HORIPRO × SPACE SHOWER TV Presents "Baby steps." -1st step in Tokyo- @Spotify O-EAST 7/5
- 2023/07/06
- 22:27
数々の有名タレントたちを擁するホリプロが音楽専門チャンネルとして様々なイベントやフェスも開催しているSPACE SHOWER TVとタッグを組んだイベント「Baby steps.」。ホリプロ所属のアーティストたちによるフェス的な意味合いもあるこのイベントが東西で初開催。すでに大阪でも7月1日に開催されているが、その東京編がこの日。
出演は
Chilli Beans.
tricot
yonige
ロザリーナ
鈴木実貴子ズ
という、平日の夜にこんなに見れていいんですかとすら思ってしまう、贅沢な5組。
18:00〜 yonige
平日の18時という早い時間でありながらもたくさんの観客が待ち構える中に登場した、yonige。牛丸ありさ(ボーカル&ギター)は髪を纏めて後ろで結く新しい髪型でショート丈のTシャツという実に渋谷らしい出で立ち、ごっきん(ベース)は金髪が少し短くなっている。この日もホリエ(ドラム)と土器大洋(ギター&キーボード)という、もはやアー写に一緒に映っているという意味ではサポートという立ち位置を超えた2人を含めたおなじみの4人編成で、牛丸が弾き語りのようにしてサビを歌い始める「さよならアイデンティティー」でスタートするというあたりは最新作「三千世界」のモードからの変化を感じるのであるが、ホリエのドラムがさらに強度と手数を増す中で牛丸は思いっきり最後のサビで歌詞を吹っ飛ばして
「オーイェー」
と叫んでいる。それはある意味ではめちゃくちゃ牛丸らしいと言えることであるし、何よりもその牛丸の歌唱の伸びやかさは見るたびに最高飛距離を更新している。つまりはめちゃくちゃ歌が上手くなり続けているのである。
自分の中ではyonige最高の夏ソング「リボルバー」をこうして夏と言っていい季節に聴くことができるのも実に嬉しいが、「さよならアイデンティティー」でもサビでは腕が上がっていたように、
「永遠みたいな面したあと 2人は別々の夢を見る」
というフレーズではワンマンライブと同じように手拍子が起こっていたというのはyonigeを見るためにこのイベントに来た人がかなりいたということを示しているし、それが他の出演者を観に来た人にも広がっているのがよくわかる。
土器によるキャッチーなギターとホリエの軽快なドラミングという演奏がやはりもはやこの2人がサポートという立ち位置を超えて、バンドになくてはならない存在であることを示してくれる「our time city」ではサビでのそのタイトルフレーズでやはり牛丸の伸びやかな歌唱力が遺憾無く発揮され、ごっきんのコーラスもそれを支えるようにして響く。
「僕ら1994だから」
という歌詞もまた実に頼もしく響くのも今のバンドのライブの状態が抜群に良いからである。
さらには牛丸と土器のギターが轟音で鳴り響く「最終回」と、ここまではノイジーなギターサウンドとキャッチーなメロディというyonigeのギターロックな曲が意外なほどに続けて演奏されるのであるが、
「怒鳴り散らかした三角公園で ゲロを吐く最後」
という歌詞はモラトリアムの集団だった大学生の頃の自分を思い出させる。もちろん三角公園でゲロを吐いたことはないけれど、ギターサウンドによってこんなにも「カッコいい」と思えるyonigeの曲を今でも聴くことができるのは実に嬉しいことである。
「ずっと言う機会を逃してたんですけど、yonigeは3月からホリプロ所属になりました。独立してからずっと自分たちでやってきたんですけど、こういう縁がありました」
という牛丸の挨拶によって、「何故この日にyonigeが?」と思ってしまう謎が解決するのであるが、先ほどまでよりグッとテンポを落としたバンドサウンドによる「2月の水槽」はそのジャキジャキと刻まれるギターサウンドと、ホリエの抑制されたビートによってより深くyonigeのサウンドと世界観の中に入り込んで陶酔するような曲だ。
しかしながらyonigeが独立したのは自分たちのやりたいことを追求するためだと思っていたし、実際にその方向性を突き詰めるきっかけになった、ごっきんのうねりまくるベースの「往生際」は今のyonigeのバンドとしてのグルーヴの強さを感じさせてくれる曲であるし、それが見るたびに4人での大きな一枚岩になっているのがよくわかるし、この曲でもやはり牛丸のボーカルとごっきんのコーラスの伸びやかさを存分に感じられるからこそ、やりたいことの中にしっかりキャッチーさという要素も残っているのがよくわかるのである。
すると土器が弾くシンセのサウンドによって独特のサイケデリックさが生まれる「催眠療法」でそのyonigeとしてのやりたいことをグッと濃くすると、牛丸がアコギを弾くことによって爽やかさを加えながらも、以前までライブで演奏していた時よりもそのアコギが主軸というわけではなく、むしろ土器のギターとホリエのドラムの力強さによってソリッドなロックサウンドになっているように感じられた「ピオニー」は再びyonigeがそうしたサウンドへ向かっていくような予感すら感じさせる。
そんなライブの最後に演奏されたのは牛丸と土器のノイジーなギターが壁のようなサウンドを構築して音が舞うような感覚にすらなる「春の嵐」なのだが、久しぶりにライブでこの曲を聴いて、何故かこの日はかつて日本武道館ワンマン(ソールドアウトして超満員だった)の時に桜の花びらが舞うという演出の中で演奏されたことを思い出した。
今のyonigeがそうしてたくさんの人に聴いてもらいたい、ライブを見てもらいたいと思っているのかはわからない。それよりも自分たちがやりたいことをやりたいと思っていたとしたら余計なことかもしれないが、それでも自分は今でもyonigeはあの武道館のような光景が似合うバンドだと思っている。それはこの日のこの曲が確かにそう感じさせてくれたのだ。
