FUJI ROCK FESTIVAL 2023 day2 @苗場スキー場 7/29
- 2023/07/31
- 00:37
2年ぶりの参加となるフジロック。その時はコロナ禍真っ只中で出演も国内アーティストのみ、アルコール販売なしという時勢に合わせた体制での開催だったが、去年からはこれまで通りのフジロックのラインナップと規模になって開催されている。
なので前日にすでにThe Strokes(かつてサマソニで見た時の素晴らしいライブは今も忘れられない)がヘッドライナーを務めてのこの日の2日目。雨が降ってもいいような装備で来たら朝から快晴で暑いくらいの気候。それでもまだ関東の日々の暑さよりはマシだと思えるのは新潟県の山の中だからだろうか。
11:00〜 Chilli Beans. [WHITE STAGE]
2ndステージであるWHITE STAGEのこの日のトップバッターはChilli Beans.。春からフェスやイベントで稼働しまくっているが、この日から本格的にこのバンドの今年の夏が始まる。
MOBSTYLESの田原104洋の前説によってバンドの名前がアナウンスされると、おなじみのSEが流れてサポートドラマーのYuumiを加えたメンバーがステージに登場。Moto(ボーカル&ギター)は帽子を被ってサングラスをかけているという夏フェス仕様で、そのMotoとLily(ギター&ボーカル)のギターのイントロがこの広大な大自然の中に広がる「School」を聴いて、見る前から想像はしていたけれど、やはりこのバンドは本当にフジロックの空気感に似合うバンドだと思った。それは野外の広い規模とは思えないくらいの音の良さも含めて。Maika(ベース&ボーカル)のグルーヴを感じさせるベースと、こんなにも歌えるメンバーがメインボーカル以外にいるという初見の人に驚きを与える編成も普通のバンドとは全く違う軽やかさを持ったこのバンドならではのものだ。
曲間ほぼなしで演奏された「rose」はメンバーと同じ音楽スクールに在籍していたVaundyがフィーチャリングされている曲であり、この日の夜のこのステージにVaundyも出演するので、もしかしたら超レアな共演があるかとも思ったが、この日はなし。しかしながらハンドマイクになってステージを歩き回りながら歌うMotoの自由さは存分に発揮されているし、何よりも「duri-dade」の間奏でメンバー3人がスティックを持ってドラムセットを連打する光景には大きな歓声が上がる。それはまるでフランツ・フェルディナンドのフジロックのライブを見ているかのような感覚にさせるし、やはりこのバンドのグルーヴは海外アーティストのライブを見慣れているこのフェスの観客たちにも確かに響いている。
最近のフェスなどでは1曲目に演奏されることが大かった「See C Love」でMaikaがさらに姿勢も低くしてベースを重いベースを弾いてグルーヴを生み出しながらMotoのボーカルへのコーラスというよりもツインボーカルかのようにして歌うと、持ち時間が長いこのフェスだからこそセトリに入ってくるのであろう「neck」ではアウトロで思いっきり身を逸らすようにしてギターを弾きまくるLilyの姿に大歓声があがる。それはこのバンドのメンバー3人の魅力と技術をこのフェスに示しながら、このバンドでしかない新しいバンドの形をこのフェスのステージに刻みつけるかのようだ。
Motoがこのフジロックに初出演であることを改めて口にすると、タイトルに合わせた黄色い照明がステージを照らす「Lemonade」ではメンバーが左右にステップを踏む姿が客席にも広がっていくのであるが、メンバーの背後の巨大なLEDにはバンドロゴがデカデカと映し出されているだけというのもただ演奏をしっかり見せて聴かせるというこのバンドのストイックさを感じさせる。(ステージ上部のスクリーンにはメンバーの演奏する姿が映し出されていたけれど)
するとフェスでは実に珍しい感じがする、どこか牧歌的なギターサウンドに身を任せるようにして観客が体を揺らしながら、Lilyのギターを弾きながらのボーカルによって、改めてこのバンドが3人全員が優れた歌唱力を持つボーカリストであることを示すような「L.I.B」から、こちらもフェスでは珍しい、タンバリンを持ってマイクスタンドを握りしめるように歌うMotoのハイトーンかつウィスパー気味の歌唱というのもボーカリストとしての表現力の多彩さを見せつけてくれる「アンドロン」と、やはり持ち時間が長ければ長いほどこのバンドの魅力がハッキリわかるなと思っていたのだが、Motoはその曲前にいきなりLilyに抱きつくのであるが、それは自身のマイクスタンドに止まっていたトンボが蜂に見えたからというものであり、客席からは「かわいい〜」という声も上がる。
そんな恥ずかしい場面があってもボーカルのパワフルさは変わらないというかさらに増すばかりに感じる「Tremolo」ではサビでMotoに合わせて観客が腕を左右に振ると、最後に3人がステージ真ん中に集まって寄り添うように演奏される。Motoの声が詰まる場面があったように感じたのはこの光景を目にしたことによる感慨があるんだろうかとも思うのであるが、「Vacance」では全くそんなことがなかっただけにそれは考えすぎだったのだろうか。
そしてMaikaが
「初めてのフジロック、私たちもこの後も楽しむんで、皆さんも熱中症に気をつけて楽しんでください!」
と簡潔に観客にメッセージを伝えると、タイトル通りにデジタルコーラスも取り入れた「Digital Persona」ではYuumiのドラムが強い推進力として楽曲にスピード感を与える中でMotoの動きもさらに自由さを増していくと、必殺の「シェキララ」でそのMotoがついにサングラスを外してポーズを取るようにして歌うと、ステージ上のスクリーンにはそのMotoが歌う姿の足元でリズムを取っているのが映し出されるのであるが、このステージって朝からこんなにたくさんの人が来るのかと思うくらいの客入りっぷりであり、そのたくさんの観客が腕を上げている姿を見ると、やはりこのバンドの演奏、グルーヴはしっかり伝わっているんだなと思える。つまり初出演、朝イチのこのフェスでもバンドも観客も最高にシェキララしていたということである。
しかしそれだけは終わらずに最後に演奏されたのは「you n me」で、元から大きな規模が似合うと思ってきたChilli Beans.はやはりこの巨大なステージに立つべき存在のバンドであるということを改めて示してくれるかのように、この規模で鳴らされるのにふさわしいスケールを持った曲。
何よりもやっぱり演奏しているメンバーがとびきりの笑顔を浮かべながら演奏しているのが、このフェスに、このステージに立っている喜びを感じさせてくれるし、見ているこちらも本当に楽しくなれる。つまりは我々がこのフェスに来ることができた喜びの実感をこのバンドは最大限に感じさせてくれるのである。こうして、Chilli Beans.の今まで1番長い夏が始まった。8月以降もいろんなところで会える、ライブが見れるのが本当に嬉しいし、それはこの日のように忘れられない暑くて熱い夏の思い出になるはずだ。
1.School
2.rose
3.duri-dade
4.See C Love
5.neck
6.lemonade
7.L.I.B
8.アンドロン
9.Tremolo
10.Vacance
11.Digital Persona
12.シェキララ
13.you n me
12:00〜 KOTORI [RED MARQUEE]
2年前に来た時にはこの屋根があるステージであるRED MARQUEEのトップバッターとして出演していた、KOTORI。今年は2番手としての出演である。
WHITE STAGEからダッシュしてRED MARQUEEに10分で移動すると、すでにステージにはメンバーがいて、背面にはsmall indies tableのレーベル名とバンド名も映し出される中、帽子を被った横山優也(ボーカル&ギター)と上坂仁志(ギター)が鳴らす轟音サウンドに乗せて歌われる「GOLD」の
「今夜祝杯をあげよう
特別なことはないけれど
いつかこんな夜が
宝物になる日が来るだろう」
というフレーズがまさに今この瞬間のためであるかのように鳴り響くと、
「僕らの右手の先 GOLD」
という締めフレーズで横山に合わせてたくさんの観客の右手が上がる。その瞬間に上がった大歓声は発声が禁止されていた2年前には聞こえなかったものであり、その光景だけで胸が熱くなるものがある。
すると上坂のギターが一気にドライブ感を増す「1995」ではその上坂が昂り過ぎているのか、ステージ上で激しく動き過ぎたことによってか曲中にギターの音が出なくなるというトラブルにも見舞われるのであるが、夏フェスらしくノースリーブという出で立ちの佐藤知己(ベース)が、前まではどちらかというとメンバーの方を見て演奏していたのが、しっかり観客の方に向き合うようにして演奏するようになっているし、ベースの音自体もめちゃくちゃ重く逞しくなっている。
そのまま横山がタイトルを口にして演奏された「unity」はイントロで立ち上がって客席を見るようにする細川千弘(ドラム)が上体が全くブレない美しいフォームでビートを牽引する。自分は細川を世代ナンバーワンのドラマーだと思っているが、それは聴き慣れた曲でも手数を追加しているためによりそう思うのだが、かと思ったら間奏で横山がギターを高く掲げるようにする。それは早くもこの日の勝利宣言であるかのようだ。
「フジロックらしく踊れる感じで」
と横山が言うと、ここまではパンクに突っ走っていたのとは打って変わって「SPARK」が体を揺らしてくれるのであるが、それでもサビでは客席で拳が上がる。それはバンドの力強い演奏にすぐに反応しているかのようだ。
「フジロックで絶対やりたかった曲」
と言って演奏されたのは「REVIVAL」であるが、それは
「あの時出会った音楽が
この体を作った
あれからずっと今も離れない」
というフレーズの原体験がもしかしたら横山にとってはこのフジロックだったのかもしれないし、
「いつかまた思い出したなら
それだけで音楽は生きる」
というフレーズもそうである。それは確かに数々のアーティストの憧れであり、出演していなくても客として訪れるミュージシャンが多いフジロックだからこそである。
それは「光」からもそうした、目指すべき場所がこの場所であるということを強く感じさせてくれるのであるが、曲間のリズムがガラっと変わるのにそれを一瞬で繋ぐ細川のビートも、こうした規模の会場で響くべきスケールを持つようになった横山の歌も実に見事であるし、憧れのフェスだからこそ、この環境、このステージでどんな曲を鳴らすべきかということをよくわかっている選曲と言えるだろう。
しかし、
「1番チルい曲やります」
と横山が言ってから上坂が鳴らしたイントロはチルいどころか、そのイントロだけで大歓声が上がる「トーキョーナイトダイブ」であり、その大歓声も大合唱も2年前にこのステージで見た時にはなかったものであるだけに、その観客が声が出せるフジロックのステージに立つKOTORIのライブがこんなに感動するものとはと思ってしまうくらいに感動していたし、満員の中でダイバーまでもが出現するという光景も立ち位置指定があった2年前では見れなかったもの。何よりもKOTORIのライブがその時より格段にレベルアップしていて、そのKOTORIを見たい人が圧倒的に増えているのである。
なので横山も
「これは売れた認定していいですかね?(笑)」
というくらいの熱狂っぷりだったのであるが、
「フジロックに出るためにバンドやってるって言ってもいいくらい。だからこれからも死ぬまでは出れる限り出たいと思ってる」
とフジロックへの想いを口にし、
「歌えたら全部歌ってくれ!」
と言って真っ赤な照明がメンバーを照らす中で曲が進むにつれて演奏が一気に激しくかつ速くなっていく「RED」がこのRED MARQUEEで演奏されるためかのように響き、そのあまりの演奏の凄まじさによって一気に観客がさらに前へと押し寄せてダイバーが続出する。
「ここじゃなきゃ見られない気がするよ」
というフレーズは横山にとっては紛れもなくこのフェスがここなんだろうなと思わせてくれる。
さらには細川のビートによるイントロの段階で観客が飛び跳ねまくり、大歓声を上げる「素晴らしい世界」では横山が最初からマイクスタンドから離れることによって歌い出しから全編に渡って大合唱が起こるという感動せずにはいられない光景が生まれるのであるが、横山はギターを置いて客席の前の柵に立って歌うと、最後にはそのまま客席にダイブしながら歌う。もちろん客席からもダイバーが出ていたので一度沈みそうにもなりながらも曲終わりでステージに戻ると、横山は靴と帽子を紛失しており、観客に靴をステージまで投げてもらう。それでも本当に楽しそうである。
そうして靴を履き直した横山が
「いつかGREEN STAGEで鳴らす曲」
と言って演奏した「We Are The Future」では細川が立ち上がって客席を見渡しながら体を揺らし、その後に力強いドラムを叩き始めるのであるが、
