ストレイテナー × 夜の本気ダンス -SHIBUYA CLUB QUATTRO 35TH ANNIV. "NEW VIEW"- @渋谷CLUB QUATTRO 7/19
- 2023/07/20
- 19:13
確か初めて行ったのはBase Ball Bearがまだ新人だった時に出演したスペシャ列伝の時。(一緒に出演していた、APOGEEやthe ARROWSのメンバーたちは今も元気だろうか)
そんな自分がライブに行き始めた時から営業を続けている渋谷CLUB QUATTROが35周年を迎えたことによる記念の対バンライブを多数開催。
この日はストレイテナーと夜の本気ダンスという、音楽性的にはあまり被らない感じもする2組であるが、敢えて共通点を挙げるならばベテランになってもあらゆるフェスやイベントに出演しまくっているバンド同士だと言えるだろうか。
・夜の本気ダンス
先月にこの渋谷のQUATTROでの2daysでツアーを締め括ったばかりの夜の本気ダンスが早くもこの場所に帰還。なので自分もまだその時のライブの記憶と楽しさがまだ色濃く残っている状態である。
おなじみの「ロシアのビッグマフ」のSEで西田一紀(ギター)を先頭にメンバーが登場して楽器を構えるとそのまま音を合わせるように演奏を始め、米田貴紀(ボーカル&ギター)が
「どうもこんばんは、僕たち京都のバンド、夜の本気ダンスです。クレイジーに踊ろうぜ!」
と挨拶し、その米田がイントロのリフを奏でる「Crazy Dancer」からスタートするのであるが、果たしてこの組み合わせ的に客層や盛り上がりはどんなもんだろうかと思っていたのだが、曲が始まると観客が一斉に前に押し寄せ、サビでは無数の腕が上がり、コーラス部分では声を上げる人もたくさんいるというのはアウェー感一切なし、なんなら先月のこのバンドのツアーの続きであるかのようですらあり、それはそうしたツアーを回ってきたことによってバンドのグルーヴが仕上がっているからだとも言えるだろう。
「ラブラブしようぜ!」
と米田が言って、アウトロではその米田と西田が飛び跳ねまくるのはキャッチーなメロディとダンスサウンドによる「LOVE CONNECTION」であるが、いい加減に何度も見てるんだから慣れろと言われてもアウトロで西田が高くジャンプする姿に慣れないのは、西田が長身痩躯の米田以上に(西田も背は高いけれど)高く跳んでいるからである。
「渋谷QUATTRO35周年!ストレイテナー25周年!夜の本気ダンス15周年!こんなに5が揃うのは今日ここだけ!だからゴーゴー!」
と鈴鹿秋斗(ドラム)がいつものように高いテンションで自分たちも含めてこの日にまつわる全てが周年であることを明かすと、米田の特徴的な粘り気のある声で歌う
「星に願う」
というフレーズが光が降り注ぐかのような真っ白な照明も相まって実にロマンチックなものとして響き映る「STARLET」から、アウトロと繋がるようなイントロが一転して不穏さを放つ「Movin'」ではもはやおなじみとなった鈴鹿のドラムを叩きながらのラップも炸裂するのであるが、そのラップだけではなくマイケル(ベース)とのうねりまくるようなグルーヴでこそ我々を踊らせてくれるのである。
すると米田がギターを下ろしてハンドマイクになって飛び跳ねまくると、観客もその姿に合わせるようにして飛び跳ねる「Ain't No Magic」へと曲間全くなしで繋がるという流れはワンマンでもおなじみのノンストップダンスミックス「本気ダンスタイム」が展開しているとも言えるし、それをこうして様々なサウンドやテンポの曲で構成してみせるのは本当にさすがだ。ワンマンではなくても自分たちの持ち味を最大限に発揮するような流れをしっかり作っているというような。
それは先日のワンマンでは演奏されていなかった高速四つ打ちダンスチューン「Take it back」へと繋がることによってより一層このバンドの凄さ、1本のライブにかける情熱や熱量を感じられるのであるが、この曲で再びギターを持った米田は歌い出しの最後に
「踊ろうぜ渋谷!」
と追加することによってさらに観客を踊らせまくるというあたりもさすがである。
「我々京都のバンドなんですけど、この間まで京都では祇園祭がやってて。人混みが凄くて家から一歩も出ないようにしてたんですけど、ライブがあった日だけ家を出ました(笑)
今日も人が凄いですけど、これは良い人混みですね(笑)」
というMC中に急に鈴鹿から話を振られた西田は鈴鹿が「人混み」と言ったことに対して
「彼がゴミと言ったことに対して謝罪いたします(笑)まぁ彼とは年に数回メールをする中ですので…(笑)」
とおなじみの飄々とした口調で言うので笑ってしまうのであるが、その西田の楽しそうな感じは実はメンバー全員がストレイテナーの大ファンだからということも明らかになり、特にマイケルはずっとテナーファンだったということを紹介され、今この瞬間が夢のような、現実とは思えないものであるという。それでも演奏からは緊張感を一切感じないあたりはさすがである。
そんなテナーへの愛を明らかにした後は米田が再びハンドマイクとなり、サビで腕を左右に動かす動きと真っ赤な照明も合わさって情熱的に我々を踊らせてくれる「VANDALIZE」からは音源としては最新作であるミニアルバム「armadillo」で取り入れた同期のサウンドがバンドのダンサブルなサウンドをまた違う方向から増強しているというのがコーラスも同期を使う(時には西田と鈴鹿もコーラスに参加しているが)「審美眼」ではワンマンの時も感じたように、こんなにも!?と思ってしまうくらいに観客が飛び跳ねまくる。そうせざるを得ないくらいに踊ることへの衝動をこのバンドの音楽が突き動かしてくれるということであり、だからこそこれから先に生み出す新たな音楽が楽しみになるのである。