1.さよならアイデンティティー
2.リボルバー
3.our time city
4.最終回
5.2月の水槽
6.往生際
7.催眠療法
8.ピオニー
9.春の嵐
18:35〜 鈴木実貴子ズ
ツイートする時間すらないくらいにyonigeが終わったらすぐにO-EASTならではのサブステージに照明が映り、そこには鈴木実貴子(ボーカル&ギター)と高橋イサミ(ドラム)の2人が。
しかもすぐに演奏に入るのではなくて、鈴木実貴子じゃない方であるイサミが挨拶がてらに喋るというのが初めてライブを見るだけに実に意外だったのであるが、いざ「ファッキンミュージック」からスタートすると、アコギとドラムと歌だけというシンプル極まりないサウンドでありながらも、逆にこれだけあればいいんじゃないかと思うくらいのグルーヴをこの2人が生んでいるし、何よりも歌い始めた瞬間にゾクっとしてしまうような鈴木実貴子の歌声に宿る激情。しかもどうやったらこんな歌が歌えるんだと思うくらいに歌が上手い。その目線の鋭さ、放つオーラの強さからして音楽に選ばれて、音楽を選ぶしかなかった人であるということがすぐにわかる。
しかしながら意外だったのは「ズ」の方ことイサミが
「tricotさんとyonigeさんは前にも何回か一緒にライブをやらせてもらったんですけど、Chilli Beans.さんはこのイベントではじめましてで。今日新幹線に乗ってる時に調べたら、レッチリのチリと、まだまだ自分たちはひよこ豆みたいな存在だからっていう意味でビーンズを組み合わせて名前をつけたって書いてあって。素晴らしい由来だなと。
方やうちは鈴木実貴子が、ほかのメンバーが辞めて解散してもその名前が残れば続けていけるからっていう理由で。今日この場で解散してやろうと思いましたよ(笑)」
というMCで笑わせてくれたこと。曲のイメージ的にもっとストイックな形のライブをするのかと思っていたけれど、そこには鈴木実貴子だけではなくてこのイサミの人間性も現れていると思う。
普通ならば歌詞にするというか、口に出すのを憚られるような感情すらも歌詞にして自身の表現にしてしまうというか、自身の思考や感情こそが歌詞として歌うべきことであるということを示すような「新宿駅」を歌うと鈴木実貴子は
「これだけたくさんの人に我々の演奏はどう見えているのだろうか。前、真ん中、後ろ、2階、関係者…は関係ない」
とばっさりと切り捨てて最後に演奏された「正々堂々、死亡」はタイトルだけ見ると自死ソングかとも思うけれど、めちゃくちゃ簡潔にまとめると「自分がやりたいように、生きたいように生ききってから死のうぜ」というものである。アコギとドラムだけとは思えないスピード感溢れる演奏と、体だけではなくて心までもが震えるような壮絶な、それでいてどこまでも人間らしさしかないような歌唱。こんなに凄いなんて思ってなかったと思うくらいに、とんでもない化け物だった。
しかしながらそのスタンスはホリプロともスペシャとも縁がないようにすら見えるし、実際に鈴木実貴子も
「ワシらは普段は泥の中を生きとるけん」
と言っていた。しかしそんな、なかなかたくさんの人に聴いてもらう機会がないようなアーティストや音楽にホリプロとスペシャは光を当てようとしている。自分たちの範囲の中以外にもこの音楽を届けようと。このイベントでこの2人を見るとそんなことがよくわかる。
1.ファッキンミュージック
2.あきらめていこうぜ (orベイベー)
3.新宿駅
4.正々堂々、死亡
18:55〜 Chilli Beans.
この日の客席にはこのバンドのTシャツを着たり、タオルを持っている人が1番多かった。JAPAN JAMではメインステージ、LOVE MUSIC FESでもぴあアリーナと、そうした規模でライブをやるようになっただけに当然といえば当然であるし、だからこそ最近の都内のライブでは破格の距離感の近さでのライブである。
おなじみのSEでメンバー3人とサポートドラマーのYuumiがステージに登場すると、Maika(ベース&ボーカル)の重いリズムがグルーヴの起点になる「See C Love」からスタートし、ツノが生えているかのような帽子を被ったMoto(ボーカル)はやはりステージ上を歩き回るようにしながらキーの低い歌唱をし、サビで一気に解放されていくようにメロディが一気に上昇すると、Maikaのボーカルもそこに加わるという最近のライブではおなじみのオープニングであるが、そのそれぞれの歌唱力の高さと見た目は軽やかであるにも関わらずのグルーヴの重さは何度見ても凄いというか、見ている側を覚醒させてくれるかのようですらある。実際に客席ではたくさんの人が腕を挙げている。
するとメンバーと同じ音楽スクールに在籍していたVaundyが手がけた「rose」はそのVaundy色が強いというか、聴けばすぐにVaundyのものとわかるようなメロディもMotoは見事に乗りこなしている。Vaundyの曲を聴いているとこの音楽を歌えるのは本人しかいないだろとも思うのだが、このメンバーがそれができるのは育った背景が同じということに加えてそれぞれの高いボーカルの力があってこそである。
そして今やこのバンドのライブ最大の見どころの一つと言っていいのが「duri-dade」であり、間奏ではメンバー3人がスティックを持ってYuumiのドラムセットを連打しまくり、そのドラムのビートに合わせて客席から手拍子が起こるという観客も参加する形でのパフォーマンスが展開されるのであるが、何度ライブで見てもテンションが上がるのはそのビートがライブを重ねるごとに力強さを増しているからだろうし、Yuumiのドラムも毎回ライブを見るたびに進化しているのがわかる。
