THE KEBABS 「THE KEBABS 熱熱」 @Spotify O-EAST 7/27
- 2023/07/28
- 19:16
こんなにもタイトル通りに暑い気候じゃなくてもいいのに、というくらいの猛暑日が続く毎日である。それはもしかしたらこのバンドのこのツアーが始まったからかもしれないというTHE KEBABSのツアー「熱熱」。a flood of circleもUNISON SQUARE GARDENも夏フェスなど稼働する中でのこのバンドのツアーはこの日のSpotify O-EASTがセミファイナルである。
開演時間の19時にはスタッフによる前説が行われると、そのあとすぐにステージが暗転して最初にステージに登場したのは鈴木浩之(ドラム)で、他のメンバーが現れる前にマイクに向かって朗読を始めたのはこのバンドの「サマバケ」の歌詞なのであるが、メロディがないのにコーラスの「Oh〜」というところまで口にするのがなんだかシュールというかもはや間抜けな感じすらするし、鈴木があまりに棒読みすぎてソールドアウトで満員の客席からは失笑すら起こると、新井弘毅(ギター)が大きなシェイカーを振り、田淵智也(ベース)がコーラスをし…という形でメンバーが1人ずつ加わると、最後に佐々木亮介(ボーカル&ギター)がサングラスをかけて登場。もちろんa flood of circleの時とは違って革ジャンではなくてシャツを着ているのであるが、その亮介がそのまま歌う「サマバケ」はあまりに暑すぎる今の季節にピッタリな曲であるが、THE KEBABSのファン層的にはまだサマバケを取得していない人が大多数だろうと思われる。それでもわざわざ鈴木が朗読したコーラスパートでは大合唱が起こるというあたりは、フラッドでもユニゾンでもなく、ここにいた観客たちがTHE KEBABSを待っていたということがわかる。
そんなフラッド、ユニゾンなどの活動に加えてこのバンドでこうしてツアーを回っているというメンバーの忙しさをそのまま歌っているかのようという意味ではビートルズ「ヘルプ!」のような曲にすら感じられる「THE KEBABSは忙しい」ではサビでは軽快な四つ打ちのリズムを刻んでいた鈴木が間奏で激しいドラムソロを叩き、朗読よりもこちらが本業であるということを見せつけてくれる。亮介も歌詞を自在に変えたりしながら歌うあたりはこのバンドの自由さを早くも感じさせてくれる曲である。
そんなこのバンドのカッコ良さをストレートなギターロックサウンドで感じさせてくれる「Cocktail Party Anthem」はこのメンバーがこうして楽しそうに演奏しているからこそ、観客もみんな腕を挙げて笑顔でステージを見ているという光景を作り出せる曲であるが、亮介がギターを置いてハンドマイクになると、片手にアルコールの缶を持って高らかに歌い上げる「ジャキジャキハート」では亮介がマイクスタンドを掴んで高くジャンプしたり、その缶を演奏している田淵と新井の頭の上に乗せるようにしたりという自由っぷりを見せる。ユニゾンでは見れない田淵のボーカルも上手くなっているというか(田淵は実は元々歌も上手い)、より感情を込める歌い方になってきている。それは間違いなくこのバンドでこうしてツアーを回ってきたからこそ得てきたものである。
「悪魔が呼んでいる 取引き持ち掛ける」
というフレーズもタイトルも某超人気漫画から着想を得ているであろうだけに、そのタイアップにならなかったのが残念でならない「チェンソーだ!」から亮介も田淵も新井もステージ上を激しく動き回る「てんとう虫の夏」という流れはシンプルかつストレートでありながらもこのバンドならではのダンスチューンの連発と言えるゾーンだ。
「シンセサイザー」
とサビで歌いながらもシンセサイザーを一切使わないあたりはギターのみで曲を成立させる新井の技術あってこそであるが、鈴木のパーカッシブなビートや田淵のコーラスもまたこの曲のダンサブルな部分を担っていると言えるだろう。何よりここまで全く曲間もMCもなしというライブのスピード感が凄まじく、一瞬で過ぎ去っていくというのはまさに夏そのものである。
亮介が再びギターを持って弾きながら歌う「かわかわ」はそのタイトル通りにどこかほんわかとしたサウンドやメロディのポップな曲なのであるが、亮介は曲中に新井の方を指差して