そうして自分たちらしさを遺憾なく発揮しながらも、
鈴鹿「マイケルさんは本当に昔から「ひなっちさん」「ひなっちさん」ってずっと言ってましたからね。そのORANGEのアンプもひなっちさんに紹介してもらって買ったんですよね。高いもん買わされて(笑)」
マイケル「語弊がありすぎる(笑)
でも本当に昔からずっとストレイテナーが大好きで。10月には武道館ワンマンもありますからね!でもその日我々もライブがあるらしくて…有給休暇取れますかね?(笑)」
鈴鹿「武道館行ってひなっちさんの代わりにベース弾けばいいやん!(笑)そんでひなっちさんに俺らのライブでベース弾いてもらって(笑)」
と好きすぎて自分のライブを欠席してでも日本武道館ワンマンを観に行きたいくらいだという。ベースとしてのスタイルはマイケルはひなっちとはかなり違うように思えるが、それはリスペクトをしていながらもこのバンドでの自分の表現をしっかり確立しているということである。
そんなMCでの楽しさにもこのバンドの人間性が確かに現れているが、その穏やかな人間性がそのまま音、曲になっているのが、こちらもコーラス含めて同期の音も使いながらも、ゆったりと音に合わせて体を揺らすという踊り方の「Wall Flower」であり、一転して鈴鹿のドラムの強靭な一打一打と手数、さらには
「地獄の沙汰もリフ次第」
というサビでのキラーフレーズそのままに西田のギターリフによって踊らせまくる「Falling Down」と、改めて「armadillo」の曲たちのポテンシャルの高さと幅広さに驚かされるし、まるでそのリリースツアーであるかのようなセトリである。
しかしながらテナーに影響を受けているのはマイケルだけではなく、この日はここまでは口数少なめだった米田も
「「ROCK AND ROLL」っていうミニアルバムが出た時にCDと一緒にスコア、楽譜を買って弾いてみようと思ったんですけど、難しくてすぐに断念しました(笑)それでテナーができないからアジカンをやったんですけど……ただアジカンを弾いたっていうだけですからね?(笑)他意はないですからね(笑)」
とかつてテナーの曲をコピーしようとしていた経緯を語るのであるが、米田が弾けないくらいに難しい(当時だからというのももちろんあるけれど)というのがテナーの技術の高さを改めて感じさせてくれるエピソードである。
そんなテナーとの対バンのクライマックスはやはり「WHERE?」で観客を踊らせまくるのであるが、マイケルが最後のサビに入る前に
「踊れQUATTRO!」
と、あえて「渋谷」ではなくて(先月のワンマンの時は「渋谷」だった)「QUATTRO」と言ったあたりに35周年を迎えたこの会場へのマイケルなりのリスペクトを感じさせる。そうしたところにこそ人間性が滲み出ているし、このライブをQUATTROで見ているという特別感を感じさせて、この日の記憶がまた忘れられないこの場所の思い出になっていくのである。
そしてラストはマイケルがベースのみでメロディを弾き始めたことによって「あれ?こんなイントロの曲あったっけ?」と思っていたら、実はそれはストレイテナー「Melodic Storm」のイントロであり、マイケルのガチのテナーファンっぷりが改めて明らかになりながらテナーへのリスペクトを音でしっかり示すという素晴らしいパフォーマンスから、米田がハンドマイクになりイントロの狂騒的な同期のサウンドに合わせて誰よりも自由に踊り飛び跳ねまくることによって観客をもさらに自由に飛び跳ねさせる「GIVE & TAKE」はBメロでのリズムに合わせた手拍子というメリハリも含めて完全に今の夜ダン最強のキラーチューンと言っていいダンスアンセムと化している。それはワンマンでもそうだったが、対バンという夜ダンのファンの人以外もたくさんいる状況でその踊りまくる光景が見れるからこそよりそう思えるのであるが、
「終わりたくないな…。でも俺たちが終わらないとストレイテナーのライブ観れないもんな(笑)」
と米田が言っていたように、喜びや楽しさ、嬉しさというポジティブな感情とともにどこか終わってしまうことへの切なさがあるからこそより夢中になって踊れているかのようでもあった。
演奏後には鈴鹿がこの日の「5尽くし」の日を祝って真ん中のマイクで1本締めを行うのであるが、まだテナーのライブがあるのに一回締めるんかい、と心の中でツッコミを入れたくなるあたりが実に鈴鹿らしいというか夜ダンらしいというか、とにかくこの日も本当に楽しい、エビバディハッピーなライブだったということである。できるなら、マイケルも夜ダンとして日本武道館のステージに立つ、つまりは夜ダンの武道館ワンマンも見てみたいと、初めてホールで見てからずっと思っている。
1.Crazy Dancer
2.LOVE CONNECTION
3.STARLET
4.Movin'
5.Ain't No Magic
6.Take it back
7.VANDALIZE
8.審美眼
9.Wall Flower
10.Falling Down
11.WHERE?