そんなこのバンドだからこその音楽やライブの自由さを発揮するパフォーマンスの後にはMaikaがホリプロに所属しているこの出演者たちで一緒にライブをやれることによって生まれるファミリー感や楽しさについて口にすると、Motoもギターを弾きながらハイトーンなボーカルを響かせる「School」ではLilyの思いっきり体全体を使って弾くようなギターソロに観客の歓声が上がるというのも、鳴らしている音や音楽そのものがこのバンドのライブにおけるエンターテイメントになっているということである。
ステージをタイトルに合わせたように黄色い照明が照らす「lemonade」では再びMotoが忙しなくステージを歩き回りながら歌い(毎回思うけど凄まじい運動量だし、狙ってそうしているわけではなくて音が鳴るとそうなるという感じがする)、間奏とアウトロではメンバーが左右にステップを踏み、それが客席にも広がっていく。アリーナクラスでもそれは絶景としてこの目に映ったが、ライブハウスの規模でのそれはまた違う一体感を生み出してくれる。それは平日の夜にこうして渋谷のライブハウスに集まっているくらいに音楽が大好きな人たちの一体感として。
そしてMotoのハイトーンボイスが高く飛翔していくような「HAPPY END」がクライマックスへの突入を告げるようにして鳴らされると、バンドの演奏自体もさらに躍動感を増していく。体を動かしながら、振り絞るようなMotoの歌唱は上手いだけではない力強さと、ライブハウスで見るからこそのここだけには収まらないスケールの大きさを感じさせるのであるが、「シェキララ」ではMotoが帽子を手に取って握りしめるようにしながら歌い、さらにはステージ上に倒れ込みながらも歌い続ける。それくらいにこうして音を鳴らしていることによってテンションが上がりまくっているということがよくわかるのであるが、それはライブハウスでのライブで
「シェキララしようぜ」
というフレーズの観客による合唱が起こるようになり、その声を確かに聞けるようになったことによる要素もあるのかもしれない。コロナ禍真っ只中からライブをやるようになっただけに、このくらいの規模の会場で観客の声が響くという経験のないままで大きくなってきたバンドだから。もはやZeppクラスでもチケットが取れないくらいになっているが、例えばFCツアーなどでそうした距離感での合唱という景色を見ることができたらなと思う。
最近のこのくらいの持ち時間のライブでは「シェキララ」で終わることが多かっただけに、てっきりこれで終わりかと思いきや、最後に演奏されたのは5月に配信リリースされたばかりの最新曲「you n me」。ライブでは初めて聴けただけに「マジか!」という驚きもあったのだが、実にこのバンドらしい自分らしく生きていく意志が綴られた歌詞が乗るサウンドもメロディも、また真っ白な照明がステージを照らすのも、全てにおいて光が降り注いでいるかのようであった。それはこの曲がこれからもこうしてライブの大事な位置で演奏されていくようになることを予感させたのだった。
来月からは規模の大きなライブハウスを巡るツアーも開催されるが、渋谷でのライブが久しぶりと言っていたように、このバンドが立つステージはさらに大きくなっている。その象徴が、来年2月に開催されることが発表された日本武道館でのワンマン。最近のフェスで見た時に「近い将来にこの規模でワンマンをやるのを見れる日が必ず来るな」と思ったが、その日はついに現実のものとして近づいてきている。
1.See C Love
2.rose
3.duri-dade
4.School
5.lemonade
6.HAPPY END
7.シェキララ
8.you n me
19:35〜 ロザリーナ
ライブを見るのは初見であるが、やはりロックバンドファンとしてはTHE ORAL CIGARETTES「Don't you think」に参加していたシンガーというイメージが強い、ロザリーナ。この日はサポートキーボードとの2人編成でサブステージに出演。
そのサポートキーボードが切なくも壮大なサウンドを鳴らすと、鮮やかな金髪のロザリーナが歌い始めたのは同タイトルの映画のテーマソングである「えんとつ町のプペル」であり、ああそうだ、このテーマソングこの人が歌ってたなと思うのはその映画の挿入歌である「夢の礫」を歌っている秋山黄色のファンだからであるが、その絵本が原作である映画に合わせたような歌唱はイメージよりもはるかにロザリーナをあどけなく感じさせるし、それはこうしてライブで見ると表情からも感じられるものであるが、その少女性もありながらも人生経験のある大人としての儚さを感じさせるような歌声は聴いていて実に不思議というか、これまでに他に似たような声を聴いたことがないものだなと思った。その辺りがオーラルがこの声を求めた理由でもあるだろう。
ドラマ「アンノウン」の主題歌であることが告げられてから歌い始めた「I knew」と続くと、その大型タイアップ曲の連発っぷりに驚かざるを得ないけれど、それほどに作品のイメージを彩る歌声を持っているということであるのが聴いていてわかるし、ドラマは見てはいないがタイトル同士が連動しているようにも感じられるだけに、きっとドラマを見ていたら歌詞の感じ方も違ってくるんじゃないかとも思う。
さらには「何になりたくて、」ではキーボード奏者がオーケストラサウンドをも同期として鳴らすのであるが、ギターの音も含めてキーボード以外の楽器のサウンドもふんだんに入っているだけに、そうしたサウンドが生で演奏された時にこの声はどんな乗り方をするんだろうと思ってしまうし、そういう意味でもバンド編成やオーケストラ編成などでもライブを見たくなる。