「14日間で12本ライブやってる」
と歌詞を変えて新井のかわかわっぷりを観客に伝えるのであるが、そのスケジュールの凄まじさはかわかわというよりもむしろストイック極まりない。むしろかわかわなのはその新井の頭に自身がかけていたサングラスをかけて、サビの最後に
「ずっきゅん」
と歌う亮介の方である。
そんなかわかわな亮介がメンバーや観客に
「メリージェーン?」
と問いかけるのもまたかわかわな「メリージェーン知らない」はサビで一気に爆発するかのような展開が観客を最高にぶち上げてくれるロックンロールチューンであるし、田淵がベースを抱えたままで飛び跳ねまくる姿もそうである。つまりは
「ライブ終わったら盛大にハイネケン飲む」
という亮介の歌詞を変えた歌唱の通りに気分が良くなるものであるのだが、すでにライブ中にこのO-EASTのビールメニューであるハイネケンを飲んでいた人もたくさんいたはずであるし、最後のサビ前のブレイクでギターを鳴らしながら
「ここでめちゃくちゃ良いこと言いそうな雰囲気だけど言わない〜。何にもない〜。そんなバンドに付き合ってくれてありがとう〜」
というあたりはさすが亮介であり、さすがTHE KEBABSである。
そんなロックンロールパーティーから一転して、田淵によるベースのイントロが切なさを感じさせるのはストレート過ぎるくらいにストレートな、中日ドラゴンズの高橋宏斗のストレートのようなサビの歌詞によるラブソング「ラビュラ」であり、田淵によるサビの歌唱も実に沁みるものであるのだが、それ以上に亮介による
「今年の夏は海にも行けるぜ!山にも登ろうぜ!自由にやろうぜ!」
という叫びはつい2年前まではそうした夏の楽しみ方すらも制限されていたことを思い出さざるを得ないし、だからこそ観客も声を上げて応えるのである。去年の夏フェスの象徴とも言えるロッキンで聴いたこの曲が本当に最高に沁みたことを今でも思い出す。
するとこの中盤で、普段のライブでは最初や最後に演奏されることの多い「THE KEBABSのテーマ」が演奏され、もちろん
「いかしたやつら」
の合唱が響き渡りながら、亮介は唯一の喫煙者である鈴木のことをいじるようにして歌うのであるが、曲終わりには亮介がなんと袖から簡易的なバズーカを持ってきて、客席に向かって銀テープを発射する。こんなことができるロックバンドもそうそういないだろうというか、このバンド以外の場での亮介や田淵からしたら絶対にNGなことすらもOKになるのがTHE KEBABSというバンドであり、そのライブなのである。
その銀テープを発射したことを、
亮介「なんで日本人ってこんなに銀テープ好きなんだろうね?aikoさんみたいな銀テープやりたいなと思ったら「15万円かかる」って言われたんで(笑)、ドンキで買ってきた(笑)」
と、まさかの着想がaikoのライブだったことが明かされるのであるが、田淵も15万円が驚くくらいに高額であることに対して亮介が
「ソニーってそんなに給料安いんですか?(笑)」
と言う一幕も。確かに大ヒット曲(ユニゾンの最新アルバムはオリコン1位!)を連発している田淵からすれば15万円は高くないんじゃないかとも思うのであるが、そこはやはり庶民感覚を忘れない田淵だからこそ、ユニゾンの活動などで我々の目線に合わせた施策を行うことができるんだろうなとも思う。
そんな数少ないMCはツアーの仙台で喋りすぎたということによって少し短めに切り上げていた感もあったのだが、その後に演奏された新曲はタイトル通りにときめくようなポップさを持った「ときめき肉まんパーティ」であり、このバンドの、というか亮介と田淵という稀代のメロディメーカーにしてロックンローラー2人が揃っていることによるキャッチーさ、ポップさをも感じさせてくれる新曲である。
そのポップさはイントロで田淵と新井が向き合うようにして音を鳴らし、間奏では新井と鈴木が向き合ってリズムに合わせるように頭を曲げるという地味ながらも見ていて楽しい光景が繰り広げられる「ピアノのある部屋で」もそうであるのだが、
「何気ない今日こそ楽しい」
