)、ナルミ(ボーカル&ギター)のトリプルギターのアンサンブルも最初から実にこのバンドらしさというか、このバンドでしかなさを感じさせるのであるが、サビをナルミが歌うことによってその複雑なアンサンブルすらも全てキャッチーなものとして集約されていくかのような昨年リリースされた最新作収録の「流浪奇譚」ではタソコがステージ前に出てきてソロを弾きまくる。完全に最初から全開であり、そのパフォーマンスが「この5人の最後」という湿っぽさをアッパーに昇華していく。だからこそ観客も最初から腕を振り上げまくっているのである。
それは激しくぶつかり合うような演奏の中でシュンタロウも思いっきり感情を込めるようにして張り上げて歌う「虚言症」もそうであるが、社会への言及的な強い言葉が並ぶ中でサビの最後の
「真っ赤な嘘」
というフレーズに合わせてステージを真っ赤な照明が照らし、より演奏が燃え上がっているかのように見えるし、なんならこの5人での最後にしてこれが最高なんじゃないか?と思うような凄まじさを序盤から感じる。
するとシュンタロウがギターを下ろしてステージを歩き回り、飛び跳ねながら歌う「Jamming」は一転してEDMなんかの影響も感じさせるような、マコト(ベース)とユウキのリズムも一気に軽快になるダンスチューンであるが、ナルミもマコトも飛び跳ねるようにして演奏することによって、観客もそうして飛び跳ねることによってこの5人での最後という寂しさよりも今この瞬間にこうして踊っている楽しさが上回っていくかのようだ。
シュンタロウがMCで改めてこの日が本当にこの5人での最後のライブであり、だからこそこの日は
「今まで5人で築き上げてきたものを見せるようなライブ」
にすることを告げると、
「こちら海底 地上に向けて再交信中」
というフレーズから始まる「水面」によって、爆裂するような熱狂だけではなく、まさに深海のようなこのバンドの深い部分にまで引っ張り込まれていくかのような表現力を感じさせてくれると、その海底や水面から浮上したことによって降り注ぐ光を見ることができているということを示すように、音を盛りまくるのではなくて削ぎ落とすことによってシュンタロウの英語歌詞のボーカルによるメロディがさらに神聖なものに感じられるような「Ray of Sunlight」と繋がっていくというのはワンマンならではであるし、この曲たちをライブで聴くのも実に久々であるために意外な選曲、まさにハロスリのこれまでに築き上げてきたものを全て放出するかのようだ。
するとシュンタロウ、ナルミ、タソコがステージ上に座り込むようにするのだが、それはギターをチューニングするようにしながらもユウキがしっかり見えるようにという配慮だったに違いないと思うのは、ここでユウキにスポットライトが当てられてドラムソロを叩き出したからだ。そのソロを見ていると改めてとんでもないドラマーだなと思うし、その手数や変拍子の連発というこのバンドの曲の複雑な部分を最も担っていたのはユウキだったんだなと思う。その象徴というようにドラムソロからそのまま「2XXX」へと繋がるのであるが、この直後のMCでは
ユウキ「ドラムソロの後に「2XXX」はないでしょ〜(笑)」
ナルミ「でも曲順を並べたのは私たちだけど、ユウキがやりたい曲を選んだからそれは自業自得(笑)」
と、やはりハロスリのライブでの演奏が一筋縄ではいかないことを感じさせるやり取りが行われるのであるが、その会話からも悲しさや寂しさよりも5人全員が今をしっかり刻み込もうとしている、この日を楽しもうとしていることがよくわかるし、その関係性はこれからも変わらないんだろうなと思える。
そのユウキが
「デビュー曲をやります」
と言って演奏されたのは、タソコのギターが宇宙空間にいるかのような音をエフェクトによって奏でる「センチメンタル症候群」であり、この曲でこのバンドのことを知った(枚数限定のこの曲のシングル盤も当時発売日にタワレコに買いに行った)身としてはその当時の「すげえバンド出てきたな」という衝撃を思い出させてくれるのであるが、それは今でも全く変わらないというか、これから先もこうしてライブを見るたびに衝撃を与えてくれるんだろうなと思うくらいに今演奏されるこの曲はさらに進化しているのであるが、
「涙を堪えて虚しさ殺して
どこまで遠くへ僕ら行けるだろう」
というシュンタロウとナルミの声が重なるサビはこの日だけは別れを経験して尚前に進んでいくバンドの今の心境と重なって聞こえてきてしまう。それはしかしバンドが止まらないことを選んだからこそそう感じられるものであるのだ。
さらにはもうイントロからして何か起こるのは確実というか、1stアルバムを聴いた時の「先行シングルですらとんでもなかったのにこんな曲がまだあったのか」と思ったことを今でも思い出す「月面歩行」もまたバンドの今の状態が最高かつ最強なものであることを感じさせてくれるくらいに音の迫力や圧力が凄まじいのであるが、その音に負けないくらいのナルミのサビでのボーカルの凄まじさたるや。何故このバンドを好きになったのかという理由がその音に全て詰まっていたし、これまでに見てきたこのバンドのライブの激しさを思い出す。きっとこの日にそうしたモッシュなどがなかったのは、そうした楽しみ方をするよりも、ユウキの最後の勇姿を、5人での最後の姿を観客全員がしっかり目に焼き付けようとしていたからだと思っている。