それはロザリーナがそれだけ幅広いジャンルの曲たちを自分のものとして鳴らしているということであり、実際にそうした曲が多いからこそ、夏に予定されているワンマンに来て欲しいと告知していたのだろうし、そこには自身の声や音楽への確固たる自信を感じさせるのであるが、最後に演奏されたコカコーラのCMタイアップであった「Life Road」の世界のトレンドの最先端にいるかのようなR&Bサウンドに乗った実にスムーズな歌唱は、この人の声はどんなサウンドをも乗りこなして自分のものにできるのだろうし、だからこそこれからもいろんなフェスやイベントでライブを見る機会が来るだろうなと思った。
去り際にサポートキーボードの方の笑顔を見ていたら、パーパーのほしのディスコにどこか似ているなと思ったし、だからこそ歌も上手いんだろうなという勝手なイメージを抱いていた。
1.えんとつ町のプペル
2.I knew
3.何になりたくて、
4.Life Road
18:50〜 tricot
この日のトリはtricot。キャリアや海外での活躍っぷりを考えると実にふさわしい存在であると思うが、tricotもまたホリプロ所属というのが凄い。確かに中嶋イッキュウ(ボーカル&ギター)は今やジェニーハイのボーカルとしてもガンガンTVに出ているけれど。
SEもなしにサウンドチェックをするかのようにしてメンバー4人がステージに登場すると、ステージ中央のヒロミ・ヒロヒロ(ベース)がぶっといグルーヴを生み出し、キダモティフォ(ギター)がギターを切り刻むように鳴らす「エコー」からスタートするのであるが、Sonic YouthのTシャツを着た吉田雄介(ドラム)の変拍子でありながらも同じフレーズを叩くごとに強さと激しさを増していくというソニックっぷりは、久しぶりにライブを見るとこのバンドがまた新たな次元に突入していることがよくわかる。
さらにはコロナ禍に生み出された、tricotらしさがキャッチー(と言っていいと個人的に思っている)な方向に向いた「餌にもなれない」でステージ上手側で客席から見ると横を向きながら歌うような形であるイッキュウの妖艶さすら感じさせるボーカルも、いろんな場所で歌ってきた経験がtricotに還元されていることを感じさせるのであるが、今でもこの尺の持ち時間で演奏されていることが嬉しい、言語感覚含めてtricotらしさ炸裂の「おちゃんせんすぅす」ではタイトルフレーズを口にした後にイッキュウ、ヒロミ、キダが一斉に腕を上げる仕草を見せるのも変わらないが、フレーズが繰り返されるたびにその仕草を真似する観客が増えていくというのはこのバンドの音や空気がこの場を掻っ攫っているということの証明でもあるが、アウトロで繰り返される同じフレーズの演奏が重ねるたびに激しくなっていくというのもやはりライブで生きてきたバンドだなと思えるアレンジである。
するとイッキュウがギターを置いてハンドマイクを持ってステージを歩き回りながら歌うのは昨年リリースの最新アルバム(近年はほぼ毎年アルバムを出しているのが本当に凄い)「不出来」収録の「#アチョイ」であるのだが、イッキュウは観客に手を振ったり、ハートマークを向けたり、さらには歌詞に合わせて猫のポーズをしたりと、かねてからロックシーン屈指の美人ボーカリストと言われてきた魅力をライブという場で曲に合わせて最大限に発揮するのであるが、それは同じく最新アルバム収録の「OOOL」という、イッキュウはギターを持ってはいるけれどほとんど弾かずに歌うという削ぎ落とされた形だからこそのリズムの不規則さが際立つのである。
そしてもう随分リリースされたのが昔のことのように感じられるシングル曲(それでもまだ5年前であるだけに、このバンドのハイペースっぷりがよくわかる)「Potage」が神経を研ぎ澄ませてついていこうと思わせるようなそのリズムと、どこか切なさや儚さを感じさせるようなメロディが乗って鳴らされると、
「自分で言うのもなんですけど、ホリプロに所属することになるなんて思ってませんでした(笑)こんな音楽性でホリプロって入れんねやって(笑)
でも私はエゴサが趣味なんですけど、今日始まる前にエゴサしたら「tricot見に来てる人が2〜3人しかいない」っていうツイートを5人くらいは見ました(笑)だから5人はtricot目当ての人がいる(笑)
ツイッターのAPIの不具合でツイート見れませんってなるのが今日やったら良かったのに(笑)」
とイッキュウが自虐的にMCをするのであるが、観客のノリは決してアウェーではないし、tricotのタオルを掲げている、このバンドを見に来たという人もそこそこの人数いた。
しかし初見の人をtricotの世界に引き摺り込んでさらにジャイアントスイングして振り回すかのような「不出来」の轟音サウンドがどこか緊張感を持って鳴らされると、もうただひたすらに立ち尽くしてその音に浸らざるを得なくなる。アウトロでもその轟音が鳴り響く中で吉田、ヒロミ、イッキュウ、そして最後にキダと順番にステージから去って行って、キダのギターの残響が止められた瞬間に湧き上がった歓声はこのバンドがトリだからこそこんなに素晴らしい一夜になったことを確かに示していた。ホリプロが求めたのはこのバンドが絶対に世界に他にいない唯一無二の音楽を鳴らす存在だからだ。
1.エコー
2.餌にもなれない
3.おちゃんせんすぅす
4.#アチョイ
5.OOOL
6.Potage
7.不出来
正直言って、最初はホリプロがこんなにバンドを抱えているプロダクションだとは思っていなかった。それはどうしても和田アキ子という存在のイメージがデカすぎるからかもしれないけれど、そんなホリプロに所属しているこの日の出演バンドは自分たちのやりたい音楽をやり続けているバンドたちしかいない。
もちろん売れることも大事だけれど、売れるためにそのバンドらしさが消えてしまっては意味がない。この所属アーティストたちのライブを見ると、きっとこれからもそのアーティストたちがやりたい音楽を鳴らし続けるためのバックアップをしてくれるんじゃないかと思っている。それを確かめるために、これからも毎年このラインナップでこのイベントを開催して欲しい。
出演は
Chilli Beans.