というフレーズはシンプルでありながらも真理そのものであり、こうした日のことを一言で言い当てているかのようだ。新井のギターソロも激烈にキャッチーであり、そこには14日間で12本目というライブの疲れは全く感じられない。
その新井がギターをカッティングすることによって亮介が体を揺らしながら歌い、ステージ上のミラーボールも光る「ジャンケンはグー」はこのバンドならではのファンキーなグルーヴによるダンスチューン(亮介の持つ音楽性の一つでもある)であり、間奏で亮介と田淵が向かい合ってジャンケンをするかのような仕草もこの2人の仲の良さが伝わってくるものである。このバンドだけは絶対に音楽性の違いとかで揉めたりしないことがわかるくらいに自由かつ楽しい空気感を醸し出しているような。
そんな空気をさらに強くするのは今年初旬にリリースされた「幸せにしてくれいーぴー」収録の、もはや「バイタミン」とタイトルを言いたいだけかのような、詮索することすら無駄に思えるくらいに歌詞に意味のない「ゴールデンキウイ」であるのだが、そのタイトルに合わせたような黄色と緑が混じったような色合いの照明がメンバーを照らすのを見ると、そこに何らかの意味があるように感じられてくるのも実に不思議である。と思っていたら亮介はステージから飛び降りて客席最前列の観客の前を歩きながら歌っているというのはやはりこのバンドの持つ自由な空気感を感じさせる。
その自由っぷりはさらなる新曲「あつあつ肉まんパーティ」という「ときめき〜」とともに、自分がこのバンドのスタッフだったら本当にこのタイトルで行くんですか?と確認してしまいそうな曲へと続く。こちらもタイトル通りにあつあつなロックンロールサウンドの曲なのであるが、あまりにも「肉まん」という単語が連呼されることによって、大阪に行って551の豚まんを食べたくなってしまうという実に罪深い曲でもある。つまりは空腹感を増すとともに、THE KEBABSがどんなテーマでも曲にすることができるという凄まじい想像力を持つバンドであることも改めて示してくれる。
そんな熱熱な新曲を演奏した後に亮介は少しシリアスな感じでギターを鳴らしながら、
「プリンは取っておくよ」
と言ってから演奏されたのは、今の年齢にしてこんなに学生時代の真っ只中にいるかのような歌詞が書けるのは何故なんだろうなと思うような「ともだちのうた」であり、亮介の歌唱に田淵の強めのコーラスが重なるサビの
「元気でいてくれ」
のフレーズはやはり胸に沁みるところがある。それはモチーフこそ学生生活のことであるが、そのフレーズが我々観客に向けても歌われるように聞こえるからだ。こうしてTHE KEBABSのライブを見ることができれば元気になれるし、やはりそのメロディの美しさはTHE KEBABSの大きな武器だと思う。
それは同じく「幸せにしてくれいーぴー」収録の「常勝アミーゴ」の、亮介が右腕を高く挙げながら歌う姿から引き出されるメロディの突き抜けっぷりもそうであり、その姿に応えるようにたくさんの観客も腕を挙げている姿はまさに
「俺たち負け知らず 常勝 常勝 常勝」
というフレーズそのものだ。そこに「アミーゴ」という単語が加わることによって、それはバンドだけではなくて我々の曲、感覚にもなっていくのである。
そしてAメロでのザクザクした演奏とステージ左右まで歩いていきながら歌う亮介の歌唱がサビでは飛び跳ねるようなリズムになり、田淵はまさにぴょんぴょん飛び跳ねながら演奏している「恐竜あらわる」はストレートなだけではないこのバンドのロックンロールさを示すと、イントロの時点ですでに勇壮なコーラスフレーズが響く「ロバート・デ・ニーロ」ではついに亮介がステージを降りてモーゼの十戒のごとくに自身が突き進む道を開けると、客席のかなり後方の柵の上に立って拳を突き上げながら歌って観客も含めて大合唱が起こるのであるが、その合唱フレーズが
「ロバート・デ・ニーロの袖のボタン」
という意味が一切わからないものであるのはこのバンドの曲やライブの最もシュールなポイントと言えるだろう。
そんなライブの最後は亮介がステージに戻ってきての
「俺たちを抱きしめてくれ!幸せにしてくれ!」
と言って演奏された「THE KEBABSを抱きしめて」。新井のイントロのフレーズが夏に聴くからこそよりトロピカルに響く中、
「最終列車が来る前に