「音楽で大切なものを守れますように」
という、図らずもコロナ禍に向けてのメッセージのようになった歌詞に2年前のこのフェスなどのあの時期にどれだけ救われただろうか。そんな曲なだけに横山の言う通りにこの曲をGREEN STAGEで聴いてみたいし、この曲を何万人もの人で大合唱したいけれど、それが現実になったら間違いなく自分は泣いてしまうだろうと思う。
そんなライブの最後には
「最後に1番でっかい音鳴らして終わります」
と言って横山と上坂がこのステージに夜に出演するSLOWDIVEかと思うような轟音シューゲイズサウンドを鳴らす「YELLOW」で照明も黄色に染まる。それは2年前と同じ締め方であったが、あれからさらにめちゃくちゃライブをやりまくってきたバンドであるだけに、やはりあの時よりもさらに胸が震えるような爆音を鳴らしていた。それはバンドがさらに一つにがっしりと組み合っているということ。演奏が終わってステージ前に並んだ4人の姿からそんなことを確かに感じていた。
フジロックの長い歴史の中で自分が参加したのはこの日と2年前の初日のたった2日間だけ。その2日に両方とも出演していて、両方ともライブを見れたのがKOTORIだというのはどこか運命的なものを感じざるを得ないし、自分の中での現状のフジロックの象徴的なバンドはこのKOTORIである。
だからこそこのバンドが次にまた出演する時には絶対に観に来ようと思っている。それくらいに素晴らしく、凄まじいライブだったし、その出演の積み重ねの先にGREEN STAGEや、あらゆるフェスのメインステージが待っていて欲しい。それくらいにとんでもないライブをやっているバンドだと思っているから。
1.GOLD
2.1995
3.unity
4.SPARK
5.REVIVAL
6.光
7.トーキョーナイトダイブ
8.RED
9.素晴らしい世界
10.We Are The Future
11.YELLOW
14:00〜 d4vd [RED MARQUEE]
「自宅のクローゼットの中でiPhoneで作った曲がネットでバズってデビュー」という現代的過ぎるデビューの仕方をした、アメリカの新人ソロアーティストd4vd。この表記で「デイヴィッド」と読む。
ステージにはドラムとギターのバンドメンバーが先に登場して音を鳴らすと爽やかなシャツ姿のd4vdも登場し、ステージ上を走り回りながらポップパンクの要素も強い曲を歌い始めるのであるが、曲のMVに「東京喰種」のオマージュなんかを入れるくらいに日本のアニメなどに強い影響を受けているだけに、こうして日本に来てライブができるということの喜びがその姿から溢れ出ている。
なので、
「私の名前はデイヴィッドです!」
「行くぞ!」
など普通に日本語も覚えたてという感じではなくて普段から慣れ親しんでいるというような感じで口にするのであるが、中盤のR&Bやヒップホップ的な曲では打ち込みメインという形なだけにライブ感が希薄になってしまったところもあったのだが、後半は
「呪術廻戦にインスパイアされた」
という曲が思いっきり日本のギターロックサウンド全開で、その曲に合わせて再びステージを走り回ったりアクロバティックなパフォーマンスを見せたりと、とにかく全力でこのライブをやることによって日本への愛情を表明し、そしてまた日本に来たいという感情を強く感じさせる。
コロナ禍で開催された2021年は海外からアーティストが来日出来なかったが、それがようやく去年から来日できるようになった。こうして日本を愛してくれているようなアーティストたちが日本に来れるような状況になって本当に良かったとこのd4vdの姿やパフォーマンスを見て改めて思った。
15:00〜 羊文学 [GREEN STAGE]
バンドの佇まいや音楽性からしても実にフジロックに似合う感じがする、羊文学。今回はなんとメインステージのGREEN STAGEへの出演である。
そのフェスとの相性の良さを感じさせるように、すでに客席は「こんなにも!?」と思うくらいの満員っぷりとなっているのだが、塩塚モエカ(ボーカル&ギター)も河西ゆりか(ベース)も全身黒の衣装。フクダヒロア(ドラム)はいつも真っ黒な服装であるが、背面のLEDにも何も映し出されない、アンプやドラムセットも黒というのはもはやメンバーの肌とギターとベースのみしか黒以外の色がないというくらいに巨大なGREEN STAGEが真っ黒に染められているのであるが、セットもシンプル極まりないだけにより一層このステージが広く見える。
しかしながら「Blue.2」から始まったライブは、本当にギター、ベース、ドラムという最低限の楽器、しかも至ってシンプルな演奏でしかないのであるが、この日の爽やかな青空に似合うような青春感を感じさせるものであり、それはもしかしたらバンド側がこの日のシチュエーションによって決めたものなのかもしれないが、塩塚と河西が間奏でマイクスタンドの前から離れてステージを広く使うようにして演奏する「FOOL」から、CMタイアップ曲になったことで大きな話題を呼んだ「永遠のブルー」に至るまで、クールな出で立ちと歌唱による塩塚のボーカルも含めて今まさにこのバンドが青春の真っ只中にいるかのように感じさせてくれる。
しかしながらただそのイメージだけで押し切るのではなくて、「人間だった」や「mother」のような曲は歌詞からどうしたって人生や人間の真理というようなものを聴きながら考えざるを得ないのであるが、そうして特になんの演出もエンタメ性もない羊文学のライブがGREEN STAGEの満員の客席に独特の集中力を生んでいく。もちろん曲間などには歓声が上がったりはするけれど、それでも実にストイックさを感じるようなライブ運びである。
輝いている人とそうなれない自身を比較してしまうような歌詞による「金色」も、このGREEN STAGEに立つようになったからこそ、今やバンド側がその輝いている側にいるということを感じさせてくれるのであるが、フクダが立ち上がるようにして細かくハイハットを刻むイントロがライブの流れをガラッと変えるような「光るとき」からも、真っ黒ではあるけれどもそこから発されるバンドの音が確かな光となって我々に届いているということを感じさせてくれると、塩塚は
「話すこと何にも考えてこなかった(笑)」
と言いながらもこの満員の客席に驚いており、
「スタッフと「それぞれ友達100人連れてきて」って言ってた効果があったのかな(笑)」
と笑いながら口にして、河西もその言葉に笑っている(フクダは長い髪によって表情が見えない)姿からも、やはりこのライブという瞬間が楽しいものであるということを感じさせると、こんなに快晴のフジロックでこの曲を演奏することを予想していただろうかと思ってしまうような「天気予報」から、映画のタイアップ曲であり、タイトルも結果的に映画のタイトルと同じものになった「マヨイガ」での河西の重くうねるようなベースラインが、シンプルではあるけれどそこに過不足がないバンドサウンドであることを感じさせてくれるし、この曲を歌っている時の塩塚の雰囲気は神秘的過ぎて、フジロックの森に住む妖精であるかのように思えてくる。
そんなバンドの演奏の強さはイントロ、さらにはアウトロにまでもセッション的な演奏が追加された「OOPARTS」でも感じさせ、間奏では塩塚が思いっきり
「フジロックー!」
と叫んでマイクスタンドから離れてギターを弾きまくり、河西も同じように体勢を低くしてそのベースのグルーヴをさらに強くするのであるが、ラストの「夜を越えて」もやはりこの青空の下に立って演奏していることによる青春性を確かに感じさせてくれると、その極み付きはアウトロで塩塚と河西が楽器を抱えたまま走ってそのまま交差するようにジャンプをするという姿。
それは羊文学は実は感情や衝動を音や演奏する姿によって放出するロックバンドであること、それがこのフジロックに実に似合うものであることを証明するかのようだった。実はこの日の苗場の空をこんなに晴れさせたのはこのバンドの持つ神秘的な力なんじゃないかと思ってしまうくらいに。
1. Blue.2
2.FOOL
3.永遠のブルー
4.人間だった
5.mother
6.金色
7.光るとき
8.天気予報
9.マヨイガ
10.OOPARTS
11.夜を越えて
18:00〜 Saucy Dog [RED MARQUEE]
苗場食堂ステージで苗場音楽突撃隊を少し見たり、会場内のいろんな場所を回っているうちに少し涼しさを感じるような時間帯になってきている。そんな後半のRED MARQUEEに出演するのはSaucy Dog。今や日本のアーティストだけが集まるフェスでは間違いなくメインステージじゃないと収まりきらないくらいの存在になったバンドをメインではないステージで見れるのもフジロックならでは。様々なフェスに出演してきたが、この日がこのバンドのフジロック初出演となる。
おなじみのSEでせとゆいか(ドラム)を筆頭に、秋澤和貴(ベース)、石原慎也(ボーカル&ギター)と1人ずつステージに登場すると、どこかいつもとは少し異なる緊張感を感じさせながらも石原が
「フジロック、はじめまして。まずは新曲」
と言って演奏されたのはリリースされたばかりの最新ミニアルバム「バットリアリー」収録の、石原によるラフかつルーズなギターと、そのサウンドに合わせたような歌詞による「そんだけ」という選曲であり、これは実に意外なスタートであるし、このバンドのライブを初めて見るという人も多いであろう機会なだけにこうした曲があるということも、「シンデレラボーイ」のイメージが強い人からしたら意外だったんじゃないかと思うようなロックナンバーである。
すると石原が曲中に
「よろしくねー!」
と元気いっぱいに叫ぶ、真っ青な照明がステージを照らす中で演奏された「シーグラス」が山の中でのフェスでも海の近くのフェスでこのライブを見ているような爽やかなイメージを想起させる。去年もいろんな野外でのフェスでこの曲を聴いたけれど、今年もまたいろんなところで聴いて夏を実感したい曲だ。なぜいろんなバンドの「シーグラス」というタイトルの曲はこんなに名曲が多いのだろうか。
さらには石原がイントロからギターを掻き鳴らす「雀ノ欠伸」ではバンドサウンドが一気にロックさを増していくのであるが、観客の手拍子を見て石原が手で大きく丸を作るのは他のフェスと変わることはないし、何よりもその姿が実に楽しそうなのである。
MCではせとも初出演だけに不安が大きかったということを話していたが、普段フェスではほとんど喋る機会がない秋澤が
「本当に奇跡みたいな、夢かのような。信じられないですよ」
と言うあたりはメンバーの中で1番このフェスへの出演を望んでいたのは秋澤なんじゃないかと思わせてくれるし、だからこそポーカーフェイスな彼も表情に楽しさや嬉しさが滲み出ている。
そんなバンドはここでも「バットリアリー」収録の「魔法が解けたら」を演奏するという新モードに入っていることを感じさせてくれるのであるが、この曲の歌詞に出てくる「夢の国」というフレーズがこの日だけはフジロックであるように感じられるし、ラブソングでありながらも実は音楽の力の凄さを歌っている曲であるというあたりが、新モードでありながらもこのフェスで演奏されるべき曲を演奏しているとも思わせてくれる。
そんな中で石原による歌い出しの時点で大歓声が上がったのはもちろん「シンデレラボーイ」であり、背面のLEDには歌詞も映し出されるのであるが、フジロックに来るような人たちもこの曲を知っていて、この曲を聴きたいと思っているというあたりに改めてこの曲の凄さを思い知らされるし、石原の歌唱の伸びやかさがこのステージのテントを突き抜けてGREEN STAGEまで届くんじゃないかと思うくらいに見事だと思うからこそ、ここにいた人たちに響くのだろうし、いつかGREEN STAGEでもこの曲が演奏されるのを聴いてみたいと思う。
「俺たちや今日出てるたくさんのバンドマンの歌」
と言って演奏された「メトロノウム」はこのバンドもいろんな出演者たちもこの曲の歌詞のように車に乗って旅をするようにしてこの会場まで来たのだろうかという情景を想起させるし、それは自分自身が車でここまで来た道のりをも彷彿とさせる。(助手席に乗ってただけだけど)そうしてこの曲が確かにこの日だけの記憶になっていくという意味では、遠出をするフェスで聴いてこそより響く曲だと言えるかもしれない。
再び石原がギターをかき鳴らしまくるロックナンバー「雷に打たれて」では石原が
「歌える?」
と問いかけて観客の合唱を煽って声が重なっていくと、今度はせとも笑顔で腕で丸を作るのであるが、このあたりの曲はツアーやこうしたフェスなどのライブを重ねてきて、本当に見るたびにバンドのアンサンブルが逞しく進化しているなと感じる。それはこのフェスで初めてこのバンドのライブを見た人も驚いたんじゃないだろうかと思う。
「「シンデレラボーイ」が終わったらたくさんの人が抜けてどっかに行っちゃったけど(笑)、日本だけじゃなくていろんな国のアーティストが集まっているフジロックは本当に最高のフェスだと思ってます!