tricot
yonige
ロザリーナ
鈴木実貴子ズ
という、平日の夜にこんなに見れていいんですかとすら思ってしまう、贅沢な5組。
18:00〜 yonige
平日の18時という早い時間でありながらもたくさんの観客が待ち構える中に登場した、yonige。牛丸ありさ(ボーカル&ギター)は髪を纏めて後ろで結く新しい髪型でショート丈のTシャツという実に渋谷らしい出で立ち、ごっきん(ベース)は金髪が少し短くなっている。この日もホリエ(ドラム)と土器大洋(ギター&キーボード)という、もはやアー写に一緒に映っているという意味ではサポートという立ち位置を超えた2人を含めたおなじみの4人編成で、牛丸が弾き語りのようにしてサビを歌い始める「さよならアイデンティティー」でスタートするというあたりは最新作「三千世界」のモードからの変化を感じるのであるが、ホリエのドラムがさらに強度と手数を増す中で牛丸は思いっきり最後のサビで歌詞を吹っ飛ばして
「オーイェー」
と叫んでいる。それはある意味ではめちゃくちゃ牛丸らしいと言えることであるし、何よりもその牛丸の歌唱の伸びやかさは見るたびに最高飛距離を更新している。つまりはめちゃくちゃ歌が上手くなり続けているのである。
自分の中ではyonige最高の夏ソング「リボルバー」をこうして夏と言っていい季節に聴くことができるのも実に嬉しいが、「さよならアイデンティティー」でもサビでは腕が上がっていたように、
「永遠みたいな面したあと 2人は別々の夢を見る」
というフレーズではワンマンライブと同じように手拍子が起こっていたというのはyonigeを見るためにこのイベントに来た人がかなりいたということを示しているし、それが他の出演者を観に来た人にも広がっているのがよくわかる。
土器によるキャッチーなギターとホリエの軽快なドラミングという演奏がやはりもはやこの2人がサポートという立ち位置を超えて、バンドになくてはならない存在であることを示してくれる「our time city」ではサビでのそのタイトルフレーズでやはり牛丸の伸びやかな歌唱力が遺憾無く発揮され、ごっきんのコーラスもそれを支えるようにして響く。
「僕ら1994だから」
という歌詞もまた実に頼もしく響くのも今のバンドのライブの状態が抜群に良いからである。
さらには牛丸と土器のギターが轟音で鳴り響く「最終回」と、ここまではノイジーなギターサウンドとキャッチーなメロディというyonigeのギターロックな曲が意外なほどに続けて演奏されるのであるが、
「怒鳴り散らかした三角公園で ゲロを吐く最後」
という歌詞はモラトリアムの集団だった大学生の頃の自分を思い出させる。もちろん三角公園でゲロを吐いたことはないけれど、ギターサウンドによってこんなにも「カッコいい」と思えるyonigeの曲を今でも聴くことができるのは実に嬉しいことである。
「ずっと言う機会を逃してたんですけど、yonigeは3月からホリプロ所属になりました。独立してからずっと自分たちでやってきたんですけど、こういう縁がありました」
という牛丸の挨拶によって、「何故この日にyonigeが?」と思ってしまう謎が解決するのであるが、先ほどまでよりグッとテンポを落としたバンドサウンドによる「2月の水槽」はそのジャキジャキと刻まれるギターサウンドと、ホリエの抑制されたビートによってより深くyonigeのサウンドと世界観の中に入り込んで陶酔するような曲だ。
しかしながらyonigeが独立したのは自分たちのやりたいことを追求するためだと思っていたし、実際にその方向性を突き詰めるきっかけになった、ごっきんのうねりまくるベースの「往生際」は今のyonigeのバンドとしてのグルーヴの強さを感じさせてくれる曲であるし、それが見るたびに4人での大きな一枚岩になっているのがよくわかるし、この曲でもやはり牛丸のボーカルとごっきんのコーラスの伸びやかさを存分に感じられるからこそ、やりたいことの中にしっかりキャッチーさという要素も残っているのがよくわかるのである。
すると土器が弾くシンセのサウンドによって独特のサイケデリックさが生まれる「催眠療法」でそのyonigeとしてのやりたいことをグッと濃くすると、牛丸がアコギを弾くことによって爽やかさを加えながらも、以前までライブで演奏していた時よりもそのアコギが主軸というわけではなく、むしろ土器のギターとホリエのドラムの力強さによってソリッドなロックサウンドになっているように感じられた「ピオニー」は再びyonigeがそうしたサウンドへ向かっていくような予感すら感じさせる。
そんなライブの最後に演奏されたのは牛丸と土器のノイジーなギターが壁のようなサウンドを構築して音が舞うような感覚にすらなる「春の嵐」なのだが、久しぶりにライブでこの曲を聴いて、何故かこの日はかつて日本武道館ワンマン(ソールドアウトして超満員だった)の時に桜の花びらが舞うという演出の中で演奏されたことを思い出した。
今のyonigeがそうしてたくさんの人に聴いてもらいたい、ライブを見てもらいたいと思っているのかはわからない。それよりも自分たちがやりたいことをやりたいと思っていたとしたら余計なことかもしれないが、それでも自分は今でもyonigeはあの武道館のような光景が似合うバンドだと思っている。それはこの日のこの曲が確かにそう感じさせてくれたのだ。
1.さよならアイデンティティー
2.リボルバー
3.our time city
4.最終回
5.2月の水槽
6.往生際
7.催眠療法
8.ピオニー
9.春の嵐
18:35〜 鈴木実貴子ズ
ツイートする時間すらないくらいにyonigeが終わったらすぐにO-EASTならではのサブステージに照明が映り、そこには鈴木実貴子(ボーカル&ギター)と高橋イサミ(ドラム)の2人が。