12.GIVE & TAKE
・ストレイテナー
そんな夜の本気ダンスからのリスペクトと愛をもらいまくってのストレイテナー。なんやかんやで25周年を迎えてもこのQUATTROのキャパと距離感でライブを見れることが貴重に思えるくらいに今も最前線を走り続けているバンドである。
おなじみの「STNR Rock and Roll」のSEが流れてメンバー4人が登場すると、OJこと大山純(ギター)はハットを被り、ひなっちこと日向秀和(ベース)はサングラス着用で、鮮やかな金髪のナカヤマシンペイ(ドラム)がドラムセットの上に立って雄叫びを上げるようにして気合いを入れると、ホリエアツシ(ボーカル&ギター&キーボード)が挨拶し、シンペイがダンスビートを刻んでひなっちのエフェクティブかつゴリゴリなベースが絡み合い、早くも客席から歓声とともに「オイ!オイ!」と力強いコールが起こるのは「KILLER TUNE」。これは夜ダンとの対バンだからこそ1曲目からダンスチューンなんだろうかとも思うのだが、観客を煽るようにしてから間奏でベースソロを弾きまくる(ベースにはそぐわない言い方だがマジで弾きまくっている)ひなっちの姿に大歓声と拍手が起こる様はマイケルが憧れるのも本当によくわかるくらいにカッコいいし、その強力なリズム隊の力があるからこそやはりこうしてサビでこれだけ飛び跳ねまくることができるのである。
早くもホリエがキーボードに向かい合って、同期の音も使いながらもそのキーボードを弾きながら歌う「Braver」はテンポはゆったりめではありながらもやはりそのリズム隊の力強さによって他にないくらいにロックというイメージを感じざるを得ないし、それはコロナ禍真っ只中のライブでこの曲を聴いた時はこうしてライブに来る人=勇気がある人へ向けて演奏されているようだったこの曲のサビで手を挙げている人がたくさんいるからだろう。
するとシンペイの目を覚まさせる、意識を覚醒させるような力強いドラムの連打によって始まるのはメジャーデビュー期の大名盤「TITLE」収録の英語歌詞のギターロック曲「泳ぐ鳥」。もちろんホリエとOJの2本のギターが鳴ることによって今の4人のテナーでのサウンドになっているのは「TITLE」再現ライブ(時期的にリアルライブではできずにスタジオからの配信になった)もあって再びこの曲たちに向き合う時間もあったからだろうが、早くもこの曲が演奏されたことによって、ライブでどんなセトリになるのか全く予想がつかない(イベントで2日連続で見た時に総取っ替えされてることすらあった)テナーらしさは今でも健在ということである。
そんなシンペイの力強すぎるくらいに力強いドラムがテナーのロックさをさらに牽引するのは「宇宙の夜 二人の朝」であり、この曲からそうした溢れ出んばかりのロックさを感じるということがテナーのロックバンドっぷりが今も変わることがないということがないということであるし、実際にホリエとOJのザクザクと切り込んだりアルペジオでフレーズを奏でたりという姿と音もテナーがずっと変わらずにギターロックバンドであり続けているということである。
それはイントロからメンバー4人の放つ音が激しくぶつかり合いながらも調和していくような「シンデレラソング」もそうで、ハイトーンを思いっきり張り上げるようにして歌うホリエもそうだが、何よりも「オイ!オイ!」と声を上げながら、「cendrillion」と連呼するフレーズをメンバーとともに観客が大合唱する(ホリエもOJもその声を聞こうとする姿を見せていた)光景による熱狂は、声を出したりしなくても問題ないようにも感じたりもしていたテナーのライブがこうして規制がなくなったことによってその楽しさ、曲のポテンシャルをフルに発揮できるようになったということを感じさせてくれるし、それを実感できたことによってなんだか感動してしまったりしていた。
だからこそ曲間ではメンバーの名前を呼ぶ声が響きまくるのであるが、シンペイはそんな声に反応してか観客に手を振ったりしながら、ホリエはこのQUATTROを
「上京してきて、憧れていたバンドを最初に見たのがここだったから、ずっと夢の場所だった。割と早いうちにステージに立てるようになったけど(笑)、ここはストレイテナーにとって東京のホームだって思える場所で。いつやっても誰とやっても楽しいしね。
柱が邪魔だけど(笑)、あの柱を抜くのに何億円もかかるってQUATTROのYouTubeで古市コータローさん(THE COLLECTORS)、ウエノコウジ兄さん、GOING UNDER GROUNDの松本素生がくだらない話をしてるのを見た(笑)」
と、観客としても来ていた場所だからこそ我々の気持ちを代弁するかのように柱に言及して笑わせてくれると、
「渋谷なんで渋谷を通る道の歌を」
と言って演奏された「246」は2ヶ月前にリリースされた最新シングル曲であるが、その人生や旅の中で過ぎ去った光景を歌うというのは今のキャリアになったこと、様々なことを経験して見てきたことによって歌えるようになったものだろうし、だからこそ歌詞の説得力が抜群であり、聞いていて本当に胸に沁みるのである。そうしたテナーの姿を見ていると大人になってもカッコよくあり続けることもできるんだなと思う。
するとギターのカッティングのイントロが観客の体を揺らす「DONKEY BOOGIE DODO」ではホリエが恒例の
「僕らは歌い踊ろう 渋谷QUATTROで!」
とこの場所でしかないものに歌詞を変えてさらに観客を熱狂させるのであるが、その熱狂が曲中で最も極まるのがホリエが「オイ!」と叫んだ後の間奏部分というあたりが実にテナーのライブらしいなと思う。何よりも今目の前で鳴らしている音によって観客が熱狂しているという。