するとステージには椅子やアコギなどが運び込まれる。それはユウキを除いた4人で作られた新曲でありこの日のライブタイトルにもなっている「アルストロメリア」を演奏するためのものなのだが、シュンタロウはその言葉の意味を説明しながら、
「ユウキにとっても俺たちにとってもみんなにとっても新しい旅立ちっていうこと」
とまとめるのであるが、アコギ3本とベースというアコースティック編成のこの曲はユウキが
「今までで1番ストレートな歌詞だと思った」
と言ったように、
「同じ呼吸を始めたその日
僕らひとつの生き物になった
同じ景色に焦がれたあの日
飽きもせずただ風の吹くまま」
という歌詞から始まる全てのフレーズがこの5人でHello Sleepwalkersであることについて歌っている。シュンタロウも
「複雑な歌詞や展開になりがちなバンドだけど、この曲だけはストレートに歌おうと思った」
と自身で言うくらいのストレートさ。それは今この状況になったことによって引き出された新たな一面であるとも言えるが、Bメロの歌唱を担うナルミは泣いてしまって歌につまる箇所もあった。どうやら大阪でもそうだったらしいが、そのナルミの姿が改めて「本当に今日でこの5人でライブをやるのは最後なんだな…」と感じさせて、観客側にも沁み入るものがある。楽しいものにしたいと思いながらも、やっぱりそれだけではいられないのである。
それはこのバンド名になる前から(ナルミは普通に前のバンド名を口にしていてシュンタロウに「言っていいのか?」と言われてもいたが、タソコは「調べたら普通に出てくるから」と実に冷静であった)だと実に15年間、上京してからは全員で共同生活をし、みんなでご飯を食べて…という家族のように生きてきたバンドだからこそだ。そんな15年の中での思い出をユウキは
「メジャーデビューする時のアー写を撮ってくれたカメラマンが長髪でイケメンの人だったんだけど、「いいねいいね〜」みたいに言って撮るから、「音楽業界ってやっぱりこんな感じなんだな〜」って思った(笑)
「沖縄の基地の壁の前にいるつもりで!」って言われたけど、あんまり行くことないんだよなって思いながら(笑)」
と笑いを交えて話してくれることによって和むのであるが、その出来事を今でもはっきりと覚えているというのが、それがメンバーにとってどれだけ衝撃的なことだったのかということを感じさせてくれる。
そんなMCの後にはいよいよ終盤戦へ。イントロのシュンタロウによるカウントダウンが否が応でも観客の心にも火をつけるかのような「猿は木から何処へ落ちる」ではそのカウントダウンも、サビでの
「1,2,3,4」「A,B,C,D」
のフレーズも、
「アイトヘイワ アイトヘイワ」
のフレーズもメンバーとともに観客の大合唱が響く。個人的には本当に久しぶりのこのバンドのライブでの大合唱は、曲の持つポテンシャルとライブの楽しさを最大限に引き出してくれると改めて思う。タソコのギターソロもより爆発するかのような激しさと凄まじさを感じさせてくれるものになっている。
イントロから客席からリズムに合わせて手拍子が起こる「円盤飛来」もまたバンドの鳴らす音の重さと複雑極まりないリズムがこのバンドでしか絶対に作れない曲であると感じさせてくれるのだが、間奏部分に入るマコトのセリフ的な歌唱では、メンバーの中で最も物静かなイメージの(MCすらほとんど喋ることはしない)マコトがなんと
「今日で最後だぞー!」
と歌詞をぶっ飛ばして叫ぶという驚きのパフォーマンスを見せる。リズム隊の相棒として1番ユウキと音も呼吸も合わせてきたのがマコトであり、マコトがユウキのことを本当に大事な存在だと思っていることが伝わってくる。それから後もマコトはステージの1番前まで出て行ったりというアグレッシブさを見せていたのだが、そうした姿からも彼の今までに見たことがないくらいの気合いを感じていた。
そしてシュンタロウとナルミがギターを置いてハンドマイクになると、デジタルサウンドも取り入れてメンバーも観客も飛び跳ねまくる「Worker Ant」ではナルミによるおなじみの
「もくもく働こう」
というフレーズを観客も一緒に大合唱するのであるが、この日はこれから先にまさにバンドとは違う形で働くことになるユウキに向かってナルミが
「ユウキ君、もくもく働く準備はできてますか!?」
と問いかけてマイクを向けるという一幕も。もう5人で演奏するのが最後な、これまでにも最高に楽しい光景を描いてきたこの曲を最後に楽しみ尽くそうとしていた。それはびっくりするくらいに大きな合唱を起こしていた観客も含めて。
そんなライブの最後を締めるのはもちろんハロスリ随一の爆裂曲であり、ナルミによる
「チクタク 針はチクタクと」