しかもすぐに演奏に入るのではなくて、鈴木実貴子じゃない方であるイサミが挨拶がてらに喋るというのが初めてライブを見るだけに実に意外だったのであるが、いざ「ファッキンミュージック」からスタートすると、アコギとドラムと歌だけというシンプル極まりないサウンドでありながらも、逆にこれだけあればいいんじゃないかと思うくらいのグルーヴをこの2人が生んでいるし、何よりも歌い始めた瞬間にゾクっとしてしまうような鈴木実貴子の歌声に宿る激情。しかもどうやったらこんな歌が歌えるんだと思うくらいに歌が上手い。その目線の鋭さ、放つオーラの強さからして音楽に選ばれて、音楽を選ぶしかなかった人であるということがすぐにわかる。
しかしながら意外だったのは「ズ」の方ことイサミが
「tricotさんとyonigeさんは前にも何回か一緒にライブをやらせてもらったんですけど、Chilli Beans.さんはこのイベントではじめましてで。今日新幹線に乗ってる時に調べたら、レッチリのチリと、まだまだ自分たちはひよこ豆みたいな存在だからっていう意味でビーンズを組み合わせて名前をつけたって書いてあって。素晴らしい由来だなと。
方やうちは鈴木実貴子が、ほかのメンバーが辞めて解散してもその名前が残れば続けていけるからっていう理由で。今日この場で解散してやろうと思いましたよ(笑)」
というMCで笑わせてくれたこと。曲のイメージ的にもっとストイックな形のライブをするのかと思っていたけれど、そこには鈴木実貴子だけではなくてこのイサミの人間性も現れていると思う。
普通ならば歌詞にするというか、口に出すのを憚られるような感情すらも歌詞にして自身の表現にしてしまうというか、自身の思考や感情こそが歌詞として歌うべきことであるということを示すような「新宿駅」を歌うと鈴木実貴子は
「これだけたくさんの人に我々の演奏はどう見えているのだろうか。前、真ん中、後ろ、2階、関係者…は関係ない」
とばっさりと切り捨てて最後に演奏された「正々堂々、死亡」はタイトルだけ見ると自死ソングかとも思うけれど、めちゃくちゃ簡潔にまとめると「自分がやりたいように、生きたいように生ききってから死のうぜ」というものである。アコギとドラムだけとは思えないスピード感溢れる演奏と、体だけではなくて心までもが震えるような壮絶な、それでいてどこまでも人間らしさしかないような歌唱。こんなに凄いなんて思ってなかったと思うくらいに、とんでもない化け物だった。
しかしながらそのスタンスはホリプロともスペシャとも縁がないようにすら見えるし、実際に鈴木実貴子も
「ワシらは普段は泥の中を生きとるけん」
と言っていた。しかしそんな、なかなかたくさんの人に聴いてもらう機会がないようなアーティストや音楽にホリプロとスペシャは光を当てようとしている。自分たちの範囲の中以外にもこの音楽を届けようと。このイベントでこの2人を見るとそんなことがよくわかる。
1.ファッキンミュージック
2.あきらめていこうぜ (orベイベー)
3.新宿駅
4.正々堂々、死亡
18:55〜 Chilli Beans.
この日の客席にはこのバンドのTシャツを着たり、タオルを持っている人が1番多かった。JAPAN JAMではメインステージ、LOVE MUSIC FESでもぴあアリーナと、そうした規模でライブをやるようになっただけに当然といえば当然であるし、だからこそ最近の都内のライブでは破格の距離感の近さでのライブである。
おなじみのSEでメンバー3人とサポートドラマーのYuumiがステージに登場すると、Maika(ベース&ボーカル)の重いリズムがグルーヴの起点になる「See C Love」からスタートし、ツノが生えているかのような帽子を被ったMoto(ボーカル)はやはりステージ上を歩き回るようにしながらキーの低い歌唱をし、サビで一気に解放されていくようにメロディが一気に上昇すると、Maikaのボーカルもそこに加わるという最近のライブではおなじみのオープニングであるが、そのそれぞれの歌唱力の高さと見た目は軽やかであるにも関わらずのグルーヴの重さは何度見ても凄いというか、見ている側を覚醒させてくれるかのようですらある。実際に客席ではたくさんの人が腕を挙げている。
するとメンバーと同じ音楽スクールに在籍していたVaundyが手がけた「rose」はそのVaundy色が強いというか、聴けばすぐにVaundyのものとわかるようなメロディもMotoは見事に乗りこなしている。Vaundyの曲を聴いているとこの音楽を歌えるのは本人しかいないだろとも思うのだが、このメンバーがそれができるのは育った背景が同じということに加えてそれぞれの高いボーカルの力があってこそである。
そして今やこのバンドのライブ最大の見どころの一つと言っていいのが「duri-dade」であり、間奏ではメンバー3人がスティックを持ってYuumiのドラムセットを連打しまくり、そのドラムのビートに合わせて客席から手拍子が起こるという観客も参加する形でのパフォーマンスが展開されるのであるが、何度ライブで見てもテンションが上がるのはそのビートがライブを重ねるごとに力強さを増しているからだろうし、Yuumiのドラムも毎回ライブを見るたびに進化しているのがわかる。
そんなこのバンドだからこその音楽やライブの自由さを発揮するパフォーマンスの後にはMaikaがホリプロに所属しているこの出演者たちで一緒にライブをやれることによって生まれるファミリー感や楽しさについて口にすると、Motoもギターを弾きながらハイトーンなボーカルを響かせる「School」ではLilyの思いっきり体全体を使って弾くようなギターソロに観客の歓声が上がるというのも、鳴らしている音や音楽そのものがこのバンドのライブにおけるエンターテイメントになっているということである。