俺たちはその中の1ピースでしかないけれど、それでもサウシーいてくれて良かったなって思ってもらえるように!」
とあまりにも素直に言うのであるが、石原もこのバンドのメンバーもSNSなどを見ていてもわかることだが、嘘をつけない人たちだ。だからこそ傷ついたりすることも自分たちの口からはっきりと言うし、それが曲になっているのが「現在を生きるのだ。」と「怪物たちよ」というやはり(先行して配信されながらも)「バットリアリー」に収録された曲。それは「現在を生きるのだ。」では石原が
「普段学校頑張ってる人ー!家事や育児を頑張ってる人ー!仕事頑張ってる人ー!」
と、曲のメッセージがそうであるように何かを日々頑張ってこの場にいる人たちへのエールを送り、
「どんなことがあっても俺たちだけは強くて優しい怪物になろうな!」
と、またこの曲の歌詞で言及していた悲しい出来事があったからこそ(石原もそのタイミングでこの曲のタイトルをツイートしていた)「怪物たちよ」の曲もメッセージもより深く強く突き刺さる。それはバンド、メンバー自身もそうしたことに晒された経験があるからこそ生まれたものであるが、人間は学習しない、変わらないんじゃないのかと思ったりもするけれど、このメンバーたちがそっち(1番悲しい結末)を選ばなくて本当に良かったと、こうしてライブでこの曲を聴くたびに思うし、この曲のメッセージが響くからこそ、そうしたことを絶対にしないようにしたいと改めて思うのである。
そしてそんなバンドの思いや描くメッセージは最終的に「優しさに溢れた世界で」へと繋がっていく。
「寝起き頭に飛び込んだ画面
今日の魚座は最下位だね」
という歌詞は個人的にこのバンドの中で1番共感できるものであるが、石原が
「歌って!」
と言うとここまででこの日最大の合唱が起こる。それはこのバンドにとってこのフェスは決してアウェーではなかったことの証明であり、このバンドを見たくてこの日来た人もたくさんいたということをも示している。
何よりも普段からいろんなフェスなどでライブを見ているけれど、その時とはまた違った楽しさをメンバーたちが感じていることが確かにわかったし、そのメンバーの感情によって我々もさらにこの日が楽しくなる。だからこそやっぱり、サウシーいてくれてありがとうと思っていた。
1.そんだけ
2.シーグラス
3.雀ノ欠伸
4.魔法が解けたら
5.シンデレラボーイ
6.メトロノウム
7.雷に打たれて
8.現在を生きるのだ。
9.怪物たちよ
10.優しさに溢れた世界で
19:00〜 ELLEGARDEN [GREEN STAGE]
GREEN STAGEもすっかり暗くなってきているというのは、暑いとはいえ関東の暑さとは違うし、日の長さもまた違うということを感じさせる。そんなトリ前の時間に登場するのは、これまでにもこのフェスで数々の名場面を作ってきたであろう、 ELLEGARDENである。
超満員の観客が待ち受ける中でどこかEDMっぽいSEが流れて背面のLEDにバンドロゴが流れてメンバーがおなじみの黒い服で登場すると、1曲目は昨年リリースされた活動休止からの復活後最初のアルバムである「The End of Yesterday」収録の「Breathing」からスタートする。自分はライブでこの曲を聴くのは初だったのであるが(アルバムをリリースしてからはACIDMAN主催フェス「SAI」でしかライブを見ていないから)音源でも感じたようにライブで見るとパンクというより重さのあるロックンロールだと感じる。それは高田雄一(ベース)と高橋宏貴(ドラム)によるリズム隊の力によるものも大きいと思われるが、曲終わりでは細美武士(ボーカル&ギター)が
「ただいま、フジロック!」
と挨拶したあたりは、やはりこのフェスはバンドにとって帰ってくるべき場所だという意識があるのだろうなとも思う。
すると生形真一(ギター)がステージ前に出てきてイントロを鳴らすだけで大歓声が起きたのは「Space Sonic」であり、Bメロでは高橋が、サビでは生形がコーラスを細美のボーカルに乗せる中でダイバーが続出している。やはりこの日1番多かったのはこのバンドのTシャツを着た人たちだったが、やはり「待っていた」という感覚が客席から放出されまくっているし、それは細美がギターを弾きながらサビを歌うようにして始まった「Supernova」でも同じであり、サビでは観客の大合唱が響く。それは自分にとっては2019年のNANA-IRO ELECTRIC TOUR以来に聞くし自分も歌うことができるこのバンドのライブでの合唱であり、ダイブも含めたその光景に胸が熱くならざるを得ない。みんなが大好きだった ELLEGARDENのライブが本当の意味で戻ってきたんだと。
しかしながらただ昔の曲をやるために戻ってきたのではなくて、今鳴らすべき曲をもしっかり持って戻ってきたと思えるのが、サビ前の
「ティダ・ラ・バダ
We get it get it go」
という呪文のようなフレーズで細美がマイクスタンドの前から離れて大合唱を誘う「チーズケーキ・ファクトリー」はキャッチーなメロディとサウンドも含めて、このバンドのライブがこんなに楽しいということを改めて感じさせてくれるものである。間奏では細美が名前を叫んだ生形がステージ前に出てギターソロを弾くのも含めて。
そんな細美は
「楽しみ過ぎて、小学校の時の遠足みたいな、この日が終わったら死んでもいいみたいな感じになってた」
と実に細美らしい表現でこの出演がどれだけ楽しみであったかを語ると、背面のLEDにはタイトルに合わせて山の頂上が連なり、そこに光が放たれていく映像が映し出される演出が曲のイメージをさらに壮大なものにしていく「Mountain Top」が演奏され、完全にこうした新しいアルバムの曲たちがすでにバンドの地肉になっているということを感じさせてくれる。
しかしながらおなじみの「Fire Cracker」、さらには「Salamander」と、燃え盛るような真っ赤な照明がステージを照らし出すことによってバンドの演奏もさらに熱くなるような曲たちでは、だからこそ細美のあの最強の喉が少し調子が悪いというか、声が完全に出てはいないようにも感じていた。それでも楽しそうなことには全く変わりはないのであるが、そもそもが忙しすぎるくらいのスケジュールで生きている人であるだけに少し心配になってしまう。
しかしながら ELLEGARDENのライブといえばやはり観客による大合唱ということで、「Missing」ではサビで大合唱が起き、背面のLEDにもバンドの演奏する姿や映像ではなく(それは両サイドのスクリーンに映し出されているが)、客席の観客が大合唱する姿が映し出されているというあたりにフジロックがどれだけこのバンドが好きでこのバンドのライブのことを理解しているのかということがよくわかるし、その合唱によって細美の声の調子の良くなさがカバーされているようにも感じられるというのは、やはりライブはバンドと観客の双方によって作られているということだ。
それはもちろんいきなり細美が歌い始める「The Autumn Song」もそうであるが、
「Waiting for the snowy season」
というフレーズは曲タイトル自体は季節外れであれど、このスキー場である会場には実にふさわしい曲である。ここで暮らしている人たちはまさにそうして雪が降る季節を待っているからだろうけれど、それと同じくらいにこのフェスを待ってくれていたら音楽好きの端くれとして本当に嬉しいと思う。何よりもリリースから20年くらい経っているのに、この曲はもちろん数々の名曲たちが全く色褪せることがない。全てが今この瞬間のアンセムになっているというあたりは活動再開してからの方がより ELLEGARDENの凄さを実感できるとも言える。
それは生形が掻き鳴らしまくるギターに細美の生き様が滲む歌詞が乗る「モンスター」もそうであるが、細美の歌声はやはりサビの最後に張り上げる部分でかなり苦しそうでもあったのだけれど、それすらも観客の笑顔での大合唱がかき消してくれるかのような。そういう二つとない宝物をこれからもこうやってライブという場で集めていきたいと心から思う。それくらいにきっとこの日のこの光景も忘れられないものになるだろうから。
そしてこの日のセトリで最大のサプライズはやはり「I Hate it」だろう。タイトルフレーズを繰り返しながらもじわじわと熱さを帯びていくバンドの演奏は「Hate」と歌っていても今目の前にいる人やこのフェスへの愛情に溢れている。間奏での生形のギターフレーズもまたこのバンドのメロディがどれだけ研ぎ澄まされたものであるかというのを、メロディを鳴らす楽器だからこそ感じさせてくれる。
するとようやくここで細美がビールを飲みながら黒Tシャツを脱いで上半身裸になると、
「千葉のクソ田舎のクソ野郎4人組だった俺たちが、ガキの頃から聴いていたアラニスとFoo Fightersの間に挟まれてライブやってるなんて、こんなに嬉しいことはない」
とこの日の感慨を口にしてからいきなり「ジダーバグ」を歌い始めるのであるが、さっきまではなんだったのかというくらいにこの曲から一気に細美は声が出るようになっていた。ビールを飲んだら声が出るようになる特異体質なんだろうかとも思ったりするけれど、そうでもなければハイトーンを張り上げるこの曲のサビを歌い上げることはできないだろうし、それはまさにいつだって細美の声がこの暗闇を切り裂いてくれてると思うような。だからこそよりダイバーが続出しているというのも実によくわかる。
さらには生形がイントロで前に出てきてあの象徴的なギターを鳴らす「スターフィッシュ」というキラーチューンの連打っぷりがさらに観客の合唱を大きくする。常に変顔をしながら演奏しているかのような高田も、活動再開後は目の前の光景を焼き付けるかのように、どこか泣きそうな顔をしながら叩いている高橋もその音にさらに感情がこもっているように感じる。そして星は見えないけれど、夜の野外だからこそ声を張り上げて歌う観客たちはみな、全てを投げ出したってどうしてもELLEGARDENに会いたいと思ってこの場所まで来たということがよくわかるのだ。
そんな細美の声が本調子になったからこそ新作からの「瓶に入れた手紙」のメロディの美しさもよりしっかりと伝わる。正直言って新作のサウンドは「これまでのエルレのサウンド」とはかなり違う。それでもやはりメロディの美しさと強さは変わらないということを感じさせてくれる曲であるし、なんだか初めてライブで聴くのがこのフジロックで良かったなと思えるのだ。それは遠い場所や人に思いを馳せるような曲だからこそそう思えるのかもしれない。
そして細美は
「次の曲、普段の俺たちのライブではウォールオブデスみたいになる曲なんだけど、結構前の方にフーファイを待ってる小さい子供連れの人がいて、前から搬送されてるのが見えてる。だから今日はそういう人たちも安全に楽しめるような楽しみ方をして欲しい」
と観客に呼びかけるのであるが、元々はモッシュやダイブ的な楽しみ方を肯定してきた細美が状況によって考え方や楽しみ方を柔軟に変え、自分たちが楽しければいいというわけではなくて、フーファイを待っている人にも気を使うことができるというのは細美の優しさを改めて感じざるを得ないのであるが、そうして始まった「Make A Wish」を歌い始めるとすぐに止めて客席内にいる海外の観客の方と英語で話し、大丈夫であることを確認してからもう一度歌い始めるというあたりにまさにその優しさが溢れ出ている。丸くなったわけでも、大人になったわけでもない。たださらにカッコよくなったと思った。だからこそこそこの日の「Make A Wish」はダイバーもいたけれど、急に加速する部分で激しいモッシュが起きたりしていなかったのは、みんなその細美のメッセージと優しさを受け取っていたからだと思う。