離れ離れになっちまう前に
俺たちのことを幸せにしてくれ」
というサビでの亮介と田淵の歌唱に合わせて観客が腕を振り上げて飛び跳ねまくる。それはこの曲の持つメロディなどの力が自然にそうさせていると言える。そんなロックンロールの快楽性や衝動によって、バンドも我々も幸せになることができるということをTHE KEBABSは示してくれている。
割とすぐに出てきたアンコールでは亮介と田淵が緑茶割りの缶を持って開封して2人で乾杯しながら、
亮介「宝焼酎から依頼来たらすぐに曲書けますよね。それか好きすぎるから敢えて書かないか(笑)」
田淵「もうWikipedia見てるだけで曲書けるもん(笑)」
亮介「Wikipediaってなんかリズムありますもんね(笑)」
と、行き着くところまで行くとその境地に達するのかと思わざるを得ない会話が繰り広げられ、
亮介「まだツアーファイナルの福岡が残ってるけど、それ以降の予定がないんだよな。だからここで次のツアータイトル決めちゃう?やらざるを得ないように(笑)なんか漢字二文字で候補ある人いる?」
観客「素数!」
亮介「THE KEBABS ツアー「素数」ってめちゃいいね(笑)割り切れない感じが(笑)
ちょっと頭良さそうな感じもするけど、そんな君たちに捧げます。猿でもできる(笑)」
と見事過ぎるくらいに見事に曲に繋げた「猿でもできる」は亮介の
「踊れるやついるか」
のフレーズに最も応えるようにしているのは新井と田淵の演奏している姿なのであるが、まさにタイトル通りに何にも考えられなくても楽しむことができるというロックンロールの衝動が爆発しているような曲である。
そんな曲の後に演奏されたのが田淵のthe pillowsへの愛情が美メロロックンロールとして昇華された「枕を変えたら眠れない」であるのだが、間奏からサビにかけて田淵側のマイクに亮介、新井、田淵の3人が集まって1本のマイクで歌うというのは、たまに2人でならやるバンド(最近ならgo!go!vanillasとかハルカミライとか)ならいるが、まさか3人で1つのマイクとは、と思ってしまうのであるが、それもなんだか狙ってそうしているというよりは楽しくて仕方がなくてそうなってしまっているかのような。それが伝わってくるからこそ、もう終わりが近づいているのがわかるこのライブがまだまだ終わらないでくれと思うのである。
その「枕を〜」は実にエンディングテーマにふさわしい選曲であり光景だったのであるが、亮介が
「おまけ〜」
と言って演奏された「THE KEBABSがやってくる」はもうそのタイトルフレーズを繰り返すだけでこんなにもキャッチーなものになるということを示すものであるのだが、そのタイトルの通りに必ずまたTHE KEBABSは我々の前にやってくると思った。こんなに楽しくて仕方がないライブをやるバンドが大人しく今年ライブがないままというわけにはいかないだろうから。
a flood of circleもUNISON SQUARE GARDENも、あるいは新井がバンマスであるWurtSや渋谷すばるのワンマンも始まったら一瞬で終わってしまうけれど、THE KEBABSのライブはそのバンド、アーティストたちのライブよりもはるかに一瞬で終わる。(この日もこの曲数やって2時間も経ってないはず)
それは曲間もなければ曲自体も短いということもあるが、フラッドもユニゾンもシーンの中において自分たちのやりたいことや伝えたいことをやるにはどうすればいいのかということを考えた上で曲を作りライブをやっているのに対して、THE KEBABSにはそれをバンド側も我々観客も考えなくていいからだ。頭を空っぽにして楽しめるロックンロールだからこそ、いつも以上にさらに一瞬で時間が過ぎていく。それがこんなにも楽しいことであることを示してくれるTHE KEBABSはやはりもはや亮介と田淵のセカンドバンドではなくて、このメンバーだからこそ鳴らすことができる最高に楽しいだけのロックンロールだ。それができるバンドは実はほとんどいないからこそ、やっぱりTHE KEBABSを抱きしめていたい。
1.サマバケ
2.THE KEBABSは忙しい
3.Cocktail Party Anthem
4.ジャキジャキハート
5.チェンソーだ!