そんなあらゆるサウンドで踊らせたり体を揺らせたかと思ったら、ホリエが再びキーボードを弾きながら歌うバラード曲「さよならだけがおしえてくれた」のメロディの美しさにしんみりさせられる。ホリエの歌声はこうした曲でこそスッと心の中に入ってくるところがあるし、そこには今のこの4人の穏やかで楽しいおじさんたちの集まりというバンドの空気が染み込んでいるようにも思う。
そんなテナーは全国ツアーを終えたばかりであるのだが、ツアーが終わってもこうしたライブがあるからこそ気持ちが切れることがないし(このライブは1年以上前から決まっていたらしい。QUATTROの是が非でもこの2組を呼びたいというのが伝わってくる)、今週から怒涛の夏フェス期間がスタートしていくのであるが、
「25周年だからか今年は本当にいろんなフェスが呼んでくれて。もう呼ばれないんじゃないかと思ったフェスとかも呼んでくれて(笑)」
というのはどのフェスのことだろうか。今週末開催の若手バンドの見本市的な(だから1組の持ち時間が25分という短さ)MURO FESにまで今も出演するというのは本当に凄いし、そんなあらゆる今年の夏フェスの果てには武道館ワンマンが待っている。
そんなテナーの終えたばかりのツアーのタイトルになった新曲が「Silver Lining」であるのだが、同期のイントロが夜を表現しながら、曲が始まって演奏されるにつれて黄色い照明がステージを照らし出すのを含めて朝になっていく(歌詞にも「静かな朝」というフレーズがある)という時間の流れを1曲の中で描く曲であり、アウトロで再びイントロ同様に夜に戻っていくのであるが、それをエイトビートを軸としたロックサウンドでやっているというのが今のテナーのギターロックの革新性を感じさせてくれる。つまりは早く音源でも聴きたい曲であるということだ。
そしてまさに咽び泣き叫ぶようなOJのギターのイントロが鳴り響く「叫ぶ星」は同じシリーズのタイトルの「泳ぐ鳥」が演奏された日だからこそ、今もテナーが当時と変わらない衝動を持ったギターロックバンドであることを感じさせてくれるし、それはホリエが歌う背後でOJ、ひなっち、シンペイが集まるようにして目を合わせながら演奏する姿からも感じられる。かつては2人組バンドから始まったとは思えないくらいに、今のテナーはもう完全にこの4人でしかない。
それはイントロからして今も名曲確定でしかない「REMINDER」もそうであるが、記憶をテーマにした曲だからこそ、この曲はこれまでに何回ここで演奏されて、その時にどんな景色を描いてきたのだろうかと考えたりしてしまう。それはもちろんこの日の熱狂っぷりもまた次にこのQUATTROでテナーのライブを見る時には美しい記憶として残り続けていくはず。ひなっちが煽りまくるようにベースを弾く姿によって観客がさらに「オイ!オイ!」と声を上げる姿を見てそんなことを思っていた。
そしてまたいろんな場所での再会を約束してから最後に演奏されたのは今やテナー屈指の大名曲にして代表曲になった「シーグラス」。ホリエの歌唱とシンペイのドラムのリズムに合わせて手拍子も起こる中、ひなっちはその場でくるっと回るようにして笑顔を見せ、最後のサビ前にはOJと向かい合ってキメを合わせる。その光景を見ていたら、また今年も何回でも夏の野外フェスでこのバンドのライブを見てこの曲を聴いて、今年最後の海へ向かいたいと思ったし、それを何年でも続けていきたい。そうやって毎年の夏を過ごしていたい。ホリエの歌唱とバンドの演奏に宿るこの曲のエモーションはそんなことを思わせてくれる。それは我々聴き手にとってこの曲が人生の中において本当に大切な曲になっているということだ。
本編の演奏が終わった後にメンバーが肩を組んでからステージを去っていくというこのバンドのおなじみの姿を見ていた時、これは今日はアンコールはないんじゃないか?とも思ったのだが、メンバーが再びステージに現れるとやはりホリエが
「今日来るまで全然アンコールのことを考えてなかった(笑)」
と急遽のものであることを明かしながら、
「夜の本気ダンスに古のダンスナンバーを送ります」
と言って演奏されたのはなんと「POSTMODERN」という今となっては激レアな選曲で、今聴くとシンプルでありながらも変な曲だなとも感じるのであるが、それは米田が「ROCK AND ROLL」のスコアを買ったということを語っていたからこそ、その作品に収録されている中で最も夜ダンに似合うような曲を選んだんじゃないかと思う。それは難しすぎてコピー出来なかったあの日の米田少年に「この曲はこうやって演奏するんだ」と教えてあげているかのような。そうして自分たちのファンである夜ダンにとってこの日をさらに特別なものにしてくれるテナー先輩は本当に優しい。ひなっちのタンクトップ姿は見た目がいかつすぎるけれど、最後のキメが上手く合わずに少しグダって終わるというのも逆に本当に急遽この曲を演奏したということがわかる。それはこれからもテナーがいつどこでどんな曲を演奏するかわからないだけに、フェスなどでも決して見逃せないバンドであるということを示していた。
一時期からテナーはたまに「丸くなった」的な言われ方をすることも多くなった。確かに昔ならやらなかったであろうタイプのバラード曲やポップな曲も増えた。でもこの日のライブを見ているとやっぱりバンドの芯の部分は全く変わっていないのだと思える。それはテナーが今もライブハウスで目の前にいる観客を熱狂させるカッコいいロックバンドであるということ。