そうしたフジロックだからこその一幕もありつつ、最後に演奏されたのは新作からの「Strawberry Margarita」であり、新しいアルバムの曲がこうしてライブの最後を担い、大合唱が起きるようになっているというバンドの進化を確かに感じさせると、高田も高橋も演奏しながら実に楽しそうな笑みを浮かべていた。その姿を見ていたら、人は何回だって青春の中にいることができるんじゃないかと思ったし、それがこの先もずっと続いていきますようにとも思った。それは2008年に一度は終わったと思った我々の青春も今こうしてまた続いているからだ。
その2008年の夏が終わった時にはまたELLEGARDENのライブが見れるなんてことも、自分がフジロックに行くなんてことも全く想像していなかった。フジロックは自分にはずっと敷居が高いフェス(場所やキャンプありきという形態含めて)だと思っていたし、ELLEGARDENはもうライブをやることはないと思っていた。
でも今、こうして自分はフジロックに来て、そこでELLEGARDENのライブを見ている。あの時の自分に、15年後にそんな未来が待っているっていうことを教えてやりたくなった。
1.Breathing
2.Space Sonic
3.Supernova
4.チーズケーキ・ファクトリー
5.Mountain Top
6.Fire Cracker
7.Salamander
8.Missing
9.The Autumn Song
10.モンスター
11.I Hate it
12.ジダーバグ
13.スターフィッシュ
14.瓶に入れた手紙
15.Make A Wish
16.Strawberry Margarita
21:10〜 森大翔 [苗場食堂]
同じ時間にGREEN STAGEではトリのFOO FIGHTERSが始まっている中でこの苗場食堂ステージに来たのは、フジロック初出演を果たす森大翔のステージを見届けるためだ。何度かライブを見ているが、巨大な野外の夏フェスに出演するのも初ということでこれは見逃せない機会である。
ちゃんと事前に場所を把握しておかないとわからないくらいの小さいステージであり、そこにはドラムセットなども置かれているのであるが、それは使わずにこの日は弾き語りという形態(ライブはバンド編成の時が多くなってきている)で、アコギを持って登場した森大翔がそのギターを奏で始めると、その運指とテクニックの素晴らしさに観客が声を上げる「台風の目」からスタートし、事前に入念なサウンドチェックを行っていたことによってそのギターサウンドも歌唱もしっかりと響いている。やはり北海道の自然豊かな地域で育ったバックグラウンドがあるからか、この森の中のステージで歌う姿も実によく似合っている。
その歌唱の見事さがギターテクニックだけではなくてメロディの美しさと歌詞のメッセージを伝えることにもなっている「すれ違ってしまった人たちへ」でギタリストとしてだけではなくてシンガーソングライターとしての実力も存分に見せつけてくれると、「日日」ではやはりイントロでのギターのあまりの見事さに口が開きっぱなしになってしまうような感覚すらある。もう何回もライブを見ては聴いている曲であるが、何回見てもその凄さに驚かされるのは、間違いなく他の誰にもできないことをやっていて、それが見るたびに進化しているからであろう。
「暑いですね〜(笑)僕は北海道の知床っていう場所で育ったんですけど、そこは25°Cを超えたら暑いっていう感じの場所なんで、去年東京に上京してきてから、東京の夏は本当に暑いなと思ってます」
と言う森大翔は夜になってだいぶ涼しくなってきた(それでもTシャツ1枚で充分なくらい)中でも汗をかいているのがよくわかるのだが、ここからはルーパーを駆使して弾き語りでありながらも、ただアコギを弾きながら歌うというだけではないライブの形へ展開していく。
その起点になる「オテテツナイデ」はアコギを弾き、ボディをパーカッションのように叩き、とメロディだけではなくてリズムすらも重ねていくという1人多重録音をリアルタイムで見ているかのようで、森大翔のギターの上手さだけではない引き出しの豊富さを感じさせてくれるのであるが、社会や世の中に対するメッセージをまくしたてる歌詞、歌唱も含めて実に情熱的と言えるような曲で、だからこそメガネが曇って客席が見えないので拭いて…という事態になるくらいに熱いものになっているのである。
そんなルーパーをギターだけではなくて自身の声にも使うことによってコーラスを1人だけで重ねることによってメロディをより増強するかのような「最初で最後の素敵な恋だから」は森大翔がJ-POPのシーンに自分なりのやり方で切り込んでいこうとする姿勢を感じさせてくれるラブソングで、観客もリズムに合わせて手拍子で参加することによってよりこの日のライブ自体も素敵なものになっていくのである。
そんな森大翔は11月にツアーを行うことを告知しながら再度メガネを拭き、自身もこの後もフジロックを最大限に楽しむことを口にすると、再びアコギを弾くことに加えてボディを叩くこともルーパーで重ねていき、1人だけで豊富なサウンドを鳴らしながらヒップホップ的な歌唱も駆使して強烈なメッセージを伝えるような「剣とパレット」ではこの人にできない表現は何もないんだなと思わせるような凄まじさ。何よりもその歌唱がどんどん生々しく、感情がこもったものになってきている。それはライブを重ねたことによって、どんな歌い方をすれば見てくれている人に届くのかということを頭と体の両方でわかってきているからであり、この日のライブの衝動がそのまま出ているとも言える。だからこそライブが終わった後に観客たちも大歓声を上げるという形で衝動を形にしていたのである。
最初は客席はそこまで人が多くなかった。このタイムテーブル的には仕方がないが、後半になるとどんどん人が増えてきた(RED MARQUEEのSLOWDIVEが終わった後の人が足を止めたのかもしれない)のは、フジロックに来ているような人は鳴らしている音が凄ければちゃんと反応してくれる、わかってくれるということだ。
自分は近い将来にこの森大翔があらゆるフェスのメインステージに立つようになると信じて疑っていないが、その時に「フジロック初出演の苗場食堂ステージの時からこの人のライブを見ている」とドヤ顔できるようになる日が来ると信じているし、それはこのフェスでいろんなアーティストたちを見た後でも変わらずにそう思えている。
1.台風の目
2.すれ違ってしまった人たちへ
3.日日
4.オテテツナイデ
5.最初で最後の素敵な恋だから
6.剣とパレット
・FOO FIGHTERS [GREEN STAGE]
そうして森大翔を見てから到着したらもうGREEN STAGEのトリのFOO FIGHTERSのライブも完全に後半なのだが、翌日に出演するWeezerのメンバーを
「FOO FIGHTERSの新メンバー(笑)」
と紹介してギターを弾いてもらったりと、デイヴ・グロール(ボーカル&ギター)は
「For FUJI!」
を合言葉にこの日だからこその特別なものを次々に見せてくれる。(自分は見れなかったが、アラニス・モリセットともコラボしたらしい)
そんな中でも次々に放たれるキラーチューンの連打による連打での大合唱。自分の近くに海外の方も何人もいたのだが、そんな人たちが夢中になって大合唱しているのを見ていたら、例えば自分が海外に転勤になったとして、そこに好きな日本のバンドがライブしに来てくれたらめちゃくちゃ嬉しいよなと思ったりしていた。だからこそ、日々日本で生活している海外から来た人のためにもこのフェスは本当に大きな役割を果たしているんだなと感慨深い気持ちになったりした。
それは特に本編ラストの「Best Of You」の大合唱から感じられたものだったのだが、元々はNirvanaでカート・コバーンを失った喪失から始まったこのバンドが、スーパードラマーであるデイヴがボーカルとなり、自身の後ろを任せたドラマーのテイラー・ホーキンスが亡くなったばかりという喪失を経験したばかりだというのに、デイヴもメンバーも本当に楽しそうだった。その姿からはバンドを続けるということという根源的なものを感じざるを得なかった。それはどんなに深い悲しみがあったとしても、音楽があれば前に進めるというような。新しいドラマーがもうずっと一緒にこのバンドをやってきたかのようにグルーヴが合致しているのもその思いを分かち合っているからなのだろうし、そんなドラマーを真上からドラムセットの全景がちゃんと見えるように撮影してスクリーンに映し出されるというあたりにこのフェスのこのバンドへの深いリスペクトが伝わってくる。
何よりも世界のロックレジェンドであるデイヴが日本のフェス、日本のファンのためにあらゆる手法を使って自分たちの魂を燃やし尽くすようなライブを見せてくれているというのが本当に嬉しかったし、その心意気に何よりも感動していた。レジェンドにはレジェンドたる所以がちゃんとあるんだなということをデイヴは、FOO FIGHTERSは自分に示してくれたのであった。
朝までフジロックは続くけれど、駐車場に帰るバスがなくなってしまうのでここまで。こんなに晴れるとは思わなかったが、いつかまた来た時にはフジロックらしい雨な天気を経験することになるのだろうか。でもKOTORIがWHITE STAGEやGREEN STAGEに出るんなら、またすぐにでもここに戻ってきたいと思った。さすがに朝まではもう起きてられないけれど、2年前とは違ってこうして参加できていることが本当に幸せに感じられるフジロックだった。
なので前日にすでにThe Strokes(かつてサマソニで見た時の素晴らしいライブは今も忘れられない)がヘッドライナーを務めてのこの日の2日目。雨が降ってもいいような装備で来たら朝から快晴で暑いくらいの気候。それでもまだ関東の日々の暑さよりはマシだと思えるのは新潟県の山の中だからだろうか。
11:00〜 Chilli Beans. [WHITE STAGE]
2ndステージであるWHITE STAGEのこの日のトップバッターはChilli Beans.。春からフェスやイベントで稼働しまくっているが、この日から本格的にこのバンドの今年の夏が始まる。
MOBSTYLESの田原104洋の前説によってバンドの名前がアナウンスされると、おなじみのSEが流れてサポートドラマーのYuumiを加えたメンバーがステージに登場。Moto(ボーカル&ギター)は帽子を被ってサングラスをかけているという夏フェス仕様で、そのMotoとLily(ギター&ボーカル)のギターのイントロがこの広大な大自然の中に広がる「School」を聴いて、見る前から想像はしていたけれど、やはりこのバンドは本当にフジロックの空気感に似合うバンドだと思った。それは野外の広い規模とは思えないくらいの音の良さも含めて。Maika(ベース&ボーカル)のグルーヴを感じさせるベースと、こんなにも歌えるメンバーがメインボーカル以外にいるという初見の人に驚きを与える編成も普通のバンドとは全く違う軽やかさを持ったこのバンドならではのものだ。
曲間ほぼなしで演奏された「rose」はメンバーと同じ音楽スクールに在籍していたVaundyがフィーチャリングされている曲であり、この日の夜のこのステージにVaundyも出演するので、もしかしたら超レアな共演があるかとも思ったが、この日はなし。しかしながらハンドマイクになってステージを歩き回りながら歌うMotoの自由さは存分に発揮されているし、何よりも「duri-dade」の間奏でメンバー3人がスティックを持ってドラムセットを連打する光景には大きな歓声が上がる。それはまるでフランツ・フェルディナンドのフジロックのライブを見ているかのような感覚にさせるし、やはりこのバンドのグルーヴは海外アーティストのライブを見慣れているこのフェスの観客たちにも確かに響いている。