6.てんとう虫の夏
7.かわかわ
8.メリージェーン知らない
9.ラビュラ
10.THE KEBABSのテーマ
11.ときめき肉まんパーティ
12.ピアノのある部屋で
13.ジャンケンはグー
14.ゴールデンキウイ
15.あつあつ肉まんパーティ
16.ともだちのうた
17.常勝アミーゴ
18.恐竜あらわる
19.ロバート・デ・ニーロ
20.THE KEBABSを抱きしめて
encore
21.猿でもできる
22.枕を変えたら眠れない
23.THE KEBABSがやってくる
開演時間の19時にはスタッフによる前説が行われると、そのあとすぐにステージが暗転して最初にステージに登場したのは鈴木浩之(ドラム)で、他のメンバーが現れる前にマイクに向かって朗読を始めたのはこのバンドの「サマバケ」の歌詞なのであるが、メロディがないのにコーラスの「Oh〜」というところまで口にするのがなんだかシュールというかもはや間抜けな感じすらするし、鈴木があまりに棒読みすぎてソールドアウトで満員の客席からは失笑すら起こると、新井弘毅(ギター)が大きなシェイカーを振り、田淵智也(ベース)がコーラスをし…という形でメンバーが1人ずつ加わると、最後に佐々木亮介(ボーカル&ギター)がサングラスをかけて登場。もちろんa flood of circleの時とは違って革ジャンではなくてシャツを着ているのであるが、その亮介がそのまま歌う「サマバケ」はあまりに暑すぎる今の季節にピッタリな曲であるが、THE KEBABSのファン層的にはまだサマバケを取得していない人が大多数だろうと思われる。それでもわざわざ鈴木が朗読したコーラスパートでは大合唱が起こるというあたりは、フラッドでもユニゾンでもなく、ここにいた観客たちがTHE KEBABSを待っていたということがわかる。
そんなフラッド、ユニゾンなどの活動に加えてこのバンドでこうしてツアーを回っているというメンバーの忙しさをそのまま歌っているかのようという意味ではビートルズ「ヘルプ!」のような曲にすら感じられる「THE KEBABSは忙しい」ではサビでは軽快な四つ打ちのリズムを刻んでいた鈴木が間奏で激しいドラムソロを叩き、朗読よりもこちらが本業であるということを見せつけてくれる。亮介も歌詞を自在に変えたりしながら歌うあたりはこのバンドの自由さを早くも感じさせてくれる曲である。
そんなこのバンドのカッコ良さをストレートなギターロックサウンドで感じさせてくれる「Cocktail Party Anthem」はこのメンバーがこうして楽しそうに演奏しているからこそ、観客もみんな腕を挙げて笑顔でステージを見ているという光景を作り出せる曲であるが、亮介がギターを置いてハンドマイクになると、片手にアルコールの缶を持って高らかに歌い上げる「ジャキジャキハート」では亮介がマイクスタンドを掴んで高くジャンプしたり、その缶を演奏している田淵と新井の頭の上に乗せるようにしたりという自由っぷりを見せる。ユニゾンでは見れない田淵のボーカルも上手くなっているというか(田淵は実は元々歌も上手い)、より感情を込める歌い方になってきている。それは間違いなくこのバンドでこうしてツアーを回ってきたからこそ得てきたものである。
「悪魔が呼んでいる 取引き持ち掛ける」
というフレーズもタイトルも某超人気漫画から着想を得ているであろうだけに、そのタイアップにならなかったのが残念でならない「チェンソーだ!」から亮介も田淵も新井もステージ上を激しく動き回る「てんとう虫の夏」という流れはシンプルかつストレートでありながらもこのバンドならではのダンスチューンの連発と言えるゾーンだ。
「シンセサイザー」
とサビで歌いながらもシンセサイザーを一切使わないあたりはギターのみで曲を成立させる新井の技術あってこそであるが、鈴木のパーカッシブなビートや田淵のコーラスもまたこの曲のダンサブルな部分を担っていると言えるだろう。何よりここまで全く曲間もMCもなしというライブのスピード感が凄まじく、一瞬で過ぎ去っていくというのはまさに夏そのものである。
亮介が再びギターを持って弾きながら歌う「かわかわ」はそのタイトル通りにどこかほんわかとしたサウンドやメロディのポップな曲なのであるが、亮介は曲中に新井の方を指差して
「14日間で12本ライブやってる」