ライブが終わって客電が点いても歓声を上げ続けていた観客たちの興奮がそれをこれ以上ないくらいに示してくれていた。これまでに何度も素晴らしい景色を見せてくれた武道館で今回はどんな景色を見せてくれるのだろうか。
それを楽しみにしつつ、また5年後にQUATTROが40周年を迎えた時には30周年と20周年を迎えた両者の対バンを変わらないままで見ることができますように。
1.KILLER TUNE
2.Braver
3.泳ぐ鳥
4.宇宙の夜 二人の朝
5.シンデレラソング
6.246
7.DONKEY BOOGIE DODO
8.さよならだけがおしえてくれた
9.Silver Lining
10.叫ぶ星
11.REMINDER
12.シーグラス
encore
13.POSTMODERN
そんな自分がライブに行き始めた時から営業を続けている渋谷CLUB QUATTROが35周年を迎えたことによる記念の対バンライブを多数開催。
この日はストレイテナーと夜の本気ダンスという、音楽性的にはあまり被らない感じもする2組であるが、敢えて共通点を挙げるならばベテランになってもあらゆるフェスやイベントに出演しまくっているバンド同士だと言えるだろうか。
・夜の本気ダンス
先月にこの渋谷のQUATTROでの2daysでツアーを締め括ったばかりの夜の本気ダンスが早くもこの場所に帰還。なので自分もまだその時のライブの記憶と楽しさがまだ色濃く残っている状態である。
おなじみの「ロシアのビッグマフ」のSEで西田一紀(ギター)を先頭にメンバーが登場して楽器を構えるとそのまま音を合わせるように演奏を始め、米田貴紀(ボーカル&ギター)が
「どうもこんばんは、僕たち京都のバンド、夜の本気ダンスです。クレイジーに踊ろうぜ!」
と挨拶し、その米田がイントロのリフを奏でる「Crazy Dancer」からスタートするのであるが、果たしてこの組み合わせ的に客層や盛り上がりはどんなもんだろうかと思っていたのだが、曲が始まると観客が一斉に前に押し寄せ、サビでは無数の腕が上がり、コーラス部分では声を上げる人もたくさんいるというのはアウェー感一切なし、なんなら先月のこのバンドのツアーの続きであるかのようですらあり、それはそうしたツアーを回ってきたことによってバンドのグルーヴが仕上がっているからだとも言えるだろう。
「ラブラブしようぜ!」
と米田が言って、アウトロではその米田と西田が飛び跳ねまくるのはキャッチーなメロディとダンスサウンドによる「LOVE CONNECTION」であるが、いい加減に何度も見てるんだから慣れろと言われてもアウトロで西田が高くジャンプする姿に慣れないのは、西田が長身痩躯の米田以上に(西田も背は高いけれど)高く跳んでいるからである。
「渋谷QUATTRO35周年!ストレイテナー25周年!夜の本気ダンス15周年!こんなに5が揃うのは今日ここだけ!だからゴーゴー!」
と鈴鹿秋斗(ドラム)がいつものように高いテンションで自分たちも含めてこの日にまつわる全てが周年であることを明かすと、米田の特徴的な粘り気のある声で歌う
「星に願う」
というフレーズが光が降り注ぐかのような真っ白な照明も相まって実にロマンチックなものとして響き映る「STARLET」から、アウトロと繋がるようなイントロが一転して不穏さを放つ「Movin'」ではもはやおなじみとなった鈴鹿のドラムを叩きながらのラップも炸裂するのであるが、そのラップだけではなくマイケル(ベース)とのうねりまくるようなグルーヴでこそ我々を踊らせてくれるのである。
すると米田がギターを下ろしてハンドマイクになって飛び跳ねまくると、観客もその姿に合わせるようにして飛び跳ねる「Ain't No Magic」へと曲間全くなしで繋がるという流れはワンマンでもおなじみのノンストップダンスミックス「本気ダンスタイム」が展開しているとも言えるし、それをこうして様々なサウンドやテンポの曲で構成してみせるのは本当にさすがだ。ワンマンではなくても自分たちの持ち味を最大限に発揮するような流れをしっかり作っているというような。
それは先日のワンマンでは演奏されていなかった高速四つ打ちダンスチューン「Take it back」へと繋がることによってより一層このバンドの凄さ、1本のライブにかける情熱や熱量を感じられるのであるが、この曲で再びギターを持った米田は歌い出しの最後に
「踊ろうぜ渋谷!」
と追加することによってさらに観客を踊らせまくるというあたりもさすがである。
「我々京都のバンドなんですけど、この間まで京都では祇園祭がやってて。人混みが凄くて家から一歩も出ないようにしてたんですけど、ライブがあった日だけ家を出ました(笑)
今日も人が凄いですけど、これは良い人混みですね(笑)」
というMC中に急に鈴鹿から話を振られた西田は鈴鹿が「人混み」と言ったことに対して
「彼がゴミと言ったことに対して謝罪いたします(笑)まぁ彼とは年に数回メールをする中ですので…(笑)」
とおなじみの飄々とした口調で言うので笑ってしまうのであるが、その西田の楽しそうな感じは実はメンバー全員がストレイテナーの大ファンだからということも明らかになり、特にマイケルはずっとテナーファンだったということを紹介され、今この瞬間が夢のような、現実とは思えないものであるという。それでも演奏からは緊張感を一切感じないあたりはさすがである。