最近のフェスなどでは1曲目に演奏されることが大かった「See C Love」でMaikaがさらに姿勢も低くしてベースを重いベースを弾いてグルーヴを生み出しながらMotoのボーカルへのコーラスというよりもツインボーカルかのようにして歌うと、持ち時間が長いこのフェスだからこそセトリに入ってくるのであろう「neck」ではアウトロで思いっきり身を逸らすようにしてギターを弾きまくるLilyの姿に大歓声があがる。それはこのバンドのメンバー3人の魅力と技術をこのフェスに示しながら、このバンドでしかない新しいバンドの形をこのフェスのステージに刻みつけるかのようだ。
Motoがこのフジロックに初出演であることを改めて口にすると、タイトルに合わせた黄色い照明がステージを照らす「Lemonade」ではメンバーが左右にステップを踏む姿が客席にも広がっていくのであるが、メンバーの背後の巨大なLEDにはバンドロゴがデカデカと映し出されているだけというのもただ演奏をしっかり見せて聴かせるというこのバンドのストイックさを感じさせる。(ステージ上部のスクリーンにはメンバーの演奏する姿が映し出されていたけれど)
するとフェスでは実に珍しい感じがする、どこか牧歌的なギターサウンドに身を任せるようにして観客が体を揺らしながら、Lilyのギターを弾きながらのボーカルによって、改めてこのバンドが3人全員が優れた歌唱力を持つボーカリストであることを示すような「L.I.B」から、こちらもフェスでは珍しい、タンバリンを持ってマイクスタンドを握りしめるように歌うMotoのハイトーンかつウィスパー気味の歌唱というのもボーカリストとしての表現力の多彩さを見せつけてくれる「アンドロン」と、やはり持ち時間が長ければ長いほどこのバンドの魅力がハッキリわかるなと思っていたのだが、Motoはその曲前にいきなりLilyに抱きつくのであるが、それは自身のマイクスタンドに止まっていたトンボが蜂に見えたからというものであり、客席からは「かわいい〜」という声も上がる。
そんな恥ずかしい場面があってもボーカルのパワフルさは変わらないというかさらに増すばかりに感じる「Tremolo」ではサビでMotoに合わせて観客が腕を左右に振ると、最後に3人がステージ真ん中に集まって寄り添うように演奏される。Motoの声が詰まる場面があったように感じたのはこの光景を目にしたことによる感慨があるんだろうかとも思うのであるが、「Vacance」では全くそんなことがなかっただけにそれは考えすぎだったのだろうか。
そしてMaikaが
「初めてのフジロック、私たちもこの後も楽しむんで、皆さんも熱中症に気をつけて楽しんでください!」
と簡潔に観客にメッセージを伝えると、タイトル通りにデジタルコーラスも取り入れた「Digital Persona」ではYuumiのドラムが強い推進力として楽曲にスピード感を与える中でMotoの動きもさらに自由さを増していくと、必殺の「シェキララ」でそのMotoがついにサングラスを外してポーズを取るようにして歌うと、ステージ上のスクリーンにはそのMotoが歌う姿の足元でリズムを取っているのが映し出されるのであるが、このステージって朝からこんなにたくさんの人が来るのかと思うくらいの客入りっぷりであり、そのたくさんの観客が腕を上げている姿を見ると、やはりこのバンドの演奏、グルーヴはしっかり伝わっているんだなと思える。つまり初出演、朝イチのこのフェスでもバンドも観客も最高にシェキララしていたということである。
しかしそれだけは終わらずに最後に演奏されたのは「you n me」で、元から大きな規模が似合うと思ってきたChilli Beans.はやはりこの巨大なステージに立つべき存在のバンドであるということを改めて示してくれるかのように、この規模で鳴らされるのにふさわしいスケールを持った曲。
何よりもやっぱり演奏しているメンバーがとびきりの笑顔を浮かべながら演奏しているのが、このフェスに、このステージに立っている喜びを感じさせてくれるし、見ているこちらも本当に楽しくなれる。つまりは我々がこのフェスに来ることができた喜びの実感をこのバンドは最大限に感じさせてくれるのである。こうして、Chilli Beans.の今まで1番長い夏が始まった。8月以降もいろんなところで会える、ライブが見れるのが本当に嬉しいし、それはこの日のように忘れられない暑くて熱い夏の思い出になるはずだ。
1.School
2.rose
3.duri-dade
4.See C Love
5.neck
6.lemonade
7.L.I.B
8.アンドロン
9.Tremolo
10.Vacance
11.Digital Persona
12.シェキララ
13.you n me
12:00〜 KOTORI [RED MARQUEE]
2年前に来た時にはこの屋根があるステージであるRED MARQUEEのトップバッターとして出演していた、KOTORI。今年は2番手としての出演である。
WHITE STAGEからダッシュしてRED MARQUEEに10分で移動すると、すでにステージにはメンバーがいて、背面にはsmall indies tableのレーベル名とバンド名も映し出される中、帽子を被った横山優也(ボーカル&ギター)と上坂仁志(ギター)が鳴らす轟音サウンドに乗せて歌われる「GOLD」の
「今夜祝杯をあげよう
特別なことはないけれど
いつかこんな夜が
宝物になる日が来るだろう」
というフレーズがまさに今この瞬間のためであるかのように鳴り響くと、
「僕らの右手の先 GOLD」
という締めフレーズで横山に合わせてたくさんの観客の右手が上がる。その瞬間に上がった大歓声は発声が禁止されていた2年前には聞こえなかったものであり、その光景だけで胸が熱くなるものがある。
すると上坂のギターが一気にドライブ感を増す「1995」ではその上坂が昂り過ぎているのか、ステージ上で激しく動き過ぎたことによってか曲中にギターの音が出なくなるというトラブルにも見舞われるのであるが、夏フェスらしくノースリーブという出で立ちの佐藤知己(ベース)が、前まではどちらかというとメンバーの方を見て演奏していたのが、しっかり観客の方に向き合うようにして演奏するようになっているし、ベースの音自体もめちゃくちゃ重く逞しくなっている。
そのまま横山がタイトルを口にして演奏された「unity」はイントロで立ち上がって客席を見るようにする細川千弘(ドラム)が上体が全くブレない美しいフォームでビートを牽引する。自分は細川を世代ナンバーワンのドラマーだと思っているが、それは聴き慣れた曲でも手数を追加しているためによりそう思うのだが、かと思ったら間奏で横山がギターを高く掲げるようにする。それは早くもこの日の勝利宣言であるかのようだ。
「フジロックらしく踊れる感じで」
と横山が言うと、ここまではパンクに突っ走っていたのとは打って変わって「SPARK」が体を揺らしてくれるのであるが、それでもサビでは客席で拳が上がる。それはバンドの力強い演奏にすぐに反応しているかのようだ。
「フジロックで絶対やりたかった曲」
と言って演奏されたのは「REVIVAL」であるが、それは
「あの時出会った音楽が
この体を作った
あれからずっと今も離れない」
というフレーズの原体験がもしかしたら横山にとってはこのフジロックだったのかもしれないし、
「いつかまた思い出したなら
それだけで音楽は生きる」
というフレーズもそうである。それは確かに数々のアーティストの憧れであり、出演していなくても客として訪れるミュージシャンが多いフジロックだからこそである。
それは「光」からもそうした、目指すべき場所がこの場所であるということを強く感じさせてくれるのであるが、曲間のリズムがガラっと変わるのにそれを一瞬で繋ぐ細川のビートも、こうした規模の会場で響くべきスケールを持つようになった横山の歌も実に見事であるし、憧れのフェスだからこそ、この環境、このステージでどんな曲を鳴らすべきかということをよくわかっている選曲と言えるだろう。
しかし、
「1番チルい曲やります」
と横山が言ってから上坂が鳴らしたイントロはチルいどころか、そのイントロだけで大歓声が上がる「トーキョーナイトダイブ」であり、その大歓声も大合唱も2年前にこのステージで見た時にはなかったものであるだけに、その観客が声が出せるフジロックのステージに立つKOTORIのライブがこんなに感動するものとはと思ってしまうくらいに感動していたし、満員の中でダイバーまでもが出現するという光景も立ち位置指定があった2年前では見れなかったもの。何よりもKOTORIのライブがその時より格段にレベルアップしていて、そのKOTORIを見たい人が圧倒的に増えているのである。
なので横山も
「これは売れた認定していいですかね?(笑)」
というくらいの熱狂っぷりだったのであるが、
「フジロックに出るためにバンドやってるって言ってもいいくらい。だからこれからも死ぬまでは出れる限り出たいと思ってる」
とフジロックへの想いを口にし、
「歌えたら全部歌ってくれ!」
と言って真っ赤な照明がメンバーを照らす中で曲が進むにつれて演奏が一気に激しくかつ速くなっていく「RED」がこのRED MARQUEEで演奏されるためかのように響き、そのあまりの演奏の凄まじさによって一気に観客がさらに前へと押し寄せてダイバーが続出する。
「ここじゃなきゃ見られない気がするよ」
というフレーズは横山にとっては紛れもなくこのフェスがここなんだろうなと思わせてくれる。
さらには細川のビートによるイントロの段階で観客が飛び跳ねまくり、大歓声を上げる「素晴らしい世界」では横山が最初からマイクスタンドから離れることによって歌い出しから全編に渡って大合唱が起こるという感動せずにはいられない光景が生まれるのであるが、横山はギターを置いて客席の前の柵に立って歌うと、最後にはそのまま客席にダイブしながら歌う。もちろん客席からもダイバーが出ていたので一度沈みそうにもなりながらも曲終わりでステージに戻ると、横山は靴と帽子を紛失しており、観客に靴をステージまで投げてもらう。それでも本当に楽しそうである。
そうして靴を履き直した横山が
「いつかGREEN STAGEで鳴らす曲」
と言って演奏した「We Are The Future」では細川が立ち上がって客席を見渡しながら体を揺らし、その後に力強いドラムを叩き始めるのであるが、
「音楽で大切なものを守れますように」
という、図らずもコロナ禍に向けてのメッセージのようになった歌詞に2年前のこのフェスなどのあの時期にどれだけ救われただろうか。そんな曲なだけに横山の言う通りにこの曲をGREEN STAGEで聴いてみたいし、この曲を何万人もの人で大合唱したいけれど、それが現実になったら間違いなく自分は泣いてしまうだろうと思う。
そんなライブの最後には
「最後に1番でっかい音鳴らして終わります」
と言って横山と上坂がこのステージに夜に出演するSLOWDIVEかと思うような轟音シューゲイズサウンドを鳴らす「YELLOW」で照明も黄色に染まる。それは2年前と同じ締め方であったが、あれからさらにめちゃくちゃライブをやりまくってきたバンドであるだけに、やはりあの時よりもさらに胸が震えるような爆音を鳴らしていた。それはバンドがさらに一つにがっしりと組み合っているということ。演奏が終わってステージ前に並んだ4人の姿からそんなことを確かに感じていた。
フジロックの長い歴史の中で自分が参加したのはこの日と2年前の初日のたった2日間だけ。その2日に両方とも出演していて、両方ともライブを見れたのがKOTORIだというのはどこか運命的なものを感じざるを得ないし、自分の中での現状のフジロックの象徴的なバンドはこのKOTORIである。