と歌詞を変えて新井のかわかわっぷりを観客に伝えるのであるが、そのスケジュールの凄まじさはかわかわというよりもむしろストイック極まりない。むしろかわかわなのはその新井の頭に自身がかけていたサングラスをかけて、サビの最後に
「ずっきゅん」
と歌う亮介の方である。
そんなかわかわな亮介がメンバーや観客に
「メリージェーン?」
と問いかけるのもまたかわかわな「メリージェーン知らない」はサビで一気に爆発するかのような展開が観客を最高にぶち上げてくれるロックンロールチューンであるし、田淵がベースを抱えたままで飛び跳ねまくる姿もそうである。つまりは
「ライブ終わったら盛大にハイネケン飲む」
という亮介の歌詞を変えた歌唱の通りに気分が良くなるものであるのだが、すでにライブ中にこのO-EASTのビールメニューであるハイネケンを飲んでいた人もたくさんいたはずであるし、最後のサビ前のブレイクでギターを鳴らしながら
「ここでめちゃくちゃ良いこと言いそうな雰囲気だけど言わない〜。何にもない〜。そんなバンドに付き合ってくれてありがとう〜」
というあたりはさすが亮介であり、さすがTHE KEBABSである。
そんなロックンロールパーティーから一転して、田淵によるベースのイントロが切なさを感じさせるのはストレート過ぎるくらいにストレートな、中日ドラゴンズの高橋宏斗のストレートのようなサビの歌詞によるラブソング「ラビュラ」であり、田淵によるサビの歌唱も実に沁みるものであるのだが、それ以上に亮介による
「今年の夏は海にも行けるぜ!山にも登ろうぜ!自由にやろうぜ!」
という叫びはつい2年前まではそうした夏の楽しみ方すらも制限されていたことを思い出さざるを得ないし、だからこそ観客も声を上げて応えるのである。去年の夏フェスの象徴とも言えるロッキンで聴いたこの曲が本当に最高に沁みたことを今でも思い出す。
するとこの中盤で、普段のライブでは最初や最後に演奏されることの多い「THE KEBABSのテーマ」が演奏され、もちろん
「いかしたやつら」
の合唱が響き渡りながら、亮介は唯一の喫煙者である鈴木のことをいじるようにして歌うのであるが、曲終わりには亮介がなんと袖から簡易的なバズーカを持ってきて、客席に向かって銀テープを発射する。こんなことができるロックバンドもそうそういないだろうというか、このバンド以外の場での亮介や田淵からしたら絶対にNGなことすらもOKになるのがTHE KEBABSというバンドであり、そのライブなのである。
その銀テープを発射したことを、
亮介「なんで日本人ってこんなに銀テープ好きなんだろうね?aikoさんみたいな銀テープやりたいなと思ったら「15万円かかる」って言われたんで(笑)、ドンキで買ってきた(笑)」
と、まさかの着想がaikoのライブだったことが明かされるのであるが、田淵も15万円が驚くくらいに高額であることに対して亮介が
「ソニーってそんなに給料安いんですか?(笑)」
と言う一幕も。確かに大ヒット曲(ユニゾンの最新アルバムはオリコン1位!)を連発している田淵からすれば15万円は高くないんじゃないかとも思うのであるが、そこはやはり庶民感覚を忘れない田淵だからこそ、ユニゾンの活動などで我々の目線に合わせた施策を行うことができるんだろうなとも思う。
そんな数少ないMCはツアーの仙台で喋りすぎたということによって少し短めに切り上げていた感もあったのだが、その後に演奏された新曲はタイトル通りにときめくようなポップさを持った「ときめき肉まんパーティ」であり、このバンドの、というか亮介と田淵という稀代のメロディメーカーにしてロックンローラー2人が揃っていることによるキャッチーさ、ポップさをも感じさせてくれる新曲である。
そのポップさはイントロで田淵と新井が向き合うようにして音を鳴らし、間奏では新井と鈴木が向き合ってリズムに合わせるように頭を曲げるという地味ながらも見ていて楽しい光景が繰り広げられる「ピアノのある部屋で」もそうであるのだが、
「何気ない今日こそ楽しい」
というフレーズはシンプルでありながらも真理そのものであり、こうした日のことを一言で言い当てているかのようだ。新井のギターソロも激烈にキャッチーであり、そこには14日間で12本目というライブの疲れは全く感じられない。