そんなテナーへの愛を明らかにした後は米田が再びハンドマイクとなり、サビで腕を左右に動かす動きと真っ赤な照明も合わさって情熱的に我々を踊らせてくれる「VANDALIZE」からは音源としては最新作であるミニアルバム「armadillo」で取り入れた同期のサウンドがバンドのダンサブルなサウンドをまた違う方向から増強しているというのがコーラスも同期を使う(時には西田と鈴鹿もコーラスに参加しているが)「審美眼」ではワンマンの時も感じたように、こんなにも!?と思ってしまうくらいに観客が飛び跳ねまくる。そうせざるを得ないくらいに踊ることへの衝動をこのバンドの音楽が突き動かしてくれるということであり、だからこそこれから先に生み出す新たな音楽が楽しみになるのである。
そうして自分たちらしさを遺憾なく発揮しながらも、
鈴鹿「マイケルさんは本当に昔から「ひなっちさん」「ひなっちさん」ってずっと言ってましたからね。そのORANGEのアンプもひなっちさんに紹介してもらって買ったんですよね。高いもん買わされて(笑)」
マイケル「語弊がありすぎる(笑)
でも本当に昔からずっとストレイテナーが大好きで。10月には武道館ワンマンもありますからね!でもその日我々もライブがあるらしくて…有給休暇取れますかね?(笑)」
鈴鹿「武道館行ってひなっちさんの代わりにベース弾けばいいやん!(笑)そんでひなっちさんに俺らのライブでベース弾いてもらって(笑)」
と好きすぎて自分のライブを欠席してでも日本武道館ワンマンを観に行きたいくらいだという。ベースとしてのスタイルはマイケルはひなっちとはかなり違うように思えるが、それはリスペクトをしていながらもこのバンドでの自分の表現をしっかり確立しているということである。
そんなMCでの楽しさにもこのバンドの人間性が確かに現れているが、その穏やかな人間性がそのまま音、曲になっているのが、こちらもコーラス含めて同期の音も使いながらも、ゆったりと音に合わせて体を揺らすという踊り方の「Wall Flower」であり、一転して鈴鹿のドラムの強靭な一打一打と手数、さらには
「地獄の沙汰もリフ次第」
というサビでのキラーフレーズそのままに西田のギターリフによって踊らせまくる「Falling Down」と、改めて「armadillo」の曲たちのポテンシャルの高さと幅広さに驚かされるし、まるでそのリリースツアーであるかのようなセトリである。
しかしながらテナーに影響を受けているのはマイケルだけではなく、この日はここまでは口数少なめだった米田も
「「ROCK AND ROLL」っていうミニアルバムが出た時にCDと一緒にスコア、楽譜を買って弾いてみようと思ったんですけど、難しくてすぐに断念しました(笑)それでテナーができないからアジカンをやったんですけど……ただアジカンを弾いたっていうだけですからね?(笑)他意はないですからね(笑)」
とかつてテナーの曲をコピーしようとしていた経緯を語るのであるが、米田が弾けないくらいに難しい(当時だからというのももちろんあるけれど)というのがテナーの技術の高さを改めて感じさせてくれるエピソードである。
そんなテナーとの対バンのクライマックスはやはり「WHERE?」で観客を踊らせまくるのであるが、マイケルが最後のサビに入る前に
「踊れQUATTRO!」
と、あえて「渋谷」ではなくて(先月のワンマンの時は「渋谷」だった)「QUATTRO」と言ったあたりに35周年を迎えたこの会場へのマイケルなりのリスペクトを感じさせる。そうしたところにこそ人間性が滲み出ているし、このライブをQUATTROで見ているという特別感を感じさせて、この日の記憶がまた忘れられないこの場所の思い出になっていくのである。
そしてラストはマイケルがベースのみでメロディを弾き始めたことによって「あれ?こんなイントロの曲あったっけ?」と思っていたら、実はそれはストレイテナー「Melodic Storm」のイントロであり、マイケルのガチのテナーファンっぷりが改めて明らかになりながらテナーへのリスペクトを音でしっかり示すという素晴らしいパフォーマンスから、米田がハンドマイクになりイントロの狂騒的な同期のサウンドに合わせて誰よりも自由に踊り飛び跳ねまくることによって観客をもさらに自由に飛び跳ねさせる「GIVE & TAKE」はBメロでのリズムに合わせた手拍子というメリハリも含めて完全に今の夜ダン最強のキラーチューンと言っていいダンスアンセムと化している。それはワンマンでもそうだったが、対バンという夜ダンのファンの人以外もたくさんいる状況でその踊りまくる光景が見れるからこそよりそう思えるのであるが、
「終わりたくないな…。でも俺たちが終わらないとストレイテナーのライブ観れないもんな(笑)」
と米田が言っていたように、喜びや楽しさ、嬉しさというポジティブな感情とともにどこか終わってしまうことへの切なさがあるからこそより夢中になって踊れているかのようでもあった。
演奏後には鈴鹿がこの日の「5尽くし」の日を祝って真ん中のマイクで1本締めを行うのであるが、まだテナーのライブがあるのに一回締めるんかい、と心の中でツッコミを入れたくなるあたりが実に鈴鹿らしいというか夜ダンらしいというか、とにかくこの日も本当に楽しい、エビバディハッピーなライブだったということである。できるなら、マイケルも夜ダンとして日本武道館のステージに立つ、つまりは夜ダンの武道館ワンマンも見てみたいと、初めてホールで見てからずっと思っている。
1.Crazy Dancer
2.LOVE CONNECTION
3.STARLET
4.Movin'
5.Ain't No Magic
6.Take it back
7.VANDALIZE
8.審美眼
9.Wall Flower
10.Falling Down
11.WHERE?