だからこそこのバンドが次にまた出演する時には絶対に観に来ようと思っている。それくらいに素晴らしく、凄まじいライブだったし、その出演の積み重ねの先にGREEN STAGEや、あらゆるフェスのメインステージが待っていて欲しい。それくらいにとんでもないライブをやっているバンドだと思っているから。
1.GOLD
2.1995
3.unity
4.SPARK
5.REVIVAL
6.光
7.トーキョーナイトダイブ
8.RED
9.素晴らしい世界
10.We Are The Future
11.YELLOW
14:00〜 d4vd [RED MARQUEE]
「自宅のクローゼットの中でiPhoneで作った曲がネットでバズってデビュー」という現代的過ぎるデビューの仕方をした、アメリカの新人ソロアーティストd4vd。この表記で「デイヴィッド」と読む。
ステージにはドラムとギターのバンドメンバーが先に登場して音を鳴らすと爽やかなシャツ姿のd4vdも登場し、ステージ上を走り回りながらポップパンクの要素も強い曲を歌い始めるのであるが、曲のMVに「東京喰種」のオマージュなんかを入れるくらいに日本のアニメなどに強い影響を受けているだけに、こうして日本に来てライブができるということの喜びがその姿から溢れ出ている。
なので、
「私の名前はデイヴィッドです!」
「行くぞ!」
など普通に日本語も覚えたてという感じではなくて普段から慣れ親しんでいるというような感じで口にするのであるが、中盤のR&Bやヒップホップ的な曲では打ち込みメインという形なだけにライブ感が希薄になってしまったところもあったのだが、後半は
「呪術廻戦にインスパイアされた」
という曲が思いっきり日本のギターロックサウンド全開で、その曲に合わせて再びステージを走り回ったりアクロバティックなパフォーマンスを見せたりと、とにかく全力でこのライブをやることによって日本への愛情を表明し、そしてまた日本に来たいという感情を強く感じさせる。
コロナ禍で開催された2021年は海外からアーティストが来日出来なかったが、それがようやく去年から来日できるようになった。こうして日本を愛してくれているようなアーティストたちが日本に来れるような状況になって本当に良かったとこのd4vdの姿やパフォーマンスを見て改めて思った。
15:00〜 羊文学 [GREEN STAGE]
バンドの佇まいや音楽性からしても実にフジロックに似合う感じがする、羊文学。今回はなんとメインステージのGREEN STAGEへの出演である。
そのフェスとの相性の良さを感じさせるように、すでに客席は「こんなにも!?」と思うくらいの満員っぷりとなっているのだが、塩塚モエカ(ボーカル&ギター)も河西ゆりか(ベース)も全身黒の衣装。フクダヒロア(ドラム)はいつも真っ黒な服装であるが、背面のLEDにも何も映し出されない、アンプやドラムセットも黒というのはもはやメンバーの肌とギターとベースのみしか黒以外の色がないというくらいに巨大なGREEN STAGEが真っ黒に染められているのであるが、セットもシンプル極まりないだけにより一層このステージが広く見える。
しかしながら「Blue.2」から始まったライブは、本当にギター、ベース、ドラムという最低限の楽器、しかも至ってシンプルな演奏でしかないのであるが、この日の爽やかな青空に似合うような青春感を感じさせるものであり、それはもしかしたらバンド側がこの日のシチュエーションによって決めたものなのかもしれないが、塩塚と河西が間奏でマイクスタンドの前から離れてステージを広く使うようにして演奏する「FOOL」から、CMタイアップ曲になったことで大きな話題を呼んだ「永遠のブルー」に至るまで、クールな出で立ちと歌唱による塩塚のボーカルも含めて今まさにこのバンドが青春の真っ只中にいるかのように感じさせてくれる。
しかしながらただそのイメージだけで押し切るのではなくて、「人間だった」や「mother」のような曲は歌詞からどうしたって人生や人間の真理というようなものを聴きながら考えざるを得ないのであるが、そうして特になんの演出もエンタメ性もない羊文学のライブがGREEN STAGEの満員の客席に独特の集中力を生んでいく。もちろん曲間などには歓声が上がったりはするけれど、それでも実にストイックさを感じるようなライブ運びである。
輝いている人とそうなれない自身を比較してしまうような歌詞による「金色」も、このGREEN STAGEに立つようになったからこそ、今やバンド側がその輝いている側にいるということを感じさせてくれるのであるが、フクダが立ち上がるようにして細かくハイハットを刻むイントロがライブの流れをガラッと変えるような「光るとき」からも、真っ黒ではあるけれどもそこから発されるバンドの音が確かな光となって我々に届いているということを感じさせてくれると、塩塚は
「話すこと何にも考えてこなかった(笑)」
と言いながらもこの満員の客席に驚いており、
「スタッフと「それぞれ友達100人連れてきて」って言ってた効果があったのかな(笑)」
と笑いながら口にして、河西もその言葉に笑っている(フクダは長い髪によって表情が見えない)姿からも、やはりこのライブという瞬間が楽しいものであるということを感じさせると、こんなに快晴のフジロックでこの曲を演奏することを予想していただろうかと思ってしまうような「天気予報」から、映画のタイアップ曲であり、タイトルも結果的に映画のタイトルと同じものになった「マヨイガ」での河西の重くうねるようなベースラインが、シンプルではあるけれどそこに過不足がないバンドサウンドであることを感じさせてくれるし、この曲を歌っている時の塩塚の雰囲気は神秘的過ぎて、フジロックの森に住む妖精であるかのように思えてくる。
そんなバンドの演奏の強さはイントロ、さらにはアウトロにまでもセッション的な演奏が追加された「OOPARTS」でも感じさせ、間奏では塩塚が思いっきり
「フジロックー!」
と叫んでマイクスタンドから離れてギターを弾きまくり、河西も同じように体勢を低くしてそのベースのグルーヴをさらに強くするのであるが、ラストの「夜を越えて」もやはりこの青空の下に立って演奏していることによる青春性を確かに感じさせてくれると、その極み付きはアウトロで塩塚と河西が楽器を抱えたまま走ってそのまま交差するようにジャンプをするという姿。
それは羊文学は実は感情や衝動を音や演奏する姿によって放出するロックバンドであること、それがこのフジロックに実に似合うものであることを証明するかのようだった。実はこの日の苗場の空をこんなに晴れさせたのはこのバンドの持つ神秘的な力なんじゃないかと思ってしまうくらいに。
1. Blue.2
2.FOOL
3.永遠のブルー
4.人間だった
5.mother
6.金色
7.光るとき
8.天気予報
9.マヨイガ
10.OOPARTS
11.夜を越えて
18:00〜 Saucy Dog [RED MARQUEE]
苗場食堂ステージで苗場音楽突撃隊を少し見たり、会場内のいろんな場所を回っているうちに少し涼しさを感じるような時間帯になってきている。そんな後半のRED MARQUEEに出演するのはSaucy Dog。今や日本のアーティストだけが集まるフェスでは間違いなくメインステージじゃないと収まりきらないくらいの存在になったバンドをメインではないステージで見れるのもフジロックならでは。様々なフェスに出演してきたが、この日がこのバンドのフジロック初出演となる。
おなじみのSEでせとゆいか(ドラム)を筆頭に、秋澤和貴(ベース)、石原慎也(ボーカル&ギター)と1人ずつステージに登場すると、どこかいつもとは少し異なる緊張感を感じさせながらも石原が
「フジロック、はじめまして。まずは新曲」
と言って演奏されたのはリリースされたばかりの最新ミニアルバム「バットリアリー」収録の、石原によるラフかつルーズなギターと、そのサウンドに合わせたような歌詞による「そんだけ」という選曲であり、これは実に意外なスタートであるし、このバンドのライブを初めて見るという人も多いであろう機会なだけにこうした曲があるということも、「シンデレラボーイ」のイメージが強い人からしたら意外だったんじゃないかと思うようなロックナンバーである。
すると石原が曲中に
「よろしくねー!」
と元気いっぱいに叫ぶ、真っ青な照明がステージを照らす中で演奏された「シーグラス」が山の中でのフェスでも海の近くのフェスでこのライブを見ているような爽やかなイメージを想起させる。去年もいろんな野外でのフェスでこの曲を聴いたけれど、今年もまたいろんなところで聴いて夏を実感したい曲だ。なぜいろんなバンドの「シーグラス」というタイトルの曲はこんなに名曲が多いのだろうか。
さらには石原がイントロからギターを掻き鳴らす「雀ノ欠伸」ではバンドサウンドが一気にロックさを増していくのであるが、観客の手拍子を見て石原が手で大きく丸を作るのは他のフェスと変わることはないし、何よりもその姿が実に楽しそうなのである。
MCではせとも初出演だけに不安が大きかったということを話していたが、普段フェスではほとんど喋る機会がない秋澤が
「本当に奇跡みたいな、夢かのような。信じられないですよ」
と言うあたりはメンバーの中で1番このフェスへの出演を望んでいたのは秋澤なんじゃないかと思わせてくれるし、だからこそポーカーフェイスな彼も表情に楽しさや嬉しさが滲み出ている。
そんなバンドはここでも「バットリアリー」収録の「魔法が解けたら」を演奏するという新モードに入っていることを感じさせてくれるのであるが、この曲の歌詞に出てくる「夢の国」というフレーズがこの日だけはフジロックであるように感じられるし、ラブソングでありながらも実は音楽の力の凄さを歌っている曲であるというあたりが、新モードでありながらもこのフェスで演奏されるべき曲を演奏しているとも思わせてくれる。
そんな中で石原による歌い出しの時点で大歓声が上がったのはもちろん「シンデレラボーイ」であり、背面のLEDには歌詞も映し出されるのであるが、フジロックに来るような人たちもこの曲を知っていて、この曲を聴きたいと思っているというあたりに改めてこの曲の凄さを思い知らされるし、石原の歌唱の伸びやかさがこのステージのテントを突き抜けてGREEN STAGEまで届くんじゃないかと思うくらいに見事だと思うからこそ、ここにいた人たちに響くのだろうし、いつかGREEN STAGEでもこの曲が演奏されるのを聴いてみたいと思う。
「俺たちや今日出てるたくさんのバンドマンの歌」
と言って演奏された「メトロノウム」はこのバンドもいろんな出演者たちもこの曲の歌詞のように車に乗って旅をするようにしてこの会場まで来たのだろうかという情景を想起させるし、それは自分自身が車でここまで来た道のりをも彷彿とさせる。(助手席に乗ってただけだけど)そうしてこの曲が確かにこの日だけの記憶になっていくという意味では、遠出をするフェスで聴いてこそより響く曲だと言えるかもしれない。
再び石原がギターをかき鳴らしまくるロックナンバー「雷に打たれて」では石原が
「歌える?」
と問いかけて観客の合唱を煽って声が重なっていくと、今度はせとも笑顔で腕で丸を作るのであるが、このあたりの曲はツアーやこうしたフェスなどのライブを重ねてきて、本当に見るたびにバンドのアンサンブルが逞しく進化しているなと感じる。それはこのフェスで初めてこのバンドのライブを見た人も驚いたんじゃないだろうかと思う。
「「シンデレラボーイ」が終わったらたくさんの人が抜けてどっかに行っちゃったけど(笑)、日本だけじゃなくていろんな国のアーティストが集まっているフジロックは本当に最高のフェスだと思ってます!