その新井がギターをカッティングすることによって亮介が体を揺らしながら歌い、ステージ上のミラーボールも光る「ジャンケンはグー」はこのバンドならではのファンキーなグルーヴによるダンスチューン(亮介の持つ音楽性の一つでもある)であり、間奏で亮介と田淵が向かい合ってジャンケンをするかのような仕草もこの2人の仲の良さが伝わってくるものである。このバンドだけは絶対に音楽性の違いとかで揉めたりしないことがわかるくらいに自由かつ楽しい空気感を醸し出しているような。
そんな空気をさらに強くするのは今年初旬にリリースされた「幸せにしてくれいーぴー」収録の、もはや「バイタミン」とタイトルを言いたいだけかのような、詮索することすら無駄に思えるくらいに歌詞に意味のない「ゴールデンキウイ」であるのだが、そのタイトルに合わせたような黄色と緑が混じったような色合いの照明がメンバーを照らすのを見ると、そこに何らかの意味があるように感じられてくるのも実に不思議である。と思っていたら亮介はステージから飛び降りて客席最前列の観客の前を歩きながら歌っているというのはやはりこのバンドの持つ自由な空気感を感じさせる。
その自由っぷりはさらなる新曲「あつあつ肉まんパーティ」という「ときめき〜」とともに、自分がこのバンドのスタッフだったら本当にこのタイトルで行くんですか?と確認してしまいそうな曲へと続く。こちらもタイトル通りにあつあつなロックンロールサウンドの曲なのであるが、あまりにも「肉まん」という単語が連呼されることによって、大阪に行って551の豚まんを食べたくなってしまうという実に罪深い曲でもある。つまりは空腹感を増すとともに、THE KEBABSがどんなテーマでも曲にすることができるという凄まじい想像力を持つバンドであることも改めて示してくれる。
そんな熱熱な新曲を演奏した後に亮介は少しシリアスな感じでギターを鳴らしながら、
「プリンは取っておくよ」
と言ってから演奏されたのは、今の年齢にしてこんなに学生時代の真っ只中にいるかのような歌詞が書けるのは何故なんだろうなと思うような「ともだちのうた」であり、亮介の歌唱に田淵の強めのコーラスが重なるサビの
「元気でいてくれ」
のフレーズはやはり胸に沁みるところがある。それはモチーフこそ学生生活のことであるが、そのフレーズが我々観客に向けても歌われるように聞こえるからだ。こうしてTHE KEBABSのライブを見ることができれば元気になれるし、やはりそのメロディの美しさはTHE KEBABSの大きな武器だと思う。
それは同じく「幸せにしてくれいーぴー」収録の「常勝アミーゴ」の、亮介が右腕を高く挙げながら歌う姿から引き出されるメロディの突き抜けっぷりもそうであり、その姿に応えるようにたくさんの観客も腕を挙げている姿はまさに
「俺たち負け知らず 常勝 常勝 常勝」
というフレーズそのものだ。そこに「アミーゴ」という単語が加わることによって、それはバンドだけではなくて我々の曲、感覚にもなっていくのである。
そしてAメロでのザクザクした演奏とステージ左右まで歩いていきながら歌う亮介の歌唱がサビでは飛び跳ねるようなリズムになり、田淵はまさにぴょんぴょん飛び跳ねながら演奏している「恐竜あらわる」はストレートなだけではないこのバンドのロックンロールさを示すと、イントロの時点ですでに勇壮なコーラスフレーズが響く「ロバート・デ・ニーロ」ではついに亮介がステージを降りてモーゼの十戒のごとくに自身が突き進む道を開けると、客席のかなり後方の柵の上に立って拳を突き上げながら歌って観客も含めて大合唱が起こるのであるが、その合唱フレーズが
「ロバート・デ・ニーロの袖のボタン」
という意味が一切わからないものであるのはこのバンドの曲やライブの最もシュールなポイントと言えるだろう。
そんなライブの最後は亮介がステージに戻ってきての
「俺たちを抱きしめてくれ!幸せにしてくれ!」
と言って演奏された「THE KEBABSを抱きしめて」。新井のイントロのフレーズが夏に聴くからこそよりトロピカルに響く中、
「最終列車が来る前に
離れ離れになっちまう前に
俺たちのことを幸せにしてくれ」
というサビでの亮介と田淵の歌唱に合わせて観客が腕を振り上げて飛び跳ねまくる。それはこの曲の持つメロディなどの力が自然にそうさせていると言える。そんなロックンロールの快楽性や衝動によって、バンドも我々も幸せになることができるということをTHE KEBABSは示してくれている。
割とすぐに出てきたアンコールでは亮介と田淵が緑茶割りの缶を持って開封して2人で乾杯しながら、