12.GIVE & TAKE
・ストレイテナー
そんな夜の本気ダンスからのリスペクトと愛をもらいまくってのストレイテナー。なんやかんやで25周年を迎えてもこのQUATTROのキャパと距離感でライブを見れることが貴重に思えるくらいに今も最前線を走り続けているバンドである。
おなじみの「STNR Rock and Roll」のSEが流れてメンバー4人が登場すると、OJこと大山純(ギター)はハットを被り、ひなっちこと日向秀和(ベース)はサングラス着用で、鮮やかな金髪のナカヤマシンペイ(ドラム)がドラムセットの上に立って雄叫びを上げるようにして気合いを入れると、ホリエアツシ(ボーカル&ギター&キーボード)が挨拶し、シンペイがダンスビートを刻んでひなっちのエフェクティブかつゴリゴリなベースが絡み合い、早くも客席から歓声とともに「オイ!オイ!」と力強いコールが起こるのは「KILLER TUNE」。これは夜ダンとの対バンだからこそ1曲目からダンスチューンなんだろうかとも思うのだが、観客を煽るようにしてから間奏でベースソロを弾きまくる(ベースにはそぐわない言い方だがマジで弾きまくっている)ひなっちの姿に大歓声と拍手が起こる様はマイケルが憧れるのも本当によくわかるくらいにカッコいいし、その強力なリズム隊の力があるからこそやはりこうしてサビでこれだけ飛び跳ねまくることができるのである。
早くもホリエがキーボードに向かい合って、同期の音も使いながらもそのキーボードを弾きながら歌う「Braver」はテンポはゆったりめではありながらもやはりそのリズム隊の力強さによって他にないくらいにロックというイメージを感じざるを得ないし、それはコロナ禍真っ只中のライブでこの曲を聴いた時はこうしてライブに来る人=勇気がある人へ向けて演奏されているようだったこの曲のサビで手を挙げている人がたくさんいるからだろう。
するとシンペイの目を覚まさせる、意識を覚醒させるような力強いドラムの連打によって始まるのはメジャーデビュー期の大名盤「TITLE」収録の英語歌詞のギターロック曲「泳ぐ鳥」。もちろんホリエとOJの2本のギターが鳴ることによって今の4人のテナーでのサウンドになっているのは「TITLE」再現ライブ(時期的にリアルライブではできずにスタジオからの配信になった)もあって再びこの曲たちに向き合う時間もあったからだろうが、早くもこの曲が演奏されたことによって、ライブでどんなセトリになるのか全く予想がつかない(イベントで2日連続で見た時に総取っ替えされてることすらあった)テナーらしさは今でも健在ということである。
そんなシンペイの力強すぎるくらいに力強いドラムがテナーのロックさをさらに牽引するのは「宇宙の夜 二人の朝」であり、この曲からそうした溢れ出んばかりのロックさを感じるということがテナーのロックバンドっぷりが今も変わることがないということがないということであるし、実際にホリエとOJのザクザクと切り込んだりアルペジオでフレーズを奏でたりという姿と音もテナーがずっと変わらずにギターロックバンドであり続けているということである。
それはイントロからメンバー4人の放つ音が激しくぶつかり合いながらも調和していくような「シンデレラソング」もそうで、ハイトーンを思いっきり張り上げるようにして歌うホリエもそうだが、何よりも「オイ!オイ!」と声を上げながら、「cendrillion」と連呼するフレーズをメンバーとともに観客が大合唱する(ホリエもOJもその声を聞こうとする姿を見せていた)光景による熱狂は、声を出したりしなくても問題ないようにも感じたりもしていたテナーのライブがこうして規制がなくなったことによってその楽しさ、曲のポテンシャルをフルに発揮できるようになったということを感じさせてくれるし、それを実感できたことによってなんだか感動してしまったりしていた。
だからこそ曲間ではメンバーの名前を呼ぶ声が響きまくるのであるが、シンペイはそんな声に反応してか観客に手を振ったりしながら、ホリエはこのQUATTROを
「上京してきて、憧れていたバンドを最初に見たのがここだったから、ずっと夢の場所だった。割と早いうちにステージに立てるようになったけど(笑)、ここはストレイテナーにとって東京のホームだって思える場所で。いつやっても誰とやっても楽しいしね。
柱が邪魔だけど(笑)、あの柱を抜くのに何億円もかかるってQUATTROのYouTubeで古市コータローさん(THE COLLECTORS)、ウエノコウジ兄さん、GOING UNDER GROUNDの松本素生がくだらない話をしてるのを見た(笑)」
と、観客としても来ていた場所だからこそ我々の気持ちを代弁するかのように柱に言及して笑わせてくれると、
「渋谷なんで渋谷を通る道の歌を」
と言って演奏された「246」は2ヶ月前にリリースされた最新シングル曲であるが、その人生や旅の中で過ぎ去った光景を歌うというのは今のキャリアになったこと、様々なことを経験して見てきたことによって歌えるようになったものだろうし、だからこそ歌詞の説得力が抜群であり、聞いていて本当に胸に沁みるのである。そうしたテナーの姿を見ていると大人になってもカッコよくあり続けることもできるんだなと思う。
するとギターのカッティングのイントロが観客の体を揺らす「DONKEY BOOGIE DODO」ではホリエが恒例の
「僕らは歌い踊ろう 渋谷QUATTROで!」
とこの場所でしかないものに歌詞を変えてさらに観客を熱狂させるのであるが、その熱狂が曲中で最も極まるのがホリエが「オイ!」と叫んだ後の間奏部分というあたりが実にテナーのライブらしいなと思う。何よりも今目の前で鳴らしている音によって観客が熱狂しているという。
そんなあらゆるサウンドで踊らせたり体を揺らせたかと思ったら、ホリエが再びキーボードを弾きながら歌うバラード曲「さよならだけがおしえてくれた」のメロディの美しさにしんみりさせられる。ホリエの歌声はこうした曲でこそスッと心の中に入ってくるところがあるし、そこには今のこの4人の穏やかで楽しいおじさんたちの集まりというバンドの空気が染み込んでいるようにも思う。