俺たちはその中の1ピースでしかないけれど、それでもサウシーいてくれて良かったなって思ってもらえるように!」
とあまりにも素直に言うのであるが、石原もこのバンドのメンバーもSNSなどを見ていてもわかることだが、嘘をつけない人たちだ。だからこそ傷ついたりすることも自分たちの口からはっきりと言うし、それが曲になっているのが「現在を生きるのだ。」と「怪物たちよ」というやはり(先行して配信されながらも)「バットリアリー」に収録された曲。それは「現在を生きるのだ。」では石原が
「普段学校頑張ってる人ー!家事や育児を頑張ってる人ー!仕事頑張ってる人ー!」
と、曲のメッセージがそうであるように何かを日々頑張ってこの場にいる人たちへのエールを送り、
「どんなことがあっても俺たちだけは強くて優しい怪物になろうな!」
と、またこの曲の歌詞で言及していた悲しい出来事があったからこそ(石原もそのタイミングでこの曲のタイトルをツイートしていた)「怪物たちよ」の曲もメッセージもより深く強く突き刺さる。それはバンド、メンバー自身もそうしたことに晒された経験があるからこそ生まれたものであるが、人間は学習しない、変わらないんじゃないのかと思ったりもするけれど、このメンバーたちがそっち(1番悲しい結末)を選ばなくて本当に良かったと、こうしてライブでこの曲を聴くたびに思うし、この曲のメッセージが響くからこそ、そうしたことを絶対にしないようにしたいと改めて思うのである。
そしてそんなバンドの思いや描くメッセージは最終的に「優しさに溢れた世界で」へと繋がっていく。
「寝起き頭に飛び込んだ画面
今日の魚座は最下位だね」
という歌詞は個人的にこのバンドの中で1番共感できるものであるが、石原が
「歌って!」
と言うとここまででこの日最大の合唱が起こる。それはこのバンドにとってこのフェスは決してアウェーではなかったことの証明であり、このバンドを見たくてこの日来た人もたくさんいたということをも示している。
何よりも普段からいろんなフェスなどでライブを見ているけれど、その時とはまた違った楽しさをメンバーたちが感じていることが確かにわかったし、そのメンバーの感情によって我々もさらにこの日が楽しくなる。だからこそやっぱり、サウシーいてくれてありがとうと思っていた。
1.そんだけ
2.シーグラス
3.雀ノ欠伸
4.魔法が解けたら
5.シンデレラボーイ
6.メトロノウム
7.雷に打たれて
8.現在を生きるのだ。
9.怪物たちよ
10.優しさに溢れた世界で
19:00〜 ELLEGARDEN [GREEN STAGE]
GREEN STAGEもすっかり暗くなってきているというのは、暑いとはいえ関東の暑さとは違うし、日の長さもまた違うということを感じさせる。そんなトリ前の時間に登場するのは、これまでにもこのフェスで数々の名場面を作ってきたであろう、 ELLEGARDENである。
超満員の観客が待ち受ける中でどこかEDMっぽいSEが流れて背面のLEDにバンドロゴが流れてメンバーがおなじみの黒い服で登場すると、1曲目は昨年リリースされた活動休止からの復活後最初のアルバムである「The End of Yesterday」収録の「Breathing」からスタートする。自分はライブでこの曲を聴くのは初だったのであるが(アルバムをリリースしてからはACIDMAN主催フェス「SAI」でしかライブを見ていないから)音源でも感じたようにライブで見るとパンクというより重さのあるロックンロールだと感じる。それは高田雄一(ベース)と高橋宏貴(ドラム)によるリズム隊の力によるものも大きいと思われるが、曲終わりでは細美武士(ボーカル&ギター)が
「ただいま、フジロック!」
と挨拶したあたりは、やはりこのフェスはバンドにとって帰ってくるべき場所だという意識があるのだろうなとも思う。
すると生形真一(ギター)がステージ前に出てきてイントロを鳴らすだけで大歓声が起きたのは「Space Sonic」であり、Bメロでは高橋が、サビでは生形がコーラスを細美のボーカルに乗せる中でダイバーが続出している。やはりこの日1番多かったのはこのバンドのTシャツを着た人たちだったが、やはり「待っていた」という感覚が客席から放出されまくっているし、それは細美がギターを弾きながらサビを歌うようにして始まった「Supernova」でも同じであり、サビでは観客の大合唱が響く。それは自分にとっては2019年のNANA-IRO ELECTRIC TOUR以来に聞くし自分も歌うことができるこのバンドのライブでの合唱であり、ダイブも含めたその光景に胸が熱くならざるを得ない。みんなが大好きだった ELLEGARDENのライブが本当の意味で戻ってきたんだと。
しかしながらただ昔の曲をやるために戻ってきたのではなくて、今鳴らすべき曲をもしっかり持って戻ってきたと思えるのが、サビ前の
「ティダ・ラ・バダ
We get it get it go」
という呪文のようなフレーズで細美がマイクスタンドの前から離れて大合唱を誘う「チーズケーキ・ファクトリー」はキャッチーなメロディとサウンドも含めて、このバンドのライブがこんなに楽しいということを改めて感じさせてくれるものである。間奏では細美が名前を叫んだ生形がステージ前に出てギターソロを弾くのも含めて。
そんな細美は
「楽しみ過ぎて、小学校の時の遠足みたいな、この日が終わったら死んでもいいみたいな感じになってた」
と実に細美らしい表現でこの出演がどれだけ楽しみであったかを語ると、背面のLEDにはタイトルに合わせて山の頂上が連なり、そこに光が放たれていく映像が映し出される演出が曲のイメージをさらに壮大なものにしていく「Mountain Top」が演奏され、完全にこうした新しいアルバムの曲たちがすでにバンドの地肉になっているということを感じさせてくれる。
しかしながらおなじみの「Fire Cracker」、さらには「Salamander」と、燃え盛るような真っ赤な照明がステージを照らし出すことによってバンドの演奏もさらに熱くなるような曲たちでは、だからこそ細美のあの最強の喉が少し調子が悪いというか、声が完全に出てはいないようにも感じていた。それでも楽しそうなことには全く変わりはないのであるが、そもそもが忙しすぎるくらいのスケジュールで生きている人であるだけに少し心配になってしまう。
しかしながら ELLEGARDENのライブといえばやはり観客による大合唱ということで、「Missing」ではサビで大合唱が起き、背面のLEDにもバンドの演奏する姿や映像ではなく(それは両サイドのスクリーンに映し出されているが)、客席の観客が大合唱する姿が映し出されているというあたりにフジロックがどれだけこのバンドが好きでこのバンドのライブのことを理解しているのかということがよくわかるし、その合唱によって細美の声の調子の良くなさがカバーされているようにも感じられるというのは、やはりライブはバンドと観客の双方によって作られているということだ。
それはもちろんいきなり細美が歌い始める「The Autumn Song」もそうであるが、
「Waiting for the snowy season」
というフレーズは曲タイトル自体は季節外れであれど、このスキー場である会場には実にふさわしい曲である。ここで暮らしている人たちはまさにそうして雪が降る季節を待っているからだろうけれど、それと同じくらいにこのフェスを待ってくれていたら音楽好きの端くれとして本当に嬉しいと思う。何よりもリリースから20年くらい経っているのに、この曲はもちろん数々の名曲たちが全く色褪せることがない。全てが今この瞬間のアンセムになっているというあたりは活動再開してからの方がより ELLEGARDENの凄さを実感できるとも言える。
それは生形が掻き鳴らしまくるギターに細美の生き様が滲む歌詞が乗る「モンスター」もそうであるが、細美の歌声はやはりサビの最後に張り上げる部分でかなり苦しそうでもあったのだけれど、それすらも観客の笑顔での大合唱がかき消してくれるかのような。そういう二つとない宝物をこれからもこうやってライブという場で集めていきたいと心から思う。それくらいにきっとこの日のこの光景も忘れられないものになるだろうから。
そしてこの日のセトリで最大のサプライズはやはり「I Hate it」だろう。タイトルフレーズを繰り返しながらもじわじわと熱さを帯びていくバンドの演奏は「Hate」と歌っていても今目の前にいる人やこのフェスへの愛情に溢れている。間奏での生形のギターフレーズもまたこのバンドのメロディがどれだけ研ぎ澄まされたものであるかというのを、メロディを鳴らす楽器だからこそ感じさせてくれる。
するとようやくここで細美がビールを飲みながら黒Tシャツを脱いで上半身裸になると、
「千葉のクソ田舎のクソ野郎4人組だった俺たちが、ガキの頃から聴いていたアラニスとFoo Fightersの間に挟まれてライブやってるなんて、こんなに嬉しいことはない」
とこの日の感慨を口にしてからいきなり「ジダーバグ」を歌い始めるのであるが、さっきまではなんだったのかというくらいにこの曲から一気に細美は声が出るようになっていた。ビールを飲んだら声が出るようになる特異体質なんだろうかとも思ったりするけれど、そうでもなければハイトーンを張り上げるこの曲のサビを歌い上げることはできないだろうし、それはまさにいつだって細美の声がこの暗闇を切り裂いてくれてると思うような。だからこそよりダイバーが続出しているというのも実によくわかる。
さらには生形がイントロで前に出てきてあの象徴的なギターを鳴らす「スターフィッシュ」というキラーチューンの連打っぷりがさらに観客の合唱を大きくする。常に変顔をしながら演奏しているかのような高田も、活動再開後は目の前の光景を焼き付けるかのように、どこか泣きそうな顔をしながら叩いている高橋もその音にさらに感情がこもっているように感じる。そして星は見えないけれど、夜の野外だからこそ声を張り上げて歌う観客たちはみな、全てを投げ出したってどうしてもELLEGARDENに会いたいと思ってこの場所まで来たということがよくわかるのだ。
そんな細美の声が本調子になったからこそ新作からの「瓶に入れた手紙」のメロディの美しさもよりしっかりと伝わる。正直言って新作のサウンドは「これまでのエルレのサウンド」とはかなり違う。それでもやはりメロディの美しさと強さは変わらないということを感じさせてくれる曲であるし、なんだか初めてライブで聴くのがこのフジロックで良かったなと思えるのだ。それは遠い場所や人に思いを馳せるような曲だからこそそう思えるのかもしれない。
そして細美は