ステージをタイトルに合わせたように黄色い照明が照らす「lemonade」では再びMotoが忙しなくステージを歩き回りながら歌い(毎回思うけど凄まじい運動量だし、狙ってそうしているわけではなくて音が鳴るとそうなるという感じがする)、間奏とアウトロではメンバーが左右にステップを踏み、それが客席にも広がっていく。アリーナクラスでもそれは絶景としてこの目に映ったが、ライブハウスの規模でのそれはまた違う一体感を生み出してくれる。それは平日の夜にこうして渋谷のライブハウスに集まっているくらいに音楽が大好きな人たちの一体感として。
そしてMotoのハイトーンボイスが高く飛翔していくような「HAPPY END」がクライマックスへの突入を告げるようにして鳴らされると、バンドの演奏自体もさらに躍動感を増していく。体を動かしながら、振り絞るようなMotoの歌唱は上手いだけではない力強さと、ライブハウスで見るからこそのここだけには収まらないスケールの大きさを感じさせるのであるが、「シェキララ」ではMotoが帽子を手に取って握りしめるようにしながら歌い、さらにはステージ上に倒れ込みながらも歌い続ける。それくらいにこうして音を鳴らしていることによってテンションが上がりまくっているということがよくわかるのであるが、それはライブハウスでのライブで
「シェキララしようぜ」
というフレーズの観客による合唱が起こるようになり、その声を確かに聞けるようになったことによる要素もあるのかもしれない。コロナ禍真っ只中からライブをやるようになっただけに、このくらいの規模の会場で観客の声が響くという経験のないままで大きくなってきたバンドだから。もはやZeppクラスでもチケットが取れないくらいになっているが、例えばFCツアーなどでそうした距離感での合唱という景色を見ることができたらなと思う。
最近のこのくらいの持ち時間のライブでは「シェキララ」で終わることが多かっただけに、てっきりこれで終わりかと思いきや、最後に演奏されたのは5月に配信リリースされたばかりの最新曲「you n me」。ライブでは初めて聴けただけに「マジか!」という驚きもあったのだが、実にこのバンドらしい自分らしく生きていく意志が綴られた歌詞が乗るサウンドもメロディも、また真っ白な照明がステージを照らすのも、全てにおいて光が降り注いでいるかのようであった。それはこの曲がこれからもこうしてライブの大事な位置で演奏されていくようになることを予感させたのだった。
来月からは規模の大きなライブハウスを巡るツアーも開催されるが、渋谷でのライブが久しぶりと言っていたように、このバンドが立つステージはさらに大きくなっている。その象徴が、来年2月に開催されることが発表された日本武道館でのワンマン。最近のフェスで見た時に「近い将来にこの規模でワンマンをやるのを見れる日が必ず来るな」と思ったが、その日はついに現実のものとして近づいてきている。
1.See C Love
2.rose
3.duri-dade
4.School
5.lemonade
6.HAPPY END
7.シェキララ
8.you n me
19:35〜 ロザリーナ
ライブを見るのは初見であるが、やはりロックバンドファンとしてはTHE ORAL CIGARETTES「Don't you think」に参加していたシンガーというイメージが強い、ロザリーナ。この日はサポートキーボードとの2人編成でサブステージに出演。
そのサポートキーボードが切なくも壮大なサウンドを鳴らすと、鮮やかな金髪のロザリーナが歌い始めたのは同タイトルの映画のテーマソングである「えんとつ町のプペル」であり、ああそうだ、このテーマソングこの人が歌ってたなと思うのはその映画の挿入歌である「夢の礫」を歌っている秋山黄色のファンだからであるが、その絵本が原作である映画に合わせたような歌唱はイメージよりもはるかにロザリーナをあどけなく感じさせるし、それはこうしてライブで見ると表情からも感じられるものであるが、その少女性もありながらも人生経験のある大人としての儚さを感じさせるような歌声は聴いていて実に不思議というか、これまでに他に似たような声を聴いたことがないものだなと思った。その辺りがオーラルがこの声を求めた理由でもあるだろう。
ドラマ「アンノウン」の主題歌であることが告げられてから歌い始めた「I knew」と続くと、その大型タイアップ曲の連発っぷりに驚かざるを得ないけれど、それほどに作品のイメージを彩る歌声を持っているということであるのが聴いていてわかるし、ドラマは見てはいないがタイトル同士が連動しているようにも感じられるだけに、きっとドラマを見ていたら歌詞の感じ方も違ってくるんじゃないかとも思う。
さらには「何になりたくて、」ではキーボード奏者がオーケストラサウンドをも同期として鳴らすのであるが、ギターの音も含めてキーボード以外の楽器のサウンドもふんだんに入っているだけに、そうしたサウンドが生で演奏された時にこの声はどんな乗り方をするんだろうと思ってしまうし、そういう意味でもバンド編成やオーケストラ編成などでもライブを見たくなる。
それはロザリーナがそれだけ幅広いジャンルの曲たちを自分のものとして鳴らしているということであり、実際にそうした曲が多いからこそ、夏に予定されているワンマンに来て欲しいと告知していたのだろうし、そこには自身の声や音楽への確固たる自信を感じさせるのであるが、最後に演奏されたコカコーラのCMタイアップであった「Life Road」の世界のトレンドの最先端にいるかのようなR&Bサウンドに乗った実にスムーズな歌唱は、この人の声はどんなサウンドをも乗りこなして自分のものにできるのだろうし、だからこそこれからもいろんなフェスやイベントでライブを見る機会が来るだろうなと思った。