そんなテナーは全国ツアーを終えたばかりであるのだが、ツアーが終わってもこうしたライブがあるからこそ気持ちが切れることがないし(このライブは1年以上前から決まっていたらしい。QUATTROの是が非でもこの2組を呼びたいというのが伝わってくる)、今週から怒涛の夏フェス期間がスタートしていくのであるが、
「25周年だからか今年は本当にいろんなフェスが呼んでくれて。もう呼ばれないんじゃないかと思ったフェスとかも呼んでくれて(笑)」
というのはどのフェスのことだろうか。今週末開催の若手バンドの見本市的な(だから1組の持ち時間が25分という短さ)MURO FESにまで今も出演するというのは本当に凄いし、そんなあらゆる今年の夏フェスの果てには武道館ワンマンが待っている。
そんなテナーの終えたばかりのツアーのタイトルになった新曲が「Silver Lining」であるのだが、同期のイントロが夜を表現しながら、曲が始まって演奏されるにつれて黄色い照明がステージを照らし出すのを含めて朝になっていく(歌詞にも「静かな朝」というフレーズがある)という時間の流れを1曲の中で描く曲であり、アウトロで再びイントロ同様に夜に戻っていくのであるが、それをエイトビートを軸としたロックサウンドでやっているというのが今のテナーのギターロックの革新性を感じさせてくれる。つまりは早く音源でも聴きたい曲であるということだ。
そしてまさに咽び泣き叫ぶようなOJのギターのイントロが鳴り響く「叫ぶ星」は同じシリーズのタイトルの「泳ぐ鳥」が演奏された日だからこそ、今もテナーが当時と変わらない衝動を持ったギターロックバンドであることを感じさせてくれるし、それはホリエが歌う背後でOJ、ひなっち、シンペイが集まるようにして目を合わせながら演奏する姿からも感じられる。かつては2人組バンドから始まったとは思えないくらいに、今のテナーはもう完全にこの4人でしかない。
それはイントロからして今も名曲確定でしかない「REMINDER」もそうであるが、記憶をテーマにした曲だからこそ、この曲はこれまでに何回ここで演奏されて、その時にどんな景色を描いてきたのだろうかと考えたりしてしまう。それはもちろんこの日の熱狂っぷりもまた次にこのQUATTROでテナーのライブを見る時には美しい記憶として残り続けていくはず。ひなっちが煽りまくるようにベースを弾く姿によって観客がさらに「オイ!オイ!」と声を上げる姿を見てそんなことを思っていた。
そしてまたいろんな場所での再会を約束してから最後に演奏されたのは今やテナー屈指の大名曲にして代表曲になった「シーグラス」。ホリエの歌唱とシンペイのドラムのリズムに合わせて手拍子も起こる中、ひなっちはその場でくるっと回るようにして笑顔を見せ、最後のサビ前にはOJと向かい合ってキメを合わせる。その光景を見ていたら、また今年も何回でも夏の野外フェスでこのバンドのライブを見てこの曲を聴いて、今年最後の海へ向かいたいと思ったし、それを何年でも続けていきたい。そうやって毎年の夏を過ごしていたい。ホリエの歌唱とバンドの演奏に宿るこの曲のエモーションはそんなことを思わせてくれる。それは我々聴き手にとってこの曲が人生の中において本当に大切な曲になっているということだ。
本編の演奏が終わった後にメンバーが肩を組んでからステージを去っていくというこのバンドのおなじみの姿を見ていた時、これは今日はアンコールはないんじゃないか?とも思ったのだが、メンバーが再びステージに現れるとやはりホリエが
「今日来るまで全然アンコールのことを考えてなかった(笑)」
と急遽のものであることを明かしながら、
「夜の本気ダンスに古のダンスナンバーを送ります」
と言って演奏されたのはなんと「POSTMODERN」という今となっては激レアな選曲で、今聴くとシンプルでありながらも変な曲だなとも感じるのであるが、それは米田が「ROCK AND ROLL」のスコアを買ったということを語っていたからこそ、その作品に収録されている中で最も夜ダンに似合うような曲を選んだんじゃないかと思う。それは難しすぎてコピー出来なかったあの日の米田少年に「この曲はこうやって演奏するんだ」と教えてあげているかのような。そうして自分たちのファンである夜ダンにとってこの日をさらに特別なものにしてくれるテナー先輩は本当に優しい。ひなっちのタンクトップ姿は見た目がいかつすぎるけれど、最後のキメが上手く合わずに少しグダって終わるというのも逆に本当に急遽この曲を演奏したということがわかる。それはこれからもテナーがいつどこでどんな曲を演奏するかわからないだけに、フェスなどでも決して見逃せないバンドであるということを示していた。
一時期からテナーはたまに「丸くなった」的な言われ方をすることも多くなった。確かに昔ならやらなかったであろうタイプのバラード曲やポップな曲も増えた。でもこの日のライブを見ているとやっぱりバンドの芯の部分は全く変わっていないのだと思える。それはテナーが今もライブハウスで目の前にいる観客を熱狂させるカッコいいロックバンドであるということ。
ライブが終わって客電が点いても歓声を上げ続けていた観客たちの興奮がそれをこれ以上ないくらいに示してくれていた。これまでに何度も素晴らしい景色を見せてくれた武道館で今回はどんな景色を見せてくれるのだろうか。
それを楽しみにしつつ、また5年後にQUATTROが40周年を迎えた時には30周年と20周年を迎えた両者の対バンを変わらないままで見ることができますように。
1.KILLER TUNE
2.Braver
3.泳ぐ鳥
4.宇宙の夜 二人の朝
5.シンデレラソング
6.246
7.DONKEY BOOGIE DODO
8.さよならだけがおしえてくれた
9.Silver Lining
10.叫ぶ星
11.REMINDER
12.シーグラス
encore
13.POSTMODERN
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