「次の曲、普段の俺たちのライブではウォールオブデスみたいになる曲なんだけど、結構前の方にフーファイを待ってる小さい子供連れの人がいて、前から搬送されてるのが見えてる。だから今日はそういう人たちも安全に楽しめるような楽しみ方をして欲しい」
と観客に呼びかけるのであるが、元々はモッシュやダイブ的な楽しみ方を肯定してきた細美が状況によって考え方や楽しみ方を柔軟に変え、自分たちが楽しければいいというわけではなくて、フーファイを待っている人にも気を使うことができるというのは細美の優しさを改めて感じざるを得ないのであるが、そうして始まった「Make A Wish」を歌い始めるとすぐに止めて客席内にいる海外の観客の方と英語で話し、大丈夫であることを確認してからもう一度歌い始めるというあたりにまさにその優しさが溢れ出ている。丸くなったわけでも、大人になったわけでもない。たださらにカッコよくなったと思った。だからこそこそこの日の「Make A Wish」はダイバーもいたけれど、急に加速する部分で激しいモッシュが起きたりしていなかったのは、みんなその細美のメッセージと優しさを受け取っていたからだと思う。
そうしたフジロックだからこその一幕もありつつ、最後に演奏されたのは新作からの「Strawberry Margarita」であり、新しいアルバムの曲がこうしてライブの最後を担い、大合唱が起きるようになっているというバンドの進化を確かに感じさせると、高田も高橋も演奏しながら実に楽しそうな笑みを浮かべていた。その姿を見ていたら、人は何回だって青春の中にいることができるんじゃないかと思ったし、それがこの先もずっと続いていきますようにとも思った。それは2008年に一度は終わったと思った我々の青春も今こうしてまた続いているからだ。
その2008年の夏が終わった時にはまたELLEGARDENのライブが見れるなんてことも、自分がフジロックに行くなんてことも全く想像していなかった。フジロックは自分にはずっと敷居が高いフェス(場所やキャンプありきという形態含めて)だと思っていたし、ELLEGARDENはもうライブをやることはないと思っていた。
でも今、こうして自分はフジロックに来て、そこでELLEGARDENのライブを見ている。あの時の自分に、15年後にそんな未来が待っているっていうことを教えてやりたくなった。
1.Breathing
2.Space Sonic
3.Supernova
4.チーズケーキ・ファクトリー
5.Mountain Top
6.Fire Cracker
7.Salamander
8.Missing
9.The Autumn Song
10.モンスター
11.I Hate it
12.ジダーバグ
13.スターフィッシュ
14.瓶に入れた手紙
15.Make A Wish
16.Strawberry Margarita
21:10〜 森大翔 [苗場食堂]
同じ時間にGREEN STAGEではトリのFOO FIGHTERSが始まっている中でこの苗場食堂ステージに来たのは、フジロック初出演を果たす森大翔のステージを見届けるためだ。何度かライブを見ているが、巨大な野外の夏フェスに出演するのも初ということでこれは見逃せない機会である。
ちゃんと事前に場所を把握しておかないとわからないくらいの小さいステージであり、そこにはドラムセットなども置かれているのであるが、それは使わずにこの日は弾き語りという形態(ライブはバンド編成の時が多くなってきている)で、アコギを持って登場した森大翔がそのギターを奏で始めると、その運指とテクニックの素晴らしさに観客が声を上げる「台風の目」からスタートし、事前に入念なサウンドチェックを行っていたことによってそのギターサウンドも歌唱もしっかりと響いている。やはり北海道の自然豊かな地域で育ったバックグラウンドがあるからか、この森の中のステージで歌う姿も実によく似合っている。
その歌唱の見事さがギターテクニックだけではなくてメロディの美しさと歌詞のメッセージを伝えることにもなっている「すれ違ってしまった人たちへ」でギタリストとしてだけではなくてシンガーソングライターとしての実力も存分に見せつけてくれると、「日日」ではやはりイントロでのギターのあまりの見事さに口が開きっぱなしになってしまうような感覚すらある。もう何回もライブを見ては聴いている曲であるが、何回見てもその凄さに驚かされるのは、間違いなく他の誰にもできないことをやっていて、それが見るたびに進化しているからであろう。
「暑いですね〜(笑)僕は北海道の知床っていう場所で育ったんですけど、そこは25°Cを超えたら暑いっていう感じの場所なんで、去年東京に上京してきてから、東京の夏は本当に暑いなと思ってます」
と言う森大翔は夜になってだいぶ涼しくなってきた(それでもTシャツ1枚で充分なくらい)中でも汗をかいているのがよくわかるのだが、ここからはルーパーを駆使して弾き語りでありながらも、ただアコギを弾きながら歌うというだけではないライブの形へ展開していく。
その起点になる「オテテツナイデ」はアコギを弾き、ボディをパーカッションのように叩き、とメロディだけではなくてリズムすらも重ねていくという1人多重録音をリアルタイムで見ているかのようで、森大翔のギターの上手さだけではない引き出しの豊富さを感じさせてくれるのであるが、社会や世の中に対するメッセージをまくしたてる歌詞、歌唱も含めて実に情熱的と言えるような曲で、だからこそメガネが曇って客席が見えないので拭いて…という事態になるくらいに熱いものになっているのである。
そんなルーパーをギターだけではなくて自身の声にも使うことによってコーラスを1人だけで重ねることによってメロディをより増強するかのような「最初で最後の素敵な恋だから」は森大翔がJ-POPのシーンに自分なりのやり方で切り込んでいこうとする姿勢を感じさせてくれるラブソングで、観客もリズムに合わせて手拍子で参加することによってよりこの日のライブ自体も素敵なものになっていくのである。
そんな森大翔は11月にツアーを行うことを告知しながら再度メガネを拭き、自身もこの後もフジロックを最大限に楽しむことを口にすると、再びアコギを弾くことに加えてボディを叩くこともルーパーで重ねていき、1人だけで豊富なサウンドを鳴らしながらヒップホップ的な歌唱も駆使して強烈なメッセージを伝えるような「剣とパレット」ではこの人にできない表現は何もないんだなと思わせるような凄まじさ。何よりもその歌唱がどんどん生々しく、感情がこもったものになってきている。それはライブを重ねたことによって、どんな歌い方をすれば見てくれている人に届くのかということを頭と体の両方でわかってきているからであり、この日のライブの衝動がそのまま出ているとも言える。だからこそライブが終わった後に観客たちも大歓声を上げるという形で衝動を形にしていたのである。
最初は客席はそこまで人が多くなかった。このタイムテーブル的には仕方がないが、後半になるとどんどん人が増えてきた(RED MARQUEEのSLOWDIVEが終わった後の人が足を止めたのかもしれない)のは、フジロックに来ているような人は鳴らしている音が凄ければちゃんと反応してくれる、わかってくれるということだ。
自分は近い将来にこの森大翔があらゆるフェスのメインステージに立つようになると信じて疑っていないが、その時に「フジロック初出演の苗場食堂ステージの時からこの人のライブを見ている」とドヤ顔できるようになる日が来ると信じているし、それはこのフェスでいろんなアーティストたちを見た後でも変わらずにそう思えている。
1.台風の目
2.すれ違ってしまった人たちへ
3.日日
4.オテテツナイデ
5.最初で最後の素敵な恋だから
6.剣とパレット
・FOO FIGHTERS [GREEN STAGE]
そうして森大翔を見てから到着したらもうGREEN STAGEのトリのFOO FIGHTERSのライブも完全に後半なのだが、翌日に出演するWeezerのメンバーを
「FOO FIGHTERSの新メンバー(笑)」
と紹介してギターを弾いてもらったりと、デイヴ・グロール(ボーカル&ギター)は
「For FUJI!」
を合言葉にこの日だからこその特別なものを次々に見せてくれる。(自分は見れなかったが、アラニス・モリセットともコラボしたらしい)
そんな中でも次々に放たれるキラーチューンの連打による連打での大合唱。自分の近くに海外の方も何人もいたのだが、そんな人たちが夢中になって大合唱しているのを見ていたら、例えば自分が海外に転勤になったとして、そこに好きな日本のバンドがライブしに来てくれたらめちゃくちゃ嬉しいよなと思ったりしていた。だからこそ、日々日本で生活している海外から来た人のためにもこのフェスは本当に大きな役割を果たしているんだなと感慨深い気持ちになったりした。
それは特に本編ラストの「Best Of You」の大合唱から感じられたものだったのだが、元々はNirvanaでカート・コバーンを失った喪失から始まったこのバンドが、スーパードラマーであるデイヴがボーカルとなり、自身の後ろを任せたドラマーのテイラー・ホーキンスが亡くなったばかりという喪失を経験したばかりだというのに、デイヴもメンバーも本当に楽しそうだった。その姿からはバンドを続けるということという根源的なものを感じざるを得なかった。それはどんなに深い悲しみがあったとしても、音楽があれば前に進めるというような。新しいドラマーがもうずっと一緒にこのバンドをやってきたかのようにグルーヴが合致しているのもその思いを分かち合っているからなのだろうし、そんなドラマーを真上からドラムセットの全景がちゃんと見えるように撮影してスクリーンに映し出されるというあたりにこのフェスのこのバンドへの深いリスペクトが伝わってくる。
何よりも世界のロックレジェンドであるデイヴが日本のフェス、日本のファンのためにあらゆる手法を使って自分たちの魂を燃やし尽くすようなライブを見せてくれているというのが本当に嬉しかったし、その心意気に何よりも感動していた。レジェンドにはレジェンドたる所以がちゃんとあるんだなということをデイヴは、FOO FIGHTERSは自分に示してくれたのであった。
朝までフジロックは続くけれど、駐車場に帰るバスがなくなってしまうのでここまで。こんなに晴れるとは思わなかったが、いつかまた来た時にはフジロックらしい雨な天気を経験することになるのだろうか。でもKOTORIがWHITE STAGEやGREEN STAGEに出るんなら、またすぐにでもここに戻ってきたいと思った。さすがに朝まではもう起きてられないけれど、2年前とは違ってこうして参加できていることが本当に幸せに感じられるフジロックだった。
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