亮介「宝焼酎から依頼来たらすぐに曲書けますよね。それか好きすぎるから敢えて書かないか(笑)」
田淵「もうWikipedia見てるだけで曲書けるもん(笑)」
亮介「Wikipediaってなんかリズムありますもんね(笑)」
と、行き着くところまで行くとその境地に達するのかと思わざるを得ない会話が繰り広げられ、
亮介「まだツアーファイナルの福岡が残ってるけど、それ以降の予定がないんだよな。だからここで次のツアータイトル決めちゃう?やらざるを得ないように(笑)なんか漢字二文字で候補ある人いる?」
観客「素数!」
亮介「THE KEBABS ツアー「素数」ってめちゃいいね(笑)割り切れない感じが(笑)
ちょっと頭良さそうな感じもするけど、そんな君たちに捧げます。猿でもできる(笑)」
と見事過ぎるくらいに見事に曲に繋げた「猿でもできる」は亮介の
「踊れるやついるか」
のフレーズに最も応えるようにしているのは新井と田淵の演奏している姿なのであるが、まさにタイトル通りに何にも考えられなくても楽しむことができるというロックンロールの衝動が爆発しているような曲である。
そんな曲の後に演奏されたのが田淵のthe pillowsへの愛情が美メロロックンロールとして昇華された「枕を変えたら眠れない」であるのだが、間奏からサビにかけて田淵側のマイクに亮介、新井、田淵の3人が集まって1本のマイクで歌うというのは、たまに2人でならやるバンド(最近ならgo!go!vanillasとかハルカミライとか)ならいるが、まさか3人で1つのマイクとは、と思ってしまうのであるが、それもなんだか狙ってそうしているというよりは楽しくて仕方がなくてそうなってしまっているかのような。それが伝わってくるからこそ、もう終わりが近づいているのがわかるこのライブがまだまだ終わらないでくれと思うのである。
その「枕を〜」は実にエンディングテーマにふさわしい選曲であり光景だったのであるが、亮介が
「おまけ〜」
と言って演奏された「THE KEBABSがやってくる」はもうそのタイトルフレーズを繰り返すだけでこんなにもキャッチーなものになるということを示すものであるのだが、そのタイトルの通りに必ずまたTHE KEBABSは我々の前にやってくると思った。こんなに楽しくて仕方がないライブをやるバンドが大人しく今年ライブがないままというわけにはいかないだろうから。
a flood of circleもUNISON SQUARE GARDENも、あるいは新井がバンマスであるWurtSや渋谷すばるのワンマンも始まったら一瞬で終わってしまうけれど、THE KEBABSのライブはそのバンド、アーティストたちのライブよりもはるかに一瞬で終わる。(この日もこの曲数やって2時間も経ってないはず)
それは曲間もなければ曲自体も短いということもあるが、フラッドもユニゾンもシーンの中において自分たちのやりたいことや伝えたいことをやるにはどうすればいいのかということを考えた上で曲を作りライブをやっているのに対して、THE KEBABSにはそれをバンド側も我々観客も考えなくていいからだ。頭を空っぽにして楽しめるロックンロールだからこそ、いつも以上にさらに一瞬で時間が過ぎていく。それがこんなにも楽しいことであることを示してくれるTHE KEBABSはやはりもはや亮介と田淵のセカンドバンドではなくて、このメンバーだからこそ鳴らすことができる最高に楽しいだけのロックンロールだ。それができるバンドは実はほとんどいないからこそ、やっぱりTHE KEBABSを抱きしめていたい。
1.サマバケ
2.THE KEBABSは忙しい
3.Cocktail Party Anthem
4.ジャキジャキハート
5.チェンソーだ!
6.てんとう虫の夏
7.かわかわ
8.メリージェーン知らない
9.ラビュラ
10.THE KEBABSのテーマ
11.ときめき肉まんパーティ
12.ピアノのある部屋で
13.ジャンケンはグー
14.ゴールデンキウイ
15.あつあつ肉まんパーティ
16.ともだちのうた
17.常勝アミーゴ
18.恐竜あらわる
19.ロバート・デ・ニーロ
20.THE KEBABSを抱きしめて
encore
21.猿でもできる
22.枕を変えたら眠れない
23.THE KEBABSがやってくる
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