のコーラスでも合唱が起きる「午夜の待ち合わせ」。それを聴きながら、ユウキがいなくなった後にこれからこの曲はどうやって鳴らされていくんだろうかと思ったけれど、トリプルギターの分厚く複雑さとキャッチーさを備えたサウンドはきっとこれからも変わることはないと思ったし、その最後にぶっ叩くようにしたユウキのドラムのカッコよさは忘れないようにしよう…と思いもしたのだが、忘れようとしなくてもきっと忘れることはないだろうなとも思っていた。
手拍子だけだったのが大きな「アンコール!アンコール!」という声になったことに応えるかのように再びメンバーがステージに現れると、まずはこの5人での最後の光景を記録するために観客を背にして写真撮影が行われる。その音頭を取ったユウキが決して面白いことを言わないというあたりにも彼の真面目さが表れているなと思ったし、何よりもメンバーが誰も呼びかけていないのに前の方の観客たちが後ろの人たちが映るように自主的にしゃがんだりする姿を見て、ハロスリは本当に素敵なファンたちに愛されているなと思った。そんな人たちで満員になったこの日の会場にいられたことが本当に幸せだと思うとともに、この人たちがいるんだからハロスリはこれからもきっと大丈夫だと思った。
そうして写真撮影をした後にはシュンタロウが
「もう4人で新しい曲を作ってる。この5人が最強だと思ってるけど、新しい4人のHello Sleepwalkersも最強だから。ちゃんと着いてきてください!」
と、視線はすでにこの日の先に向かっていることを告げるのであるが、ユウキは最後に
「これから叩くドラマーは本当に大変なバンドだと思うけど(笑)、これからは1人のファンとしてこのバンドの音楽を楽しみにしてます。最後に2曲、これも僕が選びました。1曲目は僕が好きな曲で、最後はこのバンドで1番難しい曲をやって最後にしようと思います」
と挨拶をしてから先に演奏されたのは昨年リリースの最新作収録の、同期のサウンドなども使った切ない夜のダンスチューン「トワイライト」であり、ステージから客席にはレーザー光線も飛び交う中で飛び跳ねる観客たちの姿はやはりこの瞬間を最後まで存分に楽しもうとしていることが伝わってくるとともに、ハロスリが今でも新しい名曲を次々に生み出していることがわかるような美しいメロディだ。それを最大限に活かすためのダンスミュージック的なアレンジというか。
そして数々の複雑極まりない曲のドラムを叩いていたユウキをして「1番難しい」と言わしめた最後の曲は「新世界」。確かにドラムに注視して見るととんでもない手数やリズムをしている曲だということに改めて気付くのであるが、図らずもそのタイトルは互いにこれから新しい世界へと足を踏み出していくバンドとユウキのためのテーマソングであるかのようだった。
「目の眩むような光源の向こうには
微かな新世界」
と力強く歌うナルミのボーカルも、ステージに倒れ込むようにしてギターを弾きまくっていたタソコも、確かにバンドは新世界を自分たちの手で掴みにいこうとしていた。それはやっぱりハロスリは今が1番最強でありカッコいいということを自分たち自身の音と姿で証明するかのように。
演奏が終わるとナルミが袖からユウキの卒業を祝う花を渡し、それとともにユウキの好きなポケモングッズもプレゼントする。
「ドラム叩きたくなったらまたいつでも戻っておいで」
とやはり涙を堪えるようにして言う姿からは、この5人の関係性はこれからもずっと変わることはないんだろうなと思っていたら、最後にステージに1人残ったシュンタロウは
「来月、新曲出します。来年の3月からはツアーもやります。これからもHello Sleepwalkersをよろしく!」
と高らかに宣言した。それはもうシュンタロウがフロントマンとして、前しか、先しか見えていないことの証明であるとともに、ファンたちを安心させてくれるものでもあった。
正直言って、脱退が発表された時は「こんなに複雑なリズムの曲を叩けるドラマーが他にいるのだろうか」と思った。それは同時にこのバンドがこれからも続いていくのだろうかと思ったということと同義だ。
でもこの日のライブを見て、ハロスリはきっとこれから先にこの日までの最高を更新してくれると思ったし、メンバーたちもそんなバンドの姿を見せることがユウキのためになることだと思っているはずだ。だからこれからも走り続けるのだ。これから先もどうかよろしく。「センチメンタル症候群 / 惑星Qのランドマーク」で出会い、O-nestのスペシャ列伝で初めてライブを見てから12年くらい。活動休止期間もあったけれど、いろんなところでライブを見てきた。その複雑なビートを支え続けてきたユウキ、お疲れ様。今まで本当にありがとう。
1.SCAPEGOAT
2.流浪奇譚
3.虚言症
4.Jamming
5.水面
6.Ray of Sunlight
7.2XXX
8.センチメンタル症候群
9.月面歩行
10.アルストロメリア
11.猿は木から何処へ落ちる
12.円盤飛来
13.Worker Ant
14.午夜の待ち合わせ
encore
15.トワイライト
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