去り際にサポートキーボードの方の笑顔を見ていたら、パーパーのほしのディスコにどこか似ているなと思ったし、だからこそ歌も上手いんだろうなという勝手なイメージを抱いていた。
1.えんとつ町のプペル
2.I knew
3.何になりたくて、
4.Life Road
18:50〜 tricot
この日のトリはtricot。キャリアや海外での活躍っぷりを考えると実にふさわしい存在であると思うが、tricotもまたホリプロ所属というのが凄い。確かに中嶋イッキュウ(ボーカル&ギター)は今やジェニーハイのボーカルとしてもガンガンTVに出ているけれど。
SEもなしにサウンドチェックをするかのようにしてメンバー4人がステージに登場すると、ステージ中央のヒロミ・ヒロヒロ(ベース)がぶっといグルーヴを生み出し、キダモティフォ(ギター)がギターを切り刻むように鳴らす「エコー」からスタートするのであるが、Sonic YouthのTシャツを着た吉田雄介(ドラム)の変拍子でありながらも同じフレーズを叩くごとに強さと激しさを増していくというソニックっぷりは、久しぶりにライブを見るとこのバンドがまた新たな次元に突入していることがよくわかる。
さらにはコロナ禍に生み出された、tricotらしさがキャッチー(と言っていいと個人的に思っている)な方向に向いた「餌にもなれない」でステージ上手側で客席から見ると横を向きながら歌うような形であるイッキュウの妖艶さすら感じさせるボーカルも、いろんな場所で歌ってきた経験がtricotに還元されていることを感じさせるのであるが、今でもこの尺の持ち時間で演奏されていることが嬉しい、言語感覚含めてtricotらしさ炸裂の「おちゃんせんすぅす」ではタイトルフレーズを口にした後にイッキュウ、ヒロミ、キダが一斉に腕を上げる仕草を見せるのも変わらないが、フレーズが繰り返されるたびにその仕草を真似する観客が増えていくというのはこのバンドの音や空気がこの場を掻っ攫っているということの証明でもあるが、アウトロで繰り返される同じフレーズの演奏が重ねるたびに激しくなっていくというのもやはりライブで生きてきたバンドだなと思えるアレンジである。
するとイッキュウがギターを置いてハンドマイクを持ってステージを歩き回りながら歌うのは昨年リリースの最新アルバム(近年はほぼ毎年アルバムを出しているのが本当に凄い)「不出来」収録の「#アチョイ」であるのだが、イッキュウは観客に手を振ったり、ハートマークを向けたり、さらには歌詞に合わせて猫のポーズをしたりと、かねてからロックシーン屈指の美人ボーカリストと言われてきた魅力をライブという場で曲に合わせて最大限に発揮するのであるが、それは同じく最新アルバム収録の「OOOL」という、イッキュウはギターを持ってはいるけれどほとんど弾かずに歌うという削ぎ落とされた形だからこそのリズムの不規則さが際立つのである。
そしてもう随分リリースされたのが昔のことのように感じられるシングル曲(それでもまだ5年前であるだけに、このバンドのハイペースっぷりがよくわかる)「Potage」が神経を研ぎ澄ませてついていこうと思わせるようなそのリズムと、どこか切なさや儚さを感じさせるようなメロディが乗って鳴らされると、
「自分で言うのもなんですけど、ホリプロに所属することになるなんて思ってませんでした(笑)こんな音楽性でホリプロって入れんねやって(笑)
でも私はエゴサが趣味なんですけど、今日始まる前にエゴサしたら「tricot見に来てる人が2〜3人しかいない」っていうツイートを5人くらいは見ました(笑)だから5人はtricot目当ての人がいる(笑)
ツイッターのAPIの不具合でツイート見れませんってなるのが今日やったら良かったのに(笑)」
とイッキュウが自虐的にMCをするのであるが、観客のノリは決してアウェーではないし、tricotのタオルを掲げている、このバンドを見に来たという人もそこそこの人数いた。
しかし初見の人をtricotの世界に引き摺り込んでさらにジャイアントスイングして振り回すかのような「不出来」の轟音サウンドがどこか緊張感を持って鳴らされると、もうただひたすらに立ち尽くしてその音に浸らざるを得なくなる。アウトロでもその轟音が鳴り響く中で吉田、ヒロミ、イッキュウ、そして最後にキダと順番にステージから去って行って、キダのギターの残響が止められた瞬間に湧き上がった歓声はこのバンドがトリだからこそこんなに素晴らしい一夜になったことを確かに示していた。ホリプロが求めたのはこのバンドが絶対に世界に他にいない唯一無二の音楽を鳴らす存在だからだ。
1.エコー
2.餌にもなれない
3.おちゃんせんすぅす
4.#アチョイ
5.OOOL
6.Potage
7.不出来
正直言って、最初はホリプロがこんなにバンドを抱えているプロダクションだとは思っていなかった。それはどうしても和田アキ子という存在のイメージがデカすぎるからかもしれないけれど、そんなホリプロに所属しているこの日の出演バンドは自分たちのやりたい音楽をやり続けているバンドたちしかいない。
もちろん売れることも大事だけれど、売れるためにそのバンドらしさが消えてしまっては意味がない。この所属アーティストたちのライブを見ると、きっとこれからもそのアーティストたちがやりたい音楽を鳴らし続けるためのバックアップをしてくれるんじゃないかと思っている。それを確かめるために、これからも毎年このラインナップでこのイベントを開催して欲しい。
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